(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】電圧変換装置、高周波電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
H02M3/155 P
(21)【出願番号】P 2019235021
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-297985(JP,A)
【文献】特開平05-299743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧を所定の出力電圧に変換する電圧変換装置であって、
前記入力電圧が印加される受動素子と、
前記受動素子への入力電圧の印加又は遮断を行うスイッチと、
前記出力電圧の電圧値を検出して、検出電圧値として出力する電圧検出部と、
前記検出電圧値が、前記出力電圧の設定電圧値に対応する理想電圧値に近づくように前記スイッチのデューティ比を決定して前記スイッチの制御を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記理想電圧値と前記検出電圧値との偏差に対応した制御量を加味して前記スイッチのデューティ比を定め
、
前記制御部は、
前記設定電圧値に対応する理想電圧値を出力する理想電圧出力部と、
前記理想電圧出力部から出力された理想電圧値と前記電圧検出部から出力された検出電圧値との偏差を出力する偏差取得部と、
前記偏差取得部から出力された偏差を入力し、当該偏差を無くすための制御量を第1制御量として出力する第1制御量出力部と、
前記理想電圧出力部から出力された理想電圧値及び前記偏差取得部から出力された偏差を入力し、前記理想電圧値に対応する制御量を第2制御量として出力する第2制御量出力部と、
前記出力電圧の設定電圧値及び偏差取得部から出力された偏差を入力し、前記出力電圧の設定電圧値に対応する制御量を第3制御量として出力する第3制御量出力部と、
前記第1制御量出力部、前記第2制御量出力部及び前記第3制御量出力部から出力された各制御量を入力し、前記スイッチのオンオフ制御に必要なデューティ比を決定し、デューティ比に対応する信号を出力するスイッチ制御部と、
前記スイッチ制御部が出力したデューティ比に対応する信号に基づいて、前記スイッチに対してオンオフ制御を行うための制御信号を出力するスイッチ駆動部とを備えていることを特徴とする電圧変換装置。
【請求項2】
前記第2制御量出力部は、
前記偏差取得部から出力された偏差に対応する制御量を前記理想電圧値に対応する制御量に加算したものを第2制御量として出力することを特徴とする請求項
1に記載の電圧変換装置。
【請求項3】
前記第3制御量出力部は、
前記偏差取得部から出力された偏差に対応する制御量を前記出力電圧の設定電圧値に対応する制御量に加算したものを第3制御量として出力することを特徴とする請求項
1又は請求項
2のいずれか一つに記載の電圧変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記検出電圧値が前記理想電圧値よりも小さい場合、前記デューティ比を大きくし、
前記検出電圧値が前記理想電圧値よりも大きい場合、前記デューティ比を小さくすることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一つに記載の電圧変換装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一つに記載の電圧変換装置と、
該電圧変換装置からの出力された直流電圧を高周波交流電圧に変換して出力するRF出力装置と
を備えた高周波電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧変換装置、高周波電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力された直流電圧を所望の直流電圧に変換して出力する電圧変換装置として、例えば降圧型のDCDCコンバータ等の電圧コンバータが知られている(例えば、特許文献1)。降圧型のDCDCコンバータは、所定の周波数で相補的にオンオフに制御される第1半導体スイッチ及び第2半導体スイッチと、第1半導体スイッチがオンの時に入力電圧が印加されるインダクタ、及び出力電圧が印加される負荷と並列に接続された平滑コンデンサにより構成される。
【0003】
特許文献1に記載のDCDCコンバータは、更に入力電圧を漸次増加するソフトスタート回路を備え、DCDCコンバータの起動時において、ソフトスタート回路によって入力電圧を徐々に増加させる。そして、相補的に制御される2つの半導体スイッチ(トランジスタ)のスイッチング速度(周期)を徐々に増加するように制御し、出力電圧を徐々に増加させることで、起動時における出力電圧のオーバーシュートを抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のDCDCコンバータは、複数の装置を製作した場合に、DCDCコンバータを構成するインダクタ又はコンデンサ等の受動素子の特性値(インダクタであればインダクタンス、コンデンサであればキャパシタンス、抵抗であれば抵抗値)のばらつきに起因する装置毎の出力電圧の制御応答の差異(機差)を考慮していない。そのため、ある1つの装置において、オーバーシュートを抑制するようにゲイン等のパラメータを調整したとしても、そのパラメータを他の装置で使用すると、それぞれの装置では出力電圧の制御応答に差異が生じる。特に、立ち上がり時や立ち下がり時等の急変時(過渡的な状況)における出力電圧は、制御応答の差異(機差)が生じ易い。何故ならば、設定電圧値が一定の定常状態では、周波数要素がないのでインダクタのインダクタンスやコンデンサのキャパシタンスの影響が無く、抵抗の抵抗値だけがばらつきの要因となるので、補正が容易だからである。
上記のような機差が許容できる範囲内であれば良いが、許容できない機差の差異が生じる可能性もある。そのため、機差を低減させるために、装置毎に制御系におけるゲイン等のパラメータを調整する調整作業が必要である。換言すれば、このような装置毎の出力電圧の制御応答の機差を低減できれば、調整作業を省略できるか、簡易化できる。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の装置を製作した場合の出力電圧の制御応答の差異(機差)を低減できる電圧変換装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電圧変換装置は、入力電圧を所定の出力電圧に変換する電圧変換装置であって、
前記入力電圧が印加される受動素子と、前記受動素子への入力電圧の印加又は遮断を行うスイッチと、前記出力電圧の電圧値を検出して、検出電圧値として出力する電圧検出部と、前記検出電圧値が、前記出力電圧の設定電圧値に対応する理想電圧値に近づくように前記スイッチのデューティ比を決定して前記スイッチの制御を行う制御部と
を備え、
前記制御部は、前記理想電圧値と前記検出電圧値との偏差に対応した制御量を加味して前記スイッチのデューティ比を定めることを特徴とする。
【0008】
本態様にあたっては、制御部は、検出電圧値が出力電圧の設定電圧値に対応する理想電圧値に近づくようにスイッチのデューティ比を決定して、スイッチの制御を行う。この際、制御部は、理想電圧値と検出電圧値との偏差に対応した制御量を加味してスイッチのデューティ比を定める。
そのため、受動素子の特性値のばらつきに起因して生じる出力電圧値(検出電圧値)の制御応答の差異(機差)を低減できる。これにより、装置毎の出力電圧の制御応答の機差を低減するための調整作業を省略できるか、簡易化できる。
【0009】
本開示の一態様に係る電圧変換装置は、前記制御部が、
前記設定電圧値に対応する理想電圧値を出力する理想電圧出力部と、
前記理想電圧出力部から出力された理想電圧値と前記電圧検出部から出力された検出電圧値との偏差を出力する偏差取得部と、
前記偏差取得部から出力された偏差を入力し、当該偏差を無くすための制御量を第1制御量として出力する第1制御量出力部と、
前記理想電圧出力部から出力された理想電圧値及び前記偏差取得部から出力された偏差を入力し、前記理想電圧値に対応する制御量を第2制御量として出力する第2制御量出力部と、
前記出力電圧の設定電圧値及び偏差取得部から出力された偏差を入力し、前記出力電圧の設定電圧値に対応する制御量を第3制御量として出力する第3制御量出力部と、
前記第1制御量出力部、前記第2制御量出力部及び前記第3制御量出力部から出力された各制御量を入力し、前記スイッチのオンオフ制御に必要なデューティ比を決定し、デューティ比に対応する信号を出力するスイッチ制御部と、
前記スイッチ制御部が出力したデューティ比に対応する信号に基づいて、前記スイッチに対してオンオフ制御を行うための制御信号を出力するスイッチ駆動部と
を備えていることを特徴とする。
【0010】
本態様にあたっては、第1制御量出力部において、偏差取得部から出力された偏差を入力し、その偏差を無くすためのフィードバック制御が行われる。しかし、このフィードバック制御だけでは、特に立ち上がり時や立ち下がり時等の急変時(過渡的な状況)において、設定電圧値に対する出力電圧の乖離が大きい。何故ならば、第1制御量出力部における制御対象は、偏差取得部から出力された理想電圧値と検出電圧値との偏差であるからである。そのため、第2制御量出力部及び第3制御量出力部によって検出電圧値(出力電圧値)を理想電圧値に近づける工夫がされている。
具体的には、第2制御量出力部は、理想電圧値に対応する制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能するので、検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。
また、第3制御量出力部は、出力電圧の設定電圧値に対応する制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能するので、例えば、立ち上がり時や立ち下がり時等の急変時(過渡的な状況)における検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。
このように、3種類の制御を組み合わせることによって、よりきめ細かな制御を行うことができる。
【0011】
本開示の一態様に係る電圧変換装置は、前記第2制御量出力部が、前記偏差取得部から出力された偏差に対応する制御量を前記理想電圧値に対応する制御量に加算したものを第2制御量として出力することを特徴とする。
【0012】
本態様にあたっては、第2制御量出力部が、上記のように検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めるように機能するだけでなく、受動素子の特性値のばらつきに起因して検出電圧値の制御応答に機差が生じたとしても、その機差を低減させる機能を有する。
【0013】
本開示の一態様に係る電圧変換装置は、前記第3制御量出力部が、前記偏差取得部から出力された偏差に対応する制御量を前記出力電圧の設定電圧値に対応する制御量に加算したものを第3制御量として出力することを特徴とする。
【0014】
本態様にあたっては、第3制御量出力部が、上記のように検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めるように機能するだけでなく、受動素子の特性値のばらつきに起因して検出電圧値の制御応答に機差が生じたとしても、その機差を低減させる機能を有する。
【0015】
本開示の一態様に係る電圧変換装置は、前記制御部に関するものであり、前記検出電圧値が前記理想電圧値よりも小さい場合、前記デューティ比を大きくし、前記検出電圧値が前記理想電圧値よりも大きい場合、前記デューティ比を小さくすることを特徴とする。
【0016】
本態様にあたっては、制御部は、検出電圧値が理想電圧値よりも小さい場合、スイッチをオンするためのデューティ比を大きくし、検出電圧値が理想電圧値よりも大きい場合、スイッチをオンするためのデューティ比を小さくするという簡易な制御で、検出電圧値を理想電圧値に近づけることができる。
【0017】
本開示の一態様に係る高周波電源装置は、本開示の一態様に記載の電圧変換装置と、該電圧変換装置からの出力された直流電圧を高周波交流電圧に変換して出力するRF出力装置とを備える。
【0018】
本態様にあたっては、本開示の一態様に係るいずれかに記載の電圧変換装置を備えることによって、RF出力装置によって変換された高周波交流電圧の機差によるエンベロープのばらつきを低減できる高周波電源装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
複数の装置を製作した場合に、各装置の回路を構成する素子の特性値にばらつきがあっても、装置毎の出力電圧の制御応答の差異(機差)が少ない電圧変換装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1に係るプラズマ制御システムの一構成例を示す模式図である。
【
図2】実施形態1に係る電圧変換装置の一構成例を示す模式的回路構成図である。
【
図3】制御部の一構成例を示す機能ブロックである。
【
図4】出力電圧の立ち上がり期間における出力電圧の設定電圧値、理想電圧値、検出電圧値及び理想電圧値と検出電圧値との偏差の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に関する電圧変換装置1は、例えば、プラズマ制御システムA等の高圧電源装置の構成部位の一つとして用いられるものであり、以下にその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るプラズマ制御システムAの一構成例を示す模式図である。プラズマ制御システムAは、半導体整合プロセスにおけるエッチング等のプラズマ処理を行う場合に用いられ、例えば、プラズマ負荷A3、整合器A2、及び高周波電源装置A1を含む。
【0023】
プラズマ処理装置のようなプラズマ負荷A3は、プラズマが発生するプラズマチャンバー(図示せず)を備え、高周波電源装置A1から供給された高周波電源によって、当該プラズマチャンバー内でプラズマを発生させ、半導体整合プロセスにおけるエッジング等のプラズマ処理を行う。
【0024】
整合器A2は、高周波電源装置A1とプラズマ負荷A3との間に介装される。整合器A2は、プラズマ負荷A3において時々刻々と変動する負荷のインピーダンスに対応するために、整合器A2の入力端から負荷側を見たインピーダンスが所定値(例えば高周波電源装置A1の出力インピーダンスの50Ω)になるように、例えば内部に設けたコンデンサの容量を変化させる。これにより、高周波電源装置A1側のインピーダンスとプラズマ負荷A3側のインピーダンスとをマッチングさせて、プラズマ負荷A3からの反射電力の抑制を行う。なお、整合器A2は必須の構成でなく、プラズマ負荷A3と高周波電源装置A1とを直結してもよい。
【0025】
高周波電源装置A1は、例えば、400kHz、2MHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz等の工業用のRF帯(Radio Frequency)の周波数の電圧成分を有する高周波電力を出力する交流電源であり、出力インピーダンスは、例えば50Ω等の規定の値に設定されている。高周波電源装置A1から出力された高周波電力は、整合器A2を介してプラズマ負荷A3に供給される。高周波電源装置A1は、入力された直流電圧を所定の直流電圧に変換し出力する電圧変換装置1と、電圧変換装置1が出力した出力電圧を、例えばインバータ回路によって所定の高周波交流電圧(RF電圧)に変換して出力するRF出力装置A11(RF電源)とを含む。
【0026】
図2は、実施形態1に係る電圧変換装置1の一構成例を示す模式的回路構成図である。なお、この
図2では、
図1に示したRF出力装置A11及び整合器A2を省略している。
電圧変換装置1は、直流電源部11、半導体スイッチ12(以下、第1FET12)、第2半導体スイッチ13(以下、第2FET13)、リアクトル14及び平滑コンデンサ15を含み、直流電源部11から印加された直流電圧を降圧して出力する同期整流方式の降圧型DCDCコンバータである。電圧変換装置1は、更に第1FET12及び第2FET13のオンオフ制御を行う制御部17と、出力電圧の電圧値を検出する電圧検出部16とを含む。
【0027】
直流電源部11は、例えば、商用の交流電源を昇圧した後に全波整流し平滑した直流電源又は大容量蓄電池等であり、高圧の直流電圧を出力する。
【0028】
第1FET12、第2FET13は、例えばnチャネル型MOSFETであり、制御部17からのオンオフ制御に関する信号が、夫々のゲート端子に入力される。
【0029】
第1FET12は、ドレインを直流電源部11の正極側に向け、直流電源部11の正極側とリアクトル14との間に介装され、リアクトル14と直列に接続されている。
【0030】
第2FET13は、ドレインを直流電源部11の正極側に向け、第1FET12とリアクトル14との接続接点から分岐させてリアクトル14と並列に接続されている。
【0031】
平滑コンデンサ15は、リアクトル14と直流電源部11の負極側との間に介装され、リアクトル14と直列に接続されており、第2FET13とはリアクトル14を介して並列に接続されている。また、
図2に示すように、平滑コンデンサ15の両端が、それぞれ電圧変換装置1の出力端子O1とO2に接続されている。
【0032】
電圧検出部16は、電圧変換装置1の出力電圧の電圧値を検出する。そして、電圧検出部16によって検出された電圧値(以下、検出電圧値)を制御部17に出力する。
図2では、その一例として、平滑コンデンサ15の両端電圧を検出する例を示している。
【0033】
制御部17は、電圧検出部16と電気的に接続されており、電圧検出部16が検出した検出電圧値を取得する。
また、制御部17は、例えば、外部装置から送信される設定電圧値を受信するか、又は制御部17がプログラムを実行する上で予め記憶部に記憶された設定電圧値を読み出すことによって、出力電圧の設定電圧値を取得する。制御部17は、更に後述する理想電圧値を取得する。そして、制御部17は、取得した設定電圧値、検出電圧値及び理想電圧値に基づきデューティ比を決定し、第1FET12及び第2FET13のオンオフ制御を行う。これにより、電圧検出部16で検出した検出電圧値が理想電圧値に近づくように制御される。
【0034】
なお、高周波電源装置A1からプラズマ負荷A3に供給される高周波電力(進行波電力又は進行波電力から反射波電力を減算した負荷側電力)の電力値を電圧変換装置1によって制御することもできる。この場合には、目標電力値に対応する設定電圧値を定める。また、図示しないプラズマ負荷A3側に設置された電力検出部よって検出された高周波電力の電力値(検出電力値)を検出電圧値として制御部17に入力し、入力された検出電力値(検出電圧値)が理想電圧値に近づくように、第1FET12及び第2FET13のオンオフ制御を行う。このようにすれば、RF出力装置A11に入力する直流電圧の電圧値を調整できるので、RF出力装置A11から出力されるRF電圧の大きさを調整できる。したがって、プラズマ負荷A3に供給される高周波電力の電力値を電圧変換装置1によって制御することができる。
この際、RF出力装置A11から出力されるRF電圧の機差によるエンベロープのばらつきを低減させることができる。
【0035】
第1FET12及び第2FET13は、制御部17(後述するスイッチ駆動部177)から出力されるオンオフ制御に関する信号によって、相補的にオン又はオフに制御される。すなわち、第1FET12がオンの時は第2FET13はオフとなり、第1FET12がオフの時は第2FET13はオンとなるように制御される。
また、第1FET12がオンとなる比率(以下、デューティ比)によって、入力電圧に対する出力電圧が決定される。例えば、
図2に示す電圧変換装置1において、直流電源部11から出力される直流電圧が800Vの場合、第1FET12のデューティ比を0.5(実際にはデッドタイムを考慮するので0.5よりも若干小さい値となる)とすることによって、リアクトル14を介し平滑コンデンサ15で平滑された直流の約400Vの出力電圧が出力される。
【0036】
図3は、制御部17の一構成例を示す機能ブロックである。制御部17は、RAM(Random access memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶部(図示せず)を備えたMPU(Micro-processing unit)、システムLSI(Large-Scale Integration)又はFPGA(field-programmable gate array)を含み、記憶部に記憶してあるプログラム及びデータを読み出して実行することにより、種々の制御処理及び演算処理等を行う。制御部17は、プログラムを実行することにより、理想電圧出力部171、偏差取得部172、第1制御量出力部173、第2制御量出力部174、第3制御量出力部175、スイッチ制御部176及びスイッチ駆動部177として機能する。
【0037】
理想電圧出力部171は、入力された出力電圧の設定電圧値に対応する理想的な電圧値(以下、理想電圧値)を出力する。理想電圧値とは、実現したい電圧波形の電圧値である。この理想電圧値は、遅れ時間等を考慮して実現可能な範囲で設定される。
遅れ時間等は、電圧変換装置1の回路を構成する受動素子の特性値(インダクタであればインダクタンス、コンデンサであればキャパシタンス、抵抗であれば抵抗値)等によって異なるので、上記の理想電圧値を設定する際には、受動素子の特性値等が考慮される。そのため、例えば、電圧変換装置1の回路モデルに受動素子の特性値等を入力してシミュレーションを行うことで、理想電圧値を得るために必要なゲイン等のパラメータを調整することができる。そして、調整したゲイン等のパラメータを用いた場合に実現される電圧波形の電圧値を理想電圧値とすればよい。
【0038】
そのため、出力電圧の立ち上がり期間又は立ち下り期間にオーバーシュート又はリップルが生じない電圧波形の電圧値を理想電圧値とすることもできるし、反対に、オーバーシュート又はリップルが生じる電圧波形の電圧値を理想電圧値とすることもできる。通常は、オーバーシュートやリップルが生じない電圧波形の電圧値を理想電圧値とすることが多い。
このような理想電圧値は、例えば、出力電圧の設定電圧値と対応関係を持たせてテーブル表として記憶されている。そのため、理想電圧出力部171に出力電圧の設定電圧値が与えられると、対応した理想電圧値を出力することができる。
【0039】
もちろん、上記に限定されるものではなく、例えば、上記のような回路モデルと、その回路モデルに必要な受動素子の特性値、ゲイン等のパラメータ等を記憶しておき、回路モデルの数式を用いて、設定電圧値に対応した理想電圧値を導出するようにしてもよい。
【0040】
なお、受動素子の特性値とは、例えば、リアクトル14のインダクタンス、平滑コンデンサ15の静電容量又は内部抵抗等の値である。回路を構成するリアクトル14及び平滑コンデンサ15等の受動素子の特性値は、図示しない記憶部に予め記憶されている。なお、受動素子の特性値は、例えば、受動素子の仕様書に記載されている値(定格値)、受動素子を実際に測定した値(例えば平均値)等にすればよい。
【0041】
偏差取得部172は、理想電圧出力部171から出力された理想電圧値と電圧検出部16から出力された検出電圧値との偏差を出力する。当該偏差は、例えば、理想電圧値から検出電圧値を減算することによって算出することができる。
【0042】
第1制御量出力部173は、偏差取得部172から出力された偏差を入力し、その偏差を無くすための制御量を第1制御量として出力する。理想電圧値を制御対象とするフィードバック制御部として機能する。
なお、第1制御量出力部173における制御は、所謂PID制御(比例+積分+微分制御)によって制御量が算出される。すなわち、比例要素である偏差、偏差の積分及び偏差の微分の3要素を考慮して制御が行われるが、これに限定されることはなく、P制御(比例制御)PI制御(比例+積分制御)を用いてもよい。
【0043】
第2制御量出力部174は、理想電圧出力部171から出力された理想電圧値及び偏差取得部172から出力された偏差を入力し、理想電圧値に対応する制御量を第2制御量として出力する。この第2制御量出力部174は、第2制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能する。これにより、検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。
なお、上記の理想電圧値に対応する制御量とは、例えば、理想電圧値に比例する制御量である。また、目標とする理想電圧値の変化に対して応答が早まる方向に働く場合、積分要素を追加して応答性を補正することがある。例えば、受動素子の特性値が定格値等から大きくずれている場合(例えば経年劣化で特性値が小さくなる等)は、目標とする理想電圧値の変化に対して応答が早まる方向に働くので、比例要素だけでなく積分要素を考慮した制御量が、第2制御量として出力される。反対に、目標とする理想電圧値の変化に対して応答が遅くなる方向に働く場合は、比例要素だけでなく微分要素を考慮した制御量が、第2制御量として出力される。さらに、所定の関数やテーブル等に基づいて理想電圧値を変換した制御量を第2制御量として出力してもよい。
更に、第2制御量出力部174は、偏差取得部172から出力された理想電圧値と検出電圧値との偏差を調整要素としている。すなわち、検出電圧値を理想電圧値に近づけるための調整機能も有している。この調整機能は、所謂フィードバック制御によって実現する。この第2制御量出力部174におけるフィードバック制御は、所謂PID制御(比例+積分+微分制御)によって制御量が算出されるが、これに限定されることはなく、P制御(比例制御)PI制御(比例+積分制御)を用いてもよい。
なお、上記の調整機能を使用しないこともできる。この場合は、フィードフォワード制御だけを行うことになる。この調整機能については後述する。
【0044】
第3制御量出力部175は、出力電圧の設定電圧値及び偏差取得部172から出力された偏差を入力し、出力電圧の設定電圧値に対応する制御量を第3制御量として出力する。この第3制御量出力部175は、第3制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能する。これにより、検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。
なお、上記の出力電圧の設定電圧値に対応する制御量とは、例えば、出力電圧の設定電圧値に比例する制御量である。また、目標とする出力電圧の設定電圧値の変化に対して応答が早まる方向に働く場合、積分要素を追加して応答性を補正することがある。例えば、受動素子の特性値が定格値等から大きくずれている場合(例えば経年劣化で特性値が小さくなる等)は、目標とする出力電圧の設定電圧値の変化に対して応答が早まる方向に働くので、比例要素だけでなく積分要素を考慮した制御量が、第3制御量として出力される。反対に、目標とする出力電圧の設定電圧値の変化に対して応答が遅くなる方向に働く場合は、比例要素だけでなく微分要素を考慮した制御量が、第3制御量として出力される。さらに、所定の関数やテーブル等に基づいて理想電圧値を変換した制御量を第3制御量として出力してもよい。
更に、第3制御量出力部175は、偏差取得部172から出力された理想電圧値と検出電圧値との偏差を調整要素としている。すなわち、検出電圧値を理想電圧値に近づけるための調整機能も有している。この調整機能は、所謂フィードバック制御によって実現する。この第3制御量出力部175におけるフィードバック制御は、所謂PID制御(比例+積分+微分制御)によって制御量が算出されるが、これに限定されることはなく、P制御(比例制御)PI制御(比例+積分制御)を用いてもよい。
なお、上記の調整機能を使用しないこともできる。この場合は、フィードフォワード制御だけを行うことになる。この調整機能については後述する。
【0045】
スイッチ制御部176は、第1制御量出力部173、第2制御量出力部174及び第3制御量出力部175から出力された各制御量を入力し、第1FET12及び第2FET13のオンオフ制御に必要なデューティ比を決定し、デューティ比に対応する信号をスイッチ駆動部177に出力する。
第3制御量出力部175、第2制御量出力部174及び第1制御量出力部173から出力された各制御量の合計が大きくなると、第1FET12のデューティ比を大きくし、反対に、各制御量の合計が小さくなると、第1FET12のデューティ比を小さくするようにデューティ比が決定される。
【0046】
スイッチ駆動部177は、スイッチ制御部176が出力したデューティ比に対応する信号に基づいて、第1FET12及び第2FET13のオンオフ制御を行うための制御信号を第1FET12のゲート端子に出力するとともに、第2FET13をオンオフ制御するための制御信号を第2FET13のゲート端子に出力する。第1FET12と第2FET13とは、相補的にオンオフ制御されるので、スイッチ駆動部177は、第1FET12がオンの間は、第2FET13がオフとなるように、制御信号が出力される。反対に、第2FET13がオンの間は、第1FET12がオフとなるように、制御信号が出力される。
【0047】
図4は、出力電圧の立ち上がり期間における出力電圧の設定電圧値、理想電圧値、検出電圧値及び理想電圧値と検出電圧値との偏差の説明図である。なお、この
図4では、理想電圧値が設定電圧値に到達するまでの期間を「T1」で示している。
【0048】
図4に示すように、出力電圧の設定電圧値が、制御部17に入力されると、理想電圧出力部171から理想電圧値が出力される。また、偏差取得部172では、理想電圧値と検出電圧値との偏差が算出される(
図3参照)。
図4の例では、立ち上がりの起点の直後は、偏差が正の値、すなわち理想電圧値が、検出電圧値よりも高くなっている。この場合、スイッチ制御部176は、第1FET12のデューティ比を大きくする。立ち上がり期間の後半においては、偏差が負の値、すなわち理想電圧値が、検出電圧値よりも低くなっている。この場合、スイッチ制御部176は、第1FET12のデューティ比を小さくする。
このように、本実施形態では、検出電圧値を理想電圧値に近づけるための制御が行われる。そのために、上述した第1制御量出力部173、第2制御量出力部174及び第3制御量出力部175を用いた制御がされる。この制御について、更に説明する。
【0049】
上述したように、第1制御量出力部173では、偏差取得部172から出力された偏差を入力し、その偏差を無くすためのフィードバック制御が行われて制御量が出力される。しかし、第1制御量出力部173によるフィードバック制御だけでは、特に立ち上がり時や立ち下がり時等の急変時(過渡的な状況)において、設定電圧値に対する出力電圧の乖離が大きい。何故ならば、第1制御量出力部173における制御対象は、偏差取得部172から出力された理想電圧値と検出電圧値との偏差であるからである。
そのため、第2制御量出力部174及び第3制御量出力部175によって検出電圧値を理想電圧値に近づける工夫がされている。検出電圧値は出力電圧値を示すので、出力電圧値を理想電圧値に近づけることができる。
【0050】
第2制御量出力部174は、上述したように、主として理想電圧値に対応する制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能する。そのため、検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。もちろん、制御量を大きくしすぎると、オーバーシュート等が生じやすくなるので、適切なゲインに調整される。
【0051】
第3制御量出力部175は、上述したように、主として出力電圧の設定電圧値に対応する制御量を出力することによって、フィードフォワード制御部として機能する。そのため、立ち上がり時や立ち下がり時等の急変時における検出電圧値の理想電圧値への追従性を高めることができる。もちろん、制御量を大きくしすぎると、オーバーシュート等が生じやすくなるので、適切なゲインに調整される。
【0052】
このように、第1制御量出力部173だけで制御した場合に生じる追従性の問題を第2制御量出力部174及び第3制御量出力部175を用いることによって改善している。
このようにすれば、出力電圧値が理想電圧値に追従するように制御することができるので、出力電圧を実現したい電圧波形に近づけることができる。
また、上記のように、3種類の制御を組み合わせることによって、よりきめ細かな制御を行うことができる。
【0053】
更に、第2制御量出力部174及び第3制御量出力部175では、上述したように、それぞれ、偏差取得部172から出力された理想電圧値と検出電圧値との偏差を調整する調整機能を有している。この調整機能の効果を説明する。
例えば、受動素子の特性値は、多少のばらつきがある。そのため、従来では、たとえ設定電圧値等が同じ条件であっても、複数の装置を製作した場合に、各装置では受動素子の特性値のばらつきに起因して、出力電圧値の制御応答に差異(機差)が生じる。このような機差は好ましくないので、装置の製造時には、差異(機差)が生じないように、装置毎に、ゲイン等のパラメータを調整する必要が生じる。
しかし、本実施形態の調整機能を用いれば、受動素子の特性値のばらつきがあっても、検出電圧値の制御応答に差異(機差)が小さい。その結果、装置毎の出力電圧値の制御応答を低減させるための調整作業を省略できるか、簡易化できる。
【0054】
電圧変換装置1は、同期整流方式の降圧型DCDCコンバータとしたがこれに限定されない。電圧変換装置1は、装置を構成する回路において、回路モデルを数式化できるインバータ及びコンバータを含み、例えば、昇圧コンバータ、昇降圧コンバータ、非反転昇降圧コンバータ、Cukコンバータ、Scpicコンバータ、Zetaコンバータ、フォワードコンバータ、フライバックコンバータ、ハーフブリッジコンバータ、フルブリッジコンバータ、インターリーブ又はマルチフェーズ回路に適用することができる。
【0055】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
A プラズマ制御システム、A1 高周波電源装置、A11 RF出力装置、A2 整合器、A3 プラズマ負荷(負荷)、
1 電圧変換装置(DCDCコンバータ)、11 直流電源部、12 第1FET(半導体スイッチ)、13 第2FET(第2半導体スイッチ)、14 リアクトル、15 平滑コンデンサ、16 電圧検出部、17 制御部、171 理想電圧出力部、172 偏差取得部、173 第1制御量出力部、174 第2 制御量出力部、175 第3制御量出力部、176 スイッチ制御部、177 スイッチ駆動部