(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】フィブリノーゲンガンマプライム変種の治療的使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/36 20060101AFI20230727BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230727BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230727BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230727BHJP
C07K 14/75 20060101ALN20230727BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
A61K38/36 ZNA
A61P31/04
A61K45/00
A61P43/00 121
C07K14/75
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021508072
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2019060546
(87)【国際公開番号】W WO2019207016
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-18
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520414413
【氏名又は名称】フィブリアント・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】FIBRIANT B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ミランダ・ヴェッヘマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ・フリンベルヘン
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・コープマン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093932(WO,A2)
【文献】Pahlman, L. I. et al.,Antimicrobial activity of fibrinogen and fibrinogen-derived peptides--a novel link between coagulation and innate immunity,Thrombosis and Haemostasis,2013年,Vol.109, No.5,p.930-939,doi:10.1160/TH12-10-0739
【文献】McDevitt, D. et al.,Characterization of the interaction between the Staphylococcus aureus clumping factor (ClfA) and fibrinogen,European Journal of Biochemistry,1997年,Vol.247, No.1,p.416-424,doi:10.1111/j.1432-1033.1997.00416.x
【文献】Flick, M. J. et al.,Genetic elimination of the binding motif on fibrinogen for the S. aureus virulence factor ClfA improves host survival in septicemia,Blood,2013年,Vol.121, No.10,p.1783-1794,doi:10.1182/blood-2012-09-453894
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖、および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも一方が配列番号3に係る配列を含む、感染症の治療または予防における使用のための組成物
であって、感染症が、バンコマイシン耐性エス・アウレウス、メチシリン耐性エス・アウレウス、および多剤耐性エス・アウレウス菌株を包含する、スタフィロコッカス・アウレウスによって惹起される、使用のための組成物。
【請求項2】
ガンマポリペプチド鎖の一方が配列番号1に係る配列を含み、他方のガンマポリペプチド鎖が配列番号3に係る配列を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
さら
に、2本のアルファ、2本のベータおよび2本のガンマポリペプチド鎖を含むフィブリノーゲンを最大で約75%含み、ここでガンマポリペプチド鎖のカルボキシル末端の両方が配列番号1に係る配列であり、上記の75%が組成物中のフィブリノーゲン全体の重量によるものである、
請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
組成物中のフィブリノーゲンが、組換えまたは血漿由来のフィブリノーゲンあるいはその混合物である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
感染症が
、肺炎;敗血症;菌血症;腹膜炎;心内膜炎;皮膚または軟組織感染症;骨関節感染症;人工関節感染症;骨感染症;胸膜肺感染症;創傷感染症;硬膜外膿瘍;髄膜炎;毒素性ショック症候群;尿路感染症または敗血性血栓性静脈炎
の1または複数より選択される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
1または複数の抗菌剤をさらに含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
注射または注入による投与のための、
請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
静脈内、動脈内、腹腔内、腺内または膀胱内注射または注入による投与のための、
請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
医薬的に許容される担体をさらに含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
ヒト、ペット、家禽、家畜、スポーツ動物、またはげっ歯類に投与される、
請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ガンマプライム鎖を含むフィブリノーゲン変種の使用に、特に感染症を予防または治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノーゲンは、可溶性血漿糖タンパク質であって、ジスルフィド結合により連結される、Aα、Bβおよびγと称される2対の3種のポリペプチド鎖から構成される二量体の分子である。3種のポリペプチド鎖は3種の別々の遺伝子よりコードされ、3種のmRNAより別個に合成される。3種のポリペプチド鎖(Aα、Bβおよびγ)の6本鎖の二量体(Aα、Bβ、γ)2としてのその最終形態へのアセンブリーが小胞体(ER)の腔内にて起こる。循環しているヒトフィブリノーゲンの成熟した優性形態は、長さが610個のアミノ酸のAα鎖、461個のアミノ酸のBβ鎖、および411個のアミノ酸のγ鎖から構成され、正常なフィブリノーゲン、HMWフィブリノーゲン、野生型(WT)フィブリノーゲンと称される。
【0003】
しかしながら、循環フィブリノーゲンは、健康なすべての個体の血中にて存在し、Aα鎖またはBβ鎖、あるいはγ鎖のいずれかが改変した結果として、いくつかの変種の極めて不均一な混合物であることが証明された。
【0004】
選択的スプライシングの結果としての、周知のフィブリノーゲン変種が、血漿フィブリノーゲンガンマプライム(pFibγ’)変種である。pFibγ’変種はヒト血漿においてフィブリノーゲン全体の約10-15%に相当する。循環中、pFibγ’は、二量体のフィブリノーゲン分子の半分がWTフィブリノーゲンに見られるようなガンマ鎖を含有し、その同じフィブリノーゲン分子の別の半分が変種のガンマ鎖を含有する、ヘテロ二量体として存在する。ヒトにおいて、pFibγ’の変種のガンマ鎖は、WTフィブリノーゲンにて見られるような411個のアミノ酸(γ411)よりもむしろ、427個のアミノ酸(γ427)からなる。γ427鎖では、γ411鎖の4個のカルボキシル-末端のアミノ酸Ala-Gly-Asp-Val(AGDV)が、20merのペプチドと置き換えられる。
【0005】
フィブリノーゲンは、出血の制御にて重要な役割を果たすだけでなく、病原菌の増殖を制限し、病原菌に対する宿主の防御機構を仲介することにより、宿主の保護のための初期の防御線として供し得る。しかしながら、数種の病原菌は、病原菌の毒性を強化するために宿主のフィブリノーゲンと相互作用する方法を進化させてきた。例えば、エス・アウレウス(S.aureus)は、細菌の細胞壁に固定された凝集因子A(clumping factor A:ClfA)を用いてフィブリノーゲンに結合し、それは、おそらくは、その二量体構造のため、エス・アウレウスのサスペンジョン中のフィブリノーゲン依存性凝集を誘発する。フィブリノーゲンでのClfA結合部位は、WTフィブリノーゲンのフィブリノーゲンγ411のカルボキシル末端にマッピングされる。細菌の、ClfAおよびフィブリノーゲンを介する、結合およびその後の凝集は、細菌の重要な病原性因子であると考えられており、いくつかの研究では、ClfAとフィブリノーゲンのガンマ鎖との結合を妨げる効果が研究されている。US 2011/0171285は、両方のガンマ鎖において、カルボキシル末端のAGDV配列の前にあるグルタミン(Q)が修飾されているため、ClfAがフィブリノーゲンと結合できない、哺乳類のフィブリノーゲンを用いるインビトロでの研究を開示する。Flickら (2013) Blood (121): 1783-1794は、フィブリノーゲンのガンマ鎖のカルボキシル末端にあるQAGDV配列が欠失しているホモ接合トランスジェニックマウス(FibγΔ5/Δ5マウス)を開示する。これらの変異したマウスは、エス・アウレウス菌で攻撃された場合、WTフィブリノーゲンのマウスと比べて、生存能が有意に増大した。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、これらの研究は、これまで血漿から単離されたことのない、ホモ二量体pFibγ’と均等であろう、分子を使用する。医療用途に十分な量のこのフィブリノーゲン変種は血漿から得られそうもない。加えて、FibγΔ5/Δ5マウスにおける修飾フィブリノーゲンの、細菌の結合、凝集および病原性に対する効果は、WTフィブリノーゲンの存在なしで確立されており、従ってこの解決方法が、宿主の正常なWTフィブリノーゲンと競合し、WTフィブリノーゲンの存在下でも臨床的に意義のある効果をなお導入し得る、治療的または予防的製品として有用であることを示すものではない。
【0007】
従って、容易に入手可能であり、宿主のWTフィブリノーゲンの存在下で細菌の病原性に対して効果のある、かくして臨床的に意義のある、代替品としてのフィブリノーゲン組成物を見出すことが望まれている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】配列番号1に係る、ヒトWTフィブリノーゲンガンマ鎖(γ411)のカルボキシル末端を示す。位置407-411のGln-Ala-Gly-Asp-Val(QAGDV)モチーフに下線を引く。
【
図2】ヒトフィブリノーゲンガンマプライムのガンマ鎖においてAGDVと置き換わる、配列番号2に係る、20merのペプチドを示す。
【
図3】配列番号3に係る、ヒトガンマプライム鎖(γ427)のカルボキシル末端を示す。
【
図4】血漿より精製されたフィブリノーゲン調製物のSDS-PAGE分析を示す。レーン1:pFibトータル、レーン2:pFibγ411/γ411、およびレーン3:pFibγ427/γ411、ならびに組換えフィブリノーゲン、レーン4:rhFibγ411/γ411、およびレーン5:rhFibγ427/γ427
【
図5】エス・アウレウスUSA300野生型(WT)の、固定化された、5A)マウス、ヒト血漿から単離されたフィブリノーゲン、および組換えフィブリノーゲン;5B)WTフィブリノーゲン(pFibγ411/411)、フィブリノーゲンガンマプライムヘテロ二量体(pFibγ427/411)およびその種々の混合物;5C)WTフィブリノーゲン(pFibγ411/411)、フィブリノーゲンガンマプライムホモ二量体(rhFibγ427/427)およびその種々の混合物との付着を示す。
【
図6】エス・アウレウスUSA300WTの、各々、指数的に増殖する細胞および定常期にある細胞の、6A)マウス、ヒト血漿より単離されるフィブリノーゲン、および組換えフィブリノーゲン;6B)WTフィブリノーゲン(pFibγ411/411)、フィブリノーゲンガンマプライムヘテロ二量体(pFibγ427/411)およびその種々の混合物;6Cおよび6D)WTフィブリノーゲン(pFibγ411/411)、フィブリノーゲンガンマプライムホモ二量体(rhFibγ427/427)およびその種々の混合物によって誘発される、凝集を示す。
【
図7】7A)2.0x10
8 CFU;7B)6.0x10
8 CFU;および7C)7.0x10
8 CFUのエス・アウレウスUSA300WTで攻撃した、フィブリノーゲンWTマウス(Fibγ
WT/WT)、ヘテロ接合(Fibγ
WT/Δ5)およびホモ接合(Fibγ
Δ5/Δ5)したトランスジェニックフィブリノーゲンデルタ5マウスの生存プロフィールを示す。
【
図8】8A)5.0x10
8 CFU、および8B)1.0x10
9 CFUのエス・アウレウスUSA300WTで攻撃する前に、血漿からの異なるヒトフィブリノーゲン種を単回用量で補充したフィブリノーゲン欠損マウス(Fib
-/-)の生存プロフィールを示す。
【
図9】3.2x10
8 CFUのエス・アウレウスUSA300WTで攻撃する前に、pFibγ427/γ411およびpFibγ411/411を単回用量で補充したフィブリノーゲンWTマウスの生存プロフィールを示す。
【
図10】6.0x10
8 CFUのエス・アウレウスUSA300WTで攻撃した後に、pFibγ411/411と比較した、pFibγ427/γ411を反復用量で補充したフィブリノーゲン欠損マウスの生存プロフィールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、感染症の治療または予防にて用いるための、フィブリノーゲンガンマプライム変種を含む組成物に関する。フィブリノーゲンガンマプライム変種は、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖、および2本のガンマポリペプチド鎖を有し、ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1本は配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む。
【0010】
本発明に照らして、フィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端は、WTフィブリノーゲンのガンマ鎖のアミノ酸位置390-411をいう。ガンマ鎖内の特定のアミノ酸の位置は、WTフィブリノーゲンガンマ鎖のアミノ酸配列(配列番号6)とアライメントすることで決定され得る。すべてまたは一部のガンマ鎖、特にそのカルボキシル末端の配列を整列させてもよい。例えば、スミス-ウォーターマン(Smith-Waterman)アルゴリズムなどの標準的な配列アライメントツールがアライメントに使用され得る。配列は、この配列と整列させた時に、そのアライメントスコアが最も高い場合に、整列されていると考えられる。
【0011】
本発明に照らして、野生型(WT)フィブリノーゲンなる語は、長さが610個のアミノ酸であるAα鎖、461個のアミノ酸のBβ鎖、および411個のアミノ酸のγ鎖からなる、循環中の成熟した優性形態のヒトフィブリノーゲンをいう。WTフィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端は配列番号1によるものであり、
図1にも記載される。
【0012】
WTフィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端(配列番号1)のAGDVが、VRPEHPAETEYDSLYPEDDL(配列番号2および
図2)で置換されると、配列番号3に係る、ガンマプライムポリペプチド鎖とも称される、ガンマ鎖を得るに至る。本明細書で使用される場合、アミノ酸の略語はIUPAC命名法によるものであり、かくしてQAGDVはGln-Ala-Gly-Asp-Valをいい、VRPEHPAETEYDSLYPEDDLはVal-Arg-Pro-Glu-His-Pro-Ala-Glu-Thr-Glu-Tyr-Asp-Ser-Leu-Tyr-Pro-Glu-Asp-Asp-Leuをいう。
【0013】
ヒトでは、このガンマプライムポリペプチド鎖は427個のアミノ酸を有する。フィブリノーゲン分子が1個のWTガンマポリペプチド鎖(γ411)と1個のガンマプライムポリペプチド鎖(γ427)を含むならば、この変種は本明細書においてフィブリノーゲンガンマプライムヘテロ二量体またはFibγ427/411と称される。両方のガンマポリペプチド鎖がガンマプライム型(γ427)である場合、この変種はフィブリノーゲンガンマプライムホモ二量体またはFibγ427/427と称される。本発明に従って使用するための組成物は、フィブリノーゲンガンマプライムヘテロ二量体およびホモ二量体の混合物などのこれらのガンマプライム変種の混合物を含むか、または構成されてもよく、あるいは1の型のガンマプライム変種を含むか、または構成されてもよい。
【0014】
本出願人は、意外にも、フィブリノーゲンガンマプライムを含む組成物が、WTフィブリノーゲンと比べ、そして感染症の治療についてこれまで示唆されたフィブリノーゲン変異体と比較して、いくつかの利点を有することを見出した。フィブリノーゲンガンマプライム変種を含む組成物は、対象にて感染症を治療または予防するのに使用される場合、特に注射または注入で投与される場合、生存において有意な改善をもたらす。WTフィブリノーゲンとは対照的に、フィブリノーゲンガンマプライム変種は動物実験にて細菌感染の毒性を軽減させるが、これらの変種のいくつかはインビトロでの細菌付着および凝集実験にてWTフィブリノーゲンと同様の行動をする。もう一つ別の利点は、フィブリノーゲンガンマプライムを含む組成物が、細菌のフィブリノーゲンとの結合の減少とは関係なく、感染症に対して効果を有するようなことである。もう一つ別の利点は、フィブリノーゲンガンマプライムを含む組成物が予防的治療および療法的治療の両方において効果的であることである。もう一つ別の利点は、いくつかの実施態様のこれらのフィブリノーゲンガンマプライム変種が血漿より単離されるのに十分に多量で血漿中に存在することである。さらにもう一つ別の利点は、これらのフィブリノーゲンガンマプライム変種が宿主WTフィブリノーゲンの存在下で細菌の毒性に対して効果があることである。さらにもう一つ別の利点は、これらのフィブリノーゲンガンマプライム変種の生存に対する効果が、感染症の重篤度または細菌負荷と関係のないことである。従って、それらは臨床的に意義がある。
【0015】
本発明は、本発明に係る使用のための組成物が、動物実験での感染症の治療または予防において効果的であるが、フィブリノーゲンガンマプライム変種またはそれらを含む組成物がインビトロにおける結合または凝集実験にてWTフィブリノーゲンと同様の行動を取り得ることを示す。結合または凝集は、例えば、Flickら(2013)Blood(121):1783-1794にて記載されるように、吸光度を570nmで測定することで決定され得る。
【0016】
感染とは、個人の体内にて通常は存在しないか、または異常な量で存在する、細菌および真菌などの微生物の侵入または増殖を言う。かかる感染性微生物は本明細書において病原菌とも称される。感染症は、徴候のない無症候性であってもよく、あるいは臨床的に明らかに徴候があってもよい。治療または予防の効果は、数日、数週間、数か月または数年などの、永続的または一時的であってもよい。その効果は完全であっても部分的であってもよい。部分的な効果的予防として、他ではそうではないが、ある微生物の侵入または増殖を予防することが挙げられる。部分的な効果的治療として、異常な量で存在する、ある種の微生物の侵入または増殖を減らすこと、例えば5%~100%、または5%~60%、または60%~100%の減少が挙げられる。好ましくは、予防または治療は完全で永続的である。1の実施態様において、本発明に係る使用のための組成物は、ヒト対象におけるフィブリノーゲン結合病原菌の、特にガンマ鎖のカルボキシル末端に結合する病原菌の治療または予防にて使用される。
【0017】
本発明に係る使用のための組成物は、組成物の重量に基づいて、0.05%w/w~20%w/wのフィブリノーゲン、例えば組成物の重量によって、0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%~15%w/wのフィブリノーゲンと、所望により、希釈剤、滑沢剤、結合剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、抗酸化剤、溶媒、沈殿防止剤、湿潤剤、または表面活性剤などの医薬的に許容される担体またはビヒクルとを含んでもよい。「医薬的に許容される賦形剤」、「医薬的に許容される希釈剤」、「医薬的に許容される担体」または「医薬的に許容されるアジュバント」は、一般に、生物学的に安全であって毒性がなく、そうでないとしても望ましくないこともない、医薬組成物を製造するのに有用である、賦形剤、希釈剤、担体またはアジュバントを意味する。これらの材料は組成物の安定性またはそのいずれかの成分に悪影響を及ぼすものであってはならない。
【0018】
フィブリノーゲンガンマプライムが組成物中の唯一のフィブリノーゲン変種である場合、本発明に係る使用のための組成物は、組成物の重量で0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%~15%w/wのフィブリノーゲンガンマプライム変種などの、組成物の重量で0.05%w/w~20%w/wのフィブリノーゲンガンマプライム変種を含んでもよい。
【0019】
あるいはまた、本発明に係る使用のための組成物は、ガンマプライム変種に加えて、配列番号1に係るカルボキシル末端配列を含む、2本のガンマペプチド鎖を有するフィブリノーゲンなどの他のフィブリノーゲン変種を含んでもよい。その場合には、組成物中のフィブリノーゲン全体の含有量は、組成物の重量で、0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%~15%w/wなどの、0.05%w/w~20%w/wであり、フィブリノーゲンガンマプライム変種の含有量は組成物中のフィブリノーゲン全体の少なくとも25%w/wである。1の実施態様にて、本発明に係る使用のための組成物は、ホモ二量体またはヘテロ二量体のフィブリノーゲンガンマプライムとWTフィブリノーゲンの組み合わせを含む。従って、本発明の1の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、
(i)2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲンガンマプライム変種であって、そのガンマポリペプチド鎖の少なくとも1本が配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む、フィブリノーゲンガンマプライム変種;
(ii)組成物中にフィブリノーゲン全体の重量に基づいて多くても約75%までのWTフィブリノーゲン
を含む、組成物が提供される。
【0020】
従って、該組成物は、組成物中のフィブリノーゲン全体の重量で、多くて約5%、10%、20%、50%または約60%、あるいは約1%~25%、25%~50%、25%~70%、または50%~70%のWTフィブリノーゲンを含んでもよく、組成物のフィブリノーゲン全体の含量は、好ましくは、組成物の重量で、0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%w/w~15%w/wなどの0.05%w/w~20%w/wであり、フィブリノーゲンガンマプライム変種の含量は組成物中のフィブリノーゲン全体の少なくとも25%w/wである。
【0021】
本発明に係る使用のための組成物中のフィブリノーゲンは当該分野において既知の方法により得ることができる。例えば、血漿から、好ましくは哺乳類の血漿より、あるいは血漿フィブリノーゲン全混合物より単離して得ることができる。典型的には、フィブリノーゲン変種の混合物を含む、血漿フィブリノーゲンは、例えば、Enzyme Research Labs、スウォンジー、英国から、FIB3として商業的に得てもよく、あるいは哺乳類から、好ましくはヒト個体から単離されてもよい。血漿は一人の個体より由来してもよく、より多くの個体からプールされてもよい。血漿より単離するのに適切な方法は、例えば、Lawrence ら、Blood 1993, vol 82, pp 2406-2413にて記載されるように、沈降操作またはクロマトグラフィー、特にアニオン交換を含んでもよい。
【0022】
あるいはまた、組成物中のフィブリノーゲンは、組換え産生に、例えば、コード化ゲノムまたはcDNAをクローニングまたは化学合成に付し、つづいて哺乳類またはヒト細胞の培養系などの宿主細胞または細胞培養系を用いるトランスフェクションに付すことで得ることができる。タンパク質の組換え産生は血漿誘導性材料の使用よりも多くの利点がある。これらは、その好ましい安全性、純粋な方法にて変種を製造する可能性を包含し、供給の制限がない。しかしながら、経済的に実現可能な方法にてそれを産生するためには、高発現レベルの無傷な機能的フィブリノーゲンまたはその変種が必要とされる。加えて、特異的な用途では、適切な翻訳後修飾(例えば、糖鎖形成)が必要とされる。従って、本発明の医薬標準についてのさらなる実施態様において、フィブリノーゲン変種は、哺乳類細胞培養系にて、例えば、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、NSO細胞、Sp2/0細胞、PER.C6細胞、HEK293細胞、昆虫細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはアフリカングリーンサル由来のCOS細胞にて産生される。好ましい実施態様において、本発明に係る使用のための組成物中の哺乳類フィブリノーゲンは、CHO細胞にて産生される。
【0023】
本発明に係る使用のための組成物中に含まれるフィブリノーゲンの組換え産生は、典型的には、哺乳類の宿主細胞、好ましくはCHO細胞の、アルファポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、ベータポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、および所望のガンマプライムポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含むベクターでのトランスフェクションを含む。
【0024】
1の実施態様において、該組成物は、組換え技法により産生された、血漿由来のフィブリノーゲンガンマプライム分子の混合物を含む。これらの混合物は1の型のフィブリノーゲンガンマプライム変種または数種のフィブリノーゲンガンマプライム変種を含んでもよい。もちろん、組換え技法により産生された、血漿由来のフィブリノーゲンガンマプライムは、本発明に係る使用のために提供されたフィブリノーゲンガンマプライム分子がフィブリノーゲンガンマプライム分子の正常な機能を保持する限り、産生または単離された後に、所望の特性を有する変種を得るために、例えば、活性、タンパク質の半減期、タンパク質の安定性、タンパク質の局在化およびタンパク質の効能を強化するために変異または修飾されてもよい。
【0025】
1の実施態様において、本発明に係る使用のための組成物中のフィブリノーゲンガンマプライムは、血漿中に見られるフィブリノーゲンガンマプライム(pFibγ')であり、所望によりそのホモ二量体またはヘテロ二量体の形態にて組換え技法により産生されてもよい。
【0026】
フィブリノーゲンガンマプライム分子のいずれの既知の機能も改変しない、いくつかの一般的な単一アミノ酸置換の多型が知られている。かかる多型または改変はカルボキシル末端の外側のガンマ鎖にて存在してもよい。翻訳後修飾、タンパク質分解、および選択的スプライシングが、フィブリノーゲンガンマプライム分子のアルファまたはベータ鎖の一方または両方にて存在してもよい。例えば、本発明に係る使用のための組成物中のフィブリノーゲンガンマ分子は、遺伝的多型、糖鎖形成またはリン酸化における差異、そのカルボキシル末端部分の(部分的)タンパク質分解または選択的スプライシングを介して生じる変異的アルファ鎖を含み得る。場合によっては、これにより、機能(例えば、フィブリン重合、血小板結合、タンパク質分解)の異なるフィブリノーゲン変種がもたらされるかもしれない。好ましくは、それは、本発明に係る使用のためのフィブリノーゲンガンマプライム分子中にてトロンビン結合、血餅形成活性または第XIIIa介在性架橋を変化させない。
【0027】
本発明に係る使用のための組成物は感染症の治療または予防のために用いられる。感染症は、典型的には、通常は個人の体内に存在しないか、異常な量で存在する、細菌および真菌などの微生物の侵入または増殖により惹起されるか、またはそれと関連付けられる。かかる感染性微生物は本明細書において病原菌と称される。1の実施態様において、感染は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌、例えば、エシェリキア、バクテロイデス、サルモネラ、イェルシニア、ナイセリア、シュードモナス、スタフィロコッカス、エンテロコッカス、ストレプトコッカス、クロストリジウム、リステリア、バチルス、特にバンコマイシン耐性エス・アウレウス、メチシリン耐性エス・アウレウス、および多剤耐性エス・アウレウス菌株(エス・アウレウスUSA300WTおよびエス・アウレウスニューマンを含む)を含むスタフィロコッカス・アウレウスにより惹起されるか、またはそれと関連付けられる。もう一つ別の実施態様において、感染症は、アスペルギルスまたはカンジダなどの真菌により惹起されるか、またはそれと関連付けられる。病原菌がフィブリノーゲン結合してもよく、詳細にはフィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端に結合してもよく、より詳細にはフィブリノーゲンガンマポリペプチド鎖のAGDV部位に結合してもよい。
【0028】
本発明に係る使用のための組成物は、有利には、肺炎;敗血症;菌血症;腹膜炎;心内膜炎;皮膚または軟組織感染症;骨関節感染症;人工関節感染症;骨感染症;胸膜肺感染症;創傷感染症;硬膜外膿瘍;髄膜炎;毒素性ショック症候群;尿路感染症または敗血性血栓性静脈炎などのいずれかの感染症の治療または予防のために使用されてもよい。
【0029】
該組成物は、ペニシリン、アモキシシリン、アンピシリン、セファロスポリンおよびテトラサイクリンなどの抗生物質、ならびに抗真菌剤を含む、1または複数の抗菌剤をさらに含んでもよい。
【0030】
本発明に係る使用のための組成物は、経腸的または非経口的であろうと、種々の経路、好ましくは全身的に投与されてもよい。好ましくは、注射または注入で投与される。1の実施態様において、該組成物は、非経口的に、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、腺内または膀胱内注射または注入によるなどの注射によって投与される。本明細書で使用される「投与」または「投与する」なる語は、該組成物を、単独で、または他のフィブリノーゲン変種または組成物と組み合わせてヒトまたは動物対象に送達される工程を含んでもよい。
【0031】
治療または予防効果を得るための該組成物の投与量は、当該分野において知られるように、対象の状況によって決定されてもよく、組成物の個々の用量または単位用量を通して、あるいは組成物の組み合わせ、または予めパッケージしたまたは予め処方した用量を通して達成されてもよい。投与は、組成物の投与量、投与の回数、治療の期間に依存し得る。例えば、複数の用量で投与されてもよい。組成物を投与する期間、例えば、その間にわたって組成物が投与される期間は、対象の応答を含む、様々ないずれかの因子に応じて、変化してもよい。投与される組成物の量は、個体の感受性の程度、ならびに個体の年齢、性別および体重などの因子に応じて変わり得る。
【0032】
本発明に係る使用のための組成物は、脊椎動物の「個体」、「患者」または「対象」に、好ましくは哺乳類に、より好ましくはヒトに投与されてもよい。哺乳類はまた、家畜、スポーツ動物およびペットを含むが、これらに限定されない。獣医学的用途の場合、適切な対象として、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、乳牛、ブタなどの家畜;ニワトリ、アヒル、ガチョウ、および七面鳥などの家禽;飼い慣らされた動物、特にイヌ、ウサギ、マウスおよびネコなどのペットを挙げることができる。本明細書にて開示されるフィブリノーゲンガンマプライム組成物の投与に適する他の動物は、ウマ、ラバ、ロバ、シカ、アルパカ、ラマ、バイソン、バッファロー、イノシシおよびヤクを包含する。
【0033】
1の実施態様において、本発明は、ヒト個体の感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、配列番号4に係る2本のAα鎖、配列番号5に係る2本のBβ鎖、および2本のガンマポリペプチド鎖からなるフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも一つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む、組成物に関する。
【0034】
1の実施態様において、本発明は、ヒト個体の感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、WTフィブリノーゲンにて見られるか、または配列番号4に係る2本のAα鎖、WTフィブリノーゲンにて見られるか、または配列番号5に係る2本のBβ鎖、および2本のガンマポリペプチド鎖からなるフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも一つが血漿フィブリノーゲンガンマプライムにて見られるか、または配列番号7に係るところの、組成物に関する。
【0035】
もう一つ別の実施態様において、本発明は、ヒト個体の感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、該組成物中のフィブリノーゲンが組換え操作にて産生され、所望により該組換えフィブリノーゲンがヒト由来であってもよい、組成物に関する。
【0036】
本発明のもう一つ別の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、ここで該感染症が、ヒトまたは動物の対象にて、フィブリノーゲン結合病原菌、特にガンマ鎖のカルボキシル末端に結合する病原菌により惹起されるか、またはそれと関連付けられる、組成物が提供される。
【0037】
本発明のさらにもう一つ別の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、ここで該感染症が、ヒトまたは動物の対象にて、グラム陽性菌、グラム陰性菌、または真菌、およびそれらの組み合わせから選択される、フィブリノーゲン結合病原菌、特にガンマ鎖のカルボキシル末端に結合するフィブリノーゲン結合病原菌により惹起されるか、またはそれと関連付けられる、組成物が提供される。該病原菌は、エシェリキア属、バクテロイデス属、サルモネラ属、エルシニア属、ナイセリア属、シュードモナス属、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、リステリア属、バチルス属;アスペルギルス属またはカンジダ属からなる群より選択することができ、好ましくはバンコマイシン耐性エス・アウレウス、メチシリン耐性エス・アウレウスおよび多剤耐性エス・アウレウス菌株を含む、エス・アウレウスである。感染症は、1または複数の、肺炎、例えば、院内肺炎;敗血症;菌血症;腹膜炎;心内膜炎;皮膚または軟組織感染症、例えば、膿痂疹;骨関節感染症、例えば、骨髄炎、敗血症性関節炎;人工関節感染症;骨感染症;胸膜肺感染症;創傷感染症、例えば、糖尿病性潰瘍;硬膜外膿瘍;髄膜炎;毒素性ショック症候群;尿路感染症または敗血性血栓性静脈炎より選択されてもよい。
【0038】
本発明のさらなる実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで、ヒトまたは動物の対象にて、グラム陰性菌、グラム陽性菌、真菌、またはそれらの組み合わせから選択される、フィブリノーゲン結合病原菌の感染または毒性を治療、予防または緩和するために、または対象にてフィブリノーゲン結合病原菌により惹起されるか、またはそれと関連付けられる徴候を治療、予防または緩和するために、該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、さらには医薬的に許容される担体を含み、ここで徴候および/または毒性を予防または緩和することが宿主の生存および/または抗生物質および抗真菌剤を含む抗微生物療法に対する感作の長期化をもたらす、組成物が提供される。
【0039】
本発明のさらなる実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで、ヒトまたは動物の対象にて、グラム陰性菌、グラム陽性菌、真菌、またはそれらの組み合わせから選択される、フィブリノーゲン結合病原菌の感染または毒性を治療、予防または緩和するために、該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、さらには医薬的に許容される担体を含む、組成物が提供される。従って、該病原菌は、エシェリキア・コリ、バクテロイデス・フラジリス、サルモネラ属菌、エルシニア属菌、ナイセリア・メニンギチデス、またはシュードモナス・エルギノーザなどのグラム陰性菌;スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、リステリア属、またはバチルス属などのグラム陽性菌;あるいはアスペルギルスまたはカンジダ属などの真菌であってもよい。
【0040】
本発明のさらなる実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、該組成物が抗生物質または抗真菌剤などの1または複数の抗微生物剤をさらに含む、組成物が提供される。
【0041】
本発明のさらなる実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種からなり、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む、組成物が提供される。該フィブリノーゲン変種は、配列番号4に係る2本のアルファポリペプチド鎖および配列番号5に係る2本のベータポリペプチド鎖を有してもよい。
【0042】
本発明のさらにもう一つ別の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種からなり、ここで該ガンマポリペプチド鎖の1つが配列番号1に係るカルボキシル末端配列を含み、他のガンマポリペプチド鎖が配列番号3に係るアミノ酸配列を含む、組成物が提供される。
【0043】
本発明のさらにもう一つ別の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種からなり、ここで該ガンマポリペプチド鎖の両方が配列番号3に係り、
図3でも示される、カルボキシル末端配列を含む、組成物が提供される。
【0044】
本発明のもう一つ別の実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、ここで組成物中のフィブリノーゲンが組み換え操作により産生され、所望により該組換えフィブリノーゲンが哺乳類由来であってもよい、組成物が提供される。
【0045】
本発明のさらなる実施態様において、感染症の治療または予防にて用いるための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含み、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含み、該組成物がペニシリンG、オキサシリン、バンコマイシン、フルクロキサシリン、アモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、抗シュードモナスペニシリン、メチシリン、ナフシリン、ジクロキサシリン、セファロスポリン、カルバペネム、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ドリペネム、テトラサイクリン、マクロリド、フルオロキノロン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)、ゲンタマイシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、セファゾリン、ムピロシン、テイコプラニン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、リファンピン、クリンダマイシン、リネドリド、アミノグリコシドおよび抗真菌剤より選択される1または複数の抗微生物剤をさらに含むが、これに限定されない、組成物が提供される。さらなる実施態様において、グラム陽性菌は、エス・アフェルメンタンス、エス・アウレウス、MRSA、エス・アウリクラリス、エス・キャピティス、エス・カプラエ、エス・コーンイ、エス・エピダーミディス、エス・フェリス、エス・ヘモリチカス、エス・ホミニス、エス・インターメジウム、エス・ルグドゥネンシス、エス・ペッテンコフェリ、エス・サプロフィチカス、エス・シュレイフェリ、エス・シムランス、エス・ビツラス、エス・ヴァルネリ、およびエス・キシロサス、ならびにストレプトコッカス属(ストレプトコッカス・アガラクティアエ(B群ストレプトコッカス)およびストレプトコッカス・ピオゲネス(A群ストレプトコッカス)を含む)より選択される。
【0046】
本発明のさらなる実施態様において、グラム陰性菌は、バンコマイシン耐性エス・アウレウス、メチシリン耐性エス・アウレウス、あるいはBD-635、ST250MRSA-1、ST2470-MRSA-I、ST239-MRSA-III、ST5-MRSA-II、ST5-MRSA-IV、ST239-MRSA-III、EMRSA15、EMRSA16、MRSA252、ST5:USA100、EMRSA1、ST8:USA300、ST1USA400、ST8:USA500、ST59:USA1000、USA1100、USA600、USA800、USA300、ST30、ST93、ST80、ST59、CC22、CC8、CC425およびCC398などの多剤耐性エス・アウレウス菌株等のエス・アウレウスである。
【0047】
本発明のもう一つ別の実施態様において、本発明に係るフィブリノーゲン組成物は、注射または注入による、特に静脈内、動脈内、腹腔内、腺内または膀胱内注射または注入による投与用であり、所望により医薬的に許容される担体をさらに含んでもよい。
本発明のもう一つ別の実施態様において、本発明に係るフィブリノーゲン組成物は、医薬組成物または製剤であり、好ましくは滅菌状態である。
【0048】
本発明のさらなる実施態様において、本発明に係るフィブリノーゲン組成物は、抗生物質を含む、ペニシリンG、オキサシリン、バンコマイシン、フルクロキサシリン、アモキシシリン、アンピシリン、抗シュードモナスペニシリン、メチシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、バンコマイシン、セファロスポリン、カルバペネム、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ドリペネム、テトラサイクリン、マクロリド、フルオロキノロン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、セファゾリン、(TMP/SMX)、ゲンタマイシン、ダプトマイシン、テラバンシン、ムピロシン、テイコプラニン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、リファンピン、クリンダマイシン、リネドリド、アミノグリコシド、および抗真菌剤より選択され得るが、これらに限定されない、1または複数の抗微生物剤と、同時に、連続してまたは別々に投与される。
【0049】
本発明のさらなる実施態様において、ヒトまたは動物の対象でのフィブリノーゲン結合病原菌関連感染症を治療し、発症を遅延または予防し、および/または重篤度を低減または制御する方法であって、本明細書に開示されるフィブリノーゲン組成物をヒトまたは動物の対象に投与し、フィブリノーゲン結合病原菌関連臨床症状を治療し、発症を遅延または予防し、および/または重篤度を処理、低減または制御する工程を含み、所望によりここで該病原菌がグラム陰性菌、グラム陽性菌、真菌またはその組み合わせから選択されてもよいところの、方法が提供される。
【0050】
本発明のさらなる実施態様において、ヒトまたは動物の対象での、例えば、心内膜炎に付随する、血流または心臓におけるフィブリノーゲン結合病原性負荷を治療または予防する方法であって、本明細書に開示される本発明に係るフィブリノーゲン組成物をヒトまたは動物の対象に投与し、血流または心臓における該フィブリノーゲン結合病原菌負荷を低減する工程を含み、所望により該心内膜炎のリスクのある患者の手術前であってもよいところの、方法が提供される。
【0051】
本発明のさらなる実施態様において、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種の使用であって、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む、ヒトまたは動物の対象におけるフィブリノーゲン結合病原菌の感染または毒性を治療、予防または低減するための薬剤の製造における、使用が提供される。
【0052】
本発明の別のさらなる実施態様において、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種の使用であって、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係るカルボキシル末端配列を含む、対象においてフィブリノーゲン結合病原菌によって惹起されるか、またはそれに付随する症状、例えば:肺炎、例えば院内肺炎;敗血症;菌血症;腹膜炎;心内膜炎;皮膚または軟組織感染症、例えば、膿痂疹;骨関節感染症、例えば、骨髄炎、敗血症性関節炎;人工関節感染症;骨感染症;胸膜肺感染症;創傷感染症、例えば、糖尿病性潰瘍;硬膜外膿瘍;髄膜炎;毒素性ショック症候群;尿路感染症または敗血性血栓性静脈炎、またはそれらの組み合わせを治療、予防または低減するための薬剤の製造における、使用が提供される。
【0053】
本発明のさらなる実施態様において、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種の使用であって、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係る配列を含む、ヒトまたは動物の対象におけるフィブリノーゲン結合病原菌の感染または毒性を治療、予防または低減するための薬剤の製造における、該フィブリノーゲンがヒトフィブリノーゲンであるところの、使用が提供される。
【0054】
本発明に係るフィブリノーゲン組成物は、「治療的に効果的な量」または「予防的に効果的な量」の本発明に係るフィブリノーゲン変種または組成物を含み得る。「治療的に効果的な量」は、所望の治療結果を達成するのに必要とされる投与量および期間で効果的な量を言う。フィブリノーゲン変種またはその組成物の治療的に効果的な量は当業者によって決定されてもよく、個体の病態、年齢、性別および体重、ならびにその哺乳類フィブリノーゲンまたは組成物の該個体にて所望の応答を惹起する能力などの因子に従って変わり得る。治療的に効果的な量はまた、治療的に有益な効果が、本発明のフィブリノーゲン変種または組成物のどの毒性または有害な効果をも上回るところの、量でもある。「予防的に効果的な量」は、所望の予防結果を達成するのに必要とされる投与量および期間で効果的な量を言う。典型的には、予防的用量は、疾患の発症前または初期の段階にて対象に使用されるため、その予防的に効果的な量は治療的に効果的な量よりも少ないであろう。
【0055】
本開示のフィブリノーゲン変種の組成物の治療的に効果的な量は、対象の体重1kg当たりのフィブリノーゲン変種の用量を相対的に捉え、約2.0mg/kg~約800mg/kg、約3.0mg/kg~約700mg/kg、約5mg/kg~約650mg/kg、約10mg/kg~約600mg/kg、約45mg/kg~約550mg/kg、約60mg/kg~約400mg/kg、約65mg/kg~約350mg/kg、約75mg/kg~約250mg/kg、約80mg/kg~約200mg/kg、約85mg/kg~約150mg/kg、および約90mg/kg~約100mg/kgであってもよい。
【0056】
本発明のさらなる実施態様において、本発明に係るフィブリノーゲン組成物は、約2、3、6、12または24時間の期間内に1回または複数回にて投与される。いくつかの方法において、フィブリノーゲンは約2、3、4、5、6、7またはそれ以上の日数の間隔で複数回投与される。
本発明のさらなる実施態様において、本発明に係るフィブリノーゲン変種は、約6、12、24、36、48または72時間あるいはそれ以上のインビボでの半減期を示す。
【0057】
医薬的に許容される担体として供することのできる材料のいくつかの例として、緩衝剤(以下に限定されないが、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質除去水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液など)、および他の非毒性賦形剤(以下に限定されないが、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなど)、ならびに調合者の判断に従って組成物に配合することもできる保存剤および酸化防止剤などを挙げることができる。技法および製剤は、一般に、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Meade Publishing Co., Easton, Pa.)で見ることができる。本発明に係る全身投与用の医薬的に許容されるビヒクルまたは担体は、少なくとも1の希釈剤、滑沢剤、結合剤、着色剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、抗酸化剤、溶媒、沈殿防止剤、湿潤剤、表面活性剤、それらの組み合わせ、および他のビヒクルまたは担体を包含する。好ましくは、担体、ビヒクルまたは希釈剤は、滅菌注射水、滅菌等張食塩水、滅菌リンゲル液または滅菌乳酸溶液を包含し、その選択は当業者に周知であろう。適切な溶媒として、水、等張食塩水、オレイン酸エチル、グリセリン、ヒドロキシル化ヒマシ油、エタノールなどのアルコール、およびリン酸緩衝液が挙げられる。全身用組成物中の溶媒の量は80%~約99.95%w/wまたはw/vの範囲にある。これらの材料は組成物の安定性またはそのいずれかの成分に悪影響を及ぼしてはならない。
【0058】
全身用組成物中の成分の量は製造される全身用組成物の型に応じて変化するが、一般に、全身用組成物は、0.05%w/w~20%w/w、例えば0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%~15%w/wのフィブリノーゲン、および80%~99.95%w/wまたはw/vの1または複数の医薬的に許容される担体を含む。非経口投与用組成物は、0.1%w/w~10%w/wまたは0.5%~15%w/wなどの0.05%w/w~20%w/wのフィブリノーゲン、および90%~99.9%w/wまたはw/vの希釈剤および/または溶媒を含む医薬的に許容される担体を含んでもよい。
【0059】
本発明に係る使用のための組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で滅菌および安定状態である。組成物は全身投与に適した種々の形態であってもよい。好ましくは、該組成物は注射に適しており、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、腺内または膀胱内注射または注入より選択される経路を介する非経口投与用に処方される。これに関連して、腺内には、哺乳動物、特にウシ、ヒツジおよびブタなどの家畜の乳房などの腺の内腔への直接投与が含まれる。本明細書にて開示されるフィブリノーゲン組成物の投与に適する他の動物として、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、ラバ、ロバ、シカ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、アルパカ、ラマ、バイソン、バッファロー、イノシシおよびヤクが挙げられる。典型的には、ヒト以外のフィブリノーゲンであるが、等価な動物のフィブリノーゲンが使用される。このようにして、畜牛、特に乳牛の乳房炎が予防または治療されうる。
【0060】
第1の態様にて、本発明は、感染症の治療または予防にて用いるための、2本のアルファポリペプチド鎖、2本のベータポリペプチド鎖および2本のガンマポリペプチド鎖を有するフィブリノーゲン変種を含む、またはから構成される組成物であって、ここで該ガンマポリペプチド鎖の少なくとも1つが配列番号3に係る配列を含む、組成物に関する。
【0061】
第2の態様にて、本発明は、第1の態様に係る使用のための組成物であって、一方のガンマポリペプチド鎖が配列番号1に係る配列を含み、他方のガンマポリペプチド鎖が配列番号3に係る配列を含む、組成物に関する。
【0062】
第3の態様にて、本発明は、第1または第2の態様に係る使用のための組成物であって、2本のアルファポリペプチド鎖が配列番号4に係り、2本のベータポリペプチド鎖が配列番号5に係る、組成物に関する。
第4の態様にて、本発明は、第1ないし第3の態様に係る使用のための組成物であって、少なくとも一方のガンマポリペプチド鎖が配列番号7に係る、組成物に関する。
【0063】
第5の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、さらに最大で約75%の、2本のアルファ、2本のベータおよび2本のガンマポリペプチド鎖を含むフィブリノーゲンを含み、ガンマポリペプチド鎖のカルボキシル末端の両方が配列番号1に係るものであり、該75%が組成物中の全フィブリノーゲンの重量%である、組成物に関する。
【0064】
第6の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、組成物中のフィブリノーゲンが組換えまたは血漿由来のフィブリノーゲンあるいはその混合物である、組成物に関する。
第7の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、ヒトまたは動物の対象での感染がフィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端への病原菌の結合によって惹起されるか、またはそれに付随する、組成物に関する。
【0065】
第8の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、感染がグラム陰性菌、グラム陽性菌および真菌からなる群より選択される1または複数の病原菌により惹起される、組成物に関する。
第9の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、病原菌が、バンコマイシン耐性エス・アウレウス、メチシリン耐性エス・アウレウス、および多剤耐性エス・アウレウスを含む、スタフィロコッカス・アウレウスである、組成物に関する。
【0066】
第10の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、感染が1または複数の、肺炎;敗血症;菌血症;腹膜炎;心内膜炎;皮膚または軟組織感染症;骨関節感染症;人工関節感染症;骨感染症;胸膜肺感染症;創傷感染症;硬膜外膿瘍;髄膜炎;毒素性ショック症候群;尿路感染症または敗血性血栓性静脈炎より選択される、組成物に関する。
【0067】
第11の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、注射または注入による投与のための、好ましくは静脈内、動脈内、腹腔内、腺内または膀胱内注射または注入による投与のための、組成物に関する。
第12の態様にて、本発明は、上記したいずれかの態様に係る使用のための組成物であって、医薬的に許容される担体またはアジュバントをさらに含む、組成物に関する。
【0068】
本明細書に記載のいずれの数値範囲も下限値から上限値までのすべての値を含み、列挙された最小値と最大値の間の数値(両端を含む)の可能なすべての組み合わせは、本願において明示的に示されていると考えるべきである。
【0069】
本明細書にて使用される場合、「治療する」、「治療」、「治療している」等は、ある症状に対して薬剤を作用させ、該症状を改善または改変させることでそれに影響を与えることをいう。該症状は、細菌によって惹起される感染症などの感染を包含するが、これに限定されない。薬剤は、細菌によって惹起される感染症などの感染を阻害または防止する能力を有するフィブリノーゲン変種または組成物を包含するが、これに限定されない。例えば、該薬剤は、本明細書に記載のフィブリノーゲンガンマプライム変種または組成物を包含する。改善または改変は、該症状に付随する徴候での改善、または該症状に付随する生理学的経路での改変を包含し得る。上記した用語は、対象(例えば、哺乳類、典型的にはヒト、またはヒト以外の獣医が関心のある動物)における症状の1または複数の治療に及び、(a)該症状の素因があると判断されたが、まだそのように診断されていない、対象にて該症状を発症するリスクを下げること、(b)該症状の進行を妨げること、(c)症状/感染症、および/または毒性および/または臨床的兆候を低減すること、(d)症状/感染症の発症を遅らせるか、または防止すること、(e)該症状の重篤度を治療、低減または制御すること、および/または(f)該症状を緩和すること、例えば該症状の退行を生じさせること、および/または1または複数の症状の徴候を緩和すること(例えば、感染症を低減または排除すること)を包含する。
【0070】
本明細書にて使用されるような、微生物に関して「低減する」、「抑制する」、「阻害する」、「減少させる」、「除去する」等なる語は、(残りの細胞の数または残りの総バイオマスに関して)微生物の完全または部分的な阻害(50%以上、好ましくは90%以上、その上さらに好ましくは95%以上、またはさらには99%以上の阻害)を意味する。さらには、阻害は永続的であっても一時的であってもよい。一時的な阻害に関しては、微生物は所望の効果を生じさせるのに十分な期間(例えば、少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間またはそれ以上)にわたって阻害され得る。好ましくは、微生物の阻害は、完全および/または永続的である(「根絶する」または「根絶」)(生き残った微生物がいない)。
【0071】
本明細書にて使用されるような、微生物に関して「防止する」等は、(残りの細胞の数または残りの総バイオマスに関して)微生物の完全または部分的な防止(50%以上、好ましくは90%以上、その上さらに好ましくは95%以上、またはさらには99%以上の防止)を意味し、またその範囲内に微生物に関連するプロセスをも包含する。さらには、防止は永続的であっても一時的であってもよい。一時的な防止に関しては、微生物は所望の効果を生じさせるのに十分な期間(例えば、少なくとも5日間、好ましくは少なくとも10日間またはそれ以上)にわたって阻害され得る。好ましくは、微生物の防止は、完全および/または永続的である。
【0072】
本明細書にて使用されるような「創傷」は、血液の循環系からの喪失を、または他のいずれかの流体の患者の体からの喪失をもたらす、患者のどこかの組織に対する何らかの損傷をいう。損傷は、外傷、感染または外科的介入を含む、何らかの物質または原因で引き起こされ得る。創傷は、器官などの軟組織に、または骨などの硬組織にあってもよい。組織は、器官または血管などの内部組織、または皮膚などの外部組織であってもよい。血液の喪失は、臓器の破裂からなどの内部的なものでも、または裂傷からなどの外部的なものであってもよい。
【0073】
当業者は、上記の実施態様を組み合わせ、本発明の範囲内にある新たな実施態様を形成し得ることを理解するであろう。
この度は、本発明を一般的に記載したが、同じことが以下の実施例(特記されない限り、例示として提供され、本発明を限定することを意図としない)を参考にすることでより容易に理解されるであろう。
【実施例】
【0074】
実施例1 フィブリノーゲン変種の血漿からの単離
野生型(WT)フィブリノーゲン(pFibγ411/411)およびフィブリノーゲンガンマプライム(pFibγ427/411)を含む血漿フィブリノーゲンの全体としての混合物(pFibトータル)を、英国、スウォンジーのEnzyme Research Labsより入手した(FIB3)。この材料を出発物質として用い、2本のWTγポリペプチド鎖を有する血漿フィブリノーゲン(pFibγ411/411)を、1本のガンマプライムポリペプチド鎖および1本のWTガンマポリペプチド鎖を有する血漿フィブリノーゲン変種(pFibγ427/411)から、Lawrenceら(Blood 1993, vol 82, no 8, pp 2406-2413)にて記載されるように、アニオン交換クロマトグラフィーを用いて分離した。pFibトータル、pFibγ411/411およびpFibγ427/411をSDS-PAGEで分析し、下記されるようにさらなる実験にて用いた(実施例3)。WTマウスから由来のマウスフィブリノーゲン(mFib γWT/WT)およびホモ接合型デルタ5トランスジェニックマウスから由来のフィブリノーゲン(mFib γΔ5/Δ5)をFlickら(2013)Blood (121):1783-1794にて記載されるように単離した。
【0075】
実施例2 WTフィブリノーゲンおよびホモ二量体フィブリノーゲンガンマプライムの組換え産生
フィブリノーゲンAα610鎖(アルファ野生型、配列番号4)、Bβ鎖(配列番号5)、γ411(ガンマ)鎖(配列番号6)およびγ427(ガンマプライム)鎖(配列番号7)をコードするcDNA配列をpCDNA3.1プラスミド(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)にてクローニングし、異なるフィブリノーゲン鎖の発現ベクターを構築した。Aα、Bβおよびγ鎖をコードするcDNAを含有する発現プラスミドの組み合わせを用い、HEK293細胞(Life technologies、EXPI293システム)を製造業者の指示に従って一過性発現に付し、完全に組み立てられた組換えヒトWTフィブリノーゲン(rhFibγ411/411)および組換えフィブリノーゲンガンマプライムホモ二量体(rhFibγ427/427)を産生した。これらの組換えフィブリノーゲン変種を、Kuyas Cら(Thrombosis Haemostasis 1990 Jun 28; 63 (3): 439-444)に記載されるように、GPRPカラムのアフィニティー精製を用いて精製し、(実施例3に記載されるように)SDS-PAGEで分析した。
【0076】
実施例3 血漿より単離されるフィブリノーゲンおよび組換え産生したフィブリノーゲンのSDS-PAGE分析
全体としての血漿フィブリノーゲン(pFibトータル)より単離されたpFibγ411/411およびpFibγ427/411を、還元条件下でSDS-PAGE分析に供した。約0.5~1.0マイクログラムのフィブリノーゲンサンプルをSDS-PAGEゲルにロードし、200ボルトで1時間にわたって操作し、クマシーブルーステインで染色した。結果を
図4に示す。
【0077】
レーン1:pFibトータル(全体血漿フィブリノーゲン)は主要バンドとしてAα610、Bβ461およびγ411を示した。わずかに分解したAαバンドがAα610バンドのすぐ下に見られ、γ427位置に弱いバンドがある。レーン2:pFibγ411/411はガンマポリペプチド位置に唯一のγ411バンドを含有する。レーン3:pFibトータルより単離されるpFibγ427/411は野生型Aα610およびBβ461ポリペプチドを含有するが、γ鎖ポリペプチドは略同等量のγ411およびγ427から構成され、pFibγ427/411がガンマポリペプチドに対してヘテロ二量体であることを示す。
【0078】
実施例2にて製造された組換え産物、rhFibγ411/411およびrhFibγ427/427についての結果を示す。レーン4:ポリペプチド鎖Aα610、Bβ461およびγ411を含有するrhFibγ411/411であり;レーン5:Aα610、Bβ461およびγ427を含有するrhFib γ427/427である。組換え産生される変種のポリペプチド鎖はトランスフェクションにて使用されるcDNA配列に相当する。
【0079】
実施例4 エス・アウレウスUSA300WTの、異なるフィブリノーゲン種の固定された組成物との結合
結合実験をFlick(2013)(Blood (121): 1783-1794)にて記載されるように行った。簡単に言えば、異なるフィブリノーゲン種の連続希釈液を、0~25マイクログラム/mlの範囲の濃度で96ウェルのマイクロタイタープレートに固定した。600nmで光学密度が約0.4の、指数的にまたは定常的に増殖する、エス・アウレウスUSA300WTおよびUSA300ClfA菌株を含む懸濁液を、フィブリノーゲンを固定したマイクロタイタープレートに添加し、37℃で2時間インキュベートした。結合していない細菌を取り除き、付着した細菌を25%ホルムアルデヒド溶液で固定し、0.1%w/vクリスタルバイオレット溶液で染色させた。結合したクリスタルバイオレットを10%v/v酢酸に溶かし、570nmで吸光度を測定した。570nmでの吸光度をフィブリノーゲンコーティング溶液中のフィブリノーゲン濃度に対してプロットした。各サンプルは三重重複して測定された。
【0080】
図5Aは、指数的に増殖するエス・アウレウスUSA300WTが、QAGDVモチーフが完全に欠失しているフィブリノーゲン種(mFibγΔ5/Δ5)と、またはAGDV配列が配列番号2と置換されているフィブリノーゲン種(rhFib γ427/427)と結合しないことを示す。定常増殖期にあるエス・アウレウスUSA300WTは、指数的に増殖する細菌(データを示さず)と比べて、同様の結合特性を示す。USA300ClfA菌株は試験したいずれのフィブリノーゲン種とも何ら結合を示さなかった(データを示さず)。これらのデータは、mFibγΔ5/Δ5およびrhFibγ427/427がエス・アウレウスUSA300WTに対して同様のインビトロ結合特性を表すことを示す。
【0081】
図5Bは、意外にも、指数的に増殖するエス・アウレウスUSA300WTと、pFibγ427/411およびpFibγ411/411との結合プロフィールが実質的に同一であることを示す。ガンマポリペプチドγ411およびγ427をほぼ等量で含有するpFibγ427/411の結合プロフィールは、γ411ポリペプチドを含有するだけのpFibγ411/411の結合プロフィールと比べ、何ら有意な違いを示さない。また、pFibγ427/411およびpFibγ411/411の混合物の結合プロフィールは、pFibγ411/411が100%の結合プロフィールと極めて類似している。定常増殖期にあるエス・アウレウス菌は同様の結果を示した(データを示さず)。
【0082】
図5Cは、意外にも、指数的に増殖するエス・アウレウスUSA300WTのpFibγ411/411との結合プロフィールが、固定化フィブリノーゲン組成物中で最大75%までのrhFibγ427/427の存在によって影響されないことを示す。
図5Bおよび5Cのデータは、フィブリノーゲンガンマ鎖中でのQAGDV結合モチーフの完全な喪失またはAGDVモチーフの完全な置換のみが、エス・アウレウスの固定化フィブリノーゲンとのClfA介在性結合の減少をもたらすことを示す。
【0083】
実施例5 異なるフィブリノーゲン種を含む種々の組成物によって誘発かつ支持されるエス・アウレウスの凝集
指数的および定常的に増殖するエス・アウレウスUSA300WTおよびUSA300ClfA菌株のフィブリノーゲン依存性凝集は、基本的には、Flickら(Blood (121): 1783-1794; 2013)によって記載されるように行われた。簡単に言えば、異なる精製したフィブリノーゲン変種およびその混合物の連続希釈物を、96ウェルのマイクロタイタープレートでエス・アウレウスの懸濁液と混合した。570nmでの吸光度の減少を測定し、1/吸光度(570nm)を凝集量の尺度としてフィブリノーゲン濃度に対してプロットした。
【0084】
図6Aは、指数的に増殖するエス・アウレウスUSA300WTの凝集が、QAGDVモチーフを完全に欠くフィブリノーゲン種(mFibγΔ5/Δ5)、またはAGDV配列が配列番号2と置換されているフィブリノーゲン種(rhFibγ427/427)によって支持されないことを示す。定常増殖期にあるエス・アウレウスUSA300WTは、指数的に増殖する細菌と比べて、類似するプロフィールを示す(データは示されず)。USA300ClfA菌株は試験いたいずれのフィブリノーゲン種とも凝集を示さなかった(データは示されず)。これらのデータは、mFibγΔ5/Δ5およびrhFibγ427/427が両方共に同様の方法にてエス・アウレウスUSA300WTに対するインビトロでの凝集特性の完全な欠如を表すことを示す。
【0085】
図6Bは、極めて意外にも、pFibγ427/411が指数的に増殖するエス・アウレウス菌の凝集を支持することを示す。その凝集曲線は、pFibγ411/411の曲線と実質的に同じである。その凝集曲線はpFibγ427/411とpFibγ411/411との混合物についても類似したままであった。pFibγ411/411支持の凝集についてpFibγ427/411による阻害は観察されなかった。定常増殖期にあるエス・アウレウス菌は同様の結果を示した(データは示されず)。
【0086】
図6Cおよび6Dは、100%のrhFibγ427/427が、指数的に増殖するエス・アウレウス菌の凝集を支持しなかったことを示す。しかしながら、指数的に増殖するエス・アウレウス菌(
図6C)を用いた場合、rhFibγ427/427とpFibγ411/411との混合物は、低いフィブリノーゲン濃度で、pFibγ411/411との結合が混合物中のrhFibγ427/427の存在によって影響を受けなかったとの知見(
図5C)があるにも拘わらず、pFibγ411/411誘発性凝集の用量依存的阻害を示した。
図6Dは、定常増殖期にあるエス・アウレウスを用いた場合に、rhFibγ427/427とpFibγ411/411との混合物による凝集の阻害は、低濃度のフィブリノーゲンでのみ起こり、75%rhFibγ427/427を含有する混合物中でのみ起こることを示す。これらの実験での凝集の完全な阻害はまた、100%rhFibγ427/427でのみ観察された。
【0087】
エス・アウレウスUSA300ClfA陰性菌株を用いる凝集実験(データは示されず)は、使用したいずれのフィブリノーゲン種とも凝集が全くないことを示し、エス・アウレウスの凝集がClfA介在のフィブリノーゲンとの相互作用に完全に依存することを示す。
【0088】
実施例4からのインビトロでの結果は、重要なインビボでの毒性因子であると考えられる、エス・アウレウスのフィブリノーゲンとのClfA介在性結合(付着)が、100%のフィブリノーゲンのカルボキシル末端の結合部位が欠失している場合(
図5Bおよび5Cの100%rhFibγ427/427)にだけ減少する、ことを示す。ClfAに対して50%のガンマカルボキシル末端結合部位を含有する、ヘテロ二量体pFibγ427/411、またはrhFibγ427/427とpFibγ411/411の混合物が使用された場合に、結合の減少は観察されない。
【0089】
さらには、実施例5からのインビトロでの結果は、ClfAを介在するエス・アウレウスの凝集が、pFibγ411/411と同程度に、ヘテロ二量体のpFibγ427/411によって支持されることを示す。rhFibγ427/427とpFibγ411/411の混合物は、エス・アウレウスUSA300WTにて凝集の用量依存的減少を示すが、フィブリノーゲン濃度の低い時だけである。指数的および定常的の両方で増殖するエス・アウレウスとの凝集の完全な阻害は、使用されるフィブリノーゲンの100%が、ガンマ鎖のカルボキシル末端領域においてClfA結合モチーフを完全に欠く、rhFibγ427/427であった場合に観察されるにすぎない。
【0090】
従って、これらのインビトロでの結果は、エス・アウレウスに感染したヒトまたは動物の宿主にてフィブリノーゲンガンマ鎖のClfA結合モチーフを減少させる、臨床的に意味のある十分な効果が、仮にフィブリノーゲン結合モチーフが完全に存在しない場合に、期待できるに過ぎないことを示唆する。ClfA結合モチーフを含有するフィブリノーゲンガンマ鎖での部分的減少で臨床的効果は期待されない。
【0091】
実施例6 エス・アウレウスUSA300WTで異なる攻撃をした後のホモ接合性(Fibγ
Δ5/Δ5)およびヘテロ接合性(Fibγ
WT/Δ5)デルタ5マウスの生存プロフィール
2.0x10
8CFU エス・アウレウスUSA300WT(
図7A)および6.0x10
8CFU エス・アウレウスUSA300WT(
図7B)ならびに7.0x10
8CFU エス・アウレウスUSA300WT(
図7C)を尾静脈注射した後に、ヘテロ接合性(Fibγ
WT/Δ5)およびホモ接合性(Fibγ
Δ5/Δ5)フィブリノーゲンデルタ5マウス(一方または両方のガンマ鎖にてQAGDVモチーフが欠失している)、およびWTマウスの生存能を比較した。実施例4および5のインビトロデータから予測されるように、ホモ接合性デルタ5マウス(Fibγ
Δ5/Δ5)は、エス・アウレウスでの異なる全ての攻撃でWTマウスと比較して、実質的な生存能の利点を示した。これは、Flickら(2013)(Blood(121): 1783-1794)によって公開される結果とも一致する。意外にも、フィブリノーゲンガンマ鎖ClfA結合モチーフを50%だけ欠失する、ヘテロ接合性デルタ5マウス(FIBγ
WT/Δ5)もまた、フィブリノーゲンWTマウスと比べて有意な生存能の利点を示した。しかしながら、Fibγ
WT/Δ5での生存能の利点は注射されるエス・アウレウスの用量に大きく依存する。低用量で、Fibγ
WT/Δ5変異の生存性の効果は中程度の用量でのFibγ
Δ5/Δ5マウスのそれと類似しており(
図7B)、高用量ではFibγ
WT/Δ5の生存能の利点はもはや観察されなかった(
図7C)。
【0092】
これらの結果は、意外にも、実施例4および5におけるインビトロの結果にも拘わらず、WTフィブリノーゲン(ClfA結合モチーフを含有する)のレベルに対して、ガンマ鎖にあるClfA結合モチーフを50%のレベルで欠失しているフィブリノーゲンが存在することは、それでもエス・アウレウスの毒性に対して十分な臨床的効果の意義を提供しうることを示す。しかしながら、FIBγWT/Δ5マウスでのQAGDVモチーフを欠く保護作用はエス・アウレウス感染の重篤度が増すにつれて低下するようである。
【0093】
実施例7 pFibトータル、pFibγ427/411ヘテロ二量体およびヒトpFibγ411/411で予防的に処理したフィブリノーゲン欠損(Fib
-/-)マウスのエス・アウレウスUSA300WTで攻撃した後の生存プロフィール
Suhら(Genes & Development. 1995 Aug 15; 9 (16): 2010-2033)に記載されるようにして生み出された、C57ブラック/6Jバックグラウンドの、年齢および性別を一致させた8~12週令のフィブリノーゲン欠損マウス(Fib
-/-)に、pFibγ411/411またはヒトpFibγ427/411あるいはpFibトータルを尾静脈注射を介して投与した。処理群はすべて少なくとも9匹の動物から構成された。種々のフィブリノーゲン種またはPBSを対照として注射した後、動物を5x10
8CFU(
図8A)または1.0x10
9CFU(
図8B)のエス・アウレウスUSA300WTで攻撃した。
【0094】
図8Aは、6mgのpFibγ411/411を注射した群において、50%以上の動物がエス・アウレウス菌で攻撃した後の16時間以内に死亡したことを示す。6mgのpFibγ427/411を注射した群において、この群では48時間以上を要した。フィブリノーゲンガンマ鎖のカルボキシル末端のClfA結合部位(AGDV)の50%を配列番号2の20merで置換すると、生存時間の2~3倍増が得られるようである(実施例10も参照のこと)。このことは、参考文献から、または実施例6のFibγ
WT/Δ5の結果から予測できなかった。
【0095】
図8Bは、PBS(対照)、3mgのpFibトータルまたは3mgのpFibγ411/411を注射した動物の70%以上がエス・アウレウス菌で攻撃した後に16時間以内に死亡したことを示す。極めて意外なことに、3mgのpFibγ427/411を注射した動物では、68時間経過した後でのみ、70%以上が死亡した。エス・アウレウスを高用量で注射した後の生存期間のこの顕著な増加は、Fibγ
WT/Δ5マウスにて中程度の用量で観察される生存期間の少しの増加(
図7B)およびFibγ
WT/Δ5マウスにて高用量のエス・アウレウスで生存能の利点が何もないこと(
図7C)に鑑みて、極めて意外なことである。従って、AGDVモチーフが20merのペプチド(配列番号2)と置換されるpFibγ427/411の生存性の効果は、QAGDVモチーフが欠失しているデルタ5フィブリノーゲンの生存効果と有意に異なり、それよりも大きいようである。理論に縛られることを望むものではないが、配列番号2の20merで観察される効果は、フィブリノーゲンのカルボキシル末端ガンマ鎖にあるClfAとその結合モチーフとの相互作用の阻害と部分的に関連付けられるだけで、20merの配列が病原体または宿主にて付加的な予期しない未知の効果(その効果がフィブリノーゲン結合と関係しない)を有し得ることを示す。
【0096】
実施例8 単回用量のpFibγ427/411およびpFibγ411/411を用いるWTマウスの予防的処理
年齢および性別を一致させた8~12週令のWTマウス(C57ブラック/6J)に、尾静脈注射を介して6mgのpFibγ411/411またはpFibγ427/411を投与した。処理群はすべて10匹の動物から構成された。エス・アウレウスUSA300WTでの感染も尾静脈注射を介して確立された。30分後、動物を3.2x108CFU エス・アウレウスUSA300WT菌株で攻撃した。対照動物にはPBSだけを投与した。観察期間は全体で6日間であった。
【0097】
図9は、pFibγ411/411を注射した動物の50%以上が、エス・アウレウス菌で攻撃した後の35時間以内に死亡したことを示す。pFibγ427/411を注射した動物では、50%以上が約84時間の期間の後に死亡した。このことは、pFibγ427/411の単回用量を用いるWTマウスの予防的処理が、pFibγ411/411の型と比較して、生存性の利点を提供することを示す。このことは、1)pFibγ427/411ヘテロ二量体と、pFibγ411/411との結合および凝集行動が極めて類似していること、および2)結果もまた、マウス自体のWTフィブリノーゲンの存在にも拘わらず、pFibγ427/411ヘテロ二量体が生存期間の増加を提供すること、の観点から極めて意外なことである。これらの結果は、pFibγ427/411が宿主自体のフィブリノーゲンの存在下でも生存能の利点を提供するため、それが臨床的関連性のあることを示す。
【0098】
実施例9 pFibγ427/411またはpFibγ411/411を反復投与したフィブリノーゲン欠損マウスの治療的処理
フィブリノーゲン欠損マウスを最初に5x108CFU エス・アウレウスUSA300WT菌株で攻撃し、次に感染させた1~2時間後に、PBSに20mg/mlの濃度に溶かした0.30mlの用量のフィブリノーゲン(6mg/動物)で処理し、つづいて感染から96時間後に、同じ用量のフィブリノーゲンで2回目の処理を行った。0.3mlのPBSを両方の治療時点で対照群に投与した。
【0099】
図10は、PBS(対照)を注射した動物の50%以上が60時間後に死亡したのに対して、pFibγ411/411で処理した群では、>50%が92時間後に死亡したことを示す。意外にも、生存性の有意な改善は、50%以上の動物が146時間後に死亡した、pFibγ427/411で処理した群にて観察された。これらの結果は、エス・アウレウスの感染に対して、pFibγ427/411の有意な治療効果が、感染を発症した後に投与された場合でも依然として期待されることを示す。
【0100】
実施例10 細菌結合部位の欠失および置換での生存時間の改善
実施例6にて報告されるように、デルタ5変異(ClfA結合部位のアミノ酸が欠失しているが、置換されていない)を有するトランスジェニックマウスでの生存時間の改善を、実施例7および8にて報告されるように、pFibγ427/411(ClfA結合部位が配列番号2の20merのペプチドと置換されている)を用いる予防的処理の生存時間の改善と比較した。生存時間の相対的増加は、50%以下の処理および対照マウスが生存している時点(t
<50%)を決定することにより、次式:
【化1】
を用いて、実施例6、7および8での生存データより計算される。
【0101】
結果が表1にて要約され、ClfA結合部位がガンマ鎖にない場合に生存性が改善されることを示す。極めて意外なことに、FibγWT/Δ5およびFibγΔ5/Δ5マウスのように、結合部位が欠失しているだけで、置換されていない場合よりも、pFibγ427/411のように、ClfA結合部位が配列番号2の20merで置換されている場合に、生存能は大幅に増加する。フィブリノーゲンのγ427鎖の存在はClfA結合とは独立した未知の機構によりさらなる生存時間の改善をもたらすようである。
【0102】
【配列表】