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  • 特許-高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20230727BHJP
   C21D 9/673 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C21D9/46 T
C21D9/673 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020537824
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 CN2018106703
(87)【国際公開番号】W WO2019057114
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】201710853613.3
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810631922.0
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520097467
【氏名又は名称】宝鋼湛江鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSTEEL ZHANJIANG IRON & STEEL CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 興 健
(72)【発明者】
【氏名】徐 嘉 春
(72)【発明者】
【氏名】王 野
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-175004号公報
【文献】特開2016-141848号公報
【文献】特開2016-130334号公報
【文献】特開昭61-159534号公報
【文献】特開2010-90475号公報
【文献】中国特許出願公開第104988391号明細書
【文献】中国特許出願公開第105734213号明細書
【文献】中国特許出願公開第105648317号明細書
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/02
C21D 9/46
C21D 9/66 - 9/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Q&P鋼鋳片を加熱してから、粗圧延、仕上圧延、層流冷却及び巻取りを経て熱延コイルを得、前記熱延コイルを取り外した後、前記熱延コイルに独立で密閉な保温カバーユニットを60分間以内被せて、輸送チェインに沿って鋼コイル倉庫へ移動し、60分間以上の保温時間に達したら、前記独立で密閉な保温カバーユニットから前記熱延コイルを取り出して室温まで空冷することを特徴とする、高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法;
ただし、巻取り温度は400~523℃であり、前記熱延コイルの前記独立で密閉な保温カバーユニット内での冷却速度は≦15℃/時間である;前記独立で密閉な保温カバーユニットを用いた処理後、前記熱延コイルのミクロ組織は主にベイナイト+セメンタイトである。
【請求項2】
前記鋳片の加熱温度は≧1150℃であり、均熱時間は≧60分間であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法。
【請求項3】
前記鋳片の加熱温度は1200~1300℃であり、均熱時間は1~3時間であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法。
【請求項4】
前記粗圧延及び仕上圧延は、完全オーステナイト化温度領域で行われ、全体的な熱間圧延圧下率は≧90%であり、仕上圧延温度は800~1000℃であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法。
【請求項5】
前記熱延コイルを取り外した後、20分間以内に前記独立で密閉な保温カバーユニットを被せることを特徴とする、請求項1に記載の高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法。
【請求項6】
前記熱延コイルの前記独立で密閉な保温カバーユニット内での保温時間は1~24時間であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、3代目の自動車用先進高強度鋼の生産技術分野に属し、具体的には、高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
自動車業界で軽量化と衝突安全性に対する要求が高まるにつれて、ホワイトボディにおける先進高強度鋼の使用割合は増加する傾向にある。自動車用鋼の総合的力学特性である強伸度積U(引張強度×伸び)指標によって分けると:
1代目の高強度鋼のUは15±10GPa%で、軽量化と安全性指標は低い;
2代目の高強度鋼のUは60±10GPa%で、強度も可塑性も望ましいが、プロセスが複雑で、合金含有量が高く、生産コストが高止まりしており、市販化は困難である;
3代目の高強度鋼のUは30±10GPa%で、軽量化と安全性指標は1代目の高強度鋼よりも優れたが、生産コストは2代目の高強度鋼よりも顕著に低く、自動車及び冶金業界で広く注目を集める。
【0003】
近年、C、Si、Mn等の安価元素を主要な合金元素とする焼入-分配鋼、即ちQ&P(Quenching and Partitioning)鋼は、既に3代目の自動車用先進高強度鋼の重要な代表として認められ、その工業生産プロセスは2種類に分けられる:
一つの種類は、例えば中国特許公告番号CN105177415A、CN105441814A、CN103215516A、CN103805851A、CN104532126A、CN103233161A、CN103805869A、CN102226248A等で開示された、製錬、熱間圧延により生産される熱延Q&P鋼であり、それは、プロセスが短く、生産コストが低いことを特徴とするが、熱間圧延層流冷却の制御がとても高く要求され、産業上で実現しにくく、且つ製品の表面品質が保証しにくい。
【0004】
もう一つの種類は、例えば中国特許公告番号CN105734213A、CN104988391A、CN105648317A等で開示された、製錬、熱間圧延、中間焼鈍、冷間圧延及び最終Q&P熱処理による生産される冷延Q&P鋼であり、それは、製品が高強度、高ひずみ硬化率、良好な塑性を有し、表面品質に優れたことを特徴とするが、プロセスが長く、生産コストが比較的に高い。冷延Q&P鋼は、普通の冷延製品の生産プロセスに比べて、熱間圧延と冷間圧延の間に中間焼鈍工程(ベル型炉焼鈍或いは連続焼鈍)を加える、即ち熱延コイルをオーステナイト化温度まで加熱し直して十分な時間で保持してから、適切な速度で室温まで冷却する必要があり、これでQ&P鋼熱延コイルを軟化し、冷間圧延機群の圧延力を低下させ、冷間圧延の目的を果たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の内容
本発明の目的は、新規で、低コストで、効率的な高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法を提供し、且つ自己焼戻軟化によって冷延Q&P鋼生産過程における中間焼鈍工程を置き換えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を果たすために、本発明の技術方案は:
本発明にかかるQ&P鋼は、熱間圧延、焼入、巻取りを経ってから、インラインで速やかに独立で密閉な保温カバー装置を被せることで、鋼コイルに制御冷却を行い、巻取り残留熱を利用して効率的な自己焼戻軟化処理を行い、インラインでQ&P鋼熱延コイルの微細組織構造を調整し、マルテンサイトを分解させ、鋼コイル強度を低下させる目的を果たす。
【0007】
具体的には、本発明は、Q&P鋼鋳片を加熱してから、粗圧延、仕上圧延、層流冷却及び巻取りを経って熱延コイルを得、取り外した後、インラインで保温カバーを被せて、輸送チェインに沿って鋼コイル倉庫へ移動し、保温時間に達したら、保温カバーから取り出して室温まで空冷することを特徴とする、高強度Q&P鋼熱延コイルの軟化方法である;ただし、巻取り温度は400~600℃であり、前記のインラインで保温カバーを被せるのは、各熱延コイルをそれぞれ取り外した後、60分間以内に独立で密閉な保温カバー装置を被せると意味する;前記鋼コイルの保温カバー内での保温時間は≧60分間である。
【0008】
さらに、前記鋳片の加熱温度は≧1150℃であり、均熱時間は≧60分間である。
【0009】
好ましくは、鋳片の加熱温度は1200~1300℃であり、均熱時間は1~3時間である。
【0010】
さらに、前記粗圧延及び仕上圧延は、完全オーステナイト化温度領域で行われ、全体的な熱間圧延圧下率は≧90%であり、仕上圧延温度は800~1000℃である。
【0011】
好ましくは、各熱延コイルをそれぞれ取り外した後、20分間以内に独立で保温カバーを被せる。
【0012】
さらに、前記鋼コイルの保温カバー内での冷却速度は≦15℃/時間である。
好ましくは、鋼コイルの保温カバー内での保温時間は1~24時間である。
【0013】
さらに、例示的な保温カバーは、CN107470377Aにおけるいずれかの実施形態で開示された帯鋼製造ラインのインライン保温徐冷装置であり、該特許の内容全体を参照により本文に援用する。
【0014】
本発明にかかる製造方法において:
鋳片の加熱温度が1200℃を下回ると、合金元素の均一化に不利である;温度が1300℃を上回ると、製造コストが上がるだけでなく、加熱品質の低下にも繋がる。よって、鋳片の加熱温度は通常、1200~1300℃に適切に制御される。
【0015】
類似的に、均熱時間も所定の範囲内に制御する必要がある。均熱時間とは、鋳片を設定された加熱温度まで加熱した後で保温する時間である。均熱時間が短すぎると、Si、Mn等の溶質原子の拡散が十分ではなく、鋳片の加熱品質は保証できない;均熱時間が長すぎると、オーステナイト結晶粒子の粗大化に繋がり、且つ製造コストが上がる。よって、均熱時間は通常、1~3時間に適切に制御され、加熱温度が上がるにつれて、均熱時間も相応に短縮しても良い。
【0016】
Q&P鋼の成分における合金元素は主にC、Si、Mnであり、且つC含有量は通常0.15%を上回り、Si含有量は通常1.0%を上回り、Mn含有量は通常1.5%を上回り、鋳片が加熱を経ってから、これらの合金元素はオーステナイト中に固溶し、オーステナイトの安定性を向上させるだけでなく、その高温強度も向上させる。よって、粗圧延及び仕上圧延は、熱間圧延力を低下させ、通板安定性を確保するように、完全オーステナイト化温度領域で行うべきである。
【0017】
熱間圧延の前に、通常は高圧脱スケールにより加熱過程で形成された酸化スケールをきれいに除去するが、圧延過程及び後段の冷却において、帯鋼表面には依然として酸化スケールが形成される。酸化スケールを低減し、内部酸化の問題を回避若しくは軽減するために、巻取り温度の設計は600℃を上回ってはいけず、巻取り温度が低いほど、酸化スケールが薄い。しかし、巻取り温度が下がるにつれて、Q&P鋼熱延コイルにおけるマルテンサイト-オーステナイト組織及びマルテンサイト含有量は段々増加し、強度の大幅な上昇に繋がり、安定な巻取り及び後段の工程の冷間圧延に不利であるので、巻取り温度の設計は400℃を下回ってはいけない。
【0018】
Q&P鋼熱延コイルは巻取られると、その微細組織が主にベイナイトとマルテンサイトからなり、且つマルテンサイトの体積百分率が≧20%であり、引張強度が1000MPaを超える。後段の工程の冷間圧延の製造性を向上させ、冷間圧延力を低下させるために、Q&P鋼熱延コイルに軟化処理を行う必要がある。本発明において、Q&P鋼熱延コイルを取り外した後、インラインで(好ましくは20分間以内に)速やかに独立で密閉な保温カバー装置を被せることで、鋼コイルに制御冷却を行い、巻取り残留熱を利用して自己焼戻処理を行い、マルテンサイトは保温カバー内で徐冷する過程において徐々に分解し、セメンタイト及び少量のフェライトに変態することにより、鋼コイルの強度を低下させる。「インライン」とは、鋼コイルを取り外した直後に保温カバーを被せることが要求されるパターンであり、鋼コイルを倉庫に入れてから保温カバーを被せるという「オフライン」パターンに比べると、(1)カバーに入る時の温度が保証され、巻取り残留熱を十分に利用して自己焼戻処理を行うことができる;(2)「オフライン」パターンで、鋼コイルが保温カバーに入る前の輸送過程において、内/外周と縁部の温度降下が中部よりも遥かに大きく、鋼コイル全体の温度均一性が劣る;(3)「オフライン」パターンで、鋼コイルの変態均一性が劣り、マルテンサイト体積分率が局所で高すぎて、均一な焼戻軟化に不利である。
【0019】
本発明の有利な効果は、
(1)本発明は合理的な圧延プロセス設計により、革新的な熱延巻取り後の「モノコイル式」保温徐冷プロセスも併せて、インラインで、低コストで、効率的にQ&P鋼熱延コイルに制御冷却を行い、且つその微細組織構造を調整することができる。
【0020】
(2)本発明で製造されるQ&P鋼熱延コイルは、通常の段積徐冷プロセスに比べて、降伏強度の降下幅が≧85MPaで、引張強度の降下幅が≧150MPaであると共に、良好な伸び(≧15%)も有し、軟化効果が顕著であり、従来のプロセスにおける中間焼鈍プロセスに取って代わり、冷延Q&P鋼の生産コストを抑えることができる。
【0021】
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の実施例1にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真である。
図2図2は本発明の実施例2にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真である。
図3図3は本発明の比較例1にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真である。
図4図4は本発明の比較例2にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
具体的な実施形態
以下、実施例および図面に基づいて本発明をさらに説明する。
【0024】
表1は本発明の実施例の肝心なプロセスパラメータであり、表2は本発明の比較例の肝心なプロセスパラメータであり、表3は本発明の実施例と比較例にかかる鋼コイルの性能である。
【0025】
本発明の実施例のプロセスは:Q&P鋼鋳片加熱→粗圧延→仕上圧延→層流冷却→巻取り→インラインで保温カバーを被せる→保温カバーから取り出す、というものであり、それらの肝心なプロセスパラメータは表1に示す。
【0026】
本発明の比較例のプロセスは:Q&P鋼鋳片加熱→粗圧延→仕上圧延→層流冷却→巻取り→鋼コイルの段積徐冷、というものであり、それらの肝心なプロセスパラメータは表2に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
表3における実施例及び比較例のデータからみれば、本発明で提供される方法によって生産されるQ&P鋼熱延コイルは、鋼コイルの段積徐冷方法を採用するものに比べて、その降伏強度の降下幅が≧85MPaで、引張強度の降下幅が≧150MPaで、破断伸度の向上幅が≧2%であることから、本発明で提供される方法は、Q&P鋼熱延コイルを効率的に軟化できると共に、材料の可塑性指標を向上でき、後段の工程の冷間圧延力を低下することに寄与できる。
【0031】
図1図2では、実施例1と2にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真が示される。写真から明らかなように、保温カバーで処理されない場合、鋼コイルのミクロ組織は主にベイナイト+マルテンサイトである。
【0032】
図3図4では、比較例1と2にかかる試験用鋼の典型的な金属組織写真が示される。写真から明らかなように、保温カバーで処理された場合、鋼コイルのミクロ組織は主にベイナイト+セメンタイトである。
【0033】
本発明の実施形態は上記実施例によって制限されるものではなく、本発明の実質的な要旨及び原理から逸脱していない他の変更、修飾、置換、組合せ、簡略化は、いずれも均等な置き換えとみなされ、本発明の保護範囲内に包含されるべきである。
図1
図2
図3
図4