(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルス抗原の免疫測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/576 20060101AFI20230727BHJP
G01N 33/548 20060101ALI20230727BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230727BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20230727BHJP
C12Q 1/42 20060101ALI20230727BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20230727BHJP
C07K 14/18 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
G01N33/576 B ZNA
G01N33/548
G01N33/543 545A
C12Q1/28
C12Q1/42
C12Q1/66
C07K14/18
(21)【出願番号】P 2020512321
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2019014975
(87)【国際公開番号】W WO2019194280
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018073896
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西井 友教
(72)【発明者】
【氏名】飯田 久美子
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大植 千春
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/053900(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053901(WO,A1)
【文献】特開平10-227796(JP,A)
【文献】特開2000-105233(JP,A)
【文献】特開2017-032583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12Q 1/28
C12Q 1/42
C12Q 1/66
C07K 14/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離された試料中のB型肝炎ウイルス(HBV)抗原のサンドイッチ法による免疫測定方法であって、
重量平均分子量が2万~400万の水溶性高分子の存在下で、
(1)前記試料中のHBV抗原と、
(2) 標識物質と、抗HBV抗体又は該抗HBV抗体の抗原結合性断片と、水溶性担体との結合体(以下、「標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体
」)と
を反応させ、前記HBV抗原と結合した前記
標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体を検出することを含む、免疫測定方法。
【請求項2】
前記標識物質が標識酵素であり、前記標識酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びルシフェラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性担体が、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース、キチン、キトサン、β―ガラクトシダーゼ、サイログロブリン、ヘモシアニン、ポリリジン、ポリペプチド及びDNA、並びにこれらの修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、デキストラン及びアミノデキストラン、並びにこれらの修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記HBV抗原に特異的に結合する抗体は、B型肝炎ウイルス表面抗原と特異的に結合する抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
試料中のB型肝炎ウイルス(HBV)抗原を、請求項1に記載の免疫測定方法により免疫測定するキットであって、
重量平均分子量が2万~400万の水溶性高分子と、標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体とを含
む液を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原の免疫測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HBVに感染すると、患者の血液中にはHBVが検出されるが、やがて、患者の免疫機構によりHBVの増殖が抑制されると、HBVが陰性となり、抗HBV抗体が陽性となる、セロコンバージョンと呼ばれる状態に至ることがしばしばある。しかしながら、セロコンバージョン後にもHBVが増殖を続けてB型肝炎が進行する患者が存在することがわかっている。セロコンバージョン後は、血液中のHBV濃度が低くなるため、通常の免疫測定ではHBVの検出が困難であり、このため、高感度の測定方法が求められている。
【0003】
HBV抗原の高感度検出の方法として、検体を、界面活性剤で前処理する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、さらに高感度な測定方法が望まれる。
【0004】
また、B型肝炎ウイルス表面(HBs)抗原を高感度に免疫測定する方法として、HBs抗原が抗体でサンドイッチされた免疫複合体を選択的に回収して別の磁性ビーズに転移させ、非特異バックグランドを低減させる、いわゆる免疫複合体転移法も知られている(特許文献2)。しかしながら、この方法は、この方法を実施するために設計された特別な装置を必要とし、汎用の免疫測定装置では実施することができない。
【0005】
一方、免疫測定に用いる標識抗体として、水溶性担体と、複数分子の標識酵素と、複数分子の抗体断片とを結合させたものを用いた方法も知られている(特許文献3、特許文献4)。さらに、デキストランの存在下で、免疫測定を行うことにより、抗原抗体反応を短縮化させる方法も知られている(特許文献5)。しかしながら、これらの公知の方法を、HBV抗原の免疫測定に適用した場合でも、さらなる感度向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-108932号公報
【文献】WO2014/115878
【文献】WO2006/070732
【文献】特許第3781934号掲載公報
【文献】特開昭61-79164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、汎用の免疫測定装置で実施可能であり、高感度にHBV抗原を検出することができる、HBV抗原の免疫測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、水溶性高分子の存在下で、試料中のHBV抗原と、標識酵素-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体とを反応させることにより、高感度にHBV抗原を検出可能であることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち、本願発明は、以下のものを提供する。
(1) 生体から分離された試料中のB型肝炎ウイルス(HBV)抗原のサンドイッチ法による免疫測定方法であって、
重量平均分子量が2万~400万の水溶性高分子の存在下で、(1)前記試料中のHBV抗原と、(2) 標識物質と、抗HBV抗体又は該抗HBV抗体の抗原結合性断片と、水溶性担体との結合体(以下、「標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体」)とを反応させ、前記HBV抗原と結合した前記標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体を検出することを含む、免疫測定方法。
(2) 前記標識物質が標識酵素であり、前記標識酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びルシフェラーゼからなる群より選ばれる少なくとも1種である、(1)に記載の方法。
(3) 前記水溶性担体が、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース、キチン、キトサン、β―ガラクトシダーゼ、サイログロブリン、ヘモシアニン、ポリリジン、ポリペプチド及びDNA、並びにこれらの修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記水溶性高分子が、デキストラン及びアミノデキストラン、並びにこれらの修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、(3)に記載の方法。
(5) 前記HBV抗原に特異的に結合する抗体は、B型肝炎ウイルス表面抗原と特異的に結合する抗体である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 試料中のB型肝炎ウイルス(HBV)抗原を、請求項1に記載の免疫測定方法により免疫測定するキットであって、
重量平均分子量が2万~400万の水溶性高分子と、標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体とを含む液を備える、免疫測定キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、汎用の免疫測定装置で実施可能であり、高感度にHBV抗原を検出することができる、HBV抗原の新規な免疫測定方法及びそのためのキットが提供された。本発明の方法によれば、血液中のHBV抗原を高感度に測定できるため、セロコンバージョン後の予後予測を的確に行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.免疫測定方法>
上記のとおり、本発明の免疫測定方法は、生体から分離された試料中のHBV抗原の免疫測定方法である。試料としては、HBVを含有し得る試料であれば特に限定されず、例えば、血清、血漿、全血、尿、便、口腔粘膜、咽頭粘膜、腸管粘膜および各種生検試料等が挙げられる。好ましくは、試料は、血清又は血漿である。これらの試料は、所望により、希釈して免疫測定に供することもできる。また、免疫測定の対象となるHBV抗原は、HBVの検出が可能となる抗原であれば特に限定されず、例えば、表面抗原(HBsAg)やコア関連抗原(HBcrAg)を挙げることができる。
【0012】
本発明の方法におけるHBV抗原の免疫測定方法の原理は、サンドイッチ法及び競合法のいずれをも採用することができるが、HBV抗原を、HBV抗原と特異的に反応する2種の抗体、捕捉抗体と検出抗体とを使用して検出するサンドイッチ法が好ましい。サンドイッチ法としては、2ステップ法であるフォワードサンドイッチ法(捕捉抗体と検体中の抗原、捕捉抗体に結合した抗原と検出抗体との反応を逐次的に行う)、リバースサンドイッチ法(予め検出抗体と検体中の抗原を反応させ、生成した抗原抗体複合物を捕捉抗体と反応させる)、及び1ステップ法(捕捉抗体、検体中の抗原、検出抗体の反応を同時に1ステップで行う)を挙げることができるが、これらのいずれも採用可能である。
【0013】
より具体的には、例えば、フォワードサンドイッチ法は以下のように行うことができる。まず、マイクロプレートや磁性ビーズなどの不溶性担体に、HBV抗原と結合する捕捉抗体を固相化する。次に、捕捉抗体や不溶性担体への非特異的な吸着を防ぐために、適当なブロッキング剤(例えば、牛血清アルブミンやゼラチン等)で不溶性担体のブロッキングを行う。捕捉抗体が固相化されたプレートやビーズにバッファー及び検体を加え、捕捉抗体と検体中のHBV抗原とを接触させ、結合させる(一次反応工程)。この後、捕捉抗体に結合しなかった抗原や夾雑物を適当な洗浄液(例えば、界面活性剤を含むリン酸緩衝液)で洗浄する。次に、捕捉されたHBV抗原を認識する抗体と標識物質が直接または間接的に結合した検出抗体を添加し、捕捉された抗原に検出抗体を結合させる(二次反応工程)。この反応により、捕捉抗体-抗原-検出抗体を含む免疫複合体がマイクロプレート等の担体上に形成される。結合しなかった検出抗体を洗浄液で洗浄した後、所定の方法で残存する検出抗体の標識物質を検出する。例えば、標識物質が酵素である場合は、酵素に対応する発色基質や発光基質を添加し、酵素と基質を反応させることによりシグナルを検出する。
【0014】
本明細書において捕捉抗体とは、検体中のHBV抗原を捕捉する抗体を示すが、前記の不溶性担体を用いたサンドイッチ法では、不溶性担体に固相化される固相抗体である。捕捉抗体としては、HBV抗原と反応する抗HBV抗体又はその抗原結合性断片をいずれも使用できる。抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。
【0015】
通常、免疫測定における検出抗体としては、該標的抗原と特異的に反応する抗体と、標識物質との結合体(標識抗体)が広く用いられている。本発明の免疫測定方法では、このような、通常の免疫測定における標識抗体の機能を果たすものとして、標識物質と、抗HBV抗体又はその抗原結合性断片と、水溶性担体との結合体(標識物質-抗HBV抗体又はその抗原結合性断片-水溶性担体結合体、以下、便宜的に「高分子標識体」と呼ぶことがある)が用いられる。以下、これについて説明する。
【0016】
高分子標識体中の水溶性担体としては、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース(例えば、ヘミセルロースやリグリン等)、キチン、キトサン、β―ガラクトシダーゼ、サイログロブリン、ヘモシアニン、ポリリジン、ポリペプチド及びDNA、並びにこれらの修飾体(例えば、DEAE Dextranやデキストラン硫酸ナトリウム等)を挙げることができる。これらのうち、デキストラン及びアミノデキストラン並びにこれらの修飾体が好ましく、特にデキストランが好ましい。
【0017】
水溶性担体の重量平均分子量は、特に限定されないが、免疫測定の感度の観点及び水溶性であるという観点から、6千~400万が好ましく、特に2万~15万が好ましい。
【0018】
高分子標識体中の標識物質(標識として機能する物質)としては、公知の免疫測定において用いられている標識物質であればいずれも用いることができ、例えば、酵素、アクリジニウム誘導体などの発光物質、ユーロピウムなどの蛍光物質、I125などの放射性物質、ビオチン、ジニトロフェニル(DNP)、FITCなどの低分子量標識物質、低分子量のペプチド、レクチンなどを用いることができる。特に、簡便かつ安定性のある試験を可能とすることから、酵素の使用が好ましい。酵素の好ましい例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びルシフェラーゼを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。以下、標識物質の代表例としての酵素(以下「標識酵素」とも称する)を用いた実施形態を示すが、標識物質を酵素に限定するものではない。
【0019】
高分子標識体中の抗HBV抗体又はその抗原結合性断片としては、HBV抗原と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片であれば特に限定されない。抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。抗原結合性断片としては、測定対象となるHBVと抗原抗体反応する断片であれば特に限定されず、Fab断片、Fab’断片やF(ab’)2断片等を挙げることができる。これらの抗原結合性断片は、抗体を2-メルカプトエチルアミンのような還元剤や、パパインやペプシン等のタンパク質分解酵素で処理する、周知の方法により容易に調製することができる。本発明では、検出感度の観点から、抗体断片を用いることが好ましく、特にFab’断片が好ましい。
【0020】
高分子標識体中の、標識酵素、抗HBV抗体又はその抗原結合性断片及び水溶性担体の三者の比率は、検出感度を向上させるために、水溶性担体1分子に結合する標識酵素及び抗体又はその抗原結合性断片の分子数ができるだけ多くなるように設定することが好ましく、水溶性担体を100重量部とした場合、標識酵素が好ましくは200重量部~2000重量部、さらに好ましくは、400重量部~1200重量部程度、抗体又は抗原結合性断片が好ましくは700重量部~1400重量部、さらに好ましくは、1000重量部~1300重量部程度である。
【0021】
上記三者は、共有結合で結合していることが好ましい。例えば、下記実施例に具体的に記載するように、先ず、水溶性担体を過ヨウ素酸ナトリウムのような酸化剤で酸化してアルデヒド基を生成させ、これをクロロヒドラジンと反応させてヒドラジン化し、一方、標識酵素を過ヨウ素酸ナトリウムのような酸化剤で酸化してその糖鎖にアルデヒド基を生成させる。このアルデヒド基と水溶性担体のヒドラジン残基とを反応させてヒドラゾンを形成して結合し、次いで、得られた水溶性担体-標識酵素結合体を、EMCS(N-ε-レイミドカプロイル-オキシスルフォサクシミドエステル)のようなタンパク質カップリング剤で処理し、これを抗体又はその断片と反応させ、標識酵素と抗体又はその断片とを共有結合させることにより、三者を共有結合させることができる。この方法によれば、2分子以上の水溶性担体が標識酵素を介して結合したものに、抗体又はその断片が結合したものが得られる。
【0022】
もっとも、三者を共有結合させる方法は、上記方法に限定されるものではない。例えば、アミノ基(標識酵素や抗体又はその断片のアミノ基や、水溶性担体に導入したアミノ基)にチオール基を導入し、一方、他の物質のアミノ基にマレイミド基やピリジルジスルフィド基を導入して反応させる方法等の周知の他の方法を採用することもできる。チオール基の導入は、例えば、S-アセチルメチルカプト無水コハク酸やN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート等の市販の試薬を用いて行うことができ、アミノ基へのマレイミド基の導入は、例えば、N-(6-マレイミドカプロイロキシ)スクシンイミドやN-(4-マレイミドブチリロキシ)スクシンイミド等の市販の試薬を用いて行うことができる。ピリジルジスルフィド基の導入は、例えば、N -Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate(SPDP)やN -{6-[3-(2-Pyridyldithio)propionamido]hexanoyloxy}sulfosuccinimide, sodium salt(Sulfo-AC5-SPDP)等の市販の試薬を用いて行うことができる。
【0023】
これらの反応に供する標識酵素、抗HBV抗体又はその抗原結合性断片及び水溶性担体の比率は、上記した好ましい三者の比率が達成されるように適宜選択される。反応に供する三者の比率は、水溶性担体を100重量部とした場合、標識酵素が好ましくは200重量部~2000重量部、さらに好ましくは、400重量部~1200重量部程度、抗体又は抗原結合性断片が好ましくは700重量部~1400重量部、さらに好ましくは、1000重量部~1300重量部程度である。
【0024】
免疫測定時における反応液中の高分子標識体の終濃度は、特に限定されないが、免疫測定の感度の観点から、標識酵素の重量で0.1~10μg/mLが好ましく、特に0.5~5.0μg/mL、さらに1.0~3.0μg/mLが好ましい。
【0025】
本発明の免疫測定方法において、HBV抗原と高分子標識体との反応は、水溶性高分子の存在下で行う。すなわち、水溶性高分子と高分子標識体とが共存する条件下で免疫反応を行う。前記水溶性高分子としては、デキストラン、アミノデキストラン、フィコール(商品名)、デキストリン、アガロース、プルラン、各種セルロース(例えば、ヘミセルロースやリグリン等)、キチン、キトサン、β―ガラクトシダーゼ、サイログロブリン、ヘモシアニン、ポリリジン、ポリペプチド及びDNA、並びにこれらの修飾体(例えば、DEAE Dextranやデキストラン硫酸ナトリウム等)を挙げることができる。これらのうち、デキストラン及びアミノデキストラン並びにこれらの修飾体が好ましく、特にデキストランが好ましい。
【0026】
水溶性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、免疫測定の感度の観点及び水溶性であるという観点から、2万~400万が好ましく、特に70万~300万、さらには100万~250万が好ましい。
【0027】
免疫測定における抗原抗体反応の反応液中の、水溶性高分子の終濃度は、特に限定されないが、免疫測定の感度の観点から、0.01~10.0重量%が好ましく、特に0.1~5.0重量%、さらには0.5~3.0重量%が好ましい。なお、以下の記述において、濃度を示す%は、特に断りがない限り、重量%を意味する。
【0028】
本発明の免疫測定方法におけるHBV抗原と高分子標識体との反応は、水溶性高分子に加え、両イオン性界面活性剤の存在下で行われることが好ましい。両イオン性界面活性剤をさらに反応系に加えることで、バックグラウンドを低下させることが可能となる。好ましい両イオン性界面活性剤としては、(i)分子内に炭素数10以上のアルキル基と第四級アンモニウムとを有する両イオン性界面活性剤や、(ii) 分子内にステロイド骨格と第四級アンモニウムとを有する両イオン性界面活性剤を挙げることができる。(i)の両イオン性界面活性剤の好ましい例としては、C10APS(N-デシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート)、C12APS(N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート)、C14APS(N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート)、C16APS(N-ヘキサデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート)等を挙げることができる。(ii)の両イオン性界面活性剤の好ましい例としては、CHAPS(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルフォネート)やCHAPSO(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-ヒドロキシプロパンスルフォネート)等を挙げることができる。これらのうち、特に (1)分子内に炭素数10以上のアルキル基と第四級アンモニウムとを有する両イオン性界面活性剤が好ましい。
【0029】
免疫測定時における反応液中の両イオン性界面活性剤の終濃度(界面活性剤を複数種類含む場合にはその合計終濃度)は、特に限定されないが、0.1~10%が好ましく、特に1.0~7.0%、さらには2.0~5.0%が好ましい。
【0030】
本発明の免疫測定方法は、上記した水溶性高分子と上記した高分子標識体とを共存させて免疫測定を行うこと以外は、標識抗体を用いる通常のサンドイッチ免疫測定方法と同様に行うことができる。例えば、磁性ビーズ等の固相担体に抗HBV抗体(捕捉抗体)を固相化したものと、HBV抗原を含む試料とを反応させて試料中のHBV抗原を固相に結合させ、次いで、洗浄後、これに上記水溶性高分子と上記高分子標識体を含む液を添加して反応させ、洗浄後、固相に結合した標識酵素を定量することにより、免疫測定を行うことができる。各抗原抗体反応(捕捉抗体と試料中のHBV抗原との反応、及び固相に結合したHBV抗原と高分子標識体との反応)は、通常のサンドイッチ法と同様でよく、例えば、室温~37℃、好ましくは37℃で、3分~120分程度、好ましくは、5分~10分程度行うことができるが、これらの条件に限定されるものではない。
【0031】
固相に結合した標識酵素の定量は、用いた標識酵素の種類に応じて、常法により行うことができる。例えば、標識酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合、基質としてAMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を用い、AMPPDの分解時に放出される波長463nmに極大吸収を有する光の発光量を計測することにより、固相に結合した標識酵素を定量することができる。これらは常法であり、これを実施するための試薬や自動測定装置が市販されているので、市販品を用いて容易に行うことができる。
【0032】
生体から分離された試料は、そのまま、又は所望により希釈後、上記免疫測定に供することができるが、これに先立ち、試料を前処理に付してもよい。前処理を行うことで、検体中に存在する検体由来の抗HBV抗体の影響を低減し、HBV抗原をより精度よく測定することが可能となる。ここで、前処理は、試料を前処理液で処理することにより行うことができる。前処理液としては、(1)陰イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から成る群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤、及び/又は(2) 酸性化剤、アルカリ化剤及び蛋白変性剤から成る群より選ばれる少なくとも1種を含む。前処理液は、上記(1)と(2)を両方含んでいてもよいし、いずれか一方だけ含んでいてもよい。
【0033】
前記前処理試薬に界面活性剤が含まれる場合、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも使用可能であるが、特に陰イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N-ラウロイルサルコシン(NLS)、ドデシル硫酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸などを好適に使用でき、特にSDSを好適に使用できる。
【0034】
前処理試薬に含まれる主要な界面活性剤を陰イオン性界面活性剤とする場合、前処理後に、反応系に持ち込まれる陰イオン性界面活性剤の影響を軽減するために、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を単独または複数含む中和液を添加してもよい。
【0035】
前記前処理試薬に含まれる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤に代えて、陽イオン性界面活性剤を使用することもできる。陽イオン性界面活性剤としては、特に炭素数10個以上の一本鎖アルキル基と、第3級アミンまたは第4級アンモニウム塩を同分子中に有している陽イオン性界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤の例としては、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TAC)、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)、ラウリルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤の添加量は、検体との混和時の濃度で0.1%以上15%以下が好ましく、さらに、0.5%~10%が好ましい。
【0036】
陽イオン性界面活性剤に加えて、さらに、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の他の界面活性剤が含まれていてもよい。他の界面活性剤の添加により、さらに高感度にHBV抗原を検出することが可能となる。
【0037】
前処理液が酸性化剤を含む場合、酸性化剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸等を好適に使用できる。酸性化剤を使用する場合、前処理液の酸の規定度は、前処理時の濃度として、0.05N超0.5N以下、特に0.1N以上0.4N以下とすることが好ましい。酸の規定度を0.05N超0.5N以下とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0038】
前処理液がアルカリ化剤を含む場合、アルカリ化剤としては、特に限定されるものではないが、酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化マグネシウム等を挙げることができる。アルカリ化剤を使用する場合、前処理液のアルカリの規定度は、前処理時の濃度として、0.05N超0.5N以下、特に0.1N以上0.4N以下とすることが好ましい。アルカリ化剤の規定度を0.05N超0.5N以下とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0039】
前処理試薬には、必要に応じて、尿素、チオ尿素等、他のタンパク変性剤が含まれていてもよい。変性剤の濃度は、処理時濃度で0.1M以上が好ましく、さらに0.5M以上4M未満が好ましい。また、前処理試薬には、処理効果を増強させるために、単糖類、二糖類、クエン酸、及びクエン酸塩類のいずれか、またはこれらを組合せて添加してもよい。さらに、前処理試薬には、EDTA等のキレート剤が含まれていてもよい。
【0040】
前処理試薬には、必要に応じて、還元剤が含まれていてもよい。還元剤としては、タンパク質のS-S結合を切断するために通常使用されるものをいずれも使用可能であり、特に限定はされない。例えば、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(DEAET)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール等の既存の還元剤をいずれも使用可能である。
【0041】
前記前処理工程において混和する検体と前処理試薬の体積比は、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。前処理工程は、生体試料と前処理試薬を混和した後、さらに加熱をしてもよい。特に、前処理試薬に界面活性剤を使用する場合には、その効果を高めるために加熱をすることが好ましい。前処理工程における温度は、95℃以下、特に20~90℃、さらに、20~80℃、25~70℃、25~60℃、30~50℃、または35~45℃とすることができる。前処理工程は、より高温条件下で加熱すれば、より短時間での処理が可能となるが、一方で、室温条件下でも実施可能であり、この場合、反応時間は長くなるが、高温加熱用のデバイスを必要としない、という利点がある。前処理工程の反応時間の上限は特に存在しないが、通常60分以下、特に30分以下でよい。
【0042】
下記実施例で具体的に示されるように、本発明の免疫測定方法によれば、標識抗体(抗体を1分子の標識酵素で標識したもの)を用い、水溶性高分子の非存在下で行う従来の免疫測定方法に比べて、HBV抗原の検出感度が高い。また、下記実施例で具体的に示されるように、市販の汎用の自動免疫測定装置をそのまま用いて実施することができる。
【0043】
<2.免疫測定キット>
本発明の免疫測定キットは、構成試薬として、少なくとも、上記した高分子標識体及び上記した水溶性高分子とを含む標識体液を備える。本発明の免疫測定キットは、前記標識体液を備えることと、試料中のHBV抗原の免疫測定が可能な構成であること以外は特に限定されず、ELISA、CLEIA、イムノクロマト等の通常の免疫測定で備えるべき構成を備えることができる。例えば、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)の場合は、捕捉抗体を固相化した磁性ビーズを含む磁性粒子液、洗浄液及び酵素基質液とを備えることができる。本発明の免疫測定キットは、さらに、必要に応じて、試料の前処理を行うための前処理液を備えていてもよい。
【0044】
前記標識体液における高分子標識体の濃度は(標識酵素、抗HBV抗体又はその抗原結合性断片及び水溶性担体を含む)、特に限定されないが、免疫測定の感度の観点から、標識酵素の重量で0.1~10μg/mLが好ましく、特に0.5~5.0μg/mL、さらに1.0~3.0μg/mLが好ましい。また、前記標識体液における水溶性高分子の濃度は、0.01~10.0%が好ましく、特に0.1~5.0%、さらには0.5~3.0%が好ましい。前記標識体には、さらに両イオン性界面活性剤が含まれることが好ましい。標識体液中の両イオン性界面活性剤の濃度は、0.1~10%が好ましく、特に1.0~7.0%、さらには2.0~5.0%が好ましい。
【0045】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1 デキストラン-酵素結合体の調製>
(1)ヒドラジン化デキストランの調製
600μLの0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に30.0mgのデキストラン70K(TCI社製)を添加し、25℃の暗所で30分間撹拌して、溶解させた。次いで、150mM NaIO4を400μL添加して、25℃の暗所で30分間撹拌した。PD-10カラム(GE社製商品名、セファデックスG-25(商品名)充填カラム)を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)でバッファー交換を行い、2.5mLの溶液を得た。0.63gのNH2NH2HClを添加し、25℃の暗所で60分間撹拌した。10mgのDMAB(ジメチルアミンボラン)を加え、さらに25℃の暗所で60分間撹拌した。CE50k(分子量5万のセルロースエステル)透析膜を用いてイオン交換水4Lによる透析を暗所で2時間行った後、4℃で一晩静置した。PD-10カラム(商品名)を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)でバッファー交換を行い、2.5mLの溶液を得た。濃度を2.5mg/mLに調整し、ヒドラジン化デキストラン溶液を得た。
【0047】
(2)デキストラン-酵素結合体の調製
10mg/mLのアルカリフォスファターゼ(ALP-50、オリエンタル酵母社製)10mLについて、PD-10カラム(商品名)を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)でバッファー交換を行い、3.51mg/mLの溶液13mLを調製した。18mM NaIO4を8.75mL添加して、25℃の暗所で30分間撹拌した。PD-10カラム(商品名)を用いて、0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)でバッファー交換を行い、0.5mg/mLの溶液を調製した。(1)で調製した2.5mg/mLヒドラジン化デキストランを、ヒドラジン化デキストランとALP-50のモル比が1:4となるように添加し、25℃の暗所で16時間撹拌した。DMABを21mg添加し、25℃の暗所で60分間撹拌した。次いで、1.5M Trisバッファー(pH9.0)を2.5mL添加し、25℃の暗所で2時間撹拌した。遠心フィルター(Amicon50k)を用いて2.0mLまで濃縮し、0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)を用いたゲル濾過(Superdex200)を行い、3.0mg/mLのデキストラン-酵素結合体溶液1.0mLを得た。
【0048】
<実施例2 デキストラン-酵素-抗体結合体の調製>
(1)Fab’の調製
常法に従って調製した3種のマウス抗HBsAgモノクローナル抗体(抗体A、B及びC)、及び1種のマウス抗HBcrAgモノクローナル抗体(抗体c)をそれぞれ1mM EDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.0)で抗体溶液を調製した。2-メルカプトエチルアミン溶液をそれぞれの抗体溶液に添加し、37℃で反応させた。PD-10カラムを用いて1mMEDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.3)でバッファー交換を行い、溶液を回収した。1mM EDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.3)で濃度を調整した。HBsAg(配列番号1)上の抗体A、B及びCのエピトープ配列は、表1-1に示すとおりである。また、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBcAg)(配列番号2)上の抗体cのエピトープ配列は表1-2に示すとおりである。
【0049】
【0050】
【0051】
(2)デキストラン-酵素-Sulfo-EMCSの調製
実施例1で調製したデキストラン-酵素結合体(3.0mg/mL)5.5mLに、10mg/mLの Sulfo-EMCS(N-ε-マレイミドカプロイル-オキシスルフォサクシミドエステル)溶液(1mMEDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.3)で溶解)682μLを添加し、25℃の暗所で60分間撹拌した。遠心フィルター(Amicon50k)を用いて1.0mLまで濃縮した後、PD-10カラム(商品名)を用いて1mM EDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.3)でバッファー交換を行った。4.5mg/mL、0.4mLのデキストラン-酵素-Sulfo-EMCS溶液を得た。
【0052】
(3)カップリング
(2)で調製したデキストラン-酵素-Sulfo-EMCS溶液に、(1)で調製したFab’溶液を、デキストラン-酵素-Sulfo-EMCSとFab’のモル比が1:4.5となるように25℃の暗所で60分間撹拌した。この際、抗HBsAg抗体については、Fab’中の各抗体のモル比が抗体A:抗体B:抗体C=1:1:2となるように混合して使用した。また、抗HBcrAg抗体については、抗体cのFab’を単独で使用した。200mMの3-メルカプト-1,2-プロパンジオール溶液を1/100体積分添加し、25℃の暗所で60分間撹拌した。PD-10カラム(商品名)を用いて1mM EDTA、0.1Mリン酸バッファー(pH6.3)でバッファー交換を行った。200mMの2-ヨードアセトアミド(IAA)溶液を1/100体積分添加し、遠心フィルター(Amicon50k)を用いて3.0mLまで濃縮し、そのうち2.0mLをゲル濾過カラムに(Superdex200(商品名))に供し、溶出バッファー(0.1M MES、0.05% CHAPS、0.1M NaCl、1mM MgCl2、0.1mM ZnCl2、0.09% NaN3(pH6.8))で溶出した。BSAを終濃度3.3%となるように添加した後、0.45μm孔フィルターでろ過し、200μg/mLのデキストラン-酵素-抗体(Fab)結合体(高分子標識体)溶液74mLを得た。
【0053】
<実施例3 B型肝炎ウイルスs抗原(HBsAg)の検出>
常法に従って調製した2種のマウス抗HBsAgモノクローナル抗体(抗体D及びE(エピトープ配列は表1に示す通り))を3:1となるように混合し、常法に従って磁性ビーズに固相化し、粒子希釈液(100mM Tris、100mM NaCl、5mM EDTA2Na、2% BSA(pH7.2))に0.07%となるように加え、磁性粒子液を調製した。3種のマウス抗HBsAg抗体(抗体A、B、及びC)をモル比1:1:2で混合した後、常法に従ってアルカリフォスファターゼ標識し、得られた標識抗体(以下、「単分子標識体」とも称する)を標識体希釈液(50mM MES、6% BSA、600mM NaCl、4.0% C14APS(pH6.8))で1.5μg/mLとなるように希釈し、単分子標識体液を調製した。併せて、実施例2で調製した高分子標識体を標識体希釈液で1.5μg/mLとなるように希釈し、高分子標識体液を調製した。単分子標識体液、高分子標識体液には、それぞれデキストラン2000k(シグマ社製、重量平均分子量200万)を、0%、0.5%、1.0%、1.5%となるように添加した。なお、単分子標識体を用いた方法は、比較例であり、また、デキストランの添加量が0%(無添加)の方法も比較例である。
【0054】
HBsAg陰性血清検体3検体(1,2,3)及びHBsAg陽性血清検体3検体(L、M、H)各100μLを、前処理液(陰イオン性界面活性剤と還元剤を含む)200μLと混和し、80℃で5分間撹拌(1000rpm)しながら加熱した。上記検体に併せて、ルミパルスHBsAg-HQ標準液(富士レビオ社製)についても同様の処理を行った。
【0055】
HBsAgの測定は、ルミパルスプレストII(富士レビオ社製)を用いて行った。前処理後の検体100μLを検体希釈液(10mM Tris、3.2% CHAPS、2.3% Tween20(商品名、pH7.2)50μLと混合した。次いで、磁性粒子液50μLと混和し、37℃で8分間反応させた。磁性ビーズを集磁し、ルミパルス洗浄液(富士レビオ社製)で5回洗浄した。各種標識体液をそれぞれ50μL添加し、37℃で8分間反応させた。磁性ビーズを集磁し、5回洗浄した後、AMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含むルミパルス基質液(富士レビオ社製)を50μL添加し、37℃で4分間反応させた。AMPPDが磁性ビーズに結合したアルカリフォスファターゼの触媒作用により分解されることで放出される波長463nmに極大吸収を有する光の発光量を計測した。測定結果は、基質の発光強度(カウント)で出力した。各条件における測定結果を表2に示す。なお、表示の結果は、二重測定の平均値を示したものである。
【0056】
【0057】
表2に示す通り、単分子標識体を使用した場合、標識体液にデキストランを1.5%添加した際の陽性検体におけるカウントの上昇は112~117%程度までに止まったのに対し、高分子標識体を使用した場合、陽性検体におけるカウントの上昇は196~262%となった。一方で、陰性検体においては、デキストランの添加によるカウントの上昇は136~138%に抑えられ、全体的にS/N比が顕著に上昇することが示された。
【0058】
<実施例4 B型肝炎ウイルスコア関連抗原(HBcrAg)の検出>
常法に従って調製した3種のマウス抗HBcrAgモノクローナル抗体(抗体a,b,d)をモル比2:1:4となるように混合し、常法に従って磁性ビーズに固相化し、粒子希釈液(50mM MOPS、2% スクロース、8% BSA(pH7.5))に0.06%となるように加え、磁性粒子液を調製した。1種のマウス抗HBcrAg抗体(抗体c)を、常法に従ってアルカリフォスファターゼ標識し、得られた標識抗体(以下、「単分子標識体」とも称する)を標識体希釈液(20mM MES、3% BSA、300mM NaCl、0.4% N-ラウロイル硫酸ナトリウム、0.2% C14APS(pH7.5))で1.0μg/mLとなるように希釈し、単分子標識体液を調製した。併せて、実施例2で調製した抗体cの高分子標識体を標識体希釈液で1.0μg/mLとなるように希釈し、高分子標識体液を調製した。単分子標識体液、高分子標識体液には、それぞれデキストラン2000k(シグマ社製、重量平均分子量200万)を、0%、0.75%、1.0%、1.5%となるように添加した。なお、単分子標識体を用いた方法は、比較例であり、また、デキストランの添加量が0%(無添加)の方法も比較例である。
【0059】
HBcrAgの測定は、ルミパルスL2400(富士レビオ社製)を用いて行った。HBcrAg陰性血清検体3検体(4,5,6)と、2種のHBcrAg陽性血清検体(7,8)をそれぞれ陰性血清で1×105、1×106、1×107倍に希釈した検体、それぞれ30μLを、前処理液(0.71M 尿素、0.22N HCl、3.9mM CHAPS、4.3mM DEAET)90μLと混和し、37℃で6.5分間加温した。次いで、中和液(0.7M Bicine、10% N-ラウロイル硫酸ナトリウム(pH10))を30μL加えて混和し、37℃で20秒間加温した。上記検体に併せて、ルミパルスHBcrAg標準液(富士レビオ社製)中の、HBcrAg濃度0、5、250kU/mLの標準液についても同様の処理を行った。
【0060】
前処理後の検体150μLを磁性粒子液50μLと混和し、37℃で8分間反応させた。磁性ビーズを集磁し、ルミパルス洗浄液(富士レビオ社製)で5回洗浄した後、各種標識体液をそれぞれ50μL添加し、37℃で8分間反応させた。磁性ビーズを集磁し、ルミパルス洗浄液で5回洗浄した後、AMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含むルミパルス基質液(富士レビオ社製)を50μL添加し、37℃で4分間反応させた。AMPPDが磁性ビーズに結合したアルカリフォスファターゼの触媒作用により分解されることで放出される波長463nmに極大吸収を有する光の発光量を計測した。測定結果は、基質の発光強度(カウント)で出力した。各条件における測定結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
表3に示す通り、単分子標識体を使用した場合、標識体液にデキストランを1.5%添加した際の陽性検体におけるカウントの上昇は103~119%程度までに止まったのに対し、高分子標識体を使用した場合、陽性検体におけるカウントの上昇は150~220%となった。
【配列表】