(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、及び、自動撮像位置設定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
A61B5/055 370
A61B5/055 380
A61B5/055 ZDM
(21)【出願番号】P 2019185131
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横沢 俊
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】永尾 尚子
(72)【発明者】
【氏名】森分 周子
(72)【発明者】
【氏名】呉 彬栄
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-000393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0084959(US,A1)
【文献】特開2018-191697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0329004(US,A1)
【文献】国際公開第2010/150783(WO,A1)
【文献】特開2015-142723(JP,A)
【文献】特開2014-008245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0138020(US,A1)
【文献】特開2016-119976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴を用いて被検体の断面の画像を取得する撮像部と、
撮像位置を決定するためのスカウト撮像、及び、診断用の画像を取得する本撮像を前記撮像部が行うよう制御する撮像制御部と、
前記スカウト撮像で取得したデータを用いて、前記本撮像の撮像断面位置を決定する撮像断面決定部と、を備え、
前記撮像制御部は、前記スカウト撮像として、1次元又は2次元の計測データを取得する第1計測、及び、2次元の計測データを取得する第2計測を実行する制御を行い、
前記撮像断面決定部は、前記第1計測で取得した計測データを用いて、前記被検体の左右を判定する左右判定部と、
前記左右判定部における判定結果と前記第1計測で取得した計測データとを用いて前記第2計測における断面位置を算出するとともに、前記第2計測で取得した計測データを用いて前記本撮像における断面位置を算出する断面位置算出部と、を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記左右判定部は、前記第1計測で取得した計測データの、前記被検体の左右方向に沿った一次元方向の信号値をもとに、左右の判定を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像制御部は、前記第1計測において、2次元の計測データを取得する制御を行い、
前記左右判定部は、前記第1計測で取得した前記2次元の計測データを前記被検体の左右方向に沿った一次元方向に投影した一次元データを作成し、当該一次元データを用いて左右の判定を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記断面位置算出部は、前記第1計測で取得した一断面の計測データを用いて、前記一断面を含む複数断面について、前記第2計測における断面位置を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像制御部は、前記第1計測において、前記被検体の左右方向に沿った一次元方向をエコー信号の読み出し方向とするパルスシーケンスを実行して、1次元の計測データを取得する制御を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記断面位置算出部は、前記左右判定部が前記第1計測で取得した一次元の計測データを用いて左右判定した結果に基づき、一断面について第2計測における断面位置を算出し、前記第2計測で取得した前記一断面の計測データを用いて、前記一断面以外の断面について前記第2計測における断面位置を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像断面決定部は、前記第1計測または前記第2計測で取得した計測データから検査対象組織の特徴を抽出する特徴抽出部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像断面決定部は、前記第2計測で取得した複数スライス分の計測データから、検査対象組織を含む1枚のスライスデータを切り出し、MPR画像を作成する画像切り出し部をさらに備え、
前記特徴抽出部は、前記画像切り出し部が作成したMPR画像から検査対象組織の特徴を抽出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記特徴抽出部は、前記検査対象組織の特徴として、前記検査対象組織の位置及び傾きの少なくとも一方をマッチング処理により算出するマッチング処理部を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記特徴抽出部は、前記検査対象組織の特徴として、機械学習アルゴリズムを用いて画像データから前記検査対象組織の位置を抽出する物体抽出部を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項7に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記特徴抽出部は、前記検査対象組織について左右対称となる中心線とその傾きを算出する対称線検出部を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記左右判定部が判定した結果及び/又は前記断面位置算出部が算出した断面位置を表示装置に表示させる表示制御部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記表示制御部は、断面位置についてのユーザー変更を受付けるユーザーインターフェイスを備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像する際の撮像断面位置を自動設定する方法であって、
診断用画像を取得する本撮像に先立って、スカウト撮像の第1計測を実行し、1次元又は2次元の計測データを取得し、
前記第1計測で取得した計測データを用いて
、被検体の左右を判定し、
前記左右判定における判定結果と前記第1計測で取得した計測データと用いて、スカウト撮像の第2計測における断面位置を算出し、当該断面位置にて前記第2計測を実行し、2次元の計測データを取得し、
前記第2計測で取得した2次元の計測データを用いて前記本撮像における断面位置を算出することを特徴とする自動撮像位置設定方法。
【請求項15】
請求項14に記載の自動撮像位置設定方法であって、
前記第1計測で2次元の計測データを取得し、当該2次元の計測データを、前記被検体の左右方向に沿った一次元方向に投影した1次元データを作成し、
当該1次元データの信号強度をもとに前記被検体の左右を判定することを特徴とする自動撮像位置設定方法。
【請求項16】
請求項15に記載の自動撮像位置設定方法であって、
前記第1計測で取得した一断面の2次元の計測データを用いて、前記第2計測における前記一断面を含む複数断面の断面位置を算出することを特徴とする自動撮像位置設定方法。
【請求項17】
請求項14に記載の自動撮像位置設定方法であって、
前記第1計測で1次元の計測データを取得し、当該
1次元の計測データの信号強度をもとに前記被検体の左右を判定することを特徴とする自動撮像位置設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特にその撮像位置を自動設定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体の任意の方向の断面を撮像することができるため、診断に適した断面画像を得ることができる。一般に、MRIにおいて撮像断面を設定する場合、まず位置決めのためにアキシャル、コロナル、サジタルの3つの直交断面の画像を位置決め画像(スカウト画像ともいう)を取得し、スカウト画像上で解剖組織を目印として撮像位置を決定する。撮像位置の決定は、従来はユーザーインターフェイスを介して手動操作で行われていたが、スカウト画像の画像処理により自動的に撮像位置を提示する機能(自動位置決め機能という)が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
自動位置決め機能による撮像断面の決定は、スカウト画像に現われる解剖組織の特徴が画像処理によって比較的容易に抽出できるものである場合には、精度よく行うことができるが、複雑な三次元構造を持つ肩や膝などの関節では、一回取得したスカウト画像だけでは撮像位置の目印となる解剖組織の同定が難しい。このため、一回目のスカウト画像から二回目のスカウト画像の位置を決定し、二回目のスカウト画像で診断用の画像の撮像位置を決定する。
【0004】
決定した撮像位置は、それをユーザーが確認するために表示装置等により提示される。この際、ユーザーが提示された撮像位置が許容できるか否かを判別する必要があるため、撮像位置は、それを決定した際の目印となる解剖組織が同定可能な断面上に提示される。例えば、肩検査であれば、撮像位置を提示する画像として、肩甲骨と上腕骨が同定できるアキシャル面画像、上腕骨の傾きが同定できるオブリークのサジタル面画像、及び肩甲骨と上腕骨の関節面が同定できるオブリークのコロナル面画像が必要となる。
【0005】
このような要請に対し、肩関節のMR検査において、3次元のスカウト画像を取得し、3D Deformable mesh adaptionを用いたモデルベースのアルゴリズムで目印を検知し、撮像断面を自動位置決めする技術(非特許文献1)や、膝関節の検査において、3次元のスカウト画像を取得し、複数個所の異なる解剖構造の位置関係を検出することで誤検出を低減するとともに、解剖学的構造の不変性を抽出する階層学習を実施して、個々の膝の向きや曲がりなどの違いに起因する誤差を低減する技術(非特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】C.J. den Harderら,“Consistent automated scan planning of shoulder” Proc.Intl.Soc.Mag.Reson.Med. 19(2008),p3665
【文献】Yiqiang Zhan,“Robust Automatic Knee MR Slice Positionning Through Redundant and Hierarchical Anatomy Detection”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように従来の技術では、解剖学的構造が複雑な組織について自動位置決めの精度を高めるために3次元のスカウト画像を取得しているが、3次元撮像は撮像時間が長く、しかも撮像断面特定に必要ではない情報を多く含む。即ち過剰な情報を取得している。また決定した撮像断面を提示した後で、それが不適当と判断された場合、修正に手間がかかり、時間の長い3次元撮像を再度行わなければならない場合も生じる。
【0009】
そこで、本発明は解剖学的構造が複雑な組織について、短時間で精度の高い自動位置決めが可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複雑な組織の断面を自動化する際に必要となる処理には、左右を判定する処理と解剖学的特徴を抽出する処理が含まれ、これら処理に必要な情報、情報量が異なることに着目し、少ない情報で行う処理については短時間で取得できる計測を行うことより、計測する情報の取得効率を高め、精度を保ちながら自動位置決めの時間を短縮するものである。
【0011】
すなわち、本発明のMRI装置は、核磁気共鳴を用いて被検体の断面の画像を取得する撮像部と、撮像位置を決定するスカウト画像を取得するスカウト撮像、及び、診断用の画像を取得する本撮像を前記撮像部が行うよう制御する撮像制御部と、前記スカウト撮像で取得したデータを用いて、前記本撮像の撮像断面位置を決定する撮像断面決定部と、を備え、前記撮像制御部は、前記スカウト撮像として、1次元又は2次元の計測データを取得する第1計測、及び、2次元の計測データを取得する第2計測を実行する制御を行い、前記撮像断面決定部は、前記第1計測で取得した計測データを用いて、前記被検体の左右を判定する左右判定部と、前記左右判定における判定結果と前記第1計測で取得した計測データと用いて前記第2計測における断面位置を算出するとともに、前記第2計測で取得した計測データを用いて前記本撮像における断面位置を算出する断面位置算出部と、を備える。
【0012】
また本発明のMRI装置における自動撮像位置設定方法(自動位置決め方法)は、次のステップを含む。即ち、診断用画像を取得する本撮像に先立って、スカウト撮像の第1計測を実行し、1次元又は2次元の計測データを取得し、前記第1計測で取得した計測データを用いて、前記被検体の左右を判定し、前記左右判定における判定結果と前記第1計測で取得した計測データと用いて、スカウト撮像の第2計測における断面位置を算出し、当該断面位置にて前記第2計測を実行し、2次元の計測データを取得し、前記第2計測で取得した2次元の計測データを用いて前記本撮像における断面位置を算出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な組織の特徴抽出において前提となる左右判定を、1次元或いは2次元の計測データで行うことにより、冗長な計測データの取得を不要とし、全体としての撮像時間を短縮することができる。また左右判定に基づいて、それに続くスカウト撮像の断面位置を算出することにより、2次元のスカウト画像から撮像断面位置設定に必要な精度のよい情報を得ることができる。結果として、3次元データを取得する場合と同等の精度を保ちながら短時間で自動位置決めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のMRI装置の一実施形態の全体構成を示すブロック図。
【
図2】本発明が適用されるMRI装置の一例を示すブロック図。
【
図3】自動位置決め処理手順の概要を示すフロー図。
【
図5】実施形態1の自動位置決め機能を実行する計算機の機能ブロック図。
【
図6A】実施形態1の自動位置決めの手順の一例を示すフロー図で、2回目のスカウト撮像の断面位置決定までのフローを示す。
【
図6B】実施形態1の自動位置決めの手順の一例を示すフロー図で、本撮像の断面位置決定までのフローを示す。
【
図7】1回目のスカウト撮像で得た計測データを示す図で、(a)は2次元データである肩部のアキシャル画像を示す図、(b)は(a)の画像の一次元投影を示す図。
【
図8】物体抽出部の一例として、Adaptive boosting法のアルゴリズムを示す図。
【
図9】1回目のスカウト画像に対する特徴抽出部の処理を説明する図で、(a)はマッチング処理、(b)はその要部拡大図、(c)は特徴抽出後に決定される撮像断面位置を示す図。
【
図11】2回目のスカウト画像及びMPR画像に対する特徴抽出部の処理を説明する図で、(a)はスカウトAX画像、(b)はMPR処理後のSAG画像、(c)はMPR処理後のCOR画像を示す。
【
図12】本撮像の撮像断面位置の提示例を示す図で、(a)はAX面、(b)はSAG面、(c)はCOR面である。
【
図13】実施形態1と従来技術との効果の差を説明する図。
【
図14】実施形態2の自動位置決めの手順の一例を示すフロー図。
【
図15】2回目のスカウト画像及びMPR画像に対する特徴抽出部の処理を説明する図で、(a)はスカウトAX画像、(b)はMPR処理後のSAG画像、(c)はMPR処理後のCOR画像を示す。
【
図16】本撮像の撮像断面位置の提示例を示す図で、(a)はAX面、(b)はSAG面、(c)はCOR面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のMRI装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、MRI装置100は、核磁気共鳴を用いて被検体の断面の画像を取得する撮像部10と、撮像部10が取得した画像に対し種々の演算を施す演算部20と、撮像部10や演算部20の動作を制御する制御部30とを備えている。
【0017】
撮像部10の構成は、公知のMRI装置の撮像部の構成と同様である。具体的には、
図2に示すように、MRI装置100は、撮像部として、被検体(その検査部位)102が配置される空間に静磁場を発生させる静磁場磁石101、被検体102に対し高周波磁場を印加する送信用RFコイル103、静磁場の均一度を高めるためのシムコイル104、静磁場空間に3軸方向の傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイル105、及び被検体102から発生する核磁気共鳴信号(高周波信号)を検出する受信用RFコイル106などを備えている。また被検体102を静磁場空間に配置するための寝台107が設置されている。
【0018】
送信用RFコイル103は、高周波信号を発生する高周波発生部113に、シムコイル104はシム電源114に、傾斜磁場コイル105は傾斜磁場電源115に、それぞれ接続されている。また受信用RFコイル106は、核磁気共鳴信号の検波及びデジタルへの変換等を行う受信器116に接続されている。高周波発生部113、シム電源114、傾斜磁場電源115、受信器116は、計算機110の指令のもとで動作するシーケンサ117からの制御信号により動作する。計算機110には、付属装置としてディスプレイ(表示装置)111やマウスやキーボード等の入力装置112及び記憶装置118などが備えられており、傾斜磁場や高周波パルスのパルス形状や印加タイミングなどを予め定めパルスシーケンスを記憶装置118から読み出すとともに、入力装置112を介してユーザーが設定した撮像条件(撮像断面、エコー時間、繰り返し時間、繰り返し回数)などをシーケンサ117に設定する。これらより撮像部10によって所定の撮像或いは計測が実行される。撮像断面の方向は、3軸方向の傾斜磁場の組み合わせによって、位相エンコード方向、スライス方向、及び読み出し方向が決まり、それらを軸方向とする互いに直交する3つの断面(例えばアキシャル面、コロナル面、サジタル面)が決まる。
【0019】
撮像部10が実行する撮像には、診断用の画像を取得するための撮像(本撮像)のほかに、撮像時の断面位置(撮像位置)を決定のための位置決め撮像(スカウト撮像と呼ぶ)が含まれ、スカウト撮像には2つの計測、即ち、検査対象の左右を判定するために必要なデータを収集する第1計測(1回目のスカウト撮像)と、検査対象の組織や部位(まとめて組織という)の特徴を抽出するために必要なデータを収集する第2計測(2回目のスカウト撮像)とが含まれる。
【0020】
演算部20が行う演算には種々の演算が含まれるが、本実施形態のMRI装置においては、位置決め撮像で取得した計測データを用いて、画像取得のための撮像断面を決定する撮像断面決定部200が含まれ、撮像断面決定部200には、1回目のスカウト撮像で取得したデータ(第1計測データ)を用いて検査対象の左右を判定する左右判定部210と、スカウト撮像で取得したデータを用いて検査対象部位の特徴抽出を行う特徴抽出部230と、2回目のスカウト撮像及びその後に行われる本撮像における撮像断面の位置を算出する断面位置算出部250と、を備える。
【0021】
制御部30は、予め定められた検査プロトコル(検査対象に応じて撮像シーケンスの種類やその実行順序等を定めたもの)やユーザーの設定や指令に従って、撮像部10を制御する撮像制御部310と、演算部20の演算結果の提示やユーザーインターフェイスを介したユーザー設定の受付などを行う表示制御部330とを備える。撮像制御部310は、検査プロトコルの検査対象が膝関節や肩関節などの複雑な構造を持つ組織である場合、位置決め撮像として、撮像部10に2回のスカウト撮像を実行させる。また2回目のスカウト撮像の結果を用いて撮像断面決定部200が提示した撮像断面がユーザーに承認された場合、撮像部10にその断面で本撮像を実行させる。
【0022】
演算部20及び制御部30の機能は、予め定めたプログラムを、同一の或いは別個の計算機の中央処理装置(CPU)で実行することにより実現することが可能である。また演算部20の機能の一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programable Gate Array)などのハードウェアで実現してもよい。
図2に示す構成では、計算機110がその機能を実現する。
【0023】
本実施形態のMRI装置は、検査対象が特定されると、予め定めた手順に従って検査対象の撮像断面を決定するための位置決め撮像を自動的に行い、本撮像の撮像断面を決定し、ユーザーに提示する。
【0024】
以下、本実施形態による撮像断面決定の処理の流れを、
図3を参照して説明する。
【0025】
まず被検体102の検査部位の周囲に受信用RFコイル106を取り付け、被検体102を静磁場空間内に配置し、撮像制御部310は、撮像部10を制御し、1回目のスカウト撮像を実行し、第1計測データを取得する(S31)。1回目のスカウト撮像は、例えば、1回のRFパルスを照射後に読み出し傾斜磁場を印加しながらエコー信号を収集する計測であり、このエコー信号を1次元フーリエ変換することによって読み出し方向の信号強度(軸方向への投影値)を示す1次元のデータが得られる。この際、読み出し方向(例えばX方向とする)は、被検体102の左右方向と概ね一致させることが好ましい。第2の計測は、例えば、少ない位相エンコード数のエコー信号を計測する。このエコー信号を2次元フーリエ変換することにより、第2計測データとして2次元画像データが得られる。この計測では読み出し方向は被検体の左右方向と一致させなくともよい。
【0026】
撮像断面決定部200は、撮像部10から第1計測データを受け取り、まず左右判定部210が第1計測データから得られる読み出し方向の信号強度をもとに、画像の左右を判定する(S32)。ついで断面位置算出部250が左右判定部210の判定結果をもとに2回目のスカウト撮像における撮像断面位置を算出する(S33)。2回目のスカウト撮像では、アキシャル面画像(AX画像)、コロナル面画像(COR画像)及びサジタル面画像(SAG画像)を取得するので、これら三断面について、それぞれ撮像位置を算出する。
【0027】
具体的には、第1計測データが1次元データである場合には、左右判定結果を元に、2回目のスカウト撮像の一つの断面、例えばAX面の断面位置を決定する。そして、この断面位置で取得した2次元データ(例えばAX画像)から検査対象である部位の特徴(位置、傾き、形状など)を抽出し、その特徴に基づいて他の断面(SAG面、COR面)の位置や傾き(オブリーク面)を決定する。また第1計測データが例えば一つの断面(AX面)の2次元データである場合には、この2次元データを用いて左右判定を行うとともに、この2次元の画像データから抽出した検査対象部位の特徴を用いて、2回目のスカウト撮像における当該一つの断面を含む複数の断面の断面位置を決定する。
【0028】
2回目のスカウト撮像における撮像断面位置が決定されると、撮像制御部310は決定された位置に対応する傾斜磁場印加条件で2回目のスカウト撮像を行うように撮像部10を制御する(S34)。2回目のスカウト撮像では、所定位置のAX画像と、組織の構造に沿ったオブリークのSAG画像及びオブリークのCOR画像を撮像断面として、2次元の画像を得る撮像を行う。通常各断面の撮像では複数の平行な面の画像(複数のスライスデータ)を取得する。特に、サジタル面及びコロナル面については、その後にMPR(Multi-Planar Reconstruction)処理を行うために、それぞれ、複数のスライスデータを取得する。
【0029】
撮像断面決定部200は、撮像部10から2回目のスカウト撮像の画像データ(第2計測データ)を受け取り、本撮像の撮像断面を決定する(S35)。そのため、まず特徴抽出部230が、第2計測データに含まれる複数の画像から検査対象の組織の特徴を抽出し、画像の中心とすべき組織の位置や、複数のサジタル面画像及び複数のコロナル面画像から画像を切り出すための組織の傾きを算出する。この情報をもとに、複数のサジタル面画像及び複数のコロナル面画像に対し、それぞれMPR処理を行い特徴が含まれる面(切り出し面)を決定する。この面は、
図4に示すように、例えば、複数のサジタル面画像から切り出した面であり、サジタル面に対し所定の傾きを持つオブリーク面である。ついで、切り出し面において検査対象の組織の特徴を用いて、その傾きを算出する。このコロナル面についても、検査対象の組織の特徴を用いて、その傾きを算出する。以上の処理によって求められた検査対象となる組織の傾きや位置をもとに、例えば所定の位置が画像中心となり且つ検査対象組織の傾きと平行となるように、本撮像の撮像断面を決定する。
【0030】
撮像断面決定部200が3つの断面を決定すると、表示制御部330はその情報を受け取り、ユーザーに提示する(S36)。ユーザーへの提示方法は、例えば、ディスプレイに三断面の画像上に、推奨される撮像断面位置を重畳した画面を表示する。同じ画面に、例えば、その推奨撮像断面にて本撮像を開始するか否かのユーザー指示やユーザー調整を入力するユーザーインターフェイスを表示してもよい。ユーザーが本撮像の開始を入力した場合には(S37)、本撮像を開始する(S38)。ユーザー調整の場合には、提示した撮像断面位置の変更を受付け(S39)、ユーザー調整後に本撮像を開始する。これらの表示或いはユーザーインターフェイスの表示態様は種々の態様を取ることができ、後述の実施形態において、いくつかの例を詳述する。
【0031】
本実施形態のMRI装置によれば、自動位置決めの際に前提となる左右判定を一次元計測あるいは二次元計測で行い、その結果を利用して、本撮像断面位置決定に必要なデータを二次元計測で取得するので、2回目のスカウト撮像を含むスカウト撮像時間を大幅に低減することができる。また左右判定結果に基づいて2回目のスカウト撮像を行うことにより、二次元計測のスカウト撮像で得た画像における特徴抽出とそれに基づく撮像位置算出の精度を向上することができる。
【0032】
以下、具体的な検査部位について、本発明の自動位置きめ技術を適用した実施形態について説明する。
【0033】
[実施形態1]
本実施形態は、検査部位が肩関節である場合の自動位置決め処理の実施形態である。ここでは、撮像断面として、肩関節を中心として、上腕骨を含む三断面を自動設定する場合を説明する。
本実施形態においても装置の構成は、
図1及び
図2に示す構成と同様であり、また基本的な処理の流れは
図3と同様である。本実施形態における計算機110(演算部20及び制御部30)の自動位置決めに関する詳細な構成を
図5に示す。
図5において、
図1に示す要素と同じ要素は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。
【0034】
図5に示すように、撮像断面決定部200の特徴抽出部230は、特定の組織を同定する処理を行うマッチング処理部231、特定の組織を抽出する物体抽出部233、抽出された物体について左右対称線を検出する対称線検出部235、複数のスライスデータからMPR処理により1枚の画像(MPR画像)を切り出す画像切り出し部237を備える。また制御部30の機能として、表示装置111を介して、撮像断面位置に関するユーザー変更を受付けるとともに変更内容を実行する撮像位置調整/実行部320を備える。
【0035】
以下、撮像断面決定部200の各部の処理を中心に、本実施形態における撮像断面決定処理を、
図6を参照して説明する。
図6は、処理の流れを示す図で、
図6Aは、1回目のスカウト撮像から2回目のスカウト撮像用の撮像位置決定まで、
図6Bは、2回目のスカウト撮像から本撮像用の撮像位置決定までを示している。
【0036】
<S61:1回目のスカウト撮像>
撮像制御部310の制御のもと、撮像部10は1回目のスカウト撮像を実行し、スカウト画像を取得する。この実施形態では、対象領域を選択して二次元撮像を行い、1ないし複数のスライスのAX画像を取得するものとする。
【0037】
<S62:左右判定処理>
<<S62-1:一次元投影画像作成>>
左右判定部210は、スカウト撮像で取得したAX画像を入力とし、まず、それを体軸の左右軸に対応するx軸に投影した一次元投影画像を作成する。AX画像が複数のスライスデータからなる場合には、複数のスライスデータをそれぞれx軸に投影して得られる一次元投影画像を加算して、左右判定のための一次元投影画像とする。
【0038】
<<S62-2:左右判定>>
次いで左右判定部210は、一次元投影画像から検査部位が右肩か左肩かを判定する。例えば、右肩関節を検査する場合、受信用RFコイルは右肩に装着されており、その状態で取得した画像は、
図7(a)に示すように、右肩からの信号値が高く、それ以外の領域からの信号値は低い。即ち画像の左右方向(x軸方向)において信号値に偏りがある。これを利用して、一次元投影像(
図7(b))のx方向の信号の偏りから左右判定を行う。具体的には、信号値に閾値S
Tを設定し、信号値S(x)が閾値S
Tより高くなる位置(x)の平均値m
A(位置の平均値)を算出する。閾値S
Tは、例えば、判別分析法等の手法により算出する。或いは単純に最大値と最小値との中央値を閾値としてもよい。
【0039】
次に信号強度S(x)が閾値STより低くなる位置(x)の信号値の重み付き平均値mB(位置の平均値)を算出する。重みwiは各位置xにおける信号強度S(x)の規格値とする。
mB=Σ(wi×xi)/N
N:信号強度S(x)が閾値STより低くなる位置(x)の総数
wi=S(xi)/{ΣS(xi)/N}
【0040】
最後に平均値mAとmBとを比較し、mA>mBのときは左肩、mA<mBのときは右肩と判定する。なお平均値mA、mBの代わりに、信号値S(x)が平均値を取る位置を用いる、或いはmAについては信号値がピーク値となる位置を用いるなど変更が可能である。撮像断面決定部200は、判定結果をディスプレイに表示してもよい。これにより、ユーザーは、画像からは直ちに左右が判別できない場合にも、この表示によって左右のいずれが撮像されているか、検査プロトコルの対象が正しく撮像対象になっているかを確認することができる。
【0041】
<S63:特徴抽出>
左右判定後、特徴抽出部230は、1回目のスカウト画像(AX画像)を用いて、対象となる部位、ここでは肩関節、の特徴的な構造の探索と特徴抽出を行う。この探索の範囲は、例えば、左右判定により信号値が閾値より高いと判断された領域とする。
【0042】
<<S63-1:物体抽出>>
このステップでは、まず、物体抽出部233が、Adaptive boosting法など公知の物体抽出方法を用いて、上腕骨の関節面を探索する。Adaptive boosting法は、
図8に示すように、比較的簡易な機械学習アルゴリズムを用いた物体抽出法の一つであり、入力データxの特徴量から、各識別器h1(x)~hN(x)にて正解か否かを判定し、最終的な判別を弱識別器の重み付き多数決で決定する。学習の過程で、入力データxと予め正解と不正解の分かっている出力データyを用いて、正解と不正解をもっとも精度よく分離する各各識別器の重みα1~αNを算出する。上腕骨の関節面画像を抽出したい場合には、複数の画像から関節面画像を抽出して正解データとし、他断面の画像や上腕骨面の画像を黒塗りするなどして上腕骨の特徴を失わせた画像を不正解データとして用いる。さらに学習用のデータとして、元画像を-45度~45度まで5度間隔で回転させた画像など角度を異ならせた画像も加えてもよい。
【0043】
このような機械学習アルゴリズムの学習過程で用いた入力データxと同じサイズの画像データを、AX画像の探索範囲から抽出して入力データとして学習済み機械学習アルゴリズムに入力し、上腕骨の関節面画像と判定された画像データを抽出する。これにより、上腕骨関節面の候補の画像が複数得られる。
【0044】
<<S63-2:マッチング>>
上腕骨関節面の複数の候補から、マッチング処理部231は、上腕関節面の位置及び肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインの傾きを算出する。
具体的には
図9(a)、(b)に示すように、マッチング処理によって肩甲骨の両端部(関節唇)の位置を特定し、これを囲む領域を関節面の位置801とする。また肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインL1のテンプレートに対する傾きを求める。
【0045】
<<S63-3:対称線検出>>
さらに、対称線検出部235が、肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインL1に沿って、ラインL1に垂直な対称線L3を検出し、上腕骨の中心位置を算出する。
【0046】
対称線の検出は、以下のような手法を用いることができる。まず対象となるアキシャル面画像において、
図10に示すように、画像上に与えた中心線Lcの左右両側に幅W、高さHの領域ROI
A、ROI
Bを抽出し、ROI
AとROI
Bの左右反転画像との一致度(或いはROI
BとROI
Aの左右反転画像との一致度)を算出する。一致度の算出は、例えばSSD(Sum of Squared Difference)やSAD(Sum of Abosolute Difference)など公知の手法を用いることができる。ROIの大きさ(W、H)は、検査対象に応じて所定の予めプリセットしておくものとする。
【0047】
このような一致度の算出を、ROI
A、ROI
Bを設定する位置を所定の探索範囲で変化させながら、一致度がもっとも高くなる中心線の位置を対称線とする。探索範囲は、例えば、
図9(b)の対称線L3を抽出する場合、ラインL1に沿った所定の範囲(PsからPeまでの範囲)とし、各位置でPsとPeとを結ぶ線に対しオフセット距離Oを与えた位置を中心として中心線Lcの角度φを変化させて角度毎の一致度を求める。つまりROIの中心の位置と中心線の角度の両方を変化させながら一致度を算出し、一致度が最大となる位置及び角度を求める。所定の範囲及びオフセット距離は、対象とする部位に応じて予めプリセットしておくものとする。このような探索によって一致度が最大となる位置及び角度で決まるラインを対称線L3とする。
図9(b)の例では、こうして決定した対称線L3とラインL1との交点を上腕骨の中心位置802とする。
【0048】
<S64:断面位置算出>
断面位置算出部250は、以上のステップS63で得られた上腕骨関節面の位置801や上腕骨の中心位置802をもとに、2回目のスカウト撮像における推奨撮像位置を算出する。具体的には、上腕骨の中心位置802が中心となるように推奨アキシャル面(AX面)を算出する。また肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインL1に平行なコロナル面(オブリークCOR面)と、それに垂直なサジタル面(オブリークSAG面)をそれぞれ2回目スカウト撮像の推奨撮像位置とする。オブリークCOR面とオブリークSAG面については、上腕骨の中心位置802を含む面を中心スライスとして、それぞれ複数のスライス面を設定する。なお各断面のFOVやスライス数は、予め設定された撮像条件により設定されている。
【0049】
<S65:推奨撮像位置提示>
表示制御部330は、撮像断面決定部200が決定した推奨断面をディスプレイ111に表示する。推奨断面の表示方法は特に限定されないが、例えば、
図9(c)に示すように、1回目のスカウトAX画像の上に、2回目のスカウト撮像位置として、肩甲骨と上腕骨を結ぶ線L1に平行な複数のCOR面の位置、肩甲骨と上腕骨を結ぶ線L1に垂直な複数のSAG面の位置、上腕骨の中心位置802を中心とするAX面の位置をそれぞれ提示する。ユーザーは、提示された推奨撮像断面で問題がないかを確認し、2回目のスカウト撮像に進むことができる。また表示制御部330は、推奨撮像位置の表示とともにユーザー調整を受付けるGUI等のユーザーインターフェイスを表示してもよく、その場合、ユーザーはユーザーインターフェイスを介して推奨撮像位置の調整を行うことができる。以上のステップS61~S65により(
図6A)、2回目のスカウト撮像の位置の自動設定が完了する。
【0050】
<S66:2回目のスカウト撮像>
撮像制御部310は、ユーザーからの2回目のスカウト撮像開始の指示を受けて、スカウト撮像を開始する。撮像部10は、2回目のスカウト撮像では、上記ステップS64で決定された各撮像断面(AX面、オブリークCOR面、オブリークSAG面)、或いはユーザーによる位置調整後の撮像断面の位置で撮像を行い、スカウト画像を取得する。
【0051】
<S67、S68:スカウト画像の特徴抽出及び撮像断面位置算出>
撮像断面決定部200は、2回目のスカウト撮像で取得した画像(AX画像、オブリークSAG画像、及び、オブリークCOR画像)を用いて、本撮像における撮像断面位置の算出を行う。本実施形態では、本撮像の撮像断面位置は、上腕骨の関節面を画像の中心として、AX面は上腕骨の方向に対し垂直な面となり、SAG面及びCOR面は上腕骨の方向が画像の一つの軸(縦軸)となるように三断面を決定する。
【0052】
<<S67-1:AX画像を用いた処理>>
このため、まず2回目のスカウト撮像のAX画像を入力として、ステップS63-2と同様に、マッチング処理により、
図11(a)に示すように、上腕骨関節面の位置811を特定するとともに、肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインL11の傾きαを算出する。さらに、対称線抽出処理により、L11に垂直な対称線L33を抽出し、L11と対称線L33との交点である上腕骨の中心812を算出する。ラインL11に垂直な面と上腕骨の中心位置812の情報は、次のステップS67-2においてSAG面のMPR画像を作成する際の位置情報として用いられる。
【0053】
<<S67-2:SAG画像を用いた処理>>
次に複数のスライスデータからなるオブリークSAG画像から
図4に示したようにMPR画像を作成する。SAG面のMPR画像は、ステップS67-1で得られた情報を用い、上腕骨の中心位置を通り、肩甲骨と上腕骨を結ぶラインに垂直な平面とする。これにより、
図11(b)に示すようなSAGのMPR画像が作成される。このMPR画像において、さらに上腕骨の傾き(MPR画像上の上腕骨の傾き)βを求める。上腕骨の傾きβを求める処理は、
図10を用いて説明した対称線の抽出処理と同様である。即ち、上腕骨の形状に合わせてサイズが予め定められたROI(ROI
A、ROI
B)を画像上に設定し、所定の検索範囲でROIを移動しながら且つ各位置でのROIの角度を変更しながら、それぞれの位置及び角度で、ROI内の画像とその左右反転画像との一致度を算出し、一致度が最大となる位置及び角度を求める。この位置と角度のときの左右二つのROI
A及びROI
Bの中心線を対称線とし、この対称線の角度を上腕骨の傾きβとする。
【0054】
<<S67-3:COR画像を用いた処理>>
次に、ステップS67-2で求めた対称線の角度βと位置及びステップS67-1で算出した肩甲骨と上腕骨とを結ぶラインL11の傾きαを用いて、2回目のスカウト撮像で得られたオブリークCOR画像からMPR画像を作成する。このMPR画像もSAG面のMPR画像と同様に、
図11(c)に示すように、上腕骨の関節面中心を通り、肩甲骨と上腕骨を結ぶラインL11及び上腕骨の傾きβに平行な平面のMPR画像を作成する。上腕骨の傾きβの情報は、上述したオブリークSAG面画像の対称線抽出処理において求められている。ついで作成したCOR面のMPR画像から、このCOR面における上腕骨関節面の中心位置813と傾きγを算出する。この処理は、上述した対称線抽出処理と同様に行うことができる。即ち上腕骨について対称線を抽出し、抽出した対称線と直交する方向の傾きを、上腕骨関節面の傾きγとする。あるいは,マッチング処理にて上腕骨関節面の位置および傾きγを算出する方法もある。
【0055】
<S68:撮像断面位置決定>
断面位置算出部250は、ステップS67-1~ステップS67-3で求めた
上腕骨関節面の位置813及び上腕骨の傾き(β、γ)をもとにアキシャル面、サジタル面、コロナル面の撮像位置を算出する。具体的には、アキシャル面の撮像位置は、
図12(a)に示すように、上腕骨関節面を画像の中心とし、肩甲骨と上腕骨を結ぶラインL11と垂直な方向に上腕骨の傾きβに相当する角度だけ傾き、上腕骨中心を中心としてラインL11の方向に沿って、傾きγに相当する角度だけ傾いたオブリークAX面となる。
【0056】
同様にサジタル面及びコロナル面の撮像位置は、それぞれ、上記オブリークAX面に直交し、且つ互いに直交するオブリークSAG面、オブリークCOR面であり、
図12(b)(c)に示すように、上腕骨関節面を中心とし、上腕骨の軸に沿って傾いたオブリーク面となる。
【0057】
<S69:推奨撮像位置提示>
表示制御部330は、以上の処理によって決定した本撮像の撮像位置を表示装置に表示させる。撮像位置の表示例は、例えば
図12(a)~(c)に示したように、2回目のAX面スカウト画像、SAG面のMPR画像、及びCOR面のMPR画像の上に、撮像位置を四角い枠線で囲って示すことができる。ユーザーは、本撮像で取得す画像の位置や範囲を確認することができる。また枠線をユーザーが変更可能なGUIとしてもよく、これによりユーザーは枠線の位置や大きさを変えることで撮像位置の調整を行うことができる。
【0058】
ユーザーによる変更を受付けた場合は(S70)、断面位置算出部250がユーザー変更を反映した撮像断面位置を再度算出し、表示制御部330により表示装置111に表示してもよい。或いはユーザーによる変更を撮像位置調整/実行部320が受付けて、撮像位置を決定する撮像パラメータを変更してもよい。撮像制御部310は、最終的に決定した撮像断面位置にて撮像を開始する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、1回目のスカウト撮像を開始した後、自動的に本撮像の撮像断面位置を決定することができる。その際、1回目のスカウト撮像及び2回目のスカウト撮像に三次元撮像を採用することなく撮像断面位置決定に必要かつ十分な情報を収集することができるので、従来技術に比べ短時間で自動位置決め機能を達成することができる。
【0060】
スカウト撮像から自動撮像断面位置設定までの時間を、従来技術と本実施形態を適用した場合とで比較したタイムチャートを
図13に示す。図示するように、スカウト撮像として三次元撮像を採用した従来技術では、撮像に40~60秒、自動位置設定に5~秒、最大で80秒程度の時間がかかるのに対し、本実施形態によれば、撮像時間及び演算時間の両方を低減することができ、最大でも34秒程度で自動位置設定を完了することができる。
上記の実施例では,2回目のスカウト撮像でAX画像、SAG画像、COR画像を取得する例について説明したが、AX画像は1回目に撮像しているため、2回目の撮像においては省略することもできる。これによって、より短い計測時間で撮像位置の自動設定が完了できる。
【0061】
[実施形態2]
本実施形態は、検査部位が膝関節である場合の自動位置決め処理の実施形態である。ここでは、関節面の中心位置を画像の中心とし、AX面は大腿骨及び脛骨とほぼ垂直な面、COR面及びSAG面は大腿骨及び脛骨の方向とほぼ平行な面、となるように本撮像の断面位置を決定する。
本実施形態においても装置の構成は、実施形態1と同様であり、以下、実施形態1と異なる点を中心に、
図14を参照して説明する。
図14は、本実施形態の自動位置決め処理を示すフローである。
【0062】
本実施形態では、1回目のスカウト撮像が一次元計測である場合を説明する。
<S81、S82:左右判定>
撮像制御部310の制御のもと、一次元計測のスカウト撮像を行った後(S81)、左右判定部210は、一次元投影像(例えば
図7(b)に示したようなグラフ)を入力として、検査部位が右膝か左膝かの判定を行う(S82)。本実施形態では、スカウト撮像で一次元データが得られるので、投影処理は不要である。左右の判定方法は実施形態1と同様に左右の軸に相当するx方向の信号値の強度の偏りから判定する。
【0063】
<S83:一断面のスカウト撮像位置決定>
断面位置算出部250は、左右判定部210の判定結果に基づき、左右どちらかに中心を合わせた2回目のスカウト撮像における推奨撮像位置(AX面の位置)を決定する(S83)。2回目のスカウト撮像の撮像位置としては、例えば、一次元プロファイルから算出した信号強度S(x)が閾値より高くなる位置xの平均値m
A
の位置をFOVの中心とするAX面を設定する。
【0064】
この際、左右判定部210による判定結果をユーザーの確認のために表示装置111に表示してもよい。提示方法は、左右のいずれであるかを示してもよいし、1回目のスカウト撮像で得られた一次元プロファイルと判定結果を表示してもよい。ユーザーは、この表示により検査プロトコルの検査対象に対し正しく受信RFコイルが装着されているかなどを確認することができる。
【0065】
<S84~S86:特徴抽出と他断面のスカウト撮像位置決定>
撮像制御部310は設定された位置で、まずAX画像(複数のスライスのAX画像)、それぞれ直交するCOR画像(複数のスライスのCOR画像)、SAG画像(複数のスライスのSAG画像)を取得する(S84)。本撮像用のCOR面の設定のため、ステップS82のスカウト撮像で取得したAX画像を入力として、マッチング処理により、
図15(a)に示すように、内側顆と外側顆とを結ぶラインL4の傾き(θ4)を算出する(マッチング処理部231の処理)。
【0066】
次にCOR面のスカウト撮像で取得した複数のスライスデータを用いて特徴抽出を行う(S85)。まず、COR面の複数のスライスデータに対し、画像切り出し部237によるMPR処理を行い、
図15(b)に示すように、内側顆と外側顆とを結ぶラインL4を通るCOR面のMPR画像を作成する。このCOR面のMPR画像において、マッチング処理部231により関節面の中心位置を求める。この中心位置を通り、COR面に直交する面をSAG面とする。
【0067】
さらに、SAG面の複数のスライスデータに対し関節面中心位置でMPR処理を行い、
図15(c)に示すようなSAG面のMPR画像を作成し、本撮像の撮像断面位置決定に必要な特徴抽出を行う(S86)。まず、作成したSAG面画像のMPR画像に対し、関節面上部及び下部のそれぞれについて、対称線検出部235が対称線抽出処理を行い、対称線L5、L6を求め、その傾きを算出する。関節面より上部の対称線の傾きは大腿骨の傾き(θ5)とみなすことができ、関節面より下部の対称線の傾きは脛骨の傾き(θ6)とみなすことができる。
【0068】
<S87:本撮像の断面位置算出、S88:表示>
断面位置算出部250は、ステップS84で得た内側顆と外側顆とを結ぶラインL4の傾き(θ4)、及びステップS86で得た大腿骨及び脛骨の傾き(θ5、θ6)を用いて本撮像の撮像位置を算出し、提示する(S88)。例えば、本撮像の各断面は、関節面の中心位置が画像の中心となるように設定され、AX面については、内側顆と外側顆とを結ぶラインL4と画像の横軸とが平行になり、且つ大腿骨の傾きと脛骨の傾きとを平均化した傾きに対し直交する面となるように設定される。SAG面については、画像の縦軸が大腿骨の傾きと脛骨の傾きとの平均傾きと平行になり、且つ内側顆と外側顆とを結ぶラインL4の方向と直交する面となるように設定される。COR面については、大腿骨の傾きと脛骨の傾きとの平均と平行であって、且つ内側顆と外側顆とを結ぶラインL4と平行な面に設定される。
【0069】
このような三断面の表示例を
図16(a)~(c)に示す。図示する例では、三断面のそれぞれについて、スカウト撮像で得たAX画像、MPR処理したCOR画像、MPR処理したSAG画像を表示し、それぞれに重畳して、各断面の位置(太線の四角)が表示される。本実施形態においてもユーザー変更を受け付けることができる(S89)。
【0070】
本実施形態によれば、自動位置決めの際に前提となる左右判定を一次元計測のみで行うので、2回目のスカウト撮像を含むスカウト撮像時間を大幅に低減することができる。またも左右判定結果に基づいて2回目のスカウト撮像を行うことにより、2回目のスカウト撮像で得た画像の特徴抽出とそれに基づく撮像位置算出の精度を向上することができる。
【0071】
本実施形態では、一次元撮像にて左右を判定するため、左右の位置を確認するためのスカウト撮像が不要となる。一次元の撮像時間は1秒程度、その後の三断面のスカウト撮像時間は10~15秒、処理時間が2秒であるので、最大でも18秒以内に自動位置決め設定を行うことができ、三次元撮像を行う従来技術に比べ時間の短縮効果が得られる。
【0072】
以上、本発明の自動位置決め技術を、肩関節及び膝関節に適用した実施形態を説明したが、本発明はこれらの部位に限定されることなく、左右判定を必要とする部位、主として関節のMRI検査について同様に適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
10:撮像部、20:演算部、30:制御部、100:MRI装置、101:静磁場磁石、103:送信用RFコイル、105:傾斜磁場コイル、106:受信用RFコイル、110:計算機、111:表示装置、112:入力装置、117:シーケンサ、118:記憶装置、200:撮像断面決定部、210:左右判定部、230:特徴抽出部、231:マッチング処理部、233:物体抽出部、235:対称線検出部、237:画像切り出し部、250:断面位置算出部、310:撮像制御部、330:表示制御部。