(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】組成物および治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20230727BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230727BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230727BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230727BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230727BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230727BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230727BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230727BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230727BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K47/18
A61K47/34
A61K47/10
A61K9/51
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/12
A61K9/70 401
A61P31/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021088258
(22)【出願日】2021-05-26
(62)【分割の表示】P 2017566763の分割
【原出願日】2016-07-06
【審査請求日】2021-06-24
(32)【優先日】2015-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515285475
【氏名又は名称】ブルーベリー セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ライデン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ライデン クリスティン キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】クック デイビッド
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/044669(WO,A1)
【文献】特許第6945460(JP,B2)
【文献】特表2013-515742(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178789(WO,A1)
【文献】特開2012-126733(JP,A)
【文献】Polymers,2011年,Vol.3,pp.928-941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと0.06~6mg/mlの範囲のテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む組成物であって、前記ポリマーが、0.2~0.4mg/mlの範囲の
ポリヘキサメチレンモノグアナイド(PHMG)、ポリエチレンビグアナイド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアナイド(PTMB)、ポリエチレンヘキサメチレンビグアナイド(PEHMB)、またはポリメチレンビグアナイド(PMB)を含み、前記ナノ粒子が、
a)0.5~5nmの範囲の第一種と、
b)150~250nmの範囲の第二種と
を含む少なくとも二つの異なる粒子サイズの群の粒子を含む、組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子がテルビナフィンと共におよび/またはテルビナフィンの存在下で形成される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が以下の成分:緩衝剤、賦形剤、溶剤、結合剤、オイル、水、乳化剤、グリセリン、酸化防止剤、防腐剤、および香料のうちの一又は複数をさらに含む、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が尿素および/またはエタノールを含むか、あるいは、尿素および/またはエタノールをさらに含む、請求項
3に記載の組成物。
【請求項5】
真菌感染の治療または管理に使用するための、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記治療が局所のものである、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記テルビナフィンが、抗真菌剤の治療的に有効な全身用量よりも少ない投与量で前記組成物内に存在する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記真菌感染が真菌性爪感染、水虫、または真菌性皮膚感染を含む、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記真菌感染が皮膚糸状菌感染および/または酵母感染を含む、請求項
5~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物がクリーム、軟膏、スプレーまたは粉末の形態である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物がマイクロニードルアレイによって、または、マイクロニードルアレイと併用して投与される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記マイクロニードルアレイが接着型パッチに組み込まれる、請求項
11に記載の組成物。
【請求項13】
真菌感染の治療用組成物の製造方法であって、0.2~0.4mg/mlの範囲の
ポリヘキサメチレンモノグアナイド(PHMG)、ポリエチレンビグアナイド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアナイド(PTMB)、ポリエチレンヘキサメチレンビグアナイド(PEHMB)、またはポリメチレンビグアナイド(PMB)と0.06~6mg/mlの範囲のテルビナフィンを、ナノ粒子の形成を可能とするのに適する条件下で混合する工程を含み、
a)前記ナノ粒子が、0.5~5nmの範囲と150~250nmの範囲のナノ粒子の製造を可能とする条件下で形成されるか;あるいは、
b)混合物が、0.5~5nmの範囲および150~250nmの範囲のナノ粒子だけを選択するようにさらに処理され、
前記ナノ粒子が、
i)0.5~5nmの範囲の第一種と、
ii)50~250nmの範囲の第二種とを
含む少なくとも二つの異なる粒子サイズの群に形成されるか、または処理される、方法。
【請求項14】
前記方法が前記組成物を局所用医薬に製剤化する工程をさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、請求項1~
12のいずれか一項に記載される組成物を製造するために使用される、請求項
13~
14のいずれか一項に記載される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーとテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む組成物(およびそのような組成物の製造方法)であって、それらのナノ粒子が0.5~5nmの範囲の粒子および/または150~250nmの範囲の粒子を含む、組成物に関する。そのような組成物は、限定はされないが、真菌性爪感染の治療に特に適している。
【背景技術】
【0002】
真菌感染はヒトと動物でますます一般的になっているが、そのような感染の治療に問題が残っている理由は、抗真菌組成物に毒性があり、これらの組成物の溶解性が乏しく、そして、従来の医薬製剤を使用しては到達することが困難なことが証明されている場合のあるいくつかの感染部位が遠隔にあるからである。
【0003】
広範囲の抗真菌剤(例、アンホテリシンB、ハマイシン、フィリピン、およびナイスタチン)が1960年代に発見された。しかし、毒性のためにハマイシンとナイスタチンのみが局所使用され、そして、アンホテリシンBは全身性で使用されている。抗真菌療法における画期的な出来事は、アゾール類、特にケトコナゾールの導入であった。現在使用されている抗真菌剤の主要なクラスは、ポリエン類、アゾールアリルアミン類、リポペプチド類、およびピリミジン類である。しかしながら、ポリエン類は哺乳類細胞に毒性がある。アゾール類は局所的には許容されるが、全身性投与される場合には副作用があり、そして、アゾール類に対する耐性がいくつか報告されている。フルシトシンが、最も一般的に使用されるピリミジンである。フルシトシンは組織浸透性に優れているが、フルシトシンに対する耐性がすぐに発生する場合があり、胃腸管副作用を生じてしまう場合もある。リポペプチド類の毒性は低く、いくつかの臨床試験が続行中で、その効力を試験している。
【0004】
新規抗真菌剤の開発に制約がある理由は、真菌が真核生物であって、そして、標的細胞がもし破壊されると宿主の細胞もまた損傷を受ける可能性があるからである。真菌感染の増加と抗真菌剤の使用の増加により、真菌に耐性が出現するようになった。抗真菌剤耐性の臨床への影響が大きい理由は、真菌性疾患が免疫不全患者の病的状態と死亡率の増加を引き起こしているからである。
【0005】
約40%の新規開発薬物が失敗している理由は、水への溶解性の問題のため適切な送達ができないからであると推定されている。薬物が局所性送達される場合、皮膚のバリア特性により、要求される薬物用量を達成するためにしばしば透過促進剤が必要とされる。
【0006】
爪真菌症(より一般的には真菌性爪感染として知られているもの)では、爪が厚くなり、変色し、変形し、そして、割れる。治療しなければ、爪は厚くなって、靴の内側に押し付けられて、圧迫、炎症、痛みを生じる場合がある。特に、糖尿病患者、末梢血管疾患を有する者、および免疫不全患者において、さらなる合併症のリスクがある。真菌性爪感染は心理的および社会的問題を生じる場合もある。真菌性爪感染の発生頻度は年齢とともに増加し、60代以上では約30%の有病率であり、ヨーロッパでは有意な発生頻度となっていて、アジアではさらに高いレベルにさえある。一又は複数の足の爪および/または手の爪が真菌性爪感染に罹患する場合があり、真菌性爪感染が未治療のまま放置されると爪が完全にダメになってしまう可能性がある。
【0007】
真菌性爪感染に対する現在の治療は、6~12か月間週に1~2回局所剤として爪用ラッカー/ペイント(例、アモロルフィン)の投与、および/または、経口抗真菌剤(例、テルビナフィンもしくはイトラコナゾール)の投与である。経口抗真菌剤は、重度の副作用(例、胃腸管の不調)を起こす可能性があり、そして、肝不全を生じる場合さえもある。再発が25~50%の症例で一般的に報告されており、多くの患者は予期される副作用と治療期間の長さのために治療過程にコミットする意思を示さず、疾患がより急速に進行した場合にのみ治療を開始することにする。現状の経口治療または局所治療は効くのに6~12ヵ月かかる場合がある。経口治療は、足指に到達するのに全身循環を飽和させなければならず、その用量の増加は胃腸および肝臓の合併症のリスクを増加させる。局所治療では肥厚した爪に効果的に浸透させることができず、したがって、高用量投薬を再び必要とする。
【0008】
水虫(さもなくば、足部白癬、足白癬、またはモカシン足として知られているもの)は、トリコフィトン属(もっとも一般的にはT.ルブラム(T.rubrum)もしくはT.メンタグロフィテス(T.mentagrophytes))の真菌が一般的に原因の皮膚真菌感染である。水虫を引き起こす各種寄生真菌はまた、他の皮膚感染症(例、爪真菌症および股部白癬)を引き起こす。真菌性爪感染とは異なるけれども、水虫もまた治療の順守と期間の問題がある。
【0009】
真菌性角膜炎は、真菌感染が原因の角膜の炎症である。ナタマイシン眼科用懸濁液剤が糸状菌感染にしばしば使用されているが、フルコナゾール眼科用溶液剤がカンジダ感染症に推奨されている。アンホテリシンB点眼薬が難治性症例に使用されているが、これらの点眼薬は個人によっては毒性がある場合もある。
【0010】
口腔カンジダ症は、カンジダ種による口腔の粘膜の真菌感染である。免疫不全患者では特に問題となる場合があって、治療に成功するのがしばしば困難である。
【0011】
特許文献1は、ナノ粒子を形成可能なポリマーと抗真菌剤とを含む、真菌感染治療用局所性組成物(およびそのような組成物の製造方法)を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、現状の抗真菌治療に関連する上記問題の一又は複数に取り組むことである。局所性抗真菌治療を提供することもまた、本発明の目的である。さらに、本発明の目的は、本抗真菌剤が多くの身体組織(例、爪および/または真皮、粘膜、角膜および/または強膜)をより良好に浸透することを可能とする治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ある観点によって提供されるのは、ポリマーとテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む組成物であって、前記ナノ粒子が0.5~5nmの範囲の粒子および/または150~250nmの範囲の粒子を含む、組成物である。
【0015】
本ナノ粒子は、
a)0.5~5nmの範囲の第一種と、
b)150~250nmの範囲の第二種とを含む少なくとも二つの異なる粒子サイズの群で存在することができる。
【0016】
さらなる観点によって提供されるのは、ポリマーとテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む組成物であって、前記ナノ粒子が少なくとも二つの異なる粒子サイズの群で存在する、組成物である。
【0017】
本ナノ粒子は、
a)0.5~5nmの範囲の第一種と、
b)150~250nmの範囲の第二種とを含む少なくとも二つの異なる粒子サイズの群で存在することができる。
【0018】
好ましくは、第一種の粒子は0.5~3nmの範囲にある。より好ましくは、第一種の粒子は0.5~2.5nmの範囲にある。最も好ましくは、第一種の粒子は0.5~2nmの範囲にある。好ましくは、第二種の粒子は150~225nmの範囲にある。より好ましくは、第二種の粒子は150~220nmの範囲にある。最も好ましくは、第二種の粒子は150~215nmの範囲にある。
【0019】
好ましくは、第一種の粒子の平均サイズは0.5~1.5nmの範囲となる。より好ましくは、第一種の粒子の平均サイズは0.6~1.4nmの範囲となる。さらにより好ましくは、第一種の粒子の平均サイズは0.7~1.2nmの範囲となる。最も好ましくは、第一種の粒子の平均サイズは約0.9nmの領域にあることになる。
【0020】
好ましくは、第二種の粒子の平均サイズは150~225nmの範囲となる。より好ましくは、第二種の粒子の平均サイズは155~220nmの範囲となる。さらにより好ましくは、第二種の粒子の平均サイズは160~215nmの範囲となる。最も好ましくは、第二種の粒子の平均サイズは約160~約176nmの領域にあることになる。
【0021】
好ましくは、第二種の粒子のサイズの最頻値は150~225nmの範囲となる。より好ましくは、第二種の粒子のサイズの最頻値は155~220nmの範囲となる。さらにより好ましくは、第二種の粒子のサイズの最頻値は160~215nmの範囲となる。最も好ましくは、第二種の粒子のサイズの最頻値は約164~約211nmの領域にあることになる。
【0022】
ナノ粒子が全体として二つ(以上)の異なる粒子サイズの群から構成されることによって、本発明者らは有利なことにテルビナフィンがずっとより効率的に細胞に浸透することができることを見出した。本発明者らは、ナノ粒子製剤が、テルビナフィンのヒト爪浸透を増強することをさらに見出した。従って、持続放出プロファイルを有するだけでなく、治療用量が減少した医薬中にテルビナフィンを製剤化することができ、その製剤は全身性というよりはむしろ局所的に効率的に送達可能となって、従って、抗真菌剤を経口投与する場合のいくつかの危険を除去できる。安全なナノポリマー送達システムを強力な抗真菌剤と組み合わせることによって、効力を向上することができて、感染症に対する現状の治療タイムラインを6ヵ月から6週間に削減できる局所治療を提供可能であることが想像される。
【0023】
用語「局所」は、身体表面(例、皮膚、爪、眼、細気管支、粘膜、口腔、および胃腸管)の外側表面を意味することを意図している。
【0024】
用語「テルビナフィン」は、医薬活物質テルビナフィン塩酸塩(合成アリルアミン抗真菌剤であって、元々商品名Lamisil(登録商標)として販売していたもの)を意味することを意図している。この用語はまた、テルビナフィン塩酸塩の医薬変種(例、医薬的に許容可能な形態の非毒性の有機もしくは無機、酸もしくは塩基の付加塩)を含むことも意図している。
【0025】
ナノ粒子のサイズ/直径の測定は、好ましくは、動的光散乱解析を使用して実施される。
【0026】
さらなる観点によって提供されるのは、ポリマーと抗真菌剤から形成されるナノ粒子を含む組成物であって、前記ナノ粒子が、
a)0.5~5nmの範囲の第一種と
b)150~250nmの範囲の第二種として存在する、組成物である。
【0027】
この観点に関する用語「抗真菌剤」は、真菌感染症を引き起こす真菌の増殖および/または生存を阻害することができるある範囲の化合物と分子をカバーすることが意図される。この観点と組み合わせて使用される抗真菌剤は、もちろん、感染症を引き起こす真菌に対する効力によって多くは左右される。抗真菌剤は、以下の群から選択される一又は複数の薬剤を含んでもよい:ナイスタチン、テルビナフィン、ケトコナゾール、アンホテリシンB、イトラコナゾール、またはベルベリン。抗真菌剤がテルビナフィンを含むことが好ましい。
【0028】
全ての観点で好ましいのは、ポリマーが直鎖および/または分枝鎖または環状のポリモノグアナイド/ポリグアニジン、ポリビグアナイド、アナログ、あるいはそれらの誘導体を含むことである。直鎖および/または分枝鎖または環状のポリモノグアナイド/ポリグアニジン、ポリビグアナイド、アナログ、あるいはそれらの誘導体は、以下の式1aまたは式1bに記載されるものであってもよく、それら例を下の表AとBに提供する。
【0029】
【0030】
式中、
「n」は、ポリマーの反復単位の数を指し、nは2~1000、例えば、2または5から10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または900まで変化させてもよい。
【0031】
G1とG2は、独立して、ビグアナイドまたはグアニジンを含むカチオン性基を表し、L1とL2は前記グアナイドの窒素原子に直接連結される。従って、前記ビグアナイド基またはグアニジン基はポリマー骨格に一体となっている。前記ビグアナイド基またはグアニジン基は、式1aの側鎖部分ではない。
【0032】
カチオン性基の例は以下である:
ビグアナイド
【化2】
(PHMBなど)
または、
グアニジン
【化3】
(PHMGなど)。
【0033】
本発明では、L1とL2は、ポリマーのG1とG2カチオン性基間の連結基である。L1とL2は、独立して、C1~C140炭素原子を含む脂肪族基、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、C4、C5、C6、C7、C8、C9またはC10等のアルキル基のもの;C1-C10、-C20、-C30、-C40、-C50、-C60、-C70、-C80、-C90、-C100、-C110、-C120、-C130または-C140であるアルキルであってもよく;L1とL2は、(独立して)、C1~C140(例えば、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、またはC10;C1-C10、-C20、-C30、-C40、-C50、-C60、-C70、-C80、-C90、-C100、-C110、-C120、-C130、または-C140)、環状脂肪族、複素環式、芳香族、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルであってもよく;あるいはL1とL2は、(独立して)、ポリアルキレンラジカルであって、任意ではあるが一若しくは複数の、好ましくは一つの、酸素、窒素、または硫黄原子と、官能基と、飽和または不飽和環状部分とが間にあるものであってもよい。適するL1とL2の例は、表Aに記載される基である。
【0034】
L1、L2、G1、およびG2は、脂肪族、環状脂肪族、複素環式、アリール、アルカリル、およびオキシアルキレンラジカルを使用して修飾されたものであってもよい。
【0035】
NおよびG3は、好ましくは末端基である。一般的には、本発明における使用のポリマーは末端アミノ基(N)とシアノグアニジン(G3)またはグアニジン(G3)末端基を有する。そのような末端基は、(例えば、1,6-ジアミノヘキサン、1,6ジ(シアノグアニジノ)ヘキサン、1,6-ジグアニジノヘキサン、4-グアニジノ酪酸を用いて)脂肪族、環状脂肪族複素環式、複素環式、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルへの結合によって修飾可能である。また、末端基は、受容体リガンド、デキストラン、シクロデキストリン、脂肪酸もしくは脂肪酸誘導体、コレステロールもしくはコレステロール誘導体、またはポリエチレングリコール(PEG)への結合によっても修飾可能である。任意ではあるが、本ポリマーの末端は、グアニジン、ビグアナイド、シアノアミン、アミン、またはシアノグアニジンをN位とG3位に有するか;シアノアミンをN位に、シアノグアニジンをG3位に有するか;グアニジンをN位に、シアノグアナイドをG3位に有するか;あるいはL1アミンをG3位に、シアノグアニジンをN位に有してもよい。G3はL1-アミンン、L2シアノグアニジン、またはL2-グアニジンであってもよい。重合数(n)、ポリマー鎖切断、および合成時副反応に依存して、例として上記した末端基の異種混合物が生じる場合がある。従って、N基とG3基は、上記したように異種混合物として互換/存在可能である。代替的に、NとG3は無くてもよく、本ポリマーは環状であってもよい。そのような場合は、各末端L1基とG2基は直接相互連結される。
【0036】
式1bでは、Xはあっても無くてもよい。L3、L4、およびXは、「L1またはL2」に関して記載したものと同様である。従って、L3、L4、およびXは、本ポリマー中のG4およびG5カチオン性基間の連結基となる。L3とL4とXは、独立して、C1~C140炭素原子を含む脂肪族基、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、C4、C5、C6、C7、C8、C9またはC10等のアルキル基のもの;C1-C10、-C20、-C30、-C40、-C50、-C60、-C70、-C80、-C90、-C100、-C110、-C120、-C130または-C140であるアルキルであってもよく;L3とL4とXは、独立して、C1~C140(例えば、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、またはC10;C1-C10、-C20、-C30、-C40、-C50、-C60、-C70、-C80、-C90、-C100、-C110、-C120、-C130、または-C140)、環状脂肪族、複素環式、芳香族、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、オキシアルキレンラジカルであってもよく;あるいはL3とL4とXは、独立して、ポリアルキレンラジカルであって、任意ではあるが一若しくは複数の、好ましくは一つの、酸素、窒素、または硫黄原子と、官能基と、飽和または不飽和環状部分とが間にあるものであってもよい。適するL3とL4とXの例は、表Bに記載される基である。
【0037】
「G4」と「G5」はカチオン性部分であって、同一でも異なっていてもよい。それらの少なくとも一つはビグアニジン部分またはカルバモイルグアニジンであり、他方は上記したもの(ビグアニジンまたはカルバモイルグアニジン)またはアミンであってもよい。疑義を避けるため、式1b中のカチオン性部分G4とG5は単一グアニジン基のみを含むことはない。例えば、G4とG5は典型的には単一グアニジン基を含まない。そのような化合物の例は、表Bに記載されるポリアリルビグアナイド、ポリ(アリルビグアニジノ(allylbiguanidnio)-コ-アリルアミン)、ポリ(アリルカルバモイルグアニジノ-コ-アリルアミン)、ポリビニルビグアナイドである。
【0038】
ポリアリルビグアナイドの例を以下に示す。
【化4】
【0039】
ポリアリルビグアニジンの場合には、L
3とL
4は同一で、G
4とG5は類似しているので、従って、ポリアリルビグアナイドは以下のように単純化可能である。
【化5】
【0040】
ポリ(アリルカルバモイルグアニジノ(allylcarbamoylguanidnio)-コ-アリルアミン)の例は以下に示されるものである。
【化6】
【0041】
本発明で使用するためのポリマーは一般的にポリマーに結合しているカウンターイオンを有している。適するカウンターイオンには、限定はされないが以下のものが含まれる:ハロゲン化物(例えば、塩化物)、リン酸塩、乳酸塩、ホスホン酸塩、スルホン酸塩、アミノカルボン酸塩、カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、有機リン酸塩、有機ホスホン酸塩、有機スルホン酸塩、および有機硫酸塩(organosuflate)。
【0042】
本発明で使用するためのポリマーは、異なる「n」数のポリマーの異種混合物または、標準的精製方法で精製された特定「n」数のものを含む均質画分のいずれかであってもよい。上で指摘したように、本ポリマーは環状であってもよいし、さらに、分岐していてもよい。
【0043】
好ましい「n」数には、2~250、2~100、2~80、および2~50が含まれる。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
使用される本ポリマーは、直鎖、分枝鎖、または樹状の分子を含んでもよい。本ポリマーは、直鎖、分枝鎖、または樹状の分子の組み合わせを含んでもよい。本ポリマーは、例えば、上記したような式1aまたは式1bの分子の一つ又は任意の組み合わせを含んでもよい。
【0049】
例えば、本ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアナイド(PHMG)、ポリエチレンビグアナイド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアナイド(PTMB)、またはポリエチレンヘキサメチレンビグアナイド(PEHMB)の一又は複数を含んでもよい。いくつかの例が表AとBに記載される。
【0050】
従って、本ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアナイド(PHMG)、ポリエチレンビグアナイド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアナイド(PTMB)、ポリエチレンヘキサメチレンビグアナイド(PEHMB)、ポリメチレンビグアナイド(PMB)、ポリ(アリルビグアニジノ(allylbiguanidnio)-コ-アリルアミン)、ポリ(N-ビニルビグアナイド)、ポリアリルビグアナイドの一又は複数の均質または異種混合物を含んでもよい。
【0051】
最も好ましいポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)を含む。
【0052】
第二種に対する第一種の相対量は一般的には互いに等量であるか、あるいは、一方の種が本組成物内でより顕著な種となっていてもよい。
【0053】
各種方法を使用してナノ粒子を形成させることができるが、そのナノ粒子がポリマーと抗真菌剤の複合体として形成されることが想定される。しかしながら、ポリマーナノ粒子を独立して形成させて、その後、一緒に又は任意の順序で別々に抗真菌剤とインキュベートしてもよい。抗真菌剤は、真菌に対する抗真菌剤の効力とナノ粒子の浸透増強効果を保持させるようなやり方でナノ粒子に吸収または結合可能である。
【0054】
本発明の一つの実施形態では、通常全身投与される抗真菌剤が、その抗真菌剤の治療的に有効な全身用量よりも少ない投与量で本組成物内に存在する。本抗真菌剤には、一般的に経口投与される薬剤が含まれてもよい。本組成物によって抗真菌剤を感染部位により効果的に投与可能になるにつれて、その投与量は削減可能となり、そして、このことによっていくつかの抗真菌剤に伴う潜在的毒性学的問題を減らすことができる。
【0055】
当業者に明白となることは、本組成物が以下の成分:緩衝剤、賦形剤、結合剤、オイル、溶剤、水、乳化剤、グリセリン、抗酸化剤、防腐剤、および香料、あるいは、医薬と、特に局所用クリームおよび軟膏に通常見られる任意の追加的成分のうちの一又は複数をさらに含んでもよい。さらにまた、本組成物は、多様な形態(例、ペーストまたは懸濁物)であってもよい。本組成物は、スプレー装置と共に使用するために製剤化可能であるか、あるいは、マイクロニードルアレイ送達システムと一緒に使用するために製剤化可能である。もしマイクロニードルアレイを採用するならば、そのアレイを接着型パッチに組み込んでもよい。
【0056】
ある種の応用例に関して、本組成物は、抗真菌剤を感染領域へと送達可能とする浸透剤をさらに含んでもよい。例えば、尿素を使用して、感染が爪の下部または爪自身の内部にある場合の真菌性爪感染に罹患する個人の爪をナノ粒子が突破することを可能にすることができる。さらに、本組成物の一又は複数の成分(例、真菌剤)を溶液中に可溶化するのを可能とするために、溶剤(例、エタノール)が使用可能である。
【0057】
本発明の組成物はまた、経鼻投与可能であるか、または、吸入によって投与可能でもある。そして、乾燥粉末吸入剤、または、加圧した容器、ポンプ、スプレー、もしくは噴霧器から出てくるエアゾールスプレーの形態で、適切な推進剤(例、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン(例、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134A若しくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA227EA3))、二酸化炭素、または他の適切なガス)を使用して簡便に送達可能である。加圧エアゾールの場合の投与量単位は、規定量を送達するための値を提供することによって決定可能である。加圧容器、ポンプ、スプレー、または噴霧器は、本組成物(例、溶剤としてのエタノールと前記推進剤との混合物を使用するもの)であって、潤滑剤(例、トリオレイン酸ソルビタン)をさらに含んでもよい溶液または懸濁物を含んでもよい。吸入器または注入器用の(例えば、ゼラチン製の)カプセルとカートリッジは、本発明の組成物と適切な粉末ベース(例、ラクトースもしくはデンプン)の粉末ミックスを含むように製剤化可能である。
【0058】
エアゾールまたは乾燥粉末製剤を好ましく準備して、各規程用量または「パフ(puff)」が少なくとも1μgの本組成物を含んで患者へ送達される。理解されるのは、エアゾールの総一日用量が患者ごとに異なり、単回の用量、より通常は、一日を通して数回に分けた用量で投与可能であることである。
【0059】
代替的には、本発明の組成物は坐薬またはペッサリーの形態で投与可能であり、あるいは、本組成物はローション、溶液、クリーム、軟膏、または散粉剤の形態で局所適用可能である。本発明の組成物はまた、例えば、皮膚パッチを使用することによって経皮投与可能でもある。本組成物はまた、眼の経路、特に、眼疾患を治療するために投与可能でもある。
【0060】
眼科用途に関しては、本発明の組成物はナノ粒子システムを使用して製剤化されるか、あるいは、等張でpH調整済みの滅菌生理食塩水中の微粒子化懸濁剤として、好ましくは、等張でpH調整済みの滅菌生理食塩水中の溶液剤として、任意ではあるが防腐剤(例、塩化ベンザルコニウム(benzylalkoniumchloride))と組み合わせて製剤化可能である。また、本組成物は軟膏(例、ワセリン)中に処方可能でもある。
【0061】
皮膚への局所適用に関しては、本発明の組成物は、例えば、以下:鉱油、液状ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、および水のうちの一又は複数との混合物中に懸濁または溶解された活性化合物を含む適切な軟膏として製剤化可能である。代替的には、本組成物は、例えば、以下:鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水のうちの一又は複数との混合物中に懸濁または溶解される適切なローションまたはクリームとして製剤化可能である。
【0062】
本明細書中に上記した局所組成物を使用して、多くの真菌感染症を治療することができる。しかしながら、特に適するのは、真菌性爪感染、水虫、または他の型の真菌皮膚感染/皮膚糸状菌感染(例、鼠径部の白癬(いんきんたむし)、身体の白癬(体部白癬)、頭部白癬(しらくも)、その他「白癬」型感染)を治療することである。本発明はまた、酵母感染(例、限定はされないが、間擦疹、癜風、および鵞口瘡(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)))の治療にも適している。真菌感染には皮膚糸状菌感染が含まれる場合がある。しかしながら、本発明を使用して、酵母感染および/またはコロニー形成を処置または調節することもできる。
【0063】
本明細書中に上記した組成物は、真菌感染の治療または管理に使用するためのものであってもよい。治療は局所治療であってもよい。
【0064】
本組成物は、ポリヘキサメチレンビグアナイドとテルビナフィンとを含んでもよい。好ましくは、本組成物は、0.1~0.5mg/mlの範囲のポリヘキサメチレンビグアナイドと、0.06~60mg/mlの範囲のテルビナフィンとを含む。より好ましくは、本組成物は、0.2~0.4mg/mlの範囲のポリヘキサメチレンビグアナイドと、0.06~6mg/mlの範囲のテルビナフィンとを含む。最も好ましくは、本組成物は、約0.3mg/mlまでのポリヘキサメチレンビグアナイドと、約0.1mg/mlまでのテルビナフィンとを含む。
【0065】
本発明の一つの実施形態で提供されるのは、真菌感染を治療するための、ポリヘキサメチレンビグアナイドとテルビナフィンとのナノ粒子複合体を含む組成物である。
【0066】
本発明のさらなる観点で提供されるのは、真菌感染を治療するための、ポリヘキサメチレンビグアナイドと抗真菌剤とのナノ粒子合剤を含む組成物である。
【0067】
本発明のさらなる観点に従って提供されるのは、真菌感染を治療するための、ポリヘキサメチレンビグアナイドとテルビナフィンとのナノ粒子複合体のナノ粒子合剤を含む局所組成物である。
【0068】
本発明の別のさらなる観点に従って提供されるのは、真菌感染の治療用組成物の製造方法であって、ナノ粒子の形成を可能とするのに適する条件下で、ナノ粒子を形成することができるポリマーをテルビナフィンと混合する工程を含み、前記ナノ粒子が0.5~5nmおよび/または150~250nmの範囲の粒子を含む、方法である。
【0069】
本方法は、
a)0.5~5nmの範囲の第一種と、
b)150~250nmの範囲の第二種とを含む少なくとも二つの異なる粒子サイズの群にナノ粒子を形成させる工程に関与する。
【0070】
本方法はまた、0.5~5nmの範囲および/または150~250nmの範囲の粒子を形成させるのに適する条件下でナノ粒子を形成させる工程、代替的には、0.5~5nmの範囲および/または150~250nmの範囲のナノ粒子のみを選択するために、それらの混合物をさらに処理する工程を含んでもよい。本方法はまた、0.5~5nmの範囲および150~250nmの範囲のナノ粒子を形成させるのに適する条件下でナノ粒子を形成させる工程、代替的には、0.5~5nmの範囲および150~250nmの範囲の粒子を選択するために、それらの混合物をさらに処理する工程を含んでもよい。多数の技術(例、遠心分離法、電気泳動法、クロマトグラフィー法またはろ過法)を採用して、要求されるサイズ範囲のナノ粒子を選択するためにそれらの混合物をさらに処理する場合もある。ナノ粒子のサイズ/直径の測定は、好ましくは、動的光散乱解析を使用して実施される。
【0071】
本発明は、本組成物を局所医薬に製剤化する工程をさらに含んでもよい。
【0072】
再び明白なのは、本方法を採用して、本明細書中に上記した組成物を製造することである。
【0073】
本発明のさらに別の観点で提供されるのは、ナノ粒子を形成することができるポリマーと抗真菌剤とを含む組成物と、真菌性爪感染の治療に使用するためのマイクロニードルアレイとの組み合わせである。マイクロニードルアレイは接着型パッチに組み込んでもよい。マイクロニードルは長さが2mm未満であってもよい。より好ましくは、マイクロニードルは長さが1.5mm未満である。最も好ましくは、マイクロニードルは長さが1mm未満である。好ましくは、500μm未満のマイクロニードルを皮膚中に挿入する。より好ましくは、400μm未満のマイクロニードルを皮膚中に挿入する。最も好ましくは、約300~200μmのマイクロニードルを皮膚中に挿入する。好ましくは、マイクロニードルによって本組成物を真皮および/または表皮に投与する。
【0074】
本発明の実施形態を、以下の実験と添付した図面を参照して、例示としてのみによって今から説明する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】
図1Aは、30%エタノール中に0.1mg/mlのテルビナフィンを混合し、少なくとも24時間室温でインキュベーションして形成させた粒子のサイズ分布を示すグラフである。その粒子サイズ分布は、Malvern Instruments Nanosight LM10を使用して測定した(粒子サイズ範囲=50~800nm、粒子数=0.5×10
8粒子/ml)。
図1Bは、30%エタノール中に0.1mg/mlのテルビナフィンを混合し、少なくとも24時間室温でインキュベーションして形成させた粒子のビデオフレーム画像である。粒子を、Malvern Instruments Nanosight LM10を使用して可視化した。
【
図2】
図2Aは、30%エタノール中に0.1mg/mlのテルビナフィンと0.3mg/mlのPHMBを混合し、少なくとも24時間室温でインキュベーションして形成させた粒子のサイズ分布を示すグラフである。その粒子サイズ分布は、Malvern Instruments Nanosight LM10を使用して測定した(粒子サイズ範囲=100~300nm、サイズの最頻値=195nm、粒子数=12×10
8粒子/ml)。
図2Bは、30%エタノール中に0.1mg/mlのテルビナフィンと0.3mg/mlのPHMBを混合し、少なくとも24時間室温でインキュベーションして形成させた粒子のビデオフレーム画像である。粒子を、Malvern Instruments Nanosight LM10を使用して可視化した。
【
図3】
図3は、0.3mg/mlのPHMB/0.1mg/mlのテルビナフィンのナノ粒子から形成されたナノ粒子のサイズ分布をMalvern instruments Zetasizerで測定した濃度によって示すグラフである。
【
図4】
図4は、40μlの0.3mg/mlのPHMB+0.1mg/mlのテルビナフィンを、フランツセルの上部チャンバーに添加後、湿潤雰囲気下32℃のフランツセル中で7日間インキュベーション後に爪を通過したテルビナフィンとその爪に結合した状態のままのテルビナフィンの総量を示すグラフである。試験は二度繰り返して実施した。
【
図5】
図5は、7日間湿潤雰囲気下32℃でインキュベーションした、フランツセル中に入れた爪を通過したテルビナフィンの総量を示すグラフである。以下の製剤(40μl)を、フランツセルの上部チャンバーに毎日添加した:0.3mg/mlのPHMB+0.1mg/mlのテルビナフィン、または、10mg/mlのテルビナフィン。各実験で使用したテルビナフィンの総用量は、それぞれ、4μg、または、400μgであった。爪を通過したテルビナフィンの総量は、爪を通過して、水で充填されたフランツセル下部収集チャンバー中にある量と、爪の下側をエタノールで洗浄した液中のテルビナフィンの量を合わせたものである。上記通過テルビナフィン総量を、上部チャンバーに添加した総用量のパーセンテージとして計算した。試験は三度繰り返して実施した。
【
図6】
図6は、健常人ボランティアから切りとった爪を、0.25mg/mlのPHMB、0.05mg/mlのFITC標識PHMB(蛍光標識PHMBは5個に1つ)、および0.1mg/mlのテルビナフィンの溶液に32℃24時間含侵したものの組織学的処理サンプルの写真である。
【
図7】
図7A~7Eは、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trychophyton mentagrophytes)を30℃で4日間インキュベーション後の酵母エキストラクトペプトンデキストロース(YEPD)アガープレートの各写真画像である。各プレートには、トリコフィトン・メンタグロフィテスの層の中央に、10mm滅菌ペーパーディスクを配置した。40μlの再蒸留水、または、濃度を変えたテルビナフィン溶液を、各ペーパーディスク上にスポットした。使用したテルビナフィン溶液の濃度は、0μg/ml(コントロール、
図7A)、0.06μg/ml(
図7B)、0.6μg/ml(
図7C)、6.00μg/ml(
図7D)、および60.0μg/mlであった。
【
図8】
図8は、本発明の組成物を送達するためのマイクロニードルパッチで処置される爪の指の平面図である。
図8Aは、120日間に渡る保存での、テルビナフィンとPHMBのナノ粒子組成物の粒子サイズの最頻値を示すグラフである。
図8Bは、120日間に渡る保存での、テルビナフィンとPHMBのナノ粒子の1ml当たりの数を示すグラフである。
【
図9】
図9は、YEPDアガープレート上に増殖させたカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の層に、100~3μgのテルビナフィンに含侵させた滅菌フィルターディスクを置いて、PHMBナノ粒子組成物が保存後でさえもまだ有効であるかを1日目と80日目のもので比較した写真画像である。
【
図10】
図10は、本発明の組成物を送達するためのマイクロニードルパッチで処置される爪の指の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下の実験の目的は、カチオン性ポリマーであるポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)を用いるナノテクノロジー系送達システムを使用して、抗真菌剤の細胞への送達が向上可能であるかどうかを検証することであった。PHMBは、安価で容易に入手できる消毒剤や防腐剤であって、ドレッシング剤、スイミングプール、およびコンタクトレンズ液に一般的に使用されるものである。その消毒作用は、生物の細胞膜を破壊して、それによって細胞内容物を漏出させることによって働くと考えられている。実験では、また、各種濃度の抗真菌剤の真菌種への効果を評価して、適する用量レベルを決定可能とした。
【0077】
テルビナフィンとPHMBを用いるナノ粒子形成
テルビナフィンとPHMBを用いてナノ粒子を形成させる実験を実施した。
【0078】
テルビナフィンを30%エタノール中で0.1mg/mlで混合し、少なくとも24時間から最大47日間までの間室温でインキュベートした。別の製剤を、30%エタノール中に0.1mg/mlのテルビナフィンを混合し、その後、0.3mg/mlとなるようにPHMBを加えることによって調製した。その製剤を少なくとも24時間から最大112日間までの間室温でインキュベートした。形成された任意のナノ粒子の数とサイズを、Malvern Instruments Nanosight LM10を使用して測定した。
【0079】
テルビナフィン単独を30%エタノール中に混合した場合、約0.5×10
8粒子/mlが形成された。
図1Aに示されるように、その粒子サイズの範囲は50~800nmであった。テルビナフィンとPHMBを30%エタノールに混合した場合、約12×10
8粒子/mlが形成された。
図2Aに示されるように、その粒子サイズの範囲は100~300nmであり、サイズの最頻値は195nmであった。
図1Bおよび2BはNanosight LM10からの各ビデオフレームで、それぞれ、テルビナフィン単独を30%エタノールと混合、および、テルビナフィンとPHMBを30%エタノールと混合した場合に形成されるナノ粒子の密度とサイズを可視化したものである。それらのビデオフレームは、テルビナフィンとエタノールにPHMBを添加することによって、形成される粒子数が増加し、より小型のナノ粒子の形成を引き起こしたことを示している。
【0080】
30%エタノール中のテルビナフィンとPHMBとからなる製剤では、形成されるナノ粒子数が増加し、30%エタノール中にテルビナフィン単独のもので形成された粒子よりも単分散のナノ粒子の形成が起こった。この結果は、PHMBを使用して抗真菌剤の単分散ナノ粒子を形成させることが可能で、その後、その粒子をある範囲の潜在的真菌感染症の引き続く治療用の局所医薬の調製に使用可能であることを示した。
【0081】
ナノ粒子の分析
LM10装置の検出下限値は、直径20nmである。従って、薬物送達実験で使用される製剤を、Malvern Instruments Zetasizer(より小型の形成ナノ粒子を検出することができるもの)を使用して解析した。
図3は、Malvern instruments Zetasizer上での0.3mg/mlのPHMB/0.1mg/mlのテルビナフィンのナノ粒子の分析を示す。この装置は動的光散乱法を使用して、直径0.1nmまで小さい粒子サイズを測定することができる。この分析では、0.3~3nmの範囲の周辺のナノ粒子の第二種が出現したことに注目されたい。以下の表は、その結果を示す(サンプルの各識別子は、
図3の各線を指す)。使用した多分散指数の閾値は<0.4であった。主要なピークのZ平均(粒子直径)は、LM10装置上で観察されたものとほぼ一致している。
【0082】
【0083】
見てわかるように、形成されているナノ粒子には二つの異なる種がある:i)0.5~3nmの範囲のものとii)約170nmのもの。
【0084】
フランツセル
切り取った爪を水中に一晩30℃で含侵し、そして、短時間乾燥させた。直径3mmのパンチを使用して、その切り取った爪からディスク状の生検試料を作製した。各爪ディスクをフランツセルに加えて、セルの上部チャンバーを取り付けた。40μlの以下の製剤を、その上部チャンバーに加えた:0.3mg/mlのPHMB+0.1mg/mlのテルビナフィン、または、10mg/mlのテルビナフィン。フランツセルの下部収集チャンバーに水(約600μl)を充填した。そのフランツセルを32℃の湿潤環境中で7日間インキュベートした。7日目に、下部チャンバーの内容物を取り出して、爪の下側を5回10μlの100%エタノールで洗浄した。エタノール洗浄液を分析のために保持した。
【0085】
テルビナフィンの爪への浸透総量を、下部チャンバーの水中のテルビナフィン濃度と爪のエタノール洗浄液中のテルビナフィン濃度を測定することによって決定した。
図4は、0.3mg/ml PHMB:0.1mg/mlテルビナフィン製剤を添加した場合の爪を通過したテルビナフィン総量と爪の中に残っていたテルビナフィン総量を比較する。投与後7日後の、爪を通過したテルビナフィン総濃度は、約0.6μg/mlであった。
図5が示すのは、0.3mg/ml PHMB:0.1mg/mlテルビナフィン製剤によって爪へのテルビナフィン浸透量の有意且つ実質的増加が起こり、投与量の約10%が下部チャンバーと爪の下側のエタノール洗浄液中に回収されたことである。この結果は、テルビナフィンと併せてPHMBを使用することによって抗真菌剤の爪への浸透を増強することができるという利点を実証する。
【0086】
図6は、健常人ボランティアから切りとった爪サンプルを、0.25mg/mlのPHMB、0.05mg/mlのFITC標識PHMB(蛍光標識PHMBは5個に1つ)、および0.1mg/mlのテルビナフィンの溶液に32℃24時間含侵したものを示す。爪を切片にして、その後、蛍光を蛍光顕微鏡で測定した。画像から見てわかるように、蛍光標識ポリマーが爪切片内に検出可能であり、このことは、蛍光標識ポリマーが爪サンプル中に浸透できたことを示す。
【0087】
抗真菌活性の評価
フランツセル中の爪を通過する濃度範囲を含む、テルビナフィン濃度範囲での抗真菌活性を試験した。テルビナフィンを再蒸留水中で以下の濃度に希釈した:60、6、0.6、および0.06μg/ml。40μlの各テルビナフィン溶液と再蒸留水単独のものを、10mmの滅菌3MMペーパーフィルタ上にスポットした。各ディスクを、酵母エキストラクトペプトンデキストロース(YEPD)アガープレートに蒔いた毛瘡菌(Trychophyton mentagrophytes)の層の上に載せた。毛瘡菌をラボ用真菌株として使用した理由は、爪真菌症(真菌性爪感染)における重要な病原菌種である妥当性による。各アガープレートを逆さまにして、30℃で4日間インキュベートした。各プレートを写真撮影し、そして、クリアーになった(抗真菌活性を示す)領域を解析した。
【0088】
図7A~7Eは、アガープレート上で増殖する毛瘡菌の増殖を示す写真画像である。
図7Aは、テルビナフィン非存在下のコントロールプレート上の毛瘡菌を示す。
図7Bは、40μlの0.06μg/mlのテルビナフィン溶液を吸収させたペーパーディスクの存在下の毛瘡菌を示す。ディスク周辺のクリアーになった領域は無いように見え、従って、毛瘡菌の阻害は最小限または無い。
図7C~Eは、それぞれ、40μlの0.6μg/ml、6μg/ml、および60μg/mlのテルビナフィン溶液を吸収させたペーパーディスクの存在下の毛瘡菌を示す。ペーパーディスク周辺のクリアーになったクリアー領域があり、このことは、これらの濃度のテルビナフィンによって毛瘡菌増殖が阻害されたことを示す。
【0089】
ペーパーディスク周辺のクリアーになった領域のサイズは、各ディスクに添加したテルビナフィンの濃度に依存することを示す。クリアーになった領域で最大のものは、60μg/mlのテルビナフィン溶液に対して見られる。段階的により小さなクリアー領域が、6μg/mlと0.6μg/mlのテルビナフィン溶液に対して見られる。
【0090】
この実験は、0.3mg/ml PHMB:0.1mg/mlテルビナフィン製剤を適用する場合、7日間に渡って爪に浸透したテルビナフィンの量(約0.6μg/ml)が有効な抗真菌作用を提供するのに十分であることを示す。
【0091】
ナノ粒子のサイズと数への保存の影響
テルビナフィン(100μg/ml)およびPHMB(300μg/ml)の溶液を30%(v/v)エタノールで作製し、透明なポリプロピレンプラスティックチューブ中に外気実験室条件の温度と光の下で保存した。1、7、14、21、32、39、45、53、67、99、および112日目にこの溶液からサンプルを取り出し、その後、LM10でナノ粒子のサイズと数を解析した。
【0092】
粒子サイズの最頻値と数に関する結果は以下の表のようになる。
【0093】
【0094】
粒子数の最頻値と1ml当たりの粒子数を、サンプル採取日に対してプロットし、
図8Aと8Bの各グラフに示す。
【0095】
これらの実験は、粒子サイズの最頻値が経時的には一定ではなく変化しているが、全体として150~200nmの範囲内にあったことを実証した。より正確には、より大型種の粒子サイズの最頻値が、1日目から112日目には約164nmと約211nmの範囲にあることが判明した。初期の減少に続いて、粒子数はほぼ一定のままであった。
【0096】
C.アルビカンスに対するナノ粒子の効力への保存の効果
10nmの滅菌フィルターペーパーディスクを、安定性試験用に使用するストック溶液からの希釈物であって、1日目に作製したもの、または、外気室温と光条件下で80日間(80日目)に保存していた場合のものに含侵した。各濃度は、希釈溶液中のテルビナフィン濃度(100μg/ml;50μg/ml;25μg/ml;12μg/ml;6μg/ml;および3μg/ml)を指す。各ディスクを、YEPDアガープレート上に増殖させたカンジダ・アルビカンスの層上へと載せた。抗菌作用は、ペーパーディスクの周りのクリアーになった領域として直接可視化された。そして、
図9に示した。このアッセイの最小阻害濃度(MIC)を、クリアーになったクリアー領域が視認できる最小溶液濃度として定義した。各ディスクの画像の下のグリッドは、クリアーになった領域が観察された状態を示している(ダークグレイ=クリアーになった領域(1日目と80日目の100μg/ml~12μg/mlのもの);ライトグレー=クリアーになった領域にはっきりとした境界がないもの(1日目と80日目の6μg/ml~3μg/mlのもの))。1日目と80日目のものに関して計算したMICは、12μg/mlでは同じであった。
【0097】
このアッセイの結果は、PHMBとテルビナフィンのナノ粒子が80日までの保存後にも効力を保持していたことを示す。
【0098】
マイクロニードルパッチ
小分子親油性薬物であって、容易に皮膚を通して吸収可能なものの投与のために、経皮パッチが昔から使われてきた。この非侵襲性送達経路は、経口送達に適さない多くの薬物の投与に関して有利である。なぜなら、多くの薬物のバイオアベイラビリティを劇的に減少させる場合もある消化管および肝門システムの両方をバイパスして全身循環中へ薬物を直接吸収させることを可能にするからである。経皮送達はまた、患者の不快感、針への不安、投与者の針刺し事故、および針等の廃棄にまつわる問題を大きく解消することによって、皮下注射に関連する課題の多くを克服する。
【0099】
これらの多くの利点にも関わらず、経皮薬物送達は皮膚を介する吸収に適する分子クラスに限られている。小分子塩や治療用タンパク質の送達は、従来型経皮送達とは一般的に相容れない。なぜなら、皮膚が、吸収増強賦形剤の存在下でもこれらの分子に対する有効な保護バリアになってしまうからだ。しかしながら、マイクロニードル技術を採用して、抗真菌剤含有ナノ粒子を表皮、真皮、および爪母基(爪と皮膚が会合する上爪皮)へと直接送達することもできる。本発明の組成物をこのようなやり方で送達することによって、本ナノ粒子は、爪母基と毛細管システムに入り込み、そして、抗真菌ナノ粒子組成物を爪床へ、硬い爪甲の下へ、および真菌中へと送達することになる。このように、強力な抗真菌剤を直接作用部位に送達可能であり、従って、治療期間を減少させ、および、その効力を増強する。
【0100】
図10と11は、指10の図であって、マイクロニードルパッチ(
図12に図解されるもの)を点線で示した処置域12内のその指に適用可能なものを示す。処置域12は、爪14の背後の真皮から構成され、爪と皮膚が会合する爪母基(上爪皮)16でもある。爪根18は、爪の背後の真皮の下の領域に位置していて、従って、本発明の組成物の送達用マイクロニードルパッチを適用することによって効果的に治療可能となる。もちろん、本マイクロニードルパッチは、指爪に加えて足爪にも使用可能である。
【0101】
図12は、マイクロニードルパッチであって、本発明の組成物を真菌性爪感染に罹患している個人へと適用するために使用可能なものの図を示す。本マイクロニードルパッチ20は、その下側に適用される接着剤24を有する可撓性ウエブ材料22から構成される。その可撓性ウエブの下側中央部に位置するのは、複数の突端30を有する下側に伸びたマイクロニードル26のアレイである。その突端は、本組成物を含む溜部28へと連結される導管を有する針として形成可能であるか、または、その突端を本組成物で単純にコーティングしたものである。代替的構成では、溜部28はマイクロニードルアレイ周辺に配置した穴を介して本組成物を排出可能である。従って、本組成物は所定時間フレームに渡ってアレイの突端を継続的にコーティング可能となる。当業者に明白なのは、各種マイクロニードルパッチが現在利用可能であり、本発明の組成物が広い範囲のそれらパッチと共に使用するために順応可能であることである。
【0102】
そのマイクロニードルは長さが2mm未満であってもよく、好ましくは約250μmであって、患者の不快感が最小限で皮膚中へ挿入され、小さな孔ができてしまうけれども、注射後感染、出血のリスク、または、真皮内投与に関する意図しないIV注射のリスクが最低限である。また、マイクロニードルは注射投与者へのリスクが減る。なぜなら、皮膚への事故的刺し傷はこれらの小さな突起物ではほとんど起こることがないからである。
【0103】
本マイクロニードルパッチは、単回治療に使用可能であり、患者がなさねばならない全てのことは包み紙から本パッチを取り出して、それを所定期間指または足の適切な部分に適用することだけであることが想定される。代替的には、本マイクロニードルパッチは本組成物と併せて販売してもよく、患者はある量の本組成物をマイクロニードルの表面に塗って、そのパッチを所定のやり方で身体へと適用することになる。本パッチは、その外側にマークが付いている場合があり、患者または医師が処置される指または足の正しい位置に本マイクロニードルを正しく整列させるのを補助する。
【0104】
前記実施形態は、特許請求の範囲によって可能とされる保護範囲を限定する意図はなく、むしろ本発明が如何に実施可能かを示す例として記載されることを意図している。