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<図1>
  • -バイセル構造体を含有する組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】バイセル構造体を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20230728BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20230728BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20230728BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230728BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/36
A61K8/63
A61K8/34
A61Q19/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019130647
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014435
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】黒木 純子
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 はるな
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/077322(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090740(WO,A1)
【文献】特開2007-254404(JP,A)
【文献】特表2006-520754(JP,A)
【文献】特開2007-121287(JP,A)
【文献】特開2020-019764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)~(e);
(a)リン脂質
(b)炭素数が12~22である高級脂肪酸
(c)ステロール骨格を有するエーテル系非イオン性界面活性
(d)炭素数が10以下の二価アルコール
(e)水
を含有し、
前記成分(a)及び前記成分(c)の合計に対する前記成分(b)との含有質量割合(b)/{(a)+(c)}が0.01~0.3であることを特徴とするバイセル構造体を含有する組成物。
【請求項2】
さらに、セラミド類、コレステロール、脂肪酸コレステロールエステルから選ばれる少なくとも一種の角層細胞間脂質を含有することを特徴とする請求項1に記載のバイセル構造体を含有する組成物。
【請求項3】
波長700nmの光の透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかの項に記載のバイセル構造体を含有する組成物。
【請求項4】
前記成分(d)に前記成分(a)、前記成分(b)、前記成分(c)を分散した後、前記成分(e)と混合することを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のバイセル構造体を含有する組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸類を含有したバイセル構造体を含有する組成物に関し、更に詳細には、経時安定性、浸透感、あれ肌改善効果に優れた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイセル構造体は、長鎖リン脂質で構成された二重層平板膜の端部を、短鎖リン脂質等の界面活性剤でカバーしたディスク状の分子集合体(図1)であり、脂質二分子膜モデルとして生体膜の研究に利用されている。例えば、バイセル構造体に膜タンパク質を可溶化することで、NMRを用いた膜タンパク質の構造解析に有効である(非特許文献1参照)。また、バイセル構造体を適用することで、ブタ皮膚の角層内部へ浸透することや(非特許文献2参照)、三次元培養皮膚モデルの角層中へ浸透し角層のラメラ構造に影響することが知られており、キャリアとしても注目されている。
【0003】
皮膚に適用するキャリアとしては既に、ミセル、ベシクルなどが知られている。ベシクルは、両親媒性物質が形成する二分子膜構造を有した閉鎖小胞のことであり、その特異的な構造ゆえに様々な有効成分を内包することができる。特に、リン脂質を用いた脂質二分子膜ベシクルであるリポソームは、皮膚に適用すると、角層中での滞留性が高いため、化粧料や皮膚外用剤として既に応用されている。
【0004】
一方、角層細胞間脂質の主成分は、セラミド類、コレステロール類、脂肪酸類等であり、これら角層細胞間脂質が、肌のバリアー機能において重要な役割を果たしていることが知られている。肌のバリアー機能の低下は、水分保持能や外部刺激からの防御能低下等につながるため、これら角層細胞間脂質成分を肌に浸透させ、ラメラ構造を形成し、肌のバリアー機能を強化することは、化粧料や皮膚外用剤としての重要課題である。
【0005】
そのため、セラミドなどの角層細胞間脂質成分を皮膚外用剤に配合する検討が多数なされている(例えば、特許文献1~3参照)。しかしながら、これら角層細胞間脂質成分は、結晶性が高いものが多いため、高濃度で安定に配合することが困難であったり、キャリアの粒子径が大きいために、肌への浸透性に劣り、あれ肌改善効果等の肌効果の点において十分ではない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-95926号公報
【文献】特開平7-285827号公報
【文献】特開平6-080547号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hirotaka S, Seketsu F, Jun K, Shigeyuki Y, Hiroshi H and Kazuo T. Langmuir, 19, 9841-9844(2013)
【文献】L. Barbosa-Barros, A. de la Maza, J. Estelrich, A. M. Linares, M. Feliz, P. Walther, R. Pons, and O. Lopez, Langmuir, 24, 5700-5706(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち本発明では、角層細胞間脂質である脂肪酸類や脂肪酸エステル類を含有しつつも経時安定性が良好であり、さらには浸透性に優れるため、あれ肌改善効果にも優れる組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは、角層内で細胞間脂質が形成するラメラ構造と類似する、脂質二重層平板膜構造という特徴的な構造を有するバイセル構造体に着目し、脂肪酸類を高濃度で含有させることを試みた。その結果、リン脂質、ステロール骨格を有するエーテル系非イオン性界面活性剤、さらに、特定鎖長の高級脂肪酸とを、特定の割合で組み合わせて、特定の二価アルコール、水を用いて調製することにより、バイセル構造体の形成率に優れ、経時安定性が良好であり、さらに、浸透感、あれ肌改善効果にも優れた組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、次の成分(a)~(e);
(a)リン脂質
(b)炭素数が12~22の高級脂肪酸
(c)ステロール骨格を有するエーテル系非イオン性界面活性剤
(d)炭素数が10以下の二価アルコール
(e)水
を含有し、
前記成分(a)及び前記成分(c)の合計に対する前記成分(b)との含有質量割合(b)/{(a)+(c)}が0.01~0.3であることを特徴とするバイセル構造体を含有する組成物に関するものである。
【0011】
また本発明は、さらにセラミド類、コレステロール、脂肪酸コレステロールエステルから選ばれる少なくとも一種の角層細胞間脂質を含有する前記バイセル構造体を含有する組成物を提供する。
【0012】
また本発明は、波長700nmの光の透過率が50%以上であることを特徴とする前記バイセル構造体を含有する組成物を提供する。
【0013】
また本発明は、前記成分(d)に前記成分(a)、前記成分(b)、前記成分(c)を分散した後、前記成分(e)と混合することを特徴とする前記バイセル構造体を含有する組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、経時安定性が良好であり、肌に適用すると、浸透感が高く、さらには、あれ肌の改善効果にも優れた品質を有するものである。そのため、本発明のバイセル構造体はキャリアとしての機能に優れるものであり、また本発明の組成物は、化粧料や皮膚外用剤として有用であり、さらに化粧水剤型においては、透明度が高く、審美性をも演出し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のバイセル構造体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
本発明の成分(a)リン脂質とは、グリセリン又はスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸とリン酸が結合し、さらにリン酸にアルコールがエステル結合した構造をもつものをいう。成分(a)は、バイセル構造体の平板部(二分子膜構造)の主要構成成分として用いられる。
リン脂質を構成する脂肪酸としては、炭素数7~22、好ましくは炭素数14~20の飽和及び不飽和カルボン酸が挙げられる。また、リン脂質を構成するアルコールとしては、窒素が含まれることが多く、このような例としては、コリン、エタノールアミン、イノシトール、セリンがある。
【0018】
本発明に用いられる成分(a)は、通常の化粧料や皮膚外用剤に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質、卵黄リン脂質、水素添加卵黄リン脂質、ヒマワリリン脂質、水素添加ヒマワリリン脂質が挙げられ、これらは必要に応じて、一種又は二種以上を用いることができ、より好ましくは、水素添加大豆リン脂質、水素添加卵黄リン脂質が挙げられる。
【0019】
本発明における成分(a)の含有量は、特に限定されないが、0.01~5質量%(以下、単位に「%」と略す)が好ましく、0.05~3%がより好ましい。この範囲であれば、より経時安定性に優れる組成物を得ることができる。
【0020】
本発明の成分(b)炭素数が12~22の高級脂肪酸は、角層細胞間脂質の一種であり、有効成分として機能するとともに、成分(a)と共にバイセル構造体の主に平板部を構成する成分として、バイセル構造体の安定性にも寄与し得る。
【0021】
本発明に用いられる成分(b)は、通常、化粧料等に使用できる物であれば、天然物であっても、合成物であってもよく、炭素数が12~22の直鎖又は分岐の、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸であり、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。なお、これらの中でも、バリア機能を有する観点から、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、リノール酸が好ましい。
【0022】
本発明における成分(b)の含有量は、特に限定されないが、0.01~1%が好ましく、0.05~0.5%がより好ましい。この範囲であれば、より経時安定性、あれ肌改善効果に優れる組成物を得ることができる。
【0023】
本発明の成分(c)ステロール骨格を有するエーテル系非イオン性界面活性剤とは、疎水部となるステロール骨格に、親水部となるアルキレンオキサイドが付加した構造をもつものをいう。成分(c)のステロール骨格を有するエーテル系非イオン性界面活性剤は、バイセル構造体の端部を構成する成分として、バイセル構造体の安定性に寄与し得る。
前記ステロール骨格部分の構造としては、コレステロール、コレスタノール、ラノステロール等の動物系ステロール骨格、植物系ステロール骨格であるフィトステロール、これらを水素付加又は水付加した誘導体が挙げられる。これらの中でも、コレステロール、コレスタノールが好ましい。
前記ステロールに付加させるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2~5(好適には2~3)のアルキレンが挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらのアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、特に制限されないが、好ましくは10~30、より好ましくは20~30である。この範囲であれば、バイセル構造体の形成率に優れ、より経時安定性、あれ肌改善効果に優れる。
【0024】
本発明に用いられる成分(c)は、通常、化粧料等に使用できる物であれば、特に限定されず、より具体的には、POE(10)コレステリルエーテル、POE(15)コレステリルエーテル、POE(20)コレステリルエーテル、POE(24)コレステリルエーテル及びPOE(30)コレステリルエーテル等のポリオキシエチレンコレステリルエーテル類;POE(20)コレスタノール、POE(25)コレスタノール及びPOE(30)コレスタノール等のポリオキシエチレンコレスタノール類;POE(5)フィトステロール、POE(10)フィトステロール、POE(20)フィトステロール、POE(25)フィトステロール及びPOE(30)フィトステロール等のポリオキシエチレンフィトステロール類;POE(20)フィトスタノール、POE(25)フィトスタノール及びPOE(30)フィトスタノール等のポリオキシエチレンフィトスタノール類等が挙げられる。市販品としては、EMALEX CS-10(日本エマルジョン社製)、EMALEX CS-20(日本エマルジョン社製)、EMALEX CS-30(日本エマルジョン社製)、NIKKOL BPS-10(日本サーファクタント工業社製)、NIKKOL BPS-20(日本サーファクタント工業社製)、NIKKOL BPS-30(日本サーファクタント工業社製)等が挙げられる。成分(c)は必要に応じて、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明における成分(c)の含有量は、特に限定されないが、0.05~1%が好ましく、0.1~1%がより好ましい。この範囲であれば、より経時安定性に優れ、さらに浸透感に優れる組成物を得ることができる。
【0026】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物において、成分(a)及び成分(c)の合計に対する成分(b)との含有質量割合(b)/{(a)+(c)}は0.01~0.3である。(b)/{(a)+(c)}が0.01未満、もしくは0.3を超えると、バイセル構造体の形成率が低かったり、経時安定性に優れない場合があり、また十分なあれ肌改善効果が得られない場合がある。(b)/{(a)+(c)}が0.01~0.3の範囲であれば、経時安定性、あれ肌改善効果の点で、優れたものが得られる。
【0027】
また、成分(a)と成分(c)との含有質量割合(a)/(c)は0.5~15である。(a)/(c)が0.5未満、もしくは15を超えると、バイセル構造体の形成率が悪くなる場合がある。(a)/(c)が0.5~15の範囲であれば、形成される粒子中のバイセル構造体の比率が高くなり、成分(b)を安定に配合することができる点で、優れたものが得られる。
【0028】
本発明の成分(d)炭素数が10以下の二価アルコールは、成分(a)~成分(c)を水に分散させる際の溶媒となり得、経時安定性に優れる組成物を調製し得る。成分(d)は、通常、化粧料等に使用できる物であれば、特に限定されず、炭素数が10以下の鎖式脂肪族炭化水素の2個の炭素原子に、1個ずつ水酸基が置換した化合物、たとえばプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等や、エチレングリコールの縮合物(たとえばトリエチレングリコール)、プロピレングリコールの縮合物(たとえばジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール)等が挙げられ、これらは必要に応じて、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも使用感の観点から、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールが好ましく、さらには、他成分の溶解性に優れ、経時安定性が良好となる点から、ジプロピレングリコールであることが好ましい。
【0029】
本発明における成分(d)の含有量は、特に限定されないが、1~40%、さらには5~30%が好ましい。この範囲であれば、バイセル構造体を含有する組成物の経時安定性だけでなく、あれ肌改善効果としても特に優れることから好ましい。
【0030】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、成分(e)水を含有する。成分(e)水は、成分(d)とともに、バイセル構造体の分散媒体として用いられる。成分(e)は、化粧料や皮膚外用剤に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、精製水の他、硬水、軟水、天然水、上水道水、海水、海洋深層水、電解アルカリイオン水、電解酸性イオン水、イオン水、クラスター水や、ラベンダー水、ローズ水、オレンジフラワー水などの植物由来の水蒸気蒸留水等の水を用いることができる。
本発明における成分(e)の含有量は、特に限定されないが、経時安定性の観点から、概ね50~99%が好ましい。
【0031】
また、本発明のバイセル構造体を含有する組成物には、本発明の効果及びバイセル構造体の形成を妨げない範囲で、通常の化粧料や皮膚外用剤に配合される前記必須成分以外の任意成分、具体的には、前記成分(a)~(e)以外の、油剤、アルコール類、粉体、水溶性高分子、皮膜形成剤、界面活性剤、油溶性ゲル化剤、有機変性粘土鉱物、樹脂、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、香料、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、皮膚有効成分等を含有することができる。
【0032】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、肌効果向上の観点から、皮膚有効成分を含有することが好ましい。さらなる、皮膚有効成分としては、通常の化粧料や皮膚外用剤に配合される成分であれば、特に限定されず、加水分解を受けやすい物質でもよい。バイセル構造体の平板部は密な構造をとることから、それらの皮膚有効成分に水分子が接近しにくくなるため、キャリアとしての機能に優れると考察できる。
【0033】
皮膚有効成分としては、特に限定されないが、紫外線吸収剤としては、オクチルメトキシシンナメート、抗炎症剤としてグリチルレチン酸ステアリル、ハッカ油、ビタミン類、抗酸化剤としてコエンザイムQ10、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。ビタミン類としては、レチノール、ビタミンA類(例えばビタミンAパルミテート)、ビタミンB類(例えばビタミンB6パルミテート、ナイアシンアミド)、ビタミンD類、ビタミンE類、ビタミンK類、ビタミンH類等が挙げられる。これらの中でも、肌効果や、経時安定性の観点から、ビタミンC類、ビタミンE類等が好ましく、特に、ビタミンC類としては、アスコルビン酸パルミテート、α-トコフェロール-2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル等がより好ましく、ビタミンE類としては、天然ビタミンE、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、σ-トコフェロール等のビタミンE、さらには、アセテート、ビタミンEニコチネート、α-トコフェロール-2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル等がより好ましい。これらは必要に応じて、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
さらに、本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、セラミド類やコレステロール類、高級脂肪酸コレステロールエステル等の、成分(b)以外の角層細胞間脂質成分を含有することも可能である。これらは、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができるが、バリア機能向上の観点から、角層細胞間脂質成分は、複数種を混合して用いることが好ましい。
【0035】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、特に限定されず、通常の化粧料や皮膚外用剤を製造する種々の方法によって製造することができるが、成分(d)に、成分(a)、成分(b)、成分(c)を分散した後、成分(e)と混合撹拌して製造する製造方法が、収率の高さや、特殊な装置(例えば、高圧乳化装置等)を必要としない点から、量産に適しており、好ましい。具体的には、温度80℃程度に加熱した成分(d)に、成分(a)、成分(b)及び成分(c)を分散させ、該溶液に温度80℃程度に加熱した成分(e)を加え混合撹拌した後、徐々に室温まで冷却し、必要に応じて任意成分を添加し、混合撹拌を行う。調製時及び冷却時の撹拌方法についても、特に限定されない。
【0036】
以上のようにして本発明のバイセル構造体を含有する組成物が得られるが、バイセル構造体は、透過型電子顕微鏡観察により、その存在と粒子径を確認できる。本発明のバイセル構造体の平均粒子径は、長径が好ましくは50~180nm、短径が好ましくは1~20nmである。本発明の組成物においては、多重層ベシクル粒子(概ね50nm以上の同心円状の像)が共存する場合もあるが、観察視野における粒子の半数以上がバイセル構造体(ディスク状の像)であれば、本発明のバイセル構造体を含有する組成物としての効果を発揮するものである。すなわち本発明におけるバイセル構造体の形成割合は、電子顕微鏡による観察視野中の(ディスク像数/全粒子像数)で表され、50%以上であり、80%以上が好ましく、さらには100%が好ましい。
【0037】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物の透過率は、特に限定されないが、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらにより好ましい。この範囲であれば、経時安定性に優れ、さらに、審美性も好ましい。本発明における透過率は、分光光度計(セルの光路長:10mm、光の波長700nm)で測定される。分光光度計として特に限定されないが、「UV-2500PC UV-VIS REDCORDING SPECTROPHOTOMETER」(SHIMADZU社製)等を用いることができる。
【0038】
本発明のバイセル構造体を含有する組成物は、そのまま、化粧料や皮膚外用剤として用いても良く、またバイセル構造体を含有する組成物を調製した後に、他の成分や乳化組成物等と組み合わせて、化粧料や皮膚外用剤とすることもでき、種々の用途の化粧料や皮膚外用剤として利用できる。例えば、化粧水、乳液、クリーム、アイクリーム、美容液、マッサージ料、パック料、ハンドクリーム、ボディローション、ボディクリーム等のスキンケア化粧料、化粧用下地化粧料等の化粧料、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤等の皮膚外用剤を例示することができる。またその使用法は、手や指で使用する方法、コットンや不織布等に含浸させて使用する方法等が挙げられる。
【実施例
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定され
るものではない。
【0040】
[実施例1~23及び比較例1~2:バイセル構造体を含有する組成物]
下記の製造方法に従って、表1に示す組成の組成物を調製した。バイセル構造体の確認は、透過型電子顕微鏡観察にて行い、その形成率について、下記の判定基準により評価した。また、経時安定性、浸透感、あれ肌改善効果についても、下記の評価方法にて評価を行った。それらの結果を併せて表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
(製造方法)
1:成分(1)~(19)を80℃に加熱溶解する。
2:成分(20)を80℃で加熱する。
3:1に2を添加し、ディスパーミキサーにて混合攪拌する。
4:3を室温まで冷却して、成分(21)~(23)を添加し、混合撹拌し、バイセル構造体を含有する組成物を得た。
【0043】
(評価項目1:バイセル構造体の形成)
バイセル構造体に特有のディスク状の像について、透過型電子顕微鏡による観察を行い、観察視野(350nm×350nm)中の存在割合を目視観察し、(ディスク像数/全粒子像数)をバイセル構造体の形成率として算出し、下記の判定基準を用いて判定した。
[判定基準]
(評価) :(判定)
(ディスク像数/全粒子像数)が0.8以上: ◎
(ディスク像数/全粒子像数)が0.5以上: ○
(ディスク像数/全粒子像数)が0.5未満: ×
【0044】
(評価項目2:経時安定性)
各試料について、50℃の恒温下2週間保管したものと、25℃(室温に相当)で2週間保管したものとを比較し、透明性や析出物の有無について目視にて評価を行い、下記の判断基準を用いて判定した。
[判定基準]
(評価) :(判定)
外観に変化なし : ◎
外観に僅かに濁りが見られる : ○
外観が明らか濁っている、または析出物が確認される : △
外観が著しく濁っている、または析出物が沈殿している: ×
【0045】
(評価項目3:浸透感)
20~40代のパネル20名に、上記のバイセル構造体を含有する組成物を化粧水として全顔に使用してもらい、その浸透感について、下記の評価基準に従って、評価を行った。更に全パネルの評点の平均値を算出し、下記の判定基準を用いて判定した。
[評価基準]
(評価) :(評点)
非常に感じる : 5点
やや感じる : 4点
普通 : 3点
あまり感じない: 2点
感じない : 1点
[判定基準]
(全パネルの評点の平均値):(判定)
平均点4.0以上 : ◎
平均点3.0以上4.0未満: ○
平均点2.0以上3.0未満: △
平均点2.0未満 : ×
【0046】
(評価方法4:あれ肌改善効果)
20~40代のパネル10名による連用試験を行った。パネルの前腕を、アセトン・エーテル混合液および精製水で処理し、人工的に、あれ肌を作製したのち、上記のバイセル構造体を含有する組成物を一日一回、塗布してもらい、二週間後にマイクロスコープによる観察で、キメの改善について下記の判断基準にしたがって評価した。更に全パネルの評点の平均値を算出し、下記の判定基準を用いて判定した。
[評価基準]
(評価) :(評点)
著しく改善した: 4点
改善した : 3点
やや改善した : 2点
改善しなかった: 1点
[判定基準]
(全パネルの評点の平均値) :(判定)
平均点3.25以上 : ◎
平均点2.50以上3.25未満: ○
平均点1.75以上2.50未満: △
平均点1.75未満 : ×
【0047】
表1~3の結果から明らかなように、実施例1~27は、バイセル構造体の形成率、経時安定性、浸透感、あれ肌改善効果において、優れるものであった。なお、実施例1~7は、分光光度計(セルの光路長:10mm、光の波長700nm)にて測定した透過率が、50%以上であった。
一方、(b)/{(a)+(c)}が0.3を超える比較例1、2はバイセル構造体の形成率、浸透感、あれ肌改善効果に劣っていた。比較例1は、バイセル構造体ではなく、ミセルが多く形成されていた。比較例2は、バイセル構造体ではなく、リポソームが多く形成されていた。
【0048】
[実施例24:化粧水]
(成分) (%)
1.水素添加卵黄リン脂質 0.45
2.パルミチン酸 0.05
3.オレイン酸コレステロールエステル 0.05
4.POE(30)フィトステロールエーテル 0.3
5.ジプロピレングリコール 10.0
6.1,3-ブチレングリコール 2.0
7.精製水 残量
8.グリシン 1.0
9.テアニン 1.0
10.ジグリセリン 3.0
11.エタノール 5.0
12.防腐剤 適量
13.香料 適量
【0049】
(製造方法)
A:成分(1)~(6)を80℃で加熱溶解する。
B:成分(7)を80℃に加熱する。
C:BにAを添加し混合攪拌しながらバイセル構造体を形成させ、室温まで冷却する。
D:Cに成分(8)~(13)を添加混合し、化粧水を得た。
(結果)
実施例24の化粧水は、バイセル構造体の形成率、経時安定性、浸透感、あれ肌改善効果に優れた化粧料であった。
【0050】
[実施例25:シート状化粧料]
(成分) (%)
1.水素添加ヒマワリリン脂質 0.05
2.大豆リン脂質 0.40
3.POE(10)コレステリルエーテル 0.15
4.POE(20)フィトステリルエーテル 0.15
5.ステアリン酸 0.02
6.パルミチン酸 0.02
7.オレイン酸 0.02
8.オレイン酸コレステロールエステル 0.02
9.オレイン酸フィトステロールエステル 0.02
10.アスタキサンチン 0.05
11.ナイアシンアミド 0.5
12.1,3-ブチレングリコール 10.0
13.精製水 残量
14.エタノール 5.0
15.コラーゲン 1.0
16.ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
【0051】
(製造方法)
A:成分(1)~(12)を80℃で加熱溶解する。
B:成分(13)を80℃に加熱し、Aを添加しながら混合攪拌しバイセル構造体を形成する。
C:Bを冷却後、成分(14)~(16)を添加し、これを不織布に含浸させる。
D:Cをアルミラミネートの袋状容器に密封充填し、シート状化粧料を得た。
(結果)
実施例25のシート状化粧料は、バイセル構造体の形成率、経時安定性、浸透感、あれ肌改善効果に優れた化粧料であった。
図1