(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】新規鉄組成物及びその製造方法と使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20230727BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20230727BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20230727BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230727BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230727BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230727BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K9/02
A61K31/7016
A61K47/02
A61P7/06
A61P13/12
A61P37/06
(21)【出願番号】P 2021550178
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 US2020020517
(87)【国際公開番号】W WO2020176894
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-09-27
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520457096
【氏名又は名称】レニバス・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイザー,ドナルド・ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ギエム,アルバロ・エフ
(72)【発明者】
【氏名】ゼーガー,リチャード・エイ
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103340827(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104558064(CN,A)
【文献】Kidney Int.,2016年,Vol.90,pp.67-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/26
A61K 9/02
A61K 31/7016
A61K 47/02
A61P 7/06
A61P 13/12
A61P 37/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズプロトポルフィリン(SnPP)と組み合わせて使用するのに適した水性鉄医薬組成物であって、
薬学的有効量の鉄スクロース;
重炭酸塩;及び
薬学的に許容され得る水性担体
を含み、
前記鉄が、Fe
2+
及びFe
3+
の両方の形態で存在し、
前記医薬組成物が、
9より大きいpHを有し、0.05%w/v~0.41%w/vの
Fe
2+
の濃度を有し、及び
GPCによるMwが33,000~38,000ダルトンである、水性鉄医薬組成物。
【請求項2】
20℃で1.135~1.165の比重を有する、請求項1に記載の水性鉄医薬組成物。
【請求項3】
0.10%w/v~0.20%w/vの
Fe
2+
の濃度を有する、請求項1に記載の水性鉄医薬組成物。
【請求項4】
pHが、10.1~10.4の範囲である、請求項1に記載の水性鉄医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年2月28日に出願された「Novel Iron Compositions and Methods of Marking and Using the Same」と題する仮出願第62/812,028号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
静脈内(IV)鉄剤は、
図1に示すように、球状の鉄-炭水化物ナノ粒子からなるコロイドである。各粒子のコアには、鉄オキシ水酸化物ゲルがあり、コアは、鉄オキシ水酸化物を安定化する炭水化物のシェルによって取り囲まれている(リガンドの主な機能は、複合体を安定化し、それをさらなる多核化から保護することである)。
【0003】
鉄炭水化物複合体は、鉄が鉄(III)水酸化物コアから放出されなければならないので、プロドラッグとして振舞う。提唱された機構によれば、投与後、カルボキシマルトース第二鉄及び鉄デキストランなどの安定な(1型)複合体は、細網内皮系(RES)のマクロファージによるエンドサイトーシスによって取り込まれる。Danielson,J.Structure,chemistry,and pharmacokinetics of intravenous iron agents.Am.Soc.Nephrol.2004,15,S93-S98を参照のこと。
【0004】
安定性が低い鉄(III)-炭水化物(2型)の場合、特に高用量を投与した場合、複合体からかなりの量の不安定な鉄が放出され、トランスフェリンの飽和をもたらし、したがって、かなりの量の非トランスフェリン結合鉄(NTBI)につながる可能性がある。この弱く結合したFe3+は、細胞によって調節されない様式で容易に取り込まれ、酸化ストレスを誘導することができる。Evans,R.W.;Rafique,R.;Zarea,A.;Rapisarda,C.;Cammack,R.;Evans,P.J.;Porter,J.B.;Hider,R.C.Nature of non-transferrin-bound iron:studies on iron citrate complexes and the thalassemic era.J.Biol.Inorg.Chem.2008,13,57-74。
【0005】
FDA(1)INFeD(R)/Dexferrum(R)(鉄デキストラン)、Ferahem(R)(フェルモキシトール)、Injectafer(R)(鉄カルボキシマルトース)、Venofer(R)(鉄スクロース)、Ferrlecit(R)(グルコン酸第二鉄ナトリウム複合体)によって現在承認されている5種類の注射可能な鉄炭水化物製品がある。Venofer(R)という名称で販売されている鉄スクロースは、約34,000~60,000ダルトンの分子量(Mw)及び以下の分子式を有するコロイド懸濁液として製剤化される。
【0006】
[Na2Fe5O8(OH)・3(H2O)]nm(C12H22O11)
式中、nは鉄重合度であり、mは多核重合鉄コアと複合体を形成しているスクロース分子(C12H22O11)の数である。
【0007】
[Na2Fe5O8(OH)・3(H2O)]n
各mLは、注射用水中に鉄スクロースとして20mgの元素鉄を含有する。Venofer(R)は、5mLの単回投与バイアル(5mLあたり元素鉄100mg)及び10mL単回投与バイアル(10mLあたり元素鉄200mg)で入手可能である。製剤は、約30%のスクロースw/v(300mg/mL)を含有し、10.5~11.1のpHを有する。生成物は保存剤を含まない。注射のオスモル濃度は1,250mOsmol/Lである。
【0008】
鉄炭水化物を合成する方法は、約250,000~300,000ダルトンの好ましい分子量範囲を有する楕円体粒子を有する鉄欠乏を治療するためのオキシ水酸化第二鉄-デキストラン組成物を開示したLawrenceらのWO97/11711(1997)に記載されている。
【0009】
近年、鉄スクロースをスズプロトポルフィリン(SnPP)と組み合わせて使用して、器官に損傷を引き起こすことなく獲得細胞抵抗性を誘導している。Zagerらへの米国特許第9,844,563号明細書を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第97/11711号
【文献】米国特許第9,844,563号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】Danielson,J.Structure,chemistry, and pharmacokinetics of intravenous iron agents. Am.Soc.Nephrol.2004,15,S93-S98
【文献】Evans, R.W.; Rafique, R.; Zarea,A.;Rapisarda,C.;Cammack,R.;Evans,P.J.;Porter,J.B.;Hider,R.C.Nature of non-transferrin-bound iron:studies on iron citrate complexes and the thalassemic era.J.Biol.Inorg.Chem.2008,13,57-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、スズプロトポルフィリン(SnPP)と容易に組み合わせることができ、安定であり、鉄欠乏を治療するために患者に注射することができる、又は単独で若しくはSnPPなどの別の薬剤と組み合わせてその腎保護効果のための鉄スクロース製剤の必要性を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、望ましい特性を有する水性鉄スクロース組成物に関する。一態様では、水性鉄スクロース組成物は、鉄スクロース及び重炭酸塩を含む。一態様では、本発明は、鉄スクロース;重炭酸塩;及び薬学的に許容され得る水性担体を含む薬学的な水性鉄医薬組成物に関する。別の態様では、本発明は、鉄スクロース及び重炭酸塩を含む水性鉄組成物を治療有効量で静脈内投与することを含む、腎疾患又は障害を予防又は治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】水性鉄組成物の投与後18時間の腎臓のウエスタンブロットである。
【
図3】3つのS1調製物のGPCクロマトグラムを示す。
【
図5】3つのS1調製物のGPCクロマトグラムを示す。
【
図7】3つのS1調製物のGPCクロマトグラムを示す。
【
図9】S1、S2、及びS3のGPCの比較を示す。
【
図11】位置1におけるS1、粒子サイズ分析を示す。
【
図13】スクロースの、S1のFTIRスペクトル及び最良のライブラリマッチを示す。
【
図14】スクロースの、S2のFTIRスペクトル及び最良のライブラリマッチを示す。
【
図15】デキストランの、S3のFTIRスペクトル及び最良のライブラリマッチを示す。
【
図16】S1調製物1の1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図17】S2調製物1の1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図18】S3調製物1の1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図19】S1調製物1の13C NMRスペクトルを示す図である。
【
図20】S2調製物1の13C NMRスペクトルを示す図である。
【
図21】S3調製物1の13C NMRスペクトルを示す図である。
【
図22】3つの試料(凍結乾燥)の生データの比較を示す図である。
【
図23】3つ全ての試料からのデータのオフセットオーバーレイを示す図である(S3については2つの反復試験試料)。
【
図24】窒素パージ条件下でのS1、S2及びS3のTGAサーモグラムを示す。
【
図25】S1、S2及びS3のDSCサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一実施形態では、本発明は、水性鉄スクロース(FeS)及び重炭酸塩(FeS-重炭酸塩)組成物を含む。本発明者らは、この組成物が有益な特性を有することを見出した。一点では、本発明のFeS-重炭酸塩組成物は、腎保護剤として利用することができる。本発明者らは、本発明の実施形態によるFeS-重炭酸塩組成物が、商業的に入手可能な形態のFeSと比較して、腎臓に優先的に吸収されることを発見した。さらに、本発明者らは、FeS-重炭酸塩がFeS単独と比較して腎保護分子の優先的上方制御をもたらすことを見出した。別の態様では、本発明のFeS-重炭酸塩組成物は、他の腎保護剤、例えばスズプロトポルフィリン(SnPP)と有利に組み合わせて、注射可能な腎保護剤を容易に形成することができる。
【0016】
FeS-重炭酸塩を使用する1つの利点は、この組成物が腎保護効果の上昇をもたらすことである。具体的には、本発明者らは、FeS-重炭酸塩がFeS単独と比較して腎保護分子を優先的に上方制御することを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、FeSに加えて重炭酸塩が、存在するFe(III)及びFe(II)の相対レベルを変化させ得ることを提唱した。FeS-重炭酸塩生成物の赤みが観察されたため、本発明者らは、本発明の組成物が高レベルのFe(II)を含み得ることを提唱した。Fe(III)と比較してFe(II)の反応性が高いことを考えると、これは腎保護効果の上昇を説明し得る。
【0017】
FeS-重炭酸塩を使用する1つの利点は、重炭酸塩が緩衝効果を有することである。スズプロトポルフィリン組成物を使用する場合、SnPPは貯蔵中の望ましくない二量体化を防ぐために低pHで最もよく貯蔵されるので、これは有利であり得る。本開示によれば、SnPP組成物は、約1:2、約1:4、約1:8、約1:10、約1:20、約1:50、約1:100、約1:1000、約1:10,000、約1:100,000、約1:1,000,000、又はその間の任意の整数若しくは部分範囲など、約1:1以下というSnPP:FeSの比で、FeS-重炭酸塩組成物と組み合わせることができる。
【0018】
一態様では、組成物は、実施例1に記載のGPCを使用して測定された分子量を有する。Mpは、好ましくは25,000~35,000ダルトンの範囲内、より好ましくは28,000~32,000ダルトンの範囲内、最も好ましくは約29,000ダルトンである。Mwは、好ましくは25,000~45,000ダルトン、より好ましくは30,000~40,000ダルトン、さらにより好ましくは33,000~38,000ダルトンの範囲内、最も好ましくは約34,000ダルトンである。Mnは、好ましくは15,000~30,000ダルトンの範囲内、より好ましくは20,000~25,000ダルトンの範囲内、最も好ましくは約24,000ダルトンである。多分散度(PDI)は、好ましくは1.35~1.60の範囲内、より好ましくは1.38~1.5の範囲内、さらにより好ましくは1.40~1.48の範囲内、最も好ましくは約1.4である。
【0019】
一態様では、組成物は、-3.0mV以下、より好ましくは-7.0mV以下、最も好ましくは約-10mVの安定したゼータ電位を有する。一態様では、組成物は、8.5%未満、好ましくは8.0%未満、最も好ましくは約7.7%の全有機体炭素を有する。一態様では、実施例1に従って測定した重量オスモル濃度は、550~1600mOsm/kgの範囲内、好ましくは1500~1580mOsm/kgの範囲内、最も好ましくは約1540mOsm/kgである。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
本発明は、6.0Lに希釈した場合に12mg/mL(鉄として表される)溶液が得るために十分な鉄スクロース複合体を水(約3.5L)に溶解することによって調製される組成物を含む。必要な鉄スクロースの量は、6100mL(6.1L)という最終的な液体の体積に対して計算され、最終的な濃度は12mg/mLである。これには73.2gの鉄が必要である。鉄スクロースの使用効力は0.0550である。したがって、73.2g/0.0550又は1331g±1gの鉄スクロースが必要である。鉄スクロース、1331g±1gを、6.0Lの三角フラスコに直接秤量した。約3~3.5Lの水を三角フラスコに添加し、フラスコの内容物を撹拌する。
【0021】
重炭酸ナトリウムは、6.0Lに希釈したときに最終的な重炭酸ナトリウム濃度が10mg/mLになるような量で添加される。重炭酸ナトリウム109.8±0.1gを秤量し、6.0Lフラスコに加える。
【0022】
塩化ナトリウムは、希釈時に最終塩化ナトリウム濃度が9.0mg/mLになるような量で添加する。塩化ナトリウム(54.9±0.1)を秤量し、6.0Lフラスコに添加する。懸濁液を30~120分間撹拌して黒色不透明溶液を得る。
【0023】
pH10.30に達して安定したままになるまで、1M水酸化ナトリウムを少量ずつ添加し、その間、溶液のpHをpHメーターで監視する。水酸化ナトリウム40.0±0.1gを1.0Lの三角フラスコに加えた。1.0±0.1Lの水を1.0Lの三角フラスコに加え、水酸化ナトリウムが全て溶解するまで撹拌する。pHプローブを固定して6.0L三角フラスコのpHを監視し、水酸化ナトリウムをpH=10.3±0.1になるまで<100mLずつ添加する。次いで、溶液を10分間撹拌する。10分後に再度pHを確認し、必要に応じてpH=10.3±0.1以内になるよう調整する。
【0024】
次いで、溶液を体積測定的に正確なフラスコに移し、水で6.1Lに希釈する。2Lのメスフラスコを2回使用して、正確に4Lの10.3pH溶液を6Lの三角フラスコに移す。残りの10.3pHの溶液をメスフラスコで2Lに希釈し、6Lの三角フラスコに加える。100mLのメスシリンダーを用いて、6.0Lの三角フラスコに100±0.1mLを加え、得られた溶液を10分間撹拌する。
【0025】
得られた生成物溶液は暗赤色から褐色に見える。鉄の2つの同位体は、標準的な調製物の比率と一致する比率で試料調製物中に存在する。得られた材料のpHは10.3であり、これは10.1~10.4の好ましい範囲内である。得られた材料は、誘導結合プラズマ質量分析法によって鉄を決定するSOP174472に従って、11.5/11.6千分率(mg/mL)の鉄を有していた。
【0026】
得られた組成物のさらなる特性を以下の表1に示す。
【0027】
【0028】
得られたFeS-重炭酸塩組成物は、以下の化学量論を有し、物理定数を以下の表2に示す:
【0029】
【0030】
[実施例2]
実施例1の鉄スクロース(FeS)重炭酸塩組成物の静脈内投与を4時間実施したところ、商品名Venofer(R)で販売されている市販の鉄スクロース(FeS)組成物と比較して、腎臓ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)が上昇した。結果を以下の表3に示す。
【0031】
【0032】
腎臓で観察されたHO-1の上昇したレベルは肝臓では観察されなかった。代わりに、HO-1のレベルは、Venofer(R)で観察されたものと比較して、FeS-重炭酸塩で増加することは観察されなかった。結果を以下の表4に示す。
【0033】
【0034】
血漿BUN及びクレアチニンは、以下の表5及び6に示すように、FeS、Venofer(R)及びFeS-重炭酸塩の両方について同様であった。
【0035】
【0036】
【0037】
[実施例3]
実施例1のFeS-重炭酸塩組成物を濾過し、バイアルに入れ、12mg/mLのFeS濃度を有していた(CoreRxロット番号111002-18011)。この12mg/mL溶液のオスモル濃度は831mOsmであった。Venofer(R)Iron Sucrose Injection、20mg/mL、American Regent、ロット番号8243Aについて、オスモル濃度は1742mOsmであった。これらのオスモル濃度測定は希釈せずに行った。
【0038】
[実施例4]
水性鉄組成物の投与後18時間の腎臓のウエスタンブロットを
図2及び表7に示す:
【0039】
【0040】
左側は、SnPP、FeS(Venofer)又はFe+SnPPの18時間後の腎臓の重鎖特異的ウエスタンブロットである。N=正常な対照。Glycはグリセロールであり、H鎖フェリチン陽性対照として使用される。N=正常試料(対照)。明らかなように、Feは腎臓の重鎖の増加を誘導する。
【0041】
[実施例5]
慢性腎疾患に罹患している患者を、実施例1の鉄スクロース及び重炭酸塩の水性鉄組成物を使用する静脈内注射によって治療する。
【0042】
[実施例6]
実施例1の鉄スクロース及び重炭酸塩の水性鉄組成物を用いて、臓器移植を受けた患者を静脈内注射により治療する。
【0043】
[実施例7]
実施例1の鉄スクロース及び重炭酸塩の水性鉄組成物を用いて、スズプロトポルフィリンを併用して、臓器移植を受けた患者を静脈内注射により治療する。
【0044】
[実施例8]
鉄-スクロース(S1、S2)及び鉄-デキストラン(S3)の3つの試料を、様々な分析技術によって特徴決定した。上記の実施例1に従ってS1を調製した。S2は市販品のVenofer(R)(鉄スクロース注射液)である。S3は、市販品INFeD(R)(鉄デキストラン注射)である。結果を以下の表8に概説する。
【0045】
【0046】
最後に、受け取ったままの試料S1を希HClによって三連で滴定して、鉄スクロース注射液中の水酸化物の値を決定した。滴定の終点はpH=7.0であった。滴定された全ての塩基種がオキシ水酸化第二鉄コアに関連する水酸化物に由来するという仮定を使用して、滴定に使用されたH+の総モル数はOH-のモル数に等しいと仮定した。TOC及びGPCによるMw(又はMn)を考慮して、S1における鉄スクロースの分子式を以下のように計算した:
Mwに基づく計算:[Na6Fe5O8(OH)5・3H2O] 13・73(C12H22O11)
Mnに基づく計算:[Na6Fe5O8(OH)5・3H2O] 9・51(C12H22O11)。以下の表9は、試料の調製及び同定の詳細を示す。
【0047】
【0048】
試料の調製:
特に明記しない限り、分析前に試料を凍結乾燥して乾燥残渣にした。
【0049】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC):
GPCは、ポリマーの分子量分布を決定するために使用される。GPC分析では、ポリマーの溶液を多孔質ゲルが充填されたカラムに通す。試料は分子サイズに基づいて分離され、大きな分子は小さな分子よりも速く溶出する。各成分の保持時間を検出し、検量線と比較し、次いで得られたデータを使用して試料の分子量分布を計算する。
【0050】
固有の分子量があるというよりも、むしろ分子量が分布していることが、全てのタイプの合成ポリマーに特徴的である。この分布を特徴付けるために、統計的平均が使用される。これらの平均値の最も一般的なものは、「数平均分子量」(Mn)及び「重量平均分子量」(Mw)である。
【0051】
数平均分子量は、数の群に関連する標準的な算術での平均と同様である。ポリマーに適用される場合、数平均分子量は、ポリマー中の分子の平均分子量を指す。数平均分子量は、その個々の分子量にかかわらず、各分子に同じ量の有意性を与えると考えられる。数平均分子量は、Miに等しいモル質量を有する分子の数をNiとすると、以下の式によって求められる。
【0052】
【0053】
重量平均分子量Mwは、計算が若干異なり、意味が大きく異なる。重量平均分子量は、分子量分布の別の統計的記述子であり、分布中の相対的に小さい分子よりも相対的に大きい分子の有意性を提供する。下記の式は、重量平均分子量の統計計算を示す。
【0054】
【0055】
GPCについては、リン酸緩衝液(USPモノグラフ法による)で希釈することによって試料を調製し、分析して各試料の分子量分布を決定した。結果を以下の表10~12にて概説する。分析からの代表的なクロマトグラムを
図3~9に示す。
【0056】
重量平均分子量には2つの一般的な理由がある。第1に、例えば靭性を比較する場合、より長い分子は、より短い分子よりもポリマー分布の靭性に影響を与える。重量平均分子量計算は、これらのより長い分子に重点を置き、分子量分布に存在する長い分子の相対的な寄与を説明することができる比較の数を提供する。重量平均分子量は、光散乱、中性子小角散乱乱(SANS)及び沈降速度によるポリマーの分子量決定に直接相関する数でもある。
【0057】
第2に、重量平均分子量は、分子量分布の形状に対する洞察を提供する。この値は、数平均分子量に関連して、多分散指数又はPIと呼ばれる分子量分布の広がりの比率を決定する。PIは、Mw/Mnの比として定義される。PIが大きいほど分布が分散する。PIが取り得る最低値は1である。これは、単分散試料、すなわち分布中の全ての分子が同じ分子量であるポリマーを表す。
【0058】
共通して言及されるものではないが、「z平均分子量」(Mz)も得られる。この分子量平均は、分子量分布をさらに説明する値である。この値は、沈降平衡から容易に決定することができる。
【0059】
ピーク分子量Mpも含まれることがある。ピーク分子量値を分子量分布の最頻値とする。これは、分布において最も豊富な分子量を意味する。この値はまた、分子量分布に洞察を与える。
【0060】
ほとんどのGPC測定は、異なるポリマー標準(通常はポリスチレン)に対して行われる。結果の精度は、分析されているポリマーの特性が、使用されている標準の特性にどれだけ近いかに依存する。別々に較正された異なる一連の測定間の再現性の予想誤差は約5~10%であり、GPCの決定の限られた精度に特徴的である。したがって、GPCの結果は、異なる試料の分子量分布を同じ一連の測定中に比較する場合に最も有用である。
【0061】
GPCの精度及びバイアスは、測定値の平均、標準偏差、相対パーセント差及び/又はパーセント相対標準偏差などの統計データに基づく。定量分析のために、上記の表に列挙された量は、既知量の標準物質を基準とし、定量的である。検量線を作成し、相対的な標準偏差及び相対的なパーセントの差の情報を上記の報告で参照する。測定システムの統計的工程制御によって決定される半定量的な典型的な再現性については、約10%(95%信頼水準、kは約2)と推定される。この再現性は、経時的な単一の標準測定の不確実性の推定値であり、特定の測定における不確実性は、事例ごとに決定されなければならない。定性分析のために、個々の成分の存在を確認するために分析参照標準を分析しなかった。そのような場合、提供される一致の「不確実性」に数値を割り当てることは不可能である。
【0062】
なお、試料S1及びS2は、分子量分布が異なる2つのピークを含み、対して試料S3は、3つのピークを含んでいた。また、「ピーク2」(小分子ピーク、おそらくはスクロース)については、ピークが検出器を飽和させたため、Mpを計算することができなかったことに留意されたい。より高い分子量の種の特徴付けに適した濃度で試料を分析し、検出器をより関心の低い低分子量の種で飽和させることを犠牲にした。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
動的光散乱
レーザ回折装置を用いてPSD分析を行った。測定は、粒子群のレーザ回折パターンから体積分布を計算する。次いで、この生の散乱データをアルゴリズムで処理し、等価球面直径に基づいて提示する。結果は、示されたサイズよりも小さい及び大きい差分体積パーセントを与えるヒストグラムにおいて体積(質量)ベースで概説されている。
【0067】
粒径分析は、Malvern(R)Zetasizer Nano ZS動的光散乱(DLS)装置で行った。DLSは、ブラウン運動で移動する粒子によって散乱された光を分析し、粒子の拡散速度に基づいて粒径分布を生成するアンサンブル技術である。生の散乱データは、複雑なアルゴリズムを使用して処理され、強度加重HYDRODYNAMIC DIAMETERに基づいて提示される。この分析技術は、ISO22412:2008Particle Size Analysis-Dynamic Light Scattering(DLS)並びにASTM E2490-09(2015)Standard Guide for Measurement of Particle Size Distribution of Nanomaterals in Suspension by Photon Correlation Spectroscopy(PCS)に概説されている。
【0068】
受け取ったままの試料は注射用水(WFI)であり、DLSによって分析して粒子の全体的な物理的寸法を得た。分析からの強度及び体積加重結果をそれぞれ表13及び表14に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
ゼータ電位
試料を、緩衝液(装置は、ナノ材料2018、8、25あたり10mMのNaClで希釈した場合、安定した読み取り値を達成できなかった)で希釈することによってゼータ電位について調製した。ゼータ電位分析の時点でpH及び温度を記録した。結果を以下の表6~8に概説する。S2について安定した読み取り値を得ることができなかった。ゼータ電位試験の結果を表15~17に報告する。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
原子間力顕微鏡(AFM)
受け取ったままの試料をMilliQ濾過水(18.2MΩ/cm、TOC4ppb)を用いて50倍希釈した。約10μLのこれらの希釈溶液を新たに切断した雲母片に堆積させ、約1分間インキュベートした。次いで、試料をMilliQ水で5回すすぎ、窒素で乾燥させた。各試料に2つの1μm×1μmの領域を画像化した。これらの画像のトポグラフィの差を色で表し、茶色が低く、白色が高い。z範囲は、画像の右側の垂直スケールバーに示されている。これらの表面の斜視(3D)図はまた、キャプションに垂直方向に誇張して記載されて、含まれている。
【0076】
粒径分析を行って、各領域内に存在する粒子の高さを特徴付けた。0.5nmの高さの閾値を使用して、代表的でない特徴を除外しながら、目的の粒子を同定した。最大の高さ、最小の高さ、及び平均の高さの結果を表18に概説する。
【0077】
【0078】
断面分析を行って、代表的な粒子の高さを手動で測定した。位置1におけるS1の断面分析を
図10、
図11、及び
図12に示す。結果を、S1、S2、S3の各々について表19に概説する。
【0079】
【0080】
全有機炭素(TOC)
試料中の全有機体炭素(TOC)は、全炭素から無機炭素を差し引くことによって計算した(燃焼炭素分析器を使用して決定した)。結果を以下の表20に概説する。
【0081】
【0082】
オスモル濃度
試料の重量オスモル濃度は、蒸気圧法を用いて測定した。蒸気圧法は、自然平衡状態の試料を用いて室温での重量オスモル濃度を決定する。重量オスモル濃度試験の結果を表21に概説する。
【0083】
【0084】
Fe+3対Fe+2
各試料のアリコートを、クライアント、Guptaらによって提供された方法の参照に従って濃塩酸に希釈した。1次いで、試料を、Stookeyによって概説された方法に従って分析した。2結果を表22に示す。
【0085】
【0086】
誘導結合プラズマ/質量分析(ICP/MS)による元素スクリーン及び誘導結合プラズマ/光放射分光法(ICP/OES)による総鉄及びナトリウム含有量
ICP/OESは、成分を元素ごとに同定及び定量するために使用される分光技術である。ICPでは、誘導結合は、エアロゾルとして試料を含む不活性ガスの流れに高周波エネルギーを伝達する。エネルギーは、エアロゾルを気化させる一方で、得られた遊離原子を励起してそれらを発光させる。この場合、この光の強度は、発光原子の濃度に関連する。この技術は、分析運転シーケンスの前、最中、及び完了後に、機器の較正及び第2のソースの較正検証を必要とする。さらに、機器のブランクは、各検査検証規格に従う。これにより、分析シーケンス中のキャリーオーバがないことが保証される。ICPによって行われる主要元素の濃度測定は、典型的には(95%信頼水準で)3~5%の範囲の不確実性を有する。微量元素の濃度の不確実性は、有意に高い可能性がある。
【0087】
試料S1~S3を、金属及び/又は他の元素についてICP-MSによって分析した。試料をICP-OESによって分析して、総鉄及びナトリウム含有量を決定した。試料を3連で受け取ったまま分析した。結果を表23~25に概説する。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)は、材料の同定のために選択される手段である。FT-IRでは、赤外吸収バンドは特徴的な官能基に割り当てられる。いくつかのそのようなバンドの存在に基づいて、検討中の材料を識別することができる。既知の化合物のスペクトルの利用可能性は、陽性同定を行う確率を高める。凍結乾燥試料を、赤外線放射(IR)の内部反射に基づいて、水平減衰全反射(HATR)によって分析した。スペクトルライブラリの一致を伴うS1のFT-IRスペクトルを以下の
図13に示す。データは、物質がスクロースと一致することを示唆している。S2及びS3のFT-IRスペクトルを
図14及び
図15に示す。官能基に対する吸収の割り当てを表26~表28に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
1H核磁気共鳴分光法(NMR)
NMR分光法は、材料の特性評価に非常に有用な方法である。NMRは、原子の核の磁気特性に基づく物理現象である。NMRは、非常に強力な外部磁場と整列させ、電磁パルスを使用してこの整列したものを摂動させることによって、磁性核(最も一般的には水素原子のもの)を研究する。摂動に対する応答が記録され、個々の核はそれぞれ、その化学的、電子的、及び空間的環境に固有の応答を与える。
【0096】
凍結乾燥試料を重水(D2O)で再構成し、1H NMR分光法によって分析した。
【0097】
【0098】
スクロースの構造を、式(I)の水素アノテーションと共に上に示す。S1の1H NMRを以下の表29に示す:
【0099】
【0100】
【0101】
式(II)の水素アノテーションを用いてデキストランの構造を上に示す。以下の表30は、S3の1H NMRを示す。
【0102】
【0103】
調製した試料のNMRスペクトルを
図16~18に示す。可能な場合、NMRスペクトルで観察された主要な化学シフトの仮の割り当ては、文献で入手可能な関連化合物の参照スペクトルに基づいた。
【0104】
データは、スクロースが試料S1に存在し、化学シフトが文献に報告されているものとよく一致することを示している。しかし、ピーク分割パターンは観察されず、これはナノ粒子の存在又は常磁性鉄自体などの複数の理由による可能性がある。
【0105】
試料S2の1H NMRスペクトルは、かなりの量のピークの広がりを示す。これが、化学的環境の数を増加させる微粒子に起因するのか、又は試料中の鉄の性質が分解能の欠如の原因となり得るのかは不明である。広がりの程度のために、ピークの割り当てを行うことができなかった。しかし、化学シフト2.5~4.2ppmから大きな広範な応答が観察され、5.5ppm付近の溶媒ピークでわずかな肩部が見えるため、一般的なピーク強度及び化学シフトはスクロースで観察されたものと一致する。
【0106】
13C核磁気共鳴分光法(NMR)
凍結乾燥試料を重水(D2O)中で再構成し、13C NMR分光法によって分析した。
【0107】
結果を表28~30に概説する。調製した試料のNMRスペクトルを
図19~21に示す。可能な場合、NMRスペクトルで観察された主要な化学シフトの仮の割り当ては、文献で入手可能な関連化合物の参照スペクトルに基づいた。
【0108】
データは、スクロースが試料S1及びS2に存在し、化学シフトが文献に報告されているものとよく一致することを示している。なお、プロトンスペクトルと同様に、試料S2は、試料S1よりも大きく広がっているように見えた。最後に、試料S3で観察されたピークはデキストランの文献での値とよく一致し、それが試料中に存在することを示している。
【0109】
【0110】
スクロースの構造は、炭素アノテーションを用いて上に示されている。13C NMRの結果を以下の表31に示す。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
デキストランの構造は、式(III)の炭素アノテーションで上に示されている。以下の表33は、D2O中のS3のデキストランの13C NMRを示す:
【0115】
【0116】
X線回折(XRD)分析(凍結乾燥物)
XRD分析は、結晶性無機試料に単エネルギーX線を照射する方法である。試料の格子構造とこれらのX線との相互作用が記録され、照射されている結晶構造に関する情報を提供する。得られた特徴的な「フィンガープリント」は、試料中に存在する結晶性化合物の同定を可能にする。ホールパターンフィッティング分析(リートベルト法)を使用して、2つ以上の結晶性化合物を含有する試料に対して定量分析を行うことが可能である。
【0117】
凍結乾燥試料をXRDによって分析して、試料中に存在する化学構造及び相を特徴付けた。分析の結果を表34に示す。この試料調製方法では、S1及びS2の試料が特に粘着性であった(S3は粘着性が低かった)ことに留意されたい。S1及びS2については、一滴のメタノールを試料に添加し、材料を試料ホルダ内に平らに広げた。試料S3を乳鉢と乳棒で粉砕した。
【0118】
【0119】
図22は、明確にするために、3つの試料からのXRD生データを小さいオフセットでオーバーレイしている。試料S2は、全体強度、ピーク位置及びピーク形状の点で他の2つの試料とは異なる。試料S1及びS3の広いピーク形状は、これらの試料がナノ結晶材料と非晶質材料との混合物からなることを示している。
【0120】
バックグラウンドモデルの実験データを、それぞれ試料S1、S2、及びS3のICDD/ICSD回折データベースと比較することによって得られた最良の一致を使用して、試料S1及びS3は、非晶質及びナノ結晶性材料の混合物を含むと決定された。酸化鉄ナトリウム基準のパターンをこれらの実験データに重ね合わせた。マーカーは、各相の予想される回折ピークの位置を示し、マーカーの高さは、微粒子化されたランダムに配向された材料の相対ピーク強度を示す。他の2つの試料とは異なり、試料S3は主にスクロース及び非晶質材料で構成されている。
【0121】
バックグラウンド曲線上方の全ての領域を占めるリートベルト法のサブセットであるWPF(全パターンフィッティング)を使用して半定量分析を行った。この技法は、構造因子及び原子位置又は基準強度比(異なる相の回折力を比較する方法)のいずれかが、識別された全ての相について既知であることを必要とする。この工程の間、構造因子(濃度に関連する)、格子パラメータ(ピーク位置に関連する)、ピーク幅及びピーク形状は、R値-パターン全体にわたるモデルと実験データとの間の一致の推定値-を最小にするために、各相について精密化される。
【0122】
測定可能な量の非晶質材料を含有する試料から定量的結果を得るためには、非晶質材料の存在量を決定するために、非晶質の密度を割り当てなければならない。その結果、非晶質材料の濃度は不確定である。これらの試料における非晶質ピークの位置は、約1.59g/cm3の密度を有する非晶質スクロースに由来すると仮定される。WPFは試料中の全てを説明しようとするため、非晶質濃度の誤差は結晶相にも誤差をもたらす。これは、結晶相の相対濃度は正しいが、絶対値は非晶質濃度の誤差に比例する量だけ誤差があることを意味する。
【0123】
X線回折(XRD)分析(糖を含まない材料)
受け取ったままの試料を水で希釈し、10000Da分子量カットオフ(MWCO)フィルターに入れ、遠心分離して製剤中の小分子(糖)を除去し、従来式のXRD分析で非晶質物質を生じさせた。次いで、試料を水でさらに5回洗浄して、残留小分子を除去した。得られた材料(フィルターを通過することができる)を凍結乾燥し、XRDによって分析して、試料中に存在する化学構造及び相を特徴付けた。試料S3は、遠心分離後に2つの別個の層、厚い粘性層及び薄い上層を含んでいたことに留意されたい。これらの層を分離し、別々に凍結乾燥し、2つの試料として分析した。結果を平均して表35に見られる値を得たが、各層の個々の反復試験試料を以下の図に示す。分析の結果を表35に示す。
【0124】
【0125】
4つ全ての試料(S3については2つの反復試験試料)からのXRDパターンのオーバーレイを
図23に示す。パターンは、明確にするためにオフセットされている。バックグラウンドモデルの実験XRDデータと試料のICDD/ICSD回折データベースとの間の最良の一致を比較することによって、相同定を行った。相の参照マーカーは、試料が微粒子化されランダムに配向されている場合、2θにおいて予想される実験ピークがどこに位置すべきかを示し、マーカーの高さは実験ピークの予想強度を示す。XRDは結晶構造に敏感であるが、元素又は化学状態の組成に比較的反応しないことに留意されたい。これらの試料の相同定は、XRDパターンのピークを著しく広げる試料のナノ結晶性のために困難であった。
【0126】
4つ全ての試料に存在するピークと最もよく一致するのは、マグヘマイトとして知られる酸化鉄相及び水酸化酸化鉄相である。水酸化酸化鉄相は、ベータ相の水酸化酸化鉄物の約300℃までの加熱から形成されるため、非典型的である。残念ながら、この基準のカードは、半定量分析に必要な基準強度比(RIR)を含まない。しかし、対称性及び組成は水酸化酸化鉄鉱物ゲーサイト(α-FeOOH)のものと同様であるため、ゲーサイトの平均RIRを半定量分析のために水酸化酸化鉄に使用した。
【0127】
バックグラウンド曲線より上の全ての強度を説明するリートベルト法のサブセットであるWPF(全パターンフィッティング)を使用して半定量分析を行った。この技法は、構造因子及び原子位置又は基準強度比(異なる相の回折力を比較する方法)のいずれかが、識別された全ての相について既知であることを必要とする。この工程の間、構造因子(濃度に関連する)、格子パラメータ(ピーク位置に関連する)、ピーク幅及びピーク形状は、R値-パターン全体にわたるモデルと実験データとの間の一致の推定値-を最小にするために、各相について精密化される。
【0128】
紫外可視分光法を用いた不安定な鉄(III)の酸分解
UV/Vis分光法は、一度に、又はしばしば所望の期間にわたって分析物濃度を決定するために使用される。この技法は、液体試料を通る紫外光波長及び可視光波長にわたる光の吸収を測定する。試料を小さなバイアルに分注し、UV/Vis光の経路と検出器との間に配置する。Beer-Lambertの法則によれば、一定の光路長及び波長に依存する既知の吸収係数を用いて、問題の化合物の濃度は、その波長で試料によって吸収された光から決定することができる。
【0129】
試料を、UV可視分光法を使用して試料中の不安定な鉄(III)の量を決定する、BS.Barotら(2014)から適合させた方法を使用して分析した。結果を以下の表36に概説する。
【0130】
【0131】
熱分解分析(TGA)
TGAは、制御された雰囲気中の温度の関数として、材料の重量変化を測定することからなる。この技術は、重量、温度、及び温度変化の正確な測定を必要とする。分析から生成された得られたサーモグラムは、成分クラス(例えば、溶媒、ポリマー、無機充填剤など)の含有量及びポリマーの熱安定性を決定することができる。TGA測定に典型的な精度及びバイアスは、ASTM E2040で論じられている。
【0132】
凍結乾燥試料を、窒素パージ及び空気パージ下で熱重量分析(TGA)によって分析した。試料の熱分解は、
図24に示すように、3つの異なるステップで行われる。これらのステップの結果を表37に概説する。
【0133】
【0134】
示差走査熱量測定(DSC)及び示差熱分析(DTA)
凍結乾燥試料をアルゴンパージ下で示差走査熱量測定(DSC)によって分析した。示差走査熱量測定(DSC)は、試料と不活性基準との間の遷移に関連する熱流の差を温度及び時間の関数として測定する。そのような測定は、吸熱若しくは発熱工程、又は熱容量の変化を伴う物理的及び化学的変化に関する定量的及び定性的情報を提供する。DSCサーモグラムについては
図25を参照されたい。DTAの概要を以下の表38に示す。
【0135】
【0136】
滴定による水酸化物価及び分子式の判定
受け取ったままの試料S1を0.00998NのHClで三連で滴定して、鉄スクロース注射液中の水酸化物値を決定した。滴定の終点はpH=7.0であった。表39は、S1におけるこの滴定の結果をまとめたものである。
【0137】
滴定された全ての塩基種がオキシ水酸化第二鉄コアに関連する水酸化物に由来するという仮定を使用して、滴定に使用されたH+の総モル数はOH-のモル数に等しいと仮定した。TOC及びGPCによるMwを考慮して、S1中の鉄スクロースの分子式を以下のように計算した:
[Na6Fe5O8(OH)5・3H2O]13・73(C12H22O11)
この計算のためにMnを考慮すると、分子式は以下の通りである。
【0138】
[Na6Fe5O8(OH)5・3H2O] 9・51(C12H22O11)
【0139】
【0140】
本発明の他の実施形態及び使用は、本明細書の考察及び本明細書に開示される本発明の実施から当業者には明らかであろう。全ての米国及び外国の特許及び特許出願を含む、本明細書で引用される全ての参考文献は、具体的及び完全に、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書及び実施例は、単なる例示と見なされ、本発明の真の範囲及び精神は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。