(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】体調判定装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20230728BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20230728BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230728BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A61B5/022 B
A61B5/11 100
A61B10/00 K
A61B5/02 310J
(21)【出願番号】P 2019024065
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
(72)【発明者】
【氏名】小倉 由美
(72)【発明者】
【氏名】延廣 良香
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-034803(JP,A)
【文献】特開2017-064364(JP,A)
【文献】特開2016-097219(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の背部に当接され、前記背部の体表面を介して伝播する生体信号を非拘束で捉える生体信号測定装置により採取した前記生体信号を分析して体調を判定する体調判定装置であって、
前記生体信号の時系列波形から心拍変動に対応する指標の時系列波形を求める心拍対応指標演算部と、
前記生体信号の時系列波形から血圧変動に対応する指標の時系列波形を求める血圧対応指標演算部と、
前記心拍対応指標演算部から得られる時系列波形が予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を心拍急変兆候出現時として特定し、前記血圧対応指標演算部から得られる時系列波形が予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を血圧急変兆候出現時として特定し、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合に、前記体調の急変の発生と判定する体調急変判定部と
を有することを特徴とする体調判定装置。
【請求項2】
前記心拍対応指標演算部は、
前記生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求めた後、前記周波数の時系列波形から所定時間範囲毎の周波数の傾き時系列波形を求める周波数傾き時系列波形演算部と、
前記周波数の傾き時系列波形から、心循環系のゆらぎの特性が切り替わる周波数よりも低い周波数の機能調整信号、前記機能調整信号よりも高い周波数の疲労受容信号、及び前記疲労受容信号よりも高い周波数の活動調整信号に相当するULF帯域からVLF帯域に属する各周波数成分を抜き出し、これらの周波数成分のそれぞれの分布率の時系列波形を求める分布率時系列波形演算部と
を有する請求項1記載の体調判定装置。
【請求項3】
前記体調急変判定部は、前記機能調整信号、前記疲労受容信号及び前記活動調整信号の全ての波形が所定の分布率の範囲内に所属すると共に、
前記活動調整信号の分布率が、前記機能調整信号、前記疲労受容信号及び前記活動調整信号の中で最も低くなっているポイントが出現した時点から、前記活動調整信号の分布率が、前記機能調整信号及び前記疲労受容信号の分布率よりも高くなるポイントが出現
している間の時間帯を、前記心拍急変兆候出現時と特定する請求項2記載の体調判定装置。
【請求項4】
前記血圧対応指標演算部は、
前記生体信号の時系列波形のピーク値を用いて収縮期血圧対応指標の時系列波形を求める収縮期血圧対応指標演算部と、
前記生体信号の時系列波形のボトム値を用いて拡張期血圧対応指標の時系列波形を求める拡張期血圧対応指標演算部と
を有する請求項1~3のいずれか1に記載の体調判定装置。
【請求項5】
前記収縮期血圧対応指標演算部は、前記ピーク値の所定時間範囲毎の傾きを用いて前記収縮期血圧対応指標の時系列波形を求め、
前記拡張期血圧対応指標演算部は、前記ボトム値の所定時間範囲毎の傾きを用いて前記拡張期血圧対応指標の時系列波形を求め、
前記体調急変判定部は、
前記収縮期血圧対応指標の値が前記拡張期血圧対応指標の値よりも大きい値から小さい値へと変化するように、前記収縮期血圧対応指標の時系列波形と前記拡張期血圧対応指標の時系列波形がクロスするポイントの出現時を、前記血圧急変兆候出現時と特定する請求項4記載の体調判定装置。
【請求項6】
さらに、心機能の負荷が大きいか否かを判定する心機能判定部を有し、
前記体調急変判定部は、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現していることに加えて、前記心機能判定部において前記心機能の負荷が大きいと判定されている場合に、前記体調の急変の発生と判定する請求項2又は3記載の体調判定装置。
【請求項7】
前記心機能判定部は、体調判定時に前記心拍対応指標演算部によって求められる前記周波数の傾き時系列波形を周波数解析し、安静時において予め求めた周波数の傾き時系列波形の周波数解析と比較し、卓越周波数のパワースペクトルの値が、安静時の値に対し、体調判定時の値が所定以上の場合に心機能の負荷が大きいと判定する請求項6記載の体調判定装置。
【請求項8】
体調判定装置としてのコンピュータに、人の背部に当接され、前記背部の体表面を介して伝播する生体信号を捉える生体信号測定装置から得られる前記生体信号を分析して体調を判定する手順を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記生体信号の時系列波形から心拍変動に対応する指標の時系列波形を求める心拍対応指標演算手順と、
前記生体信号の時系列波形から血圧変動に対応する指標の時系列波形を求める血圧対応指標演算手順と、
前記心拍対応指標演算手順の実行により得られる時系列波形において、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を心拍急変兆候出現時として特定し、前記血圧対応指標演算手順の実行により得られる時系列波形において、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を血圧急変兆候出現時として特定し、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合に、前記体調の急変の発生と判定する体調急変判定手順と
を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
さらに、心機能の負荷が大きいか否かを判定する心機能判定手順を実行させ、
前記体調急変判定手順は、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現していることに加えて、前記心機能判定手順の実行により前記心機能の負荷が大きいと判定されている場合に、前記体調の急変の発生と判定する手順を実行する請求項8記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号を用いて人の体調を判定する体調判定装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2等において、人の上体から採取した主に心循環系の波動である生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求め、さらに、周波数傾きの時系列波形を求めてこれらを周波数解析して人の状態を判定する手段を有する装置を開示している。特許文献1では、周波数解析にあたって、予め定めたULF帯域(極低周波帯域)からVLF帯域(超低周波帯域)に属する機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号に相当する各周波数のパワースペクトルを求める。そして、各パワースペクトルの時系列変化から人の状態を判定する。疲労受容信号は、通常の活動状態における疲労の進行度合いを示すため、これに併せて、機能調整信号や活動調整信号のパワースペクトルの優性度合いを比較することにより、人の状態(リラックス状態、疲労状態、交感神経優位の状態、副交感神経優位の状態など)を判定することができる。
【0003】
特許文献2は、特許文献1と同様にULF帯域(極低周波帯域)からVLF帯域(超低周波帯域)に属する機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号を用いるが、特許文献2ではこの3つの信号に相当する周波数成分のパワースペクトルの値の合計を100とした際の各周波成分の分布率を時系列に求め、その分布率の時系列変化を利用して人の状態を判定する。
【0004】
特許文献1又は2の技術はいずれも次のような知見に基づいたものである。すなわち、人の恒常性はゆらぎで維持され、その周波数帯域はULF帯域とVLF帯域にあるとされている。一方、心疾患の一つである心房細動において、心循環系のゆらぎの特性が切り替わる周波数は、0.0033Hzと言われており、0.0033Hz近傍のゆらぎの変化を捉えることで、恒常性維持に関する情報が得られる(非特許文献1参照)。また、0.0033Hz近傍以下と0.0053Hz近傍の周波数帯は、主に体温調節に関連するもので、0.01~0.04Hzの周波数帯は自律神経の制御に関連するものと言われている。そして、実際に、生体信号に内在するこれら低周波のゆらぎを算出する周波数傾き時系列波形を求め、それを周波数解析したところ、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hz、0.0033Hz近傍の0.0035Hzを中心とする周波数帯のゆらぎと、さらにこれらこの2つ以外に、0.0053Hzを中心とする周波数帯のゆらぎがあることが確認できた。
【0005】
0.0035Hzの信号(疲労受容信号)は、外部より入力されるストレスに適応して恒常性を維持するためのゆらぎで、これを通常の活動状態における疲労の進行度合いを示す信号であり、0.0053Hzの信号(活動調整信号)は、活動時における内分泌系ホルモンの制御による影響の度合いが出現する信号であり、0.0033Hzよりも低周波の0.0017Hzの信号(機能調整信号)は、体の変調や機能低下を制御する信号としてあり、これら3つの周波数帯の信号が、相互に関わり合って体温調節機能として作用している。そこで、これらの信号のパワースペクトルの時系列変化、分布率を用いることで、人の状態判定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-167362号公報
【文献】特開2012-179202号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】藤田悦則他:「指尖容積脈波情報を用いた入眠予兆現象計測法の開発」,人間工学,Vol.41,No.4,203-212,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に示した手段は、生体信号として、人の背部の体表面に生じる振動である脈波(背部体表脈波)を採用して非拘束で検出し、特に運転中の生体情報を得る手段として優れている。
【0009】
一方、運転中、あるいは、運転などの運動負荷後、急に顔が青ざめたり、気持ち悪くなったり、意識を失ったりする体調急変が生じる場合がある。特許文献1及び2の技術は、疲労の進行に伴う入眠予兆現象や切迫睡眠現象等の生体状態の変化を検出するのには有効であることは上記のとおりであるが、急な体調変化を検出する手法については具体的には示されていない。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、体調急変の発生を検出するのに好適な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明者は次の点に着目した。すなわち、生体信号の時系列波形を処理して求めた上記の周波数傾きの時系列波形、並びに、周波数傾き時系列波形から求められる上記の機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号の分布率を時系列波形は、いずれも、心拍変動に関する情報である。体調急変が生じた場合、心拍変動に関連する指標が急変することはもとより、それに加え、血圧の急変も生じる。よって、この血圧の急変も、上記の心拍変動と同様の背部体表脈波から検出することで、2つの異なる指標が通常とは異なる動きを示す場合に、体調の急変の発生を特定できると考え、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の体調判定装置は、
人の背部に当接され、前記背部の体表面を介して伝播する生体信号を非拘束で捉える生体信号測定装置により採取した前記生体信号を分析して体調を判定する体調判定装置であって、
前記生体信号の時系列波形から心拍変動に対応する指標の時系列波形を求める心拍対応指標演算部と、
前記生体信号の時系列波形から血圧変動に対応する指標の時系列波形を求める血圧対応指標演算部と、
前記心拍対応指標演算部から得られる時系列波形が予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を心拍急変兆候出現時として特定し、前記血圧対応指標演算部から得られる時系列波形が予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を血圧急変兆候出現時として特定し、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合に、前記体調の急変の発生と判定する体調急変判定部と
を有することを特徴とする。
【0013】
前記心拍対応指標演算部は、前記生体信号の時系列波形から周波数の時系列波形を求めた後、前記周波数の時系列波形から所定時間範囲毎の周波数の傾き時系列波形を求める周波数傾き時系列波形演算部と、前記周波数の傾き時系列波形から、心循環系のゆらぎの特性が切り替わる周波数よりも低い周波数の機能調整信号、前記機能調整信号よりも高い周波数の疲労受容信号、及び前記疲労受容信号よりも高い周波数の活動調整信号に相当するULF帯域からVLF帯域に属する各周波数成分を抜き出し、これらの周波数成分のそれぞれの分布率の時系列波形を求める分布率時系列波形演算部とを有することが好ましい。
前記体調急変判定部は、前記機能調整信号、前記疲労受容信号及び前記活動調整信号の全ての波形が所定の分布率の範囲内に所属すると共に、前記活動調整信号の分布率が、前記機能調整信号、前記疲労受容信号及び前記活動調整信号の中で最も低くなっているポイントが出現した時点から、前記活動調整信号の分布率が、前記機能調整信号及び前記疲労受容信号の分布率よりも高くなるポイントが出現している間の時間帯を、前記心拍急変兆候出現時と特定することが好ましい。
【0014】
前記血圧対応指標演算部は、前記生体信号の時系列波形のピーク値を用いて収縮期血圧対応指標の時系列波形を求める収縮期血圧対応指標演算部と、前記生体信号の時系列波形のボトム値を用いて拡張期血圧対応指標の時系列波形を求める拡張期血圧対応指標演算部とを有することが好ましい。
前記収縮期血圧対応指標演算部は、前記ピーク値の所定時間範囲毎の傾きを用いて前記収縮期血圧対応指標の時系列波形を求め、前記拡張期血圧対応指標演算部は、前記ボトム値の所定時間範囲毎の傾きを用いて前記拡張期血圧対応指標の時系列波形を求め、前記体調急変判定部は、前記収縮期血圧対応指標の値が前記拡張期血圧対応指標の値よりも大きい値から小さい値へと変化するように、前記収縮期血圧対応指標の時系列波形と前記拡張期血圧対応指標の時系列波形がクロスするポイントの出現時を、前記血圧急変兆候出現時と特定することが好ましい。
【0015】
さらに、心機能の負荷が大きいか否かを判定する心機能判定部を有し、
前記体調急変判定部は、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現していることに加えて、前記心機能判定部において前記心機能の負荷が大きいと判定されている場合に、前記体調の急変の発生と判定する構成とすることが好ましい。
前記心機能判定部は、体調判定時に前記心拍対応指標演算部によって求められる前記周波数の傾き時系列波形を周波数解析し、安静時において予め求めた周波数の傾き時系列波形の周波数解析と比較し、卓越周波数のパワースペクトルの値が、安静時の値に対し、体調判定時の値が所定以上の場合に心機能の負荷が大きいと判定することが好ましい。
【0016】
また、本発明のコンピュータプログラムは、
体調判定装置としてのコンピュータに、人の背部に当接され、前記背部の体表面を介して伝播する生体信号を捉える生体信号測定装置から得られる前記生体信号を分析して体調を判定する手順を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記生体信号の時系列波形から心拍変動に対応する指標の時系列波形を求める心拍対応指標演算手順と、
前記生体信号の時系列波形から血圧変動に対応する指標の時系列波形を求める血圧対応指標演算手順と、
前記心拍対応指標演算手順の実行により得られる時系列波形において、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を心拍急変兆候出現時として特定し、前記血圧対応指標演算手順の実行により得られる時系列波形において、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を血圧急変兆候出現時として特定し、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合に、前記体調の急変の発生と判定する体調急変判定手順と
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【0017】
さらに、心機能の負荷が大きいか否かを判定する心機能判定手順を実行させ、
前記体調急変判定手順は、前記心拍急変兆候出現時及び前記血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現していることに加えて、前記心機能判定手順の実行により前記心機能の負荷が大きいと判定されている場合に、前記体調の急変の発生と判定する手順を実行するコンピュータプログラムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、心拍変動に対応する指標(心拍対応指標)の時系列波形から心拍急変兆候出現時を特定すると共に、血圧変動に対応する指標(血圧対応指標)の時系列波形から血圧急変兆候出現時を特定し、両者が所定時間内に出現している場合に体調の急変(体調急変)の発生と判定する構成である。これにより、心拍の急変と血圧の急変とを加味した判定ができ、体調急変を検出できる。
【0019】
また、安静時に比べ、心機能の負荷が大きいか否かをあわせて判定する構成とすることが好ましい。体調急変が生じている場合には、心機能の負荷も大きくなっていることが一般的であるため、心拍の急変及び血圧の急変に加え、さらにこの心機能の負荷が大きくなっているか否かを判定することでより正確に体調急変の発生を捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態で用いた生体信号測定装置を示した平面図である。
【
図2】
図2は、上記生体信号測定装置を人の背側に配設した際の左上部生体信号検出部(L)、右上部生体信号検出部(R)及び下部生体信号検出部(M)の配設位置を人の体との関係で示した縦方向断面図である。
【
図3】
図3は、上記生体信号測定装置の一部の断面を示した図である。
【
図4】
図4は、本発明の一の実施形態に係る体調判定装置の構成を説明するためのブロック図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、心電図波形(a)及び心音波形(b)と、生体信号測定装置により得られた生体信号をフィルタリング処理した波形(RCW)(c)とを示した図である。
【
図6】
図6は、連続血圧計から得られる収縮期血圧及び拡張期血圧の各時系列波形と、RCWを用いて算出したピーク値及びボトム値の平均値の時系列波形との対応関係の一例を示した図である。
【
図7】
図7は、心拍急変特定部における心拍急変兆候出現時の特定の方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、血圧急変特定部における血圧急変兆候出現時の特定の方法を説明するための図である。
【
図9】
図9は、心機能判定部における心機能負荷の大小を判定する方法を説明するための図である。
【
図10】
図10(a)~(g)は、被験者Oの2018年11月13日に測定した実験データを示した図である。
【
図11】
図11(a)~(g)は、被験者Oの2019年1月18日に測定した実験データを示した図である。
【
図12】
図12(a)~(g)は、被験者Uの2018年11月14日に測定した実験データを示した図である。
【
図13】
図13(a)~(g)は、被験者Hの2018年11月20日に測定した実験データを示した図である。
【
図14】
図14(a)~(g)は、被験者MSの2018年12月3日に測定した実験データを示した図である。
【
図15】
図15(a)~(g)は、被験者MKの2018年12月4日に測定した実験データを示した図である。
【
図16】
図16(a)~(f)は、
図10(f)、
図11(f)、
図12(f)、
図13(f)、
図14(f)及び
図15(f)の図に示された周波数の傾き時系列波形における運動負荷前の安静時と運動負荷後の安静時のデータを周波数解析した結果を示した図であり、下欄が運動負荷前後でパワースペクトル値を比較した図であり、上欄が周波数とパワースペクトル値を対数表示した図である。
【
図17】
図17(a)~(h)は、生体信号測定装置1をマットレス上に配置し、その上に被験者が仰臥位で270分寝た際の実験結果を示したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。本発明においては人の背部の体表面を伝播する生体信号(背部体表脈波)を用いる。この背部体表脈波は、上記のように、心房や心室の収縮期や拡張期において心房や心室内の血液の流れによる各弁や心筋内壁に衝突する際の振動、大動脈を流れる際に血管壁を押圧することによって生じる振動(音として伝わる振動を含む)が体表面に伝達されたものである。
【0022】
背部体表脈波を採取するための生体信号測定装置は、測定用の椅子、ベッド、あるいは、乗物の運転席のシート等に組み込んで使用することができ、腕、手、指等を拘束することなく生体信号を採取できるものを用いることが好ましい。
図1~
図3に本実施形態で用いた生体信号測定装置1を示す。この生体信号測定装置1は、ベース部材10に3つの生体信号検出部、すなわち、左上部生体信号検出部11、右上部生体信号検出部12及び下部生体信号検出部13を設けている。
【0023】
ベース部材10は、3つの生体信号検出部11~13を設けることができ、人の胸部から腹部を含む範囲をカバーできる面積を備えた板状体から構成される。材料としては、人の背が当接した際に違和感の小さい可撓性を有する合成樹脂等からなることが好ましいが、ビーズ発泡体から形成されることがより好ましい。ビーズ発泡体を構成するビーズの薄膜が生体信号に基づく体表面の微振動によって敏感に振動し、生体信号を生体信号検出部11~13に伝播させやすい。
【0024】
ベース部材10を人の背に沿って配置したときに、人の横隔膜の位置に対応する横隔膜対応部位を境として、その上方(肩側)の心臓の位置に対応した部位(
図1及び
図2の符号Aで示したライン付近)に2つの検出部配置孔10a,10bが形成され、下方(腰側)の腰の位置に対応した部位(
図1及び
図2の符号Bで示したライン付近)に1つの検出部配置孔10cが形成されている。上部の2つの検出部配置孔10a,10bは、人の脊柱の位置に対応する脊柱対応部位を挟んで左右に所定間隔離間して設けられる。また、上方の2つの検出部配置孔10a,10bは、上下方向に長い縦長の略長方形で形成され、下方の検出部配置孔10cは、左右方向に長い横長の略長方形に形成されている。上方の2つの検出部配置孔10a,10bは、肺及び心臓に対応する範囲の生体信号を捕捉するため縦長とし、下方の検出部配置孔10cは、横隔膜を介して伝わる左右の肺の活動に基づく腹部の情報を捉えるため、横長としている。これは、各生体信号検出部11~13の形状及び配置方向に対応させたものである。
【0025】
各生体信号検出部11~13は、いずれも、三次元立体編物20とマイクロフォンからなる音響センサ21とを有して構成されている。三次元立体編物20は、例えば特開2002-331603号公報に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地同士を連結糸で結合することにより形成されている。各グランド編地は、例えば、繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)に形成したり、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編地組織に形成したりすることができる。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、三次元立体編物に所定の剛性を付与している。従って、面方向に張力が付与されることにより、三次元立体編物を構成する対向するグランド編地の糸、あるいは、対向するグランド編地間を連結する連結糸を弦振動させることが可能となる。それにより、生体信号である心臓・血管系の音・振動によって弦振動が生じ、三次元立体編物の面方向に伝播される。
【0026】
各生体信号検出部11~13を構成する三次元立体編物20は、上記の各検出部配置孔10a~10cに対応して略長方形に形成される。そして、三次元立体編物20の表面及び裏面を被覆するように、ベース部材10の両面にフィルム14,15が積層される。フィルム14,15は、各検出部配置孔10a~10cに対応した大きさで設けてもよいし、3つの検出部配置孔10a~10cを一枚で覆う大きさのフィルム14,15を用いてもよい。これにより、検出部配置孔10a~10cは共鳴箱となり、微弱な生体信号の増幅機能を果たす。
【0027】
次に、本実施形態の体調判定装置100の構成について
図4に基づいて説明する。体調判定装置100は、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、機器に組み込まれるマイクロコンピュータ等も含む)から構成され、当該コンピュータに、体調判定を行わせる手順を実行させるコンピュータプログラムが記憶部(当該コンピュータ(体調判定装置100)の内蔵のハードディスク等の記録媒体のほか、リムーバブルの各種記録媒体、通信手段で接続された他のコンピュータの記録媒体等も含む)に記憶されている。体調判定を行わせる手順をコンピュータに実行させることで、当該コンピュータは、心拍対応指標演算部110、血圧対応指標演算部120、体調急変判定部130及び心機能判定部140としての機能を有する体調判定装置100を構成する。また、体調判定を行わせる手順を実行させるコンピュータプログラムは、当該コンピュータプログラムが組み込まれた1以上の記憶回路を備えてなる電子回路で実現することもできる。
【0028】
また、コンピュータプログラムは、記録媒体に記憶させて提供することができる。コンピュータプログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体は特に限定されないが、例えば フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD-ROM、メモリカードなどの記録媒体が挙げられる。また、通信回線を通じてコンピュータプログラムをコンピュータに伝送してインストールすることも可能である。
【0029】
心拍対応指標演算部110及び血圧対応指標演算部120は、いずれも、生体信号測定装置1の音響センサ21から得られる生体信号の時系列波形(以下、「センサ波形」))を用いるが、好ましくは、センサ波形そのものではなく、中心周波数20Hz近傍のバンドパスフィルタ、より好ましくは、10~30Hzの周波数帯域のバンドパスフィルタをかけた時系列波形を用いる。フィルタリングにより、センサ波形が、10~30Hzのフィルタ処理波形(
図5(c)の波形(以下、「RCW」という)に変換される。心拍数は約1~1.5Hz前後が標準的な範囲であるが、RCWは、約1秒周期で相対的に大きな全振幅の波形成分が出現していることが捉えられていることから、心周期が顕在化される。この点は、
図5(a)の心電図の波形、
図5(b)の心音図の波形と比較して明らかである。
【0030】
心拍対応指標演算部110は、生体信号の時系列波形(本実施形態では「RCW」)から心拍変動に対応する指標の時系列波形を求める。本実施形態の心拍対応指標演算部110は、周波数傾き時系列波形演算部111と分布率演算部112とを有している。周波数傾き時系列波形演算部111は、RCWから周波数の時系列波形を求め、周波数の時系列波形から所定時間範囲毎の周波数の傾き時系列波形を求める。
【0031】
より具体的には、周波数の傾き時系列波形は、特許文献1及び2に開示されているような手法で得られる。すなわち、RCWにおいて、正から負に切り替わる点(ゼロクロス点)を求め、それを例えば5秒毎に切り分け、その5秒間に含まれる時系列波形のゼロクロス点間の時間間隔の逆数を個別周波数fとして求め、その5秒間における個別周波数fの平均値を当該5秒間の周波数Fの値として採用する。そして、この5秒毎に得られる周波数Fを時系列にプロットすることにより、周波数の変動の時系列波形を求める。次に、周波数の変動の時系列波形から、所定のオーバーラップ時間(例えば18秒)で所定の時間幅(例えば180秒)の時間窓を設定し、時間窓毎に最小二乗法により周波数の傾きを求め、その傾きの時系列波形を出力する。この計算(移動計算)を順次繰り返し、心拍対応指標演算部110は、周波数の傾きの時系列変化を周波数傾き時系列波形として出力する。背部体表脈波は、中枢系である心臓の制御の様子を主として含む生体信号、すなわち、動脈の交感神経支配の様子、並びに、交感神経系と副交感神経系の出現情報を含む生体信号であり、ゼロクロス法により求めた周波数傾き時系列波形は、心拍変動に対応した指標となる。
【0032】
分布率演算部112は、まず、周波数傾き時系列波形演算部111から得られる周波数傾き時系列波形をそれぞれ周波数分析して、心循環系のゆらぎの特性が切り替わる周波数である0.0033Hzよりも低い周波数の機能調整信号、機能調整信号よりも高い周波数の疲労受容信号、及び疲労受容信号よりも高い周波数の活動調整信号に相当するULF帯域からVLF帯域に属する各周波数成分を抜き出す。次に、これらの周波数成分のそれぞれの分布率を時系列に求める。すなわち、3つの周波数成分のパワースペクトルの値の合計を1とした際の各周波数成分の割合を分布率として時系列に求める。
【0033】
本実施形態では、機能調整信号として0.0017Hzの周波数成分を用い、疲労受容信号として0.0035Hzの周波数成分を用い、活動調整信号として0.0053Hzの周波数成分を用いているが、これらの周波数成分を用いることが適切であることは上記「背景技術」の項で説明したとおりである。なお、各信号の周波数成分は個人差等により調整することも可能であり、機能調整信号は0.0033Hz未満の範囲で好ましくは0.001~0.0027Hzの範囲で、疲労受容信号は0.002~0.0052Hzの範囲で、活動調整信号は0.004~0.007Hzの範囲で調整することができる。
【0034】
血圧対応指標演算部120は、生体信号の時系列波形(本実施形態では「RCW」)から血圧変動に対応する指標の時系列波形を求める。本実施形態の血圧対応指標演算部120は、RCWのピーク値を用いて収縮期血圧対応指標の時系列波形を求める収縮期血圧対応指標演算部121と、RCWのボトム値を用いて拡張期血圧対応指標の時系列波形を求める拡張期血圧対応指標演算部122とを有している。また、ピーク値又はボトム値の変化の傾向を顕在化させるため、収縮期血圧対応指標演算部121及び拡張期血圧対応指標演算部122は、所定時間範囲(例えば、180秒間)におけるピーク値又はボトム値の変化の傾き(比率)を求め、それを例えば18秒間ずつオーバーラップさせてスライド計算して順次ピーク値又はボトム値の傾き変化を求めていく。
【0035】
ここで、後述の実験例では、トレッドミルを用いた10分間のランニングによる運動負荷を挟んで、その前後において、上記の生体信号測定装置1を自動車用シートのシートバック部に取り付けて被験者を着座させて生体信号を検出する実験を行ったが、実験の際、被験者には瞬時心拍数計、連続血圧計を装着し、瞬時血圧及び連続血圧も測定した。
図10~
図15の各(c)の図が、連続血圧計の収縮期血圧及び拡張期血圧の時系列波形を示し、各(d)の図が、RCWのピーク値及びボトム値の各180秒間の平均値を18秒間ずつスライドさせて求めた時系列波形を示している。これらを比較すると、連続血圧計の収縮期血圧の時系列波形は、RCWを用いて算出したピーク値の平均値の時系列波形にほぼ対応した変化を示しており、連続血圧計の拡張期血圧の時系列波形は、RCWを用いて算出したボトム値の平均値の時系列波形にほぼ対応した変化を示していることがわかる。
【0036】
また、生体信号測定装置1をシートバックに取り付けた自動車用シートに被験者を着座させ、20分の安静後、60分間の運転を行わせ、その後20分間安静にした状態で生体信号を検出し、RCWのピーク値及びボトム値の各180秒間の平均値を18秒間ずつスライドさせて求めた時系列波形を求めた。これを同時に測定した連続血圧計と比較した結果が、
図6である。
図6中、「推定SBP」は、RCWを用いて算出したピーク値の平均値を、連続血圧計の収縮期血圧値に近似するように所定の係数をかけて示した波形であり、「推定DBP」は、RCWを用いて算出したボトム値の平均値を、連続血圧計の拡張期血圧値に近似するように所定の係数をかけて示した波形である。このグラフから、RCWのピーク値及びボトム値を用いたそれらの平均値の時系列波形が、連続血圧計から得られる収縮期血圧の時系列波形、拡張期血圧の時系列波形によく対応していることがわる。
【0037】
よって、収縮期血圧対応指標演算部121により求められるRCWのピーク値の傾き及び拡張期血圧対応指標演算部122から求められるRCWのボトム値の傾きは、収縮期血圧及び拡張期血圧の各変化傾向を示す指標として適している。
【0038】
体調急変判定部130では、コンピュータプログラムにより、心拍急変特定部131として機能する手順が実行され、かつ、血圧急変特定部132として機能する手順が実行され、その後、それらの実行結果に基づき、体調急変を判定する手順が実行される。
【0039】
すなわち、心拍急変特定部131では、心拍対応指標演算部110から得られる時系列波形中、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を心拍急変兆候出現時として特定すると共に、血圧急変特定部132では、血圧対応指標演算部120から得られる時系列波形中、予め設定された所定の波形変動を示す時間帯を血圧急変兆候出現時として特定する。次に、体調急変判定部130は、心拍急変兆候出現時及び血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合に、体調の急変(体調急変)の発生と判定する。すなわち、心拍変動と血圧変動の2つの指標が通常とは異なる波形を示し、かつ、それがほぼ同時期(所定の時間範囲内)に出現している場合を、ここでいう体調急変と判定する。
【0040】
心拍急変特定部131における心拍急変兆候出現時の特定は次のように行われることが好ましい。すなわち、上記の分布率演算部112から得られる周波数傾き時系列波形から求めた機能調整信号、疲労受容信号及び活動調整信号の全ての波形が所定の分布率の範囲内に所属し、かつ、その際に活動調整信号の分布率が最も低くなっているポイント(条件1)の出現後、活動調整信号の分布率が、機能調整信号及び疲労受容信号の分布率よりも高くなるポイント(条件2)が出現するか否かを判定し、条件1及び条件2を共に満足する場合に、心拍急変兆候出現時と特定する。例えば、
図7では、機能調整信号(0.0017Hz)、疲労受容信号(0.0035Hz)及び活動調整信号(0.0053Hz)の3つの波形の全ての分布率が30~40%の範囲に属し、かつ、その時点で活動調整信号(0.0053Hz)の分布率が最も低く、その直後の時点(本実施形態では18秒後)における活動調整信号(0.0053Hz)の分布率が最も高くなる場合に、心拍急変兆候出現時と特定する。本実施形態では上記のように移動計算により18秒間毎に計算ポイントがプロットされていくため、2つのポイントがともに含まれる30~40秒間の時間帯を心拍急変兆候出現時とすることが好ましい。
【0041】
なお、本実施形態のように、周波数傾き時系列波形を求める際のスライド計算は、180秒間の窓に対して18秒間のオーバーラップで求めることが好ましい。但し、時間窓を180秒よりも増減させ、オーバーラップ率を異なる値として計算して上記と同様の手法を用いることも本発明に含まれる態様である。また、心拍急変兆候出現時の時間帯は、設定した時間窓、オーバーラップ率などにより30~40秒間より増減することもあり得る。また、上記の条件1の各信号が集約する分布率の範囲も、30~40%以外の範囲が好ましい設定となる場合もあり得る。さらに、これらの条件は個人差もあるため、個人毎に条件設定することも可能である。
【0042】
血圧急変特定部132における血圧急変兆候出現時の特定は次のように行われることが好ましい。すなわち、
図8に示すように、上記の収縮期血圧対応指標演算部121から得られる収縮期血圧対応指標の時系列波形と拡張期血圧対応指標演算部122から得られる拡張期血圧対応指標の時系列波形がクロスし、かつ、収縮期血圧対応指標の値が
拡張期血圧対応指標の値よりも小さくなっているポイントが出現する時間帯を、血圧急変兆候出現時と特定する。本実施形態では、上記のように18秒毎に計算結果が出力されるため、血圧急変兆候出現時の条件を満たすか否かが18秒毎に判定されるが、これはあくまで一例であり、心拍急変特定部131と同様に、スライド計算の時間窓の設定時間、オーバーラップ率等により、異なる時間間隔で出力される場合もあり得る。また、個人毎に適切な時間窓、オーバーラップ率を設定可能であることも上記と同様である。
【0043】
体調急変判定部130は、心拍急変特定部131によって特定された心拍急変兆候出現時及び血圧急変特定部132によって特定された血圧急変兆候出現時の出現タイミングを比較し、最終的に体調急変の発生を判定する。本実施形態では、心拍急変兆候出現時及び血圧急変兆候出現時が所定の時間範囲内に出現している場合のみ、体調急変と判定する。ここでいう所定の時間範囲内としては、個人差もあるが、約30~100秒とすること好ましい。なお、この所定の時間範囲は、上記と同様に、スライド計算の時間窓の設定時間、オーバーラップ率等により、あるいは、個人毎に異なる設定とすることも可能である。
【0044】
心機能判定部140は、心機能の負荷が大きいか否かを判定する。具体的には、本実施形態の心機能判定部140は、体調判定時、例えば、運転中のドライバーの体調を判定する際、あるいは、運転や運動後の被験者の体調を判定する際等において、生体信号測定装置1から得られた生体信号(RCW)の時系列波形を、心拍対応指標演算部110によって演算処理して、上記の周波数の傾き時系列波形を得る。次に、この周波数の傾き時系列波形を周波数解析する。そして、この体調判定時の周波数解析結果を、安静時において予め求めた周波数の傾き時系列波形の周波数解析結果と比較する(
図4参照)。その結果、例えば、
図9に示したように、安静時の卓越周波数のパワースペクトル値に対し、運動負荷後の体調判定時の卓越周波数のパワースペクトル値(PSD比)が所定以上(例えば2以上)の場合に心機能の負荷が大きいと判定する。安静時の周波数解析結果は、運転や運動などの負荷を受けることなく、落ち着いて椅子に着座しているときなど、当該被験者の通常の心拍、呼吸状態において測定した生体信号を解析したデータであり、体調判定装置100を構成するコンピュータの記憶部に予め記憶させておくことで、体調判定時には体調急変判定部130によってその記憶させたデータを読み込んで比較することができる。
【0045】
体調判定装置100が心機能判定部140を有する場合、体調急変判定部130は、上記の心拍急変兆候出現時及び血圧急変兆候出現時に、心機能判定部130の判定結果を加味して体調急変を判定する。すなわち、心拍急変兆候出現時及び血圧急変兆候出現時の出現タイミングが上記の所定の時間内であり、この2つの指標によれば体調急変の発生と判定される場合でも、心機能判定部130において、心機能負荷が小さいという結果が出ている場合には、体調急変とは判定せず、2つの指標が体調急変を示し、かつ、心機能負荷が大きいという結果が出力された場合のみ、最終的に体調急変の発生と判定する。これにより、心機能負荷が大きい場合のみ体調急変と判定されるため、実際に被験者が自覚する体調急変の発生と、体調判定装置100による体調急変の判定結果がよりマッチすることになる。
【0046】
(実験例)
トレッドミルを用いて被験者に10分間のランニングを行わせる運動負荷をかけ、その前後における体調変化を調べた。運動負荷の前後において、シートバック部に生体信号測定装置1を取り付けた自動車用シートに被験者を着座させ、当該被験者の生体信号を採取して上記の体調判定装置100によりそのデータを分析し、体調急変の有無を判定した。分析対象の生体信号としては、第2から第4腰椎付近の背部体表脈波を用いることとし、生体信号測定装置1における下部生体信号検出部13の音響センサ21からデータを得た。なお、被験者には、瞬時心拍数計、連続血圧計を装着し、瞬時血圧及び連続血圧も測定した。
【0047】
図10~
図15に各被験者の実験結果を示す。なお、
図10~
図15の各(a)図は、自律神経活動の時系列波形を示し、各(b)図は、瞬時心拍数の時系列波形を示し、各(c)図は、血圧の時系列波形を示す。
図10~
図15の各(d)~(g)の図が、体調判定装置100により分析されたデータであり、各(d)の図は、ピーク値及びボトム値の平均値の時系列波形を示し、各(e)図は、ピーク値及びボトム値の傾き時系列波形を示し、各(f)図は、周波数の傾き時系列波形を示し、各(g)図は、分布率の時系列波形を示す。
【0048】
図10の被験者Oの2018年11月13日にデータでは、2700秒付近を、心拍急変特定部131が心拍急変兆候出現時と特定している。血圧急変特定部132は、心拍急変兆候出現時の2700秒を挟んだ前後50秒の範囲に、血圧急変兆候出現時を特定している。
【0049】
図11の同じ被験者Oの2019年1月18日にデータでは、心拍急変特定部131が、3180秒付近を心拍急変兆候出現時と特定している。血圧急変特定部132においては、心拍急変兆候出現時に最も近いポイントで、3250秒付近で血圧急変兆候出現時を特定している。
図12~
図15の被験者U,H,MS,MKのデータでは、いずれも血圧急変兆候出現時は特定されているが、心拍急変兆候出現時は特定されていない。
【0050】
体調急変判定部130においては、心機能判定部140の判定結果を考慮しない設定の場合には、心拍急変兆候出現時が特定され、その付近に血圧急変兆候出現時も特定されている被験者Oの
図10及び
図11の場合に、体調急変の発生と判定する。一方、
図12~
図15の被験者U,H,MS,MKの場合には、いずれも体調急変の発生は認められない、ということになる。
【0051】
図16は、心機能判定部140の判定結果を示した図である。
図16(a)~(f)が、順に、
図10~
図15のデータに対応する。図中のPSD比は、心機能判定部140により求めた運動負荷前に安静時20分と運動負荷後の安静時20分のデータ同士を比較したものであり、PSD比の閾値を2と設定し、PSD比が2を越える場合に「心機能負荷:大」と判定する設定とした。その結果、
図10の被験者Oの2018年11月13日のデータ、
図12の被験者Uのデータ、
図15の被験者MKのデータについて、「心機能負荷:大」の判定がなされた。
【0052】
体調急変判定部130が、心機能判定部140の結果を考慮する設定の場合、
図11の被験者Oの2019年1月18日のデータは、心機能負荷が大であるという要件を満足せず、
図10の被験者Oの2018年11月13日のデータのみが、心拍急変兆候出現時及び血圧急変兆候出現時が所定の時間内で、かつ、心機能負荷が大であるという要件を満足することになる。この結果から、体調急変判定部130は、
図10の被験者Oの2018年11月13日のデータ測定時においてのみ体調急変が生じたと判定する。
【0053】
心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時が同時期(所定の時間内)に特定されることのみで体調急変を判定する場合には、リアルタイムに近いタイミングでの判定が可能である。このため、運転中のドライバーの体調急変の判定も可能である。一方、
図16(a)~(f)では、運動負荷後20分のデータを用いて心機能判定を行っているため、心機能負荷の大小の結果がでるにはある程度の時間を要する。しかしながら、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時が同時期に特定されたことをもって仮に体調急変と判定し、その後、心機能負荷の大小の判定結果を加味して、再度、体調急変か否かを判定する構成とすれば、より正確な判定が可能となる。また、心機能負荷の大小を判定する際の周波数分析の時間幅を短く設定することで、より短い時間毎の心機能負荷の判定が可能となり、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時により近いタイミングで心機能負荷の判定結果を考慮した判定が可能となる。
【0054】
実際、
図10の被験者Oの2018年11月13日のデータ測定時においては、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時が特定された2700秒付近から60秒ほどで被験者Oは、顔が青ざめ、一瞬意識がもうろうとするほどの体調急変を生じたことが実験に立ち会った観察者により確認されている。しかし、
図11の被験者Oの2019年1月18日のデータ測定時においては、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時が3200秒付近で特定されているものの、被験者Oには体調急変と言える症状が生じなかったことが観察者により確認されている。よって、体調急変のより正確な判定には、体調急変判定部130が心機能判定部140の判定結果を考慮する構成とすることが好ましい。但し、
図11の被験者Oの2019年1月18日にデータでは、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時との出現タイミングの差が約70秒あるため、両者が所定の時間内に出現する範囲をさらに短く、例えば、50秒に設定すれば、心拍急変兆候出現時と血圧急変兆候出現時とが所定の時間内に生じているか否という基準のみであっても、体調急変とは判定されないことになる。よって、この設定時間については、個人毎にデータを蓄積して調整可能としてもよい。
【0055】
図17は、生体信号測定装置1をマットレス上に配置し、その上に被験者が仰臥位で270分寝た際のデータである。
図17(a)は、左上部生体信号検出部11から得た生体信号をフィルタリング処理した大動脈圧波形であり、
図17(b)は、体動を検出したタイミングと、体動により左上部生体信号検出部11に非接触であった時間帯を示した図であり、
図17(c)は、心拍数を示した図であり、
図17(d)は、呼吸数を示した図であり、
図17(e)は、自律神経活動の時系列波形を示し、
図17(f)は、周波数の傾き時系列波形を示し、
図17(g)は、分布率の時系列波形を示し、
図17(h)は、ピーク値及びボトム値の傾き時系列波形を示す。
図17(g)及び
図17(h)より、152分頃に、心拍急変兆候が出現すると共に、血圧急変兆候が出現している。同じく、240分頃に、心拍急変兆候が出現すると共に、血圧急変兆候が出現している。よって、この実験中、152分頃と240分頃に体調急変が生じたと判定がなされた。観察者によれば、体調急変が生じたと判定された時刻前後において被験者の体動が一時的に大きくなり、寝苦しそうであったことが観察されていることから、体調判定装置130による判定結果がおおむね適したものであったといえる。
【符号の説明】
【0056】
1 生体信号測定装置
13 下部生体信号検出部
21 音響センサ
100 体調判定装置
110 心拍対応指標演算部
111 周波数傾き時系列波形演算部
112 分布率演算部
120 血圧対応指標演算部
121 収縮期血圧対応指標演算部
122 拡張期血圧対応指標演算部
130 体調急変判定部
131 心拍急変特定部
132 血圧急変特定部
140 心機能判定部