(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】サージ防護素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01T 4/12 20060101AFI20230727BHJP
H01T 21/00 20060101ALI20230727BHJP
H01T 2/02 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H01T4/12 G
H01T21/00
H01T2/02 F
(21)【出願番号】P 2020014500
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】野本 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】中澤 弘実
(72)【発明者】
【氏名】酒井 信智
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 英一郎
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-301819(JP,A)
【文献】特開2004-179111(JP,A)
【文献】特開平7-183076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 4/12
H01T 21/00
H01T 2/02
H01T 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の端部を有する絶縁性基板と、
前記絶縁性基板上に放電間隙を介して対向配置され一対の前記端部まで延在した一対の放電電極と、
前記絶縁性基板上に接合されて前記絶縁性基板上に放電空間を形成する箱状の蓋体と、
一対の前記放電電極に導通した状態で前記絶縁性基板の一対の前記端部に形成された一対の端子電極とを備え、
前記放電電極が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層を有していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記放電電極が、前記導電性還元層の上下の少なくとも一方に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層を有していることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記導電性還元層が、12CaO・7Al
2O
3の還元層であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサージ防護素子において、
前記絶縁性基板上に前記放電間隙を介して対向配置され一対の前記端部まで延在した前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料で形成された一対の酸化物層を備え、
前記酸化物層のうち少なくとも前記放電間隙から前記端部まで延在した帯状領域が、前記導電性還元層であることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに一項に記載のサージ防護素子を製造する方法であって、
絶縁性基板上にアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を成膜し放電間隙を介して対向配置された一対の酸化物層を形成する酸化物層形成工程と、
前記酸化物層の少なくとも一部を還元させて導電性を有した導電性還元層を形成する導電性還元層形成工程とを有していることを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のサージ防護素子の製造方法において、
前記酸化物層形成工程の前又後に前記絶縁性基板上に前記酸化物層に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層を成膜する導電性材料層成膜工程を有し、
前記導電性還元層形成工程で前記導電性材料層のゲッター効果による還元作用により前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて前記導電性還元層を形成することを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のサージ防護素子の製造方法において、
加熱処理により前記絶縁性基板上に前記蓋体を接合して前記放電空間を形成する封止工程を有し、
前記導電性還元層形成工程が、前記加熱処理の熱により前記導電性材料層の還元作用で前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて前記導電性還元層を形成することを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のサージ防護素子の製造方法において、
前記導電性材料層を、Tiで形成することを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載のサージ防護素子の製造方法において、
前記絶縁性基板が、絶縁性酸化物で形成され、
前記導電性材料層成膜工程において、前記導電性材料層を前記絶縁性基板上に形成し、
前記酸化物層形成工程において、前記酸化物層を前記導電性材料層上に形成することを特徴とするサージ防護素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導雷や誘導サージ、静電気サージに起因した電流やノイズを吸収して電気機器、電子機器またはこれらの回路を保護するサージ防護素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子(サージアブソーバ)が接続されている。
【0003】
従来のサージ防護素子として、例えば特許文献1に記載されているように、アルミナ等の絶縁性基板の上面に放電間隙を介して一対の放電電極を対向配置させたチップ型サージアブソーバが知られている。例えば、
図3及び
図4に示すように、従来のサージ防護素子101では、放電間隙Gを挟んで、銀ペースト等による一対の主放電電極104と、一対のトリガ電極105とが設けられている。また、絶縁性基板2の上面には、放電間隙Gの周囲を囲って絶縁性基板2との間に放電空間を形成する箱状の蓋体3が設けられている。
なお、
図3は、
図4に示すB-B線に対応した位置におけるサージ防護素子101の断面を示したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のサージ防護素子では、トリガ電極として例えばBa-Al合金,Tiおよびその窒化物が用いられるが、放電開始電圧の低電圧化のために、より低い仕事関数かつ抵抗率の材料が要望されている。また、主放電電極として銀ペーストを採用した場合、マイグレーション起因による不良によって歩留まりが悪化する場合があった。
さらに、Ba-Al合金のような低仕事関数の材料は、一般的に反応性が高く、空気中で安定でないため、大気に曝露させないプロセスを構築したり、大気中で酸化されにくい材料を使用せねばならず、コスト的な問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、低電圧化が可能であると共に歩留まりの向上が可能なサージ防護素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、一対の端部を有する絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に放電間隙を介して対向配置され一対の前記端部まで延在した一対の放電電極と、前記絶縁性基板上に接合されて前記絶縁性基板上に放電空間を形成する箱状の蓋体と、一対の前記放電電極に導通した状態で前記絶縁性基板の一対の前記端部に形成された一対の端子電極とを備え、前記放電電極が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層を有していることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、放電電極が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層を有しているので、従来のBa-Al合金やTiよりも仕事関数及び抵抗を低くできる導電性還元層により、放電開始電圧の低電圧化を図ることができる。また、銀ペーストのようにマイグレーション起因による不良が生じ難く歩留まりの向上を図ることができる。特に、銀ペースト塗布工程が不要になり、プロセスの省略により製造コストを低減することができると共に小型化も可能になる。
なお、ガラスを含む蓋体や端子電極を採用した場合、導電性還元層が酸化物であるため、ガラスとの濡れ性が向上し、高い密着性及び密封性が得られる。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記放電電極が、前記導電性還元層の上下の少なくとも一方に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層を有していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電電極が、導電性還元層の上下の少なくとも一方に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層を有しているので、導電性還元層が成膜時に不十分な還元層であっても製造工程中の加熱時に導電性材料層による還元作用によって十分な還元層になる。また、金属等の導電性を有する導電性材料層が導電性還元層と共に放電電極としても機能する。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記導電性還元層が、12CaO・7Al2O3の還元層であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、導電性還元層が、12CaO・7Al2O3(いわゆるC12A7)の還元層であるので、安定で高い電気伝導を示すエレクトライド化したC12A7を得ることができる。
【0011】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記絶縁性基板上に前記放電間隙を介して対向配置され一対の前記端部まで延在した前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料で形成された一対の酸化物層を備え、前記酸化物層のうち少なくとも前記放電間隙から前記端部まで延在した帯状領域が、前記導電性還元層であることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、酸化物層のうち少なくとも放電間隙から端部まで延在した帯状領域が、導電性還元層であるので、酸化物層のうち放電間隙に臨んだ導電性還元層の先端がトリガ電極として機能すると共に、導電性還元層全体が主放電電極として機能する。また、導電性還元層の基端が絶縁性基板の端部で端子電極と良好に接続することができる。
【0012】
第5の発明に係るサージ防護素子の製造方法は、第1から第4の発明のいずれかのサージ防護素子を製造する方法であって、絶縁性基板上にアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を成膜し放電間隙を介して対向配置された一対の酸化物層を形成する酸化物層形成工程と、前記酸化物層の少なくとも一部を還元させて導電性を有した導電性還元層を形成する導電性還元層形成工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、酸化物層の少なくとも一部を還元させて導電性を有した導電性還元層を形成する導電性還元層形成工程とを有しているので、スパッタ等で成膜したアズデポ状態の酸化物層は高仕事関数かつ高抵抗率であるため、これを還元させることで低仕事関数かつ低抵抗率の導電性還元層を容易に得ることができる。
【0013】
第6の発明に係るサージ防護素子の製造方法は、第5の発明において、前記酸化物層形成工程の前又後に前記絶縁性基板上に前記酸化物層に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層を成膜する導電性材料層成膜工程を有し、前記導電性還元層形成工程で前記導電性材料層のゲッター効果による還元作用により前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて前記導電性還元層を形成することを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、導電性還元層形成工程で導電性材料層のゲッター効果による還元作用によりアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層を形成するので、導電性材料層に接した部分だけ還元させることができる。例えば、H2による還元プロセスでは酸化物層全体が還元されるが、導電性材料層のゲッター効果による還元作用を用いると、導電性材料層に接した所望の位置において導電性還元層を部分的に形成することができると共に、導電性材料層を電極としても兼用することができる。
【0014】
第7の発明に係るサージ防護素子の製造方法は、第6の発明において、加熱処理により前記絶縁性基板上に前記蓋体を接合して前記放電空間を形成する封止工程を有し、前記導電性還元層形成工程が、前記加熱処理の熱により前記導電性材料層の還元作用で前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて前記導電性還元層を形成することを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、導電性還元層形成工程が、封止工程の加熱処理の熱により導電性材料層の還元作用でアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層を形成するので、封止工程時に同時に還元ができ、H2等の還元性雰囲気を用いた還元処理等を別途行う必要がない。
また、導電性還元層を封止工程時の加熱で形成することができるため、反応性が高いアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を大気に曝露させないで還元させることも可能になる。
【0015】
第8の発明に係るサージ防護素子の製造方法は、第6又は第7の発明において、前記導電性材料層を、Tiで形成することを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、導電性材料層をTiで形成するので、蓋体の封止工程における高温下でTiのゲッター効果によりTiに接している酸化物層を還元して導電性還元層とすることができる。
【0016】
第9の発明に係るサージ防護素子の製造方法は、第6から第8の発明のいずれかにおいて、前記絶縁性基板が、絶縁性酸化物で形成され、前記導電性材料層成膜工程において、前記導電性材料層を前記絶縁性基板上に形成し、前記酸化物層形成工程において、前記酸化物層を前記導電性材料層上に形成することを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子の製造方法では、酸化物層形成工程において、酸化物層を導電性材料層上に形成するので、絶縁性酸化物で形成された絶縁性基板からの酸素によって酸化物層の還元が抑制されてしまうことを防止できる。例えば、アルミナの絶縁性基板上に酸化物層を直接形成し、その上にゲッター効果を有する導電性材料層を形成した場合、酸化物層を導電性材料層で還元しようとしても絶縁性基板のアルミナから酸素が供給されて還元が抑制されてしまう。これに対して、アルミナの絶縁性基板と酸化物層との間に導電性材料層を介在させると、アルミナの酸素が酸化物層に供給されることを、その間の導電性材料層で遮断することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子及びその製造方法によれば、放電電極が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層を有しているので、従来のBa-Al合金やTiよりも仕事関数及び抵抗を低くできる導電性還元層により、放電開始電圧の低電圧化を図ることができると共に歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子およびその製造方法の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本実施形態において、絶縁性基板上の酸化物層及び導電性還元層を示す平面図である。
【
図3】本発明に係るサージ防護素子およびその製造方法の従来例を示す断面図である。
【
図4】本発明の従来例において、絶縁性基板上の主放電電極及びトリガ電極を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るサージ防護素子およびその製造方法の一実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1及び
図2に示すように、一対の端部を有する絶縁性基板2と、絶縁性基板2上に放電間隙Gを介して対向配置され一対の前記端部まで延在した一対の放電電極4と、絶縁性基板2上に接合されて絶縁性基板2上に放電空間を形成する箱状の蓋体3と、一対の放電電極4に導通した状態で絶縁性基板2の一対の前記端部に形成された一対の端子電極5とを備えている。
なお、
図1は、
図2に示すA-A線に対応した位置におけるサージ防護素子1の断面を示したものである。
【0021】
上記放電電極4は、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層4aを有している。
上記アルミナ含有セメント材料は、カルシウム原子及びアルミニウム原子を含む非晶質酸化物である。
上記アルカリ金属酸化物材料としては、例えばNa2O,K2O,Cs2O,Rb2O等が採用可能である。
【0022】
また、放電電極4は、導電性還元層4aの上下の少なくとも一方に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層4bを有している。なお、本実施形態では、導電性材料層4bが導電性還元層4aの下に形成されている。
すなわち、放電電極4は、導電性還元層4aと、導電性材料層4bとで構成され、一対の放電電極4の基端が対応する端子電極5に接続され、一対の放電電極4の先端間が放電間隙Gとなっている。
【0023】
本実施形態の導電性還元層4aは、アルミナ含有セメント材料である12CaO・7Al2O3(いわゆるC12A7)の還元層である。この12CaO・7Al2O3(いわゆるC12A7)の還元層は、12CaO・7Al2O3を還元させてエレクトライド化した薄膜である。
また、本実施形態のサージ防護素子1は、絶縁性基板2上に放電間隙Gを介して対向配置され一対の前記端部まで延在した前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料で形成された一対の酸化物層6を備えている。
【0024】
上記酸化物層6のうち少なくとも放電間隙Gから前記端部まで延在した帯状領域は、前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元された導電性還元層4aとなっている。
すなわち、一対の酸化物層6は、絶縁性基板2上の放電間隙G以外の領域を覆って対向状態に形成され、そのうち中央に帯状の一対の導電性還元層4aが対向状態に形成されている。
【0025】
上記絶縁性基板2および蓋体3の原料となる絶縁性材料としては、絶縁性酸化物が採用され、例えば、アルミナ、コランダム、ムライト、コランダムムライト、またはこれらの混合物等が用いられる。本実施形態では、絶縁性基板2および蓋体3をアルミナで形成している。
上記導電性材料層4bは、上記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料に対して還元作用があり、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元して、より低い仕事関数の材料に還元可能な材料で形成されている。
上記導電性材料層4bは、例えばTi,Mn,Al,Si,Cr,Mg,V,Zr等で形成されている。本実施形態では、Tiの導電性材料層4bを採用している。
【0026】
また、上記端子電極5は、Agペースト等の導電性ペーストやNiメッキやはんだメッキ等により形成される。
なお、上記絶縁性基板2と蓋体5との間に形成された放電空間には、放電に好適な所定の放電制御ガスが満たされている。
上記放電制御ガスは、例えばHe、Ar、Ne、Xe、SF6、CO2、C3F8、C2F6、CF4、H2及びこれらの混合ガス等の不活性ガスである。
【0027】
本実施形態の酸化物層6は、カルシウム原子及びアルミニウム原子を含む非晶質酸化物であり、本実施形態では12CaO・7Al2O3(C12A7)が採用されている。
また、上記導電性還元層4aは、上記酸化物層6を還元したものであり、12CaO・7Al2O3の還元層、すなわち、エレクトライド化した層が採用されている。
なお、エレクトライドは、電子が陰イオンとなって形成されるイオン結晶であり、本実施形態の導電性還元層4aは、非晶質酸化物の12CaO・7Al2O3におけるフリー酸素イオンを活性マイナスイオンである電子に置き換えたものであり、高い電気伝導度を示す。
【0028】
本実施形態のサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まずグロー放電が放電間隙Gを介して互いに対向した導電性還元層4aの先端間でトリガされ、さらに放電が沿面放電の形態で進展して一対の導電性還元層4aの間でアーク放電が生じることにより、サージ電圧が吸収される。
【0029】
次に、本実施形態のサージ防護素子1の製造方法について説明する。
本実施形態のサージ防護素子1の製造方法は、絶縁性基板2上にアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を成膜し放電間隙Gを介して対向配置された一対の酸化物層6を形成する酸化物層形成工程と、酸化物層6の少なくとも一部を還元させて導電性還元層4aを形成する導電性還元層形成工程とを有している。
【0030】
また、本実施形態のサージ防護素子1の製造方法は、酸化物層形成工程の前又後に絶縁性基板2上に酸化物層6に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層4bを成膜する導電性材料層成膜工程を有している。
本実施形態では、酸化物層形成工程の前に導電性材料層4bを絶縁性基板2上に成膜している。
上記導電性還元層形成工程では、導電性材料層4bのゲッター効果による還元作用により前記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層4aとする。
【0031】
上記導電性材料層成膜工程では、導電性材料層4bを絶縁性基板2上に形成し、酸化物層形成工程では、酸化物層6を導電性材料層4b上に形成する。
例えば、まずアルミナの絶縁性基板2上にTiをスパッタリングにより成膜し、エッチング等によって中央に1本の帯状の導電性材料層4bをパターン形成する。
次に、絶縁性基板2上全体に導電性材料層4bを覆ってC12A7の非晶質酸化物をスパッタリングにより成膜し酸化物層6を形成する。
【0032】
この酸化物層6は、アズデポ状態では全体が還元されていない。
次に、放電間隙Gを形成するためにレーザカット工程により酸化物層6及び導電性材料層4bをその中央部でレーザにより所定の幅(例えば20~30μm)でカットして分断させることで、放電間隙Gを挟んだ一対の酸化物層6と一対の導電性材料層4bとを形成する。
【0033】
また、本実施形態の製造方法は、加熱処理により絶縁性基板2上に蓋体3を接合して放電空間を形成する封止工程を有している。
さらに、上記導電性還元層形成工程は、封止工程の加熱処理の熱により導電性材料層4bの還元作用で上記アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層4aとする。
すなわち、レーザカット工程後、絶縁性基板2上に蓋体3を接合させて封止工程を行うが、この際に例えば700~750℃で加熱処理することで蓋体3を接合させる。
【0034】
上記封止工程では、例えば蓋体3の下面にガラスペースト等の接着剤を塗布した状態で、上述した放電制御ガス雰囲気中において絶縁性基板2上に蓋体3を載置して加熱することで、蓋体3と絶縁性基板2とを接合すると共に内部に放電空間を気密状態で形成する。
この封止工程の加熱時に、Tiの導電性材料層4bに接した部分の酸化物層6が、Tiの導電性材料層4bのゲッター効果による還元され、一対の帯状の導電性還元層4aが形成される。
【0035】
上記封止工程後、例えばディッピング等によりAgペースト等の導電性ペーストを絶縁性基板2及び蓋体3の両端部に設けて、これを焼結し、さらにNiメッキ及びSnメッキを施すことにより端子電極5を形成する。
このようにして、本実施形態のサージ防護素子1が作製される。
【0036】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、放電電極4が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元されて導電性を有した導電性還元層4aを有しているので、従来のBa-Al合金やTiよりも仕事関数及び抵抗を低くできる導電性還元層4aにより、放電開始電圧の低電圧化を図ることができる。また、銀ペーストのようにマイグレーション起因による不良が生じ難く歩留まりの向上を図ることができる。
【0037】
特に、銀ペースト塗布工程が不要になり、プロセスの省略により製造コストを低減することができると共に小型化も可能になる。
なお、ガラスを含む蓋体3や端子電極5を採用した場合、導電性還元層4aが酸化物であるため、ガラスとの濡れ性が向上し、高い密着性及び密封性が得られる。
【0038】
また、放電電極4が、導電性還元層4aの上下の少なくとも一方に接してゲッター効果による還元作用を有する導電性材料層4bを有しているので、導電性還元層4aが成膜時に不十分な還元層であっても製造工程中の加熱時に導電性材料層4bによる還元作用によって十分な還元層になる。また、金属であり導電性を有する導電性材料層4bが導電性還元層4aと共に放電電極4としても機能する。
【0039】
また、導電性還元層4aが、12CaO・7Al2O3(いわゆるC12A7)の還元層であるので、安定で高い電気伝導を示すエレクトライド化したC12A7を得ることができる。
さらに、酸化物層6のうち少なくとも放電間隙Gから端部まで延在した帯状領域が、アルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料が還元された導電性還元層4aであるので、酸化物層のうち放電間隙Gに臨んだ導電性還元層4aの先端がトリガ電極として機能すると共に、導電性還元層4a全体が主放電電極として機能する。また、導電性還元層4aの基端が絶縁性基板2の端部で端子電極5と良好に接続することができる。
【0040】
本実施形態のサージ防護素子1の製造方法では、酸化物層6の少なくとも一部を還元させて導電性を有した導電性還元層4aを形成する導電性還元層形成工程を有しているので、スパッタ等で成膜したアズデポ状態の酸化物層6は高仕事関数かつ高抵抗率であるため、これを還元させることで低仕事関数かつ低抵抗率の導電性還元層4aを容易に得ることができる。
【0041】
また、導電性還元層形成工程で導電性材料層4bのゲッター効果による還元作用によりアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層4aを形成するので、導電性材料層4bに接した部分だけ還元することができる。例えば、H2による還元プロセスでは酸化物層6全体が還元されるが、導電性材料層4bのゲッター効果による還元作用を用いると、導電性材料層4bに接した所望の位置において導電性還元層4aを部分的に形成することができると共に、導電性材料層4bを電極としても兼用することができる。
【0042】
特に、導電性還元層形成工程が、封止工程の加熱処理の熱により導電性材料層4bの還元作用でアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を還元させて導電性還元層4aを形成するので、封止工程時に同時に還元でき、H2等の還元性雰囲気を用いた還元処理等を別途行う必要がない。
また、導電性還元層4aを封止工程時の加熱で形成することができるため、反応性が高いアルミナ含有セメント材料又はアルカリ金属酸化物材料を大気に曝露させないで還元させることも可能になる。
【0043】
さらに、酸化物層形成工程において、酸化物層6を導電性材料層4b上に形成するので、アルミナ等の絶縁性酸化物で形成された絶縁性基板2からの酸素によって酸化物層6の還元が抑制されてしまうことを防止できる。
本実施形態では、アルミナの絶縁性基板2と酸化物層6との間に導電性材料層4bを介在させているので、アルミナの酸素が酸化物層6に供給されることを、その間の導電性材料層4bで遮断することができる。
【実施例】
【0044】
本実施形態のサージ防護素子1と
図3及び
図4に示す従来のサージ防護素子101とを作製し、放電開始電圧を比較した。
なお、従来のサージ防護素子101は、トリガ電極105を本実施形態のサージ防護素子1の導電性材料層4bと同じTiで形成し、同じガス封入圧力に設定した。
この結果、従来のサージ防護素子101に比べて本実施形態のサージ防護素子1は、100V以上大幅に低下した放電開始電圧(Vs)が得られた。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述したように、導電性材料層が導電性還元層の下に形成されることが好ましいが、導電性材料層を導電性還元層の上に形成しても構わない。この場合、絶縁性基板は、酸化物でないことが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1,101…サージ防護素子、2…絶縁性基板、3…蓋体、4…放電電極、4a…導電性還元層、4b…導電性材料層、5…端子電極、6…酸化物層、G…放電間隙