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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/16 20060101AFI20230728BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230728BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230728BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230728BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230728BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20230728BHJP
【FI】
A61K31/16
A61K31/4745
A61K31/517
A61K31/5377
A61K31/7088
A61K35/28
A61K38/16 ZNA
A61K48/00
A61P7/00
A61P43/00 105
C12N5/10
A61K45/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018560889
(86)(22)【出願日】2017-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017062197
(87)【国際公開番号】W WO2017198868
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-19
(31)【優先権主張番号】1608944.3
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(73)【特許権者】
【識別番号】511262290
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン イーティーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カジャステ-ラドニツキ,アンナ クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ピラス,フランセスコ
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-521813(JP,A)
【文献】特開2015-000064(JP,A)
【文献】J.Biol.Chem.,2011年,Vol.286,pp.12693-12701
【文献】Human Gene Therapy,2015年,Vol.26, No.10,A103 P261
【文献】Cytotherapy,2011年,Vol.13,pp.1164-1171
【文献】Molecular Therapy,2015年,Vol.23,pp.352-362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
C12N 5/00- 5/28
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組込み欠損ウイルスベクターにより形質導入された造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着の能力を増加させるための組成物であって、該組成物はp53活性化の阻害剤を含み
該阻害剤は管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドであり
前記ATMキナーゼ阻害剤は、KU-55933;KU-60019、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、ならびに、ATMキナーゼ遺伝子を標的とするsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAからなる群より選択され、
前記造血幹細胞および/または前駆細胞は、組込み欠損ウイルスベクターと同時に、及び/又は組込み欠損ウイルスベクターより前に、p53活性化の阻害剤と接触され、かつ、
害が一過性である、前記組成物。
【請求項2】
p53活性化の阻害剤が、配列番号6と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するp53ドミナントネガティブペプチドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
p53活性化の阻害剤がGSE56である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記p53活性化の阻害剤が約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組込み欠損ウイルスベクターが組込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
組込み欠損ウイルスベクターにより形質導入された造血幹細胞および/または前駆細胞の単離集団において細胞生存及び/又は生着の能力を増加させるためのp53活性化阻害剤の使用であって、前記阻害剤が血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドであり、
前記ATMキナーゼ阻害剤は、KU-55933;KU-60019、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、ならびに、ATMキナーゼ遺伝子を標的とするsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAからなる群より選択され、
前記造血幹細胞および/または前駆細胞は、組込み欠損ウイルスベクターと同時に、及び/又は組込み欠損ウイルスベクターより前に、p53活性化の阻害剤と接触され、かつ、
阻害が一過性である、前記使用。
【請求項7】
p53活性化の阻害剤が、配列番号6と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するp53ドミナントネガティブペプチドである、請求項に記載の使用。
【請求項8】
p53活性化の阻害剤がGSE56である、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
前記p53活性化の阻害剤が約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、請求項6~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記組込み欠損ウイルスベクターが組込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項6~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
組込み欠損ウイルスベクターで造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入するエクスビボまたはインビトロ方法であって、以下のステップ:
(a)前記細胞集団をp53活性化阻害剤と接触させるステップであって、前記p53活性化阻害剤が血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドであるステップ;ならびに
(b)前記組込み欠損ウイルスベクターで前記細胞集団に形質導入するステップ
を含み、
前記組込み欠損ウイルスベクターにより形質導入された前記造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着の能力が増加し、
前記ATMキナーゼ阻害剤は、KU-55933;KU-60019、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、ならびに、ATMキナーゼ遺伝子を標的とするsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAからなる群より選択され、
前記造血幹細胞および/または前駆細胞は、組込み欠損ウイルスベクターと同時に、及び/又は組込み欠損ウイルスベクターより前に、p53活性化の阻害剤と接触され、かつ、
害が一過性である、前記方法。
【請求項12】
p53活性化の阻害剤が、配列番号6と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するp53ドミナントネガティブペプチドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
p53活性化の阻害剤がGSE56である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記p53活性化の阻害剤が約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルスベクターで前記細胞集団に形質導入する約30分~約4時間前に、前記細胞集団を前記p53活性化の阻害剤と接触させる、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組込み欠損ウイルスベクターが組込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記造血幹細胞および/または前駆細胞の集団が、動員末梢血、骨髄、または臍帯血から得られる、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
造血幹細胞および/または前駆細胞について前記集団を濃縮するさらなるステップを含む、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
遺伝子治療のための医薬の製造における、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団の使用であって、前記造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は請求項11~18のいずれか一項に記載の方法にしたがってエクスビボまたはインビトロにて形質導入されたものであり、かつ、前記医薬が被験体に投与されるためのものである、前記使用。
【請求項20】
前記形質導入細胞が、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一部として被験体に投与されるためのものである、請求項19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞および前駆細胞の遺伝的改変に関する。特に、本発明は、ウイルスベクターで形質導入された造血幹細胞および前駆細胞の生存及び生着を増大させる薬剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
造血系は、種々の成熟細胞系譜の細胞の複雑な階層である。これらは病原体からの保護を与える免疫系の細胞、体に酸素を運ぶ細胞および創傷治癒に関与する細胞を含む。これらの成熟細胞は総て、自己再生能を有し、いずれの血液細胞系譜へも分化が可能な造血幹細胞(HSC)のプールに由来する。HSCは造血系全体を補充する能力を有する。
【0003】
造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation)(HCT)は、いくつかの遺伝性障害および後天性障害のための治癒的療法である。しかしながら、同種HCTは、適合ドナーの利用可能性の低さ、同種法に伴う死亡率(ほとんどが移植片対宿主病(GvHD)および重度で長期持続的な免疫不全状態によって引き起こされる感染性合併症に関連する)によって制限されている。
【0004】
遺伝的に改変された自己HSCの移植に基づく遺伝子療法アプローチは、同種HCTよりも潜在的に向上した安全性および有効性を与える。このようなアプローチは適合ドナーのいない患者に特に関連している。
【0005】
幹細胞遺伝子療法の概念は、比較的少数の幹細胞の遺伝子改変に基づく。これらは、自己再生を受けて体内で長期持続し、遺伝的に「矯正された」後代を生成する。これにより、その患者の生涯の残りの間、矯正された細胞の連続的供給が保証されうる。HSCは、それらが分化する際にそれらの遺伝子改変が血液細胞系譜の総てに受け渡されることから、遺伝子療法の特に魅力的な標的である。さらに、HSCは、例えば、骨髄、動員末梢血および臍帯血から容易かつ安全に得ることができる。
【0006】
HSCおよびその後代の効率的で長期的な遺伝子改変は、HSC機能に影響を与えることなく、ゲノム内に矯正用DNAを安定して組み込むことを可能にする技術の恩恵を受ける。したがって、γ-レトロウイルス、レンチウイルス、およびスプーマウイルスなどの組換えウイルス系の組み込みの使用がこの分野の中心となっていた(Chang, A.H. et al. (2007) Mol. Ther. 15: 445-56)。アデノシンデアミナーゼ重症複合免疫不全(ADA-SCID; Aiuti, A. et al. (2009) N. Engl. J. Med. 360: 447-58)、X連鎖重症複合免疫不全(SCID-X1; Hacein-Bey-Abina, S. et al. (2010) N. Engl. J. Med. 363: 355-64)およびウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS; Boztug, K. et al. (2010) N. Engl. J. Med. 363: 1918-27)のためのγ-レトロウイルスに基づく臨床試験において、治療上の恩恵がすでに達成されている。さらに、レンチウイルスは、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD; Cartier, N. et al. (2009) Science 326: 818-23)およびベータ-サラセミア(Cartier, N. et al. (2010) Bull. Acad. Natl. Med. 194: 255-264; discussion 264-258)の治療において、送達ビヒクルとして使用されており、近年は異染性白質ジストロフィー(MLD; Biffi, A. et al. (2013) Science 341: 1233158)およびWAS(Aiuti, A. et al. (2013) Science 341: 1233151)にも使用された。
【0007】
レトロウイルスおよびレンチウイルスをベースとするベクターの使用に加えて、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)などの他のウイルス由来のベクターも、造血幹細胞および前駆細胞の改変に利用することができる。
【0008】
この分野においてかなりの進展が遂げられたとはいえ、造血幹細胞および前駆細胞の遺伝子改変に使用される方法には困難が残る。特に、必要とされる高用量ベクターの複数ヒット、および既存の方法に伴う長期のエクスビボの形質導入時間は、形質導入された造血幹細胞および前駆細胞の培養中の生存に問題を生じ、それらの生物学的性質に影響を及ぼす可能性がある。さらに、形質導入細胞の生着の改善は、臨床用途に大いに利益となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Chang, A.H. et al. (2007) Mol. Ther. 15: 445-56
【文献】Aiuti, A. et al. (2009) N. Engl. J. Med. 360: 447-58
【文献】Hacein-Bey-Abina, S. et al. (2010) N. Engl. J. Med. 363: 355-64
【文献】Boztug, K. et al. (2010) N. Engl. J. Med. 363: 1918-27
【文献】Cartier, N. et al. (2009) Science 326: 818-23
【文献】Cartier, N. et al. (2010) Bull. Acad. Natl. Med. 194: 255-264; discussion 264-258
【文献】Biffi, A. et al. (2013) Science 341: 1233158
【文献】Aiuti, A. et al. (2013) Science 341: 1233151
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、標準的な自然免疫経路を作動させる代わりに、レンチウイルスベクター(LV)による形質導入が、ヒト造血幹細胞および前駆細胞において、血管拡張性失調症変異(ATM)依存性DNA損傷応答を誘導することを見出した。本発明者らは、この誘導が、ベクターDNAの合成および核内移行を必要とするが、ゲノムの組み込みには非依存的であることを観察した。同様に、非組み込み性のアデノ随伴ウイルス(AAV)DNAがp53シグナリングを誘導することが観察される一方、ガンマレトロウイルス形質導入は、細胞質RNAセンシングによってI型IFN応答を引き起こすことが判明した。
【0011】
さらに本発明者らは、LV媒介性シグナリングが、培養に際して、造血幹細胞および前駆細胞の増殖遅延、G0停止、およびアポトーシスのわずかな増加をもたらすことを見出した。これらの急性の反応は、インビボで限定的な細胞用量において、形質導入された細胞の生着を低下させたが、長期的な影響または競合的な不利益は検出されなかった。
【0012】
これらの知見に基づいて、本発明者らは、ATMの阻害がp53活性化を妨げ、部分的に、造血幹細胞および前駆細胞のインビトロアポトーシスならびにインビボ生着をレスキューすることを実証した。
【0013】
理論に縛られたくはないが、本発明者らの知見は、例えばp53のリン酸化(例えばセリン15における)の阻害による、より詳細には、そうしたリン酸化を触媒するキナーゼ(例えばATMキナーゼ、ならびに血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR))の阻害による、p53活性化の阻害が、造血幹細胞および前駆細胞に基づく遺伝子治療のための方法を改善することを示唆している。
【0014】
したがって、一態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療における使用のための、p53活性化の阻害剤を提供する。
【0015】
一実施形態において、阻害剤は、p53リン酸化の阻害剤である。別の実施形態では、阻害剤は、p53セリン15リン酸化の阻害剤である。
【0016】
造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療は、例えば、ムコ多糖症I型(MPS-1)、慢性肉芽腫性疾患(CGD)、ファンコニ貧血(FA)、鎌状赤血球症、ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)、白血球接着不全(LAD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)、GM2ガングリオシドーシス、サラセミア、および癌からなる群より選択される疾患の治療とすることができる。
【0017】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞移植に伴う好中球減少症の低減または予防における使用のための、p53活性化阻害剤を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させる使用のための、p53活性化阻害剤を提供する。
【0019】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の単離集団を培養する方法における、p53活性化阻害剤の使用を提供する。一実施形態において、阻害剤は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させる。
【0020】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の単離集団をウイルスベクターで形質導入する方法における、p53活性化阻害剤の使用を提供する。一実施形態において、阻害剤は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させる。
【0021】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の単離集団における細胞生存を増加させるための、p53活性化阻害剤の使用を提供する。
【0022】
一実施形態において、阻害剤は、p53リン酸化の阻害剤である。別の実施形態では、阻害剤は、p53セリン15リン酸化の阻害剤である。
【0023】
好ましい実施形態において、阻害剤は、血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤である。別の実施形態では、阻害剤は、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤である。
【0024】
一実施形態において、阻害剤はp53ドミナントネガティブペプチドである。一実施形態において、阻害剤はGSE56である。
【0025】
一実施形態において、細胞を阻害剤に暴露したとき、阻害剤がない場合に比べて、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%または75%、好ましくは少なくとも10%多い細胞が、一定期間(例えば、約6時間または12時間、または1、2、3、4、5、6、または7日間以上、好ましくは約2日間)の培養中に生存する。好ましくは、この期間は、ウイルスベクターによる細胞の形質導入から始まる。
【0026】
一実施形態において、阻害剤は、特にインビトロ培養中に、造血幹細胞および/または前駆細胞におけるアポトーシスを実質的に予防または減少させる。
【0027】
一実施形態において、細胞を阻害剤に暴露したとき、阻害剤がない場合に比べて、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%または75%、好ましくは少なくとも25%少ない細胞が、一定期間(例えば、約6時間または12時間、または1、2、3、4、5、6、または7日間以上、好ましくは約2日間)の培養後にアポトーシス細胞となる。好ましくは、この期間は、ウイルスベクターによる細胞の形質導入から始まる。
【0028】
一実施形態において、細胞を阻害剤に暴露したとき、阻害剤がない場合に比べて、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%または75%、好ましくは少なくとも10%多い移植された造血幹細胞および/もしくは前駆細胞ならびに/またはそれらの子孫細胞(例えば、移植由来細胞)が宿主被験体に生着する。
【0029】
好ましい実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞は、ヒト造血幹細胞および/または前駆細胞である。
【0030】
一実施形態において、細胞は造血幹細胞である。一実施形態において、細胞は造血前駆細胞である。一実施形態において、細胞は短期再増殖細胞である。一実施形態において、細胞は長期再増殖細胞である。
【0031】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞はCD34+細胞である。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞はCD34+CD38-細胞である。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞は、CD34+CD38+細胞である。
【0032】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、CD34+細胞を含むか、CD34+細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+細胞からなる。細胞集団は、特定の細胞の亜集団、例えばCD34+CD38-細胞亜集団についてさらに濃縮することができる。
【0033】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞集団は、CD34+CD38-細胞を含むか、CD34+CD38-細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+CD38-細胞からなる。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞集団は、CD34+CD38+細胞を含むか、CD34+CD38+細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+CD38+細胞からなる。
【0034】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞はウイルスベクターにより形質導入される。例えば、ウイルスベクターにより形質導入された造血幹細胞および/または前駆細胞において、生存および/または生着が増加する。
【0035】
別の態様において、本発明は、細胞集団をp53活性化阻害剤と接触させるステップを含む、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を培養する方法を提供する。
【0036】
別の態様において、本発明は、ウイルスベクターで造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法を提供し、この方法は以下のステップを含む:
(a)細胞集団をp53活性化阻害剤と接触させるステップ;および
(b)ウイルスベクターで細胞集団に形質導入するステップ。
【0037】
一実施形態において、阻害剤は、p53リン酸化の阻害剤である。別の実施形態では、阻害剤は、p53セリン15リン酸化の阻害剤である。
【0038】
好ましい実施形態において、阻害剤は、血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤である。別の実施形態において、阻害剤は、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤である。
【0039】
一実施形態において、阻害剤はp53ドミナントネガティブペプチドである。一実施形態において、阻害剤はGSE56である。
【0040】
造血幹細胞および/または前駆細胞は、例えば、インビトロで、もしくはエクスビボ手順の一部として、阻害剤と接触させること、および/または、ウイルスベクターで形質導入することができる。したがって、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法の一実施形態において、ステップ(a)および(b)は、エクスビボまたはインビトロで実施される。
【0041】
好ましくは、阻害は一過性である(エクスビボ形質導入時のp53シグナリングの一過性阻害は、約25%だけ生着を改善し、形質導入細胞と対照ウイルス暴露細胞とで同レベルの、末梢血液中で検出されるヒトCD45+細胞を生じた)。
【0042】
一実施形態において、阻害剤は、可逆的阻害剤などの、一過性阻害剤である(例えば約1、2、3、4、5、6、7、または14日未満の間持続する阻害作用を有する)。好ましくは、細胞は、約1~48時間もしくは1~24時間、好ましくは1~24時間、阻害剤に暴露される。細胞は、例えば、ウイルスベクターと同時に、またはウイルスベクターより前に、阻害剤に暴露することができる。
【0043】
好ましい実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞は、ヒト造血幹細胞および/または前駆細胞である。
【0044】
一実施形態において、細胞は造血幹細胞である。一実施形態において、細胞は造血前駆細胞である。一実施形態において、細胞は短期再増殖細胞である。一実施形態において、細胞は長期再増殖細胞である。
【0045】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞はCD34+細胞である。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞はCD34+CD38-細胞である。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞は、CD34+CD38+細胞である。
【0046】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、CD34+細胞を含むか、CD34+細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+細胞からなる。細胞集団は、例えばCD34+CD38-細胞などの、特定の細胞亜集団についてさらに濃縮することができる。
【0047】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、CD34+CD38-細胞を含むか、CD34+CD38-細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+CD38-細胞からなる。一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、CD34+CD38+細胞を含むか、CD34+CD38+細胞が濃縮されているか、または実質的にCD34+CD38+細胞からなる。
【0048】
一実施形態において、阻害剤は、KU-55933もしくはその誘導体;KU-60019、BEZ235、ウォルトマンニン(wortmannin)、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、KU-559403、AZD6738もしくはその誘導体;またはsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAである。好ましくは、阻害剤はKU-55933またはその誘導体である。
【0049】
一実施形態において、阻害剤(例えば、KU-55933またはその誘導体)は、(例えば、インビトロまたはエクスビボ培養中の)造血幹細胞および/または前駆細胞に、約1~50、1~40、1~30、1~20、または1~15μM、好ましくは約1~15μMの濃度で加えられる。別の実施形態では、阻害剤(例えば、KU-55933またはその誘導体)は、約5~50、5~40、5~30、5~20または5~15μM、好ましくは約5-15μMの濃度で、造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる。
【0050】
一実施形態において、阻害剤(例えば、KU-55933またはその誘導体)は、(例えば、インビトロまたはエクスビボ培養中の)造血幹細胞および/または前駆細胞に、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45または50μM、好ましくは約10μMの濃度で加えられる。
【0051】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞(例えば、本発明の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法のステップ(a)における細胞集団)は、細胞集団をウイルスベクターで形質導入する約30分~約4時間;約30分~約3時間;または約30分~約2時間前に、阻害剤と接触させられる。別の実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞は、細胞集団をウイルスベクターで形質導入する約1~4時間;1~3時間;または1~2時間前に、阻害剤と接触させられる。
【0052】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞(例えば、本発明の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法のステップ(a)における細胞集団)は、細胞集団をウイルスベクターで形質導入する約30分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間または4時間、好ましくは約2時間前に、阻害剤と接触させられる。
【0053】
一実施形態において、ウイルスベクターは、レンチウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。レンチウイルスベクターは、例えば、HIV-1、HIV-2、EIAV、SIVまたはFIVに由来するベクターであってもよい。好ましくは、レンチウイルスベクターは、HIV-1由来のベクターである。AAVベクターは、例えば、AAV血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11のカプシド(ベクターがウイルスベクター粒子の形態をとる場合)および/またはゲノムを含むベクターとすることができる。好ましくは、AAVベクターは、AAV血清型6カプシドおよび/またはゲノムを含むベクターである。
【0054】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、動員末梢血、骨髄、または臍帯血から得られる。
【0055】
一実施形態において、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法は、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を濃縮するさらなるステップを含む。
【0056】
別の態様において、本発明は、以下のステップを含む遺伝子治療方法を提供する:
(a) 本発明の方法にしたがって、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入するステップ;ならびに
(b) 形質導入細胞を被験体に投与するステップ。
【0057】
遺伝子治療の方法は、例えば、ムコ多糖症I型(MPS-1)、慢性肉芽腫性疾患(CGD)、ファンコニ貧血(FA)、鎌状赤血球症、ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)、白血球接着不全(LAD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)、GM2ガングリオシドーシス、サラセミア、および癌からなる群より選択される疾患の治療の方法とすることができる。
【0058】
一実施形態において、被験体は哺乳動物被験体、好ましくはヒト被験体である。
【0059】
一実施形態において、形質導入細胞は、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一部として被験体に投与される。
【0060】
別の態様において、本発明は、本発明の方法にしたがって調製された造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を提供する。
【0061】
別の態様において、本発明は、本発明の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を含む医薬組成物を提供する。
【0062】
別の態様において、本発明は、治療における使用のための本発明の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を提供する。
【0063】
一実施形態において、本発明の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一部として被験体に投与される。
【0064】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療のための医薬の製造のための、p53活性化阻害剤の使用を提供する。
【0065】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させるための医薬の製造のための、p53活性化阻害剤の使用を提供する。
【0066】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させる方法を提供し、この方法は、以下のステップを含む:
(a) 造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を、p53活性化阻害剤と接触させるステップ;ならびに
(b) ウイルスベクターで細胞集団に形質導入するステップ。
【0067】
別の態様において、本発明は、ウイルスベクターで造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法における使用のためのp53活性化阻害剤を提供する。
【0068】
阻害剤は、本明細書中に記載されるようなものとすることができる。
【0069】
別の態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させることができる薬剤をスクリーニングする方法を提供し、この方法は以下のステップを含む:
(a) 造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を候補薬剤と接触させるステップ;
(b) ウイルスベクターで細胞集団に形質導入するステップ;ならびに、任意選択で
(c) 形質導入細胞を被験体に投与するステップ。
【0070】
本明細書に記載の方法を用いて、続いて、細胞生存および/または生着を分析することができる。好ましくは、候補薬剤は、例えば本明細書に記載のキナーゼ活性アッセイを用いて、p53活性化、特にp53リン酸化、例えばセリン15リン酸化の阻害剤(例えば、好ましくはATMキナーゼ阻害剤またはATR阻害剤)として同定されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1-1】 レンチウイルスによる形質導入は、ヒトHSPCにおいてp53およびDDR転写シグナリングを誘導する。(A)RNA-Seq実験のスキーム。ヒト臍帯血(CB)由来のCD34+細胞に対する16時間のサイトカイン予備刺激の後、感染多重度(MOI)100で実験室グレード(Lab LV)または精製(精製LV)LVに暴露するか、培養下で未処理のままとするか、またはp24相当量の形質導入しないEnvなしのLV(Bald LV)、熱不活性化された精製LVもしくはポリ(I:C)に暴露した。形質導入後の異なる時間にRNAを抽出し処理した。パスウェイエンリッチメント解析の棒グラフは、(B) Bald LVとLab LVとの比較、または(C) 不活化精製LVと精製LV条件との比較から検索された、有意な(nom p値≦0.05)発現変動遺伝子に対して経時的に行った。バーの長さは、その個別のパスウェイの有意性(p値順位)を表す。さらに、色が明るいほど、そのタームの有意性が高い。(D) Lab LVとBald LV条件の間で最も有意な(nom p値≦0.01)発現変動遺伝子の経時的プロファイルを示すヒートマップ。遺伝子は意味的距離に基づいてクラスター化され、個別の条件について経時的に表される。(E) Bald LVに対してLab LV条件で発現変動する遺伝子を、KEGG p53シグナリングパスウェイにおいて赤い星印でハイライトする。(F) MOI 100(LV)にてPGK-GFP SIN LVで形質導入されたCB-CD34+細胞、または対照としてp24相当量のEnvなし(Bald)ベクターに暴露した同細胞における、p53により誘導される異なる遺伝子(p48、PUMA、p21、PHLDA3)の遺伝子発現レベルを、形質導入の48時間後に測定した。発現レベルは、HPRT1に対して標準化され、1の値に設定されたBaldに対して表示された。結果は、4つの独立した実験の平均±SEMであり、p値は1サンプルのt検定に関する(*p≦0.05;**p≦0.01;****P≦0.0001)。
図1-2】図1-1の続きである。
図1-3】図1-2の続きである。
図1-4】図1-3の続きである。
図1-5】図1-4の続きである。
図2-1】 p53の誘導は、すべてのCD34+亜集団において生じ、逆転写を必要とするが、組み込み非依存的である。(A)ソーティング実験の実験デザイン。16時間のサイトカインによる予備刺激の後、CB-CD34+を、CD133およびCD38表面マーカーの発現に基づいて選別し、幹細胞に富む画分(CD133+CD38-)と、よりコミットした前駆細胞(CD133+CD38intおよびCD133+CD38hi)とを区別した。細胞は、ソーティング後ただちに、MOI 100のPGK-GFP SIN LVで形質導入されるか、または対照としてp24相当量のBaldに暴露された。(B) 別々にソートされたCD34+亜集団(n=4);MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)、インテグラーゼ欠損LV(IDLV)、またはp24相当量のゲノムを含まない(空のLV)もしくはEnvなしの(Bald)ベクターに暴露された、(C) 全CB-CD34+(n=6)もしくは(D) 骨髄(BM)由来CD34+(BM-CD34+)細胞(n=4);(E) インテグラーゼ阻害剤ラルテグラビル(Ral)もしくは逆転写酵素阻害剤ラミブジン(3TC)存在下で形質導入されたCB-CD34+(n=4)において、p21 mRNAレベルを測定した。すべてのデータは、HPRT1に対して標準化され、1の値に設定されたBaldに対して表示された。結果は、示されるようにnの独立した実験の平均±SEMであり、p値はクラスカル・ワリス検定に関する(*p≦0.05; **p≦0.01)。(F) 形質導入後24時間の時点で、全CB-CD34+細胞抽出物について、ウェスタンブロットを行った。イムノブロットは、p53に対するリン酸化型および非リン酸化型特異的抗体、γH2AXに対するリン酸化型特異的抗体、p21に対する非リン酸化型特異的抗体、ならびにβ-アクチンに対する抗体(ローディングコントロール)を用いて、順次プローブされた。2つのゲルのうち1つを代表として示す。(G) ウェスタンブロット(左のパネル)および定量化(右のパネル)は、形質導入後24時間の時点で全mPB-CD34+細胞抽出物に対して実施した。(H) p21タンパク質アップレギュレーションは、形質導入の48時間後にFACSによって評価した。
図2-2】図2-1の続きである。
図2-3】図2-2の続きである。
図3p53誘導は能動的な核内移行を必要とする。示されるようにPGK-GFP SIN LV(LV)、中心ポリプリントラクト欠失型を欠いたPGK-GFP LV(ΔcPPT)もしくはPGK-GFP SIN RV(γ-RV)に対してMOI 100で、またはp24相当量のEnvなしの(Bald)ベクターに対して、またはMOI 10000のPGK-GFPアデノ随伴ベクター(AAV6)に対して、CB-CD34+の暴露後48時間の時点で、p21(A-B)およびIFN刺激遺伝子(IRF7、OAS1、およびISG15)(C)のmRNAレベルを測定した。すべてのデータは、HPRT1に対して標準化され、1の値に設定されたBaldに対して示されている。結果は、4以上の独立した実験の平均±SEMであり、p値はクラスカル・ワリス検定に関する(*p≦0.05;**p≦0.01;***P≦0.0001);++p≦0.01は、ウィルコクソン適合対応検定(Wilcoxon Matched paired test)に関する。
図4-1】 インビトロでのヒトHSPCにおけるLV媒介性シグナリングの機能的影響。(A) CB-CD34+細胞を細胞増殖色素で染色し、MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)、p21過剰発現LV(p21)またはp24相当量のBaldで形質導入した。細胞増殖は、図13Bに示すようにゲーティングされた異なる亜集団において、色素MFIに関して経時的に追跡された。異なる条件における経時的な細胞増殖色素MFIの代表的なヒストグラム(4つのうち1つ)を上部パネルに示す。各亜集団における形質導入2日後の色素MFIを、下部のパネルに示す。結果は、4回の独立した実験の平均±SEMであり、p値は、ウィルコクソン適合対応検定(Wilcoxon Matched paired test)に関する(*p≦0.05;**p≦0.01)。(B) MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)、p21過剰発現LV(p21)またはp24相当量のBaldによるCB-CD34+細胞の形質導入の2日後に、Anti-Ki67抗体およびHoechstを用いてFACSで細胞周期分析を行った。アポトーシス細胞用のアネキシン染色は、示されるように、(C)すべての、または(D)ソートされた、CB-CD34+を、PGK-GFP SIN LV(LV)、インテグラーゼ欠損LV(IDLV)にMOI 100で、またはp24相当量のゲノムなし(空のLV)もしくはEnvなし(Bald)に暴露した2日後に行った。(E) 非形質導入(UT)(Bald、空のLV、もしくは未処理)および形質導入(PGK-GFP SIN LV MOI 100/150)CB-CD34+細胞の画分を、半固形培養に蒔き、2週間の分化の後、白色および赤色コロニーを計数した。(F) アポトーシスに及ぼすインテグラーゼ(Ral)または逆転写酵素(3TC)阻害の影響を、全CB-CD43+において評価した。(G) CB-CD34+細胞を、形質導入の2、4および6日後に計数した。結果は、n≧4の独立した実験の平均±SEMであり、p値は、(C、D、F)ではクラスカル-ワリス検定に関するものであり(*P≦0.05;**P≦0.01;***P≦0.001)、(AおよびE)ではウィルコクソン適合対応検定(Wilcoxon Matched paired test)に関し(*P≦0.05)、(G)では日数6における2元配置分散分析(P=0.002)、及びボンフェローニの事後検定(**P≦0.01)に関する。
図4-2】図4-1の続きである。
図4-3】図4-2の続きである。
図4-4】図4-3の続きである。
図5-1】 インビボでのLV媒介性シグナリングの影響。(A)インビボ実験デザインの模式図。形質導入の24時間後に、CB-CD34+細胞を洗浄し、別々に(空のLV(n=10)、LV(n=9))、または30:70の割合のLV: 空のLV暴露細胞から構成される混合状態で(混合(n=9))、注入された。2次レシピエントは、移植後12週間で屠殺された1次マウスの骨髄から精製された900,000~1,000,000のCD34+細胞を与えられた。(B) 全ヒトCD45+細胞、ならびに(C) ヒトCD45+細胞の中の骨髄性(CD13+)細胞およびリンパ球(CD19+ B、CD3+ T)細胞を、末梢血において経時的にモニターし、(D) 屠殺時に骨髄においてモニターした。1次レシピエントの屠殺時の骨髄組成を評価した。(E) ヒトCD45+細胞におけるCD34+、CD34+38+およびCD34+CD38-の代表的なFACSプロットおよび出現頻度、ならびに(F) ヒトCD34+38-細胞におけるCD45RA-90+(HSC)、CD45RA-90-(MPP)およびCD45RA+90-(MLP)の代表的FACSプロットおよび出現頻度を示す。結果は、平均±SEMとして示され、p値は、クラスカル-ワリス検定に関する(*P≦0.05;**P≦0.01、***p≦0.0001)。(G)末梢血、ならびに(H)2次レシピエント屠殺時の骨髄におけるCD34+細胞出現頻度を示す。(I)実験デザインの模式図、ならびに末梢血において経時的にモニターされ、実験終了時に骨髄においてモニターされる全ヒトCD45+細胞のパーセンテージ。(J)移植後16時間のNSGマウスの骨髄から回収されたヒトCD34+細胞のパーセンテージおよび絶対数。(K)非形質導入(Bald)およびMOI 100形質導入(LV)CB-CD34+細胞について、LDAにより得られた、算出されたHSC出現頻度の表およびプロット。結果は、群ごとに空のLV(n=10)、LV(n=9)、および混合(n=11)2次レシピエントの平均±SEMである。HSC=造血幹細胞、MPP=多能性前駆細胞、MLP=マルチリンパ球前駆細胞。
図5-2】図5-1の続きである。
図5-3】図5-2の続きである。
図5-4】図5-3の続きである。
図5-5】図5-4の続きである。
図5-6】図5-5の続きである。
図5-7】図5-6の続きである。
図6-1】 p53シグナリングのLVに媒介される活性化は、ATM依存的である。ヒトCB-CD34+細胞に、10μM KU55933の存在下でMOI 100の、PGK-GFP SIN LV(LV)、またはEnvなし(Bald)で形質導入し、(A) p21mRNA誘導のレベル、(B)細胞アポトーシスのレベル、ならびに(C) GFP発現から見た形質導入および組み込まれたベクターコピー数(VCN)(5つのFACSプロットから代表的な1つを示す)を、暴露後48時間にモニターした。AAV6に媒介されたp21 mRNAの誘導およびアポトーシスに及ぼす、ATM阻害の影響を(D)に示す。結果は、n≧3の独立した実験の平均±SEMであり、p値は、フリードマン検定(n=6、***P≦0.001)、またはウィルコクソン適合対応検定(Wilcoxon Matched Paired test)(p≦0.01には++)に関する。(E)インビボでのATM阻害の影響を調べるための、実験デザインの模式図を示す。16時間の予備刺激の後、細胞を、KU55933の存在下、または対照としてDMSOの存在下で、MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)で、またはp24相当量のBald LVで形質導入した。形質導入の24時間後、細胞を洗浄し、亜致死的照射を受けたNSGマウスに注入した。(F)末梢血中の経時的な全ヒトCD45+細胞のパーセンテージを示す。結果は、Bald DMSO (n=8)、LV DMSO (n=10)、Bald KU55933 (n=11)およびLV KU5933 (n=11) NSGマウスの平均±SEMである。LVシグナリングの阻害はHSPCのアポトーシスおよび生着をレスキューする。(G) p53のドミナントネガティブ型(GSE56)または対照としてGFPを過剰発現するCB-CD34+において、形質導入のセカンドヒットの24時間後、およびCPT処理の6時間後に測定されたp21 mRNAレベル。(H) GSE56または対照としてのGFPを過剰発現するCB-CD34+において、(Bald、LV、もしくはAAV6ベクター)による形質導入のセカンドヒットの48時間後にアポトーシスを評価した。(I) 10μM KU55933の存在下で、それぞれ形質導入の24時間および48時間後に、全mPB-CD34+およびCB-CD34+に対して、ウェスタンブロット(左パネル)およびp21 FACS染色(右パネル)を行った。(J-L) MOI 100の臨床グレードLV、または対照としてp21相当量の不活化臨床LV(損傷を受けていないLV)の2ヒットによる形質導入後の、mPB-CD34+細胞に関する、アポトーシス、CFCアッセイ、およびp21 mRNA誘導に及ぼすATM阻害の影響。(M) 末梢血における経時的な全ヒトCD45+細胞に及ぼすATM阻害のインビボでの影響。結果は、インビトロでのn≧3の独立した実験の平均±SEMである。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001。
図6-2】図6-1の続きである
図6-3】図6-2の続きである。
図6-4】図6-3の続きである。
図6-5】図6-4の続きである。
図6-6】図6-5の続きである。
図7-1】(A)主成分分析(PCA)プロット。RNA-seq実験から得られたサンプルは、それらの最初の3つの主成分が広がる3D平面に示される。最初の3つの主成分は、データセット間の因子寄与の85%を占めた。(B)未処理条件において、有意な(nom p値≦0.05)経時的な発現変動遺伝子(5883)についてWikiPathwaysデータベースを用いて行ったパスウェイエンリッチメント解析の棒グラフ。バーの長さは、その個別のパスウェイの有意性(p値順位)を表す。さらに、色が明るいほど、そのタームの有意性が高い。
図7-2】図7-1の続きである。
図8】ポリ(I:C)に対する、未処理サンプル中の発現変動遺伝子によってハイライトされた、クラスタリングされた生物学的タームのヒートマップ。(A)ヒートマップは、遺伝子オントロジー(GO)生物学的プロセス(BP)タームの間の意味類似性を表す。行および列は、未処理とポリ(I:C)条件間の、発現変動遺伝子の経時的なタームエンリッチメント解析から得られた、濃縮されたGO BPタームのリストを示す。色は、GOSemSim Bioconductorパッケージを用いて計算された意味的距離を表す。黄赤色クラスタは、生物学的プロセスについて意味類似性を共有するタームのグループを識別する。
図9】対照に対する、形質導入サンプル中の発現変動遺伝子によってハイライトされた、クラスタリングされた生物学的タームのヒートマップ。(A)ヒートマップは、遺伝子オントロジー(GO)生物学的プロセス(BP)タームの間の意味類似性を表す。行および列は、Bald LVとLab LV条件の間の、発現変動遺伝子の経時的なタームエンリッチメント解析から得られる、濃縮されたGO BPタームのリストを示す。色は、GOSemSim Bioconductorパッケージを用いて計算された意味的距離を表す。黄赤色クラスタは、生物学的プロセスについて意味類似性を共有するタームのグループを識別する。(B) ヒートマップは、遺伝子オントロジー(GO)生物学的プロセス(BP)タームの間の意味類似性を表す。行および列は、Bald LVとLab LV条件の間の、発現変動遺伝子の経時的なタームエンリッチメント解析から得られる、濃縮されたGO BPタームのリストを示す。色は、GOSemSim Bioconductorパッケージを用いて計算された意味的距離を表す。黄赤色クラスタは、生物学的プロセスについて意味類似性を共有するタームのグループを識別する。
図10】臨床グレードLVにおけるp21誘導。(A) MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)、MOI 100の臨床グレードLV(臨床LV)、または、対照として、p24相当量のEnvなし(Bald)もしくは不活化された臨床LV(不活化臨床LV)によるCB-CD34+の形質導入から48時間後、p21 mRNAレベルを測定した。p21 mRNAはHPRT1に対して標準化され、結果は1の値に設定されたBaldに対して表示される。結果は2つの独立した実験の平均±SEMとして示される。
図11-1】LVにより誘導されるp53シグナリングの特性評価。(A) MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)を増加させて暴露した、または対照としてp24相当量のBaldに暴露した、CB-CD34+において、(左パネル)形質導入後48時間のp21 mRNAレベル、または(右パネル)形質導入3日後のベクターコピー数(VCN)を測定した。p21 mRNAはHPRT1に対して標準化した。結果は1の値に設定されたBaldに対して表示され、3つの独立した実験の平均±SEMとして示される。(B) PGK-GFP SIN LV、または対照としてp24相当量のBaldに暴露された、さまざまなヒトおよびマウス細胞株または初代細胞における、形質導入後48時間のp21 mRNAレベル。p21 mRNAは、形質導入の48時間後に測定し、ヒト細胞についてはHPRT1に対して、マウス細胞についてはHprtに対して標準化した。結果は1の値に設定された、それぞれの細胞型に関するBaldに対して表示される(赤色閾値)。(C) 細胞当りのVCNは、ソートされたCB-CD34+を示されるようにPGK-GFP SIN LV(LV)にMOI 100で、またはp24相当量のEnvなし(Bald)に暴露した14日後に行った。値は4つの独立した実験の平均±SEMである。(D) MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)、インテグラーゼ欠損LV (IDLV)、p24相当量のゲノムなし(空のLV)またはEnvなし(Bald)に暴露されたヒトCB-CD34+の形質導入3日後の全ウイルスDNAの細胞当たりのコピー数。結果を平均±SEMとして示す。(E) MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)、または、対照として、Envなし(Bald)により形質導入されたCB-CD34+のベクターコピー数の結果。形質導入は、インテグラーゼ阻害剤ラルテグラビル(Ral)または逆転写酵素阻害剤ラミブジン(3TC)の存在下で行った。対照として細胞は、DMSO中で形質導入するか、または未処理のままとした(Mock)。形質導入の14日後に組み込まれたLVゲノムについてVCNを実施し、値は4つの独立した実験の平均±SEMである。(F) MOI 100のLV、IDLV、または、対照としてp24相当量のBaldもしくは空のLVによる形質導入の5日後のCB-CD34+細胞におけるp21 mRNAレベル。(G) MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)により、または、対照として、Envなし(Bald)により形質導入されたCB-CD34+のp53およびp21に関するウェスタンブロット(WB)。インテグラーゼ阻害剤ラルテグラビル(Ral)または逆転写酵素阻害剤ラミブジン(3TC)の存在下で形質導入を行った。対照として細胞は、DMSO中で形質導入するか、または未処理のままとした(Mock)。WBは形質導入の48時間後に行った。(H) PGK-BFP LV、IDLVによる、または対照として、Baldによる形質導入の48時間後の、抗p21抗体により染色されたCB-CD34+細胞の代表的なFACSプロット。(I) 示されるベクターもしくはカンプトテシン(CPT)暴露による形質導入の12時間後にγH2AXに対して染色されたCB-CD34+細胞(左パネル)、ならびにPGK-mCHERRY LV、IDLV、p21過剰発現LV(p21 OE)、または、対照として、Baldにより形質導入された48時間後にp21に対して染色されたCB-CD34+細胞(右パネル)の免疫蛍光。(J) 1000 U/mLのヒトIFNαに24時間暴露され、MOI 100のPGK-GFP LV、または、対照として、p24相当量のBaldにより48時間形質導入された、CB-CD34+細胞におけるISG15およびp21 mRNAレベル。
図11-2】図11-1の続きである。
図11-3】図11-2の続きである。
図12】γ-RV、AAV6、およびΔcPPT (A) MOI 100のPGK-GFP SIN LV(LV)で形質導入された、または対照として、p24相当量のEnvなし(Bald)ベクターに暴露された、GFP陽性CB-CD34+のパーセンテージであり、細胞はMOI 100のPGK-GFP SIN RV、またはMOI 10000のPGK-GFP アデノ随伴ベクター(AAV6)による形質導入も受けた。組み込み型ベクターについては形質導入の5日後、AAV6についてはTD後2日で、FACSでGFP発現を評価した。結果を平均±SEMとして示す。(B) MOI 100のPGK-GFP SIN LVまたはPGK-GFP SIN RV (RV)により形質導入されたCB-CD34+、または対照として、p24相当量のEnvなし(Bald)ベクターに暴露されたCB-CD34+のベクターコピー数の結果。形質導入の3日後に全ウイルスDNAの細胞当りのコピー数を評価したが、組み込み型ベクターに関するVCNは形質導入の14日後に行った。値は平均±SEMである。LVおよびΔcPPTによる形質導入の3日後の、(C) 核内移行効率および(D) 全ウイルスDNAの比較。核内移行効率は、逆転写された全ウイルスDNAに対する2LTRサークルのパーセンテージとして記録される。293T細胞(MOI 1)(左パネル)、およびヒトCBCD34+細胞(MOI 100)(右パネル)において同じ分析を行った。値は、6つの独立した実験の平均±SEMである。(E)MOI 100のPGK-GFP SIN RV(RV)、または対照として、Envなし(Bald)により形質導入されたヒトCB-CD34+のインターフェロン刺激遺伝子の結果。形質導入は、インテグラーゼ阻害剤ラルテグラビル(Ral)、または逆転写酵素阻害剤アジドチミジン(AZT)の存在下で実施した。インターフェロン刺激遺伝子(IRF7、OAS1、ISG15)は形質導入後48時間に測定した。発現レベルはHPRT1に対して標準化され、1の値に設定されたBaldに対して示された。(F) MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)、PGK-GFP SIN RV (RV)、またはp24相当量のEnvなし(Bald)により形質導入されたマウスHSPCの、インターフェロン刺激遺伝子(IFIT1、IRF7、OAS1、およびISG15)誘導。またmock条件下での対照として、細胞は未処置のままとした。形質導入後48時間。発現レベルはHPRT1に対して標準化し、値1に設定されたmockに対して表示された。
図13-1】インビトロでのLVの影響。(A) MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)、p21過剰発現LV (p21)、またはp24相当量のBaldに暴露されたヒトCB-CD34+の形質導入の48時間後の、p21発現レベル。p21 mRNAはHPRT1に対して標準化した。結果は2つの独立した実験の平均±SEMであり、1の値に設定されたBaldに対して示される。(B) 図4Aのように処理されたCD34+細胞を分析するための代表的なゲーティングストラテジー。上のパネルは、形質導入時点でのCD34、CD133およびCD90のパーセンテージを示し、下のパネルは、形質導入の2日後の同マーカーを記載している。左側のパネルにおいて、棒グラフは、それぞれの亜集団における、形質導入時点、または形質導入の4日および6日後の細胞増殖色素のMFIを示す。結果は4つの独立した実験の平均±SEMとして示される。形質導入の2日後における図4Aのように処理された細胞の、(C) 代表的なヒストグラム、および(D)棒グラフ。LV、p21、およびBald条件について、それぞれのゲート(C1、C2、C3)内に含まれるCBCD34+細胞のパーセンテージを評価するために分析を行った。C1ゲート内の細胞の増殖は少なかったのに対して、C3内の細胞はそれより多く増殖していた。結果は4つの独立した実験の平均±SEMとして示される。(E)形質導入時点での、または形質導入の2、4、および6日後のCD34+ HSPC亜集団の分布。(F)図2Aに示すようにソーティングし、形質導入した後、CBCD34+細胞を半固形のサイトカイン含有CFC培地に蒔いた。14日後にコロニーを数量化した。亜集団ごとに800個の形質導入細胞またはbald暴露細胞あたりの全コロニーの平均±SEM(n = 4)。(G) アポトーシス細胞のアネキシンV染色は、MOIを増大させていったPGK-GFP SIN LV(LV)に暴露したヒトCB-CD34+の形質導入の2日後に行った。
図13-2】図13-1の続きである。
図13-3】図13-2の続きである。
図13-4】図13-3の続きである。
図13-5】図13-4の続きである。
図14】臨床グレードLVおよび他のベクターのインビトロでの影響。(A-B) アポトーシス細胞に対するアネキシン染色は、MOI 100のPGK-GFP SIN LV (LV)、MOI 100の臨床グレードLV (臨床LV)、MOI 10000のAAV6、およびMOI 100のPGK-GFP SINRV (RV)、または対照として、p24相当量のEnvなし(Bald)もしくは不活化された臨床LV (不活化臨床LV)に暴露したヒトCB-CD34+の形質導入の2日後に行った。2つ(A)またはn個(B)の独立した実験の平均±SEM。統計学的評価は、クラスカル・ワリス検定によって行った(*p ≦0.05; ** p ≦0.01)。
図15-1】1次および2次移植対象物の液体培養、CFU、およびインビボ形質導入。(A) 5日における形質導入効率、(C) p21 mRNA誘導後14日における(B) VCN、および(D) NSGマウス(図5)において移植された細胞の形質導入の48時間後におけるアネキシンV染色。結果は2つの独立した実験の平均±SEMである。(E) CB-CD34+細胞を半固形の、サイトカイン含有CFC培地に蒔いた。14日後にコロニーを数量化した。亜集団ごとに800個の形質導入細胞またはBald暴露細胞あたりの全コロニーの平均±SEM(n = 4)。(F) 経時的な、末梢血中のヒトCD45+細胞におけるGFP陽性細胞のパーセンテージ、ならびに(上部パネル)1次または(下部パネル)2次マウスの屠殺時点での脾臓およびBMにおける同パーセンテージ。(G) 図5Iに記載の2ヒット臨床標準プロトコルによる形質導入の14日後にmPB-CD34+の液体培養物から回収されたVCN。(H) 経時的な、末梢血中のヒトCD45+細胞における骨髄性(CD13+)、リンパ球(CD19+ B、CD3+ T)細胞のパーセンテージ、ならびに1次または2次マウスの実験終了時の脾臓およびBMにおける同パーセンテージ。(I) 実験終了時に2次レシピエントの骨髄から回収されるヒトCD34+細胞における、CD34+38+およびCD34+CD38-の出現頻度。(J) 限界希釈アッセイ(LDA)実験において、移植後16週におけるNSGマウスの骨髄中に検出されるヒトCD45+細胞のパーセンテージ(左パネル)、および同実験においてマウスに注入されたCB-CD34+細胞の実数(右パネル)。(K) インターフェロン刺激遺伝子(左パネル)KU55933 ATM阻害剤存在下でのMOI 100のPGK-SIN RVベクターによる形質導入の48時間後のCB-CD34+におけるmRNAレベル、(右パネル)MOI 100のPGK LVによりDMSOもしくはKU55933中で、もしくはMOI 100のPGK RVにより、または対照として空のRVにより、形質導入された2日後の、CB CD34+における細胞増殖アッセイ。
図15-2】図15-1の続きである。
図15-3】図15-2の続きである。
図15-4】図15-3の続きである。
図15-5】図15-4の続きである。
図15-6】図15-5の続きである。
図15-7】図15-6の続きである。
図16】インビボでのATM阻害。ヒトCD45+細胞中の、(A) 骨髄性(CD13+)およびリンパ球(CD19+ B、CD3+ T)細胞、ならびに(B) GFP+細胞を、末梢血において経時的にモニターした(D = DMSO;およびK = KU55933)。結果は、Bald DMSO (n = 8)、LV DMSO (n = 10)、ならびにBald KU55933 (n = 11) および LV KU5933 (n = 11) NSGマウスの平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の種々の好ましい特色および実施形態を以下、非限定的な例によって説明する。
【0073】
本発明の実施は、特に断りのない限り、当業者の能力の範囲内にある化学、生化学、分子生物学、微生物学および免疫学の従来技術を使用する。このような技術は文献に説明されている。例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F.M. et al. (1995 and periodic supplements) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13 and 16, John Wiley & Sons; Roe, B., Crabtree, J. and Kahn, A. (1996) DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; Polak, J.M. and McGee, J.O'D. (1990) In Situ Hybridization: Principles and Practice, Oxford University Press; Gait, M.J. (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; and Lilley, D.M. and Dahlberg, J.E. (1992) Methods in Enzymology: DNA Structures Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA, Academic Pressを参照されたい。これらの一般的テキストはそれぞれ引用により本明細書に組み入れられる。
【0074】
細胞の生存および生着
「生存」という用語は、造血幹細胞および/または前駆細胞が、インビトロまたはエクスビボ培養中に生き続けられる(例えば、死滅しない、またはアポトーシスとならない)能力を意味する。造血幹細胞および/または前駆細胞は、例えば、ウイルスベクターによる形質導入後、細胞培養中に、アポトーシスが増加する可能性がある;したがって、生存細胞は、アポトーシスおよび/または細胞死を回避した可能性がある。
【0075】
細胞生存は、当業者が容易に分析することができる。例えば、細胞培養における生細胞、死細胞、および/またはアポトーシス細胞の数を、培養の開始時点で、および/または一定期間(例えば、約6時間もしくは12時間、または1、2、3、4、5、6、もしくは7日間以上;好ましくは、その期間はウイルスベクターによる細胞の形質導入から始まる)の培養後に、定量化することができる。細胞生存に及ぼす、本発明の阻害剤のような薬剤の影響は、培養期間の開始時点および/または終了時点での、生細胞、死細胞、および/またはアポトーシス細胞の数および/またはパーセンテージを、薬剤の有無以外は実質的に同一条件下であるが、その薬剤の存在下で実施された実験と非存在下で行われた実験とで比較することによって、評価することができる。
【0076】
ある状態の細胞(例えば、生細胞、死細胞またはアポトーシス細胞)の数および/またはパーセンテージは、当技術分野で公知の数多くの方法のいずれによっても、定量化することができるが、その方法には、血球計数器、自動細胞計数器、フローサイトメーターおよび蛍光活性化セルソーターの使用を含む。これらの技術は、生細胞、死細胞および/またはアポトーシス細胞の区別を可能にすることができる。それに加えて、またはその代わりに、アポトーシス細胞は、利用しやすいアポトーシスアッセイ(例えば、露出したホスファチジルセリン(PS)に結合するアネキシンVを使用するような、細胞膜表面上のPSの検出に基づくアッセイ;アポトーシス細胞は蛍光標識されたアネキシンVの使用によって定量化することができる)を用いて検出することが可能であって、これは他の技術を補完するために使用することができる。
【0077】
「生着」という用語は、造血幹細胞および/または前駆細胞が、それらの移植後に、すなわち、移植後短期間、および/または移植後長期間、被験体において、定着して生存する能力を意味する。例えば、生着は、移植後約1日~24週間、1日~10週間、または1~30日もしくは10~30日に検出される、移植された造血幹細胞および/または前駆細胞に由来する造血細胞(例えば、移植由来細胞)の数および/またはパーセンテージを指しうる。ヒト造血幹細胞および/または前駆細胞の生着および再増殖に関する異種移植モデルにおいて、生着は、例えばヒト異種移植片に由来する細胞(例えばCD45表面マーカー陽性)のパーセンテージとして、末梢血液中で評価することができる。一実施形態において、生着は、移植後約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30日の時点で評価される。別の実施形態において、生着は、移植後約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24週間の時点で評価される。別の実施形態において、生着は、移植後約16-24週間、好ましくは20週間の時点で評価される。
【0078】
当業者は生着を容易に分析することができる。例えば、マーカー(例えば、蛍光タンパク質などのレポータータンパク質)を含有するように、移植される造血幹細胞および/または前駆細胞を操作することが可能であって、それを用いて移植片由来細胞を定量することができる。分析用サンプルを関連組織から採取し、エクスビボで分析してもよい(例えば、フローサイトメトリーを用いて)。
【0079】
P53活性化
「p53活性化」という用語は、例えばp53タンパク質の翻訳後修飾による、p53の活性の増加を意味する。翻訳後修飾の例には、リン酸化、アセチル化およびメチル化が挙げられ、Kruse, J.P. et al. (2008) SnapShot: p53 Posttranslational Modifications Cell 133: 930-931に記載されている。本発明の文脈において、p53活性化は、好ましくはp53のリン酸化に起因するものであって、詳細にはアミノ酸、セリン15におけるリン酸化が好ましい。
【0080】
このような翻訳後修飾を分析するための方法は、当技術分野で公知である(キナーゼ活性を分析するための方法の例が本明細書に開示されており、さらなる方法としては、例えば、質量分析法および抗体認識に基づく方法が挙げられる)。
【0081】
アミノ酸ナンバリング法を規定するために使用することができる、p53のアミノ酸配列の例は、以下のとおりである;
(配列番号1;NCBIアクセッション番号000537.3)
【0082】
血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ
血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ(「血管拡張性失調症変異」としても知られる)は、二本鎖DNA切断に動員され、それによって活性化される、セリン/スレオニンキナーゼである。ATMキナーゼは、DNA損傷チェックポイントの活性化を開始し、細胞周期停止、DNA修復、またはアポトーシスをもたらす多くのタンパク質(p53、CHK2、BRCA1、NBS1およびH2AXを含む)をリン酸化することが知られている。
【0083】
一実施形態において、ATMキナーゼはヒトATMキナーゼである。
【0084】
一実施形態において、ATMキナーゼのアミノ酸配列は、NCBIアクセッション番号NP_000042.3のもとに寄託された配列である。
【0085】
ATMキナーゼのアミノ酸配列の例は、以下のとおりである;
【0086】
(配列番号2)
ATMキナーゼをコードする核酸配列の例は以下のとおりである;
(配列番号3;NCBIアクセッション番号NM_000051.3)
【0087】
血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)
血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)はセリン/スレオニンプロテインキナーゼATRもしくはFRAP関連タンパク質1(FRP1)としても知られており、DNA損傷センシングに関与するセリン/スレオニン特異的キナーゼである。これは、細胞周期停止をもたらすDNA損傷チェックポイントの活性化に関与しうる。
【0088】
一実施形態において、ATRはヒトATRである。
【0089】
一実施形態において、ATRのアミノ酸配列は、NCBIアクセッション番号NP_001175.2のもとに寄託された配列である。
【0090】
ATRのアミノ酸配列の例は、以下のとおりである;
【0091】
(配列番号4)
【0092】
ATRをコードする核酸配列の例は以下のとおりである;
(配列番号5;NCBIアクセッション番号NM_001184.3)
【0093】
キナーゼ阻害剤
一態様において、本発明は、造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療における使用のための、血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、または血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤を提供する。
【0094】
本発明はまた、ATMキナーゼ阻害剤またはATR阻害剤として作用することができる薬剤を同定する方法、ならびにそうした方法によって同定された薬剤を提供する。
【0095】
ATMキナーゼおよびATRの活性は、例えばインビトロでATMキナーゼもしくはATRの酵素活性を分析することによって、直接、分析することができる。
【0096】
ATMキナーゼまたはATRを阻害する(例えば、活性を低下させる)候補薬剤の能力は、IC50値の観点から表現することが可能であるが、その値はキナーゼ活性に50%の低下を生じさせるために必要とされる薬剤の濃度である。好ましくは、本発明の阻害剤は、(例えばATMキナーゼまたはATRの)阻害について100μM未満のIC50値を有するが、より好ましくは10μM未満、例えば1μM未満、100 nM未満、または10 nM未満である(例えば、KU-55933のIC50値はATMキナーゼに対して約13 nMである)。
【0097】
キナーゼ活性を測定するために、数多くの技術が当技術分野で知られている。好ましくは、キナーゼ活性アッセイは、細胞から単離されたキナーゼ(例えばATMキナーゼまたはATR)に対して行われる。キナーゼは組換え技術によって発現されていてもよく、精製されていることが好ましい。例えば、キナーゼ活性は、[γ-32P]標識ATPから基質への、放射性標識リン酸の取り込みをモニターすることによって測定することができる。このようなアッセイ技術は、例えば、Hastieら(Hastie, C.J. et al. (2006) Nat. Protocols 1: 968-971)に記載されている。
【0098】
阻害剤は、ヒトなどの哺乳動物に対して毒性が低いこと、より詳細には、造血幹細胞および/または前駆細胞に対して毒性が低いことが好ましい。
【0099】
候補の阻害剤は、本明細書に記載の方法を用いて、細胞生存および/または生着を増加させる能力についてさらに分析することができる。
【0100】
好ましくは、阻害剤は一過性の阻害剤である(例えば、持続期間が約1、2、3、4、5、6、7、もしくは14日未満の阻害作用を有する)。
【0101】
好ましくは、阻害剤は薬理学的阻害剤である。
【0102】
KU-55933
好ましい実施形態において、阻害剤はKU-55933またはその誘導体である。
【0103】
KU-55933(CAS No. 587871-26-9)は、選択的、競合的ATMキナーゼ阻害剤であって、以下の構造を有する:
【0104】
【化1】
【0105】
本発明における使用のためのKU-55933溶液は、当技術分野で公知の常法によって調製することができ、例えばKU-55933は、DMSOおよびエタノールに可溶性であることが知られている。
【0106】
KU-55933またはその誘導体を造血幹細胞および/または前駆細胞集団に加える濃度は、細胞の生存(例えばインビトロもしくはエクスビボ培養中の)および/または生着を最適化するように、異なるベクター系に適合させることができる。
【0107】
本発明は、KU-55933およびKU-55933の誘導体の使用を包含する。本発明のKU-55933誘導体は、造血幹細胞および/または前駆細胞、特にウイルスベクターによって形質導入された細胞、の生存(例えばインビトロもしくはエクスビボ培養中の)および/または生着を増加させるものである。
【0108】
本発明のKU-55933誘導体は、例えば溶解性の増加、安定性の増加、および/または毒性の低減のために、開発されたものとすることができる。
【0109】
本発明のKU-55933誘導体は、哺乳動物、特にヒトに対して低毒性であることが好ましい。本発明のKU-55933誘導体は、造血幹細胞および/または前駆細胞に対して低毒性であることが好ましい。
【0110】
好適なKU-55933誘導体は、培養中の細胞生存および/または生着を測定するための、当技術分野で公知の方法を用いて同定することができる。そうした方法の例は上記に記載されている。使用する方法は、自動化、および/または、KU-55933誘導体候補のハイスループットスクリーニングに適した方法であることが好ましい。KU-55933誘導体候補は、KU-55933誘導体のライブラリーの一部となっていてもよい。
【0111】
追加の阻害剤
本発明に使用することができる、さらなるキナーゼ阻害剤には以下のものが挙げられる:
【0112】
KU-60019、これはKU-55933の改良型アナログであり、無細胞アッセイにおいてATMキナーゼについて6.3 nMのIC50を有する。KU-60019は以下の構造を有する:
【0113】
【化2】
【0114】
BEZ235(NVP-BEZ235, Dactolisib)、これはp110α/γ/δ/βおよびmTOR(p70S6K)に対する二重のATP競合的PI3KおよびmTOR阻害剤であって、3T3TopBP1-ER細胞において約21 nMのIC50でATRを阻害する。BEZ235は以下の構造を有する:
【0115】
【化3】
ウォルトマンニン(Wortmannin)、これは以下の構造を有する:
【0116】
【化4】
CP-466722、これは強力で可逆的なATMキナーゼ阻害剤であるが、ATRには影響を及ぼさない。CP-466722は以下の構造を有する:
【0117】
【化5】
トリン2(Torin 2)、これはATMキナーゼおよびATRにそれぞれ、28 nMおよび35 nMのEC50値を有する。トリン2(Torin 2)は以下の構造を有する:
【0118】
【化6】
【0119】
CGK 733 (CAS No. 905973-89-9)、これは強力で選択的な、ATMキナーゼおよびATRの阻害剤であって、IC50値は約200 nMである。CGK 733は以下の構造を有する:
【0120】
【化7】
【0121】
KU-559403 (Weber et al. (2015) Pharmacology & Therapeutics 149: 124-138)。KU-559403は以下の構造を有する:
【0122】
【化8】
AZD6738、これは以下の構造を有する:
【0123】
【化9】
【0124】
KU-55933誘導体について記載されるような特性を有する上記阻害剤の誘導体も、本発明に使用することが可能であって、KU-55933誘導体について記載された方法と類似した方法によって同定することができる。
【0125】
siRNA、shRNA、miRNAおよびアンチセンスDNA/RNA
阻害(例えばキナーゼの阻害)は、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を用いて達成することができる。二本鎖RNA(dsRNA)に媒介される転写後遺伝子サイレンシングは、外来遺伝子の発現を制御するための保存された細胞防御機構である。トランスポゾンやウイルスなどのエレメントのランダムな組み込みは、相同な一本鎖mRNAまたはウイルスゲノムRNAの配列特異的分解を活性化するdsRNAの発現を引き起こすと考えられる。サイレンシング効果は、RNA干渉(RNAi)として知られている(Ralph et al. (2005) Nat. Medicine 11: 429-433)。RNAiのメカニズムは、長いdsRNAの、約21~25ヌクレオチド(nt)RNAの二本鎖へのプロセシングを含む。これらの生成物は、mRNA分解の配列特異的媒介物である、低分子干渉またはサイレンシングRNA(siRNA)と呼ばれる。分化した哺乳動物細胞において、dsRNA>30 bpは、タンパク質合成のシャットダウンおよび非特異的mRNA分解をもたらすインターフェロン応答を活性化することが判明した(Stark et al. (1998) Ann. Rev. Biochem. 67: 227-64)。しかしながら、21nt siRNA二本鎖を用いることによってこの応答を回避することが可能であり(Elbashir et al. (2001) EMBO J. 20: 6877-88; Hutvagner et al. (2001) Science 293: 834-8)、培養された哺乳動物細胞において遺伝子機能を分析することを可能にする。
【0126】
shRNAは小ループ配列によって隔てられた短い逆方向RNA反復配列からなる。これらは、細胞機構によって19~22nt siRNAに迅速にプロセシングされ、それによって標的遺伝子発現が抑制される。
【0127】
マイクロRNA(miRNA)は、標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)に結合することによって、その標的mRNAの翻訳を効果的に低下させることができる、低分子(22~25ヌクレオチドの長さの)非コードRNAである。マイクロRNAは、生物において天然に生産される、非常に大きな一群の低分子RNAであって、少なくともその一部は標的遺伝子の発現を制御する。マイクロRNAファミリーの最初のメンバーはlet-7およびlin-4である。let-7遺伝子は、線虫の発生の際に内在性のタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する、高度に保存された低分子RNA種をコードする。活性のあるRNA種は、はじめに~70nt前駆体として転写され、それが転写後にプロセシングされて成熟~21nt型となる。let-7もlin-4もヘアピンRNA前駆体として転写され、それらはダイサー酵素によってその成熟型へとプロセシングされる。
【0128】
アンチセンスという概念は、細胞において、低分子の、場合によっては改変された、DNAもしくはRNA分子をメッセンジャーRNAに選択的に結合させて、コードされたタンパク質の合成を妨げることである。
【0129】
標的タンパク質の発現を調節するためのsiRNA、shRNA、miRNAおよびアンチセンスDNA/RNAをデザインする方法、ならびにこれらの物質を目的の細胞に送達するための方法は、当技術分野で周知である。
【0130】
p53ドミナントネガティブペプチド
本明細書で使用される「p53ドミナントネガティブペプチド」という用語は、同一細胞内に存在する場合に野生型p53の機能を阻害するペプチドを指しうるものであり、例えば、p53ドミナントネガティブペプチドは、p53シグナリングを低下させるか、または止めることができる。
【0131】
一実施形態において、p53ドミナントネガティブペプチドは、GSE56を含むか、またはGSE56からなる(Ossovskaya V.S. et al. (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93: 10309-10314)。
GSE56は以下のアミノ酸配列を有しうる:
【0132】
(配列番号6)
【0133】
一実施形態において、p53ドミナントネガティブペプチドは、GSE56の活性、例えばp53シグナリングを低減又は停止する活性を保持しつつ、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10アミノ酸の置換、付加又は欠失を含むGSE56のバリアントである。
【0134】
一実施形態において、p53ドミナントネガティブペプチドは、配列番号6と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、本明細書に詳述する配列番号のいずれかに対してあるパーセント同一性を有する配列への言及は、言及されている配列番号の全長にわたり記載されたパーセント同一性を有する配列を指す。
【0135】
p53ドミナントネガティブペプチド、例えばGSE56は、そのペプチドをコードするヌクレオチド配列を含有するウイルスベクター(例えばレトロウイルス、レンチウイルスまたはAAVベクター)を用いて細胞内で発現させることができる。
【0136】
造血幹細胞および前駆細胞
【0137】
幹細胞は多くの細胞種に分化することができる。総ての細胞種に分化することができる細胞は全能性として知られる。哺乳動物では、接合子と初期胚細胞だけが全能性である。幹細胞は、総てではないとしてもほとんどの多細胞生物に見られる。幹細胞は、有糸細胞分裂によりそれ自身を再生しかつ多様な範囲の特殊化した細胞種に分化する能力を特徴とする。哺乳動物幹細胞の2つの幅広いタイプとして、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚性幹細胞と成体組織に見られる成体幹細胞がある。発生中の胚で、幹細胞は特殊化した胚組織の総てに分化することができる。成体生物では、幹細胞および前駆細胞は身体の修復系として働き、特殊化した細胞を補充するだけでなく、血液、皮膚または腸管組織などの再生器官の通常のターンオーバーを維持する。
【0138】
造血幹細胞(HSC)は、例えば、末梢血、骨髄および臍帯血に見出すことができる多能性幹細胞である。HSCは自己再生能およびいずれの血液細胞系列へも分化する能力を持つ。HSCは、全免疫系、ならびに総ての造血組織(例えば、骨髄、脾臓および胸腺)の赤血球および骨髄系列に再定着することができる。HSCは、総ての造血細胞系列の生涯に渡る生産を提供する。
【0139】
造血前駆細胞は、特定タイプの細胞に分化する能力を有する。しかしながら、幹細胞とは対照的に、造血前駆細胞はすでにかなり特異的であり、それらの「ターゲット」細胞への分化を課せられている。幹細胞と前駆細胞の違いは、幹細胞は無制限に増殖できるが、前駆細胞は限られた回数しか分裂できないことである。造血前駆細胞は、機能的インビボアッセイ(すなわち、移植および長期間総ての血液系列を生じ得るかどうかの実証)によってのみHSCから厳密に区別することができる。
【0140】
本発明の造血幹細胞及び前駆細胞は、CD34細胞表面マーカーを含む(CD34+と表記される)。
【0141】
造血幹細胞及び/又は前駆細胞(HSPC)供給源
造血幹細胞及び/又は前駆細胞(HSPC)の集団は組織サンプルより取得しうる。
【0142】
例えば、造血幹細胞及び/又は前駆細胞の集団は末梢血(例えば成体及び胎児末梢血)、臍帯血、骨髄、肝臓又は脾臓より取得し得る。好ましくはこれらの細胞は末梢血又は骨髄より取得される。これらの細胞は、増殖因子処理の手段により細胞をインビボで動員した後に取得されうる。
【0143】
動員は、例えば、G-CSF、プレリキサフォルまたはそれらの組合せを用いて行ってもよい。NSAID、およびジペプチジルペプチダーゼ阻害剤などの他の薬剤も動員剤として有用でありうる。
【0144】
幹細胞増殖因子GM-CSFおよびG-CSFが利用可能であるので、ほとんどの造血幹細胞移植法は、今や、骨髄からではなく末梢血から採取された幹細胞を用いて行われる。末梢血幹細胞を採取することでより多量の移植対象物が得られ、ドナーが移植対象物を採取するために全身麻酔を受ける必要はなく、生着時間が短縮され、長期再発率は低くなりうる。
【0145】
骨髄は、標準的吸引法(定常状態もしくは動員後)により、または次世代採取ツール(例えば、Marrow Miner)により採取してもよい。
【0146】
加えて、HSPCはまた、人工多能性幹細胞に由来してもよい。
【0147】
HSCの特徴
HSCは一般に、フローサイトメトリー法により低前方散乱および側方散乱プロファイルである。ミトコンドリア活性の判定を可能とするローダミン標識により示されるように、代謝が静止状態であるものもある。HSCは、CD34、CD45、CD133、CD90およびCD49fなどの特定の細胞表面マーカーを含みうる。HSCは、CD38およびCD45RA細胞表面マーカーの発現を欠く細胞としても定義できる。しかしながら、これらのマーカーのいくつかの発現は、HSCの発生段階および組織特異的コンテキストに依存する。「サイドポピュレーション細胞」と呼ばれる一部のHSCは、フローサイトメトリーにより検出した場合、Hoechst 33342色素を排除する。従って、HSCは、それらの同定および単離を可能とする分類的特性を有する。
【0148】
陰性マーカー
CD38は、ヒトHSCの最も確立された有用な単一の陰性マーカーである。
【0149】
ヒトHSCはまた、CD2、CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD24、CD36、CD56、CD66b、CD271およびCD45RAなどの細胞系列マーカーについても陰性でありうる。しかしながら、これらのマーカーは、HSC富化のためには、組み合わせて使用しなければならない場合がある。
【0150】
「陰性マーカー」とは、ヒトHSCがこれらのマーカーの発現を欠くことをいうと理解されるべきである。
【0151】
陽性マーカー
CD34およびCD133は、HSCの最も有用な陽性マーカーである。
【0152】
一部のHSCはまた、CD90、CD49fおよびCD93などの細胞系列マーカーについても陽性である。しかしながら、これらのマーカーは、HSC富化のためには、組み合わせて使用しなければならない場合がある。
【0153】
「陽性マーカー」とは、ヒトHSCがこれらのマーカーを発現することをいうと理解されるべきである。
【0154】
分化細胞
分化細胞は、幹細胞または前駆細胞と比較して、より特殊化された細胞である。分化は、生物が一個の接合体から複雑な組織および細胞型の系に変化するにつれて、多細胞生物の発生の間に生じる。分化は、成体においても一般的なプロセスである:成体幹細胞は、組織修復時、および正常な細胞ターンオーバーの際に、分裂して完全に分化した娘細胞を生成する。分化は、細胞の大きさ、形状、膜電位、代謝活性およびシグナルに対する応答性を劇的に変化させる。これらの変化は主に、遺伝子発現における高度に制御された修飾によるものである。すなわち、分化細胞は、発生プロセスに起因する、特定の構造を有し特定の機能を果たす細胞であって、それには特定の遺伝子の活性化および不活性化が関わる。ここで、分化細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞、およびNK細胞などの、造血系列の分化細胞を含む。例えば、造血系列の分化細胞は、未分化細胞表面では発現されていないか、または発現が少ない細胞表面分子の検出によって、幹細胞および前駆細胞から区別することができる。適当なヒト細胞系列マーカーの例には、CD33、CD13、CD14、CD15 (骨髄性)、CD19、CD20、CD22、CD79a (B)、CD36、CD71、CD235a (赤血球)、CD2、CD3、CD4、CD8 (T)、CD56 (NK)が挙げられる。
【0155】
細胞集団の単離および濃縮
細胞の「単離された集団」とは、細胞集団が身体からあらかじめ取り出されていると理解されるべきである。単離された細胞集団をエクスビボまたはインビトロで、当技術分野で公知の標準技術を用いて培養し、操作することができる。単離された細胞集団は、のちに被験体に再導入してもよい。前記被験体は、細胞が最初に単離された同一の被験体であってもよいし、異なる被験体であってもよい。
【0156】
細胞集団は、特定の表現型もしくは特性を示す細胞に対して選択的に、その表現型もしくは特性を示さないか、または示す程度が低い、他の細胞から精製することができる。例えば、特定のマーカー(CD34など)を発現する細胞集団を、出発細胞集団から精製することができる。その代わりに、またはそれに加えて、別のマーカー(CD38など)を発現しない細胞集団を精製することもできる。
【0157】
ある特定の細胞型について細胞集団を「濃縮(富化)」するとは、その集団内でその細胞型の濃度を増加させることと理解されるべきである。他の細胞型の濃度はそれに付随して低下しうる。
【0158】
精製または濃縮(富化)は、他の細胞型のないほぼ純粋な細胞集団をもたらしうる。
【0159】
特異的マーカー(例えば、CD34もしくはCD38)を発現する細胞集団に対する精製もしくは濃縮(富化)は、そのマーカーに結合する薬剤、好ましくはそのマーカーに実質的に特異的に結合する薬剤を使用することによって達成することができる。
【0160】
細胞マーカーに結合する薬剤は、抗体、例えば抗CD34または抗CD38抗体であってもよい。
【0161】
「抗体」という用語は、選択された標的と結合できる完全抗体または抗体フラグメントを意味し、Fv、ScFv、F(ab’)およびF(ab’)2、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体およびヒト化抗体を含む操作抗体、ならびにファージディスプレーまたは別の技術を用いて産生された人為的に選択した抗体が含まれる。
【0162】
加えて、古典的抗体の代替物、例えば、「アビボディ」、「アビマー」、「アンチカリン」、「ナノボディ」および「DARPins」も本発明において使用可能である。
【0163】
特異的マーカーに結合する薬剤は、当技術分野で公知の多数の技術のいずれかを用いて同定可能となるように標識することができる。薬剤は、固有に標識されてもよく、またはそれに標識をコンジュゲートすることによって修飾されてもよい。「コンジュゲート」により、薬剤と標識が機能するように連結されることが理解されるべきである。これは、薬剤と標識が両方とも実質的に障害なくそれらの機能(例えば、マーカーに結合する、蛍光同定を可能にする、または磁場に置いた場合に分離可能にする)を遂行できるように相互に連結されることを意味する。コンジュゲーションの好適な方法は当技術分野で周知であり、当業者によって容易に特定可能であろう。
【0164】
標識は、例えば、それが結合されている標識薬剤および任意の細胞をその環境から精製(例えば、薬剤は磁性ビーズ、またはアビジンなどの親和性タグで標識できる)、検出またはその両方を可能とすることができる。標識として使用するのに好適な検出可能マーカーとしては、フルオロフォア(例えば、緑色、チェリー、シアンおよびオレンジ蛍光タンパク質)およびペプチドタグ(例えば、Hisタグ、Mycタグ、FLAGタグおよびHAタグ)が含まれる。
【0165】
特異的マーカーを発現する細胞集団を分離するための多数の技術が当技術分野で公知である。これらには、磁性ビーズに基づく分離技術(例えば、閉回路磁性ビーズに基づく分離)、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)、親和性タグ精製(例えば、アフィニティーカラムまたはビーズ、例えば、アビジン標識薬剤を分離するためのビオチンカラム)および顕微鏡に基づく技術が含まれる。
【0166】
異なる技術の組合せ、例えば、磁性ビーズに基づく分離工程とその後の得られた細胞集団の、フローサイトメトリーによる1以上の付加的(陽性または陰性)マーカーに関する選別を用いて分離を行うこともできる。
【0167】
臨床グレードの分離は例えば、CliniMACS(登録商標)システム(Miltenyi)を用いて行うことができる。これは閉回路磁性ビーズに基づく分離技術の一例である。
【0168】
色素排除特性(例えば、サイドポピュレーションまたはローダミン標識)または酵素活性(例えば、ALDH活性)がHSCの富化のために使用可能であることも想定される。
【0169】
ベクター
ベクターは、ある環境から別の環境へとある実体を移すことを可能とするか又は促進するツールである。本発明において造血幹細胞及び/又は前駆細胞を形質導入するために用いるベクターは、ウイルスベクターである。
【0170】
好ましくは、ウイルスベクターは、ウイルスベクター粒子の形態である。
【0171】
ウイルスベクターは、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はアデノウイルスベクターであってもよい。好ましくは、ウイルスベクターは、レンチウイルス又はAAVベクター、より好ましくはレンチウイルスベクターである。好ましくはレトロウイルスベクターはγ-レトロウイルスベクターではない。
【0172】
ある種類のウイルス「に由来するベクター」とは、ベクターが、その種類のウイルスに由来しうる少なくとも1つの構成部分を含むことをいうと理解されるべきである。
【0173】
レトロウイルスおよびレンチウイルスベクター
レトロウイルスベクターは、任意の好適なレトロウイルスに由来してもよく、または由来しうる。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。例として、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤浪肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄芽球腫症ウイルス-29(MC29)およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。レトロウイルスの詳細なリストはCoffin, J.M. et al. (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出しうる。
【0174】
レトロウイルスは、「単純」および「複雑」の2つのカテゴリーに大別することができる。レトロウイルスは7群にさらに分けうる。これらの群のうち5つが、発癌能を有するレトロウイルスに相当する。残りの2群はレンチウイルスおよびスプーマウイルスである。これらのレトロウイルスの総説はCoffin, J.M. et al. (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に示されている。
【0175】
レトロウイルスおよびレンチウイルスのゲノムの基本構造は、5’ LTRおよび3’ LTRなどの多くの共通の特徴を共有する。これらの間または内部に、ゲノムのパッケージングを可能とするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノムへの組み込みを可能とする組み込み部位、ならびにパッケージング成分をコードするgag、polおよびenv遺伝子が配置されており、これらはウイルス粒子の構築に必要なポリペプチドである。レンチウイルスは、核から感染した標的細胞の細胞質へ、組み込まれたプロウイルスのRNA転写産物の効率的輸送を可能とする、HIVにおけるrevおよびRRE配列などの付加的特徴を備える。
【0176】
プロウイルスでは、これらの遺伝子の両末端には長い末端反復配列(LTR)と呼ばれる領域が隣接している。LTRはプロウイルスの組み込みおよび転写を担う。LTRはまたエンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0177】
LTRはそれら自体、3つの要素である、U3、RおよびU5に分けることができる同一の配列である。U3は、RNAの3’末端にユニークな配列に由来する。Rは、RNAの両末端で繰り返される配列に由来し、U5は、RNAの5’末端にユニークな配列に由来する。これら3つの要素の大きさは、異なるレトロウイルス間でかなりの変動がありうる。
【0178】
欠損型レトロウイルスベクターゲノムでは、gag、polおよびenvは存在しない、または機能がない場合がある。
【0179】
典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に不可欠な1以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部をウイルスから除去することができる。これにより、ウイルスベクターは複製欠損となる。また、標的宿主細胞の形質導入および/またはそのゲノムの宿主ゲノムへの組み込みが可能な候補調節部分を含んでなるベクターを作出するために、ベクターゲノム内の調節制御領域およびレポーター部分と作動可能に連結された候補調節部分をコードするライブラリーでウイルスゲノムの一部を置換してもよい。
【0180】
レンチウイルスベクターは、より大きなレトロウイルスベクター群の一部である。レンチウイルスの詳細なリストは、Coffin, J.M. et al. (1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出すことができる。要するに、レンチウイルスは、霊長類群および非霊長類群に分けることができる。霊長類レンチウイルスの例としては、限定されるものではないが、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルスの例としては、プロトタイプ「スローウイルス」 ビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに関連のヤギ関節炎脳脊髄炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)およびより最近記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0181】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスは分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染能を持つという点でレトロウイルスとは異なる(Lewis, P et al. (1992) EMBO J. 11: 3053-8; Lewis, P.F. et al. (1994) J. Virol. 68: 510-6)。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、例えば、筋肉、脳、肺および肝臓組織を構成するものなどの非分裂細胞または分裂の遅い細胞には感染できない。
【0182】
レンチウイルスベクターは、本明細書で使用する場合、レンチウイルスに由来しうる少なくとも1つの構成成分を含んでなるベクターである。好ましくは、その構成成分は、ベクターが細胞に感染し、遺伝子を発現するかまたは複製される生物学的機構に関与する。
【0183】
レンチウイルスベクターは、「霊長類」ベクターであってもよい。レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクターであってもよい(すなわち、主として霊長類、特にヒトには感染しないウイルスに由来する)。非霊長類レンチウイルスの例は、天然では霊長類には感染しないレンチウイルス科の任意のメンバーであってもよい。
【0184】
レンチウイルスベースのベクターの例として、HIV-1およびHIV-2ベースのベクターを以下に記載する。
【0185】
HIV-1ベクターは、単純レトロウイルスにも見出されるシス作用エレメントを含有する。gagオープンリーディングフレーム内に延びる配列は、HIV-1のパッケージングに重要であることが示されている。したがって、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンが変異したgagの関連部分を含むことが多い。さらに、ほとんどのHIV-1ベクターは、RREを含むenv遺伝子の一部も含む。RevはRREに結合し、これにより、核から細胞質への、全長mRNAまたは一回スプライシングされたmRNAの輸送が可能になる。Revおよび/またはRREの非存在下では、全長HIV-1 RNAが核内に蓄積する。あるいはまた、Mason-Pfizerサルウイルスなどのある種の単純レトロウイルス由来の恒常的輸送エレメントを使用して、RevおよびRREの必要性をなくすことができる。HIV-1 LTRプロモーターからの効率的な転写は、ウイルスタンパク質Tatを必要とする。
【0186】
ほとんどのHIV-2ベースのベクターは、構造的にHIV-1ベクターと非常に類似している。HIV-1ベースのベクターと同様に、HIV-2ベクターも全長ウイルスRNAまたは1回スプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送にRREを必要とする。
【0187】
1つの系において、ベクターおよびヘルパー構築物が2つの異なるウイルスに由来していると、ヌクレオチド相同性の低下が、組換えの確率を減少させる可能性がある。霊長類レンチウイルスに基づくベクターに加えて、FIVに基づくベクターも、病原性HIV-1ゲノム由来のベクターに代わるものとして開発されている。こうしたベクターの構造もHIV-1ベースのベクターと同様である。
【0188】
好ましくは、本発明で使用されるウイルスベクターは、最小のウイルスゲノムを有する。
【0189】
「最小ウイルスゲノム」とは、標的宿主細胞に感染し、形質導入し、対象とするヌクレオチド配列を送達するために必要とされる機能を提供するために、非必須要素を除去し、必須要素を保持するようにウイルスベクターが操作されていることを意味すると理解されるべきである。この戦略のさらなる詳細はWO1998/017815に見出すことができる。
【0190】
好ましくは、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生するために用いられるプラスミドベクターは、パッケージング成分の存在下で、標的細胞に感染することができるウイルス粒子へのRNAゲノムのパッケージングを可能にするのに十分なレンチウイルス遺伝情報を有するが、最終的な標的細胞内で感染性ウイルス粒子を産生するための独立した複製は不可能である。好ましくは、ベクターは機能的なgag-polおよび/またはenv遺伝子および/または複製に必須の他の遺伝子を欠いている。
【0191】
しかしながら、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生するために使用されるプラスミドベクターは、宿主細胞/パッケージング細胞内でゲノムの転写を指示するために、レンチウイルスゲノムに作動可能に連結された転写調節制御配列も含む。これらの調節配列は、転写されたウイルス配列と会合している天然配列(すなわち、5’ U3領域)であってもよく、またはそれらは別のウイルスプロモーター(例えば、CMVプロモーター)などの異種プロモーターであってもよい。
【0192】
ベクターは、ウイルスエンハンサーおよびプロモーター配列が欠失されている自己不活化型(SIN)ベクターであってもよい。SINベクターは、野生型ベクターと同等の有効性でインビボにて生成され、非分裂細胞に形質導入することができる。SINプロウイルスにおける長い末端反復配列(LTR)の転写不活性化は、複製可能ウイルスによる動員を回避するべきである。これはまた、LTRのシス作用効果を排除することにより内部プロモーターからの遺伝子の発現調節を可能とするべきである。
【0193】
ベクターは組込み欠損であってもよい。組込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)は、例えば、触媒的に不活性なインテグラーゼ(例えば触媒部位にD64V突然を有するHIVインテグラーゼなど; Naldini, L. et al. (1996) Science 272: 263-7; Naldini, L. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 11382-8; Leavitt, A.D. et al. (1996) J. Virol. 70: 721-8)を用いてベクターをパッケージングすることによって、またはベクターLTRから必須att配列を改変または欠失させることにより(Nightingale, S.J. et al. (2006) Mol. Ther. 13: 1121-32)、またはこれら上記の組み合わせによって、製造できる。
【0194】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、高い組込み頻度を有し、そして非分裂細胞に感染しうることから、本発明における使用のための魅力的なベクター系である。この理由により、AAVは組織培養における哺乳動物細胞への遺伝子の送達に有用となる。
【0195】
AAVは感染性について、広い宿主範囲を有する。AAVベクターの作製および使用に関する詳細は、米国特許第5139941号および米国特許第4797368号に記載されている。
【0196】
組換えAAVベクターは、マーカー遺伝子およびヒト疾患に関与する遺伝子のインビトロ及びインビボの形質導入に首尾よく使用されてきた。
【0197】
アデノウイルスベクター
アデノウイルスは、RNA中間体を介さない二本鎖の直鎖DNAウイルスである。アデノウイルスには50を超える異なるヒト血清型が存在し、遺伝子の配列相同性に基づき6つのサブグループに分けられる。アデノウイルスの天然標的は呼吸器および消化管上皮であり、一般に軽度の症状のみを生じる。アデノウイルスベクター系で血清型2および5(95%の配列相同性を有する)が最もよく用いられ、通常、若年者の上気道感染に関連する。
【0198】
アデノウイルスは、遺伝子療法および異種遺伝子の発現のためのベクターとして使用されてきた。大きな(36kb)ゲノムは、最大8kbの外来挿入DNAを収容することができ、補完する細胞株において効率的に複製して最大1012の極めて高い力価をもたらすことができる。従って、アデノウイルスは、基本的に複製しない細胞において遺伝子の発現を研究するために最良の系の1つである。
【0199】
アデノウイルスゲノムからのウイルス遺伝子または外来遺伝子の発現は、複製中の細胞を必要としない。アデノウイルスベクターは、受容体に媒介されるエンドサイトーシスによって細胞に侵入する。細胞内に入ると、アデノウイルスベクターは宿主染色体に組み込まれることはまれである。その代わり、アデノウイルスは、宿主核内の直鎖ゲノムとしてエピソーム状に(宿主ゲノムとは独立に)機能する。ゆえに、組換えアデノウイルスの使用により、宿主ゲノム中へのランダムな組み込みに伴う問題が緩和される。
【0200】
対象のヌクレオチド
本発明のベクターは好ましくは、対象のヌクレオチド(NOI)を含む。
【0201】
好ましくは、対象とするヌクレオチドは治療効果をもたらす。
【0202】
好適なNOIとしては、限定されるものではないが、酵素、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、マイクロRNA、shRNA、siRNA、リボザイム、miRNA標的配列、標的タンパク質のトランスドメイン陰性変異体、毒素、条件付き毒素、抗原、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、転写因子、膜タンパク質、表面受容体、抗癌分子、血管作用性タンパク質およびペプチド、抗ウイルスタンパク質およびリボザイム、ならびにそれらの誘導体(例えば、付随レポーター基を有する誘導体)をコードする配列が挙げられる。NOIはまた、プロドラッグ活性化酵素をコードしてもよい。
【0203】
NOIの一例は、サラセミア/鎌状赤血球疾患の遺伝子療法に使用可能なβ-グロビン鎖である。
【0204】
NOIはまた、慢性肉芽腫性疾患(CGD、例えば、gp91phox導入遺伝子)、白血球接着不全、進行中の重度感染および遺伝性骨髄不全症候群(例えば、ファンコニ貧血)を有しない患者における他の食細胞障害、ならびに原発性免疫不全症(SCID)などの骨髄細胞系列に非緊急/選択的遺伝子矯正を必要とする他の疾患の治療に有用なものを含む。
【0205】
NOIには、リソソーム蓄積症および免疫不全の治療に有用なものも含まれる。
【0206】
医薬組成物
本発明の細胞は、対象に投与するために薬学上許容される担体、希釈剤または賦形剤とともに製剤化することができる。好適な担体および希釈剤としては、等張生理食塩水、例えば、リン酸緩衝生理食塩水が含まれ、ヒト血清アルブミンが含有されてもよい。
【0207】
細胞療法製品の取り扱いは、好ましくは、細胞療法に関するFACT-JACIE国際規定に従って実施される。
【0208】
造血幹細胞および/または前駆細胞移植
本発明は、療法における使用のための、例えば、遺伝子療法における使用のための、本発明の方法に従って調製された造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を提供する。
【0209】
使用は造血幹細胞および/または前駆細胞移植手順の一部であってもよい。
【0210】
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄(この場合、骨髄移植として知られる)または血液に由来する血液幹細胞の移植である。幹細胞移植は、血液学および腫瘍学の分野で、血液もしくは骨髄の疾患、またはある種の癌を有する人々に対して最もよく実施される医療処置である。
【0211】
HSCTの多くのレシピエントは、化学療法による長期処置から利益を受けない可能性のある、または化学療法に対してすでに耐性のある多発性骨髄腫または白血病患者である。HSCTの候補は、患者が欠陥幹細胞を伴う重症複合免疫不全症または先天性好中球減少症などの先天的欠陥を有する小児科症例、およびまた生後に幹細胞を失ってしまった再生不良性貧血を有する小児または成体を含む。幹細胞移植で処置される他の病態としては、鎌状赤血球症、骨髄異形成症候群、神経芽腫、リンパ腫、ユーイング肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍およびホジキン病が挙げられる。より最近では、必要な前化学療法および放射線の用量がより少ない非骨髄破壊的、またはいわゆる「ミニ移植」法が開発された。これにより、高齢者およびそれ以外で従来の治療レジメンに耐えるには弱すぎると考えられうる他の患者でHSCTの実施が可能となった。
【0212】
一実施形態において、本発明の方法により調製された造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、自己幹細胞移植法の一部として投与される。
【0213】
別の実施形態において、本発明の方法により調製された造血幹細胞および/または前駆細胞の集団は、同種幹細胞移植法の一部として投与される。
【0214】
「自己幹細胞移植法」とは、出発細胞集団(本発明の方法によりその後形質導入される)が、形質導入細胞集団が投与される対象と同じ対象から得られることをいうと理解されるべきである。自己移植法は、免疫不適合性に伴う問題を避け、および遺伝的に適合するドナーが得られるかどうかに関わらず対象に利用できることから有利である。
【0215】
「同種幹細胞移植法」とは、出発細胞集団(本発明の方法によりその後形質導入される)が形質導入細胞集団が投与される対象と異なる対象から得られることをいうと理解されるべきである。好ましくは、免疫不適合性のリスクを最小化するために、ドナーは細胞が投与される対象と遺伝的に適合するものである。
【0216】
形質導入細胞集団の好適な用量は、例えば治療上および/または予防上有効なものである。投与すべき用量は、処置される対象および病態によって異なる場合があり、当業者ならば容易に決定できる。
【0217】
造血前駆細胞は短期間の生着をもたらす。したがって、形質導入造血前駆細胞を投与することによる遺伝子治療は、被験体に永続しない効果をもたらすであろう。例えば、この効果は、形質導入造血前駆細胞の投与後1~6ヶ月に限定されるかもしれない。このアプローチの利点は、治療的介入がそれ自体制限されている特性に起因する、より優れた安全性および忍容性でありうる。
【0218】
このような造血前駆細胞遺伝子治療は、後天性疾患、例えば癌の治療に適していると考えられ、(毒性を有する可能性のある)目的の抗癌ヌクレオチドの時間制限された発現は、疾患を根絶するのに十分なものとなりうる。
【0219】
本発明(例えば、造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療)は、例えば、ムコ多糖症I型(MPS-1)、慢性肉芽腫性疾患(CGD)、ファンコニ貧血(FA)、鎌状赤血球症、ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)、白血球接着不全(LAD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)、GM2ガングリオシドーシス、サラセミア、および癌からなる群より選択される疾患の治療に有用となる可能性がある。
【0220】
本発明はまた、例えば、ムコ多糖症および他のリソソーム蓄積症の治療に有用でありうる。
【0221】
加えて、または代わりに、本発明は、WO1998/005635に挙げられている障害の治療に有用でありうる。参照しやすいように、そのリストの一部をここに示す:癌、炎症または炎症性疾患、皮膚科障害、発熱、心血管作用、出血、凝固および急性期応答、悪液質、食欲不振症、急性感染、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再潅流傷害、髄膜炎、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症;腫瘍増殖、浸潤および拡散、血管新生、転移、悪性、腹水および悪性胸水;脳虚血、虚血性心疾患、骨関節炎、関節リウマチ、骨粗鬆症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、脳卒中、血管炎、クローン病および潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍、網膜症および外科的創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、アナフィラキシー;再狭窄、鬱血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症または内部硬化症(endosclerosis)。
【0222】
加えて、または代わりに、本発明は、WO1998/007859に挙げられている障害の治療に有用でありうる。参照しやすいように、そのリストの一部をここに示す:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制または免疫賦活活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルス感染を含む免疫不全を治療するため;リンパ球増殖の調節;癌および多くの自己免疫疾患の治療、および移植拒絶の防止または腫瘍免疫の誘導のため);造血調節、例えば、骨髄系またはリンパ系疾患の治療;例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の処置のための、骨、軟骨、腱、靱帯および神経組織の成長の促進;卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(受精能の調整);化学走性/化学運動性活性(例えば、特定の細胞種を損傷または感染部位に動員するため);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および脳卒中を治療するため);抗炎症活性(例えば、敗血性ショックまたはクローン病を治療するため);抗微生物剤として;例えば、代謝または行動のモジュレーター;鎮痛薬として;特定の欠乏性障害の治療;ヒトまたは獣医学における例えば乾癬の処置において。
【0223】
加えて、または代わりに、本発明は、WO1998/009985に挙げられている障害の治療に有用でありうる。参照しやすいように、そのリストの一部をここに示す:マクロファージ阻害活性および/またはT細胞阻害活性、および従って、抗炎症活性;抗免疫活性、すなわち、炎症に無関連の応答を含む、細胞性免疫応答および/または体液性免疫応答に対する阻害効果;マクロファージおよびT細胞の細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチン接着能、ならびにT細胞においてアップレギュレートされたfas受容体発現の阻害;関節リウマチを含む関節炎、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性紅斑性狼瘡、膠原病および他の自己免疫疾患に関連する炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、アテローム動脈硬化性心疾患、再潅流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群または他の心肺疾患に関連する炎症、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎および他の消化管疾患に関連する炎症、肝線維症、肝硬変または他の肝臓疾患、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の腎および泌尿器疾患、耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患、歯周病または他の歯科疾患、睾丸炎または精巣精巣上体炎、不妊症、睾丸外傷または他の免疫関連精巣疾患、胎盤機能不全、胎盤不全、習慣性流産、子癇、前子癇および他の免疫および/または炎症関連婦人科疾患、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ぶどう膜網膜炎、視神経炎、眼内炎症、例えば、網膜炎または嚢胞様黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、色素性網膜炎、変性性眼底疾患(degenerative fondus disease)の免疫および炎症成分、眼球損傷の炎症成分、感染により引き起こされる眼の炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、例えば緑内障濾過手術後の過度の瘢痕化、眼内インプラントに対する免疫および/または炎症反応、ならびに他の免疫および炎症関連眼性疾患、中枢神経系(CNS)または他の任意の器官の療法において免疫および/または炎症抑制が有益であると思われる自己免疫疾患もしくは病態もしくは障害に関連する炎症、パーキンソン病、パーキンソン病の治療に由来する合併症および/または副作用、AIDS関連認知症複合HIV関連脳症、デビック病、ジデナム舞踏病、アルツハイマー病およびCNSの他の変性疾患、病態または障害、ストークスの炎症成分、ポリオ後症候群、精神障害の免疫および炎症成分、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性汎脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギラン-バレー症候群、ジデナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧迫もしくはCNS外傷もしくはCNS感染の炎症成分、筋萎縮および筋ジストロフィーの炎症成分、ならびに免疫および炎症関連疾患、中枢神経系および末梢神経系の病態または障害、外傷後炎症、敗血症性ショック、感染性疾患、手術の炎症性合併症または副作用、骨髄移植または他の移植合併症および/もしくは副作用、遺伝子療法の炎症および/または免疫合併症ならびに副作用(例えばウイルス担体の感染による)、あるいは、体液性および/もしくは細胞性の免疫応答を抑制または阻害するため、単球もしくは白血球増殖性疾患、例えば白血病を、単球もしくはリンパ球の量を低減することによって治療または改善するため、角膜、骨髄、器官、水晶体、ペースメーカー、天然もしくは人工皮膚組織などの天然または人工の細胞、組織および器官を移植する場合の移植片拒絶を予防および/または治療するための、AIDSに関連する炎症を含む望ましくない免疫反応および炎症の阻害。
【0224】
キット
別の態様において、本発明は、阻害剤および/または本発明の細胞集団を含むキットを提供する。
【0225】
阻害剤および/または細胞集団は好適な容器にて提供してもよい。
【0226】
本キットはまた、使用説明書を含んでもよい。
【0227】
治療方法
本明細書において処置(治療)という場合には総て、治癒的処置(治療)、対症的処置(治療)および予防的処置(治療)を含むと理解されるべきである。哺乳動物、特にヒトの治療が好ましい。ヒトの治療および獣医学的治療の両方が本発明の範囲内にある。
【0228】
投与
本発明における使用のための薬剤(特に、本発明の方法によって作製された細胞集団)は、単独で投与することができるが、通常は、特にヒト治療用の、医薬担体、賦形剤もしくは希釈剤と混合して投与される。
【0229】
用量
当業者は、過度の実験を行うことなしに、被験体に投与するために、本発明の薬剤のうち一つの適当な用量を、容易に決定することができる。典型的には、医師は、個々の患者に最も適した実際の投与量を決定することになるが、それは、使用される個別の薬剤の活性、その薬剤の代謝安定性および作用時間、年齢、体重、全身状態、性別、食事、投与の方法および時間、排泄速度、薬物の組合せ、個別の病態の重篤度、ならびに個々の受けている治療を含めて、さまざまな要因によって決まる。より高い、または低い、用量範囲がふさわしい個々の例も当然ありうるが、そうしたことも本発明の範囲内である。
【0230】
被験体
「被験体(対象)」はヒト、または非ヒト動物のいずれかを意味する。
【0231】
非ヒト動物の例としては、脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類(特に高等霊長類)、イヌ、げっ歯類(例えばマウス、ラット、もしくはモルモット)、ブタ、およびネコなどの哺乳類が挙げられる。非ヒト動物はコンパニオンアニマルであってもよい。
【0232】
好ましくは、被験体はヒトである。
【実施例
【0233】
〔実施例1〕
材料および方法
ウイルスベクター
第3世代の自己不活性化型レンチウイルスベクター(LV)およびインテグラーゼ欠損LV(IDLV)の、内部PGKプロモーターの制御下でGFPを発現する(SINLV-GFP)ストックを、Follenziら、およびLombardoら(Follenzi, A. et al. (2000) Nature Genetics 25: 217-222; Lombardo, A. et al. (2007) Nature Biotechnology 25: 1298-1306)に記載のように、調製、濃縮し、力価を測定した。精製LVは、Biffiら(Biffi, A. et al. (2013) Science 341: 1233158)に記載のようにして得られた。レトロウイルスベクターは、Montini ら(Montini, E. et al. (2006) Nature Biotechnology 24: 687-696)に記載のように調製して使用した。侵入能力のないLVであるBaldベクターは、ベクター作製の際にEnvをコードしたプラスミドを省いて作製された。ゲノムを欠いたレンチウイルスベクターである空のLVは、ベクター作製の際に、SIN-LV PGK-GFP導入ベクターを除いて作製された。p21を過剰発現するLVを作製するために、既述の双方向性LV発現カセットのチミジンキナーゼcDNA(Amendola, M. et al. (2005) Nature Biotechnology 23: 108-116)を、ヒトPGKプロモーターの制御下で発現されるヒトp21遺伝子のcDNAと置き換えた。GFPは、ミニマルCMVプロモーターから逆方向に発現される。不活性化型精製LVは、精製LVを加熱する(56℃にて1時間)ことによって得られた。AAV6-IL2RG-eGFPは、Genoveseら(Genovese et al. (2014) Nature 510: 235-40)に記載のように、CCR5もしくはAAVS1ローカスに対するホモロジーアームの代わりにIL2RGローカスに対するホモロジーアームを含有すること以外は、Wangら(Wang, J. et al. (2015) Nature Biotechnology 33: 1256-1263)に記載のとおりとした。
【0234】
細胞培養および形質導入
ヒトCD34+造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)およびCD4+ T細胞は、施設内倫理委員会承認プロトコル(TIGET01)にしたがって、健康な志願者からインフォームドコンセントに基づいて採取された臍帯血(CB)から、メーカーの説明書(Milteny)にしたがって、磁気ビーズ選択により単離した。そうでない場合には、CBおよび骨髄(BM)由来CD34+は、Lonzaより直接、購入した。細胞は、Petrilloら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362)に記載のように精製し、培養した。K562およびHela細胞株を完全Iscove改変ダルベッコ培地(Euroclone)に蒔いた。HL-60細胞を増殖させ、完全RPMI中で形質導入した。HCT-116細胞を増殖させ、完全ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で形質導入した。マウスLin-細胞は、安楽死させたC57/BL6マウスの骨髄から、メーカーの説明書(Miltenyi)にしたがって磁気ビーズ選択により単離した。臨床基準のダブルヒット形質導入プロトコルのために、第1のベクター暴露の16時間後に細胞を洗浄し、サイトカイン添加培地中で10時間リカバリーして、移植前にさらに16時間、第2のベクターヒットに再度暴露する。すべての動物の処置は、Ospedale San Raffaeleの動物実験委員会(IACUC 611)により承認されたプロトコルにしたがい、イタリアの法律に則って行われた。すべての細胞は、レンチウイルスおよびレトロウイルスベクターについて293T細胞上でベクターストックの力価測定によって算出される、指定の感染多重度(MOI)で形質導入された。AAV6ベクターによる形質導入は、1 mL当たりのベクターゲノム(vg/mL)で表されるベクター調製物の力価測定によって計算されるように、MOI 10000にて行われた。全ての形質導入は、1×106細胞/mLの濃度で行った。抗レトロウイルス阻害剤を用いた実験では、薬剤をベクターと共に添加した。ラルテグラビルおよび3TCは10μM、AZTは25μMにて使用された。ATM阻害実験では、ATM阻害剤KU55933(Selleck Chemicals)のシングルヒットを、10μMの濃度において、形質導入の2時間前に細胞に加えた。すべての細胞は、37℃にて5% C02加湿雰囲気中に維持した。
【0235】
NSGマウスにおけるヒトHPSCのコロニー形成細胞(CFC)アッセイおよび移植
CFCアッセイ細胞は、Petrilloら、およびGentnerら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362; Gentner, B. et al. (2010) Science Translational Medicine 2: 58ra84)に記載のように実施された。10日後、コロニーは、形態学的な基準によって赤血球またはミエロイドとして同定し、計数して、採取し、ベクター含量の定量のためのDNAを得るために、3つ一組となるようにプールした。(NSG)マウスはJackson laboratoryから購入した。ヒトCB由来CD34+細胞は、指示のとおり予備刺激され、形質導入された。8~10週齢のNSGマウスに、異種移植の24時間前に、亜致死的照射(放射線量:マウス体重18~25gに対して200 cGy、および体重25gを超えるマウスに対しては220 cGy)を行った。8 x 104 ヒトCB由来CD34+細胞を、形質導入の24時間後に1次NSGマウスの尾静脈に注入した。移植後、指定の時間に末梢血をサンプリングして、Petrilloら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362)に記載のように分析した。殺処分の際に、初代レシピエントから分離された脾臓およびBM由来の細胞をフローサイトメトリーによって分析し、CD34+細胞を、LDおよびMSカラムでのポジティブ磁気ビーズ選択(Miltenyi)によって、メーカーの説明書にしたがってBMから精製した。純度は、条件によりプールして、2次レシピエントに注入する前にFACSによって検証された。亜致死的照射された2次NSGマウス(8~10週齢)の尾静脈に、1次宿主から単離された9 x 105~1 x 106 CD34+細胞を注入した。移植後、指定の時間に末梢血をサンプリングして、上記のように分析した。14週齢で、すべてのマウスをCO2により屠殺して、上記のように2次マウスのBMおよび脾臓を分析した。
【0236】
限界希釈アッセイ
限界希釈アッセイは、照射を受けた8週齢NSGマウスに、BaldおよびLV群のいずれかについて形質導入前に計数された4つの異なる用量のCB-CD34+細胞(3000、10000、30000または90000)を移植することによって、過去に記載されているように(Lechman, E.R. et al. (2012) Cell Stem Cell 11: 799-811; Petrillo, C. et al. (2015) Mol Ther 23: 352-362)実施された。形質導入の24時間後に細胞を注入した。マウスは、殺処分時点(16週間)でBM中の多系統において≧0.1%の生着を有するならば、生着陽性としてスコア化された。HSC出現頻度は、公開されたELDA(Extreme Limiting Dilution Analysis, http://bioinf.wehi.edu.au/software/elda/)ソフトウェア(Hu et al. (2009) J Immunol Methods 347: 70-78)を用いて、線形回帰分析およびポアソン統計により評価された。
【0237】
ホーミングアッセイ
ホーミングアッセイのために、形質導入の24時間後に、5 x 105 CB由来CD34+細胞(処理前の用量)を照射済み8週齢NSGマウスに移植し、このマウスは移植の16時間後に、分析のために屠殺した。マウスの下腿から全骨髄を採取した。FACS分析時に、BECKMAN CULTER製の細胞計数ビーズ(Flow-Count Fluorosphere)を各サンプルに添加して、サンプルあたりのヒトCD34+細胞の絶対数を推定した。処置の前後と移植前のすべてのインビボ実験の細胞数を表9に示す。
【0238】
RNA-Seqデータ生成および分析
RNeasy Plus Microキット(Qiagen)を用いて、メーカーの説明書にしたがって全RNAを抽出した。RNAの完全性は、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を用いて分析した。100 ngの全RNA/サンプルから、Illumina TruSeq RNA Sample Prep Kit v2の方法によって調製されたライブラリを、Qubit BRアッセイ(Life Technologies, Illkirch, France)およびAgilent 2100 Bioanalyzerによって定量した。SBS 2x100PEプロトコルを用いてIllumina HiSeq 2000プラットフォームで配列決定を行った。各サンプルについて平均して、30Mリードが得られた。次いで、各遺伝子は、それとオーバーラップするリードの総数によって特徴付けられた。標準化および遺伝子発現変動は、limmaパッケージのBioconductor(Smyth, G.K. (2004) Statistical Applications in Genetics and Molecular Biology 3: Article 3)を用いて実施された。パスウェイ解析は、当初はEnrichrRプラットフォーム(Chen, E.Y. et al. (2013) BMC Bioinformatics 14: 128)を用いて行われたが、高度なネットワークモデリングのほとんどは、Cytoscapeを用いて行われた。
【0239】
FACSおよびフローサイトメトリー
ヒトHSPCの蛍光によるセルソーティングを、Petrilloら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362)に記載のように行った。すべてのサイトメトリー分析は、FACS Canto III装置およびLSRFortessa装置(BD Biosciences, San Jose, CA)を用いて実施し、FACS Expressソフトウェア(De Novo Software, Glendale, CA)により解析された。形質導入後5~7日で、形質導入細胞におけるGFP発現を測定した。分析から死細胞を排除するために、細胞を洗浄し、10 ng/mL 7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD、Sigma-Aldrich)含有PBS中に再懸濁した。アポトーシスアッセイは、特記しない限り、形質導入の48時間後に、Annexin V Apoptosis Detection Kit I(BD Pharmigen)を用いて、メーカーの説明書にしたがって実施した。細胞増殖アッセイは、Cell Proliferation Dye eFluor 670(eBioscience)を用いて、メーカーの説明書にしたがって実施した。サイトメーターのキャリブレーションのために、レインボービーズ(Spherotech)を用いて、異なる分析日での色素シグナルを設定した。細胞周期分析は、Lechmanら(Lechman, E.R. et al. (2012) Cell Stem Cell 11: 799-811)に記載のように、形質導入の48時間後に、Ki67(BD pharmigen)およびHoechst(Invitrogen)染色によって行った。抗体を表4に示す。
【0240】
RNA、DNAおよびタンパク質
全RNAは、RNeasy Plus Micro KitまたはRNeasy Micro Kit (Qiagen)を用いて抽出し、逆転写は、SuperScriptVILO cDNA Synthesis Kit(ThermoFisher Scientific)を用いて、メーカーの説明書にしたがって行った。遺伝子発現解析は、Petrillo et al. (Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362)に記載のようにTaqManプローブ(Thermo Fisher、表6)によって行い、ヒトHPRT1またはマウスHprtを用いて、ヒトもしくはマウスcDNAインプットの総量をそれぞれ、標準化した。表6は、TaqManプローブ試薬の全リストを示す。
【0241】
ベクターコピー数(VCN)
ベクターコピー数(VCN)を求めるために、Maxwell 16装置(Promega)またはBlood & Cell Culture DNA micro kit (Qiagen)を用いて全DNAを抽出した。組み込まれたレンチウイルスベクターのコピー数は、Lombardoら、Petrilloら、およびSantoni de Sioら(Lombardo, A. et al. (2007) Nature Biotechnology 25: 1298-1306; Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362; Santoni de Sio, F.R. et al. (2008) Stem Cells 26: 2142-2152)に記載されるように、またはdigital droplet PCR(dd-PCR; BIO-RAD, California, USA)によってメーカーの説明書にしたがって、標準化物質としてhTERT遺伝子を用いて、評価した。全レンチウイルスDNA(組み込み、および非組み込み)のコピー数は、形質導入後3日で、Matraiら(Matrai, J. et al. (2011) Hepatology 53: 1696-1707)に記載されるように分析した。逆転写されたレトロウイルスベクターゲノム(組み込み、および非組み込みの両方)のコピー数は、以下のプライマーを用いて、一過性トランスフェクションから持ち越されたプラスミドとそれをdd-PCRで識別することによって実施した:RT-RV;ΔU3センス:5’-CGAGCTCAATAAAAGAGCCCAC-3’(配列番号7)、PBSアンチセンス:5’-GAGTCCTGCGTCGGAGAGAG-3’(配列番号8)。反応にロードされたヒトDNAの量は、Lombardoら(Lombardo, A. et al. (2007) Nature Biotechnology 25: 1298-1306)に記載のように、hTERT遺伝子を増幅するようにデザインされたqPCRまたはddPCRによって定量した。2LTRサークルコピー数は、Petrilloら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362)に記載されるようなプライマーを用いてdd-PCRで行った。表7は、プライマーの全リストを示す。特に断らない限り、コピー数は、細胞(二倍体ゲノム)あたりのアンプリコンコピーとして表される。
【0242】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットは、Petrilloら、およびKajaste-Rudnitskiら(Petrillo, C. et al. (2015) Molecular Therapy 23: 352-362; Kajaste-Rudnitski, A. et al. (2006) The Journal of Biological Chemistry 281: 4624-4637)に記載されるように行った。サンプルをBolt 4-12% Bis-Tris Plus ゲル(ThermoFisher, CAT # NW04120BOX)でSDS-PAGEに供し、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写した。表5は抗体の全リストを示す。
【0243】
統計分析
データは、平均±平均の標準誤差(SEM)として表される。各実験について示す通り統計学的検定を行った。有意性はp<0.05において認めた。
【0244】
結果
レンチウイルス形質導入はヒトHSPCにおいてDNA損傷応答を引き起こす
ヒトHSPCをLVに暴露したしたときに生じる可能性のあるシグナリングに幅広く対処するために、現行の臨床用ベクター用量の要件に見合う高い感染多重度で、研究グレードまたは臨床グレードのVSV-gシュードタイプ(SIN)LVに暴露された臍帯血(CB)由来CD34+細胞について、経時的にRNA-Seq解析を行った。対照として、細胞は、ポリ(I:C)、形質導入しないEnvなし(Bald)の対照ベクター、または熱不活性化された対照ベクターに暴露するか、または未処理のまま培養しておいた(図1A)。異なる処理により経時的に有意にモジュレートされた主要なパスウェイを、アノテーションされたさまざまなパスウェイデータベース(KEGGおよびWikiPathway)およびGene Ontology Biological Processes (GO-BP)を考慮したタームエンリッチメント解析によって評価し、さらにそれらの意味的類似性にしたがってクラスター化した。サンプルが、処理群とは無関係に、主成分分析(PCA)によって3つの別個の時間群にクラスター化されたので、データセット内の最大の転写変動は培養の時間であった(図7A)。増殖促進性サイトカイン存在下でのHSPC培養だけでも、すべての処理カテゴリーにおいて時間経過とともにおよそ6000~9000遺伝子の転写調節がもたらされた(表1)。未処理HSPCについて、もっとも富化されたパスウェイは、増殖因子およびサイトカイン誘導性刺激に合致して(Geest, C.R. et al. (2009) J. Leukoc. Biol. 86: 237-250)、MAPKシグナリングであった(図7B)。ポリ(I:C)に暴露されたHSPCは、自然免疫応答を強くアップレギュレートし、未処理対照と比較して合計2691遺伝子を有意に動かした(名目上のp値<0.05)(表2)。HSPCにおけるポリ(I:C)暴露の影響を受ける生物学的プロセスを明確化するために、有意に調節される遺伝子についてタームエンリッチメント解析を行った。もっとも代表的なGO-BPカテゴリーの中には、免疫応答の制御、NF-κBシグナリング、抗ウイルス応答、プログラム細胞死、および抗原プロセシングがあった(図8)。その代わり、LVに暴露されたHSPCは、非常にマイルドな応答を示し、研究グレードおよび臨床グレードのベクターを用いて、それぞれ321および281遺伝子がモジュレートされた(名目上のp値<0.05)(表2)。研究グレードであるか、臨床グレードであるかにかかわらず、LVによる影響を受ける遺伝子は、DNA損傷応答に有意に収束し、中でもp53シグナリングパスウェイに収束した(p値は、labグレードLVについて6.09×10-9、精製LVについては5.1×10-3)(図1B-C;図9AおよびB)。TLRシグナリングに関係する有意な自然免疫の活性化、またはNF-κB/インターフェロン刺激遺伝子(ISG)転写の活性化の証拠は、LV暴露HSPCと未処理細胞とを比較しても検出できなかった。自然免疫活性化に主に関与する遺伝子をさらによく調べると、経時的なモジュレーションのパターンにおいて有意な変化を示さなかった(表3)。その代わり、LV暴露HSPCにおいて名目上のp値<0.01を有する発現変動遺伝子の解析は、形質導入後約18時間で、Bald暴露対照と比較して、KEGG p53シグナリングパスウェイにマッピングされる遺伝子クラスターのアップレギュレーションを明らかにした(図1Dおよび1E)。
【0245】
p53シグナリングに関与するもっとも有意にモジュレートされた遺伝子のうちいくつかのアップレギュレーションを、LVまたは侵入能力のないBald LVに暴露されたHSPCで、TaqManによって確認した(図1F)。具体的には、いずれもp53の直接的な標的である、p21およびPHLDA3(Kawase, T. et al. (2009) Cell 136: 535-550; Espinosa, J.M. et al. (2001) Molecular Cell 8: 57-69)が、LVによって高度に誘導され、形質導入後48時間で対照と比較して10倍高い発現レベルに達した。精製LVを用いたRNA-Seqの結果(図1)と一致して、MLDを治療するための最近の治験で使用されたヒトARSAを発現する臨床グレードLV(Biffi, A. et al. (2013) Science 341: 1233158)は、研究グレードLVと同等レベルのp21誘導をもたらした(図10A)。これらの結果は、研究グレードのベクター調製物に存在するプラスミドDNAのような、存在する可能性のある夾雑物(Merten, O.W. et al. (2011) Human Gene Therapy 22: 343-356)が、観察されたシグナリングに関与しないことを示唆する。
【0246】
まとめると、上記の観察は、ヒトHSPCのLV形質導入が、自然免疫シグナリングではなくむしろ、ポリ(I:C)暴露でこれらの経路を迅速にアップレギュレートする能力にもかかわらず、早期DNA損傷応答を特異的に誘発することを示す。
【0247】
LV誘導性p53シグナリングは逆転写を必要とするが、組み込みには依存しない
HSPC中のp53シグナリングをLVがどのように誘導するかをさらに調べるために、p53活性化のマーカーとしてp21 mRNA誘導を追跡することを選択したが、それは、本発明者らのトランスクリプトームプロファイリング実験において最も反応性のある遺伝子の一つであったからである(図1)。p21の誘導は用量依存性であり(図11A)、ヒトHSPCに特異的であり、CD4+ T細胞、Lin-マウスHSPC、および造血起源の別のヒト細胞株は、LV暴露時にp21をアップレギュレートしなかった(図11B)。次に、本発明者らは、異なるCD34+亜集団におけるp21の誘導を調べた(図2A)が、これは、より原始的な造血幹細胞(HSC)と、コミットした前駆細胞との間で、明確に異なるDNA損傷応答が生じることが明らかになったからである(Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197)。全体としてみると、LVはすべてのCD34+亜集団において同程度にp21発現を誘導したが、もっとも原始的なCD34+CD133+CD38-画分は、より高レベルの誘導を示し、この細胞画分で達成された、より高い形質導入レベルと相関した(図2Bおよび11C)。
【0248】
p53経路は、DNA損傷、低酸素症または癌遺伝子の活性化などのさまざまな細胞ストレスシグナルによって誘発されうる(Riley, T. et al. (2008) Nature Reviews. Molecular Cell Biology 9: 402-412)。HIV-1感染は、ウイルスの組み込みの際にDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の活性化によって、CD4+ T細胞のp53依存性アポトーシスを誘導することが示されている(Cooper, A. et al. (2013) Nature 498: 376-379)。p53の活性化が、形質導入されたHSPCとの関連においてもプロウイルスの組み込みに依存するかどうかという問題に対処するために、同一用量の、組み込み能力のあるLV、または組み込み欠損LV(IDLV)に細胞を暴露し、形質導入後48時間にp21誘導を測定した。2つのベクターは、CB由来ならびに骨髄(BM)由来CD34+ HSPCのいずれにおいても、同等なベクターDNA投与量において(図11D)同程度にp21を誘導した(図2Cおよび2D)。注目すべきことに、EnvなしのBaldベクターもゲノムなしの空のLVもp21のアップレギュレーションをもたらさない(図2Cおよび2D)ので、誘発の原因はベクターストックの夾雑物でも、LV粒子の侵入でも、細胞のウイルスコアへの暴露でもなかった。IDLVに媒介されたアップレギュレーションと一致して、インテグラーゼ阻害剤ラルテグラビルの存在下で形質導入されたHSPCにおいて、LV組み込みが効率的にブロックされている(図11E)にもかかわらず、依然としてp21誘導が生じた(図2E)。組み込みに依存しないp53シグナリングの活性化は、p53のセリン15におけるリン酸化に関する、ウェスタンブロット、FACSおよび間接免疫蛍光(IFI)染色、p53の基礎レベルの増加、ならびに動員末梢血(mPB)由来CD34+ HSPCにおけるLVおよびIDLVの両者によるp21の誘導によっても確認された(図2G-Hおよび図11G-I)。さらに、DNA切断に依存しないp53の誘導と合致して、リン酸化ヒストン2AX(γH2AX)フォーカスに変化は見られなかった(図11I)。最後に、p21アップレギュレーションは、逆転写酵素阻害剤3TCの存在下で抑制された(図2Eおよび11E)が、これは、HSPCにおいてp53シグナリングが生じるためにはレンチウイルスDNA合成が必要であることを示唆する。
【0249】
P53誘導はベクターDNAの能動的な核内移行を必要とする
外来の遺伝物質をHSPCに導入するために使用される他のウイルスベクター(Naldini, L. (2011) Nature Reviews. Genetics 12: 301-315)も、細胞を外来DNAに暴露する。LVと同様に、ガンマレトロウイルスベクター(γRV)はそのゲノムRNAをDNAに逆転写するが、このDNAは宿主ゲノムに組み込まれることになる(Coffin, J.M., Hughes, S.H., and Varmus, H.E. (1997). The Interactions of Retroviruses and their Hosts. In Retroviruses. J.M. Coffin, S.H. Hughes, and H.E. Varmus, editors. Cold Spring Harbor (NY))。その代りに、さまざまな血清型のアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が、一過性遺伝子発現のために、または遺伝子編集時のドナーDNAとして、広く使用されるDNAベースの非組み込み型ウイルスベクターとなっている(Mingozzi, F. et al. (2011) Nat. Rev. Genet. 12: 341-355; Naldini, L. (2015) Nature 526: 351-360)。本発明者らは、γRVおよびAAV-6の両者がHSPCにおいてp21を誘導する能力を調べた。AAV-6に暴露されたHSPCはロバストなp21誘導を示したのに対して、γRVは臨床的に適切なベクター用量において、p21発現にまさに中程度の影響を与えた(図3Aおよび12A-B)。ベクターDNAを標的細胞の核内に能動的に移入させるHIV-1由来LVおよびAAV-6とは異なり、γRVは細胞の有糸分裂に依存して宿主ゲノムにアクセスする(Bushman, F. et al. (2005) Nature Reviews. Microbiology 3: 848-858; Nonnenmacher, M. et al. (2012) Gene Therapy 19: 649-658)。HSPCにおいてp53シグナリングを誘発するためにLV DNAの能動的な核内移行が必要であるかどうかを調べるために、プレインテグレーション複合体(PIC)の効率的な核内移行に必要とされる中心ポリプリントラクト(cPPT)を欠いたベクターを作製した(Follenzi, A. et al. (2000) Nature Genetics 25: 217-222; Zennou, V. et al. (2000) Cell 101: 173-185)。同等の投与量のウイルスcDNAでの形質導入後3日で、全ウイルスDNAに対する核の2LTRサークルのパーセンテージの低下で測定されるように、未改変LVと比較してΔcPPT LVの核内移行が3倍まで低下していることが、293T細胞およびCD34+ HSPCのいずれにおいても確認された(図12C-D)。ヒトHSPCにおいて、ΔcPPT LVは、WT LVに対して2倍低いp21 mRNAを誘導したが(図3B)、これは、HSPCにおいてp53シグナリングを活性化するために、ベクターDNAの効率的な核内移行が必要とされることを示唆する。
【0250】
p53シグナリングは最近、I型IFN経路と関連付けられた(Yu, Q. et al. (2015) Cell Reports 11: 785-797; Hartlova, A. et al. (2015) Immunity 42: 332-343)ので、さまざまなベクターに暴露後のヒトHSPCにおいて、いくつかのISGの発現も調べた。本発明のRNA-Seqデータセットにしたがって、cPPTの存在に関わりなく、LV形質導入時のヒトHSPCにおいて、ISGの活性化を証明することはできなかった(図3C)。AAV-6で形質導入されたヒトHSPCではI型IFN応答は観察されなかったが、γRVは、調べたすべてのISGについて有意なアップレギュレーションを誘発した(図3C)。LV媒介性シグナリングとは異なり、ISG誘導は、逆転写酵素阻害剤アジドチミジン(AZT)もしくはラルテグラビルの存在下でも生じるので、ヒトHSPCのγRVに対する暴露による自然免疫活性化は、逆転写および組み込みには依存しない(図12E)。γRV媒介性ISG誘導は、I型IFN受容体シグナリングがブロックされた時に阻害されたが、I型IFNによるHSPCの前処理がLVによるp21の誘導を妨げなかったので、それはγRV暴露時のp53シグナリングの欠如を説明するものではない(図11J)。留意すべきは、LVおよびγRVがいずれも、マウスLin-細胞においてISG発現を容易に誘発したことであり(図12F)、それは、I型IFN活性化を回避することができるLVの能力がヒトHSPCに特異的であることを示す。
【0251】
インビトロでのHSPCにおけるLV誘導シグナリングの機能的な影響
p53は、複製ストレス下はもちろん、定常状態の造血の際にも、HSPCの静止状態およびホメオスタシスの制御に中心的な役割を有する(Liu, Y. et al. (2009) Cell Cycle 8: 3120-3124; Liu, Y. et al. (2009) Cell Stem Cell 4: 37-48; Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197; Lane, A.A. et al. (2010) Cell 142: 360-362; Mohrin, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 174-185)。損傷の程度および活性化された転写プログラムに依存して、細胞は、p53活性化するといくつかの運命(faiths)に進みうる(Riley, T. et al. (2008) Nature Reviews. Molecular Cell Biology 9: 402-412; Brady, C.A. et al. (2011) Cell 145: 571-583)。p21およびPHDLA3は、本発明のRNA-Seqデータセットの中で最も強力にアップレギュレートされた遺伝子の一つである(図1)が、特定のp53転写プログラムへの明白な偏りは見られなかった。したがって、HSPCにおけるLV誘導p53シグナリングについて考えられる機能的影響をいくつか検討した。LV形質導入で観察された10倍のp21誘導は(図13A)、形質導入の2日後に、わずかだが有意な細胞増殖速度の遅れをもたらした(図4A)。このアッセイのポジティブコントロールとして使用されるp21過剰発現HSPCにおいても、同様の増殖停止が観察された(図4Aおよび図13A)。より詳細には、最も原始的なCD34+CD133+CD90+画分において、より遅い増殖が見られ、この効果は形質導入後6日目まで持続すると思われた(図4Aおよび13B)。一致して、受けた分裂の少ない細胞の部分が、細胞増殖色素の最も高いMFIを有する集団となり(図13CのC1群)、バルクCD34+ HSPC中の対照細胞と比較して、LVに暴露された状態でより多く存在を示す傾向があった(図13D)。異なる条件の間で、経時的に、CD34+亜集団の組成に有意差が見られなかったので、これらの相違の原因は、より増殖の遅いCD34+CD133+CD90+細胞の増加ではなかった(図13E)。より遅い細胞増殖と一致して、形質導入されたHSPCは、対照と比較して、G0細胞周期段階にある細胞のより高い画分を示した(図4B)。さらに、形質導入された集団内では、低GFP画分と比べてより多くのベクターコピーを保有する可能性のある高GFP画分について、より強い増殖遅延が見られた(図13D)。一致して、より多く形質導入された高BFP細胞において、より高いp21誘導がFACSにより検出された(図11G)。
【0252】
LVに暴露されたHSPCは、わずかであるが有意な、アポトーシス細胞の用量依存的な増加を示した(図4Cおよび13G)。LVで形質導入されたHSPCの増殖低下およびアポトーシスの複合的影響は、培養中の経時的な全細胞数に関しても反映された(図4G)。アポトーシスは、すべてのCD34+亜集団において同程度に生じ(図4D)、GM-CFUコロニーアウトプットの低下が、LVに暴露された全HSPCにおいて観察された(図4E)。異なるCD34+亜集団のCFUアウトプット能力から判断すると、LVに暴露されたCD133+CD38-、およびCD133+CD38int画分は、対照と比べて有意に低いGM-CFUカウントを示すものであった(図13F)が、これは、より高いp53活性化と相関する(図2B)。HSPCのAAV-6および臨床グレードLVへの暴露後にもアポトーシスの増加が起こったが、γRVに暴露されたHSPCも同様のアポトーシス細胞のパーセンテージを示したので、必ずしもp53活性化と相関していない(図14AおよびB)。逆転写の阻害は、HSPCにおけるアポトーシスのLVによる誘導を完全に阻害したが、組み込みの阻害はこれを阻害せず、このことはp21誘導に及ぼすそれらの影響と相関する(図4Fおよび2E)。
【0253】
以上まとめると、これらの結果は、ヒトHSPCにおけるLV形質導入時のp53誘発の主要なインビトロの機能的影響は、増殖のわずかな遅れ、細胞周期のG0期にある細胞の画分の増加、ならびにアポトーシスの増加およびコロニー形成アウトプットの減少であることを示している。
【0254】
インビボでのHSPCにおけるLV誘導シグナリングの機能的影響
本発明のインビトロの結果は、より原始的なCD34+CD133+CD90+細胞を含めて、HSPCに及ぼすLV暴露の機能的影響を示唆するが、インビボ再増殖実験は、依然として、HSCの自己再生および分化能力を探るための究極の判断基準である。LV形質導入がどのようにしてヒトHSCの機能に影響を及ぼすかを究明するために、形質導入を行うLV、またはゲノムなしの「空のLV」対照ベクターのいずれか一方に暴露された、同数で限定個数のCB由来CD34+ HSPCを免疫不全NSGマウスに移植した。形質導入されたHSPCの時間経過に伴う最終的な選択的利点もしくは不都合を調べるために、一群のマウスが、LVおよび空のLV暴露細胞の3:1比率の混合物の投与を受けた(図5A)。移植されたHSPCの形質導入レベル、p53活性化、ならびに結果として生じる細胞生存率およびクローン形成能に及ぼす影響を、インビトロで検証した(図15A-E)。ヒトCD45+細胞のパーセンテージとして測定される、末梢血液中の造血アウトプットを移植後12週間まで経時的に追跡した。等量の細胞投与量にもかかわらず、LV暴露HSPCは、空のベクターに暴露された細胞より有意に低い生着をすべての時点で示した(図5B)。生着の減少は、続けて2回のVSV-gシュードタイプ化臨床グレードLVによる形質導入に基づく現行の臨床標準プロトコルにしたがって形質導入されたmPB由来HSPCにおいても確認された(図5Iおよび15G)。留意すべきは、移植の16時間後にNSGマウスの骨髄から回収されたCD34+細胞の数に、形質導入HSPCと対照HSPCとの間で有意な差異が検出されなかった(図5J)ことであり、これは、LV形質導入がHSPCのホーミング能力を変化させないことを示唆する。それにもかかわらず、いったん生着すると、形質導入されたHSPCの対照に対する選択的な不都合は見られなかった。形質導入HSPCおよび対照HSPCの混合物の移植を受けたマウスは、LV暴露細胞単独で観察された生着の低下を考慮すると、元のインビトロ比率に比例した安定した生着レベルを生じた(図5B)。したがって、形質導入されたGFP+細胞のパーセンテージは、時間経過につれて一定のままであった(図15F)。さらに、生着の減少にもかかわらず、LV形質導入は、末梢においてヒト細胞の系列組成を変化させなかった(図5C)。
【0255】
長期間再増殖させたHSCに及ぼすLV誘導シグナリングの影響を評価するために、移植後12週間の時点で3つの異なる一次レシピエント群から回収されたCD34+細胞を用いて、二次移植を行った(図5A)。屠殺時に一次レシピエントの骨髄から回収されたヒトCD45+細胞のパーセンテージは、末梢で観察されたレベルを反映しており、LV暴露HSPCの生着の有意な低下が確認された(図5D)。しかしながら、骨髄幹細胞コンパートメントをより詳細に検討すると、異なる群の間で全CD34+細胞のパーセンテージに有意な差異は観察されず、より原始的なCD34+CD38-およびコミットしたCD34+CD38+細胞が、等しい出現頻度で見られた(図5E)。より原始的なCD34+CD38-画分において、HSC、未成熟リンパ球前駆細胞(MLP)および多能性前駆細胞(MPP)(Doulatov, S. et al. (2012) Cell Stem Cell 10: 120-136; Notta, F. et al. (2016) Science 351: aab2116)の割合は、群の間で保存されたままであり(図5F)、屠殺した一次レシピエントの脾臓において、系列組成に差異は観察されなかった。二次移植では、すべてのマウスが処理群に関わりなく再増殖に成功した(図5G)。LV暴露HSPCの生着の低下傾向は、二次レシピエントにおいて依然として見られたが、対照群と比較した差異はもはや有意ではなかった。その上、LV条件と、形質導入HSPCおよび対照HSPCの混合集団の投与を受けたマウスとの間で、差異は観察されなかった(図5G)。GFP+細胞の生着レベルおよびパーセンテージは、混合条件において経時的に安定したままであったので、形質導入されていない対照HSPCの選択的利点のないことが、この設定で確認された(図5Gおよび15F)。屠殺時に、全CD34+ HSPCの観点から、ならびに、より原始的なCD34+CD38-およびコミットしたCD34+CD38+細胞の出現頻度の観点から見ると、骨髄組成に主要な相違は見られなかった(図5H)。一致して、限界希釈アッセイ(LDA)は、LV形質導入が長期再増殖幹細胞出現頻度を有意に変化させないことをさらに確認した(図5K)が、生着レベルは、対応する治療用量に対して、注入された生細胞数の低下に起因して、LV暴露群においてやはりわずかに低かった(図15J)。
【0256】
全体的にみて、上記の結果から、LVへの暴露は、急激なアポトーシス誘導に起因して、HSPCのエクスビボでの維持およびインビボでの生着にマイナスの影響を与えるが、そのホーミング、組成、系列アウトプット、または長期再増殖能力には影響しないといえる。
【0257】
p53活性化の阻害はHSPCアポトーシスおよび生着をレスキューする
エクスビボHSPC形質導入の際にp53シグナリングをブロックしたら、上記の機能的な影響の一部を防止できるかどうかを調べるために、HSPCを対照LV、またはドミナントネガティブ型p53を過剰発現するLV、GSE56(Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197; Nucera, S. et al. (2016) Cancer Cell 29: 905-921)に暴露したが、これは、カプトテシン(CPT)による強力なDNA損傷時にも、HSPCにおいてp53シグナリングを効果的にブロックすると、本発明者らにより確認されたものである(図6E)。2回のLVまたはAAV6による形質導入時の、p21誘導の観点から見たp53シグナリングの活性化は、GSE56発現細胞において、対応する対照形質導入されたものと比べて完全に防止された(図6E)。一致して、2回の形質導入後GSE56発現HSPCにおいて、アポトーシスの減少が観察された(図6F)。
【0258】
細胞ストレス時に、p53シグナリングは、特定の残基のリン酸化によって、またはMDM2によるユビキチン化を阻害することによってそれを活性化する、さまざまな上流シグナルメディエーターによって誘導されうる(Riley, T. et al. (2008) Nature Reviews. Molecular Cell Biology 9: 402-412)。ATMキナーゼに媒介される活性化は、p53のセリン15におけるリン酸化をもたらす(Roos, W.P. et al. (2016) Nature Reviews. Cancer 16: 20-33)が、本発明者らは、LV暴露時のHSPCにおいて生じることを観察した(図3F)。ヒトHSPCでのLV媒介性p53活性化において、ATMの関与を評価するために、ATM阻害剤KU55933(Hickson, I. et al. (2004) Cancer Research 64: 9152-9159)の存在下で細胞に形質導入し、p53シグナリングを追跡した。LV暴露中のATMキナーゼの阻害は、p21 mRNAレベルを有意に低下させ(図6A)、HSPCにおけるアポトーシスの誘導を部分的に抑制した(図6B)。ATM阻害は、GFP+細胞の観点からも、組み込まれたベクターコピーの観点からも、形質導入効率を損なわなかった(図6C)。p21誘導の減少とともに、アポトーシス、コロニーアウトプット、および培養中の細胞数に及ぼすATM阻害のポジティブな影響もまた、臨床グレードLVを用いて、mPB CD34+細胞において、2ヒット形質導入プロトコルのより臨床に関連のある設定で確認された(図6H-J)。AAV-6に媒介された遺伝子導入がヒトHSPCにおいてLVと同様の反応を誘発したことを考えて、ATM阻害がこの設定でインビトロでの影響を防止できるかどうか調べた。p21 mRNA誘導ならびにアポトーシスはともに、AAV-6に暴露されたCB-CD34+において、ATM阻害でレスキューされた(図6D)。ATM阻害は、γRVに媒介されたISGの誘導には影響を与えなかった(図15K)。留意すべきは、ATM阻害は形質導入されたHSPCの細胞生存を改善したが、残存するp21活性に起因する可能性のある、観察された増殖の遅れには影響を与えなかったことである(図15K)。p21誘導の欠如と符合して、γRVで形質導入されたHSPCでは増殖の遅れは検出されなかった(図15K)。
【0259】
HSPC形質導入中の一過性ATM阻害が、インビボでの生着の低下をレスキューできるかどうかを調べるために、細胞を、KU55933または対照としてのビヒクルの存在下で、LVまたは侵入能力のないBaldベクターに暴露し、等しい用量でNSGマウスに移植した(図6E)。LV暴露HSPCの生着の低下は、いずれも末梢血液中で経時的に、対照群においてBald処理細胞と比較して確認された(図6F)。エクスビボ形質導入進行中のp53シグナリングの一過性阻害は、LV暴露HSPCの生着を約25%改善し、その結果として、形質導入細胞とBald暴露細胞とで、同等レベルのヒトCD45+細胞が末梢血液中で検出された(図6F)。ATM阻害剤へのHSPCの暴露は、インビボで、CD34+も、系列組成もしくは形質導入効率も変化させなかった(図16)。また、この設定では、長期間のヒト細胞の生着は、LV暴露により影響を受けにくく、そのことはさらに、形質導入時のp53シグナリングの活性化が、主に短期HSPCに影響を及ぼすことを示している。
【0260】
まとめると、上記の結果は、エクスビボ遺伝子導入時のヒトHSPCにおけるp53活性化に関係する、インビトロでのアポトーシスおよびインビボでの生着の低下が、形質導入効率に影響を及ぼすことなしに、上流メディエーターATMの一過性阻害によって、少なくとも部分的に予防できることを示唆する。
【0261】
考察
HIV-1に媒介されたシグナリングは、モデル細胞株およびウイルスの一次標的において広く研究されてきた(Towers, G.J. et al. (2014) Cell Host & Microbe 16: 10-18)が、依然として議論を呼ぶウイルス標的である、CD34+造血幹細胞コンパートメントでは、わずかな情報しか利用できない。(Josefsson, L. et al. (2012) The Journal of Infectious Diseases 206: 28-34; Carter, C.C. et al. (2010) Nature Medicine 16: 446-451)。しかしながら、遺伝子治療アプローチの文脈において、こうした細胞の、レンチウイルスによる形質導入に対する許容性が不十分であるため、HSPCにおいて効率的で安全な遺伝子導入を妨げる可能性があるので、LVに対する免疫障壁および細胞応答の可能性に関する研究が進められてきた(Kajaste-Rudnitski, A. et al. (2015) Cellular innate immunity and restriction of viral infection - implications for lentiviral gene therapy in human hematopoietic cells, Human Gene Therapy)。ここで本発明者らは、LV形質導入がヒトHSPCでの遺伝子導入に際して早い段階で誘発するグローバルな転写の変化を検討し、この原始的な幹細胞コンパートメントにおいて自然免疫シグナリングではなくDNA損傷応答を、核酸に媒介されて誘発することについて、実質的な推定機序を与える。
【0262】
LV形質導入が、ヒトHSPCにおいて標準的な自然免疫活性化ではなくDNA損傷応答を誘発するという本発明者らの所見は、分化した造血細胞と比較して、その特殊性を強調する。HIV-1は初代CD4+ T細胞ならびにU2OS細胞株においてp53シグナリングを活性化することが示されているが(Cooper, A. et al. (2013) Nature 498: 376-379; Lau, A. et al. (2005) Nat. Cell Biol. 7: 493-500)、いずれの場合も誘導は、ウイルスの組み込みに厳密に依存し、したがって宿主ゲノム内の物理的切断の発生に厳密に依存していた。さらに、これに関連して、本発明者らは、CD4+ T細胞、およびテストしたいくつかの他の細胞株において、LVに暴露した際にp21の発現レベルに有意な変化を認めなかったので、p21はp53活性化の優先的な下流エフェクターではない可能性がある。誘導はLVについて組み込みに依存しないで起こり、非組み込み型アデノウイルスDNAによっても引き起こされうので、LV形質導入時のヒトHSPCにおけるp53シグナリングの活性化は、ゲノムDNA切断の認識ではなく、その代わりに外来DNAの核内感知に関係しているということを、本発明者らの知見は示唆する。
【0263】
ヒトHSPCにおいて、二本鎖ベクターDNAの核内感知が、p53のATM依存性活性化を誘発した。ヒストンバリアントH2AXのリン酸化は、DDRイベントカスケードのATM依存性誘発の重要な特徴であるが(Marechal, A. et al. (2013) DNA damage sensing by the ATM and ATR kinases, Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 5)、Chk2およびp53などのATM基質のリン酸化には重要でない(Kang, J. et al. (2005) Mol. Cell Biol. 25: 661-670)。ATMによる、切断に依存しないp53の活性化と符合して、本発明者らは、形質導入時に有意なレベルのリン酸化H2AXフォーカスを検出することができなかった。これらの結果はまた、HIV-1の組み込み自体が、可能性としてウイルスの組み込み前複合体による立体的保護に起因して、ヒトHSPCにおいてDNA修復機構をロバストに動員しない可能性があることを示唆する(Craigie, R. et al. (2012) Cold Spring Harb Perspect Med 2, a006890)。興味深いことに、細胞質DNAエキソヌクレアーゼTrex1を欠損したマウス胚線維芽細胞は、追加的な外因的ストレスがなくても、G1/Sの移行の欠損、および長期にわたるATM依存性チェックポイントの活性化を示し、このことは、この場合はTrex1欠損細胞のERにおける、異常な核酸の蓄積が、ATM依存性DDR応答を誘発しうることを示唆する(Yang, Y.G. et al. (2007) Cell 131: 873-886)。核内で、ATMが、遊離二本鎖(ds)DNA末端の存在下で、長さに依存して活性化されることが示されている(Lee, J.H. et al. (2005) Science 308: 551-554)。ヒト細胞抽出物において、ATMは、平滑dsDNA末端により活性化されるだけでなく、短い一本鎖(ss)DNAオーバーハングを有するdsDNAによっても活性化される(Shiotani, B. et al. (2009) Molecular Cell 33: 547-558)。この種の分子パターンは、3’オーバーハングおよび二次構造を含めて、ウイルスおよび細菌の遺伝物質の特徴であることが多く、通常、さまざまな細胞質核酸センサーの活性化を介した自然免疫応答の誘発に関連している(Roers, A. et al. (2016) Immunity 44: 739-754)。
【0264】
HIV-1およびMLVはいずれも、細胞質基質核酸センサーcGASの活性化によりIFN応答を誘発することが示されている(Gao, D. et al. (2013) Science 341: 903-906)。これに関連して、レトロウイルスDNAはcGASによって感知され、その後アダプタータンパク質STINGの活性化が続き、最終的にI型IFNおよび他の炎症性サイトカインの合成に至る。また、哺乳動物細胞において、損傷した自己のDNAを検出するタンパク質は、IFN生成、細胞周期制御、およびプログラム細胞死を引き起こしうるシグナリング応答を活性化しうる(Jackson, S.P. et al. (2009) Nature 461: 1071-1078)。NF-κB経路のATMに媒介される誘導(Wu, Z.H. et al. (2006) Science 311: 1141-1146)、またはMEFおよびUO2S細胞株においてDDRにより誘導されるIFNシグナリング(Yu, Q. et al. (2015) Cell Reports 11: 785-797)といった発見は、自然免疫シグナリングとDDRとの間のクロストークに関する新しい概念を際立たせる。実際、HSPCにおける自然免疫応答の、ポリ(I:C)を介した誘導には、アポトーシス関連経路の顕著な活性化も付随した。それにもかかわらず、本発明者らは、LVにより形質導入されたHSPCにおいてIFNおよびNF-κBシグナリングの徴候を注意深く探したが、上記経路の有意なモジュレーションを見出すことはできなかった。その一方で、MLVベースのγRVは、いくつかのISGの実質的な発現を引き起こしたが、このI型IFN活性化はおそらく、ヒトHSPCにおいてDNAではなくウイルスRNAの細胞質認識に依存する。こうした状況において、レトロウイルスRNAは、エンドソームTLR、RIG-I、もしくはごく最近になって報告されたジンクフィンガー抗ウイルスタンパク質(ZAP)(Lee, H. et al. (2013) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 110: 12379-12384)によって感知されうる。p53活性化のないことは、HSPCにおけるγRVの低い形質導入効率に起因する可能性が高い。HSPCなどの分裂していない静止細胞の核内へのLVおよびAAVの能動的な侵入能力(Bushman, F. et al. (2005) Nature Reviews. Microbiology 3: 848-858; Nonnenmacher, M. et al. (2012) Gene Therapy 19: 649-658)は、有糸分裂が起こるのを待つ間に細胞質に蓄積する可能性のあるγRV核酸を検出する細胞質センサーを、それらが回避することを可能にすると考えられる。それにもかかわらず、LVからcPPTを取り除いたことで効率の低下した核内移行は、p21 mRNAの誘導を有意に低減させたが、ISGの誘導は付随しなかった。ΔcPPTベクターの細胞質蓄積速度は、細胞質の固有センサーの引き金を引くには十分でないかもしれないが、本発明者らは、LVとγRVとの間の、逆転写および/または脱殻速度の差異、またはHIV-1が利用する他の自然免疫回避メカニズムが、ヒトHSPCにおけるLVに対するIFN応答を防止することもありうることを排除することはできない(Towers, G.J. et al. (2014) Cell Host & Microbe 16: 10-18; Sauter, D. et al. (2016) Curr. Opin. HIV AIDS 11: 173-181)。
【0265】
p53活性の増加は、HSC静止を促すことが示されている(Liu, Y. et al. (2009) Cell Stem Cell 4: 37-48)が、近年では、II型タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT5)をノックアウトしたマウスに関して、HSPCの喪失にも関連付けられた(Liu, F. et al. (2015) The Journal of Clinical Investigation 125: 3532-3544)。ヒトHSPCにおいて、LVによるp53の誘導は、その増殖の低下およびG0にある静止細胞分画の増加をもたらすことが観察された。これは、原則として、遺伝子導入の際に長期再増殖細胞を保存し、インビボで対照より高い形質導入細胞の生着を可能にすると考えられる。しかしながら、形質導入されたHSPCの投与を受けたマウスから、有意に低いパーセンテージのヒト細胞が回収されたので、並行して起こるアポトーシス誘導は、特に短期再増殖HSPCを含有する画分において、上記の利益の可能性を相殺すると思われる。それにもかかわらず、HSPCにおけるLVに媒介されたp53活性化について明らかな長期的影響は観察されなかったことから、エクスビボ形質導入に関しては、p53シグナリングの一過性の波は幹細胞に急性の影響しか与えないことが示された。
【0266】
いくつかの報告は、HSC静止および自己再生におけるDDRおよびp53シグナリングの役割にエレガントに取り組んでいるが、これらの研究の大半は、マウスの環境で行われた。静止したマウスHSCは、アポトーシスに抵抗し、非相同末端結合(NHEJ)によってDNAを修復することが示されているが、コミットした前駆細胞は、よりアポトーシスを受けやすく、あるいはより忠実度の高い相同組換え(HR)によってDNAを修復する可能性が高かった(Mohrin, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 174-185)。一致して、DDR関連遺伝子の発現増加は、HSCよりさらにコミットしたマウス前駆細胞の特徴であることが、最近示された(Cabezas-Wallscheid, N. et al. (2014) Cell Stem Cell 15: 507-522)。マウスの状況とは異なり、損傷したヒトHSCは、低レベル照射後に、優先的にアポトーシスを受けることが示されている(Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197)。実際、LV形質導入は、すべてのCD34+亜集団においてアポトーシスを引き起こしたが、最も影響を受けたのは、CFUアウトプットの低下の観点からも、より原始的なCD133+CD38-およびCD133+CD38int画分であるように見えたことが観察された。それにもかかわらず、本発明者らは、p53シグナリングの誘導がベクター用量依存性であったので、原始的なHSCコンパートメントにおいて観察される高い形質導入効率の寄与する可能性を排除することができない。
【0267】
p53レベルの減少は、照射によって誘導されたプログラム細胞死からヒトHSCをレスキューすることが示されている(Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197)。LV形質導入プロセスの間、p53活性化を阻害すると、やはりヒトHSPCのエクスビボアポトーシスが部分的にレスキューされ、インビボで対照より高い生着をもたらした。ATM阻害は、細胞株との関連においてLV形質導入効率を劇的に低下させることが示されている(Lau, A. et al. (2005) Nat. Cell Biol. 7: 493-500)が、ヒトHSPCにおける同一濃度でのLV遺伝子導入に対してKU55933の負の影響は観察されなかった。これは、本研究において細胞の薬物への暴露時間が短いことに起因する可能性が最も高いが、ATM阻害に対する細胞型依存性の感受性を排除することはできない。p53シグナリングカスケードの一過性阻害は、LVベースの遺伝子治療アプローチに対して、臨床的な恩恵となる可能性がある。具体的には、LV媒介性シグナリングは、炎症誘発性の高まった状態、またはDDR経路に影響を及ぼす遺伝子異常によって特徴づけられる疾患の観点から、より顕著な機能的影響を有しうる。しかしながら、HSPCにおいて薬理学的なATM阻害を行った際の、部分的で一過性のp53誘導の阻害を観察しただけではあるが、LV組み込み、およびゲノム安定性の観点から起こりうる影響を注意深く評価することは、臨床試験に向けてそれを考慮する前に必要となるであろう。反対に、IDLVもしくはAAVドナーベクターによるDDR経路の誘導は、この分野における大きな課題の1つが依然として、最も原始的な細胞画分におけるHRの頻度が低いことであるので、標的となるHSPC遺伝子編集の利益となる可能性がある(Naldini, L. (2015) Nature 526: 351-360; Genovese, P. et al. (2014) Nature 510: 235-240)。HRを促進する可能性のあるDNA損傷応答の成分を保存しつつ、ベクターシグナリングのアポトーシス誘導アームを特異的にブロックするストラテジーの開発は、ヒトHSPCにおける標的遺伝子編集効率をさらに向上させる可能性がある。
【0268】
留意すべきこととして、ATM阻害はLV誘導性アポトーシスをレスキューしたが、HSPC増殖の減少には影響を与えなかった。これらのデータは、こうした条件において非アポトーシス性静止の窓に達することができて、HSPC生着の改善をもたらすという仮説を支持する。この状況において、対照細胞もまたATM阻害から利益を得ると思われ、それは、移植それ自体が、HSPCにおいて有害となりうるp53シグナリングを活性化する可能性があることを示唆したが、このことはまた、p53ノックダウンHSPCが、照射により誘導されるDNA損傷なしでも対照形質導入細胞と比べて多く生着した実験によっても示唆された(Milyavsky, M. et al. (2010) Cell Stem Cell 7: 186-197)。
【0269】
p53シグナリングの一過性の波は、未形質導入HSPCと処理HSPCとの間で生着レベルが時間経過とともに標準化される傾向があり、長期再増殖幹細胞出現頻度は影響を受けないままであったので、明白な長期的結果をもたらさなかったが、これは、LV形質導入されたアカゲザルHSPCにおいてインビボで長期に観察された、テロメアの長さおよび遺伝子発現プロファイルが変わらないことと一致した(Sellers, S.E. et al. (2014) Mol Ther 22: 52-58)。組み込み型および非組み込み型ベクターがいずれも、短期再増殖細胞で見られるような類似した分子応答を引き起こすにもかかわらず、長期HSPCの生物学的特性に検出可能な影響を及ぼさないという本発明の知見は、2つのHSPCサブセット間の明白な生物学的差異を明確に示し、将来のさらなる研究の十分な根拠となる。原始的なCD34+CD133+CD90+画分で観察される持続性のさらに高い増殖の停止は、部分的に、長期HSC生着能力をよりよく保存する要因となる可能性がある。さらに、長期HSPCは、静止期マウスHSPCと活性化されたマウスHSPCについて最近報告されたように(Walter, D. et al. (2015) Nature 520: 549-552)、DDRに対する感受性が低い可能性がある。
【0270】
LV媒介性p53シグナリングが短期造血幹細胞(ST-HSC)の生着に及ぼす負の影響は、ST-HSCの迅速な生着が安全で良好な臨床転帰に重要であるので、顕著な臨床上の重要性を有する。実際、好中球減少症関連感染が、自家造血幹細胞移植(HSCT)患者の8%、および同種HSCTレシピエントの17~20%で、死亡の主原因として報告されている(Tomblyn, M. et al. (2009) Biol Blood Marrow Transplant 15: 1143-1238)。さらに、抗生物質および抗真菌薬による予防は、重大な副作用を伴う可能性もあり、完全な防御を提供しない。したがって、HSCT後の最も脆弱な早期の好中球減少期において、感染症を予防するための他に取りうる方策が明確に必要である(Kandalla, P.K. (2016) J Exp Med 213: 2269-2279)。自家HSC移植と同様に、HSC遺伝子治療における治療関連罹患率及び死亡率の主な原因は、生着の遅れにより長引いた好中球減少に起因する可能性がある。さらに、好中球回復時間は、通常のHSCTと比べて遺伝子治療の状況ではより長く、BM由来HSPC移植の3週間に対して約4週間であって(Tomblyn, M. et al. (2009) Biol Blood Marrow Transplant 15: 1143-1238)、最近の異染性白質ジストロフィー(MLD)遺伝子治療治験に関する続報によっても裏付けられるように(Sessa, M. et al. (2016) Lancet 388: 476-487)、細胞用量の増加によって克服することができない。ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)を治療するための遺伝子治療試験に関連して行われたクローントラッキング実験は、上記の、ヒトにおける生着および造血再構成の第1期におけるST-HSCの重要な役割を実証する(Biasco, L. et al. (2016) Cell Stem Cell 19: 107-119)。こうした考えは、造血再構成の初期段階がほぼHSPCのST-HSC濃縮CD34+CD38+画分によってのみサポートされることが示されているマウスの状況において、さらに確固たるものになる(Zonari, E. et al. (2017) Stem Cell Reports 8: 977-990)。全体として、これらの知見は、移植患者におけるST-HSCの喪失およびその後の好中球減少が、HSCのエクスビボ操作を必要とする状況に特に適している可能性があることを示唆する。本発明者らは、HSPCのエクスビボ操作中にHSPCに適用される増殖条件が寄与する可能性を排除することはできないが、本発明の結果は、遺伝子治療ベクターがHSPCの生着の遅れに有意に寄与することを明確に示し、ベクターシグナリングの抑制が造血再構成を回復させることができるという原理の証明を与える。実際、ベクターシグナリングの一過性阻害によって達成される、ST-HSC生着の2倍レスキューといった、比較的小さな改善でも、臨床的見地からは非常に重要となる可能性がある。
【0271】
全体をまとめると、本研究は、ヒトHSPCにおける遺伝子治療ベクターセンシングの分子機構および機能的影響を明らかにする。こうしたベクター-宿主相互作用に関する優れた知識は、ベクターシグナリングが、遺伝子導入効率ならびにHSPC生物学の両方に影響を与える可能性がある、個別の疾患状況に合わせた、よりステルス性の高い遺伝子治療プロトコールの開発を可能にする。さらに、HSPCにおいて非組み込み型ベクタープラットフォームによって活性化されるシグナリングカスケードをより深く理解することは、将来、より効率的な標的遺伝子編集ストラテジーをデザインすることに貢献しうる。
【0272】
【表1】
【0273】
【表2】
【0274】
【表3】
【0275】
【表4】
【0276】
【表5】
【0277】
【表6】
【0278】
【表7】
【0279】
【表8】
【0280】
【表9】
【0281】
上記の明細書に言及されている総ての刊行物は引用により本明細書に組み入れられる。記載される本発明の薬剤(物質)、組成物、使用及び方法の種々の改変および変形が本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者には自明である。本発明は特定の好ましい実施形態に関して記載されているが、特許請求される本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるべきでないと理解すべきである。実際に、記載されている本発明を実施するための様式に関する、生化学およびバイオテクノロジーまたは関連の分野の当業者に自明の種々の改変は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 造血幹細胞および/または前駆細胞遺伝子治療における使用のためのp53活性化阻害剤であって、前記阻害剤は好ましくはp53リン酸化の阻害剤であり、より好ましくはp53セリン15リン酸化の阻害剤である、前記阻害剤。
[2] 実施形態1に記載の使用のための阻害剤であって、前記阻害剤は血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドである、前記阻害剤。
[3] p53活性化の阻害剤であって、好ましくは血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドであり、造血幹細胞および/または前駆細胞の生存および/または生着を増加させる使用のためのものである、前記阻害剤。
[4] 前記造血幹細胞および/または前駆細胞がウイルスベクターによって形質導入されている、実施形態1~3のいずれかに記載の使用のための阻害剤。
[5] 実施形態1~4のいずれかに記載の使用のための阻害剤であって、前記阻害剤はKU-55933もしくはその誘導体;GSE56;KU-60019、BEZ235、ウォルトマンニン(wortmannin)、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、KU-559403、AZD6738もしくはその誘導体;またはsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAである、前記阻害剤。
[6] 実施形態5に記載の使用のための阻害剤であって、前記阻害剤は約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、前記阻害剤。
[7] 前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、実施形態4~6のいずれかに記載の使用のための阻害剤。
[8] p53活性化阻害剤、好ましくは血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドの使用であって、造血幹細胞および/または前駆細胞の単離集団において細胞生存を増加させるためのものである、前記使用。
[9] 前記造血幹細胞および/または前駆細胞がウイルスベクターによって形質導入されている、実施形態8に記載の使用。
[10] 前記阻害剤が、KU-55933もしくはその誘導体;GSE56;KU-60019、BEZ235、ウォルトマンニン(wortmannin)、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、KU-559403、AZD6738もしくはその誘導体;またはsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAである、実施形態8または9に記載の使用。
[11] 前記阻害剤が約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、実施形態10に記載の使用。
[12] 前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、実施形態9~11のいずれかに記載の使用。
[13] ウイルスベクターで造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入する方法であって、以下のステップ:
(a)前記細胞集団をp53活性化阻害剤、好ましくは血管拡張性失調症変異(ATM)キナーゼ阻害剤、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)阻害剤、またはp53ドミナントネガティブペプチドと接触させるステップ;ならびに
(b)前記ウイルスベクターで前記細胞集団に形質導入するステップ
を含む、前記方法。
[14] ステップ(a)および(b)がエクスビボまたはインビトロで行われる、実施形態13に記載の方法。
[15] 前記阻害剤が、KU-55933もしくはその誘導体;GSE56;KU-60019、BEZ235、ウォルトマンニン(wortmannin)、CP-466722、トリン2(Torin 2)、CGK 733、KU-559403、AZD6738もしくはその誘導体;またはsiRNA、shRNA、miRNAもしくはアンチセンスDNA/RNAである、実施形態13または14に記載の方法。
[16] 前記阻害剤が約1~50μMの濃度で前記造血幹細胞および/または前駆細胞に加えられる、実施形態15に記載の方法。
[17] 前記ウイルスベクターで前記細胞集団に形質導入する約30分~約4時間前に、前記細胞集団を前記阻害剤と接触させる、実施形態13~16のいずれかに記載の方法。
[18] 前記ウイルスベクターがレンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、実施形態13~17のいずれかに記載の方法。
[19] 前記造血幹細胞および/または前駆細胞の集団が、動員末梢血、骨髄、または臍帯血から得られる、実施形態13~18のいずれかに記載の方法。
[20] 造血幹細胞および/または前駆細胞について前記集団を濃縮するさらなるステップを含む、実施形態13~19のいずれかに記載の方法。
[21] (a) 実施形態13~20のいずれかに記載の方法にしたがって、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団に形質導入するステップ;ならびに
(b) 前記形質導入細胞を被験体に投与するステップ
を含む、遺伝子治療の方法。
[22] 前記形質導入細胞が、自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一部として被験体に投与される、実施形態21に記載の方法。
[23] 実施形態13~20のいずれかに記載の方法にしたがって調製された、造血幹細胞および/または前駆細胞の集団。
[24] 実施形態23に記載の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団を含む、医薬組成物。
[25] 治療に使用するための実施形態23に記載の造血幹細胞および/または前駆細胞の集団。
[26] 自家幹細胞移植法または同種幹細胞移植法の一部として投与される、実施形態25に記載の使用のための造血幹細胞および/または前駆細胞の集団。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
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図4-2】
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図5-2】
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図8
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図11-2】
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図12
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図13-2】
図13-3】
図13-4】
図13-5】
図14
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図15-2】
図15-3】
図15-4】
図15-5】
図15-6】
図15-7】
図16
【配列表】
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