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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】光触媒フィルタおよび脱臭装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20230728BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20230728BHJP
   F24F 8/167 20210101ALI20230728BHJP
【FI】
A61L9/00 C
B01J35/02 J
B01J35/10
F24F8/167
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020170238
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062318
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】502046696
【氏名又は名称】東洋興商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 博美
(72)【発明者】
【氏名】松本 雄成
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴紀
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167151(JP,A)
【文献】特開2012-192323(JP,A)
【文献】特開2006-000366(JP,A)
【文献】特開2007-275292(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207107(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098631(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-22
B01J 35/02-10
F24F 8/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ基材に光触媒を固定した光触媒フィルタであって、
前記フィルタ基材を、内部に三次元の連続気孔を有する耐火性の金属多孔体とし、
該金属多孔体は、セラミック多孔体とは異なる多孔部分の内部構造を有しており、
前記金属多孔体の厚みをt(mm)とし、
前記金属多孔体の1インチ当たりの平均セル数をC(ppi)としたときに、
前記フィルタ基材は、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)で規定した前記金属多孔体を使用し、
前記金属多孔体の実用範囲内となる前記積の規定値は、100以上、400以下であることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒フィルタであって、
前記積の規定値は、100以上、375以下であることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光触媒フィルタであって、
前記金属多孔体は、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄のうちの少なくとも1種類以上の材料で形成されているか、または、前記金属多孔体は、素材にニッケルを含んでいることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光触媒フィルタであって、
前記金属多孔体は、紫外線の透過率が8%以下であることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光触媒フィルタであって、
前記光触媒は、酸化チタンであることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光触媒フィルタであって、
前記光触媒は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下であることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の光触媒フィルタであって、
前記フィルタ基材に対する前記光触媒の担持量は、50mm×100mmの面積あたり、1g~2.5gであることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光触媒フィルタであって、
前記金属多孔体は、平板状をしていることを特徴とする光触媒フィルタ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8に記載の光触媒フィルタを備えたことを特徴とする脱臭装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光触媒フィルタおよび脱臭装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒を用いた脱臭装置が既に実用化されている。光触媒を用いた脱臭装置は、光触媒を担持させた(または固定した)光触媒フィルタと、光触媒を活性化する光源とを備えている。光触媒を用いた脱臭装置では、光源を点灯して、光源からの光によって光触媒を活性化させた状態にして、光触媒フィルタへガスを通すことにより、光触媒フィルタの光触媒でガス中に含まれる臭気成分を分解するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
既存の光触媒フィルタでは、フィルタ基材にセラミック製の多孔体(セラミック多孔体)を用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-050979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光触媒を用いた脱臭装置では、使用する光触媒や光源の種類によって脱臭効率がほぼ決まるものと考えられている。そのため、光触媒を担持する光触媒フィルタの素材(フィルタ基材)については、あまり重要視されておらず、例えば、光触媒フィルタの素材が、脱臭装置の脱臭効果にどのような影響を与えるのかなどについての研究は、これまで特に行われていなかった。そのため、フィルタ基材にはまだ改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本発明は、
フィルタ基材に光触媒を固定した光触媒フィルタであって、
前記フィルタ基材を、内部に三次元の連続気孔を有する耐火性の金属多孔体とし、
該金属多孔体は、セラミック多孔体とは異なる多孔部分の内部構造を有しており、
前記金属多孔体の厚みをt(mm)とし、
前記金属多孔体の1インチ当たりの平均セル数をC(ppi)としたときに、
前記フィルタ基材は、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)で規定した前記金属多孔体を使用し、
前記金属多孔体の実用範囲内となる前記積の規定値は、100以上、400以下となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記構成によって、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)によって規定された新たなフィルタ基材(セラミック多孔体とは多孔部分の内部構造が異なる三次元の連続気孔を有する耐火性の金属多孔体)を用いて脱臭効果と圧力損失とのバランスが取れた光触媒フィルタを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態にかかる光触媒フィルタを用いた脱臭装置を商業施設に設置した状態を示す図である。
図2】本実施の形態にかかる光触媒フィルタの斜視図である。
図3】分散型脱臭装置の全体斜視図である。
図4図3の分散型脱臭装置の縦断面図である。
図5図4の脱臭ユニットをレンジフードに対して着脱する状態を示す斜視図である。
図6図5の脱臭ユニットの分解斜視図である。
図7図6の脱臭ユニットのラックの斜視図である。
図8】中規模分散型脱臭装置の全体側面図である。
図9図8の中規模分散型脱臭装置の縦断面図である。
図10】集中型脱臭装置を示す図である。このうち、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
図11図10の脱臭ユニットを示す図である。このうち、(a)は背面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
<構成>以下、この実施例の構成について説明する。
【0012】
図1に示すように、脱臭装置1は、例えば、排気ダクト2などの排気経路に設けられて、排気ダクト2を流れるガス3を脱臭するものである。排気ダクト2には、脱臭処理すべきガス3として、例えば、調理ガスなどの排ガスが流される。
【0013】
そして、脱臭装置1には、図2に示すように、フィルタ基材4に光触媒5を担持(または固定)してなる光触媒フィルタ6と、光触媒5を活性化する光源7とが備えられている。
【0014】
光触媒5を用いた脱臭装置1では、光源7を点灯して、光源7からの光8(主に、紫外線8a)によって光触媒5を活性化させ、この状態で、光触媒フィルタ6へガス3(未処理ガス3a)を通すことにより、光触媒フィルタ6の光触媒5でガス3中の臭気成分(例えば、調理臭)を(水と二酸化炭素に)分解するようになっている。脱臭装置1で臭気成分が分解されて清浄化されたガス3(処理済ガス3b)は、その後、大気へ放出される。
【0015】
上記のような基本的な構成に対し、この実施例では、以下のような構成を備えることができる。
【0016】
(1)フィルタ基材4に光触媒5を固定した光触媒フィルタ6は、
フィルタ基材4を金属多孔体11とし、
金属多孔体11の厚みをt(mm)とし、
金属多孔体11の1インチ当たりの平均セル数をC(ppi)としたときに、
厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)が100以上、400以下となるようにする。
【0017】
フィルタ基材4は、光触媒フィルタ6の本体を構成する材料(基材)のことである。フィルタ基材4には、耐火材が使用される。
【0018】
光触媒5は、光8を吸収して、他の物質に化学反応を起こさせる触媒機能を発揮する物質である。この場合、光触媒5は、少なくとも、未処理ガス3a中の臭気成分(他の物質)を分解することができるものが使用される。
【0019】
光触媒フィルタ6は、光触媒5の光触媒反応を利用して脱臭などを行わせるフィルタである。光触媒反応は、光触媒5と光8とを利用した酸化・還元反応などのことである。脱臭は、ガス3(未処理ガス3a)中に含まれる臭気成分を分解して低臭化または無臭化することである。既存の脱臭装置1では、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として、ファインセラミックスなどのセラミック多孔体を使用していた。セラミック多孔体は、高価であり、重くて壊れ易いため、他のフィルタ基材4に変更することが望まれている。
【0020】
金属多孔体11は、工業系のフィルタや食品調理用のフィルタなど、様々な分野で濾過用のフィルタなどとして使用されている多孔性の金属材料(パンチングプレートなどのような多孔板とは異なる材料)である。金属多孔体11は、内部に微細な三次元の連続気孔を有しているため、例えば、金属繊維や金属粉末を焼結してできる多孔質材(焼結材)と比べて、格段に大きい多孔率を有している。金属多孔体11は、板状(厚板状)のものが既に市販されており、この実施例の光触媒フィルタ6では、市販の板状の金属多孔体11をそのまま、または、所要の形状に加工して使用する。なお、金属多孔体11は、これまでフィルタ基材4として使用していたセラミック多孔体とは、多孔部分の内部構造が異なっているため、金属多孔体11を光触媒フィルタ6として使用した場合の性能や効果については未知の状態である。
【0021】
金属多孔体11の厚みtは、板状(矩形板状または面板状)をした金属多孔体11の面直方向の寸法である。ガス3は、金属多孔体11の内部をほぼ面直方向へ金属多孔体11のほぼ厚みt分の距離だけ流れて、金属多孔体11を通過する。金属多孔体11の厚みtは、主にガス3の圧力損失に関連する指標となる。
【0022】
平均セル数は、金属多孔体11のセル(気孔)の密度を示す値である。金属多孔体11の平均セル数は、主に臭気成分と光触媒5との接触機会に関連する指標となる。
【0023】
ファインセラミックス―光触媒材料の空気浄化性能試験方法―第3部:トルエンの除去性能(JIS R 1701-3)によれば、試験条件が、
トルエンの流量:光照射容器の入口で0.500±0.025L/min(0℃、101.3kPa)、
フィルタ(ファインセラミックス)のサイズ:幅 49.0±1.0mm/長さ 99.0±1.0mm、
光触媒面(金属多孔体11の表面)での紫外線8aの照度:10-20W/m2
となっており、
フィルタの厚みtと平均セル数(またはセルの密度)については、特に定められていない。
【0024】
よって、フィルタの厚みtや平均セル数(またはセルの密度)などの条件については、検討する余地がある。特に、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4に、金属多孔体11を新たに用いる場合には、フィルタの厚みtや平均セル数(またはセルの密度)などの条件が重要になる。
【0025】
そこで、フィルタサイズを、50(mm)×100(mm)、光触媒5(ここでは酸化チタン)の量を、2.0gに固定して、現存する各種の金属多孔体11を用いてJIS R 1701-3と同様の実験を行ったところ、以下のような結果が得られた。
【0026】
厚みt 平均セル数C t×C トルエン除去率 評価
No1 10mm 9ppi 90 77.2% ×
No2 15mm 9ppi 135 88.9% ○
No3 10mm 15ppi 150 89.7% ○
No4 15mm 15ppi 225 92.6% ○
No5 15mm 25ppi 375 94.1% ○
【0027】
実験の結果をまとめると、
10t×9ppiの金属多孔体11を用いたもの(No1)が、トルエンの除去率が最も低くなり、
15t×15ppiの金属多孔体11を用いたもの(No4)が、トルエンの除去率が十分に高くなり、
15t×25ppiの金属多孔体11を用いたもの(No5)が、トルエンの除去率が最も高くなった。
【0028】
そして、ファインセラミックスの場合と同様にトルエンの除去率85.0%を基準として評価を行ったところ、10t×9ppiの金属多孔体11を用いたもの(No1)は×(不合格)となり、それ以外の(No2~No5)の金属多孔体11を用いたものは○(合格)となった。なお、これらの金属多孔体11を用いたフィルタは、アセトアルデヒドについても除去を行うことが可能であった。即ち、(No1~No5)の金属多孔体11を用いたものは、いずれもアセトアルデヒドの除去率が90.0%以上となり、良好な結果が得られた。
【0029】
このような結果になったのは、金属多孔体11の厚みtを厚くすることで、臭気成分(トルエン)と光触媒5との接触機会が多くなるため、トルエンの除去率が向上したものと考えられる。
【0030】
また、金属多孔体11の平均セル数Cを多くすることで、金属多孔体11のセルの密度が大きく(密に)なって、臭気成分(トルエン)と光触媒5との接触機会が多くなるため、トルエンの除去率が向上したものと考えられる。
【0031】
しかし、金属多孔体11の厚みtを厚くすると、その分だけ、圧力損失が大きくなる。また、金属多孔体11の平均セル数Cを多くすると、その分だけ、圧力損失が大きくなる。そして、圧力損失が大きくなることで、排気性能が低下するため、ガス3(処理済ガス3b)を大気へ放出することが難しくなる。よって、ファンの排気能力を大きくする必要が生じる。すると、排気性能の面で実用性が失われることになる。
【0032】
そのため、圧力損失は小さく抑える必要がある。圧力損失を小さくするには、金属多孔体11の厚みtを薄くしたり、金属多孔体11の平均セル数Cを少なく(して金属多孔体11のセルの密度を小さく(疎に))したりすることになる。しかし、これらの対策を行うと、臭気成分(トルエン)と光触媒5との接触機会が少なくなるため、反対にトルエンの除去率(即ち、脱臭効果)の低下を招くことになる。
【0033】
即ち、脱臭効果と圧力損失との間には、相反関係が存在している。そこで、脱臭効果と圧力損失とのバランスを最適化して、排気性能とトルエンの除去率とを両立させることが、新たなフィルタ基材4として金属多孔体11を採用する上で重要になる。
【0034】
市販の金属多孔体11には、例えば、平均セル数Cが9ppi、15ppi、25ppi、50ppiのものが存在しており、これらを使った検証の結果、t×Cの値が低いと圧力損失(1m/s時)が低くなり、t×Cの値が高いと圧力損失が高くなることが発見された。
【0035】
厚みt 平均セル数C t×C トルエン除去率 圧力損失 評価
No1 10mm 9ppi 90 77.2% 1Pa ×
No2 15mm 9ppi 135 88.9% 3Pa ○
No3 10mm 15ppi 150 89.7% 7Pa ○
No4 15mm 15ppi 225 92.6% 16Pa ○
No5 15mm 25ppi 375 94.1% 20Pa ○
No6 10mm 50ppi 500 50Pa ×
【0036】
そして、t×Cの値が90の金属多孔体11を用いた(No1)の場合には、圧力損失が1Paと低くなるものの、臭気成分(トルエン)と光触媒5との有効な接触状態が得られないまま臭気成分(トルエン)がフィルタを通過してしまうため、トルエン除去率が低くなることが確認された。
【0037】
反対に、t×Cの値が500の金属多孔体11を用いた(No6)の場合には、圧力損失が50Paとなって、現行のセラミックフィルタの圧力損失(20Pa)よりも高くなり過ぎてしまい、使用に適さないことが確認された。圧力損失については、現行のセラミックフィルタとほぼ同程度(ほぼ20Pa)に抑えるのが、現状と同等の排気性能を維持、確保する上では好ましい。
【0038】
そして、この中で排気性能とトルエンの除去率との両立という課題にとって最適であったのは、15t×15ppi(t×C=225)の金属多孔体11を用いた(No4)であった。この検証により、フィルタ基材4に金属多孔体11を用いても、現行のセラミックフィルタとほぼ同等またはそれ以上の性能(トルエン除去率が92.6%、圧力損失が16Pa)が得られることが確認された(現行のセラミックフィルタは、トルエン除去率が92~94%、圧力損失がほぼ20Pa)。これにより、金属多孔体11をフィルタ基材4とする新たな光触媒フィルタ6の実現が可能になった。
【0039】
また、厚みt、平均セル数Cとして、t×Cの値が、15mm×25ppi=375の金属多孔体11を用いた(No5)も、トルエン除去率が94.1%、圧力損失が20Paとなって、(No4)よりも圧力損失が高いものの、現行のセラミックフィルタにかなり近い性能が得られたので、(No4)と共に実用範囲内で適したものである、という結果になった。
【0040】
これに対し、10mm×50ppi=500の金属多孔体11を用いたもの(No6)は、圧力損失が50Paと大きくなり過ぎているため、実用範囲外となった。
【0041】
これらの検証の結果から、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として適しているのは、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)が135以上、375以下の金属多孔体11であり、より適しているのは、225~375の範囲の金属多孔体11であるということが実際に確認された。
【0042】
また、トルエン除去率が、基準値にした85.0%と丁度同じになるのは、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)が135よりも低い値のときであり、また、圧力損失が現行のセラミックフィルタの値(ほぼ20Pa)を超えるのは、厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)が375よりも高い値のときであることを考慮した結果、余裕代を持たせて、平均セル数Cとの積(t×C)が、ほぼ100以上、400以下の範囲までを許容可能とすることができる。
【0043】
よって、圧力損失とトルエン除去率とが適正となるのは、t×Cの値がほぼ100~400の範囲であると確定した。
【0044】
なお、t×Cの値が500の金属多孔体11を用いたもの(No6)については、圧力損失が高くなり過ぎて実用に適していないことが明確なので、トルエン除去率の測定は行わなかった。
【0045】
以下、光触媒フィルタ6のフィルタ素材として新たに使用する金属多孔体11について、各種の検討を行った。
【0046】
(2)金属多孔体11は、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄のうちの少なくとも1種類以上の材料で形成されるのが好ましい。
【0047】
ここで、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄は、それぞれ、純金属や純度99%程度以上のものとするのが好ましいが、合金であっても良い。また、これらのうちの複数種類を、適宜の割合で混合したものや、混合したものを一部に含むものなどとしても良い。
【0048】
金属多孔体11は、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4としての機能や、光触媒5を担持する担体としての機能を有することが必要になる。また、金属多孔体11自体が触媒機能を有していれば、なお好ましい。
【0049】
また、金属多孔体11が安価で安定して作れる素材であることや、金属多孔体11の製品化や量産化に向いている素材であるということも、金属多孔体11を用いた光触媒フィルタ6を安価に量産するためには重要な要件となる。
【0050】
そこで、これらの様々な要件を満たす材料について多くの金属の中から様々に検討したところ、金属多孔体11は、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄のうちの少なくとも1種類以上の材料で形成されたもの、または、これらを含むものが最も適しているという結論が得られた。そして、これらのいずれかを金属多孔体11の材料に用いることで、良好な性能を有する光触媒フィルタ6を安定して製造することが可能になる。
【0051】
(3)金属多孔体11は、素材にニッケルを含んでいることが好ましい。
【0052】
ここで、ニッケルは、耐食性が高く、耐久性に優れ、高温や低温での強度が高く、触媒としての機能も有しているなどの様々な特徴を有する金属である。そのため、ニッケルが金属多孔体11の素材の少なくとも一部に含まれることで、フィルタ基材4を高機能化して性能の高い光触媒フィルタ6を得るのに有利となる。また、ニッケルは、上記したような優れた金属であるため、金属多孔体11の素材として適していることから、現在最も多く流通しているのが素材にニッケルを含んだ金属多孔体11であり、最も入手がし易く安価となっている。よって、光触媒フィルタ6のフィルタ素材に金属多孔体11を用いる場合には、素材にニッケルを含んだもの用いるのが好ましい。
【0053】
(4)金属多孔体11は、紫外線8aの透過率が8%以下であることが好ましい。
【0054】
上記した金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6についての別の観点からの検証を行った結果、t×Cの値は、紫外線透過率にも影響を与えていることが判明した。
【0055】
厚みt 平均セル数C t×C トルエン除去率 圧力損失 紫外線透過率 評価
No1 10mm 9ppi 90 77.2% 1Pa 9.4% ×
No2 15mm 9ppi 135 88.9% 3Pa 4.4% ○
No3 10mm 15ppi 150 89.7% 7Pa 1.6% ○
No4 15mm 15ppi 225 92.6% 16Pa 0.5% ○
No5 15mm 25ppi 375 94.1% 20Pa 0.1% ○
No6 10mm 50ppi 500 50Pa 0.0% ×
【0056】
即ち、t×Cの値が低いと紫外線透過率が高くなり、t×Cの値が高いと紫外線透過率が低くなることが発見された。
【0057】
そして、t×Cの値が90の金属多孔体11を用いた(No1)の場合には、紫外線透過率が高くなり過ぎており、紫外線8aが金属多孔体11の内部で効率的に使われなくなるため、トルエン除去率が低くなっていることが確認された。
【0058】
反対に、t×Cの値が375の金属多孔体11を用いた(No5)の場合には、紫外線透過率が低くなって、紫外線8aが金属多孔体11の内部で効率的に使われるため、トルエン除去率が高くなることが確認された。
【0059】
よって、紫外線透過率は、最適な性能を有する光触媒フィルタ6を判定するための指標になり得ることが実際に確認された。
【0060】
上記したように、圧力損失とトルエン除去率とが共に適正となるのは、t×Cの値がほぼ100~400の範囲であり、t×Cの値がほぼ100~400のときに、紫外線8aの透過率は、いずれも8%以下となっている。即ち、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として適しているのは、紫外線8aの透過率が8%以下(~0.0%以上)の金属多孔体11であることが実際に確認された。そして、紫外線8aの透過率を8%以下にすることで、金属多孔体11を使った光触媒フィルタ6を最適化することが可能になる。
【0061】
なお、紫外線透過率が0.0%にまで低下すると、金属多孔体11の反対面にまで紫外線8aが届かなくなるので、金属多孔体11の内部に活性化されない光触媒5が生じることになり、その分、トルエン除去率が低化するものと考えられる。よって、0.0%に達するか達しないギリギリの値が紫外線透過率の下限値となる。
【0062】
(5)光触媒5は、酸化チタンであることが好ましい。
【0063】
ここで、現行のセラミックフィルタでは、光触媒5に酸化チタンを用いている。
【0064】
酸化チタンは、可視光は吸収せず紫外線8aだけを吸収して光触媒反応を行う物質(光触媒5)であり、400nm以下の波長の紫外線8aを照射することで、酸化チタンは活性化する。酸化チタンは、光触媒反応によって表面に付着した汚れ(有機物)を分解する。酸化チタンの光触媒5としての効果は、一般に、光8の量(紫外線8a)や光8の当たる面積に比例する。酸化チタンは、安定で変化しないので光触媒5としての寿命は半永久的である。光触媒5は、親水性を有しているため、光触媒5の親水性を使って、セルフクリーニングなどを行うことも可能である。よって、フィルタ基材4に金属多孔体11を用いる場合にも、光触媒5には、酸化チタン、または、酸化チタンを含んでいるものを使用するのが好ましいと考えられる。
【0065】
また、酸化チタンは、光触媒5として、多環芳香族炭化水素(PAH)を酸化分解する機能も有することが確認された。多環芳香族炭化水素は、食品の加熱調理の際に不完全燃焼によって発生し、臭気成分や、オイルミスト(油煙)や、微粒子などと共に調理ガス中に含まれる。光触媒5に酸化チタンを用いることで、トルエンやアセトアルデヒドなどの臭気成分と共に多環芳香族炭化水素の低減、除去を行うことが可能になる。
【0066】
なお、酸化チタン(アナターゼ型)のバンドギャップは、
E(光8子1個当たりのエネルギー)=h(プランク定数)×v(光8の振動数)の式により、
(V=光8の速度÷波長 ゆえにE=h×光8の速度÷波長→E=1240÷波長→1240÷387.5nm=3.2eV)3.2eVとなり、波長に換算すると約388nmとなる。
【0067】
そのため、酸化チタンの適応波長領域はほぼ380nmとなる。よって、酸化チタンを活性化するための光源7には、UV-A(波長域300~400nmの紫外線A波)を発生する紫外線ランプや紫外線LEDランプを用いるのが良く、特に、光源7として使用する紫外線ランプや紫外線LEDランプは、ピーク波長領域が380nmのものとするのが好ましい。そして、酸化チタンおよび波長領域が380nmの光源7の組み合わせは、光触媒反応を使った空気浄化装置としても使える程の優れた機能を有するものになる。
【0068】
また、酸化チタンは添加物を加えて使用することができ、添加物を加えることで400nmより長い波長の光8でも触媒効果を有する光触媒5を作ることが可能になる。更に、光触媒5として、酸化チタンの他に、Pt(白金)や、WO3(酸化タングステン)や、その他の貴金属を金属多孔体11に担持させることで、上記した光源7に含まれている可視光線域の光8をも利用することができるようになる。
【0069】
よって、金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6においても、このような優れた特性を有する酸化チタンを光触媒5に用いるのが最も好ましいという結論が得られた。
【0070】
(6)光触媒5は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下であることが好ましい。
【0071】
ここで、現行のセラミックフィルタでは、光触媒5の材料に、ナノマテリアル(ナノ粒子)を用いている。ナノマテリアルは、ISOでは、「元素等を原材料として製造された固体状の材料であって、大きさを示す三次元のうち少なくとも一つの次元が約1nm~100nmであるナノ物質およびナノ物質により構成されるナノ構造体(ナノ物質の凝集した物質を含む)であること」と定義されている。そして、光触媒5の材料として用いられる酸化チタンなどは一般的に、ナノマテリアルの範疇に属しており、酸化チタンなどの光触媒5の材料は、平均粒子径が1nm以上、100nmのものとなっている。
【0072】
そして、この平均粒子径が1nm以上、100nm以下の光触媒5を実際に金属多孔体11に対して支障なく担持させることができるかどうかについて試してみた。金属多孔体11に対する光触媒5の担持の仕方は、例えば、ペルオキソチタン酸水溶液(PTA液)に酸化チタンの粉末を加えて酸化チタンスラリーを調整し、この酸化チタンスラリーに金属多孔体11を浸漬して含浸させ、乾燥した後に焼成するようにした。
【0073】
酸化チタンスラリーについては、酸化チタンをメタノール、エタノールなどのアルコール類や水などの分散媒に混合し、分散させても良い。ここで、分散を促進させる為に、必要に応じて界面活性剤や塩酸、硫酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸などのカルボン酸などを加えても良い。続いて、ビーズミルやボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、ホモジナイザーなどの装置を用いて酸化チタン粒子を分散媒中で解砕・分散させることで、酸化チタン粒子を含むスラリーを作製することができる。
【0074】
さらに酸化チタンスラリーにはペルオキソチタン酸水溶液などのチタニア系バインダーの他にシリカ系、アルミナ系のバインダーなどを含んでも良い。
【0075】
なお、光触媒5に対する酸化チタンスラリーの担持方法としては一般に行われているディップコート法、スプレーコート法などを用いれば良く、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0076】
上記のようにした結果、金属多孔体11に対しても上記した光触媒5を後述する量(担持量)だけ担持させることができることが実際に確認された。よって、平均粒子径が1nm以上、100nm以下の光触媒5が、金属多孔体11に担持させるのに適しているという結論が得られた。
【0077】
(7)フィルタ基材4に対する光触媒5の担持量は、50mm×100mmの面積あたり、1g~2.5gであることが好ましい。
【0078】
ここで、現行のセラミックフィルタでは、50mm×100mmの面積あたりの光触媒5(酸化チタン)の担持量を、1g~3gとしている。これを基準として、金属多孔体11に対する、現行のセラミックフィルタと同等の脱臭性能が得られるだけの光触媒5(酸化チタン)の担持量を、実験によって求めた。
【0079】
光触媒5の担持量は、メタノールに分散させた酸化チタンスラリーをスプレーの塗布量によって設定、調整した。このようにして光触媒5を担持させたフィルタ基材4(金属多孔体11)に対し、上記したJIS R 1701-3に準じた条件で実験を行った。実験には、上記した(No2~No5)に用いたのと同じ金属多孔体11を使用した。
【0080】
光触媒5(酸化チタン)の担持量が少ないとトルエン除去率が低下し、光触媒5(酸化チタン)の担持量が多いと金属多孔体11が目詰まりを起こすことから、トルエン除去率が85.0%以上になると共に、金属多孔体11が目詰まりを起こさない範囲を適正値にした。
【0081】
その結果、現行のセラミックフィルタの場合とは、若干異なる結果が得られた。即ち、金属多孔体11に対する光触媒5の担持量は、1g~2.5gとするのが適しているという結果が得られ、セラミックフィルタの場合よりも少なくて済むということが確認された。
【0082】
(8)金属多孔体11は、平板状をしていることが好ましい。
【0083】
ここで、現行のセラミックフィルタには、平板状のものが使用されている。そのため、金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6も、同様に平板状とすることが考えられる。そして、金属多孔体11をフィルタ基材4とした光触媒フィルタ6を平板状にすることで、現行のセラミックフィルタを、金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6にそっくりそのまま置き替えて使用することが可能になるので、金属多孔体11を基材とする光触媒フィルタ6についても、平板状にすることが、使用する上で最も有利な形状となる。実際に、金属多孔体11を基材とする光触媒フィルタ6を、現行のセラミックフィルタと置き替えて使ったところ、現行のセラミックフィルタと同等の良好な結果が得られた。ただし、金属多孔体11は、セラミックフィルタと比べて、形状に対する自由度が格段に高いので、平板状以外の全く新しい形状にして使用することも十分に可能であり、平板状以外の形状にすることで、これまでにない新たな脱臭装置1の開発に役立つことが期待できる。
【0084】
(9)上記光触媒フィルタ6を用いて脱臭装置1を構成する。
【0085】
このような光触媒5を用いた脱臭装置1は、図1に示すように、排気ダクト2の入口部や中間部や出口部に設けることができる。排気ダクト2へ入った未処理ガス3aは、排気ダクト2の入口部や中間部や出口部に設けられた脱臭装置1を通って、脱臭装置1で脱臭されて処理済ガス3bとなった後に、下流側へと流されて、大気中に放出される。大気へ放出された処理済ガス3bは、高レベルに脱臭されているので、臭気による環境汚染を起こす心配がない。
【0086】
排気ダクト2の入口部に設けられる脱臭装置1は、例えば、商業施設21に入店している飲食店22に設けられた厨房設備の調理機器23の上などに設置されたレンジフード24の奥部や、レンジフード24と排気ダクト2との接続部分などに設置される((小規模)分散型脱臭装置25)。これにより、(商業施設21に設置された)各飲食店22からの調理ガスを個別に脱臭することができる。そのため、脱臭装置1を最も小型化して設置スペースを小さくすることができ、また、管理も個別化した分だけ容易になる。更に、排気ダクト2全体の汚れも少なくなる。
【0087】
また、排気ダクト2の中間部に設けられる脱臭装置1は、例えば、商業施設21の各階ごとに設置された分岐ダクト2aに設けられる(中規模分散型脱臭装置26)。中規模分散型脱臭装置26は、例えば、分岐ダクト2aの途中や出口部分の防火ダンパ27よりも上流側の位置などに、一箇所や数カ所設置される。これにより、(商業施設21に設置された)各飲食店22からの調理ガスを各階ごとにまとめて脱臭することができる。そのため、脱臭装置1を中規模化して設置スペースを小さくすることができ、また、管理も階ごとになる分だけ容易になる。更に、排気ダクト2全体の汚れも抑えることができる。
【0088】
そして、排気ダクト2の出口部に設けられる脱臭装置1は、例えば、商業施設21の屋上21aなどにまとめて1基設置される(集中型脱臭装置28)。集中型脱臭装置28は、各階ごとの分岐ダクト2aを合流して屋上21aへと導く集合ダクト2bに設けられる。これにより、各飲食店22からの調理ガスを一箇所に集めて一度に脱臭することができる。そして、脱臭装置1を大型化して管理を一括して行う(または、集中管理を行う)ことができる。そのため、飲食店22ごとや階ごとの脱臭装置1の管理を不要化できる。また、屋上21aという高い位置から、処理済ガス3bをそのまま大気へ放出することができる。
【0089】
なお、脱臭装置1は、排気ダクト2に対し、分散型脱臭装置25と中規模分散型脱臭装置26と集中型脱臭装置28とのうちのいずれか1つを設けるようにしても良いし、少なくとも1つ以上、または、全てを設けるようにしても良い。
【0090】
より具体的には、分散型脱臭装置25は、例えば、図3図7(主に、図4参照)に示すようなものとすることができる。
【0091】
分散型脱臭装置25は、例えば、排気ダクト2(分岐ダクト2a)に接続されるレンジフード24に対して一体的に設けることができる。分散型脱臭装置25は、本体部分をユニット化した状態で(脱臭ユニット31)、レンジフード24に対して着脱可能に設置することができる。脱臭ユニット31は、例えば、レンジフード24内に設置されるファン32の下流側(上側)の位置に設置される。
【0092】
なお、分散型脱臭装置25は、人がほとんど知覚できないレベルにまでガス3中の臭気成分を脱臭できる程の強力なものなので、分散型脱臭装置25を通ったガス3(処理済ガス3b)を、排気ダクト2を通して屋外へ排出せずに、そのまま室内へ排出させるように構成することも構造的には可能である。
【0093】
脱臭ユニット31は、例えば、光触媒フィルタ6と、光源7とを上流側(下側)から下流側(下側)へ向けて順にラック33内に設置して、一体化したものとされる。
【0094】
ラック33は、脱臭ユニット31の外形を構成する部材である。光触媒フィルタ6と、光源7とは、ラック33内にガス3の流れ方向(上下方向)に沿って交互に、単段または多段に設けることができる。この実施例では、例えば、光触媒フィルタ6が上下方向に3段分以上、互いに平行に設けられ、その間の隙間に光源7が上下方向に2段分以上設けられている。光源7は、各隙間に対して単数または複数設けられる。光源7は、上記した紫外線ランプや紫外線LEDランプなどとすることができる。光源7は、光8が光触媒フィルタ6の全面に対してほぼ均等に行き渡るように必要な数だけ配置するのが好ましい。最終段(最上段)の光触媒フィルタ6の下流側(上側)には、光源7を設けても良いが、特に必要がないので省略することができる。
【0095】
また、ラック33における、初段の光触媒フィルタ6の上流側の面(下面)には、グリスフィルタ34を取付けるのが好ましい。グリスフィルタ34は、例えば、オイルミストを付着させて除去する金網状のものなどとすることができる。また、ラック33における、最終段の光触媒フィルタ6の下流側の面(上面)には、必要に応じて、活性炭フィルタ35などの補助フィルタを追加で設置できるようにしても良い。
【0096】
ラック33は、グリスフィルタ34や、光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35などの補助フィルタをそれぞれ個別に着脱できる収納部となっている。収納部の内部は、例えば、棚段状になっており、グリスフィルタ34と、光触媒フィルタ6と、活性炭フィルタ35は、収納部の棚段部分などに対し、それぞれレンジフード24内のガス3の流路断面を横切るように(横向きに)設置されて、それぞれがレンジフード24内のガス3の流路を上流側と下流側とに仕切るように塞いでいる。
【0097】
そして、ラック33自体も、レンジフード24内のガス3の流路断面を塞ぐことができる形状および大きさに形成されて、レンジフード24内に着脱できるように設置される。
【0098】
図5に示すように、レンジフード24または排気ダクト2に対するラック33の着脱方向は、レンジフード24に正対した状態で、手前側と奥側とを結ぶほぼ水平な方向(前後方向)などとするのが好ましい。
【0099】
レンジフード24の内部には、ラック33に対する装着部36が設けられる。装着部36は、ファン32と排気ダクト2(分岐ダクト2a)との間を連通するガス3の流路を形成する空間である。
【0100】
装着部36の手前側は開口部36aとされ、開口部36aに対して、ラック33は、手前側から奥側へ向けて横に差し込むようにして装着される。装着部36の内部の両側面には、ラック33の着脱方向へ延びて、ラック33の着脱を案内するガイド部材37(スライドガイド)が適宜設けられる。
【0101】
ガイド部材37は、少なくともラック33の下面と対応する位置に、ラック33の下面を下から支えるように設けられる。ガイド部材37は、ラック33の上面と対応する位置に、ラック33の上面を上から規定できるように設けても良い。また、ガイド部材37は、ラック33の側面部分33aの中間部と対応する位置に、ラック33の側面部分33aの中間部に設けたガイド用凹部38を案内できるように設けても良い。
【0102】
図6に示すように、ラック33は、左右の側面部分33aと、奥面部分33bとを有する平面視ほぼC字状をした枠部材となっており、手前面と、上面および下面とが開放されている。
【0103】
そして、ラック33の手前面と、上面および下面には、ラック33に対して着脱可能な手前面部材41や、上面部材42や、下面部材43が取付けられる。手前面部材41や、上面部材42や、下面部材43は、例えば、ネジなどによって取外せるようにラック33に固定される。
【0104】
少なくとも手前面部材41と上面部材42とをラック33から取外すことで、光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35が露出され、ラック33に対して光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35を着脱できるようになる。図7に示すように、ラック33の内部には、光触媒フィルタ6を手前側から奥側へ向けて横に差し込むようにして着脱可能な棚段部44(スライドガイド)が、上下方向に間隔を有して光触媒フィルタ6の数(設置段数分)だけ設けられる。また、棚段部44の間には、光源7を保持すると共に光源7に電力を供給する光源ホルダ45や光源ソケットが、上下方向に間隔を有して光源7の設置段数分だけ設置される。
【0105】
また、図5に示すように、手前面部材41を、装着部36の開口部36aよりも一回り大きくしてフランジ面にすることで、装着部36の開口部36aを手前面部材41のフランジ面によって塞ぐことができるようにしても良い。
【0106】
図6に示すように、上面部材42は、多数の貫通孔42aを有する有孔板にして、活性炭フィルタ35を有孔板で上から保持するようにしても良い。下面部材43は、グリスフィルタ34で構成して、グリスフィルタ34でラック33の下面を直接塞ぐようにしても良い。
【0107】
そして、排気ダクト2の装着部36に脱臭ユニット31を装着すると、脱臭ユニット31がレンジフード24内のガス3の流路断面全体を塞ぐことで、ガス3は全量が脱臭ユニット31のラック33内を通過するようになり、ラック33内に設けられた光触媒フィルタ6などの光触媒反応によって脱臭されることになる。
【0108】
分散型脱臭装置25をこのような構成にすることで、天井に近い高い位置にあるレンジフード24の装着部36からラック33ごと脱臭ユニット31全体を一度に取外すことができるようになる。取外した脱臭ユニット31は、低い位置にてラック33の手前面部材41と上面部材42とを取外すことで、ラック33に設置された光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35を露出させることができるので、下面のグリスフィルタ34と共に、光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35のうちの必要なものを取外して、それぞれを簡単にメンテナンスすることが可能になる。
【0109】
メンテナンス終了後には、グリスフィルタ34や、光触媒フィルタ6や、光源7や、活性炭フィルタ35をラック33に元の状態に取付けて、手前面部材41と上面部材42とを取付け、高い位置にある排気ダクト2の装着部36にラック33ごと一度に装着することができる。これにより、高所作業を少なくできるので、作業が容易になる。
【0110】
また、中規模分散型脱臭装置26は、例えば、図8図9に示すようなものとすることができる。
【0111】
中規模分散型脱臭装置26は、排気ダクト2(分岐ダクト2a)の途中に中空の箱型のケーシング51を設け、ケーシング51に対して上記と同様の脱臭ユニット31を、ケーシング51の手前側から奥側へ向けて横に着脱できるようにしたものとされる。
【0112】
ケーシング51に対する脱臭ユニット31の着脱方向は、排気ダクト2を流れるガス3の流れ方向と交差するほぼ水平な方向とされる。ケーシング51の着脱方向の手前側となる側面には、脱臭ユニット31を着脱するための開口部が形成される。
【0113】
ケーシング51には、排気ダクト2を流れるガス3の流れ方向の上流側となる側面に、ガス3の流入口部52が設けられ、下流側となる側面に、流出口部53が設けられる。ケーシング51は、商業施設21における排気ダクト2(分岐ダクト2a)が配設されている部分の天井や壁面などに対して取付けられる。脱臭ユニット31は、上記した分散型脱臭装置25のものとほぼ同様の構成にすることができる。脱臭ユニット31の着脱方向の手前側となる面(手前面)には、ケーシング51に対して着脱するためのハンドル54を設けても良い。
【0114】
排気ダクト2におけるガス3の流れ方向がほぼ水平な場合、光触媒フィルタ6は、ガス3の流れ方向と面直な向きに設置(縦置き)することもできるが、この実施例では、光触媒フィルタ6を、ガス3の流れ方向と平行な向きに設置(横置き)するようにしている。
【0115】
そのために、ケーシング51の内部に、ケーシング51の内部を上流側の部分と下流側の部分とに仕切る隔壁55を設ける。隔壁55は、ケーシング51の下面から上面に達するように設置される。そして、この隔壁55を、垂直部分55a,55cと水平部分55bとを交互に単数または複数有する側面視ジグザグ状の折返し形状にして、隔壁55の水平部分55bを棚段として、水平部分55bに対して脱臭ユニット31を横置きに設置するようにしている。
【0116】
棚段となる水平部分55bには、貫通穴部が形成され、貫通穴部によって、ガス3をケーシング51の上流側の部分から下流側の部分へと通過させると共に、棚段に設置された脱臭ユニット31に通させるようにしている。
【0117】
隔壁55の垂直部分55a,55cは、ケーシング51内の上流側に位置する垂直部分55aと、ケーシング51内の下流側に位置する垂直部分55cとを有している。上流側の垂直部分55aと下流側の垂直部分55cは、高さ違いに設置され、水平部分55bは、上流側の垂直部分55aと下流側の垂直部分55cとの間を、ほぼ水平に繋がれる。
これにより、隔壁55は、全体として上下方向へ延びると共に、ガス3の流れ方向に沿った水平な方向に単数回または複数回迂回する蛇行形状となる。隔壁55は、例えば、複数枚の金属板を連結して蛇行形状を形成しても良いし、一枚(または複数枚)の金属板を曲げ加工して蛇行形状を形成しても良い。
【0118】
そして、ケーシング51の上流側では、上流側の垂直部分55aがない位置にケーシング51の流入口部52が形成される。また、ケーシング51の下流側では、下流側の垂直部分55cがない位置にケーシング51の流出口部53が形成される。流入口部52と流出口部53とは、上下方向に対して高さが異なる位置に設けられる。
【0119】
この実施例では、隔壁55を構成する2つの垂直部分55a、2つの垂直部分55c、3つの水平部分55bによって、流出口部53および流出口部53がそれぞれ上下に2つずつ形成され、脱臭ユニット31は、上下方向に3段に設けられている。なお、脱臭ユニット31は、それぞれ独立して設けても良いが、上下に位置する脱臭ユニット31を、手前面部材41で繋げて一体化しても良い。この実施例では、上側の1つの脱臭ユニット31は単独状態とされ、下側の2つの脱臭ユニット31は共通の手前面部材41によって上下に繋げられて連結状態とされている。
【0120】
中規模分散型脱臭装置26をこのような構成としたことにより、上記分散型脱臭装置25と同様の作用効果に加えて、光触媒フィルタ6を、ガス3の流れ方向と平行に設置にすることで、光触媒フィルタ6を、排気ダクト2の流路断面によって制限されない自由な大きさに形成して、排気ダクト2に容易に設置することが可能になる。
【0121】
そして、集中型脱臭装置28は、図10に示すように、排気ダクト2(集合ダクト2b)の出口部に取付けられた大型の中空のハウジング61(建屋)に対し、ハウジング61内を上流側の空間と下流側の空間とに仕切るように仕切壁62を設けて、仕切壁62の面に、複数の脱臭ユニット31を嵌め込むように設置したものとされる。
【0122】
ハウジング61は、例えば、ほぼ直方体型のものとされ、ハウジング61の排気ダクト2が接続される一端面には流入口部52が設けられ、その反対側の端面(他端面)には流出口部53が設けられる。
【0123】
仕切壁62は、流入口部52の両側部間にほぼ跨がるように、また、流入口部52の周辺の所要範囲の部分を取囲むように設けるのが好ましい。仕切壁62は、ハウジング61の床面から天井に達する高さに形成される。
【0124】
そして、仕切壁62は、流入口部52の周囲を取囲んでいる部分が、流入口部52から流出口部53へ向けて先細りとなるように、平面視ほぼV字状に設けるのが好ましい。仕切壁62は、少なくとも、平面視ほぼV字状の部分を構成する傾斜した2つの壁部62a,62bを有している。
【0125】
傾斜した2つの壁部62a,62bの流入口部52側の端部間の間隔は、流入口部52の幅とほぼ同じか、それよりも狭く形成されている。そして、端部間の間隔が流入口部52の幅と等しくなっていない場合(例えば、狭くなっている場合)、流入口部52の両側部と、2つの壁部62a,62bの流入口部52側の各端部との間には、互いの幅の違いを調整するための段差壁部62cを、それぞれ設けて、流入口部52と2つの壁部62a,62bとの間を段差壁部62cで繋ぐようにしても良い。
【0126】
傾斜した2つの壁部62a,62bの流出口部53側の端部は、直接連結しても良いが、短い連結壁部62dを介して連結しても良い。
【0127】
平面視ほぼV字状の仕切壁62は、ハウジング61の流入口部52から流出口部53までの長さのほぼ半分程度以上の長さに形成される。また、平面視ほぼV字状の仕切壁62は、ハウジング61の流入口部52から流出口部53までの長さ以下の長さに形成される。
【0128】
この実施例では、仕切壁62の長さは、ハウジング61の流入口部52から流出口部53までの長さのほぼ2/3程度の長さとなっている。
【0129】
集中型脱臭装置28をこのような構成としたことにより、上記した分散型脱臭装置25や中規模分散型脱臭装置26と同様の作用効果に加えて、平面視ほぼV字状にすることで仕切壁62をより小型化することができ、また、仕切壁62に取付ける脱臭ユニット31の設置個数を少なくすることが可能になる。
【0130】
そして、ハウジング61内は、上記した平面視ほぼV字状の仕切壁62によって、上流側の空間が比較的狭く(容積が小さく)なり、下流側の空間が比較的広く(容積が大きく)なるような不均等な割合に仕切られる。また、平面視ほぼV字状の仕切壁62によって、上流側の空間は、流路断面が流出口部53へ向かって徐々に小さくなって行く。
【0131】
そのため、流入口部52からハウジング61内へ入った未処理ガス3aは、真直ぐに進んで、平面視ほぼV字状の仕切壁62に直接突き当てられると共に、流出口部53へ向かって徐々に流路断面が小さくなって行く平面視ほぼV字状の仕切壁62によって圧力を高められて行き、また、圧力が高くなった上流側の狭い空間と、圧力が低い状態の下流側の広い空間との間に差圧が発生されることで、強制的に仕切壁62を通過される。よって、未処理ガス3aは、仕切壁62に設けられた脱臭ユニット31によって効率良く脱臭されることになる。脱臭ユニット31で脱臭された処理済ガス3bは、下流側の空間から流出口部53を通って大気へと放出される。
【0132】
なお、この実施例では、仕切壁62は、平面視ほぼV字状となっているが、仕切壁62の平面形状は、上記に限るものではない。
【0133】
また、ハウジング61の一側面または両側面には、下流側の空間に出入りするための点検用のドア部63が開閉可能に設けられる。ドア部63は、外開きとするのが好ましい。
【0134】
そして、仕切壁62には、脱臭ユニット31を着脱できるようにした複数の嵌合用穴部64が単数または複数貫通形成される。嵌合用穴部64は、脱臭ユニット31の外形とほぼ同じ大きさおよび形状に形成されて、脱臭ユニット31を嵌め込み固定できるようになっている。脱臭ユニット31は、嵌合用穴部64に対して縦向きの状態で着脱可能に装着される。
【0135】
脱臭ユニット31は、嵌合用穴部64に対し、上流側の空間と下流側の空間とのどちら側から着脱できるようにしても良いが、メンテナンス上、点検用のドア部63が設けられた側(この実施例では下流側の空間の側)から着脱できるようにするのが好ましい。
【0136】
複数の嵌合用穴部64は、仕切壁62に対して、規則的に、例えば、上下に並んだ状態に形成したり、左右に並んだ状態に形成したり、上下左右の碁盤目状に並んだ状態に形成したりするのが好ましい。
【0137】
集中型脱臭装置28に用いる脱臭ユニット31は、図11に示すようなものであり、上記した分散型脱臭装置25や中規模分散型脱臭装置26のものと基本的にほぼ同様の構成や機能を有しており、光触媒フィルタ6と光源7とを上流側から順に交互に設置して一体化したものとされる。脱臭ユニット31は、例えば、平板状をした一対(2枚)の光触媒フィルタ6の間に、光源7を挟んで一体化したものなどとすることができる。または、平板状をした3枚以上の光触媒フィルタ6の間にできる2つ以上の空間に、それぞれ光源7を挟んで一体化したものなどとすることができる。
【0138】
脱臭ユニット31は、本体となる枠部65を有しており、光触媒フィルタ6および光源7は、枠部65に対して着脱可能に取付けられる。2枚または3枚以上の光触媒フィルタ6は、枠部65に対して互いに平行な状態で、枠部65の厚み方向(ガス3の流れ方向)に沿って複数段に配置される。枠部65の面方向については、枠部65の断面全体を塞ぐように、各段ごとに、単数または複数枚の光触媒フィルタ6が同一面内に位置するように並設される。枠部65は、図6図7のラック33と同様の機能を有するものであり、この場合には、矩形状に形成されている。
【0139】
枠部65は、1枚の光触媒フィルタ6と同じ大きさとすることができるが、それよりも大きいものとして、光触媒フィルタ6を同一面に対し、上下や左右に並べて複数枚設置することで、枠部65の全面を塞ぐようにしても良い。この実施例では、枠部65は、光触媒フィルタ6の辺のほぼ整数倍の大きさとされており、例えば、枠部65に対し、光触媒フィルタ6を、縦2枚、横2枚の合計4枚並べて設置するものとなっている。なお、フィルタ基材4を金属多孔体11に変更することで、光触媒フィルタ6を既存のものよりも大判化することが可能になるので、大型の枠部65に対し、既存のものと同じサイズの小型の光触媒フィルタ6を同一面内に複数枚(縦、横合計4枚)並べて設置する代わりに、大判化した1枚の光触媒フィルタ6を枠部65の同一面に設置して、枠部65の全面を1枚の光触媒フィルタ6で塞げるようにしても良い。
【0140】
また、光源7は、枠部65内に上下に間隔を有して複数本設置されている。この実施例では、1つの枠部65内に光源7が4本平行に設置されるようにしている。このうち、上側の2本の光源7は、横に並んだ上側の2枚の光触媒フィルタ6に対して、2枚の光触媒フィルタ6間に跨るように、横向きに設置され、また、下側の2本の光源7は、横に並んだ下側の2枚の光触媒フィルタ6に対し、2枚の光触媒フィルタ6間に跨るように、横向きに設置されている。
【0141】
また、枠部65の上流側の面には、押え部材66を介して、グリスフィルタ34を着脱可能に設けても良い。枠部65に取付けるグリスフィルタ34は、枠部65の全面を覆う大きさおよび形状の一枚物とするのが好ましい。押え部材66は、枠部65の各辺に対し、グリスフィルタ34の各辺を押えるように、それぞれ単数または複数設けるのが好ましい。押え部材66は、枠部65の面に沿ったグリスフィルタ34の着脱を案内するスライドガイド(またはスライドレール)などとしても良い。スライドガイドは、枠部65の各辺に沿って延びるものとすることで、一つの辺のスライドガイドを外したときに、外した辺の部分から、グリスフィルタ34を、外した辺と直交する方向に沿いスライドさせて着脱することができるようになる。
【0142】
なお、グリスフィルタ34は、各脱臭ユニット31に対して、個別に設けても良いが、これに替えてまたは加えて、ハウジング61の仕切壁62よりも上流側の位置、例えば、流入口部52の入口部分に、流入口部52の全面を塞ぐような大きさで一括して設けるようにしても良い。
【0143】
<作用効果>この実施例によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
【0144】
例えば、図1に示す、大型ショッピングモールなどのような大規模な商業施設21(大規模商業施設)では、多数の飲食店22が出店している。そして、基本的に、各飲食店22は厨房設備(調理機器23)をそれぞれ独自に備えている。
【0145】
このような厨房設備の多くは、熱を使って調理を行うことができるようになっている。そして、熱を使って調理を行うと、必然的に大量のガス3(調理ガス)が発生する。このような大量の調理ガスには、油煙(オイルミスト)や調理臭などが含まれているため、そのまま大気中に放出してしまうと、臭気などによる環境汚染が発生するおそれがあるので、調理ガスから油煙や調理臭を除去してから大気へ放出する必要がある。
【0146】
そのために、各厨房設備で発生した調理ガスを屋外へ導く排気ダクト2などに対して、脱臭装置1を設置する。このような大規模商業施設などに用いられる脱臭装置1は、多量の調理ガスを実際に高レベルで脱臭できるような、相当強力なものでなければならない。よって、十分な脱臭能力を備えていないような低レベルのものは、大規模商業施設などには使うことができないので、この実施例にかかる脱臭装置1とは対象が異なっている。
【0147】
そして、大規模商業施設などで実際に使われている脱臭装置1には、活性炭などを用いた吸着式のものや、中和剤を用いた中和式のものや、微生物を利用したバイオ式のものなど各種のものが存在している。これらの技術にはそれぞれ一長一短があるため、それぞれ並存しているのが現状である。
【0148】
そして、上記の他に、光触媒5を用いた脱臭装置1なども開発されており、既に実用化されている。光触媒5を用いた脱臭装置1は、他の方式の脱臭装置1と比べて、臭気成分を除去する能力(脱臭効率)が高いので、大規模商業施設で大量に発生される調理ガスであっても余裕を持って調理臭を有効に除去することができるため、他の方式の脱臭装置1と比べて有利である。
【0149】
また、光触媒5を用いた脱臭装置1は、他の方式の脱臭装置1と比べて設備の簡易化や小型化が図り易く、しかも、光触媒5は光8をエネルギー源として自己再生機能を発揮するため、廃棄処理などが不要であり、半永久的に使用できることからランニングコストが低いという特徴がある。
【0150】
このような光触媒5を用いた脱臭装置1は、大規模商業施設などの他に、通常規模の商業施設21や、オフィスビルや、マンションなどの集合住宅などの換気設備に対しても広く使用することができる。
【0151】
光触媒5を用いた脱臭装置1は、少なくとも、フィルタ基材4に光触媒5を担持させた上記光触媒フィルタ6と、光触媒5を活性化する光源7とを備えたものとされる。光触媒5を用いた脱臭装置1では、光源7を点灯して、光源7からの光8によって光触媒5を活性化させた状態にして、光触媒フィルタ6へ調理ガスなどのガス3(未処理ガス3a)を通すことにより、光触媒フィルタ6で調理ガス中の調理臭の臭気成分を捕集して、捕集した臭気成分を光触媒5で分解するようになっている。
【0152】
光源7は、光触媒5を活性化させる光8(主に、紫外線8a)を発生させるものであり、蛍光管(紫外線ランプ)やLED(紫外線LEDランプ)などが使用される。光源7は、基本的に光触媒フィルタ6の下流側に設置される。これにより、光源7は、光触媒フィルタ6によって未処理ガス3aから保護される。
【0153】
光源7からの光8は、光触媒フィルタ6の片面(下流側の面)に対して直接照射され、光触媒フィルタ6の内部を通って光源7とは反対側の面にまで到達する。これにより、光触媒フィルタ6の全体(両面や内部)で光触媒5が活性化される。
【0154】
光触媒フィルタ6の上流側には、グリスフィルタ34を設置して、グリスフィルタ34で油煙中の油分の大部分を予め捕集するようにしておくのが好ましい。グリスフィルタ34は、光触媒フィルタ6の上流側であればどこに設置しても良い。これにより、光触媒フィルタ6に到達する油分の量を減少させて、光触媒フィルタ6における脱臭効果の低減防止や、脱臭効果の向上などを図ることができる。なお、光触媒フィルタ6においても、到達した油分を光触媒反応によって分解除去することが可能である。
【0155】
(作用効果 1)光触媒5を用いた光触媒フィルタ6のフィルタ基材4を、金属多孔体11(金属製の多孔体)とした。金属多孔体11は、三次元網目構造の連続気孔を全体に有する金属または合金によるスポンジのような内部構造を持つ金属新素材であり、比較的軽量で所要の強度が得られ、必要な耐熱性や防火性なども備えている。
【0156】
これに対し、既存の光触媒フィルタ6では、フィルタ基材4にセラミック多孔体が使われていた。しかし、セラミック多孔体は、高価であり、また、比較的重くて割れ易かったので、慎重な取扱いが必要であり、例えば、取扱い中に落下することなどによって破損を起こし易かった。
【0157】
これに対し、フィルタ基材4を金属多孔体11に変更することで、光触媒フィルタ6を低価格で提供することができるようになると共に、金属多孔体11は軽くて丈夫であるため、セラミック多孔体のような慎重な取扱いが不要となり、また、落下などによる破損を防止して光触媒フィルタ6を欠損などのない健全な状態に保つ(保全する)ことができるようになる。よって、脱臭装置1および光触媒フィルタ6のコストダウンや、光触媒フィルタ6の取扱性の向上などを図ることが可能になる。
【0158】
そして、金属多孔体11は、セラミック多孔体と比べて製造や入手がし易いため、比較的容易且つ自由に光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として使うことができる。また、上記したように、金属多孔体11は、セラミック多孔体と比べて軽いため、光触媒フィルタ6自体や光触媒5を用いた脱臭装置1の軽量化を図ると共に、軽量化によって光触媒フィルタ6や脱臭装置1の輸送性や取扱性を向上することができ、便宜が良い。よって、光触媒5を用いた脱臭装置1を国内および海外に広く展開して普及することが容易かつ可能になる。
【0159】
また、金属多孔体11は、セラミック多孔体と比べて製造や加工が容易であるため、比較的自由な形状や大きさに形成することができ、例えば、これまでのセラミック多孔体では実現できなかったような、より薄く、より大きく、より平均セル数Cの少ない光触媒フィルタ6などを、脱臭の目的や用途に合わせて作成することなども可能になる。
【0160】
一方、脱臭装置1の脱臭効果を向上するためには、調理ガス中の臭気成分が、光触媒フィルタ6の光触媒5と接触する機会を多くすれば良い、または、臭気成分と光触媒5との接触機会ができるだけ多くなるようにすれば良い。
【0161】
しかし、臭気成分が光触媒5に接触する機会を多くしようとすると、光触媒フィルタ6の圧力損失が大きくなる。そこで、光触媒フィルタ6は、臭気成分と光触媒5との接触機会が多くなる(即ち、脱臭効果が向上する)ようにしつつも、圧力損失が可能な限り小さくなるようにすることが必要になる。そして、接触機会と圧力損失との最適化を図ることで、光触媒フィルタ6の小型化および高性能化が同時に得られるようになる。
【0162】
そこで、この実施例では、金属多孔体11は、その厚みtと、1インチ当たりの平均セル数Cとの積(t×C)を100以上、400以下にした。このように、金属多孔体11の厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)を100以上、400以下にすることで、接触機会と圧力損失との最適化が得られるため、金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6を実用化することが可能になる。
【0163】
よって、金属多孔体11をフィルタ基材4とする光触媒フィルタ6を最適化して、光触媒フィルタ6の圧力損失を抑えることや、金属多孔体11の全域に亘って未処理ガス3aをほぼ均等に透過させて、光触媒フィルタ6に担持された触媒に対する未処理ガス3a(中に含まれる臭気成分)の接触機会や接触面積を増やす(脱臭効果を向上する)ことなどが両立できるようになる。そのため、脱臭効果と圧力損失とのバランスがとれた(即ち、脱臭効果が高く、圧力損失の小さい)高性能な、そして、現行のセラミックフィルタに替わる新たな光触媒フィルタ6を得ることができる。
【0164】
そして、上記した構成を有する金属多孔体11を、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として用いることで、(JIS R 1701-3に規定された実験結果の通りの)85%以上のトルエンの除去率が得られる光触媒フィルタ6の性能を、光触媒フィルタ6の全域に亘って均等に発揮させることが可能になり、光触媒フィルタ6全体の効率的運用を実現することが可能になる。その結果、脱臭装置1は、光触媒フィルタ6の全体が効率的に稼働する分だけ、高性能化や小型化を図ることが可能になる。
【0165】
更に、金属多孔体11の厚みtと、平均セル数Cとの積(t×C)が100以上、400以下という構成を明確化したことで、金属多孔体11を、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4として採用する場合に、金属多孔体11に対する客観的な選定基準を得ることができる。
【0166】
これにより、脱臭装置1を設計する際に、脱臭装置1の具体的な規模や目的などに合った最適な金属多孔体11を迅速かつ確実に特定または選定して、容易に光触媒フィルタ6を製造することができるようになる。よって、光触媒フィルタ6の製造に要する手間やコストなどを削減することができる。
【0167】
(作用効果 2)金属多孔体11は、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄のうちの少なくとも1種類以上の材料で形成されても良い。このように、光触媒フィルタ6に使用するフィルタ基材4を、ニッケル、銀、銅、アルミニウム、ニッケルクローム、ニッケル-スズ、ニッケル-鉄のうちの少なくとも1種類以上の材料を用いた金属多孔体11に特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0168】
また、例えば、市販されている複数種類の金属多孔体11の中から、脱臭装置1の具体的な脱臭の目的や用途に合わせて、最適な材料の金属多孔体11を選定して光触媒フィルタ6を作るようなことが容易にできるようになる。更に、上記したいずれかの材料でできた金属多孔体11を光触媒フィルタ6に使うことで、金属多孔体11自体による触媒活性を促進する機能を得ることも期待できる。
【0169】
(作用効果 3)金属多孔体11は、素材にニッケルを含むようにしても良い。このように、光触媒フィルタ6に使用するフィルタ基材4の素材を、ニッケルを含んだ金属多孔体11に特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0170】
そして、ニッケルは、耐食性が高く、耐久性に優れ、高温や低温での強度が高く、触媒としての機能も有しているなどの様々な特徴を有する金属であるため、ニッケルが金属多孔体11に素材として含まれることでフィルタ基材4を高機能化して性能の高い光触媒フィルタ6を得ることができる。
【0171】
(作用効果 4)金属多孔体11は、紫外線8aの透過率が8%以下となるように構成しても良い。このように、光触媒フィルタ6に使用する金属多孔体11の紫外線8aの透過率を8%以下に特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0172】
また、金属多孔体11の紫外線8aの透過率を明確に8%以下とすることで、光触媒フィルタ6を透過して反対側へ漏れる紫外線8aの量を少なくして、光触媒フィルタ6の内部で光触媒5の活性化に使われる紫外線8aをより多く確保する(紫外線8aをより効率的に使う)ことができるようになる。
【0173】
そして、紫外線8aの透過率を調べることで、例えば、製造時に、金属多孔体11を用いた光触媒フィルタ6が適切に仕上げられているかどうかを容易に検査して判定することができるようになる。また、例えば、紫外線8aの透過率を調べることによって、メンテナンス時などに、光触媒フィルタ6が適正な状態に保たれているかどうかを容易に判断することができるようになる。
【0174】
(作用効果 5)光触媒5は、酸化チタンとしても良い。このように、金属多孔体11をフィルタ基材4に用いた光触媒フィルタ6に使用できる光触媒5を酸化チタンに特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0175】
そして、光触媒5を酸化チタンとすることで、脱臭にとって有効な酸化チタンを光触媒5として金属多孔体11に固定させた新規の光触媒フィルタ6を得ることができる。
【0176】
(作用効果 6)光触媒5は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下としても良い。このように、金属多孔体11をフィルタ基材4に用いた光触媒フィルタ6に使用する光触媒5の平均粒子径を1nm以上、100nm以下に特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0177】
そして、光触媒5は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下のものを使うことで、脱臭に最も有効に機能する平均粒子径を持つ光触媒5が金属多孔体11に固定された高性能な光触媒フィルタ6を得ることができる。
【0178】
(作用効果 7)フィルタ基材4に対する光触媒5の担持量は、50mm×100mmの面積あたり、1g~2.5gとしても良い。このように、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4に使用する金属多孔体11に対する光触媒5の担持量を50mm×100mmの面積あたり、1g~2.5gに特定することで、上記した効果に加えて、安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0179】
そして、光触媒5の担持量を50mm×100mmの面積あたり、1g~2.5gにすることで、脱臭に最適な量の光触媒5が金属多孔体11に固定された新規の光触媒フィルタ6を得ることができる。
【0180】
(作用効果 8)金属多孔体11は、平板状にしても良い。このように、光触媒フィルタ6のフィルタ基材4に使用する金属多孔体11の形状を、平板状のものに特定することで、上記した効果に加えて、使い易く、また、脱臭に有効な形状をした安定した品質・性能を有する光触媒フィルタ6を作るための明確な基準ができるため、光触媒フィルタ6を常に所望の脱臭効果が得られる信頼性の高い製品に仕上げて提供することが可能になる。
【0181】
そして、平板状の金属多孔体11は、比較的容易に加工形成することができると共に、平板状の金属多孔体11を用いた光触媒フィルタ6は、排気ダクト2への設置が比較的容易にでき、また、既存の脱臭装置1にそのまま使うことができ、しかも、未処理ガス3aを透過させ易い形状であるため、光触媒フィルタ6に担持された光触媒5に対して未処理ガス3a中の臭気成分をより多く接触させることが可能である。
【0182】
(作用効果 9)この実施例の脱臭装置1によれば、上記した光触媒フィルタ6と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0183】
1 脱臭装置
4 フィルタ基材
5 光触媒
6 光触媒フィルタ
7 光源
8a 紫外線
11 金属多孔体
t 厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11