(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】フォトマスク基板の修正方法、フォトマスク基板の製造方法、フォトマスク基板の処理方法、フォトマスク基板、フォトマスクの製造方法、及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
G03F 1/72 20120101AFI20230727BHJP
G03F 1/82 20120101ALI20230727BHJP
G03F 1/50 20120101ALI20230727BHJP
【FI】
G03F1/72
G03F1/82
G03F1/50
(21)【出願番号】P 2019167977
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018185504
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 昇
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-245135(JP,A)
【文献】特開2018-120211(JP,A)
【文献】特開昭60-196942(JP,A)
【文献】特開昭59-126774(JP,A)
【文献】特開昭62-044742(JP,A)
【文献】特開平08-257780(JP,A)
【文献】特開2007-292822(JP,A)
【文献】特開2006-030424(JP,A)
【文献】特開2017-173670(JP,A)
【文献】米国特許第05230970(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 7/20-7/42、9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク基板の修正方法であって、
透明基板の一方の主表面に、転写用パターンを形成するための光学膜が形成されたフォトマスク基板を用意する工程と、
前記光学膜に生じた欠落欠陥に対して、修正膜を形成する修正工程と、
を有し、
前記修正工程は、前記フォトマスク基板の前記光学膜が形成された第1主表面における前記欠落欠陥の位置の近傍に原料ガスを供給するとともに、前記フォトマスク基板の第2主表面側からレーザ光を照射し、前記欠落欠陥を透過した前記レーザ光によって、前記原料ガスを反応させ、前記第1主表面の前記欠落欠陥の位置に前記修正膜を堆積させる
ものであり、
前記修正工程は、前記光学膜のパターン欠陥検査を経ることなく実行される
ことを特徴とする、フォトマスク基板の修正方法。
【請求項2】
前記光学膜と前記修正膜は、同一のエッチング剤によってエッチング可能な材料から構成されることを特徴とする、請求項
1に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項3】
前記光学膜及び前記修正膜は、Crを含むことを特徴とする、請求項1
又は2に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項4】
前記光学膜は、遮光膜を含むことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項5】
前記修正工程は、前記原料ガスの供給手段、及び前記レーザ光の照射手段を、前記フォトマスク基板を挟んで互いに対向させた状態で、前記フォトマスク基板に平行な面内で、それぞれ移動させて行うことを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項6】
前記修正工程の前に、前記フォトマスク基板を洗浄する洗浄工程を有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項7】
前記洗浄工程は、物理洗浄を含むことを特徴とする、請求項
6に記載のフォトマスク基板の修正方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のフォトマスク基板の修正方法を含む、フォトマスク基板の製造方法。
【請求項9】
透明基板の一方の主表面に、転写用パターンを形成するための光学膜が形成されたフォトマスク基板を用意する工程と、
前記フォトマスク基板を保持する工程と、
保持された前記フォトマスク基板の、前記光学膜が形成された第1主表面側に、原料ガスを供給するとともに、前記フォトマスク基板の第2主表面側から前記第1主表面側に対してレーザ光を照射し、かつ、前記レーザ光の照射及び前記原料ガスの供給がなされる対象位置を、前記フォトマスク基板に対し相対的に移動させる基板処理工程と、
を含み、
前記基板処理工程は、前記光学膜に欠落欠陥が存在するとき、前記欠落欠陥を透過した前記レーザ光によって、前記原料ガスが反応し、前記第1主表面の前記欠落欠陥の位置に修正膜が堆積するよう前記レーザ光の照射及び前記原料ガスの供給を制御する
ものであり、
前記基板処理工程においては、前記原料ガスの供給と前記レーザ光の照射を行いつつ、前記フォトマスク基板の全面を走査する
フォトマスク基板の処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載のフォトマスク基板の処理方法を含む、フォトマスク基板の製造方法。
【請求項11】
請求項
8又は10に記載の製造方法によるフォトマスク基板を用意する工程と、
前記フォトマスク基板に対して、描画、現像、及びエッチングを施すことによって転写用パターンを形成するパターニング工程とを含む、フォトマスクの製造方法。
【請求項12】
フォトマスク基板を処理する基板処理装置において、
前記フォトマスク基板を保持するためのホルダと、
保持された前記フォトマスク基板の第1主表面側に原料ガスを供給するガス供給手段と、
前記フォトマスク基板の第2主表面側から前記第1主表面側に対してレーザ光を照射するためのレーザ照射手段と、
前記ガス供給手段、及び前記レーザ照射手段を、それぞれ前記フォトマスク基板と平行な面内で、前記フォトマスク基板に対して相対移動させる移動手段と、
前記ガス供給手段及び前記レーザ照射手段が、前記フォトマスク基板を挟んで互いに対向して配置されるとともに、修正対象位置に前記原料ガスの供給と前記レーザ光の照射が行われるよう、前記移動手段、前記ガス供給手段、及び前記レーザ照射手段を制御する制御手段と
を備え、
前記ガス供給手段は、その表面に反射防止膜を備える基板処理装置。
【請求項13】
前記移動手段は、前記ホルダ上に保持された前記フォトマスク基板と平行な面内で、第1方向、及び前記第1方向と交差する第2方向のそれぞれに対して、前記ガス供給手段及び前記レーザ照射手段をそれぞれ移動可能とすることを特徴とする、請求項
12に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク基板の修正方法、フォトマスク基板の製造方法、フォトマスク基板の処理方法、フォトマスク基板、フォトマスクの製造方法、及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトマスク基板の製造においては、フォトマスク基板に転写用パターンが形成された後、その転写用パターンに欠陥があるか否かが検査され、欠陥があると判定された場合には、当該欠陥を修正する工程が実行される。しかし、このような欠陥の検査、及び修正は非常に時間とコストを要する。
【0003】
このような欠陥の発生を抑制する技術として特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1には、反射防止層を上層に有する遮光膜の光学濃度が3.0以上であったとしても、反射防止層の成膜中に取り込まれた異物が脱落することで、反射防止層にピンホールが生じ、光学濃度を局所的に低下させてしまうという問題点が記載されている。特許文献1は、これを解決するため、反射防止層を除いた遮光部の光学濃度が3.0以上になるように、遮光膜の膜素材と膜厚を設定する技術を提案している。
【0004】
また、特許文献2には、クロム膜に生じたピンホールなどの欠陥の修正を行うと、製造コストが高くなる問題があることが指摘されている。このため、特許文献2は、マスク欠陥修正を省略できるフォトマスクの製造方法を提案している。この製造方法では、ブランクマスクの欠陥検査を行い、クロム膜に存在するピンホール欠陥を見つけ出し、その位置と大きさを欠陥座標データとして記録し、マスクの実パターン座標データに重ならないように、相対座標位置をずらす。相対位置座標がずれることにより、ピンホール欠陥が不要レジストと共に除去されるか、あるいは、レジストパターンをマスクとしてクロム膜のピンホールを有する領域がエッチングされる。これにより、実質的にピンホール欠陥の無いフォトマスクを得ることができる。
【0005】
更に、特許文献3には、マスクパターンに発生した白欠陥を修正する方法であって、処理室内に導入した原料ガスを、該白欠陥部近傍に存在する近接場光によって分解し、該白欠陥部に薄膜を形成することによる修正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-3152号公報
【文献】特開平10-186635号公報
【文献】特開2011-186394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトマスクの製造を行うには、透明基板上に少なくとも1つの光学膜を形成したフォトマスク基板(例えばフォトマスクブランク)に対し、フォトリソグラフィを適用して所望のパターンを形成する。
特許文献1の方法は、遮光膜の上層に反射防止層を形成する際、反射防止層に取り込まれた異物の脱落により反射防止層の表面に窪みが生じても、十分な光学濃度の遮光膜が得られるという利点がある。しかしながら、フォトマスクの光学膜厚が0.5μm未満、より典型的には0.1μm未満(反射防止膜を含む遮光膜であれば、500~2000Å程度)であるのに対し、成膜中に生じる異物のサイズは、後述する発生原因に関係し、光学膜厚より相当に大きいものが多く、1μmを超えるものも少なくない。成膜工程においてこうした異物が膜中に取り込まれた後、フォトマスク製造工程又はフォトマスク使用工程においてこのような異物が脱落することがある。このような異物の脱落が生じると、たとえ遮光膜の光学濃度を特許文献1が提案するように調整しても、欠落欠陥(白欠陥)となるリスクを効果的に低減することはできない。
【0008】
また、特許文献2の方法によれば、欠陥が生じても、修正工程を省略できる利点がある。しかしながら、この方法が適用できるか否かは、欠陥の数や位置に加え、製造しようとするフォトマスクのパターンデザインに左右される。特に、基板サイズが大きく(主表面の一辺が300~2000mm程度)、多数のパネルパターンを密に配置する表示装置製造用フォトマスクに、この方法を適用して欠陥対策とするには限界がある。
【0009】
更に、特許文献3の方法では、フォトマスクパターンに生じた欠陥を修正するために、まず、ラフスキャンを行って修正領域を仮指定する。次に、修正すべき白欠陥の位置情報を正確に取得する。そして、修正のための原料ガスを処理室内に導入し、レーザ光などの光を照射すると、近接場光により原料ガスが分解して、白欠陥位置に膜が形成される。
【0010】
以上のように、フォトマスクパターンには、欠陥が生じることが避けられず、欠陥修正を行うためには、欠陥の位置やサイズを特定するパターン欠陥検査工程が必要となる。この工程は、時間と工数を要する工程であり、この工程を短縮可能な技術が望まれている。
【0011】
本発明は、フォトマスクの欠陥を、時間と工数を要することなく修正することを可能とし、これによりフォトマスク製造の生産効率や品質を向上させることを目的とする。
本発明はまた、上記目的の達成に好適なフォトマスク基板の修正方法、フォトマスク基板の製造方法、フォトマスク基板の処理方法、フォトマスク基板、フォトマスクの製造方法、及び基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の態様に係るフォトマスク基板の修正方法は、透明基板の一方の主表面に、転写用パターンを形成するための光学膜が形成されたフォトマスク基板を用意する工程と、前記光学膜に生じた欠落欠陥に対して、修正膜を形成する修正工程とを有する。前記修正工程は、前記フォトマスク基板の前記光学膜が形成された第1主表面における前記欠落欠陥の位置の近傍に原料ガスを供給するとともに、前記フォトマスク基板の第2主表面側からレーザ光を照射し、前記欠落欠陥を透過した前記レーザ光によって、前記原料ガスを反応させ、前記第1主表面の前記欠落欠陥の位置に前記修正膜を堆積させることを特徴とする。
【0013】
上記修正工程は、前記光学膜のパターン欠陥検査を経ることなく実行されることができる。上記修正方法において、前記光学膜と前記修正膜は、同一のエッチング剤によってエッチング可能な材料から構成されるのが好適である。同一のエッチング剤でエッチング可能とすることで、製造に要する時間及び工数を増やさない。また、後段のフォトマスク製造工程におけるパターニングを妨げず、精緻な転写用パターンがリソグラフィによって形成され得る。また、前記光学膜及び前記修正膜は、Crを含むことができる。前記光学膜は、遮光膜を含むことができる。
【0014】
前記修正工程は、前記原料ガスの供給手段、及び前記レーザ光の照射手段を、前記フォトマスク基板を挟んで互いに対向させた状態で、前記フォトマスク基板に平行な面内で、それぞれ移動させて行うことができる。また、この修正工程の前に、前記フォトマスク基板を洗浄する洗浄工程を有することができる。また、前記洗浄工程は、物理洗浄を含むことができる。
【0015】
なお、上述のフォトマスク基板の修正方法における各工程を、フォトマスク基板の製造方法に含めてもよい。
【0016】
本発明の第2の態様に係るフォトマスク基板の処理方法は、透明基板の一方の主表面に、転写用パターンを形成するための光学膜が形成されたフォトマスク基板を用意する工程と、前記フォトマスク基板を保持する工程と、保持された前記フォトマスク基板の、前記光学膜が形成された第1主表面側に、原料ガスを供給するとともに、前記フォトマスク基板の第2主表面側から前記第1主表面側に対してレーザ光を照射し、かつ、前記レーザ光の照射及び前記原料ガスの供給がなされる対象位置を、前記フォトマスク基板に対し相対的に移動させる基板処理工程と、を含む。前記基板処理工程は、前記光学膜に欠落欠陥が存在するとき、前記欠落欠陥を透過した前記レーザ光によって、前記原料ガスが反応し、前記第1主表面の前記欠落欠陥の位置に修正膜が堆積するよう前記レーザ光の照射及び前記原料ガスの供給を制御する。
【0017】
このフォトマスク基板の処理方法の前記基板処理工程において、前記原料ガスの供給と前記レーザ光の照射を行いつつ、前記フォトマスク基板の全面を走査するのが好適である。
【0018】
また、本発明は、上記手法により製造されるフォトマスク基板も含む。このフォトマスク基板は、透明基板の一方の主表面に、パターニングによって転写用パターンを形成するための光学膜が形成され、前記光学膜の欠落欠陥の部分のみに、修正膜材料の充填による修正膜が形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によるフォトマスクの製造方法は、上述の製造方法によって製造されたフォトマスク基板(修正フォトマスク基板)を用意する工程と、前記修正フォトマスク基板に対して、描画、現像、及びエッチングを施すことによって転写用パターンを形成するパターニング工程を含むことができる。
【0020】
また、本発明によるフォトマスクの製造方法は、上記のようなフォトマスク基板の製造方法により得られる修正フォトマスク基板を用意する工程と、前記修正フォトマスク基板に対して、描画、現像、及びエッチングを施すことによって転写用パターンを形成するパターニング工程を含んでもよい。
【0021】
本発明の第3の態様に係る基板処理装置は、フォトマスク基板を処理する基板処理装置において、前記フォトマスク基板を保持するためのホルダと、保持された前記フォトマスク基板の第1主表面側に原料ガスを供給するガス供給手段と、前記フォトマスク基板の第2主表面側から前記第1主表面側に対してレーザ光を照射するためのレーザ照射手段と、前記ガス供給手段、及び前記レーザ照射手段を、それぞれ前記フォトマスク基板と平行な面内で、前記フォトマスク基板に対して相対移動させる移動手段と、制御手段とを備える。前記ガス供給手段及び前記レーザ照射手段が、前記フォトマスク基板を挟んで互いに対向して配置されるとともに、修正対象位置に前記原料ガスの供給と前記レーザ光の照射が行われるよう、制御手段は、前記移動手段、前記ガス供給手段、及び前記レーザ照射手段を制御する。
【0022】
この基板処理装置において、前記移動手段は、前記ホルダ上に保持された前記フォトマスク基板と平行な面内で、第1方向、及び前記第1方向と交差する第2方向のそれぞれに対して、前記ガス供給手段及び前記レーザ照射手段をそれぞれ移動可能とすることができる。フォトマスク基板と平行な面とは、フォトマスク基板とガス供給手段又はレーザ照射手段との間の距離が略一定となる面である。略一定とは、レーザ照射のフォーカス位置とガスの供給位置が、フォトマスク基板位置に対して適切に維持され、上記修正膜の形成が行なえる距離にあることをいう。また、ガス供給手段は、その表面に反射防止膜を備えることができる。第1方向と第2方向は、好ましくは直交する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フォトマスクの欠落欠陥を、時間と工程を要することなく修正することができ、これによりフォトマスク製造の生産効率や品質を向上させることができるフォトマスク基板の修正方法、フォトマスク基板の製造方法、フォトマスク基板の処理方法、フォトマスク基板、フォトマスクの製造方法、及びフォトマスク基板処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】フォトマスク基板の製造方法(前工程)の参考例を説明するフローチャート及び模式図である。
【
図2】フォトマスク基板の製造方法(後工程)の参考例を説明するフローチャート及び模式図である。
【
図3】欠落欠陥が発生する原因を説明する模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るフォトマスク基板の製造方法(前工程)を説明するフローチャート及び模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るフォトマスク基板の製造方法(後工程)を説明するフローチャート及び模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る欠落欠陥の修正の手順を示す概略図である。
【
図7】欠落欠陥が修正される前後のフォトマスク基板の断面形状を示す概略図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る方法を実行するのに好適な基板処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図9】本発明の実施形態の方法を実行するのに好適な基板処理装置の構成の一部の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0026】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能であり、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0027】
本実施形態では、透明基板上に少なくとも1つの薄膜を形成したフォトマスク基板を処理することにより、該フォトマスク基板の欠陥を修正する。例えばフォトマスク基板は、透明基板の一主表面上に、光学膜を形成したフォトマスクブランクであることができる。フォトマスクブランクは、パターンが未形成の光学膜を有するフォトマスク基板である。フォトマスク基板が有する2つの主表面のうち、光学膜が形成されている側の主表面を「第1主表面」とし、他方の主表面を「第2主表面」とする。
【0028】
なお、この明細書において「フォトマスク基板」とは、透明基板上に少なくとも1つの薄膜(ここでは光学膜)が形成されたものであり、該光学膜をパターニングすることによって、フォトマスクとするためのものをいう。該光学膜をパターニングして得られる転写用パターンは、第1主表面上に形成される。また、レジスト膜を形成したフォトマスク基板を「レジスト膜付フォトマスク基板」、修正を施したフォトマスク基板を「修正フォトマスク基板」とも称する。
【0029】
まず、本発明の実施形態に係るフォトマスク基板の修正方法及び処理方法の概要を、
図1~
図5を参照して説明する。
【0030】
本発明の実施形態に係る修正方法及び処理方法の説明の前に、フォトマスク基板の製造方法の参考例を、
図1及び
図2のフローチャート及び模式図を参照して説明する。この製造方法は、(I)前工程(ステップS1~S5)と(II)後工程(ステップS6~S12)に大別される。
【0031】
(I)前工程
(ステップS1)光学膜の成膜
図1に示すように、まず、ステップS1において、フォトマスク基板の基材となる透明基板100上に、光学膜200を成膜する。透明基板100の上に既に光学膜200が成膜された状態のフォトマスク基板を入手することにより、このステップS1を省略することも可能である。
【0032】
透明基板100は、フォトマスク基板とするための板材であって、透明材料からなり、表裏が所定の平坦度、平滑度となるように加工されたものを用いる。透明基板100の材料としては、石英(SiO2)が好ましい。合成石英からなる透明基板が好適に使用される。
【0033】
ステップS1では、透明基板100の一方の主表面に、光学膜200を形成する。ここでは、透明基板100の光学膜200が形成される面を一方の主表面とし、その反対側の主表面を他方の主表面とする。透明基板100の一方の主表面が、フォトマスク基板10の第1主表面に対応し、透明基板100の他方の主表面が、フォトマスク基板10の第2主表面に対応する。光学膜200は、所定の物理的、化学的物性をもつ膜材料からなり、スパッタ法などの公知の成膜手段を適用して、所望の膜厚をもって透明基板100上に形成される。後述のとおり、この成膜時点で、膜中異物が混入するなどして、欠陥(欠落欠陥Df)、又は潜在的な欠陥が生じることがある。
【0034】
(ステップS2)洗浄1(塗布前洗浄)
ステップS2では、光学膜200の成膜後のフォトマスク基板10の洗浄を行い、異物を除去するとともに、光学膜200の表面を清浄にする。これにより、光学膜200へのレジストの密着を妨げる汚れを除去する。
【0035】
(ステップS3)レジスト塗布
ステップS3では、レジストコータ(図示せず)によって光学膜200上にレジストを塗布し、所望厚み(例えば5000~10000Å)のレジスト膜300を光学膜200上に形成する。レジスト膜300としてはポジ型フォトレジスト又はネガ型フォトレジストのいずれも使用可能であるが、表示装置製造用のフォトマスク基板としては、ポジ型フォトレジストが好適に用いられる。このレジスト塗布により、フォトマスク基板10はレジスト膜付フォトマスク基板となる。
【0036】
(ステップS4)描画
ステップS4では、光学膜200上に形成されたレジスト膜300に対し、描画装置(図示せず)を用いて、所望のパターンデータに基づく描画を行う。描画には、電子ビーム、又はレーザビームなどのエネルギービームが用いられるが、表示装置製造用フォトマスクを製造する際には、レーザ描画装置を用いることが好適である。
【0037】
(ステップS5)現像・エッチング
ステップS5では、レジスト膜300を現像することにより、レジストパターンを形成する。そして、このレジストパターンをエッチングマスクとして、光学膜200にエッチングを施す。エッチングとしては、ウェットエッチング、ドライエッチングが挙げられるが、表示装置製造用のフォトマスクの製造には、ウェットエッチングが好適に適用される。この工程によって、光学膜200からなるフォトマスクパターン(転写用パターン)が形成される。
【0038】
(II)後工程
(ステップS6)洗浄2
図2に示すように、ステップS6では、第1主表面にパターンが形成されたフォトマスク基板10上のレジストパターンを剥離し、次いで、洗浄を行って、異物を除去する。すなわち、レジスト剥離剤によって除去しきれなかった微細なレジスト残渣や、光学膜のエッチング剤(光学膜がCr系膜であれば、Cr用エッチング剤(例えばCerium Ammonium Nitrate))の加水分解により生じた残渣等の汚れを除去する。これにより、この後に行うパターン欠陥検査における欠陥の検出や、その位置等の情報を得るために必要な清浄度を得る。
【0039】
(ステップS7)パターン欠陥検査
続くステップS7では、ステップS5において光学膜200に形成されたフォトマスクパターンに対して光学手段(図示せず)による走査を行い、フォトマスクパターンに生じた欠陥の有無、生じた欠陥の種類、及び欠陥発生位置・大きさに関する情報を取得する。パターン欠陥検査は、形成されたフォトマスクパターンのパターン像(透過像、又は反射像)を取得し、これをフォトマスク面内の同一設計のパターン像と比較し、或いは、パターンデータと比較して行うことができるが、大きな負荷を伴う工程である。
【0040】
(ステップS8)修正
次に、ステップS8において、検出された欠陥が修正可能なものであるかを判定し、修正可能であればこの欠陥を修正する。欠陥に対する修正手段としては、例えばCVDレーザ装置、又は、集束イオンビーム装置が挙げられる。これらの修正手段により、フォトマスクパターンの余剰物を除去し、及び/又は、フォトマスクパターンの欠落部分に修正膜を堆積し、欠陥を修正する。
【0041】
(ステップS9)洗浄3
続くステップS9では、フォトマスクパターンを形成されたフォトマスク基板10を再度洗浄する。
【0042】
(ステップS10)異物検査
次のステップS10では、異物検査を行い、フォトマスクパターン面に異物が無いことを確認する。
【0043】
(ステップS11)ペリクル貼付
ステップS10でフォトマスクパターン面に異物が無いことが確認されると、ステップS11において、ペリクルを必要とするフォトマスク基板10のパターン形成面(第1主表面側)にペリクル400を貼付する。
【0044】
(ステップS12)異物検査
次に、ステップS12では、更にペリクル400上から異物検査を行う。ここで万一、異物が発見されれば、ペリクル400上からのエネルギービーム照射などで、異物の除去を行うことが可能である。以上が、参考例におけるフォトマスク基板の製造方法の手順である。
【0045】
ところで、フォトマスクに生じる欠陥は、主として欠落欠陥と、余剰欠陥の2つに分類される。欠落欠陥は、転写用パターンにおいて、光学膜が残存するべき位置の光学膜が欠落するなどの理由で、光透過率が所定値を超えてしまうもので、白欠陥とも呼ばれる。欠落欠陥は、例えば、光学膜を貫通する欠陥とすることができる。一方、余剰欠陥は、透明基板上、又は既に形成された光学膜パターン上に、不要な光学膜が残存し、又は、異物が付着するなどして、光透過率が所定より低くなる(ゼロを含む)欠陥であり、黒欠陥とも呼ばれる。
【0046】
このうち、余剰欠陥は、不要な残存膜や異物に、レーザビーム等のエネルギービームを照射して昇華させるなどの手段で除去し欠陥を修正することができる。一方、欠落欠陥に対しては、欠陥部分に修正膜(光学膜とは異なる素材からなる)を堆積させて正常な光学膜パターンと同様に機能させる修正を行うが、余剰欠陥と異なり、ペリクル貼付後には修正が困難であるなど、工程への負担が大きい。
【0047】
フォトマスクの製造において生じる欠陥の多くは、欠落欠陥であり、しかも欠落欠陥の大部分は光学膜の成膜工程において生ずることが、本発明者の検討により明らかになった。従って、欠落欠陥の修正負荷を低減できれば、フォトマスク製造工程の効率化が可能となる。
【0048】
図3を参照して、欠落欠陥が発生する原因を説明する。
透明基板100上に光学膜200が成膜されてフォトマスク基板10が形成される場合、フォトマスクパターンを形成するための光学膜200は、膜厚の中央値、ばらつきともに、精緻に管理されて成膜される。このとき、光学膜200に異物が混入する可能性がある(
図3(a)参照)。例えば、成膜装置(スパッタ装置など)の真空チャンバの内側に堆積(付着)した膜材料が、ある程度成長すると、自重や膜応力によって脱離し、異物となって成膜中の光学膜200に落下、付着することがある。これは膜中異物AMとしてフォトマスク基板10上にとどまる。尚、このように成膜装置の真空チャンバ内で発生する異物のサイズは、多くの場合、0.5~10μmほどである。膜が成長するに従って、装置内壁等からの脱離が生じやすいため、サイズが1μmを超えるものが珍しくない。尚、欠陥のサイズは、欠陥領域に直線を重ねたときに、欠陥領域の外縁と直線が交わる複数の交点間の距離であって、最大となる距離によって把握することができる。
【0049】
このような膜中異物AMが、その後のフォトマスク製造工程のいずれかの段階、又は、フォトマスク製造後の使用段階において光学膜200から脱落すると、
図3(b)に示すように、光学膜200にピンホールが生じてしまう。そして、このようなピンホールが、フォトマスクの欠落欠陥として顕在化する。
【0050】
本発明者らは、光学膜200を成膜したフォトマスク基板10にパターニングを施す前の段階(例えば、
図1のレジスト塗布段階(ステップS3))で、光学膜200に欠落欠陥が存在しなければ、フォトマスクへの欠落欠陥の発生は、ほぼ抑えられると考えられることに着目した。この場合、
図2に示すマスク製造工程を短縮することができる。なぜなら、
図2における、パターン欠陥検査(ステップS7)及び修正(ステップS8)を含む、少なくとも2つの工程が不要となるためである。
【0051】
そこで、本発明の実施形態に係るフォトマスク製造方法では、透明基板100上に光学膜200が形成され、光学膜200にパターニングを施す前の状態のフォトマスク基板10において、欠落欠陥を実質的にゼロとすることを可能にする。以下では、欠落欠陥を実質的にゼロとしたフォトマスク基板を、「無欠陥フォトマスク基板」と称することがある。
【0052】
次に、本実施形態に係るフォトマスク製造方法を、
図4及び
図5のフローチャート及び模式図を参照して説明する。本実施形態の方法も、上記参考例の方法と同様に、(I)前工程(ステップS21~S27)と(II)後工程(ステップS28~S31))に大別される。
【0053】
(I)前工程
(ステップS21)光学膜の成膜
まず、ステップS21において、透明基板100の一方の主表面に光学膜200を成膜する。これは、参考例の方法のステップS1と略同一である。透明基板100の上に既に光学膜200が成膜された状態のフォトマスク基板を入手することにより、このステップS21を省略することも可能である。換言すれば、フォトマスク基板(フォトマスクブランク)を用意することは、透明基板100への光学膜200の成膜によって行ってもよいし、成膜済みのフォトマスクブランクを入手することによって行ってもよい。なお、光学膜200は、一例として遮光膜201(
図7参照)であり、フォトマスクを露光する露光光を実質的に遮光する機能を有する膜であるとする。その光学濃度(OD値)は1.5以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上である。フォトマスク基板は、遮光膜201の表面上に、反射防止膜202(AR膜)を有することが好ましい。反射防止膜202は、遮光膜201の成膜に続いて成膜することができる。遮光膜201と反射防止膜202との間には、明確な境界があってもよく、又は、組成傾斜によって境界が不明確でも良い。
【0054】
(ステップS22)洗浄1’(塗布前洗浄)
次に、ステップS22で、光学膜200の成膜後のフォトマスク基板10の洗浄を行い、異物を除去するとともに、光学膜200の表面を清浄にすることが好ましい。このステップS22も、参考例の方法のステップS2と略同一である。この洗浄工程によって、光学膜200中に留まっている異物を、積極的に脱落させ、欠落欠陥を顕在化させることができる。
【0055】
洗浄には、光学膜200が形成された第1主表面に対して、機械的な力を及ぼしつつ行う洗浄処理であって、いわゆる物理洗浄を伴う洗浄であることがより好ましい。具体的に物理洗浄を伴う洗浄とは、洗浄液(水又は薬液)を用いつつ、洗浄具(ブラシ、スポンジなど)や液流(超音波、ジェット流、シャワー、バブリングといった手段を用いるもの)によって、被洗浄面に機械的な力を加えて行う洗浄である。これによって、潜在的に欠落欠陥の要因となる膜中異物が光学膜200から脱落することを促進し、欠陥の顕在化を促進する。そして、フォトマスク製造工程、又は、その後のフォトマスクのハンドリング等において、新たに欠落欠陥が発生することを予め防止する。フォトマスク基板10から異物を効果的に脱落させるためには、物理洗浄の中でも、ブラシ、スポンジなどの洗浄具を第1主表面に対して物理的に接触させる接触洗浄がより好ましい。また、当該接触洗浄においても薬液を併用することが好ましく、その場合には、使用する薬剤として、KOHやTMAH(Tetramethyl ammonium hydroxide)等のアルカリ剤の希釈液や、界面活性剤を用いた薬剤が例示される。
【0056】
(ステップS23)修正(基板処理)
続くステップS23において、欠落欠陥の修正が行われる。
図6(a)に示すように、透明基板100上に光学膜200が形成され(ステップS21)、その後洗浄工程で(ステップS22)、光学膜200から欠落した異物により、光学膜200に欠落欠陥(ピンホール欠陥)が生じることがあり得る。
【0057】
本実施形態における欠落欠陥の修正工程では、
図6(b)に示すように、フォトマスク基板10の第1主表面側(光学膜200側)にガスカーテンユニット500を配置して、この第1主表面側に修正膜を形成するための原料ガスを供給する。ガスカーテンユニット500は、一例として、原料ガスを供給するためのガス供給系501と、滞留するガスを吸引して外部に排出するガス排気系502とを備えたものとすることができる。原料ボックス(図示せず)は、不活性ガスからなるキャリアガス(例えばアルゴン(Ar)ガス)をガスカーテンユニット500に向けて供給する。原料ボックスは、修正膜の形成に用いる原料を加熱によって昇華させ、これによってガス化した原料をキャリアガスと混合することにより原料ガスを生成する。
【0058】
一方、フォトマスク基板10の第2主表面側には、レーザ光を照射するためのレーザ光源600を配置し、レーザ光を第2主表面側に照射する。レーザ光源600は、ガスカーテンユニット500とともに、フォトマスク基板10の平面に平行な面内において、第2主表面の全体に対応する領域に亘って移動可能に構成されることが好ましい。レーザ光源600は、フォトマスク基板10を挟んでガスカーテンユニット500とは反対側に配置される。
【0059】
レーザ光源600から第2主表面側に向けて照射されたレーザ光は、光学膜200に欠落欠陥があった場合、この欠落欠陥を通過(透過)する。そして、第1主表面側に達し、これにより第1主表面側の原料ガスが反応する。そして、
図6(c)に示すように、原料ガス中の原料が欠落欠陥付近に堆積し、欠落欠陥の修正が行われる(レーザCVD法)。すなわち、
図7に示すように、欠落欠陥がフォトマスク基板10の光学膜200(遮光膜201、及び反射防止膜202)に発生したとしても、原料ガス中の原料(例えばクロム(Cr))が欠落欠陥を埋め、修正膜203として堆積される。
【0060】
なお、欠落欠陥以外の部分、すなわち正常に光学膜200が堆積された位置に照射されたレーザ光は、光学膜200(遮光膜、又は反射防止膜)で遮られて第1主表面に到達しない。このため、正常に光学膜200が堆積された位置においては、修正膜203の堆積は抑止され、修正膜203は欠落欠陥の位置にのみ堆積される。より好ましくは、フォトマスク基板10の全体を加温することにより、修正膜203が不要な部分への膜材料の堆積を抑えることができる。例えば加温の温度は、40~50℃とすることができる。
【0061】
修正膜203の膜厚は、レーザ光源600からのレーザ光の照射時間を調整することによって制御することができる。但し、修正膜203が欠落欠陥に充填されれば、レーザ光が該欠落欠陥に到達しなくなることから、過大な膜厚の修正膜203が形成されることは無い。この点は、フォトマスクのパターニング工程において、エッチング終点の決定に影響を及ぼさない点で有利である。
【0062】
尚、照射されたレーザ光が遮光膜201表面で反射することによって迷光を発生させ、遮光膜201上の不要な位置に修正膜203が形成される不都合が生じることがある。しかし、光学膜200において、遮光膜201上に反射防止膜202が形成されている場合、上記不都合を防止できる利点がある。更に、照射したレーザ光が、ガスカーテンユニット等の、装置構成物に反射して迷光となり、不要な位置に修正膜203を形成することを抑制するために、これら装置構成物も、表面、特にフォトマスク基板と対向する面に反射防止膜が形成されていることが好ましい。例えば、反射防止膜として、紫外光の反射率を低減させる、めっき膜(無電解めっきにより形成される凹凸のある黒色皮膜)や、黒アルマイト処理膜などが例示される。
【0063】
修正膜203の原料としては、金属カルボニルが好ましく使用される。具体的には、クロムカルボニル(Cr(CO)6)、モリブデンカルボニル(Mo(CO)6)、タングステンカルボニル(W(CO)6)などが例示される。フォトマスクの修正膜としては、耐薬性の高いクロムカルボニルが好ましく用いられる。ここで、修正膜203にクロムカルボニルを用い、光学膜200中の遮光膜がCr又はその化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、又は酸化窒化炭化物)を含む膜である場合、いずれも同じエッチング剤(例えば、硝酸第2セリウムアンモニウム)によってエッチングされ得る。このような材料の選択は、後段のフォトマスク製造工程におけるパターニングを妨げず、精緻な転写用パターンがリソグラフィによって形成され得るので好適である。
【0064】
上述したように、ガスカーテンユニット500及びレーザ光源600はフォトマスク基板10の表面全体に亘って移動可能に構成される。フォトマスク基板10の表面全体に亘ってガスカーテンユニット500及びレーザ光源600が移動することにより、欠落欠陥が光学膜200に発生したとしても、その位置を具体的に特定することなしに欠落欠陥を修正することができる。なお、レーザ光源600から出射されるレーザ光は、波長λ=380nm以下の紫外光であることが好ましい。このようなレーザ光としては、例えば、Nd.YLFレーザのλ=262nmが例示される。
【0065】
(ステップS24)洗浄2’(塗布前洗浄)
再び
図4に戻って説明を続ける。ステップS23により欠落欠陥の修正が完了すると、次のステップS24では、欠陥修正後のフォトマスク基板10の洗浄(塗布前洗浄)が行われる。これにより、レーザCVD法による欠落欠陥の修正工程の間に光学膜200上に堆積した各種異物を除去することができる。
【0066】
(ステップS25~S27)レジスト塗布/描画/現像・エッチング
続いて、ステップS25~S27において、参考例のステップS3~S5と同様のレジスト塗布、描画、及び現像・エッチングが実行される。以上により、前工程は終了する。
【0067】
(II)後工程
本実施形態では、後工程として、ステップS28で参考例のステップS6と同様のレジスト膜300の剥離行程及び洗浄工程が実行された後、ステップS29で異物検査が実行される。参考例(
図1)では、ステップS6の後、パターン欠陥検査が実行されるが、本実施形態の方法では、ステップS28の後のパターン欠陥検査は省略することができる。
【0068】
本実施形態では、光学膜200の成膜後、ステップS23において、上述の修正工程が実行される。修正工程に先立って、パターン欠陥検査を必要としない。換言すれば、ステップS23の修正工程は、光学膜200のパターン欠陥検査を経ることなく実行される。
【0069】
ステップS29における異物検査によって異物の無いことを確認し、又は異物による欠陥を修正したら、続くステップS30でペリクル400を貼付し、最後にステップS31で再度異物検査を実行する。これにより、本実施形態によるフォトマスク製造工程が終了する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のフォトマスク基板の製造工程(修正工程)によれば、フォトマスク基板10の光学膜200における欠落欠陥の発見のためのパターン欠陥検査を省略することができ、これによりフォトマスク基板の製造工程における製造コスト及び工数を削減することができる。
【0071】
[装置構成]
本実施形態の方法を実行するのに好適な基板処理装置20の構成の一例を、
図8及び
図9を参照して説明する。この基板処理装置20は、フォトマスク基板10に欠落欠陥がある場合、その位置にレーザCVD法を適用し、局所的な修正膜を形成可能に構成された装置である。
【0072】
図8に示すように、この基板処理装置20は、前述したガスカーテンユニット500と、レーザ光源600とを備える。さらに基板処理装置20は、レーザ変位計700、観察用光学系800、観察用照明系900、ホルダ1100、第1駆動系1200、第2駆動系1300、及び制御部2000を備える。制御部2000は更に、中央制御装置としてのメイン制御ユニット2001、第1駆動系1200を制御する第1駆動部制御部2002、観察用光学系800を駆動する観察用光学系制御部2003、レーザ変位計700を制御するレーザ変位計制御部2004、ガスカーテンユニット500を制御するガス制御部2005、第2駆動系1300を制御する第2駆動部制御部2006、及びレーザ光源600を制御するレーザ制御部2007を備える。
【0073】
レーザ変位計700及び観察用光学系800は、ガスカーテンユニット500と同様にフォトマスク基板10の第1主表面側に配置され、ガスカーテンユニット500と一体となって、第1駆動系1200により三次元方向(XYZ方向)に移動可能に構成されている。レーザ変位計700は、フォトマスク基板10の表面の位置の変化を検出し、その検出結果を制御部2000の一部であるレーザ変位計制御部2004に向けて出力する。観察用光学系800は、フォトマスク基板10の第1主表面側を観察するための光学系であり、その観察画像は図示しないモニタに表示され得る。なお、本明細書においては、フォトマスク基板10の主表面にたわみが生じない場合を想定したときの、主表面に平行な面をXY平面とし、主表面の長辺または短辺に平行な方向をX方向(第1又は第2方向)、XY平面内におけるX方向と垂直な方向をY方向(第2又は第1方向)とする。さらに、X方向およびY方向に垂直な方向(直交方向)をZ方向とする。
【0074】
なお、この
図8の例では、ガスカーテンユニット500は、原料ガス供給管501’及びガス排出管502’によりガス制御部2005と接続されている。原料ガス供給管501’は、原料ボックス(図示せず)からガスカーテンユニット500に向けて原料ガスを供給する。また、ガス排出管502’は、ガスカーテンユニット500の周辺部に滞留する余剰の原料ガスを吸引し、ガスカーテンユニット500の周辺から排出する。原料ガスの供給と排気の差圧を調整しながらフォトマスク基板10の修正対象位置とその付近を原料ガス雰囲気に設定する。ガス供給と排気の差圧を適宜調整することにより、原料ガス雰囲気が不均一になることを防止する。原料ガス供給管501’とガスカーテンユニット500とは一体としてガス供給手段を構成する。原料ガス供給管501’とガスカーテンユニット500とは、修正対象のフォトマスク基板10の第1主表面側において、フォトマスク基板10と平行な面内で所望の位置に移動する。
【0075】
尚、照射されたレーザ光が遮光膜201表面で反射することによって迷光を発生させ、遮光膜201上の不要な位置に修正膜203が形成される不都合が生じることがある。これに対し、光学膜200において、遮光膜201上に反射防止膜202が形成されていると、この不都合を防止できる。同様の観点から、ガスカーテンユニット500の対向面(遮光膜201表面に対向する面)においても、反射防止膜503を設けることが迷光防止の観点から好ましい。
【0076】
一方、観察用照明系900は、観察用光学系800の観察のための照明光をフォトマスク基板10の第2主表面側に照射する。光学膜200に欠落欠陥がある場合、照明光はこの欠落欠陥を通過して観察用光学系800に達し、これにより欠落欠陥の画像は観察用光学系800において観察され得る。
【0077】
観察用照明系900は、レーザ光源600と同様にフォトマスク基板10の第2主表面側に配置され、レーザ光源600と一体となって、第2駆動系1300により三次元方向に移動可能に構成されている。なお、第1駆動系1200及び第2駆動系1300は、一例としては担持物をX方向に移動可能なX方向レール、Y方向に移動可能なY方向レール、及びZ方向に移動可能なZ方向レールを備えることができる。第1駆動系1200と第2駆動系1300とは、ガスカーテンユニット500及びレーザ光源600のXY方向の位置が常に一致するよう協働して動作する。なお、ガスカーテンユニット500は、欠落欠陥の位置の近傍に原料ガスを供給する場合、その原料ガスの均一な供給範囲が少なくとも欠落欠陥の面積よりも十分大きくなるようにガスを供給できるよう構成されていることが好ましい。
【0078】
ホルダ1100は、フォトマスク基板10を、上側を膜面(光学膜200が形成された第1主表面)として、実質的に水平に保持可能に構成されている。実質的に水平とは、フォトマスク基板10に自重やホルダの保持等に起因する若干のたわみがある場合を含む。そして、ホルダ1100の上側には、修正膜203を形成するためのガスカーテンユニット500(原料ガス供給手段)が配置され、ホルダ1100の下側にはレーザ光源600(レーザ照射手段)が配置されている。これらは、フォトマスク基板の表面上の任意の位置で、互いに対向する向きに軸合わせをすることができるように、移動可能となっている。フォトマスク基板10にたわみが生じた場合には、たわみの傾向を予め把握し、これに応じて、フォトマスク基板10と、ガスカーテンユニット500あるいはレーザ光源600との離間距離を一定に維持しつつ移動できるようにZ方向の移動も制御可能であることが好ましい。また、ホルダ1100においては、
図9に示すように、フォトマスク基板10の第2主表面側が露出し、レーザ光源600からのレーザ光の照射をフォトマスク基板10が受けることが可能なように構成されている。なお、
図9は、ホルダ1100の構成の一部を省略し、簡略化したものを示している。観察用光学系800と観察用照明系900とは、XY方向の位置が常に一致するよう位置制御される。
【0079】
尚、ガスカーテンユニット500及びレーザ光源600は、フォトマスク基板10に対して相対的に移動すれば良い。ここでいう相対的な移動とは、フォトマスク基板10が静止した状態でガスカーテンユニット500及びレーザ光源600が移動してもよいし、その逆でもよい。あるいは、ガスカーテンユニット500、レーザ光源600、及びフォトマスク基板10(ホルダ1100)がいずれも移動可能とされてもよい。この相対的な移動によって、フォトマスク基板10の第1主表面側の任意の位置に原料ガス及びレーザ光を到達させることができる。
【0080】
ガスカーテンユニット500とレーザ光源600は、欠落欠陥の検知機構(図示せず)が欠落欠陥の位置を検知したときに、第1駆動系1200及び第2駆動系1300による相対移動を停止して(Step & Repeat)、その後原料ガスの供給とレーザ光照射を開始するよう構成されてもよい。又は、ガスカーテンユニット500とレーザ光源600は、原料ガスの供給とレーザ光照射を継続的に(中断することなく)行いつつフォトマスク基板全面を走査移動(全面スキャン)して、修正膜の堆積を行ってもよい。これは、フォトマスク基板の欠陥検出を行うことなく、後述の「基板処理工程」として、確実に無欠陥フォトマスク基板を得る目的で、上記工程を適用できるからである。尚、全面スキャンの場合には、移動速度を可変として制御されることが好ましい。この場合、移動速度の調整によって、修正膜の堆積量を調整することができる。
【0081】
以上、フォトマスク基板10の欠落欠陥の修正方法を説明した。上記の例では、欠落欠陥の修正は、予め欠落欠陥の存在を検出することなく、全面に対して実行される。しかし、本発明はこれに限定されず、欠落欠陥の存在の有無、存在する場合には欠落欠陥の位置を特定したうえで、同様の欠陥の修正工程を実行してもよいことは言うまでもない。また、ここでいう「全面」とは、フォトマスク基板の欠落欠陥を特定及び修正するために必要な全ての範囲という程度の意味であり、光学膜200が形成された領域を100%走査するものに限定されないことは言うまでもない。
【0082】
また、本発明は、修正フォトマスク基板の製造方法を含む。すなわち、透明基板上に、パターニングによって転写用パターンを形成するための光学膜が形成された、光学膜付のフォトマスク基板を用意する工程と、上記の欠陥修正方法を適用して修正を行う工程とを含む修正フォトマスク基板の製造方法も本発明の範囲に含まれ得る。
【0083】
また、本発明は、この製造方法により製造されるフォトマスク基板自体を含む。すなわち、上記修正方法を施すことにより、フォトマスク基板に形成された光学膜の欠落欠陥の部分のみに修正膜材料が充填され、その他の部分には修正膜が堆積していない構造を有する修正フォトマスク基板も、本発明の範囲に含まれ得る。
【0084】
更に、本発明は、上記の修正方法を適用するフォトマスクの製造方法を含む。また、本発明は、上記の修正フォトマスク基板を用意し、該フォトマスク基板に対して、描画、現像、及びエッチングを施すことによって転写用パターンを形成するパターニング工程を有するフォトマスクの製造方法を含む。ここで、用意する修正フォトマスク基板は、パターンが未形成のフォトマスクブランクであってもよく、また、一部にパターンが形成されたフォトマスク中間体であってもよい。
【0085】
また、必要に応じて、欠陥修正を行ってから、新たな光学膜の成膜を行っても良い。この製造方法によるフォトマスクは、上記修正が施された光学膜がパターニングされてなる光学膜パターンの上側に、他の光学膜又は光学膜パターンを有していても良い。本発明の作用効果を妨げない限り、フォトマスク基板の膜構成や材料に特に制限は無い。
【0086】
光学膜の膜材料としては、Cr又はその化合物が好適であるが、Mo、W(タングステン)、Ta、Tiを含む金属のシリサイド、又は、該シリサイドの上記化合物であっても良い。但し、修正膜203と光学膜200が、同一のエッチング剤によってエッチングされ得る材料からなる場合には、この後のパターニング工程において修正膜203と光学膜200が同じ挙動を示し、エッチングを妨げないため好ましい。例えば、光学膜200がCr系の材料からなる場合、修正膜203もCr系の材料で構成されることが好ましい。また、光学膜200は、遮光膜201と、遮光膜201上に形成された反射防止膜202とを備えた構成が好ましく、この反射防止膜202も、遮光膜201のエッチング剤と同じエッチング剤によってエッチングされるものであることが好ましい。反射防止膜202の好適な材料は、Cr化合物(酸化物、窒化物、酸窒化物など)である。なお、本発明のフォトマスク修正方法を適用して製造するフォトマスクの用途には特に制限は無い。
【0087】
本発明のフォトマスク基板の修正方法は、表示装置(いわゆるフラットパネルディスプレイ)製造用のフォトマスクに対して特に好適である。表示装置の例としては、例えば、LCD(液晶表示装置)や、OLED(有機EL表示装置)などを挙げることができる。表示装置は、いわゆるフォルダブルディスプレイおよびローラブルディスプレイを含んでもよい。このような表示装置製造用のフォトマスクはそのサイズが他分野のフォトマスクに比べ大きく、フォトマスクのサイズに応じて成膜装置も他の用途の装置に比べ大きい。このため、異物発生の確率が高く、本発明が特に有効に機能する。なお、ここでの表示装置製造用とは、表示装置それ自体だけでなく、表示装置に搭載される表示装置用デバイスの製造用を含む意味で使用される。また、ここでのフォトマスクは、等倍露光用のフォトマスクであるが、投影露光により転写が行われるフォトマスクでもよく、又は近接露光用でも良い。
【0088】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成を追加・削除・置換することもできる。
【符号の説明】
【0089】
10…フォトマスク基板、 20…基板処理装置、 100…透明基板、 200…光学膜、 201…遮光膜、 202…反射防止膜、 203…修正膜、 300…レジスト膜、400…ペリクル、 500…ガスカーテンユニット、 501…ガス供給系、 501’…原料ガス供給管、 502…ガス排気系、 502’…ガス排出管、 503…反射防止膜、 600…レーザ光源、 700…レーザ変位計、 800…観察用光学系、 900…観察用照明系、 1100…ホルダ、 1200…第1駆動系、 1300…第2駆動系、 2000…制御部、 2001…メイン制御ユニット、 2002…第1駆動部制御部、 2003…観察用光学系制御部、 2004…レーザ変位計制御部、 2005…ガス制御部、 2006…第2駆動部制御部、 2007…レーザ制御部、 Df…欠落欠陥、 AM…膜中異物。