(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】ズリ除去装置およびズリ除去方法
(51)【国際特許分類】
E21B 21/00 20060101AFI20230727BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
E21B21/00 Z
E21D9/00 C
(21)【出願番号】P 2020087132
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】友野 雄士
(72)【発明者】
【氏名】小仲井 一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅浩
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-032458(JP,A)
【文献】特開平07-011891(JP,A)
【文献】実開昭56-087590(JP,U)
【文献】特開昭59-122689(JP,A)
【文献】特開2002-146785(JP,A)
【文献】実開平06-071589(JP,U)
【文献】特開昭61-211489(JP,A)
【文献】特開平06-002474(JP,A)
【文献】特開平07-166795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 21/00
E21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔後の掘削孔内のズリを除去するためのズリ除去装置であって、
螺旋状に形成されたスクリュー羽根と、
前記スクリュー羽根に
軸回りの回転力を付与する回転力付与手段と、を備え、
前記回転力付与手段は、前記スクリュー羽根の基端部に接続される固定部と、前記固定部を介して回転力を付与する本体部と、前記本体部の下部に一体に形成された把持部と、前記把持部の根元に設けられ当該回転力付与手段のオン・オフを制御するトリガーと、を備えていることを特徴とする、ズリ除去装置。
【請求項2】
前記スクリュー羽根の羽根間隔が、前記掘削孔の内径の1.0~1.5倍の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のズリ除去装置。
【請求項3】
前記スクリュー羽根が、螺旋状に加工された帯状部材であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のズリ除去装置。
【請求項4】
前記回転力付与手段の動力源が、圧縮空気であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のズリ除去装置。
【請求項5】
前記スクリュー羽根と前記回転力付与手段との間に延長シャフトが介設されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のズリ除去装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のズリ除去装置を利用した掘削孔内のズリ除去方法であって、
穿孔後の掘削孔に前記スクリュー羽根を挿入するとともに、前記回転力付与手段を駆動させて、前記スクリュー羽根を回転させることを特徴とする、ズリ除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズリ除去装置およびズリ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発破工法によるトンネル施工では、削岩機やドリルジャンボ等を利用して穿孔した装薬孔に爆薬を装填した後、爆薬により岩盤等を破壊して掘進する。穿孔直後の装薬孔にはズリが残存する場合があるため、爆薬を装填する前に、ズリを除去する必要がある。
装薬孔からのズリの除去は、きゅうれん(かぎ棒)を利用して人力にて行うのが一般的であった。ところが、きゅうれんを利用してズリを装薬孔からかきだす作業には、手間と時間がかかるとともに、切羽接近して作業を行う必要があるため、危険を伴う。
特許文献1には、吸引装置に接続されたパイプを装薬孔に挿入し、孔内のズリを吸引除去する方法が開示されている。特許文献1の除去方法では、パイプに取り込むことができない大きな形状のズリは、パイプの先端に吸着させた状態で、パイプを抜き出すことにより排出する。そのため、大きい形状のズリの排出には手間がかかる。また、パイプなどがズリによって閉塞した場合には、復旧作業に手間と時間がかかる。さらに、パイプの先端部のみからしかズリを除去することができないため、装薬孔の中間部にズリが残存してしまうおそれがあった。
アンカーやロックボルト等の施工においても掘削孔内からのズリの除去作業が行われており、装薬孔と同様の問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、穿孔後に掘削孔に残存するズリを効率的に除去することが可能なズリ除去装置およびこれを利用して安全性を向上させたズリ除去方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決する本発明の穿孔後の掘削孔内のズリを除去するズリ除去装置は、螺旋状に形成されたスクリュー羽根と、前記スクリュー羽根に軸回りの回転力を付与する回転力付与手段とを備えている。前記回転力付与手段は、前記スクリュー羽根の基端部に接続される固定部と、前記固定部を介して回転力を付与する本体部と、前記本体部の下部に一体に形成された把持部と、前記把持部の根元に設けられ当該回転力付与手段のオン・オフを制御するトリガーとを備えている。
また、本発明のズリ除去装置を利用した掘削孔内のズリ除去方法は、穿孔後の掘削孔に前記スクリュー羽根を挿入するとともに、前記回転力付与手段を駆動させて前記スクリュー羽根を回転させることで、掘削孔内のズリを排出するものである。
かかるズリ除去装置およびズリ除去方法によれば、回転力付与手段によってスクリュー羽根を回転させることで掘削孔からズリを排出することができるため、作業の効率化を図ることができる。また、スクリュー羽根は、先端部のみではなく、全長にわたってズリを取り込むことができるため、掘削孔の中間部にズリが残存することを抑制することができる。
【0006】
なお、前記スクリュー羽根の羽根間隔が、前記掘削孔の内径の1.0~1.5倍の範囲内であれば、掘削孔の穿孔により生じたズリを、羽根同士の間に取り込んで排出することができる。
また、前記スクリュー羽根は、螺旋状に加工された帯状部材であるのが望ましい。スクリュー羽根の中心部に軸棒を有していなければ、比較的大きなズリも羽根同士の間に取り込んで、排出することができる。
また、前記回転力付与手段の動力源が圧縮空気であれば、火薬類を使用する現場においても、安全にズリの除去作業を行うことができる。
さらに、前記スクリュー羽根と前記回転力付与手段との間に延長シャフトが介設されていれば、スクリュー羽根を必要以上に長くする必要がなく、また、延長シャフトの長さを調節することで、切羽から離れた位置において作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のズリ除去装置およびズリ除去方法によれば、掘削孔内に残存するズリを効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のズリ除去装置を示す側面図である。
【
図3】実証実験に使用したスクリュー羽根の写真であって、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例1、(d)は比較例2、(e)は比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、発破工法によるトンネル施工において、地山Gを穿孔することにより形成された装薬孔(掘削孔)Hに爆薬を装填する前に、ズリ除去装置1を利用して装薬孔Hに残存するズリ(岩片)Rを除去する場合について説明する。
図1は、本実施形態のズリ除去装置1を示す図である。本実施形態の装薬孔Hは、内径45mmで、深さが1~1.5mとする。なお、装薬孔(掘削孔)Hの内径や深さは、限定されるものではない。
ズリ除去装置1は
図1に示すように、スクリュー羽根2と、回転力付与手段3と、延長シャフト4とを備えている。
【0010】
スクリュー羽根2は、螺旋状に形成された長尺の部材である。
図2にスクリュー羽根2を示す。本実施形態のスクリュー羽根2は、装薬孔Hの深さ以下の長さ(例えば80cm程度)を有している。本実施形態のスクリュー羽根2は、
図2に示すように、螺旋状に加工されたステンレス鋼製の帯状部材である。すなわち、スクリュー羽根2は、帯状の長尺板材をねじるように加工することで形成された、いわゆるリボン翼であって、長手方向に延びる軸材(芯材)等を有していない。螺旋状に加工されたスクリュー羽根2を正面視した際の外径Dは、装薬孔Hの内径と同等以下(本実施形態では40mm)とする。また、スクリュー羽根2の羽根間隔(スクリューピッチ)Pは、装薬孔Hの内径の1.0~1.5倍の範囲内である。
スクリュー羽根2の基端部(回転力付与手段3側の端部)には、接続部21が一体に形成されている。接続部21は、ステンレス鋼棒からなる。接続部21の先端部はスクリュー羽根2の基端部に固定されていて、接続部21のそれ以外の部分はスクリュー羽根2の基端から後方に突出している(延設されている)。また、接続部21の後端部(基端部)の外面には、ネジ加工が施されていて、回転力付与手段3または延長シャフト4に接続されている。
【0011】
回転力付与手段3は、スクリュー羽根2に回転力を付与する。本実施形態の回転力付与手段3の動力源は、圧縮空気である。本実施形態の回転力付与手段3は、
図1に示すように、延長シャフト4(またはスクリュー羽根2)が接続される固定部31と、固定部31に対して回転力を付与する本体部32、本体部32の下部に一体に形成された把持部33と、把持部33の根元に設けられたトリガー34とを備えている。作業員は、把持部33を把持して作業を行い、トリガー34を操作することにより回転力付与手段3のオン・オフを制御する。
【0012】
延長シャフト4は、
図1に示すように、スクリュー羽根2と回転力付与手段3との間に介設された棒状部材であって、スクリュー羽根2と回転力付与手段3とを連結している。延長シャフト4は、スクリュー羽根2よりも曲げ耐力が強いステンレス鋼製の棒材からなる。延長シャフト4の先端部は、スクリュー羽根2に接続可能に構成されており、延長シャフト4の基端部は、回転力付与手段3に接続可能に構成されている。本実施形態の延長シャフト4の端部は、雄ネジを有し、スクリュー羽根2または他の延長シャフト4に連結用治具(長ナット等)5を介して連結される。また、延長シャフト4の本数を変更することで、スクリュー羽根2と回転力付与手段3との間隔を変化させることが可能である。なお、長さの異なる延長シャフト4に変更することで、スクリュー羽根2と回転力付与手段3との間隔を変化させてもよい。本実施形態では、回転力付与手段3からスクリュー羽根2の基端部までの距離を1.5m程度とし、作業者が切羽Kから十分に離れた位置からズリRの除去作業を行うものとする。なお、回転力付与手段3からスクリュー羽根2の基端部までの距離は、現場状況(例えば、装薬孔Hの削孔長(発破進行長)や地山状況)などに応じて適宜決定すればよい。
【0013】
ズリ除去装置1を利用した装薬孔H内のズリ除去方法は、回転力付与手段3を駆動させてスクリュー羽根2を回転させながら、穿孔後の装薬孔Hにスクリュー羽根2を挿入することにより行う。装薬孔Hにスクリュー羽根2を挿入すると、装薬孔Hに残存するズリRが、スクリュー羽根2の隙間に入り込むとともに、回転するスクリュー羽根2によって孔口側に誘導されて、装薬孔Hから排出される。
【0014】
本実施形態のズリ除去装置1によれば、スクリュー羽根2の回転により機械的にズリRをかきだすことができるため、作業の効率化および省力化が可能となり、ひいてはズリ除去作業に要する時間を短縮することができる。その他、ズリ除去装置1の作用効果は、次のとおりである。
スクリュー羽根2は、複数のズリRを連続的に孔口へ送りながら、他のズリRを取り込むことが可能である。つまり、スクリュー羽根2を装薬孔Hに一度挿入するだけでも複数のズリRを同時に除去することができるので、効率的にズリ除去作業を行える。
しかも、スクリュー羽根2が螺旋状に加工された帯状部材からなり、スクリュー羽根2の中心部に芯材などが配設されていないため、装薬孔H内に残存する比較的大きなズリRを取り込むことができる。また、スクリュー羽根2の羽根間隔Pが装薬孔Hの内径の1.0~1.5倍であるため、装薬孔H内に残存する比較的大きなズリRを取り込むことができる。すなわち、スクリュー羽根2は、装薬孔H内に残存する形状のズリRであれば、羽根同士の間に取り込んで装薬孔H外へと誘導可能である。
また、スクリュー羽根2がステンレス鋼製であるため、静電気が発生し難く、火薬類の引火に対する安全性に優れている。
【0015】
また、回転力付与手段3の動力源を圧縮空気としているので、火薬類を使用する現場においても、引火に対する安全性を確保できる。
本実施形態では、スクリュー羽根2と回転力付与手段3との間に延長シャフト4を介設しているので、切羽Kから十分に離れた位置において安全に作業を行うことができる。
なお、切羽Kから作業員までの距離を大きく確保する場合において、スクリュー羽根2の長さを大きくすると、自重によってスクリュー羽根2がしなるおそれがある。一方、本実施形態のズリ除去装置1は、スクリュー羽根2を一定の長さとし、スクリュー羽根2と回転力付与手段3との間に延長シャフト4を介設しているため、切羽Kから作業員までの距離を大きく確保した場合であっても、回転力付与手段3からスクリュー羽根2までの区間の直線性を維持し(しなることを抑制し)、操作性が低下することを防止できる。
延長シャフト4の本数または延長シャフト4の長さによってスクリュー羽根2の先端から回転力付与手段3までの距離を調節することが可能なため、装薬孔Hの削孔長(発破進行長)が変化する場合であっても、削孔長に応じて長さを調整することができる。
また、ズリ除去装置1は、簡易な構成なため、メンテナンスが容易である。
【0016】
次に、本実施形態のズリ除去装置1の実証実験の結果を説明する。実証実験で使用したスクリュー羽根2を
図3に示す。本実験では、実施例1としてステンレス鋼製のスクリュー羽根2(
図3(a)参照)、実施例2としてプラスチック製のスクリュー羽根2(
図3(b)参照)を使用した。掘削孔の内径は45mmとし、各スクリュー羽根2の外径を40mm、羽根間隔を40mm~60mmの範囲内とした。
また、本実験では、比較例1として芯材の周囲に銅線ブラシが螺旋状に設けられたもの(
図3(c)参照)、比較例2として芯材の周囲に真鍮線ブラシが螺旋状に設けられたもの(
図3(d)参照)、比較例3として芯材の周囲にプラスチック製のスクリュー羽根2が形成されたもの(
図3(e)参照)を使用した。
【0017】
実験の結果、比較例1,2は、ブラシが変形してスクリュー形状を維持することができないため、ズリRを除去することができなかった。また、比較例3は、樹脂製の芯材が太く、ズリRを取り込むための隙間が十分に確保することができず、大きめのズリを除去することができなかった。
一方、実施例1,2では、大きめのズリRであっても除去することができた。したがって、本実施形態のズリ除去装置1により、掘削孔からズリRを除去することが可能であることが確認できた。特に実施例1のスクリュー羽根2が最も効率的にズリRを除去することができた。
【0018】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、トンネル施工時に形成する装薬孔HからズリRを除去する場合を例示したが、ズリ除去装置1の使用対象は装薬孔Hに限定されるものではなく、例えば、ロックボルト用の掘削孔やアンカー用の掘削孔等からズリRの除去を行う場合に使用してもよい。
また、スクリュー羽根2の形状寸法は限定されるものではなく、例えば、羽根間隔Pや、芯材の有無等は、適宜決定すればよい。また、スクリュー羽根2を構成する材料はステンレス鋼製に限定されるものではなく、例えばアルミニウム合金製、鋼製、合成樹脂製のものであってもよい。
スクリュー羽根2の長さは適宜決定すればよく、例えば、装薬孔Hの深さより大きくしてもよい。
また、前記実施形態では、回転力付与手段3として、人力で携行可能なハンディタイプのものを使用する場合について説明したが、回転力付与手段3の構成は限定されるものではなく、例えば、重機等であってもよい。すなわち、重機のブームやガイドセルに搭載することも可能である。また、回転力付与手段3の構成(形状等)は限定されるものではない。
また、回転力付与手段3の動力源は圧縮空気に限定されるものではなく、例えば、電動モーター、油圧モータ、エンジンなどを使用してもよい。回転力付与手段3の動力原は、対象とする掘削孔の目的や施工個所の状況などに応じて適宜決定すればよい。
延長シャフト4は、必要に応じて配設すればよく、例えば、掘削孔の孔口近傍において作業を行う場合や、スクリュー羽根がしなることのない強度を有している場合等では、スクリュー羽根2を回転力付与手段3に直接取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 ズリ除去装置
2 スクリュー羽根
3 回転力付与手段
4 延長シャフト
H 装薬孔(掘削孔)
R ズリ