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特許7320434低温液貯槽及びその製造方法及び側部冷熱抵抗緩和層の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】低温液貯槽及びその製造方法及び側部冷熱抵抗緩和層の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/18 20060101AFI20230727BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20230727BHJP
   F17C 3/04 20060101ALI20230727BHJP
   B65D 90/06 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
E04H7/18 C
E04B1/76 400H
F17C3/04 D
B65D90/06 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019210584
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021080777
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000113517
【氏名又は名称】BASF INOACポリウレタン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】株式会社IHIプラント
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 計仁
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】伊熊 健二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 伸也
(72)【発明者】
【氏名】中村 英晃
(72)【発明者】
【氏名】小松 駿也
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077994(JP,A)
【文献】特開平10-246397(JP,A)
【文献】特開2012-171655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0130898(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18
E04B 1/76
F17C 3/04
B65D 90/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われる一方、前記外槽の内側面が、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層がコーティングされている低温液貯槽であって、
前記側部冷熱抵抗緩和層は、前記防熱層の内側面に、前記低温液を前記外槽の面方向に拡散させる拡散層を有している、低温液貯槽。
【請求項2】
前記拡散層は、前記防熱層よりも通気性が高い、請求項1に記載の低温液貯槽。
【請求項3】
前記拡散層のコア部における該拡散層の厚み方向の通気性(JIS K 6400-7 B法:201 2/ISO 7231:2010)が、0.05~30ml/cm/sである、請求項1又は2に記載の低温液貯槽。
【請求項4】
前記拡散層は、ウレタンフォームである、請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項5】
前記拡散層は、前記防熱層よりも密度が小さい低密度硬質ウレタンフォームである、請求項1乃至4のうち何れか1の請求項に記載の低温液貯槽。
【請求項6】
前記低密度硬質ウレタンフォームからなる前記拡散層は、前記防熱層に直接固着している、請求項5に記載の低温液貯槽。
【請求項7】
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われている低温液貯槽における前記外槽の内側面に、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層をコーティングする施工方法であって、
前記外槽の内側面にウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて防熱層を形成する第1工程と、
前記防熱層の内側面に、前記低温液を前記外槽の面方向に拡散させる拡散層を積層する第2工程とを行って、
前記防熱層と前記拡散層とを含んだ前記側部冷熱抵抗緩和層を前記外槽の内側面にコーティングする側部冷熱抵抗緩和層の施工方法。
【請求項8】
0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われている低温液貯槽における前記外槽の内側面に、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層をコーティングする施工方法であって、
前記外槽の内側面に第1ウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて防熱層を形成する第1工程と、
前記防熱層の内側面に、第2ウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて前記防熱層よりも通気性が高く、かつ、密度が小さい低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層を形成する第2工程とを行って、
前記防熱層と、前記拡散層とを含んだ前記側部冷熱抵抗緩和層を前記外槽の内側面にコーティングする側部冷熱抵抗緩和層の施工方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の側部冷熱抵抗緩和層の施工方法を使用して低温液貯槽を製造する低温液貯槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0℃以下の低温液が貯留される低温液貯槽、及びその製造方法、及び、低温液貯槽の防液堤を冷熱衝撃から保護する側部冷熱抵抗緩和層の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の低温液貯槽は、内部に低温液を貯留する内槽と、その内槽を外側から覆う外槽とを備え、外槽の内側面に側部冷熱抵抗緩和層が形成されている。側部冷熱抵抗緩和層として、硬質ウレタンフォームの表面にメッシュ構造の補強シートを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3044605号(段落[0002]、図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の低温液貯槽では、補強シートが硬質ウレタンフォームの表面から浮いたり、はがれた場合に、漏洩した低温液により硬質ウレタンフォームが冷熱衝撃にさらされるという問題があり、側部冷熱抵抗緩和層の硬質ウレタンフォームに伝わる冷熱衝撃の緩和を図ることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われる一方、前記外槽の内側面が、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層がコーティングされている低温液貯槽であって、前記側部冷熱抵抗緩和層は、前記防熱層の内側面に、前記低温液を前記外槽の面方向に拡散させる拡散層を有している、低温液貯槽である。
【0006】
請求項2の発明は、前記拡散層は、前記防熱層よりも通気性が高い、請求項1に記載の低温液貯槽である。
【0007】
請求項3の発明は、前記拡散層のコア部における該拡散層の厚み方向の通気性(JIS K 6400-7 B法:201 2/ISO 7231:2010)が、0.05~30ml/cm/sである、請求項1又は2に記載の低温液貯槽である。
【0008】
請求項4の発明は、前記拡散層は、ウレタンフォームである、請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の低温液貯槽である。
【0009】
請求項5の発明は、前記拡散層は、前記防熱層よりも密度が小さい低密度硬質ウレタンフォームである、請求項1乃至4のうち何れか1の請求項に記載の低温液貯槽である。
【0010】
請求項6の発明は、前記低密度硬質ウレタンフォームからなる前記拡散層は、前記防熱層に直接固着している、請求項5に記載の低温液貯槽である。
【0011】
請求項7の発明は、0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われている低温液貯槽における前記外槽の内側面に、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層をコーティングする施工方法であって、前記外槽の内側面にウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて防熱層を形成する第1工程と、前記防熱層の内側面に、前記低温液を前記外槽の面方向に拡散させる拡散層を積層する第2工程とを行って、前記防熱層と前記拡散層とを含んだ前記側部冷熱抵抗緩和層を前記外槽の内側面にコーティングする側部冷熱抵抗緩和層の施工方法である。
【0012】
請求項8の発明は、0℃以下の低温液が貯留される内槽と、その外側を覆う外槽との間に保冷層が配置されると共に、前記外槽の外側面がコンクリート製の防液堤で覆われている低温液貯槽における前記外槽の内側面に、前記保冷層として、前記低温液の漏れを抑え、冷熱衝撃を緩和するために、硬質ウレタンフォームを含む防熱層を有する側部冷熱抵抗緩和層をコーティングする施工方法であって、前記外槽の内側面に第1ウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて防熱層を形成する第1工程と、前記防熱層の内側面に、第2ウレタンフォーム原料を塗布し、発泡硬化させて前記防熱層よりも通気性が高く、かつ、密度が小さい低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層を形成する第2工程とを行って、前記防熱層と、前記拡散層とを含んだ前記側部冷熱抵抗緩和層を前記外槽の内側面にコーティングする側部冷熱抵抗緩和層の施工方法である。
【0013】
請求項9の発明は、請求項7又は8に記載の側部冷熱抵抗緩和層の施工方法を使用して低温液貯槽を製造する低温液貯槽の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1,4,7,9の発明によれば、漏洩した低温液は、硬質ウレタンフォームを含む防熱層よりも先に拡散層に接触し、低温液は拡散層の厚み方向だけでなく、外槽の面方向にも拡散される。拡散層において、低温液が外槽の面方向に拡散されることにより、防熱層は、局所的に急激に冷却されることが抑制され、面方向に広がった低温液によりゆっくりと時間をかけて冷却される。これにより、低温液による冷熱衝撃が、拡散層で緩和され、防熱層に急激に伝わることが低減される。
【0015】
そして、請求項2,3の発明のように、拡散層を、防熱層よりも通気性が高い構成とすれば、低温液が防熱層に到達する前に、拡散層で低温液を面方向に拡散させることができる。例えば、請求項5,8のように、拡散層を低密度硬質ウレタンフォームとすれば、低温液が接触した低密度硬質ウレタンフォームの内部に入り込む。このとき、低温液は、低密度硬質ウレタンフォーム内部の連通した空孔を通って外槽の面方向に拡散される。
【0016】
また、拡散層を備えることによって、上述したように、低温液の冷熱衝撃から防熱層の硬質ウレタンフォームを保護することができるので、従来のように硬質ウレタンフォームの表面を補強するためのメッシュ構造の補強シートを備えなくてもよい(請求項6の発明)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係る低温液貯槽の破断正面図
図2】タンク部の拡大断面図
図3】側部冷熱抵抗緩和層の断面図
図4】低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層の内部に進入した液化天然ガスの流れを示す概略図
図5】外槽の内側面への側部冷熱抵抗緩和層の施工状態を示す図
図6】側部冷熱抵抗緩和層の施工方法の流れを示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の一実施形態を図1図4に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の低温液貯槽100は、内槽20と外槽30とを備えた中空円筒状のタンク部40と、タンク部40の周囲を取り囲む円筒状の防液堤50と、からなる。タンク部40は、内槽20の内部に液化天然ガスLを貯留する。なお、低温液貯槽100の容量は、一般的に14万~23万kLであり、23万kLの低温液貯槽100では、防液堤50の直径は約90mであり、その高さは約40mとなる。
【0019】
内槽20及び外槽30は、それぞれ天井部21,31を備え、その内部が外部に対して遮断された構造となっている。天井部21,31は、中央部が膨らんだドーム形状をなし、気化した液化天然ガスLが充満する空間となっている。内槽20及び外槽30は共に、金属で構成されていて、例えば、低温靭性の観点から、鉄や鋼鉄等が好ましい。特に、内槽20は、常時極低温に曝されるため、低温靭性に優れた鉄を主成分とするニッケル等の合金が好ましい。
【0020】
防液堤50は、液化天然ガスLの漏洩事故発生時に液化天然ガスLの拡散防止のために設置されていて、本実施形態では、防液堤50の内側面は、外槽30の外側面に重ねられている。なお、防液堤50は、ひび割れしにくいプレストレストコンクリートで構成されている。
【0021】
タンク部40において、内槽20と外槽30の間に形成される空間Kには、液化天然ガスLを-160℃程度に保ち、液化天然ガスLの気化を低減するための保冷層60が備えられている。保冷層60は、天井部保冷層61、側部保冷層62、底部保冷層63から構成されている。
【0022】
詳細には、内槽20及び外槽30のうち、天井部21,31に形成される空間Kには、天井部保冷層61として、断熱性能を有する粒状パーライト等が充填されている。内槽20と外槽30のうち、側部22,32に形成される空間Kには、側部保冷層62として、外槽30の内側面30Sに側部冷熱抵抗緩和層10がコーティングされると共に、側部冷熱抵抗緩和層10と内槽20との間に、天井部保冷層61と同様に粒状パーライト等が充填されている。また、内槽20及び外槽30のうち、底部23,33に形成される空間Kには、底部保冷層63として、耐荷重性能及び断熱性能を有するパーライトコンクリート、軽量気泡コンクリート等が配設されている。なお、側部冷熱抵抗緩和層10は、漏洩した液化天然ガスLの冷熱衝撃が、防液堤50に急激に伝わることを防止するために形成されている。ここで、側部保冷層62が本開示の「保冷層」に相当する。
【0023】
図2に示すように、側部冷熱抵抗緩和層10は、外槽30の内側面30S全体を覆う側面冷熱抵抗緩和層10Sと、外槽30の内底面30Tのうち、周縁部を全周に亘って覆う環状の底面冷熱抵抗緩和層10Tとからなる。底面冷熱抵抗緩和層10Tは外縁部が側面冷熱抵抗緩和層10Sの下端部と連続し、内縁部は、上方に曲げられて、その端面が内底面30Tを覆う底部保冷層63の端面に突き当てられている。仮に、外槽30の内部に液化天然ガスLが流入してきても、その冷熱衝撃を所定の期間、防液堤50まで到達させることなく外槽30の内側で緩和できるようになっている。
【0024】
図3には、本実施形態の側部冷熱抵抗緩和層10の断面構造が示されている。側部冷熱抵抗緩和層10は、外槽30の内面(内側面30S及び内底面30T)に、下吹き層12、防熱層13(13A,13B)、拡散層14が積層されてなる。
【0025】
防熱層13は、下吹き層12に積層されていて、ウレタンフォーム原料を発泡硬化させて形成される硬質ウレタンフォームで構成されている。防熱層13は、液化天然ガスLの冷熱衝撃を緩和して冷熱衝撃が防液堤50に影響を与えることを抑制する必要がある。そのため、構成される硬質ウレタンフォームは、優れた断熱性能及び圧縮強度を有し、かつ、空間の効率利用の観点から厚みは薄い方が好ましい。具体的には、密度が40~90kg/m、通気性が1ml/cm/s以下、熱伝導率が0.040W/mK以下、圧縮強度が360kPa以上のものが好ましく、厚みは、40mm以上60mm以下が好ましい。なお、本実施形態では、防熱層13は2層(13A,13B)で構成されているが、1層であってもよいし、3層以上で構成されていてもよい。ここで、防熱層13のスキン層は、高密度のウレタン層であり、コア部に比べてウレタン樹脂の比率が増すため、熱伝導率が高くなり、断熱性能が低下する。このため、防熱層を構成する層の数は少ない方が好ましく、1層又は2層で構成することがより好ましい。
【0026】
本実施形態の防熱層13は、密度、65kg/m、通気性、0.01ml/cm/s以下、熱伝導率、0.022W/mK、圧縮強度、520KPaである。測定方法及び、測定用サンプルの作製方法については後述する。
【0027】
なお、防熱層13に求められる圧縮強度は、一般社団法人 日本ガス協会のLNG地上式貯槽指針における「9.5.2.2 荷重の算定」より、防液堤の高さを40m(23万kLの低温液貯槽を想定)とし、「8.4.4 冷熱抵抗緩和材」より、安全率を2.0として算出すると、約360KPaとなる。そのため、防熱層13に必要な圧縮強度は、360KPa以上となる。
【0028】
下吹き層12は、外槽30の内面に直接積層される層であり、防熱層13の接着性を確保するためのプライマー的役割を果たす層である。下吹き層12は、防熱層13と同じ硬質ウレタンフォームで構成されていて、防熱層13と同じウレタンフォーム原料を外槽30の内面に吹き付け、硬化又は発泡硬化させて形成される。下吹き層12の厚みは、0.1~5mmが好ましい。
【0029】
拡散層14は、防熱層13の内側面に積層され、側部冷熱抵抗緩和層10の最表面を構成して防熱層13を冷熱衝撃から保護する保護層となっている。拡散層14は、防熱層13と同様に、ウレタンフォーム原料を発泡硬化させて形成されるが、防熱層13よりも低密度かつ、通気性の高い低密度硬質ウレタンフォームで構成されている。
【0030】
本実施形態では、拡散層14を防熱層13よりも低密度かつ、通気性の高い硬質ウレタンフォームとしたが、軟質ウレタンフォームや繊維体としてもよい。これらを用いる場合、拡散層14の厚み方向に液化天然ガスLが透過し難い厚みや目付量等に設定すればよい。また、拡散層14の面方向に拡散し易くするために、軟質ウレタンフォームであれば、熱プレス成形することにより、気泡(セル)の長径が外側槽30の内面と略平行となるようにしたり、繊維体であれば、バインダ(接着剤)の塗布量(目付量)や塗布方法等を調整し、繊維の並ぶ方向を外側槽30の内面と略平行となるようにすればよい。何れの場合であっても、防熱層13よりも通気性を高くすることで、拡散層14の面方向に液化天然ガスLを拡散し易くすることができる。
【0031】
ここで、拡散層14と防熱層13を構成する硬質ウレタンフォームについて説明する。図4に示すように、どちらの硬質ウレタンフォームも、1つ1つの気泡Pが独立した独立気泡構造のセル(気泡)を有する多孔質体であり、気泡Pの中に封じ込められたガスは独立し、温度変化が隣接する気泡Pのガスに伝わりにくくなって、優れた断熱性能を発揮する。但し、防熱層13を構成する硬質ウレタンフォームは、拡散層14を構成する低密度硬質ウレタンフォームに比べて、独立気泡構造を有する気泡Pを多く有しているのに対し、拡散層14を構成する低密度硬質ウレタンフォームは、独立気泡構造を有する気泡Pよりも、一部の気泡Qが連通した連続気泡構造を有する気泡Qを多く有している。つまり、防熱層13に比べて、連続気泡構造の気泡Qの割合が高い拡散層14は、通気性が高くなっている。
【0032】
さて、内槽20の内部から液化天然ガスLが漏洩した場合、液化天然ガスLは防熱層13よりも先に拡散層14に接触する。拡散層14は、局所的に急激な冷却にさらされて表面(スキン層)から内部に液化天然ガスLが進入する。ここで、低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14は、連続気泡構造の気泡Qの割合が高いため、液化天然ガスLは連通した気泡Qの内部を通って拡散層14内を外槽30の面方向に広がっていくことができる。つまり、連通した気泡Q群が、液化天然ガスLを拡散層14の厚み方向(以下、「第2方向H2」という)に進ませるだけではなく、外槽30の面に沿った方向(以下、「第1方向H1」という)にも拡散させることができる。その結果、液化天然ガスLの冷熱衝撃を拡散層14内に分散することで和らげることができる。これにより、防熱層13は、局所的に急激な冷却にさらされることなく、拡散層14内に拡散した液化天然ガスLによりゆっくり冷却され、防熱層13に伝わる冷熱衝撃が緩和される。
【0033】
つまり、上述したように、拡散層14に進入した液化天然ガスLが第1方向H1にも拡散されることで、防熱層13への局所的な急激な冷却を防止することができる。即ち、液化天然ガスLの第1方向H1への拡散が効果的に行われなければ、液化天然ガスLは第2方向H2に一気に進んで防熱層13を局所的な急激な冷却にさらしてしまうこととなる。このような観点から、本開示の拡散層14としては、第1方向H1への液拡散性が高い材料を用いる必要がある。第1方向H1への液拡散性が高い材料として、本実施形態の低密度硬質ウレタンフォームのような通気性の高い材料が挙げられる。その一方で、拡散層14の通気性を高くし過ぎると、液化天然ガスLが第2方向H2に拡散する速度も速まり、冷熱衝撃が一気に防熱層13まで到達する虞がある。そのため、低密度硬質ウレタンフォームの他にも、例えば、軟質ポリウレタンフォームであれば、密度や通気性、気泡(セル)の長径の向き等を適宜設定することにより、第1方向H1及び第2方向H2への液化天然ガスLの拡散速度を調整することができる。また、繊維体の場合であっても、バインダの目付量や塗布方法、各繊維の向き等を適宜設定することにより、第1方向H1及び第2方向H2への液化天然ガスLの拡散速度を調整することができる。
【0034】
上述したような、第1方向H1への高い液拡散性を満たす拡散層14として、低密度硬質ウレタンフォームの密度は、7~40kg/m、コア部における拡散層の厚み方向の通気性が0.05~30ml/cm/s、圧縮強度が15~150KPaのものが好ましい。また、厚みは、10mm以上が好ましく、また経済的な観点から、60mm以下が好ましい。
【0035】
本実施形態で用いた低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14は、密度、10kg/m、通気性、0.3ml/cm/s、圧縮強度、30KPaである。
【0036】
ここで、本実施形態の防熱層13及び拡散層14については、密度は、JIS K 7222:2005/ISO 845:1988に基づいて測定を行い、通気性は、JIS K 6400-7 B法:2012/ISO 7231:2010に準拠して測定を行い、熱伝導率は、JIS A 1412-2:1999/ISO 8301:1999に準拠して測定を行い、圧縮強度は、JIS K 7220:2006/ISO 844:2004に準拠して測定を行った。
【0037】
詳細には、以下に示す測定用サンプルをJIS A9526:2015に基づいて作製し、測定を行った。測定用サンプルは、900mm角×5mm厚みのアルミ板に、防熱層13用のウレタンフォーム原料を用いて、約3mmの下吹き層12を吹き付けた後、約25mmの防熱層を2層積層することで、約50mmの防熱層13を作製した。拡散層14についても、防熱層13と同様に、拡散層14用のウレタンフォーム原料を用いて、測定用サンプルを作製した。
【0038】
密度は、測定用サンプルを第1防熱層13Aのスキン層を厚み方向に含むように、100mm角×30mm厚み(全面にスキン層無し)に切り出して作製し、測定を行った。熱伝導率は、測定用サンプルを第1防熱層13Aのスキン層を厚み方向に含むように、200mm角×25mm厚み(全面にスキン層無し)に切り出して作製し、測定を行った。圧縮強度は、測定用サンプルを第1防熱層13Aのスキン層を厚み方向に含むように、50mm角×30mm厚み(全面にスキン層無し)に切り出して作製し、測定を行った。通気性は、測定用サンプルの第2防熱層13Bから220mm角×10mm厚み(全面にスキン層無し)に切り出して作製した。なお、通気性は、厚み方向に第1防熱層13A及び第2防熱層13Bの何れのスキン層も含まず、コア部の通気性の測定を行った。
【0039】
次に、側部冷熱抵抗緩和層10の施工方法について図5,6を用いて説明する。側部冷熱抵抗緩和層10の施工は、内槽20、外槽30および防液堤50がほぼ完成した状態で、空間Kにおける内槽20及び外槽30の側部22,32に配置される側部保冷層62としての粒状パーライトが充填される前に行われる。従って、図6に示すように、内槽20の側部22と外槽30の側部32との間の狭い空間K内に作業者M,N,Oが入って施工を行う。このとき、底部は外槽30の上に底部保冷層63が配設され、その上に内槽20が配置されているため、通常は、図示しない天井に設けられた入口から出入りする。なお、内槽20の側部22と外槽30の側部32との幅は、1000mm~2000mmであり、高さは約45mである。
【0040】
側部冷熱抵抗緩和層10のうち、外槽30の内側面30Sに備えられる側面冷熱抵抗緩和層10Sの施工は、図5に示すように、図示しない天井に設置されたトロリービームに取り付けられたゴンドラ70に乗り込んだ作業者M又はNによって施工が行われる。ゴンドラ70は、空間K内を外槽30の内側面30Sに沿って昇降可能及び水平移動可能に吊持されている。
【0041】
側部冷熱抵抗緩和層10の施工は、外槽30の内側面30S及び内底面30Tを、鉛直方向に所定間隔で分割した複数の施工領域W毎に行われる。側面冷熱抵抗緩和層10Sの施工においては、ゴンドラ70に乗り込んだ作業者M又はNが、施工領域Wを上端部又は下端部から順に施工を行っていく。ある施工領域Wの施工が終わったら、隣の施工領域Wに水平移動し、同様にして上端部又は下端部から繰り返し施工を行っていく。なお、施工領域Wを上端部又は下端部から順に施工を行う際、ゴンドラ70から施工できない領域は、施工を行わないで、隣りの施工領域Wへ水平移動する。上述した側面冷熱抵抗緩和層10Sのうちゴンドラ70から施工できない領域及び底面冷熱抵抗緩和層10Tについては、図5に示すように、側面冷熱抵抗緩和層10Sの施工が完了した後に作業者Oが行う。あるいはM又はNが都度、ゴンドラ70を降りて連続して施工してもよい。
【0042】
図6には、側部冷熱抵抗緩和層10の施工の流れが示されている。同図に示されるように、側部冷熱抵抗緩和層10の施工は、まず第1工程S1が作業者Mにより行われる。その後、作業者Mを追いかけるように作業者Nにより、第2工程S2が行われる。
【0043】
第1工程S1では、ウレタンフォーム原料をスプレー工法により外槽30の内面に吹き付け、発泡硬化させて防熱層13を形成させる。このとき、防熱層13を形成する前に、同様のスプレー工法により下吹き層12を形成させておく。
【0044】
詳細には、第1工程S1では、作業者Mが、携行しているスプレーガン90を外槽30の内面に向けて吹き付けて下吹き層12を形成した後、再度吹き付けて、防熱層13を所定の厚さになるように形成する。本実施形態では、2回に分けて吹き付けを行い、2層の防熱層13A,13Bを形成している。これは、1回のスプレー吹き付けで、所定の厚みを形成しようとしても、吹き付けたウレタンフォーム原料が垂れることで、所定の厚みが確保できない虞があるためである。この場合、1回目の吹き付けが終わった後、硬化が進行して表面のタック(ベタツキ)がなくなった後に2回目の吹き付けを行う。なお、第1防熱層13A及び第2防熱層13Bの厚みは略同じとなるように形成する。
【0045】
本実施形態では、下吹き層12は、防熱層13と同じウレタンフォーム原料を塗布して形成される。下吹き層12の存在により第1防熱層13Aの外槽30の内側面30Sへの接着性を向上させることができる。この場合も、下吹き層12の吹き付けが終わった後、硬化が進行して表面のタックがなくなった後に吹き付けを行う。なお、下吹き層12を設けず、外槽30の内面に直接、防熱層13を形成した場合、金属製で熱伝導率の高い外槽30の内面に付着した部分から熱が奪われて、発泡度合いが不十分となったり、外槽30と防熱層13との接着力が低下し、防熱層13が外槽30から剥がれてしまう虞がある。
【0046】
第2工程S2では、防熱層13に対して、作業者Nが、携行しているスプレーガン90を吹き付け、低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14を所定の厚さになるように形成する。このとき、防熱層13よりも低密度の硬質ウレタンフォームが形成されるウレタンフォーム原料を吹き付ける。
【0047】
本実施形態の側部冷熱抵抗緩和層10の構成及びその施工方法に関する説明は以上である。次に、側部冷熱抵抗緩和層10及びその施工方法の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態の側部冷熱抵抗緩和層10では、防熱層13は拡散層14で覆われ、内槽20の内部から漏洩した液化天然ガスLは、防熱層13よりも先に拡散層14に接触する。そして、拡散層14が局所的に急激に冷却されることで表面(スキン層)から内部に液化天然ガスLが進入する。ここで、拡散層14は、低密度硬質ウレタンフォームで構成され、連続気泡構造を多く有しているので、液化天然ガスLは連通した気泡Q群の内部を通って第1方向H1に広がっていくことができ、拡散層14内に拡散される。これにより、冷熱衝撃が緩和され、防熱層13は、局所的に急激な冷却にさらされることがなくなり、防熱層13に伝わる冷熱衝撃が緩和される。
【0049】
また、拡散層14を備えることによって液化天然ガスLの冷熱衝撃から防熱層13を保護することができるので、従来のように防熱層13の表面を補強するためのメッシュ構造の補強シートを備えなくてもよい。
【0050】
具体的には、防熱層13の表面に補強シートを積層する構成では、第1工程S1の後に、防熱層13の表面に補強シートを接着剤等で貼り付ける。このとき、補強シートはその剛性により防熱層13の表面から浮いたり、はがれる虞がある。そのため、防熱層13の表面を切削して平坦にする工程が必要となる。この工程は、全ての施工領域Wに対して手作業で行うこととなり膨大な工数及び費用がかかってしまう。しかもこの粉塵を除去する工数及び費用も必要となる。さらに、切削時に発生する切削屑の粉塵により作業環境が悪化するだけでなく、粉塵爆発のリスクが生じてしまう。これに対して、本実施形態では、この工程を必要としないため、このような問題は生じることなく、作業性を向上させることができる。
【0051】
また、切削の工程は、平坦にする目的であるから、防熱層13の発泡硬化が進行して十分な強度を発現してから行う必要がある。十分な強度が発現する前に切削やグランダー等の加工を行うと、平坦に削れなかったり裂けてしまう虞がある。十分な強度が発現するまでの目安としては、約24時間(1日)であり、余計に日数を要することとなり、費用が増えてしまう。これに対して、本実施形態では、第1工程S1の硬化が進行して表面のタックがなくなった後に、次の第2工程S2を行うことができる。これにより、第1工程S1の防熱層13の発泡硬化を待つ時間が不要となる。従って上述した問題は生じず、作業性を向上させることができる。
【0052】
[確認実験]
上記実施形態の側部冷熱抵抗緩和層10について、硬質ウレタンフォームからなる防熱層13を低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14で保護することにより、冷熱衝撃を受けたときに冷熱衝撃を緩和できることを実験により確認した。この実験では、金属型内に側部冷熱抵抗緩和層10を作製し、その上から液体窒素を流し込み、硬質ウレタンフォームからなる防熱層13にクラックが入るか否かを確認した。なお、液体窒素の温度は、-196℃であり、約-160℃の液化天然ガスLに比べてより過酷な条件となる。また、窒素は不活性ガスであり、火災等のリスクがないため、実験用の代替液とした。
【0053】
具体的には、内寸が、1600mm長さ×700mm幅×100mm厚みであり、上側が開放した解体可能な金属型を準備する。金属型を立て(長さ方向と厚み方向を底面とする)、金属型の底面(開放面と反対側)を外槽30に見立て、防熱層13用のウレタンフォーム原料を吹き付けて約3mmの下吹き層12を形成した後、50mm厚み(2層構造で各層の厚みは、25mm)の硬質ウレタンフォームからなる防熱層13を形成した。さらに、その上に、拡散層14用のウレタンフォーム原料を吹き付けて10mm厚み(1層構造)の低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14を形成してテストピースを作製した。そして、作製したテストピースの上を倒し(長さ方向と幅方向を底面とする)、その上(拡散層14側)から液体窒素を流し込み、液体窒素の液面が拡散層14から20~30mm高さとなるようにした。その後、液体窒素の液面高さが20~30mmとなるように、随時継ぎ足し、2時間経過させた。2時間経過後、液体窒素を金属型から除去し、クラックの発生の有無を目視にて確認した。クラックが発生している場合、クラックの表面から溶剤で希釈した染料をスポイトで垂らし、約1時間放置してクラックに着色を行った。その後、金属型を解体してテストピースを取り出して、テストピースをカットし、カット断面を目視し、硬質ウレタンフォームからなる防熱層13へのクラックの有無を確認した。比較用に、低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14を備えない、防熱層のみ(50mm厚み(2層構造で各層の厚みは、25mm))の比較サンプルと、参考用に、防熱層(50mm厚み(2層構造で各層の厚みは、25mm))の表面に補強シート接着剤で固定した参考サンプル(従来の構成)と、を作成した。
【0054】
その結果、低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14を備えた側部冷熱抵抗緩和層10の防熱層13及び防熱層の表面に補強シートを有する従来の側部冷熱抵抗緩和層の防熱層には、クラックは生じていなかった。一方、比較サンプルの防熱層には、クラックが多数入っていた。本実験から、硬質ウレタンフォームからなる防熱層13を低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14で保護することにより、冷熱衝撃を受けたときに防熱層13の硬質ウレタンフォームのクラックの発生を抑制できることが確認できた。また、本開示の側部冷熱抵抗緩和層は、従来の防熱層の表面に補強シートを有する構成の側部冷熱抵抗緩和層と同等に、冷熱衝撃を緩和することが確認できた。
【0055】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態において、低温液貯槽100には、液化天然ガスLを貯留していたが、例えば、液化プロパンガス等の他の低温液であってもよい。
【0056】
(2)上記実施形態において、タンク部40は、天井部21,31を備えていたが、蓋体を備えて上方が開放した構造であってもよい。
【0057】
(3)上記実施形態において、低密度硬質ウレタンフォームからなる拡散層14は1層であったが、複数層積層されていてもよい。
【0058】
(4)上記実施形態において、防熱層13と拡散層14との間にメッシュ構造の補強シートが積層されていてもよい。
【0059】
このとき、第1工程S1と第2工程S2との間に、補強シートを防熱層13に積層させる工程S12を行うこととなる。工程S12において、補強シートを防熱層13に重ねてタッカー等で仮止めしてから第2工程S2を行うことで、補強シートが拡散層14としての低密度硬質ウレタンフォームに内包するように防熱層13に固着させてもよい。このようにすることで、補強シートを防熱層13に貼り付けるための接着剤が不要となり、しかも防熱層13を平坦にする工程が不要となる。
【0060】
(5)本開示の拡散層として、進入した液化天然ガスLを第1方向H1に拡散させるものであれば、低密度硬質ウレタンフォーム層からなる拡散層14に限定されない。例えば、繊維体が挙げられ、防熱層13側に低温液の浸透を阻害する処理を施したガラスマット又は不織布等であってもよい。
【0061】
また、軟質ウレタンフォームであってもよい。この場合、軟質ウレタンフォームの密度や通気性等を調整することで、第2方向H2への浸透を抑えつつ、第1方向H1に拡散させればよい。特に、軟質ウレタンフォームを熱プレスすることで、内部の気泡(セル)が、つぶれて第1方向H1に延び、進入した液化天然ガスLの第1方向H1に拡散させ易くすることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 側部冷熱抵抗緩和層
13 防熱層
14 拡散層
20 内槽
30 外槽
62 側部保冷層(保冷層)
50 防液堤
100 低温液貯槽
L 液化天然ガス(低温液)
図1
図2
図3
図4
図5
図6