(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】トンネル覆工コンクリートの打設方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
E21D11/10 B
(21)【出願番号】P 2019013686
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・覆工コンクリート高速打設システムの実規模施工実験(平成30年9月25日~平成30年9月26日 施工技術総合研究所)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】310005294
【氏名又は名称】北陸鋼産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501360120
【氏名又は名称】テクノプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 元
(72)【発明者】
【氏名】横山 豊也
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 千尋
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108242(JP,A)
【文献】特開2002-235496(JP,A)
【文献】特開2003-064996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリートの施工方法において、トンネルの側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間にコンクリートを打設する際に用いるトンネル覆工コンクリートの打設方法であって、
前記側壁部分から前記アーチ形状部分のクラウン部に至るまでのトンネル覆工用型枠に設けられた開閉可能な圧入接続口に、
圧送配管を接続して、当該圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことで供給した後に、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを、上段の圧入接続口との間の中間部分の高さ位置に至るまで圧入することで供給するコンクリート流し込み圧入工程において、
トンネル覆工用型枠における前記圧入接続口に近接する該圧入接続口の直上部分に、トンネル覆工用型枠の型枠面から覆工空間にバイブレータ本体を進退可能に突出させる伸縮バイブレータ装置
を取り付けておき、
前記圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことで供給した後に、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口から上段の圧入接続口との間の中間部分の高さ位置に至るまでコンクリートを圧入しながら打設する工程が完了して、前記圧入接続口を閉塞した直後に、コンクリートが打設された覆工空間に前記バイブレータ本体を突出させて、直前に打設されたコンクリートを、これの周囲の滞留したコンクリートと共に加振しながら締め固める工程
が実施されるようになっており、
該直前に打設されたコンクリートを周囲の滞留したコンクリートと共に加振しながら締め固める工程では、コンクリートが打設された覆工空間に突出するバイブレータ本体の加振部は、前記圧入接続口の直上部分のフレッシュな状態のコンクリートの領域を超えて、これの両側の、直上部分から両側に広がるように流れて蓄積された、フレッシュ性に劣るコンクリートの下層部分と、閉塞した前記圧入接続口の部分とを含んだ広さの領域の部分を、同時に締め固めるようになっているトンネル覆工コンクリートの打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工コンクリートの打設方法に関し、特に、トンネルの側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間に、コンクリートを打設する際に用いるトンネル覆工コンクリートの打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば山岳トンネル工法等のトンネル工法において、掘削したトンネルの内周面の地山を覆って構築されるトンネル覆工コンクリートを形成するための方法として、セントルと呼ばれるトンネル覆工用型枠を用いる工法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。トンネル覆工用型枠50は、例えば
図5に示すように、例えば馬蹄形等のアーチ形状部分52を含む形状のトンネル53の内周面に沿って、トンネル53の側壁部55から上部に亘って設置されるものであり、設置されたトンネル覆工用型枠50と、トンネル53の内周面の吹き付けコンクリート54によって覆われる地山との間の覆工空間61に、好ましくは無筋コンクリートを打設して硬化させることにより、トンネル底部のインバート部51のコンクリートと連続させるようにして、覆工コンクリートが形成されることになる。
【0003】
また、トンネル覆工用型枠50としては、例えばバラセントルと呼ばれる組立式のトンネル覆工用型枠の他、スライドセントルと呼ばれる移動式のトンネル覆工用型枠が知られており、トンネル53の掘削作業の進行に伴って、例えば10.5m程度の所定の施工スパン毎にトンネル覆工用型枠50を据え付け直しながら、トンネル53の掘進方向の後方から前方に向かって、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネル53の側部及び上部の覆工コンクリートを、順次打設して形成して行くことになる。
【0004】
そして、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネルの側部及び上部の覆工コンクリートを打設するには、例えば
図6(a)~(d)に示すように、設置したトンネル覆工用型枠50に設けられた検査窓56からコンクリートを打設可能な高さ領域として、例えばトンネル53の側壁部55からアーチ形状部分52の肩部までの領域に対しては、検査窓56を介してコンクリート57を供給すると共に、バイブレータ58を検査窓56から挿入し、供給されたコンクリート57を締固めながらコンクリート57を打設する(
図6(a)~(c)参照)。しかる後に、検査窓56からコンクリート57を供給しながらバイブレータ58によって締固めることが困難な高さ領域として、トンネル53の冠部(クラウン部)59(
図5参照)の領域に対しては、トンネル覆工用型枠50の天端部に設けた吹き上げ投入口60から、コンクリート57を吹き上げ方式で圧入して打ち込み、直接バイブレータを用いて締固めを行うことなく、冠部59の覆工コンクリート64を形成するパターンが採用されている(
図6(d)参照)。
【0005】
より具体的には、所定位置にトンネル覆工用型枠50を設置した後に、例えば側壁部55の下部より、下段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(
図6(a)参照)と、さらに側壁部55の上部のアーチ形状部分52に向かって、中段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(
図6(b)参照)と、さらにアーチ形状部分52の冠部59の手前まで、上段の検査窓56及び必要に応じて吹き上げ投入口60を介してコンクリート57を流し込みながら、バイブレータ58を用いて締固める工程(
図6(c)参照)と、冠部59における既設の覆工コンクリート62側の部分から吹き上げ投入口60を介してコンクリート57を吹き上げ方式で圧入し、直接バイブレータを用いた締固めを行うことなく、妻型枠63までコンクリートを充填する工程(
図6(d)参照)とによって、覆工コンクリート64が打設されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-280094号公報
【文献】特開2003-262096号公報
【文献】特開2015-67949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年のトンネル工法では、掘削技術の改良によって、コンクリートの打設から養生及びトンネル覆工用型枠の脱型までの、覆工コンクリートを形成するための工程の進捗が、トンネルの切羽面を掘削する工程の進捗に追随できなくなっている。このため、例えばトンネル覆工用型枠を組み立ててからコンクリートを打設するまでの工程と、打設したコンクリートの養生の後にトンネル覆工用型枠を脱型するまでの工程とを、別々の日に行っていたものを、トンネル覆工用型枠の脱型、移動、及び組立から、コンクリートの打設までの工程を、1日のうちに終わらせて、翌日は専らコンクリートの養生期間とするといった施工方法を採用したり、或いは、トンネル覆工用型枠の延長を長くしたりするなどによって、覆工コンクリートを形成するための工程の進捗を早めすようにすることが検討されている。
【0008】
また、覆工コンクリートを形成するための工程の進捗を早めることができるようにする他の方法として、例えばトンネル覆工用型枠を用いて形成される覆工コンクリートの打設空間(覆工空間)にコンクリートを打設する際に、複数のコンクリートポンプを用いる技術(例えば、特許文献3参照)が検討されている他、コンクリートの打設時間を短くするための方法として、下段に配置された圧入接続口に圧送配管を接続した後に、当該圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことにより供給したら、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを圧入することにより供給するコンクリート流し込み圧入工程を採用することによって、ンクリートポンプから延設して設けられた例えば金属製等の硬質の材料からなる圧送管を、下段から上段に切り換えてトンネル覆工用型枠に接続してゆく、手間のかかる作業を少なくすることが検討されている。
【0009】
しかしながら、トンネルの側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間において、圧送管を接続したコンクリート圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを圧入して供給すると、圧入された流動状態のコンクリートは、フレッシュな状態で圧入接続口から直上部分に向けて上方に流出し続けると共に、流出方向の先端部分のコンクリーが両側に広がるように流れながら、当該圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域の、当該圧入接続口よりも上方の覆工空間に、滞留しつつ徐々に打ち上げられるようにして蓄積されてゆくことになる。このため、圧入接続口から直上部分に向けて上方に流出し続ける、フレッシュな状態のコンクリートと、圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域において、滞留しつつ徐々に打ち上げられるようにして蓄積されてゆくコンクリートとの間には、圧入接続口よりも上方の覆工空間にコンクリートを圧入してゆく工程の最終段階で、両側の領域に流れて滞留し始めてからの時間が長くなった、特に下層部分において、コンクリートのフレッシュ性に時間差が生じることになって、圧入接続口の直上部分のフレッシュな状態のコンクリートと、これの両側の領域に流れて蓄積されたコンクリートとの一体性が不十分になることにより、例えば脱型後の覆工コンクリートの表面に界面線が現れるなどして、覆工コンクリートの品質が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、圧入接続口よりも上方の覆工空間にコンクリートを圧入して供給する際に、圧入接続口の直上部分のコンクリートと、圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域に流れて蓄積されたコンクリートとの間に、十分な一体性が得られるようにして、品質の良好な覆工コンクリートを形成することのできるトンネル覆工コンクリートの打設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トンネル覆工用型枠を用いて覆工コンクリートを形成するトンネル覆工コンクリートの施工方法において、トンネルの側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間にコンクリートを打設する際に用いるトンネル覆工コンクリートの打設方法であって、前記側壁部分から前記アーチ形状部分のクラウン部に至るまでのトンネル覆工用型枠に設けられた開閉可能な圧入接続口に、圧送配管を接続して、当該圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことで供給した後に、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを、上段の圧入接続口との間の中間部分の高さ位置に至るまで圧入することで供給するコンクリート流し込み圧入工程において、トンネル覆工用型枠における前記圧入接続口に近接する該圧入接続口の直上部分に、トンネル覆工用型枠の型枠面から覆工空間にバイブレータ本体を進退可能に突出させる伸縮バイブレータ装置を取り付けておき、前記圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことで供給した後に、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口から上段の圧入接続口との間の中間部分の高さ位置に至るまでコンクリートを圧入しながら打設する工程が完了して、前記圧入接続口を閉塞した直後に、コンクリートが打設された覆工空間に前記バイブレータ本体を突出させて、直前に打設されたコンクリートを、これの周囲の滞留したコンクリートと共に加振しながら締め固める工程が実施されるようになっており、該直前に打設されたコンクリートを周囲の滞留したコンクリートと共に加振しながら締め固める工程では、コンクリートが打設された覆工空間に突出するバイブレータ本体の加振部は、前記圧入接続口の直上部分のフレッシュな状態のコンクリートの領域を超えて、これの両側の、直上部分から両側に広がるように流れて蓄積された、フレッシュ性に劣るコンクリートの下層部分と、閉塞した前記圧入接続口の部分とを含んだ広さの領域の部分を、同時に締め固めるようになっているトンネル覆工コンクリートの打設方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0013】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの打設方法は、前記圧入接続口に前記圧送配管を接続させて、当該圧入接続口の上方の覆工空間にコンクリートを圧入しながら打設する工程が、前記圧入接続口に圧送配管を接続して、当該圧入接続口に至るまでの下方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを流し込むことで供給した後に、引き続いて当該圧入接続口の上方の覆工空間に、当該圧入接続口からコンクリートを圧入することで供給するコンクリート流し込み圧入工程において行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトンネル覆工コンクリートの打設方法によれば、圧入接続口よりも上方の覆工空間にコンクリートを圧入して供給する際に、圧入接続口の直上部分のコンクリートと、圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域に流れて蓄積されたコンクリートとの間に、十分な一体性が得られるようにして、品質の良好な覆工コンクリートを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)~(e)は、本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設方法を説明する略示横断面図である。
【
図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設方法を説明する、(a)は略示平面図であり、(b)は略示縦断面図である。
【
図3】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設方法を説明する、(a)は略示平面図であり、(b)は(a)のA部拡大図である。
【
図4】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設方法に用いる伸縮バイブレータの、(a)は作動状態の略示正面図であり、(b)は収納状態の略示正面図である。
【
図5】従来のトンネル覆工コンクリートの打設方法において、トンネル覆工用型枠をトンネルの内周面に沿って設置した状態を説明する略示横断図面である。
【
図6】(a)~(d)は、従来のトンネル覆工コンクリートの打設方法の作業手順を説明する、一部を断面図として示す略示側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの打設方法は、例えば山岳トンネル工法等のトンネル工法において、
図1(a)~(e)に示すように、掘削したトンネル40の内周面を覆って構築される覆工コンクリート20を、セントルと呼ばれるトンネル覆工用型枠10を用いて形成する際に、より品質の良好な覆工コンクリート20を形成できるようにするための方法として採用されたものである。本実施形態では、トンネル40の側壁部分40aからアーチ形状部分40bのクラウン部40cに至るまでの覆工空間21、にコンクリートを打設する際に、好ましくは、圧入接続口11a,11bに圧送配管31の分岐管31bを接続して、当該圧入接続口11a,11bに至るまでの下方の覆工空間21に、当該圧入接続口11a,11bからコンクリートを流し込むことで供給した後に(
図1(a)、(c))、引き続いて当該圧入接続口11a,11bの上方の覆工空間21に、当該圧入接続口11a,11bからコンクリートを圧入することで供給するコンクリート流し込み圧入工程が行われるようになっている。本実施形態のトンネル覆工コンクリートの打設方法は、このコンクリート流し込み圧入工程において、圧入接続口11a,11bに、コンクリートポンプから延設する圧送配管31の分岐管31bを接続させて、当該圧入接続口11a,11bの上方の覆工空間21にコンクリートを圧入しながら打設する際に、圧入接続口11a,11bの直上部分のコンクリートと、圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域に蓄積されたコンクリートとの間に、十分な一体性が得られるようにするための方法として採用されたものである。
【0017】
すなわち、トンネルの側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間21において、圧送配管31の分岐管31bを接続したコンクリート圧入接続口11a,11bの上方の覆工空間21に、当該圧入接続口11a,11bからコンクリート22を圧入しながら供給すると、圧入された流動状態のコンクリート22は、
図3(a)、(b)に示すように、フレッシュな状態で圧入接続口11a,11bから直上部分に向けて上方に流出し続けると共に、流出方向の先端部分のコンクリート22が両側に広がるように流れながら、当該圧入接続口11a,11bの直上部分を挟んだ両側の領域の、当該圧入接続口11a,11bよりも上方の覆工空間21に、滞留しつつ徐々に打ち上げられるようにして蓄積されてゆくことになる。このため、圧入接続口11a,11bから直上部分に向けて上方に流出し続ける、フレッシュな状態のコンクリート22’と、圧入接続口11a,11bの直上部分を挟んだ両側の領域において、滞留しつつ徐々に打ち上げられるようにして蓄積されてゆくコンクリート22”との間には、圧入接続口11a,11bよりも上方の覆工空間21にコンクリート22を圧入してゆく工程の最終段階で、両側の領域に流れて滞留し始めてからの時間が長くなった、特に下層部分において、コンクリート22のフレッシュ性に時間差が生じることになって、圧入接続口11a,11bの直上部分のフレッシュな状態のコンクリート22’と、これの両側の領域に流れて蓄積されたコンクリート22”との一体性が不十分になることにより、例えば脱型後の覆工コンクリート20の表面に界面線が現れるなどして、覆工コンクリート20の品質が低下するおそれがある。このようなことから、本実施形態では、後述するトンネル覆工コンクリートの打設方法を採用することによって、圧入接続口11a,11bの直上部分のコンクリート22’と、圧入接続口の直上部分を挟んだ両側の領域に蓄積されたコンクリート22”との間に、十分な一体性が得られるようにして、品質の良好な覆工コンクリート20を形成できるようにしている。
【0018】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの打設方法は、トンネル覆工用型枠10を用いて覆工コンクリート20を形成するトンネル覆工コンクリートの施工方法において、トンネル40の側壁部分40aからアーチ形状部分40bのクラウン部40cに至るまでの覆工空間21(
図1(a)参照)に、コンクリート22を打設する際に用いる打設方法であって、
図1(a)~(e)に示すように、トンネル40の側壁部分40aからアーチ形状部分40bのクラウン部40cに至るまでのトンネル覆工用型枠10に設けられた開閉可能な圧入接続口11a、11bに、コンクリートポンプ30から延設する圧送配管31の分岐管31bを接続させて、圧入接続口11a、11bの上方の覆工空間21にコンクリート22を圧入しながら打設する工程を含んでいる。
【0019】
また、
図1(a)~(e)、及び
図2(a)に示すように、トンネル覆工用型枠10における圧入接続口11a、11bに近接する該圧入接続口11a、11bの直上部分に、トンネル覆工用型枠10の型枠面14fから覆工空間21にバイブレータ本体71(
図4(a)、(b)参照)を進退可能に突出させる伸縮バイブレータ装置70が取り付けられている。圧入接続口11a、11bの上方の覆工空間21にコンクリート22を圧入しながら打設する工程が完了して、コンクリート22の圧入を停止した直後に、コンクリート22が打設された覆工空間21にバイブレータ本体71を突出させて、直前に打設されたフレッシュなコンクリート22’を、これの周囲の滞留したコンクリート22”と共に加振しながら締め固める工程を含んでいる。
【0020】
本実施形態では、トンネル覆工コンクリートの打設方法に用いるトンネル覆工用型枠10は、トンネル40の掘進方向Xに移動可能なスライドセントルとなっており、例えば18~22m程度の延長を有するロングスパンのセントルとなっている。トンネル覆工用型枠10は、ロングスパンのセントルとなっていること以外は、例えば特開2015-67949号公報に記載されたトンネル覆工用型枠と、略同様の構成を備えている。
【0021】
すなわち、トンネル覆工用型枠10は、
図1(a)~(e)及び
図2(a)、(b)に示すように、トンネル40の掘進方向Xに連結一体化された(
図2(b)参照)、複数の門型台車13と、これらの一体化された門型台車13によって支持されると共に、例えば吹付けコンクリートによる一次覆工23によって覆われたトンネル40の内周面に沿って配置されて、覆工空間21の内側の型枠面14fを形成する型枠本体14とを含んで構成されている。門型台車13は、基台部13aと、基台部13aを支持する支持脚部13bとを備えている。支持脚部13bの下端には、トンネル40の床面に敷設されたレール24に沿って走行可能な走行部13cが設けられており、これによってトンネル覆工用型枠10は、トンネル40の掘進方向Xに移動できるようになっている。
【0022】
型枠本体14は、一次覆工23によって覆われたトンネル40の内周面に沿った形状を備えるように組み付けられており、トンネル40の内周面との間に所定の間隔をおいて配置されることにより、所定の厚さの覆工空間21を形成する。また、型枠本体14は、トンネル40のアーチ形状部分40bの上部の覆工空間21を形成する上部型枠14aと、アーチ形状部分40bの下部及び両側の側壁部分40aの覆工空間21を形成する一対の側部型枠14bと、一対の下端部型枠14cとを含んで構成されている。上部型枠14aは、門型台車13の基台部13aに設けられた複数の昇降ジャッキ15aによって、上下方向に昇降可能に支持されている。一対の側部型枠14bは、上部型枠14aの両側の下端部に各々回転可能に接続されており、一対の下端部型枠14cは、各々の側部型枠14bの下端部に回転可能に接続されている。側部型枠14b及び下端部型枠14cは、一端部が門型台車13に連結された伸縮ジャッキ15b,15cの他端部と連結しており、これらの伸縮ジャッキ15b,15cを伸縮することで、側部型枠14bや下端部型枠14cを、上部型枠14aや側部型枠14bに対して、回動できるようになっている。
【0023】
これらによって、トンネル覆工用型枠10は、昇降ジャッキ15aや伸縮ジャッキ15b,15cを伸縮させることで、型枠本体14を展開したり内側にまとめたりすることが可能になって、トンネル40の内周面に沿うように型枠本体14を組み付けたり、型枠本体14を脱型した後にトンネル40の内部で掘進方向Xに移動させたりできるようになっている。
【0024】
本実施形態では、トンネル覆工用型枠10は、例えば18~22m程度の延長を有するロングスパンの型枠としたことにより施工スパンを増大させて、工期の短縮を図ることができるようになっていることに加えて、好ましくは、前後方向(トンネルの掘進方向)Xの一方及び他方に2分割した状態となるように、分離可能な構成を備えている。トンネル覆工用型枠10を一方及び他方に分離可能な構成としたことで、トンネル覆工用型枠10の移動及びセットをロングスパンのまま一体として行えるようにして、移動及びセットの時間の短縮を図りつつも、例えばトンネル40の坑口部分や断面拡幅部分等の、異なる断面部分の覆工コンクリート20を施工する際に、これらの異なる断面部分の型枠の組み立てや打設したコンクリートの養生などのために、トンネル覆工用型枠10を、移動することなく通常よりも長い期間、同じ位置に保持しておく必要がある場合でも、例えば一方の部分をそのまま保持しておき、異なる断面部分から外れた他方の部分を分離することで、分離した他方の部分を用いることによって、覆工コンクリート20を形成する作業を進めることが可能になる。これによって、覆工コンクリート20を形成するための工程が、異なる断面部分の影響によって長引くことになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0025】
本実施形態では、トンネル覆工用型枠10によって形成された、一次覆工23で覆われたトンネル40の内周面との間の覆工空間21には、上述のように、2系統のコンクリートポンプ(コンクリートポンプ車)30及び圧送配管31を介して、コンクリート22が供給されるようになっている。すなわち、本実施形態では、コンクリートポンプ30は、
図2(a)及び(b)に示すように、セットされたトンネル覆工用型枠10を挟んだトンネルの掘進方向Xの前方及び後方に1台ずつ、2台配置されており、各々のコンクリートポンプ30のホッパー部に、コンクリートミキサー車32からコンクリート22が投入されるようになっている。前後2台のコンクリートポンプ30には、圧送配管31が各々接続されている。これらの2系統の圧送配管31を介して、2台のコンクリートポンプ30から覆工空間21に、コンクリート22を同時に圧送して、供給できるようになっている。2系統のコンクリートポンプ20及び圧送配管31を用いることにより、覆工コンクリート20を形成するための工程の進捗を、より効果的に早めることが可能になる。2台のコンクリートポンプ30を用いる場合、これらの2台のコンクリートポンプ30は、トンネル覆工用型枠10を挟んだトンネルの掘進方向Xの前方又は後方の一方(片側)に、並べて配置することもできる。
【0026】
2台のコンクリートポンプ20に接続されてコンクリートを圧送する2系統の圧送配管31は、例えば鋳鉄製の硬質のコンクリート圧送管となっており、各々、一端部がコンクリートポンプ30に接続されて、セットされたトンネル覆工用型枠10の内側に至るまで、トンネル覆工用型枠10の前後方向(トンネルの掘進方向)Xに延設して設けられた主配管31aと、主配管31aの他端部からロータバルブ31c(
図1(a)~(e)参照)を介してトンネル40の幅方向の両側に枝分かれして設けられた分岐管31bとを含んで形成されている。分岐管31bは、長さの異なる直管や湾曲管等からなる複数のピースを含んで構成されており、選択した複数のピースを組み付けて、圧入接続口11a、11bに接続するように配置されると共に、これらのピースを組み替えることによって、当該分岐管31bを、下段の圧入接続口11aから上段の圧入接続口11bに切り換えて接続したり、上段の圧入接続口11bから天頂部圧入接続口11cに切り換えて接続したりできるようになっている。
【0027】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの打設方法では、
図1(a)~(e)、及び
図2(a)、(b)に示すように、トンネル覆工用型枠10における圧入接続口11a、11bに近接する圧入接続口11a、11bの直上部分に、トンネル覆工用型枠10の型枠面14fからコンクリートの打設空間(覆工空間)21にバイブレータ本体71を進退可能に突出させる、伸縮バイブレータ装置70が、
図4(a)、(b)に示すように、バイブレータ本体71を取付け支持枠72によって支持した状態で取り付けられている。伸縮バイブレータ装置70は、トンネル覆工用型枠に取り付けて用いるバイブレータ装置として公知の、例えば商品名「伸縮式バイブレータ装置」(北陸鋼産株式会社製)を用いることができる。
【0028】
本実施形態では、伸縮バイブレータ装置70は、取付け支持枠72、バイブレータ本体71、ハンドル部73、押し込みアーム部74等を含んで構成されている。取付け支持枠部72は、公知の各種の鋼材を組み付けて形成されており、型枠本体14の型枠面14fとは反対側の、作業空間側の内側面に、溶接等により固着されている。また、取付け支持枠部72の下端部に設けられたフランジ部72aに、第一ヒンジ部72bを介して一端部が回転可能に連結されて、への字形状に曲折した部分を含むハンドル部73が取り付けられている。ハンドル部73のへの字形状に曲折した部分の折れ曲がり部には、第二ヒンジ部73aを介して、押し込みアーム部74の一端部が回転可能に連結されている。押し込みアーム部74の他端部は、取付け支持枠部72によって案内されて、型枠本体14の型枠面14fと垂直な方向に進退するバイブレータ本体71における、加振部71aと把持ロッド部71bとの接続部分に設けられたセパレートカラー部71cに、第三ヒンジ部71dを介して回転可能に連結されている。
【0029】
これらによって、例えば伸縮バイブレータ装置70のバイブレータ本体71を作動させる際には、ハンドル部73のへの字形状に曲折した部分よりも外側の部分を把持して、ハンドル部73が型枠本体14の型枠面14fと略垂直に配置された状態(
図4(b)参照)から、型枠面14fと略平行になる位置まで略90度回転させれば、
図4(a)に示すように、これに伴って押し込みアーム部73が型枠本体14側に押し込まれてゆくことで、バイブレータ本体71は、取付け支持枠部72によって案内されながら、型枠本体14に開口形成された挿通孔14eを介して、コンクリート22が打設された覆工空間21の内部に向けてスライド移動する。これによって、バイブレータ本体71の加振部71aが、トンネル覆工用型枠10の型枠本体14の型枠面14fから、コンクリート22が打設されて充填された覆工空間21に進退可能に突出する。またバイブレータ本体71の加振部71aを覆工空間21に突出させた状態から、加振部71aを加振させることにより、覆工空間21に充填されたコンクリート22を締め固めることが可能になると共に、後述するように、圧入された圧入接続口11a、11bの直上部分のコンクリート22’と、圧入接続口11a、11bの直上部分を挟んだ両側の領域に流れて蓄積されたコンクリート22”との間に、十分な一体性が得られるようにすることが可能になる。
【0030】
バイブレータ本体71の加振部71aを加振して、周囲のコンクリート22を締め固めたら、加振部71aを加振を停止した後に、ハンドル部73を把持して当該ハンドル部73を型枠面14fと略垂直に配置されるまで逆方向に回転させれば、
図4(b)に示すように、これに伴って押し込みアーム部74が、型枠本体14とは反対側に引き戻されることで、バイブレータ本体71は、加振部71aの先端を挿通孔14eの開口面に沿わせて、挿通孔14eを閉塞した状態で収納される。ここで、挿通孔14eの内径面には、バイブレータ本体71の加振部71aの外径と略同様の内径を有する、好ましくはネオプレーンゴム製のリング状のシール部材78が、嵌め込まれるようにして取り付けられている(
図4(a)、
図4(b)参照)。これによって、加振部71aの振動が型枠本体14に伝達されるのを抑制することが可能になると共に、バイブレータ本体71aの加振部71aと挿通孔14eとの間の隙間から、覆工空間21に充填されたコンクリート22が漏出するのを、効果的に回避できるようになっている。
【0031】
本実施形態では、伸縮バイブレータ装置70は、トンネル覆工用型枠10における各々の圧入接続口11a、11bに近接する、これらの圧入接続口11a、11bの直上部分に、高さ方向に300~1100mm程度の所定の間隔をおいて、1又は複数箇所(本実施形態では、各々2箇所)に設けられている。
【0032】
そして、本実施形態では、各々の圧入接続口11a、11bから、これらの上方の覆工空間21にコンクリート22を圧入しながら打設する工程が完了して、コンクリート22の圧入を停止した直後に、コンクリート22が打設された覆工空間21に伸縮バイブレータ装置70のバイブレータ本体71の加振部71aを突出させて、直前に打設されたコンクリート22’を、これの周囲の滞留したコンクリート22”と共に加振しながら締め固める工程を含んでいる。
【0033】
すなわち、例えば下段の圧入接続口11aに、圧送配管31の分岐管31bを接続して、当該圧入接続口11aに至るまでの下方の覆工空間21に、当該圧入接続口11aからコンクリートを流し込むことで供給した後に(
図1(a)参照)、引き続いて当該圧入接続口11aの上方の覆工空間21に、当該圧入接続口11aからコンクリート22を圧入したら(
図1(b)参照)、コンクリート22の圧入を停止した直後として、好ましくは圧入接続口11aを閉塞した直後に、圧送配管31の分岐管31bを上段の圧入接続口11bに切り換えて接続するのに先立って、下段の圧入接続口11aの直上部分に配置された伸縮バイブレータ装置70のバイブレータ本体71の加振部71aを、コンクリート22が打設された覆工空間21に突出させて加振する。また、例えば上段の圧入接続口11bに、圧送配管31の分岐管31bを接続して、当該圧入接続口11bに至るまでの下方の覆工空間21に、当該圧入接続口11bからコンクリートを流し込むことで供給した後に(
図1(c)参照)、引き続いて当該圧入接続口11bの上方の覆工空間21に、当該圧入接続口11bからコンクリート22を圧入したら(
図1(d)参照)、コンクリート22の圧入を停止した直後として、好ましくは圧入接続口11bを閉塞した直後に、圧送配管31の分岐管31bを天頂部の圧入接続口11cに切り換えて接続するのに先立って、上段の圧入接続口11bの直上部分に配置された伸縮バイブレータ装置70のバイブレータ本体71の加振部71aを、コンクリート22が打設された覆工空間21に突出させて加振する。
【0034】
各々の圧入接続口11aに近接してこれらの直上部分に配置された伸縮バイブレータ装置70の、コンクリート22が打設された覆工空間21に突出するバイブレータ本体71の加振部71aは、圧入接続口11a,11bの直上部分のフレッシュな状態のコンクリート22’の領域を超えて、これの両側の、直上部分から両側に広がるように流れて蓄積された、フレッシュ性に劣るコンクリート22”の領域を含めた広さの、
図3(b)の破線で示す円形領域の部分を同時に締め固めることが可能なので、これらの境界部分においてコンクリートを一体として混ぜ合わせた状態とすることが可能になる。
【0035】
したがって、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの打設方法によれば、圧入接続口11a,11bよりも上方の覆工空間にコンクリート22を圧入して供給する際に、圧入接続口11a,11bの直上部分のコンクリート22’と、圧入接続口11a,11bの直上部分を挟んだ両側の領域に流れて蓄積されたコンクリート22”との間に、十分な一体性が得られるようにして、品質の良好な覆工コンクリート20を形成することが可能になる。
【0036】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、圧入接続口は、側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでのトンネル覆工用型枠の天頂部よりも下方に、2段に設ける必要は必ずしも無く、上下方向に間隔をおいて3段以上に設けて、各々の圧入接続口からコンクリートを圧入して打設することもできる。また、側壁部分からアーチ形状部分のクラウン部に至るまでの覆工空間に供給されるコンクリートは、2系統の圧送配管やコンクリートポンプから送れられるものである必要は必ずしもなく、1系統又は3系統以上の圧送配管やコンクリートポンプから送れられるものであっても良い。
【符号の説明】
【0037】
10 トンネル覆工用型枠
11a 下段の圧入接続口
11b 上段(最上段)の圧入接続口
11c 天頂部圧入接続口
13 門型台車
13a 基台部
13b 支柱脚部
13c 走行部
14 型枠本体
14a 上部型枠
14b 側部型枠
14c 下端部型枠
14f 型枠面
15a 昇降ジャッキ
15b,15c 伸縮ジャッキ
20 覆工コンクリート
21 覆工空間
22 コンクリート
23 一次覆工
24 レール
30 コンクリートポンプ(コンクリートポンプ車)
31 圧送配管
31a 主配管
31b 分岐管
40 トンネル
40a 側壁部分
40b アーチ形状部分
40c クラウン部
70 伸縮バイブレータ装置
71 バイブレータ本体
71a 加振部
X トンネル覆工用型枠10の前後方向(トンネルの掘進方向)