(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】代用乳製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/147 20160101AFI20230727BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20230727BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20230727BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20230727BHJP
A23K 50/60 20160101ALI20230727BHJP
【FI】
A23K20/147
A23K10/20
A23K20/158
A23K50/10
A23K50/60
(21)【出願番号】P 2018242086
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2020-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000201652
【氏名又は名称】全国酪農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100134706
【氏名又は名称】中山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 光宏
(72)【発明者】
【氏名】三枝 亮仁
(72)【発明者】
【氏名】村山 恭太郎
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】津熊 哲朗
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5795602号明細書(US,A)
【文献】特開2005-218307号公報(JP,A)
【文献】特開2007-222131号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全乳と水とを混合して混合物にする工程と、
粗タンパク質の含有率が重量で30%以上35%以下、粗脂肪の含有率が重量で8%以下であり、乳化剤を含有した粒に形成された代用乳用配合飼料を、前記混合物に溶解することにより、前記全乳に比べて脂肪が少なくタンパク質が多い、かつ、固形分中の重量割合として粗タンパク質が28%以上の代用乳とする工程と
を有する代用乳製造方法。
【請求項2】
前記代用乳の固形分中の重量割合として粗タンパク質が28%以上、粗脂肪が15%以上となるように、前記全乳と前記水と前記代用乳用配合飼料の各量を調整する
請求項1に記載の代用乳製造方法。
【請求項3】
前記全乳と前記水とを混合して前記混合物にする前記工程は、前記全乳に35℃以上45℃以下の前記水を混合する請求項
1または2に記載の代用乳製造方法。
【請求項4】
タンパク質と脂肪とを混合し、乳化剤を加えて造粒することにより前記代用乳用配合飼料とする工程
をさらに有する請求項
1ないし3のいずれか1項記載の代用乳製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代用乳製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
子牛には、一般的に生乳ではなく、代用乳を給与している。また、新生子牛は、成牛に比べて反芻胃が未成熟であり、摂取した固形飼料を消化、吸収することができない。そこで、子牛には、代用乳の給与が行われている。しかし、代用乳の給与のみでは、子牛の反芻胃を発達させることができないため、反芻胃を発達させるためにほ乳期子牛育成用配合飼料(いわゆるスターター)が給与される。子牛がほ乳期子牛育成用配合飼料を十分に摂取しないと、子牛の反芻胃が育たず、その結果、子牛の1日増体量(Daily Gain 略:DG)を十分に得られない場合がある。そこで、ほ乳期子牛育成用配合飼料を摂取し易くなるように代用乳の栄養濃度や給与量が調整されている。
【0003】
ここで、特許文献1には、3ヶ月齢未満の子牛に対し、体内エネルギー効率の高いエネルギー源を供給することができ、体内のたん白質利用率を高め、子牛の発育成績が改善されることを目的とした子牛用代用乳が開示されている。特許文献1に開示されている子牛用代用乳は、全飼料中のバリン/リジン比を75~85%、さらにリノール酸/リノレン酸比を3~10になるように設計されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、例えば分娩後の牛から搾乳した初乳や給与過剰となった移行乳、その他出荷(販売)できない生乳等は廃棄されていた。しかしながら、これらの廃棄は食品廃棄の観点から望ましくない。そこで、出荷できない全乳を活用するために子牛に全乳を給与することが検討されている。
【0006】
ところが、全乳では脂肪分の割合が多いためエネルギー量が高く、子牛は全乳だけで満足し、ほ乳期子牛育成用配合飼料を十分に摂取しない場合がある。また、全乳を子牛に給与すると、子牛が食するほ乳期子牛育成用配合飼料の量が少なくなるため、子牛への給与を全乳から固形飼料へ切り替え難くなる。このため、子牛に対する全乳の給与は、本来、発育や早期離乳の観点から望ましくないとされている。従って、子牛の発育を阻害することなく全乳を子牛に与える手法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、子牛の発育を阻害することなく全乳を子牛に給与することを可能とする、代用乳製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また本発明に係る代用乳製造方法は、全乳と水とを混合して混合物にする工程と、粗タンパク質の含有率が重量で30%以上35%以下、粗脂肪の含有率が重量で8%以下であり、乳化剤を含有した粒に形成された代用乳用配合飼料を、上記混合物に溶解することにより、全乳に比べて脂肪が少なくタンパク質が多い、かつ、固形分中の重量割合として粗タンパク質が28%以上の代用乳とする工程とを有する。代用乳の固形分中の重量割合として粗タンパク質が28%以上、粗脂肪が15%以上となるように、全乳と水と代用乳用配合飼料の各量を調整することが好ましい。全乳と水とを混合して混合物にする上記工程は、全乳に35℃以上45℃以下の水を混合することが好ましい。タンパク質と脂肪とを混合し、乳化剤を加えて造粒することにより代用乳用配合飼料とする工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、子牛の発育を阻害することなく全乳を子牛に給与することを可能とする、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る代用乳製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る代用乳用配合飼料及び代用乳製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
[1.代用乳用配合飼料の構成]
本実施形態に係る代用乳用配合飼料は、全乳に添加されて代用乳とされ、子牛(哺育牛)に給与されることを目的としたほ乳期子牛育成用代用乳用配合飼料である。なお、子牛へ給与する際に代用乳用配合飼料を溶解する溶媒として用いられる全乳は、例えば、過剰生産や分娩直後の牛から搾乳される等のために出荷できなかった全乳であり、高温加熱により殺菌されたものである。また、本実施形態における全乳とは生乳のことをいう。
【0014】
本実施形態に係る代用乳用配合飼料は、代用乳中の脂肪を全乳に比べて少なくし、かつ代用乳中のタンパク質を全乳に比べて多くするものである。より具体的には、本実施形態に係る代用乳用配合飼料は、主としてタンパク質と脂肪を混合して製造されており、タンパク質の割合が脂肪に比べて高い。これにより、代用乳用配合飼料を全乳に添加して子牛への給与に用いられる代用乳は、タンパク質が全乳に比べて高くなり、脂肪が全乳に比べて低くなる。
【0015】
ここで、全乳を子牛に給餌した場合、全乳は脂肪分が多いため子牛はほ乳期子牛育成用配合飼料(以下、「スターター」という。)を摂取しない場合があった。しかしながら、出荷できない等して廃棄される全乳を有効利用することが望まれている。
【0016】
そこで、本実施形態に係る代用乳用配合飼料を全乳に添加することで、全乳を利用し、かつ脂肪を全乳に比べて少なくした給与が可能となる。これにより、子牛が代用乳から摂取する脂肪分が全乳に比べて少なくなるため、子牛はスターターを十分に摂取することになる。また、代用乳はタンパク質が全乳に比べて多いので、全乳に比べて栄養価が高く、子牛の発育を促すことになる。
【0017】
本実施形態に係る代用乳用配合飼料に含まれるタンパク質の量は脂肪の4倍以上とされ、重量換算にて粗タンパク質は30%以上、粗脂肪は8%以下とされ、粗脂肪はより少ないほうが好ましい。代用乳用配合飼料に含まれるその他の成分は、一例として、粗灰分(ミネラル)が約10%、炭水化物が約50%、残りが水分である。
【0018】
なお、代用乳用配合飼料の粗タンパク質は30%以上、35%以下でよく、より好ましくは33%である。この理由は、乾物摂取量(DMI)を最大にすることで得られる子牛の成長速度と遺伝的能力の最大化、免疫力の向上が促されるためである。また、代用乳用配合飼料の粗脂肪は8%以下であれば極微量であってもよい。この理由は、代用乳用配合飼料が全乳に添加されて製造された本実施形態に係る代用乳に含まれる脂肪を可能な限り少なくするためである。
【0019】
これにより、一般的な全乳中の水分を除く固形分中の割合として粗タンパク質が25%であり、粗脂肪が26%であるものの、本実施形態に係る代用乳用配合飼料と水(湯)を全乳に混合して製造された代用乳は、固形分中の割合として粗タンパク質が28%以上、粗脂肪が15%以上とされる。すなわち、代用乳の固形分中の割合として粗タンパク質が28%以上、粗脂肪が全乳中の粗脂肪の割合以下でかつ15%以上となるように、全乳の量、代用乳用配合飼料の量、及び水(湯)の量が調整される。
【0020】
また、代用乳用配合飼料は、粉状とされると全乳に溶解し難い場合がある。そこで、本実施形態に係る代用乳用配合飼料は、乳化剤を加えて造粒される。これにより、代用乳用配合飼料の親水性が高まるため、代用乳用配合飼料が全乳に溶け易くなる。
【0021】
また、代用乳用配合飼料には、ビタミン及びミネラル(微量ミネラル)が含まれる。さらに、代用乳用配合飼料には、酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌等の微生物が添加されてもよいし、免疫抗体が添加されてもよい。
【0022】
[2.代用乳の製造方法]
図1は、本実施形態に係る代用乳製造方法、すなわち子牛に給与する代用乳を全乳を原材料に用いて製造する代用乳製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0023】
まず、ステップ1では、所望の代用乳の量に応じた全乳を計測する。
【0024】
次のステップ2では、所望の代用乳の量に応じた湯を計測する。なお、湯の温度は、全乳に混合した場合に、タンパク質の変性が起きない温度であり、例えば、35℃から45℃であり、好ましくは夏季が40℃、冬季が45℃である。
【0025】
次のステップ3では、全乳と湯とを混合する。なお、一例として、この全乳は前処理としてパスチャライズ(例えば60℃×60分)されており、これにステップ2で計測した湯を混合することで、この混合物(以下、「培地」ともいう。)を約45℃としている。
【0026】
次のステップ4では、所望の代用乳の量に応じた代用乳用配合飼料を計測する。
【0027】
次のステップ5では、全乳と湯との混合物に代用乳用配合飼料を溶解させて撹拌し、代用乳とする。なお、全乳に代用乳をそのまま投入撹拌すると溶解時間を要するため、全乳とお湯の培地を製造(ステップ4)し、この培地に代用乳用配合飼料(固形分)を投入撹拌することで均一に全乳に代用乳用配合飼料を混ぜることができる。また、代用乳用配合飼料と全乳だけでなく、これに水(湯)も混合されることで、製造される代用乳のタンパク質及び脂肪の割合を所望の割合に容易に調整できる。
【0028】
そして、
図1のようにして製造された代用乳を子牛に給与する。なお、代用乳が給与される子牛は、一例として、月齢が3ヶ月未満の子牛である。
【0029】
[3.試験例]
本実施形態に係る代用乳(以下、「試験代用乳」という。)を子牛に給与した場合における子牛の発育試験結果を、従来の代用乳(以下、「対照代用乳」という。)を子牛に給与した場合と比較して説明する。なお、対照代用乳を製造するために用いられる配合飼料は、全国酪農業協同組合連合会製の「カーフトップEX」とした。「カーフトップEX」は、湯に溶かすことで代用乳として従来から一般的に用いられており、スターターと共に子牛に給与されるものである。また、全乳(以下、「対照全乳」という。)のみの子牛への給与も同時に行った。
【0030】
下記表1は、子牛への給与プログラムを示した表である。対照代用乳は6頭の子牛に給与され、試験代用乳は9頭の子牛に給与され、対照全乳は9頭の子牛に給与された。
【0031】
【0032】
本試験では、「カーフトップEX」を用いた強化哺育(ハイプレーンニュートリション)の給与体系に準じて行った。このため、試験代用乳及び試験代用乳の量や固形分量等は、「カーフトップEX」を用いた対照代用乳を基準としている。
【0033】
すなわち、試験代用乳は、代用乳用配合飼料が「カーフトップEX」の半量とされ、全乳が対照全乳の半量とされ、合計が対照代用乳の合計と同量となるように湯が加えられて製造されたものである。また、対照全乳は、対照代用乳と固形分量が同等となる量である。なお、対照全乳の固形分率は12.7%とされている。
【0034】
そして、日齢が7~13日、14~20日、21~41日、42~48日、49~55日で区分けして、給与量を増減させた。より具体的には、14~20日、21~41日では、前区分に比べて給与量を増加させ、42~48日、49~55日では前区分に比べて給与量を減少させた。一方、56日からは代用乳又は全乳の給与を終えた。なお、以下の説明では、代用乳又は全乳の子牛への給与を終えることを離乳という。
【0035】
また、離乳前である7~55日では、スターターを不断給餌した。より具体的には、スターターは残飼100g以下で300gの増量を行った。また、56日から90日には、給与上限量を2,500gとしてスターターを給与した。スターターは、全国酪農業協同組合連合会製の「ニューメイクスター」である。さらに、代用乳又は全乳の給与を終えた56~90日には乾草を不断給餌した。乾草は米国産チモシーである。
【0036】
下記表2は、試験に使用した全乳の乳成分である。本試験は約2月間(55日間)に渡り行われたため、第1月と第2月に分けて全乳の乳成分を算出した。
【0037】
【0038】
表3は、給与した対照全乳と試験代用乳との固形分中のタンパク質及び脂肪の割合である。表3に示されるように、試験代用乳は本実施形態に係る代用乳用配合飼料を全乳に添加しているため、対照全乳に比べて固形分中のタンパク質の割合が増加して約29%となり、脂肪の割合が低下して約15%となった。
【0039】
【0040】
表4は、離乳前における子牛のスターターの摂取量である。対照区は、対照代用乳を子牛に給与した場合の結果であり、試験区は試験代用乳を子牛に給与した場合の結果である。表4に示されるように、試験代用乳を給与した子牛の方が対照代用乳を給与した子牛に比べて、スターターの摂取量が若干多い。すなわち、試験代用乳を子牛に給与することによって、対照代用乳を給与した場合に比べてスターターの摂取量が少なくなることは無かった。
【0041】
【0042】
表5は、試験期間中における子牛の一日毎の平均増体重である。表5に示されるように、離乳前、離乳後、及び哺育期の何れにおいても、試験代用乳を給与した子牛の増体重と対照代用乳を給与した子牛の増体重とに有意な差は無かった。すなわち、試験代用乳を子牛に給与することによって、対照代用乳を給与した場合に比べて増体重が少なくなるということは無かった。
【0043】
【0044】
以上の試験結果が示すように、本実施形態に係る代用乳用配合飼料を全乳に添加した代用乳(試験代用乳)を子牛に給与することによって、従来の代用乳(対照代用乳)を子牛に給与した場合と同様に子牛は発育した。すなわち、本実施形態に係る代用乳用配合飼料は、子牛の発育を阻害することなく全乳を子牛に給与することを可能とした。
【0045】
[3.他の実施形態]
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
例えば、上記実施形態では、全乳として生乳を用いて代用乳を製造する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、生乳の替わりに全脂粉乳を用いて代用乳が製造されてもよい。これにより、全乳を長期保存するために生乳が全脂粉乳に加工されても、この全脂粉乳を代用乳に用いることができる。なお、この場合、代用乳を製造するために混合される湯の量は、全乳として生乳を用いた場合に比べて多くされる。
【0047】
また、上記実施形態では、全乳に湯と本実施形態に係る代用乳用配合飼料を混合する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、全乳に本実施形態に係る代用乳用配合飼料のみを混合してもよい。