(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230727BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
(21)【出願番号】P 2017090424
(22)【出願日】2017-04-28
【審査請求日】2020-04-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【氏名又は名称】松本 久紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 花子
(72)【発明者】
【氏名】米倉 聡子
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】平塚 政宏
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-286059(JP,A)
【文献】特開2007-54024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1.5~4.0cmにカットされた
牛肉、豚肉、鶏肉のいずれかである畜肉を、
重曹、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムから選ばれる1以上を用いてpH7.0~9.0に調整された水溶液で
、冷蔵域(4~10℃)において20時間以上浸漬処理し、その後、凍結乾燥することを特徴とする、肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性向上方法。
【請求項2】
pH7.0~9.0に調整された水溶液で畜肉を浸漬処理した後、加熱処理を行ってから凍結乾燥することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱処理が、蒸煮処理及び/又は油調処理であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーズドライ畜肉の湯戻り性向上方法等に関するものである。詳細には、成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性向上方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
お湯を注いで1分程度待つだけで食べられる非常に手軽な食品であるインスタントスープは、簡便志向、個食化志向を背景に需要が増加傾向にある。さらには、近年、本物志向も加わり、高付加価値を追求した差別化インスタントスープが求められている。
【0003】
そして、高付加価値を追求したもののひとつとして、具材が大きく素材感があり、成型加工された具材ではなく素材そのものに近い本物感のある具材が入ったインスタントスープの開発が当業界では望まれているが、現状の製法では製造上及び品質上の点で困難となっていた。
【0004】
例えば、畜肉具材の製造法として、原料肉を結着剤を用いて成型した後フリーズドライにするフリーズドライチャーシューの製造法(特許文献1)や、肉原料を含む即席乾燥具材の湯戻り改善のためにシート状のものを挟み込む方法(特許文献2)、大豆タンパク質を畜肉原料に含有させた乾燥食品の製造法(特許文献3)などの開示があるものの、いずれも成型加工によって得られる乾燥畜肉であり、本物感に欠けるものであった。
【0005】
また、グリセリンを含有させた凍結乾燥畜肉が良好な復水性を有しつつ、しなやかで割れにくいことが知られており(特許文献4)、さらには、乾燥肉の技術ではないが、酵素処理などにより肉を柔らかくする方法も知られている。しかしながら、成型加工していないフリーズドライ畜肉の湯戻り性や湯戻し後の食感を向上させる技術は、これまであまり開示されていなかった。特に、肉厚(例えば、厚さが1.5cm以上)のフリーズドライ畜肉については、肉厚なフリーズドライ食品自体が湯戻り性が悪いとされているため、その開発は困難であった。
【0006】
このような背景技術の中、当業界では、インスタントスープなどにも具材として使用可能な品質とするための、成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性向上や湯戻し後の食感の改善などができる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-235515号公報
【文献】特開2005-052141号公報
【文献】特開2004-041041号公報
【文献】特開2016-208927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フリーズドライ製法で得られた成型加工していない肉厚な畜肉の湯戻り性や、湯戻し後の食感を簡便に向上させる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、厚さ1.5cm以上にカットされた畜肉を、pH7~9に調整された水溶液で15時間以上浸漬処理し、その後、凍結乾燥することで、簡便且つ効果的に、成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性等を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)厚さ1.5cm以上にカットされた畜肉(成型加工していないもの)を、pH7.0~9.0に調整された水溶液で15時間以上浸漬処理し、その後、凍結乾燥(フリーズドライ)することを特徴とする、肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性(特に、短時間での湯戻り性)向上方法。
(2)pH7.0~9.0に調整された水溶液で畜肉を浸漬処理した後、加熱処理を行ってから凍結乾燥することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)加熱処理が、蒸煮処理(スチーム処理)及び/又は油調処理(フライ処理)であることを特徴とする、(2)に記載の方法。
(4)厚さ2.0~4.0cm、好ましくは2.5~3.0cmにカットされた畜肉を用いることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)pH7.0~9.0に調整された水溶液で20時間以上(例えば20~30時間)浸漬処理することを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)pH7.0~9.0に調整された水溶液が、重曹、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムから選ばれる1以上を用いてpH調整されたものであること(特に、pH調整用成分以外を含有しないこと)を特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(7)畜肉が、牛肉、豚肉、鶏肉のいずれかである、(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来、短時間での湯戻りが困難であるとされてきた成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉について、簡便且つ効果的に、その湯戻り性を向上できるだけでなく、その湯戻し後の柔らかさ及びジューシー感、しっとり感向上もでき、より本物感や素材感のあるものが得られる。そして、このフリーズドライ畜肉は、インスタントスープや即席めんなどの短時間での具材の湯戻り性が要求される即席食品にも十分使用可能な品質である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明が対象としているのは、成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉である。ここで、本発明において「畜肉」とは、食肉用となる家畜や家禽の肉を意味し、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、羊肉、山羊肉、合鴨肉などが例示される。特に、本発明は、牛肉、豚肉、鶏肉のいずれかのフリーズドライ畜肉に好適に適用される。なお、「成型加工していない」とは、複数種の畜肉や畜肉以外の原料を混合して固形化されたり、特定の形状に成型・積層されたような成型加工肉が包含されないことを意味する。
【0013】
また、本発明において「肉厚な畜肉」とは、厚さ1.5cm以上、好ましくは厚さ2.0~4.0cmにカットされた畜肉を意味し、この「厚さ」とは、板状やブロック状、方体状等のカット畜肉において最短となる面や曲面の長さ・幅を意味する。
【0014】
そして、上記のような厚さ1.5cm以上にカットされた畜肉を、pH7.0~9.0、好ましくは7.5~8.5に調整された水溶液で浸漬処理を行う。浸漬処理時間は、15時間以上が必要であり、20時間以上が好ましい。なお、浸漬処理時の水溶液の温度は、冷蔵域(例えば4~10℃程度)が好適である。
【0015】
この浸漬処理に用いる水溶液のpH調整には、重曹、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの食品に使用できる公知のアルカリ剤をpH調整剤として使用でき、pHを所要の範囲内に調整するためにクエン酸などの酸味料もpH調整剤として併用可能である。なお、調味などの目的で、pH調整剤以外の成分、例えば糖類、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素、醤油、食塩等の調味組成物、スパイス、アミノ酸、核酸、増粘剤、着色料、酸化防止剤、アルコールなどを当該水溶液に更に添加することや、あるいは、肉の軟化の目的で、プロテアーゼを当該水溶液に更に添加して処理することも可能ではあるが、当該浸漬処理に用いる水溶液はpH調整剤のみを含有するものとし、他の成分は必要であれば別の工程で用いるのが本発明の効果を十分に発揮させるためにより好ましい。調味については、例えば、この浸漬処理後や、後の加熱処理後、乾燥処理後などにおいて、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記成分等を含む調味液の塗布や粉末調味料の散布などを行うことができる
【0016】
浸漬処理を行ったカット畜肉は、そのまま乾燥処理を行っても良いが、乾燥処理前に加熱処理を行うのが好ましい。加熱処理は、特に蒸煮処理(スチーム処理)か油調処理(フライ処理)が好適であり、これらを併用して行っても良いが、ボイル処理などの他の加熱処理の態様を完全に除外するものではない。
【0017】
本発明における蒸煮処理の条件としては、これに限定されるものではないが、100~130℃、0.01~0.5MPa程度の条件の水蒸気での30秒~10分間程度の処理などが好適例として示される。なお、この蒸煮処理は、密閉された条件で行っても良い。
【0018】
次に、本発明における油調処理の条件としては、これも限定されるものではないが、160~190℃(常圧)で60~300秒の処理などが好適例として示される。なお、この油調処理は、減圧可能な密閉式の油揚げ装置などを用いて減圧条件で減圧フライとしても良く、減圧フライとする場合の条件は、常圧で油調処理した場合と同程度の状態になるように適宜、真空度や温度、フライ時間等を調整して設定すれば良い。また、フライに使用する油も特に限定されず、動植物由来の各種食用油(大豆油、菜種油、米油、コーン油、パーム油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ラード、ヘット等、あるいは、これらから選ばれる2種以上の混合油)が広く使用できる。さらには、フライ処理前にパン粉などのフライ衣原料を畜肉に付けてもよい。
【0019】
このようにして処理したカット畜肉は、凍結乾燥法により乾燥処理してフリーズドライ(FD)畜肉とする。具体的には、まず、処理したカット畜肉を凍結工程により凍結する。凍結は、これに限定されるものではないが、処理したカット畜肉を空冷後に-20~-60℃程度で数時間凍結処理を行う方法などが例示される。なお、できる限り早くカット畜肉を凍結させるような条件、方法とすることが望ましい。
【0020】
凍結したカット畜肉は、凍結乾燥機により水分含量10重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。凍結乾燥機は公知のものを使用することができ、その乾燥条件は、カット畜肉の水分含量を上記以下とするようなものであれば特段限定されず、例えば、真空度0.8torr(mmHg)以下、好ましくは0.08torr(mmHg)以下、より好ましくは0.04torr(mmHg)以下などの真空条件で、真空度に応じた温度設定で10~36時間程度処理する条件などが例示される。
【0021】
このようにして、厚さ1.5cm以上にカットされた畜肉を、pH7.0~9.0に調整された水溶液で15時間以上浸漬処理し、必要であれば浸漬処理後に加熱処理等を行い、その後、凍結乾燥することで、成型加工していない肉厚なフリーズドライ畜肉について、その短時間での湯戻り性を向上させ、さらに、湯戻し後の柔らかさやジューシー感、しっとり感なども向上させることができる。
【0022】
なお、本発明において「湯戻り性」とは、湯戻しにより数分間以内、好ましくは1分間以内という短時間で、乾燥によるサクサク感がない状態となることを意味し、特に、吸水により畜肉の内部まで乾燥前より保水している状態を好ましい湯戻り性としている。
【0023】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0024】
まず、pH調整した水溶液での浸漬処理をしないで製造したフリーズドライ畜肉の厚さの違いによる湯戻り性の差等を比較確認するため、以下の試験を実施した。
【0025】
厚さ0.5cmと2.5cmにカットした鶏肉(胸肉)を、それぞれ8分間スチーム加熱処理後、凍結し、凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製品:型式RLE II-103)で、真空ポンプ(佐藤真空株式会社製品:型式USW-150)により乾燥開始時に真空度0.04torr(mmHg)以下となっていることを確認し、真空ポンプを稼動させたまま、温度70℃、乾燥時間26時間の条件で乾燥させた。得られた2種のフリーズドライ鶏肉をそれぞれカップに入れ、上から98℃の湯を投入して、1分後の「湯戻り性」及び「柔らかさ」を評価した。
【0026】
評価方法は、6名の訓練されたパネラーにより、以下の基準で官能評価を行った。
まず、「湯戻り性」は、湯の浸透の程度を以下の基準で総合的に評価した。
○:内部に湯が十分浸透しており、良い
△:湯の浸透状態にばらつきがある
×:内部に湯が浸透しておらず、悪い
【0027】
また、「柔らかさ」については、食べた時の食感を以下の基準により評価した。
◎:柔らかくてジューシー
○:柔らかい
△:どちらでもない
×:硬い
【0028】
この結果を下記表1に示した。厚みが0.5mmのフリーズドライ鶏肉は、湯戻り性及び柔らかさのいずれも良好であったが、厚みが2.5cmのフリーズドライ鶏肉については、1分間では中心部まで湯が浸透せず、硬くパサパサと乾燥した食感であった。
【0029】
【実施例2】
【0030】
次に、様々なpHに調整された各種水溶液での浸漬処理工程を経て製造したフリーズドライ畜肉の湯戻り性等を比較確認するため、以下の試験を実施した。
【0031】
鶏肉(胸肉)を一辺が2.5~3cmの立方体にカットし、下記表2に示すように重曹及び/又はクエン酸を用いて作製したpHの異なる各種水溶液で、それぞれ冷蔵庫内で20時間浸漬処理した。なお、pH8.7の水溶液は、熱水で重曹を溶解し、炭酸ナトリウムを発生させる方法で作製し、他は、冷水を用いて作製した。浸漬処理後にスチームにて8分間加熱処理し、その後、実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。得られた5種のフリーズドライ鶏肉について、実施例1と同様の評価基準で4名の訓練されたパネラーにより官能評価を行った。
【0032】
【0033】
この結果を下記表3に示した。pH5.1の水溶液で浸漬処理したフリーズドライ鶏肉は湯戻り性が悪く、硬い食感であった。他のpHの水溶液で浸漬処理したフリーズドライ鶏肉の湯戻り性はいずれも概ね良好な結果であったが、pH7.0~8.7の範囲に調整された水溶液での浸漬処理が、湯戻り性及び柔らかさのいずれもがより好ましい結果となり、特にpH8付近の水溶液での浸漬処理が湯戻り性が良好で且つ湯戻し後の食感が非常に柔らかくてジューシーであることが明らかとなった。
【0034】
【実施例3】
【0035】
さらに、畜肉の種類による効果の違い等を確認するため、以下の試験を実施した。
【0036】
2種の畜肉(牛肉(角切り)、豚肉(肩ロース))をそれぞれ同様なサイズ(一辺が2~3cmの立方体)にカットし、2%重曹溶液(pH8.08)で、それぞれ冷蔵庫内で20時間浸漬処理した。浸漬処理後に牛肉は9分間、豚肉は10分間スチーム加熱処理し、その後、いずれも実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。これらの評価は、得られた2種のフリーズドライ畜肉をカップに入れ、上から98℃の湯を投入し、1分後の「湯戻り性」及び「柔らかさ」を、浸漬処理を行わないサンプル(コントロール)との比較で行った。
【0037】
評価方法は、4名の訓練されたパネラーにより、以下の基準で官能評価を行った。
まず、「湯戻り性」は、湯の浸透の程度を以下の基準で総合的に評価した。
○:コントロールと比較して、内部に湯が十分浸透しており、良い
△:コントロールと同程度
×:コントロールと比較して、内部に湯が浸透しておらず、悪い
【0038】
また、「柔らかさ」については、食べた時の食感を以下の基準により評価した。
◎:コントロールと比較して、かなり柔らかくジューシー
○:コントロールと比較して、柔らかい
△:コントロールと同程度
×:コントロールと比較して、硬い
【0039】
この結果を下記表4に示した。牛肉及び豚肉のいずれも、加熱、乾燥前にpH8付近の水溶液で浸漬処理する工程を経て製造したフリーズドライ品は、浸漬処理を行わないサンプルと比較して湯戻り性が良く、柔らかさやジューシー感もあることが明らかとなった。
【0040】
【実施例4】
【0041】
次に、加熱処理の違いによる湯戻り性向上効果の違い等を確認するため、以下の試験を実施した。
【0042】
実施例2と同様のカットをした鶏肉(胸肉)を、浸漬処理を行わずに、スチームもしくはボイルにて鶏肉の中心温度が85~87℃に達するまで加熱処理し、その後、いずれも実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。得られた2種のフリーズドライ鶏肉について、実施例1と同様の評価基準で3名の訓練されたパネラーにより湯投入1~3分後での官能評価を行った。なお、「柔らかさ」は湯戻りした部分で評価を行った。
【0043】
結果を下記表5に示した。この結果から、加熱処理方法は、湯戻り性については大きな差がなかったが、ボイル処理よりもスチーム処理の方が、湯戻し後の食感という点でより好ましいということが明らかとなった。なお、これらはいずれも1分後では湯戻りせず、短時間での湯戻り性向上にはpH調整した水溶液での浸漬処理が必要であることも見出された。
【0044】
【0045】
さらに、実施例2と同様のカットをした鶏肉(胸肉)を、下記表6に示す浸漬液1又は2で、それぞれ冷蔵庫内で20時間浸漬処理した(浸漬処理1又は2)。これらの浸漬処理後にそれぞれスチーム加熱処理もしくは植物油(キャノーラ油)でフライ加熱処理し、その後、いずれも実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。得られた4種のフリーズドライ鶏肉及び浸漬処理をしていないサンプル2種について、実施例1と同様の評価基準で6名の訓練されたパネラーにより官能評価を行った。
【0046】
【0047】
結果を下記表7に示した。この結果から、フライ加熱処理でもスチーム加熱処理と同等の品質を得ることができることが明らかとなった。
【0048】
【実施例5】
【0049】
さらに、酵素処理を併用した場合の効果等を確認するため、以下の試験を実施した。
【0050】
実施例2と同様のカットをした鶏肉(胸肉)を、下記表8に示すような重曹のみ、酵素のみ、もしくは重曹と酵素の両方を添加した水溶液で、それぞれ冷蔵庫内で20時間浸漬処理した。浸漬処理後にスチーム加熱処理し、その後、いずれも実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。得られた4種のフリーズドライ鶏肉をカップに入れ、上から98℃の湯を投入し、1分後及び2分後の「湯戻り性」及び「柔らかさ」を、浸漬処理を行わないサンプル(コントロール)との比較で官能評価した。
【0051】
【0052】
評価方法は、4名の訓練されたパネラーにより、以下の基準で官能評価を行った。
まず、「湯戻り性」は、湯の浸透の程度を以下の基準で総合的に評価した。
○:コントロールと比較して、内部に湯が十分浸透しており、良い
△:コントロールと同程度
×:コントロールと比較して、内部に湯が浸透しておらず、悪い
【0053】
また、「柔らかさ」については、食べた時の食感を以下の基準により評価した。
◎:コントロールと比較して、柔らかくしっとりしている
○:コントロールと比較して、柔らかい
△:コントロールと同程度に柔らかいが、パサついている
×:コントロールと比較して、硬く、パサついている
【0054】
この結果を下記表9に示した。重曹のみの溶液での処理区(重曹区分)と、酵素のみの溶液での処理区(酵素区分)を比較すると、重曹区分は1分間で内部まで十分な湯の浸透が認められ、その柔らかさやしっとり感も良好であったが、酵素区分では内部までの十分な湯の浸透に2分間かかった。重曹と酵素を組み合わせた溶液での処理区では、重曹区分と同等の結果が得られたが、酵素添加の効果は、重曹の効果を向上するものではなかった。つまり、肉の軟化技術として知られているものが全てフリーズドライ肉の湯戻り性や湯戻し後の食感向上効果を発揮するものではないことが示された。
【0055】
【実施例6】
【0056】
次に、肉のサイズが更に大きくなった場合の効果等を確認するため、以下の試験を実施した。
【0057】
トンカツ等の調理に使用されるサイズ(17×8×1.5cm)に豚肉(肩ロース)をカットし、2%重曹溶液(pH8.08)で冷蔵庫内において20時間浸漬処理した。浸漬処理後に10分間スチーム加熱処理し、その後、実施例1と同様の条件で凍結乾燥させた。得られたフリーズドライ豚肉を深皿に入れ、上から98℃の湯を投入し、5分後の「湯戻り性」及び「柔らかさ」を、浸漬処理を行わないサンプル(コントロール)との比較で、実施例1と同様の評価基準で4名の訓練されたパネラーにより官能評価を行った。なお、湯戻しに際し、吸水を助けるため、湯投入後2.5分経過したところで肉を反転させた。
【0058】
結果を下記表10に示した。この結果から、肉のサイズが非常に大きくても、pH調整した浸漬液での処理によりフリーズドライ畜肉の湯戻り性並びに湯戻し後の柔らかさを向上できることが明らかとなった。
【0059】
【0060】
以上より、牛肉、豚肉、鶏肉などの肉厚なフリーズドライ畜肉の製造においてpH7.0~9.0程度に調整された水溶液での20時間以上の浸漬処理工程を経ることで、得られる肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性並びに湯戻し後の柔らかさ及びジューシー感、しっとり感を簡便且つ効果的に向上させることができることが明らかとなった。
【0061】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0062】
本発明は、フリーズドライ製法で得られた成型加工していない肉厚な畜肉の湯戻り性や湯戻し後の食感などを簡便且つ効果的に向上させる方法等を提供することを目的とする。
【0063】
そして、厚さ1.5cm以上にカットされた畜肉を、pH7.0~9.0に調整された水溶液で15時間以上浸漬処理し、その後、凍結乾燥することで、得られる肉厚なフリーズドライ畜肉の湯戻り性を簡便且つ効果的に向上させることができ、インスタントスープなどの具材として好適な品質のものとすることができる。