(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20230728BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230728BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20230728BHJP
B60L 53/14 20190101ALI20230728BHJP
B60L 58/22 20190101ALI20230728BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20230728BHJP
B60L 53/20 20190101ALI20230728BHJP
B60L 58/19 20190101ALN20230728BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 V
H02J7/00 K
H02J7/00 P
B60L50/60
B60L53/14
B60L58/22
B60L58/12
B60L53/20
B60L58/19
(21)【出願番号】P 2019130276
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】間崎 耕司
(72)【発明者】
【氏名】山口 宜久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 将也
(72)【発明者】
【氏名】中屋敷 侑生
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 仁浩
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-080473(JP,A)
【文献】特開2015-042067(JP,A)
【文献】特開2014-053992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02J 7/00
B60L 50/60
B60L 53/14
B60L 58/22
B60L 58/12
B60L 53/20
B60L 58/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を出力可能な外部電源(150)と、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成された複数のバッテリ(BT1、BT2)との間に設けられ、前記外部電源と前記複数のバッテリとの間で双方向に電力授受可能な電力変換システムであって、
前記外部電源に対して一台が接続され、又は、複数の前記バッテリに対応する複数台が並列接続され、一台当たりに、前記外部電源側の一次ポート(P11、P12)に接続される一つの一次巻線(211、212)及び前記バッテリ側の複数の二次ポート(P21-P24)に接続される複数の二次巻線(221-224)を有するトランス(200、201、202)、前記一次ポートと前記一次巻線との間に設けられた一つの一次側スイッチング回路(31、32)、並びに、前記複数の二次ポートと前記複数の二次巻線との間に設けられた複数の二次側スイッチング回路(41-44)を有するマルチポート絶縁型コンバータ(300、301、302)と、
各前記バッテリに対応する複数の前記二次ポートのうちの一部である調整側ポートと前記バッテリとの間に接続され、前記バッテリ側の電圧を調整可能な複数の調整コンバータ(61-64)と、
前記マルチポート絶縁型コンバータ及び前記調整コンバータを駆動し、且つ、前記調整コンバータの動作を制御して前記バッテリ側の電圧を調整する駆動回路(75)と、
を備え、
複数の前記バッテリを並列接続に切り替える前に、
前記駆動回路は、複数の前記バッテリの電圧差が所定値以下となるように、前記マルチポート絶縁型コンバータ及び前記調整コンバータを駆動して電力授受を行う電力変換システム。
【請求項2】
前記駆動回路による前記マルチポート絶縁型コンバータの駆動において、
前記一次側スイッチング回路及び複数の前記二次側スイッチング回路を構成する複数のスイッチング素子のON/OFF時間の比を規定するDuty比は、固定値に設定されている請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記調整コンバータは、前記バッテリの充電時、前記調整側ポートの電圧を降圧して前記バッテリ側に出力可能な降圧コンバータ(67)である請求項1または2に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記調整側ポート以外の前記二次ポート
を非調整側ポートとすると、
各前記バッテリに対応する前記非調整側ポートの電圧の合計は、対応する前記バッテリのSOCが0%のときの電圧であるバッテリ最小電圧(Vmin)に設定される請求項3に記載の電力変換システム。
【請求項5】
各前記バッテリに対応する前記調整側ポートの電圧の合計は、対応する前記バッテリのSOCが100%のときの電圧であるバッテリ最大電圧(Vmax)と、対応する前記バッテリのSOCが0%のときの電圧であるバッテリ最小電圧(Vmin)との差分値に設定される請求項3または4に記載の電力変換システム。
【請求項6】
複数の前記バッテリを動力源とする移動体に搭載される請求項1~5のいずれか一項に記載の電力変換システム。
【請求項7】
前記移動体における複数の前記バッテリを主機バッテリとすると、
前記絶縁型コンバータの複数の前記二次ポートのうち少なくとも一つのポートは、前記主機バッテリとは異なるバッテリである補機バッテリ、又は、前記移動体の移動以外の機能を担う補機負荷にさらに接続される請求項6に記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成された複数のバッテリとの間で電力授受可能な電力変換システムが知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された産業機械用電池システムは、高電圧下における急速充電が可能で且つ低電圧系のコンポーネントを使用可能とすることを目的とするものである。このシステムは、電池ユニットと充電入力部又は電力負荷との接続状態を択一的に切り替えるための充放電切り替え手段、及び、複数の電池ユニット間の電気的な接続を並列または直列に択一的に切り替えるための並列/直列切り替え手段等を備える。
【0004】
このシステムの放電制御フローでは、複数の電池ユニットを並列に接続した状態で、複数の電池ユニットから電力負荷への放電を行う。また充電制御フローでは、複数の電池ユニットを直列に接続した状態で、急速充電器から充電入力部を介して複数の電池ユニットに充電を行う。充電完了後、複数の電池ユニット間の電圧差が閾値以上である場合、電圧差をなくすための電池ユニット間バランス処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電池ユニット間バランス処理では、抵抗が設けられた経路を介して二つの電池ユニット間に電流を流すため、抵抗による損失が発生する。また、抵抗により電流が抑えられるためバランス化に時間を要する。なお、特許文献1のシステムでは、電池ユニット間バランス処理の完了後、待機状態としており、バランス化に要する時間は問題にしていないものと推定される。
【0007】
以下、本明細書で「バッテリ」とは、特許文献1の「電池ユニット」と同様に、一つ以上の蓄電セルを含むバッテリモジュールを意味する。「複数のバッテリ」とは、複数の蓄電セルでなく、複数のバッテリモジュールを意味する。特許文献1の技術を電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の外部充電に適用する場合、直列での充電完了後、リレー等の切り替え手段を操作して複数のバッテリを並列接続に切り替え、負荷である主機モータに放電して走行する状況が想定される。仮に、複数のバッテリ間の電圧差が大きいままで並列接続に切り替えると、突入電流によりリレー等の寿命が低下するおそれがある。
【0008】
そこで、リレー等の信頼性や寿命を向上させるため、並列接続への切り替え前に、複数のバッテリの電圧差を所定値以下とするように均等化する処理を行うことが考えられる。以下、本明細書において「バッテリ電圧を均等化する」とは、バッテリ電圧を厳密に一致させることでなく、複数のバッテリの電圧差を、突入電流等の影響が問題とならない程度の所定値以下にまで低減することを意味する。さらに、バッテリ電圧の均等化にあたり、効率の向上を図ることが求められる。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みて創作されたものであり、その目的は、複数のバッテリの直列接続から並列接続への切り替えに際し、複数のバッテリの電圧を均等化する電力変換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電力を出力可能な外部電源(150)と、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成された複数のバッテリ(BT1、BT2)との間に設けられ、外部電源と複数のバッテリとの間で双方向に電力授受可能な電力変換システムである。この電力変換システムは、マルチポート絶縁型コンバータ(300、301、302)と、複数の調整コンバータ(61-64)と、駆動回路(75)と、を備える。
【0011】
マルチポート絶縁型コンバータは、外部電源に対して一台が接続され、又は、複数のバッテリに対応する複数台が並列接続される。マルチポート絶縁型コンバータは、一台当たりに、トランス(200、201、202)、一つの一次側スイッチング回路(31、32)、及び、複数の二次側スイッチング回路(41-44)を有する。
【0012】
トランスは、外部電源側の一次ポート(P11、P12)に接続される一つの一次巻線(211、212)及びバッテリ側の複数の二次ポート(P21-P24)に接続される複数の二次巻線(221-224)を有する。一次側スイッチング回路は、一次ポートと一次巻線との間に設けられている。複数の二次側スイッチング回路は、複数の二次ポートと複数の二次巻線との間に設けられている。
【0013】
調整コンバータは、各バッテリに対応する複数の二次ポートのうちの一部である調整側ポートとバッテリとの間に接続され、バッテリ側の電圧を調整可能である。駆動回路は、マルチポート絶縁型コンバータ及び調整コンバータを駆動し、且つ、調整コンバータの動作を制御してバッテリ側の電圧を調整する。複数のバッテリを並列接続に切り替える前に、駆動回路は、複数のバッテリの電圧差が所定値以下となるように、マルチポート絶縁型コンバータ及び調整コンバータを駆動して電力授受を行う。
【0014】
本発明の電力変換システムは、複数のバッテリを並列接続に切り替える前に、マルチポート絶縁型コンバータ及び調整コンバータを駆動して複数のバッテリ間で電力授受を行い、複数のバッテリ電圧を均等化する。これにより、並列接続への切り替え時における突入電流等を抑制し、リレー等の信頼性や寿命を向上させることができる。また、マルチポート絶縁型コンバータは、各バッテリに対応する複数の二次ポートのうちの一部が調整側ポートであり、調整側ポート以外に非調整側ポートが設けられる。そのため、バッテリ最大電圧に対し非調整側ポートが分担する分だけ、調整コンバータによる出力調整範囲を狭くすることができる。したがって、調整コンバータのスイッチング素子の耐圧レベルを下げることができる。
【0015】
さらに、二次ポートとバッテリとの間に調整コンバータを備えない電力変換システムでは、駆動回路は、マルチポート絶縁型コンバータのDuty比を可変に制御することで、複数のバッテリの電圧を均等化するように出力電圧を調整する必要がある。そのため、動作させるDuty比の領域によっては効率が低下する場合がある。それに対し本発明では、バッテリの電圧変化に応じて調整コンバータの出力電圧を調整することで、マルチポート絶縁型コンバータのDuty比を高効率領域の値に固定して非制御で駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】各実施形態の電力変換システムが搭載される車両の全体システム構成図。
【
図2】充電インフラと負荷駆動電圧との関係を示す図。
【
図3】直列接続から並列接続への切替時における課題を説明する図。
【
図5】第1実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図6】直列接続時及び並列接続時のリレーの開閉状態を示す図。
【
図7】(a)コンバータによる双方向電力授受、(b)バッテリ間の電力授受の作用を説明する図。
【
図8】第1実施形態による電力変換システムにおいて外部電源、マルチポート絶縁型コンバータ、調整コンバータの具体的構成例を示す図。
【
図9】調整コンバータに降圧コンバータを用いる構成での二次ポートの電圧分配を説明する図。
【
図10】(a)
図9に対応するSOC-バッテリ電圧特性図、(b)バッテリ電圧の均等化作用を説明するSOC-バッテリ電圧特性図。
【
図11】第2実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図12】第2実施形態の変形例による電力変換システムの模式図。
【
図13】第3実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図14】第4実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図15】第5実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図16】第6実施形態による電力変換システムの模式図であり、調整コンバータに昇圧コンバータを用いる構成での二次ポートの電圧分配を説明する図。
【
図18】第7実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図20】その他の実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図21】その他の実施形態による電力変換システムの模式図。
【
図22】その他の実施形態による電力変換システムの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、電力変換システムの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。第1~第7実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の電力変換システムは、電力を出力可能な外部電源と、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成された複数のバッテリとの間に設けられ、外部電源と複数のバッテリとの間で双方向に電力授受可能なシステムである。本実施形態では、「複数のバッテリ」として二つのバッテリBT1、BT2を備える全体システムに適用される例について説明する。
【0018】
[全体システム構成及び背景]
最初に
図1~
図4を参照し、各実施形態の電力変換システムが搭載される車両の全体システム構成、及び本実施形態の背景について説明する。
図1には、充電スタンド等の給電設備に停車した車両の充電口14に外部充電器10から給電ケーブル13が接続された状態を示す。本明細書での「車両」は、電気自動車やプラグインハイブリッド車の意味であり、バッテリを動力源とする「移動体」の一例である。車両の内部には、二つのバッテリBT1、BT2、直並列切り替えリレーRY1-RY3、その他の経路開閉リレーRY4-RY7、及び、電力変換システム70等が設けられる。
【0019】
第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2は、リチウムイオン電池等の充放電可能な、例えば400Vの高圧バッテリモジュールであり、車両の動力源である主機バッテリとして機能する。以下、「バッテリモジュール」を省略して「バッテリ」という。なお、第3実施形態に用いられる補機バッテリBTaは、主機バッテリとは異なる低圧バッテリである。バッテリBT1、BT2は、充電口14と負荷80との間に設けられる。負荷80には、電気自動車やプラグインハイブリッド車で一般に用いられるインバータ、モータ、DC/DCコンバータ、エアコン等が含まれる。
【0020】
直並列切り替えリレーのうち第1リレーRY1は、第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2の正極同士の間に設けられる。第2リレーRY2は、第1バッテリBT1の負極と第2バッテリBT2の正極との間に設けられる。第3リレーRY3は、第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2の負極同士の間に設けられる。
【0021】
その他の負荷リレーRY4及びRY5は、それぞれ第2バッテリBT2の正極及び負極と負荷80との間の経路を開閉する。充電口リレーRY6は、第1バッテリBT1の正極と充電口14の正極端子141との間の経路を開閉する。充電口リレーRY7は、第2バッテリBT2の負極と充電口14の負極端子142との間の経路を開閉する。
【0022】
ここで、二つのバッテリBT1、BT2の接続状態を直列及び並列に切り替えることの意義について説明する。
図2に、車両バッテリ用の充電インフラと負荷駆動電圧との関係を示す。バッテリの電圧は標準的に400V級であると仮定する。また、充電スタンド等の充電インフラには400V級対応及び800V級対応の2種類が存在し、使用される負荷も400V級で駆動されるものと800V級で駆動されるものの2種類が存在すると仮定する。400V級で負荷を駆動する車両のバッテリに400V級の充電インフラで充電する場合や、800V級で負荷を駆動する車両のバッテリに800V級の充電インフラで充電する場合、何ら問題は無い。
【0023】
一方、負荷駆動電圧とは異なる電圧の充電インフラで車両バッテリを充電する場合を考える。すると、400V級の負荷を駆動するバッテリを充電時に二つ直列接続すれば、800V級の充電インフラで充電可能である。そして、負荷駆動時すなわち放電時には並列接続に切り替えて400V級で使用することができる。逆に、並列接続状態で400V級の充電インフラで充電したバッテリを、負荷駆動時に二直列接続に切り替えれば、800V級で使用することができる。このように複数のバッテリの接続状態を直列及び並列に切り替え可能とすることで、多くの充電インフラに対応可能となる。
【0024】
具体的には、電動自動車やプラグインハイブリッド車の主機モータや補機等の車両機器及び充電インフラは、充電時間短縮等のため、現状の400V級から将来は800V級に移行すると予想される。すると、特に移行の過渡期には車両仕様と充電インフラの仕様とがマッチングしない状況が生じ得る。そこで、充電時と負荷駆動時(主機モータの駆動の場合には走行時)とで、バッテリの直並列を切り替え可能とすることが求められる。そのために直並列切り替えリレーが必要となる。
【0025】
このような背景から、800V級の外部充電器10を用いる場合、第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2を二直列に接続した状態で直列充電が行われる。一方、400V級の外部充電器10を用いる場合、第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2を二並列に接続した状態で並列充電が行われる。
【0026】
以下のリレー開閉パターンの説明で、RY1-RY7のうちの「あるリレーがON」という場合、「それ以外のリレーはOFF」であるものとする。二直列充電時には、第2リレーRY2、及び充電口リレーRY6、RY7がONされる。二並列充電時には、第1リレーRY1、第3リレーRY3、及び充電口リレーRY6、RY7がONされる。並列接続されたバッテリBT1、BT2から負荷80に400Vの電力を供給する二並列放電時には、第1リレーRY1、第3リレーRY3、及び負荷リレーRY4、RY5がONされる。
図1に短破線矢印で示すように、各リレーRY1-RY7の開閉はリレー操作部77により操作される。
【0027】
ところで、
図3に示すように、直列接続から並列接続への切り替えに際し、内部抵抗等のばらつきに起因して、第1バッテリBT1と第2バッテリBT2との間に電圧差が生じている状況を想定する。第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2を直列接続したときの電圧を100%としたとき、例えば第1バッテリBT1の電圧が52%、第2バッテリBT2の電圧が48%であると仮定する。なお、太線の矢印は細線の矢印よりも電圧が高いことを意味する。そして、外部充電器時での直列充電後にリレーをONし並列接続に切り替えたとき、第1バッテリBT1と第2バッテリBT2との間の電圧差による突入電流が流れ、リレー接点にアークが発生する。
【0028】
特許文献1(特許第5611400号公報)に開示された従来技術では、抵抗が設けられた経路を介して二つの電池ユニット間に電流を流すため、抵抗による損失が発生する。また、抵抗により電流が抑えられるためバランス化に時間を要するという問題がある。したがって、損失の発生や接点の寿命低下を回避しつつ、二つのバッテリBT1、BT2の電圧を短時間で均等化することが求められる。本明細書において「バッテリ電圧を均等化する」とは、バッテリBT1、BT2の電圧差を、突入電流等の影響が問題とならない程度の所定値以下にまで低減することを意味する。
【0029】
そこで、第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2を電力変換システム70に接続する構成を想定する。電力変換システム70は、電力を出力可能な外部電源150と、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成されたバッテリBT1、BT2との間で双方向に電力授受可能である。外部電源150は、例えばAC電源15の交流電力がAC/DC変換回路19により変換され、直流電力を出力する。電力変換システム70は、車載充電器用等DC/DCコンバータが兼用されてもよい。
【0030】
電力変換システム70は、第1バッテリBT1のバッテリ電圧Vb1及び第2バッテリBT2のバッテリ電圧Vb2をそれぞれ検出し、バッテリBT1、BT2の電圧差が所定値以下であるか監視する。そして、バッテリBT1、BT2を並列接続する前に、電圧差が所定値を超えている場合、電力変換システム70は、バッテリBT1、BT2の間で電力を授受させる。つまり電力変換システム70は、各バッテリBT1、BT2の電圧Vb1、Vb2を降下又は上昇させることによってバッテリBT1、BT2の電圧差を所定値以下にする。
【0031】
そして、電圧差が所定値以下となっている状態でリレー操作部77が並列接続用の第1リレーRY1及び第3リレーRY3をONする。このようにして過大な突入電流を生じることなく並列接続用の第1リレーRY1及び第3リレーRY3の接点をONすることで、アークの発生を防止し、リレーの信頼性や寿命を向上させることができる。
【0032】
[電力変換システムの実施形態]
次に、電力変換システム70の具体的な構成について実施形態毎に説明する。各実施形態の電力変換システムの符号は、「70」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。各実施形態の説明に移る前に、
図4を参照し、比較例の電力変換システム709について説明する。比較例の電力変換システム709において、
図5に示す第1実施形態の電力変換システム701と実質的に同一の構成には同一の符号を付し、後述の説明を援用する。なお、比較例は、特開2019-80473号公報の
図11に開示された構成に相当する。
【0033】
(比較例)
比較例の電力変換システム709においてマルチポート絶縁型コンバータ309を構成するトランス209は、一次ポートP11に接続される一つの一次巻線211、及び、二つの二次ポートP21、P23に接続される二つの二次巻線221、223がコア239に巻回される。一次ポートP11と一次巻線211との間には一次側スイッチング回路31が設けられる。二つの二次ポートP21、P23と二つの二次巻線221、223との間には、それぞれ二次側スイッチング回路41、43が設けられる。スイッチング回路31、41、43は、巻線211、221、223に流れる電流の向きを周期的に交替させる。二次ポートP21は第1バッテリBT1に接続され、二次ポートP23は第2バッテリBT2に接続される。
【0034】
リレー操作部77が二つのバッテリBT1、BT2を並列接続に切り替える前に、駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ309を駆動し、バッテリBT1、BT2間で電力授受を行う。すなわち、
図4に太線矢印で示すように、一方の二次側スイッチング回路41から他方の二次側スイッチング回路43を通る経路で、バッテリBT1、BT2間の電力が還流される。
【0035】
このとき、駆動回路75は、バッテリBT1、BT2の電圧変化に応じて、スイッチング回路31、41、43のDuty比を可変に制御する。なお、Duty比は、各スイッチング回路を構成する複数のスイッチング素子のON/OFF時間の比を規定する値である。本明細書では、「スイッチング周期に対する上アームスイッチング素子のON時間の比率」をDuty比と定義する。
【0036】
ところで、マルチポート絶縁型コンバータ309の効率は、スイッチング回路31、41、43のDuty比に依存する。基本的にDuty比が0.5付近のとき効率は最大であり、0.5から離れると効率は低下する。そのため、Duty比を可変に制御する構成では、動作させるDuty比の領域によっては効率が低下する場合がある。したがって、本実施形態でバッテリBT1、BT2の電圧を均等化するにあたり、さらに効率の向上を図ることが求められる。
【0037】
(第1実施形態)
図5~
図10を参照し、第1実施形態の電力変換システム701について説明する。
図5に模式的に示すように、電力変換システム701は、電力を出力可能な外部電源150と二つのバッテリBT1、BT2との間に設けられる。第1バッテリBT1及び第2バッテリBT2は、直並列切り替えリレーRY1-RY3により直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成されている。詳しくは
図6に示すように、直列接続時には、第2リレーRY2がON、第1リレーRY1及び第3リレーRY3がOFFされる。並列接続時には、第1リレーRY1及び第3リレーRY3がON、第2リレーRY2がOFFされる。
【0038】
電力変換システム701及びバッテリBT1、BT2は、車両等の「移動体」に搭載され、バッテリBT1、BT2は移動体の動力源として用いられる。外部電源150は、少なくとも電源自体が移動体の外部にあるものとして想定される。ただし、外部電源150のうち電源の電力を変換する回路の一部が移動体の内部に設けられてもよい。
【0039】
電力変換システム701は、マルチポート絶縁型コンバータ300、各バッテリBT1、BT2に対応する二つのバッテリ充放電回路601、602、並びに駆動回路75を備える。なお、
図5において、第2バッテリ充放電回路602には「バッテリ充放電回路」の名称の記載を省略する。第2~第4実施形態の各図においても同様とする。
【0040】
第1バッテリBT1には、直列接続された二つのバッテリ側コンデンサCb1、Cb2が並列接続されている。高電位側のバッテリ側コンデンサCb1は、マルチポート絶縁型コンバータ300の二次ポートP21に直接接続される。低電位側のバッテリ側コンデンサCb2は、調整コンバータ62を介してマルチポート絶縁型コンバータ300の二次ポートP22に接続される。第1バッテリ充放電回路601は、これらの高電位側及び低電位側の回路により構成される。
【0041】
同様に第2バッテリBT2には、直列接続された二つのバッテリ側コンデンサCb3、Cb4が並列接続されている。高電位側のバッテリ側コンデンサCb3は、マルチポート絶縁型コンバータ300の二次ポートP23に直接接続される。低電位側のバッテリ側コンデンサCb4は、調整コンバータ64を介してマルチポート絶縁型コンバータ300の二次ポートP24に接続される。第2バッテリ充放電回路602は、これらの高電位側及び低電位側の回路により構成される。
【0042】
ここで、バッテリ充放電回路601、602の高電位側の回路において「直接接続される」とは、「調整コンバータを介さないで接続される」ことを意味しており、経路途中にリレーや抵抗等の素子が設けられることを排除するものではない。要するに、バッテリ充放電回路601、602の低電位側の回路は調整コンバータ62、64によってバッテリ側の電圧を調整する調整回路であるのに対し、高電位側の回路はバッテリ側の電圧を調整しない「非調整回路」である。
【0043】
また、第1実施形態では低電位側に調整コンバータ62、64が設けられるが、後述する第4実施形態のように、高電位側に調整コンバータ61、63が設けられてもよい。ただし、低電位側(すなわちグランド側)の方がノイズの影響を受けにくく、有利なため、第4実施形態以外では低電位側に調整コンバータ62、64を設ける構成を基本とする。調整コンバータ62、64の具体的な構成及び作用効果については後述する。
【0044】
第1実施形態では、二つのバッテリBT1、BT2に共通して対応する一台のマルチポート絶縁型コンバータ300が外部電源150に接続される。マルチポート絶縁型コンバータ300は、外部電源150側に一つ、バッテリBT1、BT2側に四つ、計五つの入出力ポートを有する。
【0045】
マルチポート絶縁型コンバータ300を構成するトランス200は、一次ポートP11に接続される一つの一次巻線211、及び、四つの二次ポートP21、P22、P23、P24に接続される四つの二次巻線221、222、223、224がコア230に巻回される。一次ポートP11と一次巻線211との間には一次側スイッチング回路31が設けられる。四つの二次ポートP21、P22、P23、P24と四つの二次巻線221、222、223、224との間には、それぞれ二次側スイッチング回路41、42、43、44が設けられる。スイッチング回路31、41、42、43、44は、巻線211、221、222、223、224に流れる電流の向きを周期的に交替させる。
【0046】
第1バッテリBT1に対応する二つの二次ポートP21、P22のうちの一部の二次ポートP22が「調整側ポート」に相当し、調整側ポートP22以外の二次ポートP21が「非調整側ポート」に相当する。第2バッテリBT2に対応する二つの二次ポートP23、P24のうちの一部の二次ポートP24が「調整側ポート」に相当し、調整側ポートP24以外の二次ポートP23が「非調整側ポート」に相当する。
【0047】
駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ300及び調整コンバータ62、64を駆動し、且つ、調整コンバータ62、64の動作を制御してバッテリBT1、BT2側の電圧を調整する。詳しくは、リレー操作部77が二つのバッテリBT1、BT2を並列接続に切り替える前に、駆動回路75は、バッテリ電圧Vb1、Vb2の差が所定値以内となるように、マルチポート絶縁型コンバータ300及び調整コンバータ62、64を駆動して電力授受を行う。
【0048】
本実施形態では、駆動回路75によるマルチポート絶縁型コンバータ300の駆動において、一次側スイッチング回路31及び二次側スイッチング回路41-44のDuty比は固定値に設定されている。上述の通り、Duty比は、各スイッチング回路を構成する複数のスイッチング素子のON/OFF時間の比を規定する値である。このように、スイッチング回路のDuty比を固定して駆動されるコンバータを本明細書では「非制御コンバータ」と称する。
【0049】
図8等に示すように、一般にスイッチング回路は、上下アームのスイッチング素子を含んで構成される。基本的にはDuty比が0.5であるとき、マルチポート絶縁型コンバータ300の効率が最大となる。したがって、Duty比の固定値は約0.5に設定されることが好ましい。なお、厳密には、上下アームのスイッチング素子が同時にONし短絡電流が流れることを防止するためのデッドタイム分が差し引かれる。
【0050】
図4に示す比較例の電力変換システム709は、マルチポート絶縁型コンバータ309の二次ポートP21、P23と各バッテリBT1、BT2との間が「非調整回路」のみで接続されている。すなわち、比較例の電力変換システム709は調整コンバータを備えていないため、駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ309のDuty比を可変に制御することで、二つのバッテリBT1、BT2の電圧を均等化するように出力電圧を調整する必要がある。そのため、動作させるDuty比の領域によっては効率が低下する場合がある。
【0051】
それに対し本実施形態では、バッテリBT1、BT2の電圧変化に応じて調整コンバータ62、64の出力電圧を調整することで、マルチポート絶縁型コンバータ300のDuty比を高効率領域の値に固定して非制御で駆動することができる。このように第1実施形態の電力変換システム701は、マルチポート絶縁型コンバータ300及びバッテリ充放電回路601、602を介して、外部電源150と二つのバッテリBT1、BT2との間で双方向に電力授受可能である。
【0052】
図7(a)、(b)を参照し、電力変換システム701における電力授受作用について説明する。
図7(a)、(b)には、直並列切り替えリレーRY1-RY3及び駆動回路75の図示を省略する。
図7(a)に示すように、電力変換システム701は、マルチポート絶縁型コンバータ300の各スイッチング回路及び調整コンバータ62、64において、双方向の電力授受が可能である。また、
図7(b)に示すように、電力変換システム701は、マルチポート絶縁型コンバータ300及びバッテリ充放電回路601、602を介してバッテリBT1、BT2間の電力を授受させることで、バッテリ電圧Vb1、Vb2を均等化させることができる。
【0053】
続いて
図8に、外部電源150、マルチポート絶縁型コンバータ300、調整コンバータ62の具体的構成例を示す。
図8以下の具体的構成例の図では、第1バッテリBT1に対応する
図5等の上半分の部分のみを示し、第2バッテリBT2に対応する
図5等の下半分の部分を省略する。また、直並列切り替えリレーRY1-RY3及び駆動回路75の図示を省略する。
【0054】
図8の例の外部電源150は、AC電源15及びAC/DC変換回路19から構成されている。AC電源15は、100V又は200Vのコンセントから供給される50Hz又は60Hzの商用電源である。AC/DC変換回路19は、例えばPFC(力率改善)回路として構成され、車両等の移動体側に設けられてもよい。その他の例の外部電源150は、充電器等の直流電源であってもよい。
【0055】
図8の例のマルチポート絶縁型コンバータ300では、一次側スイッチング回路31はハーフブリッジ式のDC/DCコンバータ51で構成されている。また、二次側スイッチング回路41、42はフルブリッジ式のDC/DCコンバータ(符号なし)で構成されている。
【0056】
また、第1実施形態の調整コンバータ62は、マルチポート絶縁型コンバータ300からバッテリBT1に充電するとき降圧回路として機能する降圧コンバータ67で構成されている。降圧コンバータ67は、上下アームのスイッチング素子67a、67b及びコイル67cを含むチョッパ式降圧回路である。バッテリBT1の充電時、降圧コンバータ67は、調整側ポートP22の入力電圧VHを降圧してバッテリBT1側に出力する。
【0057】
図9及び
図10を参照し、バッテリのSOCに応じたバッテリ電圧の変化、及び、降圧コンバータ67によるバッテリ側電圧の調整について説明する。
図9には代表として第1バッテリBT1を示しているが、いずれのバッテリBT1、BT2にも共通する説明であるため、バッテリ電圧の記号を単に「Vb」と記す。また、
図10に示すように、バッテリSOCが0%のときの電圧を「バッテリ最小電圧Vmin」と記し、バッテリSOCが100%のときの電圧を「バッテリ最大電圧Vmax」と記す。バッテリ最大電圧Vmaxからバッテリ最小電圧Vminまでの範囲が降圧コンバータ67による電圧調整範囲となる。
【0058】
図9には、バッテリ充放電回路601における、非調整側ポートP21と調整側ポートP22との電圧分配を示す。非調整側ポートP21の電圧は、対応するバッテリのバッテリ最小電圧Vminに設定される。ただし、現実的には電圧検出誤差やマルチポート絶縁型コンバータ300の出力誤差等を考慮して、非調整側ポートP21の電圧は、対応するバッテリの「バッテリ最小電圧Vminと同等の値」に設定される。「同等」の範囲は、当該技術分野における技術常識に照らして決定されればよい。
【0059】
また、調整側ポートP22の電圧は、対応するバッテリのバッテリ最大電圧Vmaxとバッテリ最小電圧Vminとの差分値(Vmax-Vmin)に設定され、この値が降圧コンバータ67の入力電圧VHとなる。降圧コンバータ67が出力する降圧後電圧VLは、バッテリ電圧Vbとバッテリ最小電圧Vminとの差分値(Vb-Vmin)となる。この関係が
図10(a)に示される。
【0060】
図10(b)に、二つのバッテリBT1、BT2の電圧Vb1、Vb2を均等化する作用を示す。例えば、第1バッテリ電圧Vb1が第2バッテリ電圧Vb2より高い場合、駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ300及び調整コンバータ62を駆動し、第1バッテリBT1から第2バッテリBT2へ電力供給させる。これにより、第1バッテリ電圧Vb1を降下させ、第2バッテリ電圧Vb2を上昇させて、バッテリ電圧Vb1、Vb2の差を所定値以下とするように均等化させる。
【0061】
以上のように、第1実施形態の電力変換システム701は、二つのバッテリBT1、BT2を並列接続に切り替える前に、マルチポート絶縁型コンバータ300及び調整コンバータ62、64を駆動してバッテリBT1、BT2間で電力授受を行い、バッテリ電圧Vb1、Vb2を均等化する。これにより、並列接続への切り替え時における突入電流等を抑制し、リレーの信頼性や寿命を向上させることができる。
【0062】
また、マルチポート絶縁型コンバータ300は、各バッテリBT1、BT2に対応する複数の二次ポートのうちの一部が調整側ポートP22、P24であり、調整側ポート以外に非調整側ポートP21、P23が設けられる。そのため、バッテリ最大電圧Vmaxに対し非調整側ポートが分担する分だけ、調整コンバータ62、64による出力調整範囲を狭くすることができる。したがって、調整コンバータ62、64のスイッチング素子の耐圧レベルを下げることができる。
【0063】
さらに、駆動回路75によるマルチポート絶縁型コンバータ300の駆動において、各スイッチング回路のDuty比を固定値として約0.5に設定することで、バッテリ電圧の均等化における効率を向上させることができる。
【0064】
加えて、調整コンバータ62、64に降圧コンバータ67を用いる構成において、非調整側ポートP21及び調整側ポートP22の電圧を
図9のように設定することで、バッテリBT1、BT2のSOCに応じて、降圧コンバータ67による出力調整を効率的に行うことができる。
【0065】
(第2実施形態)
次に
図11を参照し、第2実施形態の電力変換システム702について説明する。第2実施形態では、二つのバッテリBT1、BT2に対応する二台のマルチポート絶縁型コンバータ301、302が外部電源150に対して並列接続される。各マルチポート絶縁型コンバータ301、302は、外部電源150側に一つ、バッテリBT1、BT2側に二つ、計三つの入出力ポートを有する。
【0066】
第1マルチポート絶縁型コンバータ301を構成するトランス201は、一次ポートP11に接続される一つの一次巻線211、及び、二つの二次ポートP21、P22に接続される二つの二次巻線221、222がコア231に巻回される。一次ポートP11と一次巻線211との間には一次側スイッチング回路31が設けられる。二つの二次ポートP21、P22と二つの二次巻線221、222との間には、それぞれ二次側スイッチング回路41、42が設けられる。スイッチング回路31、41、42は、巻線211、221、222に流れる電流の向きを周期的に交替させる。
【0067】
第2マルチポート絶縁型コンバータ302を構成するトランス202は、一次ポートP12に接続される一つの一次巻線212、及び、二つの二次ポートP23、P24に接続される二つの二次巻線223、224がコア232に巻回される。一次ポートP12と一次巻線212との間には一次側スイッチング回路32が設けられる。二つの二次ポートP23、P24と二つの二次巻線223、224との間には、それぞれ二次側スイッチング回路43、44が設けられる。スイッチング回路32、43、44は、巻線212、223、224に流れる電流の向きを周期的に交替させる。
【0068】
各マルチポート絶縁型コンバータ301、302の二次ポートP21、P23が非調整側ポートであり、P22、P24が調整側ポートである構成、及び、バッテリ充放電回路601、602の構成は第1実施形態と同様である。駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ301、302及び調整コンバータ62、64を駆動する。
【0069】
各マルチポート絶縁型コンバータ301、302のDuty比は0.5で固定される。第2実施形態では、駆動回路75がマルチポート絶縁型コンバータ301、302及び調整コンバータ62、64を駆動することで、第1実施形態と同様に、二つのバッテリBT1、BT2の電圧を均等化する。
【0070】
第2実施形態の変形例を
図12に示す。外部電源150がAC電源15及びAC/DC変換回路を含む構成において、変形例では、AC電源15に対し二つのAC/DC変換回路191、192が並列接続されている。AC/DC変換回路191、192は、それぞれ、第1マルチポート絶縁型コンバータ301の一次ポートP11、及び、第2マルチポート絶縁型コンバータ302の一次ポートP12に接続される。
【0071】
(第3実施形態)
図13に示す第3実施形態の電力変換システム703は、
図5に示す第1実施形態の電力変換システム701に対し、マルチポート絶縁型コンバータ303の二次側に五つめの二次巻線228、二次側スイッチング回路48、及び二次ポートP28がさらに設けられる。二次ポートP28には、補機バッテリBTa及び補機負荷49が接続される。なお、
図13では、
図5における駆動回路75及びその入出力の図示を省略する。また、第3実施形態の
図13にのみ使用される符号は、[符号の説明]の欄の符号、及び、特許請求の範囲の参照符号としては記載しない。
【0072】
また、第2実施形態の電力変換システム702に対しても同様に、二台のマルチポート絶縁型コンバータ301、302のいずれかの二次ポートに、補機バッテリBTa又は補機負荷49が接続される構成としてもよい。
【0073】
電力変換システム703が「移動体」としての車両に搭載される場合、補機バッテリBTaは、主機バッテリBT1、BT2とは異なる低圧バッテリであり、補機負荷49は、車両の走行以外の機能を担う各種車載機器に相当する。第3実施形態では、マルチポート絶縁型コンバータ300が補機バッテリBTaや補機負荷49への電力供給用DC/DCコンバータの機能を兼ねる。なお、電力変換システム703が搭載される「移動体」は、ドライバが運転する車両に限らず、バッテリを動力源とする無人車両、船舶、飛行機等であってもよい。その場合、補機負荷49は、移動体の移動以外の各種機能を担う。
【0074】
(第4実施形態)
図14に示す第4実施形態の電力変換システム704では、各バッテリBT1、BT2の高電位側に対応する二次ポートP21、P23とバッテリ側コンデンサCb1、Cb3との間に調整コンバータ61、63が接続される。各バッテリBT1、BT2の低電位側に対応する二次ポートP22、P24とバッテリ側コンデンサCb2、Cb4との間は直接接続される。つまり、第4実施形態では二次ポートP21、P23が調整側ポートとなり、二次ポートP22、P24が非調整側ポートとなる。このようにしても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0075】
(第5~第7実施形態)
第5~第7実施形態は、
図8に示された構成例に対し、マルチポート絶縁型コンバータ300の一次側スイッチング回路31、又は、調整コンバータ62の具体的な回路構成を変更したものである。
図15、
図16、
図18には、
図8、
図9と同様に、第1バッテリBT1に対応する側の構成のみを示す。
【0076】
図15に示す第5実施形態の電力変換システム705では、一次側スイッチング回路31がフルブリッジ式のDC/DCコンバータ52で構成される。そのため、マルチポート絶縁型コンバータ300は、一次側及び二次側の双方にフルブリッジを有するデュアルアクティブブリッジ(DAB)方式をなす。一次側スイッチング回路31をフルブリッジ式とすることで、ハーフブリッジ式に対しスイッチング素子の耐圧を下げることができる。第5実施形態でもマルチポート絶縁型コンバータ300のDuty比が0.5で固定されることで、高効率駆動が可能となる。
【0077】
図16に示す第6実施形態の電力変換システム706では、調整コンバータ62は、マルチポート絶縁型コンバータ300からバッテリBT1に充電するとき昇圧回路として機能する昇圧コンバータ68で構成される。昇圧コンバータ68は、上下アームのスイッチング素子68a、68b及びコイル68cを含むチョッパ式昇圧回路である。バッテリBT1の充電時、昇圧コンバータ68は、調整側ポートP22の入力電圧VLを昇圧してバッテリBT1側に出力する。
【0078】
図16及び
図17を参照し、バッテリのSOCに応じたバッテリ電圧の変化、及び、昇圧コンバータ68によるバッテリ側電圧の調整について説明する。説明に関する注記は、
図9及び
図10を参照する降圧コンバータ67についての注記に準ずる。昇圧コンバータ68の場合、入力電圧VLを0より大きい値にするため、非調整側ポートP21及び調整側ポートP22の電圧和に対する調整側ポートP22の電圧分配率をα(0<α<1)とする。「(1-α)×Vmin」からVmaxまでの範囲が昇圧コンバータ68による電圧調整範囲となる。
【0079】
図16には、バッテリ充放電回路601における、非調整側ポートP21と調整側ポートP22との電圧分配を示す。非調整側ポートP21の電圧は、対応するバッテリのバッテリ最小電圧Vminに基づき、「(1-α)×Vmin」に設定される。また、調整側ポートP22の入力電圧VLは「α×Vmin」に設定される。昇圧コンバータ68が出力する昇圧後電圧VHは、「Vb-(1-α)×Vmin」となる。この関係が
図17に示される。
【0080】
図18に示す第7実施形態の電力変換システム707では、調整コンバータ62が絶縁型コンバータ69で構成される。絶縁型コンバータ69は、制御次第で、バッテリの充電時に降圧コンバータにもなり、昇圧コンバータにもなる。例えばバッテリの充電時に降圧コンバータとして機能する構成では、非調整側ポートP21及び調整側ポートP22の電圧を
図9のように設定することで、出力調整を効率的に行うことができる。
【0081】
(参考形態)
図19に、本実施形態の構成を応用した参考形態を示す。参考形態の電力変換システム701Rでは、二つのバッテリBT1、BT2の接続状態は直列に固定されており、直列と並列とを切り替え可能に構成されていない。また、一方のバッテリ(例えば第2バッテリBT2)と並列に補機負荷49が接続されている。補機負荷49の電力消費により、第2バッテリBT2の電圧Vb2は第1バッテリBT1の電圧Vb1よりも低下する。
【0082】
そこで駆動回路75は、マルチポート絶縁型コンバータ300及び調整コンバータ62、64を駆動して二つのバッテリBT1、BT2間で電力授受を行い、第2バッテリBT2の電圧Vb2を上昇させる。この場合、必ずしも二つのバッテリBT1、BT2の電圧Vb1、Vb2を均等にしなくてもよい。例えば、今後の補機負荷49の電力消費を見込んで、第2バッテリBT2の電圧Vb2が第1バッテリBT1の電圧Vb1よりも高めになるように電力授受が行われてもよい。
【0083】
(その他の実施形態)
(a)本発明の電力変換システムは、直列接続及び並列接続を切り替え可能に構成された三つ以上のバッテリを備える全体システムに適用されてもよい。その場合、三つ以上のバッテリが同時に電力変換システムに接続されるようにしてもよい。或いは、二つずつのバッテリが逐次、電力変換システムに接続されるようにしてもよい。
【0084】
図20に示す全体システムは、直並列切り替えリレーRY1a-RY3a、RY1b-RY3b、RY1c-RY3cにより、三つのバッテリBT1、BT2、BT3をいずれか二つの二直列もしくは二並列、又は、三直列もしくは三並列に切り替え可能に構成されている。リレーRY1a-RY3aは第1バッテリBT1と第2バッテリBT2との直並列を切り替え、リレーRY1b-RY3bは第2バッテリBT1と第3バッテリBT32との直並列を切り替える。また、リレーRY1c-RY3cは第3バッテリBT3と第1バッテリBT1との直並列を切り替える。例えばリレーRY2a及びRY2bがONのとき三直列になり、リレーRY1a、RY1b、RY3a及びRY3bがONのとき三並列になる。
【0085】
この全体システムに適用される電力変換システム708は、
図5に示す電力変換システム701の構成に加え、第3バッテリBT3に対応する構成が追加されている。マルチポート絶縁型コンバータ308は、二次巻線225、226と二次ポートP25、P26との間に二次側スイッチング回路45、46をさらに備える。高電位側のバッテリ側コンデンサCb5は、非調整側ポートP25に直接接続される。低電位側のバッテリ側コンデンサCb6は、調整コンバータ66を介して調整側ポートP26に接続される。
【0086】
(b)上記実施形態では、マルチポート絶縁型コンバータの非調整側ポート及び調整側ポートは、対応する一つのバッテリに対し各一つ設けられている。他の実施形態では、対応する一つのバッテリに対し、
図21に示す電力変換システム7091のマルチポート絶縁型コンバータ3091のように調整側ポートが複数設けられてもよい。或いは、
図22に示す電力変換システム7092のマルチポート絶縁型コンバータ3092のように非調整側ポートが複数設けられてもよい。
【0087】
図21に示す電力変換システム7091は、
図5に示す電力変換システム701における符号「222、224、42、44、62、64、Cb2、Cb4」の要素を二組有する。
図21では上記各要素の符号末尾に「1」及び「2」を付して示す。
図22に示す電力変換システム7092は、
図5に示す電力変換システム701における符号「221、223、41、43、61、63、Cb1、Cb3」の要素を二組有する。
図22では上記各要素の符号末尾に「1」及び「2」を付して示す。
【0088】
電力変換システム7091、7092において、
図9、
図10に示す調整コンバータに降圧コンバータを用いる構成での各二次ポートの電圧設定は、次のように拡張される。いずれも第1バッテリ電圧Vb1側の記号で説明する。
【0089】
調整側ポートが複数である電力変換システム7091では、複数の調整側ポートP221、P222の電圧VH1、VH2の合計が、対応するバッテリのバッテリ最大電圧Vmaxとバッテリ最小電圧Vminとの差分値に設定される。また、複数の調整コンバータ621、622の降圧後電圧VL1、VL2の合計がバッテリ電圧Vbとバッテリ最小電圧Vminとの差分値(Vb-Vmin)となる。非調整側ポートが複数である電力変換システム7092では、複数の非調整側ポートP211、P212の電圧V1、V2の合計が、対応するバッテリのバッテリ最小電圧Vminに設定される。
【0090】
なお、その他の実施形態の
図20~
図22にのみ使用される符号は、[符号の説明]の欄の符号、及び、特許請求の範囲の参照符号としては記載しない。
【0091】
(c)上記実施形態では、マルチポート絶縁型コンバータのDuty比を高効率領域の固定値としているが、他の実施形態では、マルチポート絶縁型コンバータのDuty比を可変に制御してもよい。その場合、例えばDuty比の可変領域を高効率の領域に限定し、調整コンバータによる出力電圧の調整と組み合わせ、微調整レベルで制御してもよい。
【0092】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0093】
150・・・外部電源、
200、201、202・・・トランス、
211、212・・・一次巻線、 221-224・・・二次巻線、
300、301、302・・・マルチポート絶縁型コンバータ、
31、32・・・一次側スイッチング回路、
41-44・・・二次側スイッチング回路、
61-64・・・調整コンバータ、
70(701-707)、・・・電力変換システム、
75・・・駆動回路、
BT1、BT2・・・バッテリ、
P11、P12・・・一次ポート、
P21-P24・・・二次ポート。