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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230727BHJP
【FI】
G01N27/62 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019132680
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021018100
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591058792
【氏名又は名称】日本金属化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】大間知 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 順一
(72)【発明者】
【氏名】片山 菜々子
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004298(JP,A)
【文献】特開2015-007614(JP,A)
【文献】特開2010-286476(JP,A)
【文献】特開2013-175321(JP,A)
【文献】特開2007-170985(JP,A)
【文献】特表2016-540200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化エネルギを測定対象ガスに与えることにより、前記測定対象ガスから複数のイオンを発生させるイオン発生部及び前記複数のイオンに電磁気力を作用させることにより、前記複数のイオンを質量数ごとに検出するイオン検出部を有する質量分析部と、
前記イオン発生部を制御すると共に前記イオン検出部の出力を利用して前記測定対象ガスに関する評価情報を得る制御部と、を備え、
前記制御部は、
第1イオン化エネルギに応じて生じた前記複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第1強度情報を得る第1処理と、
前記第1イオン化エネルギとは異なる第2イオン化エネルギに応じて生じた前記複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第2強度情報を得る第2処理と、
前記第1強度情報と前記第2強度情報とを比較することにより、前記評価情報を得る第3処理と、を行い、
前記制御部は、
第1の前記測定対象ガスに対して、前記第1処理、前記第2処理及び前記第3処理を行うことにより、第1の前記測定対象ガスを構成する前記イオンの強度を前記質量数ごとに比較した結果である複数の第1評価値を得る第1動作と、
第2の前記測定対象ガスに対して、前記第1処理、前記第2処理及び前記第3処理を行うことにより、第2の前記測定対象ガスを構成する前記イオンの強度を前記質量数ごとに比較した結果である複数の第2評価値を得る第2動作と、
複数の前記第1評価値及び複数の前記第2評価値に基づいて、第1の前記測定対象ガスの成分が第2の前記測定対象ガスの成分と同じであるか否かを判定する第3動作と、を行い、
前記第3動作では、複数の前記第1評価値と複数の前記第2評価値とを前記質量数ごとに比較し、すくなくとも2つの前記質量数において前記第1評価値及び前記第2評価値が等価であるときに第1の前記測定対象ガスの成分が第2の前記測定対象ガスの成分と同じであるとを判定する、ガス分析装置。
【請求項2】
前記測定対象ガスを収容したガスリザーバが接続されるガス導入部と、
第1バルブを介して前記ガス導入部に接続されて、前記ガス導入部から前記測定対象ガスを受け入れる第1ガス収容部と、
第2バルブを介して前記第1ガス収容部に接続されて、前記第1ガス収容部から前記測定対象ガスを受け入れる第2ガス収容部と、
前記質量分析部を収容する真空空間を形成する真空容器部と、
前記第2ガス収容部及び前記真空容器部に接続されて、前記第2ガス収容部及び前記真空容器部の内部圧力を制御する圧力制御部と、をさらに備える、請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記第1ガス収容部の温度を制御する第1温度制御部と、
前記第2ガス収容部の温度を制御する第2温度制御部と、
前記真空容器部の温度を制御する第3温度制御部と、をさらに備える、請求項に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2は、ガス分析装置を開示する。これらのガス分析装置は、大気等に含まれる微量ガスを繰り返し高精度で定量分析する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-234010号公報
【文献】特開2010-286476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1、2に開示されているガス分析装置では、高いイオン化効率が得られるように、イオン化エネルギをある値(70eV)に固定してイオン化を行っていた。しかしながら、イオン化効率が高くなるほど、分子が解離する度合いも大きくなる。従って、親分子の検出が困難であった。また、特許文献1、2のガス分析装置は、ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography, GC)を採用する分析装置と異なり、ガス成分を単離するためのカラムを接続していない。従って、特許文献1、2のガス分析装置は、特定のガス成分を単離できず、混合ガスの状態で導入される。その結果、特許文献1、2のガス分析装置は、成分の同定はほぼ困難であった。そのため、従来の信号データ解析では、各質量信号の大小のみで差別化しており、混合成分の差別化(半同定)は困難であった。
【0005】
つまり、特許文献1、2に開示されたガス分析装置は、測定対象ガスに含まれるイオンの質量数ごとの強度を出力する。その結果、特許文献1、2のガス分析装置は、イオン化された後の測定対象ガスに含まれる成分を知ることができる。いくつかの質量数ごとの強度を含む情報は、以下の説明において単に「スペクトル」と呼ぶ。
【0006】
しかし、測定対象ガスが混合ガスである場合には、異なる成分を含む混合ガス同士でもスペクトルの傾向が共通する場合があり得る。そのため、ある測定対象ガスのスペクトルが別の測定対象ガスのスペクトルと同じ傾向を示したとき、イオン化前の測定対象ガスの成分は、互いに同じである場合もあり得るし、互いに異なる場合もあり得る。
【0007】
本発明は、測定対象ガスの成分が同じであるか否かを判定可能なガス分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態であるガス分析装置は、イオン化エネルギを測定対象ガスに与えることにより、測定対象ガスから複数のイオンを発生させるイオン発生部及び複数のイオンに電磁気力を作用させることにより、複数のイオンを質量数ごとに検出するイオン検出部を有する質量分析部と、イオン発生部を制御すると共にイオン検出部の出力を利用して測定対象ガスに関する評価情報を得る制御部と、を備え、制御部は、第1イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第1強度情報を得る第1処理と、第1イオン化エネルギとは異なる第2イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第2強度情報を得る第2処理と、第1強度情報と第2強度情報とを比較することにより、評価情報を得る第3処理と、を行う。
【0009】
ガス分析装置は、イオン発生部が第1イオン化エネルギによって測定対象ガスから複数のイオンを生じさせる。そして、ガス分析装置は、イオン検出部が当該複数のイオンの質量数ごとに強度を取得することによって、第1強度情報を得る。さらに、ガス分析装置は、イオン発生部が第2イオン化エネルギによって測定対象ガスから複数のイオンを生じさせる。この第2イオン化エネルギは、第1イオン化エネルギとは異なっている。そうすると、第1イオン化エネルギによって生じた複数のイオンの態様と、第2イオン化エネルギによって生じた複数のイオンの態様とは、互いに異なる傾向を示す。さらに、この傾向は、測定対象ガスの成分に応じて、異なる態様を取り得る。すなわち、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスにおいて、第1及び第2イオン化エネルギに対応する強度情報には有意な差異が現れない場合であっても、第1イオン化エネルギに対応する強度情報に対する第2イオン化エネルギに対応する強度情報の変化率や差分には、差異が現れることがある。逆に言えば、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスにおいて、第1イオン化エネルギに対応する強度情報に対する第2イオン化エネルギに対応する強度情報の変化率や差分に有意な差異が現れない場合には、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスとの成分は同じである可能性が高い。従って、ガス分析装置は、測定対象ガスの成分が同じであるか否かを判定することができる。
【0010】
一形態のガス分析装置の制御部は、第1測定対象ガスに対して、第1処理、第2処理及び第3処理を行うことにより、第1評価情報を得る第1動作と、第2測定対象ガスに対して、第1処理、第2処理及び第3処理を行うことにより、第2評価情報を得る第2動作と、第1評価情報及び第2評価情報に基づいて、第1測定対象ガスの成分が第2測定対象ガスの成分と同じであるか否かを判定する第3動作と、を行ってもよい。この動作によれば、第1測定対象ガスの成分と第2測定対象ガスの成分とが同じであるか否かを好適に判定することができる。
【0011】
一形態のガス分析装置は、測定対象ガスを収容したガスリザーバが接続されるガス導入部と、第1バルブを介してガス導入部に接続されて、ガス導入部から測定対象ガスを受け入れる第1ガス収容部と、第2バルブを介して第1ガス収容部に接続されて、第1ガス収容部から測定対象ガスを受け入れる第2ガス収容部と、質量分析部を収容する真空空間を形成する真空容器部と、第2ガス収容部及び真空容器部に接続されて、第2ガス収容部及び真空容器部の内部圧力を制御する圧力制御部と、をさらに備えてもよい。これらの構成によれば、第1測定対象ガスの成分と第2測定対象ガスの成分とが同じであるか否かの判定を迅速且つ高精度に行うことができる。
【0012】
一形態のガス分析装置は、第1ガス収容部の温度を制御する第1温度制御部と、第2ガス収容部の温度を制御する第2温度制御部と、真空容器部の温度を制御する第3温度制御部と、をさらに備えてもよい。これらの構成によれば、第1測定対象ガスの成分と第2測定対象ガスの成分とが同じであるか否かの判定をさらに迅速且つ高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス分析装置によれば、測定対象ガスの成分が同じであるか否かを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態のガス分析装置の構成を示す図である。
図2図2は、コントローラの構成を示す図である。
図3図3は、ガス分析装置の動作フローを示すフロー図である。
図4図4の(a)部、図4の(b)部、図4の(c)部及び図4の(d)部は、測定対象ガスを導入する手順を示す図である。
図5図5の(a)部、図5の(b)部、図5の(d)部及び図5の(e)部は、強度情報の例示である。図5の(c)部及び図5の(f)部は、評価情報の例示である。
図6図6の(a)部は、同じ成分であると判定できる結果の例示である。図6の(b)部及び図6の(c)部は、同じ成分ではないと判定できる結果の例示である。
図7図7は、変形例に係るガス分析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
<ガス分析装置>
図1に示すように、ガス分析装置1は、ガスリザーバ2に収容した測定対象ガスを質量分析計3を用いて分析する。質量分析計3の出力結果は、コントローラ4に提供される。コントローラ4が行うデータ処理の態様は、特に限定されない。例えば、コントローラ4は、測定対象ガスの成分を同定してもよい。また、コントローラ4は、いくつかの測定対象ガスが同じ成分を有するものであるか否かを判定してもよい。
【0017】
ガス分析装置1は、ガス流路6と、真空排気装置7(圧力制御部)と、質量分析計3と、コントローラ4と、を有する。ガス流路6は、ガスリザーバ2と質量分析計3とに接続され、ガスリザーバ2から質量分析計3へ測定対象ガスを導く。真空排気装置7は、ガス流路6と質量分析計3とに接続され、これらの内部圧力(真空度)を制御する。真空排気装置7は、例えば、ターボ分子ポンプである。質量分析計3は、測定対象ガスの質量分析を行う。コントローラ4は、質量分析計3の出力結果を利用して、所望のデータ処理を行う。なお、ガスリザーバ2は、ガス分析装置1の構成要素に含めてもよいし、ガス分析装置1の構成要素に含めなくともよい。ガスリザーバ2の内部圧力は、例えば大気圧である。
【0018】
ガス流路6は、ガス導入部8と、バルブV1、V2(第1バルブ)、V3(第2バルブ)、V4、V5と、プレタンク9(第1ガス収容部)と、バッファタンク11(第2ガス収容部)と、を有する。ガス導入部8は、天然ゴム製又はシリコーン製のカバー部材である。ガス導入部8は、いわゆるセプタムである。バルブV1は、例えば、校正バルブである。バルブV3、V4は、例えばバリアブルリークバルブである。バッファタンク11の容積は、プレタンク9の容積の2000倍以上である。そして、これらの要素は、配管L1~L11によって接続されている。なお、これらの要素の接続では、要素同士を互いに直結させてもよい。また、バルブV1、V2、V3、V4、V5は、手動でその開閉が操作されてもよいし、コントローラ4によって自動でその開閉が操作されてもよい。
【0019】
具体的には、ガス導入部8は、配管L1を介してバルブV1と接続されている。バルブV1は、配管L2を介してプレタンク9と接続されている。プレタンク9は、配管L3を介してバルブV2と接続されている。バルブV2は、配管L4を介してバッファタンク11と接続されている。バッファタンク11は、配管L5を介してバルブV3と接続されている。また、バッファタンク11は、配管L7を介してバルブV4と接続されている。さらに、バッファタンク11は、配管L9を介してバルブV5と接続されている。バルブV3は、配管L6を介して質量分析計3に接続されている。バルブV4は、配管L8を介して真空排気装置7に接続されている。バルブV5は、配管L10、L8を介して真空排気装置7に接続されている。質量分析計3は、配管L11を介して真空排気装置7に接続されている。
【0020】
質量分析計3は、いわゆる四重極型の質量分析計である。質量分析計3は、真空容器12(真空容器部)と、質量分析部13と、を有する。質量分析部13は、イオン発生部14と、イオン検出部16と、を有する。
【0021】
真空容器12は、イオン発生部14及びイオン検出部16を収容する真空領域を形成する。真空容器12には、真空排気装置7が接続されている。真空容器12の内部圧力は、例えば、10―5Pa以下である。イオン発生部14は、測定対象ガスに対してイオン化エネルギを与えることにより、測定対象ガスをイオン化する。換言すると、イオン発生部14は、いわゆるイオン源である。従って、イオン発生部14は、測定対象ガスから複数のイオンを生成する。イオン発生部14は、測定対象ガスに対して所望のイオン化エネルギを付与する方式として、所望の方式を採用してよい。例えば、イオン発生部14は、熱電子を用いてイオン化エネルギを付与する方式を採用してよい。この場合において、イオン発生部14は、ヒータとフィラメントと加速電極とを有する。ヒータに所定の電流を提供することにより、ヒータが加熱される。そして、ヒータによってフィラメントも加熱される。例えば、タングステン製のフィラメントを1000℃以上に加熱するものとしてよい。フィラメントの近傍には、加速電極が配置されている。加速電極に電圧を印加すると、熱電子が電圧差に応じて加速する。つまり、熱電子にエネルギが与えられる。加速電極に与える電圧を制御することによって、熱電子のエネルギ(イオン化エネルギ)を制御することができる。なお、イオン化エネルギを制御する構成は、上記の構成に限定されない。
【0022】
イオン発生部14は、例えば第1イオン化エネルギとして40eVを設定する。また、イオン発生部14は、第1イオン化エネルギとは異なる第2イオン化エネルギとして70eVを設定する。第1及び第2イオン化エネルギの数値は、例示であって、上記の数値に限定されない。
【0023】
イオン検出部16は、4本の電極を有する。これらの電極には、直流電圧と高周波電圧とが印加される。これらの電圧を制御することによって、複数のイオンのうち特定の質量数を有するイオンのみを選別する電磁気力が発生する。その結果、所望の質量数を有するイオンを選別して、イオン検出器に導くことができる。その結果、イオン検出部16は、質量数ごとに検出されたイオンの量を、強度として得ることができる。
【0024】
図2に示すように、コントローラ4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとにより構成されたコンピュータである。ROMに記録されたプログラムがCPUによって実行されることによって、以下に示す機能的要素が実現される。
【0025】
コントローラ4は、機能的構成要素として、記憶部4aと、エネルギ制御部4bと、強度情報取得部4cと、評価情報取得部4dと、判定部4eと、を有する。
【0026】
記憶部4aは、後述するガス分析方法を実行するためのプログラム及びイオン検出部16から提供された強度情報などを記憶している。
【0027】
この強度情報は、より詳細には、質量数と信号強度との組み合わせである。そして、強度情報は、この組み合わせを複数含む。つまり、強度情報は、質量数ごとの強度を示すものであるから、強度スペクトルと呼ばれることもある。さらに、ガス分析装置1は、後述するように、1つの測定対象ガスを2以上のイオン化エネルギによってイオン化し、それぞれに対して情報を得る。つまり、強度情報は、ある測定対象ガスを第1イオン化エネルギによってイオン化した場合の強度スペクトルと、ある測定対象ガスを第2イオン化エネルギによってイオン化した場合の強度スペクトルと、を含む。従って、1つの測定対象ガスについて、少なくとも2以上の強度スペクトルが取得される。
【0028】
エネルギ制御部4bは、イオン発生部14におけるイオン化エネルギを制御する。エネルギ制御部4bは、例えば、イオン発生部14の加速電極に提供する電圧を制御するものとしてよい。
【0029】
強度情報取得部4cは、イオン検出部16および記憶部4aに接続されている。強度情報取得部4cは、イオン検出部16から強度情報を受け取る。そして、強度情報取得部4cは、受け取った強度情報を記憶部4aに提供する。
【0030】
評価情報取得部4dは、記憶部4aに接続されている。評価情報取得部4dは、記憶部4aから強度情報を受け取る。評価情報取得部4dは、強度情報を用いて評価情報を算出する。そして、評価情報取得部4dは、評価情報を記憶部4aに出力する。ここでいう評価情報とは、ある測定対象ガスを第1イオン化エネルギによってイオン化した場合の強度スペクトルと、ある測定対象ガスを第2イオン化エネルギによってイオン化した場合の強度スペクトルと、の差分である。評価情報取得部4dが行う処理の詳細については、後述するガス分析方法において詳細に説明する。
【0031】
判定部4eは、記憶部4aに接続されている。判定部4eは、記憶部4aから評価情報を受け取る。判定部4eは、評価情報を用いて判定処理を行う。そして、評価情報取得部4dは、判定結果を出力する。以下の説明において、判定部4eは、ある測定対象ガスの成分が別の測定対象ガスの成分と同じであるか否かを判定する。ここでいう「成分が同じ」とは、測定対象ガスを構成する成分の種類が共通することをいう。従って、「成分が同じ」には、成分の比率が共通することまでは含まない。判定部4eが行う処理の詳細については、後述するガス分析方法において詳細に説明する。
【0032】
上記の構成において、バルブV1、V2、V3、V4、V5と、プレタンク9と、バッファタンク11と、真空容器12と、コントローラ4と、には、これらの温度を制御する保温部材20(第1温度制御部、第2温度制御部、第3温度制御部)が設けられてもよい。また、これらを接続する各配管L1~L11にも保温部材20が設けられてもよい。例えば、保温部材20は、これらの要素の温度を80℃以上200℃以下の範囲に制御する。
【0033】
<ガス分析方法>
以下、ガス分析装置1の動作を説明する。図3に示すガス分析装置1の動作は、すなわち、ガス分析方法である。以下の説明では、測定対象ガスとして、2種類のガスGA、GBを例示する。これらのガスGA、GBは、2種類以上の成分を含むものであってよい。つまり、ガス分析装置1は、ガスクロマトグラフィーのように、分析対象となる成分を単離する必要がなく、複数の成分が混合されたままのガスを測定対象として受け入れることができる。
【0034】
ガス分析装置1を測定開始可能な状態とする。まず、バルブV1、V2を閉じる。バルブV3、V4、V5は開く。そして、真空排気装置7を駆動して、真空容器12及びバッファタンク11の内部圧力を所定の圧力に設定する。所定の圧力とは、例えば、10―5Pa以下である。所定の圧力に達したのちに、バルブV5を閉じる。このときバルブV3は、開いている。つまり、バッファタンク11から配管L5、L6及びバルブV3を介して真空容器12へ至る流路が確保されている。バッファタンク11とバルブV3とを接続する配管L5は、大きなコンダクタンスを有してもよい。バルブV3と真空容器12とを接続する配管L6には、オリフィスが配置されてもよい。
【0035】
<ガスGAを供給する>
次に、ガスGAを供給する。図4の(a)部に示す状態から、ガス導入部8にシリンジ針21の一端を差し込む。次に、シリンジ針21の他端にガスリザーバ2を差し込む。そして、ガスリザーバ2からガスGAを排出する。このとき、バルブV1は閉じているので、ガスGAは、シリンジ針21、ガス導入部8を介して配管L1まで移動する(図4の(b)部参照)。次に、バルブV1を開く。このとき、バルブV2は閉じているから、ガスGAは、配管L2を介してプレタンク9まで移動する(図4の(c)部参照)。次に、バルブV1を閉じる。バルブV2は、閉じているから、プレタンク9には、ガスGAが密閉される(図4の(d)部参照)。つまり、プレタンク9の容積に対応するだけのガスGAが採取される。
【0036】
コントローラ4は、第1動作(S10)として、ガスGAを対象とした動作を行う。この動作の結果、後述する評価情報DA(第1評価情報)が得られる。第1動作は、ガスGAを対象とした第1処理(S11)、第2処理(S12)及び第3処理(S13)を含む。
【0037】
<ガスGAに対する第1処理>
ガスGAに対する第1処理(S11)を行う。第1処理は、第1イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンごとの強度情報A1(第1強度情報)を得る。
【0038】
まず、ガスGAから複数のイオンを発生させる。イオン発生部14のフィラメントから熱電子を発生させる。熱電子の有するエネルギは、例えば、熱電子を加速するための加速電極に与える電圧により制御してよい。熱電子の有するエネルギは、イオン化エネルギである。第1イオン化エネルギは、例えば40eVである。
【0039】
次に、バルブV2を開く。バルブV2を開くと、プレタンク9の内部に充填されていたガスGAは、配管L4を介してバッファタンク11まで移動する。さらに、ガスGAは、配管L5、バルブV3、配管L6を介して真空容器12に移動する。真空容器12に移動したガスGAは、イオン発生部14においてイオン化される。第1イオン化エネルギを有する熱電子がガスGAに照射されると、当該エネルギに応じてガスGAを構成する成分がイオン化する。このとき、ガスGAを構成する一の成分から二以上のイオンが生成される。本開示では、説明を簡素化する観点から、ガスGAから質量数(n)であるイオン及び質量数(m)であるイオンの2種類が生成されたとして説明する。
【0040】
次に、強度情報取得部4cは、ガスGAに関する強度情報A1を得る。そして、強度情報取得部4cは、強度情報A1を記憶部4aに出力する。図5の(a)部に示すように、強度情報A1は、質量数(n)であるイオンを示す強度A(n1)と、質量数(m)であるイオンを示す強度A(m1)と、を含む。いま、質量数(n)は、質量数(m)とは異なる。例えば、質量数(n)は、質量数(m)よりも小さい。また、強度A(n1)は、強度A(m1)とは異なる。例えば、強度A(n1)は、強度A(m1)より大きい。
【0041】
<ガスGAに対する第2処理>
次に、ガスGAに対する第2処理(S12)を行う。第2処理は、第1イオン化エネルギとは異なる第2イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンごとの強度情報A2(第2強度情報)を得る。
【0042】
再び、ガスGAを供給する。ガスGAの供給の手順は、上述の手順と同じである。その後、ガス導入部8からシリンジ針21を抜く。つまり、ガスリザーバ2を取り外す。
【0043】
次に、ガスGAから複数のイオンを発生させる。第2処理では、第1処理とは異なり、イオン化エネルギを70eVに設定する。第2イオン化エネルギは、第1イオン化エネルギと異なる。具体的には、第2イオン化エネルギは、第1イオン化エネルギより大きくてもよいし、小さくてもよい。本開示では、第2イオン化エネルギは、第1イオン化エネルギよりも大きい場合を例示する。例えば、第2イオン化エネルギは、例えば70eVである。
【0044】
次に、強度情報取得部4cは、ガスGAの強度情報A2を得る。そして、強度情報取得部4cは、強度情報A2を記憶部4aに出力する。図5の(b)部に示すように、強度情報A2は、質量数(n)であるイオンを示す強度A(n2)と、質量数(m)であるイオンを示す強度A(m2)と、とを含む。
【0045】
<ガスGAに対する評価情報を得る処理>
次に評価情報取得部4dは、第3処理(S13)を行う。第3処理は、強度情報A1、A2を比較することにより、評価情報DAを得る。
【0046】
評価情報取得部4dは、質量数(n)の強度A(n1)、A(n2)を比較する。この比較は、例えば、除算であってもよいし、減算であってもよい。つまり、比較の結果として得られる評価値dA(n)は、変化率(A(n2)/A(n1))であってもよく、差分(A(n2)―A(n1))であってもよい。同様に、質量数(m)の強度A(m1)、A(m2)を比較する。その結果、評価値dA(m)を得る。従って、評価情報取得部4dは、評価値dA(n)、dA(m)を含む評価情報DA(図5の(c)部参照)を記憶部4aに出力する。
【0047】
<ガスGBを供給する>
次に、コントローラ4は、第2動作(S20)として、ガスGBを対象とした動作を行う。この動作の結果、後述する評価情報DBが(第2評価情報)得られる。第2動作は、ガスGBを対象とした第1処理(S21)、第2処理(S22)及び第3処理(S23)を含む。まず、ガスGBを供給する。この処理は、ガスGAを供給する処理と同じ手順により行われる。
【0048】
<ガスGBに対する第1処理>
ガスGBに対する第1処理(S21)を行う。第1処理の具体的な内容は、ガスGAに対する第1処理(S11)と同じである。この処理の結果、図5の(d)部に示す強度情報B1を得る。
【0049】
<ガスGBに対する第2処理>
ガスGBに対する第2処理(S22)を行う。第2処理の具体的な内容は、ガスGAに対する第2処理(S12)と同じである。この処理の結果、図5の(e)部に示す強度情報B2を得る。
【0050】
<ガスGBに対する評価情報を得る処理>
ガスGBに対する第3処理(S23)を行う。第3処理の具体的な内容は、ガスGAに対する第3処理(S13)と同じである。評価情報取得部4dは、評価値dB(n)、dB(m)を含む評価情報DB(図5の(f)部参照)を記憶部4aに出力する。
【0051】
<判定処理>
コントローラ4は、第3動作(S30)として、ガスGA、GBが同じ成分であるか否かの判定を行う。
【0052】
判定部4eは、評価情報DA、DBが同等であるか否かを判定する(S31)。判定部4eは、記憶部4aから評価情報DA、DBを読み出す。判定部4eは、質量数(n)に関する評価値dA(n)、dB(n)を比較する。この比較は、除算であってもよいし、減算であってもよい。比較の結果得られた比較値C(n)が、閾値Sよりも小さい場合、評価値dA(n)、dB(n)は互いに等価であると判定する。同様に、判定部4eは、質量数(m)に関する評価値dA(m)、dB(m)を比較する。比較の結果得られた比較値C(m)が、閾値Sよりも小さい場合、評価値dA(m)、dB(m)は互いに等価であると判定する。そして、判定部4eは、質量数(n)について評価値dA(n)、dB(n)が等価であり、かつ、質量数(m)について評価値dA(m)、dB(m)が等価である場合(図6の(a)部参照)に、ガスGA、GBが同じ成分であると判定する(S32)。
【0053】
一方、判定部4eは、質量数(n)に関する評価値dA(n)、dB(n)及び質量数(m)に関する評価値dA(m)、dB(m)の一方が等価でない、例えば、比較値C(n)が閾値Sよりも大きい場合(図6の(b)部参照)には、ガスGA、GBが同じ成分ではないと判定する(S33)。
【0054】
同様に、判定部4eは、質量数(n)に関する評価値dA(n)、dB(n)及び質量数(m)に関する評価値dA(m)、dB(m)の両方が等価でない、例えば、比較値C(n)が閾値Sよりも大きく、且つ、比較値C(m)も閾値Sよりも大きい場合(図6の(c)部参照)にも、ガスGA、GBが同じ成分ではないと判定する(S33)。
【0055】
<作用効果>
ガス分析装置1は、イオン化エネルギを測定対象ガスに与えることにより、測定対象ガスから複数のイオンを発生させるイオン発生部14及び複数のイオンに電磁気力を作用させることにより、複数のイオンを質量数ごとに検出するイオン検出部16を有する質量分析部13と、イオン発生部14を制御する動作を行うと共にイオン検出部16の出力を利用して評価情報を得る動作を行うコントローラ4と、を備える。コントローラ4は、評価情報を得る動作として、第1イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第1強度情報を得る第1処理(S11、S21)と、第1イオン化エネルギとは異なる第2イオン化エネルギに応じて生じた複数のイオンの質量数ごとの強度を含む第2強度情報を得る第2処理(S12、S22)と、第1強度情報と第2強度情報とを比較することにより、評価情報を得る第3処理(S13、S23)と、を行う。
【0056】
ガス分析装置1は、イオン発生部14が第1イオン化エネルギによって測定対象ガスから複数のイオンを生じさせる。そして、ガス分析装置1は、イオン検出部16が当該複数のイオンの質量数ごとに強度を取得することによって、第1強度情報を得る。さらに、ガス分析装置1は、イオン発生部14が第2イオン化エネルギによって測定対象ガスから複数のイオンを生じさせる。この第2イオン化エネルギは、第1イオン化エネルギとは異なっている。そうすると、第1イオン化エネルギによって生じた複数のイオンの態様と、第2イオン化エネルギによって生じた複数のイオンの態様とは、互いに異なる傾向を示す。さらに、この傾向は、測定対象ガスの成分に応じて、異なる態様を取り得る。すなわち、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスにおいて、第1及び第2イオン化エネルギに対応する強度情報には有意な差異が現れない場合であっても、第1イオン化エネルギに対応する強度情報と第2イオン化エネルギに対応する強度情報との変化率や差分には、差異が現れることがある。逆に言えば、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスにおいて、第1イオン化エネルギに対応する強度情報と第2イオン化エネルギに対応する強度情報との変化率や差分に有意な差異が現れない場合には、ある測定対象ガスと別の測定対象ガスとの成分は同じである可能性が高い。従って、ガス分析装置1は、測定対象ガスの成分が同じであるか否かを判定することができる。
【0057】
要するに、イオン化電子エネルギを変更することにより、互いに異なる複数のエネルギでイオン化した場合、イオン化電子エネルギ毎に分子が解離する度合いが異なる。その結果、複数の質量信号間での比率をイオン化電子エネルギ毎に比較することが可能になる。従って、検出された成分をより広範に差別化(半同定)することが可能となる。
【0058】
さらに、ガス分析装置1は、いわゆるガスクロマトグラフィーの手法を採用する装置と比べると、測定対象ガスを単離する作業を要しない。従って、測定対象ガスの迅速な分析を行うことができる。
【0059】
ガス分析装置1のコントローラ4は、第1測定対象ガスに関する第1評価情報を得る第1動作(S10)と、第2測定対象ガスに関する第2評価情報を得る第2動作(S20)と、第1評価情報及び第2評価情報に基づいて、第1測定対象ガスの成分が第2測定対象ガスの成分と同じであるか否かを判定する第3動作(S30)と、を行う。この動作によれば、第1測定対象ガスの成分と第2測定対象ガスの成分とが同じであるか否かを好適に判定することができる。
【0060】
ガス分析装置1は、測定対象ガスを収容したガスリザーバ2が接続されるガス導入部8と、ガス導入部8に接続されて、ガス導入部8から測定対象ガスを受け入れるプレタンク9と、プレタンク9に接続されて、プレタンク9から測定対象ガスを受け入れるバッファタンク11と、バッファタンク11に接続されて、バッファタンク11の内部圧力を制御する真空排気装置7と、質量分析部13を収容する真空空間を形成する真空容器12と、をさらに備える。これらの構成によれば、第1測定対象ガスの成分と第2測定対象ガスの成分とが同じであるか否かの判定を迅速且つ高精度に行うことができる。
【0061】
以上、本開示のガス分析装置1について説明した。しかし、本開示のガス分析装置1は、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【0062】
例えば、上記のガス分析方法は、上記のガス分析装置とは異なる構成を有するガス分析装置に適用することもできる。例えば、ガス流路6を備えない一般的なガス分析装置に適用してもよい。
【0063】
例えば、ガス分析装置1は、強度情報及び評価情報を利用して測定対象ガスの組成を同定してもよい。この場合には、膨大なデータ量を取り扱うが、ビッグデータ解析などの利用によって格段に学習能力が向上し、より的確な同定を行うことが可能になる。
【0064】
上記の説明において、判定動作(S30)の閾値は、質量数ごとに共通の値を用いていた。例えば、閾値は、質量数ごとに互いに異なる値を設定してもよい。
【0065】
また、図7に示すように、変形例に係るガス分析装置1Aは、ガスリザーバ2を供給するリザーバ供給部40と、ガス導入部8に接続するガスリザーバ2を交換するリザーバ交換部30と、をさらに備えてもよい。
【0066】
リザーバ供給部40は、測定対象ガスが封入されたガスリザーバ2を複数保持している。これらのガスリザーバ2の測定対象ガスは、すべて測定される。リザーバ供給部40は、リザーバ交換部30に隣接して設けられており、リザーバ交換部30に対して順次ガスリザーバ2を提供する。
【0067】
リザーバ交換部30は、ガス導入部8にガスリザーバ2を接続すると共に、測定後にガス導入部8からガスリザーバ2を取り外す。リザーバ交換部30は、ベース31と、回転テーブル32と、リザーバチャック33と、を有する。回転テーブル32は、ベース31に対して回転可能に設けられている。回転テーブル32の周面には、リザーバチャック33が設けられている。例えば、リザーバチャック33は、等間隔に6個設けられている。
【0068】
まず、リザーバ交換部30は、リザーバ供給部40からガスリザーバ2を受け取る。次に、リザーバ交換部30は、シリンジ針21をガスリザーバ2に取り付ける。次に、リザーバ交換部30は、シリンジ針21をガス導入部8に差し込む。この動作によって、ガスリザーバ2がガス導入部8に取り付けられる。次に、リザーバ交換部30は、シリンジ針21をガス導入部8から抜き取る。そして、リザーバ交換部30は、測定後のガスリザーバ2Gを廃棄する。
【0069】
変形例のガス分析装置1Aによれば、複数の計測対象ガスを迅速に測定することができる。つまり、ガス分析装置1Aは、短時間で大量の測定データを収集することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…ガス分析装置、2…ガスリザーバ、4…コントローラ(制御部)、8…ガス導入部、13…質量分析部、14…イオン発生部、16…イオン検出部。
図1
図2
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図7