(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ソナー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/521 20060101AFI20230728BHJP
G01S 15/96 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
G01S7/521 A
G01S15/96
(21)【出願番号】P 2020537245
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009855
(87)【国際公開番号】W WO2021176726
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山本 重雄
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-043984(JP,A)
【文献】特開平04-111599(JP,A)
【文献】特開2018-074462(JP,A)
【文献】特開昭54-061590(JP,A)
【文献】特開2001-197595(JP,A)
【文献】国際公開第97/021985(WO,A1)
【文献】米国特許第05142497(US,A)
【文献】米国特許第05744898(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52- 7/64,
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動及び前記回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を前記超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えたソナーであって、
前記超音波振動子は、
音響整合層を兼ねる略円板状の基材と、前面及びその反対側にある背面を有する略円板状の圧電素子
とを備え、
前記基材に、前記圧電素子の前記前面が接合されており、
前記圧電素子には、一方向に延びる溝部が複数形成されるとともに、前記溝部を介して複数の帯状の振動部が配設され、
複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっており、
前記溝部が前記傾動軸に対して30°以下の角度をなすように、前記超音波振動子が配設されている
ことを特徴とするソナー。
【請求項2】
前記溝部が前記傾動軸に対して平行であることを特徴とする請求項1に記載のソナー。
【請求項3】
前記振動部の幅をWとし、前記圧電素子の外径の最小値をLとしたとき、W/L≦0.1の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のソナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して魚群などの被探知物を探知するソナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波の送受信によって魚群などの被探知物を検知するソナーが知られている。ソナーは、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動や回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えており、超音波振動子を運動させながら超音波の送受信を行うことにより、水中を探知するようになっている(例えば、特許文献1,2参照)。そして、水中を探知した探知結果は、探知画像として画面に表示される。なお、超音波振動子は、一般的に、音響整合層と、同音響整合層に接合された圧電素子とを備えている。
【0003】
ところで、ソナーにおいて、より遠い距離の被探知物を探知したいという需要がある。このためには、超音波振動子を高感度にすることが必要である。なお、超音波振動子を高感度にする手法としては、
図30,
図31に示されるように、超音波振動子101を構成する圧電素子102を、厚さ方向から見て縦横に配列された複数(例えば100以上)の振動部103により構成し、かつ隣接する振動部103間に充填材104を充填した構造にすることが提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。このようにすれば、各振動部103のそれぞれが同振動部103の高さ方向に変形しやすくなるため、圧電素子102が各部位において変形しやすくなる。つまり、圧電素子102が振動しやすくなるため、超音波振動子101の感度が高くなる。また、充填材104が各振動部103間の空隙に入り込むことにより、各振動部103が相互に補強される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5979537号公報(請求項1、
図4等)
【文献】特開2013-221791号公報(段落[0036]、
図1~
図6等)
【文献】特開2016-213666号公報(
図4B等)
【文献】特開2012-182758号公報(
図6等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、隣接する振動部103間に充填材104を充填すると、各振動部103が高さ方向に変形(振動)しにくくなるため、超音波振動子101の感度が低下してしまうという問題がある。そこで、充填材104を取り除いて感度を確保することも考えられるが、各振動部103は、細い棒状をなし、強度が低いため、充填材104がない状態で超音波振動子101を長期間に亘って駆動させると、疲労破壊によりクラックが発生しやすくなる。つまり、充填材104を充填しない場合には、超音波振動子101の信頼性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、感度を維持しつつ、振動部の強度低下を防止することにより、信頼性が高い超音波振動子を得ることができるソナーを提供することにある。また、別の目的は、作りやすく、製造コストが低い超音波振動子を得ることができるソナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を送受信する超音波振動子と、鉛直方向を向いた回転軸を中心とした旋回運動及び前記回転軸に直交する傾動軸を中心とした傾動運動を前記超音波振動子に行わせる駆動機構とを備えたソナーであって、前記超音波振動子は、音響整合層を兼ねる略円板状の基材と、前面及びその反対側にある背面を有する略円板状の圧電素子とを備え、前記基材に、前記圧電素子の前記前面が接合されており、前記圧電素子には、一方向に延びる溝部が複数形成されるとともに、前記溝部を介して複数の帯状の振動部が配設され、複数の前記振動部が、前記圧電素子の前記前面側の端部において互いに繋がっており、前記溝部が前記傾動軸に対して30°以下の角度をなすように、前記超音波振動子が配設されていることを特徴とするソナーをその要旨とする。
【0008】
従って、請求項1に記載の発明によれば、圧電素子に帯状の振動部が形成されている。よって、柱状の振動部に比べて振動部が平面方向に長くなることで、振動部が補強されるため、振動部の強度低下が防止される。その結果、溝部内に充填材を充填しなくても、振動部でのクラックの発生を防止できるため、超音波振動子の信頼性を向上させることができる。しかも、請求項1では、一方向に延びる溝部を形成することにより帯状の振動部を得ているため、縦横に延びる溝部を形成して上記した柱状の振動部を得る場合に比べて、振動部の形成に必要な溝部の形成回数が減少する。よって、溝部の形成が容易になるため、超音波振動子の製造コストを低減することができる。また、溝部の形成回数が減少するのに伴って電極の分割数も少なくなるため、分割された電極の各々を導電性部材で接続する際の手間も低減される。さらに、溝部が傾動軸に対して特に0°の角度をなすように超音波振動子が配設されている場合、つまり、溝部が傾動軸に対して平行である場合(請求項2)には、傾動軸方向へのサイドローブが弱くなり、探知における誤判定を減らすことができる。
【0009】
なお、「略円板状の圧電素子」とは、円板状の圧電素子だけでなく、楕円板状の圧電素子や、長円板状の圧電素子なども含むものとする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記振動部の幅をWとし、前記圧電素子の外径の最小値をLとしたとき、W/L≦0.1の関係を満たすことをその要旨とする。
【0011】
従って、請求項3に記載の発明によると、超音波の周波数帯域の広さや超音波振動子の送受感度を、圧電素子に縦横に延びる溝部を形成して複数の柱状の振動部を得る場合と同程度にすることができる。なお、「圧電素子の外径の最小値(L)」とは、圧電素子が円板状をなす場合に「円の直径の長さ」を示し、圧電素子が楕円板状をなす場合に「楕円の短軸の長さ」を示すものである。
【0013】
また、請求項1に記載の発明では、圧電素子を複数の振動部に分割した構成であっても、圧電素子の前面側の端部において振動部同士が繋がる部分の厚さが確保される。従って、圧電素子の強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上詳述したように、請求項1~3に記載の発明によると、感度を維持しつつ、振動部の強度低下を防止することにより、信頼性が高い超音波振動子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のソナーが搭載された船舶を示す説明図。
【
図2】ソナー、昇降装置及び液晶モニターを示す概略構成図。
【
図5】ケースに収容した状態の超音波振動子を示す側面図。
【
図6】ケースに収容した状態の超音波振動子を示す概略断面図。
【
図11】(a)は外側振動部を示す斜視図、(b)は内側振動部を示す斜視図。
【
図13】(a)は伸長時の振動部を示す断面図、(b)は収縮時の振動部を示す断面図。
【
図14】実施例1A,1Bにおける送受感度積の変化を示すグラフ。
【
図15】実施例2A,2Bにおける送受感度積の変化を示すグラフ。
【
図16】比較例A,Bにおける送受感度積の変化を示すグラフ。
【
図17】サンプルAにおける指向特性の測定結果を示すグラフ。
【
図18】サンプルBにおける指向特性の測定結果を示すグラフ。
【
図19】サンプルCにおける指向特性の測定結果を示すグラフ。
【
図20】超音波が140kHzである場合において、サンプルA~Cの指向特性の測定結果を示すグラフ。
【
図21】超音波が140kHzである場合において、(a)はサンプルAの超音波の方向及び強度を矢印で概念的に示す図、(b)はサンプルBの超音波の方向及び強度を矢印で概念的に示す図、(c)はサンプルCの超音波の方向及び強度を矢印で概念的に示す図。
【
図22】サイドローブが発生する指向特性の超音波をサイドローブが下を向く角度でスキャンした場合において、(a)は探知イメージを示す図、(b)は画像のイメージを示す図。
【
図23】サイドローブが発生する指向特性の超音波をサイドローブが下を向かないようにスキャンした場合において、(a)は探知イメージを示す図、(b)は画像のイメージを示す図。
【
図24】サイドローブが発生しない理想的な指向特性の超音波でスキャンした場合において、(a)は探知イメージを示す図、(b)は画像のイメージを示す図。
【
図25】従来技術における問題点を示す概略斜視図。
【
図26】(a)~(c)は、他の実施形態における超音波振動子を示す概略平面図。
【
図27】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図28】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図29】他の実施形態における超音波振動子を示す平面図。
【
図30】従来技術における圧電素子を示す要部平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態のソナー11は、船舶10の船底部に搭載されて使用される。ソナー11は、水中に超音波U1を照射することにより、水中に存在する魚群などの被探知物S0を探知する装置である。また、
図2に示されるように、ソナー11は昇降装置12に取り付けられている。昇降装置12は、ソナー11を昇降させることにより、船底から水中に対してソナー11を出没させる装置である。さらに、ソナー11及び昇降装置12には、液晶モニター13が電気的に接続されている。液晶モニター13は、船舶10の操舵室内に設置されており、操作部14及び表示部15を有している。
【0018】
図3,
図4に示されるように、ソナー11はソナードーム20を備えている。ソナードーム20は、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)などの樹脂材料を用いて形成されており、上ケース21、下ケース22及び蓋体23によって構成されている。上ケース21は、下端にて開口する有底円筒状のケースであり、下ケース22は、上端にて開口する有底円筒状のケースである。なお、下ケース22の下端部はドーム状(半球状)をなしている。また、蓋体23は、円板状をなし、上ケース21の下端側開口及び下ケース22の上端側開口を閉塞するためのものである。なお、蓋体23と上ケース21とによって上側収容空間24が形成されるとともに、蓋体23と下ケース22とによって下側収容空間25が形成される。
【0019】
また、ソナードーム20には、超音波U1を送受信する超音波振動子41と、超音波振動子41を収納するケース40と、超音波振動子41を移動させる駆動機構30とが収容されている。駆動機構30は、スキャンモータ31及びチルトモータ32等を備えている。スキャンモータ31は、上側収容空間24内において蓋体23の中央部に設置されている。本実施形態のスキャンモータ31としては、ステッピングモータが用いられている。そして、スキャンモータ31の回転軸31aは、鉛直方向に沿って延びており、蓋体23の中央部に設けられた貫通孔33を挿通して下側収容空間25内に突出している。さらに、回転軸31aの先端は、円板状をなす支持板34の中央部に接続され、支持板34の下面には支持フレーム35が取り付けられている。支持フレーム35は、一対の腕部35aを有するコ字状をなしている。
【0020】
図3,
図4に示されるように、ケース40は、ABS樹脂などの樹脂材料を用いて一端が開口する有底円筒状に形成されている。また、ケース40には、回転軸31aに直交する傾動軸36が設けられている。傾動軸36は、2つの傾動軸部36aに分断されており、両傾動軸部36aは、ケース40の両側部(
図4,
図7では左側部及び右側部)から互いに反対方向に突出している。そして、両傾動軸部36aは、ベアリング(図示略)を介して支持フレーム35の両腕部35aに設けられた貫通孔にそれぞれ嵌め込まれている。よって、スキャンモータ31の回転軸31aが回転すると、支持板34、支持フレーム35、ケース40及び超音波振動子41は、回転軸31aを中心とした旋回運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波U1の照射方向は、回転軸31aの周方向に沿って変化する。
【0021】
また、
図5,
図7に示されるように、ケース40の外周部には4つのボス46が設けられ、各ボス46にはそれぞれネジ穴部47が設けられている。各ネジ穴部47は、ケース40の中心C1を基準として等角度間隔で配置されている。
【0022】
図3,
図4に示されるように、チルトモータ32は、支持フレーム35の上端部に取り付けられている。本実施形態のチルトモータ32としては、ステッピングモータが用いられている。チルトモータ32の出力軸32aは、一対の傾動軸部36aと平行に配置されており、その先端部にはピニオンギヤ32bが取り付けられている。ピニオンギヤ32bは、ケース40に取り付けられた略半円状のチルト歯車37に噛合している。よって、チルトモータ32の出力軸32aが回転すると、ピニオンギヤ32b及びチルト歯車37が回動するのに伴い、ケース40及び超音波振動子41は、傾動軸36(傾動軸部36a)を中心とした傾動運動を行う。これに伴い、超音波振動子41から出力される超音波U1の照射角度も、超音波振動子41の傾動に伴って変化する。
【0023】
図5,
図6,
図8,
図9に示されるように、超音波振動子41は、基材42及び圧電素子43を備えている。基材42は、音響整合層を兼ねる円板状の樹脂製板状物である。そして、基材42の外周部には4つの張出部44が設けられ、各張出部44にはそれぞれネジ孔45が設けられている。各ネジ孔45は、超音波振動子41の中心軸O1を基準として等角度間隔で配置されている。また、各ネジ孔45には、基材42の裏面42b側の開口部に座繰り加工が施されている。よって、ネジ孔45にネジ(図示略)を挿通したとしても、ネジの頭部は基材42の裏面42bから突出しないため、ネジと超音波振動子41を収容するソナードーム20との干渉を避けることができる。
【0024】
そして、各ネジ孔45にネジを挿通し、挿通したネジの先端部をケース40のボス46に設けられたネジ穴部47に螺着させる。その結果、
図5,
図6に示されるように、超音波振動子41がケース40に固定される。なお、ボス46は、ケース40の下端面40aから0.5mm以上1mm以下だけ下方に突出している。このため、超音波振動子41をケース40に固定した際には、ケース40と基材42との間に隙間が生じるようになる。そして、この隙間が、ケース40内外を連通する連通口48となる。
【0025】
また、圧電素子43は、例えば、圧電セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いて形成された円板状のセラミックス製板状物である。
図6,
図8,
図9に示されるように、圧電素子43の外径は基材42の外径よりも小さいため、圧電素子43の面積は基材42の面積よりも小さくなる。また、圧電素子43は、基材42に対して接合された前面51と、前面51の反対側にある背面52と、前面51及び背面52に直交する外周面53とを有している。さらに、
図6,
図10に示されるように、圧電素子43の前面51には前面側電極54が形成され、圧電素子43の背面52には背面側電極55が形成されている。なお、本実施形態では、圧電素子43の前面51の全体が、前面側電極54及び接着層56(
図10参照)を介して基材42に接合されている。
【0026】
図6,
図8~
図11に示されるように、圧電素子43は、同圧電素子43の厚さ方向に沿って延びるように分割された複数の振動部90により構成されている。各振動部90は、圧電素子43における背面52に対して、一方向(
図8ではX方向)に延びる溝部K1を複数形成することにより構成される。よって、各振動部90は、溝部K1を介して、同溝部K1が延びる方向とは直交する方向(
図8ではY方向)に配設される。また、各溝部K1は、互いに平行に配置され、かつ傾動軸36の中心軸線A1(
図8参照)に対して30°以下(本実施形態では0°)の角度をなすように配置されている。即ち、各溝部K1は、傾動軸36の中心軸線A1に対して平行となっている。さらに、本実施形態では、各溝部K1のうち、中央部に位置する溝部K1が、傾動軸36の中心軸線A1上に位置している。なお、各溝部K1の幅は、振動部90の幅の10分の1以上3分の1以下であり、互いに等しくなっている。また、各溝部K1内には、樹脂材料(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等)や接着剤(エポキシ系接着剤等)などからなる充填材が何ら充填されていないため、各溝部K1は全体的に空隙K0となっている。
【0027】
図8~
図11に示されるように、各振動部90は、両端(
図8では上端及び下端)に位置する一対の外側振動部91と、両外側振動部91間に配置される複数の内側振動部92とにより構成されている。各振動部90は、背面視で帯状をなしている。具体的に言うと、
図11(a)に示されるように、外側振動部91の表面93a(背面52)は、2つの辺94a,94bによって構成されており、辺94aが背面視で円弧状をなし、辺94bが背面視で直線状をなしている。また、
図11(b)に示されるように、内側振動部92の表面93b(背面52)は、4つの辺95a,95b,95c,95dによって構成されており、辺95a,95cが背面視で円弧状をなし、辺95b,95dが背面視で直線状をなしている。なお、両外側振動部91の外側面96、及び、各内側振動部92の両端面97は、圧電素子43の外周面53を構成している。
【0028】
また、本実施形態では、各振動部90のうち、中央部に位置する振動部90(内側振動部92)の長さが最も長く、圧電素子43の外径と略等しくなっている。なお、振動部90の長さは、圧電素子43の両端に行くに従って小さくなる。また、外側振動部91の幅W1は、内側振動部92の幅W2よりも大きくなっている。
【0029】
図8~
図11に示されるように、両外側振動部91及び各内側振動部92は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっている。そして、外側振動部91の長さは外側振動部91の高さH1よりも大きくなっており、外側振動部91の高さH1は外側振動部91の幅W1よりも大きくなっている。同様に、内側振動部92の長さは内側振動部92の高さH1よりも大きくなっており、内側振動部92の高さH1は内側振動部92の幅W2よりも大きくなっている。なお、振動部91,92の高さH1は、溝部K1の深さと等しくなっている。さらに、上述した基材42の厚さは、振動部91,92の高さH1よりも小さくなっている。また、圧電素子43において振動部91,92同士が繋がる部分の厚さH2は、基材42の厚さよりも小さくなっている。
【0030】
さらに、本実施形態の圧電素子43では、振動部90の幅W(具体的には、外側振動部91の幅W1、または、内側振動部92の幅W2)と、圧電素子43の外径の最小値L(本実施形態では、圧電素子43の直径)とが、0.05≦W/L≦0.1の関係、特には、0.07≦W/L≦0.1の関係を満たしている。このことは、圧電素子43に、10本以上の振動部90が存在することを示している。このようにすれば、超音波U1の比帯域を広くすることができ、超音波振動子41の感度も高くなる。
【0031】
図8,
図10に示されるように、両外側振動部91の表面93a上及び各内側振動部92の表面93b上には、それぞれ背面側電極55が形成されている。そして、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして、銅、銀、錫などの電気抵抗が小さい導電性金属(本実施形態では銅)からなる線材60(導電性部材)が接合されている。また、線材60は、圧電素子43(超音波振動子41)の中心軸O1からずれた位置に配設されている。なお、本実施形態の線材60は、起伏した形状(波状)となっている。また、線材60は、はんだ61を介して各背面側電極55に接続されている。なお、線材60の接続により、線材60は、両外側振動部91の表面93a及び各内側振動部92の表面93bの共通電極となる。
【0032】
そして、
図6に示されるように、前面側電極54には第1のリード線62が接続され、背面側電極55には第2のリード線63が接続されている。第1のリード線62は、前面側電極54から外側に延出された側面端子(図示略)に対してはんだ付けなどにより接続されている。第2のリード線63は、複数の背面側電極55のいずれか1つに対してはんだ付けなどにより接続されている。そして、第1のリード線62及び第2のリード線63は、配線チューブ64によって結束され、ケース40の上部に設けられた配線挿通孔49を通ってケース40外に引き出される。なお、第1のリード線62は側面端子に接続されているが、前面側電極54上または基材42の表面42aに銅箔等の金属箔(図示略)を貼付し、金属箔に対して第1のリード線62をはんだ付けなどにより接続してもよい。また、
図4に示されるように、配線挿通孔49は、超音波振動子41の中心軸O1を介してチルト歯車37の反対側に配置されている。このため、配線挿通孔49内を通る配線チューブ64とチルト歯車37との干渉を防止することができる。また、配線挿通孔49は、傾動軸部36aの近傍に配置されている。このため、超音波振動子41が傾動運動を行う際において、配線チューブ64(第1のリード線62及び第2のリード線63)のバタツキを防止することができる。
【0033】
図6に示されるように、圧電素子43の背面52側には、シート状の防音材65(バッキング材)が貼付されている。防音材65は、残響を抑えるためのものであり、ケース40の内周面にも貼付されている。なお、防音材65としては、樹脂材料やゴムに対して、金属やセラミックスからなる粒子または繊維を含有させたものや、樹脂材料に対して空孔を分散的に設けたもの(スポンジなど)を用いることができる。
【0034】
そして、
図3,
図4に示されるソナードーム20内には、超音波U1を伝搬させる超音波伝搬液体(図示略)が充填されている。また、超音波伝搬液体の一部は、ケース40に設けられた連通口48を介してケース40内に流入し、圧電素子43において隣接する振動部90間の空隙K0(溝部K1)に流入し、空隙K0を満たしている。なお、本実施形態の超音波伝搬液体は流動パラフィンである。また、上述した基材42の固有音響インピーダンスは、圧電素子43の固有音響インピーダンスよりも小さく、かつ超音波伝搬液体の固有音響インピーダンスや水の固有音響インピーダンスよりも大きくなっている。
【0035】
次に、ソナー11の電気的構成について説明する。
【0036】
図12に示されるように、ソナー11の液晶モニター13は、装置全体を統括的に制御する制御装置70を備えている。制御装置70は、CPU71、ROM72、RAM73等からなる周知のコンピュータにより構成されている。
【0037】
CPU71は、モータドライバ81を介してスキャンモータ31及びチルトモータ32に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。また、CPU71は、送受信回路82を介して超音波振動子41に電気的に接続されている。送受信回路82は、超音波振動子41に対して発振信号を出力して、超音波振動子41を駆動させるようになっている。その結果、超音波振動子41は、超音波U1を水中に向けて照射(送信)する。また、送受信回路82には、超音波振動子41で受信した超音波U1(反射波U2)を示す電気信号が入力されるようになっている。さらに、CPU71は、昇降装置12、操作部14、表示部15及びGPS(Global Positioning System )受信部83に対してそれぞれ電気的に接続されている。
【0038】
そして、
図12に示されるCPU71は、送受信回路82に対して超音波振動子41から超音波U1を照射させる制御を行うとともに、昇降装置12を駆動させる制御を行う。CPU71は、モータドライバ81に対してスキャンモータ31及びチルトモータ32をそれぞれ駆動させる制御を行う。CPU71には、GPS受信部83によって受信された船舶10の位置情報が入力される。
【0039】
また、CPU71は、超音波振動子41が反射波U2を受信したことを契機として生成される受信信号を、送受信回路82を介して受信する。そして、CPU71は、受信した受信信号に基づいて探知画像データを生成し、生成した探知画像データをRAM73に記憶させる。CPU71は、RAM73に記憶された探知画像データに基づいて、探知画像を表示部15に表示させる制御を行う。
【0040】
次に、ソナー11を用いて被探知物S0を探知する方法を説明する。
【0041】
まず、ソナー11、昇降装置12及び液晶モニター13の電源(図示略)をオンする。このとき、制御装置70のCPU71には、GPS受信部83から船舶10の位置を示す位置情報が入力される。次に、CPU71は、送受信回路82から超音波振動子41に対して発振信号を出力させる制御を行い、超音波振動子41を駆動させる。このとき、圧電素子43の各振動部90は、収縮(
図13(b)参照)と伸長(
図13(a)参照)とを繰り返す。なお、振動部90が高さ方向に収縮した際には、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の外周側(
図13(b)の矢印F1参照)に逃げるように変形する。そして、振動部90が高さ方向に伸長すると、振動部90が幅方向、具体的には、振動部90の中央部側(
図13(a)の矢印F2参照)に変形する。その結果、圧電素子43が振動し、超音波振動子41から水中に対して超音波U1が照射(送信)される。そして、超音波U1が被探知物S0(
図1参照)に到達すると、超音波U1は、被探知物S0で反射して反射波U2となり、ソナー11に向かって伝搬して超音波振動子41に入力(受信)される。その後、超音波振動子41が受信した超音波U1(反射波U2)は、受信信号に変換され、送受信回路82を介してCPU71に入力される。この時点で、被探知物S0が探知される。
【0042】
さらに、CPU71は、モータドライバ81を介してスキャンモータ31を駆動させる制御を行い、回転軸31aを中心とした旋回運動を超音波振動子41に行わせる。また、CPU71は、モータドライバ81を介してチルトモータ32を駆動させる制御を行い、傾動軸36を中心とした傾動運動を超音波振動子41に行わせる。その結果、超音波U1の照射方向が徐々に変化し、これに伴って探知範囲も徐々に変化する。その後、作業者が電源をオフすると、制御装置70により送受信回路82が停止し、超音波U1の照射及び反射波U2の受信が終了する。
【0043】
次に、超音波振動子41の製造方法を説明する。
【0044】
まず、基材42を準備する。具体的には、ガラスエポキシ(FR-4)等からなる樹脂製板状物を円形状に切削加工する。また、圧電素子43となるべきセラミックス製板状物を準備する。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる円板状のセラミックス製焼結体を作製した後、表面研磨を行うことにより、セラミックス製板状物を得る。次に、電極形成工程を行い、セラミックス製板状物の前面51に前面側電極54を形成するとともに、セラミックス製板状物の背面52に背面側電極55を形成する。具体的には、セラミックス製板状物の前面51及び背面52にそれぞれ銀ペーストを塗布し、塗布した銀ペーストを焼成することにより、電極54,55を形成する。そして、前面側電極54及び背面側電極55の間に電圧を印加することにより、セラミックス製板状物を厚さ方向に分極させる分極処理を行う。
【0045】
続く接合工程では、基材42の片面に対して、セラミックス製板状物を前面側電極54を介して接合する。具体的には、前面側電極54の表面及び基材42の表面42aのいずれか一方に対して、接着層56となる接着剤(エポキシ系接着剤など)を塗布し、基材42に対してセラミックス製板状物を接着固定する。なお、接着剤を塗布する代わりに、はんだ等を用いたロウ付けを行ってもよい。
【0046】
接合工程後の振動部形成工程では、切削加工等を行うことにより、セラミックス製板状物における背面52側に複数の溝部K1を形成する。その結果、セラミックス製板状物が複数の振動部90に分割されるとともに、セラミックス製板状物の背面52に形成された背面側電極55も複数(振動部90と同数)に分割される。この時点で、圧電素子43が完成する。なお、各振動部90は、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がった状態で分割されるため、前面51に形成された前面側電極54までが分割されることはない。その後、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして線材60を接合し、各背面側電極55を、各振動部90の表面93a,93bの共通電極とする。なお、本実施形態の線材60は、はんだ付けによって各背面側電極55に接合されるが、他の接合方法(ロウ付け、接着剤による接着など)により各背面側電極55に接合されるものであってもよい。そして、この時点で、超音波振動子41が完成する。
【0047】
なお、超音波振動子41が完成した後、前面側電極54に対して側面端子(図示略)を介して第1のリード線62をはんだ付けなどにより接続するとともに、背面側電極55に対して第2のリード線63をはんだ付けなどにより接続する。次に、圧電素子43の背面52側に、残響を抑えるための防音材65を貼付する。また、ケース40の内側面にも防音材65を貼付する。その後、超音波振動子41の圧電素子43をケース40に収容する。そして、この状態で、基材42に設けられた複数のネジ孔45にネジ(図示略)を挿通させ、挿通したネジの先端部をケース40に設けられたネジ穴部47に螺着させる。その結果、超音波振動子41がケース40に固定される(
図5,
図6参照)。さらに、超音波振動子41が固定されたケース40をソナードーム20内に収容し、ケース40が有する一対の傾動軸部36aを、支持フレーム35の両腕部35aに設けられた貫通孔にそれぞれ嵌合させる。そして、ソナードーム20内に超音波伝搬液体(図示略)を充填する。このとき、超音波伝搬液体の一部は、ケース40に設けられた連通口48を介してケース40内に流入し、圧電素子43において隣接する振動部90間の空隙K0に流入する。この時点で、超音波振動子41がソナードーム20に組み込まれ、ソナー11が完成する。
【0048】
次に、超音波振動子の評価方法及びその結果を説明する。
【0049】
まず、測定用サンプルを次のように準備した。圧電素子の背面に対して一方向に延びる溝部を複数形成することにより、複数の帯状の振動部が形成された超音波振動子(即ち、本実施形態の超音波振動子41と同様の超音波振動子)を4種類準備し、これらを実施例1A,1B(
図14参照)及び実施例2A,2B(
図15参照)とした。なお、実施例1A,1Bでは振動部の幅を2.4mmとし、実施例2A,2Bでは振動部の幅を3.5mmとした。また、実施例1B,2Bでは、溝部内に充填材を充填する一方、実施例1A,2Aでは、溝部内に充填材を充填しないようにした。さらに、圧電素子の背面に対して縦横に延びる溝部を複数形成することにより、複数の柱状の振動部が形成された超音波振動子を2種類準備し、これらを比較例A,B(
図16参照)とした。なお、比較例A,Bでは、振動部の幅を2.4mmとし、溝部内に充填材を充填した。
【0050】
次に、各測定用サンプル(実施例1A,1B,2A,2B及び比較例A,B)に対して、超音波振動子の送受感度積を算出した。具体的には、超音波振動子から1m離れた位置にある鋼球に対して超音波を照射した。なお、鋼球で反射した超音波(反射波)は、超音波振動子で受信され、超音波振動子の両端に電圧信号を生じる。このとき、超音波振動子の送信時及び受信時の電圧振幅をオシロスコープにより測定し、測定結果に基づいて演算を行うことにより、送受感度積を算出した。なお、送受感度積は、送信電圧振幅V
1に対する受信電圧振幅V
2の比であり、20×log(V
2/V
1) の式から算出されるものである。また、各測定用サンプルにおいて、140kHz~240kHzの間で周波数を複数段階に切り替え、切り替えたそれぞれの周波数において超音波を照射した。そして、オシロスコープを用いた上記の手法を用いて、超音波振動子の送受感度積を算出した。
図14のグラフは実施例1A,1Bにおける送受感度積の変化を示し、
図15のグラフは実施例2A,2Bにおける送受感度積の変化を示し、
図16のグラフは比較例A,Bにおける送受感度積の変化を示している。
【0051】
その結果、帯状の振動部が形成され、かつ溝部内に充填材が充填された実施例1Bでは、柱状の振動部が形成され、かつ溝部内に充填材が充填された比較例A,Bよりも、140kHz~230kHz間の送受感度積が低くなることが確認された。しかし、溝部内に充填材を充填しない実施例1Aであれば、比較例A,Bと同等の送受感度積となることが確認された。しかも、帯状をなすために強度が高い振動部を有する実施例1Aでは、超音波振動子を駆動させたとしても、振動部にクラックが発生しないことが確認された。一方、実施例1Aよりも強度が低い柱状の振動部を有する比較例A,Bでは、超音波振動子を駆動させた際に、振動部にクラックが発生しやすくなることが確認された。
【0052】
また、溝部内に充填材が充填されていない実施例1A,2Aで比較した場合、振動部の幅が3.5mmとなる実施例2Aであっても、振動部の幅が2.4mmとなる実施例1Aであっても、送受感度積がほぼ同じになることが確認された。同様に、溝部内に充填材が充填されている実施例1B,2Bで比較した場合においても、振動部の幅が3.5mmとなる実施例2Bであっても、振動部の幅が2.4mmとなる実施例1Bであっても、送受感度積がほぼ同じになることが確認された。
【0053】
従って、0.07≦W/L≦0.1の範囲内で振動部の幅を大きくしたとしても、超音波振動子の感度は低下しないことが確認された。むしろ、振動部の幅を広げた方が、全ての振動部の形成に必要な溝部の形成回数が減少するため、超音波振動子の製造コストを低減できることが確認された。しかも、振動部の幅が大きくなることで、強度が向上するため、振動部でのクラックの発生を防止でき、超音波振動子の信頼性が向上することが確認された。
【0054】
また、測定用サンプルを次のように準備した。圧電素子に対して一方向に延びる溝部を形成して複数の帯状の振動部を形成し、超音波振動子を傾動させる傾動軸に対して溝部を平行に配置したソナー(即ち、本実施形態のソナー11と同様のソナー)を準備し、これをサンプルA(
図21(a)参照)とした。また、圧電素子に対して一方向に延びる溝部を形成して複数の帯状の振動部を形成し、傾動軸に対して溝部を垂直に配置したソナーを準備し、これをサンプルB(
図21(b)参照)とした。さらに、圧電素子に対して縦横に延びる溝部を形成して複数の柱状の振動部を形成し、傾動軸に対して横方向に延びる溝部を平行に配置したソナーを準備し、これをサンプルC(
図21(c)参照)とした。
【0055】
次に、各測定用サンプル(サンプルA~C)に対して、超音波振動子の指向特性を検証した。具体的には、超音波振動子から超音波を照射し、照射時(送信時)の送波音圧を測定した。また、各測定用サンプルにおいて、0°~90°の間で超音波振動子のチルト角度(傾動角度)を複数段階に変更し、変更したそれぞれのチルト角度において超音波を照射し、送波音圧を測定した。ここでは、音響放射面(基材の裏面)が鉛直方向における下方を向いた状態でのチルト角度を0°とし、音響放射面が側方を向いた状態(
図3参照)でのチルト角度を90°とする。さらに、各測定用サンプルにおいて、超音波の周波数を140kHz、180kHz、240kHzに切り替え、切り替えたそれぞれの周波数において超音波を照射し、送波音圧を測定した。
図17のグラフはサンプルAにおける指向特性の測定結果を示し、
図18のグラフはサンプルBにおける指向特性の測定結果を示し、
図19のグラフはサンプルCにおける指向特性の測定結果を示している。また、
図20のグラフは、超音波が140kHzである場合における、サンプルA~Cの指向特性の測定結果を示している。さらに、
図21(a)は、超音波が140kHzである場合において、サンプルAの超音波の方向及び強度を概念的に示す図であり、
図21(b)は、超音波が140kHzである場合において、サンプルBの超音波の方向及び強度を概念的に示す図であり、
図21(c)は、超音波が140kHzである場合において、サンプルCの超音波の方向及び強度を概念的に示す図である。なお、これらの図は、超音波の指向特性を輝度表示した際に現れる光(超音波)の方向及び強度を矢印で示したものである。
【0056】
その結果、圧電素子に対して一方向に延びる溝部を形成し、傾動軸に対して溝部を垂直に配置したサンプルBでは、チルト角度が30°付近にあるときに、やや強いサイドローブU3(送波音圧が高くなる領域)が鉛直下向きに放射されることが確認された(
図20,
図21(b),
図22(a)参照)。この場合、サイドローブU3となる超音波が水底(海底や湖底)に到達して反射し、反射した超音波(サイドローブU3)を超音波振動子が反射波として受信する。このため、超音波振動子が受信した反射波が、魚S1で反射したものなのか、水底で反射したものなのかを判別することは困難である。なお、液晶モニター13の表示部15(
図2参照)に表示される画像には、サイドローブU3となる超音波が水底で垂直に反射したことを示すリング状の模様R1が表示される(
図22(b)参照)。
【0057】
なお、圧電素子に対して一方向に延びる溝部を形成し、傾動軸に対して溝部を平行に配置したサンプルA(
図21(a)参照)においても、圧電素子に対して縦横に延びる溝部を形成したサンプルC(
図21(c)参照)においても、サイドローブU3が発生することが確認された(
図23(a)参照)。しかしながら、サンプルAにおけるサイドローブU3は主ビームに対して17dB程度低くなっており、サンプルBの場合に比べて低く、好ましい。つまり、表示部15に表示される画像には、上記したリング状の模様R1が表示されないため(
図23(b)参照)、表示部15に表示される画像は、サイドローブU3が発生しない理想的な指向特性と同様の状態となることが確認された(
図24(b)参照)。
【0058】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0059】
(1)本実施形態のソナー11では、超音波振動子41の圧電素子43に帯状の振動部90が形成されている。よって、柱状の振動部に比べて、振動部90が平面方向に長くなるため、基材42側との接触面積が大きくなり、振動部90の強度低下が防止される。よって、たとえ超音波振動子41を長期間に亘って駆動させたとしても、振動部90にクラックが発生しにくくなる。ゆえに、クラックが発生した状態で超音波振動子41を高電圧で駆動し続ける場合に、クラックの発生部位から断続的に放電を生じてしまい、その影響で、圧電素子43の他の振動部90においても圧電特性の低下を引き起こし、送受信感度が低下してしまう、といった問題が生じにくくなる。つまり、クラックの発生を抑制することによって、超音波振動子41の信頼性を向上させることができる。
【0060】
しかも、本実施形態では、一方向に延びる溝部K1を形成することにより帯状の振動部90を得ているため、縦横に延びる溝部を形成して上記した柱状の振動部を得る場合に比べて、振動部90の形成に必要な溝部K1の形成回数が半分になり、溝部K1の形成が容易になる。さらに、溝部K1の形成回数の減少に伴って、背面側電極55の分割数も減少するため、背面側電極55への線材60の接続作業の負荷が軽減される。よって、超音波振動子41の製造コストを低減することができる。また、溝部K1が駆動機構30の傾動軸36に対して平行となるように、超音波振動子41が配設されているため、溝部K1を傾動軸36に対して垂直にする場合よりもサイドローブU3が弱くなり(
図21~
図23参照)、指向特性が向上する。
【0061】
(2)本実施形態のように、一方向に延びる溝部K1を形成して帯状の振動部90を得る場合、振動部90が異方性を有することから、指向特性に悪影響を及ぼしやすいという欠点がある。具体的に言うと、振動部90の長手方向への振動と振動部90の高さ方向への振動との複合的な要因により、圧電素子43の背面52に垂直かつ帯状の振動部90に平行であって、圧電素子43の中心軸O1を通るように配置された面O2の面方向に沿ったサイドローブU3が強くなる(
図25参照)。なお、鉛直方向を向いた回転軸31aを中心とした旋回運動及び回転軸31aに直交する傾動軸36を中心とした傾動運動を超音波振動子41に行わせる駆動機構30を備えた本実施形態のソナー11においては、上記の強いサイドローブU3を鉛直下向きに放射することは避けることが望ましい。何故なら、サイドローブU3を鉛直下向きに放射した場合には、サイドローブU3が水底で垂直方向に反射する。この場合、サイドローブU3が主ビーム(超音波U1)よりも例えば13dB程度低いものであっても、比較的強い反応が返ってくる可能性が高く、超音波振動子41が受信する反射波U2(主ビーム)の情報にサイドローブU3がノイズとして入ってしまうからである。この現象を避けるためには、振動部90の長手方向(=溝部K1の延びる方向)が駆動機構30の傾動軸36に対して30°以下の角度をなすように超音波振動子41を配設することが有効である。なお、本実施形態では、溝部K1(振動部90)が傾動軸36に対して0°の角度をなすように超音波振動子41が配設されている、つまり、溝部K1が傾動軸36に対して平行であるため、傾動軸36の軸線方向へのサイドローブU3が弱くなり、探知における誤判定を減らすことができる。
【0062】
(3)本実施形態では、外側振動部91の幅W1が内側振動部92の幅W2よりも大きくなるため、外側振動部91が内側振動部92よりも幅方向に大きくなる。よって、外側面96全体が圧電素子43の外部に露出する外側振動部91の強度が高くなり、外側振動部91でのクラックの発生が確実に防止されるため、外部に露出するために外力が作用しやすい外周部において圧電素子43を補強することができ、超音波振動子41の信頼性がよりいっそう高くなる。
【0063】
(4)さらに、本実施形態では、振動部90が平面方向に長くなることで圧電素子43が補強されるため、各振動部90間の空隙K0(溝部K1)を充填材で埋めなくても済む。この場合、振動部90の高さ方向への変形が充填材に妨げられることはないため、充填材の充填に起因する超音波振動子41の感度低下を防止することができる。
【0064】
(5)本実施形態のソナー11は、円板状をなす圧電素子43を備えた超音波振動子41が、ソナードーム20において半球状をなす部分(下ケース22の下端部)の内部で回転する構造である。その結果、ソナードーム20内のデッドスペースが小さくなるため、ソナー11の小型化を図ることができる。また、本実施形態では、円板状の圧電素子43に溝部K1を設けて複数の振動部90を構成し、全ての振動部90を同相で駆動しているため、超音波U1の照射範囲が円形となり、超音波U1の広がりが等方的になる(
図22~
図24参照)。
【0065】
(6)例えば、圧電素子43の背面52側に形成した溝部K1を圧電素子43の前面51まで到達させることにより、圧電素子43を複数の振動部90で完全に分割すると、圧電素子43の前面51に形成された前面側電極54も分割されてしまう。このため、前面側電極54(側面端子)に対して第1のリード線62を接続したとしても、前面側電極54の全体と導通を図ることができないという問題がある。一方、本実施形態では、各振動部90が、圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がっているため、前面51に形成された前面側電極54が分割されることはない。この場合、前面側電極54に第1のリード線62を接続すれば、前面側電極54全体との導通を確実に図ることができるため、ソナー11を容易に作製することができる。また、各振動部90が圧電素子43の前面51側の端部において互いに繋がることにより、圧電素子43の前面51全体が基材42の表面42aに接触するため、両者の接触面積が確保され、圧電素子43と基材42との接合強度が向上する。その結果、超音波振動子41の信頼性がよりいっそう高くなる。
【0066】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0067】
・上記実施形態の超音波振動子41では、圧電素子43に形成された各溝部K1が、互いに平行に配置され、かつ傾動軸36(の中心軸線A1)に対して平行(0°の角度をなすよう)に配置されていた。しかし、各溝部K1が傾動軸36に対して30°以下の角度をなしているならば、各溝部K1の配置態様を適宜変更してもよい。例えば、
図26(a)の超音波振動子121に示されるように、各溝部K2は互いに異なる方向に延びていてもよい。また、
図26(b)の超音波振動子122のように、各溝部K3が屈曲していてもよいし、
図26(c)の超音波振動子123のように、各溝部K4が湾曲していてもよい。
【0068】
・上記実施形態の超音波振動子41では、溝部K1が全体的に空隙K0となっていた。しかし、圧電素子43の外周面53において溝部K1の両端が封止されていてもよい。例えば、
図27に示されるように、圧電素子43の外周面53にテープ111を巻き付けることにより、各溝部K1の両端を封止するようにしてもよい。また、
図28に示されるように、各溝部K1の両端を充填材112で埋めることにより、各溝部K1の両端を封止するようにしてもよい。さらに、充填材の密度が比較的低いものであれば、各溝部K1の全体を充填材で埋めてもよい。
【0069】
・上記実施形態では、外側振動部91の幅W1と内側振動部92の幅W2とが互いに異なっていたが、幅W1,W2は互いに等しくてもよい。また、上記実施形態では、圧電素子43に形成された溝部K1の幅が互いに等しくなっていたが、溝部K1の幅は互いに異なっていてもよい。
【0070】
・上記実施形態の圧電素子43は、分割された複数の振動部90が前面51側の端部において互いに繋がった構造を有していた。しかし、圧電素子は、複数の振動部が完全に分割された構造を有していてもよい。この場合、各振動部を基材42に対してそれぞれ貼付することにより、超音波振動子が構成される。
【0071】
・上記実施形態では、複数の振動部90の表面93a,93b上に背面側電極55が形成され、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして線材60が接合されていた。しかし、線材60を接合する代わりに、帯状の導電性部材である金属箔113(例えば、銅箔、黄銅箔、アルミニウム箔など)を、はんだ等の導電金属や、従来周知の導電性フィラーを含む接着剤などにより、複数の背面側電極55の各々を架け渡すように貼付してもよい(
図29参照)。さらに、金属箔113を貼付する代わりに、接着層を有する帯状の導電性部材である導電テープ(図示略)を、複数の背面側電極55の各々を架け渡すように貼付してもよい。また、複数の背面側電極55の各々を架け渡すようにして、線材60及び金属箔113の両方を接合してもよい。
【0072】
・上記実施形態の超音波振動子41では、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子43を用いたが、圧電素子43の形成材料は特に限定されるものではない。例えば、ニオブ酸カリウムナトリウム系(ニオブ酸アルカリ系)、チタン酸バリウム系、PMN-PT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)単結晶、LiNbO3単結晶の圧電セラミックスからなる圧電素子を用いてもよい。
【0073】
・上記実施形態では、圧電素子43をケース40に収容した状態で、基材42側のネジ孔45を挿通したネジの先端部をケース40に設けられたネジ穴部47に螺着させることにより、超音波振動子41がケース40に固定されていたが、他の方法によって固定するようにしてもよい。例えば、接着剤を用いて超音波振動子41をケース40に固定してもよい。
【0074】
・上記実施形態では、音響整合層を兼ねる基材42と、基材42に対して接合された圧電素子43とからなる超音波振動子41が用いられていたが、圧電素子43のみからなる超音波振動子を用いてもよい。
【0075】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0076】
(1)請求項1乃至4のいずれか1項において、複数の前記振動部が、一対の外側振動部と、前記一対の外側振動部間に配置される複数の内側振動部とにより構成され、前記外側振動部の幅が前記内側振動部の幅よりも大きくなっていることを特徴とするソナー。
【符号の説明】
【0077】
11…ソナー
30…駆動機構
31a…回転軸
36…傾動軸
41,121,122,123…超音波振動子
42…基材
43…圧電素子
51…圧電素子の前面
52…圧電素子の背面
90…振動部
K1,K2,K3,K4…溝部
L…圧電素子の外径の最小値
U1…超音波
W…振動部の幅