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特許7320694加硫可能なエラストマー配合物及び加硫エラストマー物品の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】加硫可能なエラストマー配合物及び加硫エラストマー物品の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230728BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20230728BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230728BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20230728BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20230728BHJP
   C08K 5/43 20060101ALI20230728BHJP
   C08K 5/47 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/06
C08K5/20
C08K5/372
C08K5/42
C08K5/43
C08K5/47
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020503717
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 US2018042402
(87)【国際公開番号】W WO2019022995
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】15/659,094
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594055158
【氏名又は名称】イーストマン ケミカル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】スコット ドナルド バーニッキ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック イグナッツ-フーバー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート トーマス ヘンブル
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ニール スミス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンク クルーレン
(72)【発明者】
【氏名】アルーナ エム.ベラマカンニ
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6835861(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマーコンパウンド中に分散した前記加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含み、前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときにDSC融点開始点が155℃~167℃であることを特徴とする、加硫可能なエラストマー配合物を形成する方法。
【請求項2】
前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときにDSC融点開始点が157℃~167℃であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記混合工程は、加硫性組成物を前記エラストマーと組み合わせて前記加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、前記加硫性組成物は前記シクロドデカ硫黄化合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
エラストマー物品を形成するための方法であって、a)エラストマーを加硫剤と混合して、前記エラストマー中に分散した前記加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、ここで、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、c)前記成形形状体を加硫して、加硫エラストマー物品を形成することを含み、前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときにDSC融点開始点が155℃~167℃であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃より高く上昇させることを含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を128℃より高く上昇させることを含む、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を130℃より高く上昇させることを含む、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を135℃より高く上昇させることを含む、請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記加硫可能なエラストマー配合物は、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤及び遅延剤の少なくとも1つをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記加硫性組成物は逆戻り防止剤をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記逆戻り防止剤は、ヘキサメチレン-1,6-ビス(チオスルフェート)二ナトリウム塩二水和物及び1,3-ビス(シトラコナミドメチル)ベンゼンからなる群より選ばれる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記加硫可能なエラストマー配合物は早期加硫阻害剤をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記早期加硫阻害剤はN-(シクロヘキシルチオ)フタルイミドである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記加硫可能なエラストマー配合物は、ポリスルフィド、ポリスルフィド混合物及び架橋有機ケイ素ポリスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記加硫可能なエラストマー配合物は、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド、及び、2-メルカプトベンゾチアゾール及び非促進性メルカプト含有部分に基づく非対称ジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの促進剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、(i)加硫可能なエラストマー配合物を形成する方法、(ii)加硫エラストマー物品を形成する方法、及び(iii)エラストマー物品を混合し、押出し、カレンダ加工し、造形し、成形し及び硬化するのに有益な配合物又は加硫可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
硫黄加硫は、特定の加硫剤(「硫黄含有硬化剤」としても知られている)の添加及び反応により、個々のポリマー鎖間の架橋を形成することにより、天然ゴム又はその他の汎用エラストマーをより耐久性のある材料に転化するためのよく知られた化学法である。耐久性加硫エラストマー物品の製造のための従来の方法において、硫黄含有硬化剤をエラストマーコンパウンドと混合して、硫黄含有硬化剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成する。加硫可能なエラストマー配合物は、例えば、所望の「グリーン」(未加硫)物品又は物品構成要素(「物品」)の形状への混合、押出、カレンダ加工、造形、成形及び構築などの多数の処理工程に供される。次いで、物品は、エラストマーを加硫し、加硫エラストマー物品を形成するのに必要な条件に供される。
【0003】
現在の業界の慣行では、多くの商業的な硫黄加硫法においてポリマー硫黄を好ましい加硫剤として採用している。例えば、米国特許第4,238,470号明細書は、加硫可能なエラストマー組成物のための硫黄加硫剤としてのポリマー硫黄の使用を記載しており、その開示を参照により本明細書に組み込む。ポリマー硫黄は、一般に、高分子量の長いらせん状の分子構造、及び、二硫化炭素及び他の強力な溶媒、ならびにゴム、ゴムコンパウンド及びエラストマーへの不溶性を特徴とする。典型的な硫黄加硫法の工程において、エラストマー及びオイルに可溶であり、したがってエラストマー配合物中に溶解する硫黄同素体であるシクロオクタ硫黄(S8)にポリマー硫黄を転化する条件に、ポリマー硫黄を含む加硫可能なエラストマー配合物を供し、ここで、それは加硫反応に参加できる。
【0004】
ポリマー硫黄のシクロオクタ硫黄への転化は温度依存性であり、転化に対する時間及び温度の効果は累積的であるから、実際の加硫の加硫物の最終成形、構築又は組み立ての前の処理工程が実際の加硫工程の前に転化を開始しないことを確保するように細心の注意を払う必要がある。このような早期転化は、硫黄「ブルーム」をもたらす可能性があり、これは、層間接着及び他の加硫物品特性に対して非常に有害な既知の現象である。硫黄ブルームは、可溶性シクロオクタ硫黄の拡散と、その後の未硬化製品の表面上での硫黄の結晶化の結果であり、グリーンの加硫可能なエラストマー配合物中のシクロオクタ硫黄濃度が所与の温度での配合物中の溶解限度を超えるときに発生する。未硬化の物品構成要素又はプライの表面上に硫黄ブルームが存在すると、その構成要素が他の構成要素又はプライに粘着及び接着するのに非常に有害である。シクロオクタ硫黄への早期転化及びポリマー硫黄加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物におけるブルームのリスクを回避するために、現在の商業的慣行としては、ポリマー硫黄のシクロオクタ硫黄へのわずかな割合の転化でさえ、溶解限界を超えて濃度を押し上げ、ブルームの可能性を作り出すので、長期処理時間を約110℃又はより好ましくは100℃未満の温度に制限することが挙げられる。したがって、混合、押出、カレンダ加工、造形、成形又はその他の処理操作で発生するせん断作用(及びそれによって発生する摩擦熱)は、製品メーカーにとって厳しい温度制御の課題となる。
【0005】
これらの課題の管理には、典型的に、一方で、生産性、スループット、処理速度及び製品コストと、他方で、製品のパフォーマンス及び品質との間の微妙なバランスが含まれる。早期ポリマー硫黄転化及びブルームのリスクを低減するために実施される制限により、製造速度が低下し、したがって製造業者の収益性が低下する。逆に、早期転化傾向が低く(そしてそれに応じてより高い熱安定性)を備えた加硫剤は、製造速度を増加させ、したがって工場が作成できるユニット数及び製造業者の利益を増加させる。より速い製造速度に加えて、製造プロセスの任意の所与の温度でポリマーからシクロオクタ硫黄への転化を減らすことができれば、配合者はより多くの硫黄を加硫可能な組成物に取り込む融通性が大きくなり、それによりさらに高い品質及び耐久性の製品を製造する可能性が高くなる。
【0006】
先行技術は、例えば上記の'470特許ならびに米国特許第2,460,365号、同第2,462,146号及び同第2,757,075号明細書に記載されているように、様々な安定剤又は安定化処理の使用により、ポリマー硫黄の熱安定性を改善し、硫黄ブルームを抑制又は阻止しようと試みている。これらのすべての努力にもかかわらず、ブルームのリスク及び悪影響を回避しながら、加硫物品製造者のスループット及び効率の向上につながる、より高い熱安定性を備えた硫黄加硫剤の継続的な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
第一の態様において、本発明は、加硫エラストマー物品を形成するのに使用可能な加硫可能なエラストマーコンパウンドにおいて改善された熱安定性を有する加硫性組成物に関する。加硫性組成物は、一般に、加硫剤を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。組成物は、場合により、キャリアをさらに含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、示差走査熱量測定の十分に確立された方法に従って20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに約155℃~約167℃の融点開始点(以下、DSC融点開始点と呼ぶ)を特徴とする。
【0008】
別の態様において、本発明は、少なくとも1つのエラストマー及び加硫剤を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫可能なエラストマー配合物に関する。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、155℃~167℃のDSC融点開始点を特徴とする。
【0009】
別の態様において、本発明は、エラストマーキャリア中に加硫剤を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫剤マスターバッチに関する。
【0010】
さらに別の態様において、本発明は、一般に、シクロドデカ硫黄の既知の形態と比較して高い融点を示し、そしてシクロドデカ硫黄が加硫可能なエラストマーのための加硫性組成物中の加硫剤として使用されるときに望ましい他の特徴を示すシクロドデカ硫黄化合物に関する。より具体的には、本発明は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに155℃~167℃のDSC融点開始点を特徴とするシクロドデカ硫黄化合物を対象とする。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は加硫可能なエラストマー配合物を形成する方法に関する。この方法は、一般に、エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマーコンパウンドに分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成する工程を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、約155℃~約167℃のDSC融点開始点を特徴とする。加硫剤のシクロドデカ硫黄化合物が好ましくは加硫性組成物の成分としてエラストマーと混合されるので、方法の混合工程は、好ましくは、加硫性組成物をエラストマーコンパウンドと組み合わせて加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、該加硫性組成物はシクロドデカ硫黄化合物を含む。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、加硫エラストマー物品を形成する方法を対象とする。この方法は、(a)エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマーコンパウンド中に分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、(b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、(c)前記成形形状体を加硫して、加硫エラストマー物品を形成することを含み、ここで、混合及び成形工程の少なくとも1つは、工程の少なくとも一部について、加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃よりも高く上昇させることを含む。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、(a)エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマーコンパウンド中に分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、ここで、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、(b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、(c)前記成形形状体を加硫して、加硫エラストマー物品を形成することを含む、加硫エラストマー物品を形成する方法に関する。
【0014】
適用可能なさらなる態様及び分野は本明細書で提供される記載から明らかになるであろう。記載及び特定の例は、例示のみを目的とすることが意図され、本発明の主旨及び範囲を限定することが意図されないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本明細書で使用されるときに、以下の用語又は語句は次のように定義される。
【0016】
「シクロドデカ硫黄化合物」とは、12個の硫黄原子が単一の同素環を形成する硫黄の環状同素体を意味し、本明細書ではS12とも呼ばれる。
【0017】
「エラストマー」とは、加硫(又は架橋)後に、室温で応力下に延長され、圧縮され又はせん断変形されることができ、そして応力の即時解放時に、力でほぼ元の釣り合いの取れた寸法に戻るあらゆるポリマーを意味し、ゴムを含むが、これに限定されない。
【0018】
「加硫剤」とは、加硫条件下で、加硫可能な配合物の加硫を行うのに効力のある材料を意味する。
【0019】
「加硫性組成物」とは、加硫条件下で加硫可能な配合物の加硫を行うための添加剤として使用可能である成分の組み合わせを意味する。
【0020】
「加硫可能なエラストマー配合剤」とは、加硫剤及びエラストマーを含み、加硫条件下に置かれたときに加硫できる組成物を意味する。
【0021】
第一の態様において、本発明は、加硫物品を形成する際に使用するための加硫性組成物を対象とする。該組成物は加硫剤を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。本発明の加硫性組成物中の加硫剤は、加硫物品を形成するのに使用可能な加硫可能な配合物において改善された熱安定性を示すことが予想外に発見された。好ましい実施形態において、加硫可能な配合物は加硫可能なエラストマー配合物であり、加硫物品は加硫エラストマー物品である。
【0022】
好ましくは、本発明の加硫性組成物の加硫剤は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに155℃~167℃のDSC融点開始点を特徴とするシクロドデカ硫黄化合物を含む。
【0023】
本発明の加硫性組成物はキャリアをさらに含むことができる。加硫性組成物に適したキャリアは、典型的には、非エラストマーであり、本発明のシクロドデカ硫黄に対して実質的に不活性であり、そして1種以上の追加の成分、例えば、プロセスオイル、ステアリン酸、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテルもしくはエステルなどのセルロース系バインダー、キサンタンなど、植物油、エポキシ化植物油、ポリマーバインダー又は分散剤、例えば汎用エラストマー又はオレフィン系ポリマーもしくはコポリマーを含むことができる。
【0024】
本発明の加硫性組成物中の加硫剤は、加硫性組成物の総質量に基づいて、好ましくは約20質量%~100質量%、より好ましくは約40質量%~約100質量%のシクロドデカ硫黄化合物を含む。これらの範囲が好ましいが、加硫性組成物が加硫剤の成分として他の既知の加硫剤、例えば、ポリマー硫黄、シクロオクタ硫黄などの硫黄含有硬化剤及び過酸化物などの非硫黄系硬化剤を含むときに、好ましい範囲よりも少ない量のシクロドデカ硫黄化合物を含む加硫性組成物を考えることができることは当業者に理解されるであろう。したがって、本発明の好ましい加硫性組成物は、ポリマー硫黄及びシクロオクタ硫黄からなる群より選ばれる1つ以上の硫黄含有硬化剤を場合によりさらに含む加硫剤を含む。
【0025】
加硫性組成物は、本発明の加硫可能なエラストマー配合物のための任意成分として下記の1種以上の任意成分を含むこともできる:ポリマー硫黄、流動助剤、脂肪酸、酸化亜鉛、促進剤、活性化剤、早期加硫阻害剤、酸遅延剤、劣化防止剤、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤、可塑剤、又は、加硫性組成物の特性をさらに向上させ及び/又は性能を改善させ、又は、エラストマー配合物の加工性、又は、構成要素であるエラストマー配合物、又は、エラストマー配合物から形成されたエラストマー物品の特性をさらに向上させ及び/又は性能を改善させる他の配合成分及び添加剤。1つの実施形態において、加硫性組成物は、逆戻り防止剤及び早期加硫阻害剤のうちの少なくとも1つを含む。適切な逆戻り防止剤及び早期加硫阻害剤及び遅延剤を、本発明の加硫可能なエラストマー配合物に関して以下に説明する。特に適切な逆戻り防止剤は、ヘキサメチレン-1,6-ビス(チオスルフェート)二ナトリウム塩二水和物及び1,3-ビス(シトラコナミドメチル)ベンゼンからなる群より選ばれ、一方、特に適切な早期加硫阻害剤はN-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミドである。
【0026】
上述のように、本発明の加硫性組成物は、加硫可能な配合物が加硫可能なエラストマー配合物であり、加硫物品が加硫エラストマー物品である実施形態において好ましくは有用である。したがって、別の態様において、本発明は加硫可能なエラストマー配合物を対象とする。本発明の加硫可能なエラストマー配合物は、少なくとも1つのエラストマー及び加硫剤を含み、該加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物である。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、約155℃~約167℃のDSC融点開始点を特徴とする。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、本発明の加硫可能なエラストマー配合物が好ましくは少なくとも1つのエラストマー及び本発明の加硫性組成物を含むように、成分として加硫剤を含む加硫性組成物をエラストマーと混合することによりエラストマーに添加される。
【0027】
エラストマーは、当業者に知られている任意の加硫可能な不飽和炭化水素エラストマーであることができる。これらのエラストマーとしては、限定するわけではないが、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレン(EP)又はエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、1,4-シスポリブタジエン、ポリクロロプレン、1,4-シスポリイソプレン、場合によりハロゲン化された又はハロゲン化されていないイソプレン-イソブテンコポリマー、ブタジエン-アクリロニトリル、スチレン-ブタジエン-イソプレンターポリマーなど、及び、それらの誘導体及び混合物を挙げることができる。加硫可能なエラストマー配合物は、エラストマー及びゴム加工及び加硫エラストマー物品の製造において従来から使用されている1つ以上の他の添加剤又は添加剤混合物を場合により含むことができる。そのような添加剤の非限定的な例としては、流動性向上剤、加工助剤、モールド潤滑剤及び腐食防止剤、粘着付与剤、ホモジナイザー、酸化防止剤、劣化防止剤、オゾン劣化防止剤、疲労防止剤、促進剤、エクステンダ及びフィラー、接着促進剤、活性化剤、結合剤、緩衝剤、フィラー、顔料、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤、酸遅延剤、可塑剤又はその他の配合成分又は添加剤及びそれらの組み合わせ及び混合物が挙げられ、それは加工特性をさらに向上させ及び/又はエラストマー配合物又は形成されたエラストマー物品の性能を向上させる。適切な流動助剤、加工助剤及び潤滑剤としては、脂肪酸、亜鉛石鹸を含む脂肪酸石鹸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル及びそれらの誘導体、二酸化ケイ素、軽石、ステアリン酸塩及び一般的なゴム加工油が挙げられる。適切なフィラー及びエクステンダとしては、カーボンブラック、石膏、カオリン、ベントナイト、二酸化チタン、様々なタイプのシリケート、シリカ、粘土、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0028】
適切な促進剤としては、限定するわけではないが、N,N’-ジ-オルト-トリルグアニジン及びジカテコールボレートのジ-オルト-トリルグアニジン塩などのグアニジン、2-メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール及び亜鉛2-メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレンチオカルバミル-N'オキシジエチレンスルフェンアミド及びN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド、スルフェンイミド、ビスマス、銅、亜鉛、セレン又はテルルジメチルジチオカルバメートなどのジチオカルバメート、亜鉛ジエチルジチオカルバメート及び亜鉛ジブチルジチオカルバメート、キサンタン酸亜鉛イソプロピルなどのキサンテート、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド及びテトラエチルチウラムジスルフィドなどのチウラム、トリメチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素及び1,3-ジブチルチオ尿素などのチオ尿素、ならびにそれらの組み合わせ及び混合物を挙げることができる。
【0029】
加硫可能なエラストマー配合物は、場合により、特に加硫エラストマー組成物の加工性の改善又は特性の改善を目的として、エラストマー及びゴム加工及び加硫エラストマー物品の製造で従来から使用される1つ以上の他の添加剤又は添加剤混合物を含むことができる。伝統的に定義されるブロンズテッド又はルイス酸タイプの従来の酸性物質である遅延剤の添加により、加工性の改善を達成することができる。当業者は、これらの化学物質がスコーチの開始までの時間を含む加硫速度を遅くし、そして加硫速度はプロセス温度をさらに高め及び/又はプロセスの速度を高めることができることを直ちに認識するであろう。シクロドデカ硫黄とともに配合物中で早期加硫阻害剤を適切に組み合わせることにより、加工性のさらなる改善を得るであろう。早期加硫阻害剤は、業界で一般にスコーチと呼ばれる早期加硫の問題を克服するために、より高い処理温度を可能にする。処理中のスコーチは、組成物を「弾性」にし、したがってもはや可塑性ではなく、さらなる処理、造形、成形又は構築作業に適さなくする。適切な早期加硫阻害剤は、例えば、米国特許第3,427,319号、同第3,473,667号、同第3,546,185号、同第3,513,139号、同第3,562,225号、同第3,586,696号、同第3,686,169号、同第3,752,824号、同第3,775,428号及び同第3,855,262号明細書に記載されている。
【0030】
加硫可能なエラストマー配合物は、場合により、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤及び/又は遅延剤、例えば、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド及び安息香酸又はサリチル酸変性剤などの有機酸及びそれらの組み合わせもしくは混合物で変性されうる。1つの実施形態において、加硫可能なエラストマー配合物は、逆戻り防止剤及び早期加硫阻害剤の少なくとも1つを含む。特に適切な逆戻り防止剤は、ヘキサメチレン-1,6-ビス(チオスルフェート)二ナトリウム塩二水和物及び1,3-ビス(シトラコナミドメチル)ベンゼンからなる群より選ばれ、一方、特に適切な早期加硫阻害剤はN-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミドである。例えば、米国特許第4,605,590号及び同第5,426,155号明細書に記載されている材料などの逆戻り防止剤は、特に高硫黄装填組成物、高温加硫条件及び/又は高温用途環境での硫黄加硫エラストマー組成物の物理的性能を改善する。疑いなく、本発明のシクロドデカ硫黄と本発明の組成物又は加硫可能なエラストマー配合物中の早期加硫阻害剤及び/又は逆戻り防止剤との組み合わせは、加硫後の高性能加硫物品、より高い温度での加硫、及び、より高い温度環境での改善された性能を提供しながら、最も広い範囲での加工性を提供する。改善された性能の加硫物品は架橋剤を含む加硫可能なエラストマー配合物又は加硫性組成物から形成することもでき、例えば、上記架橋剤は、限定するわけではないが、米国特許第3,979,369号明細書及びWO2014/067940に記載されているようなポリスルフィド又はポリスルフィド混合物、及び/又は、限定するわけではないが、EP2 557 083に開示されているような架橋有機ケイ素ポリスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤である。
【0031】
したがって、適切な加硫可能なエラストマー配合物は、少なくとも1つのエラストマー;逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤及び遅延剤のうちの少なくとも1つ;及び加硫剤を含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。したがって、加硫性組成物は、周囲条件下で熱力学的により安定であるシクロオクタ硫黄へのシクロドデカ硫黄の転化を遅らせるいかなる添加剤もさらに含んでよいことを当業者は理解するであろう。
【0032】
適切な活性化剤はステアリン酸亜鉛であり、好ましくは酸化亜鉛及びステアリン酸を加えることにより組成物中で直接形成される。適切な酸化防止剤としては、チオエステル及びアミン、例えばアルキル化ジフェニルアミン、Eastman Chemical CompanyからSantoflex (商標)の名称で入手可能なパラフェニレンジアミン、フェノール及びヒドロキノリンなどが挙げられる。適切な粘着付与剤としては、Impera(商標)という名称でEastman Chemical Companyから入手可能なものなどの炭化水素樹脂添加剤が挙げられる。適切な疲労防止剤は、VULCANOX(商標)として市販されている重合2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(TMQ)である。適切なオゾン劣化防止剤としては、アニリン誘導体、ジアミン及びチオ尿素が挙げられる。適切な劣化防止剤としては、置換ベンゾトリアゾール及び置換ベンゾフェノンなどの紫外線剤が挙げられる。適切な顔料及び染料としては、酸化鉄、二酸化チタン、有機染料、カーボンブラック、酸化亜鉛及び水和ケイ素化合物が挙げられる。
【0033】
本発明の加硫可能なエラストマー配合物中のエラストマー及び加硫剤シクロドデカ硫黄化合物の量は、多くの要因、例えば意図する加工条件、加硫性組成物中の加硫剤の濃度(そのような組成物が利用される場合)及び得られたエラストマー物品の機械的及びその他の性能要件に応じて変化するであろう。典型的には、本発明の加硫可能なエラストマー配合物中の加硫剤シクロドデカ硫黄化合物の量は、エラストマー配合物の総質量を基準として0.25~30質量パーセントのシクロドデカ硫黄化合物である。したがって、加硫性組成物は、シクロドデカ硫黄が加硫性組成物中に約80質量パーセントで存在する場合に、エラストマー配合物の総質量を基準として0.3~43質量パーセントのシクロドデカ硫黄をエラストマー配合物に供給するのに十分な量で加硫可能なエラストマー配合物中に存在することができる。
【0034】
別の態様において、本発明は、加硫可能なエラストマー配合物の製造方法を対象とする。この方法は、一般に、エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマー中に分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、約155℃~約167℃、より好ましくは157℃~167℃、最も好ましくは、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、160℃~167℃のDSC融点開始点を特徴とする。加硫剤として、シクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは加硫性組成物の成分としてのエラストマーと混合されるときに、本方法の混合工程は、好ましくは、加硫性組成物をエラストマーと組み合わせて加硫可能なエラストマー配合物を形成する工程を含み、前記加硫性組成物はシクロドデカ硫黄化合物を含む加硫剤を含む。
【0035】
別の態様において、本発明は、加硫エラストマー物品を形成する方法を対象とする。この方法は、一般に、加硫可能なエラストマー配合物を製造するための上記のプロセス工程を含み、その後、加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、前記成形形状体を加硫して加硫エラストマー物品を形成することを含む。したがって、1つの実施形態において、この方法は、a)エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマー中に分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、ここで、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、c)前記成形形状体を加硫して、加硫エラストマー物品を形成することを含む。本明細書で使用されるときに、加硫可能なエラストマー配合物を「成形(forming)」工程は、典型的には、タイヤ及びタイヤ部品などのエラストマー物品の製造の間に加硫物品製造業者によって、加硫可能なエラストマー配合物にしばしば適用される、例えば、混合、カレンダ加工、押出及び他の加工、造形又は成形工程などの1つ以上の工程を含む。当業者は、例えば、本明細書に記載される逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤、架橋剤及び促進剤などの任意成分又は材料が、本発明の方法と併せて望ましい程度に、加硫性組成物の成分として加硫可能なエラストマー配合物に添加されうる、又は、単に混合工程中に添加されうることを理解するであろう。
【0036】
本発明の加硫性組成物の加硫剤シクロドデカ硫黄化合物は、従来技術の硫黄加硫剤よりも改善された熱安定性を示すので、本発明の重要な態様は、加硫可能なエラストマー配合物を形成する方法で利用される温度、ならびに、そのような配合物を使用する加硫エラストマー物品の製造においてこのような配合物が供される温度が、本発明により、先行技術の加硫剤の熱安定性特性により課せられる温度限界を容易に超えることができることである。したがって、1つの実施形態において、加硫エラストマー物品を形成するための本方法における混合及び成形工程の少なくとも1つは、加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃より高く、好ましくは128℃より高く、より好ましくは130℃より高く、さらにより好ましくは135℃より高くに上昇させることを前記工程の少なくとも一部に含むことができる。したがって、混合及び成形工程の少なくとも1つの間の加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度は、成形工程の少なくとも一部で、125℃より高く、好ましくは128℃より高く、より好ましくは130℃より高く、さらにより好ましくは135℃より高い。この態様の要素として、本発明は、本発明の加硫配合物から形成された加硫物品をも含み、より好ましくは、本発明の加硫エラストマー配合物から形成された加硫エラストマー物品をも含む。
【0037】
当業者は、本開示を考慮して、本明細書で引用した温度よりも高い温度さえも短時間で使用でき、ここで、限界は、全プロセスの全時間温度履歴又は「サーマルバジェット」であることを容易に理解するであろう。したがって、より長い時間でより低い温度、比較的短い時間で、さらにより高い温度を与えることができる。
【0038】
別の実施形態において、本方法は、(a)エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマー中に分散した加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、(b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、(c)前記成形形状体を加硫して、前記加硫エラストマー物品を形成することを含み、ここで、混合及び成形工程の少なくとも1つは、加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃より高く、好ましくは128℃より高く、より好ましくは130℃より高く、さらにより好ましくは135℃より高く上昇させることをその工程の少なくとも一部に含む。この実施形態において、加硫剤は、好ましくはシクロドデカ硫黄化合物を含み、より好ましくは、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、約155℃~約167℃のDSC融点開始点を特徴とするシクロドデカ硫黄化合物を含む。
【0039】
本発明の方法の上記の記載において、「バルク平均処理温度」は、混合及び成形工程中の温度を測定するために熱電対のセットを使用する商業加硫エラストマー物品製造における一般的な慣行を考慮した温度測定パラメータとして選択される。これらの熱電対は、プロセス工程を進行する際の配合物塊の特定の位置での配合物の温度に関する限られた数の温度データポイント(熱電対の数に関連)を提供する。したがって、「バルク平均処理温度」とは、混合及び成形工程の少なくとも1つの間に行われたエラストマー配合物塊の合理的な数(1より大きい)の温度測定値の算術平均を意味する。
【0040】
しかしながら、当業者は、エラストマー配合物塊のより徹底的な温度分析を可能にする他の温度測定技術が利用可能である又は利用可能になることを理解するであろう。非限定的な例として、配合物塊のバルク平均処理温度を測定するために、熱画像形成が利用されうる。熱画像形成技術において、各ピクセルは本質的に個別の温度計として機能し、したがって、このような技術は、特に高解像度の熱画像形成が利用されるときに配合物に関するより包括的な局所データを提供することができる。そのような技術は、配合物のバルク平均処理温度を得るために単純に平均化されうる配合物塊上の数百又はさらには数千の点の測定を可能にすることができる。当業者は、高温である可能性のある配合物塊の内部部分を熱測定が行われる時刻に迅速に表面に持ってくるように配合物が能動的に操作されている場合に熱画像形成によってより有意義な測定値が得られることを容易に理解するであろう。代わりに、長期間静置している配合物塊に熱画像形成を使用するならば、配合物の外部部分は、塊の内部部分に対して冷却されており、人為的に低いバルク平均処理温度の測定値が得られるであろう。
【0041】
本明細書で使用されるときに「バルク平均処理温度」は、単独でとられる「点処理温度」、すなわち、配合物の全体温度の代表値又はバルク平均処理温度ではない混合及び成形工程の少なくとも1つの間のエラストマー配合物塊の測定可能な点の温度と区別されるべきであり、実際、点処理温度は配合物塊のバルク平均処理温度よりも実質的に高い可能性がある。したがって、加硫エラストマー物品を形成するための本発明の方法の別の実施形態において、混合及び成形工程の少なくとも1つは、その工程の少なくとも一部で加硫可能なエラストマー配合物の点処理温度を135℃よりも高く、好ましくは140℃よりも高く、より好ましくは150℃より高く、さらにより好ましくは160℃より高く、さらにより好ましくは165℃より高く上昇させることを含む。
【0042】
当業者は、本発明の別の利点がその高いプロセス温度の側面から最も明白であり、その利点は、本発明の組成物、配合物及び方法での使用に利用可能な任意成分の添加剤のポートフォリオが従来の加硫剤とともに使用されるものとは異なることができることである。例えば、より低い加工温度で十分に活性ではない可能性がある添加剤を、本発明の加硫剤とともに使用することができる。そのような添加剤としては、例えば、上記のようにポリスルフィドに基づく架橋剤、及び、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド、及び、2-メルカプトベンゾチアゾール及び2-(シクロヘキシルジスルファニル)ベンゾチアゾールなどの非促進性メルカプト含有部分に基づく非対称ジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの促進剤などの非アミン含有促進剤を挙げることができる。
【0043】
逆に、従来の処理温度で有効であることができる添加剤は、本発明の高温では活性が高すぎるか、不安定であるか又は実質的に効果が低い可能性がある。そのようなシナリオにおいて、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤、ポリスルフィド架橋剤及び本明細書に記載の他の種類の材料などの適切に活性で安定な材料は優先的に利用されるべきである。
【0044】
本発明のさらなる態様は、シクロドデカ硫黄によって可能にされた高い処理温度が、ゴム配合物中の、例えば以下に記載される結合性樹脂又は硬化性樹脂などの樹脂代替物の使用の必要性を低減又は排除しうることである。実際には、従来の不溶性硫黄の使用には、不溶性硫黄のシクロオクタ硫黄への少量の転化さえなしでそのような方法を実施することは非常に難しく、望ましくないブルームが生じるため、実用的な上限が存在する。そのため、例えば多くの配合物において、従来の不溶性硫黄の10%だけが元に戻ったとしても、約6~7質量%の装填量で、従来の処理温度でもブルームのしきい値以上のシクロオクタ硫黄濃度が生じる場合がある。
【0045】
したがって、配合者は、必要な不溶性硫黄の量がブルームのしきい値を超える場合に、より高い弾性率を達成するために硬化性又は結合性樹脂を頻繁に使用する。これらの樹脂は、典型的に、レゾルシノール、フェノール、カシューナッツオイル又はホルムアルデヒド又はヘキサメチレンテトラミン又はヘキサメトキシメチロールメラミンなどのホルムアルデヒドドナーと反応した他の類似材料に基づく。これらの樹脂は、より高い弾性率を達成することを可能にするが、加硫可能なエラストマー配合物に対するさらなる複雑さをもたらす。樹脂は、汎用エラストマーにおける生来の溶解度が低いため、それ自体がブルームの原因になる。これらの樹脂は、その存在が加硫可能なエラストマー組成物の粘度を増加させ、実用の処理速度及び温度を制限するため、処理の複雑化にも寄与する。
【0046】
さらに、これらの結合性又は硬化性樹脂を使用して調製された加硫物は、同様の弾性率の高硫黄組成物よりも劣っている。結合性及び硬化性樹脂配合物は、不可逆的なひずみ依存性の軟化に悩まされる。つまり、これらの物品が増加する歪みにさらされると、結合硬化性樹脂によって形成されたネットワークが永久的に破壊され、より柔らかく、よりヒステリシスのある物品がもたらされるであろう。硫黄及び硫黄含有加硫剤から調製された高弾性率組成物は、より耐久性があり、よりひずみに依存しない製品を生じさせる。当業者は、より低いヒステリシスを示す、より高い弾性率で、より少ないひずみ依存性の構成要素が、土木車両及び建設又は掘削機器で使用されるような大型のオフロードタイヤでの使用に特に適しており、特に軽トラック、中トラック、大型トラック及び乗用車タイヤでの使用で輸送産業に有用である。さらに重要なことに、より耐久性の高い構成要素を調製することは、タイヤの軽量化及びランフラット設計タイヤの製造に役立つ。この機能を改善すると、建設及び採掘作業の収益性がすぐに上がるため、土木又は採掘作業で使用されるタイヤのひずみ軟化を減らすことが非常に望ましい。これは非常に重要であるため、そのような産業で使用される多くのタイヤは「時速トンマイル」等級を有する。
【0047】
本発明によれば、本発明のシクロドデカ硫黄の顕著な熱安定性により、ブルームの少ない高温でのゴム組成物の処理が可能になる。したがって、既に記載したように、10~40phrのシクロドデカ硫黄を含む天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-コ-ブタジエン又はその他の汎用エラストマーの配合物は、現代の工場加工に実用的であり、このため、樹脂置き換えの必要性を低減又は排除することができる。当業者は、エラストマー組成物中のこれらの高レベルの硫黄が「エボナイト」及び同様の材料を特徴とすることを容易に認識するであろう。
【0048】
別の態様において、本発明は、加硫剤マスターバッチを対象とする。濃縮物としても知られる加硫剤マスターバッチは、適切なエラストマーキャリア中で高濃度の活性成分(例えば加硫剤)濃度で意図的に形成された成分の組み合わせであり、それにより、次いで、エラストマーと組み合わせ又はエラストマーに「レットダウン」されると、所望の最終有効成分濃度を有する最終の加硫可能なエラストマー配合物が形成される。本発明の加硫剤マスターバッチは、(i)マスターバッチの総質量に基づいて40~90質量%の量の加硫剤、及び、(ii)エラストマーキャリアを含み、ここで、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む。好ましくは、シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに、約155℃~約167℃のDSC融点開始点を特徴とする。
【0049】
適切なエラストマーキャリアの例は、本発明の加硫可能なエラストマー配合物に適したものとして上記したエラストマーであり、限定するわけではないが、天然ゴム又は合成ゴム、例えば、天然ゴム(NR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレン(EP)又はエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などを挙げることができる。好ましくは、エラストマーキャリアは、所望の最終活性成分濃度を有する最終の加硫可能なエラストマー配合物を形成する際にマスターバッチが組み合わされるエラストマーと適合するか又は相溶性となるように選ばれる。加硫剤マスターバッチは本発明の加硫可能なエラストマー配合物のための任意成分として、上記のようなゴム加工及び加硫物品製造に従来から使用されている他の添加剤を場合により含んでよく、該添加剤としては、流れ/加工助剤、酸化防止剤、劣化防止剤、脂肪酸、酸化亜鉛、促進剤、エクステンダ、接着促進剤、活性化剤、結合剤、緩衝剤、フィラー、顔料、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤、酸遅延剤、可塑剤、又は、エラストマー配合物又はそれから形成されたエラストマー物品の特性をさらに向上させ及び/又は性能を改善させるための他の配合成分又は添加剤が挙げられる。
【0050】
本発明はまた、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときに約155℃~約167℃のDSC融点開始点を特徴とするシクロドデカ硫黄化合物を対象とする。より好ましくは、DSC加熱速度20℃/分で測定したときのDSC融点開始点は157℃~167℃であり、最も好ましくは、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときのDSC融点開始点は160℃~167℃である。本発明のシクロドデカ硫黄化合物の重要な態様は、シクロドデカ硫黄の既知の形態と比較して高い融点を示すことが予想外に見出され、したがって、驚くべきことに、本発明の加硫性組成物に特に適した加硫剤として同定されたことである。
【0051】
本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは、シクロドデカ硫黄が加硫組成物中の加硫剤として使用されるときに望ましい他の物理的特徴を示す。例えば、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは、BET法に従って測定して、比表面積が50m2/g以下、好ましくは比表面積が25m2/g以下、より好ましくは比表面積が10m2/g以下、さらにより好ましくは比表面積が5m2/g以下、最も好ましくは比表面積が2m2/g以下の粒子形態である。さらに、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは、0.1~1200ミクロン、より好ましくは0.5~300ミクロン、最も好ましくは10~100ミクロンのメジアン粒子直径を有する粒子形態である。さらに、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、好ましくは、多分散比が15以下、より好ましくは多分散比が10以下、最も好ましくは多分散比が8以下の粒子形態である。
【0052】
「BET」面積としても知られる比表面積はよく知られた測定値であり、粒子材料又は粉末の比表面積は、固体の表面への気体の物理的吸着と、Brunauer,Emmett及びTeller(BET)吸着等温式に基づいて、表面上の多層に対応する吸着ガスの量を計算することにより決定される。時に「D50」と呼ばれるメジアン粒子直径は、材料の粗さに関する一般的な指標を与えるために当該技術分野で典型的に使用されるパラメータである。「D90/D10」とも呼ばれる多分散比は、粒子サイズの分布の均一性の指標として機能するパラメータである。D90はサンプル質量の90%がより小さい粒子で構成される直径であり、D10はサンプル質量の10%がより小さい粒子で構成される直径である。したがって、D90/D10はこれら2つの値の比率である。
【0053】
D50及びD90/D10測定に必要な粒子直径を決定するための装置及び方法は、当該技術分野でよく知られており、市販されている。例えば、Malvern(Mastersizerシリーズ)、Horiba(LAシリーズ)、Sympatec(Helosシリーズ)及びShimadzu(SALDシリーズ)。ASTM-D1993-03(2013)などの比表面積の決定と併せて窒素吸着等温線を決定する方法は、当該技術分野でよく知られている。さらに、窒素吸着等温線を決定するための装置はよく知られており、例えばMicromeritics(Tristar IIシリーズ)及びQuantachrome(Novaシリーズ)から市販されている。
【0054】
一般に、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、(i)シクロオクタ硫黄、テトラメチルエチレンジアミン及び亜鉛を反応させて、テトラメチルエチレンジアミン/ZnS6錯体を生成すること、(ii)発熱反応条件下で前記錯体を酸化剤と反応させて、1つ以上の未反応反応物、副生成物及び不純物を含むことができるシクロドデカ硫黄含有反応混合物を生成することを含む方法に従って合成される。適切な酸化剤としては、限定するわけではないが、臭素、塩素及びチオシアノゲンが挙げられる。好ましくは、この方法は、シクロドデカ硫黄含有反応混合物からシクロドデカ硫黄を分離することをさらに含む。分離工程に適した技術としては、例えば、好ましくはCS2及び芳香族溶媒からなる群より選ばれる溶媒を使用して、シクロドデカ硫黄含有反応混合物からシクロドデカ硫黄を溶解及び再結晶化することが挙げられる。
【実施例
【0055】
以下の実施例は、本発明の多くの態様及び利点を特定的かつ詳細に例示するために提供されているが、決してその範囲を限定するものとして解釈されるものではない。本発明の主旨から逸脱する変形、修正及び適応は当業者によって容易に理解されるであろう。
【0056】
分析方法
示差走査熱量測定(DSC)-シクロドデカ硫黄化合物の融点開始点及び融点範囲を測定する示差走査熱量測定法(DSC)では、最初の加熱スキャンが行われ、そこから融解ピーク温度(Tm1)及び発熱ピーク温度(Tex1)が決定される。使用した機器は、冷却クーリングシステムを備えたTAのQ2000 DSC(RCS)であった。使用される手順は、本明細書中に以下のとおりに記載される。機器は、メーカーの「ユーザーズマニュアル」に従って、アダマンタン、インジウム、鉛の融点開始点をそれぞれ-65.54℃、156.60℃、327.47℃に設定し、インジウムの融解熱を6.8cal/gに設定することにより較正した。次に、約3.0mgの較正試料を、流量50cc/分のヘリウムの存在下に20℃/分の速度でスキャンした。硫黄含有試料の場合に、同様の方法を使用した。TAのTzeroアルミニウムパン及びリッドと2つのアルミニウム密閉リッドを天びんで風袋測定した。約3.0mgの硫黄含有試料をTzeroパンに量り取り、風袋を測定したリッドで覆い、TAのサンプルクリンパーと一対の「ブラック」ダイを使用してクリンプ締めした。「ブラック」ダイスタンドからクリンプ締めした試料を「ブルー」ダイスタンドに移動させ、2つの風袋を測定した密閉リッドを試料パンの上に置き、上部「ブルー」ダイでクリンプ締めした。空のクリンプ締めしたTzeroアルミニウムパン及びリッドと2つの密閉リッドを、参照として同様の方法で調製した。試料及び参照パンをDSCトレイに入れ、室温でセルに入れた。冷却クーリングシステムを使用してDSCを-5℃に冷却した後に、ヘリウムの存在下で20℃/分の速度で-5から200℃まで試料を加熱した。「DSC融点開始点」は、吸熱融解イベントの開始時の温度として定義される。データ解析は、TAのソフトウェアUniversal V4.7Aを使用して実行し、ここで、Tm1は、分析オプション「Signal Maximum」を使用して、融解曲線上で発生する低融解ピーク温度を指す。Tex1は、分析オプション「Signal Maximum」を使用して、Tm1の直後に発生する発熱ピーク温度を指す。
【0057】
UniQuant(UQ)-サンプルはまた、蛍光X線及びUniQuantソフトウェアパッケージを使用して分析した。UniQuant(UQ)は蛍光X線(XRF)分析ツールであり、サンプルの非標準化XRF分析を可能にする。次いで、サンプルは、周期表の3行目から始まる最大72個の元素(すなわち、Naからより高いZまで)について半定量的に分析されうる。データは、較正標準とサンプルとの間のマトリックスの違い、ならびに、吸収及び増強効果、すなわち、要素間効果について数学的に補正される。結果の品質に影響を与える可能性のある幾つかの要因としては、サンプルの粒度(シャドウ効果につながる)、鉱物学的効果(サンプルの不均一性による)、サンプルサイズの不足、及び、サンプルマトリックスの知識不足などが挙げられる。サンプルがXRF UQ分析及びICP-OES(すなわち、定量的)分析の両方に適している場合に、一般に+/-10%以内で一致する。UQにより、サンプルのZn、Br、Cl及びSの含有量を分析した。
【0058】
NMR-約0.0200gのサンプルをバイアルに量り取る。約0.0200gの内部標準の1,4-ジメトキシベンゼンを同じバイアルに量り取る。約1mLのピリジン-d5、又は材料が可溶性である他の重水素化溶媒を加える。材料の1H NMRを取り、δ3.68(6プロトン)のピークを積分する。δ2.45及びδ2.25(16プロトン)の2つのピークを積分する。以下の式を使用して、%純度を計算する。
%純度= 100 [(mg IS / MW IS)*(∫ サンプル/∫ IS)*(6/16)*(MWサンプル/ mgサンプル)]
上式中、IS=内部標準であり、
MW=分子量であり、
∫= 1H NMRからの積分値である。
【0059】
ラマン分光法-ラマンスペクトルは、レニショーinVia共焦点ラマン顕微鏡及びWiRE 4.1ソフトウェアを、785 nm励起レーザー及び5倍倍率の顕微鏡対物レンズとともに使用して測定した。
【0060】
例1-(TMEDA)ZnS6錯体の調製
テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(408グラム)及びメタノール(72グラム)を、メカニカルスターラ(容器の壁に近くに達する)、熱電対、N2バブラー、水凝縮器及び電気加熱マントルを備えた3L3つ口ガラスフラスコに加えた。システムを窒素でパージし、混合物の温度を35℃に調整した。425~450rpmで撹拌を維持しながら、新たに粉砕したシクロオクタ硫黄(粉末)を5分かけて添加した。温度を45℃に上げ、その後に、425~450rpmで攪拌を維持しながら、40グラムの金属亜鉛粉末(粒子サイズ<10ミクロン、純度>98%)を5分間かけて添加した。次いで、灰緑色がかった黄色の反応器の内容物をゆっくりと86℃に加熱し、4時間又は黄色になるまで撹拌した。黄色になったら、攪拌しながら混合物をその温度でさらに2時間保持した。反応時間の終わりに、フラスコを室温に冷却し、攪拌機を止め、真空抽出により遊離液体を除去した。フラスコにメタノール(600ml)を加えてスラリーを作成し、1時間攪拌した。次いで、得られたスラリーを真空ブフナーフィルタ(1ミクロン紙)でろ過し、各200mlのメタノールで2回洗浄した。固形物をフィルタから除去し、50℃及び0.1MPaに設定した真空オーブンで一晩乾燥させた。収量は定量に近く、233gの(TMEDA)ZnS6錯体で、上記手順によるNMR分析による純度は97.5%であった。
【0061】
例2-(TMEDA)ZnS6錯体からの本発明のシクロドデカ硫黄(S12)の調製
メカニカルスターラ、熱電対、N2バブラー及びストッパーを備えた2Lの4つ口ガラスフラスコに塩化メチレン(750 mL)を加えた。臭素(16.7g、104.5ミリモル、1.0eq)を50mLのCH2Cl2を含むボトルに量り入れ、この混合物をフラスコに加えた。溶液を4℃に冷却した。例1からの亜鉛錯体(TMEDA)ZnS6(純度97.5%)(40g、104.3mmol、1.0当量)を一度にすべて加え、50mLのCH2Cl2で洗浄した。11℃まですぐに発熱した。溶液を15分間撹拌し、ろ過し、冷CH2Cl2で洗浄し、吸引乾燥した。固形分をTHF(250 mL)中でスラリー化し、ろ過し、そして吸引乾燥した。得られた固形分を冷CS2(155mL)でスラリー化し、ろ過し、吸引乾燥して、10.2gの淡黄色固形分を得た。(亜鉛錯体中の硫黄に基づいて50.8%の収率)。上記のUQ元素分析法を使用した評価は、材料が96.6%の硫黄(ラマン分光法によるすべてのシクロドデカ硫黄(S12)及び硫黄ポリマー)、2.67%の亜鉛及び0.7%の臭素であることを示した。
【0062】
シクロドデカ硫黄を、メカニカルスターラ、微細ガラスフリットフィルタプレート、熱電対、N2バブラー、ドライアイストラップ及び底部バルブを備えた上部2Lジャケット付き3つ口ガラスフラスコ、及び、メカニカルスターラ、水冷凝縮器及び1Lガラスレシーバーポット、熱電対、N2バブラー、ドライアイストラップ及び底部バルブを備えた下部2Lのジャケット付き3つ口ガラスフラスコを含む二容器システムでさらに精製した。精製手順を開始するために、上記反応工程からのシクロドデカ硫黄(10.2 g)とともに二硫化炭素(1200グラム)を上部容器に加えた。フラスコの内容物を攪拌しながら40~42℃に加熱した。混合物を半時間撹拌した後に、容器の底部バルブを開き、遊離液体をフリットガラスフィルタを通して下部フラスコに引き込んだ。初期固形分の約半分はフィルタ上に残った。第二の容器中の溶液を20分以下にわたって-6℃に冷却した。冷却段階の間に、微細な淡黄色の結晶性シクロドデカ硫黄が生成された。溶液を最終温度-6℃で約15分間撹拌し、その後に、容器の底部バルブを開き、S12-CS2のスラリーを2ミクロンのろ紙を取り付けたブフナー漏斗に滴下した。淡黄色の結晶性シクロドデカ硫黄を吸引乾燥し、ろ紙からこすり落とした。最終ろ過からの母液を、メイクアップCS2とともに上部容器(残留固形分を含む)に戻し、1200グラムの液体を提供した。上部容器を攪拌し、再び40~42℃に加熱し、ろ過冷却手順を繰り返して、精製シクロドデカ硫黄(S12)結晶の二番目の収穫物を回収した。最後の加熱-溶解工程の後に、約0.26グラムの緑がかった黄色の固形分が上部フリットフィルタ上に残った。合わせた湿ったS12結晶を30℃及び約0.01MPaで一晩真空オーブンに入れて、残留CS2を除去し、9.3グラムの乾燥精製シクロドデカ硫黄を提供した。上記のUQ元素法による評価は、材料は少なくとも99.9%の硫黄(ラマンによるすべてのS12)、及び100ppm未満の亜鉛及び臭素であることが示した。融点は、最初にDSCによって決定され、次に熱抵抗融点装置を使用して、それぞれ162℃及び157℃と決定した。S12への硫黄の全体の収率は46%であった。
【0063】
例3-シクロドデカ硫黄材料の融点の比較
本発明の精製シクロドデカ硫黄の幾つかのバッチを、例1及び2に例示される手順に従って調製した。各最終精製材料をラマン、Uniquat(登録商標)又はICPにより分析し、上記のとおりのDSCを使用して融点開始点を測定した。結果は、Steudel,R; Eckert,Bの“Solid Sulfur Allotropes”, Topics, Current Chemistry (2003)で10℃/分、5℃/分及び2.5℃/分のDSC加熱速度で測定された報告データから外挿した「対照」シクロドデカ硫黄の融点とともに以下の表1に示す。
【表1】
【0064】
上記に示したように、本発明のシクロドデカ硫黄化合物は、先行技術のシクロドデカ硫黄化合物よりも実質的かつ予想外に高い融点開始点を示す。ラマンにより検出されるサンプル中の不純物の程度により、本発明の融点の観測変動が予想された。
【0065】
上記のように、熱安定性(又は熱分解又は可溶性硫黄への逆戻りに対する耐性)は、適切な加硫剤を選択する際の重要なパラメータである。混合における本発明の熱安定性性能は、この例3において、以下の表2に示される予め形成された組成物と、5.0phrの市販のポリマー硫黄(Eastman Chemical Companyから入手可能な6.25gのCrystex(登録商標)HD OT20)とを混合して、対照の加硫可能なエラストマー配合物を形成し、又は、5.00phrの本発明のシクロドデカ硫黄と混合して、本発明の加硫可能なエラストマー配合物を形成することにより示した。1(1.0)phrの従来の加硫促進剤であるN,N'-ジシクロヘキシル-2-メルカプトベンゾチアゾールスルフェンアミド(DCBS)も、各加硫可能なエラストマー配合物に添加した。混合は、4翼Hローターを装備したKobelco 1.6 L実験室用ミキサーを使用して行った。上記の手順に従って作成された6つのサンプル品目の配合物及び排出温度を以下の表3に示す。
【表2】
【表3】
【0066】
各サンプル品目について、サンプルをミキサーから排出し、70℃に平衡化された2本ロールミルでシート化した。次に、各サンプルのゴム含有量をジオキサンで抽出し、各品目の可溶性硫黄含有量をHPLC(Agilent 1260高速液体クロマトグラフィー)で測定した。目標温度、排出後の実際のゴム温度及び初期硫黄材料の割合として報告されるシクロオクタ硫黄含有量を以下の表4に示す。
【表4】
【0067】
上記で実証されたように、本発明のシクロドデカ硫黄は、現在市販されているポリマー硫黄加硫剤と比較したときに、顕著に減少したシクロオクタ硫黄への逆戻りを示す(したがって、ゴム混合プロセスにおける熱安定性が改善されている)。以下のさらなる例は、本発明の加硫可能なエラストマー配合物の形成についても記載し、その後に、熱安定性/耐ブルーム性について試験し、加硫剤としての本発明の化合物の効力を実証するために評価する。
【0068】
例4-本発明のシクロドデカ硫黄化合物を含む加硫可能なエラストマー配合物の形成
最初の工程として、エラストマー物品の製造に使用される従来の材料の前駆体組成物P-1を、以下の成分を組み合わせることにより調製した。
【表5】
【0069】
次に、本発明の加硫可能なエラストマー配合物(サンプルA-1)を以下のように調製した:
【表6】
【0070】
比較のために、対照の加硫可能なエラストマー配合物C-1及びC-2も、上記の組成物中で本発明のシクロドデカ硫黄をポリマー硫黄(C-1用)及びシクロオクタ硫黄(斜方晶形又は可溶性)(C-2)で置き換えることにより、次のとおりに調製した。
【表7】
【表8】
【0071】
A-1、C-1及びC-2のそれぞれを形成する際に、ブラベンダーミキサーを80℃に予熱し、次いでP-1をミキサーに装填し、50rpmで30分間混合した。次に、ミキサーの速度を35rpmに下げ、硫黄成分及び促進剤を添加し、得られた組成物を35rpmでさらに90分間混合した。次いで、材料をミキサーから排出し、その温度を記録し、80℃ミル上でシート化した。
【0072】
例5-熱安定性テスト
上記の加硫可能なエラストマー配合物A-1及びC-1を、約88℃に予熱されたブラベンダー内部ミキサーに入れ、ローター速度を最初に35rpmに設定した。ゴムを混合し、ローターの速度をより速く又はより遅く調整して、それにより、ミキサー内のゴム混合物を125℃に長時間維持して、押出又はカレンダ加工操作などの可能な商業プラント処理条件をシミュレートした。以下の表9に示すように、サンプルをミキサーから様々な時点で抽出し、サンプルのシクロオクタ硫黄の質量パーセント(ポリマー硫黄及び本発明のシクロドデカ硫黄の両方の分解/逆戻りの生成物として)を上記の例3に記載のシクロオクタ硫黄の測定の方法を使用して測定した。シクロオクタ硫黄の質量パーセントの結果を以下の表9に示す。
【0073】
【表9】
【0074】
上記の表9の125℃の処理温度では、最初のサンプルを2分で採取したときにポリマー硫黄がブルームしきい値レベルをほぼ3倍超えており、一方、本発明のシクロドデカ硫黄はしきい値ブルームレベルに達する前に125℃で5分程度で処理することができる。スループット、効率及び生産体積を最大化するために、多くの商業工場のプロセス工程が高温で2分未満、しばしば1分未満で完了するため、この予期しない利点は特に重要である。
【0075】
例6-加硫効率
加硫プロセス中に測定された加硫速度及び効率(最大トルク、スコーチ時間、t90及び最大加硫速度)に関連する4つのパラメータを使用して、Alpha Technologies Moving Die Rheometerを使用して、加硫可能なエラストマー配合物A-1、C-1及びC-2の複数のサンプルを130、140、155、160、167及び180℃で別々に加硫した。最大トルク(MH)は、形成されたネットワーク密度の尺度であり、弾性率の増加は架橋密度の増加に直接関係する。硬化の開始とも呼ばれるスコーチ時間(ts2)は、システムが最小測定トルクを2dNm超えるトルク増加を示すのに必要な時間として定義される。T90は90%の硬化状態に達するのに必要な時間である。最大加硫速度(Rh)は、硬化サイクル中に観察される最速の加硫速度の尺度である。これらの4つのパラメータをテストした結果を、以下の表10~13に示す。
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0076】
表10~13のデータは、本発明のシクロドデカ硫黄化合物が効果的かつ効率的な硫黄加硫剤であることを示している。
【0077】
本発明の様々な実施形態の前述の記載は例示及び説明の目的で提示されている。網羅的であること又は開示された正確な実施形態に本発明を限定することは意図されていない。上記の教示に照らして、多くの修正又は変更が可能である。議論された実施形態は、本発明の原理及びその実際の応用の最良の例示を提供するために選択及び記載され、それにより当業者が考えられる特定の用途に適した様々な実施形態及び様々な修正で本発明を利用できるようにする。そのようなすべての修正及び変形は、公正、法的及び公平に権利が与えられる幅に従って解釈されるときに、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内にある。以下、本発明の実施態様を列挙する。
[態様1]
エラストマーを加硫剤と混合して、エラストマーコンパウンド中に分散した前記加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、加硫可能なエラストマー配合物を形成する方法。
[態様2]
前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときにDSC融点開始点が約155℃~約167℃であることを特徴とする、態様1記載の方法。
[態様3]
前記シクロドデカ硫黄化合物は、20℃/分のDSC加熱速度で測定したときにDSC融点開始点が157℃~約167℃であることを特徴とする、態様2記載の方法。
[態様4]
前記混合工程は、加硫性組成物を前記エラストマーと組み合わせて前記加硫可能なエラストマー配合物を形成することを含み、前記加硫性組成物は前記シクロドデカ硫黄化合物を含む、態様1記載の方法。
[態様5]
エラストマー物品を形成するための方法であって、a)エラストマーを加硫剤と混合して、前記エラストマー中に分散した前記加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、ここで、前記加硫剤はシクロドデカ硫黄化合物を含む、b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、c)前記成形形状体を加硫して、加硫エラストマー物品を形成することを含む、方法。
[態様6]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃より高く上昇させることを含む、態様5記載の方法。
[態様7]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を128℃より高く上昇させることを含む、態様5記載の方法。
[態様8]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を130℃より高く上昇させることを含む、態様5記載の方法。
[態様9]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を135℃より高く上昇させることを含む、態様5記載の方法。
[態様10]
加硫エラストマー物品を形成するための方法であって、a)エラストマーを加硫剤と混合して、前記エラストマー中に分散した前記加硫剤を含む加硫可能なエラストマー配合物を形成すること、b)前記加硫可能なエラストマー配合物を成形形状体に成形すること、及び、c)前記成形形状体を加硫して、前記加硫エラストマー物品を形成することを含み、前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を125℃より高く上昇させることを含む、方法。
[態様11]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を128℃より高く上昇させることを含む、態様10記載の方法。
[態様12]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を130℃より高く上昇させることを含む、態様10記載の方法。
[態様13]
前記混合及び成形工程の少なくとも1つは、前記工程の少なくとも一部について、前記加硫可能なエラストマー配合物のバルク平均処理温度を135℃より高く上昇させることを含む、態様10記載の方法。
[態様14]
前記加硫可能なエラストマー配合物は、逆戻り防止剤、早期加硫阻害剤及び遅延剤の少なくとも1つをさらに含む、態様1記載の方法。
[態様15]
前記加硫性組成物は逆戻り防止剤をさらに含む、態様14記載の方法。
[態様16]
前記逆戻り防止剤は、ヘキサメチレン-1,6-ビス(チオスルフェート)二ナトリウム塩二水和物及び1,3-ビス(シトラコナミドメチル)ベンゼンからなる群より選ばれる、態様15記載の方法。
[態様17]
前記加硫可能なエラストマー配合物は早期加硫阻害剤をさらに含む、態様14記載の方法。
[態様18]
前記早期加硫阻害剤はN-(シクロヘキシルチオ)フタルイミドである、態様17記載の方法。
[態様19]
前記加硫可能なエラストマー配合物は、ポリスルフィド、ポリスルフィド混合物及び架橋有機ケイ素ポリスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤をさらに含む、態様1記載の方法。
[態様20]
前記加硫可能なエラストマー配合物は、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド、及び、2-メルカプトベンゾチアゾール及び非促進性メルカプト含有部分に基づく非対称ジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1つの促進剤をさらに含む、態様1記載の方法。