(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 17/00 20060101AFI20230727BHJP
B62D 7/18 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
B62D17/00 C
B62D7/18 Z
(21)【出願番号】P 2020040443
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】大畑 佑介
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065778(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189102(WO,A1)
【文献】特開2013-112112(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235892(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235894(WO,A1)
【文献】西独国特許出願公開第3928135(DE,A1)
【文献】特開2019-006226(JP,A)
【文献】特開2005-178653(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012206337(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/18
B62D 5/04
B62D 7/08
B62D 7/15
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
内外輪およびこれら内外輪間に介在した複列の転動体を有し、且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、
この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、
前記ユニット支持部材および前記操舵用アクチュエータがそれぞれ車両の足回りフレーム部品に着脱可能に固定される固定部を有する操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記操舵用アクチュエータと前記ユニット支持部材とが互いの間に前記足回りフレーム部品を挟み込むように取り付けられる操舵機能付ハブユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記足回りフレーム部品に対し、前記車両の車幅方向の外側に前記ユニット支持部材が取り付けられ、且つ前記車両の車幅方向の内側に前記操舵用アクチュエータが取り付けられる操舵機能付ハブユニット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記ユニット支持部材は、前記転舵軸付ハブベアリングにおける車輪取付け部分とは車輪軸方向の逆側となる部分に、前記ユニット支持部材の固定部として、前記足回りフレーム部品と重なり状態で固定されるフランジ部を備えた操舵機能付ハブユニット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記操舵用アクチュエータは、直動機構本体と、この直動機構本体から出退可能で前記転舵軸付ハブベアリングの前記外輪に操舵力を与える直動出力部とを有し、前記直動機構本体の前記直動出力部が突出する端部を前記操舵用アクチュエータの固定部とし、前記直動機構本体の前記端部が前記足回りフレーム部品と重なり状態で固定される操舵機能付ハブユニット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の操舵機能付ハブユニットを搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、ステアリング装置による操舵に付加して補助的な操舵を左右輪独立で行う機能を備えた操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両に関し、走行状況に合わせ左右の車輪を適切な操舵角に制御することで、燃費の改善および操舵性と安全性の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
[前輪の場合]
一般的な自動車等の車両は、ハンドルと操舵装置が機械的に接続され、また、操舵装置の両端はタイロッドによってそれぞれ左右輪につながっている。そのため、ハンドルの動きにより左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。
車両のジオメトリには、
(1)左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」
(2)旋回中心を1箇所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」
(3)高速時のコーナリング性能を重視した「逆アッカーマンジオメトリ」(旋回外輪車輪角度を旋回内輪車輪角度よりも大きく切る)
が知られている。
【0003】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車両をスムーズに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかし、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力とつり合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいため、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリ、または逆アッカーマンジオメトリとすることが好ましい。
【0004】
前述したように一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリと逆アッカーマンジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化およびタイヤの早期摩耗の原因となり、また内外輪を効率的に利用できないことによって、コーナリングのスムーズさが損なわれるといった課題がある。
特許文献1では、片輪でモータを2個使っているため、モータ個数の増大によるコスト増、重量増が生じるだけでなく、制御も複雑になる。
【0005】
[後輪の場合]
一般的な後輪操舵機構を搭載した車両のリヤサスペンションは、独立懸架方式を採用している。これは、前輪のマニュアルステアリングと同様にナックルを押引きすることで後輪を操舵している。しかし、独立懸架方式を採ることで、足回りが複雑になり、コストが上がると共に室内空間の確保が難しくなるといった課題がある。
【0006】
独立懸架方式以外に適用した後輪操舵機構の例として、特許文献2が提案されている。この例では、トーションビームに外力を与えることで、トーションビームと車体の取付部位(トレーリングアーム)のゴムブッシュを変形させ後輪を操舵させている。但し、左右輪を独立して別々に制御することができず、また、ゴムブッシュの変形で最大操舵角度が決まるため、操舵角度は微小であり、最適な操舵角度を設定することは難しい。
特許文献2は、電動車両に適用されている。駆動モータの動力を分配し、回転運動を直動運動に変換しトーションビームに外力を与えているため、室内空間を広くとることができない。
【0007】
過去に本件出願人が提案した操舵機能付ハブユニットの構造について、ステアリング機構と共に用いて前輪に取り付ける一例(特許文献3)、トーションビーム(後輪)に取り付ける一例(特願2018-183189)を示している。どちらの場合においても、車体外で操舵機能付ハブユニットを組み立て、これをアッセンブリとして車体に取り付けを行う必要がある。また、操舵機能付ハブユニットに異常が生じ、点検もしくは交換をする場合にはアッセンブリで交換する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【文献】特開2005-178653号公報
【文献】特開2019-6226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
操舵機能付ハブユニットは、ユニット支持部材、転舵軸付ハブベアリングおよび操舵用アクチュエータが含まれるアッセンブリであるため、車両への取り付けまたは取り外しは、このアッセンブリごと行う必要があった。
また、異常等で点検もしくは交換が必要な場合もアッセンブリとして作業を行わなければならない。この場合、配線等も全て外す必要があり作業性が悪かった。
【0010】
この発明の目的は、車両への取り付けまたは取り外しを容易に行うことができ、またメンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる操舵機能付ハブユニットおよびこれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
内外輪およびこれら内外輪間に介在した複列の転動体を有し、且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、
この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、
前記ユニット支持部材および前記操舵用アクチュエータがそれぞれ車両の足回りフレーム部品に着脱可能に固定される固定部を有する。
【0012】
この構成によると、車両の足回りフレーム部品に、ユニット支持部材と操舵用アクチュエータが個別に着脱可能なため、車両への取り付け時または取り外し時の作業性が、全体をアッセンブリとして扱うよりも容易に行うことができる。操舵機能付ハブユニットのある部品に異常等があった場合、その部品を含む、ユニット支持部材および操舵用アクチュエータのいずれか一方だけを足回りフレーム部品から取り外してメンテナンスまたは交換すればよく、配線も外す必要があるものだけを外せばよいので、メンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる。
【0013】
前記操舵用アクチュエータと前記ユニット支持部材とが互いの間に前記足回りフレーム部品を挟み込むように取り付けられてもよい。この場合、操舵機能付ハブユニットがホイール径内に収まるように、操舵機能付ハブユニット全体をコンパクトに設計することが可能となる。
【0014】
前記足回りフレーム部品に対し、前記車両の車幅方向の外側に前記ユニット支持部材が取り付けられ、且つ前記車両の車幅方向の内側に前記操舵用アクチュエータが取り付けられてもよい。この場合、操舵用アクチュエータを足回りフレーム部品の車幅方向の外側に取り付けるよりも、操舵用アクチュエータの動力線、センサー線等の配線類を車体側に引き込む経路を短縮できるうえ、前記配線類が屈曲しないように取り回すことができる。したがって、配線類の取り回しがし易くなり、作業性の向上を図れる。
【0015】
前記ユニット支持部材は、前記転舵軸付ハブベアリングにおける車輪取付け部分とは車輪軸方向の逆側となる部分に、前記ユニット支持部材の固定部として、前記足回りフレーム部品と重なり状態で固定されるフランジ部を備えてもよい。この場合、足回りフレーム部品に対し、ユニット支持部材のフランジ部を重なり状態でボルト等により容易に固定することができまた容易に取り外すこともできる。このように操舵機能付ハブユニット全体をアッセンブリとして車体に取り付けまたは取り外すのではなく、ユニット支持部材だけを足回りフレーム部品に取り付けまたは取り外すことができる。したがって、メンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる。
【0016】
前記操舵用アクチュエータは、直動機構本体と、この直動機構本体から出退可能で前記転舵軸付ハブベアリングの前記外輪に操舵力を与える直動出力部とを有し、前記直動機構本体の前記直動出力部が突出する端部を前記操舵用アクチュエータの固定部とし、前記直動機構本体の前記端部が前記足回りフレーム部品と重なり状態で固定されてもよい。このように操舵機能付ハブユニットだけを足回りフレーム部品に取り付けまたは取り外すことができる。したがって、メンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる。
【0017】
この発明の車両は、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットを搭載している。操舵機能付ハブユニットは、ユニット支持部材に転舵軸付ハブベアリングが転舵軸心回りに回転自在に支持され、操舵用アクチュエータによって転舵軸心を中心として回転駆動させる。
車両の走行条件に応じて、左右の車輪のトー角をそれぞれ独立して任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。また、適切な車輪角度を左右輪それぞれで設定することでコーナリングドラッグを抑え、燃費を改善することも可能となる。その他この発明の操舵機能付ハブユニットにつき前述した各効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、内外輪およびこれら内外輪間に介在した複列の転動体を有し、且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記ユニット支持部材および前記操舵用アクチュエータがそれぞれ車両の足回りフレーム部品に着脱可能に固定される固定部を有する。このため、車両への取り付けまたは取り外しを容易に行うことができ、またメンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる。
【0019】
この発明の車両は、前述のいずれかに記載の操舵機能付ハブユニットを搭載しているため、車両への取り付けまたは取り外しを容易に行うことができ、またメンテナンス時等の作業性の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットの転舵軸付ハブベアリングおよびユニット支持部材の縦断面図である。
【
図3】同転舵軸付ハブベアリングを組付けたユニット支持部材と、操舵用アクチュエータを車両に組み付ける状態を示す図である。
【
図4】同操舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図5】同操舵機能付ハブユニットを備えた車両の一例の模式平面図である。
【
図6】同操舵機能付ハブユニットの一部を変更した変更形態の縦断面図である。
【
図7】同操舵機能付ハブユニットの一部を変更した変更形態の縦断面図である。
【
図8】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図9】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両のその他の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図5と共に説明する。
<操舵機能付ハブユニットの概略構造>
図1に示すように、この操舵機能付ハブユニット1は、転舵軸付ハブベアリング15と、ユニット支持部材3と、操舵用アクチュエータ5とを備える。
図3および
図4に示すように、車両の足回りフレーム部品であるナックル6に、ユニット支持部材3および操舵用アクチュエータ5がそれぞれ着脱可能に固定されている。
【0022】
ナックル6に対し、車両の車幅方向の外側であるアウトボード側にユニット支持部材3のフランジ部(固定部)3aが取り付けられ、且つ車両の車幅方向の内側であるインボード側に、後述する直動機構本体25Aの出力ロッド25aが突出する端部(固定部)25Aaが取り付けられる。つまり操舵用アクチュエータ5とユニット支持部材3とが互いの間にナックル6を挟み込むように取り付けられる。なお、図示しないが、ナックル6に対して同じ面側に、ユニット支持部材3および操舵用アクチュエータ5がそれぞれ着脱可能に固定されてもよい。
【0023】
転舵軸付ハブベアリング15を組付けたユニット支持部材3に、固定部としてボルト孔を設けたフランジ部3aを備え、操舵用アクチュエータ5の直動機構本体25Aに、固定部としてボルト孔を設けた端部25Aaを備える。具体的には、ユニット支持部材3は、転舵軸付ハブベアリング15における車輪取付け部分とは車輪軸方向の逆側となる部分に、ナックル6と重なり状態でボルトにより固定されるフランジ部3aを備える。このフランジ部3aは、ユニット支持部材3における、各回転許容支持部品4を支持する上下の部分3A,3Bのインボード側端部から、上下方向にそれぞれ所定距離突出する。
【0024】
操舵用アクチュエータ5は、後述する直動機構25の直動機構本体25Aと、この直動機構本体25Aから出退可能で転舵軸付ハブベアリング15の外輪19に操舵力を与える出力ロッド(直動出力部)25aとを有する。直動機構本体25Aの出力ロッド25aが突出するアウトボード側の端部25Aaが、ナックル6と重なり状態で固定される。なお、図示しないが、直動機構本体25Aのアウトボード側の端部25Aaから径方向外方に突出するフランジ部を設け、このフランジ部を操舵用アクチュエータ5の固定部としてもよい。
【0025】
フランジ部3a,端部25Aaの各ボルト孔に挿通したボルトによって、ユニット支持部材3と操舵用アクチュエータ5とがそれぞれナックル6に着脱可能に固定され、さらに操舵用アクチュエータ5と転舵軸付ハブベアリング15の間をジョイント部8で連結させている。転舵軸付ハブベアリング15は、車両への搭載前にユニット支持部材3と組み立てておくことが望ましいが、ナックル6にユニット支持部材3を取り付けた後で、転舵軸付ハブベアリング15を組み立ててもよい。
【0026】
図1および
図2に示すように、転舵軸付ハブベアリング15は、上下方向に延びる転舵軸16b,16bをその転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。回転許容支持部品4,4は、転がり軸受、すべり軸受を適用しても構わない。
図2および後述する
図6は、各回転許容支持部品4に、転がり軸受として円すいころ軸受を適用した場合、後述する
図7は、各回転許容支持部品4に、滑り軸受として球面すべり軸受を適用した場合を示す。
図1および
図2に示すように、通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン軸Kが10~20度で設定され、この実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン軸Kとは別の角度(軸)の転舵軸心Aを有している。車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0027】
<操舵機能付ハブユニット1の搭載箇所>
この操舵機能付ハブユニット1は、この実施形態では操舵輪、具体的には
図5に示すように、車両10の前輪9Fのステアリング装置11による操舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を操舵させる機構として、前輪9Fの懸架装置12のナックル6に搭載される。但し、操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0028】
図4および
図5に示すように、ステアリング装置11は、車体に取り付けられ、運転者のハンドル11aの操作、または図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって動作し、その進退するタイロッド14がナックル6に付設されたステアリング結合部6dに連結されている。ナックル6は、ショックアブソーバの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、およびステアリング装置11の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。ステアリング装置11は、ラック・ピニオン式等とされるが、どのタイプのステアリング装置でも構わない。懸架装置12は、例えば、マルチリンク式サスペンション機構を適用しているが、ダブルウィッシュボーン式サスペンション機構、ストラット式サスペンション機構、その他のサスペンション機構を適用してもよい。
【0029】
<転舵軸付ハブベアリング15>
図1に示すように、転舵軸付ハブベアリング15は、車体側の部材と車輪9とを繋ぎ、車輪9を滑らかに回転させる。
図2に示すように、転舵軸付ハブベアリング15は、内外輪18,19およびこれら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20を有し、且つ上下方向に延びる転舵軸16b,16bを有する。さらに転舵軸付ハブベアリング15は、
図4に示すように、転舵軸16b(
図2)に直交する方向に突き出したアーム部(後述する)17を有する。
【0030】
図2に示すように、この転舵軸付ハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。
図1および
図2に示すように、ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0031】
転舵軸16b,16bは、外輪19の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の軸部であり、転舵軸心Aに同軸に設けられる。各転舵軸16bは、外輪19に一体に設けられているが、例えば、外輪19の外周面に嵌合可能な円環部を設け、この円環部の外周から上下に突出する転舵軸としてもよい。前記「一体に設けられ」とは、外輪19と転舵軸16bとが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部として成形されたことを意味する。
【0032】
図1および
図4に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、図示外のブレーキキャリパとを有する。前記ブレーキキャリパは、外輪19(
図2)に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22に取付けられる。
【0033】
<ユニット支持部材等>
図2に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受から成る。この例では、転がり軸受として、円すいころ軸受が適用されている。転がり軸受は、転舵軸16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。上下の転がり軸受はホイール9a(
図1)内に位置するように設けられている。ユニット支持部材3の上下の部分3A,3Bには、それぞれ嵌合孔が形成され、各嵌合孔に外輪4bが嵌合固定されている。前記各嵌合孔は、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
【0034】
各転舵軸16bには雌ねじ部が形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。内輪4aの端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により、前記内輪の端面に押圧力を付与することで、各転がり軸受にそれぞれ適切な予圧を与えている。これにより各回転許容支持部品4の強度・耐久性を確保している。車両の重量がこの操舵機能付ハブユニット1に作用した場合でも初期予圧が抜けないように設定される。このため、この操舵機能付ハブユニット1は操舵装置としての剛性を確保し得る。なお、回転許容支持部品4は、円すいころ軸受に限るものではなく、最大負荷率等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0035】
図4に示すように、アーム部17は、転舵軸付ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、外輪19の外周の一部に一体に突出する。アーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部となる出力ロッド25aに回転自在に連結されている。これにより、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aが進退(直進運動)することで、転舵軸付ハブベアリング15が転舵軸心A回りに回転、つまり補助操舵させられる。
【0036】
<操舵用アクチュエータ5>
操舵用アクチュエータ5は、回転駆動源であるモータ26と、このモータ26の回転を減速する図示外の減速機と、この減速機の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。前記減速機は、例えばベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができる。
【0037】
直動機構25は、台形ねじまたは三角ねじ等の滑りねじ式の送りねじ機構を用いることができる。この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。この直動機構25は、前記送りねじ機構と、この送りねじ機構等の構成部品を覆うカバーである直動機構本体25Aとを備える。前記送りねじ機構は、図示外のナット部と、ねじ軸である前記出力ロッド25aとを有する。出力ロッド25aは、直動機構本体25Aに対して回り止めされている。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接に直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0038】
<作用効果>
以上説明した操舵機能付ハブユニット1によれば、車輪9を支持する転舵軸付ハブベアリング15を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。この回転は、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、すなわちステアリング装置11によるキングピン軸K回りのナックル6の回転に付加して、補助的な操舵として行われ、また1輪の独立操舵が行える。左右の車輪9,9の補助操舵の角度を異ならせることで、左右の車輪9,9間のトー角を任意に変更することができる。
【0039】
そのため、操舵機能付ハブユニット1を前輪等の操舵輪および後輪等の非操舵輪のいずれに用いてもよい。操舵機能付ハブユニット1を操舵輪に用いる場合、ステアリング装置11により方向が変化させられる部材に設置されることにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、左右の車輪個別の、または左右輪に連動した車輪9の微小な角度変化を行わせる機構となる。
【0040】
操舵機能付ハブユニット1を後輪9Rである非操舵輪に適用した場合は、ハブユニット全体は操舵しないが、操舵機能付ハブユニット1の操舵機能により、前輪9Fと同様に僅かな角度の操舵を車輪毎に独立して行える。旋回走行時に、舵角を前輪9Fと同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両10の安定性を高めることができる。直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、走行安定性を確保することができる。
【0041】
操舵機能付ハブユニット1を前輪9F・後輪9Rのいずれに適用した場合においても、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば、操舵機能付ハブユニット1を前輪9Fに適用した場合では、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。操舵機能付ハブユニット1を後輪9Rに適用した場合では、旋回時に後輪9Rを操舵することで車両10にヨーを発生させ旋回し易くする。このように車両10の走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両10の運動性能、安定性および安全性の向上が可能となる。
さらに、左右の操舵輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両10の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに、それぞれの場面に合わせて左右輪のトー角の量を調整することで、直線走行時には走行安定性を、旋回時にはコーナリングドラックを抑えた効率的な走行が可能である。
【0042】
転舵軸付ハブベアリング15を回転許容支持部品4を介して回転自在に取り付けたユニット支持部材3と、操舵用アクチュエータ5は、それぞれナックル6に着脱可能に固定されるフランジ部3a,端部25Aaを有する。このため、車両10に操舵機能付ハブユニット1を搭載する場合に、それぞれの部品が個別に着脱可能なため、車両10への取り付け時または取り外し時の作業性が、全体をアッセンブリとして扱うよりも容易に行うことができる。操舵機能付ハブユニット1のある部品に異常等があった場合、その部品を含む、ユニット支持部材3および操舵用アクチュエータ5のいずれか一方だけをナックル6から取り外してメンテナンスまたは交換すればよく、配線も外す必要があるものだけを外せばよいので、メンテナンス時等の作業性の改善を図ることができ、またコストも抑えることができる。
【0043】
操舵用アクチュエータ5とユニット支持部材3とが互いの間にナックル6を挟み込むように取り付けられるため、操舵機能付ハブユニット1がホイール径内に収まるように、操舵機能付ハブユニット全体をコンパクトに設計することが可能となる。
ナックル6に対し、車両10の車幅方向の外側にユニット支持部材3が取り付けられ、且つ車両10の車幅方向の内側に操舵用アクチュエータ5が取り付けられている。この場合、操舵用アクチュエータを足回りフレーム部品の車幅方向の外側に取り付けるよりも、操舵用アクチュエータ5の動力線、センサー線等の配線類を車体側に引き込む経路を短縮できるうえ、前記配線類が屈曲しないように取り回すことができる。したがって、配線類の取り回しがし易くなり、作業性の向上を図れる。
【0044】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0045】
前述の実施形態では、転舵軸付ハブベアリング15の内輪部18bが、ハブ輪部18aにナットにより固定されているが、この形態に限定されるものではない。例えば、
図6に示すように、内輪部18bは、ハブ輪部18aに、ハブ輪部18aのインボード側端の加締部18abによる加締めにより固定されてもよい。
【0046】
図7に示すように、各回転許容支持部品4は、すべり軸受から成るものであってもよい。この例では、すべり軸受として、ラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重が負荷できる自動調心形の球面すべり軸受が適用されている。この球面すべり軸受は、転舵軸16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bとを有する。なおこの
図7の例では、内輪部18bはハブ輪部18aに加締部18abによる加締めにより固定されているが、内輪部18bが、ハブ輪部18aにナットにより固定されていてもよい。
【0047】
<非操舵輪への適用について>
図8に示すように、前輪操舵の車両において、後輪9Rを支持する懸架装置12Rの足回りフレーム部品6Rに、操舵機能付ハブユニット1を固定してもよい。後輪9に適用した操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前述の微小な操舵角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
懸架装置12Rとして、前述の各種サスペンション機構を適用可能である。懸架装置12Rとして、例えば、トーションビーム式サスペンションが適用される場合、このトーションビーム式サスペンションのビーム33の左右両端部に設けられた取付部に、それぞれ操舵機能付ハブユニット1が固定される。前記各取付部に、ユニット支持部材3の固定部であるフランジ部3a(
図3参照)および操舵用アクチュエータ5の固定部である端部25Aa(
図3参照)がそれぞれ着脱可能に固定される。
【0048】
前記各取付部において、操舵用アクチュエータ5(
図3参照)とユニット支持部材3(
図3参照)とがトーションビーム取付面を挟み込むように組み付けられている。この構成において、取付部のアウトボード側のトーションビーム取付面にユニット支持部材3(
図3参照)が組付けられ、取付部のインボード側のトーションビーム取付面に操舵用アクチュエータ5(
図3参照)が組付けられる。組付け後、操舵用アクチュエータ5と転舵軸付ハブベアリング15のアーム部17とをジョイント部8(
図4参照)で連結する。なお、前述の実施形態と同様に、トーションビームの取付部に対して同じ面側に、ユニット支持部材3および操舵用アクチュエータ5がそれぞれ着脱可能に組付けられてもよい。
【0049】
その他
図9に示すように、操舵機能付ハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rにそれぞれ用いてもよい。
操舵用アクチュエータ5およびアーム部17は車軸から見て後方に設けられるだけでなく、前方に設けられてもよい。
【0050】
<操舵システムについて>
図4に示すように、この操舵システムは、いずれかの実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0051】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整し得る。
【0052】
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1…操舵機能付ハブユニット、3…ユニット支持部材、3a…フランジ部(固定部)、5…操舵用アクチュエータ、6…ナックル(足回りフレーム部品)、6R…足回りフレーム部品、9…車輪、10…車両、15…転舵軸付ハブベアリング、16b…転舵軸、18…内輪、19…外輪、20…転動体、25A…直動機構本体、25Aa…端部、25a…出力ロッド(直動出力部)、A…転舵軸心