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特許7320159電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池
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  • 特許-電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20230726BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230726BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20230726BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230726BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230726BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230726BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/86 M
H01M4/96 M
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023533717
(86)(22)【出願日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2023007378
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022031316
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐之輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 純
(72)【発明者】
【氏名】北畠 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】駒野谷 将
(72)【発明者】
【氏名】藤野 高彰
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-150249(JP,A)
【文献】特開2007-311354(JP,A)
【文献】特開2020-171917(JP,A)
【文献】特開2012-091109(JP,A)
【文献】国際公開第2022/181261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記担体の細孔内の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む電極触媒であって、
前記触媒金属粒子が白金と、周期律表第3族元素から第12族元素より選択される少なくとも一種の遷移金属との合金であり、
下記(1)に示す式によって算出された前記触媒金属粒子の平均合金化度が40%以上であり、
前記メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rとの比r/Rが0.20以上0.95以下である、電極触媒。
合金化度(%)=[XRDより算出した合金の格子定数 - 白金の格子定数] ÷
[合金の格子定数の理論値 - 白金の格子定数] × 100 (1)
【請求項2】
前記触媒金属粒子の平均粒子径が10.0nm以下である、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rが3.0nm以上30.0nm以下である、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電極触媒を備える燃料電池用電極触媒層。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池用電極触媒層を備える燃料電池。
【請求項6】
細孔を有するメソポーラスカーボン担体と触媒金属源化合物とを含む混合物中に加圧流体を流通して、該触媒金属源化合物を該メソポーラスカーボン担体の該細孔内に担持させてなる中間体を得、
水素含有雰囲気下にて前記中間体を400℃以上930℃以下の温度で加熱処理して、前記触媒金属源化合物から触媒金属粒子を生成させる、電極触媒の製造方法。
【請求項7】
前記細孔を有するメソポーラスカーボン担体と前記触媒金属源化合物とを含む混合物中に、7MPa以上30MPa以下の圧力の二酸化炭素流体を流通させる、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒及びその製造方法に関する。また本発明は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池や水の電気分解装置などの電気化学セルにおいて、白金等の貴金属触媒を担体に担持した触媒担持担体が電極触媒として用いられている。この電極触媒の触媒活性向上の観点から、触媒の担体としては比表面積の大きな材料である炭素質材料が用いられることが多い。
【0003】
例えば特許文献1及び2には、触媒の担体として多孔質炭素材料を用い、該多孔質炭素材料の細孔内に触媒の粒子を担持させることが提案されている。細孔内に触媒の粒子を担持させることで、触媒がアイオノマーと接触しづらくなり、アイオノマーによる触媒の被毒が抑制されると、これらの文献には記載されている。また、特許文献2には、触媒の粒子として白金とコバルトからなる合金粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/175099号パンフレット
【文献】US2020/075964A1
【発明の概要】
【0005】
触媒活性を向上させる観点から、貴金属、特に白金を触媒として用いることが一般に好ましいとされている。一方で、白金は希少金属であることから、白金を用いると高コストになってしまうという課題があり、白金と安価な金属との合金を触媒として用いることが試みられている。
本発明者らが多孔質炭素材料に合金を担持させた電極触媒について検討したところ、合金化度の高い触媒粒子が該多孔質炭素材料の細孔内に担持されておらず、触媒活性の向上に改善の余地があることを見出した。
したがって本発明の課題は、従来よりも触媒活性の高い電極触媒並びにその製造方法及びそれを用いた燃料電池を提供することにある。
【0006】
本発明は、細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記担体の細孔内の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む電極触媒であって、
前記触媒金属粒子が白金と、周期律表第3族元素から第12族元素より選択される少なくとも一種の遷移金属との合金であり、
下記(1)に示す式によって算出された前記触媒金属粒子の平均合金化度が40%以上であり、
前記メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rとの比r/Rが0.20以上0.95以下である、電極触媒を提供するものである。
合金化度(%)=[XRDより算出した合金の格子定数 - 白金の格子定数] ÷ [合金の格子定数の理論値 - 白金の格子定数] × 100 (1)
【0007】
また本発明は、細孔を有するメソポーラスカーボン担体と触媒金属源化合物とを含む混合物中に加圧流体を流通して、該触媒金属源化合物を該メソポーラスカーボン担体の該細孔内に担持させてなる中間体を得、
水素含有雰囲気下にて前記中間体を400℃以上930℃以下の温度で加熱処理して、前記触媒金属源化合物から触媒金属粒子を生成させる、電極触媒の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1で得られた電極触媒の切断面におけるカーボン担体粒子の表面近傍の走査型電子顕微鏡像である。
図2図2は、実施例1で得られた電極触媒の切断面におけるカーボン担体粒子の内部の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、電極触媒に関するものである。本発明の電極触媒は、担体と、該担体に担持された触媒金属粒子とを含むものである。本発明の電極触媒は、例えば各種の燃料電池の電極に好適に用いられる。具体的には、本発明の電極触媒は、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池のアノード電極触媒層及び/又はカソード電極触媒層に用いられる。あるいは本発明の電極触媒は、水の電気分解装置のアノード電極触媒層及び/又はカソード電極触媒層に用いられる。尤も、本発明の電極触媒の用途はこれに限られない。
【0010】
電極触媒の担体は、細孔を有するメソポーラス構造体の粒子からなる。メソポーラス構造体は、メソスケール、すなわち最頻細孔径が直径2nm以上50nm以下の細孔を有する多孔質構造からなることが好ましい。担体がメソスケールの細孔を有することで担体の表面積が大きくなり、該細孔内に細孔径より小さな触媒金属粒子を首尾よく担持させることが可能となる。細孔径の好ましい測定方法は後述する実施例において説明する。
担体に形成されている細孔は、担体の表面において開口し、担体の内部に向けて延びている。細孔は、担体中に複数形成されている。細孔は、担体の表面において開口し且つ担体の内部において終端していてもよい。つまり細孔は、非貫通孔であってもよい。あるいは細孔は、該細孔の一端が担体の表面において開口し、担体の内部に延在し、且つ他端が担体の表面において開口していてもよい。つまり細孔は、貫通孔であってもよい。
【0011】
担体としては、カーボンを含む担体を用いることが好ましく、特にカーボンが主成分である担体を用いることが好ましい。「カーボンが主成分である」とは、担体に占めるカーボンの割合が50質量%以上であることをいう。カーボンを含む担体を用いることで、該担体の電子伝導性が向上し、電気抵抗が低下するので好ましい。
【0012】
前記カーボンとしては、例えばカーボンブラックと呼ばれる一群の炭素質材料が挙げられる。具体的にはケッチェンブラック(登録商標)、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック及びアセチレンブラック等を用いることができる。また、前記カーボンとして活性炭及びグラファイトを用いることもできる。本発明においては、カーボン材料の種類は特に限定されるものでなく、いずれのカーボン材料を用いた場合であっても所期の効果が奏される。
また、導電性を向上させる観点や、担体と触媒金属粒子との相互作用を向上させる観点から、窒素やホウ素等の元素でドープされたカーボン材料を用いることもできる。
【0013】
担体においては、その細孔の一部又は全部に触媒金属粒子が存在している。触媒金属粒子は、担体における細孔の内部に少なくとも存在していることが好ましい。細孔の内部に加えて担体の外表面に触媒金属粒子が存在していることは妨げられない。
【0014】
担体に担持されている触媒金属粒子は、白金と遷移金属との合金、つまり白金基合金である。白金基合金とは、触媒金属粒子を構成するすべての元素の合計原子数に占める各構成元素の比率のうち、白金の原子数の比率が最も高い合金のことである。
触媒金属粒子として白金基合金を用いることで、白金そのものを用いた場合と同程度の触媒活性を経済的に実現させることが可能となる。特に、本発明の電極触媒を燃料電池に用い、燃料ガスとして改質ガスを使用する場合には、COによる被毒を防ぐために、白金基合金の使用が有効である。
【0015】
前記合金を形成する遷移金属は、周期律表第3族元素から第12族元素(ただし白金を除く。)より選択される少なくとも一種である。このような遷移金属としては、白金との合金が高い触媒活性を示すものが好適に用いられる。そのような遷移金属としては、例えば第3族元素としてSc及びYが挙げられる。第4族元素としてはTi、Zr及びHfが挙げられる。第5族元素としてはV、Nb及びTaが挙げられる。第6族元素としてはCr、Mo及びWが挙げられる。第7族元素としてはMn及びReが挙げられる。第8族元素としてはFe及びRuが挙げられる。第9族元素としてはCo、Rh及びIrが挙げられる。第10族元素としてはNi及びPdが挙げられる。第11族元素としてはCu、Ag及びAuが挙げられる。第12族元素としてはZnが挙げられる。
【0016】
前記の遷移金属のうち、第4周期及び第5周期に属する元素が触媒活性の高さから好ましく、とりわけ第8族元素から第11族元素までの元素であって且つ第4周期又は第5周期に属する元素が好ましい。これらの遷移金属は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい遷移金属は、触媒活性の高さと経済性のバランスの観点から、Co、Ni、Cu、Ru及びPdからなる群より選択される1種又は2種以上の元素である。
【0017】
触媒金属粒子における白金元素と遷移金属元素との合金の均質性は、平均合金化度で表すことができる。平均合金化度は、以下の式(1)で表される値であり、その値が大きいほど、白金原子と遷移金属原子とが均質に固溶して合金粒子が形成されていることを表す。
式(1)における格子定数は、粉末X線回折法により計測したX線の回折角2θと回折強度の関係であるX線回折パターンにおける、2θが40°付近に現れる白金又は白金基合金の立方晶の(111)面の回折ピークのピーク位置から、以下の式(2)で表されるブラッグの式により計算した面間隔d値を求め、以下の式(3)で表される立方晶系の面間隔d値と格子定数aの関係式を用いて算出することができる。
合金の格子定数の理論値は、以下の式(4)で表されるVegardの規則を基に算出することができる。
なお、白金及び添加元素の格子定数の値は、以下の非特許文献1~4を参照することができる。
本発明においては、触媒金属粒子の平均合金化度は40%以上であり、40%以上150%以下であることが、触媒活性の高さと経済性とのバランスの観点から好ましい。この観点から、触媒金属粒子の平均合金化度は40%以上135%以下であることがより好ましく、40%以上100%以下であることが更に好ましく、55%以上100%以下であることが一層好ましく、65%以上100%以下であることがより一層好ましい。
【0018】
合金化度(%)=[XRDより算出した合金の格子定数 - 白金の格子定数] ÷ [合金の格子定数の理論値 - 白金の格子定数] × 100 (1)
【0019】
2dsinθ = nλ (2)
(ここで、dは結晶面間隔(nm)、θは回折角(°)、nは整数、λはX線波長(nm)である。)
【0020】
1/d = (h+k+l)/a(3)
(ここで、h、k、lは結晶のミラー指数、aは格子定数である。)
【0021】
合金の格子定数の理論値(%)=[白金の格子定数]×[白金のモル分率]+[添加元素1の格子定数]×[添加元素1のモル分率]+[添加元素2の格子定数]×[添加元素2のモル分率]・・・+[添加元素nの格子定数]×[添加元素nのモル分率] (4)
(ここで、nは合金に含まれる元素の種類からPtを差し引いた値である。)
【0022】
〔非特許文献1〕Masahiko Morinaga,「11 - Local Lattice Strains Around Alloying Elements
in Metals」、A Quantum Approach to Alloy Design、2019、221-260
〔非特許文献2〕Klaus Hermann,「Crystallography
and Surface Structure: An Introduction for Surface Scientists and Nanoscientists」、2011
〔非特許文献3〕Okkyun Seo et.al,「Stacking fault density and bond orientational order
of fcc ruthenium nanoparticles」、Applied Physics Letters 111、2017、253101
〔非特許文献4〕Sondes Bauer et.al,「Structure Quality of LuFeO Epitaxial Layers GrownbyPulsed-Laser Deposition on Sapphire/Pt」、materials、2020、13、61
【0023】
本発明は、担体に形成されている細孔の最頻細孔径Rと、該細孔内に担持されている触媒金属粒子の平均粒子径rとが、特定の関係を有していることが好ましい。詳細には、細孔の最頻細孔径Rに対する、触媒金属粒子の平均粒子径rの比であるr/Rの値が0.20以上であることが、細孔内に担持された触媒金属粒子の触媒活性を高くし得る観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、r/Rの値は0.50以上であることが更に好ましく、0.60以上であることが一層好ましい。
またr/Rの値は0.95以下であることが、触媒金属粒子表面の有効利用の観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、r/Rの値は0.90以下であることが更に好ましく、0.85以下であることが一層好ましい。これらの上限値は、上述した下限値のいずれと組み合わせてもよい。
【0024】
当該技術分野において、これまで、多孔質の担体における細孔内に触媒粒子を担持させる技術は知られていた。しかし、細孔の最頻細孔径Rと、該細孔内に担持されている触媒金属粒子の平均粒子径rとの関係についての検討はこれまで行われてこなかった。特に、最頻細孔径Rと平均粒子径rとの比を特定の範囲に設定することによって、酸素還元反応に対する触媒活性の高い結晶面の露出割合、触媒金属粒子表面の有効利用、及び細孔内での酸素の拡散性のバランスを取ることで、高活性且つアイオノマーによる被毒を抑制した電極触媒が得られることは本発明者らが初めて見出した事項である。
【0025】
細孔の最頻細孔径Rと、触媒金属粒子の平均粒子径rとの比は上述のとおりであるところ、細孔の最頻細孔径Rの値そのものについては、3.0nm以上であることが、触媒粒子を細孔内に効率的に担持する観点と、細孔内に担持した触媒粒子の表面全体を有効利用する観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、最頻細孔径Rの値は3.5nm以上であることがより好ましく、4.0nm以上であることが更に好ましい。
また、細孔の最頻細孔径Rの値は、30.0nm以下であることが、触媒金属粒子とアイオノマーとの接触を抑制する観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、最頻細孔径Rの値は20.0nm以下であることが更に好ましく、15.0nm以下であることが一層好ましく、10.0nm以下であることが更に一層好ましい。これらの上限値は、上述した下限値のいずれと組み合わせてもよい。
細孔の最頻細孔径Rの好ましい測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0026】
一方、触媒金属粒子の平均粒子径rの値は、10.0nm以下であることが、電極触媒の初期活性を高くする観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、平均粒子径rの値は7.0nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることが更に好ましく、4.5nm以下であることが一層好ましい。
触媒金属粒子の平均粒子径rは、その値が小さければ小さいほど比表面積が増大することから下限値に特に制限はない。以下に示す非特許文献5に記載されているように、触媒金属粒子が白金と遷移金属の合金粒子である場合、合金粒子の最外表面に白金元素が存在していることが触媒活性の向上に有効であることが知られている。この観点から、表面に白金シェル層を備えるコアシェル構造を構成可能なサイズである、1nm以上であることがより好ましい。
触媒金属粒子の平均粒子径rの測定方法は、例えば、X線回折装置を用いた方法や透過型電子顕微鏡観察が挙げられる。測定精度を高くする観点から、平均粒子径rが5nmを超える場合には、X線回折装置を用いた方法を採用することが好ましい。具体的な測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0027】
〔非特許文献5〕Chao Wang,「Design and Synthesis of Bimetallic Electrocatalyst with Multilayered Pt-Skin Surfaces」、Journal of the American Chemical Society、2011、14396-14403
【0028】
電極触媒において、触媒金属粒子の担持量は、担体の質量に対して10質量%以上60質量%以下、特に30質量%以上50質量%以下とすることが、十分な触媒活性の発現の点から好ましい。
【0029】
電極触媒において、粒子状である担体は、その平均粒子径Dが50μm以下であることが、担体の有効な表面積を大きくし触媒活性が向上し得る点から好ましい。この観点から、担体の平均粒子径Dは20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが一層好ましい。
また、担体の平均粒子径Dは、該担体内に細孔を十分に形成させる観点から、0.05μm以上であることが好ましい。この観点から、担体の平均粒子径Dは0.1μm以上であることが更に好ましく、0.2μm以上であることが一層好ましい。
担体の平均粒子径Dは、該担体を電子顕微鏡観察することや粒度分布計を用いることで測定する。
なお、触媒金属粒子の平均粒子径rは、担体の平均粒子径Dよりも十分に小さいことから、担体に触媒金属粒子が担持されてなる電極触媒の平均粒子径は、担体の平均粒子径Dとほぼ同様と見なすことができる。
【0030】
次に、本発明の電極触媒の好適な製造方法について説明する。
まず、電極触媒の原料の一つである担体、すなわち細孔を有するメソポーラスカーボン担体を用意する。
担体とともに、電極触媒の原料の一つである触媒金属源化合物を用意する。触媒金属源化合物における白金源としては、塩化白金酸六水和物(HPtC1・6HO)やジニトロジアンミン白金(Pt(NH(NO)等を用いることができる。これらの白金源は、粉末の状態で又は水溶液の状態で用いることができる。
触媒金属源化合物における遷移金属源としては、白金と形成する合金の種類に応じて適切なものが選択される。遷移金属源としては、例えば硝酸ニッケル(Ni(NO)、硝酸銅(Cu(NO)、硝酸コバルト(Co(NO)、硝酸ルテニウム(Ru(NO)等の硝酸塩を用いることができる。これらの遷移金属源は、粉末の状態で又は水溶液の状態で用いることができる。
【0031】
上述した担体及び触媒金属源化合物に加えて、加圧流体への遷移金属源の溶解を促進させる作用を有する溶媒も用意する。溶媒としては、例えばアルコール類、トルエンやベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、その他ケトン類、エステル類及びエーテル類などの各種有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、例えばアセトニトリル、ベンゼン、トルエン、メタノール、アセトン、酢酸エチル、ニトロメタンなどが挙げられる。これらの有機溶媒のうち、アセトンを用いることが、取り扱いの容易さと溶解性の高さのバランスがとれている点から好ましい。
【0032】
以上の原料が用意できたら、これら三者を混合して分散液を得る。分散液における担体の割合は、溶媒に対して0.5質量%以上10質量%以下に設定することが、触媒金属粒子を担体に首尾よく担持させ得る点から好ましい。
また分散液における触媒金属源化合物の割合は、触媒金属粒子の担持量と用いる触媒金属源化合物中に含まれる金属の濃度に合わせて、適切な値に設定することができる。
【0033】
分散液の調製が完了したら、この分散液に加圧流体を流通させて、分散液中の白金源及び遷移金属源を担体の細孔中に浸透させる。すなわち、メソポーラスカーボン担体と、触媒金属源化合物とを含む混合物中に、加圧流体を流通させる。この場合、前記流体を超臨界状態又は亜臨界状態にして、その高い拡散性及び溶解性を利用することで、白金源及び遷移金属源が一層容易に細孔中に浸透する。この観点から、比較的低温及び低圧で臨界状態を実現し得る物質を前記流体として用いることが好ましい。そのような物質としては、例えば二酸化炭素(CO)や窒素(N)が挙げられる。特に二酸化炭素は、その臨界状態(臨界温度:31.1℃、臨界圧力:7.38MPa)において、密度が液体に近く、物質の溶解能力が高く、また粘度・拡散係数が気体に近いことから、微細構造物に容易に浸透するので好ましい。また二酸化炭素は、圧力及び/又は温度を僅かに変化させるだけで溶解度が大幅に変化することから、混合後の分離を効率的に行うことができるという利点もある。
【0034】
分散液への加圧流体の流通は、用いる流体の種類に応じて適切な条件が選択される。分散液中の白金源及び遷移金属源を担体の細孔内に首尾よく浸透させ得る観点から、流体として例えば二酸化炭素を用いる場合には、系内の圧力を7MPa以上30MPa以下に設定することが好ましく、8MPa以上20MPa以下に設定することが一層好ましい。この場合、系内の温度は、二酸化炭素を超臨界状態又は亜臨界状態にする観点から、30℃以上80℃以下に設定することが好ましく、35℃以上60℃以下に設定することが一層好ましい。
【0035】
分散液に加圧処理を施した後、常圧となるまで、該分散液に減圧処理を施す。減圧処理によって超臨界状態の流体が気体の状態へ変化し、分散液から流体が除去される。流体は、メソポーラスカーボン担体の表面、並びに該担体における細孔内からも除去される。
また分散液に減圧処理を施すと、分散液に含まれる成分のうち、有機溶媒の大半が担体から揮発除去される。それに対して、分散液中に含まれる白金源及び遷移金属源は担体中に残存する。
【0036】
分散液に減圧処理を施した後、該分散液に乾燥処理を施す。乾燥処理によって減圧処理では分散液から除去しきれなかった有機溶媒を除去する。乾燥処理の温度は、担体から有機溶媒を除去できる程度であれば特に制限はない。このようにして得られた中間体においては、白金源及び遷移金属源が、担体における細孔内及び担体外表面に存在している。
【0037】
中間体が得られたら、該中間体の加熱を行い、白金源及び遷移金属源を還元して、白金及び遷移金属を含む合金粒子、すなわち触媒金属粒子を生成させる。上述のとおり、白金源及び遷移金属源は、担体の細孔内に浸透していることから、白金源及び遷移金属源の還元による触媒金属粒子の生成は細孔内で生じる。また、触媒金属粒子の生成は、細孔内だけでなく担体の外表面でも生じる。
【0038】
細孔内で生成した触媒金属粒子は、その成長が細孔によって規制され、細孔のサイズに応じた直径にまでしか粒子は成長することができない。つまり細孔が、言わば触媒金属粒子が成長するための「枠」として機能する。その結果、触媒金属粒子が大きくなりすぎず、生成した触媒金属粒子の平均粒子径rと、細孔の平均細孔径Rとの間に特定の関係が成立する。
【0039】
中間体の加熱は、水素含有雰囲気で行うことが、担体が加熱によるダメージを受けにくいことから好ましい。加熱に用いる還元性ガス雰囲気としては、例えば水素ガス100%の雰囲気や、水素ガス含有不活性ガス雰囲気(例えば爆発限界濃度未満の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気)が挙げられる。ここで不活性ガスとは、触媒金属粒子及び担体粒子と化学反応性を持たない元素のガスのことであり、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトンなどを使うことができる。
【0040】
中間体の加熱時間と温度は、雰囲気に応じて適切に設定される。例えば加熱温度は好ましくは400℃以上930℃以下の温度に設定することが、触媒金属粒子の粒子径を所望の値に首尾よく調整し得る観点から好ましい。同様の観点から、620℃以上930℃以下がより好ましく、620℃以上900℃以下が更に好ましく、650℃以上850°C以下が一層好ましい。加熱時間は、加熱温度がこの範囲内であることを条件として、1時間以上24時間以下であることが好ましく、2時間以上6時間以下であることが更に好ましい。
【0041】
このようにして電極触媒が得られたら、リーチングを行い触媒金属粒子の表面に存在している微量の不純物を除去し、該触媒金属粒子の表面を活性化することが好ましい。リーチングは、一般に電極触媒を酸処理することで達成される。酸処理によって、触媒金属粒子の表面に存在している微量の不純物が溶出して除去される。リーチングに用いられる酸としては例えば過塩素酸、硝酸、硫酸、塩酸及び過酸化水素などが挙げられる。酸の濃度は、0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上3mol/L以下であることが更に好ましい。
【0042】
リーチングは、上述した酸の水溶液に電極触媒を分散させたスラリーを加熱した状態下に行うことができる。あるいは非加熱下に行うことができる。加熱下にリーチングを行う場合には、スラリーを好ましくは40℃以上90℃以下に加熱することができる。リーチングの時間は、例えば0.5時間以上24時間以下とすることができる。
【0043】
リーチング後の電極触媒に対して後処理を施してもよい。例えば電極触媒を加熱して、触媒金属粒子の粒子サイズを調整することができる。加熱によって触媒金属粒子を成長させ、粒子径を大きくすることができる。加熱は、還元性ガス雰囲気又は前記不活性ガス雰囲気で行うことが、担体が加熱によるダメージを受けにくいことから好ましい。なお、電極触媒の熱処理によって担体のメソポーラス構造に実質的な変化が生じないことを本発明者は確認している。
【0044】
このようにして得られた電極触媒を用いて燃料電池における電極触媒層を形成できる。電極触媒層には、電極触媒に加え、必要に応じて電極触媒どうしを結合する結着剤や、アイオノマーなど、当該技術分野においてこれまで知られている材料と同様の材料を含有させてもよい。
【0045】
アイオノマーはプロトン伝導性を有することが好ましい。電極触媒層にアイオノマーが含まれることで、該触媒層の性能が一層向上する。アイオノマーとしては、例えば、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロエーテルペンダント側鎖が、ポリテトラフルオロエチレン主鎖と結合した構造を有する高分子材料を用いることができる。そのようなアイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フミオンF(登録商標)などが挙げられる。
【0046】
電極触媒層は、例えば次の方法で好適に形成される。まず電極触媒を含む分散液を調製する。分散液の調製のためには、電極触媒と溶媒とを混合する。混合に際しては必要に応じてアイオノマーも添加する。
【0047】
分散に用いられる溶媒としては、例えばアルコール類、トルエンやベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、その他ケトン類やエステル類、エーテル類などの有機溶媒や、水を用いることができる。
【0048】
分散液が得られたら、この分散液から電極触媒層を形成する。電極触媒層の形成は、例えば各種の塗布装置を用いて分散液を塗布対象物に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで行われる。塗布対象物としては、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂のフィルム等を用いることができる。塗布対象物上に形成された電極触媒層を、例えば固体電解質膜と重ね合わせて熱プレスすることで、電極触媒層を固体電解質膜の表面に転写する。この転写によって、固体電解質膜の一面に電極触媒層が配置されてなるCCMが得られる。
【0049】
このようにして形成された電極触媒層は、固体高分子形燃料電池のアノード及び/又はカソードの電極触媒層として好適に用いられる。アノード及びカソードは、電極触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更にガス拡散層は、電極触媒層にガスを十分に供給する機能を有するものである。
ガス拡散層としては、例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0050】
固体電解質膜としては、例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0051】
電極触媒層と、固体電解質膜と、ガス拡散層とからなる膜電極接合体は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されることが好ましい。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個~数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【0052】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池を開示する。
〔1〕 細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記担体の細孔内の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む電極触媒であって、
前記触媒金属粒子が白金と、周期律表第3族元素から第12族元素より選択される少なくとも一種の遷移金属との合金であり、
下記(1)に示す式によって算出された前記触媒金属粒子の平均合金化度が40%以上であり、
前記メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rとの比r/Rが0.20以上0.95以下である、電極触媒。
合金化度(%)=[XRDより算出した合金の格子定数 - 白金の格子定数] ÷
[合金の格子定数の理論値 - 白金の格子定数] × 100 (1)
〔2〕 前記触媒金属粒子の平均粒子径が10.0nm以下である、〔1〕に記載の電極触媒。
〔3〕 前記メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rが3.0nm以上30.0nm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の電極触媒。
〔4〕 〔1〕ないし〔3〕のいずれか一に記載の電極触媒を備える燃料電池用電極触媒層。
〔5〕 〔4〕に記載の燃料電池用電極触媒層を備える燃料電池。
〔6〕 細孔を有するメソポーラスカーボン担体と触媒金属源化合物とを含む混合物中に加圧流体を流通して、該触媒金属源化合物を該メソポーラスカーボン担体の該細孔内に担持させてなる中間体を得、
水素含有雰囲気下にて前記中間体を400℃以上930℃以下の温度で加熱処理して、前記触媒金属源化合物から触媒金属粒子を生成させる、電極触媒の製造方法。
〔7〕
前記細孔を有するメソポーラスカーボン担体と前記触媒金属源化合物とを含む混合物中に、7MPa以上30MPa以下の圧力の二酸化炭素流体を流通させる、〔6〕に記載の製造方法。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0054】
〔実施例1〕
(1)分散液の調製
表1に示す最頻細孔径Rを有するメソポーラスカーボン担体を準備した。メソポーラスカーボン担体に対し触媒粒子質量が100%且つ触媒金属のモル比がPt:Ni=3:1となるように、1.8%のメソポーラスカーボン担体と、10.9%のジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(白金濃度15.234%)と、0.8%の硝酸ニッケル6水和物と、これらを溶解するためのアセトンとを混合して分散液を調製した。
(2)分散液の加圧・減圧・乾燥処理
分散液を密閉容器内に入れ、該密閉容器に二酸化炭素を流通させながら40℃に加熱し、10MPa(絶対圧)の超臨界状態にし、この状態を60分間保持した。その後、常圧となるまで密閉容器内を減圧脱気した。これによって分散液の固形分濃度は約80%となった。この分散液を更に40℃で2時間真空乾燥させて、該分散液中に含まれるアセトンを除去した。
(3)還元処理
水素を4vol%含む窒素雰囲気下に、分散液を825℃で3時間加熱して、ジニトロジアンミン白金硝酸及び硝酸ニッケルを還元し、メソポーラスカーボン担体の細孔内に白金とニッケルとの合金粒子を生成させ、電極触媒を得た。
【0055】
〔実施例2〕
実施例1において、(3)還元処理の後に以下の工程を追加した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
(4)リーチング処理
電極触媒を500mLの2mol/L硝酸水溶液に分散させ、60℃で18時間加熱撹拌した。その後、分散液を固液分離し、固形分を洗浄及び乾燥した。
(5)還元処理
水素を4vol%含む窒素雰囲気下に、電極触媒を200℃で3時間加熱し、触媒金属粒子を活性化させた。このようにして目的とする電極触媒を得た。
【0056】
〔実施例3〕
実施例2において、触媒金属のモル比がPt:Ni=1:1となるように触媒金属源の量を調整した。これ以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0057】
〔実施例4〕
実施例2において、触媒金属のモル比がPt:Ni=3:4となるように触媒金属源の量を調整した。これ以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0058】
〔実施例5〕
実施例2において、遷移金属源として硝酸ニッケル6水和物の代わりに硝酸銅3水和物を用い、触媒金属のモル比がPt:Cu=3:1となるように調整した。これ以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0059】
〔実施例6〕
実施例2において、遷移金属源として硝酸ニッケル6水和物の代わりに硝酸コバルト6水和物を用い、触媒金属のモル比がPt:Co=3:1となるように調整した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0060】
〔実施例7〕
実施例2において、金属源として硝酸ニッケル6水和物の代わりに硝酸ルテニウム溶液(ルテニウム濃度8.16%)を用い、触媒金属のモル比がPt:Ru=3:1となるように調整した。これ以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0061】
〔実施例8〕
実施例2において、遷移金属源として硝酸ルテニウム溶液(ルテニウム濃度8.16%)を追加で用い、触媒金属のモル比がPt:Ni:Ru=3:1:0.26となるように調整した。これら以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0062】
〔実施例9〕
実施例8において、触媒金属のモル比がPt:Ni:Ru=3:1:0.39となるように調整した。これ以外は実施例8と同様にして電極触媒を得た。
【0063】
〔実施例10〕
実施例8において、触媒金属のモル比がPt:Ni:Ru=3:1:0.52となるように調整した。これ以外は実施例8と同様にして電極触媒を得た。
【0064】
〔実施例11〕
実施例8において、触媒金属のモル比がPt:Ni:Ru=3:1:0.65となるように調整した。これ以外は実施例8と同様にして電極触媒を得た。
【0065】
〔実施例12〕
実施例2において、触媒金属源として硝酸銅3水和物を追加で用い、触媒金属のモル比がPt:Ni:Cu=3:1:0.26となるように調整した。これら以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0066】
〔実施例13〕
実施例2において、触媒金属源として硝酸パラジウム溶液(パラジウム濃度5.05mg/ml)を追加で用い、触媒金属のモル比がPt:Ni:Pd=3:1:0.26となるように調整した。これら以外は実施例2と同様にして電極触媒を得た。
【0067】
〔実施例14〕
表1に示す最頻細孔径Rを有するメソポーラスカーボン担体を用いた以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0068】
〔実施例15〕
表1に示す最頻細孔径Rを有するメソポーラスカーボン担体を用いた以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1において、遷移金属源を用いず、ジニトロジアンミン白金硝酸のみを用いて白金からなる触媒粒子を生成させた。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0070】
〔比較例2〕
電極触媒として、田中貴金属工業株式会社の固体高分子形燃料電池用電極触媒であるTEC10E50Eを用いた。
【0071】
〔比較例3〕
実施例1において、(3)還元処理の温度を400℃に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0072】
〔比較例4〕
実施例1において、(3)還元処理の温度を600℃に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0073】
〔比較例5〕
実施例1において、(3)還元処理の温度を950℃に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0074】
〔比較例6〕
表1に示す最頻細孔径Rを有するメソポーラスカーボン担体を用いた以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0075】
〔比較例7〕
メソポーラスカーボン担体に代えて、細孔を有さないカーボン担体である非メソ孔炭素を用いた。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0076】
〔比較例8〕
(1)分散液の調製
最頻細孔径Rが4.0nmのメソポーラスカーボン担体を準備した。メソポーラスカーボン担体に対し触媒粒子質量が100%且つ触媒金属のモル比がPt:Ni=3:1となるように、0.9%のメソポーラスカーボン担体と、1.7%の白金(II)アセチルアセトナートと、0.8%のニッケル(II)アセチルアセトナートと、安息香酸12.3%と、これらを溶解するためのベンジルアルコールとを混合して分散液を調製した。
(2)分散液の凍結・減圧・解凍処理
分散液の入った容器を液体窒素に浸漬させ、該分散液を凍結させて凍結体を得た。この凍結体を密閉容器内に載置し、該密閉容器内を脱気して圧力を100Pa(絶対圧)の減圧状態にした。その後、流水と恒温槽を用いて凍結体を解凍し分散液の状態に戻した。分散液の温度は30℃であった。解凍時に分散液が発泡しなくなることで、担体内部まで分散液が浸透したことを確認した。なお、この工程は、分散液が発泡しなくなるまで繰り返し行った。
(3)還元処理
この分散液を還流させながら140℃に加熱して触媒金属原料を還元し、白金とニッケルの合金触媒粒子を生成させた。この触媒粒子分散液を固液分離し、固形分を洗浄及び乾燥することで乾燥粉体を得た。その後、得られた乾燥粉体を、水素を4vol%含む窒素雰囲気下に、825℃で3時間加熱して、電極触媒を得た。
【0077】
〔評価〕
実施例及び比較例で用いたカーボン担体の平均粒子径D及び最頻細孔径Rを以下の方法で測定した。
また、実施例及び比較例で得られた電極触媒について、触媒金属粒子の平均合金化度及び平均粒子径rを以下の方法で測定した。
更に、実施例及び比較例で得られた電極触媒を用いて燃料電池を作製し、以下の方法で質量比活性(MA)を評価した。
以上の結果を以下の表1に示す。なお、表中の値が「-」になっているものは、明確な値が定まらなかったことを意味する。
更に実施例1で得られた電極触媒の切断面におけるカーボン担体粒子の表面近傍(細孔の入り口付近)及び内部を走査型電子顕微鏡で観察した。観察結果を図1及び2に示す。図1及び2中の灰色部位はカーボン担体の細孔を表し、白色粒子は触媒金属粒子を表す。図1及び図2より、カーボン担体粒子の表面近傍だけでなくカーボン担体粒子の細孔内部まで触媒金属粒子を担持できていることを確認した。切断面の観察は、作製した電極触媒層をエポキシ樹脂で包埋した後、ミクロトームにより切断することで得られる切断面を、走査型電子顕微鏡(SU7000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて行った。電極触媒層は、後述の質量比活性評価で用いた電極触媒層と同様の手順にて作製した。ミクロトームの刃にはダイヤモンドナイフを選択した。走査型電子顕微鏡の観察は、加速電圧:1.2kVで、観察倍率40万倍で行った。
【0078】
〔カーボン担体の平均粒子径D〕
レーザー回折散乱式粒度分布測定法(ベックマンコールター社製 LS13320を用いて測定した。)による累積体積50%における粒径D50を、カーボン担体の平均粒子径Dとした。測定にはエタノールを溶媒として用い、各実施例比較例で準備したカーボン担体を溶媒中に分散させ、その懸濁液を測定に使用した。
【0079】
〔カーボン担体の最頻細孔径R〕
カーボン担体の最頻細孔径Rは窒素吸脱着等温線を解析することにより測定した。窒素吸脱着測定はガス吸着測定装置(Micromeritics社製 3Flex)を用いた。前処理として、10Paに減圧された条件下でカーボン担体を400℃にて3時間加熱した。得られた吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて解析し、2nm以上50nm以下におけるカーボン担体の最頻細孔径Rを算出した。解析ソフトウェアにはガス吸着測定装置に付属の3Flex version 5.02を用いた。
なお、電極触媒における最頻細孔径Rは、触媒を担持させる前のカーボン担体における最頻細孔径Rと実質的に同一であることを本発明者は確認している。
【0080】
〔触媒金属粒子の平均粒子径r〕
X線回折装置(リガク社製RINT-TTR III)を用い、専用のガラスホルダーに電極触媒を充填し、50kV-300mAの電圧-電流を印加して発生させたCu Kα線によって、サンプリング角0.02°、走査速度4.0°/minの条件で測定した。測定結果を用いてXRD解析ソフトウェアJADEにより平均粒子径rを求めた。
【0081】
〔触媒金属粒子の合金化度〕
前述のように、面間隔d値を用いて触媒金属粒子の格子定数を算出し、得られた値を用いて合金化度を算出した。面間隔d値は、X線回折装置(リガク社製RINT-TTR III)を用い、ブラッグの式中の整数nを1として算出した。触媒金属粒子中の白金及び添加元素のモル分率は、各実施例及び比較例で得られた電極触媒をICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製 PS3520UVDD)を用いて評価することで得られた組成比を用いた。また、Vegardの規則を基に合金の格子定数理論値を算出する際、白金及び添加元素の格子定数は下記の値を用いた。
(各元素の格子定数)
Pt:3.9232Å
Co:3.4855Å
Ni:3.5295Å
Cu:3.6258Å
Ru:3.8170Å
Pd:3.8900Å
【0082】
〔単セル発電特性評価による質量比活性(MA)評価〕
(1)分散工程
実施例及び比較例で得られた電極触媒と、直径1mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボール(ビッカース硬度12GPa)を容器に入れ、更に溶媒として純水、エタノール及び2-プロパノールを35:35:30の質量比で順に加えた。このようにして得られた混合液を、遊星ボールミル(シンキー社製ARE310)で800rpm、20分間撹拌した。更に混合液にアイオノマーとして20%ナフィオン(登録商標)(527122-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を行った。電極触媒に含まれるカーボン担体の質量Cに対するアイオノマーの質量Iの比であるI/Cの値は、0.7となるように設定した。このようにして分散液を得た。
【0083】
(2)電極触媒層形成工程
前記で得られた分散液を、ポリテトラフルオロエチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させて電極触媒層を得た。前記で得られた電極触媒層を用いて固体高分子形燃料電池を作製し、セル電圧を測定した。実施例及び比較例で得られた電極触媒層は、カソード電極触媒層として用いた。アノード電極触媒層は次の方法で得た。田中貴金属工業株式会社製の白金担持カーボンブラック(TEC10E50E)1.00gと、直径10mmのイットリウム安定化ジルコニア製ボールを容器に入れ、更に純水、エタノール及び2-プロパノールを45:35:20の質量比(混合液として10.2g)で順に加えた。このようにして得られた混合液を、遊星ボールミル(シンキー社製ARE310)を用い、800rpmで20分間撹拌した。更に混合液にアイオノマーとして5%ナフィオン(登録商標)(274704-100ML、Sigma-Aldrich社製)を加え、遊星ボールミルにより前記と同様な撹拌を引き続き行った。ナフィオンの添加量は、ナフィオン/白金担持カーボンブラックの質量比が70.0となるような量とした。このようにして得られた分散液を、ポリテトラフルオロエチレンのシート上にバーコーターを用いて塗工し、塗膜を60℃で乾燥させた。
【0084】
(3)CCM化工程
ポリテトラフルオロエチレンのシートの上に形成されたカソード及びアノード電極触媒層を10mm四方の正方形状に切り出し、ナフィオン(登録商標)(NRE-211、Du-Pont社製)の電解質膜と重ね合わせ、140℃、25kgf/cmの条件下に2分間大気中で熱プレスし、転写を行った。このようにして、ナフィオンからなる固体電解質膜の各面にカソード及びアノード電極触媒層を形成し、CCMを得た。この際、転写前のポリテトラフルオロエチレン基材と触媒層の重量と転写後のポリテトラフルオロエチレンの重量差、並びに実施例及び比較例で得られた電極触媒中のPt担持率(wt%)から、転写されたカソード電極触媒層中のPtの量(g-Pt/cm)を算出した。
【0085】
(4)発電特性評価
得られたCCMを一対のガス拡散層(SGLカーボン株式会社製、型番:22BB)で挟んだ。更にガス流路が形成された一対のカーボン板からなるセパレータで挟み、固体高分子形燃料電池を作製した。
固体高分子形燃料電池のアノード側に水素ガスを供給するとともに、カソード側に空気ガスを供給した。水素ガスを0.3SLM、空気ガスを1.0SLMとなるように流量を設定した。ガスはそれぞれ外部加湿器で加湿を行ってから燃料電池に供給した。また燃料電池の温度は80℃になるように温度調整を行い、供給ガスの湿度については、相対湿度が100%RHとなるように調整した。このときのセル電圧と電流密度との関係及びセル抵抗を測定した。得られたセル電圧と電流密度の関係及びセル抵抗から、IRフリー電圧を算出し、このIRフリー電圧が0.85Vにおける電流密度値(A/cm)を算出した。得られた電流密度値と、CCMにおけるカソード電極触媒層中のPtの量(g-Pt/cm)からPt1g辺りにおける電流量である質量比活性(MA)(A/g-Pt)を得た。その結果を以下の表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
図1及び2に示す結果から明らかなとおり、実施例1で得られた電極触媒は、該電極触媒の表面近傍だけでなく細孔内に触媒金属粒子が担持されていた。
また表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた電極触媒は、各比較例で得られた電極触媒よりも触媒金属粒子の合金化度が高く、高い触媒活性を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、従来よりも触媒活性の高い電極触媒が提供される。また、本発明によれば、そのような電極触媒を容易に製造し得る方法が提供される。
【要約】
電極触媒は、細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記担体の細孔内の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む。触媒金属粒子は白金と、周期律表第3族元素から第12族元素より選択される少なくとも一種の遷移金属との合金である。下記(1)に示す式によって算出された電極触媒の平均合金化度は40%以上である。メソポーラスカーボン担体の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rとの比r/Rが0.20以上0.95以下である。
合金化度(%)=[XRDより算出した合金の格子定数 - 白金の格子定数] ÷ [合金の格子定数の理論値 - 白金の格子定数] × 100 (1)
図1
図2