(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】塗膜の特性測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/60 20060101AFI20230728BHJP
G01R 29/12 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
G01N27/60 A
G01R29/12 Z
(21)【出願番号】P 2019154830
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】508329405
【氏名又は名称】杉本 俊之
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】野村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】最上 智史
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167011(JP,A)
【文献】特許第6354077(JP,B2)
【文献】特開昭51-093272(JP,A)
【文献】米国特許第07012438(US,B1)
【文献】特開2004-028873(JP,A)
【文献】特開2005-077348(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103454315(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102841123(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01R 29/00 - G01R 29/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体表面に塗膜を形成した測定対象にイオンを照射する放電電極と、
上記塗膜表面においてイオンが照射されるイオン照射部の表面電位を測定する表面電位センサと、
上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を形成する手段と
を備え、
基準膜厚と基準体積抵抗率とを特定できる基準サンプルから、予め基準表面電位Eb及び基準減衰特性値Dbを特定するプロセスと、
上記表面電位センサでイオン照射中の上記イオン照射部における表面電位Emを測定するプロセスと、
上記表面電位Emを測定後に、上記放電電極への電圧印可をオフにしてイオン照射を停止するプロセスと、
イオン照射を停止した後に、塗膜の体積抵抗率ρvのみを変数とする上記表面電位Emの減衰特性値Dを測定するプロセスと、
上記測定した表面電位Emと上記基準表面電位Ebとを対比
して、上記表面電位Emと上記基準表面電位Ebとが等しいか否かを判定するプロセスと、
上記測定した減衰特性値Dと上記基準減衰特性値Dbとを対比
して、上記減衰特性値Dと基準減衰特性値Dbとが等しいか否かを判定するプロセスと
を実行する塗膜の特性測定方法。
【請求項2】
導電体表面に塗膜を形成した測定対象にイオンを照射する放電電極と、
上記塗膜表面におけるイオン照射部の表面電位を測定する表面電位センサと、
上記塗膜表面におけるイオン照射部と上記導電体との間に電位差を形成する手段と、
上記表面電位センサが検出したデータが入力される処理部と
を備え、
上記処理部は、
上記表面電位センサが検出したデータから、時間にともなう表面電位の変化を示すイオン照射中の電位であって特定時刻tmの表面電位Emを特定する機能と、
上記放電電極に対する電圧印加がオフにされてイオン照射が停止された後に、上記表面電位センサが検出したデータから減衰特性を特定する機能と、
上記減衰特性から減衰特性値Dを特定する機能と、
上記表面電位Em及び減衰特性値Dを出力する機能と
を備えた特性測定装置。
【請求項3】
上記処理部は、
上記表面電位Emと基準サンプルによって設定された基準表面電位Ebとが等しいか否かを判定する機能と、
上記減衰特性値Dと上記基準サンプルによって設定された基準減衰特性値とが等しいか否かを判定する機能と
を備えた請求項2に記載の塗膜の特性測定装置。
【請求項4】
上記処理部は、
上記表面電位Emと基準サンプルによって設定された基準表面電位Ebとが等しいか否か判定する機能と、
上記表面電位Emと上記基準表面電位Ebとが等しいと判定されたことを条件にして、上記放電電極に対する電圧印加をオフにして上記減衰特性値Dを特定する機能と
を備えた請求項2又は3に記載の塗膜の特性測定装置。
【請求項5】
上記表面電位センサから上記測定対象のイオン照射部までの距離を測定する距離センサを備えた請求項2~4のいずれか1に記載の塗膜の特性測定装置。
【請求項6】
上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を生成する手段は、導電体をゼロ電位に保つ請求項2~5のいずれか1に記載の塗膜の特性測定装置。
【請求項7】
上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を形成する手段は、上記イオン照射部から離れた位置に設けられ、表面電位が測定される上記イオン照射部に照射されるイオンと逆極性のイオンを照射する放電電極である請求項2~5のいずれか1に記載の塗膜の特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗膜の表面電位を測定して塗膜の硬化度や膜厚などからなる塗膜の特性を測定する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗膜の電気抵抗が塗膜の硬化度を示す指標になることは知られていた。
ベース上に塗布した塗料が乾燥することによって水分が減少すれば、それに伴って塗膜の硬化度とともに体積抵抗率ρvが大きくなるからである。
そして、塗装製品の製造工程で、塗膜の硬化度を非接触で測定することは次のような意味がある。
塗膜が十分に乾燥していない状態の製品を重ねたり包装したりすれば、塗膜表面に重ねた物の跡が付いたり包装材が付着したりしてしまうことがある。
また、塗料を多層塗布する場合に、下層となる塗膜は完全乾燥ではなくある程度湿った状態である方が好ましいこともある。このようなとき、下層となる塗膜の硬化度を非接触で推定し、適切な状態で上層の塗布工程へ送ることができる。
【0003】
そして、塗膜の体積抵抗を非接触で測定する測定装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。
この従来の測定装置は、接地された導電体のベース1上に形成された塗膜2の硬化度を推定するために、塗膜2の表面にイオンを照射する放電電極3と、イオン照射部の表面電位を測定する表面電位センサとを備えている。
この表面電位センサは、塗膜表面の電位に応じて検出電極に誘導される電荷量に基づいて電位を検出するものである。
【0004】
そして、
図5に示すように、接地されたベース1の表面に形成された塗膜2に
放電電極3からイオンを照射し続けると、塗膜2のイオン照射部2aから塗膜2の厚み方向に電流Iが流れる。この電流Iは、放電電極3の印加電圧に応じて一定になる。
このように、上記イオン照射部2aに照射したイオンが電流Iとして流れると、イオン照射部2aの表面電位Emは、上記一定の電流Iと塗膜2の体積抵抗Rとの積であるEm=I・R(式1)となる。この表面電位Emが図示しない表面電位センサで測定される。
この表面電位Emから体積抵抗Rを推定し、さらにこの体積抵抗Rから塗膜の硬化度を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-167011号公報
【文献】特許第6354077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、表面電位Emを測定すれば体積抵抗Rを推定できる。この体積抵抗RはR=ρv・d/S(式2)で示すことができる。なお、dは塗膜の膜厚、Sはイオン照射部の面積である。
上記(式2)において体積抵抗値Rは、測定対象によって変化する体積抵抗率ρvと膜厚dとの両方を変数とする値である。そのためEm=I・R(式1)に基づいて表面電位Emから体積抵抗値Rを推定できたとしても、塗膜の硬化度に最も影響を及ぼす体積抵抗率ρvは推定できなかった。それにもかかわらず、従来はEm=I・R(式1)に基づいて体積抵抗値Rを推定し、この体積抵抗値Rから塗膜の硬化度を推定していた。そのため従来の装置で、変数が2つもある体積抵抗値Rから硬化度を推定したとしても、その推定は不正確にならざるを得なかった。
【0007】
さらに、膜厚dも塗膜の特性に大きな影響を及ぼす。例えば、膜厚dが薄ければ耐候性が悪くなってしまう。また、膜厚が厚すぎれば、塗装コストが高くなってしまう。いずれにしても、膜厚dが適正に保たれることが望まれる。
しかし、上記表面電位Emからは膜厚dを推定することはできなかった。なぜなら、上記体積抵抗率ρvの場合と同じように、表面電位Emが体積抵抗率ρvと膜厚dの両方を変数とする値だからである。
【0008】
この発明の目的は、塗膜の硬化度や膜厚を同時に推定できる塗膜の特性測定方法及び測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、導電体表面に塗膜を形成した測定対象にイオンを照射する放電電極と、上記塗膜表面においてイオンが照射されるイオン照射部の表面電位を測定する表面電位センサと、上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を形成する手段とを備え、基準膜厚と基準体積抵抗率とを特定できる基準サンプルから、予め基準表面電位Eb及び基準減衰特性値Dbを特定するプロセスと、上記表面電位センサでイオン照射中の上記イオン照射部における表面電位Emを測定するプロセスと、上記表面電位Emを測定後に、上記放電電極への電圧印可をオフにしてイオン照射を停止するプロセスと、イオン照射を停止した後に、塗膜の体積抵抗率ρvのみを変数とする上記表面電位Emの減衰特性値Dを測定するプロセスと、上記測定した表面電位Emと上記基準表面電位Ebとを対比して、上記表面電位Emと上記基準表面電位Ebとが等しいか否かを判定するプロセスと、上記測定した減衰特性値Dと上記基準減衰特性値Dbとを対比して、上記減衰特性値Dと基準減衰特性値Dbとが等しいか否かを判定するプロセスとを実行することを特徴とする。
【0010】
なお、上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を生成する手段は、イオン照射部と導電体との電位差を生成するもので、導電体を接地する接地手段あるいは上記イオン照射部から離れた位置に逆極性のイオンを照射する手段などが含まれる。
【0011】
また、体積抵抗率ρvのみを変数にする減衰特性値Dとは、例えばイオン照射を停止した後に元の表面電位から36.8%まで減衰する時間である減衰時定数τが考えられる。減衰時定数τはτ=ρv・εである。なお、εは塗料の種類によって決まる比誘電率で定数である。したがって、減衰時定数τは体積抵抗率ρvのみを変数とすることになる。このように、体積抵抗率ρvのみを変数とする減衰時定数τのような減衰特性値Dが基準を満足したとき、体積抵抗率ρvも基準を満足することになる。
【0012】
さらに、体積抵抗率ρvのみを変数とする減衰特性値Dには、上記減衰時定数τ以外に、イオン照射を止めてから表面電位が減衰する過程において時間差を持って測定した表面電位E1とE2との比であるE2/E1なども含まれる(
図2参照)。すなわち、表面電位E1を測定した時刻t1からあらかじめ設定した時間T経過後の時刻t2に表面電位E2を測定する。なお、
図2は表面電位の変化を示したグラフで、横軸の時間は測定部分にイオン照射を開始した時刻をゼロとし、時刻tmでイオン照射を停止した場合のものである。
【0013】
上記表面電位E1とE2との比(E2/E1)は時間Tの間での表面電位の減衰度合いを示す値で、この発明の減衰特性値Dといえる。この(E2/E1)が体積抵抗率ρvのみを変数とすることは、以下に説明する通りである。
まず、時間tに応じて減衰する表面電位E(t)は、E(t)=C・exp(-t/τ)と見なすことができる(Cは定数)。したがって、特定時刻t1,t2における表面電位E1,E2はそれぞれ、表面電位E1=C・exp(-t1/τ),E2=C・exp(-t2/τ)である。
よって、E2/E1={exp(-t2/τ)}/{exp(-t1/τ)}、すなわち、E2/E1=exp(t1-t2/τ)である。
【0014】
上記式の自然対数を取って、τ=ρv・ε、t2-t1=Tを代入すると、
ln(E2/E1)=(1/ρv)・(-T/ε)となる(lnは自然対数を表わす記号)。
上記(T/ε)は定数である。したがって、(E2/E1)は体積抵抗率ρvのみを変数とすることが分かる。そして、減衰特性値D=E2/E1は、体積抵抗率ρvが大きくなれば小さくなる逆比例の関係になる。
このように、体積抵抗率ρvのみを変数とする減衰特性値D(=E2/E1)が基準を満足したとき、体積抵抗率ρvも基準を満足することになる。
【0015】
なお、上記(E2/E1)の代わりに(E1/E2)を減衰特性値Dとしてもよい。
また、表面電位の減衰特性を表す関数のうち体積抵抗率ρvのみを変数とするものであれば、減衰特性値Dは、減衰時定数τ、表面電位の比(E2/E1)あるいは(E1/E2)に限定されない。
【0016】
一方、イオン照射中に測定した表面電位Emは、Em∝ρv・dの関係を保っている。ただしdは膜厚である。このように表面電位Emはρvとdとを変数とするので、表面電位Emが基準を満足したとしても、ρvとdとが同時に基準を満足しているという推定はできない。
そこで、上記減衰特性値Dを求めてそれが基準を満足しているかどうかを判定する。基準を満足していれば、体積抵抗率ρvが基準を満足していることを推定できる。
したがって、表面電位Emと減衰特性値Dの両方が同時に基準を満足していれば、体積抵抗率ρv及び膜厚dが基準を満足していると推定できる。
【0017】
また、この発明における、上記表面電位Emと上記基準表面電位Ebとを対比するプロセスと、上記減衰特性値Dと上記基準減衰特性値Dbとを対比するプロセスとの両方を必ず実行しなければならないものではない。
【0018】
例えば、上記表面電位Emが基準を満足していない場合は、体積抵抗率ρvと膜厚dのいずれか一方、もしくは両方が基準を満足していない場合である。このような場合には、体積抵抗率ρvと膜厚dの両方が同時に基準を満足することはありえない。したがって、上記表面電位Emが基準を満足していないことが明らかになった場合には、減衰特定値Dを特定するプロセスを実行しなくてもよい。
一方、上記表面電位Emが基準を満たしているときには、減衰特定値Dを測定するプロセスを必ず実行しなければ、体積抵抗率ρvと膜厚dとを同時に推定することはできない。
【0020】
第2の発明は、導電体表面に塗膜を形成した測定対象にイオンを照射する放電電極と、上記塗膜表面におけるイオン照射部の表面電位を測定する表面電位センサと、上記塗膜表面におけるイオン照射部と上記導電体との間に電位差を形成する手段と、上記表面電位センサが検出したデータが入力される処理部とを備え、上記処理部は、上記表面電位センサが検出したデータから、時間にともなう表面電位の変化を示すイオン照射中の電位であって特定時刻tmの表面電位Emを特定する機能と、上記放電電極に対する電圧印加がオフにされてイオン照射が停止された後に、上記表面電位センサが検出したデータから減衰特性を特定する機能と、上記減衰特性から減衰特性値Dを特定する機能と、上記表面電位Em及び減衰特性値Dを出力する機能とを備えている。
【0021】
第3の発明は、上記処理部が、上記表面電位Emと基準サンプルによって設定された基準表面電位Ebとが等しいか否かを判定する機能と、上記減衰特性値Dと上記基準サンプルによって設定された基準減衰特性値とが等しいか否かを判定する機能とを備えている。
【0022】
第4の発明は、上記処理部が、表面電位Emと基準サンプルによって設定された上記基準表面電位Ebとが等しいか否かを判定する機能と、表面電位Emと上記基準表面電位Ebとが等しいと判定されたことを条件にして、放電電極に対する電圧印加をオフにして上記減衰特性値Dを特定する機能とを備えている。
【0023】
第5の発明は、上記表面電位センサから測定対象のイオン照射部までの距離を測定する距離センサを備えている。
【0024】
第6の発明は、上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を生成する手段が、導電体をゼロ電位に保つ。
【0025】
第7の発明は、上記イオン照射部と上記導電体との間に電位差を生成する手段が、上記イオン照射部から離れた位置に設けた逆極性のイオンを照射する放電電極である。
【発明の効果】
【0026】
この発明の塗膜の特性測定方法によれば、導電体表面に形成された塗膜の体積抵抗率ρv及び膜厚dの両方を同時に推定できる。特に、表面電位Emと減衰特性値Dとを測定してそれらを、基準値と対比することで、体積抵抗率ρv及び膜厚dの両方が基準を満足しているかどうかを簡単に判定することができる。したがって、塗膜の硬化度とその膜厚とを同時に判定できる。
【0027】
また、この発明の特性測定装置では、表面電位センサが放電針によって形成される電界の影響を直接受けないようにしているため、塗膜の表面電位を正確に検出できる。その結果、塗膜の体積抵抗率ρv及び膜厚dの適否の判定精度が高くなる。したがって、塗膜の硬化度とその膜厚とを同時に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】この発明の第1実施形態の特性測定装置の概念図である。
【
図2】第1実施形態の表面電位の変化を説明するためのグラフである。
【
図3】第1実施形態の表面電位と減衰特性値の判定結果の組み合わせを示した表である。
【
図4】第2実施形態の特性測定装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1,2を用いてこの発明の第1実施形態を説明する。
図1は、この発明の塗膜の特性測定方法を実行する際に使用する測定装置Aの概略図である。
測定装置Aは、接地された導電体のベース1上の塗膜2の特性を判定するためのものである。なお、この実施形態で判定される上記塗膜2の特性とは、塗膜の硬化度及び膜厚dであり、上記硬化度は塗膜の体積抵抗率ρvを指標とするものである。
【0030】
また、測定装置Aは、塗膜2にイオンを照射する放電電極4、電源5、塗膜2の表面で放電電極4からイオンが照射される部分であるイオン照射部2aの表面電位を測定する表面電位センサ6と、この表面電位センサ6の検出データが入力される処理部7と、出力部8とを備えている。
なお、上記ベース1は接地されているので、イオン照射部2aにイオンが照射されたとき、このイオン照射部2aとベース1との間には電位差が生成される。したがって、この第1実施形態では、ベース1の接地手段がこの発明の電位差を生成する手段である。
【0031】
上記表面電位センサ6は、測定対象の塗膜2に正対させ、その正対させた特定のエリアの表面電位を検出できるようにしている。このようにした表面電位センサ6は公知の非接触式センサを用い、この表面電位センサ6は後で詳しく説明する処理部7に接続している。
また、放電電極4は、表面電位センサ6が正対している上記特定のエリアに向かってイオンを照射できるように、その設置角度θが定められている。なお、上記特定のエリアをこの発明の上記イオン照射部2aとしている。
【0032】
上記放電電極4は、筒状の接地電極9とこの接地電極9内に間隔を保って組み込まれた針電極10とで構成され、この針電極10に電源5の負の電圧Vnが印加されると、針電極10の先端10aと接地電極9との間で放電が発生しイオンが生成される。
また、放電電極4は、塗膜2の表面に対する距離Sを保つとともに、表面電位センサ6と干渉せず、しかもその先端が表面電位センサ6のセンシングエリアに突出しない範囲で、塗膜2の表面に対する角度θを保っている。これら距離Sと角度θとは次のように設定されている。
【0033】
上記距離Sは針電極10で生成されたイオンが上記イオン照射部2aに到達できる長さに設定されている。なお、この発明の実施形態では上記距離Sを2mmに保っているが、その距離Sは針電極10の形状や印加電圧に応じて調整することができる。
【0034】
さらに、上記角度θは45°に保っている。角度θを45°にしたのは、放電電極4と表面電位センサ6とを干渉させない範囲で、上記イオン照射部2aにイオンを効率よく照射させるためである。もし、角度θを極端に小さくしてしまうと、イオン照射部2aに照射されるイオン密度が低くなってしまう。反対に、角度θを極端に大きくして表面電位センサ6と平行にすれば、放電電極4から照射されたイオンがイオン照射部2aから外れてしまう。しかし、上記のように、角度θを45°に保っておけば、放電電極4と表面電位センサ6とが干渉もしないし、イオン照射部2aに対するイオン密度も高く保つことができる。
ただし、角度θは必要とされるイオン密度等に応じて決められるもので、45°が必須の条件ではない。
【0035】
また、上記針電極10の先端10aを、上記接地電極9の開口面9aと同一レベルもしくは上記開口面9aよりもイオン照射方向後方に位置させている。
もし、上記針電極10の先端10aを、上記接地電極9の開口面9aから外方へ突出させてしまうと、先端10aで生成される電界が広がって、表面電位センサ6は上記イオン照射部2aの表面電位だけでなく上記電界の影響を大きく受けてしまう。そのため、イオン照射部2aの表面電位を正確に検出できなくなってしまう。
【0036】
しかし、上記のように上記針電極10の先端10aを上記接地電極9の開口面9aと同一レベルもしくは上記開口面9aよりもイオン照射方向後方に位置させておけば、上記電界の広がりを抑えられ、表面電位センサ6の測定に与える影響も小さくできる。ただし、上記先端10aを上記開口面9aよりもイオン照射方向後方に位置させた方が、表面電位センサ6に対する影響をより小さくできる。
【0037】
次に、表面電位センサ6に接続された処理部7の機能について説明する。
処理部7は、表面電位センサ6から入力されたデータを処理して、測定対象の塗膜2の特性を判定する機能のほか、上記電源5をオン・オフしてイオン照射部2aに対して放電電極4からイオンが照射されるタイミングを制御する機能を備えている。
【0038】
また、処理部7には、基準表面電位Ebと基準減衰特性値Dbとが予め設定されている。これら基準表面電位Ebは、目的とする塗膜の特性を備えた基準サンプルのイオン照射中のイオン照射部における表面電位であり、基準減衰特性値Dbは基準サンプルにおいてイオン照射停止後の表面電位の減衰特性を示す減衰特性値である。これらは以下のようにして決定する。なお、基準サンプルが備えている塗膜の目的の特性とは、測定対象の塗膜として必要な膜厚dと塗料の乾燥度に応じた硬化度である。そして、この目的の膜厚がこの発明の基準膜厚であり、目的の硬化度に対応する体積抵抗率がこの発明の基準体積抵抗率である。
そして、基準サンプルは、目的とする硬化度と膜厚とを実現できていれば、どのようなものを用いてもよい。
【0039】
そして、基準サンプルが得られたら、その基準サンプルを測定して上記基準表面電位Eb及び基準減衰特性値Dbを特定する。その計測方法としては、例えば、第1実施形態の放電電極4及び表面電位センサ6を用い、具体的に次のようにする。
先ず、基準サンプルの塗膜表面にイオンを照射し、そのイオン照射部おいてイオン照射中の表面電位を上記表面電位センサ6で測定する。イオン照射部の表面電位は
図2のようにイオン照射開始から上昇する。そこで、表面電位の上昇過程において、その測定値が表面電位センサ6の測定レンジにマッチして高い分解能を得られる大きさになる表面電位の値を基準表面電位Ebとして特定する。
【0040】
また、表面電位センサ6での検出値が、イオン照射開始時点の0Vから基準表面電位Ebとなるまでの時間を計測し、表面電位Emを特定する時刻tmとする。この基準表面電位Ebと上記時刻tmとを処理部7に記憶させる。
なお、基準表面電位Ebはピンポイントで設定されたり、許容範囲を設けたりされる。この許容範囲は、求められる精度に応じて決めればよい。
【0041】
上記基準減衰特性値Dbは次のようにして決める。
上記時刻tmでイオン照射を停止する。イオン照射が停止されると基準サンプルの表面電位は、
図2に示すように減衰するので、この減衰過程の表面電位を検出しながら時刻t1における表面電位E1を特定する。この時刻t1はイオン照射が停止された後の時刻であって、減衰特性値Dの特定を開始する時刻として人為的に決めるものである。
【0042】
さらに、上記表面電位E1が減衰して36.8%の表面電位E2になるまでの時間である減衰時定数τを特定し、これを基準減衰特性値Dbとする。
そして、処理部7に上記基準減衰特性値Dbと、上記時刻t1と上記表面電位E1に対する表面電位E2の比率36.8%とを記憶させておく。なお、上記基準減衰特性値Dbはピンポイントで設定されたり、許容範囲を設けたりされる。この許容範囲は求められる精度に応じて決められる。
つまり、処理部7には、基準表面電位Ebや基準減衰特性値Db、表面電位Emの測定時刻tm、減衰特性値の特定開始時刻t1、表面電位の比率36.8%が記憶される。
【0043】
また、処理部7は、上記電源5をオンにしてイオン照射の開始時刻から経過時間を計測し、予め記憶している時刻tmで電源5をオフにする機能を備えている。
このような処理部7は、測定対象の塗膜の表面電位の検出データが連続的に入力されたとき、上記時刻tmにおける表面電位Emを特定してそれを記憶する機能を備えている。また、処理部7は表面電位Emを特定した時点で電源5をオフにする機能を備えている。
【0044】
さらに、処理部7はイオン照射が停止されてからの時刻t1における表面電位E1を特定するとともに、時刻t1における表面電位E1に対して36.8%となる表面電位E2を算出し、表面電位E1からE2となるまでの時間τを特定して、この値を減衰特性値Dとする機能を備えている。
そして、処理部7は、上記のように特定した表面電位Emを上記基準表面電位Ebと対比してそれが基準を満たしているか否かを判定する機能と、減衰特性値Dを上記基準減衰特性値Dbと対比してそれが基準を満たしているか否かを判定する機能とを備えている。
【0045】
さらに、処理部7は上記表面電位Em及び減衰特性値Dの両方が同時に基準を満たしている否かを判定し、その判定結果から塗膜2の特性の合否を判定し、それを出力部8から出力させる機能を備えている。上記塗膜2の特性の合否とは、塗膜2の特性である硬化度及び膜厚dが、基準サンプルが備えている目的の特性であるか否かということで、上記表面電位Em及び減衰特性値Dmが同時に基準を満足しているとき合格、いずれか一方でも基準を満足していないとき不合格と判定する。
なお、上記出力部8はディスプレイやプリンターなどで、出力データを可視化できるデバイスであればどのようなものでもよい。
また、処理部7が上記出力部8に出力させる上記表面電位Em及び減衰特性値Dや、表面電位センサ6が検出した表面電位のデータなどを記憶させる記憶手段を備えれば、種々のデータを事後的に確認することもできる。
【0046】
上記のようにこの第1実施形態では処理部7が表面電位Emと減衰特性値Dとだけで塗膜2の特性の合否を判定するようにしたが、これら2つの値だけで特性の合否を判定できる理由は次の通りである。
上記減衰特性値D(=τ)は、τ=ρv・εのように体積抵抗率ρvのみを変数とする。そのため、減衰特性値Dが基準を満足するとき体積抵抗率ρvが基準を満足するとみなせる。また、表面電位Emはρv・dに比例するので、上記ρvと同時に表面電位Emが基準を満足していれば、膜厚dも基準を満足しているといえる。
したがって、体積抵抗率ρv及び膜厚dが基準を満足しているということになる。
【0047】
さらに、塗膜2の体積抵抗率ρvは硬化度の指標となる。
そのため、上記表面電位Em及び減衰特性値Dの両方が同時に基準を満足するとき、塗膜の硬化度及び膜厚dが同時に基準を満足していることになる。
したがって、処理部7は、表面電位Emと減衰特性値Dを判定するだけで、塗膜2の体積抵抗率ρvすなわち硬化度及び膜厚dという塗膜の特性を判定できる。
【0048】
次に、第1実施形態の測定装置Aを用いて、測定対象の塗膜2の特性が基準を満足しているか否かを判定する手順を説明する。
まず、測定対象の導電体からなるベース1を接地された基台に載置する。これにより、ベース1が接地電位に保たれる。したがって、帯電した塗膜2と導電体のベース1との間に電位差が形成される。上記接地された基台がこの発明の電位差を生成する手段である。
【0049】
上記ベース1を上記基台に載置したら、測定装置Aを作動させる。
まず、処理部7が電源5をオンにするとともに時間計測を開始する。電源5が針電極10に電圧を印加して、塗膜2のイオン照射部2aにイオンが照射される。この針電極10への電圧印加と同時に、表面電位センサ6がイオン照射部2aの表面電位の検出を開始し、その検出データを処理部7へ入力する。
処理部7では、表面電位センサ6から連続的に入力される表面電位のデータを時刻に対応付けて一時的に記憶しながら、予め記憶された時刻tmになった時点での表面電位を表面電位Emとして特定して記憶する。上記表面電位Emを特定したら処理部7は電源5をオフにする。電源5がオフになると、針電極10への電圧印加が停止してイオン照射部2aへのイオン照射が停止する。
【0050】
イオン照射が停止されると、イオン照射部2aの電荷がベース1を介して接地へ流れるので、イオン照射部2aの表面電位は
図2に示すように指数関数的に減衰する。
処理部7は、この表面電位の減衰過程で予め記憶している時刻t1における表面電位E1を特定し、この表面電位E1が予め記憶している比率36.8%の表面電位E2になるまでの時間である減衰時定数τを特定してそれを減衰特性値Dとして記憶する。
【0051】
このように、表面電位Emと減衰特性値Dとを特定したら、処理部7は、これら表面電位Emと減衰特性値Dとが予め記憶している基準表面電位Eb及び基準減衰特性値Dbの両方を同時に満足しているか否かを判定する。そして、処理部7は基準表面電位Eb及び基準減衰特性値Dbの両方が同時に基準を満足していたときには、塗膜2が目的の特性を満足していることを示す合格信号を出力部8から出力させる。反対に、表面電位Emと減衰特性値Dのいずれか一方でも基準を満足していないときには、処理部7は出力部8から不合格信号を出力させる。
【0052】
上記のことから明らかなように、処理部7が表面電位Emと減衰特性値Dの2つだけの値を特定できれば塗膜2の特性の合否を判定できる。例えば、上記表面電位Emと減衰特性値Dの値から、オペレータが合否を判定してもよい。この場合には、処理部7は出力部8に合否信号ではなく上記表面電位Em及び減衰特性値Dの値を出力することになる。オペレータが合否を判断する場合には、処理部7に基準表面電位Ebや基準減衰特性値Dbを記憶させておく必要はなく、出力部8の周辺に上記基準値を掲示しておけばよい。
【0053】
また、表面電位センサ6の検出データをそのままオシロスコープやプロッターなどの出力部8に出力させ、出力部8が
図2に示すようなグラフを表示して、その表示を基にオペレータが上記表面電位Emや減衰特性値Dを特定し、さらにそれらを上記掲示された基準値と対比させてもよい。この場合には処理部7も不要になる。
【0054】
さらに、上記したように塗膜2の特性の合否信号のみを出力する場合には、表面電位Emを特定した時点でそれを基準表面電位Ebと対比し、表面電位Emが基準を満足した場合のみ、処理部7が減衰特性値Dを特定するプロセスに進むように設定してもよい。言い換えれば、表面電位Emが基準を満足していない場合には減衰特性値Dを特定するプロセスを実施しないで処理部7が不合格信号を出力するということである。
【0055】
上記表面電位Emが基準を満足していなければ、表面電位Em及び減衰特性値Dの両方が同時に基準を満足することはありえないので、減衰特性値Dを特定しなくても不合格信号を出力することができる。
このように、表面電位Emのみを判定して、その判定結果によって減衰特定値Dを特定するプロセスを省略すれば、塗膜2の特性の合否判定をするための処理時間を短縮できる。
【0056】
ただし、処理部7は、常に表面電位Emと減衰特性値Dとを基準と対比して、それらが同時に基準を満足していない場合でも、それぞれの判定結果を別々に出力するようにしてもよい。表面電位Emと減衰特定値Dの判定結果が別々に出力されれば、以下のように体積抵抗
率ρvと膜厚dとについて推定できる
ことがある。
表面電位Emと減衰特性値Dとのそれぞれが基準を満足したか否かの判定結果には、
図3の左の表に示す(1)~(4)の4つのパターンがある。
図3では基準を満足している場合に「○」、満足していない場合に「×」を記載している。そして、各組合せから、体積抵抗率ρvと膜厚dについて推定できる結果を右側の(a)~(d)に対応させ、体積抵抗率ρv、膜厚dがそれぞれ基準を満足している場合を「○」、基準を満足していない場合を「×」を記載している。
【0057】
パターン(1)は表面電位Em及び減衰特性値Dのいずれも「○」で、上記した通り合格信号が出力される場合である。
その他のパターン(2)~(4)はいずれも、塗膜2が目的とする特性を備えていない不合格を示している。
しかし、(2)のように表面電位Emが「○」で減衰特定値Dが「×」の場合には、体積抵抗率ρv、膜厚dともに基準を満足しないことが分かる。減衰特性値Dは体積抵抗率ρvのみを変数とするため、減衰特性値Dが「×」であることから体積抵抗率ρvが基準を満足しないことが分かり、この基準を満足していないρvと膜厚dとの積に比例する表面電位Emが「○」ということから、膜厚dも基準を満足していないと推定できるからである。
【0058】
また、パターン(3)のように表面電位Emが「×」で減衰特定値Dが「○」の場合には、体積抵抗率ρvは基準を満足しているが、膜厚dは基準を満足していないことが分かる。そして、基準を満足していない表面電位Emが基準表面電位Ebよりも小さければ、膜厚dが基準値より小さく、表面電位Emが基準値より大きい場合には膜厚dが基準値より大きいと推定できる。
【0059】
このように膜厚dの大小が推定できれば、塗装工程において適切な対策を取りやすい。例えば、膜厚dが小さ過ぎれば、塗膜の対候性などが落ちてしまう可能性があるので、膜厚が大きくなる塗装条件を選択する必要がある。
一方、膜厚dが大き過ぎる場合には、塗料の消費量が多く不経済であるが、その改善を検討できる。
【0060】
以上のように、塗膜2の特性が上記合否判定で不合格と判定されるような場合でも、表面電位Em及び減衰特定値Dのそれぞれの判定結果を出力することで、体積抵抗率ρvと膜厚dとを個別に推定できる場合がある。
ただし、パターン(4)のように表面電位Em、減衰特定値Dがともに「×」の場合には、体積抵抗率ρvは基準を満足しないことが分かるが、膜厚dが基準を満足しているか否かは特定できない。
【0061】
なお、上記第1実施形態では、表面電位が36.8%に減衰するまでの時間である減衰時定数τをこの発明の減衰特性値Dとして使用したが、減衰率は36.8%に限らない。予め人為的に決めた減衰率を処理部7に記憶させ、それに基づいて減衰特性値Dを特定するようにしてもよい。この場合、基準減衰特性値Dbも上記減衰率に対応する値にしなければならない。
【0062】
さらに、減衰特性値D及び基準減衰特性値Dbは上記減衰時定数τに限らず、体積抵抗率ρvのみを変数とし、表面電位の減衰特性を表わす値ならばどのような値でもよい。
例えば、時刻t1での表面電位E1とし、その後の所定時間Tだけ経過した時刻t2での表面電位をE2としたとき、これら表面電位の比率E2/E1やE1/E2などを減衰特性値D及び基準減衰特性値Dbとしてもよい。このように電位の比率を減衰特性値D及び基準減衰特性値Dbとする場合には、36.8%などの減衰率の代りに上記所定時間Tまたは時刻t1から所定時間T経過後の時刻t2を処理部7に記憶させておかなければならない。
【0063】
また、上記では基準サンプルとして、塗膜2がほぼ乾燥した状態のものだけでなく、ある程度湿った状態の基準サンプルを作成してもよい。例えば、多層塗装の場合には、次の塗装工程へ送る前に塗膜を乾燥させ過ぎず、ある程度湿った状態を維持しておかなければならないということがある。このときには、当該工程での必要な硬化度と膜厚とを満足する湿った状態のサンプルを作成し、このサンプルを測定して基準表面電位Ebと基準減衰特性値Dbを特定すればよい。
このような基準値を用いれば、多層塗装の下塗り終了後に塗膜の特性を判定して、適切な状態で次工程へ送ることができ、結果として多層塗装品の品質を適正に保つことができる。
【0064】
図4に示す第2実施形態の測定装置Bは、測定対象のベース1を接地させる手段を備えていない代わりに、上記イオン照射部2aから一定の距離を保った位置に第2の放電電極11を備えている。その他の構成は第1実施形態の測定装置Aと同じである。
図4において
図1と同じ符号を付した構成要素は第1実施形態と同じ構成要素で、第1実施形態の各要素と同様に機能する。
ただし、上記処理部7は第2の放電電極11に電圧を印加する電源14のオン・オフを、上記電源5と同じタイミングで制御する機能も備えている。
【0065】
上記第2の放電電極11は、筒状の接地電極12とこれに組み込まれた針電極13とからなり、この放電電極11に電源14を接続している。この電源14は、もう一方の針電極10に印加する電圧Vnと逆極性で絶対値が等しい正の電圧Vpを針電極13に印加する電源で、針電極13から塗膜2のイオン照射部2bに正のイオンが照射されるようにしている。
また、放電電極11は、放電電極4と同様に針電極13の先端13aを接地電極12の開口面12aと同一レベルもしくは上記開口面12aよりもイオン照射方向後方に位置させている。さらに、放電電極11と塗膜2の表面との角度θ及び放電電極11から塗膜2までの距離Sを上記放電電極4と同じにしている。
【0066】
上記のように塗膜2の表面との位置関係を、放電電極4と同等にした放電電極11に電圧Vpを印加することによってイオン照射部2bに正のイオンを照射しながら、上記イオン照射部2aに負のイオンを照射すれば、イオン照射部2aからベース1へ流れる電荷と照射部2bからベース1に流れる電荷とが逆極性で等しい量となる。
また、電源5とともに電源14をオフにしたときには、イオン照射部2bの表面電位はイオン照射部2aと同様に減衰し、その減衰過程でもイオン照射部2aからベースへ向かう電荷とイオン照射部2bからベースに向かう電荷とは逆極性の等しい量となる。
そのためベース1では正負の電荷が互いに相殺しあってベース1がゼロ電位に保たれる。
【0067】
この第2実施形態では、放電電極4で照射されるイオンと同量で逆極性のイオンを第2の放電電極11からイオン照射部2bに照射することによってベース1をゼロ電位に保つことができるので、イオン照射部2aとベース1との間には電位差が生成される。つまり、この第2実施形態では、上記第2の放電電極11がこの発明の電位差を生成する手段となる。
そして、イオン照射部2aとベース1との間の電位差が維持されれば、イオン照射部2aからベース1に向かって塗膜2の厚み方向に電流が流れ続け、ベース1を接地させていなくてもイオン照射部2aの表面電位の変化を表面電位センサ6で検出することができる。
なお、上記電圧Vnと電圧Vpとは絶対値に多少の差があってもよい。なぜなら、多少の差があっても、ベース1はほぼゼロ電位に維持されるからである。
【0068】
また、第2の放電電極11は、イオン照射部2bに照射されるイオンが上記イオン照射部2aの表面電位に影響を与えることがなく、当該放電電極11が形成する電界が上記表面電位センサ6の測定に影響を与えないように、イオン照射部2a及び表面電位センサ6からの距離を設定している。
【0069】
この第2実施形態の測定装置Bで塗膜の特性を測定するときには、処理部7が電源5と同時に電源14もオンして、イオン照射部2a,2bにイオンを照射しながら、イオン照射部2aにおける表面電位を表面電位センサ6で検出する。
処理部7は、第1実施形態と同様の手順で、表面電位Emや減衰特性値Dを特定し、それらを予め記憶している基準表面電位Eb、基準減衰特定値Dbそれぞれと対比する。
そして、処理部7は表面電位Em及び減衰特定値Dが同時に基準を満足しているか否かを判定して、その判定結果を合否信号として出力部8に出力させる。
【0070】
このように、第2実施形態においても、表面電位Em及び減衰特定値Dのみから、塗膜2の硬化度や膜厚dといった特性の合否を判定することができる。
また、この第2実施形態でも、上記処理部7の機能の一部又は全部をオペレータが実行するようにしてもよい。
【0071】
また、第1,2実施形態の測定装置A,Bに、表面電位センサ6と塗膜2の表面との距離を測定する距離センサを設けて、表面電位センサ6とイオン照射部2aとの距離を測定すれば、イオン照射部2aからの距離を常に一定にして表面電位を検出することができる。表面電位センサ6とイオン照射部2aとの距離が変化すれば、検出される表面電位の値が変化してしまうが、距離センサによって距離を確認してから測定すれば、正確な表面電位を検出できる。
また、表面電位センサ6あるいは処理部7に距離補正機能を設け、上記距離センサでの測定距離に応じて表面電位の検出値を補正することもできる。
また、上記第1,2実施形態の測定方法及び測定装置では、劣化による塗膜の体積抵抗率ρvの変化を検出することもできる。したがって、塗膜の劣化度の検出への応用の可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、金属などの導電体の塗装現場において、塗膜の品質検査をする際に有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 (導電体)ベース
2 塗膜
2a イオン照射部
4 放電電極
6 表面電位センサ
7 処理部
8 出力部
9 接地電極
9a (接地電極の)開口
10 針電極
10a (針電極の)先端
11 (電位差を生成する手段)放電電極
12 (電位差を生成する手段)接地電極
13 (電位差を生成する手段)針電極
Em (イオン照射中の)表面電位
D 減衰特性値
Eb 基準表面電位
Db 基準減衰特性値