(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】スチレンスルホン酸重合体含有水性組成物及びそれを用いた乾燥塗膜
(51)【国際特許分類】
C08L 25/18 20060101AFI20230727BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20230727BHJP
C09D 125/18 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C08L25/18
C08K5/053
C09D125/18
(21)【出願番号】P 2021065051
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046605(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128401(WO,A1)
【文献】米国特許第04041001(US,A)
【文献】米国特許第05484693(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/
C08K 5/053
C09D 125/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンスルホン酸
の塩の重合体と、糖アルコールと、水もしくは水と親水性溶剤の混合物と、を含む水性組成物であって、
前記スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体100重量部に対して糖アルコールが10重量部~60重量部の範囲にあり、
前記水もしくは水と親水性溶剤の混合物は、
水溶液組成物組成の20.0重量%~95.0重量%の含量である、
スチレンスルホン酸の塩の重合体の乾燥塗膜を形成するための水溶液組成物。
【請求項2】
スチレンスルホン酸
の塩の重合体のゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が5000ダルトン(Da)~4000000ダルトン(Da)である、請求項1に記載の
水溶液組成物。
【請求項3】
スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)との共重合体と、糖アルコールと、水もしくは水と親水性溶剤の混合物と、を含む
水溶液組成物であって、
前記スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)との共重合体100重量部に対して糖アルコールが10重量部~60重量部の範囲にあり、
スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)との共重合比は99.9:0.1モル%~50.0:50.0モル%であり、
前記水もしくは水と親水性溶剤の混合物は、
水溶液組成物組成の20.0重量%~95.0重量%の含量である、
スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)との共重合体の乾燥塗膜を形成するための水溶液組成物。
【請求項4】
スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)との共重合体のゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が5000ダルトン(Da)~4000000ダルトン(Da)である、請求項3に記載の
水溶液組成物。
【請求項5】
スチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマー(マレイン酸を除く)が、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、1-ビニル-2-ピロリドン及びビニルピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項3又は4に記載の
水溶液組成物。
【請求項6】
糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、アラビトール、キシリトール、エリスリトール、マルビット、ラクチトール、ポリグリセロール、及びイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1~5のいずれか一項に記載の
水溶液組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の
水溶液組成物を基材に塗布し、乾燥してなる乾燥塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止塗膜や半導体ウエハー加工時に用いる水溶性保護膜として有用な脆性が改良されたスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体を含む水性組成物、並びにそれを用いた乾燥塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体は、水溶性ポリマーとしては希少な、繰り返し単位にベンゼン環を有する線状の強電解質ポリマーである。即ち、高い水溶性を持ちながらベンゼン環由来の疎水性(吸着性)を有し、且つ、耐熱性や化学安定性が優れることから、分散剤、洗浄剤、帯電防止剤、繊維処理剤、バインダー、水処理膜など幅広い用途で使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体は極めて脆く、ひび割れのない乾燥塗膜を形成するのは極めて難しい。ガラス転移温度が高く(分解温度以下では観測できていない)、且つ超高分子量ポリアクリル酸や超高分子量ポリアクリルアミド並みの高重合度化が難しいためと考えられる。例えば、帯電防止塗膜や半導体ウエハー加工時の水溶性保護膜として用いる場合、スチレンスルホン酸重合体(又はその塩)単体では、ひび割れのない塗膜の形成が困難であり、脆性改良が強く求められている。従って、例えば帯電防止塗膜に用いる場合、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体は、脆性が良好なベースポリマーへの添加剤、即ち、マイナー成分として使用されるのみである。
【0004】
例えば、ポリビニルアルコール、シリカ、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム、アジピン酸ジヒドラジドからなる水性組成物を塗工してなるポリオレフィンフィルム(例えば、特許文献2)、或いはポリエステル樹脂、ブロックイソシアネート、ポリスチレンスルホン酸塩からなる水性組成物を塗工してなるポリエステルフィルム(例えば、特許文献3)が知られているが、ポリスチレンスルホン酸(又はその塩)はマイナー成分であるため、表面固有抵抗値は1×1013Ωのレベルと高く、帯電防止能は十分とは言えない。
スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体の脆性を改良する手段として、アクリル酸エステルやビニルエーテル単位など、ガラス転移温度が低いポリマーを与えるモノマーの共重合が考えられるが、前者はモノマー及びポリマー共に高濃度で溶解できる重合溶媒がなく、後者は共重合性比が極めて乏しいため、何れも実用性に乏しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-158574号公報
【文献】特開2000-319429号公報
【文献】特開2001-341262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記用途等における課題を解決するため、脆性が改良されたスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体の乾燥塗膜、及びその簡便な方法が強く求められていた。
そこで本発明の目的は、脆性が改良されたスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体を含む水性組成物、並びにそれを用いた乾燥塗膜、及びその簡便な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体と糖アルコールを含む水性組成物が、塗工性(流動性)に優れ、脆性が改良されたスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体の乾燥塗膜を簡便に形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、次の発明に係る。
[1]スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体と、糖アルコールと、水と、を含む水性組成物であって、
前記スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体100重量部に対して糖アルコールが10重量部~60重量部の範囲にある、水性組成物。
[2]スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体と、糖アルコールと、水と、を含む水性組成物であって、
前記スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体100重量部に対して糖アルコールが10重量部~60重量部の範囲にあり、
スチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合比は99.9:0.1モル%~50.0:50.0モル%である、水性組成物。
[3]スチレンスルホン(又はその塩)の重合体、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体のゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が5000ダルトン(Da)~4000000ダルトン(Da)である、上記[1]又は[2]に記載の水性組成物。
[4]糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、アラビトール、キシリトール、エリスリトール、マルビット、ラクチトール、グリセロール、ポリグリセロール、イノシトール及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる少なくとも一つである、[1]~[3]のいずれかに記載の水性組成物。
[5]スチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーが、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、1-ビニル-2-ピロリドン及びビニルピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、[1]~[4]のいずれかに記載の水性組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の水性組成物を基材に塗布し、乾燥してなる乾燥塗膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体と、糖アルコールと、水と、を含む水性組成物は、塗工性(流動性)が優れ、脆性が改良されたスチレンスルホン酸重合体又は共重合体の乾燥塗膜を簡便に形成できるため、帯電防止塗膜、半導体ウエハー加工時の水溶性保護膜などの産業分野で極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0011】
本発明者らは、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体と、糖アルコールと、水と、を含む水性組成物が、塗工性(流動性)が優れ、脆性が改良されたスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体の乾燥塗膜を簡便に形成できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
まず本発明において用いられるスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体について説明する。
本発明において用いられるスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体は、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸エステル、スチレンスルホニルクロリド、スチレンスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等の重合体又は共重合体、及び/又は、これら重合体又は共重合体のカチオン交換体である。あるいはポリスチレンやスチレン共重合体をスルホン化したポリマーでも良い。さらには上記したスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとの共重合体である。
【0013】
スチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとしては、例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(クロロフェニル)マレイミド、N-(メチルフェニル)マレイミド、N-(イソプロピルフェニル)マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N -(1-ピレニル)マレイミド、N-(2 ,3-キシリル)マレイミド、N-(2 ,4-キシリル)マレイミド、N-(2 ,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3 ,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド等のマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、フマル酸、メサコン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの二塩基酸、スチレン、ビニル安息香酸、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-シアノスチレン、p-アセトキシスチレン、塩化p-スチレンスルホニル、エチルp-スチレンスルホニル、メチルp-スチレンスルホニル、プロピルp-スチレンスルホニル、p-ブトキシスチレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、3-イソプロペニル-α ,α ’-ジメチルベンジルイソシアネートなどのスチレン類、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2- フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル) プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸s e c-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのメタクリル酸エステル類、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N ,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1 ,3-ブタジエン類、その他、アクリルアミド、メタクリルアミド、スルフォフェニルアクリルアミド、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、塩化ビニル、α-シアノエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンメタクリレート、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ジビニルベンゼンスルホン酸、ビニルピロリドン、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、酢酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの中で、スチレンスルホン酸(又はその塩)との共重合性、入手性などを考慮すると、メタクリル酸、アクリル酸、ビニルピリジン、1-ビニル-2-ピロリドン、スチレン類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、N-置換マレイミド類が好ましい。スチレンスルホン酸(又はその塩)の共重合体の場合、スチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーの比は、99.1:0.1モル%から50.0:50.0モル%である。スチレンスルホン酸(又はその塩)の含量が50.0モル%より少ないと、帯電防止能など、ポリスチレンスルホン酸の特徴が十分発揮できないことがある。
【0014】
スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体及び共重合体(又はその塩)の製造法は次の二つを例示できる。
第一の製法は、スチレンスルホン酸(又はその塩)を重合する方法、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとを共重合する方法である。
第二の製造法は、スチレン、又はスチレンとスチレンに共重合可能なモノマーとを共重合した後、ハロゲン化溶媒など、スルホン化反応に対して不活性な溶媒中、三酸化イオウや発煙硫酸などのスルホン化剤を用いて芳香環をスルホン化する方法である。
【0015】
<第一の製法>
まず、第一の方法について詳しく説明する。
第一の製造法は、スチレンスルホン酸(又はその塩)をラジカル重合する方法、又はスチレンスルホン酸(又はその塩)とスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーとをラジカル共重合する方法である。
例えば、反応に用いられるモノマー、重合開始剤、重合溶媒及び、必要に応じて分子量調節剤あるいは連鎖移動剤を重合容器に一括で仕込んで重合する一括添加重合法、モノマーあるいはモノマーと分子量調節剤との混合溶液と重合開始剤を重合容器へ逐次添加しながら重合する逐次添加重合法などが挙げられる。これらの内でも、重合熱の除去が容易な逐次添加重合法が好ましく用いられる。但し、リビングラジカル重合法を利用する場合、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。
【0016】
本発明において用いられる重合溶媒としては、上記モノマー混合物を均一に溶解できるものであれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロパノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-ジメトキシプロパン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1(又は2)-[2-メトキシ(メチル)エトキシ]プロパノール、ビス(3-ヒドロキシプロピル)エーテル、ビス(2-ヒドロキシプロピル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトニトリル、アセトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどの他、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0017】
本発明において用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド系化合物、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルメタン)、4,4’-ジアゼンジイルビス(4-シアノペンタン酸)・α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)重縮合物などのアゾ化合物等があげられる。
これらの中で、リビングラジカル重合法を利用する場合には、制御性の観点から、パーオキサイド系開始剤よりもアゾ系開始剤が好ましい。
経済性の観点から上記したパーオキサイド系重合開始剤を使用する場合、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミン、ロンガリット、ハイドロサルファイト、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、全モノマーに対し、通常、0.01モル%~10モル%であり、目的物の純度を考慮すると、0.01モル%~5モル%がより好ましい。
【0018】
本発明において用いられる分子量調節剤(連鎖移動剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1 ,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニルペンタン酸、S,S-ジベンジルトリチオカーボネート、3-((((1-カルボキシエチル)チオ)カーボノチオイル)チオ)プロパン酸、シアノメチル(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール)カルボジチオエートなどのチオカルボニルチオ化合物、α-ヨードベンジルシアニド、1-ヨードエチルベンゼン、エチル2-ヨード-2-フェニルアセテート、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨードプロパン酸、2-ヨード酢酸などの沃化アルキル化合物、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、有機テルル化合物、イオウなどが挙げられる。
これらの中で、リビングラジカル重合によって分子量分布を狭くしたい場合には、制御性の観点から、連鎖移動剤としてチオカルボニルチオ化合物や沃化アルキル化合物が好ましい。
【0019】
本発明において、重合温度は通常のラジカル重合と同様、10℃~100℃であり、より好ましくは40℃~90℃で、重合転化率の観点から、さらに好ましくは60℃~90℃である。
重合時間は、2時間~30時間が好ましく、さらに好ましくは2時間~10時間である。逐次添加法にて重合する場合、分子量調節剤を含むモノマー混合物と重合開始剤の連続添加を行う時間は、通常1時間~4時間である。
【0020】
上記したリビングラジカル重合法の場合、ドーマント種から可逆的にラジカルを生成しながら重合が進行し、暴走反応が起こり難いため、逐次添加重合法よりも全一括添加重合の方が、重合転化率や分子量制御性の面で好ましい場合もある。
上記で得られたスチレンスルホン酸重合体又は共重合体が塩の場合、これらをカチオン交換することにより、例えば、ナトリウムやリチウムなどの金属分を除去することが出来る。
【0021】
<第二の製法>
次にスチレンスルホン酸重合体(又はその塩)の第二の製法について詳しく説明する。
第二の製法では、例えば、スチレン単独、又はスチレンとスチレンに共重合可能なモノマーとを、トルエン、ベンゼン、キシレン、メチルシクロヘキサン、アセトン、ジオキサン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどの非ハロゲン系溶媒、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロゲン系溶媒など、モノマー混合物を溶解できる溶媒に溶解し、上記したラジカル重合法又はイオン重合法により、最初にスチレン重合体及び共重合体を製造する。
スチレンに共重合可能なモノマーは、上記したスチレンスルホン酸(又はその塩)に共重合可能なモノマーと同じである。第二の製法では重合溶媒として有機溶媒を用いるため、水性溶媒では加水分解により使用が難しい無水マレイン酸や無水シトラコン酸など、カルボン酸無水物モノマーも使用できる。
【0022】
続いて、重合溶媒として非ハロゲン系溶媒を用いた場合、重合溶液の強制乾燥や貧溶媒の添加によりスチレンの重合体又は共重合体を単離し、上記したハロゲン系溶媒に再溶解した後、無水硫酸や発煙硫酸などのスルホン化剤でポリマー中のスチレン部位をスルホン化することにより、スチレンスルホン酸の重合体又は共重合体を含むハロゲン化溶媒の溶液が得られる。ここへ水を注入し、水溶性のスチレンスルホン酸重合体又はスチレンスルホン酸共重合体を水相へ抽出し、必要に応じてアンモニアなどのアルカリで中和することにより、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体の水溶液を製造できる。
【0023】
上記した第一の製法や第二の製法で得られる本発明のスチレンスルホン酸(又はその塩)重合体及び共重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量として5000ダルトン(Da)~4000000ダルトン(Da)であることが好ましい。さらに塗布性と塗膜の脆性のバランスを考慮すると、20000ダルトン(Da)~1000000ダルトン(Da)がより好ましい。
【0024】
次に本発明の糖アルコールについて説明する。
本発明において用いられる糖アルコールは、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体と相溶し、可塑剤として機能する。糖アルコールは、カルボニル基が水酸基へ還元された糖類、糖質の総称であり、例えば、単糖類アルコールや二糖アルコールが知られている。単糖アルコールとしては、エリスリトール、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトール、グリセロール、ポリグリセロールが挙げられ、二糖アルコールとしては還元麦芽糖水あめ、ラクチトール、マルチトール、イソマルト等が挙げられる。これらの内、エリスリトール、ソルビトールがスチレンスルホン酸重合体(又はその塩)の脆性改良効果が高く特に好ましい。
糖アルコールの添加量は、スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体100重量部に対して10重量部~60重量部である。糖アルコールの添加量が10重量部より少ないと、スチレンスルホン酸重合体(又はその塩)の脆性改良効果が十分でなく、60重量部を超えると、乾燥塗膜の耐水性や耐熱性が低下することがある。好ましくは、20重量部~50重量部である。
【0025】
本発明のスチレンスルホン酸重合体の水性組成物に含まれる溶媒は、水、若しくは水と親水性溶剤の混合物である。親水性溶媒としては、スチレンスルホン酸重合体(又はその塩)と糖アルコールを溶解するものであれば特に制限はない。溶媒の含量は、スチレンスルホン酸重合体の分子量、水性組成物組成及び用途に応じて調整すれば良く、塗工出来れば特に制限はないが、通常、95.0wt%~20.0wt%である。
【0026】
本発明において用いられる親水性溶剤としては、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-ジメトキシプロパン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、酢酸2-メトキシメチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1(又は2)-[2-メトキシ(メチル)エトキシ]プロパノール、ビス(3-ヒドロキシプロピル)エーテル、ビス(2-ヒドロキシプロピル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオールなどのアルコール類、テトラヒドロフランやアセトンなどの親水性溶媒が挙げられる。これらの中でも、流動性と組成物の透明性の観点からエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、1-プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシプロパンがより好ましい。
【0027】
本発明の水性組成物に高粘度を付与したい場合には、ポリエチレンキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリN-ビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ウレタン会合型増粘剤などの水溶性ポリマーやベントナイトなどの無機系増粘剤を添加することが出来る。また、各種基材への密着性を付与するため、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂などを添加することが出来る。
本発明の水性組成物は、種々の基材表面に塗布したり、あるいは繊維表面にコーティングした後、風乾、減圧乾燥又は加熱乾燥により溶媒を蒸発等して飛ばした(排除した)後、60℃~150℃で加熱することにより、各種基材や繊維表面にスチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体の乾燥塗膜を形成できる。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0029】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリマーの分析>
東ソー株式会社製 HLC-8320を用いて原料モノマーと重合物の定量(面積%)を行った。試料を下記溶離液に溶解し、0.1wt%又は0.05wt%溶液を調製し、以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の転化率を算出した。
重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
カラム=TSK ガードカラムAW-H+TSK AW6000+TSK AW3000
溶離液=硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=65/35(Vol比)溶液
流速・注入量・カラム温度=0.6ml/min、注入量=10μl、カラム温度=40℃
検出器=UV検出器(波長230nm)
検量線=標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
【0030】
<スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体の乾燥塗膜の調製>
スチレンスルホン酸(又はその塩)の重合体又は共重合体の水溶液と糖アルコールの水溶液を、全固形分濃度が20wt%となるよう、各種組成で混合した。当該混合溶液10gを内径49ミリ(全高15ミリ)のガラスシャーレに広げ(液深さは約0.5cm)、70℃、相対湿度29%の恒湿恒温槽内で7日間乾燥後、110℃で5時間真空乾燥し、乾燥塗膜(溶液採取量から計算した平均厚みは約1ミリ)を作製し、状態を観察した。
【0031】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム PS-5:東ソー・ファインケム株式会社製、樹脂分20.8wt%
スチレンスルホン酸ナトリウム-スチレン等モル共重合体 ST-5005:東ソー・ファインケム株式会社製、樹脂分20.0wt%
パラスチレンスルホン酸ナトリウム;東ソー・ファインケム株式会社製、純度88.9wt%
パラスチレンスルホン酸アンモニウム;東ソー・ファインケム株式会社製、純度97.0wt%
メタクリル酸;富士フイルム和光純薬株式会社製、特級
1-ビニル-2-ピロリドン;富士フイルム和光純薬株式会社製、特級
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル;富士フイルム和光純薬株式会社製、一級
2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩;富士フイルム和光純薬株式会社製(商品名V-50)
3-メルカプト-1,2-プロパンジオール;富士フイルム和光純薬株式会社製
チオリンゴ酸;富士フイルム和光純薬株式会社製、一級
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン;富士フイルム和光純薬株式会社製、特級
強酸型カチオン交換樹脂 アンバーライトIR-120B;オルガノ株式会社
D(-)-ソルビトール;富士フイルム和光純薬株式会社製、一級
meso-エリスリトール;富士フイルム和光純薬株式会社製、一級
L(-)-アラビトール;富士フイルム和光純薬株式会社製
キシリトール;富士フイルム和光純薬株式会社製、特級
【0032】
合成例1 スチレンスルホン酸共重合体(ポリマーA)の製造
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた1Lガラス製四つ口フラスコに、純水52.00gを仕込み、窒素雰囲気下、85℃のオイルバスで加熱した。ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸ナトリウム100.00g、メタクリル酸4.15gを純水451.66gに溶解し、アスピレーターによる減圧と窒素導入を繰返して脱酸素処理したもの〕を180分、開始剤水溶液〔2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.19gを純水30.20gに溶解したもの〕を200分かけて滴下しながら重合を行った。開始剤滴下終了後、バス温を90℃に昇温し、そのまま2時間熟成することにより、スチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸(90.0/10.0モル%)共重合体の水溶液を得た。各モノマーの重合転化率は100%であった。GPCで求めたポリマーの数平均分子量は242500(Da)、重量平均分子量は586200(Da)だった。ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、固形分を20.0wt%に調整してポリマーAとした。
【0033】
合成例2 スチレンスルホン酸共重合体(ポリマーB)の製造
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、純水61.00gを仕込み、窒素雰囲気下、85℃のオイルバスで加熱した。ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸ナトリウム270.00g、メタクリル酸102.50gを純水1101.70gに溶解し、アスピレーターによる減圧と窒素導入を繰返して脱酸素処理したもの〕を180分、開始剤水溶液〔2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩5.64gを純水39.77gに溶解したもの〕を200分かけて滴下しながら重合を行った。開始剤滴下終了後、バス温を90℃に昇温し、そのまま2時間熟成することにより、スチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸(50.0/50.0モル%)共重合体の水溶液を得た。各モノマーの重合転化率は100%だった。GPCで求めたポリマーの数平均分子量は75100(Da)、重量平均分子量は164200(Da)だった。ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、固形分を20.2wt%に調整してポリマーBとした。
【0034】
合成例3 スチレンスルホン酸共重合体(ポリマーC)の製造
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた1Lガラス製四つ口フラスコに、純水52.00gを仕込み、窒素雰囲気下、85℃のオイルバスで加熱した。ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸ナトリウム100.00g、メタクリル酸4.15g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル3.15gを純水465.00gに溶解し、アスピレーターによる減圧と窒素導入を繰返して脱酸素処理したもの〕を180分、開始剤水溶液〔2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.12gを純水30.21gに溶解したもの〕を200分かけて滴下しながら重合を行った。開始剤滴下終了後、バス温を90℃に昇温し、そのまま2時間熟成することにより、スチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル共(85.6/9.6/4.8モル%)重合体の水溶液を得た。各モノマーの重合転化率は100%であった。GPCで求めたポリマーの数平均分子量は324000(Da)、重量平均分子量は759000(Da)だった。ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、固形分を20.0wt%に調整してポリマーCとした。
【0035】
合成例4 スチレンスルホン酸共重合体(ポリマーD)の製造
還流冷却管、窒素導入管、撹拌機を取り付けた500mlガラス製四つ口フラスコに、純水30.21g、1-ビニル-2-ピロリドン7.02gを仕込み、窒素雰囲気下、80℃のオイルバスで加熱を開始した。加熱の開始と同時に、ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸ナトリウム15.00gを純水80.32gに溶解し、アスピレーターによる減圧と窒素導入を繰返して脱酸素処理したもの〕を316分、開始剤水溶液〔2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩0.52gを純水91.03gに溶解したもの〕を540分かけて滴下しながら重合を行った。開始剤滴下終了後、バス温を85℃に昇温し、そのまま1時間熟成することにより、スチレンスルホン酸ナトリウム/1-ビニル-2-ピロリドン(50.0/50.0モル%)共重合体の水溶液を得た。各モノマーの重合転化率は100%であった。GPCで求めたポリマーの数平均分子量は36900(Da)、重量平均分子量は94900(Da)であり、単峰性の分子量分布を示した。ロータリーエバポレータを用いて濃縮し、固形分を20.0wt%に調整してポリマーDとした。
【0036】
合成例5 スチレンスルホン酸重合体(ポリマーE)の製造
還流冷却管、窒素導入管、バドル型攪拌機を取り付けた1Lガラスフラスコに、純水100.00gを仕込み、窒素雰囲気下、85℃のオイルバスで加熱した。ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸アンモニウム240.00gを純水820.00に溶解したもの〕を110分、開始剤水溶液(2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩2.00gを純水120.00gに溶解したもの)を120分かけて滴下し、重合を行った。重合を開始して2時間後、オイルバス温度を90℃に昇温し、更に2時間重合を継続し、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液を得た。 GPCで求めたポリスチレンスルホン酸アンモニウムの数平均分子量Mnは121000、重量平均分子量Mwは339000だった。ロータリーエバポレータを用いて濃縮調整し、固形分を20.0wt%に調整してポリマーEとした。
【0037】
合成例6 スチレンスルホン酸重合体(ポリマーF)の製造
0.6Lの強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社製アンバーライトIR120B、登録商標)を充填した内径5.6cm、長さ40cmのガラスカラムにポリスチレンスルホン酸ナトリウム PS-5(0.5KG)を通液してカチオン交換処理することにより、ポリスチレンスルホン酸の15.6wt%水溶液を得た。その後、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンで中和し、ポリスチレンスルホン酸のN,N-ジメチルシクロヘキシルアミン塩水溶液を得た。続いてロータリーエバポレータを用いて濃縮調整し、固形分を20.0wt%に調整してポリマーFとした。
【0038】
実施例1~8
スチレンスルホン酸重合体の水溶液と糖アルコールの水溶液を、全固形分濃度が20wt%となるよう、表1及び表2に示した組成で混合した。当該混合溶液10gを内径49ミリ(全高15ミリ)のガラスシャーレに広げ(液深さは約0.5cm)、70℃、相対湿度29%の恒湿恒温槽内で7日間乾燥後、110℃で5時間真空乾燥し、乾燥塗膜(溶液採取量から計算した平均厚みは約1ミリ)を作製し、状態を観察した(表1及び表2参照)。尚、混合溶液を調製した際、増粘現象は認められなかった。
約1ミリの厚膜にも関わらずひび割れがなく透明であり、自立膜を採取できたことから、スチレンスルホン酸重合体の乾燥塗膜の脆性が改良されていることが明らかである。
【0039】
比較例1~4
スチレンスルホン酸重合体の水溶液と糖アルコールの水溶液を、全固形分濃度が20wt%となるよう、表2に示した組成で混合した。当該水溶液10gを内径49ミリ(全高15ミリ)のガラスシャーレに広げ(液深さは約0.5cm)、70℃、相対湿度29%の恒湿恒温槽内で7日間乾燥後、110℃で5時間真空乾燥し、乾燥塗膜(溶液採取量から計算した平均厚みは約1ミリ)を作製し、状態を観察した(表2参照)。
何れもひび割れが酷く、自立膜を採取できなかったことから、従来のスチレンスルホン酸重合体の乾燥塗膜は極めて脆いことが明らかである。
【0040】
【0041】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のスチレンスルホン酸重合体(又はその塩)と糖アルコールを含む水性組成物は、塗工性(流動性)が優れ、脆性が改良されたスチレンスルホン酸重合体(及びその塩)の乾燥塗膜を簡便に形成できるため、帯電防止塗膜や半導体ウエハー加工時の水溶性保護膜などの産業分野で極めて有用である。