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特許7320900ブランチライン方向性結合器および電力増幅装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】ブランチライン方向性結合器および電力増幅装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/22 20060101AFI20230728BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
H01P5/22 B
H04B1/04 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019564120
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027859
(87)【国際公開番号】W WO2020059270
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018174058
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】兼平 徹
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-207203(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0111285(US,A1)
【文献】特開2002-228692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/22
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の特性インピーダンスと、4分の1波長の長さを有する第1の線路と、
前記第1の特性インピーダンスと、4分の1波長の長さを有する第2の線路と、
一方の端部が前記第1の線路の一方の端部に接続され、他方の端部が前記第2の線路の一方の端部に接続された第1の終端開放結合線路と、
一方の端部が前記第1の線路の他方の端部に接続され、他方の端部が前記第2の線路の他方の端部に接続された第2の終端開放結合線路と、
一方の端部が第1の端子とされ、他方の端部が前記第1の線路と前記第1の終端開放結合線路との第1の接続位置に接続された第3の線路と、
一方の端部が第2の端子とされ、他方の端部が前記第1の線路と前記第2の終端開放結合線路との第2の接続位置に接続された第4の線路と、
一方の端部が第3の端子とされ、他方の端部が前記第2の線路と前記第1の終端開放結合線路との第3の接続位置に接続された第5の線路と、
一方の端部が第4の端子とされ、他方の端部が前記第2の線路と前記第2の終端開放結合線路との第4の接続位置に接続された第6の線路と、
を備え、
前記第1の終端開放結合線路は、4分の1波長の結合長さを有する2つの結合線路と、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブと、前記それぞれの結合線路の他方の端部と前記第1の接続位置または前記第の接続位置に接続された接続線路とを有し、かつ全長が2分の1波長とされ、
前記第2の終端開放結合線路は、4分の1波長の結合長さを有する2つの結合線路と、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブと、前記それぞれの結合線路の他方の端部と前記第2の接続位置または前記第の接続位置に接続された接続線路とを有し、かつ全長が2分の1波長とされ、
結合度が20dB以上である、ブランチライン方向性結合器。
【請求項2】
前記第3~第6の線路は、同一の特性インピーダンスを有する請求項1記載のブランチライン方向性結合器。
【請求項3】
前記第3~第6の線路は、同一の長さを有する請求項1または2に記載のブランチライン方向性結合器。
【請求項4】
前記第1の線路、前記第2の線路、前記第1の終端開放結合線路、前記第2の終端開放結合線路は、サスペンディッドストリップ線路である請求項1~3のいずれか1つに記載のブランチライン方向性結合器。
【請求項5】
電力増幅回路部と、
出力端子と、
出力信号モニタ端子と、
第1終端器と、
前記電力増幅回路部と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第1のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記電力増幅回路の出力端に接続され、前記第2の端子は前記出力端子に接続され、前記第3の端子は前記第1終端器に接続され、前記第4の端子は前記出力信号モニタ端子に接続される、第1のブランチライン方向性結合器と、
を備えた電力増幅装置。
【請求項6】
電力増幅回路部と、
出力端子と、
出力信号モニタ端子と、
出力レベル検出器と、
第1終端器と、
第2終端器と、
前記電力増幅回路部と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第1のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記電力増幅回路部の出力端に接続され、前記第3の端子は前記第1終端器に接続され、前記第4の端子は前記出力信号モニタ端子に接続される、第1のブランチライン方向性結合器と、
前記第1のブランチライン方向性結合器と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第2のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記第1のブランチライン方向性結合器の前記第2の端子に接続され、前記第2の端子は前記出力端子に接続され、前記第3の端子は前記第2終端器に接続され、前記第4の端子は前記出力レベル検出器に接続される、第2のブランチライン方向性結合器と、
を備えた電力増幅装置。
【請求項7】
電力増幅回路部と、
出力端子と、
出力信号モニタ端子と、
出力レベル検出器と、
反射波モニタ出力端子と、
第1終端器と、
第2終端器と、
第3終端器と、
前記電力増幅回路部と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第1のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記電力増幅回路部の出力端に接続され、前記第3の端子は前記第1終端器に接続され、前記第4の端子は前記出力信号モニタ端子に接続される、第1のブランチライン方向性結合器と、
前記第1のブランチライン方向性結合器と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第2のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記第1のブランチライン方向性結合器の前記第2の端子に接続され、前記第3の端子は前記第2終端器に接続され、前記第4の端子は前記出力レベル検出器に接続される、第2のブランチライン方向性結合器と、
前記第2のブランチライン方向性結合器と前記出力端子との間に設けられた請求項1記載の第3のブランチライン方向性結合器であって、前記第1の端子は前記第2のブランチライン方向性結合器の前記第2の端子に接続され、前記第2の端子は前記出力端子に接続され、前記第3の端子は前記反射波モニタ出力端子に接続され、前記第4の端子は前記第3終端器に接続される、第3のブランチライン方向性結合器と、を備えた電力増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ブランチライン方向性結合器および電力増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波大電力の分岐回路または合成回路、移相器などに挿入損失が少なくかつ疎結合が可能な方向性結合器が要求される。
【0003】
疎結合方向性結合器は、たとえば、ブランチライン構造において一対の分岐線路のインピーダンスを高くすることにより可能となる。
【0004】
一対の分岐線路として終端短絡結合線路を用いるとインピーダンスを高くすることが可能となる。
【0005】
しかしながら、終端短絡結合線路を構成する伝送線路として、マイクロストリップ線路を用いると挿入損失が増加する。他方、伝送線路としてサスペンディッドストリップ線路を用いると挿入損失を低減できるが、管状導体部への接地構造が機械的に複雑な構造となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平7-93526号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.W.Gipprich, “A new class of branch-line directional couplers,”IEEE MTT-S Int. Microw. Symp. Dig., pp. 589-592, June 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複雑な接地構造が不要でかつ挿入損失が低減可能なブランチライン方向性結合器および電力増幅装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のブランチライン方向性結合器は、第1の線路と、第2の線路と、第1の終端開放結合路と、第2の終端開放結合路と、第3の線路と、第4の線路と、第5の線路と、第6の線路と、を有する。前記第1の線路は、第1の特性インピーダンスと、4分の1波長の長さを有する。前記第2の線路は、前記第1の特性インピーダンスと、4分の1波長の長さを有する。前記第1の終端開放結合線路は、一方の端部が前記第1の線路の一方の端部に接続され、他方の端部が前記第2の線路の一方の端部に接続される。前記第2の終端開放結合線路は、一方の端部が前記第1の線路の他方の端部に接続され、他方の端部が前記第2の線路の他方の端部に接続される。前記第3の線路は、一方の端部が第1の端子とされ、他方の端部が前記第1の線路と前記第1の終端開放結合線路との第1の接続位置に接続される。前記第4の線路は、一方の端部が第2の端子とされ、他方の端部が前記第1の線路と前記第2の終端開放結合線路との第2の接続位置に接続される。前記第5の線路は、一方の端部が第3の端子とされ、他方の端部が前記第2の線路と前記第1の終端開放結合線路との第3の接続位置に接続される。前記第6の線路は、一方の端部が第4の端子とされ、他方の端部が前記第2の線路と前記第2の終端開放結合線路との第4の接続位置に接続される。前記第1の終端開放結合線路は、4分の1波長の結合長さを有する2つの結合線路と、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブと、前記それぞれの結合線路の他方の端部と前記第1の接続位置または前記第の接続位置に接続された接続線路とを有し、かつ全長が2分の1波長とされる。前記第2の終端開放結合線路は、4分の1波長の結合長さを有する2つの結合線路と、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブと、前記それぞれの結合線路の他方の端部と前記第2の接続位置または前記第の接続位置に接続された接続線路とを有し、かつ全長が2分の1波長とされる。結合度は20dB以上とされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は第1の実施形態にかかるブランチライン方向性結合器の等価回路図、図1(b)は終端開放結合線路の線路パターンの模式平面図、である。
図2】比較例にかかるブランチライン方向性結合器の等価回路図である。
図3】サスペンディッドストリップ線路の終端短絡構造の模式断面図である。
図4】電磁界シミュレーションを行う第1の実施形態にかかる方向性結合器の模式平面図である。
図5】第1の実施形態の具体例Aの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図6】第1の実施形態の具体例Bの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図7】第1の実施形態の具体例Cの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図8】第1の実施形態の具体例Dの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図9】第1の実施形態の具体例Eの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図10】第1の実施形態の具体例Fの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図11】第1の実施形態の具体例Gの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図12】第1の実施形態の具体例Hの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図13】第1の実施形態の具体例Iの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図14】第1の実施形態の具体例Jの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図15】第1の実施形態の具体例Lの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図16】第1の実施形態の具体例Mの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
図17図17(a)は、第3の実施形態にかかる電力増幅装置の回路構成図、図17(b)はその第1変形例の回路構成図、図17(c)はその第2変形例の回路構成図、である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態にかかるブランチライン方向性結合器の等価回路図、図1(b)は終端開放結合線路の線路パターンの模式平面図である。
ブランチライン方向性結合器50は、第1の線路1と、第2の線路2と、第1の終端開放結合線路3と、第2の終端開放結合線路4と、第3の線路9と、第4の線路10と、第5の線路11と、第6の線路12と、を有する。
【0012】
第1の線路1は、第1の特性インピーダンスZo2と、4分の1波長の長さ(電気長でθ2)を有する。また、第2の線路2は、第1の特性インピーダンスZo2と、4分の1波長の長さを有する。第1の線路1と第2の線路2とは、同等の伝送特性を有しペアをなす。なお、本明細書において、第1の線路1および第2の線路2の長さが4分の1波長であるとは、その電気長がそれぞれに81度以上かつ99度以下であるものとする。
【0013】
破線で表す第1の終端開放結合線路3は、一方の端部が第1の線路1の一方の端部5に接続され、他方の端部が第2の線路2の一方の端部7に接続される。
【0014】
破線で表す第2の終端開放結合線路4は、一方の端部が第1の線路1の他方の端部6に接続され、他方の端部が第2の線路2の他方の端部8に接続される。
【0015】
第3の線路9は、第1の線路1(の一方の端部)と第1の終端開放結合線路との第1の接続位置5と第1の端子13との間に設けられる。第4の線路10は、第1の線路1(の他方の端部)と第2の終端開放結合線路4との第2の接続位置6と第2の端子14との間に設けられる。第5の線路11は、第2の線路2(の一方の端部)と第1の終端開放結合線路3との第3の接続位置7と第3の端子15との間に設けられる。第6の線路12は、第2の線路2(の)他方の端部)と第2の終端開放結合線路4との第4の接続位置8と第4の端子16との間に設けられる。
【0016】
第3~第6の線路9~12は、同一の特性インピーダンスZo1を有する。また、第3~第6の線路9~12は、同一の長さ(電気長でθ1)を有する。
【0017】
図1(b)に表すように、第1の終端開放結合線路3は、4分の1波長(電気長で90度)の結合長さT1を有する2つの結合線路19a、19bと、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブ20a、21aの第1領域(長さT2)、開放スタブの第2領域20b、21b(長さT3)と、それぞれの結合線路の他方の端部と第1の接続位置5または第3の接続位置7に接続された接続線路17、18(長さT4)とを有し、かつ全長(=T1+T2+T3+T4)が2分の1波長とされる。
【0018】
同様に、第2の終端開放結合線路4は、4分の1波長の結合長さを有する2つの結合線路と、それぞれの結合線路の一方の端部に接続された開放スタブと、それぞれの結合線路の他方の端部と第2の接続位置6または第の接続位置8に接続された接続線路とを有し、かつ全長が2分の2波長とされる。第1の終端開放結合線路3と第2の終端開放結合線路4とは、同等の特性を有しペアをなす。
【0019】
第1の接続位置5から第1の終端開放結合線路3をみたインピーダンス、および第3の接続位置7から第1の終端開放結合線路3をみたインピーダンス、第2の接続位置6から第2の終端開放結合線路4をみたインピーダンス、および第の接続位置から第2の終端開放結合線路4をみたインピーダンスを高くすることにより、ブランチライン方向性結合器50を疎結合とすることができる。なお、本明細書において、「疎結合」とは、結合度が20dB以上であるものとする。
【0020】
第1の線路1および第2の線路幅をともにW1とする。また、第1の終端開放結合線路3の結合線路19の線路幅W19とギャップSは、結合線路の所望の偶奇モードインピーダンスになるように、電磁界シミュレータなどを用いて決定することができる。第2の終端開放結合線路4の構造も同様とする。
【0021】
本明細書において、第1の終端開放結合線路3の結合線路19a、19bの結合長さT1および第2の終端開放結合線路4の結合線路の長さT1が4分の1波長であるとは、その電気長がそれぞれに81度以上かつ99度以下であるものとする。また、本明細書において、第1の終端開放結合線路3の全長および第2の終端開放結合線路4の全長が2分の1波長であるとは、その電気長がそれぞれに140度以上かつ216度以下であるものとする。
【0022】
図2は、比較例にかかるブランチライン方向性結合器の等価回路図である。
ブランチライン方向性結合器100は、第1の線路110と、第2の線路120と、第1の終端短絡結合線路130と、第2の終端短絡結合線路140と、第3の線路190と、第4の線路191と、第5の線路192と、第6の線路193と、を有する。
【0023】
第1の線路110は、第1の特性インピーダンスZo2と、4分の1波長の長さ(電気長で90度)を有する。また、第2の線路120は、第1の特性インピーダンスZo2と、4分の1波長の長さを有する。第1の線路110と第2の線路120とは、同等の伝送特性を有しペアをなす。
【0024】
比較例では、ペアをなす分岐線路もインピーダンスを高めるために終端短絡結合線路130、140を用いる。この場合、伝送線路をマイクロストリップラインまたはストリップラインを用いると、地導体への短絡構造は容易である。但し、誘電体損失が大きくなるので方向性結合器としての挿入損失は、0.1dBよりも大きく、たとえば、1dBなどと大きくなることがある。
【0025】
図3は、サスペンディッドストリップ線路の終端短絡構造の模式断面図である。
サスペンディッドストリップ線路は、管状導体部200と、その内部に設けられた誘電体基板210と、誘電体基板210の上に設けられた中心導体部220と、を有する。管状導体部200は、上部導体202および下部導体204を有する。短絡領域は、上部導体202および下部導体204のうちの少なくとも一方と中心導体部220とを接続する短絡導体部230を含む。しかし、管状導体部200内部に配置された中心導体220と短絡導体部230とを接続する接地構造は、マイクロストリップ線路の短絡構造よりも複雑になる。すなわち、比較例の終端短絡結合線路では、簡素な接地構造とすることが困難である。
【0026】
これに対して,第1の実施形態では、サスペンディッドストリップ線路構造とすることにより、誘電体損失が低減され方向性結合器の挿入損失を0.1dB以下などに低減することが容易である。また、終端短絡構造でなく、簡素な終端開放構造で終端開放結合線路を高インピーダンスとすることができる。このため、たとえば、高出力レーダ装置や高出力移相器などに広く応用できる。
【0027】
次に、電磁界シミュレーションにより得られた本実施形態にかかる方向性結合器の具体例に関して、その高周波特性を説明する。
図4は、電磁界シミュレーションを行う方向性結合器モデルの模式平面図である。
本シミュレーションにおいて、第3の線路9に電力P1が入力される。第4の線路10から電力P2、第5の線路11から電力P3.第6の線路12から電力P4が出力されるものとする。
【0028】
電力比1は式(1)で表され、その絶対値は挿入損失IL(dB)と定義される。
【0029】
電力比1=-IL(dB)=-10log(P1/P2) 式(1)
【0030】
電力比2は式(2)で表され、その絶対値は結合度C(dB)と定義される。
【0031】
電力比2=-C(dB)=-10log(P1/P4)) 式(2)
【0032】
電力比3は式(3)で表され、その絶対値はアイソレーションIS(dB)と定義される。
【0033】
電力比3=-IS(dB)=-10log(P1/P3) 式(3)
【0034】
方向性DI(dB)は、式(4)で表される。
【0035】
DI=IS-C 式(4)
【0036】
電力比4は第1の端子13からみたリターンロスRL1(dB)である。
電力比5は第3の端子15からみたリターンロスRL2(dB)である。
電力比6は第4の端子16からみたリターンロスRL3(dB)である。
【0037】
(表1)は、本実施形態の具体例A~Jにおいて、線路長と特性との関係を表す。
【0038】

【表1】
【0039】
なお、(表1)の具体例A~Jにおいて、第1の線路1および第2の線路2の特性インピーダンスZo2はともに50Ω、線路幅W1(図1(b))は2.5mmとする。第1,第2の終端開放結合線路3、4の線路幅W19は0.5mm、ギャップS(図1(b))は0.9mmとする。これらの数値は一例であって、本実施形態の構造はこれらの数値に限定されない。また、(表1)は、中心周波数9.5GHzにおいて、結合度Cが27.1~32.7dBであるブランチライン方向性結合器の具体例である。なお、伝送線路は、サスペンディッドストリップ線路とした。
【0040】
(具体例A)
図5は、第1の実施形態の具体例Aの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
縦軸は電力比1~6(dB値)、横軸は周波数(GHz)を表す。中心周波数は、9.5GHzとする。図1(b)に表す終端開放結合線路3において、接続線路17、18の長さT4は1.2mm、結合線路19の長さT1は6.4mm、開放スタブ20、21の長さ(T2+T3)は6.8mmとする。この結果、終端開放結合線路3の長さの全長は、14.4mmとする。なおこの全長は、具体例B~Jにおいて共通の値とする。
【0041】
9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.07dB、結合度Cは31.4dB、アイソレーションISは54.6dB、方向性DIは10dB以上得られている。また、方向性DIが10dB以上得られる帯域は8.3~10.5GHzであり、比帯域幅は22.5%である。また、約8.9、10.1GHz近傍において、第1の端子13、第3の端子15、第4の端子16のリターンロスが大きく整合が取れている。このため、疎結合方向性結合器としての要求を満たしている。
【0042】
(具体例B)
図6は、第1の実施形態の具体例Bの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
伝送線路17、18の長さT4は、具体例Aよりも短くて0.7mmとされる。また、9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.08dB、結合度Cは27.1dB(やや低下)、アイソレーションISは56.1dB、となる。このため、高周波特性が低域側にシフトし、比帯域幅が40.9%と広がる。
【0043】
(具体例C)
図7は、第1の実施形態の具体例Cの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
接続線路17、18の長さT4は、具体例Aと具体例Bとの中間とされる。また、具体例Aよりも開放スタブ20a、21aの長さT2が短く,かつ開放スタブ20b、21bの長さT3が長くされる。また、9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.07dB、結合度Cは29.3dB、アイソレーションISは54.0dB、となる。具体例Aと比較して高周波特性がやや低域側にシフトする。
【0044】
(具体例D)
図8は、第1の実施形態の具体例Dの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
接続線路17、18の長さT4を具体例Aと具体例Bの間の長さとし、具体例Aよりも開放スタブ20b、21bの長さT3が長くされる。
【0045】
(具体例E)
図9は、第1の実施形態の具体例Eの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも開放スタブ20a、21aが短くされ、開放スタブ20b、21bが長くされる。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.08dB、結合度Cは29.0dB、アイソレーションISは50.9dB、比帯域幅は21.3%、となる。このため、高域側周波数が低下する(10.3GHz)。
【0046】
(具体例F)
図10は、第1の実施形態の具体例Fの向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも開放スタブ20a、21aが長くされ、開放スタブ20b、21bが短くされる。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.07dB、結合度Cは32.9dB、アイソレーションISは49.7dB、比帯域幅は23.9%、となる。このため、高域側周波数が低下する(10.3GHz)。高域側周波数が10.9GHzとなるように、具体例Aよりも周波数帯域が高域側にシフトする。
【0047】
(具体例G)
図11は、第1の実施形態の具体例Gの向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも開放スタブ20a、21aが長くされ、開放スタブ20b、21bが短くされる。さらに、その変化の程度は、具体例Fよりも大きい。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.07dB、結合度Cは32.6dB、アイソレーションISは39.9dB、比帯域幅は18.2%、となる。このため、周波数帯域が10.1~11.8GHzと高域側にシフトするが、比帯域幅が18.2%と狭くなる。
【0048】
(具体例H)
図12は、第1の実施形態の具体例Hの向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも接続線路17、18が長くされ、開放スタブ20a、21aが短くされ、開放スタブ20b、21bが短くされる。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.06dB、結合度Cは31.0dB、アイソレーションISは52.6dB、となる。周波数帯域が8.5~10.3GHz、比帯域幅が18.9%であり、具体例Aの比帯域幅よりも狭くなる。
【0049】
(具体例I)
図13は、第1の実施形態の具体例Iの向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも接続線路17、18が長くされ、開放スタブ20a、21aは同一、開放スタブ20b、21bが短くされる。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.06dB、結合度Cは31.5dB、アイソレーションISは53.6dB、となる。周波数帯域が8.5~10.4GHz、比帯域幅が19.4%であり、具体例Aの比帯域幅よりも狭くなる。
【0050】
(具体例J)
図14は、第1の実施形態の具体例Jの向性結合器の特性を表すグラフ図である。
具体例Aよりも接続線路17、18が長くされ、開放スタブ20a、21aが長くされ、開放スタブ20b、21bが短くされる。9.5GHzにおいて、挿入損失ILは0.06dB、結合度Cは32.7dB、アイソレーションISは51.9dB、となる。周波数帯域が8.8~10.6GHz、比帯域幅が18.9%であり、具体例Aの比帯域幅よりも狭くなる。
【0051】
すなわち、(表1)は、接続線路17、18の長さ、開放スタブ20、21の長さなどを変えて電磁界シミュレーションを行うことにより、RF特性(結合度、アイソレーション、周波数帯域など)を最適化できることを表している。
【0052】
次に、結合度Cが20dBおよび40dBとなる具体例について説明する。
(表2)は、結合度Cが約20dB、30dB、40dBとなる具体例L、A、Mの線路長、と特性との関係を表す。
【0053】

【表2】
【0054】
なお、具体例Aは、(表1)のモデル記号Aと同一である、その特性は図5に表される。また、(表1)と同様に、第1の線路1および第2の線路2の特性インピーダンスZo2は共に50Ω、線路幅W1(図1(b))は2.5mmとする。第1および第2の終端開放結合線路3、4の線路幅W19は0.5mmとする。結合度Cによらず、終端開放結合線路の全長(T1+T2+T3+T4)は14.4mmとする。また、第1の線路1と開放スタブ21aとの結合による影響、および第1の線路2と開放スタブ20aとの結合による影響を抑制するために、開放スタブの第2領域20b、21bの長さT3および接続線路17、18の長さT4を調整してS<T4とするとよい。なお、伝送線路は、サスペンディッドストリップラインとした。
【0055】
(具体例L)
図15は、第1の実施形態の具体例Lの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
ギャップSは0.4mmとされる。具体例A(結合度Cが約30dB)のギャップSである0.9mmよりも小さくすることにより中心周波数9.5GHzにおいて結合度Cを約21.2dBとすることができる。また、9.5GHzにおいて、挿入損ILは0.1dB、アイソレーションISは46.2dB,方向性DIは25.0dB以上得られている。
【0056】
(具体例M)
図16は、第1の実施形態の具体例Mの方向性結合器の特性を表すグラフ図である。
ギャップSは1.3mmとされる。具体例A(結合度Cが約30dB)のギャップSである0.9mmよりも大きくすることにより中心周波数9.5GHzにおいて結合度Cを41.3dBとすることができる。また、9.5GHzにおいて、挿入損ILは0.05dB、アイソレーションISは54.3dB、方向性DIは13.0dB以上得られている。具体例A、L、Mに表すように、ギャップSを大きくすることにより結合度Cを大きくすることができる。
【0057】
次に、第1の実施形態にかかるブランチライン方向性結合器50を有する電力増幅装置について説明する。
図17(a)は、第3の実施形態にかかる電力増幅装置の回路構成図、図17(b)はその第1変形例の回路構成図、図17(c)はその第2変形例の回路構成図、である。
図17(a)に表すように、電力増幅装置60は、電力増幅回路部64と、出力端子62と、出力信号モニタ端子65と、第1のブランチライン方向性結合器51と、第1終端器(終端抵抗)68と、を有する。
【0058】
電力増幅回路部64は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)などの増幅素子、その整合回路、バイアス回路、電力分岐回路、電力合成回路などを含むことができる。さらに、高調波を抑制するフィルタを終段部に有してもよい。また、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)であってもよい。
【0059】
第1のブランチライン方向性結合器(第1カプラ)51は、電力増幅回路部64と出力端子62との間に設けられる。第1のブランチライン方向性結合器51の第1の端子13は電力増幅回路部64の出力端に接続され、第2の端子14は出力端子62に接続され、第3の端子15は第1終端器68に接続され、第4の端子16は出力信号モニタ端子65に接続される。出力信号モニタ端子65を介して取り出された信号により高調波(スプリアス)成分などをモニタリングすることなどができる。
【0060】
図17(b)の第1変形例に表すように、電力増幅装置60は、電力増幅回路部64と、出力端子62と、出力信号モニタ端子65と、出力レベル検出器66と、第1のブランチライン方向性結合器(第1カプラ)51と、第2のブランチライン方向性結合器(第2カプラ)52と、第1終端器68と、第2終端器(終端抵抗)69と、を有する。第1のブランチライン方向性結合器51は、電力増幅回路部64と出力端子62との間に設けられる。第1のブランチライン方向性結合器51の第1の端子13は電力増幅回路部64の出力端に接続され、第3の端子15は第1終端器68に接続され、第4の端子16は出力信号モニタ端子65に接続される。
【0061】
第2のブランチライン方向性結合器52は、第1のブランチライン方向性結合器51と出力端子62との間に設けられる。第2のブランチライン方向性結合器52の第1の端子13は第1のブランチライン方向性結合器51の第2の端子14に接続され、第2の端子14は出力端子62に接続され、第3の端子15は第2終端器69に接続され、第4の端子16は出力レベル検出器66に接続される。出力端子62から出力される電力増幅装置60の送信出力レベルは、第4の端子16を介して出力レベル検出器66により検出される。電力増幅装置60の出力レベルが高くなると、第2のブランチライン方向性結合器52の結合度を高くすることにより、出力レベル検出器66に入力される電力を低減することができる。
【0062】
図17(c)の第2変形例に表すように、電力増幅器60は、電力増幅回路部64と、出力端子62と、出力信号モニタ端子65と、出力レベル検出器66と、反射波モニタ出力端子67と、第1のブランチライン方向性結合器(第1カプラ)51と、第2のブランチライン方向性結合器(第2カプラ)52と、第3のブランチライン方向性結合器(第3カプラ)53と、第1終端器68と、第2終端器69と、第3終端器(終端抵抗)70と、を有する。第1のブランチライン方向性結合器51の第1の端子13は電力増幅回路部64の出力端に接続され、第3の端子15は第1終端器68に接続され、第4の端子16は出力信号モニタ端子65に接続される。第2のブランチライン方向性結合器52の第1の端子13は第1のブランチライン方向性結合器51の第2の端子14に接続され、第3の端子15は第2終端器69に接続され、第4の端子16は出力レベル検出器66に接続される。第3のブランチライン方向性結合器の第1の端子13は第2のブランチライン方向性結合器52の第2の端子14に接続され、第2の端子14は出力端子62に接続され、第3の端子15は反射波モニタ端子67に接続され、第4の端子16は第3終端器70に接続される。出力端子62の後段には負荷としてアンテナなどが接続される。
【0063】
もし、負荷側に異常が生じて高出力電力がアンテナから正常に放射されない場合、負荷側で反射された電力が出力端子62を介して電力増幅装置60の内部にダメージなどを与える場合がある。第2変形例では、反射波が第3のブランチライン方向性結合器53の第3の端子15を通り反射波モニタ端子67によりモニタリングされる。すなわち、第3のブランチライン方向性結合器53は、反射波検出用であり、負荷の異常を精度良く迅速に検知することにより、電力増幅装置60の内部を保護できる。
【0064】
本実施形態によれば、複雑な接地構造が不要でかつ挿入損失が低減可能な疎結合のブランチライン方向性結合器およびこれを用いた電力増幅器が提供される。本実施形態にかかるブランチライン方向性結合器は、高出力レーダ装置、高出力移相器などに広く応用可能である。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17