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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】数的基礎力の検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 19/02 20060101AFI20230727BHJP
   G09B 7/02 20060101ALI20230727BHJP
   G09B 19/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G09B19/02 F
G09B7/02
G09B19/00 H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019055078
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2019185036
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018068729
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年10月1日 大羽沢子らがDyscalculiaの診断における数的基礎力検査の基礎的検討について第118回日本小児精神神経学会プログラム・抄録集にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年11月4日 大羽沢子らがDyscalculiaの診断における数的基礎力検査の基礎的検討について第118回小児精神神経学会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】大羽 沢子
(72)【発明者】
【氏名】前垣 義弘
(72)【発明者】
【氏名】小枝 達也
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-199506(JP,A)
【文献】特開平11-208156(JP,A)
【文献】稲垣 真澄,神経発達症群/神経発達障害群,別冊 日本臨牀 新領域別症候群シリーズ 精神医学症候群(第2版)(I),第37巻,発行株式会社日本臨牀社,2017年03月20日,pp. 99-103
【文献】熊谷恵子,算数障害とはいったい?,心理学ワールド70号[online],2015年07月,https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/70-17-20.pdf,[2022年11月01日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する取得部と、
前記取得部で取得した得点に基づき前記被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する制御部と、を備え、
前記制御部は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、前記評価値に基づき被検者の算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する、
数的基礎力検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記評価値が閾値を下回るときに、被検者に算数障害の可能性があると判定し、前記評価値が閾値以上のときに、被検者に算数障害の可能性がないと判定する、
請求項1に記載の数的基礎力検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記評価値が閾値を下回るときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していないと判定し、前記評価値が閾値以上のときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していると判定する、
請求項1に記載の数的基礎力検査装置。
【請求項4】
前記基数性、前記序数性及び前記数的事実のそれぞれを検査するための問題を表示する表示部と、
前記問題に対する解答を入力するための操作部と、をさらに備え、
前記取得部は、前記問題に対する解答を採点し、前記基数性、前記序数性及び前記数的事実のそれぞれに対する検査結果を示す得点を求める、
請求項1ないし3のいずれかに記載の数的基礎力検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とのそれぞれに対して重み付けを行った後に合算して前記評価値を算出する、
請求項1ないし3のいずれかに記載の数的基礎力検査装置。
【請求項6】
請求項4に記載の数的基礎力検査装置における検査に使用する検査用問題集であって、
前記検査用問題集は、前記制御部が、前記表示部に、前記基数性、前記序数性及び前記数的事実のそれぞれを検査するための問題を表示するときに使用し、
前記検査用問題集は、
基数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第1の用紙と、
序数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第2の用紙と、
数的事実に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第3の用紙と、を含む検査用問題集。
【請求項7】
前記第1の用紙、前記第2の用紙及び前記第3の用紙のそれぞれに記載された問題は、解答に要する制限時間が設定されている、請求項6に記載の検査用問題集。
【請求項8】
前記第1の用紙、前記第2の用紙及び前記第3の用紙はそれぞれ色分けされている、請求項6または7に記載の検査用問題集。
【請求項9】
練習用問題が印刷された第4の用紙をさらに備えた、請求項6または7に記載の検査用問題集。
【請求項10】
コンピュータを数的基礎力検査装置として機能させるためのプログラムであって、
コンピュータの制御部に、
被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する機能と、
基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、前記評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する機能と
を実行させるプログラム。
【請求項11】
ンピュータの制御部が、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を実施し、
前記コンピュータの制御部が、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査結果を示す得点を取得し、
前記コンピュータの制御部が、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、
前記コンピュータの制御部が、前記評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する
数的基礎力の検査方法。
【請求項12】
前記コンピュータの制御部が、前記評価値が閾値を下回るときに、被検者に算数障害の可能性があると判定し、前記評価値が閾値以上のときに、被検者に算数障害の可能性がないと判定する、
請求項11に記載の数的基礎力の検査方法。
【請求項13】
前記コンピュータの制御部が、前記評価値が閾値を下回るときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していないと判定し、前記評価値が閾値以上のときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していると判定する、
請求項11に記載の数的基礎力の検査方法。
【請求項14】
前記コンピュータの制御部が、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とのそれぞれに対して重み付けを行った後に合算して前記評価値を算出する、請求項11に記載の数的基礎力の検査方法。
【請求項15】
前記コンピュータの制御部が、前記基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を、制限時間内で実施する、請求項11に記載の数的基礎力の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の数的基礎力を検査するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
学習の習得に著しい困難を示す学習障害(LD)には、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える読み書き障害(ディスレクシア)と、数的な事項の処理において著しい困難を抱える算数障害(ディスカリキュア)とがある。
【0003】
算数障害においては以下のような症状が見られる。
・簡単な数字や記号を理解しにくい
・繰り上がり、繰り下がりが理解できない
・数の大きい、小さいがよくわからない
・文章問題が苦手、理解できない
・図形やグラフが苦手、理解できない
【0004】
読み書き障害に対しては、従来、早期発見と早期指導を組み合わせたRTI(Response to Intervention)法が確立されている。また、読み書き障害を持つ対象者に対して音読を指導する装置として、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-089443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、算数障害については近年研究がされ始めたばかりであり、早期発見と早期指導の方法は未だ開発されておらず、算数障害を早期発見するための方法が要望されている。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、算数障害の可能性の判定に利用できる数的基礎力の検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第一の態様において、数的基礎力検査装置が提供される。数的基礎力検査装置は、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する取得部と、取得部で取得した得点に基づき被検者の算数能力を判定する制御部と、を備える。制御部は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、評価値に基づき被検者の算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する。
【0009】
本開示の第二の態様において、上記の数的基礎力検査装置における検査に使用する問題集が提供される。検査用問題集は、基数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第1の用紙と、序数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第2の用紙と、数的事実に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第3の用紙と、を含む。
【0010】
本開示の第三の態様において、コンピュータを数的基礎力検査装置として機能させるためのプログラムが提供される。そのプログラムは、コンピュータの制御部に、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する機能と、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する機能とを実行させる。
【0011】
本開示の第四の態様において、数的基礎力の検査方法が提供される。数的基礎力の検査方法は、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を実施し、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査結果を示す得点を取得し、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、評価値に基づき被検者の算数能力を判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の検査装置及び検査方法によれば、基数性、序数性、数的事実の3つの領域を統合して「数的基礎力」と定義し、数的基礎力を示す評価値を用いて被検者の算数能力を評価する。これにより、精度良く、被検者の算数能力を評価すること(例えば、算数障害の可能性を見出すこと)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る、数的基礎力を用いた算数能力の検査方法の概要を説明するための図
図2】数的基礎力に基づく算数障害の検査を評価するためのROC曲線を示した図
図3】基数性、序数性、数的事実及び数的基礎力のそれぞれの指標に基づく算数障害の検査において求められたROC曲線のAUCの値を示した図
図4】数的基礎力を用いた算数能力の検査システムを説明した図
図5A】練習のための問題の例を示す図
図5B】序数性の能力評価のための検査問題の例を示す図
図5C】基数性の能力評価のための問題の例を示す図
図5D】基数性の能力評価のための問題の例を示す図
図5E】基数性の能力評価のための問題の例を示す図
図5F】数的事実(足し算)の能力評価のための問題の例を示す図
図5G】数的事実(引き算)の能力評価のための問題の例を示す図
図6】実施の形態1における検査装置の構成を示すブロック図
図7】実施の形態1の検査装置における数的基礎力の評価動作を示すフローチャート
図8】RTIモデルを説明した図
図9】実施の形態2の検査装置における数的基礎力の評価動作を示すフローチャート
図10】検査装置の表示部に表示される検査問題の例を示す図
図11】実施の形態3における、数的基礎力の検査装置を含むネットワーク構成図
図12】実施例1における数的基礎力検査の構成と例題を示す表
図13】実施例1における数的基礎力検査練習問題を示す図
図14】実施例1における数的基礎力検査の得点と学力テスト得点との相関係数を示す図
図15】実施例1における学力テストにおいて低得点の小児を予測するAUCの結果を示す表
図16】実施例1における数的基礎力検査の感度と特異度を示す表
図17】実施例1における数的基礎力検査を用いて介入効果を検証した実施例2に係る結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る算数に関する能力の検査装置の実施の形態を説明する。
【0015】
(実施の形態1)
1.数的基礎力検査
本願の発明者らは、算数障害の可能性の検査方法を確立するために、算数障害の背景にある「基数性」、「序数性」、「数的事実」の3つの項目に着目し、これらの項目と算数障害の相関関係について研究した。ここで、基数性とは、量を把握する能力である。序数性とは、数の順番(大小)を把握する能力である。数的事実とは、数の操作性であり、足し算や引き算のような簡単な計算を実行する能力である。
【0016】
その結果、本願の発明者らは、「基数性」、「序数性」、「数的事実」の3つの領域を統合した「数的基礎力」という新たな指標を考案し、この指標を利用することで算数障害の可能性を精度よく予見することができることを見出した。ここで、数的基礎力とは、数量を扱うための基本的な能力を示す。
【0017】
図1は、本願の発明者らが考案した、数的基礎力に基づく算数障害の可能性の検査方法の手順を説明した図である。この検査方法では、まず被検者(例えば、児童)に対して、基数性、序数性および数的事実のそれぞれの能力を確認するための検査(以下「数的基礎力検査」という)を行う(S1)。
【0018】
具体的には、基数性の能力を確認するための検査問題、序数性の能力を確認するための検査問題及び数的事実の能力を確認するための検査問題のそれぞれを被検者に提示し、解答させる。
【0019】
その後、基数性、序数性および数的事実それぞれの検査問題に対する解答を採点し、それぞれの検査に対する検査結果(得点)を得る。そして、各検査結果から数的基礎力を示す評価値を次式で算出する(S2)。
評価値 = 基数性の検査に対する得点
+ 序数性の検査に対する得点
+ 数的事実の検査に対する得点 ・・・(1)
【0020】
以上のようにして算出した評価値を、統計データに基づき有意性を持つように予め設定された閾値と比較することで、被検者において算数障害の可能性が有るか否かの判定を行う。具体的には、評価値が閾値を下回る場合、「算数障害の可能性あり」(または「算数が苦手である」)と判定する。一方、評価値が閾値以上の場合、「算数障害の可能性なし」(または「算数が苦手でない」)と判定する。このように被検者の数的基礎力の評価値に基づいて、算数障害の可能性の判定を行う。
【0021】
本願の発明者らは、小学校の一部の児童を対象として実施された算数の学力テストの下位の児童を対象として、上記の数的基礎力検査を実施し、数的基礎力検査の有効性を検証した。学力テストは、同一の被検者に対して小学1年生時と2年生時において実施した。さらに、被検者に対して、基数性、序数性および数的事実のそれぞれについて検査を行い、各検査の結果に基づき数的基礎力を算出し、数的基礎力に基づき算数障害の可能性の判定を行った。この判定結果にしたがい図2に示すようなROC曲線を作成した。
【0022】
学力テストの結果において下位20%の児童を対象として、数的基礎力の評価値に対する、実際に算数障害があると認められる児童の分布と、実際には算数障害がないと認められる児童の分布とを求め、それら2つの分布に基づいて図2のROC曲線を作成した。
【0023】
図2(A)は、小学1年生時の数的基礎力検査の結果に基づくROC曲線であり、図2(B)は、同一対象者に対する小学2年生時の数的基礎力検査の結果に基づくROC曲線である。図2において、「感度」は、実際に算数障害の可能性がある児童を、数的基礎力検査により算数障害の可能性があると判定する確率を示す。「特異度」は、数的基礎力検査に基づき、実際に算数障害の可能性がない児童を、算数障害の可能性がないと判定する確率を示す。
【0024】
図2(A)においては、感度が82.5%であり、特異度が75.0%であり、AUCが0.82である。このことから、小学1年生時において、数的基礎力検査の評価値に基づいて高い精度で算数障害の可能性を予測できているのがわかる。また、図2(B)においても、感度が78.0%であり、特異度が77.07%であり、AUCが0.86であり、小学2年生時においても、数的基礎力検査の評価値に基づいて高い精度で算数障害の可能性を予測できているのがわかる。
【0025】
数的基礎力検査における評価値の閾値は以下のようにして決定される。多くの被検者から収集された数的基礎力検査に関する統計データに基づき、以上のようなROC曲線を生成し、生成したROC曲線からカットオフ値を求め、そのカットオフ値を、数的基礎力検査における閾値に設定する。カットオフ値の決定の仕方は種々ある。例えば、ROC曲線において左上隅(0,1)との距離が最小となる点をカットオフ値に設定してもよい。または、Youden indexを用いた方法にしたがいカットオフ値を決定してもよい。この方法では、AUC=0.5となる斜点線から最も離れたポイントをカットオフ値に設定する。すなわち、Youden index(=感度+特異度-1)を計算し、その最大値となるポイントをカットオフ値に設定する。
【0026】
図3は、基数性、序数性、数的事実(足し算、引き算)及び数的基礎力のそれぞれの指標をベースとして算数障害の可能性の判定を行った結果に対して得られたROC曲線の最大下面積値を比較した表である。
【0027】
図3では、学力テストの結果が下位10%、15%、20%の児童に対する結果が示されている。図3からわかるように、基数性、序数性、数的事実それぞれの指標を単独で用いて判定した場合よりも、数的基礎力に基づき判定を行った場合の方が、より高い精度で算数障害の可能性を判定できていることがわかる。
【0028】
以上のように、基数性、序数性及び数的事実を合算した数的基礎力を導入することで、算数障害の可能性、換言すれば、算数に関する種々の能力(以下「算数能力」という)を精度よく判定することができる。
【0029】
2.数的基礎力検査に使用する装置
図4は、上述した数的基礎力検査を実施する際に使用する装置の一例を説明した図である。被検者は、検査用問題集50に記載された基数性、序数性、数的事実それぞれに対する問題を解く。医師または教師等の検査実施者は、問題に対する解答を採点し、基数性、序数性、数的事実それぞれに対する問題の採点結果(得点)を検査装置10に入力する。検査装置10は、基数性、序数性及び数的事実それぞれの得点から数的基礎力の評価値を算出し、その評価値に基づき被検者の算数障害の可能性(算数能力)を判定し、判定結果を出力する。
【0030】
2.1 検査用問題集
検査用問題集50は、基数性の能力評価のための問題と、序数性の能力評価のための問題と、数的事実の能力評価のための問題とが印刷された用紙を含む。図5A図5Gは、検査用問題集50に含まれる問題の例を示した図である。
【0031】
図5Aは、これから行われる検査の練習のための問題の例を示した図である。図5Aに示す問題は、本番の検査を行う前に被検者(例えば、児童)に対して解答の仕方を説明するために使用するものである。
【0032】
図5Bは、序数性の能力評価のための検査問題の例を示した図である。図5Bに示す問題により、数の大小、順番の理解力を確認する。
【0033】
図5C~5Eは、基数性の能力評価のための問題の例を示した図である。図5C~5Eに示す問題により、異なる長さの線分を用いて被検者の量の把握能力を確認する。
【0034】
図5F、5Gは、数的事実の能力評価のための問題の例を示した図である。図5Fは、足し算の能力評価のための問題の例を示し、図5Gは、引き算の能力評価のための問題の例を示した図である。図5Fおよび図5Gに示す問題により、被検者の数的事実の把握力を確認する。
【0035】
序数性の検査のための問題、基数性の検査のための問題、及び数的事実の検査のための問題はそれぞれ解答時間に制限が設けられる。例えば、図5Bに示す序数性の問題に対しては、解答時間が1分に制限される。図5C~5Eに示す序数性の問題に対しては、解答時間が全部で2分に制限される。図5F、5Fに示す数的事実の問題に対しては、解答時間がそれぞれ1分に制限される。
【0036】
また、序数性の検査のための問題、基数性の検査のための問題、数的事実の検査のための問題が記載されたそれぞれの用紙は色分けされてもよい。例えば、序数性の検査のための問題の用紙は「白色」、基数性の検査のための問題の用紙は「ピンク色」、数的事実の検査のための問題は「緑色」としてもよい。これにより、被検者が問題用紙を取り違えて解答してしまうということが低減される。
【0037】
2.2 検査装置の構成
検査装置10(数的基礎力検査装置の一例)は、序数性、基数性及び数的事実それぞれの問題に対する採点結果を入力し、数的基礎力の評価値を算出し、その評価値に基づき算数障害の可能性を判定する。図6は、検査装置10の構成を示すブロック図である。図6を参照し、検査装置10の構成について説明する。
【0038】
検査装置10は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等の情報機器で構成できる。図6に示すように、検査装置10は、制御部11、表示部18、操作部19、スピーカ20、記憶部21、通信I/F(インタフェース)25、機器I/F(インタフェース)27を備えている。
【0039】
制御部11は、検査装置10の動作全体の制御を司るコントローラである。制御部11は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。制御部11は、記憶部21に格納された制御プログラムを呼び出して実行することにより、検査装置10における各種の制御を実現する。なお、制御部11は、専用に設計されたFPGA、DSP、ASIC等で実現することもできる。
【0040】
表示部18は種々の情報を表示する表示装置である。表示部18は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等により構成される。
【0041】
操作部19は、使用者からの入力指示を受け付ける入力用インタフェースである。操作部19は、使用者から受け付けた入力指示や操作の内容を電気信号に変換して制御部11に伝達する。操作部19は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン等を含む。スピーカ20は、制御部11からの音声信号にしたがい音声を出力する。
【0042】
記憶部21は種々の情報を記録する媒体である。記憶部21は、具体的には、フラッシュメモリ、SSD等の半導体メモリ装置やハードディスク等のディスク装置、その他の記憶デバイス単独で又はそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶部21には、制御部11が実行する制御プログラム、検査結果を示すデータ等が格納される。
【0043】
通信I/F25は、ネットワーク30を介してクラウドサーバ等の外部機器との通信接続を可能とするためのインタフェース回路(モジュール)である。ネットワーク30としては、インターネットの他、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が用いられる。
【0044】
機器I/F27は、検査装置10と周辺機器(例えば、プリンタ)とを接続するインタフェース回路(モジュール)である。機器I/F27としては、USBインタフェースやIEEE1394インタフェース、HDMI(登録商標)インタフェース等が用いられる。
【0045】
2.3 検査装置の動作
図7のフローチャートを参照して、検査装置10による数的基礎力に基づく検査処理を説明する。
【0046】
本処理が実行される前に、ある被検者に対して検査用問題集50に記載された図5A図5Gに示すような問題を解答させ、その解答を採点し、基数性の検査に対する採点結果(得点)、序数性の検査に対する採点結果(得点)、及び数的事実の検査に対する採点結果(得点)が得られている。そして、ある被検者に対する基数性、序数性及び数的事実それぞれの検査に対する得点が、操作部19を介して検査装置10に入力される。
【0047】
検査装置10の制御部11は、操作部19を介して入力された、被検者の基数性、序数性及び数的事実それぞれの検査に対する得点を取得する(S11)。取得した得点は記憶部21に保持される。
【0048】
制御部11は、各検査の得点から上式(1)に基づき数的基礎力の評価値を算出する(S12)。すなわち、基数性の検査に対する得点と、序数性の検査に対する得点と、数的事実の検査に対する得点とを合算して数的基礎力の評価値を求める。
【0049】
制御部11は、算出した評価値を閾値と比較することで、被検者において算数障害の可能性の有無の判定を行う(S13)。評価値が閾値を下回る場合、制御部11は、「算数障害の可能性あり」と判定する(S14)。一方、評価値が閾値以上の場合、制御部11は、「算数障害の可能性なし」と判定する(S16)。
【0050】
制御部11は、判定結果(テキスト、画像)を表示部18に表示する(S15)。これにより、被検者に対する算数障害の可能性の有無を確認することができる。制御部11はさらに判定結果を示す情報を外部機器に出力してもよいし、記憶部21に記憶してもよい。
【0051】
以上のように、本実施の形態の数的基礎力検査方法によれば、基数性と序数性と数的事実とを統合した数的基礎力を用いることにより、精度よく被検者の算数障害の可能性を判定することができる。
【0052】
3.応用
上記の数的基礎力検査方法は、RTIモデルにおいて、改善が見られない児童のスクリーニングに使用することができる。図8は、上記の数的基礎力検査方法を用いたRTIモデルを説明した図である。各段階での算数指導後、上記の数的基礎力検査を行い、児童の算数に関する能力を判定する。例えば、小学1年生開始時に第1段階の算数指導を行い、その後、数的基礎力検査を実施する。数的基礎力検査の結果から得られた評価値を閾値と比較し、評価値が閾値以上であれば、改善が見られたと判断し、指導を終了する。一方、評価値が閾値を下回った場合、改善が見られない、または、部分的にしか改善されていないと判断し、次の指導段階に進む。改善が見られるまで指導を繰り返し行い、必要であれば、小学1年生終了時までに第3段階までの指導を行う。第3段階の終了後も改善が見られない場合、改善が見られない児童に対して、最終的に算数障害であるとの診断を行う。このような方法により早期に算数障害であることを診断でき、当該児童に対しては算数障害に対応した適切な指導を早期に開始することができる。
【0053】
なお、上記の例において、数的基礎力の評価値を、基数性、序数性および数的事実それぞれの検査問題に対する検査結果(得点)をそのまま合算して求めたが、各指標に重みづけを行ってもよい。すなわち、数的基礎力の評価値を下記式で算出してもよい。
評価値 = W1×基数性の検査に対する得点
+ W2×序数性の検査に対する得点
+ W3×数的事実の検査に対する得点 ・・・(1a)
ここで、W1、W2、W3はそれぞれ基数性、序数性、数的事実の得点に対する重み。このような重み付けを行うことで判定の精度をより高めることができる。
【0054】
また、上記の例において、数的基礎力の評価値を用いて、被検者の算数障害の可能性の有無を判定した(図7のステップS14、S16)。しかし、数的基礎力の評価値は、算数障害の可能性に限定されず、広く、算数能力のレベルの判定に使用することもできる。例えば、数的基礎力の評価値に基づき、被検者の算数能力が一定レベルに達しているか否かを判定してもよい。または、数的基礎力の評価値に基づき、被検者が算数を苦手としているか否かを判定してもよい。この場合、統計データに基づき判定すべき事象に応じた陽性と陰性の分布を求め、それらの分布からROC曲線を作成し、有意性を持つようにROC曲線のカットオフ値(閾値)を適宜設定すればよい。なお、上記の数的基礎力検査の実施対象は、例えば6才~7才の児童であり、好ましくは小学校1年生の児童である。
【0055】
4.効果、等
以上のように、本実施の形態の検査装置10は、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得し(S11)、取得した得点に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する制御部11を備える。制御部11は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して数的基礎力の評価値を算出し(S12)、その評価値に基づき被検者の算数能力を判定し(S13、S14、S16)、判定結果を示す情報を出力する(S15)。このように、基数性、序数性、数的事実を統合した数的基礎力の指標を用いることで、精度よく、被検者の算数能力のレベル(例えば、算数障害の可能性)の判定を行うことができる。
【0056】
(実施の形態2)
実施の形態1では、基数性、序数性、数的事実に対する検査問題を、検査用問題集50を介して被検者に提示した。これに対して、本実施の形態では、検査装置10が基数性、序数性、数的事実に対する検査問題を提示する例を説明する。本実施の形態の検査装置10のハードウェア構成は実施の形態1のものと同様である。本実施の形態の検査装置10は、記憶部21においてさらに、数的基礎力検査において被検者に解答させる問題(図5A図5G参照)に関するデータが格納されている。
【0057】
図9は、実施の形態2における検査装置10の動作を示すフローチャートである。図9を参照し、実施の形態2における検査装置10の動作を説明する。
【0058】
制御部11は、まず、図5Aに示すような練習用問題のデータを記憶部21から読み出し、練習用問題を表示部18に表示する(S11a)。表示部18に練習用問題が表示されている間、被検者に対して、検査装置10のスピーカ20を介して、問題の解き方、解答の入力の方法等について音声ガイダンスによる説明が行われる。被検者は音声ガイダンスにしたがい問題を解き、解答することができる。
【0059】
練習用問題が終了すると、制御部11は、序数性に関する検査問題(図5B参照)のデータを記憶部21から読み出し、序数性に関する検査問題を表示部18に表示する(S11b)。図10は、表示部18の画面に表示された、序数性に関する検査問題の例を示した図である。被検者は、キーボード、マウス、タッチパネル、スタイラスペン等を使用し、空白の四角形の入力領域31の中に解答を入力する。制御部11は、被検者により入力された解答の情報を取得し、記憶部21に記憶する。図10の例では、問題が複数ページに亘っており、ボタン33、35によりページがスクロールできるようになっている。序数性に関する検査問題の表示、解答の入力は、所定の制限時間(例えば、1分)の間、実施されるようになっている。
【0060】
序数性に関する検査において制限時間が経過すると、制御部11は、序数性に関する検査を終了し、次に、基数性に関する検査問題(図5C図5E)の表示、解答の入力を行う(S11c)。被検者は、キーボードやマウス等を使用して、基数性の検査問題に対する解答を入力していく。制御部11は、被検者により入力された解答の情報を取得し、記憶部21に記憶する。基数性に関する検査問題の表示、解答の入力についても、所定の制限時間(例えば、2分)内で実施されるようになっている。
【0061】
基数性に関する検査において制限時間が経過すると、制御部11は、基数性に関する検査を終了して、数的事実(足し算、引き算)に関する検査問題(図5F図5G)を表示する(S11d)。その間、制御部11は、問題に対して解答が入力された場合、解答の情報を取得する(S11d)。数的事実に関する検査問題の表示、解答の入力についても、所定の制限時間(例えば、足し算、引き算に対してそれぞれ1分)内で実施されるようになっている。所定の制限時間が経過すると、制御部11は数的事実に関する検査を終了する。
【0062】
数的事実に関する検査が終了すると、制御部11は、各検査で入力された解答を採点し(S11e)、式(1)にしたがい各検査の得点を合算し、数的基礎力の評価値を算出する(S12)。
【0063】
その後、制御部11は、評価値に基づき被検者の算数障害の可能性を判定し(S13、S14、S16)、判定結果を表示部18に表示する(S15)。判定結果を示す情報は記憶部21に格納されてもよいし、外部機器に送信されてもよい。
【0064】
以上のように、本実施の形態の検査装置10は検査問題を表示し、かつ、解答の入力を受け付ける。このため、検査用問題集50を準備する必要がなく、また、解答の採点及び検査装置10への得点の作業が必要なくなるため、検査実施者の作業労力を軽減することができる。
【0065】
なお、図9のフローチャートにおいて、序数性、基数性、数的事実に関する検査の順序は図9に示した順序に限定されず、任意の順序で実施してよい。また、練習用問題の提示は必ずしも必要ではない。
【0066】
(実施の形態3)
以上で説明した検査装置10をネットワークに接続する形態を示す。図11は、複数のユーザ端末101、102と、クラウドサーバ200とが、ネットワーク300(例えば、インターネット)を介して接続された構成を示している。ユーザ端末101、102及びクラウドサーバ200は情報処理装置である。ユーザ端末101,102は例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォンである。
【0067】
ユーザ端末101及びクラウドサーバ200のいずれかが上記の検査装置10として機能してもよい。または、ユーザ端末101及びクラウドサーバ200が協働して上記の検査装置10として機能してもよい。
【0068】
例えば、クラウドサーバ200は上記の検査装置10の機能を実現するためのプログラム(アプリケーション)を格納してもよい。その場合、ユーザ端末101、102はクラウドサーバ200からそのプログラムをダウンロードし、インストールすることで検査装置10の機能を実現してもよい。または、検査装置10として機能するユーザ端末101、102は、数的基礎力検査の結果を、ネットワーク300を介してクラウドサーバ200に送信してもよい。クラウドサーバ200は、多数の被検者に対する数的基礎力検査の結果を蓄積し、管理してもよい。
【0069】
なお、上記の数的基礎力検査方法の利用場面は、児童に対する場合に限られない。数的基礎力検査方法は、例えば、成人における後天的な算数障害や高齢者に対する認知症の可能性の判定にも用いることができる。
【0070】
(本開示)
上記の実施の形態は以下の装置、方法の思想を開示している。
【0071】
(1)数的基礎力検査装置
被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する取得部(19又は11)と、
前記取得部で取得した得点に基づき前記被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する制御部(11)と、を備え、
制御部(11)は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、評価値に基づき被検者の算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する、
数的基礎力検査装置(10)。
【0072】
(2)(1)の装置において、制御部(11)は、評価値が閾値を下回るときに、被検者に算数障害の可能性があると判定し、評価値が閾値以上のときに、被検者に算数障害の可能性がないと判定してもよい(S13、S14、S16)。
【0073】
(3)(1)の装置において、制御部(11)は、評価値が閾値を下回るときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していないと判定し、評価値が閾値以上のときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していると判定してもよい(S13、S14、S16)。
【0074】
(4)(1)~(3)の装置のいずれかにおいて、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれを検査するための問題を表示する表示部(18)と、問題に対する解答を入力するための操作部(19)と、をさらに備えてもよい。取得部(11)は、問題に対する解答を採点し、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査結果を示す得点を求める。
【0075】
(5)(1)~(3)の装置のいずれかにおいて、制御部(11)は、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とのそれぞれに対して重み付けを行った後に合算して評価値を算出してもよい。
【0076】
(6)(1)の装置における検査に使用する検査用問題集。
検査用問題集(50)は、基数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第1の用紙と、序数性に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第2の用紙と、数的事実に対する被検者の能力を検査するための問題が印刷された第3の用紙と、を含む。
【0077】
(7)(6)の問題集において、第1の用紙、第2の用紙及び第3の用紙のそれぞれに記載された問題は、解答に要する制限時間が設定されていてもよい。
【0078】
(8)(6)または(7)の問題集において、第1の用紙、第2の用紙及び第3の用紙はそれぞれ色分けされていてもよい。
【0079】
(9)(6)または(7)の問題集において、練習用問題が印刷された第4の用紙をさらに備えてもよい。
【0080】
(10)コンピュータを数的基礎力検査装置として機能させるためのプログラム
プログラムは、コンピュータの制御部に、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに関して実施された検査の結果を示す得点を取得する機能と、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し、評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定し、判定結果を示す情報を出力する機能とを実行させる。
【0081】
(11)数的基礎力の検査方法
数的基礎力の検査方法は、被検者に対して、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を実施し(S1)、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査結果を示す得点を取得し(S2/S11)、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す評価値を算出し(S2/S12)、評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する(S3/S13、S14、S16)。
【0082】
(12)(11)の検査方法において、評価値が閾値を下回るときに、被検者に算数障害の可能性があると判定し、前記評価値が閾値以上のときに、被検者に算数障害の可能性がないと判定してもよい。
【0083】
(13)(11)の検査方法において、評価値が閾値を下回るときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していないと判定し、評価値が閾値以上のときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していると判定してもよい(S13、S14、S16)。
【0084】
(14)(11)の検査方法において、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とのそれぞれに対して重み付けを行った後に合算して評価値を算出してもよい。
【0085】
(15)(11)の検査方法において、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を、制限時間内で実施してもよい。
【0086】
(16)算数能力の検査方法
算数能力の検査方法は、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査結果を用いて数的基礎力を示す評価値を算出し、当該評価値に基づき被検者の算数に関する能力である算数能力を判定する。
【0087】
(17)検査方法の一例では、(16)の検査方法において、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とを合計して、数的基礎力を示す上記評価値を算出する。
【0088】
(18)(17)の検査方法において、基数性に対する検査結果の得点と、序数性に対する検査結果の得点と、数的事実に対する検査結果の得点とのそれぞれに対して重み付けを行った後に合算して評価値を算出してもよい。
【0089】
(19)(16)~(18)の検査方法において、上記評価値と、所定の基準値とを比較することによって、被験者の算数能力を判定する。所定の基準値の一例は、上述した閾値である。所定の基準値の他の例は、複数の他の被験者から得た上記評価値と当該他の被験者の算数能力との関係を複数プロットで示す図又はデータセットである。所定の基準値と比較することによって、医師による判断を伴うことなく被験者の算数能力を判定することができる(例えば、被験者が算数障害の有するか否かの簡易スクリーニングや、被験者の算数能力が所定のレベルに達しているか否かの簡易スクリーニングを行うことが出来る)。
【0090】
(20)(19)の検査方法において、評価値が閾値を下回るときに、被検者に算数障害の可能性があると判定してもよい。或いは、前記評価値が閾値以上のときに、被検者に算数障害の可能性がないと判定してもよい。
【0091】
(21)(19)の検査方法において、評価値が閾値を下回るときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していないと判定してもよい。或いは、評価値が閾値以上のときに、被検者の算数能力が所定レベルに達していると判定してもよい。
【0092】
(22)(16)~(21)の検査方法において、基数性、序数性及び数的事実のそれぞれに対する検査を、制限時間内で実施してもよい。
【0093】
(23)(1)~(5)の装置、(11)~(22)の方法に用いられる検査用問題集。検査用問題集は、基数性に対する被検者の能力を検査するための複数の問題(A)と、序数性に対する被検者の能力を検査するための複数の問題(B)と、数的事実に対する被検者の能力を検査するための複数の問題(C)とを含んで構成されている。問題集は、例えば、データとしてダウンロード可能な形式であるか、データとして記録媒体(例えば磁気記録媒体)に格納されているか、用紙などの記録媒体に印刷されていてもよい。
【0094】
(24)(23)の問題集において、問題(A)~(C)は、解答に要する制限時間が設定されていてもよい。
【0095】
(25)(23)または(24)の問題集が用紙に印刷されている場合、問題(A)が印刷された第1の用紙、問題(B)が印刷された第2の用紙、及び、問題(C)が印刷された第3の用紙はそれぞれ色分けされていてもよい。
【0096】
本発明の思想は、上記の実施の形態に限られず、種々の実施の形態において実施可能である。上記の実施の形態それぞれの特徴を適宜組み合わせることもできる。
【実施例1】
【0097】
上記の実施形態に係る「算数障害(Dyscalculia)のスクリーニングにおける数的基礎力検査の検討」について以下に説明する。
【0098】
要旨:本研究は算数障害(Dyscalculia)のスクリーニングに関して、数概念を中心とした新しい検査法を考案し、その検査法の算数障害(Dyscalculia)の予測性について検討することを目的とした。小学校通常学級在籍1年生68名に対して、基数性と序数性を調べる項目と基本的な加数的事実(簡単な数的事実(簡単な加減算))より構成した検査(数的基礎力検査と命名)を12月に実施した。1年生の学年末とさらに1年後の2年生学年末に実施された算数学力テストの結果と数的基礎力検査の結果とを照合し、数的基礎力検査の算数の学力に対する予測性をROC解析で検討した。結果、ROC曲線では1年生と2年生における下位20%のAUC(Area under the curve)がともに0。8以上となり、1年生時の数的基礎力検査が算数の学力が低い一群を高い確率で識別することが示された。算数の学力が低い一群の中に算数障害(Dyscalculia)が含まれていると考えられるため、数的基礎力検査は算数障害(Dyscalculia)のスクリーニングに応用できる可能性が示唆された。
【0099】
はじめに
診断基準DSM-5においては、算数障害は限局性学習症の1型として位置付けられており、dyscalculiaはその算数障害の代替用語として、(1)数値情報処理、(2)数的事実の学習、(3)正確または流暢な計算の実行に障害があるものと記載されている。したがってdyscalculiaの診断においては、これら3つについて測定し、異常と判断する閾値を特定して診断に用いることが必要となる。
【0100】
熊谷(2018)は、算数障害に関する研究の歴史を概観し、成人の後天性計算障害の特徴の研究からMcClosky et al.(1991)が計算処理モデルをまとめたことと、Temple(1989、 1991)がこのモデルによって発達性の子どもの算数障害の問題を整理できると指摘したことを報告している。
【0101】
McCloskyのモデルによる計算処理のシステムは、数処理システムと計算システムに分かれており、数処理システムには数概念(数の順序を表す序数性と、数基数性(量)感覚となる基数性)と数の入力と出力(数字の読み書き)が含まれ、計算システムには計算手続きと数的事実という計算機構があるとしている。このモデルでは、数概念の中に序数性と基数性を位置づけ、単に数の読み書きだけではなく数字が表す基数性(量)や順序が数概念を形成する重要な要素であると整理しているのが特徴である。
【0102】
日本における研究では、稲垣ら(2010)は、医学的診断としての算数障害がどのような算数技能の習得困難と関連しているのか、わが国では明らかになっていなかったとして、算数障害を(1)計算障害(Dyscalculia)(2)算数的推論の障害(3)その他の算数障害に分けて評価する「算数障害の症状評価のための課題」を開発したが、算数学力との関連および予測性については言及していない。
【0103】
また、数的基礎力検査は計算処理システムに基づく検査法であり、算数の学力の低い小児を予測することを目的として開発されたもので、本邦において類似の検査法はまだない。
【0104】
そこで、我々は、算数障害(Dyscalculia)の診断に用いる検査法の開発に向けた基礎的検討として、算数障害(Dyscalculia)が疑われる小児を早期にスクリーニングするための新しい検査法(数的基礎力検査と命名)の開発を行なった。この検査法は、McClosky et al.の計算に関する認知モデルを参考にして、序数性及び基数性に関する能力、数的事実に関する能力の3つから構成されている。序数性及び基数性に関する能力はDSM-5の数値情報処理に、数的事実に関する能力はDSM-5の数的事実の学習に該当するものである。(3)の正確または流暢な計算は計算手続きの計算機構であるため小学生の早期のスクリーニングには不向きであると考え用いなかった。
【0105】
I.目的
本研究では小学1年生の2学期で実施した数的基礎力検査の1年生と2年生の学年末における算数学力テストに対する予測性について検討し、スクリーニング検査としての有用性を明らかにすることを目的とした。
【0106】
II.方法
1.対象
対象は、国立大学附属小学校通常学級1年69名(男子36名、女子33名)であった。実施に当たっては校長および該当児童すべての保護者に書面による説明を行い、68名から同意を得た。同意が得られなかった1名については、教育的配慮から検査は実施するがデータは使用しないことで了承を得た。読み書き障害の可能性がある児童は、数的基礎力検査の問題自体を自力で読むことができない、あるいは読む、書くことに時間がかかりすぎる可能性があり、数的基礎力を測定することができないと考え、除外する基準(1年生の国語の学力テストが60点以下の児童:平均より-2SD以下)を作成していたが、今回の参加者に該当者はいなかった。
【0107】
2.数的基礎力検査
数的基礎力検査は、McCloskyのモデルに沿って、序数性(数列)、基数性(量)、数的事実(簡単な加減算)より構成したものである(図12及び図13)。序数性(数列)は、2とび、5とび、10とびで数える系列で、増えていく問題と、減っていく問題を10問ずつ作成した。1系列2問×10系列=20問とした。実施時間は1分とした。基数性(量)は、1本の線分の長さを基準として、それより増える問題と減る問題を5問作成した。実施時間は2分とした加算と減算は1桁の数同士の問題で、繰り上がり、繰り下がりのないものをそれぞれ20問作成した。実施時間はそれぞれ1分とした。量以外の問題は時間制限をかけて流暢性や単純な計算の自動化をみるため、通常の1年生が1分で解ける問題の数よりも多く設定した。
【0108】
得点は序数性(数列)1問1点×20問で20点、基数性(量)1問4点×5問で20点、加算、減算はそれぞれ、1問1点×20問×2=40点、合計80点とした。
【0109】
3.実施時期
2017年12月に実施した。
【0110】
4.手続き
教示は学級差がないように、実施する教師と事前に打ち合わせをして教示手順と教示を書いた紙を渡し、それに沿って実施してもらった。教示には、いつものテストではないこと、算数の成績とは関係がないこと、時間制限があるので、できるところまで挑戦してみようということも入れて、全問解けなくても心配がないことを示した。
【0111】
最初に序数性(数列)と基数性(量)について練習問題をして、記入の仕方と題意の把握を確認した。その後練習問題の正答をフィードバックした。どのように考えるか、何に目をつけて考えるか等、考え方についての教示は一切行わなかった。実施は、序数性(数列)1分→基数性(量)2分→加算1分→減算1分(合計5分)の順で行なった。
【0112】
5.分析
算数障害(Dyscalculia)の出現率の研究(Devine et al、 2013)や、算数障害の診断基準に関する基礎的研究(堀口、2009)を参考に、カットオフ値を20%、15%、10%の3つに設定して、算数学力テスト総合得点における下位20%、下位15%、下位10%以下の小児に対する予測性を検討した。
【0113】
解析は、まず算数学力テスト総合得点と数的基礎力検査の各領域と数的基礎力得点の相関性を調べた。さらにROC(Receiver Operating Characteristic)解析を用いた。指標として、感度、特異度、および曲線下面積(Area under the curve:以下AUC)を用いた。ROC解析におけるAUCは先行研究においてAUC≧0.8~0.75を識別力が高いとしている(Puolakanaho、2007、金子ら、2012)ため、本研究でもAUC≧0.8を識別力があると判定した。統計解析には統計ソフトIBM SPSS・ Statistics version23を使用した。
【0114】
III.結果
1)数的基礎力検査と算数学力検査の相関について
算数学力検査と数的基礎力検査の相関係数(ピアソンの相関係数)を求めた(図14
【0115】
序数性(数列)、基数性(量)、数的事実(簡単な加減算)の各領域得点と算数学力テストの相関係数は0.34~0.50で低い相関を示した。総合得点である数的基礎力得点と算数学力テストの相関係数は、1年生で0.61、2年生では0.54と中程度の相関を示した。
【0116】
2)ROC解析結果
【0117】
図15に、数的基礎力検査の下位項目である序数性(数列)、基数性(量)、加算、減算の各領域得点および総合得点である数的基礎力得点の各低得点レベル別のAUC結果を示した。1年生ではすべての低得点レベルにおける数的基礎力得点と下位20%の基数性(量)の得点においてAUCが0.8以上であった。2年生では下位20%の小児に対して、数的基礎力得点と加減算のAUCが0.8以上であった。
【0118】
また、低得点レベル別に見た数的基礎力得点の感度、特異度では、1年生、2年生ともに下位20%の小児に対する感度と特異度が0.75以上であった(図16)。1年生ではいずれの低得点レベルでも感度と特異度が0.75以上であるのに対し、2年生では感度は0.75以上であったが、下位10%と下位15%では特異度がともに0.66と低い水準であった。
【0119】
IV.考察
1.スクリーニング検査としての有用性について
序数性(数列)、基数性(量)、数的事実(簡単な加減算)の各領域得点よりも数的基礎力得点の方が算数学力テストとの相関が高かったことから、数的基礎力得点を学力の予測に採用し分析を進めた。
【0120】
今回の結果より、数的基礎力検査を1年生の2学期に実施すると、1年生の学年末および2年生の学年末の算数学力検査における下位20%の小児を十分に予測することが可能であることが示された。また、感度と特異度もともに0.75以上であったことより、算数学力検査での下位20%の小児を十分にスクリーニングすることが可能であると考えられた。
【0121】
下位15%と下位10%の小児に対する予測性では、1年生ではAUCが0.8以上であったものの、2年生ではAUCが0.8未満となっていることより、より絞り込んだ小児の予測には限界があることが示された。数的基礎力検査は、下位20%という広めの小児をスクリーニングする検査として、より適していると考えられた。
【0122】
一般的にスクリーニングの際には早期介入につなぐことが重要であるので、感度が良好であることを優先して、見逃しを少なくするカットオフ値を設定するのがよいとされている。この考え方に基づいて感度を重視するなら、1年生、2年生ともに下位10%の小児に対する感度は0。8を超えており、下位10%の小児に対するスクリーニング検査として活用することも考えられる。
【0123】
本研究で用いた数的基礎力検査は、McCloskyらの計算に関する認知モデルを参考にして開発した。その認知モデルによれば、計算の過程は数処理メカニズムと計算メカニズムから構成されており、数処理メカニズムは数の入力と数の出力及びそれらを結びつける数概念から構成されている。数概念は、数の順序を表す性質(序数性)と数の量を表す性質(基数性)から構成されている。計算メカニズムは計算手続きと数的事実という2つがあるとしている。
【0124】
熊谷(2015)は、McCloskyの認知モデルは数概念を獲得した成人の計算障害をもとにしたものであり、小児では数概念がまだ獲得の過程にあるという相違点に留意する必要があるとしつつも、このモデルによって小児の算数障害の考え方を整理することができるとしており、我々も同様に考えている。
【0125】
2.数的基礎力検査の構成要素について
数的基礎力検査を構成している3つの構成要素についてまとめる。まず、序数性は数系列の問題が高度な数的知識や方略が求められる指標である(Clarke et al.,2008)。例えば、2-□-6とあった場合、2と6を見比べて増えていることに気づくことや、2ずつ変化していることを予測することが必要である。このように規則性やそれに当てはめて別の問題を解決するという力が求められていることから、数的基礎力として重要な指標の一つになると考えられる。
【0126】
2つ目は、基数性(量)の見当づけに関する指標となる基数性である。非言語的数概念を有している乳児は1:2の比は弁別できるが、2:3の比は弁別できず(島田,2011)、その後発達とともに弁別できるようになるとしている。また、量の把握が特に困難な症例(内山、2005)では、1を基準とする量の内的な概念形成ができていないことを指摘しており、
基数性(量)の問題の「2の長さがこれなら、4の長さはどれでしょう?」のようなどちらが比較的大きいのかという弁別ができることは数的基礎力の指標として有用であると考えられる。
【0127】
3つ目は数的事実の検査に時間制限をかけて単純な計算の自動化をみたということである。数的事実と呼ばれる20までの数の単純計算が十分自動化せず、早期に計算につまずく(若宮。2014)ことから、時間制限をかけることで数的事実のつまずきをみる指標として有用であると考えられる。
【0128】
Chard et al(2005)、Clarke et al.(2004)は、複数の算数アセスメントを比較し検証している中で、小学校1年生においては、数量判断(多少判断)、数系列における数欠如の問題、数の同定(いくつあるか)の3つの検査を合わせることで、数的知識を最も統計的に有意に予測していたと結論づけている。今回の検査においても、序数性、基数性、数的事実の各得点よりも数的基礎力得点が最も予測性が高く、数的基礎力総合得点が低位であったデータに、序数性は高く基数性が低いものや、序数性と基数性は高いが数的事実得点が低いなど個々のばらつきが大きいものが見られた。
【0129】
以上のことから、算数の学力を予測する上では、どれか一つの指標ということではなく、数系列(序数性)、基数性(量)(基数性)、計算(数的事実)の3つの領域から構成された合成変数である数的基礎力得点が指標としてもっとも有用性が高くなったのではないかと考えられる。
【0130】
本研究では各学年末の算数学力テスト結果をアウトカムとしているため、算数の学力が低い小児群のスクリーニングとなっている。算数障害(Dyscalculia)はその一群に含まれていると推測されるため、今後は算数の学力が低い小児群の診察あるいは個別評価を行って、算数障害(Dyscalculia)の診断を補充する検査法の開発へと発展させることが必要になる。
【0131】
V.結語
本研究では、基数性、序数性、数的事実の3つの項目を入れた数的基礎力検査は算数学力が低い小児を予測する上で有用であることが示唆された。
【0132】
数的基礎力検査は、検査時間5分、配布や回収を含めても実施時間は10分程度であり、実施手順と教示も簡易であり集団で実施できることから、汎用性が高い検査方法であるといえる。
【0133】
(実施例1に係る参考文献)
(参考文献1)Clarke, B., & Shinn, M. R (2004): A preliminary investigation into the identification and development of early mathematics curriculum-based measurement. School Psychology Review, 33(2):234-248.
(参考文献2)Clarke, B., Baker, S., Smolkowski, K.et al(2008):An Analysis of Early Numeracy Curriculum-Based Measurement. Remedial and Special Education, 29(1):46-57.
(参考文献3)Chard, D., Clarke, B., Baker,S.et al(2005): Using Measures of Number Sense to Screen for Difficulties in Mathematics: Preliminary Findings: Assessment for Effective Intervention 2005 30(3)
(参考文献4)Devine, A., Soltesz, F., Nobes,A.et al(2013): Gender differences in developmental dyscalculia depend on diagnostic criteria. Learning and Instruction, 27, 31-39
(参考文献5)稲垣真澄ら(2010):特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン-わかりやすい診断手順と支援の実際:129-135
(参考文献6)内山千鶴子(2005):ある視空間認知障害児における算数障害とその過程.小児の精神と神経,45(2):167-175
(参考文献7)金子真人,宇野彰,春原則子ら (2012):「就学前年長児における就学後の読み困難を予測する確率とその限界 スクリーニング検査としてのRapid Automatized Namingの有用性」,脳と発達, 44(1):29-34.
(参考文献8)熊谷恵子(2018):「算数障害の歴史と内容」,LD研究,27(4):162-166
(参考文献9)熊谷恵子(2015):「算数障害とはいったい」,心理学ワールド70号「数から算数へ」17-20
(参考文献10)堀口真理子(2009):「算数障害と算数困難の識別に関する基礎的研究--カットオフポイントを用いたMLDとLAの比較検討を通して」,SNEジャーナル, 15(1):118-137.
(参考文献11)McCloskey, M., Aliminosa, D., & Macaruso, P(1991):Theory-based assessment of acquired dyscalculia,17:285-308
(参考文献12)Puolakanaho, A, Ahonen, T., Aro, M. et al(2007): Very early phonological and language skills: estimating individual risk of reading disability. J Child Psychol Psychiatry, 48(9): 923-931.
(参考文献13)島田睦雄(2011):「神経心理学のみちしるべ」,第2部第10章数処理ならびに計算の障害,http://www1.odn.ne.jp/~aag13140(参照2017-11-21)
(参考文献14)Temple, C. M.(1989): Digit dyslexia: A Category-specific disorder in development dyscalculia.: Cognitive Neuropsychology,6(1).93-116
(参考文献15)Temple, C. M.(1991): Procedural Dyscalculia and Number Fact Dyscalculia: Double Dissociation in Developmental Dyscalculia, :Cognitive Neuropsychology,8(2).155-176
(参考文献16)若宮英司(2014):「発達障害の臨床-子どもの心の診療として 診断・評価 学習障害の臨床における診断・評価のあり方」,小児科診療, 77(12): 1751-1757.
【実施例2】
【0134】
実施例2では、実施例1で開発した数的基礎力検査を用いて、介入効果を検証するための基礎となる条件の探索を行った。小学1年生239名から得られた数的基礎力検査結果と1年生2月の算数学力テスト結果を元に、2年生算数学力テスト下位20%の小児を高精度に予測する方法を検討した。
【0135】
図17は実施例1における数的基礎力検査を用いて介入効果を検証した実施例2に係る結果を示す図である。
【0136】
図17から明らかなように、数的基礎力検査における1年と2年の算数学力テスト結果が得られたのは215名であった。215名のデータを元に2年生の算数学力テスト下位20%を精度よく予測できる数的基礎力検査と1年生の算数学力テストの組み合わせを探索したところ、1年生算数学力テストで下位20%である小児(41名)で数的基礎力検査にて30点未満であると高率に2年生算数学力テストで下位20%となることが判明した(11名中10名、91%)。一方、1年生算数学力テストで下位20%であった小児でも、数的基礎力検査で40点以上であれば、2年生算数学力テストで下位20%になるものは27%(18名中5名)と少ないことも判明した。両者間の相対危険度は3.3であった。
【0137】
以上説明したように、実施例2によれば、数的基礎力検査に対して解析を追加した結果、相対危険度が3.3で、オッズ比は26であることがわかり、今後実施する介入効果を判定するに足る予測性を見つけることができた。
【符号の説明】
【0138】
10 検査装置
11 制御部
17 表示装置
19 操作部
21 記憶部
25 通信インタフェース
27 機器インタフェース
50 数的基礎力の検査用問題集
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17