(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】放射性使用済イオン交換樹脂の除染方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20230727BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20230727BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G21F9/06 511A
G21F9/06 G
G21F9/06 561
G21F9/06 511E
G21F9/28 522A
G21F9/30 571B
G21F9/06 Z
(21)【出願番号】P 2019120956
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591172663
【氏名又は名称】株式会社ICUS
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】下村 達夫
(72)【発明者】
【氏名】関根 智一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文則
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-069383(JP,A)
【文献】特開2013-185938(JP,A)
【文献】特開平10-282295(JP,A)
【文献】特開2015-001498(JP,A)
【文献】特開昭61-079198(JP,A)
【文献】特表2005-521867(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1598851(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/12
G21F 9/28
G21F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極を配置したカソード区画と、アノード電極を配置したアノード区画と、カソード区画とアノード区画との間に陽イオン交換膜を配置してなる電解槽を用いて、非放射性金属の酸化物及び放射性金属の酸化物を含むクラッドが混在している使用済イオン交換樹脂を除染する方法であって、
当該クラッドが混在している使用済イオン交換樹脂を当該カソード区画に導入し、当該カソード区画内の電解液のpHを1.8以上2.5未満として、カソード電極とアノード電極との間に直流電圧を印加し、非放射性金属の酸化物及び放射性金属の酸化物を含むクラッドを電解液中に溶解させて非放射性金属イオン及び放射性金属イオンとし、且つ、使用済イオン交換樹脂に捕捉されている非放射性金属イオン及び放射性金属イオンを電解液中に溶離させ、電解液中に溶離した非放射性金属イオン及び放射性金属イオンを金属としてカソード電極に電着固定化させ、
前記電着固定化終了後、前記電解液を前記カソード区画から抜き出し、
前記カソード電極に水を衝突させ、前記カソード電極表面に電着固定化している非放射性金属および放射性金属を剥離させる
ことを特徴とする除染方法。
【請求項2】
前記カソード区画内の電解液のpHを1.8以上2.4以下とする、請求項1に記載の除染方法。
【請求項3】
pH5.1以上12.0以下の水を前記カソード電極に衝突させる、請求項1または2に記載の除染方法。
【請求項4】
前記水は、0.05MPa以上30MPa以下の水圧でノズルから吐出される、請求項1~3の何れか1に記載の除染方法。
【請求項5】
前記剥離された非放射性金属および放射性金属を含むスラリを固液分離して、分離された液体を前記カソード電極に衝突させる水として再使用する、請求項1~4の何れか1に記載の除染方法。
【請求項6】
非放射性金属の酸化物及び放射性金属の酸化物を含むクラッドが混在している使用済イオン交換樹脂を除染する装置であって、
カソード電極を配置したカソード区画と、アノード電極を配置したアノード区画と、カソード区画とアノード区画との間に設けられている陽イオン交換膜と、当該カソード電極の周囲に位置づけられている水吐出管と、を備える電解槽と、
当該電解槽内で除染された使用済みイオン交換樹脂を当該電解槽から抜き出した後に、回収する樹脂回収手段と、
当該電解槽から抜き出した電解液を一時貯留するための電解液貯留槽と、
当該カソード電極から剥離した非放射性金属及び放射性金属と、当該水吐出管から吐出された水と、を含むスラリを、当該電解槽から抜き出した後に固液分離する固液分離手段と、
を備えることを特徴とする使用済イオン交換樹脂の除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種で汚染された使用済みイオン交換樹脂、すなわち放射性使用済イオン交換樹脂の除染方法及び除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設等の放射性核種を取り扱う施設内では、放射性廃液処理にイオン交換樹脂を使用している。放射性廃液処理に用いた後のイオン交換樹脂は、放射性核種を吸着しているため放射性廃棄物となる。放射性核種を吸着した使用済イオン交換樹脂(本明細書において「放射性使用済イオン交換樹脂」ともいう。)は、放射能レベルが所定値以下に低減されるまで約30年間にわたり、専用タンクに一時保管される。しかし、この一時保管のためには莫大な保管容積と保管・管理費用が必要となり、減容化が強く求められている。
【0003】
減容化の一例として、塩酸又は硫酸等の無機酸溶離液を用いて、吸着された放射性核種を溶離させる放射性使用済イオン交換樹脂の再生が行われている。しかし、この方法では、放射性使用済イオン交換樹脂量の10~30倍容量の再生液が必要となり、多量の低レベル放射性廃液を二次廃棄物として産出するという問題がある。また、溶離液として無機酸を用いているため、二次廃棄物を中和するために多量の中和剤が必要となるという問題がある。
【0004】
また、放射性使用済イオン交換樹脂には、放射性核種のみではなく、Fe、Cr、Ni等の非放射性金属のイオンがイオン交換により吸着又は捕捉されており、さらに放射化された金属酸化物、金属水酸化物、フェライト等の固形物が吸着又は捕捉されて形成される酸難溶性の「クラッド:crud」が取り込まれている。クラッド中の放射性核種は極微量であり、金属酸化物の結晶粒子内に取り込まれているため、放射性核種だけを分離することは極めて困難である。
【0005】
原子炉一次冷却系統機器・配管内に付着堆積したクラッドと混在している放射性核種を除去する方法として、放射性核種が混在している金属酸化物の結晶粒子を溶解あるいは剥離させる除染剤を使用する化学除染法が採用されている(非特許文献1)。除染剤としては、(1)酸、(2)アルカリ、(3)酸化剤、(4)還元剤、(5)キレート剤、(6)腐食抑制剤、(7)界面活性剤を単独あるいは複数組み合わせて使用する。しかし、非特許文献1は、使用済みイオン交換樹脂からクラッドを除去することに関しては言及していない。
【0006】
原子炉の放射線に曝された金属部品をクリーニングする方法として、電気化学イオン交換セルに、10-3~10-2Mの低濃度の酸を含む汚染除去溶液を流通させ、当該汚染除去溶液に金属部品を浸漬させて、100℃に近い温度で、陽極と陰極との間に通電することによって金属イオンを陰極上に堆積させて除去する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1では、模擬溶液として鉄、クロム及びニッケルをホウフッ化水素酸に含ませたものを使用しており、難溶性のクラッドへの適用は示されていない。
【0007】
酸化鉄を主成分とするクラッドを含む廃イオン交換樹脂に、80~120℃に加温した硫酸および/またはシュウ酸を接触させて、廃イオン交換樹脂中のイオン状の放射性物質を溶離除去する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、特許文献2に記載の無機酸溶離液を用いて放射性使用済イオン交換樹脂を再生する方法では、クラッドが無機酸溶離液に溶離しにくいため、クラッドを溶離させるためには多量の酸が必要となり、溶解度を高めるため処理温度も高温(80~120℃)とすることが必要となる、という問題がある。
【0008】
本発明者らは、カソード区画を還元的雰囲気に維持することによって非放射性金属及び放射性核種を含むクラッドが混在している使用済イオン交換樹脂から非放射性イオン及び放射性イオンを溶離させ、カソード電極表面に電解析出させて除去する電気化学処理方法を提案している(特許文献3)。しかし、特許文献3の方法では、カソード電極表面には電解析出した放射性金属が蓄積するため、カソード電極を放射性廃棄物として廃棄しなければならず、二次廃棄物量が多くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許4438988号公報
【文献】特許6439242号公報
【文献】特許5933992号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「原子力施設における除染技術」株式会社テクノ・プロジェクト、昭和59年12月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、放射性核種で汚染された使用済みイオン交換樹脂から、放射性金属イオンを溶離させるだけでなく、放射性核種を取り込んでいるクラッド及び非放射性金属イオンを溶離させ、使用済みイオン交換樹脂を除染する方法において、発生する放射性の二次廃棄物量を減少させる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特許文献3の方法についてさらに研究を進めた結果、特許文献3の方法でカソード電極表面に電着固定化を終了させたのち、除染された樹脂および電解液を前記カソード区画から抜き出し、前記カソード電極に中性域~アルカリ性域の水を衝突させ、電着固定化した非放射性金属および放射性金属を剥離させることにより、前記カソード電極を放射性廃棄物として廃棄することなく再利用することができ、放射性廃棄物量をさらに削減できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明によれば、カソード電極を配置したカソード区画と、アノード電極を配置したアノード区画と、カソード区画とアノード区画との間に陽イオン交換膜を配置してなる電解槽を用いて、非放射性金属イオン、クラッド及び放射性核種を含む使用済イオン交換樹脂を除染する方法であって、当該クラッドが混在している使用済みイオン交換樹脂を当該カソード区画に導入し、当該カソード区画内の電解液のpHを1.8以上2.5未満、好ましくは1.8以上2.4以下として、カソード電極とアノード電極との間に直流電圧を印加し、非放射性金属の酸化物及び放射性金属の酸化物を含むクラッドを電解液中に溶解させて非放射性金属イオン及び放射性金属イオンとし、且つ、使用済イオン交換樹脂に捕捉されている非放射性金属イオン及び放射性金属イオンを電解液中に溶離させ、電解液中に溶離した非放射性金属イオン及び放射性金属イオンを金属としてカソード電極に電着固定化し、電着固定化終了後、電解液をカソード区画から抜き出し、カソード電極に水を衝突させて、電着固定化した非放射性金属および放射性金属を剥離させることを特徴とする除染方法が提供される。
【0014】
電解液は、塩酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、シュウ酸、ホウ酸、カルボン酸及びこれらの塩から選択される少なくとも1種を含む。カソード区画とアノード区画に使用する電解液は同一でも異なっていてもよい。本発明の除染方法において、カソード区画を還元的雰囲気に維持することから、特にカソード区画で使用する電解液としては、還元性の強いシュウ酸を含むことが好ましい。好適な電解液の具体例としては、シュウ酸の単独電解液、硫酸の単独電解液、塩酸の単独電解液、硫酸ナトリウムとスルファミン酸との混合電解液、硫酸ナトリウムとホウ酸との混合電解液、硫酸ナトリウムとサッカリンとの混合電解液、塩酸と塩化ナトリウムとの混合電解液などを挙げることができる。電解液には、硫酸、水酸化ナトリウムなどの適宜pH調整剤を添加して、pHを1.8以上2.5未満、好適には1.8以上2.4以下の範囲に調節する。後述する実施例及び比較例において詳述するが、電解液のpHが3を超えると鉄イオン及びコバルトイオンは析出せず、pHが低いほど析出しやすいことが確認された。またpHが2.5以上では、使用済みイオン交換樹脂から溶出する鉄イオンが3価鉄の形態をとりやすくなり、電着効率が徐々に低下することが見いだされた。したがって本方法において、電解液のpHは2.5未満とすることがより好ましい。逆に、電解液のpHが1.8未満の酸性であると、酸による溶解力が高すぎるため電着が効率よく進行しないので1.8以上とすることが好ましい。
【0015】
電解液の温度は20℃以上60℃以下、好ましくは40℃以上50℃以下に維持する。電解液の温度が上記範囲よりも低温であると溶離したイオンの電着速度が遅くなり、上記範囲よりも高温であると陽イオン交換膜が熱劣化しやすいため好ましくない。
【0016】
本発明の除染方法において、使用済イオン交換樹脂と電解液との混合スラリを電解槽内で撹拌循環させ、カソード電極との接触を良好に維持することが好ましい。しかし、混合スラリの撹拌循環が激しいと、カソード電極表面に電解析出した金属が剥離してしまい、後続の電解液を抜き出す工程において使用済みイオン交換樹脂を含む電解液と一緒に抜き出されてしまい、除染が不十分となるため、撹拌循環速度は最適範囲に維持することが望ましい。
【0017】
カソード電極からアノード電極への電流密度は0.1A/L以上10A/L以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の除染方法では、使用済イオン交換樹脂の除染に用いた後の電解液を再利用することができる。除染程度は施設により異なるが、たとえば使用済イオン交換樹脂の放射能濃度を測定し、3.7×107Bq/L以下に達した時点で除染終了とし、除染後の使用済イオン交換樹脂と電解液とを分離し、分離された電解液を次バッチの使用済イオン交換樹脂の除染用電解液として再使用する。さらに、再使用する電解液に非放射性Coイオンを添加することで、使用済みイオン交換樹脂から溶離した放射性Coイオンの電着を促進することができる。
【0019】
本発明の除染方法では、電解除染後、カソード電極とアノード電極間に直流電圧を印加したままの状態で、使用済イオン交換樹脂と電解液との混合スラリの循環撹拌流路を、樹脂回収フィルタを経由する流路に切り換え、カソード区画の電解液水位を低下させることなくイオン交換樹脂を濾別回収することが好ましい。通電状態を維持し、かつ電解槽内での水位や循環撹拌速度を維持したままイオン交換樹脂を濾別回収することにより、カソード電極表面に電解析出した金属を剥離させることなく、効率よく除染済みのイオン交換樹脂を濾別回収することができる。濾別回収工程終了後、樹脂回収フィルタに上流側から加圧空気を注入してフィルタ容器内の電解液を押し出し、イオン交換樹脂を水切りすることも好ましい。
【0020】
次に、カソード区画内の電解液を抜き出して水位を低下させ、カソード電極表面の少なくとも一部を電解液に浸漬していない状態とする。好ましくは、カソード区画内の電解液をほぼ全量抜き出し、この後の工程で注入する水と電解液とが混合しないようにする。具体的には、抜き出し用のポンプの保護のために必要な最低限の水位まで電解液を抜き出すことが望ましい。電解液を充填したままで水流により金属粒子をカソード電極から脱離させる方法では十分な衝突圧力が得られず、剥離が効率的に行われず、また電解液のpHは1.8以上2.5未満であるのに対して、カソード電極表面に衝突させる水のpHは5.1以上12.0以下であるため、電解液と水とが混合することは好ましくない。
【0021】
電解液を抜き出す際には、カソード電極とアノード電極間の直流電圧印加を停止するか、あるいは定電圧運転として、水位低下に伴い電流量を低下させることが好ましい。定電流運転のまま電解液を抜き出すと、水位低下に伴い、電解液に浸漬している電極の一部分に過大な電流密度が発生することとなり、電極を損傷する可能性がある。いずれの場合も、後続のカソード電極表面から電着固定化した非放射性金属及び放射性金属(以下、「電着物」ともいう。)を剥離させる前に、直流電圧印加は停止させることが望ましい。
【0022】
電解液の抜き出しが終了した後、カソード電極表面に、pH5.1以上12.0以下の水を衝突させて電着物をカソード電極表面から剥離させる。カソード電極表面に衝突させる水は、pHが上記範囲内にあればよく、現場で得られる用水(水道水、ろ過水、脱塩水)をそのまま用いても、あるいはpH調整を行ってから加圧注入してもよい。カソード電極表面から脱離した放射性金属は、酸によって再溶解して濾別回収が困難となる危険性があるため、本発明においては、上記のpHの範囲内の水を用いることが好ましい。
【0023】
剥離した電着物と水との混合スラリは、酸を含む電解液とはなるべく混合しないように配置された流路を用いて電着物回収フィルタに通水され、電着物が濾別回収されることが望ましい。このため、電着物回収用の配管は、循環撹拌用配管とは分岐した流路を構成することが好適である。濾別回収工程終了後、電着物回収フィルタに上流側から加圧空気を注入してフィルタ容器内の水を押し出し、回収した電着物を水切りすることも好ましい。
【0024】
本発明の除染方法では、電着物と濾別された後の水を再利用することができる。使用後の水は、カソード区画内に残留していた電解液中の酸が混入することによってpHが低下しているため、薬剤を添加してpHを5.1以上12.0以下の範囲に調整してから再利用する。pH調整のために添加する薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリや、炭酸水素ナトリウムなどのpH緩衝能のある塩およびその水溶液が好ましく用いられる。添加する薬剤によっては、pH調整を行うことによりスプレー水中に水酸化物などの沈殿が発生する可能性がある。沈殿物などの固形物は再利用時に水を吐出させる配管やノズルなどを閉塞させる恐れがあるため、水を再利用する場合は、水吐出配管の上流側に沈殿物除去用のストレーナもしくはフィルタを配置して、これらの沈殿物等を除去することが好ましい。
【0025】
カソード電極表面に電解析出した金属を剥離させるために十分な吐出圧力にて、水をカソード電極表面に吐出することが好ましい。しかし高圧の配管は漏えい等のリスクが高まり、特殊なノズルを用いる必要が生じるなどコスト高につながるため、吐出圧力は最適な範囲に維持することが望ましい。このために、吐出圧力は0.05MPa以上30MPa以下の範囲とすることが好適である。
【0026】
また、カソード電極の電着面全体にわたって水を吐出するか、もしくは水の吐出位置を移動させて、順次、カソード電極の電着面全体に吐出することが望ましい。水の吐出位置を移動させる手段としては公知の方法を用いることができ、たとえばカム、ギヤ及びチェーン等により吐出配管を上下動させる、空気圧等の動力を用いて吐出口を上昇・下降させる、あるいは吐出口を回転させるなどの方法を好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の除染方法によれば、原子力施設等で放射能汚染された機器を除染するために使用した後の使用済イオン交換樹脂に吸着又は捕捉されている放射性金属イオン及び非放射性金属イオンを溶離させ、ならびに使用済イオン交換樹脂と混在する放射性核種を取り込んだ非放射性金属の酸化物及び放射性金属の酸化物を含むクラッドを溶解させて、非放射性金属及び放射性金属としてカソード電極に電着固定化して使用済みイオン交換樹脂から脱離させることにより、放射能汚染された使用済イオン交換樹脂を焼却処理できる程度まで除染でき、大量の使用済イオン交換樹脂を焼却処理できるため、長期にわたり保管することが必要な放射性使用済イオン交換樹脂の大幅な減容化が可能となる。
【0028】
本発明の除染方法において、カソード電極近傍は還元的雰囲気に維持されるため、還元剤を添加する必要なしに難溶性のクラッドを溶解することができる。また、従来の方法では二次廃棄物となっていたイオン交換樹脂用の再生液(硫酸などの酸性溶液)の使用量を大幅に削減でき、再生液の処理に要する工程及び装置を排斥できるので、低コスト化に資する。
【0029】
また、本発明の除染方法によれば、電解液中にも放射性核種はほとんど残留せず、電解液は再利用が可能であるため、廃液として処分する電解液の量を従来の化学除染法の1/40~1/90程度まで大幅に削減できる。
【0030】
さらに、本発明の除染方法によれば、カソード電極表面から電着固定化された放射性金属を剥離させるため、カソード電極を廃棄することなく再利用することができる。二次廃棄物は、剥離した電着物を濾別回収した電着物回収フィルタのみとなるため、カソード電極を廃棄する場合と比較して、二次廃棄物量を1/5~1/10程度まで大幅に削減できる。すべての二次廃棄物を含めると、従来の化学除染法の1/200~1/700程度まで大幅に削減できる。また、電着物回収フィルタをフィルタ容器ごと廃棄することができるため、放射性物質を容器外に取り出すことなく安全に処理することができ、作業員の被ばく量も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明で除染対象となる放射性使用済イオン交換樹脂の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の除染装置の電解槽内部の構成を示す概略説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の除染装置の第1の実施形態(水を再利用しない)の構成を示す概略説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の除染装置の第2の実施形態(水を再利用する)の構成を示す概略説明図である。
【
図5】
図5は、実施例1の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2および比較例の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3の結果であり、pHの影響(液相鉄イオン濃度の推移)を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例3の結果であり、pHの影響(液相コバルトイオン濃度の推移)を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例3の結果であり、pHの違いによるコバルト除去係数DF値の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<放射性使用済イオン交換樹脂>
図1は、本発明の除染対象となる放射性使用済イオン交換樹脂の模式図である。
図1に示す使用済イオン交換樹脂1には、Co-60、Mn-54、Cr-51などの放射性核種由来の放射性金属イオン2及びFe、Cr、Niなどの非放射性金属イオン3が吸着又は捕捉されている。さらに使用済みイオン交換樹脂1には、Co-60、Mn-54、Cr-51などの放射性核種由来の放射性金属の酸化物4及び非放射性金属の酸化物5を取り込んだクラッド6が混在している。クラッド6中に取り込まれている放射性核種は極微量であり、金属酸化物から分離することは非常に困難であるため、クラッド6として存在することになる。したがって、クラッド6を使用済イオン交換樹脂1から溶離することができれば、クラッド6中に取り込まれている放射性核種4をイオン交換樹脂1から取り除くことができ、結果的に除染することができる。
【0034】
<除染装置構成>
図2は、本発明の除染装置の電解槽内部の構成を示す概略説明図である。
本発明の除染装置の電解槽10は、カソード電極11とカソード用電解液とを含むカソード区画10cと、アノード電極12とアノード電解液とを含むアノード区画10aと、カソード区画10c及びアノード区画10aの間に設けられておりアノード区画10aを画定する陽イオン交換膜13と、を含む。カソード区画10cには、カソード電極11、複数のノズル131が設けられている水吐出配管130、カソード区画10c内の水素イオン濃度を測定するためのpH電極(図示せず)が取り付けられている。電解槽10には、カソード区画10cに除染対象となる放射性使用済イオン交換樹脂1を供給する手段(図示せず)、電解液を供給する手段(
図2及び
図3の30)及び必要に応じてFe、Coイオンなどを供給する手段(図示せず)が取り付けられている。放射性使用済みイオン交換樹脂1の供給手段は導管、コンベアなど公知の供給手段とすることができる。アノード区画10aには、アノード電極12が取り付けられている。また、カソード区画10c及びアノード区画10aに直流電圧を印加する直流電源が接続されている。さらに、カソード区画10c内のカソード電極及びpH電極には、印加電圧、及び電解槽内の電流、pHなどの計測と制御を行い、電解液と除染対象使用済イオン交換樹脂とのスラリの流動状況を管理する制御装置(図示せず)が電気的に接続されている。さらに、電解槽10には、除染処理中の槽内の放射線量を計測し、カソード電極の放射線量が所定値を超えた場合に遠隔操作によってカソード電極の電着物剥離・回収を行うための運転制御盤(図示せず)が電気的に接続されている。運転制御盤には、電解液の温度を制御するための温度制御装置(図示せず)も電気的に接続されている。
【0035】
カソード電極11としては、導電性があり、放射性使用済イオン交換樹脂と電解液との混合スラリとの摩擦による損耗が小さく、強酸性耐性があり、カソード電極表面に電着固定化される放射性核種、非放射性金属イオン由来の金属及びクラッドよりも高い標準電極電位を有するものであることが好ましい。好適例としては、グラッシーカーボン(東海カーボン製)、銅、亜鉛、ステンレス、白金コート金属などを挙げることができる。カソード電極は平板でもよいが、広い表面積を有することが好ましく、繊維状又は網目状の構造であることも好ましい。
【0036】
アノード電極12としては、放射性使用済イオン交換樹脂を酸化的雰囲気に曝すことを防止するため、放射性使用済イオン交換樹脂と直接接触せずに通電することができる構成にすることが好ましい。アノード電極としては、導電性があり、強酸性及び陽極腐食に耐性があることが好ましい。好適例としては、グラファイト、白金コートチタン、チタン、チタンコート金属、酸化ルテニウム系金属、酸化イリジウム系金属などを挙げることができる。陽イオン交換膜としては、塩素ガス、酸素ガス、溶存酸素、溶存塩素などの透過を防止してカソード区画を還元的雰囲気に維持する機能を有することが好ましい。具体的好適例としては、IONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1又は同CMB、旭硝子製Selemion CSVなどの市販品を挙げることができる。
【0037】
水吐出配管130は、電解液中に浸漬してアノード電極12とカソード電極11との間に配置されることから、電位差の影響を受けないよう、接液面が非金属の材質であることが望ましい。また、放射能耐性をもつ材質であることが望ましい。好適例としてはポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、樹脂・FRPもしくはゴムライニングしたSS・SUS管などを挙げることができる。
【0038】
水吐出配管130は、上下動または昇降可能に構成され、カソード電極11の広範囲の表面に水を衝突させることがより好ましい。上下動または昇降させる手段としては、クランクカム、空気圧シリンダー、ギヤ、チェーンによる昇降などを挙げることができる。具体的好適例としては、スプレーイングシステムス製昇降式タンク洗浄装置UDR-AA、UDC-THAなどの市販品を用いることができる。
【0039】
水吐出配管130に設けられている複数のノズル131は、耐摩耗性・耐酸性があり、特に吐出部は非金属であって電位差による腐食を生じないものが好ましい。本体はステンレス製やポリプロピレン製であり、吐出部はセラミック製であることが好ましい。具体的な好適例としては、霧のいけうち製扇型ノズルVEP、スプレーイングシステムス製フラットスプレーノズルEなどの市販品を用いることができる。
【0040】
図3に示す第1実施形態の除染装置101は、
図2に示す構成の電解槽10と、樹脂回収フィルタ50と、電解液貯留槽70と、電着物回収フィルタ80と、これらを結ぶ配管とを備える。
【0041】
電解槽10内で除染された使用済みイオン交換樹脂は、電解槽10から抜き出された後に、樹脂回収フィルタ50にて回収される。
【0042】
電着固定化終了後に電解槽10のカソード区画10cから抜き出された電解液は、電解液貯留槽70に一時貯留される。
【0043】
電解液を抜き出した後、水吐出管130から水をカソード電極11の表面に吐出してカソード電極11から剥離させた非放射性金属及び放射性金属と、水と、を含むスラリは、電解槽10から抜き出された後に電着物回収フィルタ80にて固液分離される。
【0044】
以下、さらに詳述する。
図3に示すように、本実施形態の除染装置101は、電解槽10と、電解槽10の底部に連結されている連結管20と、連結管20に連結されている循環配管90と、循環配管90から分岐して電着物回収フィルタ80に連結されている電着物回収用配管100と、循環配管90から分岐して樹脂回収フィルタ50及び電解槽10に連結されている樹脂回収用循環配管40と、循環配管90から分岐して電解槽10に連結されている撹拌用循環配管30と、循環配管90から分岐して電解液貯留槽70に連結されている電解液抜出用配管60と、を具備している。
【0045】
連結管20には、開閉弁V1が設けられている。循環配管90には開閉弁V2、V3及びV6が設けられている。電着物回収用配管100には開閉弁V8、樹脂回収用循環配管40には開閉弁V5、撹拌用循環配管30には開閉弁V4、電解液抜出用配管60には開閉弁V7が、それぞれ設けられており、循環配管90からの流路を切り換える。循環配管90には、連結管20の下流側に循環ポンプ21が設けられている。
【0046】
電着物回収用配管100は、循環ポンプ21の下流において循環配管90に連結されており、V2を閉じてV8を開くことにより、電着物回収用配管100へと流路を切り換える。電着物回収フィルタ80は、電着物回収用配管100の末端側において上記スラリを投入可能に配置されている。
【0047】
V8を閉じてV2を開くことにより、循環配管90へと流路を切り換える。V3を閉じてV5を開くことにより、樹脂回収用循環配管40へと流路を切り換える。樹脂回収用循環配管40は、樹脂回収フィルタ50にて樹脂が回収された後の電解液を電解槽10へと送る。
【0048】
V5を閉じてV3を開き、V7を閉じてV4を開くことにより、撹拌用循環配管30へと流路を切り換える。撹拌用循環配管30を介して、電解槽10から抜き出された電解液を再び電解槽10に戻し、電解液を循環させる。
【0049】
V4を閉じてV7を開くことにより、電解液抜出用配管60へと流路を切り換える。電解液抜出用配管60を介して、電解槽10から抜き出された電解液は、電解液貯留槽70に送られ、貯留される。
【0050】
まず、使用済イオン交換樹脂1の電解除染を行う場合の流路について説明する。V8、V5、V7、V6を閉じて、V1、V2、V3及びV4を開いて、電解槽10の底部から電解液を抜き出し、連結管20、循環配管90及び撹拌用循環配管30を介して、電解液を循環させる。
【0051】
次に、除染された使用済イオン交換樹脂を回収する場合の流路について説明する。V8、V4、V7、V6を閉じて、V1、V2及びV5を開き、除染された使用済イオン交換樹脂と電解液とのスラリを電解槽10の底部から抜き出し、樹脂回収用循環配管40を介して樹脂回収フィルタ50に送り、樹脂を回収した後の電解液を電解槽10に循環させる。
【0052】
さらに、カソード電極11表面に電着固定化された放射性金属及び非放射性金属を剥離させて回収する場合の流路について説明する。まず、V8、V5、V4、V6を閉じ、V1、V2、V3、V7を開いて、電解槽10の底部から電解液を抜き出して、連結管20、循環配管90、電解液抜出用配管60を介して、電解液貯留槽70に電解液を送る。電解槽10内の電解液のほぼ全量を抜き出して電解液貯留槽70に送った後、電解槽10内の水吐出配管130からノズル131を介して水をカソード電極11表面全体に吐出させ、カソード電極11表面に電着固定化されている金属を剥離させる。V2を閉じ、V1、V8を開いて、剥離した金属と水とのスラリを、電解槽10の底部から連結管20に抜き出し、電着物回収用配管100を介して電着物回収フィルタ80に送る。
【0053】
次の使用済イオン交換樹脂を受け入れて電解除染を再開するため電解液を電解槽に戻す場合には、V1、V8、V5、V7を閉じ、V2、V3、V4、V6を開いて、電解液貯留槽70から電解液を抜き出して、循環配管90、撹拌用循環配管30を介して、電解槽10に電解液を送る。
【0054】
樹脂回収フィルタ50としては、耐酸性があり、除染後の樹脂を破損させずに電解液から濾別回収できる柔軟性と孔径を持つフィルタが好ましい。好適例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ガラス繊維、セラミック繊維などのメッシュもしくは不織布を用いたろ過袋を挙げることができる。具体的好適例としては、FALAロータスフィルターバッグ、3M製フィルターバッグNBなどの市販品を挙げることができる。
【0055】
電着物回収フィルタ80としては、数μm乃至数百μm程度の目開きを持ち、耐摩耗性に優れたフィルタが好ましい。使用後のフィルタは回収した電着物と共に放射性廃棄物として廃棄保管されることから、長期間化学的に安定で、ガス等の発生が少ないものが好ましい。なお、フィルタをフィルタホルダ容器ごと廃棄する場合には、容器が漏えい防止および遮へい材の役目を果たすため、フィルタ自身の物理的強度および遮へい能力は問題としなくてよい。好適例としては、ガラス繊維、玄武岩繊維(バサルト)、セラミック繊維、液体ろ過用セラミックフィルタ、液体ろ過用焼結金属フィルタ、ポリプロピレン、ポリエチレン、ステンレスメッシュなどを挙げることができる。具体的好適例としては、FALAロータスフィルターバッグ、3M製フィルターバッグNB 、ゼット工業製シングルタイプPH、CET製バケットフィルタ、東京フィルター販売製バッグフィルタ、ヨシタケ製U型ストレーナなどの市販品を挙げることができる。また、フィルタホルダ容器の外面に鉛などの遮へい材を取り付けることにより、容器の表面線量率を低下させ、より多くの電着物を安全に蓄積させることができる。カソード電極を廃棄する方法と比べて、遮へい容器を大幅に小さくできるため遮へいすべき表面積も小さくなり、より少ない量の鉛で十分な厚みの遮へいを施すことができる。
【0056】
図4に示す第2実施形態の除染装置102は、電着物回収フィルタ80と水吐出配管130とが、配管140、水貯留槽190、水加圧ポンプ110、ストレーナ120を介して連結されている点を除いて、
図3に示す第1実施形態と同じ構成である。第2実施形態においては、電着物回収フィルタ80にて固液分離される水を加圧して水吐出配管130を介して電解槽10に吐出して、再利用することができる。
【0057】
ストレーナ120は、水吐出配管130のノズル131の閉塞を防止するため、固形物を除去するものであれば特に限定されないが、数十μm程度の目開きを持ち、圧力損失の小さなものが好ましい。好適例としては、ステンレスメッシュが挙げられる。具体的好適例としては、ヨシタケ製ダブルストレーナSW-10などの市販品を用いることができる。
【0058】
<除染方法>
図3に示す除染装置を例にして、本発明の除染方法を説明する。本発明の処理方法は、以下の4つの工程に分けて説明できる。
【0059】
1.電解除染工程
放射性使用済イオン交換樹脂を、電解液が充填されているカソード区画10cに投入する。カソード区画内の電解液のpHを1.8以上3.0以下、好ましくは1.8以上2.5未満に調節する。この状態で、カソード電極11とアノード電極12との間に直流電圧を印加し、非放射性金属イオン及び放射性金属イオンを取り込んだクラッドを使用済イオン交換樹脂から溶離させ、カソード電極表面に金属として電着固定化する。
【0060】
処理中、カソード区画10cにおける使用済イオン交換樹脂と電解液とのスラリは、循環ポンプ21、循環配管90、及び撹拌用循環配管30を用いて電解槽内線速度0.1~1.0m/sの流速で循環撹拌される。0.1m/sよりも低速では、使用済イオン交換樹脂及びクラッドが沈降してしまい、1.0m/sよりも高速では、カソード電極11表面に電着固定化された金属が剥離してしまうおそれがある。
【0061】
2.樹脂回収工程
電解槽10から抜き出した除染後の使用済みイオン交換樹脂を含むスラリの流路を撹拌用循環配管30から樹脂回収用循環配管40に切替える。すなわち、V8、V4、V7、V6を閉じて、V1、V2及びV5を開き、カソード区画10cにて除染された使用済イオン交換樹脂と電解液とのスラリを電解槽10の底部から抜き出し、樹脂回収用循環配管40を介して樹脂回収フィルタ50に送り、樹脂回収フィルタ50にて樹脂を回収した後の電解液を電解槽10に循環させる。十分な回数循環させることにより、電解槽10内を流動している使用済イオン交換樹脂を十分な回収率で樹脂回収フィルタ50に分離回収することができる。樹脂回収工程終了後、樹脂回収フィルタ50に上流側から加圧空気を注入してフィルタ容器内の電解液を押し出し、使用済イオン交換樹脂を水切りしてもよい。回収された使用済イオン交換樹脂は、既設廃棄物処理系に送られて低レベル放射性廃棄物として処理されてもよい。
【0062】
3.電解液抜き出し工程
流路を樹脂回収用循環配管40から電解液抜出用配管60に切替え、カソード区画10c内の電解液を電解液貯留槽70に抜き出す。すなわち、V8、V5、V4、V6を閉じ、V1、V2、V3、V7を開いて、電解槽10の底部から電解液を抜き出して、連結管20、循環配管90、電解液抜出用配管60を介して、電解液貯留槽70に電解液を送る。カソード区画10c内の水位を低下させ、カソード電極11表面の少なくとも一部を電解液に漬かっていない状態とする。好ましくは、カソード区画10c内の電解液をなるべく全て抜き出し、この後の電着物剥離回収工程で注入する水と電解液とが混合しないようにする。
【0063】
4.電着物剥離回収工程
流路を電解液抜出用配管60から電着物回収用配管100に切替え、水吐出配管130からノズル131を介して水を吐出させ、カソード電極11表面に衝突させる。水吐出配管130を昇降させることも好ましい。剥離した電着物と水のスラリが電解槽内に溜まってきたら、循環ポンプ20と電着物回収用配管100とを用いて当該スラリを電着物回収フィルタ80に通水し、電着物を濾別する。すなわち、V2を閉じ、V1、V8を開いて、剥離した金属と水とのスラリを、電解槽10の底部から連結管20に抜き出し、電着物回収用配管100を介して電着物回収フィルタ80に送る。ろ過後の水は、排水するか、電解および蒸発によって水量が減少する電解液の補充水として使用することも好ましい。
【0064】
図4に示すように、電着物回収後の水をカソード電極11表面に吐出する水として再利用する場合は、水貯留槽190にいったん貯留し、pH調整を行ってから再利用することが好ましい。水貯留槽90から水加圧ポンプ110を用いて水を水吐出配管130に供給する。この時、水吐出配管130内にスプレーノズル保護ストレーナ120を設置して、水中の固形物を除去することも好ましい。
【0065】
電着物剥離が十分行われた後、加圧ポンプ110の運転を停止し、循環ポンプ20を用いて電解槽内の水をなるべく全て抜き出し、次の電解除染工程で注入する電解液と水とが混合しないようにすることも好ましい。さらに水抜き出しの後、電着物回収フィルタ80に上流側から加圧空気を注入してフィルタ容器内の水を押し出し、回収した電着物を水切りすることも好ましい。
【0066】
<電極再生方法>
本方法では上記のような工程をくり返し行うことにより大量の使用済イオン交換樹脂を除染することができるが、電着と剥離を繰り返すことにより、カソード電極に徐々に放射性核種が蓄積してしまう場合が想定される。
【0067】
電着物剥離工程後にカソード電極表面の線量率が一定の値を下回らなくなった場合は、水を酸もしくは酸と還元剤等の混合液に変更することにより、剥離と溶解を同時に生じさせて電極を再生することができる。スプレー後の混合液は電解液に混合して再利用することも好ましい。
【0068】
または、樹脂を投入しない状態でカソード区画を電解液で満たし、直流電圧を印加しない状態で酸を加えてpHを1.8未満とするか、通常とは逆の方向の直流電圧を印加してカソード電極表面を溶解させ、再生することも好ましい。ただし後者の方法を取る場合は、アノード電極にマイナスの電位を印加することになるため、チタン、チタンコート金属、酸化ルテニウム系金属、酸化イリジウム系金属などは破損する恐れが有り使用すべきでない。後者の方法を取る場合は、アノード電極として白金コートチタンなどのマイナス電位に耐える材質のものを配備するか、逆電流通電時にはアノード電極を使用せず、別途電極を配備することも好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
以下の実施例で使用する模擬使用済イオン交換樹脂は、100mlのDowex-650C・Fe(樹脂1mlあたりイオン交換によるFe担持量70mg)及び、1mlのDowex-650C・Co(樹脂1mlあたりイオン交換によるCo担持量78mg)(いずれもほぼ完全にイオン交換済み)の混合物から分取してカソード区画の電解液中に投入することとした。ここで、Dowx-650C・Feはイオン交換によりFeイオンを担持するカチオン交換樹脂であり、Dowx-650C・Coはイオン交換によりCoイオンを担持していることを意味する。本模擬使用済イオン交換樹脂において、実際の放射性使用済イオン交換樹脂における非放射性金属に鉄が相当し、放射性核種にコバルトが相当する。
【0071】
カソード区画の電解液として、1N硫酸をNaOHで初期pHを1.8以上2.5未満に調整した溶液を用いた。カソード電極には、SUS-304板またはSUS-304金網を用いた。
【0072】
アノード区画の電解液として1N硫酸を用いた。アノード電極には、酸化ルテニウム系金属陽極板を用いた。
【0073】
[実施例1]
本実施例では、本発明の方法による使用済イオン交換樹脂からの金属イオンの溶解性及びカソード電極への電着固定化を確認した。
【0074】
カソード電極としてSUS-304板を用い、電流密度(A/L)は6.98A/Lとした。印加電圧(V)は6.3Vで開始し、93時間経過後5.3Vであった。pHスタット装置を用いて、カソード区画の電解液のpHを2.1以上2.5未満に制御した。処理中、液温は41℃以上43.5℃以下に制御し、カソード電位は-2.2V以上-2.0V以下であった。
【0075】
経時的に、カソード区画の電解液中残留Feイオン濃度及びCoイオン濃度を測定した。結果を
図5および表1に示す。
【表1】
【0076】
図5に示すように、鉄およびコバルトは運転初期の段階で電解液中に溶出し、電解液からの除去速度はほぼ液中濃度に対する1次反応速度式に従って進行した。表1に示すように、93.5時間の処理によってコバルトの除去係数DF(Decontamination Factor)は256に達し、良好な結果が得られた。なお、DF値は以下の計算式で与えられる。
【数1】
【0077】
[実施例2]
本実施例では、本発明の方法によるクラッドの溶解性及びカソード電極への電着固定化を確認した。
【0078】
模擬クラッドとしてα-Fe2O3(「ベンガラ」ともいう。)をFeとして777mg/Lとなるように添加して調製した。
【0079】
カソード区画及びアノード区画の電解液として、それぞれ1,000mlの1N硫酸溶液を用いた。カソード区画の電解液の初期pHは1.8に調整した。カソード電極には、SUS-304金網(表面積687cm2)を用いた。
【0080】
電流密度は8.5A/Lに維持し、印加電圧は8.0V以上8.87V以下とした。カソード区域の電解液のpHは1.8以上2.5未満、液温は30℃以上50℃以下に制御し、カソード電位は-1.2V以上-1.0以下であった。
【0081】
一定時間毎に、カソード区画の電解液を採取して、試料中のα-Fe
2O
3を塩酸溶液中で煮沸溶解しFe濃度を測定し、電解液中残留α-Fe
2O
3濃度を求めた。結果を
図6に示す。
【0082】
対照として、1N硫酸溶液を用い、液温50℃の加温条件で撹拌を行う従来の化学除染法(撹拌溶解)を行った。結果を併せて
図6に示す。
【0083】
図6に示すように、本方法により難溶性のクラッド(α-Fe
2O
3)が電解液中に十分に溶解し、カソード電極に電着することが確認された。一方、硫酸中にて撹拌するだけの従来の化学除染法では、電解液中のクラッド(α-Fe
2O
3)濃度は処理開始から終了まで一定であり、除去されていないことが確認された。
【0084】
[実施例3]
本実施例では、本方法に対するカソード区画電解液のpHの影響を確認した。
pHスタットを用い、カソード区画のpHをそれぞれ2.3、2.8、および3.5に設定し、その他の条件は実施例1と同様として電解除染試験を行った。pH2.3および2.8の条件の試験は本方法の実施例であり、pH3.5の条件の試験は比較例である。所定時間経過時に電解液を採取し、カソード区画の電解液中残留Feイオン濃度及びCoイオン濃度を測定した。
【0085】
結果を
図7、
図8および
図9に示し、44時間後~46時間後の各条件でのコバルトの除去係数DFを表2に示した。
【表2】
【0086】
図7、8より、本発明のpH2.3および2.8の条件では鉄イオン除去およびコバルトの除染が進行するのに対し、比較例のpH3.5の条件では除染が効率よく進行しないことがわかる。また、実施例であるpH2.3と2.8の条件を比較すると、pH2.3条件の方がより効率的に除染が行われることがわかる。表2及び
図9より、pHを低下させることにより除染係数が急激に上昇することが確認され、pH2.5未満、好ましくはpH2.4以下の条件で十分な除染係数が得られることが認められた。
【0087】
また、同条件の試験において、pH2.3の運転中にpHスタット制御を止め、硫酸を添加してpHを1.5まで低下させたところ、カソード電極表面の鉄、コバルトが溶解して液相中の鉄、コバルト濃度ともに10倍以上に上昇する現象が認められた(データは示していない)。このことから、極端な酸性条件ではカソード表面の電着金属が溶解して再溶出してしまい、好ましくないことが示された。
【0088】
[実施例4]
本実施例では、電着固定化終了後のカソード電極に水を衝突させることによる、電着固定化した金属の剥離効果を確認した。
【0089】
実施例3のpH2.3条件にて電解除染試験を行い、試験終了後直ちにカソード電極を電解液から取り出して、水により電極表面の電着金属を剥離させた。水としてイオン交換水を用い、ノズル(霧のいけうち製扇形ノズルVEP)から吐出圧0.3MPaでカソード電極表面に噴霧した。
【0090】
衝突後の水を全量回収して蒸発濃縮し、固形物を塩酸溶液中で煮沸溶解してコバルト濃度を測定し、剥離したコバルト重量を算出した。一方、処理後のカソード電極を同様に塩酸溶液中で煮沸溶解して溶出したコバルト濃度を測定し、剥離したコバルト重量を算出した。両者を比較することにより、水を衝突させることによる電着物剥離の効率を求めた。結果を表3に示す。
【表3】
【0091】
表3より、カソード電極に残留したコバルトは0.1mg以下であり、水を衝突させることによりカソード電極に電着したコバルトの95%以上を剥離させることができた。
【0092】
[実施例5]
本実施例では、本発明の方法で剥離した金属片の安定性に及ぼす水のpH条件の影響を確認した。
【0093】
実施例4と同様の方法で鉄及びコバルト電着物の剥離を行い、得られた水と剥離金属片のスラリをガラスビーカ中で1時間撹拌した。1時間後、pHを測定した後で液をサンプリングして、0.45μmのフィルタで濾過し、ろ液のコバルト濃度を測定した。
【0094】
ついで上記スラリに希薄な硫酸水を添加してpHを順次低下させ、同様に撹拌後、ろ液のコバルト濃度を測定した。また、特許文献1との比較のため、上記水と剥離金属片のスラリに10mM濃度となるようホウフッ化水素酸を添加し、NaOHでpH3に調整したものについても同様に撹拌後のろ液コバルト濃度を測定した。得られたコバルト濃度から溶解したコバルト重量を計算し、表4に示す。
【表4】
【0095】
表4より、水のpHが5.1以上の条件では、コバルトの再溶出は検出限界以下であったのに対し、pH4.0以下の条件では、コバルトの再溶出が認められた。特に特許文献1の実施例条件である10mMホウフッ化水素酸条件では、電着したコバルトのほとんど全てが再溶出してしまうことが認められた。従って本方法においては、水のpHは5.1以上に制御されることがより望ましい。
【符号の説明】
【0096】
1:イオン交換樹脂
2:放射性金属イオン
3:非放射性金属イオン
4:放射性金属酸化物
5:非放射性金属酸化物
6:クラッド
10:電解槽
10a:アノード区画
10c:カソード区画
11:カソード電極
12:アノード電極
13:陽イオン交換膜
20:連結管
21:循環ポンプ
30:撹拌用循環配管
40:樹脂回収用循環配管
50:樹脂回収フィルタ
60:電解液抜出用配管
70:電解液貯留槽
80:電着物回収フィルタ
90:循環配管
101:第1実施形態の除染装置
102:第2実施形態の除染装置
100:電着物回収用配管
110:水加圧ポンプ
120:ノズル保護ストレーナ
130:水吐出配管
131:ノズル
190:水貯留槽