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7320635補間された仮想開口レーダ追跡のためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】補間された仮想開口レーダ追跡のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
G01S13/90
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021577384
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 US2019040696
(87)【国際公開番号】W WO2020014085
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520244304
【氏名又は名称】オクリー コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】OCULII CORP
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ラング
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スティーブン
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-511488(JP,A)
【文献】米国特許第10048366(US,B1)
【文献】特開2019-071529(JP,A)
【文献】特開2017-040477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0024235(US,A1)
【文献】特開2003-240832(JP,A)
【文献】特開2010-217035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補間された仮想開口アレイレーダ追跡のための方法であって、
第1の位相関数を有する第1のプローブ信号を送信するステップと、
第2の位相関数を有する第2のプローブ信号を送信するステップと、
追跡ターゲットによる第1のプローブ信号の反射に応答して、レーダアレイで第1の反射プローブ信号に対応する信号インスタンスの第1のセットを受信するステップであって、前記追跡ターゲットとレーダアレイが、ターゲットベクトルによって接続され、前記レーダアレイが、第1のレーダ軸に沿って配置された第1の複数のレーダ要素を含む、ステップと、
前記追跡ターゲットによる第2のプローブ信号の反射に応答して、前記レーダアレイで第2の反射プローブ信号に対応する信号インスタンスの第2のセットを受信するステップと、
前記第1の反射プローブ信号および前記第2の反射プローブ信号の少なくとも一方からターゲット距離を計算するステップと、
信号インスタンスの第1のセットを前記レーダアレイの物理的な受信機要素に対応させるステップと、
信号インスタンスの第2のセットを前記レーダアレイの仮想要素の第1のセットに対応させるステップであって、前記レーダアレイの仮想要素が、要素平行移動関数によって前記レーダアレイの物理的な要素に対して表現される、ステップと、
前記第1の位相関数および前記第2の位相関数を用いて前記信号インスタンスの第1および第2のセットをともに処理し、前記信号インスタンスの第2のセットを前記物理的な受信機要素から離れた仮想の受信機要素によって受信できるようにするとともに、前記仮想の受信機要素から発生するエラーを制限できるようにすることにより、信号インスタンスの第3のセットを生成するステップと、
信号インスタンスの第3のセットを、前記レーダアレイの仮想要素の第2のセットに対応させるステップと、
第1の基準ベクトルと第1の投影ターゲットベクトルとの間の第1のターゲット角度を計算するステップであって、前記第1の投影ターゲットベクトルが、第1の基準面に投影されたターゲットベクトルであり、前記第1の基準面が、前記第1のレーダ軸と前記第1の基準ベクトルの両方を含む、ステップと、
前記ターゲット距離と前記第1のターゲット角度から、前記レーダアレイに対する前記追跡ターゲットの相対的な位置を計算するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記第1のターゲット角度を計算することが、信号インスタンスの第1、第2および第3のセットを使用してビームフォーミングを実行することを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記第1のターゲット角度を計算することが、信号インスタンスの第1、第2および第3のセットを使用してパラレル視野(FOV)検出を実行することを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
パラレルFOV検出を実行することが、第1の要素と、受信機要素の上位セットの他の要素とのペアに対して、FOV検出ベクトルの第1のセットを生成することを含み、前記受信機要素の上位セットが、物理的な受信機要素と、仮想要素の第1および第2のセットとを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
パラレルFOV検出を実行することが、FOV検出ベクトルの第1のセットを使用して第1のターゲット角度を計算することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
パラレルFOV検出を実行することが、FOV検出ベクトルの第1のセットを同時に生成することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、
前記第1のターゲット角度を計算することが、仰角および方位角のうちの一方を計算することを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法において、
前記第1のプローブ信号を送信することが、第1の送信機要素から前記第1のプローブ信号を送信することを含み、前記第2のプローブ信号を送信することが、第2の送信機要素から前記第2のプローブ信号を送信することを含み、前記第1の送信機要素と前記第2の送信機要素とが、非ゼロの距離で隔てられていることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記第1の送信機要素を参照する第1の位相関数が、前記第2の送信機要素を参照する第2の位相関数と同一であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記要素平行移動関数が、前記第1のターゲット角度から独立していることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、
前記第1のプローブ信号が第1の期間中に送信され、前記第2のプローブ信号が第2の期間中に送信され、前記第2の期間が、前記第1の期間に続き、かつ前記第1の期間と重ならないことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法において、
前記第1のプローブ信号が第1の周波数帯域で送信され、前記第2のプローブ信号が前記第1の周波数帯域と重ならない第2の周波数帯域で送信されることを特徴とする方法
【請求項13】
請求項9に記載の方法において、
前記第1のプローブ信号が第1の振幅変調でエンコードされ、前記第2のプローブ信号が前記第1の振幅変調と非同一の第2の振幅変調でエンコードされることを特徴とする方法
【請求項14】
請求項8に記載の方法において、
前記第1の送信機要素を参照する第1の位相関数が、前記第2の送信機要素を参照する第2の位相関数と同一ではないことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記第1の位相関数および前記第2の位相関数が一定の位相だけ異なることを特徴とする方法
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、
前記第1の位相関数および前記第2の位相関数が、時間的に変化する位相だけ異なることを特徴とする方法
【請求項17】
請求項14に記載の方法において、
前記要素平行移動関数が前記第1のターゲット角度に依存することを特徴とする方法
【請求項18】
請求項5に記載の方法において、
計算した位置データに応答して、前記第1のプローブ信号および前記第2のプローブ信号のうちの少なくとも一方を修正するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、
前記第1のプローブ信号および前記第2のプローブ信号のうちの少なくとも一方を修正することが、前記レーダアレイに仮想要素を追加して前記レーダアレイの仮想開口を広げるように、前記第1のプローブ信号および前記第2のプローブ信号のうちの少なくとも一方を修正することを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、
前記第1および第2のプローブ信号のうちの少なくとも一方を修正することが、パラレルFOV検出で使用される中心角を修正するために、前記第1のプローブ信号、前記第2のプローブ信号、前記第1の反射プローブ信号および前記第2の反射プローブ信号のうちの少なくとも1つの位相を変調することを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、
前記第1および第2のプローブ信号の位相が、前記第1および第2の反射プローブ信号の位相とは独立して変調され、それによりターゲットエイリアスの除去を可能にすることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してレーダの分野に関し、より具体的には、補間された仮想開口レーダ追跡のための新規で有用なシステムおよび方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月30日に出願された米国特許出願第15/883,372号の継続出願である2018年7月11日に出願された米国特許出願第16/032,369号の一部継続出願であり、これら出願はすべて、この引用によりその全体が援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
従来のアレイベースの受信機は、図1(1Dアレイ)に示すように、ビームフォーミング(例えば、デジタルビームフォーミング)を使用して、1または複数のアレイ内の異なる受信機(またはアンテナ)で受信されたプローブ信号の間の時間または位相差を測定することによって、方位角および/または仰角を計算する。受信機アレイの代わりに送信機アレイを使用しても同様の効果を得ることができる。これらの従来の解決策には限界がある。すなわち、角度分解能は、アレイ内の要素数と、アレイとターゲットの間の角度の両方に依存する。
ここで、Nはアレイ内の要素数、dはそれらを隔てる距離である。
【0004】
このようなシステムの分解能を向上させるためにアレイ補間を使用することができるが、一般的な補間スキームは、半波長未満の間隔を持つ均一なアレイを必要とし、補間されていないシステムと比較して改善が限られている。
【0005】
このため、レーダの分野では、補間された仮想開口レーダ追跡のための新規で有用なシステムおよび方法を創出する必要性がある。本発明は、そのような新規で有用なシステムおよび方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、1D受信機アレイレーダシステムの従来例の図である。
図2図2Aは、SAR追跡における物理的開口の一例を示す図である。図2Bは、SAR追跡における仮想開口の一例を示す図である。
図3図3Aは、VAA追跡における第1の物理的開口の一例を示す図である。図3Bは、VAA追跡における第2の物理的開口の一例を示す図である。図3Cは、VAA追跡における仮想開口の一例を示す図である。
図4図4Aは、従来の受信機アレイに入射する信号の図である。図4Bは、従来の受信機アレイに入射する信号の信号図である。
図5図5Aは、VAAシステムに入射する信号の図である。図5Bは、VAAシステムに入射する信号の信号図である。
図6図6は、本発明の一実施形態の方法のチャート図である。
図7図7Aは、IVAA追跡における第1の物理的開口の例示的な図である。図7Bは、IVAA追跡における補間前の仮想開口の例示的な図である。図7Cは、IVAA追跡における補間後の仮想開口の例示的な図である。図7Dは、IVAA追跡における第1の物理的開口の例示的な図である。図7Eは、IVAA追跡における補間前の仮想開口の例示的な図である。図7Fは、IVAA追跡における補間後の仮想開口の例示的な図である。図7Gは、IVAA追跡における第1の物理的開口の例示的な図である。図7Hは、IVAA追跡における補間後の仮想開口の例示的な図である。
図8図8は、距離を隔てた2つの送信機要素からの位相シフトの例示的な図である。
図9図9は、IVAAシステムの補間前における仮想送信機および受信機要素の図である。
図10図10は、物体位置パラメータのデカルト座標図である。
図11図11Aは、補間された仮想開口アレイの物理的要素および仮想要素の例示的な図である。図11Bは、補間された仮想開口アレイに対応する視野の例示的な図である。
図12図12Aは、従来のビームフォーミングの例示的な図である。図12Bは、本発明の一実施形態の方法のビームステアリングの例示的な図である。
図13図13は、ターゲットエイリアスの例示的な図である。
図14図14Aは、本発明の一実施形態の方法の送信ビームステアリングの例示的な図である。図14Bは、本発明の一実施形態の方法の送信ビームステアリングの例示的な図である。
図15図15は、本発明の一実施形態のシステムの図である。
図16図16は、本発明の一実施形態のシステムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施形態の以下の説明は、本発明をそれらの実施形態に限定することを意図するものではなく、当業者が本発明を製造および使用することを可能にすることを意図している。
【0008】
1.仮想開口アレイ(VAA)レーダ追跡
背景技術のセクションで述べたように、従来のアレイベースのレーダシステムには限界がある。すなわち、角度分解能が、受信機アレイ内の要素数と、アレイとターゲットの間の角度の両方に依存する。
ここで、Nはアレイ内の要素数、dはそれらを隔てる距離である。
【0009】
ここで、アレイ要素の数(およびそれらを隔てる距離)は、受信機の開口に関連する。すなわち、要素が多くなるほど(または要素間隔が広がるほど)、受信機の開口が増大する。角度分解能の公式から明らかなように、(キャリア周波数を変えずに)角度分解能を上げるためには、受信機の開口を大きくする必要がある。一般的に、これは受信機アレイの要素を追加したり、要素間の分離距離を増やしたりすることによって行われるが、これらの手法は、受信機アレイの物理的なサイズまたはコスト、および物理的な複雑さの何れか一方または両方を増加させる。それにもかかわらず、この従来の手法は、処理レイテンシを相対的に殆ど変化させずにレーダの分解能を向上させるという点で優れている。
【0010】
この従来の手法に代わるものとして、合成開口レーダ(SAR)が開発されている。SARでは、図2Aに示すように、移動アンテナ(またはアンテナアレイ)が移動しながら複数の信号を順次補足する。その後、それらの信号は、図2Bに示すように、(アンテナの動きの知識を使用して)結合され、より大きなアンテナの効果をシミュレートする。SARは、レーダ開口の増加をシミュレートすることができる(よってレーダの分解能を向上させることができる)が、正確なアンテナ運動データを必要とし、一般的に処理レイテンシの大幅な増加を伴う。どちらの要件も多くの用途で問題となる。
【0011】
仮想開口アレイ(VAA)レーダ追跡と呼ばれる新規な手法は、物理的アレイサイズを増大させることによる追加のコスト/サイズ、またはSARの重大な欠点(例えば、運動データ要件および高い処理レイテンシ)を招くことなく、(SARが行うように)拡大したレーダ開口をシミュレートするために作られたものである。この手法は、米国特許出願第15/883,372号において初めて紹介されている。なお、「仮想開口」という用語は、レーダ追跡の分野で様々な使用法があるが、本願で使用されるように、仮想開口アレイレーダ追跡は、本明細書に記載の追跡手法を特に指す(この用語を共有する無関係な手法は指さない)ことに留意されたい。
【0012】
VAAレーダ追跡技術は、物理アレイで第1の信号のインスタンスを同時に(従来のフェーズドアレイのように)捕捉し、次に、同じ物理アレイで第2の信号のインスタンスを捕捉し(なお、第2の信号のインスタンスは、同時に捕捉されるが、第1の信号のインスタンスが捕捉されるときと必ずしも同時ではない)、適用可能であれば、同じ方法で追加のインスタンスを捕捉し、最後に、すべての捕捉したインスタンスから受信したデータをまとめて処理して、他の方法よりも高分解能のレーダ追跡解をもたらすように機能する。特筆すべきことに、第1および第2の信号(および任意の追加信号)は、個別の位相情報でエンコードされる。この個別の位相情報により、第2の信号のインスタンスを、物理的アレイから離れた仮想受信機アレイで受信したものとして扱う(物理的な開口よりも大きな仮想的な開口を形成する)ことが可能となる。例えば、第1の信号は、図3Aに示すように、第1の位相エンコーディングを有するように捕捉され、第2の信号は、図3Bに示すように、第2の位相エンコーディングを有するように捕捉され、これらの信号が、図3Cに示すように、一緒に処理されるようにしてもよい。
【0013】
図4Aに示すように、反射信号が6要素レーダアレイに、ある角度(すなわち、垂直ではない角度)でターゲットから受信されると、図4Bに示すように、アレイ内の各受信機要素で受信された信号は、アレイ内の他の要素で受信された信号に対して相対的に位相がシフトされる。位相シフトと要素間の間隔から、アレイに対するターゲットの角度を決定することができる。
【0014】
図5Aに示すように、VAAは、2つの位相シフトされた信号を使用することにより、3つの要素のみで同じ開口をシミュレートすることができ、その結果、図5Bに示すような受信機要素での信号をもたらすことができる(例えば、t2でのRXにおける信号が、図4BでのRXにおける信号と類似していることに留意されたい)。「仮想要素」の位置は、第1の信号と第2の信号との間の位相シフトに依存する。
【0015】
2.補間された仮想開口アレイレーダ追跡のための方法
補間された仮想開口アレイ(IVAA)レーダ追跡のための方法100は、図6に示すように、プローブ信号のセットを送信するステップS110と、反射プローブ信号のセットを受信するステップS120と、反射プローブ信号のセットから初期追跡パラメータを計算するステップS130とを含む。この方法100は、さらに、初期追跡パラメータを精密化するステップS140および/またはプローブ信号特性を修正するステップS150を含むことができる。
【0016】
元のVAA手法は(特に、小さな送受信アレイでうまく機能する点において)強力なものであるが、仮想アレイの寸法が増加すると、システム内のエラーも増加する。これは、追加された各仮想要素が本質的に物理アレイの外挿であるためである。本出願は、元のVAA追跡の態様に基づいて構築されるが、補間された僅かな物理アレイのフレームワーク内で構築される(仮想アレイ要素の追加により発生するエラーを制限する)新規技術に関するものである。例えば、図7Aに示すように、(まばらに間隔を空けた)2つの送信機と3つの受信機のアレイでは、受信アレイが両方の送信機からのプローブ信号を受信し、VAAを使用して図7Bに示すように信号を処理し、それにより開口を増やして、角度分解能を向上させることができる。図7Cに示すように、補間を組み込むことにより、角度分解能をさらに高めることができる。補間の更なる例が、図7D図7F(これらの例では、物理的な受信機要素の第1のペアが半波長未満の距離だけ間隔を空けているが、追加の要素はさらに間隔を空けることができることに留意されたい)、並びに、図7G及び図7H(前の例は1Dアレイに関して与えられているが、この手法は2次元または3次元に拡張できることに留意されたい)に示されている。このような態様では、IVAAのパフォーマンスが物理的なアレイのパフォーマンスに近づき、必要なアレイ要素の数は格段に少なくなるが、IVAAの柔軟な性質により、更なる利点が得られる。後述するように、IVAAは、ターゲットの識別にFOV検出ベクトルベースのアプローチを利用することができ、これにより、従来のビームステアリングの欠点を伴うことなく、広い視野(FOV)にわたって高い角度分解能を提供することができる。以下、この手法を「パラレルFOV検出」と称する。なお、VAAおよびIVAAと同様に、「パラレルFOV検出」という用語は、後述する検出手法を指す(この用語を共有する関連性のない技術を指すものではない)。さらに、IVAAは、それ自体、FOVをさらに増加させるために、送信および/または受信位相修正を利用することができる。
【0017】
本方法100は、好ましくは、IVAAレーダ追跡のためのシステム(例えば、システム200)によって実行されるが、追加的または代替的には、仮想開口アレイ物体追跡を実行することが可能な任意の適切な物体追跡システム(例えば、SONAR、LIDAR)を使用して実行されるものであってもよい。
【0018】
S110は、プローブ信号のセットを送信することを含む。S110は、ターゲットによって反射された後に、ターゲットに関する情報(例えば、相対的な位置、速度など)を提供することができる信号のセットを送信するように機能する。好ましくは、S110は、周波数偏移変調(FSK)RADAR信号または周波数変調連続波(FMCW)RADAR信号を送信することを含むが、S110は、これらの制約条件を満たす任意の信号、例えば、電磁信号(RADARにおける電波、LIDARにおける赤外線波/可視光波/UV波など)、音声信号(SONARなど)を送信することを含むことができる。
【0019】
S110は、好ましくは、少なくとも2の別個のプローブ信号を送信することを含む。S110におけるプローブ信号のセットは、好ましくは、2つの制約条件を満たす。すなわち、セットの各々は、(いくつかの基準点から測定されるように)位相が異なり、セットの各々は、受信時に他のものと区別可能である。位相の違いにより、開口の効果的な拡大(よって角度分解能の向上)が可能になり、一方で、識別性により、受信時に、位相の違いを考慮して信号データが適切に処理されることを保証する。
【0020】
S110は、いくつかの方法で位相の区別を達成することができる。例えば、S110は、物理的に異なるアンテナ素子からプローブ信号を送信することを含むことができる。図8に示すように、ターゲットが送信機要素からある角度にある場合、分離は固有の位相差(角度に依存するもの!)をエンコードする。距離dTXを隔てた2台の送信機の場合、垂線からθでのターゲットにおける位相差はおよそ、
となり、受信機で見られる位相差はほぼ同じである。
【0021】
第2の例として、S110は、同じ1または複数のアンテナ素子からであるが、異なる位相情報を有するプローブ信号を、異なる時間に送信することを含むことができる。例えば、S110は、第1の時間にアンテナ素子から第1の信号を送信し、その後、第2の時間に同じアンテナ素子から第2の位相シフト信号を送信することを含むことができる。これは、第1の例における位相差と同等ではなく、ターゲットで見られる(第1の信号と第2の信号との間の)位相差dφは(ほぼ)一定であり、ターゲットの角度に依存しないことに留意されたい。また、この位相の区別により、図9に示すように、増加した受信機要素のシミュレーションが得られる一方で、増加した送信機要素のシミュレーションも得られることに留意されたい。
【0022】
その結果、アンテナ素子の分離によって位相の違いがもたらされるが、仮想開口のサイズは、すべてのターゲット角度に対してほぼ同じであり、明示的な位相シフトの例では、仮想開口のサイズはターゲット角度に依存する。例えば、送信機分離の場合、アレイシフトは、
と表すことができ、一方、明示的な位相シフトの場合、
となり、dφは定数となる(よって、darrayはターゲット角度に依存する)。
【0023】
S110は、好ましくは、位相シフタ(すなわち、位相シフトが理想的には周波数に依存しないデバイス)を用いて明示的な位相シフトを実行するが、S110は、追加的または代替的には、遅延線(または位相シフトが周波数に依存する他の任意のデバイス)および/または時間遅延と位相シフタの任意の組合せを用いて、明示的な位相シフトを実行するようにしてもよい。
【0024】
S110は、追加的または代替的には、位相シフト手法を組み合わせること(例えば、距離を隔てた複数の送信機を使用し、それら送信機を互いに相対的に位相シフトすること)を含むようにしてもよい。
【0025】
実施例は、時間不変の位相シフトで示されているが、S110は、追加的または代替的には、送信機を物理的にシフトする(すなわち、dTX時間依存性を与える)ことによって、かつ/または位相が時間の関数である場合に位相dφを付加することによって、時間とともに位相を変調することを含むことができることに留意されたい。送信信号の経時的な位相は位相関数と呼ばれる。位相関数は任意のポイントを参照することができる。例えば、(ゼロではない距離で隔てられた)第1および第2のアンテナ素子がそれぞれ同一の第1および第2の信号を生成する場合、(第1の送信機を参照する)第1の信号の位相関数は、(第2の送信機を参照する)第2の信号の位相関数と同一であると云える。しかしながら、送信機アレイからある角度でターゲットで反射した後のそれら2つの信号の位相は、ターゲットでは(あるいは受信機アレイでは)同一とは見えない。
【0026】
S110は、追加的または代替的には、(例えば、操縦アンテナまたは指向性アンテナを使用して、アンテナを掃引しながら位相を変調することにより、アンテナアレイを使用して、アレイの異なる要素について位相を変調することにより)角度に関して位相を変調することを含むようにしてもよい。
【0027】
S110は、いくつかの方法の何れかで信号識別性を達成するようにしてもよい。前述したように、S110が信号の識別性を可能にする1つの方法は、信号を時間二重化する(例えば、第1の位相エンコーディングで第1の周波数チャープ信号を送信し、その後、第2の位相エンコーディングで第2の信号を送信する)ことであるが、S110は、追加的または代替的には、信号を周波数二重化する(例えば、第1の周波数帯域内で第1の周波数チャープ信号を送信し、第1の周波数帯域と重ならない第2の周波数帯域内で第2の周波数チャープ信号を送信する)ことにより、または信号をエンコードする(例えば、別個の周波数変調または振幅変調手法を使用して、信号を他のものと区別する)ことによって、信号を識別可能とするようにしてもよい。S110は、追加的または代替的には、任意の方法で信号の識別性を達成するようにしてもよい。
【0028】
S120は、反射プローブ信号のセットを受信することを含む。S120は、S110で送信されたプローブ信号の反射から生じるデータを受信するように機能する。S120は、好ましくは、反射したプローブ信号の位相、大きさおよび周波数情報を測定することを含むが、S120は、追加的または代替的には、反射プローブ信号の利用可能な任意の特性を測定することを含むことができる。
【0029】
S120は、好ましくは、信号識別情報(すなわち、送信されたセットのどの信号に反射プローブ信号が対応するかを決定するための情報)を回復するために必要な任意のデータを測定することを含む。
【0030】
S130は、反射されたプローブ信号のセットから初期追跡パラメータを計算することを含む。S130は、レーダ受信機に対するターゲットの少なくとも相対的な位置を特定する追跡パラメータのセットを計算するように機能する。追加的または代替的には、追跡パラメータは、物体追跡に関連する追加的なパラメータ(例えば、ターゲット速度、ターゲット加速度)を含むことができる。なお、S130は、位置解を得るために必要な数よりも多くの追跡パラメータを所与のターゲットに対して計算することを含み得ることに留意されたい。例えば、後述するように、物体の位置を計算するためには、距離、方位角および仰角のみが必要かもしれないが、合成角も計算して、方位角/仰角の計算を精密化および/またはチェックするために使用するようにしてもよい。
【0031】
さらに、S130は、主に反射プローブ信号から追跡パラメータを計算することを含むが、S130は、追加的または代替的に、プローブ信号を使用して計算されない物体追跡に関連するパラメータ(例えば、レーダのエゴモーション速度)を計算または別の方法で受信するようにしてもよい。
【0032】
ターゲット位置を確立するために使用されるパラメータは、任意の座標系およびベースで定義することができる。本出願において、ターゲット位置は、好ましくは、レーダを原点とするデカルト座標系(例えば、x,y,zがターゲット位置を表す)、または同じ原点を有する球面座標系で表されて、位置が、距離(R)、方位角(α)および仰角(θ)によって定義されるものであってもよい。代替的には、ターゲット位置は、任意の方法で記述されるものであってもよい。なお、仰角(および同様に方位角)は、基準ベクトルと投影ターゲットベクトルとの間の角度の一例であることに留意されたい。ここで、投影ターゲットベクトルは、基準平面(基準ベクトルを含む基準平面)に投影された、ターゲットと観測器(例えば、レーダ)との間のベクトルである。本方法100は、そのような任意の角度を計算することを含むことができる。
【0033】
前述したように、物体追跡に関連する任意のパラメータをS130で計算することができ、計算することができるいくつかの追加のパラメータには、ターゲット距離レート(dR/dt、典型的にはドップラーデータから計算される)、相対ターゲット速度(レーダ受信機に対するターゲットの速度)、レーダのエゴモーション速度(本願では、エゴベロシティと称する、静止位置に対するレーダ受信機の相対速度)が含まれる。これらは関連していてもよいが、例えば、距離レートは、相対的なターゲット速度にレーダとターゲットとの間の視線角の余弦を乗じたものに相当する。
【0034】
S130は、追加的または代替的に、合成角(β、ターゲットとレーダとの間の角度:β=arccos[cosα×cosθ]、図10も参照)の計算を含むことができる。合成角は、仰角と方位角から求めることができる(その逆もまた同様である)が、ドップラーデータから算出することもできる。例えば、仰角および方位角が第1のデータ源(例えば、受信機アレイ内の受信機間の位相差)から計算され、合成角が第2のデータ源(例えば、ドップラー周波数シフトおよび相対速度)から計算される場合、より正確な解を得るために、合成角を、仰角および方位角とともに使用することができる。
【0035】
S130は、任意の適切なデータ源から追跡パラメータを計算することを含むようにしてもよい。例えば、水平方向の受信機アレイを有するレーダシステムで動作する場合、アレイ内の各受信機から見た反射プローブ信号の間の位相差に基づいて方位角を計算するようにしてもよい。同様に、仰角は、鉛直方向の受信機アレイによって同様の方法で計算されるものであってもよい(かつ/または、仰角および方角位は、2次元の受信機アレイによって同様の方法で計算されるものであってもよい)。距離は、例えば、プローブ信号の移動時間に基づいて計算されるものであってもよい。距離レートは、例えば、瞬時に(例えば、ドップラー周波数シフトデータを用いて)算出するようにしても、あるいは経時的に(例えば、経時的な距離の変化を測定することにより)算出するようにしてもよい。前述したように、合成角は、仰角/方位角から導き出されるか、またはドップラーデータ:
から明示的に計算されるものであってもよい。
【0036】
S130は、さらに、任意の方法で相対的なターゲット速度を計算することを含むことができる。例えば、S130は、ターゲットが静止していると判定して、エゴベロシティに基づいて相対的なターゲット速度を計算することを含むことができる(すなわち、この場合、相対ターゲット速度はエゴベロシティである)。ターゲットは、どのような方法で静止していると判定されるものであってもよく、例えば、静止しているターゲットとして視覚的にターゲットを識別することによって(例えば、停止標識はその外観により識別することができる)、静止しているターゲットとしてレーダ断面によりターゲットを識別することによって(例えば、停止標識または道路は、形状または他の特徴によって識別することができる)、ドップラーデータを他の(例えば、位相)データと比較することによって(例えば、ドップラーデータによって提供される合成角が、仰角および方位角から導出される合成角と実質的に異なる場合、それは移動しているターゲットであり得る)、ターゲットのサイズによって、または他の任意の方法によって、ターゲットが静止していると判定される。同様に、エゴベロシティは、任意の方法(例えば、レーダ受信機の位置に結合されたIMUまたはGPS受信機、外部追跡システムなど)で決定することができる。別の例として、S130は、外部データ、例えば、レーダ受信機の位置に結合された視覚追跡システムからの推定値に基づく相対的なターゲット速度情報を受信することを含むことができる。相対的なターゲット速度情報は、外部追跡システムまたはターゲット自体によって提供されるもの(例えば、ターゲット車両からのIMUデータの送信)であってもよい。
【0037】
ドップラー周波数シフトを決定するために、S130は、高速フーリエ変換(または分析のために時間領域信号を周波数領域に変換する他の任意の手法)を使用して反射信号データを周波数領域に変換することを含むことができる。また、S130は、スライディング高速フーリエ変換(SFFT)、またはスライディング離散フーリエ変換(SDFT)や短時間フーリエ変換(STFT)などの同様の手法を用いて、システム性能を向上させることもできる。これらの手法により、サンプルストリーム内の連続したサンプルに対するフーリエ変換を、非常に低い計算負荷で計算できるようになり、性能が向上する。
【0038】
S130は、好ましくは、最初に信号インスタンスを受信機要素にリンクし(S131)、補間された信号インスタンスを生成することにより(S132)、2以上の反射プローブ信号から初期追跡パラメータを計算することを含む。S130は、リンクされたインスタンス(補間を介して生成されたものを含む)から、追跡パラメータを計算することを含む。その後、S130は、ビームフォーミングを実行することにより(S133)、かつ/またはパラレルFOV検出を実行することにより(S134)、追跡パラメータを計算することを含むことができる。
【0039】
S131は、信号インスタンスを受信機要素にリンクすることを含む。S131は、所与の受信機要素で受信した信号インスタンスを実または仮想受信機要素に対応させるように機能する。例えば、第1の(ゼロ位相)信号と第2の(位相シフトされた)信号を時分割多重化するレーダシステムは、物理的な受信機要素で受信された信号インスタンスを、その受信機要素(反射信号が第1の信号である場合)か、またはシフトされた仮想受信機要素(反射信号が第2の信号である場合)の何れかに対応させることができる。なお、仮想受信機要素の平行移動がターゲット角度に依存しない場合もあるが、仮想受信機要素の平行移動がターゲット角度に依存する場合には、すべての受信信号を合わせて使用する前に、受信信号の1または複数のサブセット(各サブセットが固有の送信信号の1つに対応する)を独立して使用して、最初に(仮想受信機要素の位置を知るために)ターゲット角度を予備的に決定することが要求される場合があることに留意されたい。別の言い方をすれば、仮想要素は、要素平行移動関数(element translation function)によって物理的要素の観点から記述されてもよく、この平行移動関数が既知ではない場合(分離された送信機の場合のように)、S131は、所与のターゲットに対する要素平行移動関数を決定することを含むことができる。
【0040】
S132は、補間された信号インスタンスを生成することを含む。S132は、捕捉されたものから追加の信号インスタンスを生成するように機能し、それらの追加の信号インスタンスは、他の(実または仮想)受信機要素の間に配置された追加の仮想受信機要素に対応する。例えば、S131において、信号インスタンスが位置{0,d,2d,3d}の物理的な受信機要素と、{10d,11d,12d,13d}の仮想受信機要素にリンクされている場合、S132は、{4d,5d,...,8d,9d}の仮想受信機要素に対応する追加の信号インスタンスを生成することを含むことができる。S132は、それらの補間された信号インスタンスを生成するための任意の手法を使用することができる。
【0041】
一実施形態では、S132は、補間された受信機要素にわたって予想および/または予測されるような信号成分をシミュレートするために、(測距システムの送信機によって送信される)位相変調コードの線形結合を生成することを含む。
【0042】
S133は、複数の受信機要素にわたってビームフォーミングを実行することを含む。一旦、データが実受信機要素または仮想受信機要素の位置にリンクされると、S133は、ビームフォーミング技術を用いて物体追跡データ(例えば、ターゲット距離および角度)を計算するように機能する。S133で使用され得るビームフォーミング技術は、従来の(すなわち、バートレット)ビームフォーミング、最小分散無歪応答(MVDR、Caponとも呼ばれる)ビームフォーミング、多重信号分類(MUSIC)ビームフォーミング、または他の任意のビームフォーミング技術を含むが、これらに限定されるものではない。
【0043】
S133は、好ましくは、アレイ内のすべての要素(実および仮想の両方)を使用して、所与の物体追跡要素アレイに対してデジタルビームフォーミングを実行することを含むが、S133は、追加的または代替的には、要素の任意のサブセットを使用して角度計算を実行することができる。いくつかの実施形態では、S133は、(例えば、受信機ノイズまたは任意の他の関連する要因に基づいて)デジタルビームフォーミング技術を実行するために使用される受信機要素を動的に選択することを含むことができる。
【0044】
S134は、パラレルFOV検出を実行することを含む。パラレルFOV検出では、受信機要素のペアからの信号(各々が異なる視野に対応する)が、並列に分析されて、ターゲットに対する角度が求められる。
【0045】
例えば、(図11Aに示されるような)n個の要素を有するアレイ{e,...,e}を考える。第1の要素とn-1個のペア{e12,...,e1n}を作ることができる。各ペアは、次の式によって与えられる関連するFOVを有する。
ここで、dは要素間の間隔である。なお、この式は規則的な要素間の間隔を想定しているが、要素が規則的な間隔で配置される必要はないことを理解されたい(また、規則的な要素間の間隔がなくても、FOVが第1の要素と第iの要素との間の距離の逆数であるという基本的な関係が成立する)。全体のシステムのFOV(すなわち、最も広いFOV)は、以下のように、最初の2つの要素のFOVである。
【0046】
従来のフェーズドアレイレーダシステムでは、このようなアレイの角度分解能が、以下のようになる。
ここで、角度が中心角α=0から離れるにつれて、分解能が低下することに留意されたい。
これが、このようなアレイに対してビームフォーミングが頻繁に実行される理由であり、FOV全体にわたって中心角をステアリングすることによって、高い角度分解能を達成することができる(ただし、この場合、ビームステアリングを実行するには、時間の経過とともに位相を変調する必要がある)。
【0047】
パラレルFOV検出では、角度分解能を維持するために広いFOV全体にわたってビームステアリングする代わりに、FOV検出ベクトルが複数のFOVに対して生成される。例えば、図11Bに示すように、2つのターゲット(ターゲット1およびターゲット2)を考える。ターゲット1は、3番目に狭いFOV(以下のFOVn-2の幅)とより広いFOV{FOVn-2,...FOV}に存在する一方、ターゲット2は全てのFOV{FOV,...FOV}に存在する。
FOVのセットに対してターゲット検出を並行して実行することにより、検出された各ターゲットのFOV検出ベクトルを生成することができる。例えば、ターゲット1(角度θ)は、{θ,...,θ,x,x}のようなFOV検出ベクトルに関連付けられる。最初の一連のθは、ターゲット1が要素のペアe12...e1(n-2)の各々によってθで検出されたことを示し、xは、{e1(n-1),e1n}で非検出であることを示している。同様に、ターゲット2は、{θ,...,θ,θ,θ}のようなFOV検出ベクトルに関連付けられる。
【0048】
別の言い方をすれば、FOV検出ベクトルは、アレイの物理的要素と、(位相シフトおよび補間からそれぞれ生成された仮想要素に対応する)仮想要素の第1および第2のセットとを含むレーダアレイ要素の上位セットのペアに対して計算され得る。
【0049】
特に、より広い角度では、(上述したように)角度分解能が低くなる。しかしながら、FOV間の角度の差は比較的小さい。例えば、2λの要素間隔で10個の要素のアレイを考える。FOVは、{29°,14.4°,9.6°,7.2°,5.7°,4.8°,4.1°,3.6°,3.2°}である。要素は、FOV...FOV10(すなわち、0±4.8°)で検出される。FOVとFOVの大きさの違いは、2.4°である。この角度では、従来のアレイ(ビームステアリングを実行せずに、3個の要素のみを使用)の角度分解能が9.6°となる。(3個の要素のみを使用しているのは、この間隔で4個以上の要素を有するアレイでは、ターゲットが存在する領域よりも狭いFOVとなるためである。)同様に、ビームステアリングによる従来のアレイでは、2.8°の分解能を達成する。ここでのポイントは、パラレルFOV検出が、(ビームステアリングを実行するために必要な時間のかかる位相変調を実際に実行する必要なく)ビームステアリングと同等の精度を達成できるということである。
【0050】
したがって、S134は、好ましくは、検出されたターゲットに対するFOV検出ベクトルを生成すること、並びに、FOV検出ベクトルからターゲットに対する角度を求めることを含む。各検出ベクトルは、好ましくは、ターゲットが検出されたか否か(および/またはそれを示すために使用可能な値、例えば、検出確率の大きさおよび/またはその受信機のペアからのターゲットに対する計算された角度など)に対応する(基準受信機要素および他のすべての受信機要素の可能性のある各ペアに対応する)各FOVウィンドウのエントリを含み、追加的または代替的には、FOV検出ベクトルが、ターゲット角度を割り出すことに関連する任意の情報を含むことができる。FOV全体にわたるFOV検出は、好ましくは同時に行われるが、追加的または代替的には、順次または任意の方法で行われるようにしてもよい。
【0051】
上記の例は、単一の送信信号に関して与えられていることに留意されたい。複数の送信信号が(例えば、時分割多重化を介して、または複数の送信機要素を介して)使用される場合、検出ベクトルは、各送信信号についてのデータを含むことができる。特に、送信機要素はそれ自体がアレイ(物理的、仮想など)であってもよいため、複数の送信信号を使用することにより、本方法100の角度分解能をさらに向上させることができる(すなわち、送信信号自体が「視野」を形成する)。
【0052】
S140は、初期追跡パラメータを精密化することを含む。S140は、S130で最初に計算されたものよりも精度の高い追跡解を生成するように機能する。第1の実施例では、S140は、仰角または方位角(位相情報から決定される)、距離、および合成角の誤差境界によって制約される合成角から生成されるターゲットのデカルト座標上でカルマンフィルタを実行することを含む。第2の実施例では、S140は、仰角および方位角(位相情報から決定される)、距離、および合成角の誤差境界によって制約される合成角から生成されるターゲットのデカルト座標上でカルマンフィルタを実行することを含む。
【0053】
S140は、追加的または代替的には、任意の方法で、追跡パラメータをフィルタリング、精密化および/または制約することを含むことができる。
【0054】
S150は、プローブ信号の特性を修正することを含む。S150は、レーダ追跡アルゴリズムの高性能を確保するために、(送信機および受信機要素の一方または両方で)送信されるプローブ信号の特性を修正するように機能する。方法100の利点の1つは、仮想送信機/受信機要素を自由に追加(および仮想開口を拡大)または除去することができることである。より多くの仮想要素を追加すると、方法100によって実行される物体追跡の潜在的な精度を増加させるが、物体追跡のレイテンシも増加させる。
【0055】
S150は、S130の出力に基づいてプローブ信号の特性を修正することを含むことができ、例えば、物体追跡中に、第1のデータのセット(例えば、前に送信された信号および実受信機に対応する)および第2のデータのセット(後に送信された信号および仮想受信機に対応する)が、いくつかの閾値誤差境界内で物体追跡解に収束しないことが検出された場合に、S150は、仮想要素の数を減らす(例えば、異なる位相エンコード信号の数を3から2に減らす)ように送信信号を修正することを含むことができる。
【0056】
代替的には、S150は、他のデータに基づいてプローブ信号特性を修正することを含むことができる。例えば、S150は、レーダアレイの動き(例えば、車載レーダの場合は自動車の速度)に基づいてプローブ信号データを修正すること、自動車の速度が遅いときに仮想開口を増加させるように送信を修正すること、並びに、自動車の速度が速いときに仮想開口を減少させるように送信を修正することを含むことができる。
【0057】
S150は、追加的または代替的には、任意の方法で(送信機または受信機の何れかにおいて)プローブ信号特性を修正することを含むことができる。
【0058】
本発明の実施形態の一態様では、S150が、送信信号および受信信号の一方または両方に対してビームステアリングを実行することを含む。従来の線形レーダアレイに関して述べたビームフォーミング(図12Aに示すように、狭いビームが広くて静的なFOVにわたってスキャンされる場合)とは対照的に、S150のビームステアリングは、図12Bに示すように、すべてのFOVの中心角をシフトするように機能する。ビームステアリングは、好ましくは、送信機要素または受信機要素のいずれかで送信信号の位相を変調することによって実行されるが、追加的または代替的には、任意の方法で実行することができる。ビームステアリングは、角度分解能をさらに向上させるために使用することができる(検出されたターゲットがFOV境界を横切る間に、既知の偏向角でFOV全体をスキャンすることにより、検出精度/分解能を向上させることができる)。
【0059】
なお、間隔がアレイ要素間でλ/2よりも大きくなる可能性があるため、図13に示すように、エイリアシングが発生し得ることに留意されたい。そのような場合、S150は、エイリアシングの除去を補助するために、(送信機および/または受信機で)信号をステアリングまたは他の方法で変調することを含むことができる。例えば、送信機のFOVは、受信機のFOVとは独立してスキャンされてもよく、それにより、エイリアスにわたって真のターゲットの検出を妨げ得る対称性を取り除くことができる。例えば、送信パターンのヌルがエイリアスにかかるように送信アレイがスキャンされた場合、ターゲットは(図14Aに示すように)引き続き現れるが、ヌルが実際のターゲットにかかる場合、ターゲットは、図14Bに示すように、反射する送信信号を有しないものとなる。
【0060】
2.補間された仮想開口アレイレーダ追跡のためのシステム
補間された仮想開口アレイ(IVAA)レーダ追跡のためのシステム200は、図15に示すように、送信機アレイ210、水平受信機アレイ220および信号プロセッサ240を含む。システム200は、さらに、鉛直受信機アレイ230および/または速度検知モジュール250を含むことができる。
【0061】
さらに、システム200は、図16に示すように、任意の数の仮想送信機211および/または仮想受信機要素222/232を含むことができる(ここでは明示的に示されていないが、そのような仮想受信機要素は、本方法100に記載されているような補間された要素も含み得ることを理解されたい)。
【0062】
本方法100と同様に、システム200は、物理的なアレイサイズの増加による追加のコスト/サイズ、またはSARの重大な欠点(例えば、運動データ要件および高い処理レイテンシ)を招くことなく、IVAAレーダ追跡を利用して、(SARが行うように)拡大したレーダ開口をシミュレートすることができる。
【0063】
システム200のIVAAレーダ追跡技術は、物理アレイで第1の信号のインスタンスを同時に(従来のフェーズドアレイのように)捕捉し、次に、同じ物理アレイで第2の信号のインスタンスを捕捉し(なお、第2の信号のインスタンスは、同時に捕捉されるが、第1の信号のインスタンスが捕捉されるときと必ずしも同時ではない)、適用可能であれば、同じ方法で追加のインスタンスを捕捉し、最後に、すべての捕捉したインスタンスから受信したデータをまとめて処理して、他の方法よりも高分解能のレーダ追跡解をもたらすように機能する。特筆すべきことに、第1および第2の信号(および任意の追加信号)は、個別の位相情報でエンコードされる。この個別の位相情報により、第2の信号のインスタンスを、物理的アレイから離れた仮想受信機アレイで受信したものとして扱う(物理的な開口よりも大きな仮想的な開口を形成する)ことが可能となる。例えば、第1の信号は、図4Aに示すように、第1の位相エンコーディングを有するように捕捉され、第2の信号は、図4Bに示すように、第2の位相エンコーディングを有するように捕捉され、これらの信号が、図4Cに示すように、一緒に処理されるようにしてもよい。
【0064】
送信機210は、ターゲットによる反射後に、ターゲットに関する情報(例えば、相対的な位置、速度など)を提供することができる信号を送信するように機能する。送信機210は、好ましくは、周波数偏移変調(FSK)RADAR信号または周波数変調連続波(FMCW)RADAR信号を送信するが、送信機210は、これらの制約条件を満たす任意の信号、例えば、電磁信号(RADARにおける電波、LIDARにおける赤外線波/可視光波/UV波など)、音声信号(SONARなど)を送信するようにしてもよい。
【0065】
送信機210は、好ましくは、複数の送信要素(例えば、送信アレイ)を有するが、追加的または代替的には、単一の送信要素(例えば、送信アンテナ)を有するようにしてもよい。送信機210が複数の要素を有する場合、それらの要素は、(例えば、特定のパターンで間隔を空けた、かつ/またはアンテナが位相/時間遅延に結合された)複数のアンテナと対になった単一の送信機、単一のアンテナとそれぞれ対になった複数の送信機、複数のアンテナと対になった複数の送信機、または他の任意の構成を含むことができる。例えば、送信機210は、受信機要素間の距離よりも遥かに大きい距離(例えば、3倍を超える距離)で間隔を空けた送信機要素を含むことができる。同様に、送信機アレイは、受信機アレイに対して任意の方法で方向付けることができる。
【0066】
送信機210に加えて、システム200は、任意の数の仮想送信機211をさらに含むことができる。方法100のセクションで説明したように、仮想送信機は、1または複数の実送信機210の出力を位相シフトすることによって作成され、送信機210の平行移動された要素に対応し得る。
【0067】
水平受信機アレイ220は、送信機210によって送信された1または複数のプローブ信号の反射から生じるデータを受信するように機能する。水平受信機アレイ220は、好ましくは、反射プローブ信号の位相、大きさおよび周波数情報を測定するが、水平受信機アレイ220は、追加的または代替的には、反射プローブ信号の利用可能な任意の特性を測定するようにしてもよい。
【0068】
水平受信機アレイ220から受信したデータから、追跡ターゲットに関連する追跡パラメータを計算することができる。水平受信機アレイ220は、好ましくは、図9に示すように、方位角(α)を決定するために使用されるが、ターゲット位置を確立するために使用されるパラメータは、任意の座標系およびベースで定義されてもよく、水平受信機アレイ220は、任意の関連する追跡パラメータを決定するために使用されるものであってもよい。本出願において、ターゲット位置は、好ましくは、レーダを原点とするデカルト座標系(例えば、x,y,zがターゲット位置を表す)、または同じ原点を有する球面座標系で表されて、位置が、距離(R)、方位角(α)および仰角(θ)によって定義されるものであってもよい。代替的には、ターゲット位置は、任意の方法で記述されるものであってもよい。なお、仰角(および同様に方位角)は、基準ベクトルと投影ターゲットベクトルとの間の角度の一例であることに留意されたい。ここで、投影ターゲットベクトルは、基準平面(基準ベクトルを含む基準平面)に投影された、ターゲットと観測器(例えば、レーダ)との間のベクトルである。本システム100は、そのような任意の角度を計算することができる。
【0069】
水平受信機アレイ220は、パターンで、例えば水平軸に沿って、配置された受信機要素221のセットを含む。受信機要素のセット221は、(例えば、特定のパターンで間隔を空けた、かつ/またはアンテナが位相/時間遅延に結合された)複数のアンテナと対になった単一の受信機、単一のアンテナとそれぞれ対になった複数の受信機、複数のアンテナと対になった複数の受信機、または他の任意の構成を含むことができる。
【0070】
水平受信機アレイ220は、任意の数の仮想受信機要素222をさらに含むことができる。方法100のセクションで説明したように、仮想受信機要素222は、1または複数の実送信機210の出力を位相シフトに応答することによって(または補間によって)作成され、水平受信機アレイ220の平行移動された受信機要素221に対応し得る。
【0071】
水平受信機アレイ220は、好ましくは、位相情報から角度を計算するために使用されるが、追加的または代替的には、(例えば、ドップラー周波数シフトの水平成分を使用して)任意の方法で角度を計算するために使用されるようにしてもよい。
【0072】
鉛直受信機アレイ230は、水平受信機アレイの軸と平行でない軸(例えば、鉛直軸)上に配置されることを除いて、水平受信機アレイ220と実質的に同様であることが好ましい。鉛直受信機アレイ230は、好ましくは仰角を計算するために使用されるが、追加的または代替的には、任意の追跡パラメータを計算するために使用されてもよい。鉛直受信機アレイ230は、複数の受信機要素231を含み、さらに任意の数の仮想受信機要素232を含むことができる。方法100のセクションで説明したように、仮想受信機要素232は、1または複数の実送信機210の出力を位相シフトに応答することによって作成され、鉛直受信機アレイ230の平行移動された受信機要素231に対応し得る。
【0073】
信号プロセッサ240は、水平受信機アレイ220、鉛直受信機アレイ230および/または速度検知モジュール250によって収集されたデータから追跡パラメータを計算するように機能する。信号プロセッサ240は、好ましくは、方法100に従って追跡パラメータを演算するマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを含み、追加的または代替的には、信号プロセッサ240は、任意の方法で追跡パラメータを演算することができる。信号プロセッサ240は、追加的または代替的には、(例えば、計算をオフロードするため、追加データを受信するため、または他の理由のために)外部コンピュータと通信するために使用されるものであってもよい。また、信号プロセッサ240は、システム200のコンポーネントの構成、またはシステム200によって実行される任意の計算またはアクションを制御することができる。例えば、信号プロセッサ240は、方法100のセクションで説明したように、仮想送信機または仮想アレイ要素の生成および/または他のパラメータを制御するために使用されるものであってもよい。
【0074】
速度検知モジュール250は、システム200(またはシステム200のコンポーネント、またはシステム200に結合された物体)の速度を測定するように機能する。速度検知モジュールは、好ましくは、慣性測定ユニット(IMU)に結合する通信インターフェースであるが、追加的または代替的には、速度および/または速さを測定することができる任意の通信インターフェース(例えば、Wi-Fi、イーサネット、ODB-II)またはセンサ(加速度計、ホイール速度センサ、IMU)であってもよい。
【0075】
好ましい実施形態およびその変形例の方法は、コンピュータ可読命令を記憶するコンピュータ可読媒体を受け入れるように構成された機械として、少なくとも部分的に具現化および/または実施することができる。命令は、好ましくはIVAAレーダ追跡のためのシステムと統合された、コンピュータ実行可能コンポーネントによって実行されることが好ましい。コンピュータ可読媒体は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EEPROM、光学デバイス(CDまたはDVD)、ハードドライブ、フロッピードライブ、または任意の適切なデバイスなど、任意の適切なコンピュータ可読媒体に格納することができる。コンピュータ実行可能コンポーネントは、一般的なプロセッサまたはアプリケーション固有のプロセッサであることが好ましいが、任意の適切な専用ハードウェアまたはハードウェア/ファームウェアの組合せデバイスが、代替的または追加的に命令を実行することができる。
【0076】
当業者であれば、前述した詳細な説明、並びに、図面および特許請求の範囲から認識されるように、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の好ましい実施形態に対して修正および変更を加えることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16