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特許7320785冷凍サイクル用作動媒体および冷凍サイクルシステム
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  • 特許-冷凍サイクル用作動媒体および冷凍サイクルシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】冷凍サイクル用作動媒体および冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20230728BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 B
C09K5/04 E
F25B1/00 396Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020010505
(22)【出願日】2020-01-27
(62)【分割の表示】P 2016185044の分割
【原出願日】2016-09-23
(65)【公開番号】P2020073696
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-01-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 成広
(72)【発明者】
【氏名】中野 幸夫
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】塩見 篤史
【審判官】関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/157764(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194847(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
F25B1/00
F25B15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有するとともに、当該1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤としてn-プロパンを含有し、
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が60質量%以上であり、かつ、前記n-プロパンの含有量が2.0質量%以上8.5質量%以下の範囲内であり、
前記1,1,2-トリフルオロエチレンの内部圧力が1.28MPaで内部温度が300Kで放電させても不均化反応しないことを特徴とする、
冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項2】
さらに、冷媒成分としてジフルオロメタンを含有するとともに、
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量における前記ジフルオロメタンの含有量は、40質量%未満であることを特徴とする、
請求項1に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル用作動媒体(冷媒または熱媒体)としては、以前はHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が用いられていたが、HCFCはオゾン層破壊に大きな影響を及ぼす。そこで、近年では、オゾン層破壊係数(ODP)が0のHFC(ハイドロフルオロカーボン)が用いられている。代表的なHFCとしては、混合冷媒のR410A(アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)のStandard 34規格に基づく冷媒番号)が挙げられる。
【0003】
しかしながら、R410Aは地球温暖化係数(GWP)が大きいため、最近では、GWPのより小さいハイドロフルオロオレフィン(HFO)の使用が提案されている。例えば、特許文献1には、HFOとして、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)を用いることが開示されている。特許文献1では、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに、ジフルオロメタン(HFC32,R32)等のHFCの併用も開示されている。
【0004】
1,1,2-トリフルオロエチレンは、従来のHFC等に比べて安定性が低いため大気中に残存しにくく、それゆえODPおよびGWPが小さい。ところが、特許文献2に示唆されているように、1,1,2-トリフルオロエチレンの安定性が低いことに起因して、不均化反応と呼ばれる自己重合反応(以下、不均化反応と記載する。)が生じやすいことも知られている。不均化反応は、冷凍サイクル用作動媒体の使用中に生じた発熱等に誘引されて生じやすく、しかも不均化反応の発生には大きな熱放出が伴われるため、不均化反応が連鎖的に生じることも知られている。その結果、大量の煤が発生して、冷凍サイクルシステムまたはこのシステムを構成する圧縮機等の信頼性を低下させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/157764号パンフレット
【文献】国際公開第2015/141679号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応については、不明な部分が多い。不均化反応は、後述するように、1,1,2-トリフルオロエチレンの自己分解反応と、この自己分解反応に続く重合反応とを含む反応であるが、例えば、特許文献2では、単に「自己重合反応」と記載されているのみで、不均化反応に関する具体的な検討は記載されていない。それゆえ、特許文献2では、不均化反応の発生そのものを抑制しているというよりも、ジフルオロメタンを混合して作動媒体の全量における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を低くすることで、「自己重合反応」の発生頻度を低下させていると考えられる。
【0007】
具体的には、特許文献2では、作動媒体の全量に対する1,1,2-トリフルオロエチレンおよびジフルオロメタンの合計量の割合を90質量%超から100質量%以下とし、かつ、1,1,2-トリフルオロエチレン/ジフルオロメタンの質量比を21/79~39/61の範囲内に限定することが開示されている。しかしながら、この開示を言い換えれば、作動媒体の全量における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が39質量%よりも多くなれば「自己重合反応」を有効に抑えることができないことになる。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が相対的に多い場合であっても、その不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体と、これを用いた冷凍サイクルシステムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、前記の課題を解決するために、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有するとともに、当該1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、炭素数2~5の飽和炭化水素を含有し、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が40質量%以上であり、かつ、前記飽和炭化水素の含有量が0.6質量%以上10質量%以下の範囲内である構成である。
【0010】
前記構成によれば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)を主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤としての飽和炭化水素を所定範囲内で混合していることになる。1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応では、フッ素ラジカル、フルオロメチルラジカル、およびフルオロメチレンラジカル等のラジカルにより連鎖分岐反応を引き起こすが、飽和炭化水素は、これらラジカルを良好に捕捉することができる。そのため、全冷媒成分中において1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を増加させても、不均化反応を有効に抑制したり不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0011】
また、本開示には、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムも含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、以上の構成により、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が相対的に多い場合であっても、その不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体と、これを用いた冷凍サイクルシステムとを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)・(B)は、本開示の実施の一形態にかかる冷凍サイクルシステムの一例を示す模式的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有するとともに、当該1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、炭素数2~5の飽和炭化水素を含有し、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が40質量%以上であり、かつ、前記飽和炭化水素の含有量が0.6質量%以上10質量%以下の範囲内である構成である。
【0015】
前記構成によれば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)を主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤としての飽和炭化水素を所定範囲内で混合していることになる。1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応では、フッ素ラジカル、フルオロメチルラジカル、およびフルオロメチレンラジカル等のラジカルにより連鎖分岐反応を引き起こすが、飽和炭化水素は、これらラジカルを良好に捕捉することができる。そのため、全冷媒成分中において1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を増加させても、不均化反応を有効に抑制したり不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0016】
前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記飽和炭化水素が、n-プロパンである構成であってもよい。
【0017】
前記構成によれば、飽和炭化水素がn-プロパンであれば、より一層良好な不均化反応抑制剤として作用する。
【0018】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量における前記飽和炭化水素の含有量は、1.0質量%以上9.5質量%以下の範囲内である構成であってもよい。
【0019】
前記構成によれば、飽和炭化水素の含有量が少なくとも前記の範囲内となるように1,1,2-トリフルオロエチレンに混合されていれば、不均化反応をより一層有効に抑制したり急激な進行をより一層緩和したりすることができる。
【0020】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、さらに、冷媒成分としてジフルオロメタンを含有するとともに、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量における前記ジフルオロメタンの含有量は、60質量%未満である構成であってもよい。
【0021】
前記構成によれば、1,1,2-トリフルオロエチレンと同様に環境への影響が少なく、良好な冷媒成分であるジフルオロメタンを含有するため、冷凍サイクル用作動媒体として良好な性質を実現することができる。
【0022】
さらに、本開示には、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムも含まれる。
【0023】
前記構成によれば、前述した冷凍サイクル用作動媒体を用いて冷凍サイクルシステムが構成されるので、効率的な冷凍サイクルシステムを実現できるとともに、冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0024】
以下、本開示の代表的な実施の形態を具体的に説明する。本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有するとともに、当該1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、炭素数2~5の飽和炭化水素を含有し、冷媒成分および不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が40質量%以上であり、かつ、飽和炭化水素の含有量が0.6質量%以上10質量%以下の範囲内である組成を有している。
【0025】
なお、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体には、冷媒成分として、1,1,2-トリフルオロエチレン以外の化合物が含まれてもよい。また、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、少なくとも冷媒成分および不均化抑制剤で構成されていればよいが、これら以外の成分を含んでもよい。
【0026】
[冷媒成分]
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)が用いられる。1,1,2-トリフルオロエチレンは、次に示す式(1)の構造を有しており、エチレンの1位の炭素原子(C)に結合する2つの水素原子(H)がフッ素(F)に置換されているとともに、2位の炭素原子に結合する2つの水素原子のうち一方がフッ素に置換されている構造を有している。
【0027】
【化1】
【0028】
1,1,2-トリフルオロエチレンは、炭素-炭素二重結合を含む。大気中のオゾンは、光化学反応によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成するが、このヒドロキシルラジカルにより二重結合が分解されやすい。そのため、1,1,2-トリフルオロエチレンは、オゾン層破壊および地球温度化への影響が少ないものとなっている。
【0029】
しかしながら、1,1,2-トリフルオロエチレンは、この良好な分解性により急激な不均化反応を引き起こすことも知られている。この不均化反応では、1,1,2-トリフルオロエチレンの分子が分解する自己分解反応が発生するとともに、この自己分解反応に続いて、分解により生じた炭素が重合して煤となる重合反応等が発生する。高温高圧状態において発熱等により活性ラジカルが発生すると、この活性ラジカルと1,1,2-トリフルオロエチレンとが反応して前述した不均化反応が発生する。この不均化反応は発熱を伴うことから、この発熱により活性ラジカルが発生し、さらに、この活性ラジカルにより不均化反応が誘発される。このように、活性ラジカルの発生と不均化反応の発生とが連鎖することで、不均化反応が急激に進行する。
【0030】
本発明者らが鋭意検討した結果、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘発する活性ラジカルは、主としてフッ素ラジカル(Fラジカル)、並びに、トリフルオロメチルラジカル(CF3 ラジカル)、ジフルオロメチレンラジカル(CF2 ラジカル)等のラジカルであることが明らかとなった。そこで、Fラジカル、CF3 ラジカル、CF2 ラジカル等を効率よく捕捉することが可能な物質(不均化抑制剤)を冷凍サイクル用作動媒体に添加することで、急激な不均化反応を抑制または緩和することを試みた。その結果、従来では、補助的な冷媒成分として知られていた炭素数2~5の飽和炭化水素が、好適な不均化抑制剤となり得ることを独自に見出した。
【0031】
ここで、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体には、冷媒成分として、1,1,2-トリフルオロエチレン以外の化合物(他の冷媒成分)が含まれてもよい。代表的な他の冷媒成分としては、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等のハイドロフルオロカーボン(HFC);モノフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン等のハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0032】
これらHFCまたはHFOは、いずれもオゾン層破壊および地球温暖化への影響が少ないものとして知られているため、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに冷媒成分として併用することができる。前述した他の冷媒成分は、1種類のみ併用してもよいし2種類以上を適宜組み合わせて併用してもよい。これらの中でも、特に好ましい一例としては、ジフルオロメタン(HFC32,R32)を挙げることができる。
【0033】
なお、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体における、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量については、不均化抑制剤である炭素数2~5の飽和炭化水素の含有量とともに後述する。
【0034】
[不均化抑制剤]
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体に添加される不均化抑制剤は、炭素数2~5の飽和炭化水素である。具体的には、エタン、n-プロパン、シクロプロパン、n-ブタン、シクロブタン、イソブタン(2-メチルプロパン)、メチルシクロプロパン、n-ペンタン、イソペンタン(2-メチルブタン)、ネオペンタン(2,2-ジメチルプロパン)、メチルシクロブタン等が挙げられる。これら飽和炭化水素は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせられて用いられてもよい。これら飽和炭化水素の中でもn-プロパンが特に好ましい。
【0035】
これら飽和炭化水素は、いずれも常温で気体であり(n-ペンタンおよびメチルシクロブタンの沸点が約36℃で最も高く、これら以外の炭化水素の沸点は36℃未満)、冷凍サイクル用作動媒体の成分として良好に混合することができる。炭素数6以上の飽和炭化水素は、常温で液体であるため、冷凍サイクル用作動媒体の成分として混合することが難しいため好ましくない。また、炭素数1の飽和炭化水素すなわちメタンは、地球温暖化係数(GWP)が大きいため好ましくない。なお、炭素数2~5の飽和炭化水素のうち、シクロペンタンは、沸点が49℃であり常温で液体であるが、条件次第では、不均化抑制剤として使用可能である。
【0036】
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体では、冷媒成分の主成分である1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は所定の下限値以上であり、不均化抑制剤である飽和炭化水素の含有量は所定の上限値以下である。具体的には、冷凍サイクル用作動媒体の各成分のうち、冷媒成分および不均化抑制剤の全量(説明の便宜上、「冷媒関係成分全量」とする。)を100質量%としたときに、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は40質量%以上であり、飽和炭化水素の含有量は0.6質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0037】
1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が、冷媒関係成分全量の40質量%未満であれば、冷凍サイクル用作動媒体における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が低くなりすぎ、他の冷媒成分を多く含有させることになる。そのため、冷凍サイクル用作動媒体において、GWPの小さい1,1,2-トリフルオロエチレンを用いる利点を十分に得られなくなる。
【0038】
1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は、前記の通り40質量%を下限値とすればよいが、45質量%以上であると好ましく、50質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であるとさらに好ましい。前記の通り、不均化抑制剤の含有量の上限は10質量%であるため、冷媒関係成分全量のうち不均化抑制剤を除く冷媒成分の下限値は90質量%となる。それゆえ、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が45質量%以上であれば、冷媒成分の約半分が1,1,2-トリフルオロエチレンとなり得るため、1,1,2-トリフルオロエチレンを冷媒成分の「主成分」とすることができる。それゆえ、不均化反応の発生または進行を良好に抑制しつつ1,1,2-トリフルオロエチレンを用いる利点を十分に得ることができる。
【0039】
また、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を50質量%以上にすれば、不均化抑制剤を含む冷媒関係成分全量の半分以上が1,1,2-トリフルオロエチレンとなる。さらに、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を60質量%以上にすれば、不均化抑制剤を除く冷媒成分のうち、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が、併用する他の冷媒成分の倍以上になり得る。それゆえ、不均化反応の発生または進行をより一層抑制しつつ1,1,2-トリフルオロエチレンを用いる利点を十分に得ることができる。
【0040】
1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の上限値は特に限定されないが、冷媒関係成分全量のうち99.4質量%以下であればよい。不均化抑制剤の下限値が0.6質量%であるので、冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレンのみが用いられ、他の冷媒成分が用いられない(冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレンが100質量%である)とすれば、冷媒関係成分全量における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の上限値は必然的に99.4質量%となる。
【0041】
また、冷凍サイクル用作動媒体が1,1,2-トリフルオロエチレン以外の他の冷媒成分を含む場合には、併用される他の冷媒成分の種類に応じて、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の上限値を適宜設定することができる。好ましい上限値としては、たとえば、90質量%以下、80質量%以下または70質量%以下を挙げることができるが特に限定されない。他の冷媒成分を含む場合において、1,1,2-トリフルオロエチレンの特に好ましい含有量の一例としては、70質量%~80質量%の範囲内を挙げることができるが、これに限定されない。
【0042】
不均化抑制剤である飽和炭化水素の含有量は、前記の通り10質量%を上限値とすればよいが、9.5質量%以下であることが好ましく、9.0質量%以下であることがより好ましく、8.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
冷媒の「燃焼性」については、国際規格(ISO817:2014)により、不燃性(A1)、微燃性(A2L)、燃焼性(A2)、および強燃性(A3)に区分されているが、飽和炭化水素の含有量が10質量%を超えると、強燃性(A3)である飽和炭化水素の含有量が多くなり過ぎる。そのため、冷媒成分の組成(「主成分」である1,1,2-トリフルオロエチレンに対する他の冷媒成分を混合するか否か、混合する場合、その種類および混合比等)あるいは飽和炭化水素の種類によらず、冷凍サイクル用作動媒体の「燃焼性」が微燃性(A2L)でなくなる可能性が高くなるため好ましくない。
【0044】
飽和炭化水素の含有量が9.5質量%以下であれば、冷媒成分の組成または飽和炭化水素の種類に応じて、冷凍サイクル用作動媒体の「燃焼性」を微燃性(A2L)に設定しやすくなる。また、飽和炭化水素の含有量が9.0質量%以下であれば、冷媒成分の組成または飽和炭化水素の種類によらず、冷凍サイクル用作動媒体の「燃焼性」を実質的に微燃性(A2L)に設定することができる。さらに、飽和炭化水素の含有量を8.5質量%以下にすれば、冷媒成分の組成または飽和炭化水素の種類にもよるが、飽和炭化水素の体積含有量を実質的に冷媒関係成分全量の約15体積%以下にすることができる。そのため、冷媒関係成分全量における1,1,2-トリフルオロエチレン(冷媒成分の「主成分」)の体積含有量をより好適な範囲内に設定することができる。
【0045】
飽和炭化水素の含有量の下限値は、前記の通り0.6質量%であるが、1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であればさらに好ましい。
【0046】
後述する実施例(比較例2)に示すように、飽和炭化水素の含有量が0.6質量%未満であれば、混合量(添加量)が少なすぎて、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の抑制効果が得られない。また、冷媒成分の組成または飽和炭化水素の種類によっては、ある程度の不均化反応の抑制効果が得られる可能性があるが、実用的な観点から抑制効果が不十分となるおそれがある。
【0047】
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体を、後述するような冷凍サイクルシステムに用いた場合、気化(蒸発)した状態から圧縮機により圧縮されて液化される。ここで、例えば、冷凍サイクルシステムを長期に使用した場合、経年劣化の程度によっては、圧縮機が備える圧縮要素の固定子(ステータ)にレイヤーショート(巻線の短絡)が生じる可能性がある。本発明者らによれば、レイヤーショートでは、実験的に5回程度の放電が確認される。そのため、実験的には、少なくとも5回の放電が生じても、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生または進行が抑制されることが望ましい。それゆえ、5回を超える(6回以上の)放電が発生しても実質的に不均化反応を抑制するためには、飽和炭化水素の下限値は0.6質量%以上であればよい。
【0048】
また、飽和炭化水素の含有量が1.0質量%以上であれば、後述する実施例(実施例1)に示すように、不均化反応をより適切に抑制することができる。さらに、1.5質量%以上であれば、放電回数が6回を超えても不均化反応の抑制を期待することができ、2.0質量%以上であれば、放電回数が10回前後に達しても不均化反応の抑制を期待することができる。
【0049】
このように、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、1,1,2-トリフルオロエチレンを主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤として炭素数2~5の飽和炭化水素を所定量添加している。この飽和炭化水素は、不均化反応の連鎖的な進行に際して生じるFラジカルを良好に捕捉することが可能である。そのため、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制したり、不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0050】
なお、特許文献1および特許文献2のいずれも、「熱サイクル用作動媒体」として、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに、炭素数3~5の炭化水素を含有する組成のものを開示している。しかしながら、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、これら特許文献に開示される「熱サイクル用作動媒体」とは本質的に異なるものである。
【0051】
例えば、特許文献1に開示される作動媒体は、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含むものであり、選択可能な成分として、炭化水素、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、HCFO(ハイドロクロロフルオロオレフィン)、CFO(クロロフルオロオレフィン)等が挙げられている。特許文献1に開示される具体的な組成としては、作動媒体100質量%中、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が60~100質量%の範囲内であり、炭化水素の含有量が1~40質量%の範囲内であり、HFCの含有量が1~99質量%であり、HCFOおよびCFOの合計の含有量は1~60質量%である。
【0052】
しかしながら、特許文献1に開示される組成では、実用的な作動媒体を提供することはできないと考えられる。すなわち、特許文献1では、作動媒体100質量%中1,1,2-トリフルオロエチレンが100質量%であれば、本開示の不均化抑制剤を含まないため、不均化反応が生じてしまう。また、1,1,2-トリフルオロエチレンと炭化水素とを併用する場合、炭化水素の含有量は1~40質量%であるため、10質量%を超えれば、作動媒体が微燃性(A2L)でなくなり、含有量が多くなるほど燃焼性(A2)を呈することになる。さらに、特許文献1には、不均化反応に関しては全く開示も示唆もなく、炭化水素を添加する目的は、鉱物系潤滑油に対する作動媒体の溶解性を向上させることに過ぎない。したがって、潤滑油の種類によっては炭化水素の混合は必要ないことになる。
【0053】
次に、特許文献2に開示される作動媒体は、前述したように、「自己重合反応」について具体的に言及されており、1,1,2-トリフルオロエチレンにジフルオロメタンを混合して、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量を抑えることで、「自己重合反応」を抑えることが明確に記載されている。特許文献2においても、炭化水素を添加する目的は、冷凍機油への溶解性を向上させるために過ぎず、冷凍機油の種類によっては炭化水素の混合は必要ないことになる。
【0054】
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、1,1,2-トリフルオロエチレンを実質的に冷媒成分の「主成分」としつつ、不均化抑制剤として所定範囲内の含有量で炭素数2~5の飽和炭化水素を含む構成である。したがって、前記の通り、特許文献1または2に開示されるように、1,1,2-トリフルオロエチレンを含有するが炭化水素の添加が任意である作動媒体は、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体とは全く異なるものであることは言うまでもない。
【0055】
[併用し得る他の成分]
本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、冷凍サイクルシステムで用いられるため、冷凍サイクルシステムが備える圧縮機を潤滑する潤滑油と併用することができる。本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、前述したように、1,1,2-トリフルオロエチレンを実質的に「主成分」とする冷媒成分と、前述した炭素数2~5の飽和炭化水素で構成される不均化抑制剤と、で少なくとも構成されていればよい。さらに、冷凍サイクル用作動媒体を潤滑油と併用する場合には、冷媒成分、不均化抑制剤、および潤滑油成分、並びに他の成分により作動媒体含有組成物が構成されていると見なすことができる。
【0056】
作動媒体含有組成物に含まれる(冷凍サイクル用作動媒体とともに併用される)潤滑油成分は、冷凍サイクルシステムで公知の各種潤滑油を好適に用いることができる。具体的な潤滑油としては、エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油、グリコール系潤滑油、アルキルベンゼン系潤滑油、フッ素系潤滑油、鉱物油、炭化水素系合成油等を挙げることができるが、特に限定されない。これら潤滑油は、1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせられて用いられてもよい。
【0057】
また、作動媒体含有組成物には、不均化抑制剤以外の公知の各種添加剤が添加されてもよい。具体的な添加剤としては、酸化防止剤、水分捕捉剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、消泡剤等が挙げられるが、特に限定されない。酸化防止剤は、冷媒成分もしくは潤滑油の熱安定性、耐酸化性、化学的安定性等を改善するために用いられる。水分捕捉剤は、冷凍サイクルシステム内に水分が浸入した場合に当該水分を除去し、特に潤滑油の性質変化を抑制するために用いられる。金属不活性化剤は、金属成分の触媒作用による化学反応を抑制または防止するために用いられる。摩耗防止剤は、圧縮機内の摺動部分における摩耗、特に圧力の高い運転時の摩耗を軽減するために用いられる。消泡剤は、特に潤滑油に気泡が発生することを抑制するために用いられる。
【0058】
これら添加剤の具体的な種類は特に限定されず、諸条件に応じて公知の化合物等を好適に用いることができる。また、これら添加剤としては、1種類の化合物等みが用いられてもよいし2種類以上の化合物等が適宜組み合わせられて用いられてもよい。さらに、これら添加剤の添加量も特に限定されず、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体、もしくは、これを含有する作動媒体含有組成物の性質を損なわない限り、公知の範囲内で添加することができる。
【0059】
さらに、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、不均化抑制剤としては、前述した炭素数2~5の飽和炭化水素以外の化合物であって、不均化反応を抑制可能な化合物を併用することもできる。このような他の不均化抑制剤としては、次に示す式(2)の構造を有するハロメタン(ハロゲン化メタン)を挙げることができる。
【0060】
CHmn ・・・ (2)
ただし、式(2)におけるXは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)からなる群より選択されるハロゲン原子であり、mは0以上の整数であるとともにnは1以上の整数であり、さらに、nおよびmの和は4であり、nが2以上のときXは同一または異なる種類のハロゲン原子である。
【0061】
このようなハロメタンとしては、具体的には、例えば、(モノ)ヨードメタン(CH3I )、ジヨードメタン(CH22)、ジブロモメタン(CH2Br2)、ブロモメタン(CH3Br )、ジクロロメタン(CH2Cl2)、クロロヨードメタン(CH2ClI )、ジブロモクロロメタン(CHBr2Cl )、四ヨウ化メタン(CI4 )、四臭化炭素(CBr4 )、ブロモトリクロロメタン(CBrCl3 )、ジブロモジクロロメタン(CBr2Cl2)、トリブロモフルオロメタン(CBr3F )、フルオロヨードメタン(CHFI2 )、ジフルオロジヨードメタン(CF22)、ジブロモジフルオロメタン(CBr22)、トリフルオロヨードメタン(CF3I )等が挙げられるが、特に限定されない。これらハロメタンは、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜組み合わせられて用いられてもよい。
【0062】
これらハロメタンの含有量は特に限定されないが、不均化抑制剤として、炭素数2~5の飽和炭化水素と併用する場合には、これら不均化抑制剤の全量が10質量%以下となるように、ハロメタンを混合(添加)すればよい。これらハロメタンを添加することで、飽和炭化水素の「燃焼性」を抑制することができる。そのため、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応をより一層有効に抑制できるだけでなく、冷凍サイクル用作動媒体の「燃焼性」をより一層低減することができる。
【0063】
[冷凍サイクルシステムの構成例]
次に、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムの一例について、図1(A)・(B)を参照しながら説明する。
【0064】
本開示にかかる冷凍サイクルシステムの具体的な構成は特に限定されず、圧縮機、凝縮器、膨張手段、および蒸発器等の構成要素が配管にて接続された構成であればよい。本開示にかかる冷凍サイクルシステムの具体的な適用例も特に限定されず、例えば、空気調和装置(エアーコンディショナー)、冷蔵庫(家庭用、業務用)、除湿器、ショーケース、製氷機、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機等を挙げることができる。
【0065】
本開示にかかる冷凍サイクルシステムの代表的な適用例として、空気調和装置を挙げて説明する。具体的には、図1(A)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態にかかる空気調和装置10は、室内機11および室外機12、並びにこれらを接続する配管13を備えており、室内機11は熱交換器14を備え、室外機12は熱交換器15、圧縮機16、および減圧装置17を備えている。
【0066】
室内機11の熱交換器14と室外機12の熱交換器15とは、配管13で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが形成されている。具体的には、室内機11の熱交換器14、圧縮機16、室外機12の熱交換器15、減圧装置17の順で配管13により環状に接続されている。また、熱交換器14、圧縮機16、および熱交換器15を接続する配管13には、冷暖房切換用の四方弁18が設けられている。なお、室内機11は、図示しない送風ファン、温度センサ、操作部等を備えており、室外機12は、図示しない送風機、アキュームレータ等を備えている。さらに、配管13には、図示しない各種弁装置(四方弁18も含む)、ストレーナ等が設けられている。
【0067】
室内機11が備える熱交換器14は、送風ファンにより室内機11の内部に吸い込まれた室内空気と、熱交換器14の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。室内機11は、暖房時には熱交換により暖められた空気を室内に送風し、冷房時には熱交換により冷却された空気を室内に送風する。室外機12が備える熱交換器15は、送風機により室外機12の内部に吸い込まれた外気と熱交換器15の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。
【0068】
なお、室内機11および室外機12の具体的な構成、あるいは、熱交換器14または熱交換器15、圧縮機16、減圧装置17、四方弁18、送風ファン、温度センサ、操作部、送風機、アキュームレータ、その他の弁装置、ストレーナ等の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
【0069】
図1(A)に示す空気調和装置10の動作の一例について具体的に説明する。まず、冷房運転または除湿運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気とガス冷媒とを熱交換するので、ガス冷媒は凝縮して液化する。液化した液冷媒は減圧装置17により減圧され、室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換により液冷媒が蒸発してガス冷媒となる。このガス冷媒は、四方弁18を介して室外機12の圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び熱交換器15に吐出する。
【0070】
また、暖房運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換によりガス冷媒が凝縮して液化する。液化した液冷媒は、減圧装置17により減圧されて気液二相冷媒となり、室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気と気液二相冷媒とを熱交換するので、気液二相冷媒は蒸発してガス冷媒となり、圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び室内機11の熱交換器14に吐出する。
【0071】
また、本開示にかかる冷凍サイクルシステムの他の代表的な適用例として、冷蔵庫を例に挙げて説明する。具体的には、例えば、図1(B)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態にかかる冷蔵庫20は、図1に示す圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、および配管25等を備えている。また、冷蔵庫20は、図示しないが、本体となる筐体、送風機、操作部、制御部等も備えている。
【0072】
圧縮機21は、冷媒ガスを圧縮して、高温高圧のガス冷媒にする。凝縮器22は、冷媒を冷却して液化させる。減圧装置23は、例えばキャピラリーチューブで構成され、液化された冷媒(液冷媒)を減圧する。蒸発器24は、冷媒を蒸発させて低温低圧のガス冷媒にする。圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、および蒸発器24は、冷媒ガスを流通させる配管25により、この順で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが構成されている。
【0073】
なお、圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、配管25、本体筐体、送風機、操作部、制御部等の構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、冷蔵庫20は、これら以外の公知の構成を備えていてもよい。
【0074】
図1(B)に示す冷蔵庫20の動作の一例について具体的に説明する。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して凝縮器22に吐出する。凝縮器22はガス冷媒を冷却して液冷媒とする。液冷媒は減圧装置23を通過することにより減圧され、蒸発器24に送られる。蒸発器24では、液冷媒が周囲から熱を奪うことにより気化し、ガス冷媒となって圧縮機21に戻る。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して再び凝縮器22に吐出する。
【0075】
このような空気調和装置10または冷蔵庫20は、前述した冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムとなっている。冷凍サイクル用作動媒体に用いられる1,1,2-トリフルオロエチレンは、冷媒成分として良好な性質を有しているとともに、ODPおよびGWPが小さい。そのため、環境に与える影響を小さくしつつ効率的な冷凍サイクルシステムを実現することができる。
【0076】
しかも、本開示にかかる冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを所定の下限値以上含有しているとともに、不均化抑制剤として、炭素数2~5の飽和炭化水素を所定範囲内で含有している。それゆえ、冷凍サイクルが稼働中に発熱等が生じても、1,1,2-トリフルオロエチレンの連鎖的な不均化反応の発生を回避、抑制または緩和することができる。その結果、連鎖的な不均化反応による煤の発生等を有効に回避することができるので、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【実施例
【0077】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本開示の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例における各種合成反応や物性等の測定・評価は次に示すようにして行った。
【0078】
(不均化反応の実験系)
密閉型の耐圧容器(耐圧硝子工業株式会社製テフロン内筒密閉容器TAF-SR[商品名]、内部容積50mL)に対して、当該耐圧容器内の内部圧力を測定する圧力センサ(株式会社バルコム製VESVM10-2m[商品名])、当該耐圧容器内の内部温度を測定する熱電対(Conax Technologies製PL熱電対グランドPL-18-K-A 4-T[商品名])、並びに、当該耐圧容器内で放電を発生させるための放電装置(アズワン株式会社製UH-1seriesミニミニウェルダー[商品名])を取り付けるとともに、冷媒成分である1,1,2-トリフルオロエチレン(SynQuest Laboratories製、ヒドラス化学(株)販売、安定剤としてリモネン5%(液相)で含有)のガスボンベを圧力調整可能となるように接続した。さらに、圧力センサおよび温度計は、データロガー(グラフテック株式会社製GL220型[商品名]、サンプリング間隔最少10ミリ秒)に接続した。これにより、不均化反応の実験系を構築した。なお、実験系に用いた前記熱電対の測定上限は1000℃程度であるので、下記比較例または実施における耐圧容器の内部温度は、特に1000℃を超える場合には参考値として取り扱われる。
【0079】
(比較例1)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入した。このときの内部圧力(1,1,2-トリフルオロエチレンの圧力)は1.28MPaであった。
【0080】
1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度約24℃(297.65K)で放電装置により放電を発生させ、データロガーにより内部圧力および内部温度を測定した。その結果、1回の放電を発生させてから1~2秒で内部圧力7.867MPaおよび内部温度約884℃(1157.45K)が測定された。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したところ、相当量の煤の発生が確認された。
【0081】
(実施例1)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入するとともに、不均化抑制剤としてのn-プロパンを1.1質量%(2.0体積%)の添加量となるように添加した。
【0082】
1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度約27℃(300K)で放電装置により放電を複数回発生させ、データロガーにより内部圧力および内部温度を測定した。その結果、放電を6回繰り返しても有意な昇圧および昇温は見られなかった。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したが、煤の発生は見られなかった。
【0083】
(実施例2)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入するとともに、不均化抑制剤としてのn-プロパンを2.8質量%(5.0体積%)の添加量となるように添加した。
【0084】
1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度約27℃(300K)で放電装置により放電を複数回発生させ、データロガーにより内部圧力および内部温度を測定した。その結果、放電を11回繰り返しても有意な昇圧および昇温は見られなかった。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したが、煤の発生は見られなかった。
【0085】
(比較例2)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入するとともに、不均化抑制剤としてのn-プロパンを0.5質量%(1.0体積%)の添加量となるように添加した。
【0086】
1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度約27℃(300K)で放電装置により放電を発生させ、データロガーにより内部圧力および内部温度を測定した。その結果、1回の放電を発生させてから1~2秒で内部圧力7.5MPaおよび内部温度約1339℃(1612K)が測定された。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したところ、相当量の煤の発生が確認された。
【0087】
(比較例および実施例の対比)
比較例1の結果から、前記実験系において耐圧容器内で放電を発生させることにより、1,1,2-トリフルオロエチレンに不均化反応が発生し、この不均化反応が連鎖して急激に進行することがわかる。これに対して、実施例1および2の結果から、炭素数2~5の飽和炭化水素である炭素数3のn-プロパンを0.6質量%以上10質量%以下の範囲内で添加することで、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応は有効に抑制されることがわかる。
【0088】
ただし、比較例2の結果から、炭素数2~5の飽和炭化水素が0.6質量%未満であれば、含有量(混合量、添加量)が少なすぎて、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制できないことがわかる。
【0089】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、冷凍サイクルに用いられる作動媒体の分野に好適に用いることができるとともに、空気調和装置(エアーコンディショナー)、冷蔵庫(家庭用、業務用)、除湿器、ショーケース、製氷機、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機等といった冷凍サイクルシステムの分野にも広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
10 空気調和装置(冷凍サイクルシステム)
11 室内機
12 室外機
13 配管
14 熱交換器
15 熱交換器
16 圧縮機
17 減圧装置
18 四方弁
20 冷蔵庫(冷凍サイクルシステム)
21 圧縮機
22 凝縮器
23 減圧装置
24 蒸発器
25 配管
図1