(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】MEMSセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 9/00 20060101AFI20230727BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20230727BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G01L9/00 303E
H01L29/84 B
H01L29/84 A
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2019146424
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 正広
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-126922(JP,A)
【文献】特開昭56-87372(JP,A)
【文献】特開平11-68118(JP,A)
【文献】特開平7-297411(JP,A)
【文献】特開2016-17747(JP,A)
【文献】特開昭53-114688(JP,A)
【文献】特公昭45-37754(JP,B1)
【文献】特開平6-167512(JP,A)
【文献】特開平6-302836(JP,A)
【文献】特開昭64-64225(JP,A)
【文献】特開2000-349303(JP,A)
【文献】特開昭59-154075(JP,A)
【文献】特開平10-239345(JP,A)
【文献】特開平3-29829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32,27/00-27/02,
H01L 29/84,
B81B,B81C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面およびその反対側の第2面を有し、前記第1面に
平面視四角形状に形成されたキャビティを有するシリコン基板と、
第1面およびその反対側の第2面を有し、当該第2面が前記シリコン基板の前記第1面に直接接合されたシリコンダイヤフラムと、
前記シリコンダイヤフラムの前記第1面に形成され
、平面視において、前記キャビティの各辺に配置された複数のピエゾ抵抗とを含み、
前記シリコン基板の前記第1面の面方位と、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面の面方位とが互いに異なっている、MEMSセンサ。
【請求項2】
前記複数のピエゾ抵抗を被覆するように前記シリコンダイヤフラムの前記第1面に形成された絶縁膜を含む、請求項1に記載のMEMSセンサ。
【請求項3】
前記シリコンダイヤフラムは、前記キャビティに対向して前記キャビティの圧力変動に伴って動く可動部と、前記シリコン基板に接合された固定部とを含み、
前記複数のピエゾ抵抗は、平面視において前記可動部および前記固定部に跨って形成された複数のピエゾ抵抗を含む、請求項1または2に記載のMEMSセンサ。
【請求項4】
前記複数のピエゾ抵抗は、平面視において前記可動部の内側に収まって形成された複数のピエゾ抵抗を含む、請求項3に記載のMEMSセンサ。
【請求項5】
前記シリコン基板の前記第1面の面方位が(100)面であり、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面の面方位が(110)面である、請求項1
~4のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【請求項6】
前記ピエゾ抵抗は、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されている、請求項
5に記載のMEMSセンサ。
【請求項7】
前記複数のピエゾ抵抗は、それぞれ、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されている、請求項
5に記載のMEMSセンサ。
【請求項8】
前記複数のピエゾ抵抗は、第1ピエゾ抵抗、第2ピエゾ抵抗、第3ピエゾ抵抗および第4ピエゾ抵抗を含み、
前記第1~第4ピエゾ抵抗に電気的に接続され、前記第1~第4ピエゾ抵抗を含むブリッジ回路を形成する配線を含む、請求項
7に記載のMEMSセンサ。
【請求項9】
前記シリコンダイヤフラムは、一定の厚さを有している、請求項1~
8のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【請求項10】
前記シリコンダイヤフラムは、3μm~30μmの厚さを有している、請求項
9に記載のMEMSセンサ。
【請求項11】
前記キャビティは、前記シリコンダイヤフラムによって密閉されている、請求項
9または
10に記載のMEMSセンサ。
【請求項12】
前記密閉されたキャビティ内が、真空に保持されている、請求項11に記載のMEMSセンサ。
【請求項13】
前記シリコンダイヤフラムは、前記キャビティに連通する貫通孔を有している、請求項1~
10のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【請求項14】
前記シリコンダイヤフラムは、平面視において、前記キャビティの各角部に形成され、前記キャビティに連通する複数の貫通孔を有している、請求項1~
10のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【請求項15】
前記シリコンダイヤフラムは、前記シリコンダイヤフラムの前記第2面に形成され、前記キャビティに対向する第2キャビティを有している、請求項1~
8のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【請求項16】
前記第2キャビティは、平面視において、前記キャビティの周縁に沿って環状に形成されている、請求項
15に記載のMEMSセンサ。
【請求項17】
前記キャビティは、前記シリコンダイヤフラムによって密閉されている、請求項
15または
16に記載のMEMSセンサ。
【請求項18】
平面視において、前記キャビティの周縁から前記シリコン基板の端面までの距離によって定義された前記シリコン基板と前記シリコンダイヤフラムとの接合界面の幅は、50μm~500μmである、請求項1~
17のいずれか一項に記載のMEMSセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、第1のシリコン基板と第2のシリコン基板とが酸化層を挟んで積層されたSOI基板を用意して、第2のシリコン基板と酸化層を除去して第1のシリコン基板を露出させる工程と、露出する第1のシリコン基板にキャビティを形成してダイヤフラムを形成する工程と、第1のシリコン基板のキャビティが形成された面と、シリコンを有し構成されるベース基板とを酸化層を介さずに接合して、キャビティを密閉する工程とを有する製造方法によって製造された圧力センサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、シリコンダイヤフラムに形成されたピエゾ抵抗の特性が、シリコンの面方位によって変化することを見出した。
そこで、本発明の目的は、従来に比べてピエゾ抵抗の特性を向上させることができるMEMSセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一の局面に係るMEMSセンサは、第1面およびその反対側の第2面を有し、前記第1面にキャビティを有するシリコン基板と、第1面およびその反対側の第2面を有し、当該第2面が前記シリコン基板の前記第1面に直接接合されたシリコンダイヤフラムと、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面に形成されたピエゾ抵抗とを含み、前記シリコン基板の前記第1面の面方位と、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面の面方位とが互いに異なっている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一の局面に係るMEMSセンサによれば、シリコン基板の第1面の面方位と、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位とが互いに異なっている。これにより、シリコン基板の第1面の面方位に縛られず、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位として、ピエゾ抵抗の特性が最適となる面方位を採用することができる。
また、キャビティが、シリコンダイヤフラムではなく、シリコンダイヤフラムよりも肉厚なシリコン基板に形成されている。そのため、キャビティを高精度で、かつ容易に形成することができる。また、MEMSセンサが、シリコン基板とシリコンダイヤフラムのSi-Si直接接合によって形成されている。つまり、基板とダイヤフラムの線膨張係数が同じであるため、温度変化に起因して接合界面に応力が発生することを抑制することができる。これらの結果、ピエゾ抵抗の特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサの平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサの断面図であって、
図1のII-II断面を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサの製造工程の一部を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、(100)面に形成されたピエゾ抵抗のピエゾ抵抗係数を説明するための図である。
【
図5B】
図5Bは、(110)面に形成されたピエゾ抵抗のピエゾ抵抗係数を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサの平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサの断面図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサの製造工程の一部を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサの平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサの断面図であって、
図9のX-X断面を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサの製造工程の一部を示す図である。
【
図13】
図13は、構造1~3のHe処理時間と気圧値変動量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の実施形態>
まず、本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサは、第1面およびその反対側の第2面を有し、前記第1面にキャビティを有するシリコン基板と、第1面およびその反対側の第2面を有し、当該第2面が前記シリコン基板の前記第1面に直接接合されたシリコンダイヤフラムと、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面に形成されたピエゾ抵抗とを含み、前記シリコン基板の前記第1面の面方位と、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面の面方位とが互いに異なっている。
【0009】
この構成によれば、シリコン基板の第1面の面方位と、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位とが互いに異なっている。これにより、シリコン基板の第1面の面方位に縛られず、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位として、ピエゾ抵抗の特性が最適となる面方位を採用することができる。
また、キャビティが、シリコンダイヤフラムではなく、シリコンダイヤフラムよりも肉厚なシリコン基板に形成されている。そのため、キャビティを高精度で、かつ容易に形成することができる。また、MEMSセンサが、シリコン基板とシリコンダイヤフラムのSi-Si直接接合によって形成されている。つまり、基板とダイヤフラムの線膨張係数が同じであるため、温度変化に起因して接合界面に応力が発生することを抑制することができる。これらの結果、ピエゾ抵抗の特性を安定化させることができる。
【0010】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記シリコン基板の前記第1面の面方位が(100)面であり、前記シリコンダイヤフラムの前記第1面の面方位が(110)面であってもよい。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記ピエゾ抵抗は、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位が(110)面であり、かつピエゾ抵抗が、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されている。これにより、ピエゾ抵抗の縦ピエゾ抵抗係数を大きくできるので、ピエゾ抵抗の感度を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記キャビティは、平面視四角形状に形成されており、前記ピエゾ抵抗は、平面視において、前記キャビティの各辺に配置された複数のピエゾ抵抗を含み、前記複数のピエゾ抵抗は、それぞれ、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、シリコンダイヤフラムの第1面の面方位が(110)面であり、かつ各ピエゾ抵抗が、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されている。これにより、ピエゾ抵抗の縦ピエゾ抵抗係数を大きくできるので、ピエゾ抵抗の感度を向上させることができる。
また、キャビティの各辺にピエゾ抵抗が配置されている。これにより、シリコンダイヤフラムが振動したときに、キャビティの互いに対向する一対の第1辺および第3辺に配置されたピエゾ抵抗は長手方向に引っ張られて抵抗が増加する。一方、キャビティの互いに対向する一対の第2辺および第4辺に配置されたピエゾ抵抗は幅方向に引っ張られて抵抗が減少する。その結果、第1辺および第3辺のピエゾ抵抗と、第2辺および第4辺のピエゾ抵抗との間に大きな抵抗値の差を形成することができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記複数のピエゾ抵抗は、第1ピエゾ抵抗、第2ピエゾ抵抗、第3ピエゾ抵抗および第4ピエゾ抵抗を含み、前記第1~第4ピエゾ抵抗に電気的に接続され、前記第1~第4ピエゾ抵抗を含むブリッジ回路を形成する配線を含んでいてもよい。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記シリコンダイヤフラムは、一定の厚さを有していてもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記シリコンダイヤフラムは、3μm~30μmの厚さを有していてもよい。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記キャビティは、前記シリコンダイヤフラムによって密閉されていてもよい。
この構成によれば、シリコン基板とシリコンダイヤフラムのSi-Si直接接合によって形成されているため、これらの間に酸化膜が形成されていない。その結果、ヘリウム(He)や水素(H2)等の原子半径の小さいガス環境下でMEMSセンサが使用される場合でも、酸化膜を介してキャビティにガスが侵入することを防止することができる。その結果、キャビティ内の真空度を保持することができるため、MEMSセンサの特性変動を防止することができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記シリコンダイヤフラムは、前記キャビティに連通する貫通孔を有していてもよい。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記キャビティは、平面視四角形状に形成されており、前記シリコンダイヤフラムは、平面視において、前記キャビティの各角部に形成され、前記キャビティに連通する複数の貫通孔を有していてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記シリコンダイヤフラムは、前記シリコンダイヤフラムの前記第2面に形成され、前記キャビティに対向する第2キャビティを有していてもよい。
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記第2キャビティは、平面視において、前記キャビティの周縁に沿って環状に形成されていてもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、前記キャビティは、前記シリコンダイヤフラムによって密閉されていてもよい。
この構成によれば、シリコン基板とシリコンダイヤフラムのSi-Si直接接合によって形成されているため、これらの間に酸化膜が形成されていない。その結果、ヘリウム(He)や水素(H2)等の原子半径の小さいガス環境下でMEMSセンサが使用される場合でも、酸化膜を介してキャビティにガスが侵入することを防止することができる。その結果、キャビティ内の真空度を保持することができるため、MEMSセンサの特性変動を防止することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係るMEMSセンサでは、平面視において、前記キャビティの周縁から前記シリコン基板の端面までの距離によって定義された前記シリコン基板と前記シリコンダイヤフラムとの接合界面の幅は、50μm~500μmであってもよい。
<本発明の実施形態の詳細な説明>
次に、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサ1の平面図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサ1の断面図であって、
図1のII-II断面を示す図である。
MEMSセンサ1は、たとえば、気圧センサ、圧力センサ等の各種センサに適用できる。MEMSセンサ1は、シリコン基板2と、シリコンダイヤフラム3とを含む。
【0020】
シリコン基板2は、第1面4およびその反対側の第2面5を有している。シリコン基板2の第1面4および第2面5は、それぞれ、シリコン基板2の表面および裏面と称してもよい。また、シリコン基板2は、端面6を有している。この実施形態では、シリコン基板2は、平面視四角形状に形成されており、端面6は、平面視においてシリコン基板2の4辺を形成する4つの端面6を含む。シリコン基板2の端面6は、シリコン基板2の側面と称してもよいし、第3面と称してもよい。
【0021】
この実施形態では、シリコン基板2の第1面4が(100)面であり、第2面5が(100)面であり、端面6が(110)面である。
また、シリコン基板2の厚さは、たとえば、100μm~775μmである。シリコン基板2は、第1面4に形成されたキャビティ7を有している。キャビティ7の深さは、たとえば、5μm~20μmである。キャビティ7は、
図1に示すように、平面視略四角形状に形成されている。より具体的には、キャビティ7は、平面視において、それぞれに丸みが設けられた4つの第1角部46A、第2角部46B、第3角部46Cおよび第4角部46Dを有する四角形状に形成されている。したがって、キャビティ7は、平面視において、第1辺7A、第2辺7B、第3辺7Cおよび第4辺7Dを有している。
【0022】
シリコンダイヤフラム3は、シリコン基板2よりも薄いシリコン材料からなり、第1面8およびその反対側の第2面9を有している。シリコンダイヤフラム3の第1面8および第2面9は、それぞれ、シリコンダイヤフラム3の表面および裏面と称してもよい。この実施形態では、シリコンダイヤフラム3基板の第1面8が(110)面であり、第2面9が(110)面である。また、シリコンダイヤフラム3は、一定の厚さを有している。シリコンダイヤフラム3の厚さは、たとえば、3μm~30μmである。また、シリコンダイヤフラム3は、膜状であることから、シリコンメンブレンと称してもよい。
【0023】
シリコンダイヤフラム3は、シリコン基板2に直接接合されている。より具体的には、シリコン基板2の第1面4に、シリコンダイヤフラム3の第2面9が直接接合されている。これにより、シリコン基板2とシリコンダイヤフラム3との間には、Si-Si接合からなる接合界面10が形成されている。
接合界面10は、この実施形態では、キャビティ7を取り囲む閉環状に形成されており、これにより、キャビティ7はシリコンダイヤフラム3によって密閉されている。また、平面視において、接合界面10の幅W1は、たとえば、50μm~500μmである。接合界面10の幅W1は、キャビティ7の周縁11(第1~第4辺7A~7D)からシリコン基板2の端面6までの距離によって定義されていてもよい。
【0024】
MEMSセンサ1は、さらに、歪みゲージとしてのピエゾ抵抗R1~R4と、金属端子12~16と、金属配線17~20とを含む。
ピエゾ抵抗R1~R4は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散抵抗であり、「ゲージ」と称してもよい。この実施形態では、シリコンダイヤフラム3は、キャビティ7に対向してキャビティ7の圧力変動に伴って動く可動部21と、シリコン基板2に接合された固定部22とを含む。
【0025】
ピエゾ抵抗R1~R4は、平面視略四角形の可動部21の周方向に沿って略等間隔に配置されている。より具体的には、平面視において、第1ピエゾ抵抗R1はキャビティ7の第1辺7Aに配置され、第2ピエゾ抵抗R2はキャビティ7の第2辺7Bに配置され、第3ピエゾ抵抗R3はキャビティ7の第3辺7Cに配置され、第4ピエゾ抵抗R4はキャビティ7の第4辺7Dに配置されている。
【0026】
可動部21の中心を挟んで対向する第1ピエゾ抵抗R1および第3ピエゾ抵抗R3は、第1ピエゾ抵抗R1および第3ピエゾ抵抗R3の対向方向(キャビティ7の第1辺7Aおよび第3辺7Cを横切る方向)に延びる長手形状に形成されている。第1ピエゾ抵抗R1および第3ピエゾ抵抗R3は、平面視において、可動部21および固定部22に跨っている。別の言い方では、第1ピエゾ抵抗R1および第3ピエゾ抵抗R3は、平面視において、キャビティ7の内外に跨っている。
【0027】
第1ピエゾ抵抗R1および第3ピエゾ抵抗R3は、この実施形態では、それぞれ4つずつ形成されている。4つの第1ピエゾ抵抗R1は、互いに間隔を空けて、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に沿って配列されている。互いに隣り合う第1ピエゾ抵抗R1の間には、第1中継配線23が形成されている。
第1中継配線23は、4つの第1ピエゾ抵抗R1を直列に接続している。第1中継配線23は、各第1ピエゾ抵抗R1の長手方向一端部に接続されており、第1中継配線23のいくつか(この実施形態では、2つ)は、シリコンダイヤフラム3の可動部21に形成され、第1中継配線23の残りは、シリコンダイヤフラム3の固定部22に形成されている。第1中継配線23は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0028】
同様に、4つの第3ピエゾ抵抗R3は、互いに間隔を空けて、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に沿って配列されている。互いに隣り合う第3ピエゾ抵抗R3の間には、第3中継配線25が形成されている。第3中継配線25は、4つの第3ピエゾ抵抗R3を直列に接続している。
第3中継配線25は、各第3ピエゾ抵抗R3の長手方向一端部に接続されており、第3中継配線25のいくつか(この実施形態では、2つ)は、シリコンダイヤフラム3の可動部21に形成され、第3中継配線25の残りは、シリコンダイヤフラム3の固定部22に形成されている。第3中継配線25は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0029】
一方、可動部21の中心を挟んで対向する第2ピエゾ抵抗R2および第4ピエゾ抵抗R4は、第2ピエゾ抵抗R2および第4ピエゾ抵抗R4の対向方向に直交する方向(キャビティ7の第2辺7Bおよび第4辺7Dに沿う方向)に延びる長手形状に形成されている。第2ピエゾ抵抗R2および第4ピエゾ抵抗R4は、平面視において、可動部21の内側に収まっている。
【0030】
第2ピエゾ抵抗R2および第4ピエゾ抵抗R4は、この実施形態では、それぞれ4つずつ形成されている。4つの第2ピエゾ抵抗R2は、互いに間隔を空けて、2×2の行列状に配列されている。互いに隣り合う第2ピエゾ抵抗R2の間には、第2中継配線24が形成されている。
第2中継配線24は、4つの第2ピエゾ抵抗R2を直列に接続している。第2中継配線24は、各第2ピエゾ抵抗R2の長手方向一端部に接続されており、第2中継配線24の全て(この実施形態では、3つ)は、シリコンダイヤフラム3の可動部21に形成されている。第2中継配線24は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0031】
同様に、4つの第4ピエゾ抵抗R4は、互いに間隔を空けて、2×2の行列状に配列されている。互いに隣り合う第4ピエゾ抵抗R4の間には、第4中継配線26が形成されている。第4中継配線26は、4つの第4ピエゾ抵抗R4を直列に接続している。
第4中継配線26は、各第4ピエゾ抵抗R4の長手方向一端部に接続されており、第4中継配線26の全て(この実施形態では、3つ)は、シリコンダイヤフラム3の可動部21に形成されている。第4中継配線26は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0032】
4つの第1ピエゾ抵抗R1のうち外側の一対の第1ピエゾ抵抗R1の長手方向一端部には、第1コンタクト配線27が接続されている。一対の第1コンタクト配線27は、固定部22において第1ピエゾ抵抗R1に接続され、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に沿って互いに逆向きに延びている。第1コンタクト配線27は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0033】
同様に、4つの第3ピエゾ抵抗R3のうち外側の一対の第3ピエゾ抵抗R3の長手方向一端部には、第3コンタクト配線29が接続されている。一対の第3コンタクト配線29は、固定部22において第3ピエゾ抵抗R3に接続され、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に沿って互いに逆向きに延びている。第3コンタクト配線29は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0034】
4つの第2ピエゾ抵抗R2のうち可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に近い一対の第2ピエゾ抵抗R2の長手方向一端部には、第2コンタクト配線28が接続されている。一対の第2コンタクト配線28は、可動部21において第2ピエゾ抵抗R2に接続され、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)を横切って互いに同じ方向に延びている。第2コンタクト配線28は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0035】
4つの第4ピエゾ抵抗R4のうち可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)に近い一対の第4ピエゾ抵抗R4の長手方向一端部には、第4コンタクト配線30が接続されている。一対の第4コンタクト配線30は、可動部21において第4ピエゾ抵抗R4に接続され、可動部21と固定部22との境界部(キャビティ7の周縁11)を横切って互いに同じ方向に延びている。第4コンタクト配線30は、シリコンダイヤフラム3にボロン(B)等の不純物を高濃度に導入することによりシリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線(p+型領域)である。
【0036】
図2を参照して、シリコンダイヤフラム3の第1面8には、絶縁層31が形成されている。絶縁層31は、たとえば、酸化シリコン(SiO
2)や窒化シリコン(SiN)からなっていてもよい。絶縁層31は、シリコンダイヤフラム3の可動部21および固定部22を覆っている。また、絶縁層31の厚さは、たとえば、0.1μm~2.0μmであってもよい。
【0037】
金属端子12~16は、第1金属端子12、第2金属端子13、第3金属端子14、第4金属端子15および第5金属端子16を含む。第1~第5金属端子12~16は、絶縁層31上に形成されている。第1~第5金属端子12~16は、平面視において、シリコン基板2の一つの端面6に沿って互いに間隔を空けて配置されている。また、第1~第5金属端子12~16は、この実施形態では、アルミニウム(Al)からなる。なお、第1~第4金属端子12~15は、それぞれの接続対象に応じて、接地端子(GND)、負側電圧出力端子(Vout-)、電圧印加用端子(Vdd)および正側電圧出力端子(Vout+)と称してもよい。また、第5金属端子16は、基板の端子で、電圧印可用端子(Vdd)以上の電位にする。
【0038】
第1~第4金属配線17~20は、ピエゾ抵抗R1~R4をブリッジ接続して、ブリッジ回路(ホイートストンブリッジ)を形成するための配線である。
具体的には、第1金属配線17は、第1ピエゾ抵抗R1と第2ピエゾ抵抗R2とを固定部22で接続し、かつ第1金属端子12に接続されている。第2金属配線18は、第2ピエゾ抵抗R2と第3ピエゾ抵抗R3とを固定部22で接続し、かつ第2金属端子13に接続されている。第3金属配線19は、第3ピエゾ抵抗R3と第4ピエゾ抵抗R4とを固定部22で接続し、かつ第3金属端子14に接続されている。第4金属配線20は、第4ピエゾ抵抗R4と第1ピエゾ抵抗R1とを固定部22で接続し、かつ第4金属端子15に接続されている。
【0039】
第1~第4金属配線17~20は、この実施形態では、アルミニウム(Al)からなり、絶縁層31上に形成されている。第1金属配線17は、絶縁層31を介して第1および第2コンタクト配線27,28に接続され、第2金属配線18は、絶縁層31を介して第2および第3コンタクト配線28,29に接続されている(
図2参照)。第3金属配線19は、絶縁層31を介して第3および第4コンタクト配線29,30に接続され(
図2参照)、第4金属配線20は、絶縁層31を介して第4および第1コンタクト配線30,27に接続されている。
【0040】
また、第5金属端子16には、第5配線32が接続されている。第5配線32は、絶縁層31上に形成された金属配線33と、シリコンダイヤフラム3の第1面8に形成された拡散配線34とを含む。
図2を参照して、拡散配線34は、平面視において、キャビティ7を取り囲む環状に形成されている。また、拡散配線34は、第1~第5金属端子12~16の下方を通過していてもよい。つまり、拡散配線34は、平面視において、第1~第5金属端子12~16の少なくとも1つにオーバーラップしていてもよい。
【0041】
なお、図示はしないが、絶縁層31上には、第1~第4金属配線17~20および第1~第5金属端子12~16を覆うパッシベーション膜が形成されていてもよい。
図3A~
図3Fは、本発明の第1実施形態に係るMEMSセンサ1の製造工程の一部を示す図である。
図4は、
図3Bの工程の変形例を示す図である。
MEMSセンサ1を製造するには、たとえば、
図3Aに示すように、シリコン基板2が準備され、シリコン基板2にキャビティ7が形成される。キャビティ7は、シリコン基板2の第1面4を選択的にドライエッチングすることによって形成されてもよい。
【0042】
次に、
図3Bに示すように、SOI基板35が準備される。SOI基板35は、シリコンからなる支持基板36と、支持基板36上のBOX(Buried Oxide)層37と、BOX層37上のシリコンからなる活性層38とを含む。たとえば、支持基板36の厚さは、625μm~775μmであり、BOX層37の厚さは、0.5μm~2.0μmであり、活性層38の厚さは3μm~30μmであってもよい。
【0043】
また、支持基板36は、BOX層37に接する第1面39およびその反対側の第2面40を有している。この実施形態では、支持基板36の第1面39が(100)面であり、第2面40が(100)面である。また、活性層38は、BOX層37に接する第1面41およびその反対側の第2面42を有している。この実施形態では、活性層38の第1面41が(110)面であり、第2面42が(110)面である。
【0044】
そして、SOI基板35を上下反転させ、活性層38の第2面42がシリコン基板2の第1面4と接するように、SOI基板35がシリコン基板2上にボンディングされる。その後、たとえば、1000℃~1200℃で30分~90分間アニール処理される。これにより、SOI基板35がシリコン基板2に接合される。
なお、シリコン基板2に接合される基板は、
図4に示すように、第2シリコン基板43であってもよい。たとえば、第2シリコン基板43の厚さは、625μm~775μmであってもよい。第2シリコン基板43は、第1面44およびその反対側の第2面45を有している。この実施形態では、第2シリコン基板43の第1面44が(110)面であり、第2面45が(110)面である。この場合、第2シリコン基板43を上下反転させ、第2シリコン基板43の第1面44がシリコン基板2の第1面4と接するように、第2シリコン基板43をシリコン基板2上にボンディングし、第2シリコン基板43とシリコン基板2とを接合すればよい。
【0045】
つまり、
図3Bおよび
図4の双方とも、活性層38または第2シリコン基板43の(110)面が上方に向くように、SOI基板35または第2シリコン基板43をシリコン基板2にボンディングすればよい。
次に、
図3Cに示すように、SOI基板35の支持基板36およびBOX層37が除去される。支持基板36およびBOX層37は、たとえば、研削、エッチング等によって除去することができる。その後、活性層38が、所望の厚さ(シリコンダイヤフラム3の厚さ)になるまで加工される。活性層38の薄化は、たとえば、研削、エッチング、研磨等によって行ってもよい。また、予め、SOI基板35の段階で所望の厚さで活性層38を形成しておけば、BOX層37の除去後、活性層38の薄化処理を省略することもできる。これにより、活性層38からなるシリコンダイヤフラム3が形成される。
【0046】
一方、SOI基板35に代えて第2シリコン基板43を使用した場合は、第2シリコン基板43を、研削、エッチング、研磨等によって所望の厚さまで薄化すればよい。
次に、
図3Dに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。
【0047】
次に、
図3Eに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。第1~第4中継配線23~26、第1~第4コンタクト配線27~30、および第5配線32の拡散配線34が形成される。
【0048】
次に、
図3Fに示すように、たとえば、CVD法によって、シリコンダイヤフラム3上に絶縁層31が形成される。次に、たとえば、スパッタ法およびパターニングによって、絶縁層31上に第1~第4金属配線17~20および第1~第5金属端子12~16が形成される。以上の工程を経て、MEMSセンサ1が得られる。
MEMSセンサ1では、シリコンダイヤフラム3の可動部21が第1面8側から圧力(たとえば、気体圧力)を受けると、キャビティ7の内部と外部との間に差圧が生じることによって可動部21がシリコンダイヤフラム3の厚さ方向に変位する。その変位により、ピエゾ抵抗R1~R4を構成するシリコン結晶が歪んで、ピエゾ抵抗R1~R4の抵抗値が変化する。
【0049】
たとえば、電圧印加用端子(第3金属端子14)に一定のバイアス電圧を与えておくと、ピエゾ抵抗R1~R4の抵抗値の変化に応じて、出力端子(第2および第4金属端子13,15)間の電圧が変化する。したがって、その電圧変化に基づいて、MEMSセンサ1に生じた圧力の大きさを検出することができる。
このMEMSセンサ1では、シリコン基板2とシリコンダイヤフラム3のSi-Si直接接合によって形成されているため、これらの間に酸化膜が形成されていない。その結果、ヘリウム(He)や水素(H2)等の原子半径の小さいガス環境下でMEMSセンサ1が使用される場合でも、酸化膜を介してキャビティ7にガスが侵入することを防止することができる。その結果、キャビティ7内の真空度を保持することができるため、MEMSセンサ1の特性変動を防止することができる。
【0050】
また、シリコン基板2の第1面4の面方位と、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位とが互いに異なっている。これにより、シリコン基板2の第1面4の面方位に縛られず、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位として、ピエゾ抵抗R1~R4の特性が最適となる面方位を採用することができる。より具体的には、シリコン基板2の第1面4の面方位が(100)面であり、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位が(110)面である。ピエゾ抵抗R1~R4の形成面の面方位が(100)面よりも(110)面であることが好ましいことは、
図5Aと
図5Bとの比較によって説明できる。
【0051】
図5Aは、(100)面に形成されたピエゾ抵抗のピエゾ抵抗係数を説明するための図である。
図5Bは、(110)面に形成されたピエゾ抵抗のピエゾ抵抗係数を説明するための図である。
図5Aと
図5Bとを比較すると、
図5Bの横ピエゾ抵抗係数が、
図5Aの横ピエゾ抵抗係数に比べて若干小さくなっている。したがって、横ピエゾ抵抗係数に関して言えば、ピエゾ抵抗R1~R4は、(110)面よりも(100)面に形成した方が好ましい。しかしながら、
図5Aおよび
図5Bの縦ピエゾ抵抗係数を比べると、
図5Bの縦ピエゾ抵抗係数が、
図5Aの縦ピエゾ抵抗係数よりも遥かに大きくなっている。つまり、縦ピエゾ抵抗係数の増加量を考慮すれば、総合的には、横ピエゾ抵抗係数は若干劣るが、ピエゾ抵抗R1~R4は、(100)面よりも(110)面に形成した方が好ましい。
【0052】
さらに、
図5Bに示すように、(110)面では<111>軸で縦ピエゾ抵抗係数および横ピエゾ抵抗係数が大きくなるので、ピエゾ抵抗R1~R4は、<111>軸上に配置することが好ましい。言い換えれば、
図1において、ピエゾ抵抗R1~R4は、それぞれ、<111>軸方向に延びる長手形状に形成されていることが好ましい。これにより、ピエゾ抵抗R1~R4の縦ピエゾ抵抗係数および横ピエゾ抵抗係数を大きくできるので、ピエゾ抵抗R1~R4の感度を向上させることができる。
【0053】
また、キャビティ7の各辺7A~7Dにピエゾ抵抗R1~R4が配置されている。これにより、シリコンダイヤフラム3が振動したときに、キャビティ7の互いに対向する一対の第1辺7Aおよび第3辺7Cに配置されたピエゾ抵抗R1,R3は長手方向に引っ張られて抵抗が増加する。一方、キャビティ7の互いに対向する一対の第2辺7Bおよび第4辺7Dに配置されたピエゾ抵抗R2,R4は幅方向に引っ張られて抵抗が減少する。その結果、第1辺7Aおよび第3辺7Cのピエゾ抵抗R1,R3と、第2辺7Bおよび第4辺7Dのピエゾ抵抗R2,R4との間に大きな抵抗値の差を形成することができる。
【0054】
また、キャビティ7が、シリコンダイヤフラム3ではなく、シリコンダイヤフラム3よりも肉厚なシリコン基板2に形成されている。そのため、キャビティ7を高精度で、かつ容易に形成することができる。また、MEMSセンサ1が、シリコン基板2とシリコンダイヤフラム3のSi-Si直接接合によって形成されている。つまり、基板とダイヤフラムの線膨張係数が同じであるため、温度変化に起因して接合界面10に応力が発生することを抑制することができる。これらの結果、ピエゾ抵抗R1~R4の特性を安定化させることができる。
【0055】
図6は、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサ51の平面図である。
図7は、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサ51の断面図である。なお、
図7は、便宜上、MEMSセンサ51の特徴部分を主に示すものであり、
図6の特定位置における断面を示しているわけではない。また、第2実施形態では、第1実施形態と主に異なる部分のみを説明し、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
MEMSセンサ51では、シリコンダイヤフラム3に複数の貫通孔52A,52B,52C,52Dが形成されている。
図6を参照して、平面視において、複数の貫通孔52A,52B,52C,52Dは、それぞれ、キャビティ7の第1角部46A、第2角部46B、第3角部46Cおよび第4角部46Dに形成されている。これにより、キャビティ7の内部と外部とが、貫通孔52A,52B,52C,52Dを介して、互いに連通している。したがって、MEMSセンサ51は、MEMSセンサ1と異なり、キャビティ7がシリコンダイヤフラム3で密閉されていない。
【0057】
各貫通孔52A,52B,52C,52Dの形状は、たとえば、
図6に示すように平面視四角形状であってもよいし、平面視円形状、平面視三角形状であってもよい。
このMEMSセンサ51においても、シリコン基板2の第1面4の面方位と、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位とが互いに異なっている。これにより、シリコン基板2の第1面4の面方位に縛られず、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位として、ピエゾ抵抗R1~R4の特性が最適となる面方位を採用することができる。その結果、ピエゾ抵抗R1~R4の特性を安定化させることができる。
【0058】
また、貫通孔52A~52Dが形成されているので、外気圧の影響を受けなくすることができる。
図8A~
図8Gは、本発明の第2実施形態に係るMEMSセンサ51の製造工程の一部を示す図である。
MEMSセンサ51を製造するには、たとえば、
図8Aに示すように、シリコン基板2が準備され、シリコン基板2にキャビティ7が形成される。キャビティ7は、シリコン基板2の第1面4を選択的にドライエッチングすることによって形成されてもよい。
【0059】
一方、
図8Bに示すように、SOI基板35が準備され、SOI基板35の活性層38に複数の貫通孔52A~52Dが形成される。複数の貫通孔52A~52Dは、たとえば、活性層38の第2面42からBOX層37に達するまで、活性層38を選択的にドライエッチングすることによって形成されてもよい。SOI基板35を用いて複数の貫通孔52A~52Dを形成するやり方では、複数の貫通孔52A~52Dの深さを活性層38の厚さに基づいて簡単に調整することができる。
【0060】
次に、
図8Cに示すように、SOI基板35を上下反転させ、活性層38の第2面42がシリコン基板2の第1面4と接するように、SOI基板35がシリコン基板2上にボンディングされる。その後、たとえば、1000℃~1200℃で30分~90分間アニール処理される。これにより、SOI基板35がシリコン基板2に接合される。
なお、シリコン基板2に接合される基板は、
図4に示すように、第2シリコン基板43であってもよい。この場合、第2シリコン基板43に、複数の貫通孔52A~52Dに対応する凹部を形成しておけばよい。この凹部は、第2シリコン基板43の薄化時に、第2シリコン基板43の第2面45が凹部の底部まで達することによって、複数の貫通孔52A~52Dとなる。
【0061】
次に、
図8Dに示すように、SOI基板35の支持基板36およびBOX層37が除去される。支持基板36およびBOX層37は、たとえば、研削、エッチング等によって除去することができる。その後、活性層38が、所望の厚さ(シリコンダイヤフラム3の厚さ)になるまで加工される。活性層38の薄化は、たとえば、研削、エッチング、研磨等によって行ってもよい。また、予め、SOI基板35の段階で所望の厚さで活性層38を形成しておけば、BOX層37の除去後、活性層38の薄化処理を省略することもできる。これにより、活性層38からなるシリコンダイヤフラム3が形成される。
【0062】
次に、
図8Eに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。
次に、
図8Fに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。第1~第4中継配線23~26、第1~第4コンタクト配線27~30、および第5配線32の拡散配線34が形成される。
【0063】
次に、
図8Gに示すように、たとえば、CVD法によって、シリコンダイヤフラム3上に絶縁層31が形成される。次に、たとえば、スパッタ法およびパターニングによって、絶縁層31上に第1~第4金属配線17~20および第1~第5金属端子12~16が形成される。以上の工程を経て、MEMSセンサ51が得られる。
図9は、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサ61の平面図である。
図10は、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサ61の断面図であって、
図9のX-X断面を示す図である。なお、第3実施形態では、第1実施形態と主に異なる部分のみを説明し、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0064】
MEMSセンサ61では、シリコンダイヤフラム3に、第2キャビティ62が形成されている。第2キャビティ62は、シリコンダイヤフラム3の第2面9に形成されており、キャビティ7に対向している。
第2キャビティ62は、この実施形態では、平面視において、キャビティ7の周縁11に沿って環状に形成されている。これにより、シリコンダイヤフラム3の第2面9には、第2キャビティ62に取り囲まれた凸部63が形成されている。なお、第2キャビティ62は、環状である必要はなく、たとえば、シリコンダイヤフラム3の可動部21の全体が凹んだ構成であってもよい。また、第2キャビティ62の深さは、たとえば、0.1μm~25μmである。
【0065】
第2キャビティ62によって、MEMSセンサ1には、キャビティ7と第2キャビティ62とが合わさって形成されたキャビティ64が形成されている。
キャビティ64は、シリコン基板2の厚さ方向において、第1の寸法T1を有する第1部分65と、第1の寸法T1よりも大きな第2の寸法T2を有する第2部分66とを一体的に含む。第1部分65は、キャビティ7の底面と凸部63の頂部とに挟まれた部分である。第2部分66は、キャビティ7の底面と第2キャビティ62の底面とに挟まれた部分である。
【0066】
また、この実施形態では、
図10に示すように、キャビティ7の側面と第2キャビティ62の側面とが面一になっているが、これらの側面は互いにずれていてもよい。たとえば、第2キャビティ62の側面が、キャビティ7の側面よりも外側に位置していてもよい。
このMEMSセンサ61においても、シリコン基板2の第1面4の面方位と、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位とが互いに異なっている。これにより、シリコン基板2の第1面4の面方位に縛られず、シリコンダイヤフラム3の第1面4の面方位として、ピエゾ抵抗R1~R4の特性が最適となる面方位を採用することができる。その結果、ピエゾ抵抗R1~R4の特性を安定化させることができる。
【0067】
また、第2キャビティ62が形成されているので、感度を上げることが可能で、T
1の寸法を、外圧が高くなりシリコンダイヤフラム3が凹んで破壊するまで、キャビティ7の底部に接触する寸法にすることで破壊することを予防することができる。
図11A~
図11Gは、本発明の第3実施形態に係るMEMSセンサ61の製造工程の一部を示す図である。
【0068】
MEMSセンサ61を製造するには、たとえば、
図11Aに示すように、シリコン基板2が準備され、シリコン基板2にキャビティ7が形成される。キャビティ7は、シリコン基板2の第1面4を選択的にドライエッチングすることによって形成されてもよい。
一方、
図11Bに示すように、SOI基板35が準備され、SOI基板35の活性層38に第2キャビティ62が形成される。第2キャビティ62は、たとえば、活性層38の第2面42から活性層38の厚さ方向途中まで、活性層38を選択的にドライエッチングすることによって形成されてもよい。
【0069】
次に、
図11Cに示すように、SOI基板35を上下反転させ、活性層38の第2面42がシリコン基板2の第1面4と接するように、SOI基板35がシリコン基板2上にボンディングされる。その後、たとえば、1000℃~1200℃で30分~90分間アニール処理される。これにより、SOI基板35がシリコン基板2に接合される。
なお、シリコン基板2に接合される基板は、
図4に示すように、第2シリコン基板43であってもよい。この場合、第2シリコン基板43の第1面44に第2キャビティ62を形成しておけばよい。
【0070】
次に、
図11Dに示すように、SOI基板35の支持基板36およびBOX層37が除去される。支持基板36およびBOX層37は、たとえば、研削、エッチング等によって除去することができる。その後、活性層38が、所望の厚さ(シリコンダイヤフラム3の厚さ)になるまで加工される。活性層38の薄化は、たとえば、研削、エッチング、研磨等によって行ってもよい。また、予め、SOI基板35の段階で所望の厚さで活性層38を形成しておけば、BOX層37の除去後、活性層38の薄化処理を省略することもできる。これにより、活性層38からなるシリコンダイヤフラム3が形成される。
【0071】
次に、
図11Eに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。
次に、
図11Fに示すように、シリコンダイヤフラム3の第1面8に選択的に不純物イオン(この実施形態では、ボロン(B))が注入され、アニール処理される。これにより、シリコンダイヤフラム3に、ピエゾ抵抗R1~R4が形成される。第1~第4中継配線23~26、第1~第4コンタクト配線27~30、および第5配線32の拡散配線34が形成される。
【0072】
次に、
図11Gに示すように、たとえば、CVD法によって、シリコンダイヤフラム3上に絶縁層31が形成される。次に、たとえば、スパッタ法およびパターニングによって、絶縁層31上に第1~第4金属配線17~20および第1~第5金属端子12~16が形成される。以上の工程を経て、MEMSセンサ61が得られる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0073】
たとえば、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
この実施例では、シリコン基板2とシリコンダイヤフラム3のSi-Si直接接合によって、原子半径の小さいガスのキャビティ7内への侵入がどの程度防げるかどうかを検証した。具体的には、
図12A~
図12Cに示す構造1~構造3のMEMSセンサを用いて検証した。
【0075】
構造1は、貫通孔72を有するシリコン基板71と、ガラス基板73と、シリコンメンブレン74とを含む。ガラス基板73は、シリコン基板71の裏面に接合されている。シリコンメンブレン74は、酸化シリコン(SiO2)膜75を介して、シリコン基板71の表面に接合されている。これにより、シリコン基板71の貫通孔72は、ガラス基板73とシリコンメンブレン74によって密閉されている。
【0076】
構造2は、キャビティ77を有するシリコン基板76と、シリコンメンブレン78とを含む。キャビティ77は、シリコン基板76の表面側に形成され、シリコン基板76の厚さ方向途中部に底部を有している。シリコンメンブレン78は、酸化シリコン(SiO2)膜79を介して、シリコン基板76の表面に接合されている。これにより、シリコン基板76のキャビティ77は、シリコンメンブレン78によって密閉されている。
【0077】
構造3は、前述の第1実施形態に倣って構成された構造である。つまり、構造3は、キャビティ81を有するシリコン基板80と、シリコンメンブレン82とを含む。キャビティ81は、シリコン基板80の表面側に形成され、シリコン基板80の厚さ方向途中部に底部を有している。シリコンメンブレン82は、シリコン基板80の表面に直接接合されている。したがって、シリコン基板80とシリコンメンブレン82との間には、Si-Si接合からなる接合界面が形成されている。また、シリコン基板80の表面(シリコンメンブレン82との接合面)は(100)面であり、シリコンメンブレン82の表面(シリコン基板80との接合面の反対側の面)は(110)面である。
【0078】
なお、構造1~3のいずれにおいても、MEMSセンサのキャビティ77,81(貫通孔72)内は、初期状態において真空に保持されている。
図13は、約2.5気圧のHe雰囲気中に構造1~3のMEMSセンサを保存し、0h(初期値)、24hおよび72h経過したときの、MEMSセンサのキャビティ77,81(貫通孔72)内の圧力の変動量を測定した結果を示している。
【0079】
構造1および2では、シリコン基板71,76とシリコンメンブレン74,78との間に酸化シリコン膜75,79が介在している。そのため、
図13に示すように、MEMSセンサがHe雰囲気中に保存される時間が長くなればなるほど、Heが酸化シリコン膜75,79を透過してキャビティ77(貫通孔72)内に侵入し、キャビティ77(貫通孔72)内の圧力が変動している。その結果、キャビティ77(貫通孔72)の真空度が低下し、シリコンメンブレン74,78の凹み量が変化して、MEMSセンサの特性変動を引き起こすおそれがある。
【0080】
これに対し、構造3では、シリコン基板80とシリコンメンブレン82との間がSi-Si直接接合である。そのため、
図13に示すように、He雰囲気中にMEMSセンサが長時間保存された後においても、キャビティ81内の圧力変動はほとんど生じなかった。したがって、構造1のMEMSセンサは、ヘリウム(He)や水素(H
2)等の原子半径の小さいガス環境下で使用される場合でも、酸化膜を介してキャビティにガスが侵入することを防止することができることが分かった。さらに、構造3に基づき、このような効果は、シリコン基板80の表面(前述の第1面4)の面方位と、シリコンメンブレン82の表面(前述の第1面8)の面方位とが互いに異なっていても、達成できることが示された。
【符号の説明】
【0081】
1 MEMSセンサ
2 シリコン基板
3 シリコンダイヤフラム
4 (シリコン基板)第1面
5 (シリコン基板)第2面
6 (シリコン基板)端面
7 キャビティ
7A (キャビティ)第1辺
7B (キャビティ)第2辺
7C (キャビティ)第3辺
7D (キャビティ)第4辺
8 (シリコンダイヤフラム)第1面
9 (シリコンダイヤフラム)第2面
10 接合界面
11 (キャビティ)周縁
17 第1金属配線
18 第2金属配線
19 第3金属配線
20 第4金属配線
46A (キャビティ)第1角部
46B (キャビティ)第2角部
46C (キャビティ)第3角部
46D (キャビティ)第4角部
51 MEMSセンサ
52A 貫通孔
52B 貫通孔
52C 貫通孔
52D 貫通孔
61 MEMSセンサ
62 第2キャビティ
R1 第1ピエゾ抵抗
R2 第2ピエゾ抵抗
R3 第3ピエゾ抵抗
R4 第4ピエゾ抵抗