(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】漬物生産方法、プログラム及び漬物生産装置
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20230728BHJP
A23B 7/155 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A23B7/10 A
A23B7/10 C
A23B7/10 D
A23B7/155
(21)【出願番号】P 2023044798
(22)【出願日】2023-03-20
【審査請求日】2023-03-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522453599
【氏名又は名称】株式会社八恵堂
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】久留島 さやか
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-107979(JP,U)
【文献】特開2006-136202(JP,A)
【文献】特開2000-116317(JP,A)
【文献】特開2001-190217(JP,A)
【文献】特開平07-264973(JP,A)
【文献】特開平04-073583(JP,A)
【文献】特開2020-174609(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0000234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を含有する漬物を生産する漬物生産装置を用いた漬物生産方法であって、
前記漬物生産装置は、
密閉容器の内部を減圧する減圧部と、
液体を用いて冷却する液冷部と、
前記減圧部及び前記液冷部を制御する制御部とを備え、
食品を塩漬けにする塩漬けステップと、
前記塩漬けステップ後の前記食品を密閉容器に入れる密閉容器ステップと、
前記制御部が前記減圧部を制御して、前記密閉容器の内部を減圧させる減圧ステップと、
前記制御部が前記液冷部を制御して、前記減圧ステップにおいて減圧された前記密閉容器ごとマイナス25℃で液体である物質を冷媒として前記食品を液冷させる液冷ステップとを含み、
前記塩漬けステップと前記液冷ステップの間に、前記食品を加熱する加熱ステップを含まないものであり、
前記液冷ステップの前に、前記液体を冷却する液体冷却ステップをさらに含み、
前記液体冷却ステップにおいて、前記液体をマイナス25℃以下の低温にするものであり、
前記液冷ステップにおいて、前記食品が目的温度範囲であるマイナス25℃以下の低温になるまで液冷を行い、
前記減圧ステップにおいて、前記密閉容器の内部を101Pa以下にする、漬物生産方法。
【請求項2】
前記密閉容器ステップの前に、前記塩漬けステップ後の前記食品を乳酸菌を含有する調味料と混ぜ合わせる混合ステップを含む、請求項1記載の漬物生産方法。
【請求項3】
乳酸菌を含有する漬物を生産する漬物生産装置であって、
前記漬物を入れる密閉容器の内部を減圧する減圧部と、
液体を用いて前記密閉容器を冷却する液冷部と、
前記減圧部及び前記液冷部を制御する制御部とを備え、
前記液冷部は、マイナス25℃で液体である物質を冷媒として有する、漬物生産装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、漬物生産方法、プログラム及び漬物生産装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な韓国式のキムチは、塩漬けして水分を抜いた白菜等の野菜と、ヤンニョムといわれる調味料とを混ぜ合わせ、常温で1日置いた後、さらに冷蔵庫で1-2日以上寝かせつつ乳酸発酵させることにより生産される(特許文献1)。
【0003】
上述のような韓国本来の製法では、ヤンニョムに含まれる魚介の塩辛が乳酸発酵を促進する。発酵が進むにつれて、濃厚なうまみとともに、酸味が生まれる。このように製造したキムチは、酸味や、発酵臭とニンニクや魚介の香りが混ざった強い臭気が伴うため、好みが分かれるところであり、特に日本では好みが分かれる。
【0004】
そこで、日本では、浅漬け製法でもキムチが作られており、浅漬けキムチ、和風キムチなどと呼ばれ、韓国式のキムチとは区別されている。浅漬けキムチは、全く発酵させていないため、又は、発酵の程度が抑えられているため、酸味や発酵臭が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、浅漬けキムチは、発酵を抑えるために漬ける期間を短くしているため、野菜に調味料を浸透させる時間も限られてしまい、野菜に調味料があまり浸透していない。また、特許文献1に記載のように、塩素系殺菌液を用いて発酵を抑える場合、乳酸菌が殺菌されてしまうことは当然として、食物の風味が損なわれることや、食した人の健康への悪影響も懸念される。
【0007】
そこで、本願発明は、酸味を抑えつつも、しっかりと調味料が浸透している乳酸菌を含有する漬物を生産できる漬物生産方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の第1の観点は、漬物を生産する漬物生産装置を用いた漬物生産方法であって、前記漬物生産装置は、密閉容器の内部を減圧する減圧部と、液体を用いて冷却する液冷部と、前記減圧部及び前記液冷部を制御する制御部とを備え、食品を塩漬けにする塩漬けステップと、前記塩漬けステップ後の前記食品を密閉容器に入れる密閉容器ステップと、前記制御部が前記減圧部を制御して、前記密閉容器の内部を減圧させる減圧ステップと、前記制御部が前記液冷部を制御して、前記減圧ステップにおいて減圧された前記密閉容器ごと前記食品を液冷させる液冷ステップとを含む、漬物生産方法である。
【0009】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の漬物生産方法であって、前記液冷ステップの前に、前記液体を冷却する液体冷却ステップをさらに含む。
【0010】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の漬物生産方法であって、前記液体は、マイナス25℃で液状であるものであり、前記液体冷却ステップにおいて、前記液体をマイナス25℃以下の低温にするものであり、前記液冷ステップにおいて、前記食品が目的温度範囲であるマイナス25℃以下の低温になるまで液冷を行う。
【0011】
本願発明の第4の観点は、第3の観点の漬物生産方法であって、前記密閉容器ステップの前に、前記塩漬けステップ後の前記食品を乳酸菌を含有する調味料と混ぜ合わせる混合ステップを含む。
【0012】
本願発明の第5の観点は、第1の観点の漬物生産方法であって、前記減圧ステップにおいて、前記密閉容器の内部を101Pa以下にする。
【0013】
本願発明の第6の観点は、密閉容器の内部を減圧する減圧部と、液体を用いて冷却する液冷部とを備える漬物生産装置の当該減圧部及び当該液冷部を制御する制御部を、第1から第5のいずれかの観点の漬物生産方法に記載の制御部として機能させるためのプログラムである。
【0014】
本願発明の第7の観点は、漬物を生産する漬物生産装置であって、前記漬物を入れる密閉容器の内部を減圧する減圧部と、液体を用いて前記密閉容器を冷却する液冷部と、前記減圧部及び前記液冷部を制御する制御部とを備える、漬物生産装置である。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の各観点によれば、液冷により急速に乳酸発酵が抑えられるため、酸味及び発酵臭が生じにくい。
【0016】
しかも、食品を入れた密閉容器の内部を減圧することにより、食品中の空気が抜けた隙間に調味料を浸透させることができる。したがって、酸味を抑えつつも、しっかりと調味料が浸透しているキムチを生産できる漬物生産方法等を提供することが可能になる。
【0017】
さらに、液冷により急速に冷凍するため、保存料や増粘剤や塩素系殺菌液(特許文献1)を漬物に入れなくても漬物を保存可能となる。結果として、漬物に含まれる乳酸菌が保存料や増粘剤や塩素系殺菌液の悪影響を受けることなく、活発な状態で漬物と共に保存される。したがって、漬物が食された後に、従来よりも活性化した状態の乳酸菌が腸まで届き、従来以上に健康増進の役割を果たすことが可能となる。
【0018】
また、液冷により急速に冷凍することにより、食品中の水分を微細な氷結晶にすることができ、食品の細胞組織を破壊せずに凍結できるため、食品の食感が損なわれにくい。野菜であればシャキシャキとした食感を保つことができる。
【0019】
さらに、液冷により急速に冷凍することにより、食品中の水分が凝集して大きな氷結晶になることはなく、食品全体に微細な氷結晶が分散された状態になる。そのため、解凍時に氷結晶があった部分にできる空洞も食品全体に分散された状態でできるため、調味料が食品全体に均一に浸透しやすい。
【0020】
さらに、本願発明の第2の観点によれば、漬物を急冷することがさらに容易となる。そのため、食品本来の食感が従来より保たれた漬物を生産することがさらに容易となる。
【0021】
さらに、本願発明の第3の観点によれば、液冷ステップにおいて、開始から10分~15分の時間内に食品が目的温度範囲であるマイナス25℃以下の低温になるような急速冷凍を行うことが可能となる。このため、酸味を抑えつつも、しっかりと調味料が浸透しているキムチを生産できる漬物生産方法等を提供することがさらに容易となる。
【0022】
本願発明の第4の観点によれば、発酵を促進する乳酸菌を確実に導入することができる。ここで、乳酸菌が産出する乳酸は酸味を与える。そのため、乳酸菌が増加しすぎると酸味が強すぎる漬物となってしまう。そこで、従来、望ましい分だけ発酵させた後に加熱して乳酸菌を死滅させる処理が行われる。しかし、この際の加熱により漬物の風味や食感が失われている。
【0023】
しかし、本願発明によれば、導入された乳酸菌は液冷ステップにおいて活動がほぼ停止する温度まで急冷される。このため、加熱せずに過度の酸味を漬物に与えないことが可能となる。結果として、乳酸菌を用いて発酵させた漬物を生産した初日の食品の新鮮さと食感を保つことが可能となる。
【0024】
本願発明の第5の観点によれば、調味料が従来より浸透した漬物を提供することが可能になる。
【0025】
以上をまとめると、液冷により漬物を急速に冷凍することにより酸味を抑えることを含めて漬物の風味や食感を保ちつつ、従来よりも腸内で活性化する乳酸菌を維持することが可能となる。さらに、減圧することにより味の染みた漬物を生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施例に係る漬物生産装置の概要を例示するブロック図である。
【
図2】本実施例に係る漬物生産方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】複数の方法によって白菜をヤンニョムに漬け込んだ比較結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本願発明の実施例は、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
まず、本実施例に係る漬物生産方法に用いる漬物生産装置1(本願請求項における「漬物生産装置」の一例)について述べる。
図1は、本実施例に係る漬物生産装置の概要を例示するブロック図である。
【0029】
図1を参照して、漬物生産装置1は、減圧部3(本願請求項における「減圧部」の一例)と、液冷部5(本願請求項における「液冷部」の一例)と、制御部7(本願請求項における「制御部」の一例)とを備える。
【0030】
減圧部3は、漬物を入れる密閉容器の内部を減圧する。液冷部5は、漬物を入れた密閉容器を液冷により急速に冷却する。制御部7は、減圧部3及び液冷部5を制御する。
【0031】
液冷部5は、液体容器11と、液体冷却部13と、撹拌部15とを有する。
【0032】
液体容器11は、密閉容器を液冷するための冷媒を保持する容器である。液体冷却部13は、冷媒となる液体を冷却する。撹拌部15は、液体容器11に保持されている液体を低温に維持するために、並びに、冷媒と液冷される密閉容器との熱交換を促進するために、液体容器11の内部の液体を撹拌する。
【0033】
図2は、本実施例に係る漬物生産方法(本願請求項記載の「漬物生産方法」の一例)のフローを示す図である。
図2を参照して、本実施例の漬物生産方法について述べる。
【0034】
まず、塩漬けステップ(ステップS01、本願請求項における「塩漬けステップ」の一例)において、食品を塩漬けにして一定時間寝かせる。次に、塩抜きステップ(ステップS02)において、塩漬けした食品を水で洗い、塩抜きをすると同時に食品についていた汚れを落とす。続いて、水切りステップ(ステップS03)において、食品を絞るなどして水切りを行う。続いて、ヤンニョム混合ステップ(ステップS04、本願請求項における「混合ステップ」の一例)において、水切りした後の食品とヤンニョムと混ぜ合わせる。ヤンニョムは、乳酸菌を含有する調味料である。
【0035】
続いて、密閉容器ステップ(ステップS05、本願請求項における「密閉容器ステップ」の一例)において、ヤンニョムと混ぜ合わせた食品を密閉容器に入れる。ここで、密閉容器には、後述の急速冷凍に対応し得るよう、-30℃に対応する袋を用いた。続いて、真空ステップ(ステップS06、本願請求項における「減圧ステップ」の一例)において、食品を入れた密閉容器の内部を真空状態にする。本実施例では、減圧部3が密閉容器の内部を101Pa以下の真空状態にする。
【0036】
続いて、急速冷凍ステップ(ステップS07、本願請求項における「液冷ステップ」の一例)において、真空状態にした密閉容器ごと食品を急速冷凍する。具体的には、まず、漬物生産装置1の液体容器11内のメチルアルコールを液体冷却部13により冷却した(本願請求項における「液体冷却ステップ」の一例)。次に、真空状態にした密閉容器を-30℃のメチルアルコールの液中に浸漬することにより、密閉容器内の食品を目的温度範囲であるマイナス25℃~マイナス32℃まで、10~15分程で急速に冷却した。液体容器11の中では、撹拌部15が熱交換しやすいようにメタノールを対流させている。そうすると、食品の内部の水分を微細な氷結晶にすることができ、食品の細胞組織を破壊せずに凍結できるため、食品の食感が損なわれにくい。野菜であればシャキシャキとした食感を保ったまま冷凍することができる。
【0037】
また、従来は、乳酸菌及び酪酸菌の増加による味の変化や、容器内での乳酸発酵に伴うガスの発生を防ぐために、熱処理により乳酸菌を死滅させてから流通させていた。しかし、急速冷凍ステップにおいて低温にすることにより、乳酸菌を死滅させることなく、乳酸菌の活動を停止させることが可能になる。また、熱処理を行わないため、食材の食感や見た目が損なわれにくい。
【0038】
表1は、キムチに含まれる各細菌の比率を示す表である。特定の菌だけでなく本実施例のキムチに含まれる全ての菌を網羅的に解析した。表1には、未同定の菌種を含む検出された全ての細菌総数に対する各細菌の比率(%)が示されている。
【0039】
【0040】
(a)-(c)は、いずれも従来の一般的な韓国式キムチの製法によるキムチのものである。なお、(a)-(c)は、それぞれ冷蔵期間が異なる。(a)は、ヤンニョムと混ぜ合わせた後のものであって、壺に入れ冷蔵する前の状態のものである。(b)は、ヤンニョムと混ぜ合わせた後に、壺に入れ3日間冷蔵した状態のものである。(c)は、(b)と同様に壺に入れた後、7日間冷蔵した状態のものである。
【0041】
(d)-(f)は、本実施例に係る漬物生産方法によって生産したキムチであり、ステップS07における冷凍期間が7日間のものである。なお、これらのキムチは黒ニンニクを含有する。また、(d)-(f)は、それぞれ解凍後の期間が異なる。(d)は、解凍直後のキムチである。(e)は、解凍後3日目のキムチである。(f)は、解凍後7日目のキムチである。
【0042】
(g)-(i)は、本実施例に係る漬物生産方法によって生産したキムチである。(d)-(f)との違いとして、ステップS07における冷凍期間が14日間のものである。なお、(g)-(i)は、それぞれ解凍後の期間が異なる。(g)は、解凍直後のキムチである。(h)は、解凍後3日目のキムチである。(i)は、解凍後7日目のキムチである。
【0043】
表1に示される特筆すべき結果として、(d)-(i)のキムチは、パントエア属(Pantoea)、ロイコノストック科(Leuconostocaceae)の細菌比率が特に高まることが明らかになった。
【0044】
特に、ロイコノストック菌は、近年、糖尿病や肥満に効くことが明らかにされ、注目されている菌である。ロイコノストック菌(Leuconostocaceae)がキムチに含まれることは知られていたものの、ロイコノストック菌の比率を増加させる方法は、本願発明によって初めて明らかにされたことである。
【0045】
(d)-(i)のキムチの細菌比率は、本実施例に係る漬物生産方法のステップS07において冷凍することにより、低温に耐えられない菌が死滅し、低温に耐えられる菌の比率が優勢になっていると思われる。従来の一般的なキムチは、流通させる前に加熱処理又は保存料処理を行っていたため、良い菌も含めて多くの菌が死滅していた。
【0046】
ここで、パントエア属のパントエア・アグロメランス菌(Pantoea agglomerans)は、グラム陰性で、小麦や果物野菜などに共生している菌である。パントエア・アグロメランス菌の作り出す糖脂質は、低分子で、高脂血症、糖尿病、アトピー、感染防御など持つと言われている。また、マクロファージの最も効果的な活性化物質であり、葉酸を産生してパン発酵に関わる微生物の増殖に関わっていて、昔から使われている安全な微生物である。パントエア・アグロメランス菌を多く含むことから、(d)-(i)のキムチは腐敗しづらい状態であると予想される。また、冷凍することにより、天然の抗生物質といわれるパントエア菌の比率が高くなっているため、発酵しているものの、乳酸はあまり生成されない。一般的に酸っぱいとされるキムチはpHが5未満、中には4未満となっているものがある。しかし、本実施例のキムチは、pHが5.4~5.8に保たれていた。よって、本実施例に係る漬物生産方法によると、酸味が少ないキムチを生産することが可能になる。
【0047】
ロイコノストック科は、ラクトバシラス目に属するグラム陽性菌の科である。ロイコノストック科の代表な属としては、Fructobacillus、Leuconostoc、Oenococcus及びWeissellaがある。これらの3つの属に属する菌は、非芽胞形成、球菌または桿菌、嫌気性または通性嫌気性である。この科に属する菌は通常、牛乳、肉、野菜類、発酵飲料などの栄養豊富な食品環境に生息している。乳酸は、その特徴的な炭水化物代謝のヘテロ発酵での主な最終産物である。
【0048】
表1を参照して、ロイコノストック・シトレウム(Leuconostoc citreum)は、低温に耐えられる乳酸菌であり、低温でも常に発酵を続けている。表1にも、少なくとも7日間低温状態としていた(c)、(d)及び(g)では、ロイコノストック・シトレウムの菌比率が特に高いことが示されている。
【0049】
また、ステップS07において冷凍していたキムチを常温に戻すと、さらにロイコノストック・シトレウムが増えていく。悪玉菌は冷凍により死滅しているため、菌のバランス(善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランス)がよくなったものと考えられる。
【0050】
以下、
図3を参照して、本願の漬物生産方法によって漬物の素材への調味料の浸透具合が異なることを示す。
図3は、複数の方法によって白菜をヤンニョムに漬け込んだ比較結果を例示する図である。
【0051】
まず、白菜1玉の1/8サイズのものを4つ用意した(
図3(a))。続いて、それぞれを塩漬けにした(
図3(b))。2時間ほど塩漬けした後の白菜を
図3(c)に示す。続いて、減圧に耐えられる袋に塩漬けした白菜を入れて、ヤンニョム70グラムを各袋に入れた(
図3(d))。
【0052】
さらに、4つの袋に対して以下の4通りの異なる処理を行って約30分経過した後の白菜を
図3(e)に示す。具体的には、(1)ヤンニョムに漬けて放置しただけの白菜31と、(2)ヤンニョムに漬けて低い真空度で減圧した白菜33と、(3)ヤンニョムに漬けて高い真空度で減圧した白菜35と、(4)ヤンニョムに漬けて高い真空度で減圧した上に急速に冷凍した白菜37が
図3(e)に示されている。
【0053】
ここで、「低い真空度」とは、脱気包装機を用いた減圧処理による真空度を指す。具体的には、大気圧の50~60%程度の気圧を指す。また、「高い真空度」は、本実施例で記載した101Pa以下の真空状態を指す。高い真空度では、素材の内部の空気だけでなく水分もかなり抜き取られるため、調味料が素材に浸透しやすくなる。
【0054】
実際に、
図3(e)に示すように、何も処理をしていない白菜31や低い真空度で減圧した白菜33と比較して、高い真空度で減圧した白菜35及び白菜37の方が調味料が浸透していることが見てとれる。
【0055】
調味料の浸透度合いに比べて、白菜37は、急速に冷凍されたまま一定以上の期間保存されることにより、素材の新鮮度が維持されながら発酵が進むこと、しかも菌のバランスが望ましいために酸っぱくならないことが期待される。
【0056】
なお、てんさい糖やミネラルが豊富な岩塩、フルボ酸もキムチに含めることでミネラルが豊富なキムチとしてもよい。腸内環境が整うとミネラルの吸収率が改善されることにもなる。そのため、本実施例のキムチはミネラルの吸収率を高めると共にミネラルが豊富なキムチとしても健康増進に効果的である。
【符号の説明】
【0057】
1:漬物生産装置、3:減圧部、5:液冷部、7:制御部、
11:液体容器、13:液体冷却部、15:撹拌部
31:ヤンニョムに漬けただけの白菜
33:ヤンニョムに漬けて低い真空度で減圧した白菜
35:ヤンニョムに漬けて高い真空度で減圧した白菜
37:ヤンニョムに漬けて高い真空度で減圧した上に急速に冷凍した白菜
【要約】
【課題】 本願発明は、酸味を抑えつつも、しっかりと調味料が浸透しているキムチを生産できる漬物生産方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】 漬物を生産する漬物生産装置を用いた漬物生産方法であって、前記漬物生産装置は、密閉容器の内部を減圧する減圧部と、液体を用いて冷却する液冷部と、前記減圧部及び前記液冷部を制御する制御部とを備え、食品を塩漬けにする塩漬けステップと、前記塩漬けステップ後の前記食品を密閉容器に入れる密閉容器ステップと、前記制御部が前記減圧部を制御して、前記密閉容器の内部を減圧させる減圧ステップと、前記制御部が前記液冷部を制御して、前記減圧ステップにおいて減圧された前記密閉容器ごと前記食品を液冷させる液冷ステップとを含む、漬物生産方法である。
【選択図】
図2