IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人福島県立医科大学の特許一覧

特許7320863神経精神ループスを検出するためのバイオマーカー
<>
  • 特許-神経精神ループスを検出するためのバイオマーカー 図1
  • 特許-神経精神ループスを検出するためのバイオマーカー 図2
  • 特許-神経精神ループスを検出するためのバイオマーカー 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】神経精神ループスを検出するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20230728BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230728BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230728BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
G01N33/53 D
C12N15/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021526841
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023754
(87)【国際公開番号】W WO2020256013
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019112429
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右田 清志
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直紀
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智之
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】galectin-9 isoform [Homo sapiens],GenBank: BAA22166.1 [online],2009年03月10日,[検索日 2020.8.21], インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAA22166.1/>
【文献】Rheumatology,2013年,Vol.52, p.2218-2222
【文献】ARTHRITIS & RHEUMATISM,2007年,Vol.56, No.4, p.1242-1250
【文献】Annals of the Rheumatic Diseases,2018年,Vol.77, p.1810-1814
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経精神ループス(NPSLE)が無菌性髄膜炎を有するか否かの判定を補助する方法であって、
被検動物由来の髄液において、ガレクチン9タンパク質はガレクチン9遺伝子の転写産物検出又は定量する工程、及び
前記検出又は定量されたガレクチン9タンパク質はガレクチン9遺伝子の転写産物量を閾値と比較する工程
を含み、
前記定量された量が閾値以上である場合前記被検動物が無菌性髄膜炎を有するNPSLEに罹患していることを示す、前記方法。
【請求項2】
前記ガレクチン9タンパク質が、以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは2~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、配列番号1で示されるガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質、及び
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1で示されるガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質、
であるか、又は
前記ガレクチン9遺伝子が、前記(a)~(c)のいずれかのタンパク質をコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被検動物がNPSLEに罹患している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記被検動物がヒトである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
神経精神ループス(NPSLE)が無菌性髄膜炎を有するか否かを判定するためのキットであって、
ガレクチン9タンパク質はガレクチン9遺伝子の転写産物量を測定するための試薬
を含む、前記キット。
【請求項6】
前記ガレクチン9タンパク質特異的に結合する抗体又はその断片を含み、
前記ガレクチン9タンパク質が、以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは2~10個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、配列番号1で示されるガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質、及び
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1で示されるガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質
である、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態において、本発明は、神経精神ループス(NPSLE)を検出するためのバイオマーカー、NPSLEに対する治療効果の判定用バイオマーカー、被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無の判定を補助する方法、NPSLEに対する治療効果の判定を補助する方法、又はNPSLEを検出するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗体の免疫複合体が組織に沈着して組織の損傷を引き起こす、慢性の再発性自己免疫疾患である。SLEのうち、中枢神経症状を呈する神経精神ループス(NPSLE)は、SLEの最重症病型であり、予後不良である。通常のSLEではステロイド剤による治療が行われるが、NPSLEではステロイド剤の増量や免疫抑制剤との併用が行われ、また治療開始が遅れると致死的である。
【0003】
NPSLEは、現在、血液、髄液、画像所見等様々な臨床検査を組み合わせて診断が行われているが、診断基準は確立されておらず、またステロイドの副作用による精神症状などとの鑑別が非常に難しい。
【0004】
非特許文献1には、NPSLE患者群において、非NPSLE及び非自己免疫疾患対照患者群に対して、髄液中においてIL-6等が増加していることが記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載されたIL-6等のバイオマーカーは、NPSLEの検出について、必ずしも十分な精度及び/又は正確度を有するものとは言えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】H. Fragoso‐Loyo et al., Arthritis Rheum., 2007, 56(4), pp. 1242-1250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一実施形態において、本発明は、NPSLEを検出するためのマーカー、又は当該マーカーを用いて、NPSLEを検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ガレクチン9がNPSLEを検出するためのバイオマーカー、又はNPSLEに対する治療効果の判定用バイオマーカーとして用い得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(1)ガレクチン9タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はガレクチン9遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、神経精神ループス(NPSLE)を検出するためのバイオマーカー。
(2)前記ガレクチン9タンパク質が、以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質、
である、(1)に記載のバイオマーカー。
(3)前記ガレクチン9遺伝子が、(2)に示すタンパク質をコードする、(1)又は(2)に記載のバイオマーカー。
(4)NPSLEを検出するための、(1)~(3)のいずれかに記載のバイオマーカーの使用。
(5)全身性エリテマトーデス(SLE)が、NPSLEであるか否かを判別するための、(1)~(3)のいずれかに記載のバイオマーカーの使用。
(6)被検動物由来の試料において、(1)~(3)のいずれかに記載のバイオマーカーを検出又は定量する工程を含む、該被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無の判定を補助する方法。
(7)被験動物がSLEに罹患している、(6)に記載の方法。
(8)バイオマーカーを定量する工程を含む(6)又は(7)に記載の方法であって、
定量されたバイオマーカーの量を閾値と比較する工程、
定量されたバイオマーカーの量が閾値以上である場合に、前記被検動物がNPSLEに罹患しているか、又は罹患リスクが高いと判定する工程、
をさらに含む、前記方法。
(9)ガレクチン9タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はガレクチン9遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、NPSLEに対する治療効果の判定用バイオマーカー。
(10)被検動物由来の試料において、(9)に記載のバイオマーカーを検出又は定量する工程を含む、NPSLEに対する治療効果の判定を補助する方法。
(11)前記バイオマーカーを定量する工程を含む(10)に記載の方法であって、
定量されたバイオマーカーの量を閾値と比較する工程、
定量されたバイオマーカーの量が閾値以下である場合に、NPSLEに対する治療効果があると判定する工程、
をさらに含む、前記方法。
(12)前記被験動物がヒトである、(6)~(8)及び(10)並びに(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記試料が髄液である、(6)~(8)及び(10)~(12)のいずれかに記載の方法。
(14)(1)~(3)のいずれかに記載のバイオマーカーの量を測定するための試薬を含む、NPSLEを検出するためのキット。
(15)ガレクチン9タンパク質又はそのペプチド断片と特異的に結合する抗体又はその断片を含む、NPSLEを検出するためのキットであって、
前記ガレクチン9タンパク質が、以下の(a)~(c)のいずれかのタンパク質:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質
である、前記キット。
(16)ガレクチン9遺伝子の転写産物又はその断片と特異的に結合可能な核酸を含む、NPSLEを検出するためのキットであって、
前記核酸が、以下の(d)~(h)のいずれかに示すポリヌクレオチド又はその断片からなる群から選択される、前記キット:
(d)
(i)配列番号2で表される塩基配列若しくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(ii)(i)のポリヌクレオチド又はその断片の塩基配列において1又は数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含むポリヌクレオチド又はその断片、
(iii)(i)のポリヌクレオチド又はその断片の塩基配列に対して90%以上の塩基同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド又はその断片、
(iv)修飾核酸及び/又は修飾ヌクレオチドを含む(i)~(iii)のいずれかのポリヌクレオチド又はその断片、
(e)配列番号2で表される塩基配列、当該塩基配列においてuがtである塩基配列、又は15以上の連続した塩基を含むそのいずれかの部分配列を含むポリヌクレオチド、
(f)
(v)配列番号2で表される塩基配列若しくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(vi)(v)のポリヌクレオチド又はその断片の塩基配列において1又は数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含むポリヌクレオチド又はその断片、
(vii)(v)のポリヌクレオチド又はその断片の塩基配列に対して90%以上の塩基同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド又はその断片、
(viii)修飾核酸及び/又は修飾ヌクレオチドを含む(v)~(vii)のいずれかのポリヌクレオチド又はその断片、
(g)配列番号2で表される塩基配列若しくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列、又は15以上の連続した塩基を含むその部分配列を含むポリヌクレオチド、及び
(h)前記(d)~(g)のいずれかのポリヌクレオチド又はその断片と高ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
(17)NPSLEが無菌性髄膜炎を有する、(15)又は(16)に記載のキット。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-112429号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、NPSLEを検出するためのマーカー、又は当該マーカーを用いてNPSLEを検出する方法が提供され得る。また、本発明により、NPSLEに対する治療効果を判定するためのマーカー、又は当該マーカーを用いてNPSLEに対する治療効果を判定する方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、NPSLE患者18例、他の疾患の患者(対照1)6例、及び非NPSLEのSLE患者(対照2)8例の髄液中ガレクチン9濃度を示す。
図2図2は、NPSLE患者1例の、治療前後の髄液中ガレクチン9濃度を示す。
図3図3は、NPSLE患者18例のうち、無菌性髄膜炎(aseptic meningitis; AM)有り群(AM+)7例、及びAM無し群(AM-)11例の髄液中ガレクチン9濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(バイオマーカー)
一態様において、本発明は、ガレクチン9タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はガレクチン9遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、神経精神ループス(NPSLE)を検出するためのバイオマーカーに関する。
【0012】
一態様において、本発明は、ガレクチン9タンパク質若しくはそのペプチド断片、又はガレクチン9遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片からなる、NPSLEに対する治療効果の判定用バイオマーカーに関する。
【0013】
本明細書において、「全身性エリトマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus、SLE)」とは、自己抗体の免疫複合体が組織に沈着して組織の損傷を引き起こす、慢性の再発性自己免疫疾患である。本明細書において、「神経精神ループス(NPSLE、Neuropsychiatric SLE)」は、SLEのうち、中枢神経症状を呈するものを指し、神経精神SLEとも呼ばれる(例えば、Hanly JG et al.,Arthritis Rheum., 2019, 71(1):33-42を参照されたい)。
【0014】
NPSLEの症状は、大きく中枢神経系(精神症状及び神経症状)、末梢神経系の症状に分けられる。精神症状としては、気分障害、認知機能障害、不安障害、精神病性障害、及び急性錯乱状態が挙げられ、神経症状としては頭痛、痙攣、脳血管障害、運動障害(舞踏病)、脊髄症、無菌性髄膜炎、及び脱髄性症候群が挙げられる。末梢神経系の症状としては、多発ニューロパチー、脳神経のニューロパチー、単発/多発単ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパチー(ギラン・バレー症候群)、自律神経障害、重症筋無力症、及び神経叢障害が挙げられる(例えば、Arthritis Rheum., 1999, 42(4):599-608を参照されたい)。
【0015】
本発明では、被験動物の内在遺伝子に由来するガレクチン9タンパク質又はその遺伝子転写産物がバイオマーカーとなり得る。例えば、前記被験動物がヒトであれば、ヒトガレクチン9遺伝子に由来するヒトガレクチン9タンパク質及びヒトガレクチン9遺伝子の転写産物(mRNA)が本発明のバイオマーカーとなり得る。
【0016】
ガレクチン9タンパク質の具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、又はからなるヒト由来のガレクチン9(ヒトガレクチン9)タンパク質が挙げられる。
【0017】
また、ガレクチン9タンパク質には、配列番号1で示されるガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するガレクチン9バリアントや他生物種のガレクチン9オルソログも包含される。具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、あるいは配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するガレクチン9タンパク質が包含される。
【0018】
本明細書において「数個」とは、例えば、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また、アミノ酸の置換は、保存的アミノ酸置換が望ましい。「保存的アミノ酸置換」とは、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似するアミノ酸間の置換をいう。性質の類似するアミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)等に分類することができる。
【0019】
本明細書において「アミノ酸同一性」とは、2つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときに、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むガレクチン9タンパク質の全アミノ酸残基に対する2つのアミノ酸配列間で同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。アミノ酸同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al., J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。
【0020】
「ガレクチン9遺伝子」は、前記ガレクチン9タンパク質をコードする遺伝子である。ガレクチン9遺伝子の具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むヒトガレクチン9タンパク質をコードするヒトガレクチン9遺伝子が挙げられる。より具体的には、ガレクチン9遺伝子は、配列番号2で示される塩基配列を含む、又はからなる遺伝子である。
【0021】
また、ガレクチン9遺伝子には、配列番号2で示されるガレクチン9遺伝子がコードするガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するガレクチン9バリアントや他生物種のガレクチン9オルソログをコードするガレクチン9遺伝子も包含される。具体的には、配列番号2で示される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列、あるいは配列番号2で示される塩基配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の塩基同一性を有するガレクチン9遺伝子が包含される。さらに、配列番号2で示される塩基配列に対して相補的な塩基配列の一部を含む核酸断片と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつガレクチン9タンパク質と機能的に同等の活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が包含される。
【0022】
本明細書において「塩基同一性」とは、2つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときに、配列番号2で示される塩基配列を含むガレクチン9遺伝子の全塩基に対する2つの塩基配列間で同一塩基の割合(%)をいう。
【0023】
本明細書において「高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、低塩濃度及び/又は高温の条件下でハイブリダイゼーションと洗浄を行うことをいう。例えば、6×SSC、5×Denhardt試薬、0.5%SDS、100μg/mL変性断片化サケ精子DNA中で65℃~68℃にてプローブと共にインキュベートし、その後、2×SSC、0.1%SDSの洗浄液中で室温から開始して、洗浄液中の塩濃度を0.1×SSCまで下げ、かつ温度を68℃まで上げて、バックグラウンドシグナルが検出されなくなるまで洗浄することが例示される。高ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件については、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているので参考にすることができる。
【0024】
このようなガレクチン9遺伝子の塩基配列情報は、公共のデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)より検索可能である。例えば、配列番号2で示されるガレクチン9遺伝子の既知塩基配列情報に基づいて、塩基同一性の高い遺伝子をデータベースから検索し、入手することができる。
【0025】
「ガレクチン9遺伝子の転写産物」とは、ガレクチン9 mRNAを意味する。mRNAは、mRNA前駆体(pre-mRNA)及び成熟mRNA(mature mRNA)を問わない。通常、mRNA前駆体は、核内において直ちにスプライシングされて、成熟mRNA成熟体となることから、本発明のバイオマーカーとなるガレクチン9遺伝子の転写産物は、ガレクチン9成熟mRNAであってよい。
【0026】
本明細書において「ペプチド断片」とは、ガレクチン9タンパク質を構成するアミノ酸配列の一部を含む、又はからなるペプチド断片であって、その断片を構成するアミノ酸配列からガレクチン9タンパク質の断片であることを同定することができるものをいう。例えば、「ペプチド断片」は、ガレクチン9タンパク質の全長アミノ酸配列のうちの10個以上、20個以上、30個以上、40個以上、又は50個以上の連続するアミノ酸酸残基であってよく、また、200個以下、150個以下、120個以下、100個以下、又は80個以下の連続するアミノ酸残基からなるペプチドであってよい。例えば、「ペプチド断片」は、10個~200個、30個~120個、50個~80個の連続するアミノ酸残基からなるペプチドであってよい。
【0027】
本明細書において「核酸断片」とは、ガレクチン9 mRNAを構成する塩基配列の一部を含む、又はからなる核酸断片であって、その断片を構成する塩基配列からガレクチン9 mRNAの断片であることを同定することができるものをいう。例えば、「核酸断片」は、ガレクチン9 mRNAの全長塩基配列のうちの10個以上、20個以上、30個以上、40個以上、又は50個以上の連続する塩基からなる核酸であってよく、また600個以下、450個以下、300個以下、200個以下、又は100個以下の連続する塩基からなる核酸であってよい。例えば、「核酸断片」は、ガレクチン9 mRNAの全長塩基配列のうちの30個~600個、50個~300個、又は70個~100個の連続する塩基からなる核酸であってよい。
【0028】
(バイオマーカーを使用するNPSLEの検出)
一態様において、本発明は、NPSLEを検出するための、本明細書に記載のバイオマーカーの使用に関する。
【0029】
一態様において、本発明は、被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する(又は判定を補助する)方法に関する。本方法は、被検動物由来の試料において、本明細書に記載のバイオマーカーを検出又は定量する工程を含む。検出又は定量工程は、インビトロで行うことができる。また、本発明の方法は、前記工程で得られた検出又は定量結果に基づいて、該被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する工程をさらに含んでもよい。
【0030】
上記NPSLEの検出、NPSLEの罹患有無又は罹患リスクの判定は、NPSLE罹患患者と健常者の鑑別、及びNPSLEと他の疾患との鑑別を包含する。NPSLEと鑑別され得る他の疾患の例として、非NPSLEのSLE、Bechet病等の炎症性疾患、及びANCA関連血管炎等の膠原病、並びに脳炎、ステロイド誘発性精神障害(corticosteroid-induced psychiatric disorders(CIPDs))、視神経脊髄炎(NMO)、進行性多巣性白質脳症(PML)、及び逆性後頭葉白質脳症(PRES)の少なくとも一つが挙げられる。上記NPSLEの検出、NPSLEの罹患有無の判定は、SLEがNPSLEであるか否かを判別するものであってもよい。
【0031】
上記の検出、罹患有無又は罹患リスクの判定の対象とするNPSLEは、上記の中枢神経系(精神症状及び神経症状)又は末梢神経系の症状のいずれかを有するNPSLEであってもよい。例えば、無菌性髄膜炎を有するNPSLEを検出、又は罹患有無若しくは罹患リスクの判定の対象としてもよい。
【0032】
以下に各工程について詳細に説明する。
(1)検出又は定量工程
本発明における被験動物は、例えば哺乳動物、例えばヒト及びアカゲザル等の霊長類、ラット、マウス、及びドブネズミ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物が挙げられ、好ましくはヒトである。被験動物は、上記他の疾患、例えばSLEに罹患している、又は罹患している疑いのある被験体であってよい。
【0033】
本発明において使用する試料は、特に限定されないが、例えば、体液、細胞、及び生検サンプル等の組織が挙げられる。体液の例として、髄液、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、各組織若しくは細胞の抽出液、胸水、痰、涙液、鼻汁、唾液、尿等が挙げられ、例えば内部標準物質との補正が可能な髄液又は血液(特に血清)である。当該体液、細胞又は組織は、そのままバイオマーカーの測定に用いてもよいが、測定のために適宜前処理してもよい。例えば、免疫組織化学染色法でバイオマーカーを検出する場合は、被験動物由来の試料からパラフィン包埋切片を調製してもよい。また、例えば、ウエスタンブロット法又はRT-PCR法によってバイオマーカーを検出する場合は、被験動物由来の試料からタンパク質抽出液又はmRNA抽出液を調製してもよい。
【0034】
本方法で測定されるバイオマーカーは、ガレクチン9タンパク質若しくはそのペプチド断片又はガレクチン9遺伝子の転写産物若しくはその核酸断片のいずれであってもよい。検出又は定量は、バイオマーカーの発現の有無、又は発現量若しくは発現濃度の大小等を測定することを包含する。本発明において、「測定」という用語には、半定量が包含される。
【0035】
測定されるバイオマーカーがガレクチン9タンパク質又はそのペプチド断片の場合、その測定方法は、公知のタンパク質定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、免疫学的検出法が挙げられる。
【0036】
「免疫学的検出法」は、抗原である標的分子と特異的に結合する抗体又は抗体断片を用いて、標的分子の量を測定する方法である。
【0037】
抗体は、哺乳動物及び鳥を含めたいずれの動物由来とすることができる。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ニワトリ又はヒト等が挙げられる。
【0038】
免疫学的検出法で使用する抗体は、特に限定されないが、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を使用してよい。
【0039】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、単一免疫グロブリンのクローン群をいう。モノクローナル抗体を構成する各免疫グロブリンは、共通するフレームワーク領域及び共通する相補性決定領域を含み、同一抗原の同一エピトープを認識し、それに結合することができる。モノクローナル抗体は、単一細胞由来のハイブリドーマから得ることができる。
【0040】
本明細書において「ポリクローナル抗体」とは、同一抗原の異なるエピトープを認識し結合する複数種の免疫グロブリン群をいう。ポリクローナル抗体は、標的分子を抗原として動物に免疫後、その動物の血清から得ることができる。
【0041】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の場合、免疫グロブリン分子には、IgG、IgM、IgA、IgE、及びIgDの各クラスが知られているが、本発明の抗体は、いずれのクラスであってもよく、例えばIgGであってよい。
【0042】
ガレクチン9タンパク質を認識し結合するポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製する方法は、ガレクチン9タンパク質又はその断片を抗原として当該分野で公知の抗体作製方法に準じて行えばよい。抗体はまた、製造業者から得てもよい。ガレクチン9タンパク質又はその断片の発現量は、市販のキットによって測定してもよく、そのようなキットとして、QuantikineTM ELISA Human Galectin-9 immunoassayが挙げられる。一実施形態において、ガレクチン9タンパク質又はその断片は、QuantikineTM ELISA Human Galectin-9 immunoassayに含まれる抗体によって認識されるエピトープを含む。
【0043】
本明細書において「抗体断片」とは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の部分断片であって、該抗体が有する抗原特異的結合活性と実質的に同等の活性を有するポリペプチド鎖又はその複合体をいう。例えば、抗原結合部位を少なくとも1つ包含する抗体部分、すなわち、少なくとも1組のVLとVHを有するポリペプチド鎖、又はその複合体が該当する。具体例としては、免疫グロブリンを様々なペプチダーゼで切断することによって生じる多数の十分に特徴付けられた抗体断片等が挙げられる。より具体的な例としては、Fab、F(ab')2、Fab'等が挙げられる。これらの抗体断片は、いずれも抗原結合部位を包含しており、抗原である標的分子と特異的に結合する能力を有している。
【0044】
免疫学的検出法としては、例えば、免疫組織化学染色法、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、ウエスタンブロット法、放射免疫測定(RIA)法、免疫沈降法、又はフローサイトメトリー法が挙げられる。
【0045】
「免疫組織化学染色法」は、公知の方法を採用することができる。例えば、被験動物由来の試料をホルマリン固定後、パラフィンに包埋して組織片に薄切し、スライドガラスに貼り付けたものを切片試料として使用してよい。切片試料は、場合により熱処理して抗原を賦活化し、その後、Dako EnVision+ System(Agilent社)などの市販の検出システムを用いて切片試料について免疫組織化学染色を行ってよい。
【0046】
また、測定されるバイオマーカーがガレクチン9遺伝子転写産物又はその核酸断片の場合、その測定方法は、公知の核酸定量方法であればよく、特に限定はしないが、例えば、プライマーを用いる核酸増幅法又はプローブを用いるハイブリダイゼーション法が挙げられる。
【0047】
「核酸増幅法」は、フォワード/リバースプライマーセット用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。核酸増幅法としては、例えば、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法などのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が挙げられる。
【0048】
「ハイブリダイゼーション法」は、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、例えば、ノザンハイブリダイゼーション法(ノザンブロットハイブリダイゼーション法)、in situハイブリダイゼーション法、又はマイクロアレイ法が挙げられる。
【0049】
プライマー及びプローブ等の核酸鎖は、公知のバイオマーカー配列情報を基に当業者に公知の方法により適宜設計し、化学合成などの公知の作製方法により得ることができる。
【0050】
上述の各測定法は、いずれも当該分野に公知の技術である。したがって、具体的な測定方法については、公知の方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)に記載の方法を参考にすることができる。
【0051】
(2)判定工程
本工程では、前記検出又は定量工程で得られた結果に基づいて、該被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する。
【0052】
一実施形態において、本工程は、前記検出又は定量工程で得られた結果から、上記試料がバイオマーカーについて陽性であるか又は陰性であるか判定することを含む。上記試料がバイオマーカーについて陰性である場合、被験動物はNPSLEに罹患していないか、又はその罹患リスクは低いと判定し得る。一方、上記試料がバイオマーカーについて陽性である場合、被験動物はNPSLEに罹患しているか、又はその罹患リスクは高いと判定し得る。
【0053】
免疫組織化学染色法を用いる場合、例えば、一つ又は複数の細胞又は細胞クラスターが染色された場合、陽性と判定し、染色された細胞が存在しない場合、陰性と判定することができる。あるいは、細胞総数に対して染色された細胞数が一定割合(例えば10%、15%又は20%)を超える場合、陽性と判定し、細胞総数に対して染色された細胞数が前記一定割合以下の場合、陰性と判定してもよい。
【0054】
一実施形態において、判定工程は、前記検出又は定量工程で得られた試料におけるバイオマーカーの発現レベルが、(例えば所定の閾値より)高いか低いかを判定することを含む。試料におけるバイオマーカーの発現レベルが、所定の閾値より低い(例えば、統計学的に有意に低い)場合、NPSLEに罹患していないか、又は(例えば、所定の閾値より高い発現レベルを有する集団に対して)その罹患リスクは低いと判定し得る。一方、試料におけるバイオマーカーの発現レベルが所定の閾値より高い(例えば、統計学的に有意に高い)場合、NPSLEに罹患しているか、又は(例えば、所定の閾値より低い発現レベルを有する集団に対して)その罹患リスクは高いと判定し得る。
【0055】
所定の閾値は、対照試料(対照細胞又は組織、例えば対照大腸細胞又は大腸組織)において測定した対照量であってもよい。対照試料は、健常個体(例えば健常人)、非NPSLEのSLE患者、又は他の疾患に罹患した患者に由来してもよい。本発明において「健常個体」とは、被験個体と同じ生物種の、NPSLEに罹患していない健康な個体をいい、NPSLEに罹患したことがあるが、NPSLEが治療された個体を包含する。
【0056】
例えば、これらの対照試料における発現量、又は複数の個体における発現量の中央値、平均値、上限レベル、下限レベル、一定範囲の値を所定の閾値として用いることができる。また、上記の値若しくは範囲に適当な係数(例えば、0.3以上、0.5以上、0.8以上、0.9以上、又は3以下、2以下、1.5以下、又は1.1以下)をかけたものを閾値として用いてもよい。閾値は、予測の精度等に応じて適宜設定することができ、例えば、ROC(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)解析により定めることができる。
【0057】
本明細書において「統計学的に有意」とは、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には、p<0.05(5%未満)、p<0.01(1%未満)又はp<0.001(0.1%未満)の場合を指す。統計学的検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法、ログランク検定法を用いることができる。
【0058】
本明細書において、NPSLEの「罹患リスクが高い」とは、現在NPSLEに罹患していないものの、ある一定期間中(例えば、1週間以内、数週間以内、1カ月以内、2カ月以内、3カ月以内、6カ月以内、1年以内、2年以内、又は5年以内)にNPSLEに罹患する可能性が高いことを意図する。一方、NPSLEの「罹患リスクが低い」とは、現在NPSLEに罹患しておらず、かつある一定期間中(例えば、1週間以内、数週間以内、1カ月以内、2カ月以内、3カ月以内、6カ月以内、1年以内、2年以内、又は5年以内)にNPSLEに罹患する可能性が低いことを意図する。
【0059】
本発明の被検動物がNPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する(又は判定を補助する)方法は、さらに精度を高めるために、別のNPSLE診断法と組み合わせてもよい。そのような別のNPSLE診断法としては、画像検査(CT、MRI、SPECT、及びPET等、例えば頭部MRIにおける異常所見の有無)、脳波検査(脳波異常の有無)、髄液検査(髄液細胞数、髄液タンパク質及び髄液糖量等の髄液一般検査、髄液IL-6等のサイトカインの測定)、及び自己抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコグラント、抗ribosomal P抗体、抗Ro/SS-A抗体、抗Sm抗体、抗ds-DNA抗体等)の検出等が挙げられる。このような診断法の診断基準については当業者に公知であり、例えば、山下裕之著、2017、日本内科学会雑誌106巻8号、1555頁~1563頁、西村勝治ら著、2011、総合病院精神医学、23(1)、42頁~51頁等を参照されたい。
【0060】
(治療及び/又は予防方法)
本発明によれば、NPSLEの罹患の有無又は罹患リスクを判定することができ、その結果に基づき、治療方針(例えば、併用薬の使用の有無、ステロイド剤(及び使用する場合には併用薬)の種類、投与量、投与間隔、及び投与期間)を決定することができる。
【0061】
本発明により、被験体がNPSLEに罹患している又はその罹患リスクが高いと判定された場合、NPSLEを治療及び/又は予防するために、被験動物にステロイド剤を投与してもよい。したがって、本発明はまた、本発明の方法によりNPSLEに罹患している又はその罹患リスクが高いと判定された被験動物にステロイド剤を投与することを含む、NPSLEの治療及び/又は予防方法を提供する。
【0062】
ステロイド剤としては、限定されないが、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン及びヒドロコルチゾン並びにそれらの溶媒和物などが挙げられる。ステロイド剤は、単独で又は組みあわせて使用できる。ステロイド剤は、注射、静脈内投与、経口投与などの経路で投与され得る。
【0063】
ステロイド剤の投与量は、限定しないが、NPSLEでは高用量のステロイド(例えば、1.0mg/体重kg/日)を使用することが多く、症状を見ながら2週間おきに10%前後減量していくことが多い。投与量は、例えば0.005~100mg/体重kg/日、0.05~10mg/体重kg/日、0.1~5.0mg/体重kg/日、0.25~2.0mg/体重kg/日、又は0.5~1.0mg/体重kg/日であってよい。投与回数は、限定するものではないが、1日3回、1日2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1カ月に1回等であってよい。また、投与期間は、限定するものではないが、1日、2日、3日、1週間、2週間、1カ月、半年、一年、又はそれ以上であってよい。数日間、高用量の投与を行うステロイド・パルス療法を行ってもよい。ステロイド・パルス療法における投与量は、メチルプレドニゾロン換算で250mg~1000mg/日、点滴静注であってよい。ステロイド・パルス療法の期間は、限定するものではないが、1日、2日、3日、又はそれ以上であってよい。
【0064】
ステロイド剤は他の薬剤と共に併用してもよく、他の薬剤の例として、免疫抑制剤が挙げられる。免疫抑制剤の例としては、限定されないが、アザチオプリン、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル及びミゾリビン等が挙げられる。
【0065】
免疫抑制剤の投与量は、限定しないが、例えば0.005~5000mg/体重kg/日、0.05~1000mg/体重kg/日、0.1~100mg/体重kg/日、又は1.0~10mg/体重kg/日であってよい。投与回数は、限定するものではないが、1日3回、1日2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、2週間に1回、1カ月に1回等であってよい。また、投与期間は、限定するものではないが、1日、2日、3日、1週間、2週間、1カ月、半年、一年、又はそれ以上であってよい。例えば、アザチオプリンは、0.5~2.5mg/体重kg/日を内服1日1回で連日投与することができ、シクロホスファミドは、500~750mg/体重kg/日、静注で2~3週間おきに計7~10回投与することができ、ミコフェノール酸モフェチルは1000mg~2000mg/体重kg/日、静注又は内服で、1日2回、連日投与することができ、ミゾリビンは、150~300mg/体重kg/日、内服で、1日1回~1日3回、連日投与することができる。
【0066】
免疫抑制剤を投与する場合、ステロイド剤と、免疫抑制剤は同時に投与されてもよいし、異なる時点で投与されてもよい。同時に投与される場合、ステロイド剤、及び免疫抑制剤を含む組成物として同時に投与されてもよいし、ステロイド剤と、免疫抑制剤を別々に投与してもよい。ステロイド剤と免疫抑制剤が異なる時点で投与される場合、投与の順番は限定されず、ステロイド剤を投与した後に、免疫抑制剤を投与してもよいし、ステロイド剤を投与する前に、免疫抑制剤を投与してもよい。
【0067】
(バイオマーカーを使用するNPSLEに対する治療効果の判定)
一態様において、本発明は、(例えば、治療方法又は薬剤等の)NPSLEに対する治療効果を判定するための、本明細書に記載のバイオマーカーの使用に関する。
【0068】
一態様において、本発明は、(例えば、治療方法、又は薬剤の)NPSLEに対する治療効果を判定する(又は判定を補助する)方法に関する。本方法は、被検動物由来の試料において、本明細書に記載のバイオマーカーを検出又は定量する工程を含む。本検出又は定量工程は、NPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する方法における当該工程について記載した通りである。
【0069】
また、本方法は、前記工程で得られた検出又は定量結果に基づいて、NPSLEに対する治療効果があるか否かを判定する工程をさらに含んでもよい。本判定工程は、NPSLEに対する治療効果があるか否かを判定することを包含する。本判定工程についても、NPSLEに罹患しているか否か、又はNPSLE罹患リスクの有無を判定する方法における当該工程について記載した通りである。例えば、判定工程は、前記検出又は定量工程で得られた結果から、上記試料がバイオマーカーについて陽性であるか又は陰性であるか判定することを含む。上記試料がバイオマーカーについて陰性である場合、治療効果がある又は高いと判定し得る。一方、上記試料がバイオマーカーについて陽性である場合、治療効果がない又は低いと判定し得る。陽性、陰性の判定基準については記載した通りである。
【0070】
また、判定工程は、前記検出又は定量工程で得られた試料におけるバイオマーカーの発現レベルが、(例えば所定の閾値より)高いか低いかを判定することを含む。試料におけるバイオマーカーの発現レベルが、所定の閾値より低い(例えば、統計学的に有意に低い)場合、(例えば、所定の閾値より高い発現レベルを有する集団に対して)治療効果がある又は高いと判定し得る。一方、試料におけるバイオマーカーの発現レベルが所定の閾値より高い(例えば、統計学的に有意に高い)場合、(例えば、所定の閾値より低い発現レベルを有する集団に対して)治療効果がない又は低いと判定し得る。所定の閾値についても、既に記載した通りである。ただし、本態様における閾値は、治療前の被験動物における発現レベルを含んでもよい。
【0071】
また、本方法は、前記検出又は定量工程の前、最中、及び/又は後に、NPSLEを治療する工程を含んでもよい。治療工程は、被験動物にステロイド剤(及び任意に免疫抑制剤)を投与することを含んでもよい。ステロイド剤、及び免疫抑制剤の種類、投与量、及び投与期間等については、上記治療及び/又は予防方法において記載した通りである。
【0072】
上記判定工程の結果に応じて、治療工程を変更してもよい。例えば、判定工程において、治療効果がないと判定された場合、上記薬剤の投与量を増加及び/又は投与する薬剤(例えば、免疫抑制剤)を追加してもよい。
【0073】
(キット)
一態様において、本発明は、本明細書に記載のバイオマーカーの量を測定するための試薬を含む、NPSLEを検出するためのキットも提供する。
【0074】
バイオマーカーの量を測定するための試薬としては、例えば、上述のような抗体若しくは抗体断片、又はプローブ若しくはプライマーが挙げられる。キットは、公知の免疫組織化学染色、ELISA、ウエスタンブロット、又はRT-PCR用の試薬等、例えば、標識試薬、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤、並びに試験に必要な器具、コントロール及び説明書等の少なくとも一つをさらに含んでもよい。
【0075】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0076】
<実施例1:異なる患者群におけるガレクチン9濃度の測定>
(材料と方法)
サンプルとして、2004年6月から2019年1月の間に福島県立医科大学リウマチ膠原病内科を受診した、膠原病リウマチ性疾患患者の内、腰椎穿刺が施行され、-80℃にて髄液が凍結保存されていた全身性エリテマトーデス(SLE)26例、他疾患6例の髄液検体を用いた。髄液検体中のガレクチン9濃度を、QuantikineTM ELISA Human Galectin-9 immunoassay(R & D systems)を用いて、製造業者のプロトコルに従って、酵素免疫測定(ELISA)法で測定した。
【0077】
上記26例のSLE患者は、髄液採取後に神経精神ループス(NPSLE)と診断した患者18例、及びNPSLEの関与は否定的と判断した患者8例(対照2)からなる。NPSLEは、SLEの活動性の血清学的評価、髄液検査、画像診断(MRI、SPECT)、臨床経過をふまえ、鑑別診断を行い、総合的に診断した(具体的には、1997年ACRの診断基準でSLEの確定診断がついており、頭痛・発熱などの症状に加え、SPECTで脳血流の低下を認め、MRIで脳実質に高吸収領域を認め、髄液のIg index及びIL-6の増加を認めた症例を、NPSLEと診断した。また、脳症を来たす他の疾患は鑑別診断で除外した。なお、現時点でNPSLEの確立した診断基準は存在しない)。コントロール群は、上記他疾患の6例(対照1、内訳としてBechet病5例、ANCA関連血管炎1例)からなる。各群間における髄液中ガレクチン9濃度につき比較検証を行った。
【0078】
(結果)
結果を図1に示す。図1に示される通り、NPSLE群では、他の疾患群(対照1)、及び非NPSLEのSLE群(対照2)よりも検体中のガレクチン9濃度が有意に高かった。
これは、ガレクチン9がNPSLEの検出用マーカーとして用い得ることを示唆している。
【0079】
<実施例2:NPSLE治療前後のガレクチン9濃度の測定>
(材料と方法)
発症当時19歳の男性(主訴は、発熱、頭痛、及び皮疹)患者において、NPSLE治療前後のガレクチン9濃度を測定した。治療の経過は以下の通りである。
【0080】
患者は、2004年顔面及び上肢の紅斑、並びに38℃台の発熱が出現し、同年6月福島県立医科大学附属病院皮膚科を受診した。血液検査にて炎症反応亢進や補体価の低下は認めず、抗核抗体陽性(Speckled, Granular型)、抗U1RNP抗体陽性であった。抗Sm抗体、抗DNA抗体は陰性であった。また、腎症を示唆する腎機能障害や尿所見は認めなかった。右前腕から皮膚生検を行ったところ、皮膚エリテマトーデスに矛盾しない所見を認めた。2004年6月、約38~39℃の発熱と強い頭痛が認められた。プレドニゾロン20mg/体重kg/日より内服を開始し、2004年6月7日、腰椎穿刺を施行した(治療前髄液ガレクチン9測定)。髄液検査からは髄圧上昇、リンパ球優位の細胞数の増多は認めるも、ウイルス及び細菌感染症は否定的であり無菌性髄膜炎の所見であった。脳SPECT検査にて脳全般に血流低下を認めた。
【0081】
一連の経過よりNPSLEと診断され、プレドニゾロン60mg/体重kg/日に増量された。治療開始後、頭痛及び発熱といった症状の改善を認め、7月2日からはプレドニゾロン50mg/day、7月16日からはプレドニゾロン45mg/dayに漸減後も再燃は認めず、7月28日に再度施行した腰椎穿刺(治療後髄液ガレクチン9測定)では髄液中細胞数は基準値内にまで減少した。
治療前、及び治療後の髄液検体中のガレクチン9濃度を、実施例1と同様に測定した。
【0082】
(結果)
結果を図2に示す。図2は、NPSLEの治療により、検体中のガレクチン9濃度が顕著に低下することを示している。これは、ガレクチン9が、NPSLEの治療が成功したか否かを判定するために用い得ることを示唆している。
【0083】
<実施例3:無菌性髄膜炎を有するNPSLE患者を対象としたガレクチン9濃度の測定>
(材料と方法)
無菌性髄膜炎(aseptic meningitis; AM)は、NPSLEの神経症状の1つである。実施例1におけるNPSLE群の患者18例を、無菌性髄膜炎の有無に基づいて、AM有り群(7例)とAM無し群(11例)の2群に分類し、両群における髄液中ガレクチン9濃度を比較した。
【0084】
(結果)
結果を図3に示す。図3に示される通り、AM有り群(7例)では、AM無し群(11例)よりも髄液中ガレクチン9濃度が有意に高かった(スチューデントt検定、p<0.01)。これは、ガレクチン9が無菌性髄膜炎を有するNPSLEの検出用マーカーとして用い得ることを示唆している。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
【配列表】
0007320863000001.app