(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】故障予測装置、故障予測方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 11/34 20060101AFI20230727BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230727BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G06F11/34 152
G06N20/00
G05B23/02
(21)【出願番号】P 2019074252
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】菊地 修
(72)【発明者】
【氏名】井上 博之
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500709(JP,A)
【文献】特開2006-053016(JP,A)
【文献】特開2018-072029(JP,A)
【文献】特開2015-148788(JP,A)
【文献】特開2006-135412(JP,A)
【文献】特開2011-070635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 11/07-11/36
G06N 3/00-99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力する故障予測モデル部と、
故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を前記故障予測モデル部に入力する稼働情報入力部と
を備え
、
前記故障予測モデル部から出力された故障予測結果のうち、最も可能性が高い故障内容に対応する計算モデルとそれ以外の故障内容に対応する計算モデルとの差を提示し、
前記計算モデルの差は、入力された稼働情報を取得した装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つと、各計算モデルを生成するために使用された前記所定の装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つとの類似度として出力する故障予測装置。
【請求項2】
前記所定の装置は、前記故障予測の対象である装置と同一または同種の装置であり、
前記稼働情報は、前記所定の装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、保管環境、使用環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つを含む組合せからなる時系列の情報である請求項
1に記載の故障予測装置。
【請求項3】
故障予測装置を用いて、故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報の少なくとも一部を取得するステップと、
故障予測装置を用いて、前記取得した稼働情報を用いて所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力
し、当該出力された故障予測結果のうち、最も可能性が高い故障内容に対応する計算モデルとそれ以外の故障内容に対応する計算モデルとの差を提示するステップと
を備え
、
前記計算モデルの差は、入力された稼働情報を取得した装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つと、各計算モデルを生成するために使用された前記所定の装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つとの類似度として出力される故障予測方法。
【請求項4】
故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報の少なくとも一部を取得するステップと、
前記取得した稼働情報を用いて所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力
し、当該出力された故障予測結果のうち、最も可能性が高い故障内容に対応する計算モデルとそれ以外の故障内容に対応する計算モデルとの差を提示するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記計算モデルの差は、入力された稼働情報を取得した装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つと、各計算モデルを生成するために使用された前記所定の装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況の少なくとも一つとの類似度として出力されるコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記故障内容は2種類以上の故障内容を含み、
前記計算モデルに前記故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を当該計算モデルの2つ以上に並行して入力し各計算モデルの2つ以上を同時に動作させるステップ
を備える請求項3に記載の故障予測方法。
【請求項6】
前記計算モデルに故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を入力するステップと、
前記計算モデルのうち最も故障の可能性が高いことを示す計算モデルから故障発生の要因となり得る稼働状況を推定するステップと
を備える
請求項3に記載の故障予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障予測装置、故障予測方法、コンピュータプログラム、計算モデルの学習方法および計算モデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
故障予測モデルを生成し、装置の故障発生を予測する技術がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、振動情報と部品が使用開始されてから故障するまでの時間を示すラベルとの組を教師データとして機械学習を行うことにより、当該部品が使用開始されてから故障するまでの時間を予測する。この技術はBGAパッケージを用いたCPU等の個別部品の故障予測をすることはできるが、複数の個別の部品の故障を正確に予測することができない。また故障予測の根拠を特定することができないため、予測の妥当性を確認することができない。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数種類の故障予測において故障ごとの予測の根拠を特定し、故障ごとの予測の精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の故障予測装置は、所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力する故障予測モデル部と、故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を複数の故障予測モデル部に入力する稼働情報入力部とを備える。
【0007】
本発明の別の態様は、故障予測方法である。この方法は、故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報の少なくとも一部を取得するステップと、取得した稼働情報を用いて所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力するステップとを備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、コンピュータプログラムである。このプログラムは、故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報の少なくとも一部を取得するステップと、取得した稼働情報を用いて所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルにより故障内容毎に故障予測結果を出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、計算モデルの学習方法である。この方法は、装置の特定の故障に関連する稼働情報のみから機械学習のためのデータセットを作成するステップと、当該データセットに基づいて故障予測のための計算モデルのパラメータを機械学習させるステップと、装置の特定の故障とは別の故障に関連する稼働情報のみから別の機械学習のためのデータセットを作成するステップと、当該別のデータセットに基づいて故障予測のための別の計算モデルのパラメータを機械学習させるステップとを備える。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、計算モデルの生成方法である。この方法は、装置の特定の故障に関連する稼働情報のみから機械学習のためのデータセットを作成するステップと、当該データセットに基づいて故障予測のための計算モデルのパラメータを機械学習させるステップと、装置の特定の故障とは別の故障に関連する稼働情報のみから別の機械学習のためのデータセットを作成するステップと、当該別のデータセットに基づいて故障予測のための別の計算モデルのパラメータを機械学習させるステップとを備える。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、故障予測方法である。この方法は、故障予測の対象となる装置から稼働情報の少なくとも一部を取得するステップと、所定の装置の2種類以上の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された計算モデルに故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を当該計算モデルの2つ以上に並行して入力し各計算モデルの2つ以上を同時に動作させるステップとを備える。
【0012】
本発明のさらに別の態様もまた、故障予測方法である。この方法は、所定の装置の故障内容毎に当該故障に至るまでの稼働情報の履歴に基づいて生成された複数の計算モデルに故障予測の対象となる装置の稼働情報の少なくとも一部を入力するステップと、複数の計算モデルのうち最も故障の可能性が高いことを示す計算モデルから故障発生の要因となり得る稼働状況を推定するステップとを備える。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数種類の故障予測において故障ごとの予測の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る故障予測装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係る故障予測装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】第3実施形態に係る故障予測方法のフロー図である。
【
図4】第5実施形態に係る学習方法のフロー図である。
【
図5】第7実施形態に係る故障予測方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態を基に図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る故障予測装置1の構成を示す機能ブロック図である。故障予測装置1は、故障予測モデル部10と、稼働情報入力部20とを備える。故障予測モデル部10は、複数の故障予測モデル部、すなわち、第1の故障予測モデル部11と、第2の故障予測モデル部12と、…、第nの故障予測モデル部1nとを有する。ここでnは2以上の整数である。第1の故障予測モデル部11は第1の故障内容を予測し、第2の故障予測モデル部12は第2の故障内容を予測し、…、第nの故障予測モデル部1nは第nの故障内容を予測する。稼働情報入力部20は、故障予測の対象となる故障予測対象装置30に接続される。
ここで、第1の故障内容、第2の故障内容、…、第nの故障内容はそれぞれ異なる故障内容である。また故障とは故障予測対象装置30が発揮すべき機能が発揮されなくなる状態の他、冗長化されている状態から冗長化されていない状態になるなど故障にまで至っていないものの異常が発生している状態も含むものである。
【0018】
稼働情報入力部20は、故障予測対象装置30から当該故障予測対象装置30の稼働情報を取得する。稼働情報入力部20は、取得した稼働情報を故障予測モデル部10に入力する。この稼働情報は、第1の故障予測モデル部11、第2の故障予測モデル部12、…、第nの故障予測モデル部1nのそれぞれに入力される。ここで「稼働情報」とは、当該装置の構成や使用状況等やこれらの履歴(時系列の情報)に関する情報のことであり、例えば、当該装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況などの情報である。
【0019】
故障予測モデル部10は、各故障予測モデル部の各計算モデルにそれぞれ入力された値に応じた故障予測結果を出力する。すなわち、故障予測モデル部10は、第1の故障予測モデル部11の計算モデル(図示せず)が予測した第1の故障内容に関する予測結果を出力し、第2の故障予測モデル部12の計算モデル(図示せず)が予測した第2の故障内容に関する予測結果を出力し、…、第nの故障予測モデル部1nの計算モデル(図示せず)が予測した第nの故障内容に関する予測結果を出力する、といった具合である。ここで上記の各計算モデルは、後述する計算モデル生成用装置の稼働情報のうち、それぞれの故障に至るまでの稼働情報に基づいて生成されたものである。なお、故障に至るまでの稼働情報とは、計算モデル生成用装置の稼働が開始した直後から故障に至るまでの稼働情報を意味するが、これに限られず、計算モデル生成用装置の保守や修理などを行った直後から故障に至るまでの稼働情報や、特定の時刻や特定の状況が発生してから故障に至るまでの稼働情報や、計算モデル生成用装置の製造完了直後や販売会社等での保管開始直後から故障に至るまでの稼働情報であってもよい。更に故障に至るまでの稼働情報の概念には故障に至った後の所定期間の稼働情報が含まれていてもよい。ここで所定期間とは例えば故障してから10分間など所定期間であっても、修理など特定の状況が生じるまでの期間であってもよい。故障に至った後の所定期間の稼働情報を含むことにより、情報量が増えるため、より精度の高い予測を行うことができる。
【0020】
ここで「装置が有する部品構成」とは、当該装置がどのような部品を備え、それらがどのように構成されているかを示す情報である。この情報は、当該装置が有する部品点数や、部品同士の組合せの仕方に関連する故障要因を計算モデルに反映する。「装置が属するシステムの構成」とは、当該装置が上位システムに一要素として組み込まれているときの、当該上位システムの構成に関する情報である。この情報は例えば、当該装置が上位システムのどこに位置するか、当該装置の他にどのような装置が存在するか、当該装置と他の装置とは構成的または機能的にどのような関係にあるか、といった情報である。この情報は、当該装置の上位システム内における位置づけや他の装置との関係に伴う故障要因を計算モデルに反映する。「使用期間」とは、製造時、使用開始時その他の起点から起算して、現在までに当該装置が使用された期間(時間や年数)である。使用期間は、実際の使用の有無に関わらず経過した期間であってもよいし、実際に使用された期間のみであってもよい。前者は主に経年劣化に伴う故障要因を、後者は主に実使用に伴う故障要因をそれぞれ計算モデルに反映する。「使用頻度」とは、当該装置が繰り返して使用される度合いに関する情報である。使用頻度は、1週間や1ヶ月間といった一定期間における使用回数の単純な時間平均であってもよいし、使用頻度の高い期間と低い期間の分布を含む情報であってもよい。この情報は、当該装置が繰り返し使用される度合いに伴う故障要因を計算モデルに反映する。「使用環境」とは、当該装置が使用される場所における外部環境に関する情報である。この情報は例えば、温度、湿度、気候区分、粉塵、腐食環境、電磁波・放射線・化学物質の暴露状況、電力供給状況などである。この情報は、当該装置が使用される場所の外部環境に伴う故障要因を計算モデルに反映する。「保管環境」とは、当該装置が保管される場所における外部環境に関する情報である。この情報は例えば、温度、湿度、気候区分、粉塵、腐食環境、電磁波・放射線・化学物質の暴露状況などである。この情報は、当該装置が保管される場所の外部環境に伴う故障要因を計算モデルに反映する。「保守状況」とは、当該装置が受けた保守の状況に関する情報である。この情報は例えば、当該装置の点検の回数、頻度、内容、注油や部品交換の有無、分解の有無、定期点検なのかトラブルに基づく点検なのかなどである。この情報は、装置の保守が故障に与える影響を計算モデルに反映する。「修理状況」とは、当該装置が受けた修理の状況に関する情報である。この情報は例えば、当該装置の修理の回数や頻度や内容、交換部品の種類や点数、修理者の熟練度などである。この情報は、装置の修理が故障に与える影響を計算モデルに反映する。「制御状況」とは当該装置に設定されている制御パラメータの内容、当該装置に入力される信号や情報の内容、当該装置が出力する信号や情報などである。この情報は、装置の制御が故障に与える影響を計算モデルに反映する。
【0021】
ここで故障予測モデル部10のそれぞれの故障予測モデル部の計算モデルの生成について説明する。これら計算モデルは、一つ以上の計算モデル生成用装置を用いて機械学習等の公知の方法で生成する。ここで計算モデル生成用装置とは、故障予測対象装置30が含む同型の装置、または故障予測対象装置30と同型のものが含まれる装置である。例えば計算モデル生成用装置は、故障予測対象装置30そのもの、故障予測対象装置30が含む同型の部品、あるいは故障予測対象装置30と同型の装置を構成要素として含むシステムなどである。なお、機械学習を用いる場合は多数の計算モデル生成用装置を用いるほうがより予測精度が高まる。さらに計算モデル生成用装置の一つとして故障予測対象装置30そのものが含まれていてもよい。
【0022】
以下、3つの計算モデル、すなわち第1の故障を予測する第1の計算モデルと、第2の故障を予測する第2の計算モデルと、第3の故障を予測する第3の計算モデルとを生成する例を説明する。例えば装置がロボットであった場合、第1の故障はロボットの減速機の故障、第2の故障はロボットのセンサの故障、第3の故障はロボットの制御装置の故障、といった具合である。第1の計算モデルは、計算モデル生成用装置の稼働情報のうち第1の故障に至るまでの稼働情報を教師データとして、機械学習により生成される。同様に、第2の計算モデルは計算モデル生成用装置の稼働情報のうち第2の故障に至るまでの稼働情報を教師データとして、第3の計算モデルは計算モデル生成用装置の稼働情報のうち第3の故障に至るまでの稼働情報を教師データとしてそれぞれ生成される。ここで機械学習は公知の教師あり学習の任意のものであってよい。機械学習には畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)、再帰形ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network:RNN)、LSTMネットワーク(Long Short Term Memory:LSTM)などのニューラルネットワークを用いてもよく、この場合入力層を共通にした上で計算モデル毎に異なるニューラルネットワークを混在させてもよい。あるいは故障内容毎に説明変数を決めることができれば決定木を用いてもよい。
【0023】
このように生成された各計算モデルは、稼働情報が入力されると、それぞれの計算モデルに基づいて故障の発生を予測する。第1の計算モデルは第1の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率を、第2の計算モデルは第2の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率を、第3の計算モデルは第3の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率をそれぞれ予測する、といった具合である。これらの各計算モデルは、故障の種別毎に特化した教師データに基づいて生成されるため、故障予測の根拠、すなわち複数の情報(種類や時期)が含まれる稼働情報のうちのどの種類や時期の情報がどの程度当該故障に影響しているかが特定されやすくなる。従って当該故障に関して関連性の低い他の情報による影響(例えば過学習)を回避することができ、それぞれの故障を高い精度で予測することができる。
【0024】
以上説明した故障予測装置1のユーザから見た動作例は以下の通りである。ユーザは、故障予測装置1に複数の部品を備える故障予測対象装置30の稼働情報を入力する。この稼働情報は、故障予測対象装置30の実際の稼働履歴の一部又は全部であってもよいし、仮想的な稼働情報であってもよい。故障予測装置1は、第1の部品の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率、第2の部品の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率、…、第nの部品の故障が例えば1ヶ月以内に発生する確率を出力する。これによりユーザは、例えば故障予測対象装置30がある稼働状況で使われたとき(あるいは仮に使われたとしたとき)、どの部品がいつどのような確率で故障するかを知ることができる。ここで「稼働状況」とは、当該装置が使われるときの状況のことであり、例えば、当該装置が有する部品の構成、当該装置が属するシステムの構成、当該装置の使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況などである。
【0025】
本実施形態によれば、複数種類の故障予測において故障の種類毎に特化した教師データに基づいて生成された計算モデルを用いるので、故障ごとの予測の精度を高めることができる。
【0026】
[第2実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態に係る故障予測装置2の構成を示す機能ブロック図である。故障予測装置2は、
図1の故障予測装置1の構成に加えて、提示部40を備える。
【0027】
提示部40は、複数の故障予測モデル部からの故障予測結果、すなわち第1の故障予測結果、第2の故障予測結果、…、第nの故障予測結果のうち、最も可能性が高い故障内容に対応する計算モデルとそれ以外の故障内容に対応する計算モデルの差を提示する。
【0028】
以下、故障予測モデル部10が、第1の故障予測モデル部11と、第2の故障予測モデル部12と、第3の故障予測モデル部13の3つを有する場合を例に説明する。ここで第1の故障予測モデル部11、第2の故障予測モデル部12および第3の故障予測モデル部13は、それぞれ第1の計算モデル、第2の計算モデルおよび第3の計算モデルを用いて故障予測を行うものとする。故障予測の結果、第1の故障が30%、第2の故障が10%、第3の故障が5%の確率でそれぞれ1ヶ月以内に発生すると予測されたとする。このとき、第1の故障が発生する確率が最も高い。従って提示部40は、第1の計算モデルと第2の計算モデルとの差、および第1の計算モデルと第3の計算モデルとの差を提示する。ユーザはこの差を見ることによって、最も発生可能性の高い故障とそれ以外の故障との予測内容の差を知ることができる。これにより予測の妥当性を確認することができる。
【0029】
本実施形態によれば、最も発生可能性の高い故障とそれ以外の故障との予測内容の差が提示されるので、予測内容の妥当性を客観的に確認することができる。
【0030】
第2実施形態のある実施例では、各計算モデルは、故障予測対象装置30と同型の装置が有する部品の構成、故障予測対象装置30と同型の装置が属するシステムの構成、故障予測対象装置30と同型の装置の稼働情報に基づいて生成される。
【0031】
第2実施形態の別の実施例では、提示部40が提示する計算モデルの差は、故障予測対象装置30の稼働情報と、前述の計算モデル生成用装置の稼働情報との類似度として出力する。ここで「類似度」とは、2つの装置の稼働状況の各要素が互いにどの程度共通するかを示す数値または評価情報のことである。
【0032】
前述のように、計算モデル生成用装置は故障予測対象装置30を含む(または故障予測対象装置30に含まれる)装置であり、これが様々な環境や構成で使用されたときの稼働情報に基づいて計算モデルが生成される。ここで例えば故障予測対象装置30に、故障予測対象装置30の稼働情報が入力された結果、第1の故障が発生する確率が最も高いと予測されたとする。このとき、第1の故障を予測する第1の計算モデルの教師データに含まれる計算モデル生成用装置の稼働情報と故障予測対象装置30の稼働情報との類似度を計算することにより、第1の故障が発生する確率が高いときの故障理由(様々な環境や構成)を明確に示すことができる。類似度は多数の種類の情報から構成される稼働情報のうち所定範囲内にある情報がいくつあるかで評価することができる。またこれに限られず予め定めた特定の種類の情報がどの程度近似しているかに基づいて評価することもできる。
【0033】
この実施例によれば、ユーザは可能性が高い故障内容として提示された理由を、計算モデルの教師データとの関係として明確に理解することができる。
【0034】
[第3実施形態]
図3は、本発明の第3実施形態に係る故障予測方法のフロー図である。本方法は、取得ステップS1と、予測ステップS2とを備える。
【0035】
取得ステップS1で本方法は、故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報を取得する。
【0036】
予測ステップS2で本方法は、所定の装置(計算モデル生成用装置)の稼働情報のうち、それぞれ異なる内容の故障に至るまでの稼働情報に基づいて生成されたそれぞれ異なる計算モデルに故障予測の対象となる装置から取得した稼働情報を入力し、故障予測を行う。ここで用いられる計算モデルの生成方法は、第1実施形態に述べたものと同様であるため詳しい説明は省略する。
【0037】
本実施形態によれば、複数種類の故障予測において故障の種類毎に特化した教師データに基づいて生成された計算モデルを用いるので、故障ごとの予測の精度を高めることができる。
【0038】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係るコンピュータプログラムは、
図3に示されるフローをコンピュータに実行させる。すなわち本プログラムは、故障予測の対象となる装置から当該装置の稼働情報を取得する取得ステップS1と、所定の装置(計算モデル生成用装置)の稼働情報のうち、それぞれ異なる内容の故障に至るまでの稼働情報に基づいて生成されたそれぞれ異なる計算モデルに故障予測の対象となる装置から取得した稼働情報を入力し、故障予測を行う予測ステップS2とをコンピュータに実行させる。
【0039】
本実施形態によれば、複数種類の故障予測において故障の種類毎に特化した教師データに基づいて生成された計算モデルを用いたプログラムをソフトウェアに実装できるので、コンピュータを用いて精度の高い故障予測を実現することができる。
【0040】
[第5実施形態および第6実施形態]
図4は、本発明の第5実施形態に係る計算モデルの学習方法(学習する方法の発明)および第6実施形態に係る計算モデルの生成方法(計算モデルの製造方法の発明)のフロー図である。本方法は、第1のデータセット作成ステップS3と、第1のパラメータ作成ステップS4と、第2のデータセット作成ステップS5と、第2のパラメータ作成ステップS6とを備える。
【0041】
第1のデータセット作成ステップS3で本方法は、装置の特定の故障に関連する稼働情報のみから第1の学習セットを作成する。例えば装置がロボットであった場合、特定の故障はロボットの減速機の故障である。第1の学習セットは例えば、当該ロボットの減速機の故障に至る稼働情報のみを含むデータのセットである。
【0042】
第1のパラメータ作成ステップS4で本方法は、前記第1の学習セットに基づいて故障予測のための第1の計算モデルの第1のパラメータを機械学習させる。機械学習は例えば、第1の学習セットを教師データとした教師あり学習であり、畳み込みニューラルネットワーク、再帰形ニューラルネットワーク、LSTMネットワークなどである。この機械学習により、第1の計算モデルの第1のパラメータ、すなわちロボットの減速機の故障を予測するための計算モデルのパラメータが学習される。
【0043】
第2のデータセット作成ステップS5で本方法は、前記特定の故障とは別の故障に関連する稼働情報のみから第1の学習セットと異なる第2の学習セットを作成する。例えば別の故障はロボットのセンサの故障である。第2の学習セットは例えば、当該ロボットのセンサの故障に至る稼働情報のみを含むデータのセットである。
【0044】
第2のパラメータ作成ステップS6で本方法は、前記第2の学習セットに基づいて故障予測のための前記第1の計算モデルと異なる第2の計算モデルの前記第1のパラメータと異なる第2のパラメータを機械学習させる。第1の計算モデルの第1のパラメータと同様に、第2の計算モデルの第2のパラメータすなわちロボットのセンサの故障を予測するための計算モデルのパラメータが学習される。
【0045】
本実施形態によれば、特定の故障内容に特化した教師データを用いるので、故障予測のための計算モデルを学習させるにあたり、過学習等による悪影響を極力抑えることができる。また特定の故障内容に特化した教師データを用いるので、過学習等による悪影響を極力抑えた故障予測のための計算モデルを生成することができる。
【0046】
[第7実施形態]
本発明の第7実施形態に係る方法は、複数の計算モデルに故障予測の対象となる装置から取得した稼働情報を並行して入力(ほぼ同時に入力または演算がほぼ同時に終了するように入力)し、各計算モデルを同時に動作させるステップを備える。
【0047】
計算モデルは、例えば第5実施形態で説明した方法により、故障内容毎に特化して作成される。
【0048】
本実施形態によれば、故障毎に特化した各計算モデルに故障予測の対象となる装置の稼働情報が並行に入力されるので、各計算モデルに当該稼働情報を順番に入力する場合に比べ、故障予測を高速に実行することができる。なお、全ての計算モデルを同時に動作させる必要はなく、一部のみ同時に実行させることもできる。
【0049】
[第8実施形態]
図5は、本発明の第8実施形態に係る故障予測方法のフロー図である。本方法は、入力ステップS7と、推定ステップS8とを備える。
【0050】
入力ステップS7で本方法は、複数の計算モデルのそれぞれに、故障予測の対象となる装置から取得した稼働情報を入力する。
【0051】
推定ステップS8で本方法は、複数の計算モデルのうち最も故障の可能性が高いことを示す計算モデルから故障発生の要因となり得る稼働状況を推定する。この推定は各計算モデルの教師データの違い(稼働情報に含まれる情報のうち、それぞれの故障との因果関係が深い情報はある範囲内に集中するため、どのような情報が集中し、どのような情報が集中しないかを基準として違いを見極める。なお集中しているか否かは予め設定された基準に基づいて判断してもよく、各情報のばらつきから相対的に判断してもよい。)により行うことができる。例えば装置がロボットであった場合に、ロボットの減速機の故障が最も可能性の高い故障であると予測されたとする。このとき推定ステップS8は、当該ロボットの減速機の故障発生の要因となり得る稼働状況、例えば減速機が故障するときの当該ロボットの使用期間、使用頻度、使用環境、保管環境、保守状況、修理状況または制御状況などの何れか一つ以上を推定する。なお、上記の通り減速機が故障するときの当該ロボットの使用期間等は範囲を持つ情報である。
【0052】
本実施形態によれば、装置に特定の故障が発生するときの当該装置の稼働状況を推定することができる。
【0053】
以上、本発明をいくつかの実施形態を基に説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0054】
更にロボット以外にも工作機械、建設機械や作業機械、航空機、鉄道車両、船舶、自動車、自動ドア、包装機、義足、車椅子、三次元造形装置、フォーミングマシンなどにも適用可能である。
【0055】
以下、変形例について説明する。変形例の説明では、実施の形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施の形態と重複する説明を適宜省略し、実施の形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0056】
第8実施形態では、複数の計算モデルのうち最も故障の可能性が高いことを示す計算モデルから故障発生の要因となり得る稼働状況を推定する形態を説明した。しかしこれに限定されず、最も故障の可能性が低いことを示す計算モデルから故障が発生しにくい稼働状況を推定してもよい。本変形例によれば、装置に特定の故障が発生しないときの当該装置の稼働状況を推定することができることができる。
【0057】
上述した各実施形態と変形例の任意の組合せもまた本発明の実施形態として有用である。組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0058】
1・・故障予測装置、 2・・故障予測装置、 10・・故障予測モデル部、 20・・稼働情報入力部、 30・・故障予測対象装置、 40・・提示部、 S1・・取得ステップ、 S2・・予測ステップ、 S3・・第1のデータセット作成ステップ、 S4・・第1のパラメータ作成ステップ、 S5・・第2のデータセット作成ステップ、 S6・・第1のパラメータ作成ステップ、 S7・・入力ステップ、 S8・・推定ステップ。