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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】クリーニング手段を有する温度応動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 51/00 20060101AFI20230727BHJP
   B08B 1/04 20060101ALI20230727BHJP
   F16K 31/70 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
F16K51/00 A
B08B1/04
F16K31/70 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019191744
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021067300
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】川井 優宏
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-372166(JP,A)
【文献】中国実用新案第209278563(CN,U)
【文献】特開2005-172070(JP,A)
【文献】特開2000-240123(JP,A)
【文献】特開2005-201355(JP,A)
【文献】特開2005-147222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 51/00
B08B 1/00- 1/04
B08B 5/00-13/00
F16K 31/64-31/72
F16T 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を移送する配管系統に接続され、上流から下流に向けて流体が流れる流路を内部に有する本体であって、流路に位置しており、流体の流れを制御する開閉可能な弁口部を有する本体、
本体の内部に位置しており、中心軸を中心に回転自在に設けられた軸部であって、弁口部が位置する流路に接触又は近接して配置された削剥部を有する軸部、及び軸部に設けられており、流体の流れを受けて軸部を回転させる流体受部、を有して構成されるクリーニング手段、
を備えたことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。
【請求項2】
請求項1に係るクリーニング手段を有する温度応動弁において、
流路は、流体受部に対して噴出口から流体を噴出する噴出流路を有しており、
当該噴出流路において噴出口は漸次狭くなるように形成されている、
ことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に係るクリーニング手段を有する温度応動弁において、
流路を流れる流体を、流体受部に向けて案内するガイド部、
を備えたことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。
【請求項4】
請求項3に係るクリーニング手段を有する温度応動弁において、
削剥部は、弁口部を境とした上流側に位置する上流側削剥部、及び下流側に位置する下流側削剥部を有している、
ことを特徴とするクリーニング手段を有する温度応動弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、温調トラップ等の温度応動弁の内部に付着した異物のクリーニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラントには、ボイラーで生成された高温の蒸気を供給先に向けて移送する配管系統が設置されており、この配管内には蒸気からドレン(凝縮水)が発生する。蒸気を移送する主管にはドレン回収用の支管が接続されており、この支管の末端に設置されたスチームトラップによって、ドレンは不要物として排出されることが多い。
【0003】
しかし、支管内でこのドレンをあえて滞留させ、支管の温度を所定の設定温度に調整して利用するために、スチームトラップに代えて、温度応動弁としての温調トラップが用いられることがある。たとえば、輸送管を通じ、重油等の高粘性流体を輸送する際、温度が低下すれば重油等が凝固してしまう不都合が生じる。このため、高温の蒸気やドレンが流れる支管を輸送管に沿わせてトレース伝熱管として機能させ、重油等の輸送管と熱交換させることで重油等の温度を高め凝固を防止する。
【0004】
ここで、たとえば重油の場合、輸送のためには40度程度の温度で十分であるが、蒸気の温度は100度以上あるため、蒸気をそのままトレース伝熱管の熱源として用いると重油の温度が上がりすぎる危険がある。このため、トレース伝熱管の末端に温調トラップを設け、トレース伝熱管の温度を適正な設定温度に調整する。
【0005】
トレース伝熱管の末端に設けられた温調トラップには、その内部にトレース伝熱管から蒸気やドレンが流入する弁室が形成されており、弁室の下方にはさらに排出室が形成されている。そして、弁室と排出室とは小径の弁口によって接続されており、弁室側を上流、排出室側を下流として、弁口を通じて蒸気やドレンが流れる。
【0006】
弁室内には、先端に弁体が設けられている弁軸が配置されている。そして、この先端の弁体は弁口に向けて位置しており、弁軸には感温部材であるバイメタル積層体が取り付けられている。
【0007】
弁室内に高温のドレンが流入した場合、この高温に反応してバイメタル積層体が膨張して弁軸を軸方向に移動させ、先端の弁体が弁口を閉じる。この後、加熱対象との熱交換によってドレンの温度が低下すると、この温度低下に反応してバイメタル積層体が収縮し、復帰用バネの伸張に従って弁軸が移動し弁体が弁口を開いて低温のドレンを排出室側に排出する。こうして、弁軸の変位に基づいて弁口の開閉が繰り返され、トレース伝熱管の温度が一定の基準温度に保たれる。
【0008】
なお、弁軸の後端は、温調トラップの上方から外側に突出しており、外部から操作者が操作することによって弁軸は軸方向に移動し、弁室内における弁軸の位置が調整される。これによって、トレース伝熱管内の基準温度を自在に設定することができる。
【0009】
ところで、温調トラップの弁室内には、蒸気やドレンとともに錆やスケール(水垢)等の異物が流入することがある。そして、このような異物が弁口やその近傍に付着して堆積した場合、この異物によってドレンの流量が阻害され、トレース伝熱管の温度を適正に調整することができなくなる。特に温調トラップの弁口は、ドレンの流量を微調整するために、口径を小さく絞った形に形成されていることから、異物の付着による影響は大きい。このような異物は、弁口近傍の上流側や下流側に付着する。
【0010】
弁口近傍に付着した異物を除去するためのクリーニング技術として、後記特許文献1に開示されている技術がある。この技術においては、弁装置1のケース2の下部に清掃具63が貫通してネジ結合されている(特許文献1、段落番号[0023]、図1)。
【0011】
そして、ケース2の弁座連通路14に付着堆積した錆や水垢などのスケールを取り除く場合、清掃具63のハンドル76を回転操作して清掃棒65を回転させながら、弁口51に進入させ、清掃棒65の先端のシェーパ部79で弁口51の周辺に付着堆積したスケールをかき落とす。このようなスケールの清掃作業は定期的に行われる(特許文献1、段落番号[0027]、図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2019-49351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の特許文献1に開示された技術においては、弁装置1の清掃作業を作業員等が定期的に行わなければならないという問題がある。錆や水垢などのスケールは、装置の弁動作に従って徐々に付着蓄積されるが、このようなスケールは装置の外部から視認することは難しいため、適切なタイミングで清掃作業を行うことができない。
【0014】
そこで、本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、これらの問題を解決することを課題とし、弁の作動に応じて頻繁にかつ自動的に異物を除去することができるクリーニング手段を有する温度応動弁の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁は、
流体を移送する配管系統に接続され、上流から下流に向けて流体が流れる流路を内部に有する本体であって、流路に位置しており、流体の流れを制御する開閉可能な弁口部を有する本体、
本体の内部に位置しており、中心軸を中心に回転自在に設けられた軸部であって、弁口部が位置する流路に接触又は近接して配置された削剥部を有する軸部、及び軸部に設けられており、流体の流れを受けて軸部を回転させる流体受部、を有して構成されるクリーニング手段、
を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁においては、軸部に設けられた流体受部が、流体の流れを受けて軸部を回転させる。そして、軸部の回転に従って削剥部も、弁手口部が位置する流路に接触又は近接して回転する。
【0017】
このため、流体の流れに従って、弁口部が位置する流路に付着した異物を削剥部が自動的に削剥しクリーニングすることができる。したがって、弁の作動に応じて頻繁にかつ自動的に異物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第1の実施形態を示す温調トラップ1の断面図である。
図2図1に示す弁軸10を先端側から見た図である。
図3図1に示す弁座60近傍の拡大断面図であり、限界位置まで弁を閉じた状態を示す断面図である。
図4図1に示す弁座60近傍の拡大断面図であり、限界位置まで弁を開いた状態を示す断面図である。
図5】本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第2の実施形態を示す温調トラップ11の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の下記の要素に対応している。
【0020】
温調トラップ1、11・・・温度応動弁
回転羽2、4・・・流体受部
回転羽2、4、弁軸10、上流刃17、下流刃18・・・クリーニング手段
案内部材6・・・ガイド部
弁軸10・・・軸部
上流刃17、下流刃18・・・削剥部
ケーシング31、ケーシング蓋32・・・本体
流入路52・・・噴出流路
流入路後端52b・・・噴出口
流入路52、弁室53、弁座上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54、流出路55・・・流路
弁口62・・・弁口部
中心線L1・・・中心軸
ドレン、蒸気、エアー・・・流体
【0021】
[第1の実施形態]
本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第1の実施形態を、温調トラップを例に説明する。温調トラップはトレース伝熱管の末端に設けられ、トレース伝熱管を設定温度に保つ機能を備えている。一定の設定温度に保たれたトレース伝熱管は、重油等、高粘性流体の凝固防止用トレースや、計装機器の凍結防止用トレースとして用いられる。
【0022】
(温調トラップ1の構成の説明)
図1は本実施形態における温調トラップ1の断面図である。ケーシング31には流入口51及び流出口56が設けられており、上部にはケーシング蓋32がネジ結合によって取り付けられている。流入口51はトレース伝熱管(図示せず)の末端に接続され、流出口56は排出管(図示せず)に接続される。ケーシング31内には円筒形状の弁室53が形成されており、この弁室53は流入路52を介して流入口51と連通する。弁室53内に形成される流路において、流入口51側が上流、流出口56側が下流である。
【0023】
ケーシング31内の下方に位置する底室54には、弁座60がネジ結合によって取り付けられ固定されている。弁座60近傍の拡大図が図3及び図4である。弁座60には、弁口62を境に、上流側に弁座上流室61が形成されており、下流側に弁座下流室63が形成されている。弁座上流室61及び弁座下流室63は同軸の円筒形状を有している。
【0024】
開口として形成される弁口62の口径は、弁座上流室61及び弁座下流室63の径よりも小さく構成される。そして、弁室53は、弁室上流室61、弁口62、弁座下流室63、底室54及び流出路55を介して流出口56と連通する。
【0025】
図3及び図4に示すように、弁座下流室63には弁口62に連続する天井面63a、及びこの天井面63aに連続する側壁63bが形成されている。天井面63aは弁口62から側壁63bに向かって傾斜する略円錐形を有しており、側壁63bは円筒形を有している。
【0026】
弁室53内には異物を捕捉するための筒状のスクリーン70(図1)が設けられている。流入口51から流入したドレンは流入路52を通じ、このスクリーン70を透過して矢印101方向に向けて弁室53内に流入する。
【0027】
ここで、弁室53に直結している流入路52の流入路先端52bは、流入路後端52aよりも径が小さく構成されており、流入路52は弁室53に向けて漸次狭く構成されている。このため、流入路52を通過したドレンは、流入路先端52bから弁室53に向けて高い流体圧をもって噴出することになる。
【0028】
弁室53内には、中心線L1を中心に回転可能に弁軸10が配置されている。この弁軸10を先端側から見た図が図2である。弁軸10の中央部から後端寄りの個所には、8枚の回転羽2が等間隔で放射状に固定されている。
【0029】
また、弁軸10の先端側には、厚みの薄い直方体形状を有し角部が刃物として構成されている上流刃17が一体的に形成され、さらにこの上流刃17の先端には円錐形状を有する弁体12が一体的に形成されている。上流刃17及び弁体12は弁座上流室61内に位置している。なお、本実施形態において上流刃17は、流路としての弁座上流室61の内壁に近接した状態で配置されているが、接触させて配置してもよい。「近接」とは、対象とする壁面に付着した異物を除去することができる程度に接近した状態を意味する。
【0030】
本実施形態においては、弁体12の頂点部に中心棒15が固定されており、この中心棒15は弁口62を貫通して配置されている。なお、中心棒15は弁口62よりも細く形成されているため、弁口62におけるドレンの流れが実際上、妨げられることはない。そして、中心棒15先端にはさらに下流刃18が一体的に固定されており、この下流刃18は弁座下流室63に位置している。下流刃18は厚みの薄い平面形状を有し、上流刃17と同様、角部が刃物として構成されている。
【0031】
下流刃18は、弁座下流室63の円筒軸方向に沿った断面形状に対応する形状を有している。すなわち、図3及び図4に示すように下流刃18は天刃18a及び側刃18bを有しており、下流刃18の天刃18aは傾斜し、この傾斜角度は弁座下流室63の天井面63aの傾斜角度と同様である。また、下流刃18の横幅は弁座下流室63の円筒形の直径に対応している。なお、本実施形態において下流刃18は、流路としての弁座下流室63の内壁に近接した状態で配置されているが、接触させて配置してもよい。
【0032】
図1に示すように、弁軸10の後端には、調整棒35が配置されている。この調整棒35は、Oリング36を介しケーシング蓋32に対してネジ結合されており、上部に形成された操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作が可能になっている。ケーシング蓋32に対する調整棒35の調整位置は、ロックナット89によって固定される。
【0033】
また、調整棒35内には軸方向に沿って調整空間35bが形成されており、この調整空間35b内に弁軸10の後端が挿入されて位置している。弁軸10は、調整空間35b内において軸方向(矢印105、106方向)に移動可能に保持されている。なお、ケーシング蓋32から突出した調整棒35の上部は、保護キャップ37によって覆われている。
【0034】
調整棒35の先端側には円盤面35aが形成されている。そして、この円盤面35aの外周近傍には、先端方向に延びる押圧片39が一体的に固定されている。本実施形態においては、8本の押圧片39が周方向に均等間隔で円盤面35aに固定されている。
【0035】
調整棒35、弁軸10及び弁座60は同一軸(中心線L1)上に配置され、弁軸10の弁体12は弁口62に向けて位置している。弁軸10の中央近傍にはバネ受け13が固定されている。そして、弁軸10は容器形状の中間部材75の中心穴を貫通しており、この中間部材75はバネ受け13の下側に当接している。中間部材75は外側が湾曲しており、この湾曲の内側には、弁室53底部との間に復帰バネ71が取り付けられている。すなわち、弁軸10は、中間部材75及びバネ受け13を介して常時、復帰バネ71によって矢印105方向に付勢されている。
【0036】
弁軸10には、バイメタル積層体40が取り付けられている。バイメタル積層体40の上面は押圧片39の下端面39aに当接し、調整棒35の円盤面35aとの間で回転空間2sを形成している。そして、この回転空間2s内に、弁軸10に固定された8枚の回転羽2が回転可能に位置している。
【0037】
また、バイメタル積層体40の下面は平座金73を挟んで中間部材75に当接している。このバイメタル積層体40は、周辺温度に反応して変形する感温部材であるバイメタルを複数、積層して構成されており、周辺温度が高くなった場合に、弁軸10の軸方向に沿って膨張し、周辺温度が低くなった場合に軸方向に沿って収縮する。図1は、バイメタル積層体40が膨張した状態を示している。
【0038】
中間部材75の内側には、弁軸10に取り付けられた弁体付勢バネ72が配置されている。この弁体付勢バネ72の上部は平座金73に当接し、下部はワッシャー85を介してバネ受け13の上側に当接している。
【0039】
(温調トラップ1の動作の説明)
次に、この温調トラップ1の動作を説明する。初期段階においては、弁室53内にエアーが充満しており、低温雰囲気に応じてバイメタル積層体40は収縮している。そして、弁軸10は、バネ受け13が復帰バネ71の付勢を受け、図1に示すように矢印105方向に移動した状態にある。このとき、弁体12も弁口62から矢印105方向に退去して、弁口62は開弁されている(図4)。
【0040】
配管系統が蒸気移送を開始すると、トレース伝熱管を通して流入口51からドレンが流入する。初期段階のドレンは低温であり、このドレンがエアーを弁口62から押し出し、矢印102方向に向けて流出口56に排気する。続いて、低温のドレンも同様の経路をたどって流出口56から排水される。
【0041】
この後、蒸気によって熱せられた高温のドレンが、流入路52を通じて流入路後端52bから弁室53に流入する。流入路後端52bから流入したドレンはスクリーン70を透過し、8本の押圧片39の間を通過して回転空間2sに進入する。そして、ドレンは、弁室53の側壁とバイメタル積層体40との隙間を通って弁口62に向かう。
【0042】
弁室53内のドレンの温度が上昇したことによって、バイメタル積層体40は徐々に膨張する。膨張するバイメタル積層体40は、平座金73、弁体付勢バネ72及びワッシャー85を介して弁軸10に固定されたバネ受け13を矢印106方向に押圧する。このとき、比較的、強力な弁体付勢バネ72は収縮しないため、バイメタル積層体40の膨張はそのまま弁軸10に伝わり、弁体12は弁口62に進入し、弁口62を閉弁する(図3)。なお、このとき復帰バネ71は、バイメタル積層体40の膨張に押圧されて圧縮する。
【0043】
弁口62の閉弁によって、ドレンの排水は停止され、弁室53及びトレース伝熱管には設定された基準温度のドレンが滞留することになる。これによって、トレース伝熱管は重油の輸送管等の加熱対象を加熱する。その後、加熱対象との熱交換によって、トレース伝熱管内のドレンの温度は徐々に低下し、弁室53内のドレンの温度も基準温度を下回ることになる。
【0044】
バイメタル積層体40は、このドレンの温度低下に反応し収縮を開始する。バイメタル積層体40の収縮によって、復帰バネ71は伸張して復帰し、中間部材75を介して弁軸10に固定されたバネ受け13を押し上げ、弁軸10は矢印105方向に移動して、弁体12は弁口62を開弁する。これによって、基準温度を下回ったドレンは弁口62を通じて流出口56に排水される。この後、高温のドレンが弁室53に流入し、バイメタル積層体40の膨張によって再び弁口62は閉弁され、基準温度のドレンが滞留する。
【0045】
以上のように、バイメタル積層体40が弁室53内のドレンの温度に反応して、膨張・収縮することによって、弁軸10の弁体12が昇降し、弁口62は開弁と閉弁を繰り返して、弁室53及びトレース伝熱管内のドレンは設定された基準温度に保たれる。
【0046】
なお、バイメタル積層体40が膨張し、弁体12が弁口62を完全に閉弁した後もバイメタル積層体40が引き続き膨張することがある。この場合、バイメタル積層体40への過度の負担を避けるために、弁体付勢バネ72が復帰バネ71とともに収縮してバイメタル積層体40の膨張を吸収する。
【0047】
弁室53及びトレース伝熱管内のドレンの基準温度は、自在に調整して設定することができる。基準温度を調整する場合は、温調トラップの上部の保護キャップ37を取り外し、ロックナット89を緩めた上で操作用溝35cにドライバー等の工具を嵌め入れて螺入操作し、調整棒35を軸方向に移動させる。
【0048】
調整棒35を弁室53内に向けて締め込めば、調整棒35に固定されている8本の押圧片39の各下端面39aがバイメタル積層体40を押圧して、弁軸10自体の位置が矢印106方向に下降移動するため、基準温度を低く設定することができる。逆に、調整棒35を緩めれば、復帰バネ71の付勢によって、弁軸10自体の位置が矢印105方向に上昇移動するため、基準温度を高く設定することができる。
【0049】
(クリーニング動作の説明)
弁室53内の弁口62やその近傍には、温調トラップ1の作動にともなって錆やスケール等の異物が付着して堆積する。本実施形態では、弁軸10に上流刃17及び下流刃18を設けると共に回転羽2を設ける。そして、回転刃2が流入するドレン等の流体圧を受けることによって弁軸10を回転させ、上流刃17及び下流刃18で弁口62やその近傍に付着した異物を削ぎ落して除去する。
【0050】
すなわち、前述のようにドレンは流入路52を通じて流入路後端52bから弁室53内に流入するが、流入路52は弁室53に向けて漸次狭く構成されており、流入路先端52bは流入路後端52aよりも径が小さい。このため、流入路52を通過したドレンは、流入路先端52bから弁室53に向けて高い流体圧をもって噴出し、このドレンが弁軸10に固定された回転羽2に衝突し、順次8枚の回転羽2を回転方向に回転させる。
【0051】
これによって、弁軸10は中心線L1を中心に回転し、これに従って上流刃17及び下流刃18も回転して弁座上流室61及び弁座下流室63の内面に付着した異物をそぎ落として除去する。図3は、弁軸10が限界位置まで矢印106方向に下降した状態を示している。
【0052】
弁軸10が限界位置に向けて下降する過程で、上流刃17が弁座上流室61の側壁の異物そぎ落すとともに、上流刃17の先端部分の刃が弁座上流室61の底面に当接することによって底面の異物もそぎ落とす。また、下流刃18の側刃18bは弁座下流室63の側壁63bに付着した異物をそぎ落とす。弁軸10が限界位置まで下降して、弁口62を完全に閉弁した場合は、弁室53内へのドレンの流入は一旦、停止するため、上流刃17及び下流刃18の回転動作も中断する。
【0053】
ここで、前述のように、バイメタル積層体40は弁室53内の温度に反応して膨張又は収縮し、弁口62を開閉させるために弁軸10は昇降を繰り返している。このため、図3に示す状態からバイメタル積層体40の収縮によって弁軸10が矢印105方向へ上昇し、弁口62を開弁した場合、弁室53にはドレンの流入が再開され、上流刃17及び下流刃18も回転しながら上昇する。
【0054】
弁軸10が限界位置に向けて上昇する過程で、上流刃17が弁座上流室61の側壁の異物そぎ落し、下流刃18の側刃18bが弁座下流室63の側壁63bに付着した異物をそぎ落とす。そして、弁軸10が図4に示すように限界位置まで矢印105方向に上昇した場合、下流刃18の天刃18aが弁座下流室63の天井面63aに付着した異物をそぎ落とす。なお、そぎ落とされた異物は、弁口62を通じてドレン等と共に流出口56から排出される。
【0055】
以上のように、ドレンが弁室53内に流入している間、弁軸10は回転を常時、回転し、上流刃17及び下流刃18で弁口62やその近傍に付着した異物を削ぎ落して除去する。また、弁軸10が昇降することによって、上流刃17及び下流刃18は中心軸L1方向に移動しながら異物を削ぎ落すため、より広範囲で弁口62やその近傍に付着した異物を除去することができる。なお、弁軸10の円滑な回転を確保するために、バネ受け13部分等にベアリング等の潤滑手段を設けてもよい。
【0056】
[第2の実施形態]
次に、本願に係るクリーニング手段を有する温度応動弁の第2の実施形態を説明する。図5は、本実施形態における温調トラップ11を示している。なお、前述の第1の実施形態における温調トラップ1と同様の構成については同一の符号を付し、構成・動作の説明を省略する。
【0057】
本実施形態に係る温調トラップ11においては、バイメタル積層体40の上面に案内部材6が取り付けられている。案内部材6の中心部には貫通孔が形成されており、この貫通孔に弁軸10が貫通した状態で配置される。そして、案内部材6は、上面が貫通孔に向けて傾斜するすり鉢形状を有している。
【0058】
また、温調トラップ11においては、弁軸10の中央部から後端寄りの個所に、8枚の回転羽4が等間隔で放射状に固定されている。回転羽4の下端は、案内部材6上面の傾斜に対応した斜辺を構成し、案内部材6に近接している。なお、案内部材6には、調整棒35の円盤面35aに固定された8本の押圧片9の下端面9aが当接している。
【0059】
本実施形態では、案内部材6が設けられていることによって、流入路52の流入路先端52bから噴出された高圧のドレンが、案内部材6の傾斜面に沿って回転羽4に導かれる。これによって、確実にドレンが回転羽4に衝突し、回転羽4を回転空間4s内で回転させ、上流刃17及び下流刃18で異物をそぎ落として除去することができる。
【0060】
また、回転羽4の下端が、案内部材6上面の傾斜に対応した斜辺を構成していることによって、回転羽4の面積を可能な限り大きく確保することができ、より確実にドレンの流体圧を受けることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、すり鉢形状を有する案内部材6を例示したが、流入路52の流入路先端52bの近傍にのみ位置する構成を採用してもよい。
【0062】
[その他の実施形態]
上述の各実施形態においては、8枚の回転羽2、4を例示したが、7枚以下又は9枚以上の回転羽を採用することもできる。また、回転羽2、4の形状・構造も、各実施形態において例示したものに限られず、流体の流れを受けて軸部を回転させる構成であれば他の形状・構造を採用してもよい。
【0063】
また、上述の各実施形態においては、削剥部として上流刃17及び下流刃18を例示したが、上流刃17又は下流刃18のいずれか一方のみを設ける構成としてもよい。さらに、上流刃17、下流刃18の形状・構造も各実施形態において例示したものに限られず、弁口部が位置する流路に接触又は近接して配置され、弁口部及びその近傍に付着した異物を削ぎ落すことが可能なものであれば他の構成を採用してもよい。
【0064】
また、上述の各実施形態においては、噴出流路として弁室53に向けて径が漸次小さくなる流入路52を例示し、噴出口として流入路先端52bを示したが、噴出口が噴出流路の径よりも小さく形成されており、噴出口から噴出される流体の流体圧を高めるものであれば他の構成を採用してもよい。
【0065】
さらに、噴出流路が弁軸(軸部)の軸線(実施形態における中心線L1)に直行する平面方向に沿って湾曲し、噴出口から流体受部の回転方向に向けて流体が噴出する構成を採用してもよい。これによって、流体受部に一定方向の回転力を加えることができ、より確実に軸部を回転させることができる。
【符号の説明】
【0066】
1、11:温調トラップ 2、4回転羽 6:案内部材 10:弁軸 17:上流刃
18:下流刃 31:ケーシング ケーシング蓋32 52:流入路
52b:流入路後端 53:弁室 54:底室 55:流出路 61:弁座上流室
62:弁口 63:弁座下流室 L1:中心線

図1
図2
図3
図4
図5