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特許7320225シール材の劣化診断方法および劣化診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】シール材の劣化診断方法および劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20230727BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230727BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G01N29/11
G01H17/00 Z
G01N29/46
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019148198
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028618
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】596094577
【氏名又は名称】ユカインダストリーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
(72)【発明者】
【氏名】小西 義則
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真之
(72)【発明者】
【氏名】富永 英明
(72)【発明者】
【氏名】柳 拓也
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-075481(JP,A)
【文献】特開2019-132658(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145850(WO,A1)
【文献】特開2019-095244(JP,A)
【文献】特開2015-183362(JP,A)
【文献】国際公開第2013/190973(WO,A1)
【文献】特開2000-235022(JP,A)
【文献】特開平06-174579(JP,A)
【文献】特開2019-210809(JP,A)
【文献】特開2014-130135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
G01H 1/00-G01H 17/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、
該構造体を加振させたときに生じる振動を前記構造体に設置した振動センサで検出し、検出した振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出し、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出するとともに、前記構造体において新品状態の前記シール材で前述の如く求めた減衰量を把握し、一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とするシール材劣化診断方法。
【請求項2】
前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を診断するにあたり、
前記シール材と同じ材料からなる新品のシール材を金属フランジで挟み込んだサンプルを加熱処理し、前記新品のシール材の加熱に伴う強制的劣化試験により前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が40%~100%となるように劣化させた場合に対応する、加熱前後の減衰量の比である減衰量比を求めておき、前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合の減衰量比を把握し、この減衰量比を基準として前記構造体における一定時間経過前後の減衰量比の大きさを比較し、前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とする請求項1に記載のシール材劣化診断方法。
【請求項3】
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%以下の場合に前記減衰量比が1以上であり、
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%超90%以下の場合に前記減衰量比が1未満0.8以上であり、
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合に前記減衰量比が0.8未満であるとして、
前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1以上であると継続使用可と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1未満0.8以上であると要注意と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が0.8未満であると寿命レベルと診断することを特徴とする請求項2に記載のシール材劣化診断方法。
【請求項4】
シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、
該構造体を加振させたときに生じる振動を前記構造体に設置した振動センサで検出し、検出した振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出し、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出するとともに、
前記構造体と同じ構造の構造モデルから求めた前記シール材の圧縮永久ひずみ率100%時の減衰量を限界減衰量として規定しておき、
前記構造モデルから求めた圧縮永久ひずみ率70~80%に相当する減衰量を裕度αと規定しておき、
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量以下の場合に継続使用不可と診断し、
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α未満の場合に要注意と診断し
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α以上の場合に継続使用可能と判断することを特徴とするシール材劣化診断方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のシール材劣化診断方法において、前記振動センサで振動を検出する際、前記構造体に対し加振する位置または加振する方向を変更して複数の振動波形を観測し、これら振動波形の中に単一の振動モードが励起されている周波数スペクトルを有する振動波形が含まれていた場合、この振動波形から減衰量を算出し、該減衰量に基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とするシール材劣化診断方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のシール材劣化診断方法において、測定した振動波形が、速く減衰する振動成分と遅く減衰する振動成分が混在された振動波形であり、複数の振動モードが重なった振動波形である場合、この振動波形から必要な周波数スペクトルを抽出し、この周波数スペクトルから特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求め、この振動波形から減衰量を求め、この減衰量に基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とするシール材劣化診断方法。
【請求項7】
請求項に記載のシール材劣化診断方法において、特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求める場合、逆FFT変換、wavelet変換、Hibert-Huang変換のいずれかを用いることを特徴とするシール材劣化診断方法。
【請求項8】
シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、
該構造体を加振させたときに生じる振動による振動波形を振動センサから受け、前記振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出するとともに、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出する演算手段を備え、
前記構造体において新品状態の前記シール材で前述の如く求めた減衰量を把握し、 一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を判定する劣化状況判定手段を備えたことを特徴とするシール材劣化診断装置。
【請求項9】
前記劣化状況判定手段が、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を診断するにあたり、
前記シール材と同じ材料からなる新品のシール材を金属フランジで挟み込んだサンプルを加熱処理し、前記新品のシール材の加熱に伴う強制的劣化試験により前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が40%~100%となるように劣化させた場合に対応する、加熱前後の減衰量の比である減衰量比を求めておき、前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合の減衰量比を把握し、この減衰量比を基準として前記構造体における一定時間経過前後の減衰量比の大きさを比較し、前記シール材の劣化状況を診断する劣化状況判定手段であることを特徴とする請求項8に記載のシール材劣化診断装置。
【請求項10】
前記劣化状況判定手段が、
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%以下の場合に前記減衰量比が1以上であり、
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%超90%以下の場合に前記減衰量比が1未満0.8以上であり、
前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合に前記減衰量比が0.8未満であるとして、
前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1以上であると継続使用可と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1未満0.8以上であると要注意と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が0.8未満であると寿命レベルと診断する劣化状況判定手段であることを特徴とする請求項9に記載のシール材劣化診断装置。
【請求項11】
シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、シール材に挟まれた他の構造物を介して対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、
該構造体を加振させたときに生じる振動による振動波形を振動センサから受け、前記振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出するとともに、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出する演算手段と、
一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を判定する劣化状況判定手段を備え、
前記劣化状況判定手段が、
前記構造体と同じ構造の構造モデルから求めた前記シール材の圧縮永久ひずみ率100%時の減衰量を限界減衰量として記憶しておき、
前記構造モデルから求めた圧縮永久ひずみ率70~80%に相当する減衰量を裕度αと記憶しておき、
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量以下の場合に継続使用不可と診断し、
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α未満の場合に要注意と診断し
前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α以上の場合に継続使用可能と判断する機能を有することを特徴とするシール材劣化診断装置。
【請求項12】
前記構造体に対し加振する位置または加振する方向を変更して複数の振動波形を前記振動センサで観測し、これら振動波形の中に単一の振動モードが励起されている周波数スペクトルを有する振動波形が含まれていた場合、この振動波形から減衰量を算出する機能を前記演算手段が具備したことを特徴とする請求項8~請求項11のいずれか一項に記載のシール材劣化診断装置。
【請求項13】
測定した振動波形が、速く減衰する振動成分と遅く減衰する振動成分が混在された振動波形であり、複数の振動モードが重なった振動波形である場合、この振動波形から必要な周波数スペクトルを抽出し、この周波数スペクトルから特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求め、この振動波形から減衰量を求める機能を前記演算手段が具備したことを特徴とする請求項8~請求項11のいずれか一項に記載のシール材劣化診断装置。
【請求項14】
特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求める機能として、逆FFT変換、wavelet変換、Hibert-Huang変換のいずれかが適用されていることを特徴とする請求項13に記載のシール材劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械や装置、配管などの構造物における内部の気体あるいは液体の漏洩を防ぐ目的で使用されるシール材の劣化診断方法および劣化診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に気体あるいは液体を封じた機器の機器接続部や配管接続部等には、気密あるいは液密のためのシール材が用いられている。例えば、油入変圧器は内部に絶縁油を封じており、変圧器本体と付属品の接続箇所には絶縁油が漏洩しないようにシール材が用いられている。
シール材の材質には主に高分子材料が用いられ、とりわけゴムを主原料としたシール材が多く用いられる。ゴムは高分子材料であるため、長期間の使用で酸化劣化等の劣化が進行し、ゴム弾性が低下する。ゴム弾性とは外力によって変形したゴムが、高い内部応力によって瞬時に元の形状に復元する性質を指し、元の形状に復元しようとする力でシール性を発揮している。ゴム弾性が劣化により低下すると密閉性が低下し内部流体が漏洩する可能性が高くなることから、シール材の劣化状態を見極めて適切な時期にシール材を交換することが必要である。
【0003】
シール材の劣化診断は、一般的には使用機器からシール材を取り外し、化学組成、物性等の測定が行われる。油回転真空ポンプのような小型かつ分解も容易な機器であれば、定期的にシール材を取り外し、必要に応じて交換することが出来るが、電力用機器など容易に機器を停止できない上に、分解も容易でない機器は、撤去時やオーバーホール時にしかシール材を採取することができない。例えば、油入変圧器に使用されるシール材の劣化を評価するためには、変圧器から付属品を取り外し、シール材を採取する必要がある。
そのためには、まず変圧器を電力系統から切り離し、次いで内部の絶縁油をポンプ車により抜油する。抜油後付属品をクレーン車で釣りながら、ボルトを外し変圧器本体と付属品を切り離すなどの多大な労力と時間を有する。また、仮に機器からシール材を取り外せたとしても、シール材の劣化状態に関わらず一度機器から取り外したシール材は再利用することができないため、機器に取り付けられた状態のままシール材の劣化を診断できることが望ましい。
【0004】
構造物内部の状態を評価する試験法はいくつか開示されており、中でも比較的容易に行える評価方法として加振試験が様々な分野で応用されている(特許文献1~4、非特許文献1参照)。
加振試験では構造物をハンマなどで加振(打撃)し、加振により生じた振動を加速度センサ等で検出する。加振により発生する振動は構造物内部の状態を反映したものとなるため、振動特性と劣化を関連付けることが出来れば劣化診断への応用が可能である。
【0005】
特許文献1に記載の技術は予め形状、材質、特性が判別されている基準物に打撃を与えて基準物から発生する振動の共振周波数および減衰係数の関係に対して新品域、要取替域、材質判別域を領域化し、該領域における基準となる共振周波数および減衰係数の関係に対して基準物に固有の劣化傾き特性を設定する工程を有する。また、特許文献1に記載の技術は、前記測定した被測定物の共振周波数および減衰係数の関係の前記領域化された材質判別域における関係から被測定物の材質を特定する工程と、前記測定した被測定物の共振周波数および減衰係数の関係に対して対応する前記基準劣化傾き特性を特定する工程を有する。更に、特許文献1に記載の技術は、前述のように特定された劣化傾き特性に対する前記新品域の関係からおよび前記劣化傾き特性に対する前記要取替域の関係からそれぞれ被測定物の亀裂量および被測定物の寿命を算出する工程とを有することを特徴とした物品の劣化診断方法である。
【0006】
特許文献1に記載の劣化診断装置は、予め形状、材質、特性が判別されている基準物に打撃を与えて基準物から発生する振動の共振周波数および減衰係数の関係に対して基準物の材質、亀裂量および寿命を含む劣化特性に関するデータを記憶しているデータベース手段と、被測定物に打撃を与える打撃手段と、該打撃により発生する被測定物の振動の共振周波数および減衰係数を測定する振動測定手段を有する。特許文献1に記載の劣化診断装置は、前述のように測定した被測定物の共振周波数および減衰係数の関係に対応する前記データベース手段の前記データから、被測定物の材質、亀裂量および寿命を含む劣化特性を求める劣化演算手段とを有することを特徴とする。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、同じ厚さの部分を有するコンクリート構造物において、予め測定対象のコンクリート構造物の健全部を加振して共振周波数を測定し、健全部の基準共振周波数スペクトルを作成する。次に、他の測定部を加振して測定部共振周波数を測定し、該測定部共振周波数スペクトルを作成し、作成した両共振周波数スペクトルを重ね合わせて、両共振周波数スペクトルのずれの程度を分析することによって内部組織の劣化度合を判定する。
特許文献2に記載の技術によれば、健全部のスペクトルと比較して複雑になっている複雑さの度合を分析、あるいは、スペクトルのピークが鈍っている度合を分析することによって、測定個所のセメントの軟質化、亀裂、鉄筋のコンクリートからの遊離等の程度を測定することができる。
【0008】
また、特許文献2に記載の第2発明の概要は、ほぼ同じ厚さの部分を有するコンクリート構造物において、予め測定対象のコンクリート構造物の健全部を加振して健全部での振動の基本モードの基準共振周波数を検出しておく。次に、該基準共振周波数から基準位相速度の値を算出するとともに、他の測定部を加振して前記基準共振周波数の付近での振動の共振周波数のピークを検出する。そして、該ピークでの測定部の共振周波数から振動の位相速度値を算出し、両位相速度値を比較し、その差の値を分析することによって内部組織の劣化度合を判定する。以上の第2発明によれば、定量的に鉄筋コンクリート構造物の内部組織の劣化度合を判断することができる。
【0009】
特許文献3に記載の技術は、鉄道車両の防振部材である軸ばねゴムに直接打撃を加え、軸ばねゴムを振動させ、その振動特性に基づいて劣化状況を判定するものである。
この技術によれば、軸ばねゴムの加振により生じた振動を検出し、新品と使用品の振動加速度の時間変化や加速度/加振力を測定し、新品と使用品の測定結果を比較することで使用品の劣化状況を判定することができる。
使用品が劣化していると判定する目安は、時間の経過とともに使用品の振動加速度の振幅が新品の振動加速度の振幅に比べて小さくなる場合や、使用品の振動加速度の周期が新品の振動加速度の周期に比べて短い場合、使用品の振動加速度/加振力の1/3オクターブバンド分析結果と、新品の振動加速度/加振力の1/3オクターブバンド分析結果との比較を行う。そして、使用品の振動加速度/加振力が新品の振動加速度/加振力に比べて全体的に高周波数側にシフトしている場合、振動波高値が使用期間の増加に対して総合的に増加する場合、振動レベル値が使用期間の増加に伴って増加する場合に、軸ばねゴムが劣化していると判定される。
【0010】
特許文献4に記載の技術は、シール部材を挟んで締結された二つの部材のうちの一方の部材を加振手段により加振し、該加振による該一方の部材の振動に応じて該二つの部材のうちの他方の部材に生じる振動を振動検出手段により検出する。特許文献4の技術は、該振動検出手段で検出された該他方の部材の振動信号を変換手段によりフーリエ変換して得られる該他方の部材の振動のパワースペクトルを用い、該シール部材の良否を判定する検査方法である。
この検査方法では、前記変換手段から出力された該他方の部材の振動のパワースペクトルのピーク周波数及びそのゲインを基準の振動のパワースペクトルのピーク周波数及びそのゲインと比較することにより該シール部材の良否を判定することを特徴としている。また、基準の振動のパワースペクトルのピーク周波数及びそのゲインの点を中心に、この点よりもピーク周波数及びゲインの双方について幅をもたせた領域を設定し、変換手段から出力された該他方の部材の振動のパワースペクトルのピーク周波数及びそのゲインが該領域から外れた場合、該シール部材に異常があると判定することを特徴としている。
【0011】
非特許文献1には、2枚の鋼板の間に樹脂膜を挟んだ拘束型制振鋼板(以下、制振鋼板)の両端自由はり及び片持ちはりの曲げ振動に対する振動減衰特性試験方法について記載されている。所定の保持方法で固定した制振鋼板に対してハンマ、電磁加振機、インパルスハンマを用いて加振し、生じた減衰自由振動波形において、応答変位の極大値X、X、・・・Xを読み取り、横軸にXk+1、縦軸にXをとってプロットし、原点を通り各点を結ぶ直線の傾きθから下記の(1)式より損失係数(η)を求める。
【0012】
【数1】
【0013】
また、非特許文献1には、加振によって得られた周波数応答曲線を求め、任意の共振ピークにおいてi次の共振周波数fiと、伝達関数の絶対値が最大値より3dB下がった点での周波数fi1,fi2を読み取り、下記の(2)式より損失係数(η)を求める方法が示されている。
【0014】
【数2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開昭62-293151号公報
【文献】特許第3340702号公報
【文献】特開2006-90811号公報
【文献】特許第3646551号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】JIS G0602 制振鋼板の振動減衰特性試験方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上の特許文献に共通するのは、被測定物に打撃を与え、その結果生じる振動を測定し、得られた振動波形や共振周波数スペクトルの変化から被測定物の健全性を評価する技術の開示である。従来技術では、基準となるデータとの差異で良否を判定する場合が多いが、シール材が使用されている部位は測定物毎に形状が様々であり、その構造毎に複雑な振動特性を有することから、測定物毎に基準物を用意するのは困難である。
シール材は複数の構造物に挟まれた状態で使用されるため、その共振周波数スペクトルは各構造物の共振周波数と構造物同士の接触により生じる共振周波数が重畳したものとなるため、極めて複雑な形状となる。したがって従来技術のように共振周波数スペクトルを測定するだけでは劣化状況を解析するのは困難である。
また、特許文献3では新品との差異を評価するのみであり、定量的な評価には言及していない。特許文献4ではシール材を含む構造物の良否の判定はできてもシール材の劣化の程度を定量的に示すまでには至っていない。
【0018】
シール材を挟み込んだ構造物は制振材料とみなすことができ、非特許文献1に記載の技術によって構造物の損失係数を評価すれば、シール材の特性変化を検出可能と考えられるが、非特許文献1で規定する制振鋼板に比べシール材を挟み込んだ構造物は構造が複雑であり、多数の振動モードを有することから、非特許文献1の試験法を直接適用することは困難である。
【0019】
よって、本発明における課題は、機械や装置、配管などに取り付けられたシール材の劣化状況を非破壊で測定し、簡便かつ高い精度で診断する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)本発明のシール材劣化診断方法は、シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、該構造体を加振させたときに生じる振動を前記構造体に設置した振動センサで検出し、検出した振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出し、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出するとともに、一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とする。
【0021】
(2)本発明は、(1)に記載のシール材劣化診断方法において、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%以下の場合に前記減衰量比が1以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%超90%以下の場合に前記減衰量比が1未満0.8以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合に前記減衰量比が0.8未満であるとして、前記減衰量比が1以上であると継続使用可と診断し、前記減衰量比が1未満0.8以上であると要注意と診断し、前記減衰量比が0.8未満であると寿命レベルと診断することを特徴とする。
(3)本発明は、()に記載のシール材劣化診断方法において、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%以下の場合に前記減衰量比が1以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%超90%以下の場合に前記減衰量比が1未満0.8以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合に前記減衰量比が0.8未満であるとして、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1以上であると継続使用可と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1未満0.8以上であると要注意と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が0.8未満であると寿命レベルと診断することを特徴とする。
【0022】
(4)本発明は、シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、該構造体を加振させたときに生じる振動を前記構造体に設置した振動センサで検出し、検出した振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出し、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出するとともに、前記構造体と同じ構造の構造モデルから求めた前記シール材の圧縮永久ひずみ率100%時の減衰量を限界減衰量として規定しておき、前記構造モデルから求めた圧縮永久ひずみ率70~80%に相当する減衰量を裕度αと規定しておき、前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量以下の場合に継続使用不可と診断し、前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α未満の場合に要注意と診断し前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α以上の場合に継続使用可能と判断することを特徴とする。
(5)本発明は、(1)~(4)のいずれか一項に記載のシール材劣化診断方法において、前記振動センサで振動を検出する際、前記構造体に対し加振する位置または加振する方向を変更して複数の振動波形を観測し、これら振動波形の中に単一の振動モードが励起されている周波数スペクトルを有する振動波形が含まれていた場合、この振動波形から減衰量を算出し、該減衰量に基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とする。
(6)本発明は、(1)~(4)のいずれか一項に記載のシール材劣化診断方法において、測定した振動波形が、速く減衰する振動成分と遅く減衰する振動成分が混在された振動波形であり、複数の振動モードが重なった振動波形である場合、この振動波形から必要な周波数スペクトルを抽出し、この周波数スペクトルから特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求め、この振動波形から減衰量を求め、この減衰量に基づいて前記シール材の劣化状況を診断することを特徴とする。
(7)本発明は、(6)に記載のシール材劣化診断方法において、特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求める場合、逆FFT変換、wavelet変換、Hibert-Huang変換のいずれかを用いることを特徴とする。
【0023】
(8)本発明のシール材劣化診断装置は、シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、対向する金属フランジ間にシール材を介し構造物を介在させて前記対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、該構造体を加振させたときに生じる振動による振動波形を振動センサから受け、前記振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出するとともに、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出する演算手段を備え、前記構造体において新品状態の前記シール材で前述の如く求めた減衰量を把握し、一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を判定する劣化状況判定手段を備えたことを特徴とする。
【0024】
(9)本発明の(8)に記載のシール材劣化診断装置において、前記劣化状況判定手段が、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を診断するにあたり、前記シール材と同じ材料からなる新品のシール材を金属フランジで挟み込んだサンプルを加熱処理し、前記新品のシール材の加熱に伴う強制的劣化試験により前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が40%~100%となるように劣化させた場合に対応する、加熱前後の減衰量の比である減衰量比を求めておき、前記新品のシール材の圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合の減衰量比を把握し、この減衰量比を基準として前記構造体における一定時間経過前後の減衰量比の大きさを比較し、前記シール材の劣化状況を診断する劣化状況判定手段であることを特徴とする。
(10)本発明の(9)に記載のシール材劣化診断装置において、前記劣化状況判定手段が、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%以下の場合に前記減衰量比が1以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が80%超90%以下の場合に前記減衰量比が1未満0.8以上であり、前記新品のシール材の強制的劣化試験により求めた圧縮永久ひずみ率が90%を超える場合に前記減衰量比が0.8未満であるとして、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1以上であると継続使用可と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が1未満0.8以上であると要注意と診断し、前記一定時間経過後に前記構造体で求めた前記減衰量比が0.8未満であると寿命レベルと診断する劣化状況判定手段であることを特徴とする。
【0025】
(11)本発明のシール材劣化診断装置は、シール材を介し対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であるか、または、シール材に挟まれた他の構造物を介して対向する金属フランジを突き合わせて連結した構造体であって、内部に存在する流体を前記シール材で封じた構造体に対し、該構造体を加振させたときに生じる振動による振動波形を振動センサから受け、前記振動波形から前記シール材を介した特定の振動モードの周波数スペクトルを抽出するとともに、該周波数スペクトルに該当する振動波形から減衰量を算出する演算手段と、一定時間経過後に再度同じ手順で減衰量を算出し、一定時間経過前後の減衰量の比である減衰量比を求め、前記減衰量比の大きさに基づいて前記シール材の劣化状況を判定する劣化状況判定手段を備え、前記劣化状況判定手段が、前記構造体と同じ構造の構造モデルから求めた前記シール材の圧縮永久ひずみ率100%時の減衰量を限界減衰量として記憶しておき、前記構造モデルから求めた圧縮永久ひずみ率70~80%に相当する減衰量を裕度αと記憶しておき、前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量以下の場合に継続使用不可と診断し、前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α未満の場合に要注意と診断し、前記構造体で求めた減衰量が限界減衰量+裕度α以上の場合に継続使用可能と判断する機能を有することを特徴とする。
(12)本発明の(8)~(11)のいずれかに記載のシール材劣化診断装置において、前記構造体に対し加振する位置または加振する方向を変更して複数の振動波形を前記振動センサで観測し、これら振動波形の中に単一の振動モードが励起されている周波数スペクトルを有する振動波形が含まれていた場合、この振動波形から減衰量を算出する機能を前記演算手段が具備したことが好ましい。
(13)本発明の(8)~(12)のいずれかに記載のシール材劣化診断装置において、測定した振動波形が、速く減衰する振動成分と遅く減衰する振動成分が混在された振動波形であり、複数の振動モードが重なった振動波形である場合、この振動波形から必要な周波数スペクトルを抽出し、この周波数スペクトルから特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求め、この振動波形から減衰量を求める機能を前記演算手段が具備したことを特徴とする。
(14)本発明の(13)に記載のシール材劣化診断装置は、特定のピークのみの振動モードの振動波形を逆演算により求める機能として、逆FFT変換、wavelet変換、Hibert-Huang変換のいずれかが適用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、構造体を加振する位置または方向を変更して振動させたときに生じる単一の振動モードの振動波形を振動センサにより計測し、この振動モードから求めた周波数スペクトルから減衰量を算出し、この減衰量に基づいてシール材の劣化状況を把握することができる。
従って、本発明によれば、非破壊かつ簡便な工程で機械や装置、配管などに取り付けられたシール材の劣化状況を診断し、把握することができ、シール材の交換の要否を外部診断で判定することができる。
【0027】
また、振動センサが計測した振動波形に複数の振動モードが重畳され、複雑な振動波形であったとしても、周波数スペクトルの中から特定のピークのみを有する振動モードを抽出し、逆演算により振動波形を求めることで、減衰量を算出し、この減衰量に基づいてシール材の劣化状況を把握することができる。
【0028】
上述のようにシール材の劣化を診断する場合、新品時のシール材の減衰量と比較し、所定時間経過後に測定した減衰量との減衰量比を求め、予め定めておいた評価基準に基づき、シール材の劣化状況を診断し、把握できる。
また、圧縮永久ひずみ率100%の時の減衰量を限界減衰量と規定し、限界減衰量から一定量の裕度を定めた劣化評価基準を定めておけば、新品時の減衰量が不明なシール材であっても劣化診断ができる。
【0029】
前述の逆演算を行う場合、逆FFT変換、wavelet変換、Hibert-Huang変換のいずれを用いても特定のピークを有する周波数スペクトルから振動波形を求めることができ、シール材の劣化診断を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係るシール材の劣化診断方法を実施する場合に行う加振試験について説明するための図であり、(A)は加速度センサを設置した対象物にハンマで加振した状態を示す説明図、(B)はシール材を有する対象物に加速度センサを設置し、対象物をハンマで加振した状態を示す説明図、(C)は(A)に示す加振試験により振動センサが計測した振動波形を示すグラフ、(D)は(B)に示す加振試験により振動センサが計測した振動波形を示すグラフである。
図2】シール材を介し管フランジとバタフライ弁を接続した構造体の一例を示すもので、(A)は第1の加振試験について説明するために構造体を一側から見た斜視図、(B)は第2の加振試験について説明するために構造体を他側から見た斜視図である。
図3】振動解析により得られたバタフライ弁の振動の様子を可視化した場合の一例を示す説明図である。
図4】加振試験により得られた振動波形をフーリエ変換して求めた周波数スペクトルを示すもので、(A)は図2(A)に示す第1の加振試験により得られた振動波形の一例から求めた周波数スペクトルを示すグラフ、(B)は図2(B)に示す第2の加振試験により得られた振動波形の一例から求めた周波数スペクトルを示すグラフである。
図5】加振試験により得られる振動波形と減衰量の関係を示すもので、(A)は振動波形の一例を示すグラフ、(B)は(A)に示す振動波形をデシベル(dB)表示して減衰量を求めた結果を示すグラフである。
図6】シール材の圧縮永久ひずみ率とシール材の減衰量比の関係を示すグラフ。
図7】ハンマの先端に取り付けるチップを交換して加振した場合に各ハンマが作用させ得る周波数特性を示すグラフ。
図8】ハンマの先端に取り付けるチップを交換して加振した場合に各ハンマにより得られる振動波形をフーリエ変化して求めた周波数スペクトルを示すグラフ。
図9】本発明の一実施形態に係るシール材の劣化診断方法の一例を示すフローチャートである。
図10】同シール材の劣化診断方法を実施する場合に用いる劣化診断装置の一例を示す構成図。
図11】圧縮永久ひずみ率と加振試験結果を関係付けることを目的として、シール材の劣化と減衰量の変化を求めるために用いたフランジボトルについてハンマによる加振位置と振動センサの設置位置を示す斜視図。
図12】加振試験により複数の振動モードが混在した場合に目的の振動モードを選択して減衰量比を求める過程を示すもので、(A)は加振試験において振動センサが計測した元の振動波形を示すグラフ、(B)は(A)に示す元の振動波形からフーリエ変換により求めた周波数スペクトルを示すグラフ、(C)は目的の周波数スペクトルのみを抽出した状態を示すグラフ、(D)は抽出した周波数スペクトルから逆FFTにより振動波形を求めた結果を示すグラフである。
図13】本発明に係るシール材の劣化診断方法に用いて好適な加振装置の一例を示す断面図。
図14図13に示す加振装置の動作について示すもので、(A)は初期状態を示す断面図、(B)はノブを引いた状態を示す断面図、(C)はハンマを突き出した状態を示す断面図、(D)は初期状態に戻した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るシール材の劣化診断方法に関する一実施形態について詳しく説明する。まず、第1実施形態において採用する加振試験による診断方法の原理について説明する。
加振試験とは、図1(A)に示すように対象物3をハンマ1で加振(打撃)し、その結果生じる振動を振動センサ2で検出する試験方法である。加振により発生する振動特性は対象物3の構造によって決まり、図1(B)に示すように対象物3の内部にシール材4が存在すると、シール材4の弾性力によって対象物3の振動特性が変化することに基づいてシール材4の特性変化を検出することができる。
なお、ハンマ1の先端に交換自在なチップ1aを有するハンマを使用することが好ましい。このチップ1aを構成材料毎に複数用意しておき、チップ1aを変更することで異なる周波数帯域の加振ができる。なお、このチップ1aと周波数帯域の関係については後に詳述する。
【0032】
図1(A)に示すように対象物3が1枚の金属板である場合、振動センサ2が計測する振動加速度(m/s)は図1(C)に示すように単調に徐々に減少するタイプの振動波形として得られるが、シール材4が存在する場合に振動センサ2が計測する振動加速度が示す波形は、図1(D)に示すように減衰割合が指数関数的に大きくなる振動波形として観測される。しかし、シール材4の弾性力が変化すると、振動特性が変化するので、振動特性の変化から、シール材4の弾性力の変化を把握することが可能となる。
つまり、劣化が進展し、シール材4の特性が変化すれば振動特性もそれに応じて変化することから、本手法によれば、シール材4の硬さの変化や圧縮による変形等を検出することが可能であり、稼働中の機器からシール材を採取しなくてもシール材の劣化評価が可能になると考えられる。
【0033】
機械や装置、配管などのような構造物は、通常多数の固有振動モードを有し、これらのモードの振動数はその構造物の材質、形状によって様々である。加振により励起される振動数は構造物の固有振動モードに沿ったものとなるが、どのモードが励起されるかは加振する位置、方向等によって変化する。
本発明者らは、シール材を含む構造体の振動モードについて調査した結果、加振する位置、方向を適宜な位置とするならば、特定の振動モードのみを励起させることができることを見出した。
例えば、図2(A)に示すように油入変圧器で使用されるバタフライ弁6はバタフライ弁6の前後にシール材7を介して管フランジ8が接続された構造体9となっている。この構造体9に関し、フランジ面を加振した場合はバタフライ弁6と管フランジ8が一体として動く振動モードが励起される一方で、バタフライ弁6の側面のみを加振すると、バタフライ弁単体の振動を励起させることができる。
【0034】
一体的な構造体9としての振動は、シール材7の特性変化の影響を受けにくく、診断指標として適切ではない。一方、バタフライ弁6単体の振動であればシール材7を介した振動であるため、シール材7の特性変化がより顕著に現れる。つまり、シール材7を含む一体的な構造体9の振動モードの内、特定の構造物単体(バタフライ弁6単体)の固有振動モードのみを励起させることで、シール材7の劣化を高い精度で検出することが可能になると考えられる。
また、特定の振動モードのみを励起できない場合であっても、予め構造物単体の固有振動数を把握しておくことができるならば、特定の周波数成分のみを抽出して振動波形を再現することにより、同様の評価が可能になると考えられる。さらに、目的の周波数成分が明らかであるならば、加振力が目的の周波数以下になるように加振することにより、余計な振動モードを除外して評価することが可能になると考えられる。
【0035】
内部を流体が流れる配管においてその管フランジ8をシール材7を介し接続した構造体9において、シール材7は長期間の使用により劣化が進行し、密封性が低下し、シール材7を介した接合部分から内部流体が漏洩する可能性が高くなる。シール材7の劣化は、圧縮量に対する永久ひずみ量の割合として表される圧縮永久ひずみ率で評価するのが一般的とされている。
【0036】
そこで、本実施形態では、シール材の劣化を圧縮永久ひずみ率で定義し、圧縮永久ひずみ率と加振試験結果を関係付けることにより、シール材の劣化診断を可能とする。
【0037】
使用中のシール材は構造物からの圧縮応力を受けて変形する。シール材が新品の場合は圧縮応力を取り除けば元の形状に戻るが、シール材が劣化品の場合は、横方向への塑性変形による厚さの減少や永久ひずみ量の増加により圧縮永久ひずみ率が増加している。圧縮永久ひずみ率の増加はシール材の弾性力の低下を意味し、構造体へ作用する弾性力が低下することで、構造体の振動特性が変化する。
構造体内部のシール材は制振材料としても作用し、生じた振動エネルギーを熱エネルギーへと変換することで振動を減衰、抑制する。そのため、加振により生じた振動はシール材の制振作用により減衰を受ける。シール材の制振作用はシール材の弾性力に応じて変化する。
【0038】
つまり、シール材の劣化により圧縮永久ひずみ率が増加すると、シール材の弾性力が低下し、流体漏れが発生し易くなるとともに、シール材による振動の抑制作用も低下することから、加振試験により生じた振動の減衰特性を評価することでシール材の劣化診断が可能になると考えられる。
振動の減衰特性を評価する手順として、シール材を含む構造体への加振により生じた振動を加速度センサ等で計測する。その際の加振位置は構造物単体の固有振動のみを励起させるような箇所で加振を行うことが好ましい。
加振位置の決定については加振時の振動の様子を可視化することで、最も効率的に計測できる点を見極めることが出来る。振動の様子の可視化には、有限要素法や実験モード解析などを利用できる。
【0039】
本実施形態では実験モード解析による加振位置の決定方法について以下に説明する。
実験モード解析とは、対象となる構造物の形状を座標軸上に定義し、その各々のポイントにおける周波数応答関数(伝達関数)を測定し、位相とゲインの情報から、これらの構造体が共振(振動し易い周波数で振動する)した時の振動モード形を可視化する方法である。
一例として、油入変圧器のタンク本体とラジエータ等を接続するバタフライ弁の実験モード解析による加振位置決定方法について以下に説明する。まず、バタフライ弁と管フランジの構造において、図2のように座標を定義し、測定点を決める。
管フランジ8については、矩形状のフランジ面を6行×10列のセルに区分するように各セルの境界線を区分線として設定し、管フランジ8の上面と下面を6行×2列のセルに区分するように各セルの境界線を区分線として、管フランジ8の両側面については2行×10列のセルに区分するように各セルの境界線を区分線として設定する。バタフライ弁6については、その上面と下面を6行×4列のセルに区分するように区分線を設定し、両側面を4行×10列のセルに区分するように区分線を設定する。そして、これら全ての区分線の交点の部分を測定点に設定する。
【0040】
また、図2に示す座標区分の設定基準は一つの例であって、図2に示す場合よりも更に小さいセルに区分するように、あるいはより大きなセルに区分するように区分線を設定しても良い。しかし、測定点が多すぎると測定に手間がかかり、測定点が少なすぎると特定の構造物に特異な振動モードが励起されていることを発見し難くなるので、測定対象の構造体について例えば20~50ヶ所程度の測定点を設定できる区分であることが望ましい。なお、この区分数については構造体が大規模構造物である場合はこの範囲に限らず、更に細分化しても良い。
図2においては管フランジ8を備えた配管10について、その厚みや長さを略して記載し、配管10の位置のみを記載し、管フランジ8、8とバタフライ弁6を貫通してこれらを一体化したボルトやナットは記載を省略している。
更に、図2では略しているが、一方の管フランジ8に接続された配管10の他端側には変圧器タンクなどの変圧器構造物が接続され、他方の管フランジ8に接続された配管10の他端側にはラジエータ、ブッシング、リレー配管などの他の変圧器構造物が接続されている。このため、図2に示す構造体9において、一方の配管10の他端側は変圧器構造物により拘束されて振動抑制され、他方の配管10の他端側も変圧器構造物により拘束されて振動抑制されている。
【0041】
図2(A)、(B)に示す区分線の交点が測定ポイントとなるが、全ての測定ポイントで測定する必要はなく、未測定点は周囲の測定点のデータから補間することもできる。
図2(A)(B)に例示するように、本実施形態では、面を正面から見た時の上側右の測定ポイントをS1と定め、上側中S2、上側左S3、中段をS4~6、下段をS7~9のように定めた。対面側の測定ポイントも同様にS10~18、上面をS19~26、下面をS27~35と定めた。なお、上面中段中はバタフライ弁6の図示していないハンドルがあるため、測定ポイントからは除外している。なお、後に説明する可視化の過程において、ハンドルは無いものとして扱い、他と同様にフラットな形状であると仮定して計算している。
【0042】
また、図2(A)に示す構造体9は、鋼管からなる配管(外径:103mm、内径 93mm)の端部に厚さ25mm、高さ×幅(170×170)mmの鋼板からなる管フランジを備えた構造物を一対と、厚さ50mm、高さ×幅(170×170)mmのバタフライ弁を有する。このバタフライ弁の両側に厚さ6mm、外径×内径(143mm×125mm)のニトリルブタジエンゴム(NBR)製ゴムリングからなるシール材を介挿させ、管フランジとバタフライ弁の外枠を貫通したボルトとこれらボルトに螺合するナットで一体化して構造体9が構成されている。
【0043】
図2(A)、(B)に示す構造体9の場合、上述した36ヵ所の測定点を定義して以下の計測を行った。
測定はフランジ面加振であれば測定点“S1”に振動センサを取り付けた状態で測定点“S36”をハンマで加振してデータを取得する。次に、測定点“S2”に振動センサを移動し、測定点“S36”をハンマで加振してデータを取得する。測定点“S36”は、配管10の右側に位置するフランジ面の右端側の測定点である。図2(A)においては、フランジ面を左右方向に6等分する5本の区分線とフランジ面を上下方向に10等分する9本の区分線で区画した場合、フランジ面の左側から5番目の区分線とフランジ面の上側から5本目の区分線が交わる交点を加振することとする。
以降同様に測定点を移動させながらハンマで加振して順次測定を行い、定義したすべての測定点でデータを取得する。この時使用する振動センサは3次元の振動を可視化するため、3軸の振動センサを用いる。
【0044】
以上の測定データを用いて実験モード解析を行い、構造体9の3次元振動の様子を可視化した。3軸の振動センサを36ヶ所の測定点に設置して測定位置毎のデータを取得するならば、振動センサを設置した位置毎の3次元的な振動を計測できるので、左右の管フランジ8とそれらにシール材を介して挟まれたバタフライ弁6が個々にどのような方向に振動しているのか、可視化する(アニメーション表示する)ことができる。
【0045】
図2(A)に示す構造体9に関し、特徴的な共振周波数における振動モードを可視化したところ、比較的低い周波数領域(3kHz前後)では上下を軸とした回転運動、いわゆるヨーイングと呼ばれる振動モードであることがわかった。また、周波数が高くなるにつれてヨーイングに膨張収縮振動が重畳し、比較的高い周波数領域(7kHz以上)になると膨張収縮振動がより顕著に現れることがわかった。
【0046】
図2(A)に示す構造体9において、フランジ面の加振で生じる構造体9のヨーイングによる振動は、構造体9そのものの振動であるため、シール材7の影響を受けにくい振動である。一方、高周波領域で見られた膨張収縮振動はバタフライ弁6の構造物単体としての振動モードであるため、シール材7の評価に適した振動モードであると考えられる。
そこでこのバタフライ弁6の構造物単体としての振動モードである膨張収縮振動をより強く励起させるため、バタフライ弁6の側面、図2(B)に示す測定点“S14”を加振した。測定は測定点“S1”に振動センサを取り付けた状態で測定点“S14”を加振してデータを取得する。次に、測定点“S2”に振動センサを移動し,測定点“S14”を加振してデータを取得する。次に、測定点“S14”を除いて測定点をS3~S35まで順次移動し、測定点“S14”を加振してデータを取得する。
以上のように測定点を移動させながら加振と測定を順次行い、定義したすべての測定点でデータを取得する。この測定データを用いて実験モード解析を行い、バタフライ弁6と管フランジ8、8の振動の様子を可視化した。
その一例を図3に示す。図3では、管フランジ8がその両側に存在する変圧器構造物により振動抑制されているが、バタフライ弁6は1つの構造物として強く振動していることが分かった。
【0047】
以下に、構造体9などの対象物の振動の様子をアニメーション表示させて可視化する手法について述べる。
対象物表面の振動を表現するには、対象物表面に有限個の座標点を定め、各座標点における変位の方向と大きさを再現することになる。各点の運動は複雑ではあるが、周期運動であることから、周波数の異なる単振動の重ね合わせで表すことが可能である。そこで、各点の時間軸で表される振動をフーリエ変換して周波数ごとの振幅を求める。
次に、特定の周波数について、各点がどのような相対的な位相差を持って振動しているか求める。具体的には、座標点のうち任意な2点間の位相差を求めることが必要であり、伝達関数を求めることで達成される。
【0048】
伝達関数とは、ある一点(A点)を単位大きさの力で加振してもう一点(B点)で応答、すなわちどれだけの振幅と位相をもって振動するかを示した量である。そこで、座標点のうち一点を加振点とし、残りの座標点すべてに振動センサを設置して加振試験する。この伝達関数にはマックスウェルの相反定理という性質があり、B点を加振してA点で応答を測定した場合にも同じ伝達関数が得られるというものである。
よって、加振点に振動センサを設置した測定はしていないにも関わらず、各座標点間の応答関数はすべて求めることができる。また、1つの振動センサを用いて加振試験して、振動センサを順次移動させることにより、すべての座標点間の応答関数を求めることもできる。
また、同様に、振動センサを1箇所に固定して設置し、残りの座標点を順次加振していくことでもすべての応答関数を求めることが可能であり、センサ設置のし易さやハンマでの加振のし易さに応じて測定方法を選択することができる。
【0049】
そして、座標点のうちある一点を基準点とし、ある周波数について基準点が単振動する様子に合わせて、残りの座標点がその点における振幅と基準点との位相差を持って単振動する様子を市販のソフト“Vibrant Technology社製の解析ソフトME'scopeVES”を用いるなどすれば、対象物表面の振動の様子を解析ソフトを作動させているパーソナルコンピュータの表示画面上にアニメーション表示することができる。
図3はバタフライ弁をフランジ板で挟み込んだ構造体に対し、図2(A)、(B)に示す測定点に対し、上述の手法に基づき、各測定点の単振動する様子を捉え、アニメーション表示している状態の1画面を切り取って示す説明図である。
【0050】
図4(A)にフランジ面の“S36”を加振し、測定点“S5”において測定した振動波形をFFT(fast Fourier transform:高速フーリエ変換)によりフーリエ変換して求めた振動の周波数スペクトルを示し、図4(B)にバタフライ弁6の測定点“S14”を加振し、測定点“S5”において測定した振動波形をFFTによりフーリエ変換して求めた振動の周波数スペクトルを示す。
【0051】
図4(A)に示すようにフランジ面の加振では複数の共振周波数が見られていたが、図4(B)に示すバタフライ弁側面の加振では一つの共振周波数のみが特に強く励起された周波数スペクトルが得られた。その共振周波数における振動モードを可視化したところ、バタフライ弁6の膨張収縮振動であることがわかった。
なお、バタフライ弁側面の加振では、フランジ面加振で見られたヨーイング等の振動はほとんど励起されなかった。フランジ面加振では管フランジ8の固有振動,バタフライ弁6の固有振動,バタフライ弁構造としての固有振動が重畳して非常に複雑な周波数特性となったが、バタフライ弁6の側面加振ではバタフライ弁の固有振動が強く励起されるため、相対的にその他による振動が小さくなり、シンプルな周波数特性が得られた。
【0052】
この実施形態では、ほぼ単一の周波数特性が得られていることから、加振により得られた振動波形から直接振動の減衰量を求めることが出来る。
減衰量の算出は、図5(A)に示す振動波形が得られた場合、この振動波形の信号を図5(B)に示す如くデシベル表示(振動比の対数表示)へ変換する。
振動は指数関数的に減少していくため、図5(B)に示すようにデシベル表示にすると振動波形は各波の頂点を結ぶ右下がりの直線部分を描くことができる波形となり、この直線の傾きが時間あたりの減衰量(dB/sec)を表し、減衰特性の指標となる。
【0053】
上記例のように単一の振動モードのみを励起させることが困難な場合もある。
このような場合は、必要な周波数スペクトルのみを抽出し、逆FFTにより特定の周波数成分のみの振動波形を再現することで評価が可能となる。
この場合、振動波形をFFTによりフーリエ変換し、周波数スペクトルを求める。
前述の実験モード解析等で特定したシール材の特性を反映した振動モードに由来する振動数のみを抽出し、逆FFTにより振動波形を再現することができる。
【0054】
なお、シール材の特性を反映した振動モードに由来する振動数が低周波数領域(6kHz以下)にあり、かつ、構造物由来の振動モードが高周波数領域(8kHz以上)にある場合は、加振するハンマ先端のチップ材質を柔らかい材質(樹脂製あるいはゴム製)へ変更し、高周波数領域を励起しないようにすることでも特定の振動モードのみを励起させることが出来る。
【0055】
図7はハンマ1の先端部に取り付けたチップ1aを交換自在に構成し、金属製のハードチップを備えたハンマと、樹脂製のミディアムチップを備えたハンマと、硬度の異なるゴム製のソフトチップを備えたハンマを使い分けて加振試験を行った場合に得られる周波数スペクトルの測定結果を示す。
ハードチップを備えたハンマは10kHzまで加振できることがわかり、ミディアムチップを備えたハンマは5kHzまで加振できることがわかり、硬度の高いゴム製のソフトチップを備えたハンマは4kHzまで加振できることがわかり、硬度の低いゴム製のソフトチップを備えたハンマは2kHzまで加振できることがわかる。
【0056】
図7に示す4種類の周波数スペクトルに基づいて加振できる4種類のハンマを使い分けて加振試験を先に説明した図4(A)に示すフランジ面加振の条件で行った場合に得られる振動波形をFFTによりフーリエ変換して求めた周波数スペクトルを図8に示す。
図8に示す結果から、ハードチップ(メタルチップ)を備えたハンマは0~10kHzまでの広い周波数領域で周波数スペクトルを得ることができるが、ミディアムチップを備えたハンマでは5kHzまでの周波数領域で周波数スペクトルを得ることができ、硬度の高いゴム製のソフトチップを備えたハンマは2kHzまでの周波数領域で周波数スペクトルを得られるとわかる。
このことから、ハンマに装着するチップを使い分けることで目的の周波数領域を励起できることがわかった。
【0057】
図9はこれまで説明した本実施形態に係るシール材の劣化診断方法を実施する場合のフローチャートであり、図10はシール材の劣化診断方法を実施する場合に用いるシール材の劣化診断装置の一例を示す構成図である。
本実施形態の劣化診断装置Aは、前述の構造体9に沿わせて配置される振動センサ(加速度センサ)2と、この振動センサ2からの出力信号を受けて増幅する信号増幅器(振動センサアンプ)25とこの信号増幅器25からの出力を受ける信号解析器26とこの信号解析器26に接続された演算装置27を主体として構成されている。なお、図10においては説明の簡略化のために、配管10、10の管フランジ8、8の間にバタフライ弁6が介在された構造体9を略記するとともに、配管10、10の他端側に接続されている変圧器のタンク28とラジエータ29を簡略記載した。
【0058】
一例として、図10に示す解析器26と演算装置27はパーソナルコンピューターから構成され、演算装置27がCPUであり、メモリやハードディスクなどの記憶装置が解析器26に搭載されている。また、解析器26の記憶装置には図5(A)に示す振動波形をデシベル表示して図5(B)に示す直線の傾きを算出して減衰量を算出する機能と、図5(A)に示す振動波形からFFTによるフーリエ変換を行って図4(A)に示す周波数スペクトルのグラフを求める機能が組み込まれている。
また、後に説明する図6に示す減衰量比と圧縮永久ひずみ量の関係からシール材の劣化を診断する機能が組み込まれ、図4(B)に示す周波数スペクトルの特定のピークから逆FFTにより振動波形を求める機能と、この振動波形からデシベル表示を介して減衰量を算出する機能が組み込まれている。
【0059】
本実施形態に係るシール材の劣化診断方法では、図9に示すステップS1において構造体9に対する加振位置を特定する。
加振位置の特定は、先に図2(A)、(B)を基に先に説明したように構造体9の管フランジ8、8の外周面とバタフライ弁の外周面に対し複数の座標軸を設定し、ステップS1においてハンマ1による加振位置を上述のように決定し、ステップS2においてハンマ1による加振を行い、ステップS3においてハンマ1による加振に伴う振動波形を上述のように計測する。
この後、座標軸の各交点に振動センサ2の設置位置を変更しながら全ての測定点において加振と測定を繰り返す。振動波形の測定結果のグラフは全て解析器26の記憶装置に記録する。
【0060】
得られた振動の測定結果に対し、ステップS4において個々にFFTによるフーリエ変換を行い、周波数スペクトルのグラフを求め、解析器26の記憶装置に結果を記録する。
【0061】
全ての測定点において測定が終了したならば、ステップS6において振動モードの可視化を行い、例えば、図2(A)に示す構造体9であるならば、バタフライ弁6が構造物単体としての振動モードを有しているか否か確認する。
可視化により、バタフライ弁が構造物単体としての振動モードを有していると判断できるならば、先に説明した通り、以下の順序で測定を行う。
【0062】
バタフライ弁6の構造物単体としての膨張収縮振動をより強く励起させるため、バタフライ弁6の側面、測定点“S14”を加振する。測定は測定点“S1”に振動センサを取り付けた状態で測定点“S14”を加振してデータを取得する。次に、測定点“S2”に振動センサを移動し,測定点“S14”を加振してデータを取得する。次に、測定点“S14”を除いて測定点をS3~S35まで順次移動し、測定点“S14”を加振してデータを取得する。
【0063】
ステップS5において周波数スペクトルのグラフを確認し、図4(A)に示すような複数の振動ピークが含まれている複雑な波形のグラフではなく、図4(B)に示すように単純な1つの振動ピークを有するグラフであった場合、ステップS7においてフーリエ変換する以前の図5(A)に示す元の振動波形から、図5(B)に示すデシベル表示への変換を行い、直線部分の傾きを演算装置27で算出し、減衰量比(dB/sec)を求める。
ここでは、適当と思われる測定点(バタフライ弁であれば側面を加振して加振方向と同じ軸方向で振動を計測)で測定して振動データを取得し、周波数スペクトルを確認し、単一の周波数特性が得られればステップS7へ移行し、複雑な周波数特性が得られた場合やより詳細な評価が必要な場合にステップS6において可視化を行い、解析する周波数を特定する。
【0064】
また、ステップS5において周波数スペクトルのグラフを確認し、図4(A)に示すような複数の振動ピークが含まれている複雑な波形のグラフであることをステップS5で確認した場合は、ステップS8において先に説明したように特定周波数のスペクトルを抽出し、ステップS9において先に説明したように逆FFT変換を行って特定の周波数成分のみの振動波形を再現する。
FFTによるフーリエ変換により複数のピークが現れる場合、それぞれのピークが十分に離れていれば、解析したいピーク以外の振幅は無視して逆FFT変換により解析したいピークのみの生波形(振動波形)を抽出することができ、この振動波形から減衰量を求めることができる。
【0065】
その方法の1つは「1自由度のローカルフィット法」と呼ばれる。また、ピークが十分離れていないか、さらに正確な減衰を求めるには、「多自由度のグローバルフィット法」と呼ばれる方法にて複数のピークに対して同時に周波数と減衰を求める必要がある。
その解析手法は複雑であるが、市販の計算ソフトを用いれば容易に計算できる。本実施形態ではVibrant Technology社製の解析ソフトME'scopeVESを用いて解析することができる。
【0066】
例えば、図4(A)に示す周波数スペクトルから、前述の実験モード解析等で特定したシール材の特性を反映した振動モードに由来する振動数のみを図4(B)に示すように抽出し、逆FFT変換により図5(A)等に示すような振動波形を再現することができる。
この振動波形からステップS10において先に説明したように図5(B)に示すようにデシベル表示を行い、減衰量を算出することができる。なお、この手法の詳細については後の実施例3において詳述する。
【0067】
次に、ステップS11において演算装置27が圧縮永久ひずみ率と減衰量比の関係からシール材の劣化診断を行う。
本実施形態では、シール材の劣化を圧縮永久ひずみ率で定義し、圧縮永久ひずみ率と加振試験結果を関係付けることにより、シール材の劣化診断を可能とする。
【0068】
(圧縮永久ひずみ率と加振試験結果の関連付け:新品シール材減衰量が明らかな場合)
本発明者は、圧縮永久ひずみ率と加振試験結果を関係付けることを目的として、シール材の劣化と減衰量の変化を検討するため、図11に示すステンレス製のフランジボトル30のフランジ31と蓋板32の間にシール材(NBR製ゴム:硬さ60)33を圧縮率25%で挟み込み、100℃、120℃、および、150℃に設定した恒温槽内に設置し、100日経過後に取り出し、加熱前後のフランジボトル30の振動特性(減衰量比)、圧縮永久ひずみ率を評価した。
【0069】
フランジボトルは、外径70mm、内径60mmのステンレス鋼管の両端に厚さ10mm、外径130mmの管フランジが一体化された配管部を有している。また、両方の管フランジを閉じるように厚さ10mm、外径130mmのステンレス鋼製の蓋板を厚さ5mmのリング状シール材を介しボルトで一体化した構造体である。
ハンマ1による加振位置は図11に示す上側の蓋板32の上面側右隅端部とし、その対角位置となる上側のフランジ板31の下面側左隅端部に振動センサ(加速度センサ)34を取り付けて測定を行った。また、ハンマ1による他の加振位置は図11に示す下側のフランジ板31の上面側右隅端部とし、その対角位置となる下側の蓋板32の下面側左隅端部に振動センサ(加速度センサ)34を取り付けて測定を行った。
【0070】
減衰特性は加熱前後の減衰量の比(減衰量比:加熱後減衰量[dB/sec]/加熱前減衰量[dB/sec])で評価した。
また、図11に示す構造体の蓋板とフランジ間に種々の新品のシール材を挟み込んだ状態で加熱処理を行い、強制的にシール材を劣化させたときのデータを採取した。加熱処理は100℃、120℃、150℃に設定した恒温槽内に試験用の構造体を設置し、所定期間加熱処理を行った後に測定した。加熱期間は100℃が7日~60日、120℃が20日~100日、150℃が12日~64日で、圧縮永久ひずみ率が40%~100%となるよう劣化させた。
以上の測定結果を図6に示す。
図6に示すように圧縮永久ひずみ率60%までは減衰量比が増加するが、さらに劣化が進行すると減衰量比が低下し始め、シール材の寿命レベルと思われる圧縮永久ひずみ率90%まで劣化させると初期値より20%程度減衰量比が低下した。
【0071】
図6に示す結果において、劣化初期の減衰量比の増加はシール材の横方向への変形による接触面積の増加に起因し、劣化後期の減衰量比の低下は永久ひずみ量の増加によるシール材厚さの減少に起因すると考えられる。この減衰量比の増減は、シール材の特性変化に起因するものであるため、対象物の構造に関係なく評価が可能と考えられる。
実施例としては新品時のシール材の減衰量を計測しておき、一定の時間経過後に再度減衰量を計測し減衰量比を求めることで、以下の表1に示すような区別に従い、シール材の劣化診断ができる。
【0072】
【表1】
【0073】
具体的には、表1の内容を解析器26の記憶装置に記憶しておき、先に求めた測定結果を上記表1の内容と対比し、演算装置27がシール材の劣化診断を実施する。
減衰量比が1以上であれば継続使用可でシール材の圧縮永久ひずみ率は80%以下(≦80%)と判断できる。減衰量比が1未満~0.8以上であれば、シール材の劣化が進んでいて圧縮永久ひずみ率としては80~90%と判断できる。減衰量比が0.8未満の場合は、シール材が寿命レベルに達しており、早期に交換などの対策が必要と判断できる。
演算装置27はこれらの判定結果をステップS12において表示装置などに表示し、シール材の劣化診断結果として出力する。
【0074】
(新品時のシール材減衰量が不明の場合)
新品時のシール材の減衰量が不明の場合、圧縮永久ひずみ率100%時の減衰量を使用限界値(限界減衰量)として規定することができる。
限界減衰量に一定量の裕度を定め、構造物の減衰量からシール材の継続使用可否を診断することができる。なお、使用限界値は対象構造物の構造モデルを製作することで推定できる。また、機器の撤去時などにシール材のみを取り外した状態で加振試験を実施することや、構造物の一部を用いて構造モデルを製作することでも使用限界値を求めることが出来る。
裕度αは対象とする構造物毎に任意に設定することが出来、圧縮永久ひずみ率70~80%に相当する減衰量から設定することが望ましい。油入変圧器の本体とラジエータを接続するバタフライ弁の場合はα=500が設定値として適していると考えられる。
【0075】
【表2】
【0076】
測定結果を上記表2に当てはめ、診断を実施することができる。
減衰量が限界減衰量+α以上であれば継続使用可でシール材の圧縮永久ひずみ率は<70~80%以下と判断できる。減衰量が限界減衰量以上~限界減衰量+α未満であればシール材の劣化が進んでいて圧縮永久ひずみ率としては70~80%を超過していると判断できる。減衰量が0.8未満の場合はシール材が入っていない状態と等しく、継続使用不可と判断できる。
演算装置27はこれらの判定結果をステップS12において表示装置などに表示し、シール材の劣化診断結果として出力することができる。
【0077】
以上説明の如く、本実施形態によれば、非破壊かつ簡便な工程で機械や装置、配管などに取り付けられたシール材の劣化状況を診断し、把握することができ、シール材の交換の要否を外部診断で判定することができる。
以下、実施例に従い本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下に説明する実施例に拘束されるものでは無い。
【実施例
【0078】
(第1実施例)
1次電圧66kV、2次電圧6.9kV、定格容量6000kVA、1969年製の油入変圧器の本体と付属品であるラジエータはバタフライ弁を介して接続されており、このバタフライ弁の接続部に使用されていたシール材の劣化状況を加振試験により診断した。この接続部は図2(A)に示す構造と同等であるため、加振位置は前述したバタフライ弁の実験モード解析結果に従い、バタフライ弁の側面とし、加振面の反対側に設置した加速度センサにより振動を計測した。
得られた振動波形をFFTによりフーリエ変換し、周波数スペクトルを求めた結果、ほぼ単一の周波数スペクトルが得られたため、振動波形から直接減衰量を求めた結果、減衰量2487dB/secと求められた。
【0079】
当該変圧器は既設品であるため、初期減衰量が不明であった。そこで、事前に別の変圧器で使用されていた同一型のバタフライ弁を用いて構造モデルを製作し、構造モデルの加振試験から初期減衰量1520dB/secおよび限界減衰量1056dB/secを得た。
この結果を基に減衰量比を求めると1.6となり、シール材は圧縮永久ひずみ率80%以下であり継続使用可と診断できた。また、限界減衰量から評価しても、限界減衰量+500dB/secを上回っており、継続使用可と診断できた。
後日、この油入変圧器について撤去する機会があったので、当該変圧器の撤去時にシール材を採取し、圧縮永久ひずみ率を計測した結果、圧縮永久ひずみ率48%となり、診断結果と一致し、継続使用可のシール材であった。
【0080】
(第2実施例)
1次電圧33kV、2次電圧6.9kV、定格容量6000kVA、1989年製の油入変圧器の本体と付属品であるラジエータはバタフライ弁を介して接続されており、このバタフライ弁部に使用されていたシール材の劣化状況を加振試験により診断した。
加振センサ位置は(第1実施例)と同様である。得られた振動波形をFFTによりフーリエ変換し、周波数スペクトルを求めた結果、ほぼ単一の周波数スペクトルが得られたため、振動波形から直接減衰量を求めた結果、減衰量1686dB/secと求められた。
【0081】
第1実施例と同様に構造モデルの加振試験を基に減衰量比を求めると1.1となり、シール材は圧縮永久ひずみ率80%以下であり継続使用可と診断できた。また限界減衰量から評価しても、限界減衰量+500dB/secを上回っており、継続使用可と診断できた。ただし、管理基準値1556dB/secに対して100dB/secしか差が無く、かなり劣化が進んできている状態と判断できた。
後日、当該変圧器の撤去時にシール材を採取し、圧縮永久ひずみ率を計測した結果、圧縮永久ひずみ率70%となり、診断結果と一致した。
【0082】
(第3実施例)
1次電圧66kV、2次電圧6.9kV、定格容量15000kVA、1972年製の油入変圧器の本体とラジエータを繋ぐバタフライ弁を変圧器撤去時に収集し、バタフライ弁の前後に管フランジを取り付け、バタフライ弁構造モデルとし、圧縮永久ひずみ率91%相当のシール材を挟み込み、加振試験を行った。
【0083】
加振位置はバタフライ弁のフランジ面とし、加振面の反対側に設置した加速度センサにより振動を計測した。
得られた振動波形を図12(A)に示す。図12(A)に示す振動波形には、速く減衰する振動成分と該減衰より遅く減衰する振動成分が混在しており、このままでは単一モードの減衰量を算出することはできない。
得られた振動波形をFFTによりフーリエ変換し、周波数スペクトルを求めた結果を図12(B)に示す。
図12(B)に示す周波数スペクトルに示すように、複数のピークが現れた。個々のピークはそれぞれ固有の振動モードの応答の大きさを表している。それらの振動モードのうち、シール材の粘性が運動に影響している振動成分について減衰量を評価する。
【0084】
重なった振動モードを分離して振動モードごとに減衰量を求めるには、逆FFT変換、wavelet変換、Hilbert-Huang変換などいくつかの方法があるが、ここでは逆FFT変換を用いる方法について説明する。
FFT変換にて複数ピークが現れる場合でも、それぞれのピークが十分に離れていれば、解析したいピーク以外の振幅は無視して逆FFT変換により解析したいピークのみの生波形を抽出することができ、減衰量を求めることができる。
【0085】
そのような方法は「1自由度のローカルフィット法」と呼称されるが、ピークが十分離れていないか、さらに正確な減衰を求めるには、「多自由度のグローバルフィット法」と呼ばれる方法により、複数のピークに対して同時に周波数と減衰を求める必要がある。
その解析手法は複雑であるが、市販の計算ソフトを用いれば容易に計算できる。
ここではVibrant Technology社製の解析ソフトME‘scopeVESを用いて解析した結果を示す。
【0086】
まず、抽出したいピークを定め、カーブフィッティングしてピークの周波数と減衰を求めた。どの周波数にピークが存在するかは周波数スペクトルの位相が反転する位置から求められる。
また、抽出するピークは各周波数における振動モードを解析し、シール材の運動に関係した振動モードを選択する。本実施例では周波数6.3kHzのピークが、バタフライ弁単体の固有振動であったので、6.3kHzのピークを選択した。
次に抽出した周波数スペクトルに対して逆FFT変換にて振動波形を再現することで、6.3kHzの周波数における振動波形のみが再現され、減衰量を求めることが出来る。
【0087】
なお、Vibrant Technology社製の解析ソフトME‘scopeVESによれば、カーブフィッティングした時点で臨界減衰比(Damping(%))を求めることができる。
臨界減衰比は臨界減衰係数と実際の減衰との比をとったものであるため、劣化後の臨界減衰比(Damping(%))を劣化前の臨界減衰比(Damping(%))で除すことによっても減衰量比を求めることが出来る。
【0088】
図12(C)に示す周波数スペクトルから、逆FFT解析で得られた図12(D)に示す振動波形から、減衰量を求めた結果、減衰量1249dB/secを求めることができた。バタフライ弁構造モデルに新品シール材を挟み込み、初期減衰量を求めた結果、減衰量1627dB/secを求めることができた。この結果を基に減衰量比を求めると、0.77となり、このシール材は圧縮永久ひずみ率90%以上であり、寿命レベルであると診断され、挟み込んだシール材の仕様と一致した。
【0089】
(加振装置)
図13は本発明において構造体を加振する場合に用いて好適な加振装置の一例を示す断面図である。
この例の加振装置40は、中空の外装体41の先端側内部にハンマチップ42を備えた質量可変ハンマ43を外装体41に沿って前後方向に移動自在に備え、ハンマチップ42と質量可変ハンマ43の間にフォースセンサ45が組み込まれている。外装体41の後部側には質量可変ハンマ43に接続されたねじ軸46が接続され、このねじ軸46が外装体41の後端壁41aを貫通して外装体41の外部に突出されている。
【0090】
外装体41の内部側であって、質量可変ハンマ43の後端部側にねじ軸46に軸支されたトリガープレート47が介挿され、外装体41の外部に突出されたねじ軸46の後端部にリリース位置調整ナット48が螺合されている。外装体41の後端壁41aとリリース位置調整ナット48との間に位置するねじ軸46にはリリーススプリング49が巻装され、外装体41の内部側であって、トリガープレート47と外装体41の後端壁41aとの間に位置するねじ軸46にはハンマスプリング50が巻装されている。また、外装体41の後部側側壁の一部に図示略の挿通孔が形成され、この挿通孔を貫通するようにトリガーチップ51が設けられている。このトリガーチップ51はその先端部側で挿通孔を通過して外装体41の内部に侵入自在に構成されている。
【0091】
なお、外装体41の先端部にはハンマチップ42の先端部が通過できる大きさの透孔が形成され、この透孔を覆うように弾性体からなる当接板53が設けられている。なお、図13においてはこの当接板53の記載を略し、当接板53は図14に表示している。
また、外装体41の先端部下面側にフォースセンサ45の接続コネクタ55が設けられ、この接続コネクタ55に信号伝達用のケーブルが接続されている。このケーブルは図10に示す増幅器25を介し信号解析器26に接続される。
【0092】
以上構成の加振装置40の動作について図14(A)~(D)を元に以下に説明する。
加振装置40は図14(A)に示す初期状態において、外装体41の先端より若干内側にハンマチップ42の先端を望ませた状態でハンマチップ42が外装体41内に収容されている。
この状態から、図14(B)に示すようにリリース位置調整ナット48を後方に引いてハンマスプリング50を外装体41の後端壁41aに押し付けつつハンマスプリング50を縮小させ、トリガープレート47がトリガーチップ51の後方に移動したならば、トリガーチップ51を外装体41の内部に押し込んでトリガープレート47を係止する。
【0093】
次に、加振装置40の当接板53を構造体9の加振位置、例えば、バタフライ弁6の側面の加振位置に押し当てて静止する。
この状態から、図14(C)に示すようにトリガーチップ51によるトリガープレート47の係止を解除すると、ハンマスプリング50のばね力によりハンマチップ42の先端部が前方に移動してハンマチップ42の先端部が当接板53の先方に所定量突出する。
この操作によりバタフライ弁6の側面にハンマチップ42の先端を衝突させて一定の加振力をバタフライ弁6の側面に加えることができる。
先の実施形態において説明したようにハンマ1を用いて加振する場合と比較し、加振装置40を用いることで常に一定の加振力(衝撃力)をバタフライ弁6の側面に付加することができる。
【0094】
ハンマチップ42の先端をバタフライ弁6の側面に衝突させた後、外装体41の後端壁41aにリリーススプリング49が衝突し、反力が作用するので、ハンマチップ42は外装体41の内側に引き戻される。これにより、図14(D)に示すように加振装置40を初期状態に戻すことができる。
図13図14に示す加振装置40を用いて図2(A)、(B)に示す各点に衝撃を加えて加振し、振動センサ2を用いて振動波形を記録することで、本願の目的を達成することができる。
図13図14に示す加振装置40であるならば、常に一定の打撃力で加振できるので、人力でハンマ1により加振する場合に比べ、安定した加振による振動検出ができる。
また、加振装置40に設けたフォースセンサ45により、図7に示すように加振力と加振力の周波数特性を計測することができる。
【0095】
なお、これまで説明した実施例と実施形態においては、バタフライ弁6の両側にシール材7を介し、配管10を接続した構造体9に対し本発明を適用した例について説明した。しかし、本発明を適用する範囲はこれらの例に限るものではなく、1つのシール材の両側に配管を接続した構造に適用しても良いのは勿論である。
よって、シール材の両側に配置される第1の部材と第2の部材は、バタフライ弁と配管の組み合わせである場合、配管と配管の組み合わせである場合、その他、種々の構造物どうしの組み合わせである場合のいずれの場合であっても良い。
【符号の説明】
【0096】
1…ハンマ、1a…チップ、2…振動センサ(加速度センサ)、3…対象物、4…シール材、6…バタフライ弁、7…シール材、8…管フランジ、9…構造体、10…配管、
S1、S2、~S36…測定点あるいは加振点、
A…劣化診断装置、25…アンプ(信号増幅器)、26…信号解析器、27…演算装置、28…タンク、29…ラジエータ、30…フランジボトル30、31…フランジ、32…蓋板、33…シール材、34…振動センサ(加速度センサ)、
40…加振装置、41…外装体、42…ハンマチップ、43…質量可変ハンマ、45…フォースセンサ、46…ねじ軸、47…トリガープレート、48…リリース位置調整ナット、49…リリーススプリング、50…ハンマスプリング、51…トリガーチップ、53…当接板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14