(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】ステアリングシステムおよびこれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 17/00 20060101AFI20230727BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20230727BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230727BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20230727BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20230727BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
B62D17/00
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2018235129
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】石原 教雄
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴志
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006226(JP,A)
【文献】特開2017-001423(JP,A)
【文献】特開2004-276833(JP,A)
【文献】特開2015-093535(JP,A)
【文献】特開2011-131777(JP,A)
【文献】特開2016-203905(JP,A)
【文献】特開2008-207684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/00 - 5/32
B62D 7/09
B62D 7/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が備えるステアリングシステムであって、
操舵指令装置が出力する操舵量の指令に従い前記車両の左右の前輪を操舵する第1のステアリング装置と、
前記第1のステアリング装置による前記左右の前輪の操舵に付加して、前記車両に設けられた操舵用アクチュエータの駆動により前後輪のいずれか一方または両方の左右輪をそれぞれ個別に操舵させる第2のステアリング装置と、
前記第2のステアリング装置に電力を供給する主電源および副電源と、
前記車両の状態を表す車両情報を検出する車両情報検出部と、を備え、
前記第2のステアリング装置は、前記左右
輪の操舵角を含む前記車両情報に基づいて、前記左右輪におけ
る前記操舵用アクチュエータを個別に制御することで前
記左右輪を操舵させる左右輪のアクチュエータ制御装置を備え、
前記左右輪のアクチュエータ制御装置は、前記主電源から前記各アクチュエータ制御装置に供給される各電力系統に異常があるか否かをそれぞれ検出する左右輪の異常検出部を備え、前記左右輪の異常検出部における一方の異常検出部は、対応する電力系統の異常を検出したときその異常検出情報を、前記左右輪の異常検出部における他方の異常検出部に互いに与える相互監視機能を有し、
前記左右輪の異常検出部によりいずれの電力系統にも異常がないとき前記主電源から前記左右輪のアクチュエータ制御装置にそれぞれ電力を供給し、
前記左右輪の異常検出部における一方の異常検出部から前記左右輪の異常検出部における他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、異常がある電力系統に代えて、前記副電源から、前記一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給するステアリングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリングシステムであって、前記第1のステアリング装置は、左右の前記前輪を連動して操舵させるものであり、前記第2のステアリング装置は、前記左右輪を独立して操舵可能であるステアリングシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のステアリングシステムであって、前記第1および第2のステアリング装置は、同一の車輪である前記前輪の操舵を行うステアリングシステム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のステアリングシステムであって、前記車両情報は、車速、操舵角、車高、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値を含むステアリングシステム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のステアリングシステムであって前記第1のステアリング装置と、前記第2のステアリング装置とは、互いに異なる車輪の操舵を行うステアリングシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のステアリングシステムであって、前記車両情報は、車速、操舵角、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値を含むステアリングシステム。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のステアリングシステムであって、前記第2のステアリング装置を二つ備え、
一方の前記第2のステアリング装置と、前記第1のステアリング装置とは、同一の車輪の操舵を行い、
他方の前記第2のステアリング装置と、前記第1のステアリング装置とは、互いに異なる車輪の操舵を行うステアリングシステム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のステアリングシステムであって、前記左右輪のアクチュエータ制御装置は、一方の異常検出部から他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、前記副電源から、前記一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給して前記操舵用アクチュエータの制御を継続するステアリングシステム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のステアリングシステムであって、前記左右輪のアクチュエータ制御装置は、一方の異常検出部から他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、左右輪のトー角を定められた基準値に戻すように前記各操舵用アクチュエータを制御するステアリングシステム。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のステアリングシステムであって、前記副電源として、二次電池、キャパシタまたはコンデンサを使用するステアリングシステム。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のステアリングシステムであって、前記第2のステアリング装置として、
車輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、
懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と
前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエー
タとを備える、操舵機能付ハブユニットを使用するステアリングシステム。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のステアリングシステムを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングシステムおよびこれを備えた車両に関し、ステアリングシステムの冗長性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両においては、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、ハンドルの回転操作により、ステアリング装置が車輪の操舵を行う(特許文献1~4)。
しかしながら、ハンドルとステアリング装置とが機械的に接続されている車両においては、路面の凹凸などによる車輪からの逆入力により、ハンドルがとられ、車両がふらついてしまうという問題がある。
またコーナリング時においては、運転者の習熟度または路面等の環境条件のばらつきで、走行安定性およびハンドル操作に対する追従性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-226972号公報
【文献】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【文献】特開2014-061744号公報
【文献】特開2016-147513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の問題を解決するために、運転者によるハンドル操作により操舵角を制御する第1のステアリング装置に対し、左右各々のタイヤの角度を変更することによって車両の向きを補正し、車両の走行安定性等を向上させることが可能な第2のステアリング装置を提供する。
しかし、第2のステアリング装置は、車両走行時の制御中に、電源からいずれか一方の電力系統または両方の電力系統に異常が発生した場合、タイヤの向きが電力系統の異常時の方向で固定され、ハンドル操作が困難になってしまう問題がある。
【0005】
この発明の目的は、車両の走行安定性を向上することができ、電力系統に異常が発生した場合においても、ハンドル操作等に対する追従性を維持することができるステアリングシステムおよびこれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のステアリングシステム101は、車両100が備えるステアリングシステムであって、
操舵指令装置200,200Aが出力する操舵量の指令に従い前記車両100の左右の前輪9F,9Fを操舵する第1のステアリング装置11と、
前記車両100に設けられた操舵用アクチュエータ5の駆動により前後輪のいずれか一方または両方の左右輪をそれぞれ個別に操舵させる第2のステアリング装置150と、
前記第2のステアリング装置150に電力を供給する主電源Bmおよび副電源Bsと、
前記車両の状態を表す車両情報を検出する車両情報検出部110と、を備え、
前記第2のステアリング装置150は、前記左右輪におけるいずれか一方の車輪の操舵角を含む前記車両情報に基づいて、前記左右輪における他方の車輪の前記操舵用アクチュエータ5を個別に制御する左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rを備え、
前記左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、前記主電源Bmから前記各アクチュエータ制御装置31R,31Lに供給される各電力系統223R,223Lに異常があるか否かをそれぞれ検出する左右輪の異常検出部221,222を備え、前記左右輪の異常検出部221,222における一方の異常検出部は、対応する電力系統の異常を検出したときその異常検出情報を、前記左右輪の異常検出部221,222における他方の異常検出部に互いに与える相互監視機能を有し、
前記左右輪の異常検出部221,222によりいずれの電力系統にも異常がないとき前記主電源Bmから前記左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rにそれぞれ電力を供給し、
前記左右輪の異常検出部221,222における一方の異常検出部から前記左右輪の異常検出部における他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、異常がある電力系統に代えて、前記副電源Bsから、前記一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給する。
【0007】
この構成によると、第2のステアリング装置150を設けたため、車両100が僅かにふらついた場合に、運転者がハンドルの操作を行わなくても、車両100のふらつきを補正することが可能となる。そのため、車両100の直進安定性が向上する。
コーナリング時においては、車両情報に応じて運転者のハンドル操作を、より効率的に車両が曲がれるよう、左右輪各々の操舵量を補正することで理想のラインでコーナリングが可能となり、運転者のハンドル操作負荷を軽減できるため、車両100の操縦安定性を向上することができる。
【0008】
いずれの電力系統223R,223Lにも異常がないとき、主電源Bmから左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rにそれぞれ電力を供給する。
左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、相互監視機能を有する左右輪の異常検出部221,222を備えるため、主電源Bmから一方のアクチュエータ制御装置に供給される電力系統に異常が発生した場合、一方のアクチュエータ制御装置における一方の異常検出部は、異常発生情報を他方の異常検出部に与える。前記異常発生情報が与えられた他方の異常検出部を備える他方のアクチュエータ制御装置は、異常がある電力系統に代えて、副電源Bsから一方のアクチュエータ制御装置に電力を供給する。
【0009】
このように電力系統223R,223Lの異常時に副電源Bsから電力を供給することにより、左右それぞれの車輪のトー角を、例えば、定められた基準値に動作させた後に、各操舵用アクチュエータ5の制御を停止することが可能となる。車両の初期状態である左右それぞれの車輪のトー角を定められた基準値に固定することで、車両は第2のステアリング装置150が無い初期状態になるので、運転者は安全にハンドル等の操舵指令装置200を使って、路肩など安全な場所に車両を移動させることができる。このように電力系統に異常が発生した場合においても、ハンドル操作等に対する追従性を維持することができる。
【0010】
前記第1のステアリング装置11は、左右の前記前輪9F,9Fを連動して操舵させるものであり、前記第2のステアリング装置150は、前記左右輪を独立して操舵可能であってもよい。第2のステアリング装置150が左右の後輪9R,9Rを独立して操舵可能である場合、車両の挙動を、左右の前輪9F,9Fで修正するだけでなく、左右の後輪9R,9Rによって補うことができるため、車両の制御を適切に行うことができる。
【0011】
前記第1および第2のステアリング装置11,150は、同一の車輪である前記前輪9Fの操舵を行うものであってもよい。この場合、例えば高速域において、左右の前輪9F,9Fの角度をそれぞれ変更して、パラレルジオメトリに設定することで、走行抵抗を増大させることがなく、スムーズな旋回をさせることができる。
【0012】
前記車両情報は、車速、操舵角、車高、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値を含むものであってもよい。この場合、第2のステアリング装置150は、検出した車速、操舵角、車高、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値に基づいて、左右のタイヤと地面の接触面の状態を各々算出し、車両を理想的なラインでコーナリングするための左右各々のタイヤ角度を算出し、左右各々の操舵用アクチュエータ5の駆動を個別に行うことができる。
【0013】
前記第1のステアリング装置11と、前記第2のステアリング装置150とは、互いに異なる車輪の操舵を行うものであってもよい。この場合、低速域では、左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、前輪9F,9Fの操舵角に対して左右の後輪9R,9Rを逆位相に操舵させることにより、前輪のみで操舵する場合より最小回転半径を小さくすることが可能となる。これにより車両の小回り性の向上を図れる。
高速域では、左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、前輪9F,9Fの操舵角に対して左右の後輪9R,9Rを同位相に操舵させることにより横滑りを抑えて、車線変更などでの車両の安定性を向上することが可能となる。
【0014】
前記車両情報は、車速、操舵角、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値を含むものであってもよい。この場合、第2のステアリング装置150は、検出した車速、操舵角、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値およびブレーキ指令値に基づいて、左右のタイヤと地面の接触面の状態を各々算出し、車両を理想的なラインでコーナリングするための左右各々のタイヤ角度を算出し、左右各々の操舵用アクチュエータ5の駆動を個別に行うことができる。
【0015】
前記第2のステアリング装置150を二つ備え、
一方の前記第2のステアリング装置1501と、前記第1のステアリング装置11とは、同一の車輪の操舵を行い、
他方の前記第2のステアリング装置1502と、前記第1のステアリング装置11とは、互いに異なる車輪の操舵を行うものであってもよい。
この場合、車両情報に応じて、全ての車輪の角度を独立して調整することが可能であり、ステアリングジオメトリを自由に変更できるため、車両の運動性能を向上させることができる。
【0016】
前記左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、一方の異常検出部から他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、前記副電源Bsから、前記一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給して前記操舵用アクチュエータ5の制御を継続してもよい。この場合、いずれかの電力系統に異常が発生しても、第2のステアリング装置150は、左右輪をそれぞれ個別に操舵させ、左右輪各々のトー角を個別に且つ継続して調整することが可能である。
【0017】
前記左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、一方の異常検出部から他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、左右輪のトー角を定められた基準値に戻すように前記各操舵用アクチュエータ5を制御するものであってもよい。
前記定められた基準値は、設計等によって任意に定める基準値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な基準値を求めて定められる。
この場合、左右輪のトー角を定められた基準値に戻すように各操舵用アクチュエータ5を制御するため、副電源Bsとして容量の小さいもので足りステアリングシステム101の小型化を図ることが可能となる。
【0018】
前記副電源Bsとして、二次電池、キャパシタまたはコンデンサを使用してもよい。
【0019】
前記第2のステアリング装置150として、
車輪9F(9R)を支持するハブベアリング15を有するハブユニット本体2と、
懸架装置12の足回りフレーム部品6に設けられ、前記ハブユニット本体2を上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在に支持するユニット支持部材3と
前記ハブユニット本体2を前記転舵軸心A回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータ5を備える、操舵機能付ハブユニット1を使用するものであってもよい。
【0020】
この構成によると、車輪9F(9R)を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。これにより操舵輪の通常の操舵に加えて、操舵輪または非操舵輪に微小な角度の操舵が行える。このため、旋回走行時にステアリングジオメトリを変化させることができ、これにより車両の走行安定性の向上を図れる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整することで、低速時には走行抵抗を下げ燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0021】
この発明の車両は、この発明の前記のいずれかの構成のステアリングシステム101を備えている。そのため、この発明のステアリングシステムにつき前述した各効果が得られる。
【発明の効果】
【0022】
この発明のステアリングシステムは、車両が備えるステアリングシステムであって、操舵指令装置が出力する操舵量の指令に従い前記車両の左右の前輪を操舵する第1のステアリング装置と、前記車両に設けられた操舵用アクチュエータの駆動により前後輪のいずれか一方または両方の左右輪をそれぞれ個別に操舵させる第2のステアリング装置と、前記第2のステアリング装置に電力を供給する主電源および副電源と、前記車両の状態を表す車両情報を検出する車両情報検出部と、を備え、前記第2のステアリング装置は、前記左右輪におけるいずれか一方の車輪の操舵角を含む前記車両情報に基づいて、前記左右輪における他方の車輪の前記操舵用アクチュエータを個別に制御する左右輪のアクチュエータ制御装置を備え、前記左右輪のアクチュエータ制御装置は、前記主電源から前記各アクチュエータ制御装置に供給される各電力系統に異常があるか否かをそれぞれ検出する左右輪の異常検出部を備え、前記左右輪の異常検出部における一方の異常検出部は、対応する電力系統の異常を検出したときその異常検出情報を、前記左右輪の異常検出部における他方の異常検出部に互いに与える相互監視機能を有し、前記左右輪の異常検出部によりいずれの電力系統にも異常がないとき前記主電源から前記左右輪のアクチュエータ制御装置にそれぞれ電力を供給し、前記左右輪の異常検出部における一方の異常検出部から前記左右輪の異常検出部における他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、異常がある電力系統に代えて、前記副電源から、前記一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給する。このため、車両の走行安定性を向上することができ、電力系統に異常が発生した場合においても、ハンドル操作等に対する追従性を維持することができる。
【0023】
この発明の車両は、この発明の前記の構成のステアリングシステムを備えているため、車両の走行安定性を向上することができ、電力系統に異常が発生した場合においても、ハンドル操作等に対する追従性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係るステアリングシステムの概念構成を概略示す図である。
【
図2】同ステアリングシステムにおける第2のステアリング装置の機構部およびその周辺の構成を示す縦断面図である。
【
図3】同第2のステアリング装置の機構部等の構成を示す水平断面図である。
【
図4】同第2のステアリング装置の機構部の外観を示す斜視図である。
【
図5】同第2のステアリング装置の機構部の分解正面図である。
【
図6】同第2のステアリング装置の機構部の正面図である。
【
図7】同第2のステアリング装置の機構部の平面図である。
【
図8】
図6のVIII - VIII線断面図である。
【
図9】同ステアリングシステムの概念構成を示すブロック図である。
【
図10】同第2のステアリング装置の概念構成を示すブロック図である。
【
図11】電力系統の異常発生時の処理を段階的に示すフローチャートである。
【
図12】同第2のステアリング装置の操舵制御部の構成を示すブロック図である。
【
図13】実横加速度/規範横加速度およびタイヤ角度と摩擦係数の関係例を示すグラフである。
【
図14】この発明の第2の実施形態に係るステアリングシステムの概念構成を概略示す図である。
【
図15】同ステアリングシステムの概念構成を示すブロック図である。
【
図16】同ステアリングシステムの第2のステアリング装置の操舵制御部の構成を示すブロック図である。
【
図17】この発明の第3の実施形態に係るステアリングシステムの概念構成を概略示す図である。
【
図18】同ステアリングシステムの概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図13と共に説明する。
図1は、この実施形態に係るステアリングシステム101を搭載した自動車等の車両100の概念構成を概略示す図である。車両100は、左右の前輪(左右輪)9F,9Fと、左右の後輪9R,9Rとを有する四輪車両であり、駆動方式は、前輪駆動、後輪駆動、四輪駆動のいずれであってもよい。
【0026】
このステアリングシステム101は、車両100の操舵を行うためのシステムであり、第1のステアリング装置11と、第2のステアリング装置150と、車両情報検出部110と、主電源Bmおよび副電源Bsとを備える。
第1のステアリング装置11は、ハンドル等の操舵指令装置200に対する運転者の操作により車両100の操舵輪となる左右の前輪9F,9Fを操舵する装置であり、この実施形態では前輪操舵形式とされている。
【0027】
第2のステアリング装置150は、車両100の状態に応じた制御によって補助的な操舵を行う装置であり、機構部150aと、制御部150bとを有する。機構部150aは、補助操舵の対象となる前輪9F,9F毎に設けられる機構である。この機構部150aは、車両100のタイヤハウジング105内に設けられて操舵用アクチュエータ5(
図2)の駆動により前輪9Fを個別に操舵させる。制御部150bは、車両情報検出部110により検出された車両100の状態を表す車両情報に基づいて制御する。
【0028】
換言すれば、ステアリングシステム101は、
車両100の左右の前輪9F,9Fが機械的に連動し、操舵指令装置200が出力する操舵量の指令に従い車両100の左右の前輪9F,9Fを、これら左右の前輪9F,9Fが設置される懸架装置12の左右の足回りフレーム部品であるナックル6,6の角度変更によって操舵する第1のステアリング装置11と、
左右の前輪9F,9Fに対してそれぞれ設けられた操舵用アクチュエータ5(
図2)を駆動することで前記足回りフレーム部品であるナックル6,6に対する前輪9F,9Fの角度を変えて左右の前輪9F,9Fを個別に操舵させる第2のステアリング装置150と、
後述する車両情報検出部110と、
第2のステアリング装置150に電力を供給する主電源Bmおよび副電源Bsと、を備える。
【0029】
車両情報検出部110は、車両100の状態を検出する手段であり、各種のセンサ類の群を称している。車両情報検出部110の検出した車両情報は、メインのECU130を介して第2のステアリング装置150の制御部150bに転送される。
ECU130は、車両100の全体の協調制御または統括制御を行う制御装置であり、VCUとも称される。
【0030】
<第1のステアリング装置11の構成>
第1のステアリング装置11は、運転者によるハンドル等の操舵指令装置200に対する入力に応じて、左右の前輪9F,9Fを連動して操舵するシステムであり、ステアリングシャフト32、ラックアンドピニオン(図示せず)、タイロッド14等、周知の機械的な構成を備える。運転者が操舵指令装置200に対して回転入力を行うと、ステアリングシャフト32も連動して回転する。ステアリングシャフト32が回転すると、ラックアンドピニオンによってステアリングシャフト32と連結されているタイロッド14が車幅方向に移動することで、前輪9Fの向きが変わり、左右の前輪9F,9Fを連動して操舵することが可能である。
【0031】
<第2のステアリング装置150の概略構成>
図1および
図9に示すように、第2のステアリング装置150は、左右の前輪9F,9Fを独立して操舵可能である。この第2のステアリング装置150の機構部150aとして右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lを備える。これら右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lは、タイヤハウジング105内に設けられた操舵用アクチュエータ5(
図2)により前輪9F,9Fの操舵を行う。
【0032】
<第2のステアリング装置150の機構部150aの具体的構成例>
第2のステアリング装置150の機構部150aは、前述のように右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lを備えるが、これら右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lは、いずれも
図2に示す操舵機能付ハブユニット1として構成されている。
同
図2に示すように、このハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、回転許容支持部品4と、操舵用アクチュエータ5とを備える。足回りフレーム部品であるナックル6に一体にユニット支持部材3が設けられている。
【0033】
図5に示すように、このユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5のアクチュエータ本体7が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。ハブユニット1(
図2)を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
図3および
図4に示すように、ハブユニット本体2とアクチュエータ本体7とはジョイント部8により連結されている。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
【0034】
図2に示すように、ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、前輪9Fの回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な操舵を行うキングピン軸とも異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態のハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。前輪9Fは、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0035】
図1に示すように、このハブユニット1(
図2)は、第1のステアリング装置11による左右の前輪9F,9Fの操舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を操舵させる機構として、懸架装置12のナックル6に一体に設けられる。第1のステアリング装置11は、ラックアンドピニオン式とされるが、どのタイプのステアリング装置でも構わない。懸架装置12は、例えば、ショックアブソーバーをナックル6に直接固定するストラット式サスペンション機構を適用しているが、ダブルウィッシュボーン式サスペンション機構、マルチリンク式サスペンション機構、その他のサスペンション機構を適用してもよい。
【0036】
<ハブユニット本体2について>
図2に示すように、ハブユニット本体2は、前輪9Fの支持用のハブベアリング15と、アウターリング16と、後述の操舵力受け部であるアーム部17(
図4)とを備える。
図8に示すように、ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、これら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20とを有し、車体側の部材と前輪9F(
図2)とを繋ぐ役目をしている。
【0037】
このハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。
図2に示すように、ハブフランジ18aaに、前輪9Fのホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0038】
図8に示すように、アウターリング16は、外輪19の外周面に嵌合された円環部16aと、この円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の取付軸部16b,16bとを有する。各取付軸部16bは、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
図3に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ21bとを有する。ブレーキキャリパ21bは、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図6)に取付けられる。
【0039】
<回転許容支持部品およびユニット支持部材について>
図8に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受から成る。この例では、転がり軸受として、円すいころ軸受が適用されている。転がり軸受は、取付軸部16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。
【0040】
ユニット支持部材3は、ユニット支持部材本体3Aと、ユニット支持部材結合体3Bとを有する。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端に、略リング形状のユニット支持部材結合体3Bが着脱自在に固定されている。ユニット支持部材結合体3Bのインボード側側面のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部3aがそれぞれ形成されている。
【0041】
図7および
図8に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部3Aaがそれぞれ形成されている。
図4および
図5に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端にユニット支持部材結合体3Bが固定され、各上下の部分につき、嵌合孔形成部3a,3Aa(
図7)が互いに組み合わされることにより、全周に連なる嵌合孔が形成される。この嵌合孔に外輪4b(
図8)が嵌合されている。なお
図4において、ユニット支持部材3を一点鎖線で表す。
【0042】
図8に示すように、アウターリング16における各取付軸部16bには、雌ねじ部が径方向に延びるように形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。内輪4aの端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により、内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各回転許容支持部品4にそれぞれ予圧を与えている。これにより各回転許容支持部品4の剛性を高め得る。車両の重量がこのハブユニットに作用した場合でも初期予圧が抜けないように設定される。なお、回転許容支持部品4の転がり軸受は、円すいころ軸受に限るものではなく、最大負荷等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0043】
図3に示すように、アーム部17は、ハブベアリング15の外輪19に操舵力を与える作用点となる部位であり、円環部16aの外周の一部または外輪19の外周の一部に一体に突出する。このアーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部25aに回転自在に連結されている。これにより、操舵用アクチュエータ5の直動出力部25aが進退することで、ハブユニット本体2が転舵軸心A(
図2)回りに回転、つまり操舵させられる。
【0044】
<操舵用アクチュエータ5について>
図3に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A(
図2)回りに回転駆動させるアクチュエータ本体7を有する。アクチュエータ本体7は、モータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を直動出力部25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0045】
減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができ、
図3の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27aと、ドリブンプーリ27bと、ベルト27cとを有する。モータ26のモータ軸にドライブプーリ27aが結合され、直動機構25にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、前記モータ軸に平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。これらドライブプーリ27aとドリブンプーリ27bとベルト27cとで、巻き掛け式の減速機27が構成される。
【0046】
直動機構25は、滑りねじまたはボールねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等を用いることができ、この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構(逆入力防止機構)25bが用いられている。直動機構25は、前記台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構25bを備えるため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。なお、前記台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構25bの代わりに、ウォームギヤ等の逆入力防止機構を採用してもよい。モータ26、減速機27および直動機構25を備えたアクチュエータ本体7は、準組立品として組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0047】
ケース6bは、ユニット支持部材3の一部として、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ケース6bは、有底筒状に形成され、モータ26を支持するモータ収容部と、直動機構25を支持する直動機構収容部が設けられている。前記モータ収容部には、モータ26をケース内所定位置に支持する嵌合孔が形成されている。前記直動機構収容部には、直動機構25をケース内所定位置に支持する嵌合孔、および、直動出力部25aの進退を許す貫通孔等が形成されている。
【0048】
図4に示すように、ユニット支持部材本体3Aは、前記ケース6b、ショックアブソーバの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、および第1のステアリング装置11(
図3)の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。これらショックアブソーバ取り付け部6cおよびステアリング装置結合部6dも、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における上部に、ショックアブソーバ取り付け部6cが突出するように形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における側面部には、ステアリング装置結合部6dが突出するように形成されている。
【0049】
<車両情報検出部110の構成>
図9に示すように、車両情報検出部110は、車両情報を検出しECU130へ出力する。車両情報検出部110は、車速検出部111、操舵角検出部112、車高検出部113、実ヨーレート検出部114、実横加速度検出部115、アクセルペダルセンサ116、およびブレーキペダルセンサ117を備える。
【0050】
車速検出部111は、例えば車両が備えるトランスミッションの内部に取り付けたスピードセンサ等のセンサ(図示せず)の出力に基づいて、この車両の速度(車速)を検出し、ECU130へ車速情報(単に「車速」とも言う)を出力する。
操舵角検出部112は、例えば第1のステアリング装置11が備えるモータ部に取り付けられたレゾルバ等のセンサ(図示せず)の出力に基づいて操舵角を検出し、ECU130へ操舵角情報(単に「操舵角」とも言う)を出力する。
【0051】
車高検出部113は、車両100(
図1)のシャーシと地面との距離をレーザ変位計により測定する方法、あるいは車両100(
図1)の懸架装置12(
図1)における図示外のアッパーアームまたはロアアームの角度を角度センサにより検出する方法等により、第2のステアリング装置150により操舵される各前輪9F(
図1)の車高を検出する。そして、車高検出部113は、検出した車高を車高情報(単に「車高」とも言う)としてECU130へ出力する。
【0052】
実ヨーレート検出部114は、例えば車両100(
図1)に取り付けられたジャイロセンサ等のセンサの出力に基づいて、実ヨーレートを検出し、ECU130へ実ヨーレート情報(単に「実ヨーレート」とも言う)を出力する。
実横加速度検出部115は、例えば車両100(
図1)に取り付けられたジャイロセンサ等のセンサの出力に基づいて、実横加速度を検出し、ECU130へ実横加速度情報(単に「実横加速度」とも言う)を出力する。
【0053】
アクセルペダルセンサ116は、運転者によるアクセルペダル210への入力を検出し、検出した値をアクセル指令値としてECU130へ出力する。
ブレーキペダルセンサ117は、運転者によるブレーキペダル220への入力を検出し、検出した値をブレーキ指令値としてECU130へ出力する。
ECU130は、これらの車両情報を第2のステアリング装置150の制御部150bに出力する。
【0054】
<第2のステアリング装置150の制御部150b>
第2のステアリング装置150の制御部150bは、ECU130から、車速情報、操舵角情報、車高情報、実ヨーレート情報、実横加速度情報、アクセル指令値、およびブレーキ指令値を含む車両情報を取得し、取得した車両情報に基づいて、操舵制御部151が右輪のアクチュエータ制御装置31R、左輪のアクチュエータ制御装置31Lを制御することで、右輪ハブユニット1R、および左輪ハブユニット1Lが備えるモータ26を駆動し、左右の前輪である左右輪を独立して操舵可能である。
【0055】
制御部150bにおいて、前記車両情報である操舵角等の各情報と前記モータ26を駆動する指令値との関係は、例えばマップまたは演算式等を用いて制御規則として定められており、その制御規則を用いて制御を行う。
制御部150bは、例えば専用のECUとして設けられるが、メインのECU130の一部として設けてもよい。
【0056】
図10に示すように、主電源Bmおよび副電源Bsは、第2のステアリング装置150に電力を供給するものである。主電源Bmとして、例えば、このステアリングシステム101(
図1)を搭載する車両100(
図1)のバッテリ(例えば12Vバッテリ)を適用し得る。副電源Bsは、右輪用バックアップ電源Bsaと左輪用バックアップ電源Bsbとを有する。各バックアップ電源Bsa,Bsbとして、一般的に二次電池を使用するが、キャパシタまたはコンデンサを適用してもよい。前記コンデンサのうち、特に、電解コンデンサまたは電気二重層コンデンサ等を用いると、体積当たりの容量が比較的大きくて好ましい。
【0057】
右輪のアクチュエータ制御装置31Rは左輪の異常検出部221を備え、左輪のアクチュエータ制御装置31Lは右輪の異常検出部222を備える。左右輪の異常検出部221,222における一方の異常検出部221(222)は、対応する電力系統223R(223L)の異常を検出したときその異常検出情報を、前記左右輪の異常検出部221,222における他方の異常検出部222(221)に互いに与える相互監視機能を有する。
【0058】
主電源Bmから右輪のアクチュエータ制御装置31Rに供給される電力系統223Rに異常が発生すると、その異常が左輪の異常検出部221で検出され、同左輪の異常検出部221はその異常検出情報を右輪の異常検出部222に与える。異常検出情報が与えられた左輪のアクチュエータ制御装置31Lは、異常がある電力系統223Rに代えて、右輪用バックアップ電源Bsaから右輪のアクチュエータ制御装置31Rに電力を供給する。
主電源Bmから左輪のアクチュエータ制御装置31Lに供給される電力系統223Lに異常が発生すると、その異常が右輪の異常検出部222で検出され、同右輪の異常検出部222はその異常検出情報を左輪の異常検出部221に与える。異常検出情報が与えられた右輪のアクチュエータ制御装置31Rは、異常がある電力系統223Lに代えて、左輪用バックアップ電源Bsbから左輪のアクチュエータ制御装置31Lに電力を供給する。
【0059】
各電力系統223R,223Lの異常とは、例えば、主電源Bmから対応するアクチュエータ制御装置31R(31L)に接続された電気ケーブルの断線、またはこの電気ケーブルに過電流が流れること等である。各異常検出部221,222は例えば電流センサ等を備え、モータ26を駆動する指令値に対して、所定の電流よりも閾値以上の電流が検出されるとき、または電流が検出されないとき、電力系統223R,223Lに異常ありと検出する。
【0060】
左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、いずれか一方の異常検出部221(222)から他方の異常検出部222(221)に異常検出情報が与えられると、左右輪のトー角を定められた基準値に動作させるように各操舵用アクチュエータ5(
図2)を制御した後にこの制御を停止する。前記定められた基準値は、例えば、トー角が微小な角度を取るトーインまたはトー角が0度となるトー角初期状態である。なお各バックアップ電源Bsa,Bsbは、第2のステアリング装置150の構成要素の一部として設けられてもよい。
【0061】
<フローチャート>
図11は、電力系統の異常発生時の処理を段階的に示すフローチャートである。
図9、
図10等も適宜参照しつつ説明する。車両走行中、左右輪の異常検出部221,222は、各電力系統223R,223Lに異常があるか否かを検出する(ステップS1)。各電力系統223R,223Lに異常がないとき(ステップS1:No)、ステップS1に戻る。この場合、主電源Bmから左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rにそれぞれ電力を供給する。いずれかの電力系統223R,223Lに異常が発生すると(ステップS1:Yes)、異常検出情報が与えられたアクチュエータ制御装置31R,31Lは、主電源Bmから対応するバックアップ電源Bsa,Bsbに切替える(ステップS2)。
【0062】
次に、左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、左右の前輪を左右輪ハブユニット1L,1Rによって左右対称にトー角初期状態である0度またはトーインに操舵させる(ステップS3)。制御部150bは、各操舵用アクチュエータ5(
図2)の補正操舵量つまり各モータ26に流す電流を演算した後(ステップS4)、各操舵用アクチュエータ5(
図2)を駆動する(ステップS5)。制御部150bは、左右輪舵角センサS
L,S
Rで検出される操舵角からトー角初期状態であることを判定すると(ステップS6:Yes)、本処理を終了する。トー角初期状態まで操舵していないとき(ステップS6:No)、ステップS5に戻る。
【0063】
前述の電力系統の異常発生時の処理に加えて、操舵制御部151は、
図12に示すように左右輪を独立して操舵する制御を行う。この
図12に示す制御と
図11等に示す制御とを、運転者の操作または車両状況等に応じて切替えてもよいし、平行して実行してもよい。
図12に示すように、操舵制御部151は、規範横加速度計算部152、右輪タイヤ角度計算部153、左輪タイヤ角度計算部154、右輪路面摩擦係数計算部155、目標ヨーレート計算部156、左輪路面摩擦係数計算部157、目標ヨーレート補正部158、目標左右輪タイヤ角度計算部159、右輪指令値計算部160、および左輪指令値計算部161を備える。
【0064】
右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154は、所定の周期で、ECU130から操舵角情報および車高情報を取得する。右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154は、取得した操舵角情報および車高情報に基づいて、第2のステアリング装置150(
図9)が操舵を行うタイヤの現在の角度を算出し、算出したタイヤ角度情報を規範横加速度計算部152に出力する。
【0065】
規範横加速度計算部152は、ECU130から取得した車速情報および前記タイヤ角度情報に基づいて、規範横加速度の計算を行う。規範横加速度計算部152は、算出した規範横加速度を規範横加速度情報として右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157に出力する。
【0066】
図13は路面摩擦係数を算出するためのマップを表す図であり、このマップは、
図12に示す右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157に記憶されている。
右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、ECU130から取得する実横加速度情報および規範横加速度計算部152から入力される規範横加速度情報に基づいて、路面摩擦係数の計算を行う。具体的には、右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、規範横加速度計算部152から規範横加速度情報が入力されると、右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154からタイヤ角度情報を取得する。右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、前記マップ(
図13)に基づいて、実横加速度/規範横加速度とタイヤ角度とから、路面摩擦係数を算出する。右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、算出した右輪の路面摩擦係数である右輪路面摩擦係数情報と、左輪の路面摩擦係数である左輪路面摩擦係数情報とを、目標ヨーレート補正部158に出力する。
【0067】
目標ヨーレート計算部156は、ECU130から所定の周期で取得する車速情報および操舵角情報に基づいて、目標ヨーレートを計算し、算出した目標ヨーレートを目標ヨーレート情報として目標ヨーレート補正部158に出力する。
目標ヨーレート補正部158は、右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157から、右輪路面摩擦係数情報および左輪路面摩擦係数情報を取得し、目標ヨーレート計算部156から目標ヨーレート情報を取得し、右輪路面摩擦係数情報および左輪路面摩擦係数情報で表される路面摩擦係数に応じて目標ヨーレートの補正を行う。目標ヨーレート補正部158は、補正後の目標ヨーレートを補正後ヨーレート情報として目標左右輪タイヤ角度計算部159へ出力する。
【0068】
目標左右輪タイヤ角度計算部159は、目標ヨーレート補正部158から補正後ヨーレート情報と、ECU130から実ヨーレート情報、アクセル指令値およびブレーキ指令値と、右輪路面摩擦係数計算部155から右輪路面摩擦係数情報、左輪路面摩擦係数計算部157から左輪路面摩擦係数情報を取得し、左右輪のタイヤ角度の目標値である目標左右輪タイヤ角度を計算する。具体的には、目標左右輪タイヤ角度計算部159は、下記式(1)に基づいて、左右それぞれのタイヤの目標の角度を算出する。
【0069】
【0070】
式(1)において、θyは実ヨーレート情報で表される実際の車両のヨーレート量、XAはアクセル指令値、XBはブレーキ指令値、μRは右輪路面摩擦係数、μLは左輪路面摩擦係数、θtR1は右輪の目標タイヤ角度、θtL1は左輪の目標タイヤ角度である。
目標左右輪タイヤ角度計算部159は、計算した左右輪それぞれの目標タイヤ角度を目標タイヤ角度情報として、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161へ出力する。
【0071】
右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161は、前記各目標タイヤ角度情報をそれぞれ取得し、右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154から、現在のタイヤ角度を表すタイヤ角度情報を取得し、目標タイヤ角度情報で表される目標タイヤ角度と、現在のタイヤ角度とを比較する。右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161は、目標タイヤ角度と現在のタイヤ角度との偏差量に応じて、右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lのそれぞれを操舵させる量を表す右輪操舵量情報および左輪操舵量情報を生成する。右輪指令値計算部160は、生成した右輪操舵量情報(電流指令信号)を左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rへ出力する。左輪指令値計算部161は、生成した左輪操舵量情報(電流指令信号)を左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rへ出力する。
【0072】
各アクチュエータ制御装置31R,31Lは図示外のインバータを備える。右輪のアクチュエータ制御装置31Rおよび左輪のアクチュエータ制御装置31Lは、前記右輪操舵量情報および前記左輪操舵量情報に基づいて、各操舵用アクチュエータのモータ26への電流を制御する。
具体的には、
図9および
図12に示すように、右輪のアクチュエータ制御装置31Rおよび左輪のアクチュエータ制御装置31Lは、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161から右輪操舵量情報および左輪操舵量情報が入力されると、現在の右輪ハブユニット1R、および左輪ハブユニット1Lの操舵角を表す各モータ26の位置情報を取得し、右輪操舵量情報および左輪操舵量情報に基づいてモータ26の目標位置を決定し、各モータ26へ流す電流を出力し、右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lの操舵角を修正する。右輪舵角センサS
Rおよび左輪舵角センサS
Lより、操舵制御部151に、右輪ハブユニット1Rおよび左輪ハブユニット1Lの操舵角情報を出力する。
【0073】
図4に示すように、各アクチュエータ制御装置31R,31Lは、操舵制御部151から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ制御装置31R,31Lは、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。アクチュエータ制御装置31R,31Lは、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、車速等に応じてトー角の量を調整し得る。
【0074】
<作用効果>
以上説明したステアリングシステム101によれば、第2のステアリング装置150を設けることにより、ハンドルの操作によらず操舵を補正することが可能となる。すなわち、従来の車両では、車両が僅かにふらついた場合に、運転者がふらつきを補正するために修正操舵を行う必要があったが、第2のステアリング装置150を備える車両では、運転者がハンドルの操作を行わなくても、車両のふらつきを補正することが可能となる。そのため、車両の直進安定性が向上する。
コーナリング時においては、車両情報に応じて運転者のハンドル操作を、より効率的に車両が曲がれるよう、左右輪各々の操舵量を補正することで理想のラインでコーナリングが可能となり、運転者のハンドル操作負荷を軽減できるため、車両の操縦安定性を向上することができる。
【0075】
左右輪のアクチュエータ制御装置31L,31Rは、相互監視機能を有する左右輪の異常検出部221,222を備えるため、主電源Bmから一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)に供給される電力系統223R(223L)に異常が発生した場合、一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)における一方の異常検出部221(222)は、異常発生情報を他方の異常検出部222(221)に与える。前記異常発生情報が与えられた他方の異常検出部222(221)を備える他方のアクチュエータ制御装置31L(31R)は、異常がある電力系統223R(223L)に代えて、副電源Bsから一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)に電力を供給する。その後、左右輪のトー角をそれぞれ定められた基準値に動作させ、モータ制御を停止する。左右輪のトー角を定められた基準値に戻し、台形ねじ等の滑りねじを用いた送りねじ機構25bにより路面からの逆入力を防止すれば、制御を停止した状態でハブユニット1のふらつきは防止可能であり、運転者のハンドル操作によって車両を確実に停止できる状態まで移動させて、安全を確保することができる。
【0076】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0077】
[第2の実施形態]
この発明の第2の実施形態を
図14ないし
図16と共に説明する。
図14に示すように、第2の実施形態に係るステアリングシステム101は、第1のステアリング装置11と第2のステアリング装置150とが互いに異なる車輪を操舵する点で、第1の実施形態とは異なる。すなわち、このステアリングシステム101は、左右の前輪9F,9Fの操舵を行い、第2のステアリング装置150が左右の後輪9R,9Rの操舵を行う。第2のステアリング装置150の機構部150aは、後輪9Rのタイヤハウジング105内に設置されている。
【0078】
図15および
図16に示すように、制御部150bにおける操舵制御部151は、ECU130から車両情報として、車速、操舵角、実ヨーレート、実横加速度、アクセル指令値、およびブレーキ指令値を取得し、右輪のアクチュエータ制御装置31Rおよび左輪のアクチュエータ制御装置31Lの制御を行う。
そして、操舵制御部151の目標左右輪タイヤ角度計算部159は、下記式(2)に基づいて、左右それぞれのタイヤの目標の角度を算出する。
【0079】
【0080】
式(2)において、θHRは右前輪の操舵角、θHLは左前輪の操舵角、μHRは右前輪と路面の摩擦係数、μHLは左前輪と路面の摩擦係数を示す。その他の項は式(1)で説明した内容と同様である。
第1のステアリング装置11と第2のステアリング装置150とが互いに異なる車輪を操舵する場合であっても、第2のステアリング装置150は、第1のステアリング装置11の操舵角および車速に応じて、操舵させることができ、車両の走行安定性を向上させることが可能となる。
【0081】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、主電源Bm(
図10)から一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)に供給される電力系統に異常が発生した場合、一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)における一方の異常検出部221(222)は、異常発生情報を他方の異常検出部222(221)に与える。前記異常発生情報が与えられた他方の異常検出部222(221)を備える他方のアクチュエータ制御装置31L(31R)は、異常がある電力系統に代えて、副電源Bs(
図10)から一方のアクチュエータ制御装置31R(31L)に電力を供給する。その後、左右輪のトー角をそれぞれ定められた基準値に動作させ、モータ制御を停止する。左右輪のトー角を定められた基準値に戻し、台形ねじ等の滑りねじを用いた送りねじ機構25b(
図3)により路面からの逆入力を防止すれば、制御を停止した状態でハブユニットのふらつきは防止可能であり、運転者のハンドル操作によって車両を確実に停止できる状態まで移動させて、安全を確保することができる。
【0082】
[第3の実施形態]
この発明の第3の実施形態を
図17および
図18と共に説明する。
第3の実施形態に係るステアリングシステム101は、二つの第2のステアリング装置150
1、150
2を備えている点で、第1の実施形態とは異なる。
一方の第2のステアリング装置150
1は、第1の実施形態の第2のステアリング装置150と同様の動作を行い、他方の第2のステアリング装置150
2は、第2の実施形態の第2のステアリング装置150と同様の動作を行う。
【0083】
このステアリングシステム101によれば、複数(この例では二つ)の第2のステアリング装置150
1、150
2を備えていることにより、より複雑に四輪を独立して操舵することが可能となり、車両100の走行安定性の向上を図ることが可能となる。
また、第1,第2の実施形態と同様に、主電源Bm(
図10)から一方のアクチュエータ制御装置に供給される電力系統に異常が発生した場合、一方のアクチュエータ制御装置における一方の異常検出部は、異常発生情報を他方の異常検出部に与える。前記異常発生情報が与えられた他方の異常検出部を備える他方のアクチュエータ制御装置は、異常がある電力系統に代えて、副電源から一方のアクチュエータ制御装置に電力を供給する。その後、左右輪のトー角をそれぞれ定められた基準値に動作させ、モータ制御を停止する。左右輪のトー角を定められた基準値に戻し、台形ねじ等の滑りねじを用いた送りねじ機構25b(
図3)により路面からの逆入力を防止すれば、制御を停止した状態でハブユニットのふらつきは防止可能であり、運転者のハンドル操作によって車両を確実に停止できる状態まで移動させて、安全を確保することができる。
【0084】
各実施形態では、電力系統に異常が発生したとき、左右輪のトー角をそれぞれ定められた基準値に動作させモータ制御を停止する制御を行っているが、この制御に限定されるものではない。例えば、左右輪のアクチュエータ制御装置は、一方の異常検出部から他方の異常検出部に異常検出情報が与えられると、副電源から、一方の異常検出部を備えるアクチュエータ制御装置に電力を供給して操舵用アクチュエータの制御を継続してもよい。
この場合、いずれかの電力系統に異常が発生しても、第2のステアリング装置は、左右輪をそれぞれ個別に操舵させ、左右輪各々のトー角を個別に且つ継続して調整することが可能である。
【0085】
前記各実施形態は、操舵指令装置200がハンドルである場合につき説明したが、ハンドル以外の手動の操舵指令装置、例えばジョイスティックであってもよく、また例えば
図9に示すような自動の操舵指令装置200Aであってもよい。この自動の操舵指令装置200Aは、車両周辺状況検出手段230から車両周辺状況等を認識し、操舵指令を自動生成する装置である。車両周辺状況検出手段230は、例えば、カメラまたはミリ波のレーダ等のセンサ類である。
【0086】
自動の操舵指令装置200Aは、例えば道路上の白線および障害物を認識し、操舵指令を生成して出力する。自動の操舵指令装置200Aは、車両の自動運転を行う装置の一部であっても、手動運転による操舵の支援を行う装置であってもよい。このような自動で操舵指令を生成する操舵指令装置200Aを備えた車両においても、第2のステアリング装置150を備えることで、トー角制御等の第1のステアリング装置11では行えない動作が行え、また車両の走行方向の主な操舵を第1のステアリング装置11で行い、その補正を第2のステアリング装置150で行うようにすることもでき、操舵量指令に対して車両の向きの補正を可能とし、車両の走行安定性を維持することが可能となる。
【0087】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1…操舵機能付ハブユニット、2…ハブユニット本体、3…ユニット支持部材、5…操舵用アクチュエータ、6…ナックル(足回りフレーム部品)、9F…前輪、9R…後輪、11…第1のステアリング装置、12…懸架装置、15…ハブベアリング、31L,31R…左右輪のアクチュエータ制御装置、100…車両、101…ステアリングシステム、110…車両情報検出部、150…第2のステアリング装置、200…操舵指令装置、221…左輪の異常検出部、222…右輪の異常検出部、223R,223L…電力系統、Bm…主電源、Bs…副電源