(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】異常TDP-43を分解除去する抗体断片
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230727BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230727BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230727BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230727BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230727BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230727BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230727BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230727BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230727BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20230727BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230727BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230727BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K48/00
A61P25/00
A61P25/28
C07K16/18
C07K16/46
C12N15/13
C12P21/08
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020506667
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010771
(87)【国際公開番号】W WO2019177138
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018049752
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】漆谷 真
(72)【発明者】
【氏名】玉木 良高
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-162772(JP,A)
【文献】特開2014-171425(JP,A)
【文献】国際公開第2016/053610(WO,A1)
【文献】特表2015-505665(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008529(WO,A1)
【文献】TAMAKI, Y. et al.,Journal of the Neurological Sciences,2017年,Vol. 381,pp. 715, Abstract No. 1984
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミスフォールドしたTDP-43に結合性を有する抗体断片と、シャペロン介在性オートファジー移行シグナルペプチドとから構成される修飾抗体断片であって、
該抗体断片が
、GFNIKDYY (配列番号1)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、IDPEDGET (配列番号2)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及びTIIYYYGSRYVDY (配列番号3)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並び
に
SSISSSY (配列番号4)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、RTSのアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及びQQGSSIPLT (配列番号5)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含み、
該抗体断片が、scF
vである、
修飾抗体断片。
【請求項2】
前記抗体断片がヒト化抗体断片である、請求項
1に記載の修飾抗体断片。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の修飾抗体断片をコードする核酸。
【請求項4】
請求項
3に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項
3に記載の核酸を含む遺伝子治療剤。
【請求項6】
TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療用である、請求項
5に記載の治療剤。
【請求項7】
前記TDP-43の凝集体が蓄積する疾患が筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、又はPerry症候群である、請求項
6に記載の治療剤。
【請求項8】
熱ショックタンパク質を誘導させるために用いられる、請求項
5に記載の治療剤。
【請求項9】
前記熱ショックタンパク質がHsp70である、請求項
8に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造異常を来したTDP-43を分解除去する修飾抗体断片に関する。さらに、本発明は、該修飾抗体断片をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター、該核酸を含む遺伝子治療剤、及び該核酸を利用するTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最難治性神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び認知症において2番目の有病率を有する前頭側頭型認知症(FTD)の原因タンパク質として核タンパク質であるTDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43kDa)が同定されている。TDP-43はFTD及びALSにおいて核から脱出し、細胞質内で病的凝集体を形成するがその機序は不明である。
【0003】
TDP-43は、FTD及びALSにおけるユビキチン化封入体において非常に高率に認められることが判明している。現在、TDP-43の異常病理所見を呈する疾患は、TDP-43プロテイノパチーという疾患群と位置づけられ、各種の報告からTDP-43の機能異常がALS病態の本質である可能性が高まっている。
【0004】
このようにTDP-43の生理的及び病理的機能を解明することはALSの克服に繋がる可能性があり、世界中で精力的な研究が進められている。TDP-43プロテイノパチーの最も明確且つ重要な病理所見は、TDP-43の核染色性の低下及び細胞質での封入体形成である。この異所性局在の機能解明はALSの病態理解に不可欠である。
【0005】
TDP-43の分子構造は、2ヶ所のRNA結合領域(RRM)とC末端のグリシンリッチ領域、核移行シグナル(NLS)、及び核外輸送シグナル(NES)を有する。TDP-43は全ての体細胞に恒常的に発現しており、主に核に局在する。FTD及びALSにおいても正常組織では例外なく核に局在することから、TDP-43の異所性局在が病態に及ぼす影響が注目されてきた。TDP-43陽性細胞封入体は、高頻度に断片化且つリン酸化されたTDP-43を含んでいる。
【0006】
また、FTD及びALS以外にもTDP-43の異所性局在を呈する疾患として、Perry症候群、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が報告されている。
【0007】
本発明者らは、(1)TDP-43が疾患と無関係の正常構造から毒性を有する病原構造に如何に構造転換をし、且つ(2)異常構造を如何に捉えるかという観点から研究を進めてきた。その結果、TDP-43のRRM1のシステイン残基が正常な構造維持に重要であること、その異常修飾によりALS及びFTDの脳で認められる異常凝集体をインビトロで再現できることを証明している(特許文献1)。また、そのような異常凝集及び細胞質に異常な局在をするTDP-43分子において外部に露出している配列を同定し、当該配列を標的とすることで、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の発症リスクを予測することが可能となることを報告している(特許文献2)。
【0008】
その他にも、特許文献3及び4において、TDP-43を検出する抗体が報告されているが、これらの抗体が認識する凝集体は、進行期の状態であり治療標的としては更に早期の構造変化が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】日本国特開2014-171425号公報
【文献】日本国特開2013-162772号公報
【文献】国際公開第2009/008529号
【文献】国際公開第2013/061163号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ミスフォールドしたTDP-43を分解除去することができる修飾抗体断片を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該修飾抗体断片をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター、該核酸を含む遺伝子治療剤、及び該核酸を利用するTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ミスフォールドしたTDP-43に結合性を有するscFvにシャペロン介在性オートファジー(CMA)移行シグナルを付加し、得られたscFvを細胞内抗体として使用することで、インビトロで細胞死を抑制でき、インビボでもミスフォールドしたTDP-43を分解除去することができるという知見を得た。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の修飾抗体断片、核酸、発現ベクター、遺伝子治療剤、及び該核酸を利用するTDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療方法を提供するものである。
【0013】
項1.ミスフォールドしたTDP-43に結合性を有する抗体断片と、シャペロン介在性オートファジー移行シグナルペプチドとから構成される修飾抗体断片であって、
該抗体断片が、3以下のアミノ酸置換をしてもよい、GFNIKDYY (配列番号1)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、IDPEDGET (配列番号2)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及びTIIYYYGSRYVDY (配列番号3)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/又は
3以下のアミノ酸置換をしてもよい、SSISSSY (配列番号4)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、RTSのアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及びQQGSSIPLT (配列番号5)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含み、
該抗体断片が、scFv、VH又はVLである、
修飾抗体断片。
項2.前記抗体断片がscFvである、項1に記載の修飾抗体断片。
項3.前記抗体断片がヒト化抗体断片である、項1又は2に記載の修飾抗体断片。
項4.項1~3のいずれか一項に記載の修飾抗体断片をコードする核酸。
項5.項4に記載の核酸を含む発現ベクター。
項6.項4に記載の核酸を含む遺伝子治療剤。
項7.TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療用である、項6に記載の治療剤。
項8.前記TDP-43の凝集体が蓄積する疾患が筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、又はPerry症候群である、項7に記載の治療剤。
項9.熱ショックタンパク質を誘導させるために用いられる、項6に記載の治療剤。
項10.前記熱ショックタンパク質がHsp70である、項9に記載の治療剤。
項11.項4に記載の核酸の有効量を哺乳動物に投与する工程を含む、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療方法。
項12.前記TDP-43の凝集体が蓄積する疾患が筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、又はPerry症候群である、項11に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の修飾抗体断片は、細胞内抗体として使用することで、ミスフォールドしたTDP-43を分解除去し、神経細胞死を抑制することが可能である。そのため、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療効果が期待できる。
【0015】
また、本発明の修飾抗体断片は、熱ショックタンパク質を誘導させることができ、その結果としてTDP-43の凝集体をほぐす効果が得られ、オートファジーでの分解をより促進させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】抗体断片のミスフォールドTDP-43との結合特異性を示す図である。n=3 データは平均±SD
【
図2】scFvの分解特性を示す図である。左:ウェスタンブロット、右:残存するscFvの割合を示すグラフ。各々のデータはアクチンで標準化した。データは平均±SD 3回の独立した実験より。* p < 0.05, **** p < 0.001, DMSO対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。N.S.は有意差なしを示す。
【
図3】scFvによるミスフォールドTDP-43の分解特性を示す図である。各々時間のデータは蛍光バンドのデンシトメトリーデータをアクチンのもので標準化した。データは平均±SD 3回の独立した実験より。*** p < 0.005, **** p < 0.001, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。N.S.は有意差なしを示す。
【
図4】上段:scFvによるミスフォールドTDP-43誘発細胞死及び凝集体形成の保護効果を示す図である。データは盲目に選定した3個の異なる視野からの平均±SD * p < 0.05, *** p < 0.005, **** p < 0.001, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。下段:scFvがミスフォールドTDP-43による細胞死を抑制し、生存率を高めることを示す図である。n=3 データ平均±SD * p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.005, **** p < 0.001, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。
【
図5】scFv-CMAがミスフォールドTDP-43の存在下で熱ショックシャペロンHsp70を誘導することを示す図である。左:Hsp70のmRNA量 n=3 データは平均±SD *** p < 0.005, **** p < 0.001, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。N.S.は有意差なしを示す。右:Hsp70のタンパク質量 データは平均±SD 3回の独立した実験より。各々のデータはアクチンで標準化した。** p < 0.01, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。N.S.は有意差なしを示す。
【
図6】Hsp70がミスフォールドしたTDP-43の凝集体を可溶化することを示す図である。平均±SD 3回の独立した実験より。各々のデータはアクチンで標準化した。* p < 0.05, ベクター対照群に比して。検定はDunnettの2元分散分析による。N.S.は有意差なしを示す。
【
図7】子宮内電気穿孔法にて脳内に導入した外来性のミスフォールドTDP-43がALS患者同様、ユビキチン、リン酸化TDP-43陽性の凝集体を形成することを示す図である。
【
図8】子宮内電気穿孔法によって脳内に導入した外来性のミスフォールドTDP-43とscFv-CMAとが脳内の凝集体で共存していることを示す図である。
【
図9】子宮内電気穿孔法で導入した胎仔脳のTDP-43凝集体が、scFv-CMAの共発現によって減少することを示す図である。データは平均±SD n=7 **** p < 0.001, ベクター対象群に比して。検定は対応のないt検定による。
【
図10】子宮内電気穿孔法で導入した胎仔脳の野生型TDP-43が、scFv-CMAの共発現によって減少しないことを示す図である。データは平均±SD n=7 検定は対応のないt検定による。N.S.は有意差なしを示す。
【
図11】胎児期に子宮内電気穿孔法で発現させたscFv-Myc-CMAが、マウスの初期発生に影響が無く、神経毒性、脳内に異常なグリーシスを惹起しないことを示す図である。スケールバー=100μm
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0020】
また、本発明において、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は同義であって、これらはDNA及びRNAの両方を含み、2本鎖であっても1本鎖であってもよい。
【0021】
なお、以下に示すRefSeq IDはNCBIのweb siteに登録されているものである。
【0022】
本発明の修飾抗体断片は、ミスフォールドしたTDP-43に結合性を有する抗体断片と、シャペロン介在性オートファジー移行シグナルペプチドとから構成される修飾抗体断片であって、
該抗体断片が、3以下のアミノ酸置換をしてもよい、GFNIKDYY (配列番号1)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、IDPEDGET (配列番号2)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及びTIIYYYGSRYVDY (配列番号3)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに/又は
3以下のアミノ酸置換をしてもよい、SSISSSY (配列番号4)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、RTSのアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及びQQGSSIPLT (配列番号5)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含み、該抗体断片が、scFv、VH又はVLであることを特徴とする。
【0023】
本発明におけるTDP-43は、通常、動物由来であり、好ましくは哺乳動物由来、特に好ましくはヒト由来である。
【0024】
ヒト由来のTDP-43は、414アミノ酸からなるタンパク質であり、一次構造はヘテロリボ核タンパク質(hnRNA)ファミリーと高い相同性を有している。TDP-43は2つの高く保存されたRNA認識モチーフ(RRM1、RRM2)を有し、C末端側にはグリシンリッチ領域を含んでおり、このグリシンリッチ領域はhnRNPファミリーのメンバーと結合する。
【0025】
ヒト由来のTDP-43タンパク質のアミノ酸配列は、RefSeq Accession No.NP_031401として登録され、配列番号6に示されている。また、ヒト由来のTDP-43タンパク質をコードする遺伝子は、RefSeq Accession No.NM_007375として登録され、その塩基配列は配列番号7に示されている。
【0026】
本発明におけるTDP-43としては、上記配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体であってもよい。
【0027】
ミスフォールドしたTDP-43とは、天然構造とは異なる構造にフォールディングしたTDP-43のことであり、特にTDP-43プロテイノパチーと関連する病原構造を有するTDP-43のことである。
【0028】
本発明の抗体断片に含まれる上記CDR (相補性決定領域)は、ミスフォールドしたTDP-43に結合性を有することを特徴とする。本発明の抗体断片は、ミスフォールドしたTDP-43に特異的に結合し、正常構造を有するTDP-43には結合しないことが望ましい。
【0029】
本発明の抗体断片は、好ましくは、3以下のアミノ酸置換をしてもよい、GFNIKDYY (配列番号1)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、IDPEDGET (配列番号2)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及びTIIYYYGSRYVDY (配列番号3)のアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域、並びに3以下のアミノ酸置換をしてもよい、SSISSSY (配列番号4)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、RTSのアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及びQQGSSIPLT (配列番号5)のアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0030】
本発明で使用する重鎖CDR2にはPEST配列が含まれているため、ミスフォールドしたTDP-43が存在しない状況では速やかに分解されるという特性を有している。
【0031】
アミノ酸置換は、抗体断片のミスフォールドしたTDP-43に対する結合性が維持されるように行われる。上記「3以下のアミノ酸置換をしてもよい」とは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域において合計3個以下のアミノ酸を置換してもよいことを意味し、アミノ酸置換はCDRの部分で行われるのが望ましい。
【0032】
アミノ酸置換の数は、好ましくは2以下、より好ましくは1以下であり、更に好ましくは0である。アミノ酸を置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、元の抗体断片の活性が維持されやすいと考えられる。特定のアミノ酸配列において、アミノ酸を置換させる技術は公知である。
【0033】
scFvとは、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とからなるFvを、適当なペプチドリンカーで連絡した抗体断片のことである。VH及びVLとは、それぞれ重鎖可変領域のみからなる抗体断片、軽鎖可変領域のみからなる抗体断片を意味する。
【0034】
本発明の抗体断片としては、scFvであることが望ましい。scFvとしては、VHとVLとがいずれの順序で結合しているものも使用することができる。
【0035】
本発明の抗体断片の可変領域におけるフレームワーク領域(FR領域)の配列は、抗体断片がミスフォールドしたTDP-43に結合性を有する限り特に制限されず、いずれの配列も使用することができる。本発明の抗体断片は、フレームワーク領域がヒト由来であるヒト化抗体断片であることが望ましい。このようなヒト化抗体は公知の方法により作製することができる。
【0036】
シャペロン介在性オートファジー(CMA)移行シグナルペプチドとはCMAへの移行を誘導するシグナルペプチドのことであり、CMAとはタンパク質がシャペロンにより認識され、当該複合体がリソソーム上のレセプターと考えられるLAMP2Aとの結合を介してリソソーム内部に移行し分解される経路を意味する。このように本発明の修飾抗体断片にCMAが存在することで、抗体断片に結合したミスフォールドしたTDP-43のオートファジーによる分解が促進される。
【0037】
シャペロン介在性オートファジー(CMA)移行シグナルペプチドとしては、CMAへの移行を誘導できるシグナルペプチドであれば特に制限無く使用でき、例えば、アミノ酸配列KFREQ (配列番号8)を含むペプチドが挙げられる。
【0038】
本発明の修飾抗体断片において、抗体断片、及びシャペロン介在性オートファジー移行シグナルペプチドは、本発明の効果が得られる限り、どのような順序で結合していてもよい。また、これらは直接結合していてもよく、又は間に任意のアミノ酸配列が存在していてもよい。本発明の修飾抗体断片には、これらの抗体断片及びペプチド以外にも、他のタンパク質及びペプチドが結合していてもよい。
【0039】
本発明の核酸は、上記修飾抗体断片をコードすることを特徴とする。当該核酸は、修飾抗体断片を構成する各抗体断片及びペプチドをコードする核酸を用いて、生化学的切断/再結合などの常法で作製することができる。抗体断片及びシャペロン介在性オートファジー移行シグナルペプチドをコードする核酸は、PCR法、化学合成、生化学的切断/再結合などの常法で作製することができる。
【0040】
本発明の発現ベクターは、上記核酸を含むことを特徴とする。当該発現ベクターとしては、特に制限されず、公知の発現ベクターを広く使用することができる。上記核酸を導入する細胞の種類等を考慮し、適切な発現ベクターを適宜選択すればよい。発現ベクターは、上記核酸以外にも、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点などを含有し得る。発現ベクターは、自立的に複製するベクター、及び宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるもののいずれも使用することができる。上記核酸は、公知の方法により発現ベクターに挿入することができる。
【0041】
発現ベクターの構築、及び当該発現ベクターの細胞への導入法は周知であり、例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等の記載を参考にして実施することができる。
【0042】
本発明の遺伝子治療剤は、上記核酸を含むことを特徴とする。本発明の遺伝子治療剤により上記核酸を細胞内で発現させることで、本発明の修飾抗体断片を細胞内抗体(イントラボディ)として使用することができる。
【0043】
上記核酸を細胞内で発現させるために、例えば、非ウイルスベクター又はウイルスベクターを使用することができる。非ウイルスベクターとしては、リポソーム、高分子ミセル、カチオン性キャリアなどが挙げられる。また、ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウィルス、センダイウイルス、ボルナウイルスなどが挙げられ、上記核酸を含むベクターを無毒化したウィルスに導入し、細胞又は組織にこのウィルスを感染させることにより細胞又は組織内に核酸を導入することができる。
【0044】
本発明の遺伝子治療剤は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の遺伝子治療剤は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣又は腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。
【0045】
本発明の遺伝子治療剤における有効成分である核酸の配合量は、剤型、投与経路等に応じて適宜選択され、通常、製剤全量中0.0001~90質量%程度、好ましくは0.001~70質量%程度である。
【0046】
本発明の遺伝子治療剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与される。本発明の遺伝子治療剤の投与方法は、特に限定されず、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などの当業者に公知の方法により行うことができる。本発明の遺伝子治療剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢及び体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定できる。
【0047】
本発明の遺伝子治療剤は、細胞内で修飾抗体断片を発現させてミスフォールドしたTDP-43を分解除去できるため、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療に使用することができる。TDP-43の凝集体が蓄積する疾患としては、特に限定されず、例えば、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、Perry症候群、低悪性度グリオーマ、アルツハイマー病、ハンチントン病、ピック病、パーキンソン病、レビー小体病、大脳皮質基底核変性症、封入体筋炎、B細胞リンパ腫(M期)等が挙げられる。中でも、本発明の遺伝子治療剤は、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、及びPerry症候群に好適に使用することができる。
【0048】
本発明の遺伝子治療剤はまた、熱ショックタンパク質を誘導させるために用いることもできる。熱ショックタンパク質はTDP-43の凝集体をほぐし、分解を促進させる作用を有する。熱ショックタンパク質としては、ミスフォールドしたタンパク質の存在下で誘導されるものが好ましく、例えば、Hsp70、Hsp25、Hsp104、Hsp110などが挙げられる。中でも好ましくはHsp70である。
【0049】
本発明の修飾抗体断片は、細胞内抗体として使用することで、野生型のTDP-43には影響が無く、ミスフォールドしたTDP-43を分解除去し、神経細胞死を抑制することができるため、TDP-43の凝集体が蓄積する疾患の治療効果を有する。
【0050】
本発明の修飾抗体断片はまた、熱ショックタンパク質を誘導させることができ、その結果としてTDP-43の凝集体をほぐす効果が得られるため、オートファジーでの分解をより促進させることが可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0052】
<実験方法>
以下の試験例における材料、試薬及び実験方法は特に記載しない限り次の通りとした。
【0053】
(scFv作製)
マウスハイブリドーマより、市販のmRNA抽出キット(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)及びcDNA合成キット(SuperScript III Reverse Transcriptase (Invitrogen))を用いて、各々メッセンジャーRNA及びそれを鋳型としてオリゴdTプライマーによりcDNAを作製した。プライマーペア、5'-GAC TCG AGT CGA CAT CGA TTT TTT TTT TTT TTT TT-3' (配列番号9)と5'-CTC AAT TTT CTT GTC CAC CTT GGT GC-3' (配列番号10)とをVH cDNA用に、5'-GAC TCG AGT CGA CAT CGA TTT TTT TTT TTT TTT TT-3' (配列番号11)と5'-CTC ATT CCT GTT GAA GCT CTT GAC AAT GGG-3' (配列番号12)とをVL cDNA用に、常法のPCR増幅を経てクローニングした。
【0054】
VHとVLとをGGGGS (配列番号13)を3つタンデムにつなげたリンカー配列(5'-tgaaccgcctccaccTATTTCCAACTTTGTCCCC-3' (配列番号14)、5'-ggcggtggcggatctGAGGTTCAGCTGCAGCAGT-3' (配列番号15))によって連結し、更にカルボキシル末端にシャペロン介在性オートファジーシグナル(CMA)アミノ酸配列であるKFREQ (5'-CGAGCATGCATCTAGAAAATTCAGAGAACAATGATCTAGAGGGCCCTATT-3' (配列番号16)、5'-AATAGGGCCCTCTAGATCATTGTTCTCTGAATTTTCTAGATGCATGCTCG-3' (配列番号17))とMycタグ(5'-GCCCAGGCCCGAATTCGCCATGgAAATTGTGCTCACCCAGT-3' (配列番号18)、5'-TAGATGCATGCTCGAGTTATTGTTCTCTGAATTTCAGGTCCTCCTCTGAGATC-3' (配列番号19))とを付与した。これらVH-VL及びVL-VHをpcDNA3ベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。
【0055】
ここでクローニングしたDNAにコードされるVH及びVLのアミノ酸配列を以下に示す。下線部分は、順にCDR1、CDR2、CDR3である。また、VHにはPEST配列(RIDPEDGETK (配列番号20))がCDR2の部分に含まれている。また、VH及びVLの以下のアミノ酸配列に対応する塩基配列についても以下に示す。
VH (アミノ酸配列)
EVQLQQSGAELVKPGASVKLSCTASGFNIKDYYMHWVKQRTEQGLEWIGRIDPEDGETKYAPKFQGKATITADTSSNTAYLQLSSLTSEDTAVYYCTIIYYYGSRYVDYWGQGTTLTVS (配列番号21)
VL (アミノ酸配列)
EIVLTQSPTTMAASPGEKITITCSASSSISSSYLHWYQQKPGFSPKLLIYRTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTIGTMEAEDVATYYCQQGSSIPLTFGSGTKLEI (配列番号22)
VH (塩基配列)
GAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGGGGCAGAGCTTGTGAAGCCAGGGGCCTCAGTCAAGTTGTCCTGCACAGCTTCTGGCTTCAACATTAAAGACTACTATATGCACTGGGTGAAGCAGAGGACTGAACAGGGCCTGGAGTGGATTGGAAGGATTGATCCTGAGGATGGTGAAACTAAATATGCCCCGAAATTCCAGGGCAAGGCCACTATTACAGCAGACACATCCTCCAACACAGCCTACCTGCAGCTCAGCAGCCTGACATCTGAGGACACTGCCGTCTATTACTGTACTATCATTTATTACTACGGTAGTCGCTACGTTGACTACTGGGGCCAAGGCACCACTCTCACAGTCTCC (配列番号23)
VL (塩基配列)
GAAATTGTGCTCACCCAGTCTCCAACCACCATGGCTGCATCTCCCGGGGAGAAGATCACTATCACCTGCAGTGCCAGCTCAAGTATAAGTTCCAGTTACTTGCATTGGTATCAGCAGAAGCCAGGATTCTCCCCTAAACTCTTGATTTATAGGACATCCAATCTGGCTTCTGGAGTCCCAGCTCGCTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGGACCTCTTACTCTCTCACAATTGGCACCATGGAGGCTGAAGATGTTGCCACTTACTACTGCCAGCAGGGTAGTAGTATACCACTCACGTTCGGCTCGGGGACAAAGTTGGAAATA (配列番号24)
【0056】
(培養細胞とトランスフェクション)
HEK293A細胞及びNeuro2a細胞は10%ウシ胎児血清(FBS)及びペニシリン・ストレプトマイシン(100倍希釈)を含むDulbecco変法Eagle培地(DMEM;ナカライテスク株式会社)を用いて、37℃、5%CO2インキュベーター内で培養した。プラスミドトランスフェクションはFuGene HD (Roche)を用い、添付文書に従って行った。
【0057】
(ウェスタンブロッティング法と免疫沈降法)
HEK293A細胞をプロテアーゼ阻害剤(Roche)を含むRIPAバッファー(20 mM HEPES-KOH [pH 7.4], 125 mM NaCl, 2 mM EDTA, 1% Nonidet-P40, 1% sodium-deoxycholate)で溶解したライセートを作製した。
【0058】
ライセートを、2% SDSと100 mMジチオスレイトール(DTT)となるように調整した。ウェスタンブロッティングは、市販のポリアクリルアミドゲル(Wako)にサンプルを添加、電気泳動し、PVDFメンブレンに転写した後に、一次抗体、次いでペルオキシダーゼ標識をした二次抗体(Jackson immunolaboratory)と反応させ、市販の化学発光キット(ECL; Thermo-Fisher Scientificあるいはナカライテスク株式会社)を用いて発色させた。
【0059】
(サンドイッチELISA法)
scFvと抗原の細胞内での結合性を定量するためにサンドイッチELISAを行った。FLAGタグ標識をしたTDP-43 (TDP-43-FLAG)とMycタグ標識をしたscFv (scFv-Myc)とをHEK293A細胞に上記の方法を用いてトランスフェクションさせ、48時間後に細胞をRIPAバッファーに溶解させてライセートを作製した。別途1000分の1に希釈した抗FLAG抗体(M2 Sigma)をコートしたELISAプレート(Nunc)にライセートを加え22℃で1時間反応させた後、500分の1に希釈したウサギ由来の抗Myc抗体(Cell signaling社)と4℃、16時間反応させた。
【0060】
洗浄後ペルオキシダーゼ標識させた抗ウサギIgG抗体(Jackson immunolaboratory)を22℃で30分間反応させた。最後にABS (2,2'-azino-bis-3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonate (Roche))を加えて発色させ、マルチプレートリーダーにて(吸光度405 nm、レファレンス490 nm)解析した。
【0061】
(scFvタンパク質の半減期と分解阻害アッセイ)
MycタグをつけたscFv (scFv-Myc、scFv-Myc-CL1、scFv-Myc-CMA)を培養細胞(HEK293A)にトランスフェクションし、48時間後にシクロヘキシミド(CHX)を100μg/mlの濃度で投与し、新たなタンパク質合成を止めた。その直後、プロテアソーム阻害薬(ラクタシスチン)、ライソゾーム阻害薬(バフィロマイシン)を各々10μM、0.1μMの濃度で投与し、無投薬のコントロールを含め10、24時間後に細胞を回収し、2メルカプトエタノールを含む2% SDSサンプルバッファーに溶解して変性させた。その後は上記のウェスタンブロット法に従って、抗Myc抗体を用いて検出し、バンドをデンシトメトリー法によって定量化した。
【0062】
(TDP-43タンパク質のscFvによる分解効率解析)
Haloタグ(Promega)で標識させたTDP-43 (TDP-43-Halo)とMyc標識させたscFv (scFv-Myc)とを上記の方法で共発現させた。48時間後に発現したTDP-43-Haloを1μMのdiAcFAMリガンド(Promega)を15分間投与してラベルした後、培養培地を洗浄して、通常の培地で培養を続けた。diAcFAMリガンド投与直後、12時間後、24時間後に細胞を2% SDSサンプルバッファーにて回収し、5-20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った後、ゲルを蛍光撮影機(LAS-3000; FUJIFILM)にて撮像した。その後、ゲルをウェスタンブロッティングのためPVDFメンブレンに転写し、解析を行った。
【0063】
(タイムラプスビデオ顕微鏡解析)
GFP標識をしたTDP-43 (TDP-43-GFP)とscFv-CMAとをHEK293A細胞に上記の方法を用いて共発現させた。24時間後に培養培地内に細胞の核を染色するHoechst 33342 (ナカライテスク株式会社)を投与し、タイムラプス蛍光顕微鏡(BZX-710; Keyence, Osaka)にて30分おきに付属のソフトウェアを用いて48時間連続撮影を行った。撮像場所は初回の撮影前にランダムに4箇所決め、その後は同じ場所を撮影した。
【0064】
(細胞生存、細胞死アッセイ)
96マルチウェル上のNeuro2a細胞にFLAGタグ標識をしたTDP-43とMycタグ標識をしたscFvとを上記の方法で共発現させた。48時間後に市販の生細胞・死細胞定量キット(MultiTox-Fluor multiplex cytotoxicity assay; Promega)のglycyl-phenylalanylamino fluorocoumarin (GF-AFC)及びbisalanyl-alanyl-phenylalanyl-rhodamine 110 (bis-AAF-R110)を同時に投与して2時間インキュベーター内で反応させた。その後、蛍光マルチプレートリーダー(Perkin Elmer)を用いて生細胞を蛍光度400/505 nm、死細胞を485/520 nmで測定した。
【0065】
(定量的PCR解析)
上記の方法でトランスフェクションをしたHEK293A細胞から市販のRNA抽出キット(Invitrogen)及びcDNA作製キット(Invitrogen)を用いてcDNAを作製した。SYBER Green定量キット(Toyobo)を取扱説明書のプロトコールに従い、リアルテイムPCR検出システム(Bio-Rad)にてPCRを行い、付属のソフトウェアを用いて定量解析を行った。用いたプライマー配列は以下のとおりである。HSP70, 5'-CAA GAT CAC CAT CAC CAA CG-3' (配列番号25)及び5'-TCG TCC TCC GCT TTG TAC TT-3' (配列番号26); GAPDH, 5'-GCA CCG TCA AGG CTG AGA AC-3' (配列番号27)及び5'-TGG TGG TGA AGA CGC CAG TGG A-3' (配列番号28)
【0066】
(子宮内電気穿孔法)
妊娠13.5日のSJR妊娠マウスよりイソフルレン吸入麻酔下で子宮を取り出し、子宮を保持しながら目視下に胎児側脳室に清潔なPBSに溶解したTDP-43-GFPあるいはGFP、scFV-Myc、mCherry (タカラバイオ株式会社)の発現プラスミド(pCAG-TDP-43-GFP、pCAG-scFv-Myc, pCAG-mCherry)を1~2μL注入した。そして、皿電極(CUY650P5; Nepagene)で脳外側を軽くはさみ、プラスミドの注入側に陰極を合わせ、5回間欠的に電気刺激を与えた(31 V, 50 ms, at 950-ミリ秒間隔)。その後、子宮を母体の腹腔に戻し、縫合した後妊娠を継続させた。
【0067】
(マウス脳切片の免疫組織染色法)
上記の方法で妊娠継続させた後、胎仔を取り出しペントバルビタールをフック内投与した後、経心臓的に4% PFAを投与し灌流固定を行った。脳を取り出した後、さらに4℃、16時間4% PFA溶液内で後固定し、その後、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社)に包埋し液体窒素で固定した。クリオスタットで12μmの切片を作製しMASコートスライドグラスに貼付した。
【0068】
免疫染色では、まず1% Triton-X100を含む0.1M PBS-Tバッファーで洗浄しOCTコンパウンドを除去した後、3%ウシ血清アルブミン(ナカライテスク株式会社)を含むPBS-Tバッファーを加えブロッキングした。その後、一次抗体に4℃、16時間反応させ、洗浄後、蛍光標識させた2次抗体(Fluo抗体、Invitrogen)に22℃、1時間反応させ、洗浄後4'-6 diamidino-2-phenylindole (DAPI)を含むマウント剤(Vector)を用いてカバーグラス処理をした。切片は共焦点レーザー顕微鏡(FV1000-D IX81、オリンパス株式会社)を用いて、観察し写真撮影を行った。
【0069】
試験例1:インビトロ試験
scFv-MycとTDP-43 (野生型、核移行シグナル変異型(mNLS)、核内凝集体形成型(C173S/C175S)、細胞質凝集体形成型(mNLS-C173S/C175S))とを培養細胞(HEK293A)に発現させ、ライセートをサンドイッチELISA法によって解析し、TDP-43とscFvの結合性を数値化した。その結果を
図1に示す。
【0070】
培養細胞にscFv (タグなし、CLI1タグ、CMAタグ)を発現させ、シクロヘキシミド(100μg/ml)を投与してタンパク質合成を止め、24時間後に細胞を回収し残存するscFv-Mycをウェスタンブロット法によって定量化した。その結果を
図2右に示す。
【0071】
Haloタグを付加したTDP-43 (野生型及び細胞質凝集体形成型(mNLS-C173S/C175S))を培養細胞に発現させ、24時間後に蛍光Haloリガンドを投与し、0、12、24時間後に細胞を回収してSDS-PAGEに展開し、蛍光撮像機にて解析し、定量化した。その結果を
図3に示す。
【0072】
培養細胞HEK293A細胞にTDP-43-EGFP (細胞質凝集体形成型)とscFvとを共発現させ、タイムラプス蛍光顕微鏡にて経時撮影し、100細胞あたりの凝集体数、細胞あたりの凝集体のサイズ、残存細胞を定量化し、4視野の平均値を求めた。その結果を
図4上段に示す。
【0073】
培養細胞(Neuro2a)にベクター又はscFv (タグなし、CL1付加、CMA付加)と野生型あるいはミスフォールドTDP-43とを共発現させ、細胞生存率と、細胞毒性とを定量化した。その結果を
図4下段に示す。
【0074】
試験例2:Hsp70の誘導
培養細胞(HEK293A)にTDP-43-FLAG (野生型及び細胞質凝集体形成型(mNLS-C173S/C175S))あるいはベクター、加えてscFv-Myc (シグナルなし、CL1、CMAシグナル)あるいはベクターを共発現させ、48時間後に細胞を回収した。細胞からcDNAを回収し、Hsp70のmRNAをリアルタイムPCRアッセイにて解析した結果を
図5左に示す。細胞ライセートをウェスタンブロッティング法にてHsp70を検出し、デンシトメトリーにてタンパク量を定量化した結果を
図5右に示す。
【0075】
培養細胞(HEK293A)にTDP-43-FLAGとベクター、Hsp90又はHsp70とを過剰発現させ、細胞を界面活性剤(1% TritonX100)に可溶化し、上清と沈殿とに分離した。各々をHsp70抗体を用いてウェスタンブロッティングで解析し、検出したバンドをデンシトメトリーにて定量化した。不溶化TDP-43を可溶化TDP-43で除したデータを
図6に示す。
【0076】
試験例3:インビボ試験
妊娠13.5日齢(E13.5)のマウス胎仔脳側脳室内にTDP-43-GFP、scFv-CMAを導入して妊娠継続させ妊娠16日目に胎仔能を固定して脳切片を作製し、抗GFP抗体、抗ユビキチン抗体、抗リン酸化TDP-43抗体にて免疫染色を行った。ミスフォールドTDP-43とはmNLS-TDP-43 C173S/C175Sのことである。結果を
図7に示す。
【0077】
上記と同様にE13.5の胎仔脳にTDP-43-EGFPとscFv-Myc-CMAとを導入し妊娠を継続させ、E16にて胎仔脳を固定して脳切片を作製し、抗GFP抗体、抗Myc抗体で免疫染色を行った。結果を
図8に示す。
【0078】
上記と同様にE13.5の胎仔脳にTDP-43-EGFP、scFv-Myc-CMA、及びmCherryを導入し妊娠を継続させ、E16にて胎仔脳を固定して脳切片を作製し、抗GFP抗体、抗Myc抗体、抗mCherry抗体で免疫染色を行い、凝集体を蛍光強度とサイズとで定量化した。ミスフォールドしたTDP-43の結果を
図9に、野生型TDP-43の結果を
図10に示す。野生型TDP-43を発現したマウス脳では、scFv-Myc-CMAはそのTDP-43の発現量に影響を与えなかった。
【0079】
上記と同様にE13.5の胎仔脳にscFv-Myc-CMAとmCherryとを導入し妊娠、出産させ、21日目まで観察した。産仔は正常に授乳、離乳されコントロールと同様の発育を示した。同日に脳を固定し、抗Myc抗体、抗mCherry抗体、抗NeuN抗体、抗Iba1抗体、抗GFAP抗体で免疫染色した。結果を
図11に示す。
【配列表】