(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】傾斜磁場コイルの設計方法および傾斜磁場コイル
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
A61B5/055 340
(21)【出願番号】P 2019229073
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515270839
【氏名又は名称】株式会社Kyoto Future Medical Instruments
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】エクトル サンチェス ロペス
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-222(JP,A)
【文献】特表2018-519863(JP,A)
【文献】TOMASI, D,Stream Function Optimization for Gradient Coil Design,Magnetic Resonance in Medicine,2001年03月10日,vol.45, no.3,pp.505-512
【文献】Xin, X et al.,Inverse design of an organ-oriented RF coil for open, vertical-field, MR-guided, focused ultrasound,Magnetic Resonance Imaging,2012年07月15日,vol.30, no.10,pp.1519-1526
【文献】ROSTISLAV A. L, REINHOLD L,A Stream Function Method for Gradient Coil Design,Concepts in Magnetic Resonance Part B (Magnetic Resonance Engineering),2005年07月15日,Vol. 26B(1),pp.67-80,https://doi.org/10.1002/cmr.b.20040
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される複数のコイル間に性能値評価点を設定し、前記性能値評価点およびターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように流れ関数を決定するステップと、
決定した前記流れ関数の等高線に基づいて、連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップと、
を含む、傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項2】
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、
前記連続した電流経路の領域を画定する連続した第1の貫通溝を、前記コイル面内の前記等高線間に配置する、請求項1に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項3】
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、さらに、
前記連続した第1の貫通溝に交差する第2の貫通溝を、前記コイル面に配置し、
前記連続した第1の貫通溝または前記第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する第3の貫通溝を、前記コイル面に配置する、請求項2に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項4】
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、
前記連続した電流経路として機能する線状の導体を、前記コイル面内の前記等高線に沿って配置する、請求項1に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項5】
前記性能値評価点を、対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイル間に設定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項6】
前記性能値評価点を、湾曲した板状の前記複数のコイルによって規定される円筒状の空洞の長軸に沿った、前記空洞の中央から端部側へオフセットした位置に設定する、請求項5に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
【請求項7】
対向して配置される複数のコイルを備え、
それぞれの前記コイルは、ターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定された流れ関数の等高線に基づいて配置が決定されている連続した電流経路を、前記コイル面に備えている、傾斜磁場コイル。
【請求項8】
それぞれの前記コイルは、前記連続した電流経路の領域を画定する連続した第1の貫通溝を、前記コイル面内の前記等高線間に備える、請求項7に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項9】
それぞれの前記コイルは、
前記連続した第1の貫通溝に交差する第2の貫通溝と、
前記連続した第1の貫通溝または前記第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する第3の貫通溝と、
をさらに備える、請求項8に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項10】
それぞれの前記コイルは、前記連続した電流経路として機能する線状の導体を、前記コイル面内の前記等高線に沿って備える、請求項7に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項11】
対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイルを備える、請求項7から10のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項12】
磁場強度が線形に変化する線形領域を、湾曲した板状の前記複数のコイルによって構成される円筒状の空洞の長軸に沿った、前記空洞の中央から端部側へオフセットした位置に備える、請求項11に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項13】
対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイルは、前記長軸に垂直な横断面に傾斜磁場を生成する横断面傾斜コイルを構成し、
前記連続した電流経路は、
前記コイル面の中央に配置される、前記長軸に対称な、前記連続した電流経路が存在しない略矩形状の領域と、
前記長軸に沿って前記略矩形状の領域と共に前記コイル面に配置される、前記長軸に対称な、前記連続した電流経路が存在しない略台形状の領域と、
を画定しており、
前記略矩形状の領域は、前記略台形状の領域が有する短辺および長辺のうち、前記長辺側に位置している、請求項12に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項14】
前記略矩形状の領域は、
前記長軸の方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の16%から22%の範囲であり、
前記略台形状の領域は、
前記長軸の方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の前記短辺の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の18%から24%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の前記長辺の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の31%から37%の範囲である、請求項13に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項15】
横断面における傾斜磁場効率は、135から145[μT/m/A]の範囲であり、
直流電流に対するインダクタンスは、213から233[μH]の範囲であり、
直流電流に対する抵抗値は、80から90[mΩ]の範囲である、請求項14に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項16】
前記長軸に沿った方向に傾斜磁場を生成する一対の連続した電流経路を有する一対の軸方向傾斜コイルをさらに備え、
前記一対の軸方向傾斜コイルは、前記長軸に沿って、前記線形領域の中心を挟んで対称に配置され、電流の向きは互いに逆向きであり、
前記一対の連続した電流経路は、前記線形領域の中心を挟んだ一方側および他方側のうち少なくともいずれかにおいて、前記長軸に沿った電流密度分布が二峰性を有するように配置されている、請求項12から15のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイル。
【請求項17】
前記電流密度分布において、前記線形領域の中心から遠い側に位置する峰の電流密度の強度は、前記線形領域の中心に近い側に位置する峰の電流密度の強度の10倍から15倍である、請求項16に記載の傾斜磁場コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイルの設計方法に関し、より詳細には、典型的に磁気共鳴画像法において用いられる傾斜磁場コイルおよびその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMR)を利用して生体内の情報を画像化する磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging, MRI)が、医療分野等において知られている。
【0003】
磁気共鳴画像法に基づくMRI装置は、空間的に線形に変化する傾斜磁場を生成する傾斜磁場コイルを備えている。生体内には水(H2O)として水素原子が多量に含まれており、水素の原子核である陽子から放出される核磁気共鳴信号の共鳴周波数は、この傾斜磁場によって空間的に線形に変化する。これにより、信号検出用のRF受信コイルによって受信される信号に対して位置情報が付加され、撮像対象である生体の関心領域(region of interest, ROI)に位置情報が付加される。一般的に、傾斜磁場コイルは、1つの軸方向(Z軸方向)傾斜コイルと、各々がこの軸に直交する2つの横断面(X方向およびY方向)傾斜コイルとを備えており、関心領域には三次元の位置情報が付加される。
【0004】
図15は、下記非特許文献1に記載されている頭部撮像用のMRI装置の例示的な構成を示す部分断面図である。図中、局部撮像用の傾斜磁場コイルを符号109で示し、量子化軸を規定する静磁場B
0を印加するためのメインマグネットを符号200で示し、信号検出用のRF受信コイルを符号300で示す。磁気共鳴画像法において、撮像が例えば人体の頭部または四肢等の比較的小さい関心領域に対して行われる場合には、
図15に例示するように、全身撮像用の傾斜磁場コイルに代えて局部撮像用の傾斜磁場コイルを用いることが知られている。また、例えば下記特許文献1および2には、MRI装置にて用いられる局部撮像用の傾斜磁場コイルが開示されている。
【0005】
傾斜磁場コイルの設計には、有限要素法やターゲットフィールド法等の手法が用いられている。例えば下記非特許文献2には、ターゲットフィールド法に基づいて傾斜磁場コイルを設計する方法が開示されている。
【0006】
なお、傾斜磁場は勾配磁場(gradient field)とも呼ばれており、傾斜磁場コイルは勾配磁場コイル(gradient field coil)とも呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-56934号公報
【文献】特表2009-538202号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Foo TKF, Laskaris E, Vermilyea M, et al. “Lightweight, compact, and high-performance 3T MR system for imaging the brain and extremities”, Magnetic Resonance in Medicine, 2018;00:1-14. https://doi.org/10.1002/mrm.27175
【文献】ROSTISLAV A. LEMDIASOV, REINHOLD LUDWIG, “A Stream Function Method for Gradient Coil Design”, Concepts in Magnetic Resonance Part B (Magnetic Resonance Engineering), Vol. 26B(1) 67-80 (2005). https://doi.org/10.1002/cmr.b.20040
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
傾斜磁場コイルの性能を表す指標には、効率度(efficiency)やインダクタンス、抵抗値があり、傾斜磁場コイルが発生する傾斜磁場の性能を表す指標には、磁場の均一性(uniformity)や線形性(linearity)、ロールオーバ値がある。例えば磁場の均一性が向上すると、MRI装置による撮像画像の解像度も向上する。しかしながら、コイルの寸法とコイルの性能とはトレードオフの関係にあり、傾斜磁場の均一性や線形性を向上させようとすると、コイルの寸法が大型化する。大型化されたコイルは、局部撮像用の傾斜磁場コイルには適さない。
【0010】
例えばコイルの巻き数を増やして効率度を向上させると、傾斜磁場の強度が向上し、撮像画像の解像度が向上する。また、コイルの巻き数を増やすと磁場の均一性も向上する。しかしながら、コイルの巻き数を増やすと、インダクタンスや抵抗値が増加することによりコイルの発熱量が増え、MRI装置により撮像画像を取得する際のコイルの動作速度であるスルーレイト(slew rate)が低下する。また、コイルの巻き数を増やすと、コイルの発熱量が増加することによりMRI装置の使用時間が制限されるとともに、MRI装置の動作速度が低下し、撮像時間のインターバルも増加する。この結果、巻き数を増やしてコイルを大型化したMRI装置を用いて、例えば脳機能の解明を目的とした、例えば生体のような時間変化する対象を時系列的に連続して撮像する場合には、撮像画像の解像度が低下する。撮像画像の解像度を向上させるために、コイルの寸法を同程度に維持しながら、コイルの性能を向上させることが求められている。
【0011】
本発明は、コイルの寸法を同程度に維持しながら、コイルの性能を向上させる傾斜磁場コイルの設計方法および傾斜磁場コイルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討を進めていたところ、ターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように流れ関数を決定することにより、上記した課題が解決されることを見出した。
【0013】
すなわち、上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
対向して配置される複数のコイル間に性能値評価点を設定し、前記性能値評価点およびターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように流れ関数を決定するステップと、
決定した前記流れ関数の等高線に基づいて、連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップと、
を含む、傾斜磁場コイルの設計方法。
(項2)
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、
前記連続した電流経路の領域を画定する連続した第1の貫通溝を、前記コイル面内の前記等高線間に配置する、項1に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
(項3)
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、さらに、
前記連続した第1の貫通溝に交差する第2の貫通溝を、前記コイル面に配置し、
前記連続した第1の貫通溝または前記第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する第3の貫通溝を、前記コイル面に配置する、項2に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
(項4)
前記連続した電流経路を前記コイル面に配置するステップは、
前記連続した電流経路として機能する線状の導体を、前記コイル面内の前記等高線に沿って配置する、項1に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
(項5)
前記性能値評価点を、対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイル間に設定する、項1から4のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
(項6)
前記性能値評価点を、湾曲した板状の前記複数のコイルによって規定される円筒状の空洞の長軸に沿った、前記空洞の中央から端部側へオフセットした位置に設定する、項5に記載の傾斜磁場コイルの設計方法。
(項7)
対向して配置される複数のコイルを備え、
それぞれの前記コイルは、ターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定された流れ関数の等高線に基づいて配置が決定されている連続した電流経路を、前記コイル面に備えている、傾斜磁場コイル。
(項8)
それぞれの前記コイルは、前記連続した電流経路の領域を画定する連続した第1の貫通溝を、前記コイル面内の前記等高線間に備える、項7に記載の傾斜磁場コイル。
(項9)
それぞれの前記コイルは、
前記連続した第1の貫通溝に交差する第2の貫通溝と、
前記連続した第1の貫通溝または前記第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する第3の貫通溝と、
をさらに備える、項8に記載の傾斜磁場コイル。
(項10)
それぞれの前記コイルは、前記連続した電流経路として機能する線状の導体を、前記コイル面内の前記等高線に沿って備える、項7に記載の傾斜磁場コイル。
(項11)
対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイルを備える、項7から10のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイル。
(項12)
磁場強度が線形に変化する線形領域を、湾曲した板状の前記複数のコイルによって構成される円筒状の空洞の長軸に沿った、前記空洞の中央から端部側へオフセットした位置に備える、項11に記載の傾斜磁場コイル。
(項13)
対向して配置される湾曲した板状の前記複数のコイルは、前記長軸に垂直な横断面に傾斜磁場を生成する横断面傾斜コイルを構成し、
前記連続した電流経路は、
前記コイル面の中央に配置される、前記長軸に対称な、前記連続した電流経路が存在しない略矩形状の領域と、
前記長軸に沿って前記略矩形状の領域と共に前記コイル面に配置される、前記長軸に対称な、前記連続した電流経路が存在しない略台形状の領域と、
を画定しており、
前記略矩形状の領域は、前記略台形状の領域が有する短辺および長辺のうち、前記長辺側に位置している、項12に記載の傾斜磁場コイル。
(項14)
前記略矩形状の領域は、
前記長軸の方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の16%から22%の範囲であり、
前記略台形状の領域は、
前記長軸の方向の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の前記短辺の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の18%から24%の範囲であり、
前記長軸に垂直な方向の前記長辺の寸法が、前記連続した電流経路によって囲まれる前記輪郭の寸法の31%から37%の範囲である、項13に記載の傾斜磁場コイル。
(項15)
横断面における傾斜磁場効率は、135から145[μT/m/A]の範囲であり、
直流電流に対するインダクタンスは、213から233[μH]の範囲であり、
直流電流に対する抵抗値は、80から90[mΩ]の範囲である、項14に記載の傾斜磁場コイル。
(項16)
前記長軸に沿った方向に傾斜磁場を生成する一対の連続した電流経路を有する一対の軸方向傾斜コイルをさらに備え、
前記一対の軸方向傾斜コイルは、前記長軸に沿って、前記線形領域の中心を挟んで対称に配置され、電流の向きは互いに逆向きであり、
前記一対の連続した電流経路は、前記線形領域の中心を挟んだ一方側および他方側のうち少なくともいずれかにおいて、前記長軸に沿った電流密度分布が二峰性を有するように配置されている、項12から15のいずれか一項に記載の傾斜磁場コイル。
(項17)
前記電流密度分布において、前記線形領域の中心から遠い側に位置する峰の電流密度の強度は、前記線形領域の中心に近い側に位置する峰の電流密度の強度の10倍から15倍である、項16に記載の傾斜磁場コイル。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、コイルの寸法を同程度に維持しながら、コイルの性能を向上させる傾斜磁場コイルの設計方法および傾斜磁場コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルの斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第1の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第1の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第2の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第2の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第3の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第3の傾斜コイルの電流密度分布を説明するための模式的な図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルのZ-Y平面の断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルをZ軸方向から見た側面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルの設計方法における流れ関数の決定手順を説明するためのフローチャートである。
【
図12】流れ関数を決定する際に設定する仮想的なコイル面の領域を説明するための模式的な図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第1の傾斜コイルおよび第2の傾斜コイルの巻き線パターンを説明するための模式的な図である。
【
図14】
図13に示す等高線パターンと貫通溝のパターンとを重ね合わせて表示した模式的な図である。
【
図15】頭部撮像用のMRI装置の例示的な構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
[発明の概略]
【0017】
本発明では、ターゲットフィールド法に基づいて傾斜磁場コイルを設計する。ターゲットフィールド法では、コイルが生成しようとする磁場分布をターゲットとして与え、ターゲットとして与えた所望する磁場分布から逆算して、コイル面内での電流密度の分布を求める。本発明では、ターゲットフィールド法において、コイル面の領域の分割に境界要素法を適用する。これにより、コイルが生成する磁場分布が与えられる。コイルの巻き線パターンは、求めた電流密度の分布から決定する。ターゲットフィールド法では、電流密度の分布は流れ関数を用いて表現される。
【0018】
位置ベクトルをrとすると、電流密度の分布はベクトル場である電流密度場J(r)を用いて表すことができる。電流密度場J(r)は電荷の保存則
【数1】
を満たす。よって、電流密度場J(r)は、スカラー値を持つ流れ関数(stream function)
【数2】
を用いて、
【数3】
と表すことができる。ベクトルnは電流密度が存在する表面に垂直な単位ベクトルである。電流密度を代表するコイルの巻き線パターンは、流れ関数の一定ステップ毎の等高線に基づいて決定する。コイルの巻き線パターンは、コイル面に配置する連続した一続きの電流経路として決定する。一続きの電流経路は、所定の幅を有する切り込みまたは切り欠きを、板状の導電性部材に形成することにより設けることができる。あるいは、一続きの電流経路は、線状の導体を用いて設けることができる。
【0019】
一実施形態では、対向して配置される複数のコイル間に性能値評価点を設定し、性能値評価点およびターゲットフィールド法に基づいて流れ関数を決定する。流れ関数は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定する。コイルの巻き線パターンとなる連続した電流経路は、決定した流れ関数の等高線に基づいて、コイル面に配置する。
【0020】
一実施形態では、傾斜磁場コイルは、対向して配置される複数のコイルを備えている。それぞれのコイルは、連続した電流経路をコイル面に備えている。連続した電流経路は、ターゲットフィールド法に基づいて決定された流れ関数の等高線に基づいて配置が決定されている。流れ関数は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定されている。
【0021】
一実施形態では、連続した電流経路の領域は、連続した第1の貫通溝により画定される。連続した第1の貫通溝は、コイル面内における流れ関数の等高線間に配置される。コイル面において第1の貫通溝間に挟まれる領域が、連続した電流経路に対応する。一実施形態では、傾斜磁場コイルが備えるそれぞれのコイルは、連続した電流経路の領域を画定する連続した第1の貫通溝を、コイル面内における流れ関数の等高線間に備える。
【0022】
一実施形態ではさらに、第2の貫通溝および第3の貫通溝がコイル面に配置される。第2の貫通溝は、連続した第1の貫通溝に交差する。第3の貫通溝は、連続した第1の貫通溝または第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する。一実施形態では、傾斜磁場コイルが備えるそれぞれのコイルは、連続した第1の貫通溝に交差する第2の貫通溝と、連続した第1の貫通溝または第2の貫通溝に向けてコイル端から延伸する第3の貫通溝と、をさらに備える。
【0023】
別の実施形態では、連続した電流経路は、線状の導体を、コイル面内における流れ関数の等高線に沿って配置することにより画定される。一実施形態では、傾斜磁場コイルが備えるそれぞれのコイルは、連続した電流経路として機能する線状の導体を、コイル面内における流れ関数の等高線に沿って備える。
【0024】
一実施形態では、性能値評価点を、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイル間に設定する。一実施形態では、傾斜磁場コイルは、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルを備える。
【0025】
一実施形態では、性能値評価点を、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルによって規定される円筒状の空洞の長軸に沿った、空洞の中央から端部側へオフセットした位置に設定する。一実施形態では、傾斜磁場コイルは、磁場強度が線形に変化する線形領域を、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルによって構成される円筒状の空洞の長軸に沿った、空洞の中央から端部側へオフセットした位置に備えている。
【0026】
一実施形態では、傾斜磁場コイルにおいて、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルは、横断面傾斜コイルを構成する。横断面傾斜コイルは、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルによって構成される円筒状の空洞の長軸に垂直な横断面に、傾斜磁場を生成する。コイル面において、連続した電流経路は、連続した電流経路が存在しない略矩形状の領域と、連続した電流経路が存在しない略台形状の領域と、を画定している。略矩形状の領域は、コイル面の中央に配置され、略台形状の領域は、空洞の長軸に沿って略矩形状の領域と共にコイル面に配置される。略矩形状の領域は、略台形状の領域が有する短辺および長辺のうち、長辺側に位置している。略矩形状の領域は空洞の長軸に対称であり、略台形状の領域も空洞の長軸に対称である。
【0027】
一実施形態では、略矩形状の領域は、空洞の長軸の方向の寸法が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、長軸に垂直な方向の寸法が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の16%から22%の範囲である。一実施形態では、略台形状の領域は、空洞の長軸の方向の寸法が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の10%から15%の範囲であり、長軸に垂直な方向の短辺の寸法が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の18%から24%の範囲であり、長軸に垂直な方向の長辺の寸法が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法の31%から37%の範囲である。
【0028】
一実施形態では、傾斜磁場コイルの横断面における傾斜磁場効率は、135から145[μT/m/A]の範囲であり、直流電流に対するインダクタンスは、213から233[μH]の範囲であり、直流電流に対する抵抗値は、80から90[mΩ]の範囲である。一実施形態では、磁場の中心からのロールオーバ値は、135から155[mm]の範囲である。
【0029】
一実施形態では、傾斜磁場コイルは、一対の連続した電流経路を有する一対の軸方向傾斜コイルをさらに備える。一対の軸方向傾斜コイルは、対向して配置される湾曲した板状の複数のコイルによって構成される円筒状の空洞の長軸に沿った方向に、傾斜磁場を生成する。一対の軸方向傾斜コイルは、空洞の長軸に沿って、線形領域の中心を挟んで対称に配置され、電流の向きは互いに逆向きである。一対の連続した電流経路は、線形領域の中心を挟んだ一方側および他方側のうち少なくともいずれかにおいて、空洞の長軸に沿った電流密度分布が二峰性を有するように配置されている。
【0030】
一実施形態では、二峰性を有する電流密度分布において、線形領域の中心から遠い側に位置する峰の電流密度の強度は、線形領域の中心に近い側に位置する峰の電流密度の強度の10倍から15倍である。
【0031】
一実施形態では、傾斜磁場コイルは、例えば生体内の情報を画像化するMRI装置に組み込まれて使用される。生体とは、例えば人体や動物等の生物およびこれらから採取された組織等を意味し、撮像対象である生体は実際に生存している必要はない。MRI装置による撮像対象としては、典型的には水素原子を含む物質であればよく、または、核磁気共鳴を利用して核磁気モーメントを検出することが可能な核種を含む物質であればよい。
[傾斜磁場コイルの構成]
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルの斜視図である。
【0033】
一実施形態に係る傾斜磁場コイル100は、横断面のX方向に傾斜磁場を生成する第1の傾斜コイルと、横断面のY方向に傾斜磁場を生成する第2の傾斜コイルと、軸方向のZ方向に傾斜磁場を生成する第3の傾斜コイルと、を備えている。第1の傾斜コイルおよび第2の傾斜コイルの各々は、横断面傾斜コイルとして機能し、第3の傾斜コイルは、軸方向傾斜コイルとして機能する。本実施形態では、第1の傾斜コイルないし第3の傾斜コイルは、支持体9(9a,9b,9c)内に配置されている。
【0034】
傾斜磁場コイル100は、円筒形状の第1の支持体9aと、第1の支持体9aの外側に配置される円筒形状の第2の支持体9bと、第2の支持体9bの外側に配置される円筒形状の第3の支持体9cとを備えている。第1の支持体9aないし第3の支持体9cは、略同心円状に配置されており、第1の傾斜コイルないし第3の傾斜コイルの各々は、これら3つの支持体9内のいずれかに配置される。支持体9の材質は、透磁率が低い材質であることが好ましく、非磁性であることがより好ましい。
【0035】
以下、
図2ないし
図6を参照して、第1の傾斜コイルないし第3の傾斜コイルの各々の配置について説明する。なお、
図2ないし
図6は、支持体9(9a,9b,9c)内における第1の傾斜コイルないし第3の傾斜コイルの各々の配置を説明するための模式的な図であり、支持体9の寸法を正確に表現する図ではない。
【0036】
図2および
図3は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第1の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【0037】
第1の傾斜コイルは、横断面のX方向に傾斜磁場を生成する横断面傾斜コイルとして機能する。第1の傾斜コイルは、磁場強度が線形に変化する線形領域99の空間に傾斜磁場を生成する第1のメインコイル1と、第1のメインコイル1による漏洩磁場を打ち消すための遮蔽磁場を生成する第1のシールドコイル2と、を備えている。本実施形態では、第1のメインコイル1は第1の支持体9a内に配置されており、第1のシールドコイル2は第3の支持体9c内に配置されている。本実施形態では、第1のメインコイル1および第1のシールドコイル2は、湾曲した板状の形状であり、第1のシールドコイル2は第1のメインコイル1の周方向外側に配置されている。
【0038】
第1のメインコイル1は、対向して配置される複数の板状メインコイル1a,1bを備えている。第1のシールドコイル2は、対向して配置される複数の板状シールドコイル2a,2bを備えている。複数の板状メインコイル1a,1bおよび複数の板状シールドコイル2a,2bの各々は、連続した電流経路をコイル面に備えている。本実施形態では、複数の板状メインコイル1a,1bの各々が備える連続した電流経路は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定された流れ関数の等高線に基づいて、配置が決定されている。流れ関数の決定方法については後述する。
【0039】
第1のシールドコイル2は、第1のメインコイル1による漏洩磁場を打ち消すための遮蔽磁場を生成するので、流れ関数を決定する際には、第1のメインコイル1および第1のシールドコイル2は、同一の構成として一体化して計算することができる。複数の板状メインコイル1a,1bにおいて連続した電流経路の配置を決定する流れ関数は、複数の板状シールドコイル2a,2bを考慮して決定することができる。
【0040】
板状メインコイル1aの端子19aは、板状シールドコイル2aの端子29aに接続されている。板状メインコイル1aの端子19bは、電源端子に接続されている。板状シールドコイル2aの端子29bは、板状シールドコイル2bの端子29dに接続されている。板状メインコイル1bの端子19cは、板状シールドコイル2bの端子29cに接続されている。板状メインコイル1bの端子19dは、電源端子に接続されている。板状シールドコイル2bの端子29dは、板状シールドコイル2aの端子29bに接続されている。
【0041】
板状メインコイル1aにおいて、連続した電流経路は、端子19aを起点として渦状に配置されている。電流は、連続した電流経路上を端子19bから端子19aに渦状に流れる。板状シールドコイル2aにおいては、電流は端子29aから端子29bに渦状に流れる。
【0042】
板状メインコイル1bについても、板状メインコイル1aと同様である。板状メインコイル1bにおいて、連続した電流経路は、端子19cを起点として渦状に配置されている。電流は、連続した電流経路上を端子19cから端子19dに渦状に流れる。板状シールドコイル2bにおいては、電流は端子29dから端子29cに渦状に流れる。
【0043】
本実施形態では、線形領域99は、
図2並びに後に参照する
図8および
図9に示すように、複数の板状メインコイル1a,1bによって規定される円筒状の空洞の長軸(Z軸)に沿った、空洞の中央から端部側へオフセットした位置に配置されている。本実施形態では、複数の板状メインコイル1a,1bは非対称コイルである。
【0044】
図4および
図5は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第2の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【0045】
第2の傾斜コイルは、横断面のY方向に傾斜磁場を生成する横断面傾斜コイルとして機能する。第1の傾斜コイルと同様に、第2の傾斜コイルは、線形領域99の空間に傾斜磁場を生成する第2のメインコイル3と、第2のメインコイル3による漏洩磁場を打ち消すための遮蔽磁場を生成する第2のシールドコイル4と、を備えている。本実施形態では、第2のメインコイル3は第1の支持体9a内に配置されており、第2のシールドコイル4は第3の支持体9c内に配置されている。本実施形態では、第2のメインコイル3および第2のシールドコイル4は、湾曲した板状の形状であり、第2のシールドコイル4は第2のメインコイル3の周方向外側に配置されている。
【0046】
第2のメインコイル3は、対向して配置される複数の板状メインコイル3a,3bを備えている。第2のシールドコイル4は、対向して配置される複数の板状シールドコイル4a,4bを備えている。複数の板状メインコイル3a,3bおよび複数の板状シールドコイル4a,4bの各々は、連続した電流経路をコイル面に備えている。第1のメインコイル1が備える複数の板状メインコイル1a,1bと同様に、本実施形態では、複数の板状メインコイル3a,3bの各々が備える連続した電流経路は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定された流れ関数の等高線に基づいて、配置が決定されている。流れ関数の決定方法についても、第1のメインコイル1および第1のシールドコイル2の場合と同様である。複数の板状メインコイル3a,3bにおいて連続した電流経路の配置を決定する流れ関数は、複数の板状シールドコイル4a,4bを考慮して決定することができる。
【0047】
板状メインコイル3aの端子39aは、板状シールドコイル4aの端子49aに接続されている。板状メインコイル3aの端子39bは、電源端子に接続されている。板状シールドコイル4aの端子49bは、板状シールドコイル4bの端子49dに接続されている。板状メインコイル3bの端子39cは、板状シールドコイル4bの端子49cに接続されている。板状メインコイル3bの端子39dは、電源端子に接続されている。板状シールドコイル4bの端子49dは、板状シールドコイル4aの端子49bに接続されている。
【0048】
板状メインコイル3aにおいて、連続した電流経路は、端子39aを起点として渦状に配置されている。電流は、連続した電流経路上を端子39bから端子39aに渦状に流れる。板状シールドコイル4aにおいては、電流は端子49aから端子49bに渦状に流れる。
【0049】
板状メインコイル3bについても、板状メインコイル3aと同様である。板状メインコイル3bにおいて、連続した電流経路は、端子39cを起点として渦状に配置されている。電流は、連続した電流経路上を端子39cから端子39dに渦状に流れる。板状シールドコイル4bにおいては、電流は端子49dから端子49cに渦状に流れる。
【0050】
本実施形態では、線形領域99は、
図4並びに後に参照する
図8および
図9に示すように、複数の板状メインコイル3a,3bによって規定される円筒状の空洞の長軸(Z軸)に沿った、空洞の中央から端部側へオフセットした位置に配置されている。本実施形態では、複数の板状メインコイル3a,3bは非対称コイルである。
【0051】
図6は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第3の傾斜コイルを説明するための模式的な図である。
【0052】
第3の傾斜コイルは、軸方向のZ方向に傾斜磁場を生成する軸方向傾斜コイルとして機能する。第3の傾斜コイルは、線形領域99の空間に傾斜磁場を生成する第3のメインコイル5のペア5a,5bと、第3のメインコイル5のペア5a,5bによる漏洩磁場を打ち消すための遮蔽磁場を生成する第3のシールドコイル6のペア6a,6bと、を備えている。本実施形態では、第3のメインコイル5のペア5a,5bは第2の支持体9b内に配置されており、第3のシールドコイル6のペア6a,6bは第3の支持体9c内に配置されている。本実施形態では、
図6に示すように、第3のメインコイル5のペア5a,5bおよび第3のシールドコイル6のペア6a,6bは各々、線形領域99を略中心とするように配置されている。
【0053】
本実施形態では、第1のメインコイル1の場合と同様に、第3のメインコイル5のペア5a,5bが備える一対の連続した電流経路は、ペアにおけるコイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定された流れ関数の等高線に基づいて配置が決定されている。流れ関数を決定する際には、第3のメインコイル5のペア5a,5bおよび第3のシールドコイル6のペア6a,6bは、同一の構成として一体化して計算することができる。第3のメインコイルのペア5a、5bにおいて連続した電流経路の配置を決定する流れ関数は、第3のシールドコイル6のペア6a,6bを考慮して決定することができる。
【0054】
第3のメインコイル5のペア5a,5bは、軸方向のZ方向に傾斜磁場を生成する一対の連続した電流経路を構成する。コイル5aおよびコイル5bは、線形領域99の略中心を挟んでZ軸方向に略対称に配置される。線形領域99の略中心を挟んで一方側に配置されるコイル5aを流れる電流の向きは、他方側に配置されるコイル5bを流れる電流の向きと逆向きである。
【0055】
図7は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第3の傾斜コイルの電流密度分布を説明するための模式的な図である。図中、グラフの横軸はZ軸方向の位置を表し、グラフの縦軸は電流密度の強度を表す。A-A線は、線形領域99の横断面(X方向およびY方向)に沿った中心線であり、
図8および
図9中に示すA-A線に対応している。
【0056】
本実施形態において、Z方向に傾斜磁場を生成する一対の連続した電流経路は、線形領域の中心を挟んだ一方側および他方側のうち少なくともいずれかにおいて、軸方向のZ方向に沿った電流密度分布が二峰性を有するように配置されている。好ましくは、二峰性を有する電流密度分布において、線形領域の中心から遠い側に位置する峰の電流密度の強度は、線形領域の中心に近い側に位置する峰の電流密度の強度の10倍から15倍である。
【0057】
図7の模式的なグラフには、電流密度の4つの強度ピーク51a,52a,51b,52bが示されている。線形領域99の中心を示すA-A線を挟んで、グラフの左側には2つのピーク51a,52aが存在し、グラフの右側には2つのピーク51b,52bが存在する。グラフ左側において、ピーク52aは、ピーク51aの10倍から15倍の強度を有することが好ましい。グラフ右側において、ピーク52bは、ピーク51bの10倍から15倍の強度を有することが好ましい。
【0058】
図8は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルのZ-Y平面の断面図である。
図9は、
図8に示す断面図の部分的な拡大図であり、3つの支持体内に配置される第1の傾斜コイルないし第3の傾斜コイルの層構造を説明するための模式的な図である。
【0059】
なお、
図8ないし
図10に示す傾斜磁場コイル100の軸方向両端のうち、線形領域99から近いZ軸方向の端部を近位端と呼び、線形領域99から遠いZ軸方向の端部を遠位端と呼ぶ。図示する態様では、Z軸正方向側の端部が傾斜磁場コイル100の近位端であり、Z軸負方向側の端部が傾斜磁場コイル100の遠位端である。A-A線は、線形領域99のY軸方向に沿った中心線である。B-B線は、第1のメインコイル1および第2のメインコイル3を構成する板状メインコイル1a,1b,3a,3bのY軸方向に沿った中心線である。
【0060】
本実施形態では、第1のメインコイル1を構成する複数の板状メインコイル1a,1bは、第1の支持体9a内に配置されており、第1のシールドコイル2を構成する複数の板状シールドコイル2a,2bは、第3の支持体9c内に配置されている。第1のメインコイル1および第1のシールドコイル2と同様に、第2のメインコイル3を構成する複数の板状メインコイル3a,3bは、第1の支持体9a内に配置されており、第2のシールドコイル4を構成する複数の板状シールドコイル4a,4bは、第3の支持体9c内に配置されている。第3のメインコイル5のペアは第2の支持体9b内に配置されており、第3のシールドコイル6のペアは第3の支持体9c内に配置されている。
【0061】
本実施形態では、A-A線で示す線形領域99の中心は、B-B線で示す第1のメインコイル1および第2のメインコイル3のZ軸方向の中心からZ軸方向の近位端側にオフセットして配置されている。同様に、A-A線で示す線形領域99の中心は、B-B線で示す第1のシールドコイル2および第2のシールドコイル4のZ軸方向の中心からZ軸方向の近位端側にオフセットして配置されている。第3のメインコイル5および第3のシールドコイル6のZ軸方向の中心は、線形領域99を略中心とするように配置されている。
【0062】
線形領域99は、傾斜磁場コイル100が発生する磁場の強度が線形に変化する領域である。傾斜磁場コイル100がMRI装置に組み込まれて撮像に使用される場合、線形領域99は、撮像対象である生体の関心領域に対応する。傾斜磁場コイル100がMRI装置に組み込まれて例えば人体の頭部が撮像される場合、頭部は傾斜磁場コイル100の近位端から傾斜磁場コイル100の空洞内に挿入され、線形領域99に配置される。
【0063】
図1の斜視図にも示すように、本実施形態では、人体の両肩の形状に適合するような切り欠きは、傾斜磁場コイル100に設けられていない。特許文献1に例示されているこのような切り欠きを傾斜磁場コイルに設けると、傾斜磁場コイルのZ軸方向の寸法が増大するところ、本実施形態に係る傾斜磁場コイル100は、このような切り欠きを設けることなく、Z軸方向の寸法はコンパクトに設計されている。本実施形態に係る傾斜磁場コイル100は、コンパクトに設計されることにより、例えば生体の頭部といった局部を撮像するための制限された空間への配置に適している。
【0064】
図10は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルをZ軸方向から見た側面図である。(A)はZ軸方向の矢視正面(近位端側)から見た側面図であり、(B)はZ軸方向の矢視背面(遠位端側)から見た側面図である。
【0065】
傾斜磁場コイル100は、静磁場の不均一度を補正するヨークを収容するための複数の貫通孔7と、冷却水等の冷媒を流すための複数の冷却管8とを備えることができる。本実施形態では、24個の貫通孔7が、第3の支持体9cに周状に略等間隔で配置されており、3つの冷却管8(8a,8b,8c)が支持体9に配置されている。第1の冷却管8aは第1の支持体9a内に配置されており、第2の冷却管8bは第2の支持体9b内に配置されており、第3の冷却管8cは第3の支持体9c内に配置されている。好ましくは、これら3つの冷却管8には、冷媒が流れる方向が交互になるように冷媒が導入される。
図10中に符号8eで示す構成は、冷却管8を傾斜磁場コイル100の外部と接続するための器具である。
【0066】
他の実施形態では、傾斜磁場コイル100は、磁場の不均一度や磁場の変動を補正するための補正コイルの組を第2の支持体9b内に配置することができ、補正コイルの組による漏洩磁場を打ち消すための遮蔽磁場を生成するシールドコイルを第3の支持体9c内に配置することができる。補正コイルの組は、例えばB0補正コイル、Z2補正コイル、ZX補正コイル、ZY補正コイル、X2-Y2補正コイル、XY補正コイルとすることができる。B0補正コイルは、MRI装置において量子化軸を規定する静磁場B0の変動を補正する。Z2補正コイルは、Z軸方向の距離の二乗で変化する磁場の成分を補正する。ZX補正コイルは、Z軸方向の距離とX軸方向の距離との積で変化する磁場の成分を補正する。ZY補正コイルは、Z軸方向の距離とY軸方向の距離との積で変化する磁場の成分を補正する。X2-Y2補正コイルは、X軸方向の距離の二乗とY軸方向の距離の二乗との差で変化する磁場の成分を補正する。XY補正コイルは、X軸方向の距離とY軸方向の距離との積で変化する磁場の成分を補正する。
【0067】
本実施形態に係る傾斜磁場コイル100の例示的な寸法を表1に示す。
図8、
図9および表1中、符号R
Lは、三次元空間に略扁球状の回転楕円体に生成される線形領域99の長軸方向の長さであり、符号R
Sは、線形領域99の短軸方向の長さである。符号φ
1は第1の支持体9aの内径である。符号φ
2は第2の支持体9bの内径である。符号φ
3は第3の支持体9cの内径である。符号φ
4は第3の支持体9cの外径である。符号L
1は、線形領域99の中心から第1の支持体9aの近位端までの寸法である。符号L
2は、線形領域99の中心から第2の支持体9bの近位端までの寸法である。符号L
3は、線形領域99の中心から第3の支持体9cの近位端までの寸法である。符号L
4は、線形領域99の中心から第3の支持体9cの遠位端までの寸法である。符号L
5は、第1のメインコイル1(板状メインコイル1a,1b)および第2のメインコイル3(板状メインコイル3a,3b)のZ軸方向の寸法である。符号L
6は、第3のメインコイル5のZ軸方向の寸法である。符号L
7は、第3のシールドコイル6のZ軸方向の寸法である。符号L
offは、A-A線とB-B線との間のZ軸方向の離隔距離であり、第1のメインコイル1および第2のメインコイル3を構成する板状メインコイル1a,1b,3a,3bの中心と、線形領域99の中心との間の、Z軸方向のオフセット距離である。
【0068】
【0069】
本発明では、ターゲットフィールド法に基づいて傾斜磁場コイルを設計する。ターゲットフィールド法では、コイルが生成しようとする磁場分布をターゲットとして与え、ターゲットとして与えた所望する磁場分布から逆算して、コイル面内での電流密度の分布を求める。本発明では、ターゲットフィールド法において、コイル面の領域の分割に境界要素法を適用する。これにより、コイルが生成する磁場分布が与えられる。コイルの巻き線パターンは、求めた電流密度の分布から決定する。ターゲットフィールド法では、電流密度の分布は流れ関数を用いて表現される。
【0070】
・流れ関数の決定
本発明の一実施形態では、目標とする性能値として磁場の線形性を設定し、設定した性能値の範囲内における最適な流れ関数を決定する。本実施形態では、目標とする性能値として設定する磁場の線形性は、許容可能な磁場の非線形性の最大値として設定する。流れ関数は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように決定する。好ましくは、流れ関数は、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が最小化するように決定する。
【0071】
本実施形態では、ターゲットフィールド法において、コイル面の領域の分割に境界要素法(boundary element method)を適用する。非特許文献2においても説明されているように、境界要素法では、コイル面の領域を多角形(典型的には三角形、本実施形態においても三角形)の複数のパッチ領域に分割することにより、コイル面における電流密度分布を表現する。境界要素法の適用により、コイル面の領域には、周囲が複数のパッチ領域に囲まれるノードが複数個表現される。ノードを囲む複数のパッチ領域の各々には、ノードを中心として時計回りまたは反時計回りの方向に流れる電流要素が表現される。
【0072】
図11は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルの設計方法における流れ関数の決定手順を説明するためのフローチャートである。
図12は、流れ関数を決定する際に設定する仮想的なコイル面の領域を説明するための模式的な図である。典型的には、以下に説明する流れ関数の決定手順は、ハードウェアの構成としてプロセッサおよびメモリを備える計算機を用いて、計算機による数値シミュレーションとして実現することができる。
【0073】
以下に説明する流れ関数の決定手順では、横断面傾斜コイルとして機能する第1の傾斜コイルを、仮想的なコイル面の領域として説明する。以下に説明する流れ関数の決定手順は、第1の傾斜コイルに限らず、横断面傾斜コイルとして機能する第2の傾斜コイルについても同様に適用することができ、軸方向傾斜コイルとして機能する第3の傾斜コイルについても同様に適用することができる。第3の傾斜コイルを仮想的なコイル面の領域として、第3の傾斜コイルのコイル面における流れ関数を決定する場合は、例えば
図6に示す第3のメインコイル5のペア5a,5bを、仮想的なコイル面の領域とすることができる。
【0074】
ステップS1において、コイル面の領域を設定し、設定した領域を多角形(三角形)の複数のパッチ領域に分割する。
図12に示すように、本実施形態では、コイル面の領域は、対向して配置される湾曲した板状の二つのコイル面91a,91bとして、三次元座標を用いて設定する。コイル面91a,91bの領域の分割には、上記した境界要素法を適用する。境界要素法の適用により、コイル面91a,91bの領域には、周囲が複数のパッチ領域に囲まれる上記した複数のノードが設定され、コイル面91a,91bにおける電流密度分布が表現される。これにより、対向して配置される二つのコイル間の磁場分布が与えられる。
【0075】
ステップS2において、性能値評価点をコイル間の領域に設定する。
図12に示すように、本実施形態では、性能値評価点97は、対向して配置される二つのコイル面91a,91bに挟まれる空間内に、三次元座標を用いて複数箇所設定する。本実施形態において性能値評価点97を設定する空間領域を、
図12中に符号98を付して示す。性能値評価点97は、空間領域98を覆う表面の領域に、例えば等間隔に複数箇所(例えば2280箇所)設定する。性能値評価点97は、空間領域98の全体に複数箇所設定してもよい。本実施形態では、性能値評価点97の領域98は、コイル面91a,91bの中心からZ軸方向にオフセットして非対称に配置する。
【0076】
ステップS3において、目標とする性能値を設定する。本実施形態では、目標とする性能値として、許容可能な磁場の非線形性の最大値(単位:パーセント)を設定する。本実施形態では、空間内に三次元座標を用いて設定されている複数箇所の性能値評価点97の各々について、目標とする性能値を設定する。これにより、コイル面91a,91bの中心からZ軸方向にオフセットして配置された性能値評価点97の領域98について、目標とする性能値として磁場の線形性が設定される。
【0077】
ステップS4において、最適化変数(α,β,p,q,r)の領域を設定する。本実施形態では、最適化変数の値の範囲は、0<α<1、0<β<1、p=(2,∞)、q=(1,2)、r=(1,2)である。単純和を意味する値1は、最適化変数qまたはrを用いて選択されるようになる。
【0078】
ステップS5において、設定した最適化変数(α,β,p,q,r)の領域内において流れ関数を最適化する。流れ関数
【数4】
は、三角形の頂点における値と基底関数を用いて
【数5】
となる。I
nは、三角形のパッチ領域の頂点における流れ関数の値である。
【数6】
は基底関数であり、三角形のパッチ領域の頂点周辺のみで値1を持つ。Nは頂点の数である。この流れ関数をコイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数
【数7】
において、評価関数の値が最小化するように決定する。評価関数において、第1項がコイルの発熱に対応する項であり、第2項がコイル(連続した電流経路)の全長に対応する項である。ここで、
【数8】
である。ρは電荷密度である。tはコイル面を構成する導体の厚みである。Neは、境界要素法における三角形のパッチ領域の総数である。A
iは、境界要素法におけるi番目の三角形のパッチ領域の面積であり、ベクトルj
iはi番目の三角形のパッチ領域における電流密度分布ベクトルである。J
iはi番目の三角形のパッチ領域で頂点同士を結ぶ3つのベクトルで構成される行列である。ベクトル
【数9】
は、i番目の三角形のパッチ領域の頂点における流れ関数の値I
nの3つから構成される(すなわち、3つのI
nから構成される)流れ関数ベクトルである。
【0079】
ステップS6において、性能値を算出する。性能値は、ステップS2において設定した性能値評価点における値を算出する。
【0080】
本実施形態では、性能値として、ステップS3において設定した磁場の非線形性を算出する。まず、流れ関数に対する基底関数と、電流密度の存在する表面に垂直な単位ベクトルとの積に対し、ベクトル演算子である回転を作用させて得られるベクトルから計算されるスカラー量を、性能値評価点において決定する。次に、決定されたスカラー量と、ステップS5において決定した流れ関数でスカラー量を計算した三角形のパッチ領域の頂点での値との積を、三角形のパッチ領域の頂点全てにおいて決定する。最後に、三角形のパッチ領域の頂点全てにおいて決定した積の総和を決定し、性能値評価点での磁場強度を決定する。決定した磁場強度から、決定した流れ関数の性能値として、性能値評価点における磁場の非線形性を算出する。
【0081】
ステップS7において、ステップS5およびステップS6の工程を最適化変数の全領域について行ったか否かを判定する。判定の結果、行っていない場合(ステップS7においてNo)には、ステップS8において最適化変数(α,β,p,q,r)を更新し、更新した最適化変数を用いてステップS5の工程を再び行う。最適化変数α,βを更新する際の値の刻み幅は、例えば0.1から0.01の範囲の値とすることができる。例えば更新の最初の段階では、粗い(coarse)刻み幅の0.1にて最適化変数α,βを更新する。更新が繰り返し行われ、最適化変数が最良な値に近づこうとする更新の終盤の段階では、細かい(fine)刻み幅の0.01にて最適化変数α,βを更新する。
【0082】
ステップS7における判定の結果、行っている場合(ステップS7においてYes)には、ステップS9において、最良の性能値を有する流れ関数を決定する。流れ関数は、最適化に用いた最適化変数α,β,p,q,rの値の組み合わせ毎に決定されており、流れ関数は、ステップS5の工程を複数回行う事により複数個決定されている。本実施形態では、これら複数個の流れ関数のうち、ステップS6において算出した性能値が最も優れている流れ関数を、最良の性能値を有する流れ関数として決定する。
【0083】
ステップS10において、決定された流れ関数が目標とする性能値を達成しているか否かを判定する。判定の結果、達成していない場合(ステップS10においてNo)には、ステップS11において、設定した性能値を緩和し、緩和した性能値を用いてステップS4の工程を再び行う。
【0084】
ステップS10における判定の結果、達成している場合(ステップS10においてYes)には、一連の工程を終了する。
【0085】
・巻き線パターンの決定
本発明では、電流密度を代表するコイルの巻き線パターンは、流れ関数の一定ステップ毎の等高線に基づいて決定する。コイルの巻き線パターンは、コイル面に配置する連続した一続きの電流経路として決定する。一続きの電流経路は、所定の幅を有する切り込みまたは切り欠きを、板状の導電性部材に形成することにより設けることができる。あるいは、一続きの電流経路は、線状の導体を用いて設けることができる。
【0086】
図13は、本発明の一実施形態に係る傾斜磁場コイルが備える第1の傾斜コイルおよび第2の傾斜コイルの巻き線パターンを説明するための模式的な図である。
【0087】
(A)に示す等高線パターン101(101a)は、
図2および
図3に示す板状メインコイル1aについて決定された、流れ関数の一定ステップ毎の等高線パターンである。
【0088】
本実施形態では、板状メインコイル1aは非対称コイルであり、板状メインコイル1aの等高線パターン101aは、Z軸方向に張り出した領域89を有している。領域89は、傾斜磁場コイル100における線形領域99に対応している。等高線パターン101aの領域89において、等高線の張り出しの間隔は、線形領域99に近づくと広くなり、線形領域99から遠ざかると狭くなる。
【0089】
(B)に示す板状メインコイル1aの貫通溝のパターンは、(A)に示す等高線パターン101aに基づいてコイル面に配置された貫通溝のパターンである。(C)は(B)に示す貫通溝のパターンの部分的な拡大図である。
【0090】
本実施形態では、コイル面に配置される貫通溝のパターンは、第1の貫通溝81と、第2の貫通溝82と、第3の貫通溝83と、を備えている。これら第1の貫通溝81ないし第3の貫通溝83は、所定の幅を有する切り込みまたは切り欠きを、板状の導電性部材に形成することにより設けられる。例示的には、導電性部材には、厚さが約2~3mmの銅板を用いることができる。
【0091】
第1の貫通溝81は連続した貫通溝であり、コイルの巻き線パターンに対応する連続した電流経路の領域を画定する。第1の貫通溝81は、コイル面内における流れ関数の等高線間に配置される。コイル面において第1の貫通溝81に挟まれる領域が、連続した電流経路に対応する。
【0092】
図14は、
図13に示す等高線パターンと貫通溝のパターンとを重ね合わせて表示した模式的な図である。
図14に示すように、第1の貫通溝81は、第1の貫通溝81間に等高線パターン101を挟むように配置されている。
【0093】
第2の貫通溝82は、連続した第1の貫通溝81に交差するように配置される。第3の貫通溝83は、連続した第1の貫通溝81または第2の貫通溝82に向けて、コイル端から延伸するように配置される。これら第2の貫通溝82および第3の貫通溝83をコイル面に複数箇所設けることにより、連続した電流経路の幅が調整される。これにより、コイル面は複数の小領域に区画され、コイル面内における渦電流の発生が抑制される。渦電流の発生が抑制されると、磁場の均一性および傾斜磁場の効率度が向上する。
【0094】
図13および
図14に例示する板状メインコイル1aと同様に、他の板状メインコイル1b,3a,3bについても、決定された流れ関数の等高線パターンに基づいて、貫通溝のパターンがコイル面に配置される。
【0095】
本実施形態では、板状メインコイル1a,1b,3a,3bのコイル面において、連続した電流経路は、連続した電流経路が存在しない略矩形状の領域85と、連続した電流経路が存在しない略台形状の領域86と、を画定している。略矩形状の領域85は、コイル面の中央に配置され、略台形状の領域86は、Z軸に沿って略矩形状の領域85と共にコイル面に配置される。略矩形状の領域85は、略台形状の領域86が有する短辺86aおよび長辺86bのうち、長辺86b側に位置している。略矩形状の領域85はZ軸に線対称であり、略台形状の領域86もZ軸に線対称である。
【0096】
図13および
図14に例示する板状メインコイル1aにおいて、連続した電流経路によって囲まれる電流経路全体の輪郭の、Z軸方向の寸法をL
5とし、Z軸方向に垂直な方向の寸法をL
8とする。好ましくは、略矩形状の領域85は、Z軸方向の寸法L
9が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法L
5の10%から15%の範囲であり、Z軸に垂直な方向の寸法L
10が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法L
8の16%から22%の範囲である。好ましくは、略台形状の領域86は、Z軸方向の寸法L
11が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法L
5の10%から15%の範囲であり、Z軸に垂直な方向の短辺86aの寸法L
12が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法L
8の18%から24%の範囲であり、Z軸に垂直な方向の長辺86bの寸法L
13が、連続した電流経路によって囲まれる輪郭の寸法L
8の31%から37%の範囲である。
【0097】
第1のメインコイル1の板状メインコイル1aと同様に、第3のメインコイル5のペア5a,5bについても、決定された流れ関数の等高線パターンに基づいて、貫通溝のパターンまたは後述する線状の導体を配置することができる。
[効果]
【0098】
以上、本発明の傾斜磁場コイルの設計方法によると、ターゲットフィールド法に基づいて、コイル面内の電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように流れ関数を決定する。ターゲットフィールド法に基づいて、従来では、より少ない電流値で設定性能を達成できるように、コイル面内の電流密度分布の大きさの二乗和の項を評価関数に加え、この評価関数の値が最小化するように流れ関数を決定していたところ、本発明では、電流密度分布の大きさの単純和の項を含む多項式の評価関数の値が減少するように、流れ関数を決定する。これにより、コイルの寸法を同程度に維持しながら、コイルの性能を向上させることができ、MRI装置による撮像画像の解像度を向上させることができる。
【0099】
また、コイルの寸法とコイルの性能とはトレードオフの関係にあることから、本発明の傾斜磁場コイルの設計方法によると、コイルが発生する磁場の均一性や線形性、ロールオーバ値を同程度に維持しながら、コイルの寸法をより小型化することができる。
【0100】
上記したトレードオフの関係から、一般的には、傾斜磁場コイルが小型化されると、コイルが発生する傾斜磁場の撮像領域における均一性が低下し、MRI装置による撮像画像にアーティファクトが生じて撮像画像の解像度が低下する。これに対し、本発明の傾斜磁場コイルの設計方法によると、コイルが発生する磁場の均一性やロールオーバ値を撮像領域において同程度に維持しながら、コイルの寸法をより小型化することができ、撮像画像に生じるアーティファクトの発生を抑えることができる。
【0101】
傾斜磁場コイルが小型化されると、コイルのインダクタンスが低下し、傾斜磁場のより高いスルーレイトを達成することができる。これにより、コイルに流す電流を短時間で増加または減少して、印加しようとする傾斜磁場を、少ない電流で素早く、より短時間で切り替えることが可能となり、より高いデューティサイクルでの撮像が可能となる。例えば脳の神経機能の接続関係を探求する手法である拡散テンソルマッピングでは、傾斜磁場をより高いデューティサイクルで印加することにより、信号の減少を抑えることが可能となり、拡散テンソルマッピングにおける撮像画像の解像度を向上させることが可能となる。
[その他の形態]
【0102】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0103】
ターゲットフィールド法において、コイル面の領域を分割する際に適用する方法は、上記した境界要素法に適用されない。コイル面の領域の分割には、ターゲットフィールド法において知られている、領域を分割する種々の方法を適用することができる。
【0104】
傾斜磁場コイルの設計を行う一連の手順において、目標とする性能値は磁場の非線形性に限定されない。例えば、ステップS3の手順において、残留渦電流の割合(単位:パーセント)を、目標とする性能値として設定してもよいし、ステップS3の手順において、磁場の非線形性と残留渦電流の割合との両方を、目標とする性能値として設定してもよい。目標とする性能値として残留渦電流の割合を設定する場合、性能値評価点97は、対向して配置される二つのコイル面91a,91bの外側にも設定する。この場合、性能値評価点97を設定する空間領域98は、対向して配置される二つのコイル面91a,91bを包含する。
【0105】
また、目標とする性能値として、性能値評価点における磁場の非線形性を算出する際の方法は、上記説明した方法に限定されない。磁場の非線形性は、例えばビオ・サバール(Biot-Savart)の法則を用いて算出することもできる。まず、ステップS5において決定した流れ関数の一定ステップ毎の等高線に基づいて、電流密度を代表するコイルの巻き線パターンを決定する。次に、決定した巻き線パターンにビオ・サバールの法則を適用して磁場計算を行う。最後に、ビオ・サバールの法則に基づいて計算した磁場強度から、決定した流れ関数に基づくコイルの巻き線パターンの性能値として、性能値評価点における磁場の非線形性を算出する。
【0106】
線形領域99の形状は扁球状の回転楕円体に限定されない。線形領域99の形状は、長球状の回転楕円体であってもよいし、球状であってもよい。
【0107】
傾斜磁場コイル100において、複数の貫通孔7が配置される位置は、第3の支持体9cに限定されない。複数の貫通孔7が配置される位置は、第1の支持体9aないし第3の支持体9cの少なくともいずれかであればよい。
【0108】
傾斜磁場コイル100において、補正コイルの組が配置される位置は第2の支持体9bに限定されない。補正コイルの組は、第1の支持体9aから第3の支持体9cのいずれかに配置されればよい。例えば、補正コイルの組の全ての組が、第2の支持体9bおよび第3の支持体9cのいずれかに配置されてもよい。第2の支持体9b内へ配置される補正コイルの組と、第3の支持体9c内へ配置される補正コイルの組との組み合わせは、B0補正コイルがB0補正コイルのシールドコイルの内側に配置される限りにおいては、どのような組み合わせであってもよい。
【0109】
コイルの巻き線パターンに対応する連続した電流経路を画定する方法は、所定の幅を有する切り込みまたは切り欠きを、板状の導電性部材に形成する方法に限定されない。コイルの巻き線パターンは、流れ関数の一定ステップ毎の等高線に基づいて決定すればよく、コイルの巻き線パターンは、連続した電流経路として機能する線状の導体を、流れ関数の等高線に沿って配置することにより画定してもよい。例示的には、線状の導体には、銅線等の種々の導電性金属線を用いることができる。コイルは、流れ関数の等高線に沿って配置された線状の導体に、例えばエポキシ樹脂を含浸することにより形成することができる。
【0110】
軸方向のZ方向に傾斜磁場を生成する第3の傾斜コイルには、Z軸方向の傾斜磁場コイルとして知られている代表的なコイル型である、マックスウェル・コイル・ペアを用いることができる。例えば、第3のメインコイル5のペア5a,5bおよび第3のシールドコイル6のペア6a,6bの各々に、マックスウェル・コイル・ペアを用いることができる。
【実施例】
【0111】
上記した実施形態における設計方法に基づいて、計算機を用いた数値計算により傾斜磁場コイルを設計した。コイルの設計は、磁場の非線形性および残留渦電流の割合の両方を、目標とする性能値として行った。設計した傾斜磁場コイルにおける各種コイルの配置および寸法は、
図1ないし
図10、および表1に示す通りであった。数値計算により設計した巻き線パターンに基づいて傾斜磁場コイルを製造し、製造した傾斜磁場コイルについて性能評価を行った。性能評価の結果を表2に示す。表中、DSVはdiameter spherical volumeの略語であり、関心領域のサイズに対応している。
【0112】
比較例として、米国General Electric Company製の3T MRIシステムについて公開されている性能評価の結果を表2に示す。実施例に係る傾斜磁場コイルの内径および外径の寸法は、比較例に係る傾斜磁場コイルと同程度の寸法である。以下、表2を用いて、実施例と比較例との間でコイルの性能について検討した。
【0113】
【0114】
磁場の非線形性について検討した。実施例では、磁場の非線形性を表す数値は比較例よりも低下しており、同程度の寸法であっても磁場の線形性は向上していた。残留渦電流について検討した。実施例では、残留渦電流による磁場の発生を示す割合は、比較例よりも低下していた。横断面であるX方向およびY方向については、残留渦電流の発生は約半分となっていた。
【0115】
これらのことから、実施例に係る傾斜磁場コイルは、比較例に係る傾斜磁場コイルと比較して、磁場の線形性が向上し残留渦電流による磁場の発生割合が低下していることが確認された。
【0116】
傾斜磁場効率、インダクタンス、および抵抗値について検討した。実施例では、横断面であるX方向およびY方向における傾斜磁場効率は、140[μT/m/A]であり、比較例の性能値である129[μT/m/A]から向上していた。また、実施例では、横断面におけるコイルのインダクタンスは224[μH]であり、比較例の性能値である234[μH]から向上していた。また、実施例では、横断面におけるコイルの抵抗値は85[mΩ]であり、比較例の性能値である124[mΩ]から向上していた。
【0117】
これらのことから、実施例に係る傾斜磁場コイルについて、比較例に係る傾斜磁場コイルと同程度の寸法を維持しながら、性能が向上していることが確認された。なお、コイルの性能を比較するにあたり、インダクタンスの値および抵抗値の値は、横断面であるX方向およびY方向の性能値のうち、動作のボトルネックとなる側の性能値を用いて行った。
【符号の説明】
【0118】
1(1a,1b) 第1のメインコイル(板状メインコイル)
2(2a,2b) 第1のシールドコイル(板状シールドコイル)
3(3a,3b) 第2のメインコイル(板状メインコイル)
4(4a,4b) 第2のシールドコイル(板状シールドコイル)
5(5a,5b) 第3のメインコイル
6(6a,6b) 第3のシールドコイル
7 貫通孔
8(8a,8b,8c) 冷却管
9(9a,9b,9c) 支持体
81 第1の貫通溝
82 第2の貫通溝
83 第3の貫通溝
85 略矩形状の領域
86 略台形状の領域
91(91a,91b) 仮想的なコイル面
97 性能値評価点
98 性能値評価点を設定する空間領域
99 線形領域
100 傾斜磁場コイル
101 等高線パターン