IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イルミナ インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】ハイブリッドナノポアセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20230727BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230727BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230727BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12M1/34 B
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022003315
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2019182334の分割
【原出願日】2015-07-29
(65)【公開番号】P2022058596
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】62/031,762
(32)【優先日】2014-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/157,749
(32)【優先日】2015-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ボヤノフ, ボヤン
(72)【発明者】
【氏名】マンデル, ジェフリー ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ガンダーソン, ケヴィン エル.
(72)【発明者】
【氏名】バイ, ジンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, リャンリャン
(72)【発明者】
【氏名】バース, ブラッドリー
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0146480(US,A1)
【文献】国際公開第2013/057495(WO,A2)
【文献】特表2013-519088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0055792(US,A1)
【文献】特表2015-508896(JP,A)
【文献】特表2015-517799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0065640(US,A1)
【文献】特表2007-525490(JP,A)
【文献】特表2016-504312(JP,A)
【文献】BAYBURT et al.,Self-Assembly of Discoidal Phospholipid Bilayer Nanoparticles with Membrane Scaffold Proteins,NANO LETTERS 2002,Vol.2, No.8,American Chemical Society,2002年07月18日,p.853-856
【文献】ナノディスクとは,株式会社ビジコムジャパンのホームページ [online],2022年12月29日,[2023年5月17日検索], インターネット < https://web.archive.org/web/20221229055209/https://bizcomjapan.co.jp/cube-biotech/knowledge/what-is-nanodisc/ >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 33/48-33/98
C12M 1/00-1/42
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸をシークエンシングする方法であって、
(a)(i)ソリッドステートナノポアのアレイを備えた固体支持体であって、前記ソリッドステートナノポアが、前記固体支持体によって分離されたリザーバ間に孔を形成する、固体支持体と、
(ii)複数の脂質ナノディスクであって、前記固体支持体の表面上にあり、各々が前記ソリッドステートナノポアそれぞれにシールを形成し、膜骨格タンパク質(MSP)を含み、前記MSPが前記脂質ナノディスクを安定化させ、前記固体支持体の表面上の隙間領域によって互いに分離されている、複数の脂質ナノディスクと、
(iii)前記脂質ナノディスクに挿入され、前記シールのそれぞれに孔を形成する複数のタンパク質ナノポアと
を備える装置を用意するステップと、
(b)
(i)ポリヌクレオチド、
(ii)前記核酸から除去された一連のヌクレオチド、及び
(iii)前記核酸に組み込まれたヌクレオチドから誘導された一連のプローブ
からなる群より選択される核酸種の前記孔を通る通過を検出し、以て前記標的核酸の配列を決定するステップと、
を含む核酸をシークエンシングする方法。
【請求項2】
前記検出が、特定のヌクレオチド又は一連のヌクレオチドの通過を示す電気信号を検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記種の通過が分子モーターの誘導の下で実現され、前記分子モーターがヘリカーゼ、トランスロカーゼ、及びポリメラーゼからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的核酸が1本鎖ポリヌクレオチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的核酸がDNAである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
イオン電流が、前記タンパク質ナノポアのみを通って感知可能に流れ、前記シールを通って流れない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ソリッドステートナノポアがそれぞれ、少なくとも7nm、かつ、最大5ミクロンの孔直径を有する、及び/又は、
前記タンパク質ナノポアのそれぞれが、前記脂質ナノディスクの少なくとも直径5nm、かつ、最大直径1ミクロンである面積を占める、及び/又は、
前記脂質ナノディスクがそれぞれ、少なくとも7nm、かつ、最大1ミクロンの直径を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脂質ナノディスクが前記ソリッドステートナノポアの少なくとも50%にシールを形成する、及び/又は、前記タンパク質ナノポアが前記脂質ナノディスクの少なくとも50%に挿入される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ソリッドステートナノポアのアレイのソリッドステートナノポア上のシールを形成する前記脂質ナノディスクのそれぞれが、1個以下のタンパク質ナノポアを備える、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記装置が、前記タンパク質ナノポア又は前記脂質ナノディスクに結合した核酸テザーをさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記隙間領域が少なくとも5nm前記脂質ナノディスクを分離する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記隙間領域が脂質材料を有していない、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ソリッドステートナノポアのアレイが少なくとも1000個のソリッドステートナノポア、及び/又は、少なくとも1000個の脂質ナノディスク、及び/又は、少なくとも1000個のタンパク質ナノポアを備える、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記リザーバが、前記ソリッドステートナノポアのアレイと接触しているシスリザーバと、前記ソリッドステートナノポアのアレイと接触しているトランスリザーバとを備え、前記シスリザーバ及び前記トランスリザーバが、前記タンパク質ナノポアによって形成された前記孔を通して電流を印加するように配置された電極を備える、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【連邦政府資金による研究開発の記載】
【0001】
本発明は公衆衛生局(PHS)により授与された国立衛生研究所(NIH)認可番号5R21HG007833-02の下で政府支援とともになされた発明である。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
本出願は、「TETHERED NANOPORES, NANOPORES IN NANODISCS AND HYBRID NANOPORE SENSORS」と題する2015年5月6日出願の米国特許仮出願第62/157,749号及び「NANOPORES IN NANODISCS AND HYBRID NANOPORE SENSORS」と題する2014年7月31日出願の米国特許仮出願第62/031,762号の利益を主張し、これらの開示は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
タンパク質ナノポアデバイスは、多くのセンサ用途、特にDNA/RNAシークエンシングのために研究されてきた。ヌクレオチド塩基の識別は、DNA分子がナノポアを通過するときのイオン電流信号を読み取ることによって明らかとなっている。これらの初期の観察に続き、タンパク質に基づくナノポアデバイスが、より低価格、高速のターンアラウンド、及びより長いリードの長さの点で核酸シークエンシング技術を推し進める大いなる可能性を有すると想定されている。
【0004】
より成熟した技術、すなわち、合成によるシークエンシング(Sequencing-By Synthesis、SBS)は、この5年間で急速な発展を遂げ、約半年毎にスループットを倍にしており、半導体産業のムーアの法則をはるかにしのいでいる。この急速な発展は、SBS手順に対する主として以下の3つの重要な進歩、すなわち(1)サイクルシークエンシング化学の進歩、(2)表面上の核酸集団密度の増大、及び(3)イメージング/スキャン技術の向上により可能となっている。これら3つの技術的進歩によって、市販システムのスループットは2007年1月におけるラン毎に約1Gbから、2012年6月におけるラン毎に1Tb超へと増加した。しかしながら、これらの技術的進歩は、ナノポア技術に直接移植可能ではないことが分かった。
【0005】
SBSの改善におけるこの急速な発展にもかかわらず、30Xゲノムの価格はなおも1週間を超えるターンアラウンド時間で1000ドル/ゲノムを超えている。さらに、SBSを介して得られるヒトゲノムのde novoアセンブリ及びハプロタイピングは、短いリードにより困難となる。ナノポアを介したストランドシークエンシングは潜在的には、数秒間で最大50,000塩基を読み取ることができる。この単一の分子プラットフォームは、今日まで高速化を遂げたようにみえるが、並列化を大いに低下させるという犠牲を払っている。
【0006】
生物学的ナノポアの並列化は困難であることで有名である。プラットフォームそれ自体の壊れやすさ、特に脂質二重層の半流体性質は、多くの場合、高度な訓練を受けた技術者による特別な取り扱いを必要とするため、ナノポアシステムは、広範な商業化に対する実用性が低いものになる。タンパク質ナノポアデバイスの組立てのための現在の技術は、ほとんどの場合、手作業で、労力と時間がかかるものである。マイクロメートルサイズの孔のアレイを有する基材の上を脂質二重層で覆った後、操作者は被覆されたアレイを、注意深く滴定された量のタンパク質を有する溶液と接触させる。ナノポアの量は、ナノポアとなる孔の数を最大にする一方で、2つ以上のナノポアがロードされた孔の数を最小限にするようにポアソン統計に従って選択される。特定のインキュベーション期間が経過したら、ナノポア含有溶液を洗い流す。ポアソン式ロードは、ただ1つだけのナノポアを有する孔の数を可能な限り多く得るように、期間を注意深く選択することを必要とする。結果は、操作者の技能に大きく依存するため、大規模デバイス製造には容易に適応できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ナノポア技術の主要な課題は、プラットフォームのロバスト性を増大させると同時に、例えば、シークエンシング用途における並列化を改善することである。本開示は、この必要性に取り組み、その他の利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つ又は複数の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明に示す。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0009】
本開示は、ソリッドステートナノポアに挿入されるタンパク質ナノポアからなるハイブリッドナノポアを提供する。特定の実施形態では、ハイブリッドナノポアは、脂質ナノディスクに挿入されるタンパク質ナノポアを用いて作製され、最終的にはこれを備える。本明細書に記載される方法によれば、ナノポア含有脂質ナノディスクは自己集合できる。
【0010】
特定の実施形態では、タンパク質ナノポアは、まず、図1Aに示すように、脂質ナノディスク内で、自由溶液中で自己集合し、その後、図1Bに示すように、タンパク質ナノポアに核酸がグラフトされ、次いで、図1Cに示すように、電気泳動力を使用して、タンパク質ナノポア含有ナノディスクがソリッドステートナノポア表面と接触するまで、核酸鎖がソリッドステートナノポアを通るように駆動する。
【0011】
典型的なナノポア作製技術と比較した、懸濁脂質膜に基づく本開示の脂質ナノディスクにより支援されるナノポア組立てスキームの非限定的利点は、例えば、以下の点が挙げられる。
(1)構造的安定性:タンパク質ナノポアは、ハイブリッド膜に挿入され、固体ナノポアは、膜の大部分を支持し、ナノメートルサイズの孔を提供する。
(2)スケーラブル作製:タンパク質ナノポア含有脂質ナノディスクとソリッドステートナノポアとの相互作用の性質は、ソリッドステート孔へのナノポアのポアソン式ロードに頼る組立て方法よりも作製がはるかに安定するように自己制御的である。1つのタンパク質ナノポアの二重層への挿入は、脂質ナノディスクの再構築中に行われ得る。脂質ナノディスクのサイズ(例えば、いくつかの実施形態では10~13nm)は、単一のタンパク質ナノポア(例えば、約5nm Mspポア)の組み込みに有利であるように選択され得る。さらに、ソリッドステートナノポアサイズ(例えば、いくつかの実施形態では、7~10nm直径孔)は、ソリッドステートナノポア孔1つにつき1つだけのタンパク質ナノディスク複合体の組立てが可能であるように選択され得る。したがって、多くの実施形態では、複数回の挿入の組立て及びスクリーニング中の電気特性の能動的な監視が必要ない。
(3)良好な電気絶縁性:タンパク質ナノポアのソリッドステートナノポアへの直接の挿入は、通常、適切なイオン電流絶縁を達成するために、2つのナノポア間のサイズ及び形状を細かく合致させることを必要とする。本明細書にて開示する方法では、脂質ナノディスクは、単に、ソリッドステートナノポアの入口よりも大きくなるように選択され得る。電流漏洩は、最小値を超える広範囲のナノディスクサイズによって防止できるため、電流漏洩の回避は、タンパク質とソリッドステートナノポアとの間の細かい形状の合致を必要としなくなる。
(4)ソリッドステートナノポアの作製要件の緩和:5nm超のポア直径を有するソリッドステートナノポアは、タンパク質ナノポア含有脂質ナノディスクを用いて機能的ハイブリッドナノポアを形成できる。この特徴となるサイズは、最先端の半導体技術によって容易に得ることができるのに対し、最先端のポア作製は、タンパク質ナノポアの直接の挿入に必要とされる2~3nm範囲の直径を有するソリッドステートナノポアの作製に必要とされるが、非常にばらつきがあり、費用がかかり、また操作者の技能に過度に依存する。
(5)大規模並列化を可能にする:ミクロンサイズの脂質膜をなくすことによって、ソリッドステートナノポアプラットフォームに、オンチップ増幅器及びデータ収集回路の組み込みを介して高度の並列化を達成させることができる。データ収集に有用な例示的なアンプ、回路、及びその他のハードウェア は、それぞれが参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,673,550号又は米国特許第8,999,716号、Rosensteinら、Nano Lett 13巻、2682~2686ページ(2013年)又はUddinら、Nanotechnology 24巻、155501ページ(2013年)に記載される。
(6)少ない固有ノイズ:ソリッドステートナノポアは通常、安定した相互コンダクタンスのために適切な濡れを必要とする。本明細書に記載されるシステムの特定の実施形態において、ソリッドステートナノポアは機械的支持体としてのみ利用されるため、これら実施形態は、独立ソリッドステートナノポアよりも少ないノイズを示すことが期待される。
【0012】
本開示は、ソリッドステートナノポアのトップダウン型パターニング及びナノファブリケーションとタンパク質ナノポアのボトムアップ型生物学的組立てとを組み合わせたハイブリッドナノポアを作製するための方法について記載する。ナノポア、特に脂質二重層における生物学的ナノポアを用いた核酸シークエンシングのための既存の技術は、並列化及びデータスループットの大いなる低下という代償を払って大きな速度及びリード長を達成する。既存のプラットフォームの壊れやすさによって、さらに、商業化における当該プラットフォームの実用性が低下する。本開示の組成物及び方法は、高効率でロバストな自動の方法で自己集合可能なハイブリッド生物学的ソリッドステート構造体を確立することによってこれらの制限を克服できる。
【0013】
本明細書でさらに詳細に記述されるように、生物学的チャネルの脂質ベースのキャリアは、10nm超の直径を有するソリッドステートナノポアで組み立てられ得る。本明細書に記載される方法は、脂質ナノディスクへのナノポアタンパク質の挿入、ソリッドステートナノポアを用いたタンパク質ナノポア-ナノディスクの自己制御式組立て、及びハイブリッドプラットフォームの分析的応用、例えば、核酸検出及びシークエンシングに使用できる。得られるプラットフォームは、既存の半導体技術の使用から利用可能なより大規模な並列化及び高いシステム安定性を提供しながらも、タンパク質ナノポアに基づく核酸シークエンシングシステムの速度及びリード長の特性を提供するように構成され得る。
【0014】
本開示はさらに、係留されたナノポアを提供する。より詳細には、ナノポアは、本開示に従って、電極又はその他の固体支持体に係留され得る。
【0015】
特定の実施形態では、本開示は、(a)電極、(b)電極に係留されたナノポア、及び(c)ナノポアを取り囲む膜を備えた検出装置を提供する。複数の実施形態もまた提供される。例えば、本開示の検出装置は、(a)複数の電極、(b)複数の電極のうちの1つの電極にそれぞれが係留された複数のナノポア、及び(c)ナノポアそれぞれを取り囲む膜を含むことができる。
【0016】
検出装置の作製方法もまた提供される。本方法は、(a)電極のアレイを有する固体支持体を用意するステップと、(b)複数のナノポアを設けるステップと、(c)複数のナノポアを電極のアレイと接触させて、第1のテザーを介して個々のナノポアを個々の電極に結合させ、以て複数の電極の電極に係留されたナノポアのアレイを作製するステップと、(d)ナノポアのアレイを膜材料に接触させて、アレイのナノポアそれぞれを取り囲む膜を形成するステップとを含むことができる。
【0017】
係留されたナノポアを使用した検出装置の組立てのための本明細書に記載される特定の実施形態の非限定的な利点としては、例えば、以下が挙げられる。
(1)ただ1つのナノポアが各電極に対応するように立体排除を活用する能力による、ナノポア配置の空間的制御レベルの上昇。
(2)複数のナノポアの検出装置への高度に並行した組立て。
(3)ナノポアを複数の検出装置にロードする標準的方法を妨げるポアソン統計の制限に勝るナノポアロード効率を実現する能力。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】aは自由溶液中で脂質ナノディスク内でまず自己集合するタンパク質ナノポアの概略図を示す。bは核酸がグラフトされたタンパク質ナノポアを示す。cはナノディスク脂質がソリッドステート表面と接触するまで、核酸鎖がソリッドステートナノポアを通るように駆動されることによる、ソリッドステートナノポアを用いたタンパク質ナノポア含有ナノディスクの組立てを示す。
図2A】脂質膜に挿入される、核酸がグラフトされたタンパク質ナノポアを有する脂質ナノディスクを用いて組み立てられる7~10nmソリッドステートナノポアの概略図を示す。
図2B】骨格タンパク質(薄黒い輪)によって囲まれた10~13nmの脂質ナノディスク(薄灰色)の概略図を示す。
図3】脂質ナノディスク形成プロセスの概略図を示す。
図4】Hisタグ付きタンパク質(例えば、CYP3A4の代わりにポリンが使用できる)を初期混合物に添加し、金属キレートカラムを使用してタンパク質がロードされたディスクと空のディスクとを分ける脂質ナノディスクロード技術の概略図を示す。
図5】ポリアクリルアミドゲルにロードされたHisタグ付きMspAの発現、再構成、及び精製による画分を示す。レーンM、タンパク質ラダー;レーンS、細胞溶解物の可溶性画分;レーンF、Ni-NTAスピンカラムからの貫流;レーンW、第1の洗浄画分;レーンE、Hisタグ付きMspAの溶出。
図6A】ソリッドステートナノポア試験の固定レイアウトを示す。
図6B】レイアウトの実施態様を示す。ナノポアチップ(「Siチップ」)は、示される位置に挿入され、Oリングゴムガスケットにより所定位置に封止される。ポアのシス側及びトランス側におけるAg/AgCl電極は、電流源を提供する。電流はAxopatch 200B増幅器で測定される。
図7】懸濁膜に挿入されるMspAバイオポアを通って転位した91merのDNAのバイオポア転位の測定を示す。縦軸はポアが開いた状態の電流に対して正規化されたものである。
図8】脂質ナノディスクがコレステロール-TEG DNAと一緒にインキュベートされ、ナノディスクにDNAテザーを作り出す反応を示す。DNAテザーを使用して、電気泳動で脂質ナノディスクをソリッドステートナノポア上に引っ張ることができる。
図9図9は、脂質ナノディスクとソリッドステートナノポアとの結合を強化する方法を示す。固体支持体のSi表面はまずオルガノシランで、その次にコレステロール誘導体で処理される。
図10】MspAを脂質ナノディスクに挿入するプロトコルの最適化の結果を示す。
図11A図10の中間トレースの高分子量溶出画分のTEM画像を示す。
図11B図10の中間トレースの低分子量溶出画分のTEM画像を示す。MspA挿入部位は矢印で示される。
図12】ナノポアを電極に係留する方法であって、ナノポアが電極に結合した後、膜テザーが電極に結合する方法の概略図を示す。
図13】ナノポアを電極に係留する方法であって、ナノポアが電極に結合する前に膜テザーを電極に結合する方法の概略図を示す。
図14】ナノポアを電極に係留する方法であって、電極をナノポアに接触させる前に、ナノポアテザーが電極に結合する方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、タンパク質ポアが埋め込まれた脂質ナノディスクにより封止されるソリッドステートナノポアに基づくハイブリッドナノポアシステムを提供する。特定の実施形態の概念図を図2に示す。
【0020】
現在のナノポアストランドシークエンシングプラットフォームは、懸濁したミクロンサイズの脂質二重層へのタンパク質ナノポア(本明細書においては、「生物学的ポア」又は「バイオポア」とも呼ぶ)の自由な拡散及び挿入に基づく。イオン電流又はACインピーダンスを監視することによって単一の挿入事象を検出するために各種方法が開発されてきた。これらのアプローチは、デバイスの設置面積を増大し得、またシステムの複雑性を増す可能性がある付加的な監視回路/プログラムに頼るものである。ミクロンサイズの脂質二重層は、機械的振動の影響を受けやすいため、デバイスの作製、輸送、保管、及び操作に複雑性が増す。或いは、10nm超のサイズを有するソリッドステートナノポアは、ロバストで、高スループットの製造及び操作の両方と適合性があるため、ナノポア技術に有用なプラットフォームを提供する。そのため、本開示の実施形態は、ソリッドステートナノポアをプラットフォームとして利用し、ソリッドステートナノポアへの縁部シールとして脂質ナノディスクを用いて単一のタンパク質ナノポアを組み立てる。
【0021】
特定の実施形態は、脂質ナノディスクキャリアへのタンパク質ナノポアの挿入を利用し、できればDNAテザーを用いて、電気泳動力を加え、タンパク質/脂質複合体をソリッドステートナノポアへと誘導する。脂質ナノディスクは、例えば、膜骨格タンパク質(MSP)であるapoA-Iにより任意選択により安定化される7~13nm直径の脂質二重層ディスクであることができる。ナノディスクは、7nm未満(例えば、直径が6nm未満、5nm、4nm、2nm以下)又は13nm超(例えば、直径が15nm超、20nm、又は25nm以上)の直径を有することができると理解されるであろう。典型的には、本明細書に記載される方法又は組成物に使用される脂質ディスクの面積は、約50,000nm以下、又は場合によっては、約10,000nm以下、又は時には約1,000nm以下、又はさらには他の場合、約500nm以下である。
【0022】
図2Bに例示されるように、脂質ナノディスクは、2つの平行なベルト状のMSPによって取り囲まれた脂質分子の二重層から構成される。MSPの両親媒性らせんにより脂質ディスクの縁部の疎水性脂肪酸を安定させる。特に有用な脂質ナノディスク並びにその製造のための組成物及び方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているNathら、Biochemistry 46巻、2059~2069ページ(2007年)に記載される。
【0023】
脂質ナノディスクは、MSPを界面活性剤によって安定化したリン脂質と混合することにより調製され得る。ナノディスクの自己集合は、以下で記載されるように、混合物から界面活性剤を除去する間に生じる。MSPの存在は、脂質ナノディスクの形状及びサイズを限定し、界面活性剤を含まない水溶液中での狭い粒度分布(±3%)、優れた再現性、及び非常に優れた安定性を付与することが示されてきた。MSP対界面活性剤の比は、ナノディスクの所望のサイズ及び特性を得るように選択できる。例えば、MSPの構造単位の数は、参照により本明細書に組み込まれているDenisovら、J.Am.Chem.Soc.126巻、3477~3487ページ(2004年)に記載されるように、ナノディスク直径が9.8nm~12.9nmで調整できるようにさまざまであってよい。これらの直径は、商業的に利用可能な方法で確実に作製できるソリッドステートナノポアによく適合する。ナノディスクは、膜タンパク質を組み込むのに有効なキャリアであることができる。複数の膜タンパク質は、ナノディスク、例えば、チトクロム、7回膜貫通型セグメントタンパク質、細菌化学感覚受容体、及びヒトミトコンドリアの電位依存性アニオンチャネルタンパク質に組み込まれてきた。膜タンパク質をナノディスクに組み込む例示的な方法は、Raschleら、J.Am.Chem.Soc.131巻、17777~17779ページ(2009年)に記載される。類似の方法を使用して、タンパク質ナノポア、例えば、α溶血素、MspA、細胞溶解素等を脂質ナノディスクに挿入できる。有用なタンパク質ナノポアのさらなる例は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,673,550号に記載される。
【0024】
脂質ナノディスクとソリッドステートナノポアとの結合は、脂質/固体界面を化学操作することにより促進できる。例えば、固体表面は、シアノプロピルシラン、コレステロール、RAFT重合、又は脂質及び/若しくはMSPに結合若しくは接着するその他の材料を用いて機能化され得る。表面を機能化するための例示的な材料及び方法は、それぞれが参照により本明細書に組み込まれるWhiteら、J Am Chem Soc 129巻、11766~11775ページ(2007年)及びKwokら、PLOS One DOI:10.1371/journal.pone.0092880(2014年)に記載される。同様に、脂質ナノディスク(MSP又は脂質)は、ソリッドステートナノポアの表面での機能化と結合できる結合分子又はアダプター分子を含むように操作され得る。このような操作は、脂質ナノディスクとソリッドステートナノポアとの間に100GΩを超える絶縁を提供できる。これらのレベルの絶縁は、核酸の転位及びシークエンシング用途での高レベルの塩基識別を容易にすることができる。脂質ナノディスクはさらに、脂質を電極に係留する関係において本明細書に記載される試薬及び方法を使用してソリッドステートナノポアにさらに結合され得る。したがって、脂質を電極に結合するために使用されるテザーを使用して、ナノディスクをソリッドステートポアに結合できる。
【0025】
特定の実施形態では、脂質ナノディスク形成のためのプロセスは図3に例示されるように実行でき、参照により本明細書に組み込まれるBaas「Characterization of monomeric human cytochrome P450 3A4 and Cytochrome P450 Reductase in nanoscale phospholipid bilayer discs」、University of Illinois at Urbana-Champaign、米国(2006年)、ISBN0542987236、9780542987236Aにさらに詳述される。図中に示されるように、膜骨格タンパク質は、界面活性剤により可溶化されたリン脂質により自己集合し、ナノディスクを形成できる。自己集合は、界面活性剤が例えばバイオビーズ(Bio-Beads)(登録商標)(Bio-Rad社、カルフォルニア州ハーキュリーズ)を使用して除去されるときに起こる。次いで、組立て反応の生成物は、サイズ排除クロマトグラフィによって精製され得る。脂質/タンパク質比の最適化により、膜骨格タンパク質の長さによってサイズが決まる単分散ナノディスクが得られる。
【0026】
ナノディスクへの単一の、さらには複数のタンパク質の挿入は、ニッケルベースのアフィニティマトリックスを使用して、例えば、参照により本明細書に組み込まれるBaas「Characterization of monomeric human cytochrome P450 3A4 and Cytochrome P450 Reductase in nanoscale phospholipid bilayer discs」、University of Illinois at Urbana-Champaign、米国(2006年)、ISBN0542987236、9780542987236Aで示される方法と類似の方法を使用してポリヒスチジンアフィニティタグをナノポアタンパク質に特異的に結合させる追加の精製ステップを介して行うことができる。バイオポアを有するナノディスクのアフィニティに基づく分離のための有用な方法の概略図が図4に示される。
【0027】
生物学的ポアの変異誘発を使用して、タンパク質ポアを本明細書に記載される組成物又は方法における組立て又は使用のために最適化することができる。上述のように、タンパク質チャネルをナノディスクに組み込むプロセスは、タンパク質に対するポリヒスチジンアフィニティタグ及びNiアフィニティカラムで混合されたナノディスク集団の精製の利益を享受する。タンパク工学及び変異誘発技術を使用して、特定の用途のために生物学的ポアを突然変異させ、それらの性質を調整することができる。C末端に6×Hisタグを有するMspAは、図5に示すSDS-PAGEゲルによって示されるように、発現、再構築、及び精製され得る(レーンM、タンパク質ラダー;レーンS、Hisタグ付きMspAを発現する細胞からの溶解物の可溶性画分;レーンF、Ni-NTAスピンカラムからの貫流;レーンW、Ni-NTAスピンカラムからの第1の洗浄画分;レーンE、Ni-NTAスピンカラムからのHisタグ付きMspAの溶出)。精製されたHisタグ付きMspAの生物学的機能はタグなしMspAの生物学的機能に類似していることが判明した。その他の突然変異も精製目的のために導入できる。例えば、システイン部分は変異誘発によってタンパク質配列に導入することができ、アフィニティタグのチオール反応性部分(例えば、マレイミド又はヨードアセトアミド)への化学結合に使用できる。例示的なアフィニティタグとしては、ビオチン(固相ストレプトアビジンを介した精製を仲介できる)、DNA及びRNA(相補的配列を有する固相核酸を介した精製を仲介できる)、エピトープ(固相抗体又は抗体フラグメントを介した精製を仲介できる)、又はその他のリガンド(これらのリガンドのための固相受容体を介した精製を仲介できる)が挙げられる。
【0028】
本明細書に記載される種々の方法、組成物、又は装置のために、アフィニティタグ(例えば、Hisタグ及び本明細書に記載されるその他のもの)及び化学的コンジュゲート技術(例えば、上述のシステインの修飾)を使用して、テザーをナノポアに結合できる。例えば、得られたテザーを使用して、ナノポア含有ナノディスクをソリッドステートナノポアに又はソリッドステートナノポアの近傍に牽引又は結合できる。テザーを使用して、ナノポアを電極又はその他の固相支持体にさらに結合できる。
【0029】
本開示は、1つ又は複数のハイブリッドタンパク質-ソリッドステートナノポアを使用したデータ収集のためのシステムを提供する。例示的なシステムを図6に示す。本実施例では、ソリッドステートナノポアは示される位置に挿入され、Oリングにより所定位置に封止される。ポアのシス側及びトランス側における標準Ag/AgCl電極は、電流源を提供する。ナノポアからのデータは、Axopatch 200B増幅器を用いて収集され得る。固体自己支持SiN膜(ナノポアなし)からの予備データは、100GΩ超の抵抗を示し、ロバストに封止されたフローセルを示す(200mVバイアスで0.9pA未満の漏洩電流)。このタイプの構成は、ナノポアの技術分野における分析的能力を評価するために使用される定評のある「標準」設定と一致する。鎖置換方式で生物学的ナノポアを通って転位した91ヌクレオチド長のDNAからの代表的データを図7に示す。
【0030】
本開示は、(a)ソリッドステートナノポアのアレイを備えた固体支持体、(b)固体支持体の表面上にあり、各々が各ソリッドステートナノポアにシールを形成し、固体支持体の表面上の隙間領域によって互いに分離されている、複数の脂質ナノディスク、及び(c)脂質ナノディスクに挿入されて各シールに孔を形成する複数のタンパク質ナノポアを有する検出装置を提供する。
【0031】
検出装置は、固体支持体に埋め込まれた電極をさらに備えることができる。電極は、ナノディスク及び/又はタンパク質ナノポアのソリッドステートナノポアへの組立てを監視するために使用することができる。電極は、検体検出ステップ中にデータ収集のためにさらに使用できる。監視及び検出に使用される電極は固体支持体に埋め込まれる必要はなく、代わりに、例えば、別個の特定用途向け集積回路(ASIC)チップに設けてもよい。
【0032】
本明細書で使用する場合、項目の集合体に関して使用される場合の用語「各、それぞれ」は、集合体中の個々の項目を特定することを意図するが、必ずしも集合体中の全項目を指すわけではない。明確な開示又は文脈が別段はっきりと指示していれば、例外もあり得る。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「固体支持体」とは、水性液体に不溶性であり、孔がなければ液体を通すことができない剛性基材を意味する。例示的な固体支持体としては、ガラス又は改質若しくは機能化ガラス、プラスチック(アクリル、ポリスチレン、及びスチレンとその他材料のコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、テフロン(Teflon)(登録商標)、環状オレフィン、ポリイミド等が挙げられる)、ナイロン、セラミック、樹脂、ゼオノア(Zeonor)、シリカ又はシリコン及び変性シリコンを含むシリカ系材料、炭素、金属、無機ガラス、光ファイバ束、並びにポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。特に有用な固体支持体は、Si基材上にSiN膜等の変性シリコンを含む。いくつかの実施形態では、固体支持体はフローセル装置又はその他の容器内に入れられる。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「ソリッドステートナノポア」とは、固体支持体を通る液体又はガスの通過を可能にする穴を意味する。ソリッドステートナノポアは、一般に、直径約1nm~1μmのルーメン又は孔を有する。しかしながら、より大きな又はより小さな直径が可能である。ソリッドステートナノポアは一般に、非生物学的由来の材料から作製される。ソリッドステートポアは無機又は有機材料から構成されてもよい。ソリッドステートポアとしては、例えば、窒化ケイ素ポア、二酸化ケイ素ポア、及びグラフェンポアが挙げられる。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「脂質ナノディスク」とは、約3nm~3μmの面積を占める脂質二重層シートを意味する。例えば、占める面積は少なくとも約5nm、10nm、50nm、100nm、1,000nm、10,000nm、100,000nm以上であることができる。代替的に又は加えて、占める面積は最大で約100,000nm、10,000nm、1,000nm、100nm、50nm、10nm、5nm以下であることができる。脂質ナノディスクは、円形領域を占めることができるが必ずしもそうである必要はない。ナノディスクが占める円形領域は、約1nm~1μmの直径を有することができる。しかしながら、より大きな又はより小さな面積又は直径が可能である。脂質ナノディスクは、平坦であるか又は平面であることができるが必ずしもそうである必要はない。特定の状態では、脂質ナノディスクは、ナノディスクに水性ルーメンが存在しないことによって小胞又はリポソームと区別でき、ナノディスクに二重層が存在することによってミセルと区別できる。いくつかの実施形態は本明細書において脂質ナノディスクを使用して例示される。ナノディスクはその他の材料からも調製できると理解されるであろう。例えば、ナノディスクは、以下に記載されるもののように非脂質膜から形成することができる。
【0036】
本明細書で使用する場合、用語「膜」とは、電流又は流体の通過を防止するシート又はその他のバリアを意味する。膜は典型的には、本明細書に記載される固体支持体と対照的に可撓性又は圧縮可能である。膜は、脂質材料から調製されて、例えば、脂質二重層を形成することができ、又は膜は非脂質材料から調製できる。膜は、例えば、二元ブロックポリマー若しくは三元ブロックポリマーによって形成されたコポリマー膜の形態で、又は例えば、ボラ脂質(bola lipid)により形成された単層の形態であることができる。例えば、参照により本明細書に組み込まれているRakhmatullinaら、Langmuir:the ACS Journal of Surfaces and Colloids 24巻:6254~6261ページ(2008年)を参照のこと。
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「隙間領域」とは、基材又は表面の他の領域を分離する基材又は表面上の領域を意味する。例えば、隙間領域は、アレイのあるナノポアとアレイの別のナノポアとを隔てることができる。互いに分離されている2つの領域は、不連続であることができ、互いに接触がない。多くの実施形態では、隙間領域は連続的であるのに対し、例えば、ポアのアレイ又は別の連続表面中の孔と同様に特徴部は不連続である。隙間領域により提供される分離は、部分的又は完全な分離であることができる。隙間領域は、典型的に、表面上の特徴部の表面材料とは異なる表面材料を有する。例えば、アレイの特徴部は、隙間領域に存在する量又は濃度を上回る脂質材料又はタンパク質材料の量又は濃度を有することができる。いくつかの実施形態では、脂質材料又はタンパク質材料は隙間領域に存在しなくてもよい。
【0038】
隙間領域は、本明細書に記載される装置において少なくとも1nm、5nm、10nm、100nm、1000nm以上脂質ナノディスクを離すことができる。代替的に又は加えて、分離は最大で1000nm、100nm、50nm、10nm、又は5nm以下であってもよい。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「タンパク質ナノポア」とは、1つ又は複数のサブユニットとして形成され、膜又は固体支持体を通る孔を作り出すポリペプチドを意味する。例示的なタンパク質ナノポアとしては、α溶血素、マイコバクテリウムスメグマチスポリンA(Mycobacterium smegmatis porin A)、グラミシジンA、マルトポリン、OmpF、OmpC、PhoE、Tsx、F線毛、SP1(Wangら、Chem.Commun.,49巻:1741~1743ページ、2013年)、及びミトコンドリアポリン(VDAC)XX、Tom40(米国特許第6,015,714号及びDerringtonら、Proc.Natl.Acad.Sci.米国、107巻:16060ページ(2010年))が挙げられる。「マイコバクテリウムスメグマチスポリンA(MspA)」は、マイコバクテリアによって作り出される膜ポリンであり、これにより親水性分子がバクテリアに入ることができる。MspAは、ゴブレットに似ており中央チャネル/ポアを含む、相互にしっかりと連結した八量体の膜貫通βバレルを形成する。その他の有用なポアは米国特許第8,673,550号に記載される。上記ナノポアのそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
本明細書で使用する場合、用語「ハイブリッドナノポア」は、生物由来及び非生物由来の両方の材料から作製され、バリア、例えば、膜全体に延び、水和イオン及び/又は水溶性分子をバリアの一方の面から他方の面へと横断させることが可能な孔を意味することが意図される。生物由来の材料は上に定義され、例えば、ポリペプチド及びポリヌクレオチドが挙げられる。生物学的なソリッドステートハイブリッドポアとしては、例えば、ポリペプチド-ソリッドステートハイブリッドポア及びポリヌクレオチド-ソリッドステートポアが挙げられる。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「係留された」は、2つの物がリンカー部分を通して結合された状態を意味することが意図されている。結合は、例えば、共有結合の途切れない鎖が2つの物を連結するように、共有結合性であることができる。或いは、結合は、少なくとも1つの非共有結合、例えば、受容体とリガンドとの特異的結合相互作用によって仲介され得る。例示的な受容体-リガンド対としては、ストレプトアビジン(及びその類似体)及びビオチン(又はその類似体)、抗体(又はその機能的フラグメント)及びエピトープ、レクチン及び炭化水素、相補的核酸、タンパク質とその核酸基質とを結合する核酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
「テザー」は、任意選択により2つの物を結合するために使用できるリンカー部分である。構成によっては、テザーは単一の物、例えば、ナノポア、脂質、膜材料、又は固体支持体に結合している。1つの物に結合しているテザーは任意選択により、2つ目の物に結合でき、又はその他用途に使用され得る。テザーとしては、ヌクレオチド又は核酸材料を挙げることができる。或いは、テザーは核酸材料以外の材料から作製することができるか、又はヌクレオチドがなくてもよい。
【0043】
特定の実施形態では、検出装置は、固体支持体によって分離されたリザーバ間に孔を形成するソリッドステートナノポアを備えることができる。
【0044】
特定の実施形態では、ソリッドステートナノポア上に形成されたシールは、流体の流れ及び/又は電流の流れを防止する。しかしながら、タンパク質ナノポアはシールに孔を形成できる。
【0045】
タンパク質ナノポアは、脂質ナノディスクの表面の直径が少なくとも約5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm以上の面積を占めることができる。代替的に又は加えて、タンパク質ナノポアは、脂質ナノディスクの表面の最大で約1ミクロン、500nm、100nm、10nm、9nm、8nm、7nm、6nm、5nm以下の面積を占めることができる。
【0046】
特定の実施形態では、検出装置は、少なくとも10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上のソリッドステートナノポアを備えることができる。
【0047】
特定の実施形態では、検出装置は、少なくとも10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上のソリッドステートナノポアを被覆する脂質ナノディスクを備えることができる。ソリッドステートナノポアの合計個数にかかわらず、脂質ナノディスクは検出装置のソリッドステートナノポアの少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%以上を被覆できる。したがって、検出装置は、少なくとも10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上のナノディスクを備えることができる。
【0048】
特定の実施形態では、検出装置は、少なくとも10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上のソリッドステートナノポアを被覆する脂質ナノディスクにタンパク質ナノポアを備えることができる。ソリッドステートナノポアの合計個数にかかわらず、タンパク質ナノポアは検出装置のソリッドステートナノポアの少なくとも10%、25%、50%、75%、90%、95%、99%以上を被覆する脂質ナノディスクに挿入され得る。したがって、検出装置は、挿入されたナノポアを有する、少なくとも10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上のナノディスクを備えることができる。
【0049】
本開示の検出装置を使用して、イオン、核酸、ヌクレオチド、ポリペプチド、生物学的に活性な小分子、脂質、糖等が挙げられるがこれらに限定されない種々の検体のいずれかを検出することができる。したがって、これらの検体の1つ又は複数は、本明細書に記載される装置のタンパク質ナノポアの孔の中に存在できるか、又は孔を通過できる。
【0050】
特定の実施形態では、検出装置は、ソリッドステートナノポアのアレイと接触しているシスリザーバと、ソリッドステートナノポアのアレイと接触しているトランスリザーバとを備えることができる。シスリザーバ及びトランスリザーバは、タンパク質ナノポアによって形成された孔を通して電流を印加するように配置された電極を含むことができる。シスリザーバ、トランスリザーバ、又はその両方は、本明細書に記載される装置に複数のナノポアとバルク流体連通するように液体を維持するように構成され得る。或いは、リザーバの一方又は両方は、本明細書に記載されるアレイ又は装置にあるナノポアの1つのみ又はサブセットのみと接触していてもよい。
【0051】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるアレイのソリッドステートナノポアを被覆する各脂質ナノディスクは、内部に挿入された1個以下のタンパク質ナノポアを有するであろう。しかしながら、ソリッドステートナノポア1つ当たり2つ以上のタンパク質ナノポアが挿入される装置を作製し、使用することもまた可能である。同様に、個々のナノディスクは、ソリッドステートナノポアを被覆していようがいまいが、1個以下のタンパク質ナノポアを備えることができる。或いは、個々のナノディスクは、2個以上のタンパク質ナノポアを備えることができる。
【0052】
脂質ナノディスクは種々の膜又は脂質のいずれかから作製できる。好適な脂質二重層及び脂質二重層を作製するか又は得る方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、それぞれが参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願公開第2010/0196203号及び国際公開第2006/100484号に開示される。好適な脂質二重層としては、例えば、細胞の膜、細胞器官の膜、リポソーム、平面脂質二重膜、及び支持脂質二重層が挙げられる。脂質二重層は、例えば、疎水性尾部基が互いに向かい合って疎水性内部を形成するように配置された2つのリン脂質の対向する層から形成することができ、その一方で脂質の親水性頭部基は二重層の各面の水性環境の方へ外に向く。脂質二重層は、脂質単層が水溶液/空気界面に、その界面に対して垂直である孔のいずれかの側を超えて担持される、Montal及びMuellerの方法(参照により本明細書に組み込まれているProc.Natl.Acad.Sci.米国、1972年;69巻:3561~3566ページ)によっても形成され得る。通常、まず脂質を有機溶媒に溶解し、次いで溶媒の液滴を孔のいずれかの側の水溶液の表面で蒸発させることによって、脂質を水性電解質溶液の表面に付加する。有機溶媒を蒸発させたら、孔のいずれかの側の溶液/空気界面を、二重層が形成されるまで、孔を超えて物理的に上下に移動させる。その他の二重層形成の一般的な方法としては、リポソーム二重層のチップディップ(tip-dipping)、ペインティング二重層(painting bilayer)及びパッチクランピング(patch-clamping)が挙げられる。膜を得るか又は生成するための種々のその他の方法が当該技術分野において周知であり、本開示の組成物及び方法(例えば、ハイブリッドナノポアに関連するもの又は係留されたナノポアに関するもの)における使用に等しく適用可能である。上述の試薬及び方法は係留されたナノポアと組み合わせて、又は、膜材料が電極又はその他の固体支持体に係留された実施形態に使用することもできる。
【0053】
本開示は、検出装置を作製する方法をさらに提供する。本方法は、(a)ソリッドステートナノポアのアレイを有する固体支持体を用意するステップと、(b)脂質に挿入されたタンパク質ナノポアを備える複数の脂質ナノディスクを用意するステップと、(c)複数の脂質ナノディスクをソリッドステートナノポアのアレイと接触させ、アレイの個々のソリッドステートナノポアを脂質ナノディスクのうちの1つで被覆するステップとを含むことができる。本方法を使用して、本明細書の他の箇所で記載された特徴の1つ又は複数を有する検出装置を作製できる。
【0054】
特定の実施形態では、ステップ(b)は、タンパク質ナノポアを脂質ナノディスクに挿入する条件下で、脂質と一緒にタンパク質ナノポアをインキュベートすることをさらに含むことができる。例えば、脂質は、界面活性剤で可溶化され、当該条件は、界面活性剤をタンパク質ナノポアから除去する技術を含むことができる。
【0055】
本明細書の他の箇所に記載されるように、脂質ナノディスクは(例えば、電気泳動を介して)ソリッドステートナノポアに電気で牽引され得る。任意選択により、脂質ナノディスクは、牽引を仲介するために荷電したテザーを備えることができる。一例として、荷電したテザーは、自然発生的な形態で、又は非自然発生的な類似形態としての核酸であることができる。テザーの結合部位を使用して、ナノディスクを特定の配向でソリッドステートナノポア内に挿入できる。このことによって、タンパク質ナノポアをソリッドステートナノポア内で順方向又は逆方向に配向させることができる。テザー結合部位を合わせると、ソリッドステートナノポアのアレイ全体の順方向生物学的ポア対逆方向生物学的ポアの任意の所望の比を生み出し得る。テザー配置によるナノポア配向の類似の制御は、ナノポアテザーが電極に結合される実施形態で実現可能である。
【0056】
溶液からの検体捕捉を向上させ、生物学的ナノポアの近傍へのソリッドステートナノポア膜の平面中の検体の2次元拡散を促進するために、ソリッドステートナノポア膜は、可逆的に検体と相互作用する化合物を用いて誘導体化され得る。検体と膜との間の動力学的オン/オフ速度は、ソリッドステートナノポア膜表面での検体の高速ランダムウォークを可能にするように選択され得る。このような相互作用の例としては、脂質単層又は二重層と相互作用するコレステロールタグ、DNA表面と相互作用するDNAタグ、及びその他の相互作用、例えば、Yuskoら、Nat Nanotechnol 6巻(4):253~260ページ(2011年)に記載されるようなものが挙げられる。DNAタグとDNA表面との相互作用は、ソリッドステートナノポア膜の表面全体のストランド侵入によって歩行を可能にするリコンビナーゼの使用によって促進され得る。
【0057】
本方法のいくつかの実施形態では、脂質ナノディスクがソリッドステートナノポアのアレイと接触する量は、アレイ内のソリッドステートナノポアの量を超える。脂質ナノディスクは、挿入されたタンパク質ナノポアを備えることができる。したがって、1個のみのタンパク質ナノポアを有するソリッドステートナノポアを得るためにポアソン統計に頼る必要がない。その代わりに、飽和量の脂質ナノディスク(挿入されたタンパク質ナノポアを有する又は有していない)がソリッドステートナノポアのアレイと接触できる。例えば、脂質ナノディスク(挿入されたタンパク質ナノポアを有する又は有していない)の量は、ソリッドステートナノポアの量を少なくとも2倍、5倍、10倍以上超え得る。
【0058】
本開示は、(a)電極、(b)電極に係留されたナノポア、及び(c)ナノポアを取り囲む膜を備えた検出装置を提供する。複数の実施形態もまた提供される。例えば、本開示の検出装置は、(a)複数の電極、(b)複数の電極のうちの1つの電極にそれぞれが係留された複数のナノポア、及び(c)ナノポアそれぞれを取り囲む膜を備え得る。
【0059】
本開示の方法又は装置に使用される電極は、ナノポア検出装置又は電気化学的プロセス用のその他デバイスに使用する種々の材料のいずれかで作製できる。特定の実施形態では、電極は金属から作製される。電極は固体支持体が複数の電極を備えるように固体支持体にパターン形成され得る。例えば、固体支持体は、少なくとも1個、2個、10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上の電極を備えることができる。代替的に又は加えて、固体支持体は、最高1×10個、1×10個、1×10個、1×10個、100個、10個、2個、又は1個の電極を備えることができる。
【0060】
固体支持体にある電極は、電極材料がない又は別の方法で非導電性である隙間領域によって互いに分離され得る。したがって、電極は空間的に、また機能的に別個のものであり得る。いくつかの実施形態では、各電極は固体支持体のウェル又はその他の凹状特徴に配置され、凹状特徴の壁は電極間の隙間領域として機能する。隙間領域は、電極の平均ピッチ(中心から中心)間隔が例えば、少なくとも5nm、10nm、25nm、50nm、100nm、1μm、10μm、100μm以上であるように、固体支持体上の電極を分離できる。代替的に又は加えて、ピッチは、例えば、最大で100μm、10μm、1μm、100nm、50nm、25nm、10nmm、5nm以下であることができる。いくつかの実施形態では、隙間領域は、脂質又はナノポア又は電極に結合されるものとして本明細書で記載されるその他材料をさらにないものとすることができる。
【0061】
本明細書に記載される装置又は方法に使用される電極は、検出装置の所望の使用を実現する種々のサイズ又は形状のいずれかを有することができる。例えば、電極は、円形、矩形、正方形、多角形等の設置領域を有することができる。電極が占める面積は、例えば、少なくとも25nm、100nm、500nm、1μm、50μm、100μm、1mm以上であることができる。代替的に又は加えて、電極の面積は、例えば、最大で1mm、100μm、50μm、1μm、500nm、100nm、25nm以下であることができる。
【0062】
特定の実施形態では、電極は、少なくとも部分的に誘電パッドで被覆され得る。誘電パッドは、分子、例えば、テザー分子と相互に作用する反応性部分を付与して分子の誘電パッドへの結合を実現できる。シランカップリング化学が結合に特に有用である。例示的なカップリング化学は、それぞれが参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願公開第2014/0200158号A1又は米国特許出願公開第2015/0005447号A1に記載される。誘電パッドに結合する分子は、誘電パッドを介して電極に効果的に結合する。
【0063】
本明細書に記載される方法又は装置に使用される誘電パッドは、電極について上記で例示される範囲の面積を有することができる。場合によっては、誘電パッドは、電極表面の最大75%、50%、25%、10%、5%、1%以下である電極表面の部分を占める。特に有用な誘電パッドは、ナノポアの設置面積と同等又はそれよりも小さい面積を有する。そのようなものであるから、誘電パッドは、1個のみのナノポアのための容量を有する。得られる立体排除により、誘電パッドを有する電極のアレイが過剰なナノポア(すなわち、アレイ中の電極の数よりも多いナノポアの数)と接触できるため、電極のすべて又は大部分は、立体排除が得られなければ生じるであろう個々の電極に複数のナノポアが結合するリスクを回避しながら、ナノポアに結合され得る。
【0064】
本明細書に記載されるか又は別の方法で当該技術分野において公知の種々のナノポアのいずれかは、本明細書に記載されるテザー結合実施形態で使用され得る。特に有用なナノポアはMspA等のタンパク質ナノポアである。
【0065】
ナノポアは、電極に(例えば、誘電パッドを介して)共有結合性部分又は非共有結合性結合部分を使用して係留され得る。共有結合性結合の一例は、核酸テザーがナノポアに共有結合で結合され、また誘電パッドに共有結合で結合されている場合である。例えば、非核酸テザー、例えば、ポリエチレングリコール又はその他の合成ポリマーを含むその他のテザーが、共有結合性結合に同様に使用され得る。非共有結合性結合の一例は、ナノポアが結合アフィニティ部分、例えば、ポリヒスチジンタグ、Strepタグ、又はその他のアミノ酸がコードされたアフィニティ部分を有する場合である。アフィニティ部分は、非共有結合で誘電パッドのリガンド、例えば、ポリヒスチジンに結合するニッケル又はその他の二価カチオン、又はStrepタグに結合するビオチン(又はその類似体)に結合できる。いくつかの実施形態では、このようなアミノ酸アフィニティ部分を使用する必要はない。
【0066】
本明細書に記載される装置は、所望される任意の数の係留されたナノポアを備えることができる。例えば、装置は、少なくとも1個、2個、10個、100個、1×10個、1×10個、1×10個、1×10個以上の係留されたナノポアを備えることができる。代替的に又は加えて、装置は、最高1×10個、1×10個、1×10個、1×10個、100個、10個、2個、又は1個の係留されたナノポアを備えることができる。
【0067】
種々の膜材料のいずれかは、本明細書に記載されるナノポア係留実施形態で使用され得る。使用可能な例示的な脂質としては、ナノディスクの実施形態との関連で本明細書又はナノディスクの実施形態との関連で引用される参考文献に記載される脂質が挙げられる。その他の有用な脂質材料は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,999,716号に記載される。
【0068】
特定の実施形態では、膜は電極に係留され得る。膜は、ナノポアもまた(例えば、誘電パッドを介して)係留される電極に係留され得る。膜材料を電極に結合するために使用されるテザーは、ナノポアテザーに関して本明細書に例示されるものから選択され得る。反応性チオールを有するテザーは金含有電極への結合に対して特に有用であり得る。例えば、導電性金属酸化物に結合するために使用可能なシラン又はホスホネート反応性基を有するテザー(例えば、参照により本明細書に組み込まれているFolkersら、Langmuir 11巻:813ページ(1995年)を参照のこと)を含むその他のテザーもまた可能である。いくつかの実施形態では、ナノポアに使用するテザーとは異なるテザー材料を膜材料のために使用する。或いは、同じテザーのタイプをナノポア及び膜材料の両方に使用できる。いくつかの実施形態では、又は検出装置の調製のいくつかの段階では、ナノポアを取り囲む膜材料は、ナノポアが係留された電極に係留される必要はないと理解されるであろう。
【0069】
いくつかの検出装置、特に複数の電極を有する検出装置では、各ナノポアを取り囲む膜は、ナノポアが係留される電極にシールを形成できる。シールは、ナノポアが係留される電極から検出装置の他の電極への流体又は電流の流れを防止するように作られ得る。例えば、電極はウェル(又はその他の凹状特徴)内に存在でき、膜は、ウェルの壁と接触する連続的なシートを形成することによってウェルを封止できる。したがって、チャンバは、電極、ウェルの壁、及び膜により画定される空間内に形成される。チャンバは、電極の相対的配向及び挿入されたナノポアの配向に応じて、シスチャンバ又はトランスチャンバとして機能することができる。
【0070】
以下でさらに詳細に記載されるように、係留されたナノポアを有する検出装置は、シークエンシング方法での核酸検出を含む核酸の検出に特に有用であり得る。そのようなものであるから、検出装置は、核酸検体がナノポアによって形成された孔に配置される状態で存在し得る。検出される検体である核酸は、装置においてテザーとして使用され得る核酸とは別個で異なる。
【0071】
検出装置は、ナノポアの検出に使用されるその他のハードウェア、例えば、膜を流れナノポアを通る電流を生じさせるように構成される電極、ナノポアで生じる電気信号を増幅するように構成される増幅器、装置に接続されて1つ又は複数のナノポアから検出された信号を評価するコンピュータ等を備えることができる。ナノポアからの信号を検出するのに有用であり、本明細書に記載される方法において使用するために改良可能なハードウェアは、例えば、それぞれが参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,673,550号又は米国特許第8,999,716号、Rosensteinら、Nano Lett 13巻、2682~2686ページ(2013年)、又はUddinら、Nanotechnology 24巻、155501ページ(2013年)の技術分野に記載される。
【0072】
検出装置の作製方法もまた提供される。本方法は、(a)電極のアレイを有する固体支持体を用意するステップと、(b)複数のナノポアを設けるステップと、(c)複数のナノポアを電極のアレイと接触させて、第1のテザーを介して個々のナノポアを個々の電極に結合させ、以て複数の電極の電極に係留されたナノポアのアレイを作製するステップと、(d)ナノポアのアレイを膜材料に接触させて、アレイのナノポアそれぞれを取り囲む膜を形成するステップとを含むことができる。
【0073】
ナノポアを電極に係留するための方法の例示的実施形態を図12に示す。金属電極が設けられ、電極の表面は、表面の一部を被覆する誘電パッドを有する。例えば、誘電パッドは直径約10~50nmの略円形パッドであり得る。誘電パッドは、ナノポアテザーに存在する部分と共有結合を形成できる反応性シランを有することができる。ナノポアは化学修飾されて、当該部分を有する核酸テザーを備えることができる。次いで、テザー含有ナノポアは、シランがテザーと反応して、ナノポアと誘電パッドとが共有結合する条件下で誘電パッドと接触できる。ナノポアが結合されると、膜テザーは電極の金属表面と反応できる。例えば、膜テザーは、金属表面と共有結合を形成するチオールを含むことができる。示した最後のステップでは、膜材料(例えば、脂質材料)は、係留されたナノポアを取り囲む膜(例えば、脂質二重層)を形成し、膜テザーと二重層の脂質との間に共有結合を形成する条件下でシステムと接触できる。したがって、膜は電極にさらに係留される。
【0074】
別の実施形態を図13に示す。本方法は図12に使用したのと類似の成分を使用する。しかしながらここで、膜テザーはナノポアに結合する前に電極の金属表面に結合する。
【0075】
さらなる例示的実施形態を図14に示す。本実施形態では、金属電極は誘電パッドを備えない。金属電極は第1のステップで膜テザーと反応する。その後、ナノプリンティング技術、例えば、リソグラフィを使用して、ナノポアテザーを金属電極の表面と結合させる。ナノポアテザーは、小さな面積(例えば、直径約10~50nmの略円形領域)に印刷され得る。次いで、ナノポアは、ナノポアとテザーとの間に共有結合を形成する条件下でテザーを含む電極と接触できる。最終ステップで、膜(例えば、脂質膜)は係留されたナノポアの周りに形成でされ得、膜テザーと反応して電極に結合され得る。
【0076】
特定の実施形態では、複数のナノポアは複数の電極と大量に接触する。例えば、ナノポアを含む溶液は、複数の電極を有する固体支持体と接触できるため、溶液中のナノポアは複数の電極と流体連通する。電極のアレイと接触しているナノポアの量はアレイの電極の量を超えることができる。このことは例えば、電極の大部分又はすべてがナノポアに係留される可能性を増大させるために行うことができる。電極は、1個以下のナノポア用の容量を有するように構成され得る。例えば、電極は、ナノポアのサイズと比較して、比較的小さな表面又は表面部分を有することができる。結果として、第1のナノポアが電極に結合されると、後のナノポアは同じ電極への結合から立体排除される。したがって、アレイは、典型的なポアソン統計から予測される数を超える数の単一のナノポアを有する電極を備えることができる。例えば、アレイは、アレイの電極の少なくとも50%、65%、75%、90%、95%、99%以上のそれぞれに単一のナノポアがロードされ得る。
【0077】
膜材料と接触するナノポアは界面活性剤により可溶化され得る。次いで、界面活性剤は、膜(例えば、脂質二重層)がナノポアを取り囲むことができるようにタンパク質ナノポアから除去され得る。例えば、ナノポアが電極表面に結合すると、インサイチュ透析を行うことができる。例示的なインサイチュ透析方法及びテザー組成物は、参照により本明細書に組み込まれるGiessら、Biophysical J.87巻:3213~3220ページ(2004年)に記載される。
【0078】
いくつかの実施形態では、ナノポアは電極に電気で索引されて結合を促進できる。ナノポアは固有の電荷に基づき牽引され得る。しかしながら、荷電したテザー、例えば、核酸を使用し、テザーを電極に牽引することも可能である。例示的な電極への核酸の電気補助式配置の方法は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,277,628号に記載される。
【0079】
本明細書に記載されているか又は当該技術分野において公知の種々のテザーのいずれかは、本明細書に記載される方法に使用され得る。特に有用なテザーは核酸テザーである。図12及び図13に例示される実施形態のようないくつかの実施形態では、テザーは、テザーを電極に結合する前にナノポアに結合され得る。或いは、例えば、図14に示すように、ナノポアテザーはまず電極に結合し、その後ナノポアはナノポアテザーと反応して、ナノポアとテザーとの結合を形成できる。
【0080】
本明細書に記載される方法は、膜材料をテザーを介して1つ又は複数の電極に結合させるステップを含むことができる。特に有用な膜テザーは、親油性領域及び親水性スペーサを有する二官能性分子である。親油性領域(例えば、リン脂質、コレステロール、又はフィタニル)は膜内に入り、親水性スペーサは固体支持体、例えば、電極に結合できる。例示的な膜テザーは、例えば、参照により本明細書に組み込まれるGiessら、Biophysical J.87巻:3213~3220ページ(2004年)に記載される。
【0081】
本開示は、核酸をシークエンシングする方法をさらに提供する。本方法は、(a)(i)ソリッドステートナノポアのアレイを備えた固体支持体、(ii)固体支持体の表面上にあり、各々が各ソリッドステートナノポアにシールを形成し、固体支持体の表面上の隙間領域によって互いに分離されている、複数の脂質ナノディスク、及び(iii)脂質ナノディスクに挿入されて各シールに孔を形成する複数のタンパク質ナノポアを有する検出装置を用意するステップと、(b)シールそれぞれにある孔を通る(i)核酸、(ii)核酸から除去された一連のヌクレオチド、又は(iii)核酸に組み込まれるヌクレオチドから誘導された一連のプローブの通過を検出し、以て核酸の配列を決定するステップとを含むことができる。
【0082】
(a)(i)複数の電極、(ii)複数の電極のうちの1つの電極にそれぞれが係留された複数のナノポア、及び(iii)ナノポアそれぞれを取り囲む膜を備えた検出装置を用意するステップと、(b)ナノポアそれぞれを通る(i)核酸、(ii)核酸から除去された一連のヌクレオチド、又は(iii)核酸に組み込まれるヌクレオチドから誘導された一連のプローブの通過を検出し、以て核酸の配列を決定するステップとを含む核酸をシークエンシングする方法も提供される。
【0083】
本開示の方法で検出される核酸は、1本鎖配列であるか、2本鎖配列であるか、又は1本鎖配列及び2本鎖配列の両方を含み得る。核酸分子は、2本鎖形態(例えば、dsDNA)に由来することができ、任意選択により、1本鎖形態に変換できる。核酸分子は、さらに1本鎖形態(例えば、ssDNA、ssRNA)に由来することができ、ssDNAは任意選択により、2本鎖形態に変換できる。ポアを通じたポリヌクレオチドの転位の例示的方式は、参照により本明細書に組み込まれている国際公開第2013/057495号に記載される。
【0084】
いくつかの実施形態では、シークエンシングは、核酸をタンパク質ナノポアに通し、特定のヌクレオチド又は一連のヌクレオチド(例えば、2、3、4、5以上のヌクレオチドからなる「語」)の通過を示す電気信号を検出することにより実行できる。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドのナノポアを通じた特定のレベルの制御された転位は、電位差に対する分子モータ、例えば、ヘリカーゼ、トランスロカーゼ、又はポリメラーゼの誘導の下で実現され得る。分子モータはポリヌクレオチドを段階的に、通常は1段階毎に1つ又は複数のヌクレオチドとともに移動させることができる。この制御されたラチェット方式により、ナノポアを通じたポリヌクレオチドの転位は、マイクロ秒/ヌクレオチドの自然の速度からミリ秒/ヌクレオチドへと遅くする。
【0085】
検出方法はバリア(例えば、膜)を挟んだポテンシャル差を利用できる。ポテンシャル差は、電位差、化学ポテンシャル差、又は電気化学ポテンシャル差であり得る。電位差は、少なくとも1つの液体プールへ電流を注入する又は加える電圧源を介してバリア(例えば膜)を挟んでもたらすことができる。化学ポテンシャルは、2つのプールのイオン組成の差により、バリアを挟んでもたらすことができる。電気化学ポテンシャルの差は、電気ポテンシャルと組み合わせた2つのプールのイオン組成の差により確立され得る。異なるイオン組成は、例えば、各プール中の異なるイオン、又は各プール中の同じイオンの異なる濃度であることができる。
【0086】
ポアを通じた核酸の転位を強制するポアを挟んだ電位の印加は、当該技術分野において周知であり、本装置及び方法に従って使用することができる(それぞれが参照により本明細書に組み込まれているDeamerら、Trends Biotechnol.,18巻:147~151ページ(2000年)、Deamerら、Ace Chem Res.,35巻:817~825ページ(2002年)、及びLiら、Nat Mater.,2巻(9):611~615ページ(2003年))。本明細書に記載される方法は、ポアを挟んで印加された電圧により実行することができる。電圧の範囲は、40mV~1V超で選択することができる。典型的には、本明細書に記載される方法は、100~200mVの範囲で実行されるであろう。具体例において、本方法は、140mV又は180mVで実行される。電圧は、モータの運動の間は、静的である必要はない。電圧極性は、典型的には、負に帯電した核酸が、ポアへと電気泳動的に駆動されるように加えられる。場合によっては、適切な機能を促進するために、電圧は、減少されるか、又は極性が逆転され得る。
【0087】
場合によっては、差圧の印加は、ポアを通じた核酸の転位を強制するために利用することができる。差圧は、本明細書に例示された方法において、電位差又は他のポテンシャル差の代わりに使用することができる。或いは、差圧は、本明細書に例示された方法において、電位差又は他のポテンシャル差と組み合わせて使用することができる。
【0088】
本開示の方法は、ポアを通じた1つ又は複数のヌクレオチドの転位に対応する1つ又は複数の信号を生じ得る。したがって、標的ポリヌクレオチド又は標的ポリヌクレオチド若しくはモノヌクレオチド由来のモノヌクレオチド若しくはプローブはポアを通過するので、バリアを挟んだ電流は、例えば、狭窄部の塩基依存性(又はプローブ依存性)ブロックのために変化する。電流変化からの信号は、本明細書記載の種々の方法又は当該技術分野において公知のそれ以外の方法のいずれかを使用し、測定することができる。各信号は、ポア中のヌクレオチド(1つ又は複数)(又はプローブ)種に固有のものであり、結果的に生じる信号を使用して、ポリヌクレオチドの特徴を決定することができる。例えば、特徴的信号を生じるヌクレオチド(1つ又は複数)(又はプローブ)の1つ以上の種の同一性を決定することができる。本発明の方法において有用な信号は、例えば電気信号及び光信号が挙げられる。いくつかの態様では、電気信号は、電流、電圧、トンネル電流、抵抗、電圧、コンダクタンスの測定値、又は横方向電気的測定値であることができる(参照により本明細書に組み込まれている国際公開第2013/016486号参照)。いくつかの態様では、電気信号は、ポアを通過する電流である。
【0089】
本開示の方法において有用な光信号は、例えば蛍光及びラマン信号が挙げられる。光信号は、標的ヌクレオチドを、光信号を発生する標識物、例えば、蛍光部分又はラマン信号発生部分と結合させることにより生じ得る。例えば、dela Torreら、Nanotechnology、23巻(38):385308ページ(2012年)において、TiOでコーティングされた膜の広範な領域を照射するために、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡の光学的スキームを利用した。Soniら、Rev Sci Instrum.、81巻(1):014301ページ(2010年)において、方法は、2種の単独分子測定モダリティ、すなわち、全反射顕微鏡及びナノポアを使用した生体分子の電気的検出を統合するために使用された。上記の2つの参考文献は本明細書に組み込まれている。
【0090】
本明細書に記載されるように、ナノポア(ハイブリッドナノポアであれ、又は係留されたナノポアであれ)は、例えば、パッチクランプ回路、トンネル電極回路、又は横方向コンダクタンス測定回路(グラフェンナノリボン又はグラフェンナノギャップ等)が挙げられる検出回路と組み合わせて、本開示の方法において電気信号を記録することができる。加えて、ポアはまた、ポリヌクレオチド上の、例えば、蛍光部分又はラマン信号発生部分等、標識物を検出する光センサと組み合わせることができる。
【0091】
分子モータは、ヌクレオチドの加水分解エネルギーを使用して、ナノポアを通じた標的ポリヌクレオチドの転位を駆動できる。ヘリカーゼは、ATP加水分解がポリヌクレオチド転位のエネルギー源である例である。例えば、あるモデルでは、1本鎖ポリヌクレオチドは、ヘリカーゼの2つのRecA領域を第3の領域から分離する負に帯電したクレフトに保持される。ATPが存在しない場合、ブックエンド残基(例えば、HCVヘリカーゼのTrp501)及びクランプ残基(例えば、HCVヘリカーゼのArg393)は、1本鎖ポリヌクレオチドがクレフトを通って滑るのを防ぐ。ATP結合時には、RecA領域は回転し、正に帯電したArg-クランプを移動させる。Arg-クランプは、負に帯電した1本鎖ポリヌクレオチドを牽引し、これにより次にブックエンドを外す。次に1本鎖ポリヌクレオチドは、負に帯電されたクレフトと反発し、1本鎖ポリヌクレオチドは、ATPが加水分解されるまでヘリカーゼにより転位する。したがって、この例示的モデルにおいてヘリカーゼによるポリヌクレオチド転位には、少なくとも2つのステップが関与している。すなわち、第1のステップでは、ヘリカーゼがATPに結合し、構造変化を受け、第2のステップでは、ATPは加水分解され、ポリヌクレオチドはヘリカーゼにより転位する。
【0092】
本明細書に記載された装置に適用可能なその他の検出技術としては、事象、例えば、特に分子がDNA又はポリメラーゼ等のDNAと結合する酵素である場合の分子又は分子の一部の運動の検出が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、参照により本明細書に組み込まれているOlsenら、JACS 135巻:7855~7860ページ(2013年)は、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント(KF)の1つの分子が電子ナノ回路内にバイオコンジュゲートされ、酵素機能の電気的記録及び個々のヌクレオチド組み込み事象の分解能による動的変動性を可能にすることを開示している。又は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているHurtら、JACS 131巻:3772~3778ページ(2009年)は、印加された電界中でナノポア上におけるKFとのDNAの複合体の滞留時間の測定を開示している。又は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているKimら、Sens. Actuators B Chem.177巻:1075~1082ページ(2012年)は、α溶血素ナノポアに捕捉されたDNAに関係する実験における電流測定センサの使用を開示している。又は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているGaraldeら、J.Biol.Chem.286巻:14480~14492ページ(2011年)は、α溶血素ポア上の電界に捕捉されたときの性質に基づいたKF-DNA複合体の識別を開示している。α溶血素に関係する測定を開示するその他の参考文献としては、参照により本明細書に組み込まれている、すべてHoworkaらによるPNAS 98巻:12996~13301ページ(2001年);Biophysical Journal 83巻:3202~3210ページ(2002年)及びNature Biotechnology 19巻:636~639ページ(2001年)が挙げられる。
【0093】
参照により本明細書に組み込まれているTurnerらに付与された米国特許第8,652,779号は、溶液中でポリメラーゼ酵素及びナノポア近傍に結合した鋳型核酸を含む単一のポリメラーゼ酵素複合体並びにヌクレオチド類似体を使用した核酸シークエンシングの組成物及び方法を開示している。ヌクレオチド類似体は、ヌクレオチド類似体のポリホスフェート部分に結合した電荷遮断標識物を含むため、電荷遮断標識物はヌクレオチド類似体が増殖する核酸に組み込まれると切断される。Turnerによると、電荷遮断標識物は、ナノポアによって検出され、組み込まれたヌクレオチドの存在及び同一性を判断し、以て鋳型核酸の配列を決定する。参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願公開第2014/0051069号は、膜貫通タンパク質ポアサブユニット及び核酸操作酵素を含む構造体に係る。
【実施例
【0094】
実施例I
実験計画の2つの主要な要旨は、(a)タンパク質ナノディスク複合体を操作、合成、及び精製することと、(b)電気泳動力によってソリッドステートナノポアプラットフォームで複合体を組み立てることである。電気泳動駆動力は、高分子電解質又はDNA分子をディスク又はポア形成タンパク質に結合することで強化され得る。さらなる表面処理が、脂質ディスクと固体ナノポアとの界面における絶縁を改善するために必要とされる場合がある。
【0095】
特定の目的#1:MspAナノポアの脂質ナノディスクへの組み込みを実証する
中間目標:(a)ブランク脂質ナノディスクの組立て及び特性決定、(b)分離及び精製のためのHisタグ付きMspAタンパク質の操作、(c)MspAタンパク質の脂質ナノディスクへの組み込み、生成物の精製及び形態の特性決定。
【0096】
バイオポアが組み込まれた脂質ナノディスクの合成
ブランク脂質ナノディスクは脂質及びMSP比の滴定により合成する。実験手法は図3に関連して上記で考察された。C末端にHisタグを有するバイオポア突然変異体を調製する。Hisタグ付き突然変異体をナノディスク前駆体混合物に添加し、その後、バイオポア組み込みが脂質ナノディスク自己集合プロセス中に行われるように界面活性剤を除去する。過剰な量のナノディスク成分を使用して、高率での組み込みを確実なものとする。ナノポア-ナノディスク複合体は、Hisタグアフィニティカラムにより空のナノディスクから分離される。プロセス全体を、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)及びドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により監視及び分析し、さらに、液相原子間力顕微鏡及び透過型電子顕微鏡により特性決定する。
【0097】
特定の目的#2:ソリッドステートナノポアに挿入された脂質ナノディスクの>100GΩのシールの実現
中間目標:(a)ナノポア及び電気泳動基礎構造の確立、(b)電気泳動によるブランク脂質ナノディスクのソリッドステートナノポアへの組立て、(c)必要である場合、>100GΩのシールを確実にするためのソリッドステートナノポアの化学的機能化、(d)ハイブリッドシステムにおけるMspA生物学的ポア活性の実証。
【0098】
ソリッドステートナノポアシステムの構築
ソリッドステートナノポアの作製方法は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子ビーム(例えば、参照により本明細書に組み込まれているStormら、Nature Materials 2巻、537~540ページ(2003年)参照)、集束イオンビーム(FIB)のGaイオンビーム(例えば、参照により本明細書に組み込まれているPattersonら、Nanotechnology 19巻、235304ページ(2008年)参照)、又はヘリウムイオンビーム(例えば、参照により本明細書に組み込まれているYangら、Nanotechnology 22巻、285310ページ(2011年)参照)を用いた通電したビームドリルを歴史的に利用してきた。商業的に供給される7~10nmナノポアは最初の実証及びシステム開発のために使用される。必要とされる設備の初期プロトタイピングは図6A及び図6Bに関連して上述されるように実行される。パッチクランプ増幅器及び電気化学ワークステーション等の電気生理学ツール並びにクリーンルーム設備はさらなるナノファブリケーション作業のために使用される。
【0099】
>100GΩ抵抗を有する脂質ナノディスクで封止されたナノポアの実現
ソリッドステートナノポアを通じた電気泳動により駆動された生体分子の転位は、過去10年間で徹底的に研究されてきた。同じ戦略を適用して、ソリッドステートナノポアを比較的大きなサイズの脂質ナノディスクで封止し、組み込まれたタンパク質ナノポアをイオン電流のための唯一の通路として、またポアを通過させることにより検出される検体の唯一の通路として残すことができる。封止効率はブランク脂質ナノディスク(バイオポアなし)を用いて試験される。脂質ナノディスクは軽く荷電しているため、コレステロール-TEGで誘導体化されたDNA分子を利用して、脂質ナノディスク捕捉の電気泳動効果を改善できる。コレステロールタグ付きDNAは、疎水性コレステロールユニットを膜に挿入することによって脂質膜に結合する傾向がある。核酸テザーを有するブランクナノディスクの概略図を図8に示す。
【0100】
電界は、高度に荷電したDNA鎖を捕捉することによってテザー含有ナノディスクを誘導する。捕捉の確率は、ナノポアのサイズ、イオン強度、電圧及び粘度によっても影響され、これらは所望のロードを達成するために調節可能である。DNAテザーの単一のナノディスクへの複数の挿入は、この中間ステップでは可能であるが、ナノディスクとソリッドステートナノポア表面との封止効率を評価する能力には影響を与えるべきではない。
【0101】
例えば、シールが全体的に電気泳動作用を介して作り出されない実施形態では、さらなる変形例を用いて>100GΩシールを達成する場合もある。必要であれば、ソリッドステートナノポアは界面の漏れ経路を封止するために機能化され得る。界面の疎水性を確実にすることによって、溶媒和イオンの輸送を防ぐことができる。1つの技術は、ソリッドステートナノポアの上面を、疎水性末端基が膜に挿入されている間でも表面が疎水性であることを確実にするコレステロール誘導体でコーティングすることである。使用可能な特定の界面化学を図9に示す。
【0102】
別の手法は、例えば、それぞれが参照により本明細書に組み込まれているStackmann、Science 271巻、43~48ページ(1996年);Steinemら、Biochim.Biophys.Acta,1279巻、169~180ページ(1996年);Vallejo、Bioelectrochemistry 57巻、1~7ページ(2002年);及びAvanti Polar Lipids,Inc.(2013年10月)、「Preparation of Liposomes」、http://avantilipids.com/index.php?option=com_content&id=1384&Itemid=372Ifより引用に記載されているような脂質ナノディスクの局所的係留である。代替的に又は加えて、Siチップの表面全体は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているYuskoら、Nature Nanotech.6巻、253ページ(2011年)に記載されているように、膜でコーティングされ得る。MspAバイオポアは次いで、膜コーティングの形成直後に挿入され得る。立体障害を利用して、1つのみのポリンが各孔に挿入でき、また3次元(すなわち、溶液中)から2次元(すなわち、膜中)への拡散の効果的な転換が適切な挿入効率をもたらすことを確実にできる。直径が約100nmの大きな単層ベシクルを得ることができ(例えば、参照により本明細書に組み込まれているAvanti Polar Lipids,Inc.(2013年10月)、「Preparation of Liposomes」、http://avantilipids.com/index.php?option=com_content&id=1384&Itemid=372Ifより引用)、より小さなソリッドステートナノポア(例えば、実施例に記載されている約10nmのナノポア)を跨ぐことができる。
【0103】
加えて、ソリッドステートナノポアの化学的機能化は、脂質ナノディスクとソリッドステートナノポアとの界面に沿って残留漏洩経路を防ぐように行われ得る。したがって、脂質ディスクが接触するソリッドステートナノポアの上面は疎水性自己集合分子により化学的に機能化される。例示的な機能化に使用可能な部分は、その疎水性部分を膜に挿入でき、その結果、界面に沿った水和イオンの輸送を防止するコレステロール誘導体である。コレステロール誘導体を固体基材にコンジュゲートするための有用な界面化学は図9に例示される。
【0104】
表面機能化は、ソリッドステートナノポアの電気的特性を変更し得る。その効果は、固体表面とのDNAの相互作用による固着事象を低減することによって有益であり得る。しかしながら、ソリッドステートナノポアの疎水性の増加は、その輸送特性に影響を与え得る(例えば、参照により本明細書に組み込まれているPowellら、Nature Nanotechnology 6巻、798~802ページ(2011年)参照。2つの効果は、最適なシステム性能を実現するようにバランスをとることができる。)
ハイブリッドナノポアデバイスの一部としてのバイオポア活性の試験
【0105】
特定の目的#2bは、脂質ナノディスク/バイオポア複合体のソリッドステートナノポアへの組立てを実証する。ハイブリッドナノポアの電気的特性、ノイズレベル、及び安定性を、核酸シークエンシング条件下で特性決定できる。ハイブリッドナノポアは、主としてシリコン支持基材を通じた静電結合によってもたらされる、従来のタンパク質ナノポアデバイスよりも大きなノイズを有する場合がある。例えば、参照により本明細書に組み込まれているWaggonerら、Journal of Vacuum Science & Technology B 29巻、032206(2011年)を参照のこと。ノイズレベルは、流体接触領域の樹脂表面安定化処理によって、又は参照により本明細書に組み込まれているRosensteinら、Nature Methods 9巻、487~492ページ(2012年)に記載される技術及び材料を使用してミクロン厚のSiOをSiフィルムとSi基材との間に加えることによって最適化され得る。現在のナノポアシークエンシング化学は、脂質ディスク/バイオポア複合体の安定性に影響を与えないと予測される中性に近いpH緩衝剤中でポリメラーゼ、ATP、及び塩を含有する。ハイブリッドナノポアの性能は、その性能を特性決定するために従来の脂質支持バイオポアを基準とすることができる。
【0106】
実施例II
本実施例は、実施例Iの特定の目的#1の発展について記述している。より詳細には、(a)直径10~13nmのブランク脂質ナノディスクを組立て及び特性決定し、(b)MspAナノポアタンパク質を脂質ナノディスクに組み込み、複合体の形態を特性決定するためのプロトコルを確立した。
【0107】
高速タンパク質液体クロマトグラフィ(FPLC)を使用して、図10に示すナノディスク形成及びMspA挿入を最適化した。下部トレース(黒色)はナノディスク単独のものであり、FPLC器具からのはっきりした溶出ピークを示す。MspAを前駆体混合物に添加することにより反応が不安定になり、中間トレース(赤色)により示されるようにより高い分子量で2番目の溶出ピークが生じる。挙動は、過剰な脂質の存在下での純粋なナノディスク合成の挙動と似ていた。必ずしも仮説によって限定されることを意図しないが、溶液中でMspAタンパク質を安定させるために必要とされる界面活性剤は、ナノディスク自己集合プロセスと相互作用するようである。合成中に使用される脂質の量を1/3減少させることによって、上部トレース(青色)に示すように正常な挙動が戻った。
【0108】
加えて、透過電子顕微鏡(TEM)特性決定を図10の2つの溶出画分(A及びB)に対して行った。試料をTEM撮像前に酢酸ウラニルで染色して、コントラストを強調させた。得られるTEM画像を図11に示す。明らかなMspA(黒い点があるディスク)の挿入が両方の試料で観察され、予想通り高MW画分では大量に凝集形成していた。ブランクナノディスクのTEM画像(図示せず)はこのような特徴は示さなかった。MspA挿入のさらなる確認は、タンパク質電気泳動を通じて、また実施例Iの特定の目的#1に記したように生成物の金属カラム生成を介して行うことができる。
【0109】
上記の結果は空のナノディスクの合成のためのプロトコルの確立を裏付けるものである。さらに、結果は、自己集合ナノディスクにおけるMspA挿入の原理証明実験の裏付けを提供するものである。
【0110】
本出願全体を通じて、種々の出版物、特許、又は特許出願が参照された。これらの刊行物の開示はそれらの全体が本出願において参照により本明細書に組み込まれる。
【0111】
用語「含む、備える(comprising)」は本明細書において、非制限的であることが意図され、列挙された要素を備えるだけでなく、任意の追加の要素をさらに包含する。
【0112】
複数の実施形態が記述された。それでもなお、種々の修正がなされ得ることは理解されよう。したがって、その他の実施形態は下記の特許請求の範囲の範疇にある。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14