(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】車両の還元剤解凍装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20230727BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230727BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
F01N3/36 D
(21)【出願番号】P 2019212360
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】山田 康雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 久美子
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017576(JP,A)
【文献】特開2010-007568(JP,A)
【文献】特開2003-287315(JP,A)
【文献】特開平09-220751(JP,A)
【文献】特開2001-317835(JP,A)
【文献】特開2014-196880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
F01N 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの排気ガス中の窒素酸化物を還元するための還元剤を貯留する還元剤タンクと、前記内燃機関の排気管に対して取り付けられて前記還元剤タンクからの還元剤を前記排気管内の排気ガス中に噴射する噴射弁とを有する車両の還元剤解凍装置であって、
前記内燃機関の冷却水が循環する冷却水循環流路から分岐して、前記噴射弁を通って前記冷却水循環流路へ戻る冷却水の第1冷却水流路と、
前記第1冷却水流路のうち前記噴射弁よりも上流側に設けられる分岐部から分岐して前記還元剤タンクを通って前記冷却水循環流路側へ戻る冷却水の第2冷却水流路と、
前記第2冷却水流路に設けられる開閉弁と、
前記第1冷却水流路のうち前記分岐部よりも下流側に設けられて、前記第1冷却水流路を部分的に縮径させるオリフィスと、を備え
、
前記オリフィスは、前記第1冷却水流路を部分的に縮径させる内径を有する筒状に形成され、前記第1冷却水流路のうち前記分岐部と前記噴射弁との間の領域を区画する管、または前記第1冷却水流路のうち前記噴射弁よりも下流側を区画する管の内部に挿入され、
前記オリフィスが挿入される前記管は、ゴム製のホースであり、
前記オリフィスは、前記ホースの内径よりも大きな外径を有する円筒状である
ことを特徴とする車両の還元剤解凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の還元剤解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、還元剤噴射装置の制御装置が記載されている。還元剤噴射装置は、エンジンの冷却水が循環可能に構成された第1の冷却水通路及び第2の冷却水通路を備える。第1の冷却水通路及び第2の冷却水通路は、エンジンに設けられたエンジン冷却装置の冷却通路から分岐して、再び冷却通路に合流する。第1の冷却水通路は貯蔵タンク及びポンプモジュールを通って配設される。第2の冷却水通路は噴射弁の周囲を通って配設される。第1の冷却水通路における、第2の冷却水通路の分岐箇所と貯蔵タンクとの間には開閉弁が設けられている。エンジンの始動後、第2の冷却水通路には常時冷却水が流れる。したがって、エンジンの運転中、高温の排気熱等により噴射弁が加熱される状態において、第2の冷却水通路に冷却水が流れ、噴射弁を冷却することができる。また、貯蔵タンク及びポンプモジュールに設けられた温度センサ、あるいは外気温度を検出する温度センサ等のセンサ値に基づいて尿素水溶液が凍結していると推定される場合には、開閉弁が開かれ、尿素水溶液の解凍制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、冷却水を圧送する冷却水ポンプの能力等によっては、開閉弁を開いて冷却水を貯蔵タンク(還元剤タンク)側へ流した際に、還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保できない場合がある。還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保するために冷却水用ポンプの能力を上げると、噴射弁側への冷却水の流量が多くなり過ぎてしまい噴射弁内冷却水流路を損傷させてしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、簡単な構造で噴射弁側への冷却水の流量を抑えつつ、還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保することが可能な還元剤解凍装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、内燃機関からの排気ガス中の窒素酸化物を還元するための還元剤を貯留する還元剤タンクと、前記内燃機関の排気管に対して取り付けられて前記還元剤タンクからの還元剤を前記排気管内の排気ガス中に噴射する噴射弁とを有する車両の還元剤解凍装置であって、冷却水の第1冷却水流路と冷却水の第2冷却水流路と開閉弁とオリフィスとを備える。第1冷却水流路は、内燃機関の冷却水が循環する冷却水循環流路から分岐して、噴射弁を通って冷却水循環流路へ戻る。第2冷却水流路は、第1冷却水流路のうち噴射弁よりも上流側に設けられる分岐部から分岐して還元剤タンクを通って冷却水循環流路側へ戻る。開閉弁は、第2冷却水流路に設けられる。オリフィスは、第1冷却水流路のうち分岐部よりも下流側に設けられて、第1冷却水流路を部分的に縮径させる。オリフィスは、第1冷却水流路を部分的に縮径させる内径を有する筒状に形成され、第1冷却水流路のうち分岐部と噴射弁との間の領域を区画する管、または第1冷却水流路のうち噴射弁よりも下流側を区画する管の内部に挿入される。オリフィスが挿入される上記管は、ゴム製のホースであり、オリフィスは、ホースの内径よりも大きな外径を有する円筒状である。
【0007】
上記構成では、還元剤タンク内の還元剤が凍結している場合に開閉弁を開放すると、冷却水循環流路側からの冷却水が分岐部を介して第2冷却水流路を流通する。第2冷却水流路は、還元剤タンクを通っているので、内燃機関の冷却水を利用して還元剤タンク内の還元剤を解凍することができる。
【0008】
また、第1冷却水流路のうち分岐部よりも下流側には、第1冷却水流路を部分的に縮径させるオリフィスが設けられる。このため、第1冷却水流路のうち分岐部よりも下流側の全域を縮径する場合とは異なり、第1冷却水流路を部分的に縮径させるオリフィスを設けるという簡単な構造で、噴射弁側への冷却水の流量を抑えることができ、還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保することができる。
【0010】
また、オリフィスは、筒状に形成され、第1冷却水流路を区画する管の内部に挿入される。このように、筒状のオリフィスを第1冷却水流路の管の内部に挿入するという簡易な構造で、噴射弁側への冷却水の流量を抑えて、還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、簡単な構造で噴射弁側への冷却水の流量を抑えつつ、還元剤タンク側への冷却水の流量を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の還元剤解凍装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る還元剤解凍装置10は、ディーゼルエンジン(内燃機関)2(以下、「エンジン2」という。)から排出される排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を還元浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction)システムを備える車両1に適用される。SCRシステムでは、液体還元剤(本実施形態では、尿素水)が加水分解されて生成されるアンモニアを用いて、排気ガス中のNOxを還元している。エンジン2に接続された排気管3には、排気ガス中のNOxを選択的に還元浄化するSCR触媒4が配設される。排気管3のうちSCR触媒4よりも排気上流側には、尿素水を排気管3の内部の排気流路5へ噴射するドージングバルブ(噴射弁)6が接続される。尿素水は、還元剤タンク7に貯留され、排気管3の内部の排気流路5へ尿素水を噴射する際に、サプライモジュール8によって吸引されてドージングバルブ6へ圧送され、エンジン2が停止してドージングバルブ6からの尿素水の噴射が停止した後、還元剤タンク7へ戻される。なお、
図1中の破線は、尿素水の流路を示す。
【0015】
車両1には、エンジン2の冷却水(以下、単に「冷却水」という。)を冷却するためのラジエータ(熱交換器)9が設けられ、エンジン2とラジエータ9との間には、冷却水を循環させる冷却水循環流路11が設けられる。冷却水は、冷却水循環流路11に設けられる冷却水ポンプ18によって圧送されて、冷却水循環流路11を循環する。
【0016】
還元剤解凍装置10は、エンジン2の冷却水をドージングバルブ6へ循環させるための第1冷却水流路12と、エンジン2の冷却水を還元剤タンク7へ循環させるための第2冷却水流路13と、第2冷却水流路13に設けられる開閉弁14と、第1冷却水流路12に設けられるオリフィス15とを備える。
【0017】
第1冷却水流路12は、エンジン2の冷却水を利用してドージングバルブ6を冷却するための冷却水の流路であって、冷却水循環流路11から分岐してドージングバルブ6を通って冷却水循環流路11へ戻るように配設される。第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも冷却水の流通方向の上流側(以下、単に「上流側」という。)には、分岐部16が設けられ、ドージングバルブ6よりも冷却水の流通方向の下流側(以下、単に「下流側」という。)には、合流部19が設けられる。第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも上流側及び下流側には、第1冷却水流路12を区画するゴム製のホース(管)17(
図2参照)が設けられる。
【0018】
第2冷却水流路13は、外気の低温時等に凍結した還元剤タンク7内の尿素水をエンジン2の冷却水を利用して解凍するための冷却水の流路であって、第1冷却水流路12の分岐部16から分岐して還元剤タンク7を通り、次にサプライモジュール8を通って冷却水循環流路11側(本実施形態では、第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも下流側の合流部19)へ戻るように配設される。第2冷却水流路13のうち、分岐部16と還元剤タンク7との間(還元剤タンク7よりも上流側)には、開閉弁14が設けられる。開閉弁14は、図示しない制御装置によって制御され、還元剤タンク7の尿素水の温度に応じて開弁及び閉弁が切り換えられる。開閉弁14は、還元剤タンク7の尿素水の温度に応じ、還元剤タンク7内の還元剤が凍結しない通常時には閉弁され、還元剤タンク7内の還元剤(尿素水)が凍結して還元剤を解凍する必要がある要解凍時には開弁される。冷却水は、開閉弁14が閉弁されているときには、第2冷却水流路13を流通せず、開閉弁14が開弁されているときには、第2冷却水流路13を流通する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、オリフィス15は、第1冷却水流路12のうち分岐部16よりも下流側且つ合流部19よりも上流側(本実施形態では、第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも下流側且つ合流部19よりも上流側)の領域に配置され、第1冷却水流路12を部分的に縮径させる。オリフィス15は、第1冷却水流路12を区画するゴム製のホース17の内径R1よりも僅かに大きな外径R2を有する円筒状に形成され、ホース17内に挿入される。オリフィス15の内径R3は、ホース17の内径R1よりも小さい。
【0020】
上記のように構成された還元剤解凍装置10では、還元剤タンク7内の尿素水が凍結して尿素水を解凍する必要がある要解凍時に開閉弁14が開弁されると、冷却水循環流路11からの冷却水が第1冷却水流路12の分岐部16から還元剤タンク7側へ流れてくる。このため、エンジン2の冷却水を利用して還元剤タンク7内の尿素水を解凍することができる。
【0021】
また、第1冷却水流路12のうち分岐部16よりも下流側には、第1冷却水流路12を部分的に縮径させるオリフィス15が設けられる。このため、第1冷却水流路12のうち分岐部16よりも下流側の全域(前記領域のホース17自体)を縮径する場合とは異なり、第1冷却水流路12を部分的に縮径させるオリフィス15を設けるという簡単な構造で、ドージングバルブ6側への冷却水の流量を抑えることができ、還元剤タンク7側への冷却水の流量を十分に確保することができる。このように、第1冷却水流路12にオリフィス15を設けない場合に比べ、還元剤タンク7側への冷却水の流量を十分に確保することができるので、還元剤タンク7内の尿素水の要解凍時に、還元剤タンク7内の尿素水を早期に解凍することができる。
【0022】
また、ホース17を切断して切断部の両側にフランジを設け、係るフランジ間にオリフィス板を挟む場合とは異なり、筒状のオリフィス15をホース17内に挿入するという簡易な構造で、ドージングバルブ6側への冷却水の流量を抑えて、還元剤タンク7側への冷却水の流量を十分に確保することができる。
【0023】
なお、本実施形態では、オリフィス15を、第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも下流側且つ合流部19よりも上流側に設けたが、これに限定されるものではなく、例えば、第1冷却水流路12のうち分岐部16よりも下流側且つドージングバルブ6よりも上流側に設けてもよい。
【0024】
また、本実施形態では、筒状のオリフィス15をホース17内に挿入したが、これに限定されるものではなく、例えば、ホース17を切断して切断部の両側にフランジを設け、係るフランジ間にオリフィス板(板状のオリフィス)を挟んでもよい。
【0025】
また、本実施形態では、第1冷却水流路12を、エンジン2とラジエータ9との間を循環させる冷却水循環流路11から分岐させたが、これに限定されるものではなく、エンジン2の冷却水が循環する流路(冷却水循環流路)であれば、他の冷却水循環流路(例えば、EGRクーラまたは水冷式インタークーラ等に循環する流路)から分岐させてもよい。
【0026】
また、本実施形態では、第1冷却水流路12の下流側を、エンジン2とラジエータ9との間の冷却水循環流路11に接続したが、これに限定されるものではなく、エンジン2の冷却水が循環する上記他の冷却水循環流路に接続してもよい。
【0027】
また、本実施形態では、第2冷却水流路13の下流側を、第1冷却水流路12のうちドージングバルブ6よりも下流側の合流部19に接続したが、これに限定されるものではなく、エンジン2とラジエータ9との間の冷却水循環流路11に接続してもよいし、或いは、エンジン2の冷却水が循環する上記他の冷却水循環流路に接続してもよい。すなわち、第2冷却水流路13の下流側は、エンジン2の冷却水が循環する冷却水循環流路側(エンジン2とラジエータ9との間の冷却水循環流路11を含む)へ戻るように配設されていればよい。
【0028】
また、本実施形態では、開閉弁14を、第2冷却水流路13のうち分岐部16と還元剤タンク7との間に設けたが、これに限定されるものではなく、第2冷却水流路13に設けていればよい。
【0029】
また、本実施形態では、還元剤タンク7内の還元剤が凍結しない通常時に、開閉弁14を閉弁し、還元剤を解凍する必要がある要解凍時に開弁したが、これに限定されるものではなく、要解凍時以外(例えば、通常時)に開弁することがあってもよい。
【0030】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本開示に係る還元剤解凍装置は、SCRシステムを有する車両に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1:車両
2:エンジン(内燃機関)
3:排気管
6:ドージングバルブ(噴射弁)
7:還元剤タンク
10:還元剤解凍装置
11:冷却水循環流路
12:第1冷却水流路
13:第2冷却水流路
14:開閉弁
15:オリフィス
16:分岐部
17:ホース(管)