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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】モニタリング装置及びモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20230727BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G01N21/47 B
G01N21/27 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019029056
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020134347
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和樹
(72)【発明者】
【氏名】神田 淳
(72)【発明者】
【氏名】舘山 一孝
(72)【発明者】
【氏名】原田 康浩
(72)【発明者】
【氏名】大前 宏和
(72)【発明者】
【氏名】三宅 俊子
(72)【発明者】
【氏名】山口 悟
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-500534(JP,A)
【文献】特開2017-165410(JP,A)
【文献】特開2015-148600(JP,A)
【文献】特開2016-170069(JP,A)
【文献】特開2006-242891(JP,A)
【文献】特開2015-001379(JP,A)
【文献】特開2015-038516(JP,A)
【文献】特開2008-077349(JP,A)
【文献】特開2005-266014(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086070(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0050270(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径の異なる物が多層化又は混合物化した堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測する観測部と、
前記観測部の観測結果から、前記応答特性としてピーク輝度及び散乱光の総光量を得て、前記ピーク輝度と前記散乱光の総光量との相関関係に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物のそれぞれの粒径を推定する推定部と
を具備するモニタリング装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記ピーク輝度と前記散乱光の総光量のデータから得られる、前記ピーク輝度と前記散乱光の総光量をそれぞれ座標軸とし前記物のそれぞれの粒径に応じた散布を示す散布図と前記ピーク輝度と前記散乱光の総光量との相関関係との関係から、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物のそれぞれの粒径を推定する
請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測する観測部と、
前記観測部の観測結果から、第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、第2の性質の電磁波に対する前記応答特性、第1の種類の前記応答特性及び第2の種類の応答特性のうち少なくとも2つを得て、得られた少なくとも2つの前記応答特性に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物の状態を推定する推定部とを具備し、
前記推定部は、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態と前記観測部から得られる少なくとも2つの前記応答特性との相関を示す2つ以上の式に、前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性を代入し、これらの式を連立させて解くことで、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物のそれぞれの状態を推定する
モニタリング装置。
【請求項4】
粒径の異なる物が多層化又は混合物化した堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測し、
前記観測結果から、前記応答特性としてピーク輝度及び散乱光の総光量を得て、前記ピーク輝度と前記散乱光の総光量との相関関係に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物のそれぞれの粒径を推定する
モニタリング方法。
【請求項5】
堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測する第1のステップと、
前記観測結果から、第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、第2の性質の電磁波に対する前記応答特性、第1の種類の前記応答特性及び第2の種類の応答特性のうち少なくとも2つを得て、得られた少なくとも2つの前記応答特性に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物の状態を推定する第2のステップとを具備し、
前記第2のステップは、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態と前記第1のステップから得られる少なくとも2つの前記応答特性との相関を示す2つ以上の式に、前記第1のステップから得られた少なくとも2つの前記応答特性を代入し、これらの式を連立させて解くことで、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物のそれぞれの状態を推定する
モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば路面や構造物の多層化又は混合物化した堆積物の状態をモニタリングするモニタリング装置及びモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路面や滑走路面の着雪状態や着氷状態をモニタリングすることは、安全管理上重要である。特許文献1及び2には、透過電磁波や散乱電磁波を利用して積雪した雪の深さや質などをモニタリングする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-001379号公報
【文献】特開2016-170069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載された技術は、雪などの堆積物一層をモニタリングの対象としているが、実際には一層のみならず異なる種類の雪、或いは雪に加えて氷膜などの複数種類の堆積物が多層化する場合がある。また、積雪中に水や泥が混入するように、一層の場合でも複数種類の物質が混在している場合もある。実運用を想定すればモニタリング装置がそのような堆積物が多層化又は混合物化したケースに対応することは重要である。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、多層化又は混合物化した堆積物の状態をモニタリングすることができるモニタリング装置及びモニタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るモニタリング装置は、堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測する観測部と、 前記観測部の観測結果から、第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、第2の性質の電磁波に対する前記応答特性、第1の種類の前記応答特性及び第2の種類の応答特性のうち少なくとも2つを得て、得られた少なくとも2つの前記応答特性に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物の状態を推定する推定部とを具備する。
典型的には、前記第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、前記第2の性質の電磁波に対する前記応答特性は、波長の異なる二種類のレーザ光や偏光の異なるレーザ光の照射による応答特性であり、また、異なる種類の応答特性である散乱光の「総光量」及び「ピーク輝度」の応答特性である。
【0007】
本発明の一形態に係るモニタリング装置では、典型的には、多層化又は混合物化した堆積物においてn個の未知のパラメータ、すなわち堆積物を構成する複数の物の状態を推定するため、観測部から被測定物としての堆積物からの電磁気学的な応答特性(例えば、光散乱強度や光透過強度等)を得る。ここで、nは自然数とする。次に、観測部での電磁波の性質(例えば、電磁波の波長や偏光等)を変更する、或いは応答特性の種類(例えば、光散乱強度、光透過強度等)を変更する、またはその両方を行い、n個のパラメータを推定するために必要な測定量としての少なくとも2つの応答特性を得る。次に、少なくとも2つの応答特性に基づき多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定する。
【0008】
本発明の一形態に係るモニタリング装置では、前記推定部は、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態と少なくとも2つの前記応答特性との関係のデータから得られる、前記応答特性を座標軸とし前記物の状態の散布を示す散布図と前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性との関係から、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定してもよい。
【0009】
本発明の一形態に係るモニタリング装置では、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態と第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、第2の性質の電磁波に対する前記応答特性との関係のデータを蓄積する記憶部を有し、前記推定部は、前記記憶部に蓄積されたデータの前記応答特性と前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性とのパターンマッチングにより、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定してもよい。パターンマッチングの態様としては、前記推定部が、前記記憶部に蓄積されたデータの前記応答特性としての二次元散乱画像と前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性としての二次元散乱画像とのパターンマッチングにより、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定してもよく、
前記推定部が、前記記憶部に蓄積されたデータの前記応答特性としての二次元散乱画像から得られる特徴量と前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性としての二次元散乱画像から得られる特徴量とのパターンマッチングにより、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定してもよい。
【0010】
本発明の一形態に係るモニタリング装置では、前記推定部は、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態と前記観測部から得られる少なくとも2つの前記応答特性との相関を示す2つ以上の式に、前記観測部から得られた少なくとも2つの前記応答特性を代入し、これらの式を連立させて解くことで、前記多層化又は混合物化した堆積物を構成する複数の物の状態を推定してもよい。
【0011】
本発明の一形態に係るモニタリング方法は、堆積物に電磁波を照射し、前記堆積物から得られる前記電磁波の応答特性を観測し、前記観測結果から、第1の性質の電磁波に対する前記応答特性、第2の性質の電磁波に対する前記応答特性、第1の種類の前記応答特性及び第2の種類の応答特性のうち少なくとも2つを得て、得られた少なくとも2つの前記応答特性に基づき、多層化又は混合物化した前記堆積物を構成する複数の物の状態を推定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、多層化又は混合物化した堆積物の状態をモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るモニタリング装置の構成を示す図である。
図2】本発明者らが多層化した堆積物をモニタリングできることを示すために行った実験の装置構成を示す図である。
図3】2次元光散乱強度分布の観測結果を示す画像データである。
図4図3に示した2次元光散乱画像から作成した「総光量」及び「ピーク輝度」をそれぞれ座標軸とする散布図の例を示す図である。(a)は「総光量」及び「ピーク輝度」を指標にとった場合の散布図及び下層の粒径の分類であり、(b)は(a)において同測定条件に対しては平均値をとり標準偏差を加えた場合の散布図と上層・下層の粒径の分類である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る散布図の一例を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態に係るモニタリング装置の推定処理を説明するための図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係るモニタリング装置の別の推定処理を説明するための図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係るモニタリング装置の記憶部に蓄積されたデータを示す図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係るモニタリング装置の推定処理を説明するための図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係るモニタリング装置の別の推定処理を説明するための図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係るモニタリング装置の推定処理を説明するための図である。
図12】本発明の第3の実施形態に係るモニタリング装置において2つの測定量で十分なケースを示すグラフである。
図13】本発明の第3の実施形態に係るモニタリング装置において2つの測定量では解が複数存在し不十分なケースを示すグラフである。
図14】本発明の第3の実施形態に係るモニタリング装置において2つの測定量では解が存在せず不十分なケースを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
<第1の実施形態>
【0016】
(モニタリング装置の構成)
図1は第1の実施形態に係るモニタリング装置の構成を示す図である。
図1に示すように、モニタリング装置1は、観測部10と、記憶部20と、推定部30と、表示部40とを有する。
観測部10は、送信ユニット11と、受信ユニット12と、制御部13とを有し、例えば送信ユニット11及び受信ユニット12は、筐体50内に配置される。
【0017】
筐体50の上部には、透明部材からなる窓部51を有する。堆積物2は、筐体50の上部に堆積する。モニタリング装置1は、典型的には、路面や滑走路の下に埋め込まれ、窓部51が路面や滑走路と同一の面にあり、路面や滑走路に積雪した雪などの堆積物2をモニタリングする。
【0018】
送信ユニット11は、窓部51を介して堆積物2に向けて電磁波としてレーザ光を送信するレーザ光源を有する。送信ユニット11は、例えば、波長の異なる二種類のレーザ光や偏光の異なるレーザ光を照射するように構成されている。
受信ユニット12は、窓部51を介して堆積物2で散乱したレーザ光の散乱光を受光する。受信ユニット12は、堆積物2で散乱した散乱光を受光するためのCCD(Charge Coupled Device)からなる二次元光学センサを有する。受信ユニット12は、特定の波長を受光し、特定の偏光したレーザ光を受光するためのフィルタなどを有する。
制御部13は、送信ユニット11よりレーザ光を送信させ、受信ユニット12に当該レーザ光に対する散乱光を受信させる。制御部13は、例えば、送信ユニット11より例えば波長の異なる二種類のレーザ光や偏光の異なるレーザ光を照射するように制御する。また、制御部13は、例えば、受信ユニット12が特定の波長を受光し、特定の偏光したレーザ光を受光するように制御する。
なお、後述する応答特性としての、例えば「総光量」と「ピーク輝度」は、観測部10において取得してもよいが、推定部30において受信ユニット12からのデータを基に取得してもよい。
【0019】
記憶部20は、後述する正解データ群を記憶する。
【0020】
推定部30は、正解データ群から散布図を作成し、散布図から堆積物2の未知のパラメータを推定する。
なお、推定部30が正解データか群ら散布図を作成しているが、記憶部20が散布図を予め記憶していてもよい。
【0021】
表示部40は、推定部30による推定結果を表示する。
【0022】
(実験結果)
ここで、本発明者らが多層化した堆積物をモニタリングできることを示すために行った実験結果を示す。
【0023】
まず、図2に示すように粒径の異なる雪のサンプルを用いて二層の堆積物2を作成し、試作した観測部10によって二次元光散乱画像を取得した。厚さを統一させた一層のデータと二層のデータを比較した。第1の実施形態では2次元光散乱画像から粒径の推定のプロセスを定量的に評価してはいないが、2つの異なる種類の応答特性である散乱光の「総光量」及び「ピーク輝度」による粒径の推定の可能性を、「総光量」及び「ピーク輝度」をそれぞれ座標軸とする散布図を用いて考察した。
散乱光の「総光量」とは、典型的には、2次元光散乱画像全体の光量の総計であり、散乱光の「ピーク輝度」とは、典型的には、2次元光散乱画像内で観測される最も大きな輝度である。
【0024】
実験は-5℃に調温された実験室内で行った。透過部材101(窓部51に相当)が底面に付属した厚さ5mmの観測試料ケース102及び二層化のため厚さ5mmの外枠103を準備した。観測試料ケース102と外枠103を組み合わせることで厚さ10mmの二層観測試料ケース100を作成した。サンプルとして粒径の異なる雪A(粒径0.5mm以下)及び雪B(粒径2.0-2.8mm)を準備し、それらの組み合わせを変えて4通りの二層化雪サンプル110を作成した。二層化雪サンプル110は、観測試料ケース102に下層(透過部材101に近い側)の雪を詰めて厚さを均一にならしたのちに、外枠103を観測試料ケース102にはめ、そこに上層の雪を詰めて厚さを均一にならすことで作成した。
【0025】
二層雪の観測には観測部10を用いた。レーザ光源を有する送信ユニット11を用いて、透過部材101の下部から二層化雪サンプル110に向けて斜めに照射した。その散乱波を透過部材101の下部に鉛直に設置された受信ユニット12によって検知した。受信ユニット12としてはCMOSカメラが用い、二層化雪サンプル110からの散乱波を二次元光散乱分布として検出した。
【0026】
この構成により取得した4通りの二層化雪サンプル110からの2次元光散乱強度分布の観測結果が図3に示すとおりである。ここでは、送信ユニット11のレーザ光源において異なる二つの波長λ、λを用いて2次元光散乱強度分布を取得している。
図3における例えばA-Bという表示は上層が雪Aであり下層が雪Bであるということに対応している。下層が送信ユニット11及び受信ユニット12に近い側と定義される。粒径の違いにより散乱波の量や角度が異なるために、2次元光散乱パターンが変化していることがわかる。先行研究などでは粒径が大きいほど光散乱強度が減少するということが知られており、その傾向に従った観測結果が得られると予想した。実際の観測結果では、下層の状態により光散乱強度が支配的に変化し、粒径が大きい雪ほど光散乱強度は減少していることがわかった。
また、図3において同一の下層の状態においても上層の状態が変化すれば光散乱強度が変化していることがわかり、同じく粒径が大きいほど光散乱強度は減少していた。例えば、A-Bの方がB-Bに比べて光散乱強度が大きくなっていることから、上層の粒径に応じて光散乱強度量が変化していることがわかる。
従って、応答特性の種類(例えば「総光量」と「ピーク輝度」)を変えて、或いは電磁波であるレーザ光の性質(例えば異なる二つの波長λ、λ)を変えてデータを取得し、パターンマッチングなどにかけることで、2層の状態を推定できる、と予想される。
【0027】
次に、2次元光散乱画像から2つ種類の異なる応答特性(「総光量」と「ピーク輝度」)の観測量を得て、それを相対的に他の層状態と比較することで、「総光量」及び「ピーク輝度」をそれぞれ座標軸とする散布図を用いて上層・下層の粒径を推定できることを説明する。
図3に示したような波長λ1における4通りの2次元光散乱画像から「総光量」及び「ピーク輝度」をそれぞれ座標軸とする散布図を作成した。その結果を図4(a)に示す。ここでは、4通りの2層状態各々に対して3回測定を行ったためデータ点は12個となっており、データの最大値に対してすべてのデータが規格化されている。図4(a)にも示したとおり、下層状態の変化は「ピーク輝度」及び「総光量」双方に大きく依存するため、散布図上にある閾値を設けたグルーピングによって下層の粒径は把握することが可能である。傾向としては粒径の減少に伴い光散乱強度は単調増加するために、「ピーク輝度」及び「総光量」は単調増加する。図4(a)の測定値にばらつきや外れ値が混じっているために、まず同条件の測定に関しては平均及び標準偏差を導出して、改めて図4(b)に示すようにプロットした。図4(b)より下層の変化ほど顕著ではないものの、上層の粒径の状態に光散乱が影響しており、粒径の減少に伴い「ピーク輝度」及び「総光量」は単調増加している傾向がわかる。これによって上層も同様にグルーピング可能であると考えられる。また、複数の物の状態の一形態としての多層化した堆積物の各層の状態をモニタリングするために、2つの応答特性として「ピーク輝度」及び「総光量」を用いて検討したが、電磁波であるレーザ光の性質(例えば異なる二つの波長λ、λ)を変えて、各波長λ、λのそれぞれの応答特性である例えばピーク輝度等について、波長λのピーク輝度と波長λのピーク輝度とを座標軸とする散布図を作成することによって上層・下層の粒径の推定も可能であると考えられる。すなわち、異なる性質の電磁波(例えば異なる二つの波長λ、λ)に対する複数の応答特性又は異なる種類の複数の応答特性(例えば「ピーク輝度」と「総光量」)のうち少なくとも一方を得て、得られた少なくとも2つの応答特性に基づき堆積物を構成する複数の物の状態を推定することは可能であると考えられる。
【0028】
(モニタリング装置の推定処理)
本実施形態に係るモニタリング装置1は以下のとおり推定処理を実行する。
【0029】
記憶部20は、例えば図5に示す散布図を構成するための正解データ群を予め記憶しておく。図5に示す散布図は例えば図4(a)に示した「ピーク輝度」I1と「総光量」I2とをそれぞれ座標軸とし、様々な条件(例えば、雪の粒径や深さなど)で測定した結果、つまり正解データがプロットされている。
【0030】
推定部30は、記憶部20から正解データ群を得て、図5に示す散布図を作成し、図6に示すように、「ピーク輝度」の測定量I及び「総光量」の測定量Iをもとにして、散布図におけるもっともらしい領域から、2つの未知パラメータ、ここでは上下層の各粒径(x,y)を推定する。
【0031】
以上の説明は、二つの未知のパラメータである下層の粒径及び上層の粒径に対する正解データとして「ピーク輝度」と「総光量」とをそれぞれ座標軸とする散布図を例示したが、本実施形態に係るモニタリング装置1は、更に以下のような構成を採用してもよい。
【0032】
図7に示すように、記憶部20は、様々なパラメータ(x,y)、(x,y)、・・・に対する様々な正解データ群を記憶されている。例えば、測定条件1として波長1、測定条件2として波長2、測定条件3として偏光・・・があり、各測定条件1,2・・・に対して測定量群(「ピーク輝度」、「総光量」、「歪度」・・・)が記憶されている。
【0033】
推定部30は、測定条件及び測定量の項目に基づき記憶部20から正解データ群を得て、散布図を作成し、その測定条件での測定量I及び測定量Iをもとにして、散布図におけるもっともらしい領域から、2つの未知パラメータ(x,y)に対する正解値を推定する。
【0034】
以上のように、第1の実施形態に係るモニタリング装置1では、観測部10で様々な測定条件に対する応答特性、すなわち異なる性質の電磁波(ここではレーザ光)に対する複数の応答特性や異なる種類の複数の応答特性を得る。次に、推定部30においてそれぞれに対応する散布図を作成し、そこから未知のパラメータを推定する。これにより、路面や滑走路等に多層化した堆積物2の各層の状態、例えば各層を構成する大きさ(例えば、体積や面積、厚さなど)、堆積物2の物性(例えば、粒径や形など)や堆積物2を構成する物の種類(例えば、雪・氷・水・泥・火山灰など)等をモニタリングすることができる。
【0035】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、散布図を用いて未知のパラメータを推定していたが、第2の実施形態では、パターンマッチングにより未知のパラメータを推定する。
【0036】
第2の実施形態に係るモニタリング装置1では、測定したい2つの未知のパラメータ(x,y)の様々な組み合わせに対して、ある測定条件におけるデータを取得する。例えば、粒径の異なる二層の雪の堆積物2の様々な粒径の組み合わせに対するある波長の二次元散乱画像(図3参照)をそれぞれ取得し、これを正解として学習させてデータセットを記憶部20に蓄積させる。これにより、記憶部20は、図8に示すように、例えば粒径の組み合わせ((x,y)、(x,y)、・・・)に対する複数の波長(λ、λ・・・)の各二次元散乱画像を記憶する。
【0037】
推定部30は、図9に示すように、2つのある測定条件、例えば測定条件として波長λ、λにおいてそれぞれ2つのデータである2つの二次元散乱画像を得たとき、それを機械学習器(例えば画像識別によるパターンマッチング)などにより未知のパラメータ(x,y)を同定する。
【0038】
本実施形態に係るモニタリング装置1では、二次元散乱画像などのデータから求められる特徴量、例えばピーク輝度、尖度、総光量などを基にして同定してもよい。
例えば、図8に示したように、記憶部20は、正解値のデータとして特徴量のテーブル、例えば(x,y)、(x,y)、・・・に対する各波長(λ、λ・・・)の二次元散乱画像から得られる特徴量、例えばピーク輝度、尖度、総光量を予め記憶しておく。
【0039】
推定部30は、図10に示すように、1つの測定条件、例えば波長λで得られた1つの二次元散乱画像から特徴量として例えばピーク輝度、尖度及び総光量を得て、上記のテーブルと特徴量とのマッチングからもっともらしい未知パラメータを推定する。
【0040】
以上のように、第2の実施形態に係るモニタリング装置1においては、パターンマッチングにより多層化した堆積物2の各層の状態をモニタリングすることができる。
【0041】
<第3の実施形態>
測定したいパラメータと測定量との関係式や理論式が既知である場合には、連立方程式的解法によって測定したいパラメータである未知のパラメータ(x,y)を推定することが可能である。
【0042】
第3の実施形態に係るモニタリング装置1は、連立方程式的解法によって未知のパラメータを推定する。上記のとおり、連立方程式的解法による2つの未知パラメータ(x,y)の推定には少なくとも2つの測定量I1、I2が必要である。また、未知のパラメータと測定量との関係式や理論式が既知であることが条件である。
【0043】
記憶部20は、未知のパラメータ(x,y)と測定量I1、I2との関係式又は理論式である、
I1=f(x,y)
I2=g(x,y)
を記憶する。
【0044】
推定部30は、図11に示すように、観測部10より得た観測結果から測定量I1、I2、例えば波長λに対するピーク輝度及び波長λに対するピーク輝度を得て、それらの測定量I1、I2それぞれに対して未知のパラメータ(x,y)とする上記の関数f、gを連立させて解くことで、未知のパラメータ(x,y)を推定する。
【0045】
ここで、図12に示すように、関数f、gがx-y座標上の一点で交差する場合には、推定される(x,y)が一意に決まるが、推定される(x,y)が一意に決まらないケース(図13参照)や解が存在しないケース(図14参照)が考えられる。これらは測定量が2つでは推定しきれないとされるケースである。
これらの場合には、以下の手法を採用すればよい。
・得られた結果から一番もっともらしい推定値を選ぶ。
・測定量を増やし推定値を追い込む。
・測定量I1又はI2を棄却して新しい測定量を採用し、再度連立させて推定する。
【0046】
以上のように、第3の実施形態に係るモニタリング装置1においては、連立方程式的解法により多層化した堆積物2の各層の状態、例えば上下の各層の粒径、上下の各層の厚さ等をモニタリングすることができる。
【0047】
<その他>
本発明は上記の実施形態には限定されず、本発明の技術思想の範囲内で変形や応用をして実施することが可能であり、その実施の範囲も本発明の技術的範囲に属する。
【0048】
例えば、上記の実施形態では、散布図、パターンマッチング又は連立方程式的解法のいずれかの手法により多層化した堆積物の各層の状態を推定してモニタリングしていたが、本発明に係るモニタリング装置は、散布図、パターンマッチング、連立方程式的解法等の手法のうち複数の手法を実現する構成を有し、未知パラメータや測定量等の所定の条件に応じていずれかの手法を選択する手段を有していてもよい。また、本発明に係るモニタリング装置は、散布図、パターンマッチング、連立方程式的解法等の手法のうち複数の手法を実現する構成を有し、各手法から推定値を得て、例えば推定値からもっともらしい値を選択する手段、或いは各手法から推定値を得て、複数の推定値から例えば統計的手法により唯一の又は幅のある推定値を得てもよい。
【0049】
上記の実施形態では、測定条件として波長や偏光、測定量としてピーク輝度、総光量、歪度を例示したが、本発明では他の測定条件や他の測定量を用いてもよい。例えば、送信ユニット11又は受信ユニット12の位置又は姿勢を変化させることで、レーザ光の照射角、照射位置、入射角、入射位置などを変更し、少なくとも2つの応答特性を得るように構成してもよい。
【0050】
上記の実施形態では、多層化した堆積物の各層の状態をモニタリングしていたが、本発明に係るモニタリング装置は、一層に複数種類の物質が混在している状態であっても複数種類の各物質の状態をモニタリングすることができる。本発明に係るモニタリング装置は、例えば雪の中に泥が混在している場合に、雪の質や泥の量等をモニタリングすることができる。本発明に係るモニタリング装置は、多層化した堆積物の各層の状態をモニタリングし、且つ、各層の複数種類の各物質の状態をモニタリングするように構成してもよい。
【0051】
上記の実施形態では、表示部40が推定部30による推定結果を表示するものであったが、本発明に係るモニタリング装置は、推定部30による推定結果から所定の物理量に換算する手段を有し、その換算された物理量を表示部40に表示するようにしてもよい。所定の物理量とは、例えば堆積物2の質やの摩擦係数等がある。
【0052】
上記の実施形態では、電磁波としてレーザ光を用いていたが、本発明は、レーザ光に限定されず、電磁波であればいかなるものであってもよい。
【0053】
上記の実施形態では、送信ユニット11から堆積物2に向けて電磁波を送信し、受信ユニット12により堆積物2で反射して散乱した散乱光を受光するように構成したが、送信ユニット11から堆積物2に向けて電磁波を送信し、堆積物2を透過した散乱光を受信ユニット12により受光するように構成してもよい。
【0054】
本発明は、交通分野における道路管理や航空分野における滑走路管理等に応用することができる。
本発明を道路管理に応用することで、路面堆積物の時間経過による多層化(雪質の異なる雪の堆積・氷膜上への雪の堆積等)および混合物化(降雨による水の混入、火山灰・泥などの混入)を検知及び把握することが可能になる。それにより、堆積物表面を観測しただけではわからないような多層化・混合化状態の情報を用いて正確な路面の滑りやすさ把握などに役立てることができ、効率的な道路管理が可能になる。
また、本発明は航空分野における空港滑走路面の積雪・水・砂・火山灰の多層化・混合化状態の把握においても有効である。滑走路面の滑りやすさなどの状態のリアルタイム把握が、航空機の離着陸可否、滑走路の除雪の必要性判断に役立てることができる。それにより、積雪によるオーバーラン事故や運航遅延及び欠航を防ぐことができるため、運航安全性の向上及び運航効率性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 :モニタリング装置
2 :堆積物
10 :観測部
20 :記憶部
30 :推定部
図1
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