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特許7320562タンク内電解質のリバランス機能を有する密閉された水性フロー電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】タンク内電解質のリバランス機能を有する密閉された水性フロー電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230727BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230727BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021100129
(22)【出願日】2021-06-16
(62)【分割の表示】P 2018517725の分割
【原出願日】2016-10-10
(65)【公開番号】P2021153062
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】62/239,469
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429332
【氏名又は名称】ケース ウェスタン リザーブ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】CASE WESTERN RESERVE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】セルヴァーストン,スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】ウェインライト,ジェシー,エス
(72)【発明者】
【氏名】サヴィネル,ロバート
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504233(JP,A)
【文献】特開2013-037856(JP,A)
【文献】特開2014-137946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的負荷に接続した密閉型水性フロー電池システムであって、
負極電解質をフロー電池反応セルの第一の半電池に供給し、別個の伝道経路を通して引き出す、液体接触した負極電解質槽;
正極電解質をフロー電池反応セルの第二の半電池に供給し、別個の伝道経路を通して引き出す、液体接触した正極電解質槽;
完全に正極電解質槽内に配置され、正極電解質に部分的に沈められた自給型のリバランシング反応器、前記リバランシング反応器は水素ガスをプロトンに変換するように構成された第一の電極材料及び正極電解質中の金属イオンを還元するように構成された第二の電極材料を有する;
ここで、反応セルは正極と負極の間に配置されたセパレータを含み;
ここで、負電解質槽のヘッドスペース中の発生した気体を直接正電解質槽のヘッドスペースに供給するオプションのコネクタを除き、正電解質槽、負電解質槽、及び反応セル間の全ての接続は、追加の液体がそこに導入されることを防ぐために密閉されている;
を含むシステム。
【請求項2】
リバランシング反応器は、イオノマー膜または多孔性及び電気伝導性炭素フェルトから選ばれる吸い上げ物質を含む膜電極アセンブリである請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
膜電極アセンブリが、第一の端部が沈められ、第二の端部が正極電解質槽のヘッドスペースに配置されるように、正電解質槽内の液体面に垂直に配置されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
触媒が膜電極アセンブリの両端に配置された、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
膜電極アセンブリの配列を備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
リバランシング反応器が毛管現象ガルバニック反応器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
リバランシング反応器が多孔性炭素フェルトを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
リバランシング反応器中の第一の電極材料が水素電極であり、第二の電極材料が鉄電極である、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
毛管現象ガルバニック反応器の配列を備えた、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
ポンプまたは加圧ガスがリバランシング反応器に接続されていない、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
負極電解質槽の上の負極ヘッドスペース、及び、正極電解質槽の上の正極ヘッドスペースを接続するコネクタが存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
リバランシング反応器中に、白金、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムから選ばれた少なくとも一つの触媒を含む、請求項1のシステム。
【請求項13】
プロトン拡散セルが反応セルに結合されており、前記プロトン拡散セルは負電解質槽から負電解質を受け取り、また独立して正電解質槽から正電解質を受け取り、そして前記プロトン拡散セルは、負電解質及び正電解質の各々がそれぞれ反応セルの第一及び第二の半電池に供給される前に、正電解質槽から負電解質槽に戻してプロトンが拡散するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
密閉型水性フロー電池システムにおいて反応物をリバランスさせる方法であって、
負極電解質槽、正電解質槽の内部に完全に密閉されたリバランシング反応器、及び独立して負極電解質槽及び正極電解質槽に、反応セル中の相対する電極間の間に配置されたセパレータを用いて独立して接続された反応セル、を備えた密閉型水性フロー電池システムを提供し、ここで正極電解質及び負極電解質は、電気エネルギーを発生させるために、相対する電極に個別に供給され;
反応セル、及び/または、負極電解質槽中の発生した水素ガスを、リバランシング反応器の第一の末端に直接輸送し、
リバランシング反応器を、リバランシング反応器第二の末端で正極電解質を酸性化するようにリバランシング反応器を構成し;そして
正極電解質と負極電解質を置き換えことなく電気エネルギーの発生を持続させるために、酸性化正極電解質を正極電解質に戻す;
ことを含む方法。
【請求項15】
負極電解質槽のヘッドスペース中の水素ガスを正極電解質槽内に密封された酸化反応器に移送することをさらに含む、請求項14の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願及び政府の権利
本出願は、2015年10月9日に提出された米国仮特許出願第62/239,469に基づいて優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、米国のエネルギー省によって認められた契約番号DE-AC04-94AL85000に基づく政府の支援の下になされた。政府は本発明について所定の権利を有する。
【0003】
本発明は、受動性のタンク内電解質再結合システムを利用する密閉された水性フロー電池を備える電池システムに関する。再結合システムは、水素生成が、外部から供給されるリバランシング反応物を使用することなく副反応として生じうる電池内の電解質の安定化を可能にする。該システムは、制御システム、追加のポンプ、またはポンピングエネルギーを必要としない受動システムである。
【背景技術】
【0004】
フロー電池は、化学的な形態で電気エネルギーを蓄え、その後、この蓄えたエネルギーを自発的逆レドックス反応によって電気的な形態で提供する。還元-酸化(レドックス)電池は、電気化学的貯蔵装置であり、該装置では、1以上の溶解した電気活性種を含む電解質が、化学エネルギーが電気エネルギーに変換される反応セルを通って流れる。逆に、電気エネルギーが化学エネルギーに変換されるように、放電された電解質を、反応セルを通して流すことができる。フロー電池で使用されるそれらの電解質は、一般に、イオン化された金属塩からなり、該金属塩は、大きな外部タンクに貯蔵されて、印加される充電/放電電流にしたがって該セルのそれぞれの側を通って(ポンプによって)送り出される。外部に貯蔵されている電解質を、ポンピングや重力送りによって、または、該電池システムを通して流体を移動させる他の任意の方法によって、該電池システム中を流すことができる。フロー電池内の反応は可逆的であり、電気活性材料を交換することなく該電解質を再充電することができる。したがって、レドックスフロー電池のエネルギー容量は、電解質の全体積、たとえば貯蔵タンクのサイズに関連する。フルパワーでのレドックスフロー電池の放電時間もまた、電解質の体積に依存し、しばしば数分から数日までさまざまである。電気化学的エネルギー変換を実行する最小のユニットは、フロー電池、燃料電池、または二次電池のいずれの場合でも、一般に「セル」と呼ばれる。より大きな電流もしくは電圧もしくはそれらの両方を得るために、直列または並列に電気的に接続された多くのそのようなセルを組み込んでいるデバイス(装置)は、一般に、「電池」(またはバッテリ)と呼ばれる。本明細書で使用している「電池」という用語は、単一の電気化学セル、または、電気的に結合された複数のセルを意味する。従来の電池と同様に、所望の電力出力を達成するために、フロー電池システム内で複数のセルをスタックをなすように「積み重ねる」ことができる。したがって、本明細書では、「セル」と「電池」という用語を区別なく使用することができる。
【0005】
電解質は外部に貯蔵されるので、フロー電池によって貯蔵できるエネルギー量は、主に、化学物質の溶解度及びタンクのサイズによって決まる。タンクのサイズ及び貯蔵容量は簡単に増減することができる。真のフロー電池では、全ての化学種が該電池中を流れ、かつ全ての化学種が外部タンクに貯蔵されるので、エネルギー容量と容積容量の大きさを独立に設定することができる。バナジウムレドックスフロー電池は、真のフロー電池の1例であって、近年最も注目を集めている。ハイブリッドフロー電池では、少なくとも1つの化学状態が、金属としてプレートアウト(析出)することなどによって該スタック内に存在する。ハイブリッドフロー電池の1例は、亜鉛-臭素電池(亜鉛臭素電池ともいう)であり、亜鉛金属が析出する。これらのシステムでは、電力容量とエネルギー容量が結合され、めっき密度が、エネルギー/電力容量比に影響を与える。
【0006】
レドックスフロー電池を、電気エネルギーの貯蔵を必要とする多くの技術で利用することができる。たとえば、レドックスフロー電池を(生成するのが安価な)夜間電力の貯蔵のために利用して、その後、電力を生成するのがより高価であるかまたは需要が現行の生産能力を超えているピーク需要のときに電力を供給するようにすることができる。そのような電池を、グリーンエネルギー、すなわち、風、太陽、波、または、その他の非従来的な資源などの再生可能資源から生成されたエネルギーの貯蔵用に利用することもできる。
【0007】
電力で動作する多くの装置は、それらの装置の電力供給が突然停止することによって悪影響を受ける。レドックスフロー電池を、より高価なバックアップ発電機の代わりに無停電電源として使用することができる。電力貯蔵の効率的な方法を用いて、停電や突然の電力障害の影響を軽減する内蔵のバックアップ電源を有する装置を構成することができる。電力貯蔵装置はまた、発電所の障害の影響を低減することもできる。
【0008】
無停電電源が重要でありうる他の状況には、限定はしないが、無停電電源が不可欠である病院などのビルが含まれる。そのような電池を、発展途上国(それらの国の多くは信頼性の高い電源を有しておらず、そのため、断続的にしか電力を利用できない)に無停電電源を提供するために使用することもできる。レドックスフロー電池の別の可能性のある用途は電気自動車である。電解質(ないし電解液)を交換することによって電気自動車を急速に「再充電」することができる。該電解質を、該自動車から離れたところで再充電して再利用することができる。
【0009】
信頼性の高い低コストのエネルギー貯蔵に対する大きな必要性が存在する。たとえば、大規模なエネルギー貯蔵は、継続的な出力電力を提供するために風力発電所や太陽熱発電所を必要とする。水性フロー電池技術は、他の形態のエネルギー貯蔵に対して多くの利点を有するために新たな関心を集めている。水性フロー電池システムを開発する際の主な問題の1つは、望ましくない水素発生によって生じる電解質不均衡(電解質インバランス)であり、該不均衡は、下記の式1にしたがって負極(負電極)において生じうる。特に、全鉄ハイブリッドフロー電池では、水素発生及び関連する電解質不均衡(たとえば、pHの変化に反映される場合がある)が、解決すべき重要な課題である。L. W. Hruska and R. F. Savinell, 「Investigationof Factors Affecting Performance of the Iron-Redox Battery,」 Journal of the Electrochemical Society, vol. 423, no. 1976, p.18, 1981を参照されたい。現在主要なシステム(たとえば、全バナジウム、鉄-クロム、亜鉛-臭素)に対してコスト及び安全性の点で大きな利点を有する全鉄フロー電池は、式2に示されている全体反応にしたがって動作する。
【数1】
【0010】
水素の発生によってpHがあまりに高くなると(すなわち、あまりに多くのプロトンが溶液から除去されると)、該電池の反応物(Fe2+及びFe3+)が反応して、溶液から沈殿する水酸化鉄を形成しうる。そのような現象は、性能の劣化を引き起こすので、装置の長い寿命を達成するためには回避しなければならない。pHの臨界値は約2.0であり、これより高いと、Fe3+が反応して、化学式Fe(OH)によって近似的に与えられる水酸化物を形成する。それらの反応は式3及び式4によって示されている。該水酸化物種は溶液から沈殿して、表面及び穴をふさぐことによって膜及び電極をだめにする可能性がある固体粒子を形成する。
【0011】
長期間の電池動作のためには、水素(すなわちプロトン)を溶液に戻してpHを抑制ないし制御するために、電解質のリバランス法を使用しなければならない。許容可能なプロトン均衡(プロトンバランス)を維持することに加えて、第二鉄イオン(Fe3+)の濃度をバランスさせるために、リバランス(再バランスすなわち再均衡)も必要である。そのようなリバランスをしない場合には、通常、水素として失われたプロトンの量に比例して、過剰な第二鉄イオンが生成される。水素によって引き起こされるこの不均衡の二面性(すなわち、プロトンの消失と第二鉄イオンの増加の同時発生)のために、塩酸(HCl)などの酸を加えることによるバルク(bulk)pHの制御は、第二鉄イオンを減少させないので、完全なまたは効果的な戦略ではない。したがって、包括的でより好適なアプローチは、下記の反応(5)を含めて完全にリバランスさせることである。
【数2】
【0012】
電解質をリバランスさせるためのいくつかの方法が文献に記載されているが、それらの方法は全て、コストがかなり高くかつかなり複雑であって、ほとんどのシステムでは、外部の供給源から該システムに化学物質を導入する必要がある。それらの反応物を、(液体の場合には)(ポンプで)送り込む必要があり、(気体の場合には)圧力調整器で制御する必要があるが、これは、大規模なハードウェア及び制御システムの追加を必要とする。そのような構成は、最小限のメンテナンス及び低コストで長持ちすることが意図された装置には適合しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】(補充可能性あり)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術は、密閉されたフロー電池システム用に設計された受動性のタンク内電解質再結合プロセス用及び受動性の拡散ベースの再結合プロセス用の反応器を備える電池システムを提供する。
【0015】
1側面において、本発明は、該システム内の電解質をリバランスさせるための密閉された水性電池システムを備える。該フロー電池システムは、充電/放電反応の一部として水素を発生する電解質システム、及び正極電解質槽に配置された反応器を備える。該反応器は、該電池システムによって生成された水素をプロトンに変換するように構成されている。
【0016】
1実施形態では、密閉された水性フロー電池システムは、タンク内電解質再結合用に設計された反応器を備える。1実施形態では、該反応器は、水素と反応する電極を備える。1実施形態では、該反応器は、正極電解質槽内に部分的に沈められる。1実施形態では、該反応器は、正極電解質槽内に部分的に沈められた膜電極アセンブリを備える。別の実施形態では、該反応器は、膜電極アセンブリの配列を備える。さらに別の実施形態では、該反応器は、毛管現象ガルバニック反応器(CGR:capillary action galvanic reactor)を備える。別の実施形態では、該反応器は、CGRの配列を備える。
【0017】
本発明の別の側面では、受動性のH-Fe3+再結合法が、水性フロー電池中の電解質安定化のために利用される。
【0018】
1実施形態では、密閉された水性フロー電池システム内で電解質を再結合させる方法は、タンク内電解質再結合用に設計された反応器を提供することを含み、該反応器は、正極電解質槽に部分的に沈められる。
【0019】
1実施形態では、または、本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、該反応器はさらに、部分的に沈められた多孔質電極を備える。1実施形態では、該部分的に沈められた多孔質電極は、その一方の端部において触媒作用を受ける。該触媒が、対象とする電解質内で安定であるならば、該触媒を、水素還元反応に対して活性な任意の適切な触媒とすることができる。1実施形態では、該触媒を、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)から選択することができる。1実施形態では、該電極は、膜は含まないが、伝導経路を提供するために、液体電解質によって湿らされることができる多孔質材料を含む。
【0020】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、水性フロー電池システム内で電解質を再結合させるために、ポンプも外部から供給されるガスも使用されない。
【0021】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、該電池システムはさらに、プロトンが正極電解質から負極電解質に移動できるようにするためにインラインプロトン拡散セル(in-line proton diffusion cell)を備える。
【0022】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、水性フロー電池システムは、鉄フロー電池、鉄-クロム電池、亜鉛-臭素電池、及び望ましくない水素を生成するその他の任意のフロー電池から選択された電池を備える。1実施形態では、該水性フロー電池は鉄フロー電池を備える。
【0023】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、電池システムは、負極電解質槽の上の負極ヘッドスペース、及び正極電解質槽の上の正極ヘッドスペースを備えることができ、コネクタが、該負極ヘッドスペースと該正極ヘッドスペースを接続する。
【0024】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、密閉された水性フロー電池はさらに、エアムーバーを備える。該エアムーバーを、限定はしないが、ファン、送風機、コンプレッサーなどの、空気/ガスの移動を容易にするための任意の既知の装置から構成することができる。該エアムーバーは、負極ヘッドスペースから水素/窒素混合物を引き出し、該ガスを(該水素が消費される)正極ヘッドスペースを通して移動させ、その後、該窒素を負極タンクに戻す。
【0025】
1実施形態では、追加のポンプ損失を生じることなくFe3+の対流物質移動(convective masstransport)を行うために、正極電解質リターンは、再結合電極と一体化される。
【0026】
1実施形態では、または本明細書に記載されている任意の実施形態もしくは方法では、密閉された水性フロー電池システムは、(1)第1の半電池(半電池はハーフセルともいう)であって、該第1の半電池内に正極電解質及び電極が配置されている該第1の半電池、(2)第2の半電池であって、該第2の半電池内に負極電解質及び電極が配置されている該第2の半電池、(3)該第1の半電池と該第2の半電池の間のセパレータ、(4)正極電解質を該第1の半電池へ/から循環させるための該第1の半電池の外部の第1の貯蔵タンク、(5)負極電解質を該第2の半電池へ/から循環させるための該第2の半電池の外部の第2の貯蔵タンク、及び(6)該第1の貯蔵タンク内に配置された反応器であって、電池システムによって生成された水素をプロトンに変換するように構成された反応器を備える。
【0027】
したがって、密閉された水性フロー電池システム(すなわち密閉型水性フロー電池システム)内で電解質をリバランス(再均衡)させるための該密閉型水性フロー電池システムが検討される。該システムのいくつかの実施形態は、下記のものの任意の組み合わせを備えることができる。
・充電/放電反応の一部として水素を発生する電界質システム、
・正極電解質槽内に配置された反応器であって、該電池によって生成された水素をプロトンに変換するように構成された反応器、
・それらのプロトンを移動させる(輸送する)ためのインラインプロトン拡散セル、
・エアムーバー、
・負極電解質槽の上の負極ヘッドスペース、及び正極電解質槽の上の正極ヘッドスペース、
・該反応器が、水素と反応するための電極を含むこと、
・該反応器が、該プロトンを正極電解質槽に移動させることができるようにするための膜または多孔質材料を備えること、
・該反応器が、正極電解質槽内に部分的に沈められること、
・該反応器が、複数の反応器を備えること、
・該反応器がさらに、部分的に沈められた多孔質電極を備えること、
・該部分的に沈められた多孔質電極が、白金、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムから選択された触媒によって触媒作用を受けること、
・電解質を再結合するためのポンプも加圧ガスもないことによって特徴付けられること、
・水性フロー電池が、鉄フロー電池、鉄-クロム電池、亜鉛-臭素電池、及び、望ましくない水素を発生するフロー電池から選択されること、
・コネクタが、該負極ヘッドスペースと該正極ヘッドスペースを接続すること。
【0028】
密閉型水性フロー電池システム内で電解質をバランス(均衡)させる方法も検討される。該方法のいくつかの実施形態は、下記のものの任意の組み合わせを含むことができる。
・タンク内電解質再結合用に設計された反応器を提供するステップであって、該反応器は、正極電解質槽内に部分的に沈められる、ステップ、
・インラインプロトン拡散セルを用いることによって、該システム内の実用的なpHを維持するステップ、
・負極電解質槽の上の負極ヘッドスペースから正極電解質槽の上の正極ヘッドスペースへの水素の供給源を該反応器に設けるステップ、
・該水素が、エアムーバーを用いて供給されること、
・該反応器がさらに、正極電解質槽内に部分的に沈められた膜-電極アセンブリを備えること、
・該反応器が、膜-電極アセンブリの配列を備えること、
・該反応器がさらに、部分的に沈められた多孔質電極を備えること、
・該部分的に沈められた多孔質電極が、その一方の端部において触媒作用を受けること、
・該部分的に沈められた多孔質電極が、白金、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムから選択された触媒によって触媒作用を受けること、
・該電極が膜を含んでいないこと、
・電解質を再結合するためにポンプも加圧ガスも使用されないこと、
・水性フロー電池が、鉄フロー電池、鉄-クロム電池、亜鉛-臭素電池、及び、望ましくない水素を発生する他の任意のフロー電池から選択されること。
【0029】
本明細書において開示されている密閉型水性フロー電池システムはさらに、下記のものの任意の組み合わせを組み込むことができる。
・第1の半電池であって、該第1の半電池内に配置された正極電解質及び電極を備える第1の半電池、
・第2の半電池であって、該第2の半電池内に配置された負極電解質及び電極を備える第2の半電池、
・該第1の半電池と該第2の半電池の間のセパレータ、
・正極電解質を該第1の半電池へ/から循環させるための該第1の半電池の外部の第1の貯蔵タンク、
・負極電解質を該第2の半電池へ/から循環させるための該第2の半電池の外部の第2の貯蔵タンク、
・該第1の貯蔵タンク内に配置された反応器であって、電池システムによって生成された水素をプロトンに変換するように構成された反応器
・それらのプロトンを移動させる(輸送する)ためのインラインプロトン拡散セル、
・負極電解質槽の上の負極ヘッドスペース、及び正極電解質槽の上の正極ヘッドスペースであって、コネクタが、該負極ヘッドスペースと該正極ヘッドスペースを接続することからなる、負極ヘッドスペース及び正極ヘッドスペース、
・エアムーバー、
・該反応器が、水素と反応するための電極を含むこと、
・該反応器が、該プロトンを正極電解質槽に移動させることができるようにするための膜または多孔質材料を備えること、
・該反応器が、正極電解質槽内に部分的に沈められること、
・該反応器が、複数の反応器を備えること、
・該反応器がさらに、部分的に沈められた多孔質電極を備えること、
・該部分的に沈められた多孔質電極が、白金、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムから選択された触媒によって触媒作用を受けること、
・電解質を再結合するためにポンプも加圧ガスも使用されないこと、
・水性フロー電池が、鉄フロー電池、鉄-クロム電池、亜鉛-臭素電池、及び、望ましくない水素を発生する他の任意のフロー電池から選択されること。
【0030】
密閉型フロー電池システム内の電解質をリバランスさせるための別の方法も検討される。該システムは、負極電解質槽、酸化反応器を備える正極電解質槽、及び充電/放電反応セルを備え、該方法は、下記のステップの任意の組み合わせを含むことができる。
・充電/放電反応を駆動ないし促進するために該反応セルに負極電解質及び正極電解質を供給するステップ、
・該充電/放電反応から発生した水素ガスを正極電解質槽に移動させる(輸送する)ステップ、
・該酸化反応器内で該水素ガスの少なくとも一部をプロトンに変換するステップ、
・酸化反応器に近接した正極電解質を、該酸化反応器によって供給されたプロトンで酸性化するステップ、
・該酸性化された正極電解質を該反応セルに戻すステップ、
・該酸性化された正極電解質を該反応セルに戻す前に、該酸性化された正極電解質を拡散セルに供給するステップ、
・該負極電解質槽及び該正極電解質槽内にヘッドスペースを設けるステップであって、該水素ガスは、該水素ガスがプロトンに変換される前に、該負極電解質槽及び該正極電解質槽の両方のヘッドスペースを通って移動させられる(輸送される)ことからなる、ステップ。
【0031】
最後に、本明細書で検討されている密閉型水性フロー電池システムは、下記の要素の任意の組み合わせを独立して備えることができる。
・負極電解質を含んでいる負極電解質槽及び正極電解質を含んでいる正極電解質槽を備える電解質システム、
・反応チャンバー内に配置されたセパレータと、該負極電解質槽から負極電解質を受け取り、及びそれらの電解質槽(または該正極電解質槽)から正極電解質を受け取るために、該セパレータの両側にあるそれぞれ別個の流体接続部とを有する充電/放電反応セル、
・該正極電解質槽内の流体に少なくとも部分的に接触するように配置された酸化反応器であって、該電池システムの充電/放電反応によって生成された水素ガスを受け取って、該電池システムにプロトンを供給する酸化反応器、
・複数の反応器を備えること、
・該反応器が、毛管現象ガルバニック反応器と膜電極アセンブリのうちの一方であること、
・該反応器が複数の膜電極アセンブリを備えること、
・該反応器が、a)該正極電解質槽のヘッドスペースに供給される水素ガス、及びb)該正極電解質と流体接触する(流体的に接触する)こと、
・該反応器が多孔質材料から構成されること、
・該反応器が、該正極電解質上に浮遊し、及び/又は該正極電解質中に部分的に沈められること、
・該反応器が水素電極及び鉄電極を備えること、
・触媒が、該多孔質電極の一つの端部に保持されること、
・該反応器が、白金、パラジウム、イリジウム、及びルテニウムのうちの少なくとも1つを含む触媒を備えること、
・該反応器が、該正極電解質中の金属イオンの液相反応にさらされる炭素材料を備えること、
・該正極電解質層のヘッドスペースが、該負極電解質槽の上のヘッドスペースから供給される水素ガスを受け取るために水素ガス導管に接続される(または水素ガス導管を介して接続される)こと、
・該水素ガス導管がエアムーバーを備えること、
・該電解質システムがさらに、該負極電解質槽と該正極電解質槽とのうちの少なくとも一方と該反応セルとの間の該流体接続部に関連する少なくとも1つの電解質ポンプを備えること、
・インラインプロトン拡散セルを備えること、
・該反応セルが、黒鉛板(黒鉛プレート)とカーボンフェルト材料の少なくとも一方を備えること、
・該電池システムが、バナジウムフロー電池、鉄フロー電池、鉄-クロム電池、及び亜鉛-臭素電池から選択されること、
・該プロトンが該正極電解質槽内の正極電解質と反応して、第一鉄イオンを生じること、
・該電池システムが受動性であること、
・該受動性の電池システムが、ポンプ及び加圧ガスがないことによって特徴付けられること、
・該受動性の電池システムが、外部から供給されるリバランシング反応物(リバランス用反応物)がないことによって特徴付けられること。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明の他の目的及び利点は、好適な実施形態の以下の説明を添付の図面と合わせて読むことによって明らかになるであろう。図面に含まれている印刷された情報は、各要素の接続状態及び相対的な関係、並びにそれらの要素の各々に関連する名称、化学式、及びその他のデータ/情報を含んでおり、本明細書内で十分に説明及び記述されているかのように再現されている。いくつかの図面では、弁(バルブ)、入口、及び出口などのいくつかの要素を表し及びさらに記述するために、共通の記号が使用されている場合がある。いくつかのグラフにおいて、それらのグラフに示されているデータ(該データ(たとえば、線の勾配や曲線の形状など)を決めることができる任意の式を含む)は、本明細書に含まれる。
図1】本技術(すなわち本発明の技術)の実施形態に合致するフロー電池の略図である。
図2】密閉型水性フロー電池システムにおける例示的な水素サイクルの図である。水素ガスは、負極で生成され、その後、正極槽へ拡散し、該正極槽でプロトンに変換される。
図3】電解質再結合を実行するために膜電極アセンブリの配列を使用し、及び完全な水素サイクルを実行するためにインラインプロトン拡散セルを使用するフロー電池システムの構成の略図である。該化学反応において、「C」は充電方向を意味し、「D」は放電方向を意味する。
図4】毛管現象ガルバニック反応器の使用を含むフロー電池システムの構成の略図である。ヘッドスペース接続チューブ(ヘッドスペース接続管)は、Hが負極槽から正極槽へと拡散するための通路を提供する。
図5】H-Fe3+の再結合速度(または再結合率)及び電位測定値を得るために使用される2電極構成の略図である。
図6】水素のいくつかの異なる分圧における2MのNaCl(pH=1.4)中の毛管現象ガルバニック反応器の上半分(すなわち水素電極部分)を特徴付けるために使用される3電極構成の略図である。
図7】A、Bは、それぞれ、負極電解質、正極電解質について、シミュレートされたナチュラルpH及び水酸化鉄との平衡状態における平衡pHを表すグラフである。
図8】A、Bは、それぞれ、密封容器内のH-Fe3+の再結合反応の圧力挙動、速度挙動を表すグラフである。水素圧力は低い圧力に制御されたが、PH2の値が高くなると、該速度はFe3+及び抵抗損によって制御されるようになった。
図9図5に示されている構成を用いた、3psigの水素をパルス注入した後の時間の関数として毛管現象ガルバニック反応器(ヘッドスペース内の触媒作用を受ける領域の面積:AHS=6cm)の圧力、反応速度、及び電位のグラフ表現である。
図10図6に示されている構成を用いて測定されたCGR電位を水素分圧(PH2)の関数として示すグラフである。
図11】A、Bは、それぞれ、図6に示されている構成を用いて測定された、いくつかの水素分圧について、それぞれのフェーズにおけるA=6cmでの毛管現象ガルバニック反応器のインピーダンススペクトル、分極を示すグラフである。
図12図4に示されている構成を用いた±20mA/cmでの電池サイクル中の圧力プロファイルの比較を示すグラフである。
図13】開示されているいくつかの実施形態にしたがう毛管現象ガルバニック反応器の略斜視図(または略透視図)である。
図14】100mA/cmかつ1時間のサイクル時間で連続的な充電-放電サイクルを行っている30cm電池システムの性能データのグラフ表現である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で使用されている近似の言い回し(approximating language)を、それが関係する基本的な機能に変化をもたらすことなく変動し得る任意の量的表現を修飾するために用いることができる。したがって、「約」及び「実質的に」などの(1または複数の)用語によって修飾された値は、いくつかの場合には、指定された値そのものには限定されない。
【0034】
本明細書で使用されている「密閉された水性フロー電池」(本明細書では、「密閉型水性フロー電池」ともいう)という用語は、熱力学的に閉じておりかつ加圧可能であるシステムを意味する。
【0035】
本明細書で使用されている「受動性」(または受動的)という用語は、該用語が、再結合/リバランシングの方法またはシステムに関連するときには、追加のポンプもポンピングエネルギーも制御システムも必要としない方法またはシステムを意味する。
【0036】
「リバランシング」及び「再結合」という用語は、本発明を説明(ないし記述)するときには交換可能に使用することができる。
【0037】
本技術は、受動性のタンク内電解質再結合システムを利用する密閉型水性フロー電池を備える電池システムを提供する。該再結合システムは、水素が副反応として発生しうる電池内の電解質の安定化を可能にする。該再結合システムを用いることによって、反応物をリバランス(均衡)させるために外部から材料もしくは新たな電解質を供給することなく、電解質をリバランスさせることができる。
【0038】
該システムを完全に密閉(シール)することができ、該システムは加圧可能であり、及び、該システムは実質的にメンテナンスフリーである。電解質を再結合またはリバランスさせるために外部の反応物もポンプも不要である。該システムの設計(ないし構成)は、単純で安定であり、それは、フロー電池システムの商品化に向けた大きな進歩を示している。
【0039】
図1は、本発明のいくつかの側面に関連して使用するのに適した水性フロー電池システム100の1実施形態を示している。フロー電池(フローセルともいう)100は、セパレータ106によって分離された2つの半電池(ハーフセル)102及び104を備えている。半電池102及び104は、それぞれ、電極108及び110を備えており、それらの電極は、それらの電極の一方の表面で陽極反応が起こり、他方の電極で陰極反応が起こるように電解質と接触している。酸化還元反応が起こると、電解質は半電池102及び104の各々を通って流れる。図1において、陰極反応は、電極108(本明細書では該電池を正電極またはカソードという)がある半電池102内で起こり、陽極反応は、電極110(本明細書では該電池を負電極またはアノードという)がある半電池104内で起こる。
【0040】
半電池102及び104内の電解質は、該システムを通って、それぞれ貯蔵タンク112及び114へと流れ、新たな/再生された電解質は、それらのタンクからそれらの半電池へと流れる。図1において、半電池102内の電解質は、パイプ116を通って貯蔵タンク112へと流れ、タンク112内の正極電解質130は、パイプ118を通って半電池102へと流れる。同様に、半電池104内の電解質は、パイプ120を通って貯蔵タンク114へと流れることができ、タンク114からの負極電解質140は、パイプ122を通って半電池104へと流れる。
【0041】
該システムを、所望に応じて、該システムを通る電解質の流れを支援または制御するように構成することができ、及び、該システムは、たとえば任意の適切なポンプもしくは弁機構(バルブシステム)を備えることができる。図1に示されている実施形態では、該システムは、電解質をタンク112及び114から半電池へとそれぞれ送り出すためのポンプ124及び126を備えている。いくつかの実施形態では、該貯蔵タンクは、それぞれの半電池を通って流れた電解質を、まだ通っていない電解質から分離することができる。しかしながら、放電されたまたは部分的に放電された電解質の混合を実行することもできる。
【0042】
電気エネルギーを供給するためにまたは負荷(たとえば電気機器)もしくは供給源から電気エネルギーを受け取るために、電極108及び110を結合することができる。該負荷に含まれる他の監視及び制御電子機器は、半電池102及び104を通る電解質の流れを制御することができる。より高い電圧を得るために複数の電池100を直列に電気的に結合する(「積み重ねる」)ことができ、または、より大きな電流を得るために複数の電池100を並列に電気的に結合する(「積み重ねる」)ことができる。
【0043】
該フロー電池は、負極(負電極)において水素を発生するフロー電池で使用するのに適した任意の電解質システムを備えることができる。そのようなシステムの例には、限定はしないが、全バナジウムフロー電池、全鉄フロー電池、鉄-クロムフロー電池、亜鉛-臭素フロー電池などが含まれる。対象とする特定のフロー電池用の負極電解質及び正極電解質の組成ないし成分を当業者が所望に応じて選択できることが理解されよう。1実施形態では、該電池システムは、全鉄フロー電池システムである。本明細書では、再結合システムを有するフロー電池のいくつかの側面は、全鉄システムに特に関連して説明されている場合があるが、本技術にしたがうフロー電池はそのような電解質システムには限定されないことが理解されよう。
【0044】
本技術によれば、電池システムは、該電池の動作中に負極における水素の発生に起因して該電池の動作中に上昇しうる電解質のpHを制御しまたはリバランスさせるように構成される。本技術は、これを、プロトンへの水素の酸化及び電解質内の所望の状態への金属種の還元を可能にするように構成された正極電解質貯蔵タンク内の反応器によって達成する。図2は、該システム内の水素の一般的な移動を示している。水素は、連続したサイクルで該フロー電池を通って移動する。負極の半電池において生成された水素は、正極電解質槽に移動させられ、プロトン及び電子(エレクトロン)を提供するために該正極電解質槽で酸化される。それらのプロトン及び電子は、該電解質をリバランスさせることができ、及び、さらなる反応のために半電池へと移動させられることができる。
【0045】
図1を参照すると、システム100は、タンク112内の正極電解質130内に部分的に沈められた(すなわち、一部が正極電解質130中に入れられた)反応器134を備えている。該反応器は、プロトン及び/又は電子を正極電解質130内に移動させる。具体的には、反応器134は、貯蔵タンク112のヘッドスペース内の水素(H)が、反応して、溶液130内へと移動して該正極電解質を酸性化するプロトン(H)及び電子を生成できるようにすべく構成される。
【0046】
負極半電池で生成された水素は、貯蔵タンク114に移動させられ、コネクタ128は、該水素が貯蔵タンク112に移動できるようにする。タンク112内では、該水素は、反応器134と反応して、電解質をリバランスさせるためのプロトン及び電子を生成することができる。それらのプロトン及び電子を、さらなる反応のために半電池内に移動させることができる。
【0047】
該システムを、負極から正極電解質槽へと水素を移動させることができるように構成することができる。図1に示されている実施形態では、該システムは、貯蔵タンク112と貯蔵タンク114を接続するためのヘッドスペースコネクタ128を備えている。1実施形態では、エアムーバー(不図示)を用いて、貯蔵タンク112から貯蔵タンク114への空気/ガスの移動を容易にすることができる。
【0048】
1実施形態では、該システムは閉ループシステムであり、該閉ループシステムにおいて、水素は、エアムーバー(たとえば、ファンまたは送風機またはコンプレッサー)によって負極貯蔵タンク114から正極貯蔵タンク112へと移動させられる。該エアムーバーは、水素/窒素混合物を負極ヘッドスペースから引き出して、該ガスを、該水素が消費される正極ヘッドスペースを通って移動させ、その後、該窒素を負極タンク112に戻す。
【0049】
本発明の1実施形態では、酸素が鉄電解質と反応するのを阻止するように該電池が動作する前に、ヘッドスペースが、窒素または別の不活性ガスでパージされる。ヘッドスペース接続部(たとえばコネクタ128)は、タンク間の水素拡散が水性発生の速さに遅れないようにできるだけ速くなければならないために、重要な設計考慮事項である。特定の理論に制約されることなく、電池の充電中に、水素は、負電極で生成されて、流れている電解質によって負極タンク(たとえばタンク112)のヘッドスペース内に運ばれると考えられている。該水素は、その後、ヘッドスペース接続部(たとえばコネクタ128)を通って正極タンク(たとえばタンク114)へと拡散し、該正極タンクで反応することができる。
【0050】
正極電解質貯蔵タンク114内の反応器、たとえば反応器134は、該タンク内の水素が、該正極電解質中に移動するプロトン及び電子を形成するように反応できるようにすべく構成される。反応器134はさらに、金属イオンを該電解質用の所望の形態に変換することできるようにすべく構成される。したがって、該システムの反応器は、水素の反応のためにその少なくとも一部に電極材料を有し、さらに、金属イオンの所望の状態への(たとえば、鉄フロー電池におけるFe3+からFe2+への)反応(たとえば還元)のためにその一部に電極材料を有している。一般に、該反応器は、正極電解質貯蔵タンク内の電解質材料で湿らされる(濡らされる)ように構成されなければならない。
【0051】
1実施形態では、該反応器(たとえば反応器134)は、電解質130中に部分的に沈められる(浸される)。部分的に沈められた反応器は、再結合のために、気体の水素と水中金属イオン(aqueous metal ion)との反応を実行する。正極電解質中に沈められている反応器の部分は、電子伝導体でなければならないが、該金属の液相反応が炭素材料に対して容易に起こる場合には、触媒反応用に構成される必要はない。
【0052】
本発明の1実施形態では、該反応器は、(たとえば、図1の貯蔵タンク112内の)正極電解質槽に部分的に沈められている少なくとも1つの膜電極アセンブリ(MEA)を備える。反応物の移動(輸送)を受動性とすることができるが、これは、ポンプも加圧ガスも必要ではないことを意味する。さらに、該システムは、リバランス用反応物(たとえば、水素ガスタンクや他のリバランス用化学物質)の継続的な供給を必要とする他のシステムとは異なる、完全に閉じた自給型のシステムである。
【0053】
1実施形態では、MEAの膜は、主に、プロトンを液体電解質中に移動させるように機能する。所望の反応を可能にするために、該反応器を任意の適切な材料から形成することができる。いくつかの実施形態では、該反応器は、ナフィオン(Nafion)などのイオノマー膜を含むことができ、または、セルガード (Celgard)もしくはダラミック(Daramic)から作られた、もしくは炭素布や炭素フェルト(カーボンフェルト)などの多孔性の導電材料から作られた電池用セパレータ材料などの液体電解質を吸い取る多孔質材料を含むことができる。膜が多孔質の導電材料である実施形態では、該材料はまた、プロトンと電子の両方をガス空間から電解質中へと下方に移動させるように機能することができる。水素の反応のための該反応器の部分を、そのような反応のための任意の適切な電極材料とすることができる。いくつかの実施形態では、該電極は白金(たとえばPt/C)電極である。
【0054】
正極槽ヘッドスペース(すなわち、液体電解質130で満たされていない貯蔵タンク114の部分)内で、水素は、MEA上の反応位置を見つける必要がある。1実施形態では、MEAは、該MEAの一部が乾いたままとなるように、溶液に対して垂直に配置される。
【0055】
水素は、それぞれのMEAの上方の乾いた部分において反応してプロトン及び電子を形成する。それらのプロトン及び電子は、該溶液に対して面内方向(下方)に移動して、正極電解質を酸性化する。1実施形態では、MEAの下方の沈められた部分に電子伝導体が提供される。オプションの触媒を提供することもできる。従来の燃料電池は、一方の電極において酸化が行われ、他方の触媒層において還元が行われ、プロトンは面を通り抜ける方向に移動する。1実施形態では、それらの反応は、各MEAの両方の触媒層で起こりうるが、これは、本反応器と従来のリバランス電池(リバランシングセル)との間の重要な違いである。
【0056】
該反応器は、部分的に沈められた(すなわち部分的に浸漬された)多孔質電極を備えることができる。この実施形態では、該部分的に沈められた多孔質電極は、一方の端部において触媒作用を受ける。該触媒が対象としている電解質内で安定である場合には、該触媒を、水素還元反応に対して活性な任意の適切な触媒とすることができる。1実施形態では、該触媒を、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)から選択することができる。1実施形態では、該電極は、膜は含まないが、伝道経路を提供するために液体電解質によって湿らされることができる多孔質材料を含む。
【0057】
別の実施形態では、反応器は、一方の端部において触媒作用を受けるが膜はない、部分的に沈められた多孔質電極である。たとえば、1実施形態では、反応器は、毛管現象反応器である。別の実施形態では、反応器は、毛管現象ガルバニック反応器(CGR)である。これらの毛管現象ベースの反応器は、毛管運動によって液体を該反応器内に引き込むことを利用し、そのため、多孔質フェルトや吸い上げ/毛管現象を促進するその他の材料を含むことができる。このため、該CGRの多孔質フェルト内の毛管現象によって電解質が移動する。
【0058】
1実施形態では、該CGRは、水素を酸化し、第二鉄イオンを還元して、化学エネルギーを熱として放出する短絡ガルバニ電池として動作する。この実施形態では、該反応器は、単一のユニットとして作製されるが、2つの別個の電極(水素電極と鉄電極)を効果的に含み、この場合、多孔質フェルト内の毛管現象によって電解質が移動する。
【0059】
そのようなCGRの1例を図13に示す。炭素フェルトが、CGR200の本体210を構成している。CGR200の寸法を、該システムに対して適切に釣り合わせることができ、図示の例は、例示的に、0.3cmの厚さ、1.5cmの幅、及び4.0cmの高さを有している。これは、約0.5cmの毛管現象用有効表面積、及び、水素ガスにさらされる約3.0cmの触媒表面積をもたらす。
【0060】
CGR200は、液体電解質230及び水素ガス240と流体連絡するように配置される。液体電解質230及び水素ガス240はいずれも、CGR200が配置されている(図13には示されていない)正極電解質槽内に含まれている。電解質230は、矢印232で示されているように、多孔性の本体210の沈められている部分に引き込まれる。境界面252は、電解質230をその上に吸い上げることができるところの表面領域を示している。触媒層250は、反対側の端部において、該槽のヘッドスペースに存在する(水素ガス240を含む)ガスにさらされる。
【0061】
フロー電池は、該電池の動作中に生成された水素を酸化させるための1以上の反応器を備えることができる。1実施形態では、該フロー電池システムは、1つの反応器(たとえば、1つのMEAまたは1つのCGR)を備える。別の実施形態では、該フロー電池システムは、少なくとも2つの反応器を備える。さらに他の実施形態では、該フロー電池システムは、水素を酸化させるために、2つ、または3つ、または4つ、または5つ、または5つより多くの反応器を備える。該電池の動作中に生成された全ての水素を所望の速さで処理して、該電解質をリバランスさせて該システムを効率的に動作させるために、反応器(たとえば反応器134)のタイプ及び数を、所望に応じて選択することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、フロー電池システムは、比較的小さなMEAの配列(アレイ)を使用することができる。この完全な反応器をMEAアレイ再結合システム(MARS)と呼ぶ場合があり、該MARSを組み込んだフロー電池システムが、図3に示されている。
【0063】
MARS内で起こる反応は、プロトンを生成し、これによって、正極電解質のpHを小さく(低く)する。上記したように、必要なステップは、それらのプロトンを負極電解質に戻すことである。そのために、1実施形態では、該システムは、それらのプロトンが負極電解質に戻るように拡散できるようにするプロトン拡散セル(PDC)を備えることができる。
【0064】
図3に示されている実施形態では、該システムは、2つの電解質槽(たとえば、図1の貯蔵タンク112及び114)間のpHをバランスさせるのを助けるプロトン拡散セル(PDC)を備えている。該PDCは、電解質が流れるプロトン交換膜を備えている。該PDCでは電気化学反応は起こらず、正極電解質から負極電解質へと該プロトン交換膜を通るプロトンの拡散だけが起こる。
【0065】
電解質をリバランスさせるための反応器を、所望に応じて、及び、プロトンへの水素の変換の所望の結果を達成して該システムを調整するための任意の適切なやり方で、正極電解質槽内に配置することができる。いくつかの実施例では、それらの反応器を、電解質に少なくとも部分的に沈められるように構成された浮遊性装置とすることができる。さらに他の実施形態では、該システムは、正極電解質槽内の定位置に(1以上の)該反応器を保持するための装置を備えることができる。
【0066】
1実施形態では、最初の酸添加を使用して、ある限られた時間の間、負極における沈殿を防止することができる。酸の過剰添加は、過度の水素発生を引き起こすので、良好な設計は、電解質の安定性とクーロン効率(すなわち、電荷の入力量に対する電池による電荷の出力量の比)との間のバランスを必要とする。いくらかの水素発生が常に生じると仮定すれば、酸添加は、長期間の電解質の安定性を確保するのには明らかに不十分である。したがって、pH及び第二鉄イオン濃度を制御するために、再結合手順も実施しなければならない。
【0067】
上記には、本仕様のいくつかの例が含まれている。もちろん、本仕様を説明するために、構成要素または方法の考え得る全ての組み合わせを記述することはできないが、当業者は、本仕様の多くの他の組み合わせ及び置換が可能であることを理解することができる。したがって、本仕様は、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び範囲内に入るそのような全ての交換、修正、及び変形を含むことが意図されている。さらに、「を備える」という用語は、詳細な説明または請求項で使用されている限りにおいて、「を含む」が特許請求の範囲において移行語(transitional word)として使用されたときに解釈される場合の該「を含む」という用語と類似の様式で包括的であることが意図されている。
【0068】

以下、本開示のいくつかの側面を説明するが、それらの側面を以下の例に関してさらに理解することができる。それらの例は、単なる例示であることが意図されており、材料または処理パラメータ、装置または条件に関して、いかなる形であれ、本明細書に開示されている本発明を限定するものでないことが理解されるべきである。
【0069】
電解質の熱力学が、異なる充電状態におけるpH及び水酸化鉄の沈殿限界を予測するためにシミュレートされた。毛管現象ガルバニック反応器が、0~15psigの範囲内の水素分圧における電位、分極、及びインピーダンス測定値を用いて特徴付けられた。水素を密封容器にパルス注入した後の圧力応答を用いて、0.5MのFeClにおける6cmの活性領域を有する毛管現象ガルバニック反応器について、50mAの疑似定常状態再結合速度(または再結合率)が測定された。反応電流は、0~2psigの分圧での水素拡散によって制限された(それより上では、混合領域及びFe3+拡散制限領域が存在する)。複合水素電極電位応答は、Fe3+及びHの移動(輸送)に関する情報を明らかにする。該反応器は、電位測定値及びエバンスダイアグラム(Evans diagram)によって解釈された。再結合を通じた圧力制御が、密閉型全鉄フロー電池システムにおいて実証された。
【0070】
熱力学シミュレーション
電解質熱力学が、PHREEQC(D. L. Parkhurst, C. A. J. Appelo,User's Guide To PHREEQC (version 2) a Computer Program for Speciation, andInverse Geochemical Calculations, Exchange Organizational Behavior TeachingJournal D (Version 2) (1999) 326)を用いてシミュレートされた。PHREEQCは、水性電解質における質量作用の法則、質量バランス(mass balance)及び電気的中性を記述する結合系の方程式を解くためにニュートン・ラプソン法を使用する。活量係数については、高濃度電解質(濃厚電解質)をモデル化するのに適切な特異イオン相互作用理論(SIT:specific ion interaction theory)(たとえば、I. Grenthe, A. Plyasunov, On the use of SemiempiricalElectrolyte Theories for Modeling of Solution Chemical Data, Pure and AppliedChemistry 69 (5) (1997); I. Grenthe, H. Wanner, Guidelines for theExtrapolation To Zero Ionic Strength, OECD Nuclear Energy Agencyを参照)が実施された。電解質内の化学反応は、塩化物及び水酸化物による金属イオン錯体の加水分解及び形成に基づいた。固相形成に関しては、この研究は、水酸化鉄だけを考慮し、比較的長期間にわたって形成する針鉄鉱や赤鉄鉱などの結晶物質の可能性のある形成は無視した。錯体形成、加水分解、及び溶解用の定数を含む他の全てのシミュレーションパラメータは、PHREEQC に含まれているThermoChimieデータベース(E. Giffaut, M, et al. Thermodynamic Database for PerformanceAssessment: ThermoChimie, Applied Geochemistry 49 (2014) 225-236)からのものであった。少量(ここでは10mMとされた)のFe3+が0%の充電状態(SOC:state-of-charge)の正極電解質及び負極電解質の両方に常に存在すると仮定された。これは、いくらかのFe2+が電解質の準備中に空気によって酸化されるからである。さらに、電池の動作中に、正極槽から負極層へのいくらかの第二鉄イオンのクロスオーバーが存在する。電解質溶液は、支持電解質として2MのNaClを含んでいると仮定され、及び、該SOCは、公称の溶液組成を用いて定義された(たとえば、0.5MのFeCl及び2MのNaClを含む溶液を伴う負極電解質において50%のSOC)。
【0071】
実験
該CGRは、24時間400℃の空気中で加熱された炭素フェルト基板(SGL TECHNIC, Inc. GFD3, 厚さ=3mm)を用いて作製された。該CGRの上半分は、PVDFを結合剤として用いて、インクとして該フェルトに塗られた、Pt/C(E-Tek, Inc., バルカン(Vulcan)XC-72上に20%のPt)の層を含んでいた。その後、該CGRにおけるH-Fe3+再結合反応が、密封容器(V=200mL)を用いていくつかの異なるやり方で調査された。H-Fe3+再結合速度及び水素電極電位を測定するために使用された2電極構成の概要が、図5に示されている。該CGRは、下半分(鉄電極)が、Fe3+還元を実行するために溶液内にあり、上半分(水素電極)が水素の酸化を促進するために反応器のヘッドスペース内にあるように、電解質中に部分的に沈められた(浸漬された)。ポリエチレンフレームが該CGRを所定の位置に保持するために使用された。該ヘッドスペースを窒素でパージした後、水素が、PH2=0~1気圧の範囲内のいくつかの分圧で該槽内にパルス注入され、圧力が、0-5Vデジタルトランスデューサーを用いて記録された。
【0072】
水素を注入した後、該水素が、該CGRにおける酸化によって消費されるために、圧力は低下し始める。再結合反応速度IH(A)は、
【数3】

という式を用いて圧力低下の勾配から得られた。ここで、nは該反応に関与する電子の数、Fはファラデー定数(96485C/mol e)、Vhsはヘッドスペース体積(L)、Rは気体定数(0.08206 L atm mol-1K-1)、Tは温度(300K)である。3電極構成(図6参照)が、水素分極及びインピーダンススペクトルを測定するために使用された。
【0073】
図6において、カウンター電極は白金メッシュ(Pt)であり、基準電極(ref)はAg/AgCl(3.0M NaCl)であった。電位は、Ag/AgClに対して50mVの増分で、-0.2~0.9Vまで高くされ、その際、略定常状態に到達させるために各々の値において15秒間一定電位を保持した。溶液内に鉄イオンが存在することよって起こりうる問題を回避するために、これらの研究は、pHが、50%SOCにおける正極電解質のpHである約1.4に調整された2MのNaCl及びHClだけを使用した。水素が該CGRの気相部分内で酸化されると、該白金メッシュカウンター電極がプロトン還元を実行し、それゆえ、水素バランスがそれぞれの相において維持された。従来のHセル(H-cell)が、分極曲線を測定してエバンスダイアグラムを構成するために使用された。第一鉄酸化及び水素還元が鉄電極を使用して測定され、鉄還元が黒鉛電極において測定された。水素酸化が、図6に示す構成を用いて該CGR(Ahs=6cm)において測定された。
【0074】
密閉型全鉄フロー電池システム(図4参照)を、圧力プロファイルの比較のために、該CGRを有する場合と有しない場合の両方でサイクル動作させた。それぞれのサイクル試験において、該電池を、±20mA/cmで充電及び放電し、この場合、各充電時間は1時間であった。該電池の電極は、平坦な黒鉛板(Ageo=6.25cm)から構成され、セパレータは多孔質ポリエチレン(Daramic(商標))であった。該システムを周囲温度で動作させ、両方の電解質は、蠕動ポンプを使って50mL/分で送り出された。両方の電解質は、1MのFeCl及び2MのNaClを含み、正極電解質はさらに0.5MのFeClを含んでいた。各槽は、100mLの電解質を含み、負極槽から正極槽への水素の拡散用の経路を生成するために、ヘッドスペース体積部が、1/4"チューブ(1/4インチチューブ)を用いて接続された。
【0075】
結果
電解質の安定性に関する重要な化学反応は、第二鉄イオンの加水分解である。下記の式によって与えられるこの一般的な第二鉄の加水分解反応は、電解質の酸性化及び種々の鉄水酸化物種の形成をもたらす。そのような反応は、希薄溶液において詳しく研究されている。
【数4】
【0076】
第一鉄の加水分解の平衡定数は、Keq=1.2×10-8のオーダーであり(K. H. Gayer,L. Wootner, The Hydrolysis of Ferrous Chloride at 25 1, Journal of the AmericanChemical Society 78 (16) (1956) 3944-3946)、一方、第二鉄の加水分解の平衡定数は、Keq=1×10-3のオーダーである(C. M. FlynnJr., Hydrolysis of Inorganic Iron (III) Salts, Chem.Rev. 84 (1) (1984) 31-41)。それゆえ、塩化第二鉄は、塩化第一鉄よりもかなり強い酸であり、その加水分解は、加えられた酸またはHの生成による影響を除いて、pHの主要な制御要因である。
【0077】
シミュレートされた電解質のpH値が図7のA及びBに示されており、(線Nで示されている)ナチュラルpH(自然pH)が、(線EQで示されている)水酸化鉄との平衡状態におけるpHと比較されている。(SI=log(IAP=Ksp)=0のときのpHとして定義される)この関係は、両方の電解質の公称のSOCの関数でもあり、ここで、SIは飽和指数であり、IAPはイオン活量積であり、Kspは、
【数5】

として定義される溶解度積である。
【0078】
負極電解質が10mMの塩化第二鉄を含んでいると仮定すると、これらの結果によって、該負極電解質は、全SOCを通じて水酸化鉄が過飽和した状態(SI>0)であると予測された。したがって、該負極電解質は、水酸化鉄の沈殿を特に生じやすい。一方、正極電解質は、高いSOCにおいても沈殿を生じない。なぜなら、加水分解に利用できる第二鉄イオンの高濃度に関連してpHが低いからである。このため、原則として、両方の電解質において高濃度のFe3+を維持することが望ましいように思える。しかしながら、逆説的に、このことは、充電中にFe2+ではなくFe3+が還元されることに起因して、電池のクーロン効率を小さくする。これと同じ理由から、良好な電池設計は、正極槽から負極槽へのFe3+のクロスオーバーを最小限にする。
【0079】
ある限られた時間の間水酸化鉄の沈殿を阻止するために、電解質のpHを低くすることが可能であるが、長期間の安定性には再結合が必要であり、そうでなければ、該pHは最終的に高くなり、電解質のFe3+の濃度も高くなり過ぎてしまうであろう。実際の用途では、再結合手順は単純であることが重要視されなければならない。このため、CGR設計は、加圧式電気化学セル(加圧式電気化学的電池)に関するいくつかの技術を用いて開発され及び特徴付けられた。電解質の伝送は、炭素フェルトのネットワーク(網)内の毛管現象によって行われた。水素は、利用可能な三重点において(または利用可能な三重点における)該CGRの上半分で酸化された。水素酸化によって遊離したプロトン及び電子は、正極電解質中へと下方に(「面内」方向に)送られ、水性第二鉄イオン(Fe3+)は第一鉄イン(Fe2+)に還元された。炭素フェルトは電子伝達体として機能した。
【0080】
典型的な挙動が図8に示されており、この場合、再結合反応は、0.5MのFeClを含む溶液中で実行された。水素圧力PH2が約0.2気圧までは、反応速度は該分圧に線形比例した。しかしながら、それより高い水素分圧では、該速度は、混合制御領域に入り、その後、Fe3+拡散及び抵抗損によって制御される電流制限領域に入った。この分析は、反応過程中のFe3+の濃度を変化させた(ある実験では1気圧のHを用いて約8パーセントだけモル濃度を低下させた)ことによってわずかに影響を受けた。
【0081】
図5に示されている構成を用いて測定された混成電極電位及び水素分圧の過渡的な測定結果が図9に示されている。これらの研究では、空気のパージと圧力シールのテストとの両方のために窒素が使用された。(水素添加後に)測定された圧力低下は水素の消費に起因すること、すなわち重大な漏れはないことが仮定された。最初は、該フェルトのネットワーク内の第二鉄イオンの濃度が高いために、反応速度は比較的速かった。該フェルト内の第二鉄イオンが消費された後では、定常状態反応速度が観察され、電位は、白金メッシュよりも負方向に400mVまで低下した。この期間中、第二鉄イオンの消費は、該溶液から該フェルトの表面へと拡散した。総括反応速度は、オーム分極と濃淡分極の組み合わせによって制限された。最終的に、水素が消費され、このため、電極の電位は、白金メッシュに対して0mVの初期の電位に戻った。
【0082】
開路電位測定(open-circuit potential measurement)がNaCl溶液内で行われ、その測定結果が図10にグラフ表示されている。これらの測定値によって、該CGRの上半分が、ネルンスト電位(Nernstian potential)の観点で水素電極のように挙動することが確認された。このことは、該多孔質材料が、毛管現象によって電解質を垂直方向に吸い上げることができ、これによって、完全な電気化学セル(電気化学的電池)が確立されることを裏付けた。
【0083】
いくつかの水素分圧について図6に示されている装置を用いて測定されたインピーダンススペクトル及び分極挙動が、図11に示されている。ヘッドスペース内に窒素だけを含めたベースライン実験では、電荷移動ループも大きな電流も見られず、主な副反応がないことが確認された。しかしながら、水素がヘッドスペース内に存在したときは、電荷移動ループ及び最大160mAの電流が観測された。0.74psigという低い水素分圧でも90mAの全電流(AHS=6cm)を維持することができたが、これは、効率的な再結合システムのために高い水素圧力を生成することが必要でないことを示唆している。
【0084】
密閉型再結合(sealed recombinant)全鉄ハイブリッドフロー電池システムを、該システムの圧力プロファイルの比較のために、図12に示されているように、CGRを有する場合と有しない場合の両方でサイクル動作させた。はじめのうちは、圧力は、それら2つの構成間で同じ速さで上昇したが、該サイクル動作を開始してから約18時間後には圧力プロファイルは互いからずれた。CGRを有しない電池では圧力が増加し続けたが、CGRを有する電池は、圧力制御用の再結合反応を使った。PH2=1psigという平衡分圧が観測されたが、これは、該電池の充電電流の約10%が水素生成に費やされたと仮定すると、関連する水素電流の点で分極及び回分反応器(batch reactor)実験と合致した。これらの結果は、水素を含めることによって、密閉型再結合フロー電池システムのヘッドスペース圧力を制御できることを明らかにした。
【0085】
図14はさらに、電流密度を100mA/cmとし充電時間を1時間としたときの、30cm電池に本明細書に開示されている電解質リバランス法を用いた電池システムを室温において連続的に充放電サイクル動作させたときの該システムの性能データを示している。
【0086】
本技術の実施形態を種々の実施形態及び例に関して説明したが、本明細書を読んでその内容を理解した者であれば変更形態及び交換形態を想起することができる。特許請求の範囲は、それらの変更形態及び交換形態が特許請求の範囲またはその等価物の範囲に入る限り、それら全ての変更形態及び交換形態を含むことが意図されている。
【0087】
本明細書は、最良の形態を含めて本発明を開示するために、さらに、当業者が本発明を理解して利用できるようにするために、いくつかの例を使っている。特許性のある本発明の範囲は、特許請求の範囲によって画定され、及び、当業者が想起する他の例を含みうる。そのような他の例は、それらが、特許請求の範囲の文言と異ならない構造的要素を有する場合、または特許請求の範囲の文言とわずかにしか異ならない同等の構造的要素を含む場合は、特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0088】
本明細書において参照されている全ての引用物は、参照によって本明細書に明示的に組み込まれるものとする。

図1
図2
図3
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図5
図6
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図8
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図11
図12
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図14