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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 165/00 20060101AFI20230728BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20230728BHJP
   C10M 143/10 20060101ALN20230728BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20230728BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230728BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230728BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20230728BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
C10M165/00
C10M159/22
C10M143/10
C10M143/00
C10N40:25
C10N10:04
C10N20:02
C10N30:08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018209912
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020076004
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(72)【発明者】
【氏名】星野 耕治
(72)【発明者】
【氏名】楠原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】武藤 明男
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕充
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-163673(JP,A)
【文献】特開2014-210844(JP,A)
【文献】特開2011-184566(JP,A)
【文献】特開2017-226793(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 1/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油と、
(B)カルシウム系清浄剤としてカルシウムサリシレートを、潤滑油組成物全量基準でカルシウム量として1100質量ppm以上1900質量ppm以下と、
(C)マグネシウム系清浄剤としてマグネシウムサリシレートと、
(D)スチレン-ジエン共重合体およびエチレン-α-オレフィン共重合体から選択される少なくとも1種の粘度指数向上剤と、
(E)窒素含有分散剤と、
を含んでなり、
窒素分を潤滑油組成物全量基準で1000質量ppm以上含有する、過給機付きエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(C)マグネシウム系清浄剤の含有量が、潤滑油組成物全量基準でマグネシウム量として100質量ppm以上1000質量ppm以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(D)粘度指数向上剤が、スチレン-ジエン共重合体である、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(D)粘度指数向上剤の含有量が、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
(F)無灰系摩擦調整剤をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(G)モリブデン含有化合物をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
(H)摩耗防止剤としてアルキルリン酸亜鉛をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
100℃における動粘度が、4.0mm/s以上12.5mm/s未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
150℃におけるHTHS粘度が、1.7mPa・s以上3.5mPa・s未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
粘度指数向上剤として、ポリ(メタ)アクリレートを含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
ガソリンおよびディーゼルエンジン兼用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
ディーゼルエンジン用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳細には、内燃機関用の潤滑油組成物、特に、過給機付きエンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内燃機関には、小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応など、様々な要求がなされており、省燃費性を目的とした内燃機関用潤滑油組成物が種々検討されている。特に、自動車用内燃機関の燃費低減を目的として、従来の自然吸気ガソリンエンジンを、過給機を備えたより排気量の低いエンジン(過給ダウンサイジングエンジン)で置き換えることが提案されている。過給ダウンサイジングエンジンにおいては、過給機を備えることにより、出力を維持しながら排気量を低減し、省燃費化を図ることが可能である。その一方で、過給ダウンサイジングエンジンにおいては、低回転域でトルクを高めていくと、予定されたタイミングよりも早くシリンダ内で着火が起きる現象(LSPI:Low Speed Pre-Ignition(低速プレイグニッション))が起きる場合がある。LSPIが起きるとエネルギー損失が増え、燃費改善および低速トルク向上の制約となるだけでなく、エンジンの損傷にもつながる。
【0003】
ところで、上述した内燃機関用潤滑油組成物には、様々な性能を満たすために、例えば、潤滑油基油に、摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤等、種々の添加剤が配合される(特許文献1参照)。上記のLSPIの発生には、潤滑油の影響が疑われているため、潤滑油にLSPIの発生を抑制する機能が求められている。しかし、例えば、LSPI発生頻度を減らすためにカルシウム系清浄剤の量を減らした場合、潤滑油組成物の清浄分散性が悪化する傾向にある。
【0004】
また、モリブデンやリンを含む添加剤は、LSPI発生頻度を減らす傾向にあると考えられているが、モリブデンを有する摩擦調整剤、リンを有する摩耗防止剤は、高温で分解してデポジットとなる恐れがある。そのため、LSPI発生頻度を減らすためにモリブデンを有する摩擦調整剤やリンを有する摩耗防止剤の量を増やすと、高温清浄性が低下するという問題がある。すなわち、LSPIを防止する技術と潤滑油組成物に必要とされる性能を確保する技術は背反となることがあり、これらを共に達成する技術が求められている。そこで、LSPI発生頻度を低下させるために、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、およびリンの量が特定の関係式を満たし、かつ、カルシウムおよびマグネシウムの量と無灰分散剤由来の窒素の量が特定の関係式を満たす潤滑油組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-155492号公報
【文献】特開2015-163673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、潤滑油の低粘度化に伴い、過給機におけるコーキングがさらに問題視されており、またディーゼルエンジンにおける過給機はガソリンエンジンと比較して高温に曝され易く、潤滑油の耐コーキング性(耐熱性)がさらに要求されている。
【0007】
しかしながら、本発明者等は、特許文献2に記載の発明を検討した結果、カルシウム系清浄剤とマグネシウム系清浄剤を併用した潤滑油組成物においては、粘度指数向上剤としてポリ(メタ)アクリレートを用いた場合、耐コーキング性が不十分であることを知見した。したがって、本発明の目的は、本発明は、耐コーキング性、LSPI抑制能、および高温清浄性をバランスよく備えることが可能な過給機付きエンジン用潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、カルシウム系清浄剤とマグネシウム系清浄剤を併用した潤滑油組成物において、粘度指数向上剤として特定のポリマーを用い、かつ、窒素量を特定の範囲内に調節することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)潤滑油基油と、
(B)カルシウム系清浄剤を、潤滑油組成物全量基準でカルシウム量として1100質量ppm以上1900質量ppm以下と、
(C)マグネシウム系清浄剤と、
(D)スチレン-ジエン共重合体およびエチレン-α-オレフィン共重合体から選択される少なくとも1種の粘度指数向上剤と、
(E)窒素含有分散剤と、
を含んでなり、
窒素分を潤滑油組成物全量基準で700質量ppm以上含有する、過給機付きエンジン用潤滑油組成物。
[2] 前記(B)カルシウム系清浄剤が、カルシウムサリシレートである、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記(C)マグネシウム系清浄剤が、マグネシウムサリシレートである、[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記(C)マグネシウム系清浄剤の含有量が、潤滑油組成物全量基準でマグネシウム量として100質量ppm以上1000質量ppm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5] 前記(D)粘度指数向上剤が、スチレン-ジエン共重合体である、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記(D)粘度指数向上剤の含有量が、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上20質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] (F)無灰系摩擦調整剤をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] (G)モリブデン含有化合物をさらに含む、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[9] (H)摩耗防止剤としてアルキルリン酸亜鉛をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[10] 100℃における動粘度が、4.0mm/s以上12.5mm/s未満である、[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[11] 150℃におけるHTHS粘度が、1.7mPa・s以上3.5mPa・s未満である、[1]~[10]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[12] 粘度指数向上剤として、ポリ(メタ)アクリレートを含まない、[1]~[11]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[13] 窒素分の含有量が、組成物全量基準で1000質量ppm以上である、[1]~[12]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[14] ガソリンおよびディーゼルエンジン兼用である、[1]~[13]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[15] ディーゼルエンジン用である、[1]~[13]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明による潤滑油組成物は、耐コーキング性、LSPI抑制能、および高温清浄性をバランスよく備えることができる。このような潤滑油組成物は、高度な耐コーキング性を要求される過給機付きエンジン用途として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[潤滑油組成物]
本発明による潤滑油組成物は、少なくとも、(A)潤滑油基油と、(B)カルシウム系清浄剤と、(C)マグネシウム系清浄剤と、(D)粘度指数向上剤と、(E)窒素含有分散剤とを含んでなり、さらに、(F)無灰系摩擦調整剤、(G)モリブデン含有化合物、および(H)摩耗防止剤等を含んでもよい。本発明による潤滑油組成物は、内燃機関、特に過給機付きエンジンに好適に用いることができるものである。また、本発明による潤滑油組成物は、ガソリンおよびディーゼルエンジン兼用として用いることもできるし、ディーゼルエンジン用として用いることもできる。以下、本発明による潤滑油組成物を構成する各成分について詳述する。
【0012】
[(A)潤滑油基油]
潤滑油基油は、特に限定されるものではなく、例えば、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製したパラフィン系基油、およびノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油、ならびにこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)~(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン系原油および/または混合系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン系原油および/または混合系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)~(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)~(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)~(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0014】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0015】
さらに、潤滑油基油としては、上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解基油
(10)上記基油(1)~(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化基油。脱ろう工程としては接触脱ろう工程を経て製造された基油が好ましい。
【0016】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を適当な段階でさらに行ってもよい。
【0017】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM-5、ゼオライトベータ、SAPO-11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0018】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1~20MPa、平均反応温度150~450℃、LHSV0.1~3.0hr-1、水素/油比50~20,000scf/bとすることが好ましい。
【0019】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは2.0mm/s以上であり、より好ましくは2.5mm/s以上であり、さらに好ましくは3.0mm/s以上であり、さらにより好ましくは3.5mm/s以上であり、また、好ましくは8.0mm/s以下であり、より好ましくは7.0mm/s以下であり、さらに好ましくは6.0mm/s以下であり、さらにより好ましくは5.0mm/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、十分な省燃費性が得られ、また、潤滑箇所での油膜形成が良好に行われて潤滑性に優れる。なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された100℃での動粘度を意味する。
【0020】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0mm/s以上であり、より好ましくは8.0mm/s以上であり、さらに好ましくは10mm/s以上であり、さらにより好ましくは15mm/s以上であり、また、好ましくは40mm/s以下であり、より好ましくは30mm/s以下であり、さらに好ましくは25mm/s以下、さらにより好ましくは20mm/s以下である。潤滑油基油の40℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、十分な省燃費性が得られ、また、潤滑箇所での油膜形成が良好に行われて潤滑性に優れる。なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された40℃での動粘度を意味する。
【0021】
潤滑油基油の粘度指数は、好ましくは100以上であり、より好ましくは110以上であり、さらに好ましくは120以上である。粘度指数が上記数値範囲内であれば、潤滑油組成物の粘度-温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が良好となり、摩擦係数を低下させ、また、摩耗防止性を向上させることができる。なお、本明細書において「粘度指数」とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0022】
潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下であり、より好ましくは0.850以下であり、さらに好ましくは0.840以下である。なお、本明細書において15℃における密度とは、JIS K 2249-1995に準拠して測定された15℃での密度を意味する。
【0023】
潤滑油基油の流動点は、好ましくは-10℃以下であり、より好ましくは-12.5℃以下であり、さらに好ましくは-15℃以下である。流動点が上記数値範囲内であれば、潤滑油組成物全体の低温流動性を向上させることができる。なお、本明細書において「流動点」とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0024】
潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量は好ましくは100質量ppm以下であり、より好ましくは50質量ppm以下であり、さらに好ましくは10質量ppm以下である。なお、本明細書において「硫黄分」とは、JIS K 2541-2003に準拠して測定された流動点を意味する。
【0025】
潤滑油基油の%Cは、好ましくは70以上であり、より好ましくは75以上であり、さらに好ましくは80以上である。潤滑油基油の%Cが上記数値範囲内であれば、粘度-温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が良好となり、また、添加剤の溶解性が良好となる。
【0026】
潤滑油基油の%Cは、好ましくは30以下であり、より好ましくは25以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは15以下である。また潤滑油基油の%Cは、好ましくは1以上であり、より好ましくは4以上である。潤滑油基油の%Cが上記数値範囲内であれば、粘度-温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が良好となり、また、添加剤の溶解性が良好となる。
【0027】
潤滑油基油の%Cは、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。潤滑油基油の%Cが上記数値範囲内であれば、粘度-温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が良好となる。
【0028】
本明細書において%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238-85に準拠した方法(n-d-M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cは0を超える値を示し得る。
【0029】
潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは21質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度-温度特性および熱・酸化安定性を向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。さらに、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省燃費性の向上を達成することができる。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。
【0030】
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記ASTM D 2007-93に記載された方法の他、ASTM D 2425-93に記載の方法、ASTM D 2549-91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0031】
潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、さらにより好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であり、0質量%であってもよい。芳香族分の含有量が上記数値範囲内であれば、粘度-温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、さらには揮発防止性および低温粘度特性が良好となる。
【0032】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007-93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、さらにはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0033】
潤滑油基油として、API基油分類のグループII基油、グループIII基油、グループIV基油、若しくはグループV基油、又はそれらの混合基油を好ましく用いることができる。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。APIグループIV基油はポリα-オレフィン基油である。APIグループV基油はエステル系基油である。
【0034】
潤滑油基油としては、合成系基油を用いてもよい。合成系基油としては、ポリα-オレフィンおよびその水素化物、イソブテンオリゴマーおよびその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等が挙げられ、中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2~32、好ましくは炭素数6~16のα-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。
【0035】
ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含む触媒のような重合触媒の存在下、α-オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0036】
潤滑油基油は、潤滑油基油全体として、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。
【0037】
潤滑油組成物における潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物がマルチグレード油である場合には、潤滑油組成物全量基準で通常70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、また通常90質量%以下である。潤滑油組成物がシングルグレード油である場合には、潤滑油組成物全量基準で通常80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、また通常95質量%以下である。
【0038】
[(B)カルシウム系清浄剤]
カルシウム系清浄剤としては、例えば、フェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これらの清浄剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
フェネート系清浄剤としては、以下の式(1)で示される構造を有する化合物のカルシウム塩の過塩基性塩を好ましく例示できる。
【0040】
【化1】
【0041】
式(1)中、Rは炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基またはアルケニル基を表し、mは重合度であって1~10の整数を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH-)基を表し、xは1~3の整数を表す。なお、Rは2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。式(1)におけるRの炭素数は、好ましくは9~18であり、より好ましくは9~15である。Rの炭素数が上記数値範囲内であれば、溶解性や耐熱性が良好になる。また、式(1)における重合度mは、好ましくは1~4である。重合度mがこの範囲内であることにより、耐熱性を高めることができる。
【0042】
スルホネート系清浄剤としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400~1500であり、より好ましくは700~1300である。
【0043】
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0044】
サリシレート系清浄剤としては、カルシウムサリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。カルシウムサリシレートとしては、以下の式(2)で表される化合物を好ましく例示できる。
【0045】
【化2】
【0046】
上記式(2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはカルシウムを表す。nは1又は2を表し、好ましくは1であるが、n=1の化合物とn=2の化合物との混合物であってもよい。なおn=2である場合、Rは異なる基の組み合わせであってもよい。サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記一般式(2)においてn=1であるカルシウムサリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0047】
カルシウムサリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、カルシウムの酸化物や水酸化物等のカルシウムの塩基を反応させること、または、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからカルシウム塩と金属交換させること等により、カルシウムサリシレートを得ることができる。
【0048】
カルシウム系清浄剤は、炭酸塩(炭酸カルシウム)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(ホウ酸カルシウム)で過塩基化されていてもよい。
【0049】
カルシウムの炭酸塩で過塩基化されたカルシウム系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、カルシウム系清浄剤(カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート等)の中性塩をカルシウムの塩基(カルシウムの水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0050】
カルシウムのホウ酸塩で過塩基化されたカルシウム系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸もしくは無水ホウ酸またはホウ酸塩の存在下で、カルシウム系清浄剤(カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート等)の中性塩をカルシウムの塩基(カルシウムの水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0051】
カルシウム系清浄剤としては、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート、またはこれらの組み合わせを用いることができ、カルシウムサリシレートを用いることが好ましい。
【0052】
カルシウム系清浄剤の全塩基価は、特に限定されず、好ましくは20mgKOH/g以上であり、より好ましくは50mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは100mgKOH/g以上であり、また、好ましくは500mgKOH/g以下であり、より好ましくは400mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは350mgKOH/g以下である。カルシウム系清浄剤の全塩基価が上記数値範囲内であれば、潤滑油に必要な酸中和性を保つことができ、高温清浄性をさらに向上させることができる。なお、2種以上のカルシウム系清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。なお、全塩基価は、ASTM D2896により測定される値である。
【0053】
潤滑油組成物におけるカルシウム系清浄剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、カルシウム量として1100質量ppm以上1900質量ppm以下であり、好ましくは1150質量ppm以上であり、より好ましくは1200質量ppm以上であり、また、好ましくは1850質量ppm以下であり、より好ましくは1800質量ppm以下である。カルシウム系清浄剤の含有量が上記数値範囲内であれば、耐コーキング性およびLSPI抑制能を保ちながら、高温清浄性を向上させることができる。
【0054】
[(C)マグネシウム系清浄剤]
マグネシウム系清浄剤としては、例えば、フェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これらの清浄剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
フェネート系清浄剤としては、以下の式(3)で示される構造を有する化合物のマグネシウム塩の過塩基性塩を好ましく例示できる。
【0056】
【化3】
【0057】
式(3)中、Rは炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基またはアルケニル基を表し、mは重合度であって1~10の整数を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH-)基を表し、xは1~3の整数を表す。なお、Rは2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。式(3)におけるRの炭素数は、好ましくは9~18であり、より好ましくは9~15である。Rの炭素数が上記数値範囲内であれば、溶解性や耐熱性が良好になる。また、式(3)における重合度mは、好ましくは1~4である。重合度mがこの範囲内であることにより、耐熱性を高めることができる。
【0058】
スルホネート系清浄剤としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のマグネシウム塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400~1500であり、より好ましくは700~1300である。
【0059】
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0060】
サリシレート系清浄剤としては、マグネシウムサリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。マグネシウムサリシレートとしては、以下の式(4)で表される化合物を好ましく例示できる。
【0061】
【化4】
【0062】
上記式(4)中、Rはそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはマグネシウムを表す。nは1又は2を表し、好ましくは1であるが、n=1の化合物とn=2の化合物との混合物であってもよい。なおn=2である場合、Rは異なる基の組み合わせであってもよい。サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記一般式(4)においてn=1であるマグネシウムサリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0063】
マグネシウムサリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、マグネシウムの酸化物や水酸化物等のマグネシウムの塩基を反応させること、または、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからマグネシウム塩と金属交換させること等により、マグネシウムサリシレートを得ることができる。
【0064】
マグネシウム系清浄剤は、炭酸塩(炭酸マグネシウム)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(ホウ酸マグネシウム)で過塩基化されていてもよい。
【0065】
マグネシウムの炭酸塩で過塩基化されたマグネシウム系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、マグネシウム系清浄剤(マグネシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート等)の中性塩をマグネシウムの塩基(マグネシウムの水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0066】
マグネシウムのホウ酸塩で過塩基化されたマグネシウム系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸もしくは無水ホウ酸またはホウ酸塩の存在下で、マグネシウム系清浄剤(マグネシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート等)の中性塩をマグネシウムの塩基(マグネシウムの水酸化物、酸化物等)と反応させることにより得ることができる。
【0067】
マグネシウム系清浄剤としては、マグネシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、またはこれらの組み合わせを用いることができ、マグネシウムサリシレートを用いることが好ましい。
【0068】
マグネシウム系清浄剤の全塩基価は、特に限定されず、好ましくは20mgKOH/g以上であり、より好ましくは50mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは100mgKOH/g以上であり、また、好ましくは500mgKOH/g以下であり、より好ましくは400mgKOH/g以下である。マグネシウム系清浄剤の全塩基価が上記数値範囲内であれば、潤滑油に必要な酸中和性を保つことができ、高温清浄性をさらに向上させることができる。なお、2種以上のマグネシウム系清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。なお、全塩基価は、ASTM D2896により測定される値である。
【0069】
潤滑油組成物におけるマグネシウム系清浄剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、マグネシウム量として好ましくは100質量ppm以上であり、より好ましくは200質量ppm以上であり、さらに好ましくは300質量ppm以上であり、また、好ましくは1000質量ppm以下であり、より好ましくは900質量ppm以下であり、さらに好ましくは800質量ppm以下である。マグネシウム系清浄剤の含有量が上記数値範囲内であれば、耐コーキング性およびLSPI抑制能を保ちながら、高温清浄性をさらに向上させることができる。
【0070】
[(D)粘度指数向上剤]
粘度指数向上剤としては、スチレン-ジエン共重合体およびエチレン-α-オレフィン共重合体を挙げることができ、スチレン-ジエン共重合体を用いることが好ましい。また、これらの粘度指数向上剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの粘度指数向上剤を用いることで、LSPI抑制能および高温清浄性を保ちながら、耐コーキング性を向上させることができる。
【0071】
スチレン-ジエン共重合体は、モノマー単位として、スチレンおよびその水素化物から選ばれる1種または2種以上のスチレン系モノマーと、ジエンおよびその水素化物から選ばれる1種または2種以上のジエン系モノマーとを含む。ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレンが挙げられる。
【0072】
スチレン-ジエン共重合体におけるスチレン系モノマー単位の含有量は、モノマー単位全量基準で、例えば、1~30モル%であってよく、または5~20モル%であってよい。また、スチレン-ジエン共重合体におけるジエン系モノマー単位の含有量は、モノマー単位全量基準で、例えば、70~99モル%であってよく、または80~95モル%であってよい
【0073】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、モノマー単位として、エチレンおよび炭素数3以上のα-オレフィンを含む。炭素数3以上のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンが挙げられ、プロピレンが好ましい。
【0074】
エチレン-α-オレフィン共重合体におけるエチレン単位の含有量は、モノマー単位全量基準で、例えば、30~80モル%であってよく、35~75モル%であってよく、または40~70モル%であってよい。また、エチレン-α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィン単位の含有量は、モノマー単位全量基準で、例えば、20~70モル%であってよく、25~65モル%であってよく、または30~60モル%であってよい。
【0075】
潤滑油組成物は、粘度指数向上剤としてポリ(メタ)アクリレートを含まないことが好ましい。潤滑油組成物がポリ(メタ)アクリレートを含まないことで、耐コーキング性をさらに向上させることができる。
【0076】
粘度指数向上剤のディーゼルインジェクター法におけるPSSI(永久せん断安定性指数)は、好ましくは40以下であり、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは30以下であり、また、通常0超である。PSSIが上記数値範囲内であれば、せん断安定性を保ち、また、省燃費性が良好となり、使用後の動粘度やHTHS粘度を一定以上に保つことができる。なお、本明細書において、「PSSI」とは、ASTM D 6022-01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D 6278-02(Test Method for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。
【0077】
粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは50,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、さらにより好ましくは200,000以上であり、また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下であり、さらに好ましくは500,000以下である。粘度指数向上剤の重量平均分子量が上記数値範囲内であれば、十分な粘度指数向上効果が得られ、省燃費性に優れ、また、適度な粘度増加効果や、せん断安定性や潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性に優れるものとなる。
【0078】
粘度指数向上剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは20.0質量%以下であり、より好ましくは15.0質量%以下であり、さらに好ましくは10.0質量%以下である。粘度指数向上剤の含有量が上記数値範囲内であれば、粘度-温度特性に優れながら、耐コーキング性をさらに向上させることができる。
【0079】
[(E)窒素含有分散剤]
窒素含有分散剤(以下、「(E)成分」ということがある。)は、特に限定されず、例えば、以下の(E-1)~(E-3)から選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。
(E-1)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドまたはその誘導体(以下において「成分(E-1)」ということがある。)、
(E-2)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンまたはその誘導体(以下において「成分(E-2)」ということがある。)、
(E-3)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンまたはその誘導体(以下において「成分(E-3)」ということがある。)。
【0080】
(E)成分としては、成分(E-1)を特に好ましく用いることができる。
成分(E-1)のうち、アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドとしては、下記式(5)または式(6)で表される化合物を例示できる。
【0081】
【化5】
【化6】
【0082】
式(5)中、Rは炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を示し、hは1~5、好ましくは2~4の整数を示す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0083】
式(6)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。RおよびRは特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0~4、好ましくは1~3の整数を示す。RおよびRの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0084】
式(5)、式(6)におけるR~Rの炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R~Rの炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0085】
式(5)および式(6)におけるアルキル基またはアルケニル基(R~R)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基またはアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
【0086】
式(5)および式(6)におけるアルキル基またはアルケニル基(R~R)の数平均分子量は、好ましくは800~3500である。
【0087】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。本発明の潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミドおよびビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0088】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではなく、例えば、炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100~200℃で反応させて得たアルキルコハク酸またはアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、およびペンタエチレンヘキサミンを例示できる。
【0089】
成分(E-2)のうち、アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミンとしては、下記式(7)で表される化合物を例示できる。
【0090】
【化7】
【0091】
式(7)中、Rは炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基を表し、jは1~5、好ましくは2~4の整数を表す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0092】
成分(E-2)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、またはエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0093】
成分(E-3)のうちアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミンとしては、下記式(8)で表される化合物を例示できる。
【0094】
【化8】
【0095】
式(8)中、Rは炭素数40~400以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、kは1~5、好ましくは2~4の整数を表す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0096】
成分(E-3)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテンまたはエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0097】
成分(E-1)~成分(E-3)における誘導体としては、例えば、(i)上述のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、ベンジルアミンまたはポリアミン(以下「上述の含窒素化合物」という。)に、脂肪酸等の炭素数1~30のモノカルボン酸、炭素数2~30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2~6のアルキレンオキサイド、またはヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、含酸素有機化合物による変性化合物;(ii)上述の含窒素化合物にホウ酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、ホウ素変性化合物;(iii)上述の含窒素化合物にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部または全部が中和またはアミド化されている、リン酸変性化合物;(iv)上述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させることにより得られる、硫黄変性化合物;および、(v)上述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせて施すことにより得られる変性化合物が挙げられる。
【0098】
(E)成分の分子量には特に制限は無いが、(E-1)成分の重量平均分子量は、好ましくは1000~20000であり、より好ましくは2000~10000である。
【0099】
(E)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。(E)成分の含有量が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の耐コーキング性を十分に向上させることができる。また(E)成分の含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性を向上させることができる。
【0100】
[(F)無灰系摩擦調整剤]
無灰摩擦調整剤は、特に限定されず、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられている化合物を用いることができる。無灰摩擦調整剤としては、例えば、分子中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含有する、炭素数6~50の化合物が挙げられる。さらに具体的には、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6~30の直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基、分岐アルキル基、または分岐アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
【0101】
無灰摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が上記数値範囲内であれば、摩擦低減効果が向上し、また、摩耗防止剤などの効果を阻害せず、添加剤の溶解性を保つことができる。
【0102】
[(G)モリブデン含有化合物]
モリブデン含有化合物(以下において「(G)成分」ということがある。)としては、例えば、(G1)モリブデンジチオカーバメート(硫化モリブデンジチオカーバメートまたは硫化オキシモリブデンジチオカーバメート。以下において「(G1)成分」ということがある。)を用いることができる。特に、(G1)成分としては、下記式(9)で表される化合物を用いることができる。
【化9】
【0103】
上記一般式(9)中、R10~R13は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基または炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基または炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基若しくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。Y~Yはそれぞれ独立に硫黄原子または酸素原子であり、Y~Yのうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0104】
(G1)成分以外のモリブデン含有化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等。)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等。)またはその他の有機化合物との錯体等;および、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等の、硫黄を含むモリブデン含有化合物を挙げることができる。なお、モリブデン含有化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。
【0105】
また、(G1)成分以外のモリブデン含有化合物として、構成元素として硫黄を含まないモリブデン含有化合物を用いることも可能である。構成元素として硫黄を含まないモリブデン含有化合物としては、具体的には、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン-アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0106】
(G)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として、好ましくは10質量ppm以上であり、好ましくは100質量ppm以上であり、また、好ましくは2000質量ppm以下であり、より好ましくは1000質量ppm以下であり、さらに好ましくは500質量ppm以下である。(G)成分の含有量が上記数値範囲内であれば、摩擦低減効果を向上させ、LSPI抑制能をさらに向上させることができる。
【0107】
[(H)摩耗防止剤]
摩耗防止剤は、特に限定されず、潤滑油用の摩耗防止剤として通常用いられている化合物を用いることができる。摩耗防止剤としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄-リン系の摩耗防止剤等が使用できる。具体的には、摩耗防止剤としては、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0108】
これらの摩耗防止剤の中でも、リン系摩耗防止剤が好ましく、特に、下記式(10)で示されるジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【化10】
【0109】
式(10)中、R14~R17は、それぞれ独立に炭素数1~24の直鎖状又は分枝状のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R14~R17の炭素数は好ましくは3以上であり、また好ましくは12以下であり、より好ましくは8以下である。また、R14~R17は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100~30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省燃費性を向上させることができる。
【0110】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R14~R17に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより合成することができる。
【0111】
摩耗防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。摩耗防止剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分な摩耗防止効果を得ることができる。
【0112】
[(I)酸化防止剤]
酸化防止剤は、特に限定されず、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられている化合物を用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が挙げられ、アミン系酸化防止剤が好ましい。アミン系酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン等の公知のアミン系酸化防止剤を用いることができる。フェノール系酸化防止剤としては例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等の公知のフェノール系酸化防止剤を用いることができる。
【0113】
酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。酸化防止剤の含有量が上記数値範囲内であれば、十分な酸化防止効果を得ることができる。
【0114】
[その他の成分]
潤滑油組成物は、上記の(A)~(I)成分以外にも、潤滑油組成物に通常使用される、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0115】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、および多価アルコールエステル等が挙げられる。防錆剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0116】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0117】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、およびポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0118】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0119】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1,000~100,000mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリチレート、および、o-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0120】
[潤滑油組成物の物性]
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4.0mm/s以上であり、より好ましくは5.0mm/s以上であり、さらに好ましくは5.5mm/s以上であり、さらにより好ましくは6.1mm/s以上であり、また、12.5mm/s未満であり、より好ましくは11.5mm/s未満であり、さらに好ましくは10.0mm/s未満であり、さらにより好ましくは9.3mm/s未満である。潤滑油組成物の100℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、低温粘度特性が良好となり、十分な省燃費性が得られ、また、潤滑箇所での油膜形成が良好に行われて潤滑性に優れる。
【0121】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは20.0mm/s以上であり、より好ましくは25.0mm/s以上であり、さらに好ましくは30.0mm/s以上であり、さらにより好ましくは35.0mm/s以上であり、また、80.0mm/s未満であり、より好ましくは70.0mm/s未満であり、さらに好ましくは60.0mm/s未満であり、さらにより好ましくは55.0mm/s未満である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が上記数値範囲内であれば、低温粘度特性が良好となり、十分な省燃費性が得られ、また、潤滑箇所での油膜形成が良好に行われて潤滑性に優れる。
【0122】
潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは120以上であり、より好ましくは130以上であり、さらに好ましくは140以上であり、また、通常、300以下であってもよい。潤滑油組成物の粘度指数が上記数値範囲内であれば、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性を向上させることができる。
【0123】
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、好ましくは1.7mPa・s以上であり、より好ましくは1.8mPa・s以上であり、さらに好ましくは1.9mPa・s以上であり、さらにより好ましくは2.0mPa・s以上であり、また、好ましくは3.5mPa・s以下であり、より好ましくは3.2mPa・s以下であり、さらに好ましくは2.9mPa・s以下であり、さらにより好ましくは2.6mPa・s以下である。潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度が上記数値範囲内であれば、潤滑性や燃費性能が良好となる。なお、本明細書において「150℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D-4683に準拠して測定された150℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0124】
潤滑油組成物中の硫黄分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以下である。潤滑油組成物中の硫黄分の含有量が上記数値範囲内であれば、熱・酸化安定性を向上することができる。
【0125】
潤滑油組成物中の窒素分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、700質量ppm以上であり、好ましくは800質量ppm以上であり、より好ましくは900質量ppm以上であり、さらに好ましくは1000質量ppm以上であり、また、好ましくは3000質量ppm以下であり、より好ましくは2500質量ppm以下であり、さらに好ましくは2000質量ppm以下である。潤滑油組成物中の窒素分の含有量が上記数値範囲内であれば、耐コーキング性を保ちながら、省燃費性を向上させることができる。
【0126】
潤滑油組成物の蒸発損失量は、好ましくはNOACK蒸発量で15質量%以下であり、より好ましくは14質量%以下であり、さらに好ましくは13質量%以下であり、特に好ましくは12質量%以下である。潤滑油組成物のNOACK蒸発量を上記上限値以下とすることにより、潤滑油の蒸発損失を小さく抑えることができ、粘度増加等を抑制することができる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【実施例
【0127】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
[潤滑油組成物の調製]
以下に示す潤滑油基油および各種添加剤を用いて、表1および2に記載の配合で、本発明の潤滑油組成物(実施例1~10)および比較用の潤滑油組成物(比較例1~6)をそれぞれ調製した。表1および2中、「inmass%」は潤滑油基油全量を基準とする質量%を表し、「mass%」は潤滑油組成物全量を基準とする質量%を表し、「massppm」は潤滑油組成物全量を基準とする質量ppmを表す。
【0129】
[(A)潤滑油基油]
・A-1:水素化分解基油(Group III、SKルブリカンツ製YUBASE(登録商標)4、密度(15℃):0.836、動粘度(40℃):19.6mm/s、動粘度(100℃):4.2mm/s、粘度指数:122、流動点:-15℃、硫黄分:10質量ppm未満、%C:80.7、%C:19.3、%C:0)
なお、潤滑油基油の量は、潤滑油組成物の全量を100質量%とし、各添加剤を差し引いた残部である。
【0130】
[添加剤]
[(B)カルシウム系清浄剤]
・B-1:過塩基性炭酸カルシウムサリシレート(アルキル基鎖長14-18、Ca含有量:8.0mass%、全塩基価220mgKOH/g)
【0131】
[(C)マグネシウム系清浄剤]
・C-1:過塩基性炭酸マグネシウムサリシレート(アルキル基鎖長14-18、Mg含有量:7.6mass%、全塩基価340mgKOH/g)
【0132】
[(D)粘度指数向上剤]
・D-1:スチレン-ジエン共重合体系粘度指数向上剤(Mw=430,000、PSSI=25)
・D-2:エチレン-プロピレン共重合体系粘度指数向上剤(Mw=400,000、PSSI=24)
・D-3:非分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(Mw=380,000、PSSI=25)
【0133】
[(E)窒素含有分散剤]
・E-1:非ホウ酸変性型ポリブテニルコハク酸ビスイミド(Mw=5200、N含有量:1.4質量%)
【0134】
[(F)無灰系摩擦調整剤]
・F-1:グリセリンモノオレート
【0135】
[(G)モリブデン含有化合物]
・G-1:モリブデンアミン(Mo含有量:10mass%、N含有量:1.2mass%)
【0136】
[(H)摩耗防止剤]
・H-1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP、第2級アルキル基タイプ、上記式(10)中、R14~R17の炭素数:いずれも6、Zn含有量:9.3質量%、P含有量:8.5質量%、S含有量:18質量%)
【0137】
[(I)酸化防止剤]
・I-1:ジフェニルアミン
【0138】
[潤滑油組成物の物性]
実施例1~10および比較例1~6の各潤滑油組成物について、下記の通り、各種物性を測定した。結果を表1および2に示す。
・動粘度(40℃、100℃):ASTM D-445に準拠して測定した。
・粘度指数:JIS K 2283-1993に準拠して測定した。
・HTHS粘度(150℃):ASTM D-4683に準拠して測定した。
・油中の元素分(B、Ca、K、Mg、Mo、Zn、P、Zn)の含有量:JIS K 0116-2014に準拠して測定した。
・硫黄分の含有量:JIS K 2541-2003に準拠して測定した。
・窒素分の含有量:JIS K 2609-1998に準拠して測定した。
【0139】
【表1】
【0140】
【表2】
【0141】
[潤滑油組成物の性能評価]
実施例1~10および比較例1~6の各潤滑油組成物について、下記の性能評価を行った。評価結果を表3および4に示した。
【0142】
[耐コーキング性の評価]
(パネルコーキングテスト)
潤滑油組成物について、パネルコーキングテストを行った。試験方法の詳細を以下に記載する。
スプラッシャーを備えた試験容器に潤滑油組成物300mLを入れ、アルミ製パネルを取り付けた。試料油とパネルを油温100℃、パネル温度300℃になるまで加熱した。条件温度に達した時点でスプラッシャーを1000rpmで回転させパネルに油をはねかけた。はねかけは15秒、次いで45秒停止のサイクルで行った。3時間後にアルミパネルに付着したカーボンなどの質量(mg)を測定した。
結果は数値が低いほど耐コーキング性が良いことを示す。
【0143】
[LSPI抑制能の評価]
LSPI抑制能を評価するため、潤滑油組成物のLSPI頻度指標を算出した。これはSAE Paper 2014-01-2785で報告された下記式(11)で示される回帰式である。
LSPI頻度指標=6.59×Ca-26.6×P-5.12×Mo+1.69 (11)
(式(11)中、Caは組成物中のカルシウム含有量(質量%)を表し、Pは組成物中のリン含有量(質量%)を表し、Moは組成物中のモリブデン含有量(質量%)を表す。)
結果はLSPI頻度指標が低いほどLSPI抑制能が良いことを示す。
【0144】
[高温清浄性の評価]
(ホットチューブテスト)
潤滑油組成物について、JPI-5S-55-99に準拠してホットチューブテストを行った。試験方法の詳細を以下に記載する。
内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物を0.3ミリリットル/時で、空気を10ミリリットル/秒で、ガラス管の温度を280℃に保ちながら16時間流し続けた。ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付けた。
評点が高いほど高温清浄性が良いことを示す。評点が7.0以上であれば高温清浄性が良好であると言える。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
実施例1~10の潤滑油組成物は、耐コーキング性、LSPI抑制能、および高温清浄性において良好な結果を示した。
一方で、粘度指数向上剤として従来のエンジン油と同様のポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を用いた比較例1および2の潤滑油組成物は、耐コーキング性において劣った結果を示した。
カルシウム含有量が過大である比較例3の潤滑油組成物は、LSPI抑制能において劣った結果となった。
カルシウム含有量が過少である比較例4の潤滑油組成物、マグネシウムを含有しない比較例5の潤滑油組成物、および潤滑油組成物中の窒素含有量が過少である比較例6の潤滑油組成物は、いずれも高温清浄性において劣った結果となった。