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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】LVDT内蔵のリニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/06 20060101AFI20230727BHJP
   H01F 7/18 20060101ALI20230727BHJP
   H02K 33/18 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H01F7/06 C
H01F7/18 R
H02K33/18 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022093698
(22)【出願日】2022-06-09
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000246251
【氏名又は名称】油研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】根岸 玲
(72)【発明者】
【氏名】永野 卓
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-300007(JP,A)
【文献】特開昭62-242772(JP,A)
【文献】米国特許第4675563(US,A)
【文献】実開昭56-174159(JP,U)
【文献】特開2007-6695(JP,A)
【文献】特開2003-319633(JP,A)
【文献】特開2016-140229(JP,A)
【文献】実開昭54-141316(JP,U)
【文献】特開2016-127746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/20
H01F 7/06
H02K 33/18
F15B 13/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装部材と該外装部材の内部空間の中心部に配置されたインナーヨークとを備え、前記外装部材と前記インナーヨークとの間に形成された空間内に、前記外装部材の内側に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側でインナーヨークの外側に直線移動可能に配置された非磁性材料から成るボビンと、前記ボビンの外周に巻回されたコイルとが配置され、前記コイルへの通電制御によって、前記コイルと共に直線移動を行う前記ボビンを介して油圧装置の駆動部を往復駆動させるリニアモータにおいて、
前記外装部材の内部空間と前記インナーヨークと前記ボビン及び前記コイルは、各々略円筒形状を有し、互いに同軸状に配置されているものであり、
前記永久磁石は、その長手方向で2つに分割されて、前記油圧装置の近位側に配置された第1の磁石と前記油圧装置から遠位側に配置された第2の磁石とを備え、
前記コイルは、互いに間隔を持って配置された第1のコイルと第2のコイルとを備え、
前記第1のコイルと前記第2のコイルとは互いに逆向きにコイル線が巻回されて形成されていると共に、前記第1の磁石と前記第2の磁石とは、互いに半径方向に反対向きの磁極方向を有しており、
前記ボビンは、前記第1のコイルと前記第2のコイルとが外周に巻回される円筒状本体と、該円筒状本体の端縁から略コーン状に延在して、その先端部で前記油圧装置の駆動部に前記直線運動を伝達する突出部を備え、
前記インナーヨークの前記油圧装置側の端部には、前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部より前方領域に線形電圧差動トランス(LVDT)を構成するソレノイドコイルが内蔵されたLVDTケース部材が突設されており、
前記ボビンの突出部には、前記ボビンの直線移動に伴って前記LVDTケース部材に内蔵された前記ソレノイドコイルの内部を直線移動する前記線形電圧差動トランスのコアが連結されており、
前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部に当接して配置された軟磁性材料から成る磁性リングを更に備えていることを特徴とするLVDT内蔵のリニアモータ。
【請求項2】
前記円筒状の永久磁石の長手方向での前記第1の磁石の長さが前記第2の磁石の長さよりより小さいことを特徴とする請求項1に記載のLVDT内蔵のリニアモータ。
【請求項3】
前記円筒状の永久磁石の長手方向での全長を100として前記第1の磁石と前記第2の磁石との分割比が35:65であることを特徴とする請求項2に記載のLVDT内蔵のリニアモータ。
【請求項4】
前記第1の磁石と前記第2の磁石とは、それぞれ、予め定められた方向に着磁された複数個の部分磁石が周方向に円環状に組み合わされて形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のLVDT内蔵のリニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動型サーボ弁のスプールをその軸方向に駆動させるリニアモータに関するものであり、詳しくは、スプール位置検出器としてのLVDTを永久磁石の磁束の影響を抑制可能に内蔵したリニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
小型で高応答性が求められる直動形サーボ弁では、従来からスプールの駆動源として円筒型ボイスコイルによるリニアモータ、所謂ボイスコイルモータ(VCM)が採用されている。このようなリニアモータは、一般的には、図8に示すように、円筒状の外筒部材(アウターヨーク)31とその中心部に同軸状の設置されたインナーヨーク32との間の環状空間33に、アウターヨーク31の内側に固定された円筒状の永久磁石34と、その内側でインナーヨーク32の外側に非磁性材料から成るボビン35と、該ボビン35の外周に巻回された円筒状のコイル36とが同軸状に配置されて構成されるものである。永久磁石34が作る磁場中でコイル36に電流を流すことによって発生する推力によって、コイル36がボビン35を伴って可動子(ムービングコイル)として中心軸X方向に沿って直線移動する。従って、ボビン35の円筒状本体から延在するコーン状の突出部35Pの先端に連結されたスプール40が、弁本体50のスリーブ内で直動され、弁本体50に設けられた各ポートの開閉およびポート同士の連通の切替えが行われる。
【0003】
このようなリニアモータによれば、可動子として鉄芯を用いた場合に比べて、可動部であるコイルに鉄芯を磁化するためのインダクタンス成分の必要がない分、電流応答が高応答であり、そのボビンに連結されたスプールが直動されるため、他のアクチュエータよりも動作応答性に優れ、高速駆動と高精度な位置決めが可能である。
【0004】
なお、直動型サーボ弁では、スプール位置を制御するための位置検出器が設けられるが、この位置検出器には、機械的な直線運動の変位量を検出する変位センサとして、線形電圧差動トランス(LVDT:Linear Variable Differential Transformer)を用いたものが多く採用されている。一般的なLVDTは、コアの周囲に巻回された中心の一次コイルと一次コイルを挟んだ両側の二次コイルとの3つのソレノイドコイルで構成されており、一次コイルを励磁して各二次コイルに起電力を発生させた状態でこれらコイル内をスプールと連動するコアが動いた際に、その動いた量に応じて二つの二次コイルの一次コイルに対応する相互インダクタンスが変化し、両コイルの誘起電圧の差に相当する電圧が出力されるため、その出力信号レベルの変化を検出することでコアの変位量、即ち、スプールの移動量が測定できる。従って、この移動量に基づいて検出されたスプール位置がフィードバック制御される。
【0005】
ただし、このような磁気式の変位センサは、永久磁石からの磁束の影響を受けると検出精度に問題が生じることから、リニアモータに対してスプールの反対側にLVDTが設けられていた(例えば、特許文献1,2,3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-278303号公報
【文献】特開昭63-259203号公報
【文献】特開2007-187296号公報
【文献】特開平06-300007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、弁本体のスプールの両端の一方にリニアモータを配置し他方にLVDTを配置する構成では、配線等を含む装置構造が繁雑であり、取扱いが面倒となるため、LVDTを円筒型ボイスコイルと一体化させて、スプールの一端側に配置する構成が考えられる(例えば、特許文献4を参照。)。この場合、スプールの両端側が拘束される場合よりも弁本体自体の構成についても自由度が向上する。
【0008】
そこで、LVDTを円筒型ボイスコイルと一体化させたLVDT内蔵リニアモータを構成する場合には、まず、図8の概略縦断面図に示すように、インナーヨーク中心の中空内部という磁束漏れの小さい領域にLVDTを配置する構成が考えられた。
【0009】
しかしながら、リニアモータのさらなる小型化や高推力化を図る場合、円筒型ボイスコイルでは、まず径寸法を抑えながら磁束密度を向上させると、インナーヨーク内部への磁束漏れが顕著となり、その中心内部にLVDTを配置できなくなる。そのため、例えば、ヨークと弁本体との間にLVDTを内蔵させる大きな中間ブロックを設けることが考えられるが、これはリニアモータの小型化に反することになる。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、磁束漏れの影響を受けることなくLVDTを内蔵可能な小型高推力型のリニアモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係るLVDT内蔵のリニアモータは、外装部材と該外装部材の内部空間の中心部に配置され端部で前記外装部材に連結されたインナーヨークとを備え、前記外装部材と前記インナーヨークとの間に形成された空間内に、前記外装部材の内側に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側でインナーヨークの外側に直線移動可能に配置された非磁性材料から成るボビンと、前記ボビンの外周に巻回されたコイルとが配置され、前記コイルへの通電制御によって、前記コイルと共に直線移動を行う前記ボビンを介して油圧装置の駆動部を往復駆動させるリニアモータにおいて、
前記外装部材の内部空間と前記インナーヨークと前記ボビン及び前記コイルは、各々略円筒形状を有し、互いに同軸状に配置されているものであり、
前記永久磁石は、その長手方向で2つに分割されて、前記油圧装置の近位側に配置された第1の磁石と前記油圧装置から遠位側に配置された第2の磁石とを備え、
前記コイルは、互いに間隔を持って配置された第1のコイルと第2のコイルとを備え、
前記第1のコイルと前記第2のコイルとは互いに逆向きにコイル線が巻回されて形成されていると共に、前記第1の磁石と前記第2の磁石とは、互いに半径方向に反対向きの磁極方向を有しており、
前記ボビンは、前記第1のコイルと前記第2のコイルとが外周に巻回される円筒状本体と、該円筒状本体の端縁から略コーン状に延在して、その先端部で前記油圧装置の駆動部に前記直線運動を伝達する突出部を備え、
前記インナーヨークの前記油圧装置側の端部には、前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部より前方領域に線形電圧差動トランス(LVDT)を構成するソレノイドコイルが内蔵されたLVDTケース部材が突設されており、、
前記ボビンの突出部には、前記ボビンの直線移動に伴って前記LVDTケース部材に内蔵された前記ソレノイドコイルの内部を直線移動する前記線形電圧差動トランスのコアが連結されており、
前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部に当接して配置された軟磁性材料からなる磁性リングを更に備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載の発明に係るLVDT内蔵のリニアモータは、請求項1に記載のLVDT内蔵のリニアモータにおいて、前記円筒状の永久磁石の長手方向での前記第1の磁石の長さが前記第2の磁石の長さより小さいことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明に係るLVDT内蔵のリニアモータは、請求項2に記載のLVDT内蔵のリニアモータにおいて、前記円筒状の永久磁石の長手方向での前記第1の磁石と前記第2の磁石との分割比が35:65であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載の発明に係るLVDT内蔵のリニアモータは、請求項1~3のいずれか1項に記載のLVDT内蔵のリニアモータにおいて、前記第1の磁石と前記第2の磁石とは、それぞれ、予め定められた方向に着磁された複数個の部分磁石が周方向に円環状に組み合わされて形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のLVDT内蔵のリニアモータによれば、軟磁性材料からなる磁性リングを永久磁石の終端に配置することによって、LVDTへの漏れ磁束の影響を良好に抑制できるため、ボイスコイルと弁本体との間に装置の大型化を招くようなLVDT配置用の大きな中間ブロックを設けることなく、永久磁石に隣接する領域にLVDTを内蔵できるため、リニアモータの小型化と高推力化とを実現できるという効果がある。さらに永久磁石の長手方向全長のうち、LVDT寄りの第1の磁石が占める割合を第2の磁石より適宜小さくすることによって、磁性リングによるLVDTに対する漏れ磁束の抑制効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例によるリニアモータの概略構成図であり、(a)は配線等の周辺構成を除く本体部分をボイスコイルのストローク中立状態で示した側断面図、(b)は(a)のG-G矢視図で第2の磁石の端面を示す断面図、(c)は(a)のF-F矢視図で磁性リングのみを示した端面図である。
図2】(a)は図1に示したリニアモータの本体部分の有効ストローク長Kの内、上部にストローク距離K/2だけ後退した状態を、下部にストローク距離K/2だけ前進した状態をそれぞれ示す側断面図であり、(b)は(a)中の円T内の間隔gにおけるコイル推力を説明する概略拡大図であり、(c)は(b)の対照として間隔gがない場合のコイル推力を説明する概略拡大図である。
図3図1の実施例の比較例として、永久磁石の長尺方向での分割比を二等分とした場合のリニアモータを示す概略構成図である。
図4】(a)は図1のリニアモータの磁界分布図であり、(b)は図1のリニアモータの対照例として磁性リングが配置されていない場合の磁界分布図である。
図5】(a)は図3のリニアモータの磁界分布図であり、(b)は図3のリニアモータの対照例として磁性リングが配置されていない場合の磁界分布図である。
図6図1のリニアモータのLVDT特性として、リニアモータのコイルの通電状態(実線)と無通電状態(破線)とにおいて、横軸のコアストローク距離(mm)に対して縦軸に出力(V)をプロットして示した線グラフである。
図7図1のリニアモータの対照例として磁性リングが配置されていない場合のLVDT特性を、リニアモータのコイルの通電状態(実線)と無通電状態(破線)とにおいて、横軸のコアストローク距離(mm)に対して縦軸に出力(V)をプロットして示した線グラフである。
図8】従来のLVDT内蔵リニアモータの一例の構成を示した概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、外装部材とその内部空間の中心部に配置されたインナーヨークとを備え、前記外装部材と前記インナーヨークとの間に形成された空間内に、前記外装部材の内側に固定された永久磁石と、前記永久磁石の内側でインナーヨークの外側に直線移動可能に配置された非磁性材料から成るボビンと、前記ボビンの外周に巻回されたコイルとが配置され、前記コイルへの通電制御によって、前記コイルと共に直線移動を行う前記ボビンを介して油圧装置の駆動部を往復駆動させるリニアモータであり、本発明においては、前記外装部材の内部空間と前記インナーヨークと前記ボビン及び前記コイルは、各々略円筒形状を有し、互いに同軸状に配置されているものであり、前記永久磁石は、その長手方向で2つに分割されて、前記油圧装置の近位側に配置された第1の磁石と前記油圧装置から遠位側に配置された第2の磁石とを備え、前記コイルは、互いに間隔を持って配置された第1のコイルと第2のコイルとを備え、前記第1のコイルと前記第2のコイルとは互いに逆向きにコイル線が巻回されて形成されていると共に、前記第1の磁石と前記第2の磁石とは、互いに半径方向に反対向きの磁極方向を有しており、前記ボビンは、前記第1のコイルと前記第2のコイルとが外周に巻回される円筒状本体と、該円筒状本体の端縁から略コーン状に延在して、その先端部で前記油圧装置の駆動部に前記直線運動を伝達する突出部を備え、前記インナーヨークの前記油圧装置側の端部には、前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部より前方領域に線形電圧差動トランス(LVDT)を構成するソレノイドコイルが内蔵されたLVDTケース部材が突設されており、前記ボビンの突出部には、前記ボビンの直線移動に伴って前記LVDTケース部材に内蔵された前記ソレノイドコイルの内部を直線移動する前記線形電圧差動トランスのコアが連結されており、前記第1の磁石の前記油圧装置寄りの端部に当接して配置された軟磁性材料から成る磁性リングを更に備えているものである。
【0018】
リニアモータの永久磁石は、磁場の変化による推力の変動を発生させないように、コイルに均一な磁場を得るために可動部の移動領域を十分補える程度の長さとされるが、以上の本発明の構成によれば、該永久磁石を長手方向で第1の磁石と第2の磁石との2つに分割し、分割した磁石の極性が違うため、異なる極性の磁石間の磁束は同一極性の磁束がヨークを通るより増加して、分割しない場合より内側方向への磁束密度を向上させる。これによって、円筒型ボイスコイルを径方向に大きくすることなく推力を向上させることができる。
【0019】
また、このとき、二つの永久磁石のその内側でそれぞれ対面する領域でボビンの外周に互いに逆向きに巻回されたコイル線からなる第1のコイルと第2のコイルとを備える。これら第1と第2のコイルにそれぞれ対応する2つの第1と第2の磁石は、互いに半径方向の磁極方向が反対向きとして、各コイルと磁気回路を形成するものであり、同一極性で構成された磁石及びコイルの場合に比べて推力が大きくなる。
【0020】
そして本発明においては、インナーヨークの油圧装置側端部に突設されたLVDTケース部材に内蔵されているソレノイドコイルとボビンの突出部に連結されたコアとで構成される線形電圧差動トランス(以降、LVDTと記す)が第1の磁石の油圧装置寄りの端部より前方領域という永久磁石の漏れ磁束の影響を最も受け難い位置に配置されていると共に、第1の磁石の油圧装置寄りの端部、即ち永久磁石の終端に軟磁性材料からな成る磁性リングが当接して配置されているため、該磁性リングが磁気シールドとして機能してLVDTへの漏れ磁束の影響をさらに抑えることができ、ボイスコイルと弁本体との間にLVDTを配置するための大きな中間ブロックを設ける必要を無くし、良好なLVDT特性が確保できる小型高推力型リニアモータを実現可能とした。
【0021】
なお、本発明の磁性リングの材質としては、軟磁性材料であれば良いが、漏れ磁束の抑制効果を発揮するものとして、その透磁性が高く保磁力が小さいものほど望ましい。例えば、パーマロイが挙げられるが、その他、より低コストの快削純鉄や炭素鋼なども好適である。また、外装部材は、磁気ケースであり、インナーヨークと同種の軟磁性材料で構成することでアウターヨークとして機能させている。
【0022】
以上のように、本発明においては、主に永久磁石の終端に配置された磁性リングによって磁束漏れのLVDTへの影響を回避するものであるが、その効果は第1の磁石からの影響をより小さくすることによってさらに向上させることができる。即ち、永久磁石の長手方向における第1の磁石の長さを第2の磁石の長さより小さくすればよい。
【0023】
ただし、第1の磁石の方が短いほどその効果が高くなるが、短すぎると十分な推力が確保し難くなるため、十分な推力と漏れ磁束の影響の抑制作用との両方が最も効果的に確保される下限条件を維持することが望ましい。この条件は、永久磁石の長手方向の全長を100として第1の磁石と第2の磁石との分割比が35:65となる寸法設定である。
【0024】
なお、第1の磁石と第2の磁石とは、それぞれ半径方向に磁極方向を有する円環状磁石であるが、半径方向に良好に高磁束密度でとなるように着磁された一体の円環状磁石を製作することが困難であるため、より簡便な分割方式で製作されたものとすれば良い。即ち、未着磁の円環状に成形された硬磁性体を周方向で複数個に等分割し、各分割部分に対して所定の向きの半径方向に着磁してから、着磁された分割部分を円環状に組み合わせることによって円環状磁石を構成することができる。
【実施例
【0025】
本発明の一実施例として、永久磁石が長手方向に第1の磁石と第2の磁石とに分割され、それぞれの磁石に対応する2つの第1のコイルと第2のコイルとを備えたボイスコイルにLVDTが一体に組み合わされたLVDT内蔵のリニアモータを図1の概略構成図に示す。図1(a)は配線等の周辺構成を除く本体部分の側断面図、図1(b)は(a)のG-G矢視図で第2の磁石の端面を示す断面図、(c)は(a)のF-F矢視図で磁性リングのみを示した端面図である。なお、図3図1のリニアモータに対して、永久磁石の長手方向における第1の磁石と第2の磁石との分割比が異なる場合のリニアモータの概略断面図を本実施例の比較例として示した。
【0026】
本実施例によるリニアモータ10は、例えば角柱状部材の内部を円筒状にくり抜いて内部空間が形成された外装部材11と、その円筒状の内部空間の中心部に同軸状に配置され後端部で外装部材11に連結された円筒状のインナーヨーク12とを備え、外装部材11とインナーヨーク12との間に環状空間13が形成されている。この環状空間13内に、外装部材11の内側に固定された円筒状の永久磁石14と、永久磁石14の内側でインナーヨーク12の外側に中心軸X方向に直線移動可能に配置された非磁性材料から成るボビン15とが同軸状に配置され、このボビン15の外周に永久磁石14と磁気回路を形成するコイル16が円筒状に巻回されて、ボイスコイルが構成されている。
【0027】
従って、リニアモータ10は、コイル16への通電制御によって、コイル16と共に中心軸X方向に沿った直線移動を行うボビン15を介して、図の紙面に向かって左側に位置する直動型サーボ弁等の油圧装置(不図示)の駆動部、例えばスプールを往復駆動させることができる。ここでは、油圧装置側である図の紙面に向かって左側を前方、右側を後方とする。
【0028】
なお、本実施例では、永久磁石14は、長手方向に分割された円環状の第1の磁石14Aと第2の磁石14Bとの2つで構成され、第1の磁石14Aの後端部と第2の磁石14Bの前端部とが当接状態で配置されており、対応するコイル16も、第1のコイル16Aと第2のコイル16Bとの2つで構成されている。そして、第1の磁石14Aと第2の磁石14Bとでは、半径方向の磁極方向が互いに反対向きであり、第1のコイル16Aと第2コイル16Bは、ボビン15の外周に同一のコイル線(必ずしも同一コイル線である必要はない)が所定の間隔を持って互いに逆向きに巻回されてそれぞれ円筒状に構成されたものである。また、円環状の第1の磁石14Aと第2の磁石14Bとは、円環状部材が周方向に八等分(図1(b)における等角度間隔αが約44°で分割)された分割部分14pが、それぞれ所定の向きの半径方向に着磁されてから周方向に円環状に組み合わされて構成されたものである。
【0029】
また、ボビン15は、第1のコイル16Aと第2のコイル16Bとが外周に巻回されている円筒状本体の前側端縁から略コーン状に延在する突出部15Pが設けられている。この突出部15Pの先端部が油圧装置の駆動部の端部に連結されることによって、ボビン15の直線運動が油圧装置の駆動部に伝達される。
【0030】
そして、インナーヨーク12の油圧装置側である前側の端部には、ボビン15の突出部15Pの内側に延びるLVDTケース部材17が突設されている。該LVDTケース部材17には、中心軸Xに沿って中空孔18が穿設されており、該中空孔18の周りの第1の磁石14Aの前側端部よりも前方領域にLVDTを構成する3つのソレノイドコイル、即ち一次コイルS1とその両側の2つの二次コイルS2とが中心軸Xと同軸状に内蔵されている。一方、ボビン15の突出部15Pには、後方側へ延びるようにLVDTのコアCが中心軸Xと同軸状に連結されており、該コアCは、ボビン15の直線移動に伴ってLVDTケース部材17の中空孔18の内部、即ちソレノイドコイル(S1,S2)の内部を直線移動する構成となっている。
【0031】
従って、本実施例においては、LVDTは、ボイスコイルの前側終端よりも前方領域の漏れ磁束の影響が最も小さい位置に内蔵されている。加えて、永久磁石14の前方終端には、軟磁性材料から成る磁性リング19が当接配置されており、LVDTへの磁性漏れの影響を抑制するものである。また更に、本実施例では、永久磁石14の長手方向の全長Lを100として、第1の磁石14Aと第2の磁石14Bとの分割比を35:65とし、第1の磁石14Aの長手方向長さ14Alを第2の磁石14Bの長手方向長さ14Blよりも小さくすることでLVDTへ向かう磁束密度を抑えた。なお、第1のコイル16Aと第2のコイル16Bの中心軸X方向の長さは、各コイルが対応する第1の磁石14Aと第2の磁石14Bがそれぞれ構成する磁束の範囲外にあるのは意味がないため、ボイスコイル(:ボビン15・コイル16)の有効ストローク長を考慮した最小の長さとする。
【0032】
また第1のコイル16Aと第2のコイル16Bとの間には、中心軸X方向にコイルが形成されていない間隔gが設けられている。この間隔gは、ボイスコイルの有効ストローク長Kに相当する。これは、図2の(a)のようにボビン15の前後方向のストロークにおいて、各コイル(16A,16B)が逆極性区間に入り込まないためである。即ち図2の(c)に示すように、例えば、ボビン15がストローク距離K/2だけ後退した際に、間隔gがない状態で第1のコイル16Aの後端部が第1の磁石14Aの後端位置を越えてしまうと、第1のコイル16Aの推力atに対して逆向きの推力rtが発生し、第2のコイル16Bの推力btとの総推力が低下してしまう。そこで、ボビン15の前記後退時に、図2(b)に示すように、第1のコイル16Aの後端部が第1の磁石14Aの後端位置を越えない設定として、図1(a)のストローク中立状態において、第1のコイル16Aは、その後端部が第1の磁石14Aの後端位置よりg/2の距離だけ前方に位置する長さとなっている。同様に、ボビン15がストローク距離K/2だけ前進した際に、第2のコイル16Bの前端部が第2の磁石14Bの前端位置を越えない設定として、ストローク中立状態において、第2のコイル16Bは、その前端部が第2の磁石14Bの前端位置よりg/2の距離だけ後方に位置する長さとなっている。結果として、第1のコイル16Aの後端部と第2のコイル16Bの前端部との間に間隔gが設けられる構成となっている。
【0033】
そこで、本実施例によるリニアモータ10における磁界分布を解析した。その解析結果を図4の(a)に示すと共に、対照として、同じ構成で磁性リング19が無い場合の磁界分布の解析結果を図4(b)に示す。これら磁界分布図は、紙面に向かって下方の楕円内がLVDT内蔵領域に相当する。
【0034】
なお、この磁界分布の解析は、解析ソフト:ANSYS Electoronics Desktop 2019 R2 Maxwell3D/Maxwell2D、を用いたシミュレーションにより行った。解析条件は、推力:コイルに働く軸方向の力を算出、境界条件:3Dは絶縁境界(Insulating)で2Dはバルーン(Ballon)、計算領域:座標中心からXYZ各方向へ解析モデルの2倍の広さ、とした。また、設定された各部材のパラメータの主なものは以下の通りである。
【0035】
まず、各部材の材質は、外装部材11とインナーヨーク12は快削純鉄(ME1F)、LVDTケース部材17はSUS、永久磁石14はネオジム磁石(N48H又はN48HT同等品)、コイル16は0.5mm径のポリエステル被覆導線(PEW)、磁性リング19は快削純鉄(ME1F)、からそれぞれ成るものとした。また本実施例においてボビン15はアルミニウム製とした。その他、合成樹脂、例えばガラス30%含有ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)製とすることもできる。なお、永久磁石14の内周には銅パイプ(C1100)が配されているものとする。
【0036】
また、永久磁石14の長手方向全長Lを100とした各部材の寸法比は、外装部材11の外径y1が:67.7、インナーヨーク12の外径y2が:38、永久磁石14の外径Mが:60、ボビン15・コイル16の外径Bが:50であり、磁性リング19は外径R1が:60、内径R2が:48で中心軸X方向の長さzが:4.3である。また、LVDTケース部材17の中心軸X方向におけるLVDT内蔵領域の距離y3が:41.3である。
【0037】
図4の(a)と(b)の結果から明らかなように、本実施例によるリニアモータ10においては、磁性リング19の存在によって、LVDT内蔵位置への磁束漏れが確実に抑制されている。
【0038】
ここで、図5に、比較例としての図3に示したリニアモータ20についての磁界分布の解析結果を、磁性リング19のある場合(a)と無い場合(b)とで示す。図3のリニアモータ20は、第1の磁石24Aと第2の磁石24Bとの永久磁石24の長手方向での分割比が50:50の二等分であること以外は図1のリニアモータ10と共通する構成を有する。従って、図3中、図1と共通する部分には同じ符号を付している。
【0039】
図5の解析結果から、磁性リング19によって、LVDT内蔵位置における漏れ磁束の抑制効果が若干見られる。さらに図4と比較すると、永久磁石の長手方向の分割比を第1の磁石を第2の磁石より短いものとすることで、磁性リング19の漏れ磁束抑制効果を大幅に向上させていることがわかる。
【0040】
また、本実施例のリニアモータ10におけるLVDT特性を図6の線グラフに示す。ここで、対照として、磁性リングが無い場合のLVDT特性を図7の線グラフに示す。各線グラフは、横軸のコアCのストローク距離(mm)に対して縦軸に出力値(V)をプロットしたものである。それぞれ、コイル16の通電状態(電流3A)と無通電状態とにおいてコアCを機械的移動させた場合の出力値をそれぞれ実線と破線とで示した。
【0041】
図7の磁性リング19無しの場合では、コアCの機械的移動量が同じでも、コイル通電時の漏れ磁束の影響によってLVDTの出力値にズレが生じているが、図6に示されるように、磁性リング19が配置された場合では、このようなズレがない。即ち、コイル16の通電状態(電流3A)と無通電状態とにおいてコアCの機械的移動量が同じであれば、LVDTの出力は一致しており、本実施例においては磁性リング19によってLVDTへの漏れ磁束の影響が抑制されていることがわかる。
【0042】
以上のように本実施例によるリニアモータ10によれば、永久磁石14に隣接する領域にLVDTを内蔵しても、軟磁性材料からなる磁性リング19を永久磁石14の終端に配置し、さらに永久磁石14の長手方向全長のうち、LVDT寄りの第1の磁石14Aが占める割合を第2の磁石14Bより適宜小さくすることによって、LVDTへの漏れ磁束の影響を良好に抑制できるため、ボイスコイルと弁本体との間に装置の大型化を招くようなLVDT配置用の大きな中間ブロックを設けることなく、LVDT内蔵のリニアモータの小型化と高推力化とを実現可能とする。
【0043】
なお、本発明のリニアモータの各部材は、上記実施例に用いた材質に限定されるものではなく、それぞれ同程度の特性を有するものであれば代替可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によるLVDT内蔵のリニアモータは、高応答性が求められる直動型サーボ弁の駆動部としてのみではなく、その他にも、高速駆動と高精度な位置決めが必要とされる各種精密微動機構へ組み込んで適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10,20,30:リニアモータ
11,31:外装部材
12,32:インナーヨーク
13,33:環状空間
14,24,34:永久磁石
14A,24A:第1の磁石
14B,24B:第2の磁石
14p:分割部分
15,35:ボビン
15P,35P:突出部
16,36:コイル
16A:第1のコイル
16B:第2のコイル
g:第1のコイルと第2のコイルとの間隔
K:有効ストローク長
at:第1のコイルの推力
rt:atと逆向きの推力
bt:第2のコイルの推力
17:LVDTケース部材
18:中空孔
19:磁性リング
S1:一次コイル
S2:二次コイル
C:コア
X:中心軸
L:永久磁石長手方向全長
14Al:第1の磁石の長手方向長さ
14Bl:第2の磁石の長手方向長さ
y1:外装部材の外径
y2:インナーヨークの外径
y3:LVDT内蔵領域の距離
M:永久磁石の外径
B:ボビンの外径
R1:磁性リングの外径
R2:磁性リングの内径
z:磁性リングの中心軸方向の長さ
40:スプール
50:弁本体
【要約】
【課題】上記問題点に鑑み、磁束漏れの影響を受けることなくLVDTを内蔵可能な小型高推力型のリニアモータの提供。
【解決手段】油圧装置の駆動部を往復駆動させるリニアモータにおいて、永久磁石が、長手方向で2つに分割された油圧装置近位側の第1の磁石と遠位側の第2の磁石とを備え、コイル線が互いに逆向きにボビンに巻回された第1のコイルと第2のコイルとを間隔を持て備え、インナーヨークの油圧装置側の端部に、第1の磁石の油圧装置寄り端部よりも前方領域にLVDTを構成するソレノイドコイルが内蔵されたLVDTケース部材が突設され、ボビンの円筒状本体の端縁から略コーン状に延在する突出部に該ボビンに伴って前記ソレノイドコイルの内部を直線移動するLVDTのコアが連結され、第1の磁石の油圧装置寄り端部に当接して配置された軟磁性材料から成る磁性リングを更に備えた。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8