(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】導電性織物、導電性部材および導電性織物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 15/533 20210101AFI20230727BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20230727BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230727BHJP
H01B 5/12 20060101ALI20230727BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
D03D15/533
D03D15/20 100
D03D1/00 Z
H01B5/12
H01B13/00 501Z
(21)【出願番号】P 2019049231
(22)【出願日】2019-03-16
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018067141
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106817
【氏名又は名称】鷹野 みふね
(72)【発明者】
【氏名】清水 義弘
(72)【発明者】
【氏名】安久 寛聡
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213278(JP,A)
【文献】特開2016-213265(JP,A)
【文献】特開2018-087392(JP,A)
【文献】特開2017-106134(JP,A)
【文献】特開2010-261116(JP,A)
【文献】特開2016-031269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00 - 27/18
H01B 5/12
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の緯糸と複数の経糸とからなり、
少なくとも2本の隣接する導電糸から構成される導電部を有する導電性織物であって、前記緯糸および前記経糸の一方が非導電糸からなり、前記緯糸および前記経糸の他方が互いに平行である導電糸と非導電糸とからなり、
前記導電糸が繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有し、前記導電糸と平行である非導電糸が収縮加工糸であり、かつ、前記導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返す織組織からなる導電部を有する、導電性織物。
【請求項2】
前記収縮加工糸の熱収縮率の、前記導電糸の熱収縮率に対する割合が、0.25~1.75である、請求項1記載の導電性織物。
【請求項3】
前記収縮加工糸の熱収縮率の、前記導電糸の熱収縮率に対する割合の上限が1.5である、請求項1記載の導電性織物。
【請求項4】
導電糸がポリエステル繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有する、請求項1記載の導電性織物。
【請求項5】
前記導電糸と平行である非導電糸の熱収縮率が1.5%以下である、請求項1記載の導電性織物。
【請求項6】
前記導電性織物が綾織物である、請求項1記載の導電性織物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の導電性織物と支持体とから構成され、少なくとも1の直線状屈曲部を有しており、前記直線状屈曲部を跨いで導電性を備える導電性部材。
【請求項8】
複数の緯糸と複数の経糸とからなり、
少なくとも2本の隣接する導電糸から構成される導電部を有する導電性織物であって、
前記導電糸が繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有する導電性織物の製造方法において、
前記緯糸および前記経糸の一方に非導電糸を用い、前記緯糸および前記経糸の他方に導電糸と収縮加工糸からなる非導電糸とを用い、かつ、前記導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返して製織して導電部を形成する工程を含む、導電性織物の製造方法。
【請求項9】
前記収縮加工糸の熱収縮率が、前記導電糸の熱収縮率に対して0.25~1.75である、請求項8記載の導電性織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性織物、導電性部材および導電性織物の製造方法に関し、詳しくは、直線状屈曲部を跨いで導電性を備える導電性部材に用いられ、繰り返し屈曲された場合でも良好な導電性を有する導電性織物、それを用いた導電性部材および導電性織物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、内部に用いられる導電性部材についても小型化、薄型化が求められている。更にノートブックパソコンやタブレット、携帯ゲーム機などにおいては折り畳み式の構造を有する機器も多い。この場合、折り畳み構造に対応した導電性部材が用いられるが、繰り返し屈曲された場合には導電性を確保することが困難であった。特に機器が小型化、薄型化することにより、屈曲の曲げ半径が小さくなるほど導電性の確保が困難となる。
【0003】
従来、屈曲部を跨いで導電性を備える機器にはフレキシブルプリント基板(FPC)が用いられてきた。しかしながら、曲げ半径が0.5mm以下で鋭角に屈曲される場合には基材の樹脂フィルムが破断してしまうという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1にはフレキシブルプリント基板の屈曲部の内側に、屈曲部の曲率半径が小さくなることを規制する規制フィルムを設けることが記載されている。この方法では部分的にフレキシブルプリント基板の厚みが増大し、機器の小型化、薄型化の妨げとなる。しかも屈曲半径が小さくなることを規制するため、屈曲した際に屈曲部まわりが嵩張るという問題があった。
【0005】
そのため、例えば、特許文献2には、曲げ半径が小さい場合の繰り返し屈曲に耐える耐久性の高い導電性部材として、直線状屈曲部と導電性織物の織糸との成す角度を特定範囲にした部材が提案されている。しかしながら、さらに屈曲耐久性に優れる導電性部材が求められている。
【0006】
また、屈曲耐久性を向上させるために、導電糸と非導電糸を製織して線状回路を有する導電性織物を用いることも考えられるが、その場合、糸同士の収縮差に起因するシワやカールの発生を引き起こすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-027221号公報
【文献】特開2017-056621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の問題を解決するものであり、屈曲耐久性、導電性、形態安定性に優れる導電性織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の緯糸と複数の経糸とからなり、少なくとも2本の隣接する導電糸から構成される導電部を有する導電性織物であって、前記緯糸および前記経糸の一方が非導電糸からなり、前記緯糸および前記経糸の他方が互いに平行である導電糸と非導電糸とからなり、前記導電糸が繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有し、前記導電糸と平行である非導電糸が収縮加工糸であり、かつ、前記導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返す織組織からなる導電部を有する、導電性織物に関する。
【0010】
また、前記収縮加工糸の熱収縮率の、前記導電糸の熱収縮率に対する割合が、0.25~1.75であることが好ましい。
また、前記収縮加工糸の熱収縮率の、前記導電糸の熱収縮率に対する割合の上限が1.5であることが好ましい。
【0011】
また、導電糸がポリエステル繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有することが好ましい。
また、前記導電糸と平行である非導電糸の熱収縮率が1.5%以下であることが好ましい。
【0012】
また、前記導電性織物が綾織物であることが好ましい。
【0013】
また、もう一つの本発明は、前記導電性織物と支持体とから構成され、少なくとも1の直線状屈曲部を有しており、前記直線状屈曲部を跨いで導電性を備える導電性部材に関する。
【0014】
また、もう一つの本発明は、複数の緯糸と複数の経糸とからなり、少なくとも2本の隣接する導電糸から構成される導電部を有する導電性織物であって、前記導電糸が繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有する導電性織物の製造方法において、
前記緯糸および前記経糸の一方に非導電糸を用い、前記緯糸および前記経糸の他方に導電糸と収縮加工糸からなる非導電糸とを用い、かつ、前記導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返して製織して導電部を形成する工程を含む、導電性織物の製造方法に関する。
また、前記収縮加工糸の熱収縮率が、前記導電糸の熱収縮率に対して0.25~1.75であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈曲耐久性、導電性、形態安定性に優れる導電性織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態の一例である導電性織物を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の導電性織物は、複数の緯糸と、複数の経糸とからなり、導電部を有し、緯糸および経糸の一方が非導電糸からなり、かつ、緯糸および経糸の他方が非導電糸および導電糸からなる。
すなわち、緯糸が非導電糸からなり経糸が非導電糸及び導電糸からなる場合と、経糸が非導電糸からなり緯糸が非導電糸及び導電糸からなる場合とが挙げられる。
【0018】
導電糸は、繊維からなる糸の表面を金属被膜が覆っている構造を有する。繊維としては綿、麻などの天然繊維、キュプラ、レーヨンなどの再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維が挙げられ、特に限定されない。強度、汎用性の点で合成繊維が好ましく、なかでも、加熱後の形態安定性の高いポリエステルがより好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。
【0019】
糸の形態としてはフィラメント糸であることが好ましく、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれであってもよい。好ましくはマルチフィラメント糸である。
【0020】
導電糸の総繊度は、電子機器の小型化に伴い、内部に用いられる導電性部材についても小型化、薄型化が求められるため、110dtex以下であることが好ましく、50dtex以下であればより好ましい。織物の強度を向上させるためには、22dtex以上であることが好ましく、33dtex以上であればより好ましい。また、屈曲耐久性の観点から、フィラメント数は5本以上であることが好ましく、10本以上であることがより好ましい。導電糸の単糸繊度は、形態安定性の観点から、好ましくは7dtex以下である。
【0021】
金属被膜は金、銀、銅、ニッケル、錫などを主成分とする金属からなることが好ましい。特に導電性とコストのバランスを考慮すると銀であることが好ましい。繊維からなる糸に金属被膜を形成して金属被覆糸とする方法としては、電解メッキ、無電解メッキ、蒸着などが挙げられる。なかでも、生産性が良く、均一な被膜を形成しやすく安定した導電性や環境耐久性が得やすいことから、無電解メッキであることが好ましい。
金属被膜の厚さは0.075~0.50μmであることが好ましく、0.10~0.35μmであることがより好ましく、0.15~0.20μmであることが最も好ましい。金属被膜の厚さがこの範囲内であれば、被膜がひび割れしにくく屈曲に追従しやすい。
【0022】
金属被膜を形成する工程、または、その後の乾燥工程で、導電糸は加熱されて熱収縮する。
【0023】
導電糸の導電性の指標となる抵抗値は500Ω/m以下であることが好ましい。抵抗値がこの範囲内であれば、高い導電性を得ることができ、回路用の導電性織物として優れた性能が得られる。より好ましい抵抗値の範囲は350Ω/m以下である。
【0024】
非導電糸を構成する繊維素材としては、綿、麻などの天然繊維、キュプラ、レーヨンなどの化学繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の合成繊維が挙げられ、特に限定されない。強度、汎用性の点で合成繊維が好ましく、後述する収縮加工処理のあとでも形態安定性の高いポリエステルがより好ましい。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。
【0025】
糸の形態としてはフィラメント糸であることが好ましく、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸のいずれであってもよい。好ましくはマルチフィラメント糸である。
【0026】
非導電糸の総繊度は、導電糸の総繊度と同等であると好ましい。すなわち、110dtex以下であることが好ましく、50dtex以下であればより好ましい。織物の強度を向上させるためには、22dtex以上であることが好ましく、33dtex以上であればより好ましい。非導電糸のフィラメント数についても、導電糸と同等であると好ましく、すなわち、5本以上であることが好ましく、10本以上であることがより好ましい。非導電糸の単糸繊度は、形態安定性の観点から、好ましくは7dtex以下である。
【0027】
本発明における非導電糸には、導電糸と平行であるものと、導電糸と直交するものとがある。経糸に非導電糸のみを用い、緯糸に導電糸と非導電糸とを用いる場合は、経糸に用いられる非導電糸が「導電糸と直交する非導電糸」であり、緯糸に用いられる非導電糸が「導電糸と平行である非導電糸」である。緯糸に非導電糸のみを用い、経糸に導電糸と非導電糸とを用いる場合は、緯糸に用いられる非導電糸が「導電糸と直交する非導電糸」であり、経糸に用いられる非導電糸が「導電糸と平行である非導電糸」である。
【0028】
導電糸と平行である非導電糸には収縮加工糸が用いられる。詳細には、導電糸と平行である非導電糸の熱収縮率と導電糸の熱収縮率との比率が一定範囲内にあること、より詳細には、導電糸の熱収縮率(Ds)に対する前記導電糸と平行である非導電糸の熱収縮率(Ns)の比率(Ns/Ds)が0.25~1.75の範囲であると好ましい。さらに、前記比率(Ns/Ds)の下限について言えば、0.5以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.95以上が最も好ましい。上限について言えば、1.5以下がより好ましく、1.15以下がさらに好ましく、1.05以下が最も好ましい。
【0029】
本発明における熱収縮率は、100℃の熱水に30分浸漬して測定した収縮率である。具体的には、試料に初荷重をかけ、一定の試料長を測定して確定した後、無荷重の状態で100℃の熱水中に30分間浸せきして加熱処理した後、取り出して水分を除去して乾燥させ、再び前記初荷重をかけて加熱処理前に確定した試料長を測定し、次式(数式1)によって算出することにより本発明における熱収縮率を得ることができる。さらに具体的には、本発明における熱収縮率は、合成繊維及び再生繊維の糸については、測定をJIS-L-1013.8.18.1(b)に準拠して行い、初荷重を「3.2mN×表示テックス数」として求めることができる。天然繊維については、測定をJIS-L-1095.9.24.3-C法に準拠して行い、初荷重をJIS-L-1095.6.1に従って定めることにより求めることができる。
【0030】
(数式1)
熱収縮率(%)={(試験前の長さmm-試験後の長さmm)/試験前の長さmm}×100
【0031】
本発明で用いる導電糸は、上述したように金属被膜形成工程またはその後の乾燥工程で高熱がかかるため、収縮加工糸と同様に、既に熱収縮した状態である。したがって、導電糸の熱収縮率は比較的低い。しかしながら、非導電糸となる一般的な織物に用いられる糸は、通常、高熱処理工程を経ていない。したがって、一般的な非導電糸の熱収縮率は比較的高い。そのため、一般的な非導電糸と導電糸とを用い製織すると、得られた導電性織物に対する熱セット処理時や精練時における収縮率に差が生じることで織物にゆがみが生じ、シワやカールが生じたり、形態安定性が悪くなったりする。
【0032】
なお、導電糸と平行である非導電糸(収縮加工糸)および導電糸の熱収縮率は、形態安定性の観点から、3%以下であると好ましく、1.5%以下であるとより好ましい。
本発明では、導電糸と平行である非導電糸に収縮加工糸を用い、熱収縮率を導電糸とほぼ同等にすることにより、糸の伸度や破断点など基本的な物性も近似させることができる。
【0033】
なお、導電糸と直交する非導電糸は収縮加工糸であってもなくてもよいが、目曲がり抑制の観点から、その熱収縮率が7%以下であると好ましく、5.5%以下であるとより好ましい。
【0034】
本発明で用いる収縮加工糸は、高熱、例えば100℃以上、より好ましくは110~130℃の環境下にて糸を熱処理することにより製造される。具体的には、スチーム下で温度115~125℃、処理時間30~50分にて、収縮加工処理を行うことが望ましい。好ましくは、加湿加圧条件下で加熱処理(湿熱処理)を行うことが望ましい。さらに具体的には、真空スチームセット機(真空スチーマー)を用いて湿熱処理を行う。
本発明の収縮加工糸は、製織前に予め十分に収縮させるため、ほぼ収縮しきった状態となっている。よって、製織後の工程で導電性織物全体に対する熱セット処理等により熱が加わっても、織物の形態を著しく変化させるような収縮(シワやカールなど)を起こすことがない。
【0035】
非導電糸(導電糸と平行である非導電糸及び導電糸と直交する非導電糸の両方を含む)の糸径は、導電糸の糸径との比率が一定範囲内にあることが好ましい。詳細には、導電糸の糸径(Dr)に対する非導電糸の糸径(Nr)の比率(Nr/Dr)が0.9~1.1であることが好ましく、0.95~1.05であることがより好ましい。糸径が同等であれば、導電部、非導電部ともに平滑な導電性織物が得られる。
【0036】
本発明では、緯糸および経糸の一方に非導電糸を、緯糸および経糸の他方に非導電糸および導電糸を用い、導電性織物が製織される。緯糸および経糸が共に非導電糸からなる部分が非導電部となり、緯糸および経糸のいずれかが導電糸からなる部分が導電部となる。
【0037】
本発明の導電性織物における導電部は、少なくとも2本の隣接する導電糸から構成され、経方向および緯方向の両方向に導電させることが可能な部分である。本発明の導電性織物はこの導電部において通電し、他回路との電気的な接続を可能とする。電気的接続手段の具体例としては金属の半田付け、導電テープによる接着、金属繊維の縫製等が挙げられる。
【0038】
導電部を構成する互いに隣接する導電糸の本数は、2本以上であれば特に制限されず、導電性織物の用途や、電気的接続手段の種類、接続部の面積の大きさ等の事情により、適宜定めることができる。好ましくは、導電部を構成する互いに隣接する導電糸の本数は6本以上、より好ましくは10本以上、さらに好ましくは50本以上である。
【0039】
本発明の導電部は、導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返す織組織からなる。具体的には、綾織、朱子織、それらの変化織が挙げられる。導電性、形態安定性のバランスを考慮し、綾織が好ましい。
【0040】
経糸及び緯糸ともに非導電糸からなる非導電部の織組織は特に制限されないが、導電部と同じ織組織とすることが好ましい。
【0041】
なお、直交する非導電糸の表面側とは、導電性織物の表面側であり、導電性部材として用いる際に、電気的接続手段との接続部を設ける面をいう。一方、非導電糸の裏面側とは、表面側の反対側の面をいう。
【0042】
上述のような組織にすることで、隣り合う導電糸の間で接点が生じるため、経方向および緯方向の両方向に導電させることが可能になり、導電性に優れる。また、糸そのものが導電性を有しているため、屈曲を繰り返しても耐久性に優れている。
【0043】
導電糸が、直交する非導電糸の表面側を通過する本数は2本以上であればよいが、より良好な導電性を得るためには、前記導電糸が3本以上の直交する非導電糸の表面側を通過することが好ましく、4本以上がより好ましい。
また、導電糸が、直交する非導電糸の裏面側を通過する本数は1本以上であればよいが、形態安定性、織物の強度をさらに向上させるには2本以上が好ましい。
【0044】
導電糸が2~7本の直交する非導電糸の表面側を通過した後、2~7本の直交する非導電糸の裏面側を通過することが、形態安定性、織物の強度向上の観点から、特に好ましい。
【0045】
図1に本発明の実施形態の一例である導電性織物を示している。本発明の導電性織物1は、
図1及び
図2に示すように、導電糸2および非導電糸3からなり、導電部4および非導電部5が順に並ぶように構成している。
図1の四角囲み部分を拡大して、
図2に示している。この例では、緯糸に導電糸2および非導電糸3’を用い、経糸に非導電糸3を用いた2/2綾織組織の織物としている。なお、織組織において「2/2」との表現は「(導電糸がその裏面側を通過する、直交する非導電糸の本数)/(導電糸がその表面側を通過する、直交する非導電糸の本数)を表す。
【0046】
導電部における導電糸の表面露出面積割合、すなわち、導電糸が導電性織物の導電部の表面に現れている面積の、該導電部全体の表面面積に対する割合は、導電性の面から、40%以上であると好ましい。また、経糸、緯糸の交点が適度に存在し形態安定性の低下を抑える面から、80%以下であると好ましい。なお、導電糸の表面露出面積割合は、
図2のような組織図を用い、図中の導電部4において導電糸2が表面に露出している面積の割合を幾何学的に算出することによって、求めることができる。
【0047】
ただし、この方法では糸の太さ等の条件の違いによって誤差が生じる可能性がある。
表面露出面積割合をより正確に求める方法として、顕微鏡撮影によって導電性織物表面の一部を画像化し、導電部・非導電部を画像処理することにより表面露出面積割合を算出することによって求める方法を挙げることができる。具体的には、電子顕微鏡によって導電性織物表面の撮影を行い、「ImageJ」などの画像処理ソフトウェア等を用いて表面露出面積割合を算出することができる。
【0048】
本発明の導電性織物は、上述した導電部を少なくとも1カ所、有する。例えば、
図1に示すように、織物全体のなかに複数の導電部を設けることができる。導電部の数や形状は特に制限されず、用途や電気的接続手段の種類、接続部の形状並びに面積等に応じて定めることができる。
【0049】
本発明の導電性織物全体における導電部の総面積割合は、用途や電気的接続手段、接続部の形状並びに面積等に応じて適宜定めることができるが、好ましくは導電性織物全体に対し、導電部の総面積割合は30~70%、より好ましくは40~60%である。
【0050】
導電性織物の織密度は、製織効率向上、小型化の観点から、300本/2.54cm以下であることが好ましく、200本/2.54cm以下であればより好ましい。また、導電性及び屈曲耐久性向上のため、100本/2.54cm以上であることが好ましく、150本/2.54cm以上であればより好ましい。
【0051】
本発明の製造方法は、複数の緯糸と複数の経糸とからなり、導電部を有する導電性織物の製造方法であって、前記緯糸および前記経糸の一方に非導電糸を用い、前記緯糸および前記経糸の他方に導電糸と収縮加工糸からなる非導電糸とを用い、前記導電糸が2本以上の直交する非導電糸の表面側を通過した後、1本以上の直交する非導電糸の裏面側を通過することを繰り返して製織して導電部を形成する工程を含む。
【0052】
使用する導電糸と非導電糸の物性、製織する織組織の形態等については、上述したとおりである。
【0053】
また、導電糸と平行である非導電糸(収縮加工糸)の熱収縮率と導電糸の熱収縮率との比率(上記「Ns/Ds」)が一定範囲内にあること、より詳細には、「Ns/Ds」が0.25~1.75の範囲であると好ましい。さらに、「Ns/Ds」の下限について言えば、0.5以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.95以上が最も好ましい。上限について言えば、1.5以下がより好ましく、1.15以下がさらに好ましく、1.05以下が最も好ましい。
【0054】
さらに本発明の製造方法では、上記製織工程の後、得られた織物について熱セット工程、精練工程、加熱乾燥工程(乾熱処理)を行うことが好ましい。乾熱処理は通常、ヒートセッター(テンター)と呼ばれる機械等により、一定温度に保った(乾燥した)空間に織物を通すことによって行われる。
【0055】
例えば、製織後の熱セット工程は、温度;110~190℃、より好ましくは140~160℃、時間;30~90秒、好ましくは45~75秒で行う。
精練工程は、温度;20~95℃、好ましくは60~90℃で行う。
精練後の乾熱処理工程は、温度;170~200℃、より好ましくは185~195℃、時間;30~90秒、好ましくは45~75秒で行う。
【0056】
なお、製織工程後の熱セット工程及び精練後の加熱乾燥工程は、通常の織物用糸を十分に収縮しきるほどの熱を加えるものではないため、通常の織物用糸は十分に収縮されない。最終的に得られる織物製品は、後に熱が加わると糸が収縮して、導電性に支障をきたす虞のあるシワやカールといった形態変化を起こす場合がある。しかしながら、本発明では導電糸と平行の非導電糸として予め十分に収縮させて収縮率を低くした収縮加工糸を用いている。そのため、最終的に得られる織物製品は、その後に熱が加わっても、シワやカールといった導電性織物としての性能を損なうような形態の変形を起こしにくくなっている。
【0057】
上記工程を順次施した後、後述する樹脂被膜形成工程を経て、導電性織物が得られる。その後、打ちぬき加工を行い、使用用途に応じたサイズの回路を作製する。
【0058】
導電性織物の表面には、樹脂による被膜が形成されていることが好ましい。被膜を形成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミン樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂等が挙げられ、なかでも、低吸湿性でサビ防止の観点からポリエステル樹脂がより好ましい。樹脂による被膜の厚さは特に制限されないが、好ましくは0.1~20μm程度である。
【0059】
樹脂による被膜を形成する方法としては、コーティング、ラミネート、含浸、デイップラミネート等公知の方法を使用することができる。
【0060】
導電性織物の厚さは、小型化、軽量化の観点から、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であるとさらに好ましく、0.15mm以下であると最も好ましい。一方、屈曲耐久性の観点から、導電性織物の厚さは0.10mm以上が好ましく、0.12mm以上がより好ましい。布が薄すぎると屈曲耐久性が低下する場合がある。
【0061】
導電性織物の剛軟度(カンチレバー法)は、屈曲による抵抗値の上昇を抑えることができるため、100mm以下であることが好ましく、70mm以下であることがより好ましい。
【0062】
本発明の導電性部材は、上述した導電性織物と支持体とから構成され、少なくとも1の直線状屈曲部を有しており、前記直線状屈曲部を跨いで導電性を備える部材である。具体的には、前記導電性織物の裏面側に支持体を固定して導電性部材が得られる。支持体は金属、セラミック、樹脂、紙等、導電性織物を支持できれば特に材質は限定されない。また複数の材質が組み合わされた複合体であっても良い。支持体には少なくとも1の直線状屈曲部が設けられる。直線状屈曲部は蝶番構造など機械的な構造であっても良いし、部分的に柔軟な樹脂素材を用いた構造であっても良い。また、直線状屈曲部の設置位置は特に限られないが、例えば、導電部の長手方向の直交方向に設置でき、また、複数の導電部の幅方向を横切るように設けることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における物性および評価は、以下の方法により行い、結果を表1、表2に記載した。
【0064】
<物性の測定方法>
1.総繊度
JIS L 1013 8.3.1 B法に準じて測定した。
2.糸のフィラメント数
JIS L 1013 8.4に準じて測定した。
3.単糸繊度
糸の総繊度を、糸のフィラメント数で除することで得た。
【0065】
4.織物の織密度
JIS L 1096 8.6.1 A法に準じて測定した。
5.織物の厚さ
JIS L 1096 8.4 A法に準じて測定した。
【0066】
6.糸の抵抗値
導電糸10cmを切り出し、ミリオームハイテスタ(日置電機株式会社)のクリップ型プローブにより両端をつまみ、抵抗値を測定した。5回測定し(N=5)、その平均値を求めた。
【0067】
7.糸の熱収縮率
試料について、荷重下で試料長500mmを測定して確定した後、無荷重の状態で100℃の熱水中に30分間浸せきして加熱処理した後、取り出して吸取紙又は布で水を吸い取り風乾した。再び前記荷重下で加熱処理前に確定した試料長を測定し、次式(数式2)によって熱収縮率(%)を算出し、5回の平均値を求めた。なお、荷重は、「3.2mN×表示テックス数」とした。
【0068】
(数式2)
熱収縮率(%)={(試験前の長さmm-試験後の長さmm)/試験前の長さmm}×100
【0069】
8.剛軟度
導電性織物の表面側を上向きとして、長手方向、短手方向のそれぞれに対し、JIS-L-1096.8.21.1A(2010)(カンチレバー法)に準じて測定した。
【0070】
9.糸径
マイクロスコープ(倍率×200)により糸の直径を測定した。5回測定した平均値を求めた。
【0071】
10.表面露出面積割合
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、導電性織物表面の200倍画像を撮影した。得られた撮影画像は、導電糸は白色、非導電糸は黒色の色調で撮影されている。この撮影画像について、画像処理ソフト「ImageJ」を用いて、必要に応じてコントラストの調整を行い、白色の導電糸の面積を測定し、導電糸の表面露出面積割合を求めた。
【0072】
<評価方法>
1.屈曲耐久性
試験片について屈曲試験を行い、試験前後の抵抗値を測定してその増加率を計算し、屈曲耐久性を評価した。
(1)屈曲試験
MIT耐屈疲労試験機(株式会社東洋精機製作所)を用いて以下の条件で屈曲試験を行った。なお、試験片は導電部においてタテ方向、ヨコ方向、それぞれ3枚準備した。
屈曲回数:20,000回
曲げ半径:0.38mm
屈曲速度:175cpm
屈曲角度:±135°
荷重:0kg
試験片サイズ:100mm×10mm
【0073】
(2)抵抗値の測定
ミリオームハイテスタ(日置電機株式会社)のクリップ型プローブにより試験片の長手方向両端を摘み、抵抗値を測定した。屈曲試験後の抵抗値測定に関しては、試験片の長手方向中央部を屈曲部とし、20回表裏に曲げながら測定し、最大抵抗値を読み取った。
(3)抵抗値増加率の算出
屈曲試験前に対する屈曲試験後の抵抗値増加率を、以下の式(数式3)によって算出した。
【0074】
(数式3)
抵抗値増加率(%)={(屈曲試験後の抵抗値Ω)/(屈曲試験前の抵抗値Ω)}×100
【0075】
(4)屈曲耐久性の評価
上記タテヨコ3枚ずつの試験片について算出した結果の平均値を求め、下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:抵抗値増加率が5%未満
○:抵抗値増加率が5%以上、10%未満
△:抵抗値増加率が10%以上、20%未満
×:抵抗値増加率が20%以上
【0076】
2.導電性(初期抵抗値)
1.の屈曲試験前の抵抗値を、導電性の評価とした。
(評価基準)
◎:抵抗値が0.2(Ω)未満
○:抵抗値が0.2(Ω)以上、0.5(Ω)未満
△:抵抗値が0.5(Ω)以上、0.8(Ω)未満
×:抵抗値が0.8(Ω)以上
【0077】
3.形態安定性
(1)形態安定率の算出
試料片は導電部と導電部に変更する非導電部の境界が中央となるように200mm×200mmの正方形試験片を3枚切り出し準備した。加熱試験(乾熱130℃×3分)後、JIS-B-7513等級2級以上の平面度を有する定盤上に試験片を3次元方向いづれも負荷のかからない状態で置いた。ハイトゲージを用いてシワによる凹凸や表裏張力差によるカールの程度を測定し、形態安定率を以下の式(数式4)によって算出した。
【0078】
(数式4)
形態安定率(%)={(凸部高さmm-試料厚みmm)/試料厚みmm}×100
【0079】
(2)形態安定性の評価
上記3枚の試験片について算出した結果の平均値を求め、下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:形態安定率が10%未満
△:形態安定率が10%以上、30%未満
×:形態安定率が30%以上
【0080】
4.環境耐久性
試験片(100mm×10mm)は、導電部長手方向が試験片長手方向になるように3枚準備した。次の条件で環境加速試験を行い、試験前後の抵抗値増加率を測定し、環境耐久性を評価した。
【0081】
(1)環境加速試験
5%食塩水に1分間浸漬後、湿らせた状態で密閉し、湿熱環境(65℃、湿度90%)条件下で24時間放置した。
(2)抵抗値の測定
ミリオームハイテスタ(日置電機株式会社)のクリップ型プローブにより試験片の長手方向両端を挟み、抵抗値を測定した。
【0082】
(3)抵抗値増加率の算出
環境試験前に対する環境試験後の抵抗値増加率を、以下の式(数式5)によって算出した。
【0083】
(数式5)
抵抗値増加率(%)={(環境試験後の抵抗値Ω)/(環境試験前の抵抗値Ω)}×100
【0084】
(4)環境耐久性の評価
算出した結果から下記評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:抵抗値増加率が10%未満
△:抵抗値増加率が10%以上、20%未満
×:抵抗値増加率が20%以上
【0085】
[実施例1]
緯糸に用いる導電糸として銀被覆糸(被膜の厚さ;0.19μm)である糸A(表1参照)を使用した。糸Aは、PET糸(40dtex、12フィラメント)を用い、無電解めっきを実施して表面に銀被膜を形成した。糸Aの物性を測定し、表1に記載した。
非導電糸としては、緯糸用、経糸用の両方についてPET糸(33dtex、12フィラメント、収縮加工糸)である糸Fを用いた。糸Fは、真空スチームセット機を用い、温度120℃にて40分間、収縮加工を行ったものである。物性は表1のとおりである。
【0086】
上記の糸Aと糸Fを用い、レピア織機にて2/2綾織物を製織した。経糸の織密度は170本/2.54cm、緯糸の織密度は180本/2.54cmとした。導電部150mmおよび非導電部150mmが繰り返すボーダー柄状になるよう製織した。その後、170℃で熱セット工程、90℃で精練工程、190℃で乾熱処理工程を順次行った後、樹脂被膜形成工程を行った。樹脂被膜形成工程は、プラスコートZ561(互応化学工業(株)製;ポリエステル樹脂)を用いて含浸法で行った。こうして得られた導電性織物の評価をし、物性および評価結果を表2に記載した。
【0087】
[実施例2~8および比較例1~2]
使用糸および製織条件を表1および表2に従って変更した以外は実施例1と同様にして、導電性織物を作製した。なお、緯糸に導電糸および非導電糸を用い製織した他の実施例とは異なり、実施例8は、経糸に導電糸および非導電糸を用い製織した。物性および評価結果は表2のとおりである。
なお、糸Gは糸Fとは異なる特性を有するが、糸Gの収縮加工は、糸Fと同様に真空スチームセット機を用い、温度120℃にて40分間加工したものである。物性は表1のとおりである。
【0088】
【0089】
【符号の説明】
【0090】
1 導電性織物
2 導電糸
3 非導電糸(経糸)
3’非導電糸(緯糸)
4 導電部
5 非導電部
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の導電性織物は、繰り返し屈曲された場合においても導電性を確保することが可能であり、例えば、小型化されるノートブックパソコンやタブレット、携帯ゲーム機等に用いられる。