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特許7320365焼結金属製コンロッド、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】焼結金属製コンロッド、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 7/02 20060101AFI20230727BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20230727BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20230727BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
F16C7/02
B22F5/00 Z
B22F3/02 G
C22C38/00 304
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019063164
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165435
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】山下 智典
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-156571(JP,A)
【文献】特開2018-053278(JP,A)
【文献】特開昭53-023809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 7/02
B22F 5/00
B22F 3/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を圧縮成形し焼結してなるコンロッドであって、
ともに環状をなし内周に貫通孔を有する大端部及び小端部と、
前記大端部と前記小端部とを連結するステム部とを一体に有する焼結金属製コンロッドにおいて、
前記貫通孔が開口する表裏一方の表面のうち前記大端部と前記ステム部との間、及び前記小端部と前記ステム部との間にそれぞれ、前記圧縮成形による成形型の分割跡が形成され、
前記大端部の密度及び前記小端部の密度がともに前記ステム部の密度よりも大きく、かつ
前記大端部と前記ステム部との密度差、及び前記小端部と前記ステム部との密度差が何れも4%以下であることを特徴とする焼結金属製コンロッド。
【請求項2】
前記大端部の貫通孔と前記小端部の貫通孔との平行度が、φ0.5/100以下である請求項1に記載の焼結金属製コンロッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結金属製コンロッドと、前記焼結金属製コンロッドの前記大端部の貫通孔と前記小端部の貫通孔の少なくとも一方に締め代を伴って嵌合される軸受軌道輪とを有するコンロッドモジュール。
【請求項4】
ともに環状をなし内周に貫通孔を有する大端部及び小端部と、前記大端部と前記小端部とを連結するステム部とを一体に有し前記ステム部の厚み寸法が前記大端部及び前記小端部の厚み寸法よりも小さい焼結金属製コンロッドの圧粉体を、金属粉末を含む原料粉末の圧縮成形により得る圧縮成形工程と、
前記圧粉体を焼結して焼結体を得る焼結工程とを備えた焼結金属製コンロッドの製造方法において、
前記圧縮成形工程は、ダイ、コア、及び下パンチで区画されたキャビティに前記原料粉末を充填するステップと、
上パンチを下降させて前記キャビティ中の前記原料粉末を圧縮して前記圧粉体を成形するステップとを有し、
前記下パンチは、前記圧粉体の前記大端部に対応する部分を成形するための第一分割パンチと、前記ステム部に対応する部分を成形するための第二分割パンチと、前記小端部に対応する部分を成形するための第三分割パンチとを有し、これら三つの分割パンチは別個独立に昇降可能に構成され、
前記大端部と前記ステム部との密度差、及び前記小端部と前記ステム部との密度差が何れも4%以下となるように、かつ前記大端部に対応する部分及び前記小端部に対応する部分の厚み方向の圧縮比が、前記ステム部に対応する部分の厚み方向の圧縮比よりも大きくなるように、前記圧粉体を成形することを特徴とする焼結金属製コンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトとピストンを連結するコネクティングロッド(以下、コンロッドと称する。)に関し、特に焼結金属製コンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
コンロッドは、例えば自動車用エンジンのクランクシャフトに軸受等を介して連結される大端部と、ピストンに連結される小端部と、大端部と小端部とを連結するステム部とを一体に有するものである。このようなコンロッドとして、他の加工方法に比べて安価に製造可能な焼結金属製のコンロッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のコンロッドは、例えば金属粉末を圧縮成形して圧粉体を得る圧縮成形工程と、圧粉体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、焼結体にサイジング処理を施すサイジング工程とを経て製造される(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-284769号公報
【文献】特開2017-62015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のように焼結金属でコンロッドを形成する場合、焼結により生じたひずみに起因して、大端部や小端部の形状精度が低下する問題がある。具体的に述べると、圧縮成形を終えた時点でワーク(圧粉体)にはその長手方向に沿ってアーチ状の反りが発生する。この反り(変形)は、焼結により一層顕著となる。ここで、特許文献2に記載されている焼結後のサイジング工程を利用すれば、上述の変形を解消することができるようにも思われるが、現実には、完全に又は十分に上述の反りを解消することは容易ではない。コンロッドに無視できない程度の反りが残ると、コンロッドの長手方向両端に位置する大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度が大きくなり、貫通孔に取付けて使用される軸受の片当たりに起因した早期摩耗や、ピストンの傾きに起因した異音の発生を招くおそれがある。
【0005】
以上の実情に鑑み、本明細書では、焼結金属製による低コスト化の恩恵を得つつ、ステム部の長手方向に沿った向きの反りを解消又は抑制することで、摩耗や異音の発生を抑制することのできるコンロッドを提供することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題の解決は、本発明に係る焼結金属製コンロッドにより達成される。すなわち、このコンロッドは、金属粉末を圧縮成形し焼結してなるコンロッドであって、ともに環状をなし内周に貫通孔を有する大端部及び小端部と、大端部と小端部とを連結するステム部とを一体に有する焼結金属製コンロッドにおいて、貫通孔が開口する表裏一方の表面のうち大端部とステム部との間、及び小端部とステム部との間にそれぞれ、圧縮成形による成形型の分割跡が形成され、大端部とステム部との密度差、及び小端部とステム部との密度差が何れも4%以下である点をもって特徴付けられる。
【0007】
このように、本発明に係るコンロッドでは、貫通孔が開口する表裏一方の表面のうち大端部とステム部との間、及び小端部とステム部との間にそれぞれ、圧縮成形による成形型の分割跡が形成されるようにした。このような分割跡が形成された焼結金属製コンロッドであれば、上述の位置で分割された成形型を用いて圧縮成形されたものであることが分かる。焼結金属の密度は、圧縮成形時の原料粉末の相対的な圧縮量により制御することができるので、例えばステム部と、大端部及び小端部とで原料粉末の圧縮量を別個独立に調整することにより、大端部とステム部との密度差、及び小端部とステム部との密度差が何れも4%以下であるコンロッドを得ることができる。上述した密度差が4%以下であれば、圧縮成形体(圧粉体)の反りを抑制することができ、これにより焼結体の反りを抑制することが可能となる。そのため、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度を小さくすることができ、これら貫通孔に取付けられる軸受の片当たりに起因した早期摩耗や、ピストンの傾きに起因した異音の発生を可及的に防止することが可能となる。
【0008】
また、本発明に係る焼結金属製コンロッドにおいては、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度が、φ0.5/100以下であってもよい。
【0009】
なお、ここでいう平行度は、次に述べる基準に則って規定されたものである。すなわち、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔の内周面の複数点で測定した座標に基づいて、各貫通孔の中心線を取得する。そして、一方の中心線に平行な仮想中心線を仮定し、この仮想中心線を他方の中心線と貫通孔の内周で重ね合せた状態からXmm(例えば100mm)延長し、Xmm先の仮想中心線上の点まわりに直径Ymm(例えば0.5mm)の仮想円を規定しこの仮想円内に、他方の中心線をXmm延長したものが含まれていれば、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度がφY/X以内であると規定する。
【0010】
このように、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度が、φ0.5/100以下となるようにすることで、これら貫通孔に取付けられる部品(軸受、ピストンなど)の組付け精度を保証することができる。よって、これら部品をコンロッドに取付けてなるコンロッドモジュールの性能を保証して、軸受の早期摩耗や異音の発生をより確実に防止することが可能となる。
【0011】
また、以上の説明に係る焼結金属製コンロッドは、焼結金属製による低コスト化の恩恵を得つつ、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度を小さくすることで、摩耗や異音の発生を抑制可能とするものであるから、例えば上述した焼結金属製コンロッドと、当該コンロッドの大端部の貫通孔と小端部の貫通孔の少なくとも一方に締め代を伴って嵌合される軸受軌道輪とを有するコンロッドモジュールとして好適に提供することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、焼結金属製による低コスト化の恩恵を得つつ、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度を小さくすることで、摩耗や異音の発生を抑制することのできるコンロッドを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】コンロッドモジュールの断面図である。
図2図1に示すコンロッドの平面図である。
図3図2に示すコンロッドのA-A線に沿った断面図である。
図4図3に示すコンロッドのB部を拡大した図である。
図5】圧縮成形工程で使用する成形型の断面図で、図2に示すコンロッドのC-C線に沿った部分に対応する断面図であって、原料粉末を充填した状態を示す断面図である。
図6】圧縮成形工程で使用する成形型の断面図で、図2に示すコンロッドのC-C線に沿った部分に対応する断面図であって、圧縮成形完了時の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係るコンロッドモジュール1は、エンジンに組み込まれ、例えば刈払機やブロア等に設けられる排気量100cc以下(特に排気量50cc以下)の小型エンジン(汎用エンジン)に組み込まれる。コンロッドモジュール1は、図1に示すように、コンロッド10と軸受20,30とからなる。
【0016】
コンロッド10は、図2及び図3に示すように、大端部11及び小端部12と、これらを連結するステム部13とを一体に有する。大端部11及び小端部12は何れも環状をなしており、大端部11及び小端部12の内周には貫通孔11a,12aが形成されている。ステム部13には、ステム部13の延在方向(図1図3の左右方向)に長大な細長形状の貫通孔13aが形成されている。なお、以下では、説明の便宜上、コンロッド10のステム部13の延在方向(図1図3の左右方向)を長手方向、大端部11及び小端部12の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aの中心線方向(図1及び図3の上下方向)を厚み方向、長手方向及び厚み方向と直交する方向(図2の上下方向)を幅方向というものとする。
【0017】
上記構成のコンロッド10は、焼結金属で形成され、詳細には、鉄を主成分とする(例えば鉄を80質量%以上、好ましくは90質量%以上含む)鉄系焼結金属で形成される。鉄系焼結金属は例えばニッケル-モリブデン鋼からなり、具体的には、例えばニッケル0.1~5質量%(好ましくは0.5~4質量%)、モリブデン0.1~3質量%(好ましくは0.3~2.5質量%)、炭素0.05~1質量%(好ましくは0.1~0.5質量%)、残部が鉄である組成を一例として挙げることができる。また、コンロッド10のヤング率が、120GPa以上でかつ180GPa以下となるように、焼結金属の組成を設定してもよい。
【0018】
また、コンロッド10の密度は、例えば7.0g/cm3以上に設定され、好ましくは7.2g/cm3以上に設定される。一方で、コンロッド10の密度は、例えば理想的な溶製材の密度である7.8g/cm3以下、実質的には圧縮成形時の粉末押圧性等を考慮して7.6g/cm3以下に設定されるのがよい。
【0019】
ここで、大端部11とステム部13との密度差、及び小端部12とステム部13との密度差が何れも4%以下に設定され、好ましくは何れも3%以下に設定される。この場合、大端部11の密度と小端部12の密度ができる限り等しくなるように設定するのがよく、例えば大端部11の密度は、7.2g/cm3以上でかつ7.5g/cm3以下に設定され、小端部12の密度は、7.2g/cm3以上でかつ7.5g/cm3以下に設定されるのがよい。また、ステム部13の密度は、上述の通り、大端部11及び小端部12との密度差が4%以下となる限りにおいて、7.1g/cm3以上でかつ7.5g/cm3以下に設定されるのがよい。
【0020】
また、大端部とステム部との密度差、及び小端部とステム部との密度差を何れも3%以下に抑えることで、コンロッドの反りをより効果的に抑制することができるので、大端部の貫通孔と小端部の貫通孔との平行度をより確実に小さくすることが可能となる。そのため、製品ごとのばらつきを抑えて、高品質のコンロッドを安定的に提供することが可能となる。さらに、上述した分割跡が残るように形成されたコンロッドであれば、分割した成形型による圧縮量で大端部及び小端部とステム部の密度の制御も比較的容易であるから、密度差を3%以下としても生産性を確保できる。
【0021】
本実施形態では、ステム部13の厚み方向寸法D3は、大端部11の厚み方向寸法D1と小端部12の厚み方向寸法D2の何れよりも小さい(図3を参照)。図3でいえば、ステム部13の上側表面13bが大端部11の上側表面11bと小端部12の上側表面12bの何れよりもコンロッド10の厚み方向中央側(図3では下側)に位置すると共に、ステム部13の下側表面13cが大端部11の下側表面11c及び小端部12の下側表面12cの何れよりも厚み方向中央側(図3では上側)に位置している。この場合、大端部11の上側表面11b又は小端部12の上側表面12bとステム部13の上側表面13bとの段差、及び、大端部11の下側表面11c又は小端部12の下側表面12cとステム部13の下側表面13cとの段差は、それぞれ1mm以下であり、例えば0.5mm程度である。
【0022】
また、図3に示すように、貫通孔11aが開口する大端部11の下側表面11cとステム部13の下側表面13cとの間、及び貫通孔12aが開口する小端部12の下側表面12cとステム部13の下側表面13cとの間にそれぞれ、後述する圧縮成形による成形型40(図5を参照)の分割跡14a,14bが形成されている。
【0023】
本実施形態では、図4に拡大して示すように、大端部11の下側表面11cのステム部13側端部と連続して下側傾斜面15bが設けられると共に、下側傾斜面15bのステム部13側端部と連続してストレート面16が設けられている。このストレート面16は厚み方向に沿って直線状に延びると共に大端部11の周縁に沿って円弧状に延び、その上端でステム部13の下側表面13cとつながっている。このストレート面16で分割跡14aが構成されている。よって、この場合、大端部11の下側表面11cは下側傾斜面15b及びストレート面16を介して、ステム部13の下側表面13cとつながっている。また、下側傾斜面15bとストレート面16とで大端部11とステム部13との段差(図3を参照)が構成されている。また、図示は省略するが、小端部12側の下側傾斜面17bとステム部13の下側表面13cとの間にも分割跡14bを構成するストレート面が設けられている。このストレート面も図示は省略するが、大端部11側のストレート面16と同様の形状をなし、その上端でステム部13の下側表面13cとつながっている。よって、この場合、小端部12の下側表面12cは、下側傾斜面17b及びストレート面を介して、ステム部13の下側表面13cとつながっている。また、下側傾斜面17bとストレート面とで小端部12とステム部13との段差(図3を参照)が構成されている。
【0024】
なお、本実施形態では、分割跡14a,14bはコンロッド10の下側表面にのみ形成されており、コンロッド10の上側表面には形成されていない。そのため、大端部11の上側表面11bとステム部13の上側表面13bとが上側傾斜面15aを介してつながっている。よって、この場合、上側傾斜面15aのみで大端部11とステム部13との段差が構成されている。また、小端部12の上側表面12bとステム部13の上側表面13bとが上側傾斜面17aを介してつながっている。よって、この場合、上側傾斜面17aのみで小端部12とステム部13との段差が構成されている。
【0025】
大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aとの平行度は、φ0.5/100以下に設定され、好ましくはφ0.3/100以下に設定される。一方で、焼結金属製コンロッド10の製造工程上における製造能力等の関係から、大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aとの平行度は、φ0.1/100以上に設定され、好ましくはφ0.2/100以上に設定される。
【0026】
軸受20は、例えば図1に示すように、内周面に円筒面状の軌道面21aを有する軸受軌道輪としての外輪21と、外輪21の内周に収容される複数のころ22(針状ころ)と、複数のころ22を周方向等間隔に保持する保持器23とを有する。軸受30は、軸受20と同様の構成を成し、内周面に円筒面状の軌道面31aを有する軸受軌道輪としての外輪31と、外輪31の内周に収容される複数のころ32(針状ころ)と、複数のころ32を周方向等間隔に保持する保持器33とを有する。
【0027】
外輪21,31は、例えば円筒状に形成され、コンロッド10の大端部11の貫通孔11a及び小端部12の貫通孔12aにそれぞれ所定の締め代を伴って嵌合(すなわち圧入)固定される。外輪21,31は、コンロッド10よりもヤング率が高い材料で形成され、具体的にはヤング率が180GPaを超える材料で形成される。一方、外輪21,31のヤング率が高すぎると加工が困難となるため、外輪21,31のヤング率は240GPa以下とするのがよい。
【0028】
上記のコンロッド10は、圧縮成形工程S1、焼結工程S2、及びサイジング工程S3を経て製造される。以下、各工程を詳しく説明する。
【0029】
(S1)圧縮成形工程
圧縮成形工程S1では、金属粉末を主成分として含む原料粉末Mを成形型40(何れも図5を参照)に充填して圧縮成形することにより、コンロッド10と略同形状の圧粉体110(図6を参照)を成形する。本実施形態では、鉄、ニッケル、及びモリブデンの合金粉に、炭素粉末(例えば黒鉛粉末)及び潤滑剤(例えば金属セッケン)が添加されたものが原料粉末Mとして使用される。ここで、成形型40は、図5に示すように、ダイ41、サイドコア42a,42b、センターコア(図示は省略)、下パンチ43、及び上パンチ44を備える。このうち、サイドコア42a,42bは、それぞれ大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aに対応しており、センターコアは、ステム部13の貫通孔13aに対応している。
【0030】
上パンチ44の下面には、コンロッド10のステム部13の上側表面13bに対応する第一成形面44aと、大端部11の上側表面11bに対応する第二成形面44bと、小端部12の上側表面12bに対応する第三成形面44cとが設けられる。また、本実施形態では、第一成形面44aと第二成形面44bとの間、及び第一成形面44aと第三成形面44cとの間に、上側傾斜面15a,17aにそれぞれ対応する第四成形面44d及び第五成形面44eが設けられている。上パンチ44の第一成形面44aは、第二成形面44b及び第三成形面44cよりも下方に位置すると共に、これら第一~第五成形面44a~44eが一個の上パンチ44に一体に設けられている。
【0031】
下パンチ43の上面には、コンロッド10のステム部13の下側表面13cに対応する第一成形面43aと、大端部11の下側表面11cに対応する第二成形面43bと、小端部12の下側表面12cに対応する第三成形面43cとが設けられる。また、本実施形態では、第一成形面43aと第二成形面43bとの間、及び第一成形面43aと第三成形面43cとの間に、下側傾斜面15b,17bにそれぞれ対応する第四成形面43d及び第五成形面43eが設けられると共に、第四成形面43dと第一成形面43aとの間、及び第五成形面43eと第一成形面43aとの間に、大端部11側のストレート面16と小端部12側のストレート面(図示は省略)とに対応する第六成形面と第七成形面(図示は省略)が設けられている。
【0032】
ここで、下パンチ43は、第一成形面43aを有する第一分割パンチ45と、第二成形面43b並びに第四成形面43dを有する第二分割パンチ46と、第三成形面43c並びに第五成形面43eを有する第三分割パンチ47とで構成されている。これら第一~第三分割パンチ45~47は、別個独立に駆動可能とされており、これにより、昇降のタイミング及び上下方向位置を独立して制御可能とされている。図5では、第一成形面43aが、成形完了時における第二成形面43b及び第三成形面43cに対する上下方向位置よりも上方に位置した状態で原料粉末Mが充填されている様子を示している。また、上述のように下パンチ43が三個の分割パンチ45~47で構成される場合、第六成形面は、第一分割パンチ45の第二分割パンチ46側の側面45aで構成され、第七成形面は、第一分割パンチ45の第三分割パンチ47側の側面45bで構成される。
【0033】
ダイ41には、コンロッド10の外周、具体的には大端部11の外周面に対応する第一成形面41aと、小端部12の外周面に対応する第二成形面41b、及びステム部13の外側面に対応する第三成形面(図示は省略)が設けられる。この場合、ダイ41の上面41cが、原料粉末Mを充填する際のすり切り面となる。
【0034】
次に、上記構成の成形型40を用いた圧縮成形工程S1の一例を説明する。まず、図5に示すようにダイ41、サイドコア42a,42b、センターコア(図示は省略)、及び下パンチ43としての第一~第三分割パンチ45~47とで区画されたキャビティに原料粉末Mを充填する。このとき、第一分割パンチ45の上面となる第一成形面43aは、ダイ41の上面41cよりも低い位置に設定される一方で、第二分割パンチ46の上面となる第二成形面43bと、第三分割パンチ47の上面となる第三成形面43cよりも高い位置に設定される。より正確には、第一成形面43aは、第二成形面43bに対して大端部11とステム部13との段差分よりも高い位置に設定されると共に、第三成形面43cに対して小端部12とステム部13との段差分よりも高い位置に設定される。この状態で、ダイ41の上面41cがすり切り面となるように原料粉末Mを充填することにより、ダイ41とサイドコア42a,42b、及び下パンチ43の第一~第五成形面43a~43eで挟まれた領域(キャビティ)に原料粉末Mが満たされる。
【0035】
この際、例えば第一成形面43aにより成形すべきステム部13の厚み方向寸法D3に対する第一成形面43a上の原料粉末Mの充填高さの比(すなわちステム部13の圧縮比)が、第二成形面43bにより成形すべき大端部11の厚み方向寸法D1に対する第二成形面43b上の原料粉末Mの充填高さの比(すなわち大端部11の圧縮比)よりも小さくなるよう、各分割パンチ45,46の高さ位置が設定される。同様に、上記ステム部13の圧縮比は、第三成形面43cにより成形すべき小端部12の厚み方向寸法D2に対する第三成形面43c上の原料粉末Mの充填高さの比(すなわち小端部12の圧縮比)よりも小さくなるよう、各分割パンチ45,47の高さ位置が設定される。
【0036】
そして、図5に示す状態から、上パンチ44を下降させ、キャビティに充填された原料粉末Mを上方から押し込む。これにより、図6に示すように、第一成形面43a上の原料粉末Mが上下パンチ43,44の第一成形面43a,44aで圧縮され、圧粉体110のステム部13に対応する部分が成形される。また、第二成形面43b及び第四成形面43d上の原料粉末Mが上下パンチ43,44の第二成形面43b,44b及び第四成形面43d,44dで圧縮され、圧粉体110の大端部11に対応する部分が成形されると共に、第三成形面43c及び第五成形面43e上の原料粉末Mが上下パンチ43,44の第三成形面43c,44c及び第五成形面43e,44eで圧縮され、圧粉体110の小端部12に対応する部分が成形される。これにより、コンロッド10に準じた形状をなす圧粉体110の成形が完了する。
【0037】
ところで、本実施形態のように、成形すべきステム部13の厚み方向寸法D3が、成形すべき大端部11の厚み方向寸法D1及び小端部12の厚み方向寸法D2よりも小さい場合、圧粉体110のステム部13に対応する部分の密度が大端部11及び小端部12に対応する部分の密度よりも高くなる傾向がある。この点に関し、本実施形態では、成形型40の下パンチ43を分割し、各分割パンチ45~47の高さ位置を別個に調整することにより、大端部11に対応する部分の圧縮比と小端部12に対応する部分の圧縮比、及びステム部13に対応する部分の圧縮比をそれぞれ所定の大きさに調整した。具体的には、ステム部13に対応する部分の圧縮比が、大端部11に対応する部分及び小端部12に対応する部分の圧縮比よりも小さくなるよう、各成形面43a~43cの充填時及び圧縮時の高さ位置を調整した。これにより、圧粉体110の大端部11に対応する部分とステム部13に対応する部分との密度差、及び小端部12に対応する部分とステム部13に対応する部分との密度差を何れも所定の比率以下、具体的には許容範囲上限となる4%以下(好ましくは3%以下)に抑制することができる。なお、大端部11に対応する部分の密度、小端部12に対応する部分の密度、及びステム部13に対応する部分の密度は、例えば図2の破線で示す位置で切断して得た分割片の密度をそれぞれ測定することにより得られる。
【0038】
なお、図5に示す構成の成形型40を用いて圧粉体110の成形を行った場合、得られた圧粉体110の大端部11の下側表面11cに対応する部分とステム部13の下側表面13cに対応する部分との間には、第一分割パンチ45と第二分割パンチ46との金型合わせ部となる分割跡14aが形成される。同様に、圧粉体110の小端部12の下側表面12cに対応する部分とステム部13の下側表面13cに対応する部分との間には、第一分割パンチ45と第三分割パンチ47との金型合わせ部となる分割跡14bが形成される。これら分割跡14a,14bはともに、下側傾斜面15b,17bに対応する部分と、ステム部13の下側表面13cに対応する部分との間に形成される(図4を参照)。
【0039】
(S2)焼結工程
次に、上記の圧粉体110を所定温度で所定時間加熱することにより、圧粉体110と略同形状を成した焼結体を得る。この際、圧粉体110の大端部11に対応する部分とステム部13に対応する部分との密度差、及び小端部12に対応する部分とステム部13に対応する部分の密度差がともに4%以下であるため、この圧粉体110が有する反り等の変形が焼結により助長される事態を可及的に防止できる。また、焼結時には、ワークとなる圧粉体110を整列させるためにトレーを用いることがあるが、このトレーが平坦な面形状だと、トレー上にワークとなる圧粉体110を載置した際、ステム部13に対応する部分とトレーとの間に生じた隙間により自重で反り等の変形が助長されるおそれがある。この点に関し、例えば図示は省略するが、圧粉体110のステム部13に対応する部分に当接可能な段付きのトレーを用いることで、より好ましくは一対の段付きトレーで圧粉体110を挟み込んだ状態で整列させ、焼結処理を施すことにより、焼結体の歪みを低減することができる。
【0040】
(S3)サイジング工程
次に、焼結体に再圧縮処理(サイジング処理)を施すことにより、焼結体を矯正して、所定の形状精度に仕上げる。ここでは、具体的なサイジング用金型及びその使用態様についての説明は省略するが、サイジング工程ではダイと上下パンチとを上下方向に近接することにより、焼結体を再圧縮して全体形状を矯正すると共に、貫通孔11a,12aに対応した二本のコアを立設しておき、上述のように再圧縮することで貫通孔11a,12aに対応する部分を再成形する。これにより貫通孔11a,12aの形状精度、例えば真円度を所定の精度に仕上げる。この際、図示は省略するが、各コアの基端側(下側)を治具に固定し、コアの姿勢を従来に比べて強固に保持することにより、サイジング時におけるコアの傾きが抑制される。これにより焼結体の矯正力を向上させることができるので、焼結体の変形をより一層効果的に抑制することが可能となる。以上の工程を経て、図2及び図3に示すコンロッド10が完成する。
【0041】
以上述べたように、本発明に係る焼結金属製コンロッド10によれば、大端部11とステム部13との密度差、及び小端部12とステム部13との密度差を何れも4%以下にすることができる。上述した密度差が4%以下であれば、圧粉体110の反りを抑制することができるので、焼結体の反りを抑制することが可能となる。そのため、大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aとの平行度を小さくすることができ、これら貫通孔11a,12aに取付けられる軸受20,30の片当たりに起因した早期摩耗や、ピストンの傾きに起因した異音の発生を可及的に防止することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態に示すように、圧縮成形工程S1において成形型40を上述の構成とすることに加えて、焼結工程S2で上述の如きトレーを用い、又は/及びサイジング工程S3で上述の如き構成の再圧縮用金型を用いることによって、大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aとの平行度がφ0.5/100以下の、好ましくはφ0.3/100以下の焼結金属製コンロッド10を得ることができる。このように、大端部11の貫通孔11aと小端部12の貫通孔12aとの平行度を、φ0.5/100以下にすることで、これら貫通孔11a,12aに取付けられる部品、具体的には図1に示す軸受20,30、及びこれら軸受20,30に連結されるピストンやクランクシャフト(図示は省略)などの位置決め精度を保証することができる。よって、これら部品をコンロッド10に取付けてなるコンロッドモジュール1の性能を保証して、軸受20,30の早期摩耗や異音の発生をより確実に防止することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態のように、分割跡14a(14b)として、厚み方向に沿って直線状に延び、その上端でステム部13の下側表面13cとつながるストレート面16を設けることで、大端部11に対応する第二分割パンチ46の上面角部(下側傾斜面15bを成形するための第四成形面43dの端部)を保護することができる。よって、金型寿命を延ばすと共に安定した品質の圧粉体110、ひいては焼結金属製コンロッド10を量産することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係る焼結金属製コンロッドは上記の形態には限られない。本発明の範囲内において任意の構成をとり得ることはもちろんである。
【0045】
例えば、上記実施形態では、圧縮成形による成形型40の分割跡14a,14bとして、厚み方向に沿って直線状に延び、その上端でステム部13の下側表面13cとつながるストレート面16を例示したが、もちろんこれには限定されない。金型合わせ部として完成品としての焼結金属製コンロッド10の表裏一方の表面に現れる限りにおいて、分割跡14a,14bは任意の形態をとることが可能である。
【0046】
また、上記実施形態では、原料粉末Mの充填時(図5)と圧縮成形完了時(図6)とで、第一分割パンチ45の高さ位置を不変とした場合を例示したが、もちろんこれには限定されない。例えば原料粉末Mの充填時に比べて圧縮成形時における第一分割パンチ45の高さ位置を上下何れの方向に移動させてもよい。要は、第一成形面43aが、成形完了時における第二成形面43b及び第三成形面43cに対する第一成形面43aの上下方向位置よりも上方に位置した状態で原料粉末Mが充填される限りにおいて、各成形面43a~43cの上下方向位置は任意に設定可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 コンロッドモジュール
10 焼結金属製コンロッド
11 大端部
12 小端部
11a,12a 貫通孔
11b,12b 上側表面
11c,12c 下側表面
13 ステム部
13a 貫通孔
13b 上側表面
13c 下側表面
14a,14b 分割跡
15a,17a 上側傾斜面
15b,17b 下側傾斜面
16 ストレート面
20,30 軸受
21,31 外輪
21a,31a 軌道面
22,32 ころ
23,33 保持器
40 成形型
41 ダイ
42a,42b サイドコア
43 下パンチ
43a 第一成形面(ステム部の下側表面)
43b 第二成形面(大端部の下側表面)
43c 第三成形面(小端部の下側表面)
43d 第四成形面(大端部側の下側傾斜面)
43e 第五成形面(小端部側の下側傾斜面)
44 上パンチ
44a 第一成形面(ステム部の上側表面)
44b 第二成形面(大端部の上側表面)
44c 第三成形面(小端部の上側表面)
44d 第四成形面(大端部側の上側傾斜面)
44e 第五成形面(小端部側の上側傾斜面)
45 第一分割パンチ
46 第二分割パンチ
47 第三分割パンチ
110 圧粉体
M 原料粉末
図1
図2
図3
図4
図5
図6