(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】クロストーク・キャンセル回路、送信装置および送受信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 3/32 20060101AFI20230727BHJP
H04L 25/02 20060101ALI20230727BHJP
H04L 25/03 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H04B3/32
H04L25/02 J
H04L25/03 C
(21)【出願番号】P 2019152624
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 賢
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 奈悟
(72)【発明者】
【氏名】中里 徳彦
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0119024(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0076852(US,A1)
【文献】特表2011-527144(JP,A)
【文献】特表2009-506668(JP,A)
【文献】特表2002-534000(JP,A)
【文献】中里 徳彦 Norihiko Nakasato,電子情報通信学会2017年エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集2 PROCEEDINGS OF THE 2017 IEICE ELECTRONICS SOCIETY CONFERENCE,日本,2017年09月,35,C-12-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/76-3/44
H04B 3/50-3/60
H04B 7/00-7/015
H04L 25/00-25/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の信号線を介して複数の信号を受信装置へ送信する送信装置に設けられるクロストーク・キャンセル回路であって、
前記複数の信号のうちの第1信号の位相を調整する遅延回路と、
前記遅延回路により位相調整された第1信号の微分波形を有する微分信号を
電圧信号として作成する微分信号作成回路と、
前記微分信号作成回路により作成された微分信号
を入力し、その入力した微分信号の振幅を調整して当該振幅調整後の微分信号を電流信号とし
て作成し、
電流信号とした当該振幅調整後の微分信号を前記複数の信号のうちの第2信号に電流加算して、その加算後の第2信号を出力する振幅調整加算回路と、
を備えるクロストーク・キャンセル回路。
【請求項2】
前記振幅調整加算回路は、
電圧信号を入力する入力端と、オン設定時に前記電圧信号に応じた電流信号を出力しオフ設定時に電流信号を出力しない出力端と、を各々有する複数の増幅器を含み、
前記微分信号作成回路により作成された微分信号を前記複数の増幅器それぞれの入力端に入力し、
前記複数の増幅器それぞれの出力端から出力した電流信号の総和を前記第2信号に電流加算し、
前記複数の増幅器それぞれのオン/オフの設定により前記微分信号の振幅調整量を設定する、
請求項1に記載のクロストーク・キャンセル回路。
【請求項3】
前記複数の増幅器それぞれは、
第1電位端と前記出力端との間に設けられた電流源と、
第2電位端と前記出力端との間に設けられたMOSトランジスタと、
前記MOSトランジスタのゲートと前記入力端との間に設けられた容量素子と、
を含む請求項2に記載のクロストーク・キャンセル回路。
【請求項4】
前記複数の増幅器それぞれは、
電源電位端と前記出力端との間に設けられたPMOSトランジスタと、
接地電位端と前記出力端との間に設けられたNMOSトランジスタと、
前記PMOSトランジスタのゲートと前記入力端との間に設けられた第1容量素子と、
前記NMOSトランジスタのゲートと前記入力端との間に設けられた第2容量素子と、
を含む請求項2に記載のクロストーク・キャンセル回路。
【請求項5】
前記複数の増幅器それぞれは、
入力される電圧信号が第1電圧信号および第2電圧信号からなる差動信号であって、出力する電流信号が第1電流信号および第2電流信号からなる差動信号であり、
第1電位端と前記第1電流信号を出力する第1出力端との間に設けられた第1電流源と、
前記第1電位端と前記第2電流信号を出力する第2出力端との間に設けられた第2電流源と、
第2電位端と接続された第3電流源と、
前記第1電圧信号が入力される第1入力端に接続されたゲートを有し前記第3電流源と前記第1出力端との間に設けられた第1MOSトランジスタと、
前記第2電圧信号が入力される第2入力端に接続されたゲートを有し前記第3電流源と前記第2出力端との間に設けられた第2MOSトランジスタと、
を含む請求項2に記載のクロストーク・キャンセル回路。
【請求項6】
前記複数の増幅器それぞれは、
入力される電圧信号が第1電圧信号および第2電圧信号からなる差動信号であって、出力する電流信号が第1電流信号および第2電流信号からなる差動信号であり、
電源電位端と接続された第1電流源と、
接地電位端と接続された第2電流源と、
前記第1電圧信号が入力される第1入力端に接続されたゲートを有し前記第1電流源と前記第1電流信号を出力する第1出力端との間に設けられた第1PMOSトランジスタと、
前記第2電圧信号が入力される第2入力端に接続されたゲートを有し前記第1電流源と前記第2電流信号を出力する第2出力端との間に設けられた第2PMOSトランジスタと、
前記第1入力端に接続されたゲートを有し前記第2電流源と前記第1出力端との間に設けられた第1NMOSトランジスタと、
前記第2入力端に接続されたゲートを有し前記第2電流源と前記第2出力端との間に設けられた第2NMOSトランジスタと、
を含む請求項2に記載のクロストーク・キャンセル回路。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のクロストーク・キャンセル回路を備える送信装置。
【請求項8】
請求項7に記載の送信装置と、前記送信装置から複数の信号を受信する受信装置と、を備える送受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストーク・キャンセル回路、送信装置および送受信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
送信装置および受信装置を備える送受信システムにおいて、送信装置と受信装置との間に複数の信号線が並行して設けられる場合がある。例えばFFC(Flexible Flat Cable)は、複数の信号線が一定間隔で並行配置されたものであり、テレビ受像機等の機器内でよく使用される。複数の信号線が並行して配置されていると、隣り合う信号線の間で生じるクロストークにより、各信号線により送信される信号には、隣の信号線により送信される信号に起因するノイズが重畳される。受信装置に到達する時点での遠端クロストーク(FEXT: far-end crosstalk)の大きさ(ノイズ振幅)は、信号線の長さ及び並行配置の間隔に依存する。信号線が長いほど、FEXTのノイズ振幅は大きくなる。また、信号線の並行配置の間隔が狭いほど、FEXTのノイズ振幅は大きくなる。
【0003】
隣り合う信号線により送信される信号のうち、クロストークの影響を受けてノイズが重畳される信号をビクティム(victim)信号といい、そのクロストークの影響をビクティム信号に与える信号をアグレッサ(aggressor)信号という。なお、隣り合う信号線により送信される信号の間でクロストークは双方向に生じるので、各信号はビクティム信号およびアグレッサ信号の何れにもなり得る。
【0004】
アグレッサ信号と、このアグレッサ信号からのクロストークに因りビクティム信号に重畳されたノイズとは、同じ速さで並走し、同時に受信装置に到達する。したがって、ビクティム信号に重畳されたノイズは、信号線を進んで行くに従い振幅が大きくなっていく。ただし、ノイズ幅は、アグレッサ信号の立上り時間または立下り時間と略同じであり、信号線を進んで行く間において実質的に変化がない。ビクティム信号に重畳されたノイズの波形は、アグレッサ信号の微分波形に対して振幅および遅延を調整した波形で近似され得る。
【0005】
送受信システムにおける信号伝送の高速化に伴い、クロストークの問題が大きくなりつつある。例えば、テレビ受像機内ではコントローラとディスプレイのドライバとの間でシリアル信号が伝送され、4Kまたは8K等の高解像度化により、テレビ受像機内の信号伝送は高速化している。テレビ受像機内でよく使用されるFFCは、高速になるほど信号の減衰が大きくなる特性を有しており、受信端での信号電圧とFEXTのノイズ電圧とが略同程度の大きさになる。これにより、信号伝送のマージンが減少し、コストが増加することになる。このように、信号伝送が高速化していくと、クロストークをキャンセルすることが重要になってくる。
【0006】
クロストーク・キャンセル(XTC: crosstalk cancel)のための幾つかの技術が知られている。
【0007】
XTCの第1の従来技術は、受信装置においてビクティム信号に重畳されたノイズを除去するものである(非特許文献1参照)。第1の従来技術では、受信装置に到達したアグレッサ信号の微分波形を有する微分信号をハイパスフィルタにより作成し、この微分信号の振幅を調整することで、受信装置に到達したビクティム信号に重畳されたノイズを模擬的に作成する。そして、この模擬的に作成したノイズを用いて、ビクティム信号に重畳されたノイズを相殺する。このようなXTC回路を受信装置に設けて、XTC回路後のビクティム信号のビットエラーレート測定値が最小になるようにすることで、クロストークの大きさ(信号線の長さ及び間隔)に応じてXTCの設定(振幅調整)を最適化することができる。
【0008】
この第1の従来技術では、より高精度にXTCを行うためには、ビクティム信号に重畳されたノイズと、アグレッサ信号から模擬的に作成したノイズとの間で、位相を一致させる必要がある。しかし、アナログ信号であるノイズの位相を調整するための遅延回路の実現は困難である。非特許文献1では、利得等化器を用いてノイズの位相を調整しようとしているが、消費電力が大きいので好ましくない。
【0009】
XTCの第2の従来技術は、受信装置に到達した時点でビクティム信号に重畳されるノイズを送信装置において予めビクティム信号に加えておくものである(特許文献1参照)。第2の従来技術では、送信装置において、アグレッサ信号に対し遅延回路により遅延を与えた後、アグレッサ信号の微分波形を有する微分信号をハイパスフィルタにより生成し、この微分信号の振幅を調整することで、模擬的なノイズを作成する。そして、この模擬的なノイズをビクティム信号に加えて、その後のビクティム信号を送信装置から送出する。デジタル信号であるアグレッサ信号に遅延を与えるための遅延回路の実現は容易である。
【0010】
この第2の従来技術では、受信装置に到達した時点でビクティム信号に重畳されるノイズの波形を把握して、送信装置においてアグレッサ信号から模擬的にノイズを作成する際の遅延量および振幅調整量を決定する必要がある。テレビ受像機等のクローズドなシステムであれば、そのシステムの設計時に遅延量および振幅調整量を決定することができる。クローズドな機器内で高速な信号伝送を行う場合には、この第2の従来技術は有効である。
【0011】
特許文献1に記載されたXTC回路では、ドライバの出力端に直列に容量素子を設けた容量結合駆動ドライバを用い、アグレッサ信号をドライバに入力させる。ドライバの出力インピーダンスと、これに直列に接続された容量素子とが、ハイパスフィルタとなって、アグレッサ信号の微分波形を有する微分信号を作成する。また、容量素子の容量値を可変とすることで、微分信号の振幅調整を可能とする。そして、振幅調整された後の模擬的なノイズを容量結合によりビクティム信号に加える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Cosimo Aprile, et al, "AnEight-Lane 7-Gb/s/pin Source Synchronous Single-Ended RX With Equalization andFar-End Crosstalk Cancellation for Backplane Channels," JSSC, vol.53, No.3, Mar 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
受信装置側においてXTCを行う第1の従来技術と比べて、送信装置側においてXTCを行う第2の従来技術は、模擬的なノイズの位相調整を容易に行うことができる点で好ましい。しかし、送信装置の出力端にTコイルが設けられる場合には、第2の従来技術には次のような問題点がある。
【0015】
送信装置の出力端に設けられるTコイルは、その出力端に付く負荷容量(例えばESD保護用ダイオード等の容量)をキャンセルして、送信装置の出力のリターンロスやインサーションロスを改善することができ、送信装置の出力信号帯域を改善することができる。大凡10Gbpsを超えるような高速な信号伝送では、送信装置にXTC回路を設けると出力信号帯域が悪化することになるので、これを防止するためにTコイルを設けることが必要になる。上記の第2の従来技術のXTC回路は、出力端に大きな負荷容量を有するので、高速信号伝送を行うためにはTコイルを設けることが不可欠となる。
【0016】
Tコイルのインダクタンスは、キャンセルしたい負荷容量の大きさに応じて最適値に設計される。ところが、上記の第2の従来技術のXTC回路では、振幅調整の為に容量素子の容量値を変更すると、Tコイルのインダクタンスは最適ではなくなってしまい、Tコイルによる通常信号特性を十分に改善することができない事態が生じる場合がある。このように、Tコイルによる通常信号特性の改善およびXTC特性の改善は、両立が困難である。
【0017】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、出力端にTコイルが設けられる場合であっても好適なクロストーク・キャンセル(XTC)を行うことができるクロストーク・キャンセル回路(XTC回路)を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなXTC回路を備える送信装置、および、このような送信装置と受信装置とを備える送受信システムを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のクロストーク・キャンセル回路(XTC回路)は、複数本の信号線を介して複数の信号を受信装置へ送信する送信装置に設けられるXTC回路であって、(1) 複数の信号のうちの第1信号(アグレッサ信号)の位相を調整する遅延回路と、(2) 遅延回路により位相調整された第1信号の微分波形を有する微分信号を作成する微分信号作成回路と、(3) 微分信号作成回路により作成された微分信号の振幅を調整して当該振幅調整後の微分信号を電流信号とし、当該振幅調整後の微分信号を複数の信号のうちの第2信号(ビクティム信号)に電流加算して、その加算後の第2信号を出力する振幅調整加算回路と、を備える。なお、複数の信号それぞれは、シングルエンド信号であってもよいし、差動信号であってもよい。
【0019】
振幅調整加算回路は、電圧信号を入力する入力端と、オン設定時に電圧信号に応じた電流信号を出力しオフ設定時に電流信号を出力しない出力端と、を各々有する複数の増幅器を含み、微分信号作成回路により作成された微分信号を複数の増幅器それぞれの入力端に入力し、複数の増幅器それぞれの出力端から出力した電流信号の総和を第2信号に電流加算し、複数の増幅器それぞれのオン/オフの設定により微分信号の振幅調整量を設定するのが好適である。
【0020】
複数の増幅器それぞれは、第1電位端と出力端との間に設けられた電流源と、第2電位端と出力端との間に設けられたMOSトランジスタと、MOSトランジスタのゲートと入力端との間に設けられた容量素子と、を含む構成とすることができる。或いは、複数の増幅器それぞれは、電源電位端と出力端との間に設けられたPMOSトランジスタと、接地電位端と出力端との間に設けられたNMOSトランジスタと、PMOSトランジスタのゲートと入力端との間に設けられた第1容量素子と、NMOSトランジスタのゲートと入力端との間に設けられた第2容量素子と、を含む構成とすることができる。なお、第1電位端および第2電位端のうち一方は電源電位端であり、他方は接地電位端である。また、入出力信号が差動信号である場合には、この回路構成を対にして設ければよい。
【0021】
複数の増幅器それぞれは、入力される電圧信号が第1電圧信号および第2電圧信号からなる差動信号であって、出力する電流信号が第1電流信号および第2電流信号からなる差動信号である場合、次のような回路構成であってもよい。複数の増幅器それぞれは、第1電位端と第1電流信号を出力する第1出力端との間に設けられた第1電流源と、第1電位端と第2電流信号を出力する第2出力端との間に設けられた第2電流源と、第2電位端と接続された第3電流源と、第1電圧信号が入力される第1入力端に接続されたゲートを有し第3電流源と第1出力端との間に設けられた第1MOSトランジスタと、第2電圧信号が入力される第2入力端に接続されたゲートを有し第3電流源と第2出力端との間に設けられた第2MOSトランジスタと、を含む構成とすることができる。なお、第1電位端および第2電位端のうち一方は電源電位端であり、他方は接地電位端である。
【0022】
或いは、複数の増幅器それぞれは、入力される電圧信号が第1電圧信号および第2電圧信号からなる差動信号であって、出力する電流信号が第1電流信号および第2電流信号からなる差動信号である場合、次のような回路構成であってもよい。複数の増幅器それぞれは、電源電位端と接続された第1電流源と、接地電位端と接続された第2電流源と、第1電圧信号が入力される第1入力端に接続されたゲートを有し第1電流源と第1電流信号を出力する第1出力端との間に設けられた第1PMOSトランジスタと、第2電圧信号が入力される第2入力端に接続されたゲートを有し第1電流源と第2電流信号を出力する第2出力端との間に設けられた第2PMOSトランジスタと、第1入力端に接続されたゲートを有し第2電流源と第1出力端との間に設けられた第1NMOSトランジスタと、第2入力端に接続されたゲートを有し第2電流源と第2出力端との間に設けられた第2NMOSトランジスタと、を含む構成とすることができる。
【0023】
本発明の送信装置は、上記の本発明のクロストーク・キャンセル回路を備える。本発明の送受信システムは、上記の本発明の送信装置と、送信装置から複数の信号を受信する受信装置と、を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、出力端にTコイルが設けられる場合であっても好適なクロストーク・キャンセルを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、送受信システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、XTC回路10の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、遅延回路12および微分信号作成回路13の回路構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、振幅調整加算回路14の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、利得可変増幅器21の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、増幅器31およびオンオフ設定回路41の回路構成の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、利得可変増幅器21における振幅調整量と信号伝送速度との関係についてシミュレーションを行って得られた結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、XTC回路10の動作についてシミュレーションを行って得られた結果を示す図である。(a)はクロストークがない場合、(b)クロストークがあるがXTCを行わない場合、(c)クロストークがありXTCを行う場合を示す。
【
図9】
図9は、XTC回路10Aの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
図1は、送受信システム1の構成を示す図である。送受信システム1は、送信装置2および受信装置3を備える。送信装置2と受信装置3との間に複数の信号線4が並行して設けられている。送受信システム1は、送信装置2から複数の信号線4を介して受信装置3へ複数の信号を送信する。複数の信号線4は、一定間隔で並行配置されており、例えばFFCである。
【0028】
このような送受信システムは、例えばテレビ受像機等の機器内に見られる。この例では、コントローラ(送信装置)においてパラレル信号(映像信号)がシリアル信号に変換され、このシリアル信号がコントローラから信号線を経てディスプレイのドライバ(受信装置)へ伝送される。そして、ドライバにおいてシリアル信号からパラレル信号に変換されて、このパラレル信号に基づいてディスプレイに映像が表示される。
【0029】
送信装置2は、XTC回路10を備える。XTC回路10は、複数の信号線4により送信される複数の信号線(特に、隣り合う信号線により送信される信号線)の間のクロストークをキャンセルするものである。XTC回路10は、受信装置3に到達した時点でビクティム信号に重畳されるノイズをアグレッサ信号に基づいて作成し、この作成したノイズをビクティム信号に予め加えておく。
【0030】
ビクティム信号は、クロストークの影響を受けてノイズが重畳される信号である。アグレッサ信号は、そのクロストークの影響をビクティム信号に与える信号である。各信号はビクティム信号およびアグレッサ信号の何れにもなり得る。
【0031】
図2は、XTC回路10の構成を示す図である。この図では、3つの信号Da,Db,Dcの間でXTCを行う場合を示している。3つの信号Da,Db,Dcを送信する3本の信号線が順に配列されているとして、隣り合う信号線の間のクロストークをキャンセルするものとする。
【0032】
3本の信号線のうち中央の信号線により伝送される信号Dbをビクティム信号としたとき、両隣の2本の信号線により送信される信号Da,Dcがアグレッサ信号となる。このとき、一方のアグレッサ信号である信号Daは、遅延回路12abにより遅延が付与(位相調整)された後に微分信号作成回路13abに入力されて、微分信号作成回路13abにより信号Daの微分波形を有する微分信号が作成される。他方のアグレッサ信号である信号Dcは、遅延回路12cbにより遅延が付与(位相調整)された後に微分信号作成回路13cbに入力されて、微分信号作成回路13cbにより信号Dcの微分波形を有する微分信号が作成される。
【0033】
ビクティム信号である信号Dbは、バッファ11bを経た後に振幅調整加算回路14bに入力される。振幅調整加算回路14bでは、微分信号作成回路13abにより作成された微分信号の振幅が調整されて電流信号とされるとともに、微分信号作成回路13cbにより作成された微分信号の振幅が調整されて電流信号とされ、これら2つの振幅調整後の微分信号が信号Dbに電流加算される。
【0034】
信号Daをビクティム信号としたとき、信号Dbがアグレッサ信号となる。アグレッサ信号である信号Dbは、遅延回路12baにより遅延が付与(位相調整)された後に微分信号作成回路13baに入力されて、微分信号作成回路13baにより信号Dbの微分波形を有する微分信号が作成される。ビクティム信号である信号Daは、バッファ11aを経た後に振幅調整加算回路14aに入力される。振幅調整加算回路14aでは、微分信号作成回路13baにより作成された微分信号の振幅が調整されて電流信号とされ、この振幅調整後の微分信号が信号Daに電流加算される。
【0035】
信号Dcをビクティム信号としたとき、信号Dbがアグレッサ信号となる。アグレッサ信号である信号Dbは、遅延回路12bcにより遅延が付与(位相調整)された後に微分信号作成回路13bcに入力されて、微分信号作成回路13bcにより信号Dbの微分波形を有する微分信号が作成される。ビクティム信号である信号Dcは、バッファ11cを経た後に振幅調整加算回路14cに入力される。振幅調整加算回路14cでは、微分信号作成回路13bcにより作成された微分信号の振幅が調整されて電流信号とされ、この振幅調整後の微分信号が信号Dcに電流加算される。
【0036】
バッファ11a,11b,11cは共通の構成を有することができる。遅延回路12ab,12ba,12bc,12cbは、共通の構成を有することができ、以下では遅延回路12とする。微分信号作成回路13ab,13ba,13bc,13cbは、共通の構成を有することができ、以下では微分信号作成回路13とする。振幅調整加算回路14a,14cは共通の構成を有することができる。振幅調整加算回路14bは、振幅調整加算回路14a,14cと比較すると電流加算する微分信号の数が相違するものの、同様の構成とすることができ、これを以下では振幅調整加算回路14とする。遅延回路12、微分信号作成回路13および振幅調整加算回路14の具体的な回路構成例について以下に説明する。
【0037】
図3は、遅延回路12および微分信号作成回路13の回路構成の一例を示す図である。遅延回路12は、6個のインバータInv1~Inv6および4個のスイッチSw1~Sw4を含む。6個のインバータInv1~Inv6は直列的に接続されている。スイッチSw1は、遅延回路12の入力端と遅延回路12の出力端との間に設けられている。スイッチSw2は、第2段のインバータInv2の出力端と遅延回路12の出力端との間に設けられている。スイッチSw3は、第4段のインバータInv4の出力端と遅延回路12の出力端との間に設けられている。スイッチSw4は、最終段のインバータInv6の出力端と遅延回路12の出力端との間に設けられている。スイッチSw1~Sw4のうち何れか1個のスイッチがオン状態であるとき、他のスイッチはオフ状態となる。スイッチSw1~Sw4のうち何れのスイッチをオン状態とするかによって、遅延回路12の入力端から出力端までに通過するインバータの個数を異ならせることができ、アグレッサ信号に与える遅延を可変とすることができる。
【0038】
微分信号作成回路13は、容量素子Cおよび抵抗器Rを含む。容量素子Cは、微分信号作成回路13の入力端と出力端との間に設けられている。抵抗器Rは、微分信号作成回路13の出力端と接地電位端との間に設けられている。このように構成される微分信号作成回路13は、ハイパスフィルタとして動作するものであるが、入力される信号の微分波形を近似した波形を有する信号(微分信号)を作成することができる。一例として、容量素子Cの容量値は37fFであり、抵抗器Rの抵抗値は300Ωである。
【0039】
図4は、振幅調整加算回路14の構成を示す図である。振幅調整加算回路14は、利得可変増幅器21a,21cおよび加算器22を含む。利得可変増幅器21aは、微分信号作成回路13abにより作成された微分信号の振幅を調整して、振幅調整後の微分信号を電流信号として出力する。利得可変増幅器21cは、微分信号作成回路13cbにより作成された微分信号の振幅を調整して、振幅調整後の微分信号を電流信号として出力する。利得可変増幅器21a,21cにおける振幅調整量(ゲイン)は、可変であり、1より大きい場合だけでなく、1以下の場合もあり、負の値である場合もある。加算器22は、利得可変増幅器21a,21cそれぞれから振幅調整されて出力された微分信号(電流信号)をビクティム信号に電流加算して、その加算後のビクティム信号を出力する。
【0040】
この図には、ESD保護用ダイオード23,24およびインダクタ25,26も示されている。ESD保護用ダイオード23は、加算器22の出力端と電源電位端との間に設けられている。ESD保護用ダイオード24は、加算器22の出力端と接地電位端との間に設けられている。インダクタ25は、加算器22に入力されるビクティム信号の経路上に設けられている。インダクタ26は、加算器22から出力されるビクティム信号の経路上に設けられている。インダクタ25,26は、Tコイルを構成するものであり、加算器22の出力端(すなわち、XTC回路10の出力端)に付く負荷容量(ESD保護用ダイオード23,24等の容量)をキャンセルし、出力のリターンロスやインサーションロスを改善して、出力信号帯域を改善することができる。
【0041】
利得可変増幅器21a,21cは、共通の構成を有することができ、以下では利得可変増幅器21とする。
図5は、利得可変増幅器21の構成を示す図である。利得可変増幅器21は、8個の増幅器31~38および8個のオンオフ設定回路41~48を含む。8個の増幅器31~38は共通の構成を有することができ、8個のオンオフ設定回路41~48も共通の構成を有することができる。8個のオンオフ設定回路41~48は一部の部分回路を共有していてもよい。
【0042】
増幅器31~38それぞれの入力端は、利得可変増幅器21の入力端と接続されており、微分信号(電圧信号V)を入力する。増幅器31~38それぞれの出力端は、利得可変増幅器21の出力端と接続されている。増幅器31~38それぞれは、オンオフ設定回路41~48のうちの対応するオンオフ設定回路により、オン/オフの設定が可能である。増幅器31~38それぞれは、オン設定時に入力電圧信号Vに応じた電流信号Iを出力端から出力し、オフ設定時に電流信号を出力端から出力しない。増幅器31~38のうちオン設定されている増幅器の個数をnとすると、利得可変増幅器21の出力端から出力される電流信号はnIとなる。利得可変増幅器21は、増幅器31~38それぞれのオン/オフの設定により、微分信号の振幅調整量を設定することができる。
【0043】
図6は、増幅器31およびオンオフ設定回路41の回路構成の一例を示す図である。なお、ここでは、アグレッサ信号およびビクティム信号は差動信号であるとし、これらの信号から作成される各信号も差動信号であるとする。
【0044】
増幅器31は、電流源I1,I2、NMOSトランジスタMN11,MN12、容量素子C1,C2および抵抗器R1,R2を含む。電流源I1は、電源電位端とNMOSトランジスタMN11のドレインとの間に設けられている。電流源I2は、電源電位端とNMOSトランジスタMN12のドレインとの間に設けられている。電流源I1,I2それぞれはPMOSトランジスタを含んで実現され得る。NMOSトランジスタMN11,MN12それぞれのソースは接地電位端と接続されている。
【0045】
電流源I1,I2が流す電流の大きさは、オンオフ設定回路41から与えられるバイアス電圧によって制御される。NMOSトランジスタMN11のゲートは、オンオフ設定回路41から抵抗器R1を介してバイアス電圧が加えられる。NMOSトランジスタMN12のゲートは、オンオフ設定回路41から抵抗器R2を介してバイアス電圧が加えられる。
【0046】
容量素子C1は、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端とNMOSトランジスタMN11のゲートとの間に設けられている。容量素子C2は、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端とNMOSトランジスタMN12のゲートとの間に設けられている。NMOSトランジスタMN11のドレインは、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。NMOSトランジスタMN12のドレインは、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。
【0047】
オンオフ設定回路41は、インバータInv、電流源I20、PMOSトランジスタMP20,MP21,MP22、NMOSトランジスタMN21,MN22およびスイッチSw11,Sw12,Sw21,Sw22,Sw31,Sw32を含む。これらのうち電流源I20およびPMOSトランジスタMP20は、8個のオンオフ設定回路41~48が共有することができる。
【0048】
PMOSトランジスタMP20,MP21,MP22それぞれのソースは、電源電位端と接続されている。NMOSトランジスタMN21,MN22それぞれのソースは、接地電位端と接続されている。
【0049】
PMOSトランジスタMP20のドレインは、PMOSトランジスタMP20,MP21,MP22それぞれのゲートと接続され、スイッチSw31と接続されている。スイッチSw32は、スイッチSw31と電源電位端との間に設けられている。電流源I20は、PMOSトランジスタMP20のドレインと接地電位端との間に設けられている。
【0050】
NMOSトランジスタMN21のドレインは、PMOSトランジスタMP21のドレイン、NMOSトランジスタMN21のゲートおよびスイッチSw11と接続されている。スイッチSw12は、スイッチSw11と接地電位端との間に設けられている。
【0051】
NMOSトランジスタMN22のドレインは、PMOSトランジスタMP22のドレイン、NMOSトランジスタMN22のゲートおよびスイッチSw21と接続されている。スイッチSw22は、スイッチSw21と接地電位端との間に設けられている。
【0052】
電流源I20、PMOSトランジスタMP20,MP21およびNMOSトランジスタMN21は、カレントミラー回路を構成している。電流源I20、PMOSトランジスタMP20,MP22およびNMOSトランジスタMN22は、カレントミラー回路を構成している。
【0053】
インバータInvは、オンオフ設定信号ENを論理反転した信号を作成する。スイッチSw11,Sw12,Sw21,Sw22,Sw31,Sw32それぞれは、オンオフ設定信号ENのレベルに応じてオン/オフの何れかの状態となる。スイッチSw11,Sw21,Sw31は、オンオフ設定信号ENがハイレベルであるときにオン状態となる。スイッチSw12,Sw22,Sw32は、オンオフ設定信号ENがローレベルであるとき(すなわち、インバータInvから与えられる信号がハイレベルであるとき)にオン状態となる。
【0054】
増幅器31とオンオフ設定回路41との間の関係は次のとおりである。スイッチSw11とスイッチSw12との接続点は、増幅器31の抵抗器R1を介してNMOSトランジスタMN11のゲートと接続されている。スイッチSw21とスイッチSw22との接続点は、増幅器31の抵抗器R2を介してNMOSトランジスタMN12のゲートと接続されている。スイッチSw31とスイッチSw32との接続点は、増幅器31の電流源I1,I2と接続されている。
【0055】
オンオフ設定信号ENがローレベルであるとき、スイッチSw11,Sw21,Sw31がオフ状態となって、スイッチSw12,Sw22,Sw32がオン状態となる。このとき、増幅器31においては、NMOSトランジスタMN11,MN12それぞれのゲートに接地電位が与えられる。また、電流源I1,I2を構成する各PMOSトランジスタのゲートに電源電位が与えられる。したがって、増幅器31は、オフ状態に設定され、入力端に信号(±V)が入力されても、出力端から出力される信号のレベルΔIは0である。
【0056】
オンオフ設定信号ENがハイレベルであるとき、スイッチSw11,Sw21,Sw31がオン状態となって、スイッチSw12,Sw22,Sw32がオフ状態となる。このとき、増幅器31においては、NMOSトランジスタMN11,MN12それぞれのゲートには、NMOSトランジスタMN21,MN22それぞれのゲート電位と同じ電位がバイアスとして与えられる。また、電流源I1,I2を構成する各PMOSトランジスタのゲートには、PMOSトランジスタMP20,MP21,MP22それぞれのゲート電位と同じ電位が与えられる。したがって、増幅器31は、オン状態に設定され、入力端に信号(±V)が入力されると、その入力信号に応じた信号(±I)が出力端から出力する。
【0057】
8個のオンオフ設定回路41~48のうち、n個のオンオフ設定回路に入力されるオンオフ設定信号ENをハイレベルとし、他のオンオフ設定回路に入力されるオンオフ設定信号ENをローレベルとすれば、利得可変増幅器21の出力端から出力される電流信号は、オン設定された増幅器それぞれから出力された電流信号の総和であるnIとなる。したがって、nの値を変更することにより、利得可変増幅器21における微分信号の振幅調整量を設定することができる。
【0058】
図7は、利得可変増幅器21における振幅調整量と信号伝送速度との関係についてシミュレーションを行って得られた結果を示すグラフである。利得可変増幅器21は
図5及び
図6に示されるような回路構成を有するものとし、オンオフ設定回路の電流源I20が流す電流の大きさを100μAとし、オン設定時に増幅器の電流源I1,I2それぞれが流す電流の大きさを0.5mAとした。出力される電流信号を後段の出力バッファ内の終端抵抗により電圧信号として観測し、この観測した電圧信号と入力電圧信号との比を振幅調整量(ゲイン)とした。この図は、横軸を信号伝送速度とし、縦軸を振幅調整量として、n=1~8の各値について振幅調整量と信号伝送速度との関係を示している。このグラフに示されるとおり、オン設定されている増幅器の個数nが多いほど、振幅調整楼は大きい。例えば、信号伝送速度が8Gbpsである場合、n=1のとき振幅調整量は0.078倍であるのに対して、n=8のとき振幅調整量は0.53倍である。
【0059】
図8は、XTC回路10の動作についてシミュレーションを行って得られた結果を示す図である。
図8(a)は、クロストークがない場合の受信装置における利得等化後の信号のアイパターンを示す。
図8(b),(c)は、並行配置された3本の信号線の間でクロストークがある場合の受信装置における中央の信号線の信号のアイパターンを示す。
図8(b)は、XTCを行わなかった場合のアイパターンを示す。
図8(c)が、本実施形態によるXTCを行った場合のアイパターンを示す。
図8(b)のアイパターンと比較して、
図8(c)のアイパターンは、FEXTがキャンセルされたものとなっており、アイが開き、マージンが回復している。
【0060】
本実施形態のXTC回路10は、出力端にTコイル(インダクタ25,26)が設けられる場合であっても好適なXTCを行うことができる。すなわち、利得可変増幅器21においてアグレッサ信号の微分信号の振幅調整量を適切に設定する為に、利得可変増幅器21に含まれる複数の増幅器31~38のうちオン設定にする増幅器の個数nを変更したとしても、出力端に付く負荷容量は変わることはない。したがって、Tコイルによる通常信号特性の改善およびXTC特性の改善の両立が可能である。このXTC回路10は送信装置2に好適に設けられ得る。また、送信装置2および受信装置3を備える送受信システム1は、TV受像機等の機器内に好適に設けられ得る。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。以下では、本実施形態の変形例について説明する。
【0062】
図9は、XTC回路10Aの構成を示す図である。
図2に示されたXTC回路10の構成と比較すると、
図9に示されるXTC回路10Aは、微分信号作成回路13abおよび微分信号作成回路13cbそれぞれから出力される微分信号を加算する加算回路15を更に備える点で相違する。加算回路15は、2つの微分信号を容量結合により加算することができる。振幅調整加算回路14bでは、この加算回路15により加算されて出力された微分信号の振幅が調整されて電流信号とされ、この振幅調整後の微分信号が信号Dbに電流加算される。振幅調整加算回路14bは、振幅調整加算回路14a,14cと同様の構成とすることができる。
図2に示されたXTC回路10Aの振幅調整加算回路14bは2つの利得可変増幅器21を備えていたのに対して、
図9に示されるXTC回路10Aの振幅調整加算回路14bは、1つの利得可変増幅器21を備えるだけでよいが、より広い入出力ダイナミックレンジが必要になる。
【0063】
図10~
図14は、増幅器31~38の他の回路構成例を示す図である。なお、
図10に示される増幅器の回路構成例は、
図6中に示された増幅器の回路構成例に対し、導電型を逆にしたものに相当する。また、
図13に示される増幅器の回路構成例は、
図12に示される増幅器の回路構成例に対し、導電型を逆にしたものに相当する。
【0064】
図10に示される回路構成例の増幅器は、電流源I3,I4、PMOSトランジスタMP11,MP12、容量素子C3,C4および抵抗器R3,R4を含む。電流源I3は、接地電位端とPMOSトランジスタMP11のドレインとの間に設けられている。電流源I4は、接地電位端とPMOSトランジスタMP12のドレインとの間に設けられている。電流源I3,I4それぞれはNMOSトランジスタを含んで実現され得る。PMOSトランジスタMP11,MP12それぞれのソースは電源電位端と接続されている。
【0065】
電流源I3,I4が流す電流の大きさは、オンオフ設定回路から与えられるバイアス電圧によって制御される。PMOSトランジスタMP11のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R3を介してバイアス電圧が加えられる。PMOSトランジスタMP12のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R4を介してバイアス電圧が加えられる。
【0066】
容量素子C3は、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端とPMOSトランジスタMP11のゲートとの間に設けられている。容量素子C4は、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端とPMOSトランジスタMP12のゲートとの間に設けられている。PMOSトランジスタMP11のドレインは、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。PMOSトランジスタMP12のドレインは、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。
【0067】
図11に示される回路構成例の増幅器は、NMOSトランジスタMN11,MN12、PMOSトランジスタMP11,MP12、容量素子C1~C4および抵抗器R1~R4を含む。電源電位端と接地電位端との間に、PMOSトランジスタMP11およびNMOSトランジスタMN11が直列に設けられ、PMOSトランジスタMP12およびNMOSトランジスタMN12が直列に設けられている。
【0068】
NMOSトランジスタMN11のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R1を介してバイアス電圧が加えられる。NMOSトランジスタMN12のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R2を介してバイアス電圧が加えられる。PMOSトランジスタMP11のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R3を介してバイアス電圧が加えられる。PMOSトランジスタMP12のゲートは、オンオフ設定回路から抵抗器R4を介してバイアス電圧が加えられる。
【0069】
容量素子C1は、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端とNMOSトランジスタMN11のゲートとの間に設けられている。容量素子C2は、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端とNMOSトランジスタMN12のゲートとの間に設けられている。容量素子C3は、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端とPMOSトランジスタMP11のゲートとの間に設けられている。容量素子C4は、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端とPMOSトランジスタMP12のゲートとの間に設けられている。
【0070】
NMOSトランジスタMN11およびPMOSトランジスタMP11それぞれのドレインは、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。NMOSトランジスタMN12およびPMOSトランジスタMP12それぞれのドレインは、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。
【0071】
図12に示される回路構成例の増幅器は、電流源I1,I2,I5およびNMOSトランジスタMN11,MN12を含む。電流源I1は、電源電位端とNMOSトランジスタMN11のドレインとの間に設けられている。電流源I2は、電源電位端とNMOSトランジスタMN12のドレインとの間に設けられている。電流源I5は、接地電位端とNMOSトランジスタMN11,MN12それぞれのソースとの間に設けられている。NMOSトランジスタMN11のゲートは、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端と接続されている。NMOSトランジスタMN12のゲートは、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端と接続されている。NMOSトランジスタMN11のドレインは、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。NMOSトランジスタMN12のドレインは、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。この増幅器のオンオフ設定は、電流源I1,I2,I5のオンオフ設定によりなされる。
【0072】
図13に示される回路構成例の増幅器は、電流源I3,I4,I6およびPMOSトランジスタMP11,MP12を含む。電流源I3は、接地電位端とPMOSトランジスタMP11のドレインとの間に設けられている。電流源I4は、接地電位端とPMOSトランジスタMP12のドレインとの間に設けられている。電流源I6は、電源電位端とPMOSトランジスタMP11,MP12それぞれのソースとの間に設けられている。PMOSトランジスタMP11のゲートは、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端と接続されている。PMOSトランジスタMP12のゲートは、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端と接続されている。PMOSトランジスタMP11のドレインは、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。PMOSトランジスタMP12のドレインは、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。この増幅器のオンオフ設定は、電流源I3,I4,I6のオンオフ設定によりなされる。
【0073】
図14に示される回路構成例の増幅器は、電流源I5,I6、NMOSトランジスタMN11,MN12およびPMOSトランジスタMP11,MP12を含む。電流源I5は、接地電位端とNMOSトランジスタMN11,MN12それぞれのソースとの間に設けられている。電流源I6は、電源電位端とPMOSトランジスタMP11,MP12それぞれのソースとの間に設けられている。PMOSトランジスタMP11およびNMOSトランジスタMN11それぞれのゲートは、入力差動信号の一方の信号(+V)を入力する入力端と接続されている。PMOSトランジスタMP12およびNMOSトランジスタMN12それぞれのゲートは、入力差動信号の他方の信号(-V)を入力する入力端と接続されている。PMOSトランジスタMP11およびNMOSトランジスタMN11それぞれのドレインは、互いに接続されており、出力差動信号の一方の信号(+I)を出力する出力端と接続されている。PMOSトランジスタMP12およびNMOSトランジスタMN12それぞれのドレインは、互いに接続されており、出力差動信号の他方の信号(-I)を出力する出力端と接続されている。この増幅器のオンオフ設定は、電流源I5,I6のオンオフ設定によりなされる。
【0074】
図12~
図14に示された増幅器の回路構成例では、電流源がMOSトランジスタを含んで構成されることから、電源電位端と接地電位端との間に3個または4個のMOSトランジスタが直列に設けられることになる。各々のMOSトランジスタにおけるソースとドレインとの間の電圧を考慮すると、ビクティム信号の振幅が小さい場合には、入力差動対を構成するMOSトランジスタを飽和領域で動作させることが困難になる場合がある。MOSトランジスタが飽和領域で動作しないと、出力インピーダンスが小さくなり、出力差動信号(電流信号)が上下で不一致となり、或いは、ゲインが低下することになる。これに対して、
図6,
図10,
図11に示された増幅器の回路構成例では、電源電位端と接地電位端との間に2個のMOSトランジスタが直列に設けられる。したがって、ビクティム信号の振幅が小さい場合であっても、入力差動対を飽和領域で動作させることが容易であるので、好ましい。
【符号の説明】
【0075】
1…送受信システム、2…送信装置、3…受信装置、4…信号線、10,10A…クロストーク・キャンセル回路(XTC回路)、11a,11b,11c…バッファ、12,12ab,12ba,12bc,12cb…遅延回路、13,13ab,13ba,13bc,13cb…微分信号作成回路、14,14a,14b,14c…振幅調整加算回路、15…加算回路、21,21a,21c…利得可変増幅器、22…加算器、23,24…ESD保護用ダイオード、25,26…インダクタ、31~38…増幅器、41~48…オンオフ設定回路。