(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20230728BHJP
H05K 1/18 20060101ALI20230728BHJP
H05K 13/04 20060101ALI20230728BHJP
H05K 13/08 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H05K1/18 L
H05K13/04 B
H05K13/08 N
(21)【出願番号】P 2022531812
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022561
(87)【国際公開番号】W WO2021256433
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020103333
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 大輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝寛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 雅文
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-179100(JP,A)
【文献】特開平11-145197(JP,A)
【文献】特開2000-195907(JP,A)
【文献】特開2006-073873(JP,A)
【文献】特開平09-153525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60-21/607
H01L 21/50
H05K 1/18
H05K 3/32- 3/34
H05K 13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を支持するステージと、
底面にバンプを有するチップを加熱可能に保持する実装ツールと、
前記実装ツールを鉛直方向に移動させて前記チップに荷重を付与する加圧機構と、
前記実装ツールおよび前記加圧機構の駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、
前記チップを前記基板に着地させた後、前記バンプが溶融するまで、前記実装ツールで前記チップを加熱するとともに、前記加圧機構の指令位置と現在位置との差である位置偏差が一定となるように、前記加圧機構の鉛直方向の指令位置を随時更新する第一処理と、
前記第一処理と並行して、前記加圧機構による前記チップの押圧荷重を監視し、前記押圧荷重の減少に基づいて、前記バンプの溶融を検出する検出処理と、
を行うように構成されており、
前記コントローラは、センサで検出された前記実装ツールの検出位置と一サンプリング当たりの熱膨張量との加算値から、0より大きい位置偏差の目標値を減算した値を前記指令位置として更新する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記検出処理において前記バンプの溶融を検出した時点から後に、前記チップの底面と前記基板との間隙量であるギャップ量が目標値を保つように、前記加圧機構の指令位置を随時更新する第二処理をさらに行う、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記加圧機構は、前記実装ツールを鉛直方向に移動させる駆動モータを有しており、
前記コントローラは、前記検出処理において前記駆動モータの電流値を、前記押圧荷重を示すパラメータとして監視する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
半導体装置の製造方法であって、
実装ツールで保持されたチップをステージで支持された基板に接地させた後、前記チップの底面に設けられたバンプが溶融するまで、前記実装ツールで前記チップを加熱するとともに、前記実装ツールを鉛直方向に移動させる加圧機構の指令位置と現在位置との差である位置偏差が一定となるように、前記加圧機構の鉛直方向の指令位置を随時更新する第一ステップと、
前記第一ステップと並行して、前記加圧機構による前記チップの押圧荷重を監視し、前記押圧荷重の減少に基づいて、前記バンプの溶融を検出する検出ステップと、
を備え、
前記第一ステップでは、センサで検出された前記実装ツールの検出位置と一サンプリング当たりの熱膨張量との加算値から、0より大きい位置偏差の目標値を減算した値を前記指令位置として更新する、ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法であって、さらに、
前記検出ステップにおいて前記バンプの溶融を検出した時点から後に、前記チップの底面と前記基板との間隙量であるギャップ量が目標値を保つように、前記加圧機構の指令位置を随時更新する第二ステップを、備える、ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、実装ツールで保持したチップを基板にボンディングすることで、半導体装置を製造する製造装置および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板にチップを実装する技術として、フリップチップボンダが知られている。フリップチップボンダでは、チップの底面にバンプと呼ばれる突起電極が形成されている。そして、実装ツールにより、このチップを基板に押圧するとともに、チップを加熱してバンプを溶融させ、基板の電極にチップのバンプを接合する。近年、こうしたボンディング処理において、バンプの溶融タイミングを検出するための技術がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱圧着ツール(実装ツールに対応)に設けられた荷重検出手段による荷重検出値が所定値以下に減少したならば、バンプが溶融したと判断し、熱圧着ツールを上昇させる技術が開示されている。かかる技術によれば、バンプの溶融が検知できれば、すぐに、次の動作、すなわち、熱圧着ツールの上昇に遷移できる。その結果、溶融までの時間を予め想定し、その想定時間が経過するまで加熱を続ける技術に比べて、熱圧着の時間を短縮でき、生産性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、チップを加熱加圧する際、実装ツールの位置を一定に保持している。しかし、実装ツールは、バンプが溶融するまでの間に熱膨張により軸方向に延びる。実装ツールの位置を一定に保持した場合、この実装ツールの伸びにより、チップに付与される荷重が徐々に増加する。そして、これにより、バンプが、必要以上に押し潰される恐れがあった。バンプが押し潰されると、チップと基板との間隙であるギャップを適切な値に保てない。また、バンプが押し潰され、面方向に広がると、隣接するバンプとの間でショート不良を発生させるおそれもあった。
【0006】
つまり、従来の技術では、バンプの品質を適切に保つことができなかった。そこで、本明細書では、バンプの溶融タイミングを検知しつつバンプの品質を適切に保つことができる半導体装置の製造装置および製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、基板を支持するステージと、底面にバンプを有するチップを加熱可能に保持する実装ツールと、前記実装ツールを鉛直方向に移動させて前記チップに荷重を付与する加圧機構と、前記実装ツールおよび前記加圧機構の駆動を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記チップを前記基板に着地させた後、前記バンプが溶融するまで、前記実装ツールで前記チップを加熱するとともに、前記加圧機構の指令位置と現在位置との差である位置偏差が一定となるように、前記加圧機構の鉛直方向の指令位置を随時更新する第一処理と、前記第一処理と並行して、前記加圧機構による前記チップの押圧荷重を監視し、前記押圧荷重の減少に基づいて、前記バンプの溶融を検出する検出処理と、を行うように構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
この場合、前記コントローラは、前記検出処理において前記バンプの溶融を検出した時点から後に、前記チップの底面と前記基板との間隙量であるギャップ量が目標値を保つように、前記加圧機構の指令位置を随時更新する第二処理をさらに行ってもよい。
【0009】
この場合、前記加圧機構は、前記実装ツールを鉛直方向に移動させる駆動モータを有しており、前記コントローラは、前記検出処理において前記駆動モータの電流値を、前記押圧荷重を示すパラメータとして監視してもよい。
【0010】
また、前記コントローラは、前記第一処理において、前記実装ツールの現在位置から、位置偏差の目標値を減算した値を、前記加圧機構の指令位置として算出してもよい。
【0011】
本明細書で開示される半導体装置の製造方法は、実装ツールで保持されたチップをステージで支持された基板に接地させた後、前記チップの底面に設けられたバンプが溶融するまで、前記実装ツールで前記チップを加熱するとともに、前記実装ツールを鉛直方向に移動させる加圧機構の指令位置と現在位置との差である位置偏差が一定となるように、前記加圧機構の鉛直方向の指令位置を随時更新する第一ステップと、前記第一ステップと並行して、前記加圧機構による前記チップの押圧荷重を監視し、前記押圧荷重の減少に基づいて、前記バンプの溶融を検出する検出ステップと、を備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、さらに、前記検出ステップにおいて前記バンプの溶融を検出した時点から後に、前記チップの底面と前記基板との間隙量であるギャップ量が目標値を保つように、前記加圧機構の指令位置を随時更新する第二ステップを、備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示される技術によれば、バンプの溶融タイミングを検知しつつバンプの品質を適切に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】半導体装置の製造装置の構成を示すイメージ図である。
【
図2】半導体チップの実装の様子を示すイメージ図である。
【
図3】半導体チップの実装時における各種パラメータの経時変化を示すグラフである。
【
図4】半導体装置の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】半導体装置の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10について説明する。
図1は、半導体装置の製造装置10の構成を示すイメージ図である。製造装置10は、電子部品である半導体チップ100をフェースダウンの状態で基板110上に実装することで半導体装置を製造する装置である。製造装置10は、実装ツール20を有したボンディングヘッド14、半導体チップ100を実装ツール20に供給するチップ供給手段(図示せず)、基板110を支持するステージ12、ステージ12をXY方向(水平方向)に移動させるXYステージ18、および、これらの駆動を制御するコントローラ16等を備えている。
【0016】
基板110は、ステージ12に吸引保持されており、ステージ12に設けられたステージヒータ(図示せず)により加熱される。また、半導体チップ100は、チップ供給手段により、実装ツール20に供給される。チップ供給手段の構成としては、種々考えられるが、例えば、ウェーハステージに載置されたウェーハから、半導体チップを中継アームでピックアップして、中継ステージに移送するような構成が考えられる。この場合、XYステージ18は、中継ステージを実装ツール20の真下に移送し、実装ツール20は、真下に位置する中継ステージから半導体チップをピックアップする。
【0017】
実装ツール20で半導体チップがピックアップされれば、続いて、XYステージ18により、基板110が実装ツール20の真下に移送される。この状態になれば、実装ツール20は、基板110に向かって下降し、末端に吸引保持した半導体チップ100を基板110に圧着し、実装する。
【0018】
実装ツール20は、半導体チップ100を吸引保持するとともに、この半導体チップ100を加熱する。そのため、実装ツール20には、真空源に連通された吸引孔や、半導体チップ100を加熱するためのツールヒータ(いずれも図示せず)等が設けられている。ボンディングヘッド14には、こうした実装ツール20に加え、さらに、加圧機構22および昇降機構24が設けられている。
【0019】
加圧機構22は、実装ツール20をZ軸方向(すなわち鉛直方向)に移動させることで、半導体チップ100を基板110に押し付け、当該半導体チップ100に押圧荷重を付加する。加圧機構22は、駆動モータ30と、スライド軸32と、板バネ34と、ガイド部材36と、を有している。駆動モータ30は、加圧機構22の駆動源であり、例えば、ボイスコイルモータである。この駆動モータ30は、移動体46に固着された固定子30aと、当該固定子30aに対してZ軸方向に可動の可動子30bと、を有している。可動子30bは、スライド軸32を介して実装ツール20に機械的に連結されている。また、スライド軸32は、Z軸方向に撓むことが可能な板バネ34を介して移動体46に取り付けられている。さらに、移動体46には、ガイド部材36が固着されている。スライド軸32は、このガイド部材36に形成された貫通孔に挿通されており、貫通孔に沿って、スライド可能となっている。
【0020】
駆動モータ30に電流を印加すると、可動子30bは、移動体46に対してZ軸方向に移動する。このとき、スライド軸32およびスライド軸32に固着された実装ツール20は、板バネ34を弾性変形させながら、可動子30bとともにZ軸方向に移動する。このスライド軸32の固定子30aに対する変位量は、ガイド部材36に固着されたリニアスケール50等の位置センサにより検知され、コントローラ16に送られる。
【0021】
昇降機構24は、実装ツール20および加圧機構22をベース部材38に対してZ軸方向に昇降させる。かかる昇降機構24は、駆動源として昇降モータ40を有している。この昇降モータ40には、軸方向に延びるリードスクリュー42が、カップリングを介して連結されており、昇降モータ40の駆動に伴い、リードスクリュー42が、自転する。リードスクリュー42には、移動ブロック44が螺合されており、この移動ブロック44は、駆動モータ30の固定子30aの上面に固着されている。また、固定子30aの側面には、移動体46が固着されている。この移動体46は、ベースに固着されたガイドレール48に沿ってスライド可能となっている。昇降モータ40に電流を印加すると、リードスクリュー42が自転し、これに伴い、移動ブロック44が、Z軸方向に昇降する。そして、移動ブロック44が昇降することで、当該移動ブロック44に固着された加圧機構22および実装ツール20も昇降する。昇降機構24による加圧機構22の昇降量も、センサ(例えば昇降モータ40に取り付けられたエンコーダ等)で検知され、コントローラ16に送られる。
【0022】
コントローラ16は、実装ツール20、加圧機構22、昇降機構24、ステージ12、およびXYステージ18の駆動を制御する。このコントローラ16は、物理的には、プロセッサ16aおよびメモリ16bを有したコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、プロセッサ16aとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。また、以下に述べるプロセッサ16aの動作は、1つのプロセッサによって成すのみでなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。同様に、メモリ16bも、物理的に一つの要素である必要はなく、物理的に離れた位置に存在する複数のメモリで構成されてもよい。また、メモリ16bは、半導体メモリ(例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ等)および磁気ディスク(例えば、ハードディスクドライブ等)の少なくとも一つを含んでもよい。
【0023】
ここで、コントローラ16による駆動モータ30の駆動制御について簡単に説明する。駆動モータ30を駆動する際、コントローラ16は、まず、リニアスケール50の検出値を、実装ツール20のZ軸方向の検出位置Pdとして取得し、リニアスケール50の検出値の微分値を速度検出値として取得する。そして、コントローラ16は、実装ツール20のZ軸方向の検出位置と指令位置との偏差である位置偏差に基づいて速度指令値を算出し、この速度指令値と速度検出値との偏差に基づいてトルク指令値を算出し、トルク指令値に応じた電流を駆動モータ30に印加する。ここで、本例において、駆動モータ30は、ボイスコイルモータであり、印加された電流に比例したトルクを出力する。したがって、駆動モータ30に印加された電流値は、半導体チップ100に付加される押圧荷重にほぼ比例する。そこで、本例において、コントローラ16は、この駆動モータ30の電流値を、押圧荷重を示すパラメータとして取得する。また、コントローラ16は、実装処理の流れに応じて、駆動モータ30の制御に利用する指令位置を順次、更新するが、これについては後述する。
【0024】
次に、こうした製造装置10による半導体チップ100の実装方法について説明する。
図2は、半導体チップ100の実装の様子を示すイメージ図である。
図2に示すように、基板110の上面には、複数の電極112が形成されている。また、半導体チップ100は、チップ本体102の底面から突出し、半田等の導電金属からなるバンプ104を複数有している。半導体チップ100を実装する際には、このバンプ104を基板110の電極112に接触させた状態で、半導体チップ100を加熱し、バンプ104を溶融させる。そして、バンプ104が溶融されることで、バンプ104と電極112が結合される。なお、
図2では図示していないが、チップ本体102の底面には、さらに、熱硬化性樹脂層、例えば、非導電性フィルムの層等が設けられていてもよい。
【0025】
ここで、この実装の際、バンプ104が溶融した後も、半導体チップ100の押圧を続けると、溶融したバンプが変形し、潰れてしまうことがあった。この場合、潰れて横に広がったバンプ104が、隣接する他のバンプ104との間でショート不良を招くおそれがあった。
【0026】
そこで、従来から、実装ツール20で半導体チップ100に荷重を付加し続け、実装ツール20に一定以上の沈み込みが発生したタイミングをバンプ104の溶融タイミングとして検出し、以降は、半導体チップ100に付加する荷重を軽減する技術が提案されている。しかしながら、こうした実装ツール20の沈み込みを検出する技術の場合、当該沈み込みが、バンプ104の溶融に起因するものか、溶融前のバンプ104の破壊に起因するものかを正確に判別できなかった。また、この従来の技術では、実装ツール20が一時的に大きく沈み込むため、溶融したバンプ104が潰れて横に広がるおそれがあった。
【0027】
そこで、特許文献1では、実装ツール20の沈み込み量ではなく、実装ツール20に設けられた荷重検出手段による荷重検出値が所定位置以下に減少すれば、バンプ104が溶融したと判断している。かかる技術によれば、実装ツール20の沈み込みを、ある程度抑えることができる。しかしながら、特許文献1では、加熱を開始してからバンプ104が溶融するまでの間、実装ツール20のZ軸方向位置を一定に保つために実装ツール20を昇降させておらず、加熱に伴う実装ツール20の熱膨張について考慮されていなかった。
【0028】
すなわち、半導体チップ100を実装する際、実装ツール20は、半導体チップ100を加熱するために、内蔵されたツールヒータが昇温する。この加熱に伴い、実装ツール20は、
図2の二点鎖線で示すように、その長軸方向に熱膨張する。そのため、実装ツール20を昇降させることなく静止させたとしても、実装ツール20の末端面は、熱膨張により下方に変位し、押圧荷重が増加していく。その結果、特許文献1では、熱膨張が進行するにつれて、押圧荷重が増加し、溶融前のバンプ104が破壊されたり、溶融したバンプ104が過剰に潰されたりするおそれがあった。また、また、特許文献1の技術では、熱膨張の影響を考慮していないため、チップ本体102の底面と基板110の上面との間隔であるギャップ量Gを、所望の値にできないおそれがあった。
【0029】
本明細書では、バンプ104の溶融を適切に検出するために、半導体チップ100に付加される押圧荷重を監視し、押圧荷重が急減したタイミングを、バンプ104の溶融タイミングとして検出する。また、溶融前のバンプ104の破壊を防止するために、バンプ104が溶融するまでの間、実装ツール20が熱膨張しても、実装ツール20の現在位置と指令位置との偏差である位置偏差が一定となるように、指令位置を順次更新する。以下、半導体チップ100の実装の流れについて
図3~
図5を参照して説明する。
【0030】
図3は、半導体チップ100の実装時における各種パラメータの経時変化を示すグラフで、上段はリニアスケール50の検出値を、中段は、駆動モータ30の電流値を、下段は、ツールヒータの駆動状態を、それぞれ示している。また、
図4、
図5は、半導体装置の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0031】
半導体チップ100を基板110に実装する際には、半導体チップ100のバンプ104が、基板110の電極112の真上に位置するように、ステージ12が実装ツール20に対して水平方向に位置合わせする。
図4のフローチャートは、この状態からスタートしている。その後、コントローラ16は、昇降モータ40を駆動し、加圧機構22とともに実装ツール20を高速で下降させる(S10)。半導体チップ100と基板110との間に若干の間隙が残る状態まで、半導体チップ100が基板110に近接すれば(S12でYes)、コントローラ16は昇降モータ40の駆動を停止する。
図3における時刻t1は、この半導体チップ100が基板110に近接したタイミングを示している。
【0032】
半導体チップ100が基板110に近接すれば、コントローラ16は、駆動モータ30を駆動し、バンプ104が電極112に接地するまで、実装ツール20を低速で下降させる(S14)。具体的には、コントローラ16は、接地が検出されるまで、実装ツール20が、徐々に基板110に近づくように、駆動モータ30に入力する指令位置P*を徐々に更新する。バンプ104の接地タイミングは、検出位置に基づいて判断してもよいし、駆動モータ30の電流値に基づいて判断してもよい。すなわち、バンプ104が電極112に接地すると、指令位置P*を更新しても検出位置Pdは、変化しなくなる。そこで、検出位置Pdの変化が提示したタイミングを、接地タイミングと判断してもよい。また、バンプ104が電極112に接すると、半導体チップ100および実装ツール20は、基板110から反力を受ける。駆動モータ30は、この反力に応じたトルクを出力しようとするため、駆動モータ30の電流値が急増する。この電流値の急増タイミングを接地タイミングと判断してもよい。
図3では、時刻t2において、接地が検出されている。
【0033】
バンプ104の接地が検出されれば(S16でYes)、ツールヒータで半導体チップ100の加熱を開始するとともに、位置偏差ΔPが一定となるように、駆動モータ30の指令位置P*を随時更新する第一処理(S18,S20)を実行する。すなわち、コントローラ16は、接地が検出された時刻t2において、実装ツール20に搭載されたツールヒータをONし、半導体チップ100の加熱を開始する(S18)。また、コントローラ16は、駆動モータ30の指令位置P*を、P*=Pd+σa-ΔP*の式に従って随時更新する。ここで、Pdは、実装ツール20の検出位置である。σaは、一サンプリング当たりに発生する実装ツール20の熱膨張量である。一サンプリング当たりの熱膨張量σaは、予め実験等により取得しておく。また、この一サンプリング当たりの熱膨張量σaは、固定値でもよいが、時間の経過またはツールヒータの温度変化とともに変化する可変値でもよい。Pd+σaは、実装ツール20の現在位置となる。ΔP*は、位置偏差ΔPの目標値であり、値一定の固定値である。
図3における破線は、第一処理中に用いる指令位置P*を示している。
【0034】
このように、P*=Pd+σa-ΔP*の式に基づいて、指令位置P*を随時更新することで、実装ツール20や半導体チップ100が熱膨張したとしても、位置偏差ΔPを常に一定に保つことができる。そして、位置偏差ΔPを一定に保つことで、駆動モータ30からの出力トルク、ひいては、半導体チップ100の押圧荷重をほぼ一定に保つことができる。これにより、溶融前のバンプ104を破壊して潰すことが効果的に防止できる。
【0035】
第一処理と並行して、コントローラ16は、半導体チップ100に付加される押圧荷重の監視も行う(S22)。押圧荷重は、駆動モータ30の電流値Idにほぼ比例するため、コントローラ16は、駆動モータ30の電流値Idを、押圧荷重を示すパラメータとして監視する。加熱を継続した結果、バンプ104が溶融すると、実装ツール20が半導体チップ100から受ける反力が急激に低下し、押圧荷重、ひいては、電流値Idが急激に低下する。コントローラ16は、この電流値Idの急激な低下が発生すれば、バンプ104の溶融が発生したと判断する。
【0036】
具体的には、コントローラ16は、Nサンプリング前の電流値Id[i-N]と、現在の電流値Id[i]と、の差分ΔId=Id[i-N]-Id[i]を算出する。そして、コントローラ16は、この差分ΔIdと、規定の基準値ΔId_defと、を比較し、ΔId≧ΔId_def以上となれば、バンプ104が、溶融したと判断する。なお、Nは、1以上の整数である。
図3では、時刻t3において、溶融したと判断される。
【0037】
なお、本例では、実装ツール20の指令位置P*を、現在位置(Pd+σa)よりも下方に設定しているため、バンプ104の溶融が発生し、半導体チップ100からの反力が低下した場合、実装ツール20は、指令位置P*に到達するように、現在位置(Pd+σa)から位置偏差の目標値ΔP*分だけ、下方に変位することがある。このバンプ104溶融時の変位において、バンプ104を大きく潰さないように、位置偏差の目標値ΔP*は、充分に小さな値が設定される。
【0038】
バンプ104が溶融したと判断した場合(S22でYes)、コントローラ16は、ギャップ量Gが所望の値になるように、実装ツール20の位置を制御する第二処理を実行する(S24)。すなわち、コントローラ16は、駆動モータ30の指令位置P*を、P*=Pg+σgとして随時更新する。ここで、Pgは、常温状態かつギャップ量Gが所望の値になった半導体チップ100に実装ツール20を接地させたときの、実装ツール20の位置である。以下では、このPgを、「標準位置」と呼ぶ。この標準位置Pgは、ギャップ量Gの値や半導体チップ100の寸法値等から予め算出される固定値である。また、σgは、実装ツール20および半導体チップ100の熱膨張量である。このσgは、時間やヒータの温度に応じて変動する可変値である。かかる指令位置P*=Pg+σgで、実装ツール20の位置を制御することで、ギャップ量Gを所望の値に保つことができる。また、コントローラ16は適当なタイミングで、ツールヒータをOFFする(S26)。その後、バンプ104を硬化させるのに十分な冷却時間が経過すれば(S28でYes)、コントローラ16は、半導体チップ100の吸引を解除したうえで、加圧機構22および昇降機構24を駆動して実装ツール20を上昇させる(S30)。
【0039】
以上の説明で明らかな通り、本例では、駆動モータ30の電流値、ひいては、押圧荷重が急激に低下したタイミングを、バンプ104の溶融タイミングとして検出している。かかる構成とすることで、溶融したバンプ104を押し潰すことなく、バンプ104の溶融タイミングを正確に検出できる。また、第一処理において、位置偏差ΔPが一定になるように、指令位置P*を随時更新しているため、熱膨張が発生しても、押圧荷重を一定に保つことができる。その結果、溶融前のバンプ104に過剰な荷重がかかり、バンプ104が、破壊されることが効果的に防止できる。
【0040】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、接地後、バンプ104が溶融するまで、位置偏差ΔPが一定となるように加圧機構22の鉛直方向の指令位置P*を随時更新する第一処理と、押圧荷重が急減したタイミングを、バンプ104の溶融タイミングとして検出する検出処理と、を行うのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、駆動モータ30の電流値を、押圧荷重を示すパラメータとして監視していたが、加圧機構22に荷重センサを設け、この荷重センサの検出値を監視するのでもよい。また、上述の説明では、実装ツール20の検出位置Pdに、一サンプリングあたりの熱膨張量σaを加算した値を、実装ツール20と現在位置として取り扱っているが、熱膨張が考慮されるのであれば、他の値を現在位置として用いてもよい。例えば、熱膨張に伴う実装ツール20の変位のプロファイルを、予め実験等で取得しておき、このプロファイルから実装ツール20の現在位置を求めるようにしてもよい。また、上述の説明では、加圧機構22の駆動源として駆動モータ30を用いているが、他の駆動源、例えば、電池シリンダや油圧シリンダ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 製造装置、12 ステージ、14 ボンディングヘッド、16 コントローラ、18 XYステージ、20 実装ツール、22 加圧機構、24 昇降機構、30 駆動モータ、30a 固定子、30b 可動子、32 スライド軸、34 板バネ、36 ガイド部材、38 ベース部材、40 昇降モータ、42 リードスクリュー、44 移動ブロック、46 移動体、48 ガイドレール、50 リニアスケール、100 半導体チップ、102 チップ本体、104 バンプ、110 基板、112 電極。